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特許7705854レーザー溶着用透過性樹脂組成物、キット、成形品および成形品の製造方法
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  • 特許-レーザー溶着用透過性樹脂組成物、キット、成形品および成形品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-02
(45)【発行日】2025-07-10
(54)【発明の名称】レーザー溶着用透過性樹脂組成物、キット、成形品および成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20250703BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20250703BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20250703BHJP
   C08L 77/10 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/40
C08K7/00
C08L77/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022526945
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2021019112
(87)【国際公開番号】W WO2021241380
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2020090936
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】岡元 章人
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006839(JP,A)
【文献】国際公開第2019/069805(WO,A1)
【文献】特開2011-074301(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079335(WO,A1)
【文献】特開2009-040808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00
C08K 3/40
C08K 7/00
C08L 77/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、厚み0.1~0.8μmのガラスフレーク10~120質量部と、光透過性色素とを含む、レーザー溶着用透過性樹脂組成物であって、
結晶性熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂を含み、
ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量が樹脂組成物の5質量%以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記光透過性色素がペリレン骨格を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、キシリレンジアミン由来の構成単位の30モル%以上がメタキシリレンジアミン由来の構成単位であるポリアミド樹脂を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物を60mm×60mm×1mm厚さの成形品に成形したとき、前記成形品の反り量が1mm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物;反り量とは、前記成形品を基準台に載せ、最も高い部分の高さと試験片の最も低い部分の高さの差をいう。
【請求項5】
前記結晶性熱可塑性樹脂が、示差走査熱量測定装置で測定した時の結晶化熱量が0~-1mJ/mgであるポリアミド樹脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物とを有するキット。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物または請求項に記載のキットから形成された成形品。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物から形成された成形品を、レーザー溶着させることを含む、成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶着用透過性樹脂組成物、キット、成形品および成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、加工が容易であり、その優れた特性を生かして、車両部品、電気・電子機器部品、その他の精密機器部品等に幅広く使用されている。最近では形状の複雑な部品も熱可塑性樹脂、特に、結晶性熱可塑性樹脂で製造されるようになって来ており、インテークマニホールドのような中空部を有する部品などの接着には、各種溶着技術、具体的には、接着剤溶着、振動溶着、超音波溶着、熱板溶着、射出溶着、レーザー溶着技術などが使用されている。
【0003】
しかしながら、接着剤による溶着は、硬化するまでの時間的ロスに加え、周囲の汚染などの環境負荷の問題がある。超音波溶着、熱板溶着などは、振動、熱による製品へのダメージや、摩耗粉やバリの発生により後処理が必要になるなどの問題が指摘されている。また、射出溶着は、特殊な金型や成形機が必要である場合が多く、さらに、材料の流動性が良くないと使用できないなどの問題がある。
【0004】
一方、レーザー溶着は、レーザー光に対して透過性(非吸収性、弱吸収性とも言う)を有する樹脂部材(以下、「透過樹脂部材」ということがある)と、レーザー光に対して吸収性を有する樹脂部材(以下、「吸収樹脂部材」ということがある)とを接触し溶着して、両樹脂部材を接合させる方法である。具体的には、透過樹脂部材側からレーザー光を接合面に照射して、接合面を形成する吸収樹脂部材をレーザー光のエネルギーで溶融させ接合する方法である。レーザー溶着は、摩耗粉やバリの発生が無く、製品へのダメージも少なく、さらに、ポリアミド樹脂自体、レーザー透過率が比較的高い材料であることから、ポリアミド樹脂製品のレーザー溶着技術による加工が、最近注目されている。
【0005】
上記透過樹脂部材は、通常、光透過性樹脂組成物を成形して得られる。このような光透過性樹脂組成物として、特許文献1には、(A)ポリアミド樹脂100質量部に対し、(B)23℃の屈折率が、1.560~1.600である強化充填材1~150質量部を配合してなる樹脂組成物であって、前記(A)ポリアミド樹脂の少なくとも1種を構成する、少なくとも1種のモノマーが芳香環を含有することを特徴とする、レーザー溶着用樹脂組成物が記載されている。特許文献1の実施例では、ポリアミドMXD6とポリアミド66とのブレンド物、または、ポリアミド6I/6Tとポリアミド6とのブレンド物に、ガラス繊維と、着色剤を配合した樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-308526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、レーザー溶着技術が進歩するにあたり、さらに新規材料が求められるようになっている。特に、機械的強度や低反り性などの物性に優れ、光線透過率が高い材料が求められるようになっている。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、機械的強度や低反り性などの物性に優れ、かつ、光線透過率が高いレーザー溶着用透過性樹脂組成物、キット、成形品および成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題のもと、発明者が検討を行った結果、強化充填材として、厚み0.1~2μmのガラスフレークを用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1> 結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、厚み0.1~2μmのガラスフレーク10~120質量部と、光透過性色素とを含む、レーザー溶着用透過性樹脂組成物。
<2> 前記光透過性色素がペリレン骨格を有する、<1>に記載の樹脂組成物。
<3> 前記結晶性熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4> 前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、キシリレンジアミン由来の構成単位の30モル%以上がメタキシリレンジアミン由来の構成単位であるポリアミド樹脂を含む、<3>に記載の樹脂組成物。
<5> 前記樹脂組成物を60mm×60mm×1mm厚さの成形品に成形したとき、前記成形品の反り量が1mm以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物;反り量とは、前記成形品を基準台に載せ、最も高い部分の高さと試験片の最も低い部分の高さの差をいう。
<6> 前記結晶性熱可塑性樹脂が、示差走査熱量測定装置で測定した時の結晶化熱量が0~-1mJ/mgであるポリアミド樹脂を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7> <1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物とを有するキット。
<8> <1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物または<7>に記載のキットから形成された成形品。
<9> <1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物から形成された成形品を、レーザー溶着させることを含む、成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、機械的強度や低反り性などの物性に優れ、かつ、光線透過率が高いレーザー溶着用透過性樹脂組成物、キット、成形品および成形品の製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例における反りの高さを測定する方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
【0012】
本実施形態のレーザー溶着用透過性樹脂組成物(以下、単に、「本実施形態の樹脂組成物」ということがある)は、結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、厚み0.1~2μmのガラスフレーク10~120質量部と、光透過性色素とを含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、機械的強度や低反り性などの物性に優れ、かつ、光線透過率が高いレーザー溶着用透過性樹脂組成物を提供可能になる。以前から、機械的強度や低反り性などの達成のために、無機充填材を配合することは行われてきた。しかしながら、これまで、無機充填材の形状が光透過性に影響することは全く知られていなかった。本発明では、驚くべきことに、無機充填材として、厚み0.1~2μmのガラスフレークを採用することにより、機械的強度や低反り性に加え、光線透過率を向上可能であることを見出したものである。
【0013】
<結晶性熱可塑性樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、結晶性熱可塑性樹脂を含む。結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂(好ましくは、ポリブチレンテレフタレート樹脂)などが例示され、ポリアミド樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましく、ポリアミド樹脂がより好ましい。結晶性ポリアミド樹脂を用いると、成形品を成形する際に、より速く硬化させることができる。また、結晶性ポリアミド樹脂を用いると、得られる樹脂組成物が耐油性や耐グリース性、潤滑性、摺動性、耐摩耗性、耐摩擦性についても優れる傾向にある。
結晶性熱可塑性樹脂とは、樹脂の温度が結晶化温度まで低下し、固化したとき、分子が規則的に並んだ「結晶部分」を有するものである。
【0014】
本実施形態の樹脂組成物は、結晶性熱可塑性樹脂が30質量%以上を占めることが好ましく、40質量%以上を占めることがより好ましく、45質量%以上を占めることがさらに好ましい。また、樹脂組成物における結晶性熱可塑性樹脂の含有量の上限値としては、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、結晶性熱可塑性樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0015】
<<ポリアミド樹脂>>
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は特に定めるものではなく、公知のポリアミド樹脂を用いることができる。例えば、ポリアミド樹脂としては、特開2011-132550号公報の段落0011~0013の記載を参酌することができる。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂であっても、半芳香族ポリアミド樹脂であってもよく、半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。
【0016】
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010、ポリアミド1012等が挙げられる。
【0017】
一方、半芳香族ポリアミド樹脂としては、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の30~70モル%が芳香環を含む構成単位であるものが例示され、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の40~60モル%が芳香環を含む構成単位であることが好ましい。このような半芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる成形品の機械的強度を高くすることができる。半芳香族ポリアミド樹脂としては、テレフタル酸系ポリアミド樹脂(ポリアミド6T、ポリアミド9T)、後述するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂などが例示される。
【0018】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、少なくとも1種が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミン(好ましくは、キシリレンジアミン由来の構成単位の30モル%以上がメタキシリレンジアミン由来の構成単位)に由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂(以下、「キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂」ということがある)が好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上がキシリレンジアミンに由来する。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
【0019】
前記キシリレンジアミンは、パラキシリレンジアミンおよび/またはメタキシリレンジアミンが好ましく、少なくともメタキシリレンジアミンを含むことがより好ましく、キシリレンジアミンの30モル%以上(好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上)がメタキシリレンジアミンであることがさらに好ましい。前記キシリレンジアミンは、より好ましくは、30~90モル%(好ましくは60~90モル%)がメタキシリレンジアミンであり、70~10モル%(好ましくは40~10モル%)がパラキシリレンジアミンである。メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計は、原料ジアミンの100モル%以下であり、90~100モル%であることが好ましい。
【0020】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0021】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸がより好ましい。
【0022】
上記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0023】
なお、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成されるが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90%以上を占めることが好ましく、95%以上を占めることがより好ましい。
【0024】
本実施形態で用いる結晶性熱可塑性樹脂は、示差走査熱量測定装置で測定した時の結晶化熱量が0~-1mJ/mgであるポリアミド樹脂を含むことが好ましく、0~-0.8mJ/mgであるポリアミド樹脂を含むことがより好ましい。このようなポリアミド樹脂を用いることにより、結晶化が効果的に進行し、経時的に吸水した場合でも機械的強度の著しい低下が起こりにくい傾向にある。ここでいう、結晶化熱量は、後述する実施例に記載の条件で測定した値を意味する。
【0025】
本実施形態の樹脂組成物の一実施形態として、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂を実質的に含まない態様が挙げられる。実質的に含まないとは、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量が本実施形態の樹脂組成物の5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが一層好ましい。
【0026】
また、本実施形態で用いられるポリアセタール樹脂としては、特開2019-123836号公報の段落0009~0012の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。本実施形態で用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂としては、特開2020-019950号公報の段落0016~0024の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0027】
<ガラスフレーク>
本実施形態の樹脂組成物は、結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、厚み0.1~2μmのガラスフレーク10~120質量部を含む。このような構成とすることにより、機械的強度や低反り性に加え、光線透過率を向上させることが可能になる。
【0028】
本実施形態において、ガラスフレークの厚みとは、平均厚みをいう。ガラスフレークの厚みは、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.4μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上、一層好ましくは0.6μm以上である。また、ガラスフレークの厚みは、好ましくは1.8μm以下、より好ましくは1.6μm以下、さらに好ましくは1.4μm以下、一層好ましくは1.2μm以下、より一層好ましくは1.0μm以下、さらに一層好ましくは0.8μm以下である。ここで平均厚みは以下の方法で測定される。
<<平均厚みの測定方法>>
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、100枚以上のガラスフレークにつき、それぞれの厚さを測定し、その測定値を平均することにより求める。ガラスフレーク断面(厚さ面)が走査型電子顕微鏡の照射電子線軸に垂直になるように、走査型電子顕微鏡の試料台を試料台微動装置により調整する。
【0029】
本実施形態において、ガラスフレークのアスペクト比の数平均値は3~20であることが好ましい。アスペクト比についても、上記平均厚みの測定方法と同様の方法によって、測定される。
【0030】
上記のガラスフレークのガラス組成は、Aガラス、Cガラス、Dガラス、Rガラス、SガラスおよびEガラス等に代表される各種のガラス組成が適用され、特に限定されない。
【0031】
本実施形態の樹脂組成物は、結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、厚み0.1~2μmのガラスフレーク10~120質量部を含む。前記ガラスフレークは、結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、35質量部以上であることが一層好ましく、40質量部以上であることがより一層好ましく、45質量部以上、60質量部以上、80質量部以上、90質量部以上であってもよい。また、厚み0.1~2μmのガラスフレークは、結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、120質量部以下であることが好ましく、115質量部以下であることがより好ましく、110質量部以下であることがさらに好ましく、105質量部以下であってもよい。
【0032】
厚み0.1~2μmのガラスフレークは、本実施形態の樹脂組成物中、10~60質量%を占めることが好ましく、20~60質量%を占めることがより好ましく、25~55質量%であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、厚み0.1~2μmのガラスフレークを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、厚み0.1~2μmのガラスフレーク以外の他の無機充填材を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
他の無機充填材としては、繊維状、鱗片状、球状、針状の無機充填材が挙げられ、成分としてはガラス、金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩などが例示される。
本実施形態の樹脂組成物の実施形態の一例は、厚み0.1~2μmのガラスフレーク以外の他の無機充填材を実質的に含まない樹脂組成物である。実質的に含まないとは、厚み0.1~2μmのガラスフレーク以外の無機充填材の含有量が、樹脂組成物に含まれる無機充填材の全量の5質量%以下であることをいい、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
なお、本実施形態における無機充填材は、核剤に該当するものを含まないものとする。
【0033】
<光透過性色素>
本実施形態の樹脂組成物は、光透過性色素を含む。光透過性色素を含むことにより、得られる成形品に色味を持たせることができ、成形品の外観を向上させることができる。特に、本実施形態の樹脂組成物から成形される透過樹脂部材と、詳細を後述する吸収樹脂部材の色味を統一することができ、得られる成形品(レーザー溶着体)の外観を向上させることができる。
本実施形態で用いる光透過性色素は、通常、黒色色素であり、具体的には、ニグロシン骨格、ナフタロシアニン骨格、アニリンブラック骨格、フタロシアニン骨格、ポルフィリン骨格、ペリノン骨格、クオテリレン骨格、アゾ骨格、アントラキノン骨格、ピラゾロン骨格、スクエア酸誘導体骨格、ペリレン骨格、クロム錯体、およびインモニウム骨格から選択される骨格を有する色素が挙げられ、ペリレン骨格を有する色素が好ましい。
光透過性色素とは、例えば、ポリアミド樹脂と、ガラスフレーク30質量%と、色素(光透過性色素と思われる色素)0.2質量%を合計100質量%となるように配合し、後述する実施例に記載の測定方法で波長1060nmにおける光線透過率を測定したときに、透過率が2%以上となる色素をいう。
光透過性色素は、染料であっても顔料であってもよいが、顔料が好ましい。
市販品としては、オリエント化学工業社製の着色剤(色素)であるe-BIND LTW-8731H、e-BIND LTW-8701H、有本化学社製の着色剤であるPlast Yellow 8000、Plast Red M 8315、Oil Green 5602、LANXESS社製の着色剤であるMacrolex Yellow 3G、Macrolex Red EG、Macrolex Green 3、BASF社製の着色剤であるSpectrasenceK0087(旧:Lumogen(登録商標) Black K0087、Lumogen Black FK4280)、SpectrasenceK0088(旧:Lumogen Black K0088、Lumogen Black FK4281)等が例示される。
【0034】
本実施形態の樹脂組成物における光透過性色素の含有量は、樹脂組成物100質量部中、0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、さらには、0.08質量部以上、0.1質量部以上、0.15質量部以上、0.2質量部以上であってもよい。また、光透過性色素の含有量の上限値は、樹脂組成物100質量部中、5.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることがより好ましく、1.0質量部以下であることが一層好ましく、0.8質量部以下、0.5質量部以下、0.4質量部以下、0.3質量部以下であってもよい。
樹脂組成物は、光透過性色素を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
また、本実施形態のレーザー溶着用透過性樹脂組成物は、カーボンブラックを実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、例えば、樹脂組成物の0.0001質量%以下であることをいう。
【0035】
<核剤>
本実施形態の樹脂組成物は、核剤を含んでいてもよい。
核剤は、溶融加工時に未溶融であり、冷却過程において結晶の核となり得るものであれば、特に限定されないが、中でもタルクおよび炭酸カルシウムが好ましく、タルクがより好ましい。
核剤の数平均粒子径は、下限値が、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがより好ましい。核剤の数平均粒子径は、上限値が、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、28μm以下であることが一層好ましく、15μm以下であることがより一層好ましく、10μm以下であることがさらに一層好ましい。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物における核剤の割合は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、また、0.5質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、核剤を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0037】
<銅化合物>
本実施形態の樹脂組成物は、銅化合物を含んでいてもよい。銅化合物を用いることにより、顕著に優れた耐熱老化性を達成可能になる。
本実施形態で用いられる銅化合物としては、ハロゲン化銅(例えば、ヨウ化銅、臭化銅、塩化銅)および酢酸銅が例示され、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、酢酸第一銅および酢酸第二銅、塩化第一銅、塩化第二銅の中から好ましく選択され、ヨウ化第一化銅、酢酸第一銅および塩化第一銅から選択されることがより好ましい。
また、銅化合物は、後述するハロゲン化アルカリ金属と組み合わせて用いることが好ましい。銅化合物と、ハロゲン化アルカリ金属を組み合わせた場合、銅化合物:ハロゲン化アルカリ金属の1:1~1:15(質量比)の混合物であることが好ましく、1:1~1:5の混合物であることがさらに好ましく、1:2~1:4の混合物であることが一層好ましい。
銅化合物と、ハロゲン化アルカリ金属を組み合わせる場合については、特表2013-513681号公報の段落0046~0048の記載も参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物における銅化合物の割合は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましく、また、0.5質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、銅化合物を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0039】
<ハロゲン化アルカリ金属>
本実施形態で用いるハロゲン化アルカリ金属とは、アルカリ金属のハロゲン化物をいう。アルカリ金属としては、カリウムおよびナトリウムが好ましく、カリウムがより好ましい。また、ハロゲン原子としては、ヨウ素、臭素、塩素が好ましく、ヨウ素がより好ましい。本実施形態で用いるハロゲン化アルカリ金属の具体例としては、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムが例示され、ヨウ化カリウムが好ましい。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物におけるハロゲン化アルカリ金属の割合は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、また、0.5質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、ハロゲン化アルカリ金属を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0041】
<離型剤>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。離型剤を含むことにより、射出成形等の金型を用いて成形する場合に、金型からの離型性を向上させることができる。
離型剤は、アミド系ワックスおよび脂肪酸金属塩から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、脂肪酸金属塩を含むことがより好ましい。
【0042】
アミド系ワックスとしては、カルボン酸アミド系ワックスやビスアミド系ワックスが例示され、カルボン酸アミド系ワックスが好ましい。
カルボン酸アミド系ワックスは、例えば、高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸の混合物とジアミン化合物との脱水反応によって得られる。高級脂肪族モノカルボン酸としては、炭素原子数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸が好ましく、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12-ヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。多塩基酸としては、二塩基酸以上のカルボン酸で、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、および、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。
ジアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0043】
本実施形態におけるカルボン酸アミド系ワックスは、その製造に使用する高級脂肪族モノカルボン酸に対して、多塩基酸の混合割合を変えることにより、軟化点を任意に調整することができる。多塩基酸の混合割合は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対して、0.18~1モルの範囲が好適である。また、ジアミン化合物の使用量は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対して1.5~2モルの範囲が好適であり、使用する多塩基酸の量に従って変化する。
【0044】
ビスアミド系ワックスとしては、例えば、N,N'-メチレンビスステアリン酸アミドおよびN,N'-エチレンビスステアリン酸アミドのようなジアミン化合物と脂肪酸の化合物、または、N,N'-ジオクタデシルテレフタル酸アミド等のジオクタデシル二塩基酸アミドを挙げることができる。
【0045】
脂肪酸金属塩としては、炭素原子数16~36の長鎖脂肪酸の金属塩が好ましく、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム等のステアリン酸金属塩、および、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム等のモンタン酸金属塩が挙げられ、モンタン酸金属塩が好ましい。
【0046】
離型剤としては、上記の他、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル、ケトンワックスなども例示される。
離型剤の詳細は、特開2018-095706号公報の段落0055~0061の記載、特開2019-108526号公報の段落0022~0027の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物における離型剤の含有量は、樹脂組成物中、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、離型性がより向上する傾向にある。また、前記離型剤の含有量は、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.8質量%以下であることが一層好ましく、0.6質量%以下であることがより一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0048】
<他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような添加剤としては、厚み0.1~2μmのガラスフレーク以外のフィラー、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、難燃剤などが挙げられる。これらの成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。難燃剤は、リン系難燃剤が好ましい。リン系難燃剤としては、ホスファゼン系難燃剤、ホスフィン酸塩系難燃剤、ジホスフィン酸塩系難燃剤が例示される。
なお、本実施形態の樹脂組成物は、各成分の合計が100質量%となるように、結晶性熱可塑性樹脂(好ましくはポリアミド樹脂)、厚み0.1~2μmのガラスフレーク、および、光透過性色素、さらには、核剤、銅化合物、ハロゲン化アルカリ金属、離型剤、他の添加剤の含有量等が調整される。本実施形態では、結晶性熱可塑性樹脂、厚み0.1~2μmのガラスフレーク、および、選択的に追加される、核剤、銅化合物、ハロゲン化アルカリ金属、離型剤の合計が樹脂組成物の99質量%以上を占める態様が例示される。
【0049】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、成形品としたときに、反りが小さいことが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂組成物を60mm×60mm×1mm厚さの成形品に成形したとき、前記成形品の反り量が2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.9mm以下であることがさらに好ましい。反り量とは、前記成形品を基準台に載せ、最も高い部分の高さと試験片の最も低い部分の高さの差をいう。詳細は、後述する実施例の記載に従う。前記反り量の下限値は0mmが理想であるが、0.05mm以上が実際的である。
【0050】
本実施形態の樹脂組成物は、4mm厚さのISO引張り試験片に成形し、ISO178に準拠して測定した曲げ強さが高いことが好ましい。具体的には、前記曲げ強さは、200MPa以上であることが好ましい。また、上限は、高ければ高い方がよいが、例えば、500MPa以下が実際的である。
本実施形態の樹脂組成物は、4mm厚さのISO引張り試験片に成形し、ISO178に準拠して測定した曲げ弾性率が高いことが好ましい。具体的には、前記曲げ弾性率は、9000MPa以上であることが好ましい。また、上限は、高ければ高い方がよいが、例えば、20000MPa以下が実際的である。
【0051】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、特に制限されないが、ベント口から脱気できる設備を有する単軸または2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。上記結晶性熱可塑性樹脂成分、厚み0.1~2μmのガラスフレーク、光透過性色素および必要に応じて配合される他の添加剤は、混練機に一括して供給してもよいし、結晶性熱可塑性樹脂に他の配合成分を順次供給してもよい。厚み0.1~2μmのガラスフレーク等の無機充填材は、混練時に破砕するのを抑制するため、押出機の途中から供給することが好ましい。また、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合、混練しておいてもよい。
本実施形態では、光透過性色素は、ポリアミド6、ポリアミド66等の熱可塑性樹脂で、マスターバッチ化したものをあらかじめ調製した後、他の成分(熱可塑性樹脂等)と混練して、本実施形態における樹脂組成物を調整してもよい。
【0052】
<成形品の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物を用いた成形品の製造方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形方法、すなわち、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形などの成形方法を適用することができる。本実施形態の樹脂組成物は、特に、金型を用いて成形する方法に適している。さらに、金型によって冷却する成形方法に適している。
【0053】
本実施形態のキットは、本実施形態の樹脂組成物と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む、光吸収性樹脂組成物とを有する。本実施形態のキットは、レーザー溶着による成形品の製造に好ましく用いられる。
すなわち、キットに含まれる樹脂組成物は、光透過性樹脂組成物としての役割を果たし、光透過性樹脂組成物を成形してなる成形品は、レーザー溶着の際のレーザー光に対する透過樹脂部材となる。一方、光吸収性樹脂組成物を成形してなる成形品は、レーザー溶着の際のレーザー光に対する吸収樹脂部材となる。
【0054】
<<光吸収性樹脂組成物>>
本実施形態で用いる光吸収性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(好ましくは結晶性熱可塑性樹脂)と光吸収性色素とを含む。
熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等が例示され、樹脂組成物との相溶性が良好な点から、特に、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂(好ましくは、ポリブチレンテレフタレート樹脂)が好ましく、ポリアミド樹脂がさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
光吸収性樹脂組成物に用いるポリアミド樹脂としては、その種類等を定めるものではないが、上記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が好ましい。
光吸収性樹脂組成物は、また、無機充填材を含んでいてもよい。無機充填材としては、ガラスフレーク(特に、厚み0.1~2μmのガラスフレーク)、ガラス繊維、炭素繊維およびレーザーを吸収する材料をコートした無機粉末等のレーザー光を吸収しうるフィラーが例示される。
光吸収性色素は、光透過性色素よりも、レーザー溶着の際のレーザー光線を透過しにくい色素をいう。光吸収性色素としては、照射するレーザー光波長の範囲、例えば、波長800nm~1100nmの範囲に極大吸収波長を持つものが例示される。本実施形態における光吸収性色素の一実施形態としては、ポリアミド樹脂(後述する実施例で合成したMP10)100質量部に対し、色素0.07質量部配合し、押出機の設定温度280℃で溶融混練したペレットを用いて、後述する実施例に記載の方法で測定した波長1060mmにおける光線透過率が2%未満となる色素が挙げられる。このときの金型温度は110℃である。
光吸収性色素としては、具体的には、無機顔料(カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料)、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。なかでも、無機顔料は一般に隠ぺい力が強いため好ましく、黒色顔料がさらに好ましく、カーボンブラックが一層好ましい。
これらの光吸収性色素は2種以上組み合わせて使用してもよい。光吸収性色素の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し0.01~30質量部であることが好ましい。
【0055】
本実施形態のキットは、レーザー溶着用透過性樹脂組成物中の光透過性色素を除く成分と、光吸収性樹脂組成物中の光吸収性色素を除く成分について、80質量%以上が共通することが好ましく、90質量%以上が共通することがより好ましく、95~100質量%が共通することが一層好ましい。
【0056】
<<レーザー溶着方法>>
次に、レーザー溶着方法について説明する。本実施形態では、本実施形態のレーザー溶着用透過性樹脂組成物から形成された成形品(透過樹脂部材)と、上記光吸収性樹脂組成物から形成された成形品(吸収樹脂部材)を、レーザー溶着させて成形品を製造することができる。レーザー溶着することによって透過樹脂部材と吸収樹脂部材を、接着剤を用いずに、強固に溶着することができる。
部材の形状は特に制限されないが、部材同士をレーザー溶着により接合して用いるため、通常、少なくとも面接触箇所(平面、曲面)を有する形状である。レーザー溶着では、透過樹脂部材を透過したレーザー光が、吸収樹脂部材に吸収されて、溶融し、両部材が溶着される。ここで、レーザー光が透過する部材の厚み(レーザー光が透過する部分におけるレーザー透過方向の厚み)は、用途、樹脂組成物の組成その他を勘案して、適宜定めることができるが、例えば、5mm以下であり、好ましくは4mm以下である。レーザーが透過する部材の厚みの下限は、例えば、0.01mm以上である。
【0057】
レーザー溶着に用いるレーザー光源としては、光吸収性色素の光の吸収波長に応じて定めることができ、波長800~1100nmの範囲のレーザーが好ましく、例えば、半導体レーザーまたはファイバーレーザーが利用できる。
【0058】
より具体的には、例えば、透過樹脂部材と吸収樹脂部材を溶着する場合、まず、両者の溶着する箇所同士を相互に接触させる。この時、両者の溶着箇所は面接触が望ましく、平面同士、曲面同士、または平面と曲面の組み合わせであってもよい。次いで、透過樹脂部材側からレーザー光を照射する。この時、必要によりレンズを利用して両者の界面にレーザー光を集光させてもよい。その集光ビームは、透過樹脂部材中を透過し、吸収樹脂部材の表面近傍で吸収されて発熱し溶融する。次にその熱は熱伝導によって透過樹脂部材にも伝わって溶融し、両者の界面に溶融プールを形成し、冷却後、両者が接合する。
このようにして透過樹脂部材と吸収樹脂部材を溶着された成形品(レーザー溶着体)は、高い溶着強度を有する。なお、本実施形態における成形品とは、完成品や部品の他、これらの一部分を成す部材も含む趣旨である。
【0059】
本実施形態でレーザー溶着して得られた成形品は、機械的強度が良好で、高い溶着強度を有し、レーザー光照射による樹脂の損傷も少ないため、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品などに適用できる。特に、食品用容器、薬品用容器、油脂製品容器、車両用中空部品(各種タンク、インテークマニホールド部品、カメラ筐体など)、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、ブレーカー部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。特に、本実施形態の樹脂組成物およびキットは、車載カメラ筐体などの車両用中空部品に適している。
【実施例
【0060】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0061】
原料
MP10:メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミン(MPモル比率:7:3)とセバシン酸から構成されたポリアミド樹脂、特開2018-119043号公報の段落0071の記載に従って合成した。下記方法で測定した結晶化熱量は-0.5mJ/mgであった。
MP6:メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミン(モル比率:7:3)とアジピン酸から構成されたポリアミド樹脂、特開2018-119043号公報の段落0072の記載に従って合成した。下記方法で測定した結晶化熱量は-0.5mJ/mgであった。
PA66:ポリアミド66、製造元:INVISTA Nylon Polymer社、インビスタU4800、下記方法で測定した結晶化熱量は-0.9mJ/mgであった。
結晶化熱量は、以下の通り、示差走査熱量測定装置を用いて測定した。
<結晶化熱量>
合成した樹脂をペレット化し、それをシリンダー温度280℃で成形した試験片(60×60×1mm厚)について、示差走査熱量測定(DSC)を用い、昇温速度10℃/min、30~300℃にての結晶化熱量を測定した。
シリンダー温度は、ポリアミド樹脂としてMP10を用いた場合は260℃、MP6を用いた場合は280℃、PA66を用いた場合は280℃、金型表面温度は、ポリアミド樹脂としてMP10を用いた場合は110℃、MP6を用いた場合は130℃、PA66を用いた場合は90℃とした。
また、DSCには、日立ハイテクサイエンス社製DSC7020を用いた。
結晶化熱量の単位は、mJ/mgで示した。
【0062】
タルク:林化成製、#5000S
ヨウカダイイチドウ:日本化学産業社製、ヨウ化第一銅
ヨウ化カリウム:富士フィルム和光純薬社製
ステアリン酸亜鉛(II):富士フィルム和光純薬社製
離型剤:日東化成工業社製、CS8CP、モンタン酸カルシウム塩
光透過性色素:BASFカラー&エフェクトジャパン株式会社製、Lumogen(登録商標) Black K 0088(旧 Lumogen Black FK 4281)、ペリレン骨格を有する顔料
無機充填材
ガラス繊維:日本電気硝子社製、ECS03T-211H
ファインフレーク:日本板硝子社製、マイクログラス ファインフレーク MEG160FY-M06、平均厚み 約0.7μm、アスペクト比3~20
【0063】
実施例1~6、比較例1~6
後述する下記表1または2に記載の光透過部材形成用ペレット(樹脂組成物)を製造した。
具体的には、後述する下記表1または2に示す各成分であって、無機充填材(ガラス繊維およびファインフレーク)以外の成分を表1または2に示す割合(単位は、質量部である)をそれぞれ秤量し、ドライブレンドした後、二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)のスクリュー根元から2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-W-1-MP)を用いて投入した。また、無機充填材については振動式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-V-1B-MP)を用いて押出機のサイドから上述の二軸押出機に投入し、樹脂成分等と溶融混練し、光透過部材形成用ペレット(樹脂組成物)を得た。
上記で得られた光透過部材形成用ペレットを、120℃で4時間乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業社製 NEX140III-12EG)を用いて、光透過部材用試験片(60mm×60mm×1.0mm厚)を作製した。
また、上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製 NEX140III-12EG)にて、ISO引張り試験片(4mm厚)を射出成形した。
成形に際し、シリンダー温度は、ポリアミド樹脂としてMP10を用いた場合は260℃、MP6を用いた場合は280℃、PA66を用いた場合は280℃、金型温度は、樹脂成分の主成分であるポリアミド樹脂の種類に応じて、130℃(MP6)、110℃(MP10)、90℃(PA66)とした。
【0064】
<曲げ強さおよび曲げ弾性率>
ISO178に準拠して、上記ISO引張り試験片(4mm厚)を用いて、23℃の温度で曲げ強さ(単位:MPa)および曲げ弾性率(単位:MPa)を測定した。
【0065】
<反り性評価>
上記で得られた光透過部材用試験片(60mm×60mm×1.0mm厚)を基準台に載せ、最も高い部分の高さ(Max高さ、単位:mm)と試験片の最も低い部分の高さ(Min高さ、単位:mm)を、3次元形状測定機を用いて、それぞれ測定し、その差を算出した。具体的には、図1に示すように、基準台1の高さを0mmとし、光透過部材用試験片2を載せたときの、高さのうち、最も高い部分3と最も低い部分(通常試験片の端部)の差を反り4として測定した。
3次元形状測定機は、VR-3200、キーエンス社製を用いた。
【0066】
<光線透過率>
上記で得られた光透過部材用試験片(60mm×60mm×1.0mm厚)について、波長1060nmにおける光線透過率を測定した。単位は%で示した。
光線透過率の測定は、壷坂電機製、LMT-F1LC-PAを用いて行った。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物から形成された成形品は、光線透過率が高かった(実施例1~6)。これに対し、実施例1~6において、それぞれ、等量のガラス繊維を配合した場合、光線透過率が低かった(比較例1~6)。これらの結果より、無機充填材として、ガラス繊維に代えて、厚み0.1~2μmのガラスフレークを用いた時、光線透過率が向上することが分かった。
さらに、本発明の樹脂組成物から形成された成形品は、各種機械的強度も高く維持でき、さらに、反りを効果的に抑制できた。
【0070】
実施例1に記載の樹脂組成物について、光透過性色素を配合せず、かわりに、光吸収性色素としてカーボンブラックマスターバッチ(三菱ケミカル社製カーボンブラック#45)を3質量部配合した他は同様に行って、吸収樹脂部材形成用ペレットを得た。実施例1で得られた光透過部材形成用ペレットと、前記吸収樹脂部材形成用ペレットを用い、特開2018-168346号公報の段落0072、段落0073、および、図1の記載に従い、レーザー溶着させた。適切にレーザー溶着していることを確認した。
【符号の説明】
【0071】
1 基準台
2 光透過部材用試験片
3 高さの最も高い部分
4 反り
図1