(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-02
(45)【発行日】2025-07-10
(54)【発明の名称】育成推定装置、育成推定方法及び育成推定プログラム
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20250703BHJP
G06Q 50/02 20240101ALI20250703BHJP
【FI】
A01G7/00 603
G06Q50/02
(21)【出願番号】P 2024216379
(22)【出願日】2024-12-11
【審査請求日】2025-04-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000164438
【氏名又は名称】九州電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】大熊 康彦
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-157767(JP,A)
【文献】特開2017-051118(JP,A)
【文献】特開2008-161157(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112529049(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111753738(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108564212(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の育成において影響度が大きい要素を推定する育成推定装置であって、
複数種類の前記要素を表すそれぞれの要素ごとの計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する第1予測値を算出する第1モデルを用いた第1算出部と、
前記計算変数と同一の計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する前記第1モデルとは異なる第2予測値を算出する第2モデルを用いた第2算出部と、
前記第1予測値及び前記第2予測値が同一又は所定範囲内で近似するように、前記第1モデルにおける複数の計算変数ごとに対応する複数の第1係数と、前記第2モデルにおける複数の前記計算変数ごとに対応する複数の第2係数とを算出する係数算出部と、
前記係数算出部において、前記第1係数及び/又は前記第2係数の変化量に対する予測値の変化量に応じて、それぞれの第1係数及び/又は第2係数に対応する計算変数が表す前記要素から植物の育成において影響度が大きい重要要素を抽出する重要要素抽出部と、
を備えることを特徴とする育成推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の育成推定装置において、
前記重要要素抽出部が、
前記係数算出部が前記第1係数及び前記第2係数を算出する過程において、それぞれの前記第1係数又は前記第2係数の変化量に対する、前記第1予測値と前記第2予測値との差分の変化量に応じて前記重要要素を抽出することを特徴とする育成推定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の育成推定装置において、
前記第1モデルが線形回帰モデルであり、前記第2モデルが非線形回帰モデルであることを特徴とする育成推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の育成推定装置において、
前記係数算出部が、第1係数及び第2係数を算出する過程において、前記第1算出部で得られたグラフの画像と前記第2算出部で得られたグラフの画像との類似/非類似を画像解析で算出し、それぞれのグラフが類似するように前記第1係数及び/又は前記第2係数
を算出することを特徴とする育成推定装置。
【請求項5】
植物の育成において影響度が大きい要素を推定する育成推定方法であって、
複数種類の前記要素を表すそれぞれの要素ごとの計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する第1予測値を算出する第1モデルを用いた第1算出ステップと、
前記計算変数と同一の計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する前記第1モデルとは異なる第2予測値を算出する第2モデルを用いた第2算出ステップと、
前記第1予測値及び前記第2予測値が同一又は所定範囲内で近似するように、前記第1モデルにおける複数の計算変数ごとに対応する複数の第1係数と、前記第2モデルにおける複数の前記計算変数ごとに対応する複数の第2係数とを算出する係数算出ステップと、
前記係数算出ステップにおいて、相対的な変化量が所定値以上である第1係数及び/又は第2係数に対応する計算変数が表す前記要素を植物の育成において影響度が大きい重要要素として抽出する重要要素抽出ステップと、
を含むことを特徴とする育成推定方法。
【請求項6】
植物の育成において影響度が大きい要素を推定する育成推定プログラムであって、
複数種類の前記要素を表すそれぞれの要素ごとの計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する第1予測値を算出する第1モデルを用いた第1算出手段、
前記計算変数と同一の計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する前記第1モデルとは異なる第2予測値を算出する第2モデルを用いた第2算出手段、
前記第1予測値及び前記第2予測値が同一又は所定範囲内で近似するように、前記第1モデルにおける複数の計算変数ごとに対応する複数の第1係数と、前記第2モデルにおける複数の前記計算変数ごとに対応する複数の第2係数とを算出する係数算出手段、
前記係数算出手段において、相対的な変化量が所定値以上である第1係数及び/又は第2係数に対応する計算変数が表す前記要素を植物の育成において影響度が大きい重要要素として抽出する重要要素抽出手段、
としてコンピュータを機能させることを特徴とする育成推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の育成に関して影響度が大きいパラメータを推定する育成推定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の育成には様々なパラメータが関与しており、それらを制御することで開花時期を予測したり収穫時期を調整することが可能となる。農作物の生産成績を予測する技術として、例えば特許文献1に示す技術が開示されている。
【0003】
特許文献1に示す技術は、予測対象日以前の気象データの観測値データを参照して、生産成績と気象の影響とを表す予測モデルであって、予測対象日の気象データの予報値から生産成績を予測する予測モデルを生成する予測モデル生成部を備え、予測モデル生成部は、過去のある年の生産成績の実測値と、予測モデルを用いて予測したその年の生産成績の予測値との差が最小となるように、気象データの変数の組み合わせを選択して、予測モデルを生成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す技術では、農作物の育成にどういったパラメータがどのように関与しているかを知ることはできない。また、あくまで過去のデータに近づくようなモデルを生成するものであるため、多くの実績データを集める必要があり、精度を上げるためには長い時間を要してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、植物の育成に影響が大きいパラメータを少ない実績データで演算により算出する育成推定装置、育成推定方法及び育成推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る育成推定装置は、植物の育成において影響度が大きい要素を推定する育成推定装置であって、複数種類の前記要素を表すそれぞれの要素ごとの計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する第1予測値を算出する第1モデルを用いた第1算出部と、前記計算変数と同一の計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する前記第1モデルとは異なる第2予測値を算出する第2モデルを用いた第2算出部と、前記第1予測値及び前記第2予測値が同一又は所定範囲内で近似するように、前記第1モデルにおける複数の計算変数ごとに対応する複数の第1係数と、前記第2モデルにおける複数の前記計算変数ごとに対応する複数の第2係数とを算出する係数算出部と、前記係数算出部において、前記第1係数及び/又は前記第2係数の変化量に対する予測値の変化量に応じて、それぞれの第1係数及び/又は第2係数に対応する計算変数が表す前記要素から植物の育成において影響度が大きい重要要素を抽出する重要要素抽出部と、を備えるものである。
【0008】
このように、本発明に係る育成推定装置においては、複数種類の前記要素を表すそれぞれの要素ごとの計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する第1予測値を算出する第1モデルを用いて当該第1予測値を算出し、同一の計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する第1モデルとは異なる第2予測値を算出する第2モデルを用いて当該第2予測値を算出し、第1予測値及び第2予測値が同一又は所定範囲内で近似するように、第1モデルにおける複数の計算変数ごとに対応する複数の第1係数と、第2モデルにおける複数の計算変数ごとに対応する複数の第2係数とを算出し、第1係数及び/又は第2係数の変化量に対する予測値の変化量に応じて植物の育成において影響度が大きい重要要素を抽出するため、植物の育成に重要な影響を及ぼす要素を2つの計算モデルを用いて数学的に求めることができ、植物の育成作業に大きく貢献することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る育成推定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る育成推定装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る育成推定装置における第1算出部の処理を説明する概要図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る育成推定装置における第2算出部の処理を説明する概要図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る育成推定装置における係数算出部の処理を説明する概要図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る育成推定装置の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る育成推定装置について、
図1ないし
図6を用いて説明する。本実施形態に係る育成推定装置は、例えば、温度、湿度、光照射、栄養素、水分、エチレン濃度、乾燥期間などの植物の育成に影響を及ぼす複数種類の要素について、2つの異なる計算モデルから、影響度が大きい要素を推定するものである。以下の説明において、日平均温度や夜間温度など温度に関する要素を表す計算変数をT、相対湿度など湿度に関する要素を表す計算変数をH、日照時間(光周期)や光強度など光照射に関する要素を表す計算変数をL、窒素、リン酸、カリウムの施肥量など栄養素に関する要素を表す計算変数をN、土壌の水分量など水分に関する要素を表す計算変数をW、植物のホルモンの濃度などエチレン濃度に関する要素を表す計算変数をE、乾燥期の期間など乾燥期間に関する要素を表す計算変数をDとする。
【0011】
なお、植物育成に関する各種要素はこれらに限るものではなく、例えば、地域性を考慮した環境変数(例えば、土壌状態、前期の育成状態、周囲の田畑の育成状態、災害頻度等)であったり、種子や苗の状態に応じた変数などが加わってもよい。また、上記要素の全部を考慮した推定を行ってもよいし、一部を考慮した推定を行うようにしてもよい。
【0012】
図1は、本実施形態に係る育成推定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。育成推定装置1は、パソコンやタブレットなどのコンピュータに育成推定プログラムをインストールし、当該育成推定プログラムがインストールされたコンピュータが育成推定方法を実行することで求めることができる。
図1において、育成推定装置1は、CPU11、RAM12、ROM13、ハードディスク(HDとする)14、入出力I/F15、通信I/F16を備える。ROM13やHD14には、オペレーティングシステムや各種プログラムが格納されており、必要に応じてRAM12に読み出され、CPU11により各プログラムが実行される。通信I/F16は、装置間の通信を行うためのインタフェースである。入出力I/F15は、キーボードやタッチパネル等の入力機器からの入力を受け付けたり、ディスプレイ等の出力機器に演算結果等を表示する。なお、上記の構成はあくまで一例であり、必要に応じて変更可能である。
【0013】
図2は、本実施形態に係る育成推定装置の構成を示す機能ブロック図である。育成推定装置1は、植物を育成した場合に所定期間(例えば、1年間や1作期間)に計測された各種要素ごとのデータを入力情報21として取得し、育成情報記憶部23に登録する入力部22と、育成情報記憶部23に記憶されたデータに基づいて、線形回帰モデルを用いて第1予測値を算出する第1算出部24と、育成情報記憶部23に記憶されたデータに基づいて、非線形回帰モデルを用いて第2予測値を算出する第2算出部25と、第1予測値と第2予測値とが一致又は所定範囲内に近似するように、各種要素に対応する係数を可変させて最適値を算出する係数算出部26と、係数算出部26の演算結果から、重要度が高い要素を抽出する重要要素抽出部27と、抽出された重要要素の情報を出力する出力制御部28とを備える。
【0014】
育成情報記憶部23には、植物の育成における所定期間に計測された各種要素の情報が蓄積される。例えば、ある植物を育成した場合の周囲の温度変化を温度センサで毎秒計測し、当該温度センサで計測された温度情報が、育成推定装置1に1秒ごとに送信されて育成情報記憶部23に蓄積される。これ以外にも上述したような様々な要素ごとに各種センサが計測を行い、入力部22を介して育成情報記憶部23に蓄積される。
【0015】
なお、入力部22を介して入力されるデータは、上述したように各種センサで計測された情報を通信機能を用いて送信するようにしてもよいし、利用者が入力機器を用いて手動で入力して登録されるようにしてもよい。例えば、蒔いた肥料の種類や量などはセンサで検出するのが難しいため、手入力としてもよい。すなわち、センサで容易に計測できる要素はセンサで取得し、そのデータを通信又は可搬式のメモリなどを用いて育成情報記憶部23に登録し、センサで取得することが難しい要素は利用者が手入力などを行うことで育成情報記憶部23に登録するようにしてもよい。
【0016】
第1算出部24は、育成情報記憶部23に記憶された各種データに基づいて、以下の(1)式の線形回帰モデルを用いて第1予測値を算出する。
【0017】
【0018】
(1)式において、P1は発芽、出葉、開花、結実、枯死等の植物の育成における各過程に移行する確率や時期を表す予測値、αiは各種要素(計算変数)の影響度合い(重み)を示す係数である。なお、線形回帰モデルとして、例えば、重回帰モデル、単回帰モデル、ロジスティック回帰モデル、リッジ回帰モデル、ラッソ回帰モデル、Elastic Net回帰モデル、ロバスト回帰モデル、分位点回帰モデル、ベイズ線形回帰モデル等を用いるようにしてもよい。
【0019】
また、第2算出部25は、育成情報記憶部23に記憶された各種データに基づいて、以下の(2)式の非線形回帰モデルを用いて第2予測値を算出する。
【0020】
【0021】
(2)式において、P2は発芽、出葉、開花、結実、枯死等の植物の育成における各過程に移行する確率や時期を表す予測値、βiは各種要素(計算変数)の影響度合い(重み)を示す係数である。なお、非線形回帰モデルとして、例えば、双曲線回帰モデル、多項式回帰モデル、指数回帰モデル、ロジスティック曲線回帰モデル、ガウス曲線回帰モデル、スプライン回帰モデル等を用いるようにしてもよい。
【0022】
係数算出部26は、第1算出部24における上記(1)式の演算、及び、第2算出部25における上記(2)式の演算に基づいて、係数の最適値を算出する。具体的には、P1=P2又はP1≒P2(P1-P2<所定の閾値)となるαi及びβiを算出する。例えば、(1)式を目的関数(固定)、(2)式を調整する関数(係数調整)として定義し、(2)式が(1)式に近づくように(2)式の係数を調整する。それぞれの関数の差を検出するために、平均二乗誤差、平均絶対誤差などの損失関数を定義し、これを解析的手法又は数値最適化(勾配降下法、二次計画法、ライブラリベースの最適化)などで最小化する。最小化プロセスで得られる係数βiに基づいて(2)式をグラフにプロットし、(1)式のグラフに近づいているかを確認する。
【0023】
上述した第1算出部24、第2算出部25及び係数算出部26の処理の一例について、以下概要図を示して説明する。
図3は、本実施形態に係る育成推定装置における第1算出部の処理を説明する概要図、
図4は、本実施形態に係る育成推定装置における第2算出部の処理を説明する概要図、
図5は、本実施形態に係る育成推定装置における係数算出部の処理を説明する概要図である。まず、第1算出部24の処理において、育成情報記憶部23に登録された各種要素ごとのデータを横軸が時間、縦軸が計測値となっているグラフ上にプロットする(
図3(A)を参照)。このとき、各種要素ごとに取得した値は正規化されて一次元に集約する。つまり、
図3(A)にプロットされた点は、各種要素の計測値が混在したプロットデータとなる。これらのプロットされたデータに対して、第1算出部24が(1)式の線形回帰モデルを用いて、
図3(B)に示すような線形グラフを描く演算を行う。
【0024】
第2算出部25の処理でも同様に、育成情報記憶部23に登録された各種要素ごとのデータが横軸が時間、縦軸が計測値となっているグラフ上にプロットされる(
図4(A)を参照)。このとき、各種要素ごとに取得した値は正規化されて一次元に集約する。これらのプロットされたデータに対して、第2算出部25が(2)式の非線形回帰モデルを用いて、
図4(B)に示すような非線形グラフを描く演算を行う。
【0025】
図3(B)及び
図4(B)のグラフが求められたら、係数算出部26が、
図5に示すように、それぞれのグラフが一致又は近似するように係数αi及びβiを算出する。
図5(A)~(C)は、
図4(B)のグラフが段階的に
図3(B)のグラフに近似する様子を示している。なお、
図5においては、αiを固定とし、βiを調整することでβiの最適値を求める様子を示しているが、βiを基準とし、αiを変化させることで
図3(B)及び
図4(B)のグラフが一致又は近似するようにしてもよいし、αi及びβiをどちらも変化させながら
図3(B)及び
図4(B)のグラフが一致又は近似するように演算してもよい。
【0026】
図3(B)及び
図4(B)のグラフが一致又は近似するためのβiの最適値の求め方は、上述したように一般的に知られている最適化問題の解法及びアルゴリズムを用いることができる。このとき、例えばAI(人口知能)による画像処理を組み合わせて最適値を求めるようにしてもよい。具体的には、
図3(B)のグラフと
図4(B)のグラフの形状を画像処理により解析し、グラフの形状が近似するようなβiの最適値をAIで算出するようにしてもよい。
【0027】
重要要素抽出部27は、βiの最適値を算出する過程において、βiの変化に対するP1とP2との差の縮まり度合いが最も大きい、言い換えれば、βiを変化させた場合に最もP2をP1に近づけたβiを特定して抽出する。そして、抽出されたβiに対応する計算変数の要素が、対象とする植物にとって最も影響が大きい要素であると推定する。
【0028】
なお、βiを固定としてαiを調整した場合は、αiの最適値を算出する過程において、αiの変化に対するP1とP2との差の縮まり度合いが最も大きい、言い換えれば、αiを変化させた場合に最もP1をP2に近づけたαiを特定して抽出する。そして、抽出されたαiに対応する計算変数の要素が、対象とする植物にとって最も影響が大きい要素であると推定する。
【0029】
また、αi及びβiの双方を相互に変化させて最適値を算出した場合は、αi,βiの最適値を算出する過程において、αiの変化に対するP1とP2との差の縮まり度合いが最も大きい、言い換えれば、αiを変化させた場合に最もP1をP2に近づけたαiを特定すると共に、βiの変化に対するP1とP2との差の縮まり度合いが最も大きい、言い換えれば、βiを変化させた場合に最もP2をP1に近づけたβiを特定して抽出する。そして、抽出されたαi,βiに対応する計算変数の要素が、対象とする植物にとって最も影響が大きい要素であると推定する。すなわち、この場合、(1)式及び(2)式から得られる2つの要素を重要な要素として特定されることもある。
【0030】
出力制御部28は、重要要素抽出部27で抽出された影響が大きい要素の情報を、例えばディスプレイなどの表示部に出力する。育成推定装置1の使用者(すなわち、植物の育成者)は、出力された要素情報に基づいて、育成時の作業を植物の成長に応じて調整したり、効率的な作業計画を作成することができる。
【0031】
上記の各演算は、育成する植物の場所、種類、育成過程ごとに行うことができる。例えば、同じ植物(例えば任意の品種のバニラ)を隣接するビニールハウス内で同じ条件で育成した場合であっても、実際には影の影響による微妙な日照時間の長さやタイミングに差が生じたり、供給される水の量(圧力)がビニールハウス間で異なったりすることで育成速度や品質に差が生じることがある。つまり、僅かな環境の違いであっても影響を及ぼす要素が異なることとなるため、上述したように、それぞれの場所ごと(隣接しているような場合であってもビニールハウスごと、更に細かくは畝ごとなど)に計測された各種要素ごとのデータを入力情報21として演算に用いることが望ましい。
【0032】
また、同じビニールハウス内であっても異なる品種の植物を育成している場合は、その品種ごとに計測された各種要素ごとのデータを入力情報21として演算に用いることが望ましい。
【0033】
さらに、発芽、出葉、開花、結実、枯死等の育成過程ごとに計測された各種要素ごとのデータを入力情報21として演算に用いることが望ましい。そうすることで、例えば「発芽」に関して影響が大きい要素、「開花」に関して影響が大きい要素など、育成過程ごとに重要な要素を特定することも可能となる。
【0034】
さらにまた、時間帯ごとに重要な要素を特定することも可能である。例えば1日の中で7:00~19:00までに計測されたデータを入力情報21として演算に用いた場合に得られる重要要素と、19:00~7:00までに計測されたデータを入力情報21として演算に用いた場合に得られる重要要素とをそれぞれ求めることで、昼間のデイタイム(日照がある時間帯)において重要な要素、夜間のナイトタイム(日照がない時間帯)において重要な要素をそれぞれ特定することができ、時間帯に応じて育成手法を変える又は手を加える等の工夫が可能となる。
【0035】
さらにまた、係数αi及びβiを算出するにあたり、例えば一部の時間帯でグラフ形状が特に近似したような場合は、その時間帯におけるいずれかの要素が植物の育成に大きな影響を与えている時間帯であると推定してもよい。
【0036】
図6は、本実施形態に係る育成推定装置の処理を示すフローチャートである。育成推定装置1が処理を行うにあたり、育成情報記憶部23には、前年に計測された各種要素(温度、湿度、光照射、栄養素、水分、エチレン濃度、乾燥期間など)の実績データが予め登録されているものとする。育成推定装置1の使用者は、入力デバイスを操作して処理対象となる項目を指定する(S1)。ここで言う処理対象の項目とは、例えば、育成推定装置1による育成推定処理を行う対象となる植物の種類、育成過程、場所、期間などである。具体的には、例えば、「バニラのXX品種」について、バニラ花が「開花するまで」の育成過程(又は具体的に「XX月~XX月」などの期間でもよい)における「ビニールハウスA」といった項目を指定する。これらの入力情報された指定情報に基づいて、情報抽出部(図示しない)が演算対象となるデータを育成情報記憶部23から読み出す(S2)。
【0037】
なお、S1で指定される項目は必ずしも上記全ての項目が指定される必要はなく、一部の項目のみが指定されてもよい。また、これ以外にも季節、天気、降水量、災害関連など、植物の育成において関連する項目が指定できるような構成としてもよい。
【0038】
第1算出部24は、S2で抽出されたデータに基づいて係数αiを算出する(S3)。ここで行う演算は、例えば重回帰モデル(Multiple Linear Regression)のような線形回帰モデルを用いた演算が行われる。第2算出部25は、S2で抽出されたデータに基づいて係数βiを算出する(S4)。ここで行う演算は、例えば双曲線回帰モデル(Hyperbolic Regression)のような非線形回帰モデルを用いた演算が行われる。係数算出部26は、S3及びS4で得られた予測値又はグラフが一致又は近似するように係数αi及び/又はβiを算出する(S5)。予測値が一致するような係数αi,βiの最適値の演算は、例えば第1算出部24及び第2算出部25の演算結果から得られるグラフの形状を画像処理で解析し、その類似度を見ながら係数αi,βiの最適値を求めるようにしてもよい。
【0039】
重要要素抽出部27は、αi及びβiの最適値を求める工程において、P1とP2とを一致又は近似させる上で最も大きく寄与したαiやβiに対応する要素を重要要素として抽出する(S6)。出力制御部28は、抽出された重要要素の情報をディスプレイに表示して(S7)、処理を終了する。育成推定装置1の使用者は、ディスプレイに表示された重要要素の情報に基づいて、育成計画を立てたり、品質向上のための対応を行うこととなる。
【0040】
このように、本実施形態に係る育成推定装置1においては、複数種類の要素を表すそれぞれの要素ごとの計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する第1予測値(P1)を算出する第1モデルを用いた第1算出部24と、計算変数と同一の計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する第1モデルとは異なる第2予測値(P2)を算出する第2モデルを用いた第2算出部25と、第1予測値及び第2予測値が同一又は所定範囲内で近似するように、第1モデルにおける複数の計算変数ごとに対応する複数の第1係数(αi)と、第2モデルにおける複数の計算変数ごとに対応する複数の第2係数(βi)とを算出する係数算出部26と、係数算出部26において、第1係数(αi)及び/又は第2係数(βi)の変化量に対する予測値P1,P2の変化量に応じて、それぞれの第1係数(αi)及び/又は第2係数(βi)に対応する計算変数が表す要素から植物の育成において影響度が大きい重要要素を抽出する重要要素抽出部27とを備えるため、植物の育成に重要な影響を及ぼす要素を2つの計算モデルを用いて数学的に求めることができ、植物の育成作業に大きく貢献することができる。
【0041】
また、必要に応じて、重要要素抽出部27が、係数算出部26が第1係数(αi)及び第2係数(βi)を算出する過程において、それぞれの第1係数(αi)又は第2係数(βi)の変化量に対する、第1予測値(P1)と第2予測値(P2)との差分の変化量に応じて重要要素を抽出するため、植物の育成に重要な影響を及ぼす要素を高精度に抽出することができる。
【0042】
さらに、必要に応じて、第1モデルが線形回帰モデルであり、第2モデルが非線形回帰モデルであるため、異なる2つの計算モデルから植物の育成に重要な影響を及ぼす要素を数学的に求めることができる。
【0043】
さらにまた、必要に応じて、係数算出部26が、第1係数(αi)及び第2係数(βi)を算出する過程において、第1算出部24で得られたグラフの画像と第2算出部25で得られたグラフの画像との類似/非類似を画像解析で算出し、それぞれのグラフが類似するように第1係数(αi)及び/又は第2係数(βi)を算出するため、係数算出部26の演算を画像処理で簡易に且つ高速に行うことができる。
【符号の説明】
【0044】
1 育成推定装置
11 CPU
12 RAM
13 ROM
14 ハードディスク
15 入出力I/F
16 通信I/F
21 入力情報
22 入力部
23 育成情報記憶部
24 第1算出部
25 第2算出部
26 係数算出部
27 重要要素抽出部
28 出力制御部
【要約】
【課題】植物の育成に影響が大きいパラメータを少ない実績データで演算により算出する育成推定装置等を提供する
【解決手段】植物の育成において影響度が大きい要素を推定する育成推定装置1であって、複数種類の要素を表す計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する第1予測値P1を算出する第1算出部24と、同一の計算変数に基づいて、植物の育成状態に関する第2予測値P2を算出する第2算出部25と、第1予測値P1及び第2予測値P2が同一又は所定範囲内で近似するように、第1モデルにおける複数の計算変数ごとに対応する複数の第1係数αiと、第2モデルにおける複数の計算変数ごとに対応する複数の第2係数βiとを算出する係数算出部26と、係数算出部26において、第1係数(αi)及び/又は第2係数(βi)の変化量に対する予測値P1,P2の変化量に応じて植物の育成において影響度が大きい重要要素を抽出する重要要素抽出部27とを備える。
【選択図】
図2