(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-03
(45)【発行日】2025-07-11
(54)【発明の名称】イオントンネルを使用するエネルギーフィルタイオン注入(EFII)のシミュレーションのためのコンピュータ実装方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20250704BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20250704BHJP
【FI】
H01J37/317 C
H01L21/265 Z
(21)【出願番号】P 2023551239
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2022054400
(87)【国際公開番号】W WO2022180037
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2024-07-22
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(73)【特許権者】
【識別番号】523231510
【氏名又は名称】エムイー2-ファクトリー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンティン・コサト
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン・クリッペンドルフ
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】Constantin Csato et al.,Energy filter for tailoring depth profiles in semiconductor doping application,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms,2015年07月31日,Volume 365, Part A, Pages 182-186
【文献】C. Borschel et al.,Ion beam irradiation of nanostructures - A 3D Monte Carlo simulation code,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms,2011年07月19日,Volume 269, Issue 19, Pages 2133-2138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーフィルタイオン注入(EFII)のシミュレーションのためのコンピュータ実装方法(200)であって、
エネルギーフィルタ(25)の少なくとも一部を決定するステップ(201)と、
基板(26)内のシミュレーション領域(g)を決定するステップ(202)と、
イオンビーム源(5)から向けられるイオン(10)を受け取るためのイオントンネル(70)を定めるステップ(203)と、
前記エネルギーフィルタ(25)の前記決定された少なくとも一部、前記イオンビーム源(5)、前記基板(26)内の前記決定されたシミュレーション領域(g)、および前記定められたイオントンネル(70)をシミュレーション環境において実装するステップ(204)と、
前記実装された基板(26)のドーピング深さプロファイル(40)におけるエネルギー分布の所望の程度の横方向の均質化を可能にするために前記エネルギーフィルタ(25)の前記実装された少なくとも一部と前記実装された基板(26)との間の最小距離(50)を決定するステップ(205)と、
総シミュレーションボリューム(S
V)を定めるステップ(206)と、を含む方法(200)。
【請求項2】
前記エネルギーフィルタ(25)の少なくとも1つのフィルタユニットセル(30)がエネルギーフィルタ(25)の前記少なくとも一部として定められる、請求項1に記載の方法(200)。
【請求項3】
前記シミュレーション環境はモンテカルロシミュレーション環境である、請求項
1に記載の方法(200)。
【請求項4】
前記イオントンネル(70)は、前記定められた総シミュレーションボリューム(S
V)の第1の縁部に到達した前記イオン(10)が、前記定められた総シミュレーションボリューム(S
V)の他方の縁部で再導入されるように定義される、請求項
1に記載の方法(200)。
【請求項5】
前記イオントンネル(70)は、前記定められた総シミュレーションボリューム(S
V)の第1の縁部からの前記イオン(10)が、前記定められた総シミュレーションボリューム(S
V)の反対側の縁部にy-z平面内で移動するように定めら
れ、前記y-z平面は前記基板(26)の表面に平行である、請求項
1に記載の方法(200)。
【請求項6】
前記エネルギーフィルタ(25)の前記少なくとも一部は、前記エネルギーフィルタ(25)の前記少なくとも一部が前記フィルタユニットセル(30)の
幅の少なくとも半分であるように定めら
れ、前記フィルタユニットセル(30)の幅はy-z平面に平行な方向において測定され、前記y-z平面は前記基板(26)の表面に平行である、請求項2に記載の方法(200)。
【請求項7】
前記イオントンネル(70)は、前記決定されたシミュレーション領域(g)と少なくとも同じ寸法を前記イオントンネル(70)が有するように定められる、請求項
1に記載の方法(200)。
【請求項8】
前記イオントンネル(70)は、前記フィルタユニットセル(30)または前記フィルタユニットセル(30)の倍数と少なくとも同じ寸法を前記イオントンネル(70)が有さねばならないように定められる、請求項
2に記載の方法(200)。
【請求項9】
前記基板(26)内の前記シミュレーション領域(g)の要求される寸法がシミュレーションタスクによって決定される、請求項
1に記載の方法(200)。
【請求項10】
前記基板(26)内の前記シミュレーション領域(g)の前記要求される寸法は前記基板(26)上のマスキング構造(26a)の寸法によって決定される、請求項9に記載の方法(200)。
【請求項11】
三角形状、角錐形状、逆角錐形状、または自由形状のエネルギーフィルタ(25)の近似された幾何学的寸法を実装するステップをさらに含む請求項
1に記載の方法(200)。
【請求項12】
異なる形状、異なる材料組成または異なる層構造の複数の基本要素で構成されるフィルタユニットセル(30)の近似された幾何学的寸法を実装するステップをさらに含む請求項
1に記載の方法(200)。
【請求項13】
前記エネルギーフィルタ(25)を傾けるステップをさらに含む請求項
1に記載の方法(200)。
【請求項14】
前記イオントンネル(70)内のミラー(80)によってイオンビーム(10)に垂直な軸を中心に前記イオンビームを鏡映させるステップをさらに含
み、前記イオンビーム(10)はy-z平面に平行な方向に鏡映され、前記y-z平面は前記基板(26)の表面に平行である、請求項
1に記載の方法(200)。
【請求項15】
一次イオンの異なる一次エネルギー、イオンタイプまたは入射角での複数のシミュレーションを重ね合わせるステップをさらに含む請求項
1に記載の方法(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年2月24日に出願されたルクセンブルク特許出願第LU102559号の利益およびこれに対する優先権を主張するものである。ルクセンブルク特許出願第LU102559号の開示全体を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は、イオントンネルを使用するエネルギーフィルタイオン注入のシミュレーションのためのコンピュータ実装方法に関する。
【背景技術】
【0003】
商業指向のマイクロ技術的生成プロセスにおいて、マスクされたおよび/またはマスクされていないドーピング元素が、数ナノメートルから数十マイクロメートルまでの深さ範囲の所定の深さプロファイルで、半導体(シリコン、炭化シリコン、窒化ガリウム)または光学材料(ガラス、LiNbO3、PMMA)のような材料内へイオン注入によって導入される。
【0004】
イオン注入は、数ナノメートルから数十マイクロメートルの深さ範囲の所定の深さプロファイルで、半導体材料または光学材料のような材料においてドーピングまたは欠陥プロファイルの生成を達成する方法である。このような半導体材料の例は、シリコン、炭化シリコン、および窒化ガリウムを含むが、これらに限定されない。このような光学材料の例は、LiNbO3、ガラスおよびPMMAを含むが、これらに限定されない。
【0005】
単一エネルギーイオン照射によって取得可能なドーピング濃度ピークまたは欠陥濃度ピークより広い深さ分布を有する深さプロファイルをイオン注入によって生成する、あるいは1つまたは少数の単純な単一エネルギー注入によって生成することができないドーピングまたは欠陥深さプロファイルを生成する必要性がある。ドーピング濃度ピークは大抵、ガウス分布によって近似的に、またはピアソン分布によってより正確に表すことができる。しかしながら、特にいわゆるチャネリング効果が結晶材料に存在するとき、このような分布からの逸脱もある。単一エネルギーイオンビームが微細構造化エネルギーフィルタコンポーネントを通過する際に単一エネルギーイオンビームのエネルギーが変更される構造化エネルギーフィルタを使用して深さプロファイルを生成するための先行技術の方法が知られている。結果として生じるエネルギー分布は、標的材料における深さプロファイルのイオンの作成につながる。これは、たとえば、特許文献1に記載されている。半導体ドーピング用途において深さプロファイルを調整するためのエネルギーフィルタが、非特許文献1から知られている。ナノ構造のイオンビーム照射は、非特許文献2から知られている。
【0006】
このようなイオン注入装置20の一例が
図1に示されており、イオンビーム10が構造化エネルギーフィルタ25に衝突する。イオンビーム源5は、サイクロトロン、高周波線形加速器、静電タンデム加速器、またはシングルエンド静電加速器であってもよい。他の態様において、イオンビーム源5のエネルギーは0.5と3.0MeV/核子との間、または一態様において1.0と2.0MeV/核子との間である。1つの特定の態様において、イオンビーム源は1.3と1.7MeV/核子との間のエネルギーを備えたイオンビーム10を生成する。イオンビーム10の総エネルギーは1と50MeVとの間であり、一態様において、4と40MeVとの間であり、さらなる一態様において8と30MeVとの間である。イオンビーム10の周波数は1Hzと2kHとの間、たとえば3Hzと500Hzとの間、一態様において、7Hzと200Hzとの間であってもよい。イオンビーム10は連続イオンビーム10であってもよい。イオンビーム10内のイオンの例は、アルミニウム、窒素、水素、ヘリウム、ホウ素、リン、炭素、ヒ素、およびバナジウムを含むが、これらに限定されない。
【0007】
図1はエネルギーフィルタの基本原理を示す。単一エネルギーイオンビームが微細構造化エネルギーフィルタコンポーネントを通過する際、入口点に応じて、単一エネルギーイオンビームはそのエネルギーが変更される。結果として生じるイオンのエネルギー分布は、基板マトリックスにおける注入物質の深さプロファイルの変更につながる。
【0008】
図1は、右手側に三角形の断面形状を有する膜からエネルギーフィルタ25が作製されていることを示すが、この種の断面形状は本発明を限定するものではなく、他の断面形状を使用してもよい。上部イオンビーム10-1がエネルギーフィルタ25を通過する領域25
minはエネルギーフィルタ25における膜の最小厚さであるため、上部イオンビーム10-1は、エネルギーがほとんど減少せずにエネルギーフィルタ25を通過する。換言すれば、左手側の上部イオンビーム10-1のエネルギーがE1であれば、上部イオンビーム10-1のエネルギーは右手側でも実質的に同じ値E1を有することになる(膜におけるイオンビーム10のエネルギーの少なくともいくらかの吸収につながる膜の停止力による小さなエネルギー損失があるのみ)。
【0009】
他方、下部イオンビーム10-2は、エネルギーフィルタ25の膜が最も厚い領域25maxを通過する。左手側の下部イオンビーム10-2のエネルギーE2は実質的にエネルギーフィルタ25によって吸収されるため、右手側の下部イオンビーム10-2のエネルギーは減少し、上部イオンビームのエネルギーより低く、すなわち、E1>E2となる。その結果、より高エネルギーの上部イオンビーム10-1は、より低エネルギーの下部イオンビーム10-2より基板材料30において大きな深さまで浸透することが可能である。この結果、たとえば、半導体ウェハの一部である、基板材料30に差異的な深さプロファイルが生じる。
【0010】
この深さプロファイルを
図1の右手側に示す。濃い長方形の領域は、イオンが基板材料をd1とd2との間の深さまで浸透することを示す。しかしながら、水平プロファイル形状は特殊なケースであり、これは、たとえば、イオンのすべてのエネルギーが幾何学的に均等に考慮されれば、そしてエネルギーフィルタと基板の材料が同じであれば得られる。ガウス曲線は、エネルギーフィルタ25がなく、d3の深さで最大値を有する近似的深さプロファイルを示す。イオンビーム10-1のエネルギーのいくらかがエネルギーフィルタ25に吸収されるため、深さd3は深さd2より大きいことが理解されるであろう。
【0011】
1MeVから数十MeV(たとえば、40MeV)までのエネルギー範囲の典型的なイオン種(N、Al、B、P)では、低エネルギーイオンが大きな散乱角を有する傾向があり、高エネルギーイオンが小さな散乱角を有する傾向があることを観察することができる。この異なる散乱挙動の理由は下にある停止メカニズムのエネルギー依存性である。高い運動エネルギーを持つイオンは、いわゆる電子停止、すなわち、基板の電子系の励起によって優先的にそのエネルギーを失う。この結果、通常、小さな方向偏差、すなわち、小さな散乱角のみが生じる。低い運動エネルギーを持つイオンは、基板の原子との弾性衝突、いわゆる核停止によって優先的にそのエネルギーを失う。この結果、大きな角散乱が生じる。
【0012】
ドーピング深さプロファイルのシミュレーションについての一態様である、静的注入配置(すなわち、フィルタと基板が互いに対して移動しない)では、フィルタと基板との間の距離が決定的な役割を果たす。
図6Aおよび
図6Bに見られるように、距離50があまりに小さく選択されれば、高エネルギーイオンの低散乱のため、注入ドーピング深さプロファイルへのフィルタ構造の転写が発生する可能性がある。換言すれば、この影響を回避するため、シングルフィルタユニットセルまたはシングルフィルタ要素によって生成されるプロファイルは、所望の程度の横方向の均質化が達成されるように十分に重なり合わねばならない。
【0013】
要約すると、所与のイオン種、所与の初期イオンエネルギー、所与のフィルタ設計および所与の基板材料および所与のフィルタ基板間距離について、フィルタ透過イオンの特定のエネルギー分布および角度分布が生成されることになる。
【0014】
先行技術においてエネルギーフィルタ25の製造のための多くの原理が知られている。通常、エネルギーフィルタ25はバルク材料から作製され、エネルギーフィルタ25の表面は、
図1から知られる三角形の断面パターンのような所望のパターンを生成するようにエッチングされることになる。特許文献2において、異なるイオンビームエネルギー低減特性を有する材料の層から製造されたエネルギーフィルタが記載された。エネルギーフィルタから生じる既知の深さプロファイルは材料の層の構造ならびに表面の構造に依存する。
【0015】
さらなる構造原理が特許文献3に示されており、エネルギーフィルタは、垂直壁によって互いに接続されている離間した微細構造層を含む。
【0016】
エネルギーフィルタ25を通して吸収することができるイオンビーム10からの最大出力は、エネルギーフィルタ25の効果的な冷却メカニズム、エネルギーフィルタ25が作製される膜の熱機械特性、ならびにエネルギーフィルタ25が作製される材料の選択、という3つの要因に依存する。典型的なイオン注入プロセスにおいて出力の約50%がエネルギーフィルタ25に吸収されるが、これはプロセス条件およびフィルタ形状に応じて80%に上昇する可能性がある。
【0017】
エネルギーフィルタの一例を
図2Aに示しており、エネルギーフィルタ25は、フレーム27に取り付けられた三角形構造化膜で作製されている。非限定的な一例において、エネルギーフィルタ25は、材料の単一片、たとえば、シリコン層21(典型的な厚さは2と20μmとの間であるが、200μmまで)とバルクシリコン23(厚さ約400μm)との間に挟まれた、たとえば0.2~1μmの厚さを有する絶縁層二酸化シリコン層22を含むシリコンオンインシュレータから作製することができる。構造化膜は、たとえば、シリコンから作製されるが、炭化シリコンまたは別のシリコンベースもしくは炭素ベースの材料またはセラミックから作製してもよい。
【0018】
イオンビーム10のための所与のイオン電流のためのイオン注入プロセスにおけるウェハのスループットを最適化し、したがってイオンビーム10を効率的に使用するため、膜が定位置に保持されるフレーム27ではなくエネルギーフィルタ25の膜のみを照射することが1つの態様である。フレーム27の少なくとも一部もイオンビーム10によって照射され、したがって加熱される可能性がある。実際フレーム27が完全に照射されることがあり得る。エネルギーフィルタ25を形成する膜は加熱されるが、膜が薄い(すなわち、2μmと20μmとの間であるが、200μmまで)ため、熱伝導率が非常に低い。膜はサイズが2×2cm2と35×35cm2との間であり、標的ウェハのサイズに対応する。膜とフレーム27との間には熱伝導がほとんどない。したがって、モノリシックフレーム27は膜の冷却に寄与せず、関連する膜のための唯一の冷却メカニズムは膜からの熱放射である。
【0019】
図2Bに示すように、基板ホルダ30は固定である必要がなく、基板12をx-y内(シート面に垂直な面内)で移動させるための装置を任意選択で設けることができる。さらに、注入される基板12が固定され、注入中に回転するウェハホイールも基板ホルダ30として考えることができる。基板ホルダ30をエネルギーフィルタ25に対してイオンビーム10のビーム方向(x方向)に移動させることも可能である。さらに、基板ホルダ30に任意選択で加熱または冷却を提供することができる。
【0020】
図3Aおよび
図3Bは、ウェハ処理を目的としたイオン注入のためのシステムにおけるエネルギーフィルタ25の典型的な設置を示す。
図3Aは、注入される基板26が固定されるウェハホイール24を示す。処理/注入中、ウェハホイール24はイオンビーム10の方向に上向きに90°傾けられ、回転するように設定される。ウェハホイール24にはしたがってイオンビーム10によって同心円状のイオンが「書き込まれる」。ウェハ領域全体を照射するため、ウェハホイール24を処理中に垂直に移動させる。
図3Bにおいて、ビーム出口の領域において取り付けられたエネルギーフィルタ25が見られる。しかしながら、ウェハ処理を目的としたイオン注入のためのシステムにおけるエネルギーフィルタ25の設置は回転セットアップに限定されず、たとえば
図2Aに示すように、ウェハ処理を目的としたイオン注入のための固定セットアップも可能である。
【0021】
図4Aから
図4Dに示すエネルギーフィルタ25のレイアウトまたは三次元構造は、エネルギーフィルタ25を使用して多数のドーピング深さプロファイル40を生成する主な可能性を示す。原理的には、エネルギーフィルタプロファイルを互いに組み合わせて新たなエネルギーフィルタプロファイルおよびしたがってドーピング深さプロファイル40を得ることができる。
【0022】
図4Aから
図4Dは、異なる形状のエネルギーフィルタ微細構造(それぞれ側面図および上面図で示す)についての異なるドーピング深さプロファイル40(基板内の深さの関数としてのドーピング濃度)の概略図を示す。
図4Aにおいて、矩形のドーピング深さプロファイルを生成する三角柱形状の構造が示されている。
図4Bにおいて、より小さな三角柱形状の構造が示されており、深さの分布がより少ない矩形のドーピング深さプロファイルを生成する。
図4Cにおいて、矩形のドーピング深さプロファイルを生成し、プロファイルの始めにピークがある台形プリズム形状の構造が示されている。
図4Dにおいて、基板の深さへと上昇する三角形のドーピング深さプロファイルを生成する角錐形状の構造が示されている。
【0023】
エネルギーフィルタイオン注入をシミュレートすることが知られている。しかしながら、エネルギーフィルタイオン注入をシミュレートする根本的な問題は、注入構造の幾何学的寸法が異なることにある。エネルギーフィルタ構造要素は典型的には、たとえば、シリコンで作製された三角形構造であり、最小および最大膜厚間の高さの差が約1μm超、約16μmから100μmまでである。並べて配置された複数のこのような構造要素がエネルギーフィルタを形成する。エネルギーフィルタ構造要素のイオンビーム方向に垂直な方向における寸法も数マイクロメートルから数100μmのオーダーにある。実際に使用されるエネルギーフィルタでは、エネルギーフィルタ膜の巨視的寸法は、2×2cmから、17×17cmを超えて40×40cmまでが要求される。基板サイズもこの範囲にある。他方、エネルギーフィルタと基板との間の距離は、通常、ミリメートルまたはセンチメートルの範囲にある。
【0024】
図5Aはフィルタ構造のフィルタユニットセル30の概略図を示す。エネルギーフィルタ25は単一要素またはシングルフィルタユニットセル30から構成されている。各ユニットセル30は(最も単純な場合)透過イオンの全エネルギーおよび角度スペクトルを提供する。エネルギーフィルタイオン注入(EFII)の特徴的ドーピング深さプロファイル40はしたがってフィルタユニットセル30の照射から生じる。n個のユニットセル30の横並び配置は単に拡張であり、これは拡張された基板の照射に必要である。
図5A参照。
図5Bは、エネルギーフィルタ25、イオン源5および基板26の静的照射状況のy-z平面における断面図を示す。典型的にはy方向にマイクロメートル寸法で形成される構造は巨視的に拡張されたエネルギーフィルタとなり、並べて配置されると、寸法が最大40cmである。
図5Bにも見られるように、同じことがz方向にも当てはまる。イオンは、エネルギーフィルタ25を通過する間に散乱する。このプロセスの間、イオンは、横方向の散乱と同様に、形状および材料の選択によるエネルギーの損失を経験し、その結果、エネルギーフィルタ25を出た後にイオンの特徴的なエネルギー角度分布が生じる。
【0025】
エネルギーフィルタ25が基板26に対して面平行に、そして基板から十分に大きな規定距離で配置されている、
図5Bによる静的セットアップでは、y-z平面内のイオンのエネルギー分布の所望の程度の横方向の均質化が実現され、したがってエネルギーフィルタ25の微細構造の基板26へのマッピングが、すなわち、数学的マッピング関数の意味において回避される。
図6Aは、エネルギーフィルタ25が基板26と接触し、エネルギーフィルタ25のドーピング深さプロファイル40へのマッピングが起こるようになっている配置を示す。
図6Bにおいて「十分な」距離50を備えたエネルギーフィルタ25および基板26の配置が示されており、ドーピング深さプロファイル40が、イオンビーム10のイオンビーム方向に垂直な平面内で基板26へ横方向(y-z平面)に均質に注入されるようになっている。
【0026】
図7Aから
図7Cは、1000μm×1000μmのフィルタ寸法でシミュレートされた1-D(z-y統合)ドーピング深さプロファイル40ならびに基板26のx-y平面内の2-Dプロファイルを示す。
図7Aから
図7Cにおける上部プロットはy-x平面内のドーピング濃度の二次元分布を示す。
図7Aから
図7Cにおける対応する下部の表現は、それぞれの場合についてのy軸とz軸の両方に沿った積分の合計を示す。
【0027】
次のセクションにおいて、
図5Bのこの照射配置を一例としてより詳細に考察する。特に、結果として生じるエネルギースペクトルの注入配置(フィルタと基板の距離)の設計に対する依存性を、基板26内の場所の関数としての注入イオン濃度に基づいて明らかにすべきである。
【0028】
初期状況:エネルギーフィルタ25のフィルタ寸法は、y≒1000μm、z≒1000μmであり、複数のユニットセル(完全な三角形構造)が並べて配置され、ユニットセル寸法はx=16μm、y≒11μm、zにおいて並進対称である。注入イオンはアルミニウム、一次エネルギーは12MeV、フィルタ材料は基板材料に等しく、シリコンに等しい。
【0029】
図7Aは、20μm離間させたエネルギーフィルタ25と基板26を示す。
図7Aにおいて、エネルギーフィルタ25と基板26は互いからfs=20μmの距離にある。基板26のx-y平面内の2-Dマップはエネルギーフィルタ25の微細構造の基板26へのマッピングを示す。シングルセルの隣り合うものからのイオンの横方向の散乱は、
図6Aに示すように、基板26内のドーピングのy軸に沿った所望の程度の横方向の均質化を達成するのに十分ではない。
【0030】
図7Bは、500μm離間させたエネルギーフィルタ25と基板26を示す。
図7Bにおいて、エネルギーフィルタ25と基板26は互いからfs=500μmの距離50にある。エネルギーフィルタ25の微細構造の基板26への転写は見られない。隣り合うシングルセルからのイオンの横方向の散乱は、基板26内のドーピングの所望の程度の横方向の均質化を達成するのに十分である。フィルタと基板の間隔はこの場合、正しく選択された。
【0031】
図7Cは、互いから3000μmの距離にあるエネルギーフィルタ25と基板26を示す。
図7Cによれば、エネルギーフィルタ25と基板26との間の距離がさらに増加すると、y-z平面内のイオンのエネルギー分布の不均質化が起こり、その結果、y軸に沿って合計された深さドーピングの深さプロファイルに勾配が生じる。イオンのエネルギースペクトルのこの不均質化は、エネルギーフィルタ25と基板26との間の大きな距離、ならびにイオン源およびエネルギーフィルタ25の寸法に起因する。散乱角が大きい散乱イオンの散乱角と大きなフィルタと基板の距離の両方の結果、強く散乱したイオンの複数がもはや基板25に当たらず、基板25を過ぎて散乱することになる。このように散乱するイオンはもはや基板25に当たらず、したがって「失われる」。
【0032】
実際のエネルギーフィルタ照射において、
図7Bに示す状況に類似するイオンの横方向に均質な濃度およびエネルギー分布を達成することが1つの態様である。ドーピング深さプロファイルの所望の程度の横方向の均質化ならびに完全な特徴的エネルギースペクトルの保存は実際には動的注入によって実現される。ここで、微細構造マッピングは、距離から独立して、基板26からエネルギーフィルタ25への相対移動によって回避される。さらに、実際には、ウェハ基板26の縁部でのイオンの損失は、基板26の縁部を越えてフィルタイオンビームをオーバースキャンすることによって回避される。
【0033】
エネルギーフィルタイオン注入のシミュレーションでは、静的配置が想定される。所望の程度の横方向の均質化を達成するとともに粒子の損失を回避するため、境界条件は、シミュレートされたエネルギーフィルタの結果として生じるエネルギースペクトルがウェハ上の空間座標y-zから独立していなければならないということである。換言すれば、ユニットセルの完全なエネルギー角度スペクトルは、ウェハ上の任意のy-z位置上で見つけねばならない。
【0034】
イオン注入は、多数の個別の事象で「構成される」プロセスである。統計的散乱プロセスにより基板内に典型的な分布を形成するため、多数のシングルイオン(通常1×1012cm-2~1×1015cm-2)が必要である。モンテカルロ技術の使用がしたがってイオン注入の分野で広く普及している。
【0035】
したがって、シミュレーション方法が、開発プロセスをサポートまたは短縮すること、またはプロセスおよび製品の正確な設計および寸法決めを容易にすることができる。十分な統計で時間およびコストの観点から合理的なシミュレーションを実行することを可能にするため、異なるサイズ比を考慮に入れて精度を損なうことなくシミュレーションのための複雑さおよび計算の労力をこのように大幅に削減する方法をしたがって使用せねばならない。
【0036】
半導体技術におけるイオン注入プロセスシミュレーションのための関心のあるシミュレーション領域の典型的な寸法は、数マイクロメートルから数ミリメートルまたはさらにはセンチメートルまでのサイズ範囲でイオンビームに垂直であり、そして数マイクロメートルから100マイクロメートルまでの範囲でイオンビームに対して平行(深さプロファイル)である。すべての方向における典型的な分解能要件は少なくとも5または10ナノメートルである。要求される空間分解能を達成するため、これらの領域をナノメートル範囲の細かいグリッドに細分化し、対応する多数の事象でシミュレートして関連する特性を高い事象密度で分解せねばならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【文献】欧州特許第0014516号明細書
【文献】独国特許第102016106119号明細書
【文献】独国特許出願第102019120623.5号
【非特許文献】
【0038】
【文献】CSATO CONSTANTIN et al., “Energy filter for tailoring depth profiles in semiconductor doping application”, NUCLEAR INSTRUMENTS & METHODS IN PHYSICS RESEARCH. SECTION B: BEAM INTERACTIONS WITH MATERIALS AND ATOMS, vol. 365, pages 182-186, XP029313812, ISSN: 0168-583X, DOI: 10.1016/J.NIMB.2015.07.102
【文献】BORSCHEL C et al., “Ion beam irradiation of nanostructures A 3D Monte Carlo simulation code”, NUCLEAR INSTRUMENTS & METHODS IN PHYSICS RESEARCH. SECTION B: BEAM INTERACTIONS WITH MATERIALS AND ATOMS, vol. 269, no. 19, pages 2133-2138, XP028266956, ISSN: 0168-583X, DOI: 10.1016/J.NIMB.2011.07.004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
本発明の目的は、いわゆる「モンテカルロ」アルゴリズムによってエネルギーフィルタイオンビームのドーピング深さプロファイルのシミュレーションを可能にする方法を提供することである。特に、基板内での実際の物理プロセスおよびその効果を可能な限り正確にアーチファクトなしで再現することを可能にするため、EFIIプロセスのような複雑なイオン注入プロセスを、モンテカルロ法を使用して効率的にシミュレートする方法を提供することである。
【0040】
モンテカルロシミュレーション環境でイオン注入配置を実装することによって、このようなアレイの複雑な構造は関連する構造の実装のための高い作業負荷を示唆する。一般に、フィルタと基板の間隔と比較して微視的フィルタ構造の寸法が広く変動する結果、たとえば、
図8に示す、総シミュレーションボリュームS
Vの「関心のある」シミュレーション領域gに対する比率が低くなる。シミュレーション領域の高いグリッドおよび事象密度に対する要求により、総シミュレーションボリュームS
V内のシミュレーション事象の総数が増え、これらは、コスト集約型コンピューティング技術および長いシミュレーション期間でシミュレートすることができるのみである。
【0041】
本発明の目的は、エネルギーフィルタイオン注入のシミュレーションを、半導体電子デバイスの技術シミュレーション(TCAD)のためのツールランドスケープに組み込むためのコンピュータ実装方法を提供することである。
【0042】
本発明の目的は、エネルギーフィルタ注入プロセスのモンテカルロシミュレーションの効率を大きく改善する、すなわち、モデルの実装のための労力を軽減し、コンピュータシミュレーションの複雑さを軽減し、そして最終的には計算時間を短縮またはコンピュータハードウェアの性能に対する要件を軽減するコンピュータ実装方法を提供することである。幾何学的シミュレーションモデルに関して、本発明は総シミュレーションボリュームSVのシミュレーション領域gに対する比率を改善する。本発明により、シミュレーション領域g内の高い事象密度を維持しながらシミュレーション事象の数を削減することが可能になる。結果として、シミュレーション時間を節約することができる。
【0043】
したがって、エネルギーフィルタイオン注入をシミュレートするためのコンピュータ実装方法を改善する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0044】
本発明の第1の態様によればエネルギーフィルタイオン注入のシミュレーションのためのコンピュータ実装方法が提供され、この方法は、エネルギーフィルタの少なくとも一部を決定するステップと、基板内のシミュレーション領域を決定するステップと、イオンビーム源のイオンを受け取るためのイオントンネルを定めるステップと、エネルギーフィルタの決定された少なくとも一部、イオンビーム源、基板内の決定されたシミュレーション領域、決定されたイオントンネルをシミュレーション環境において実装するステップと、基板のドーピング深さプロファイルにおけるエネルギー分布の所望の程度の横方向の均質化を可能にするためにエネルギーフィルタの実装された少なくとも一部と実装された基板との間の最小距離を決定するステップと、総シミュレーションボリュームSVを定めるステップと、を含む。したがって、イオントンネルを定めることによるシミュレータ内のフィルタモデルの幾何学的寸法が最小化され、したがって基板内の総シミュレーションボリュームのシミュレーション領域に対する比率が最適化される。所望の程度の横方向の均質化は、zまたはy方向に沿って、すなわち基板表面に沿ってイオンビームに平行なプロファイルの平均偏差が10%または5%または3%未満であることである。エネルギーフィルタの近似された幾何学的寸法を実装するステップは、エネルギーフィルタの分析的数学的記述を使用すること、または/およびメッシュ記述を使用することを含む。本発明の利点は、総シミュレーションボリュームSVのシミュレーション領域gに対する比率が改善されることから生じ、これにより、シミュレーション領域gの同じ事象密度を維持しながら、従来のモデルと比較して、シミュレーション事象の削減が可能になる。これは、シミュレーション時間、ハードウェア、リソースおよびエネルギー消費に肯定的な効果をもたらす。
【0045】
この方法の一態様において、エネルギーフィルタのフィルタユニットセルの少なくとも一部がエネルギーフィルタの少なくとも一部として定められる。フィルタユニットセルは、特定のエネルギーフィルタのエネルギーおよび角度スペクトル全体を表すエネルギーフィルタの一部として定められる。複数のユニットセルを追加して実際のエネルギーフィルタを形成することができる。
【0046】
この方法の一態様において、シミュレーション環境はモンテカルロシミュレーション環境である。
【0047】
この方法の一態様において、イオントンネルのz-y平面内の寸法は、定められた総シミュレーション領域の第1の縁部に到達したイオンが、定められた総シミュレーション領域の他方の縁部で再導入されるように定められる。
【0048】
この方法の別の一態様において、イオントンネルは、定められた総シミュレーション領域の第1の縁部からのイオンが、定められた総シミュレーション領域の反対側の縁部にy-z平面内で移動するように定められる。
【0049】
この方法の別の一態様において、エネルギーフィルタの少なくとも一部は、エネルギーフィルタの少なくとも一部がフィルタユニットセルの少なくとも半分であるように定められる。
【0050】
この方法の一態様において、イオントンネルは、決定されたシミュレーション領域と少なくとも同じ寸法をイオントンネルが有さねばならないように定められる。
【0051】
この方法の別の一態様において、イオントンネルは、フィルタユニットセルまたはフィルタユニットセルの倍数と少なくとも同じ寸法をトンネルが有さねばならないように定められる。
【0052】
この方法の一態様において、基板内のシミュレーション領域の要求される寸法がシミュレーションタスクによって決定される。
【0053】
この方法の一態様において、基板内のシミュレーション領域の要求される寸法は基板上のマスキング構造の寸法によって決定される。
【0054】
この方法の一態様において、この方法は、三角形状、角錐形状、逆角錐形状、または自由形状のエネルギーフィルタおよび/または支持構造の近似された幾何学的寸法を実装するステップをさらに含む。
【0055】
この方法の一態様において、この方法は、異なる形状、異なる材料組成または異なる層構造の複数の基本要素で構成されるフィルタユニットセルの近似された幾何学的寸法を実装するステップをさらに含む。
【0056】
この方法の一態様において、この方法は、エネルギーフィルタを傾けるステップをさらに含む。
【0057】
この方法の一態様において、この方法は、イオントンネル内のミラーによってイオンビームに垂直な軸を中心にイオンビームを鏡映させるステップをさらに含む。
【0058】
この方法の一態様において、この方法は、一次イオンの異なる一次エネルギー、イオンタイプまたは入射角での複数のシミュレーションを重ね合わせるステップをさらに含む。
【0059】
本発明を次に図面に基づいて説明する。図面に記載された態様および本発明の態様は単なる例であり、請求項の保護範囲を決して制限するものではないことが理解されるであろう。本発明は請求項およびその均等物によって定められる。本発明の一態様または複数の態様の特徴を本発明の他の態様の異なる一態様または複数の態様の特徴と組み合わせることができるということが理解されるであろう。本発明は、添付の図面を考慮して開示の一部として複数の例の次の詳細な説明を読むと、より明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】先行技術において知られているようなエネルギーフィルタを備えたイオン注入装置の原理を示す図である。
【
図2A】エネルギーフィルタを備えたイオン注入装置の構造を示す図である。
【
図2B】可動基板を備えた、ウェハ処理を目的としたイオン注入のためのシステムにおけるエネルギーフィルタの典型的な設置を示す図である。
【
図3A】ウェハ処理を目的としたイオン注入のためのシステムにおけるエネルギーフィルタの典型的な設置を示す図である。
【
図3B】ウェハ処理を目的としたイオン注入のためのシステムにおけるエネルギーフィルタの典型的な設置を示す図である。
【
図4A】エネルギーフィルタを使用して多数のドーピング深さプロファイルを生成する主な可能性を示すフィルタの三次元構造を示す図である。
【
図4B】エネルギーフィルタを使用して多数のドーピング深さプロファイルを生成する主な可能性を示すフィルタの三次元構造を示す図である。
【
図4C】エネルギーフィルタを使用して多数のドーピング深さプロファイルを生成する主な可能性を示すフィルタの三次元構造を示す図である。
【
図4D】エネルギーフィルタを使用して多数のドーピング深さプロファイルを生成する主な可能性を示すフィルタの三次元構造を示す図である。
【
図5A】フィルタ構造のユニットセルの概略図である。
【
図5B】エネルギーフィルタ、イオン源および基板の静的照射状況のy-z平面における
図5Aの断面図である。
【
図6A】エネルギーフィルタが基板と接触するような配置を示す図である。
【
図6B】エネルギーフィルタと基板に「十分な」距離がある配置を示す図である。
【
図7】
図7Aは、20μm離間させたフィルタと基板を示す図である。
図7Bは、500μm離間させたフィルタと基板を示す図である。
図7Cは、3000μm離間させたフィルタと基板を示す図である。
【
図8】イオントンネルの実装によって総シミュレーションボリュームS
Vを削減する本発明の一態様による静的シミュレーションモデルの概略図であり、イオントンネルの両縁でのイオンはy-z平面内でx軸の中心に対して鏡映している。
【
図9】本発明による方法のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図8は、イオントンネル70の実装によって総シミュレーションボリュームS
Vを削減するシミュレーションモデル内のドーピング深さプロファイル40をシミュレートするための本発明の一態様による静的コンピュータシミュレーションモデルの概略図を示し、イオントンネル70の両縁でのイオン10はy-z平面内でx軸の中心に対して鏡映している。
【0062】
ドーパント深さプロファイル40をシミュレートするタスクは2つのサブタスクを含み、第1のサブタスクは、イオン10がエネルギーフィルタ25を通過した後にエネルギーおよび角度分布を計算することであり、第2のサブタスクは、この計算されたエネルギーおよび角度分布で基板26に作用するイオン10の効果を決定することである。
【0063】
図8に見られるように、コンピュータシミュレーションモデルは、イオントンネル70を使用することによって簡略化される。本発明による方法は、たとえば、モンテカルロ環境においてエネルギーフィルタイオン注入(EFII)プロセスを実装するために提供される。
【0064】
図8に見られるように、エネルギーフィルタ25、イオン源5および基板26のより狭い幅が、たとえば、6インチ(15.54cm)のウェハの照射のため、フィルタ幅全体ではなく総シミュレーションS
vボリューム(
図8における点線を参照)として定められる。正しいシミュレーション結果を得るため、シミュレーション領域gの(たとえば、右)縁部に到達したイオン10が左側で再導入される。このイオントンネル70において、これらのイオン10はしたがってイオントンネル70の一方の縁部からy-z平面内でイオントンネル70の反対側の縁部まで移動する。
図8に見られるように、エネルギーフィルタ25と基板26との間の距離(fs)50は、距離50が用途に応じて記載された要件を満たすように選択せねばならない。これらの要件はほとんどの用途で所望の程度の横方向の均質化、すなわち、10%未満、5%未満、3%未満である。しかしながら、ドーパントまたは注入欠陥またはエネルギー堆積の場所依存の深さプロファイルが所望される、またはドーパントまたは注入欠陥またはエネルギー堆積のy-z位置依存の深さプロファイルが所望される用途がある。これは、完全な構造転写(接触している、
図6Aを参照)から任意の中間ステップを経て完全な均質化、
図6B参照、に至ることができる。EFIIプロセスに関して、この距離50は、エネルギー分布の所望の程度の横方向の均質化につながる最小距離である。所望の程度の横方向の均質化は、zまたはy方向に沿って、すなわち、基板表面にわたってイオンビームに平行なプロファイルの平均偏差が10%または5%または3%未満であることである。
【0065】
図8に見られるように、ミラー80によるイオントンネル70内のイオン10の鏡映により、基板26内のイオントンネル70の端部でのエネルギーフィルタ25の特徴的エネルギースペクトルの、イオントンネル70の外側の大きな散乱角を持つ散乱イオン10の損失がない。総シミュレーションボリュームS
V(点線参照)は、シミュレーション領域g(破線参照)の必要な寸法から、ならびに、フィルタユニットセル30の少なくとも半分に対応する、エネルギーフィルタ25の寸法から生じる。フィルタユニットセル30は、特定のエネルギーフィルタ25のエネルギーおよび角度スペクトル全体を表すエネルギーフィルタ25の一部として定められる。ユニットセル30の複数のものを追加して実際のエネルギーフィルタ25を形成することになる。イオントンネル70は少なくともシミュレーション領域gの寸法を有さねばならず、または少なくとも1つ(または半分)のフィルタユニットセル30の幅を有さねばならない。さらに、イオントンネル70はまた常に最小フィルタユニットセル30の整数倍で構成せねばならない。基板26上のシミュレーション領域gの要求される寸法は、たとえば、基板26上のマスキング構造への注入の場合において、シミュレートされる用途から生じる。マスキング構造の寸法はしたがってシミュレーション領域gの範囲を定めることになる。
【0066】
一例では一次エネルギーとして12MeV、距離50(fs)=500μm、共通フィルタユニットセル30の寸法が約5~50μm、およびシミュレーション領域g=2μmの注入パラメータを使用し、総シミュレーションボリュームSVのシミュレーション領域gに対する比率はg/SV≒10~4%であり、gはシミュレーション領域でSVは総シミュレーションボリュームである。
【0067】
本シミュレーションが三角形状のフィルタユニットセル30に限定されないことが理解されるであろう。むしろ、角錐、逆角錐、またはより一般的には自由形態の構造または支持構造も、本書のコンピュータ実装方法200を使用してシミュレートすることができる。方法200を使用してより複雑なエネルギーフィルタ25もシミュレートすることができるということが留意されるべきである。たとえば、異なる形状、異なる材料組成または異なる層構造の複数の基本要素でフィルタユニットセル30を構成することができる。エネルギーフィルタ25を傾けること、またはイオンビーム10に垂直な軸を中心に鏡映させることも可能である。さらに、たとえば、一次イオンの異なる一次エネルギー、イオンタイプまたは入射角での複数のシミュレーションの重ね合わせも考えられる。
【0068】
図9は、本説明によるコンピュータ実装方法200のフローチャートを示す。エネルギーフィルタイオン注入(EFII)のシミュレーションのためのコンピュータ実装方法200は、エネルギーフィルタ25の少なくとも一部をシミュレーションモデルのための入力パラメータとして決定するステップ201を含む。エネルギーフィルタ25の少なくとも一部は少なくとも1つのフィルタユニットセル30とすることができ、これは、特定のエネルギーフィルタ25のエネルギーおよび角度スペクトル全体を表すエネルギーフィルタ25の一部として定められる。フィルタユニットセル30の複数のものを追加して実際のエネルギーフィルタ25を形成することができる。したがって、エネルギーフィルタ25の少なくとも一部の近似された幾何学的寸法がステップ201で決定される。たとえば、エネルギーフィルタ25のフィルタユニットセル30の近似された幾何学的寸法をシミュレーション環境においてステップ201において実装する。しかしながら、本発明はこれに限定されず、エネルギーフィルタ25の複数のフィルタユニットセル30の近似された幾何学的寸法をステップ201において実装することができる。
【0069】
さらに、方法200は、基板26内のシミュレーション領域gをシミュレーションモデルのためのさらなる入力パラメータとして決定するステップ202を含む。たとえば、基板26内のシミュレーション領域gはレイアウトされた構造である。さらに、方法200は、イオンビーム源5のイオン10を受け取るためのイオントンネル70を定めるステップ203を含む。定めるステップ203は、イオンビーム源5からイオン10を受け取るためにz-y平面内にイオントンネル70が定められるステップを含む。したがって、イオントンネル70の幅が定められ、エネルギーフィルタ25およびイオントンネル70が実装される。イオントンネル70は、用途による定義、たとえば、特定のレイアウト構造(すなわちシミュレーション領域g)、フィルタユニットセル30の最小範囲によって定められ、少なくとも角度およびエネルギースペクトル全体が放射されるようになっている。
【0070】
z-y平面内のイオントンネル70の領域はフィルタユニットセル30の整数倍に分解可能でなければならない。したがって、方法200は、エネルギーフィルタ25の決定された少なくとも一部分、イオンビーム源5、基板26内の決定されたシミュレーション領域g、および定められたイオントンネル70をシミュレーション環境において実装するステップ204を含む。実装ステップ204では、エネルギーフィルタ25、イオンビーム源5、基板26、シミュレーション領域g、およびイオントンネル70の近似された幾何学的寸法をシミュレーション環境において実装する。シミュレーションモデルのための入力パラメータがこれによって定められて実装される。シミュレーションモデルのための入力パラメータを定めて実装した後、方法200は、基板26のドーピング深さプロファイルにおけるエネルギー分布の所望の程度の横方向の均質化を可能にするためにエネルギーフィルタ25と基板26との間の最小距離50を決定するステップ205を含む。エネルギーフィルタ25と基板26との間の最小距離50は、実験、回帰シミュレーション(複数の距離を試す)、または数学的計算の少なくとも1つによって決定される。
【0071】
最小距離50の決定ステップ205では、たとえば、最小フィルタユニットセル30、すなわち、完全なエネルギーおよび角度スペクトルを表すエネルギーフィルタ25の最小部分がシミュレータに実装されて角度分布をシミュレートする。最小距離50の決定ステップ205では、別の一例において、複数のフィルタユニットセル30がシミュレータに実装されて第1の推定距離でシミュレートする。次いで所望の程度の横方向の均質化に関して結果が分析され、均質化基準が満たされる(たとえば、プロファイル間の平均偏差が5%未満になる)まで距離が繰り返し変更される。あるいは、最小距離50の決定ステップ205では、たとえば、実験からのデータまたはデータベースを使用することができる。方法200は、ステップ201、202、203、204および205の特定の順序/連続に限定されない。
【0072】
方法200は、総シミュレーションボリュームSVを定めるステップ206をさらに含む。定めるステップ206は、エネルギーフィルタ(25)のより狭い幅、イオンビーム源(5)のより狭い幅、および基板(26)のより狭い幅を定めることによって、総シミュレーションボリュームSVを定めることを含む。したがって、方法200は、最初に最小エネルギーフィルタサイズ(たとえばフィルタユニットセル30)がステップ201で決定され、同時にシミュレーション領域gがステップ202で決定されるように実行される。これから、入力パラメータの実装後、イオントンネル70のサイズがステップ204で定められる。ステップ201、202、203および204から独立して、最小距離50がステップ205で決定される。次いで最小エネルギーフィルタサイズ、シミュレーション領域g、イオントンネル70、および最小距離50が併合される結果、エネルギーフィルタイオン注入(EFII)のシミュレーションが生じる。イオントンネル70を定めることによってシミュレータ内のフィルタモデルの幾何学的寸法が最小化され、したがって基板26内の総シミュレーションボリュームSVのシミュレーション領域gに対する比率が最適化される。
【0073】
所望の程度の横方向の均質化は、zまたはy方向に沿って、すなわち、基板26の基板表面にわたってイオンビーム10に平行なプロファイルの平均偏差が10%または5%または3%未満であることである。本発明の利点は、総シミュレーションボリュームSVのシミュレーション領域gに対する比率が改善されることから生じ、これにより、シミュレーション領域gの同じ事象密度を維持しながら、従来のモデルと比較して、シミュレーション事象の削減が可能になる。これは、シミュレーション時間、ハードウェア、リソースおよびエネルギー消費に肯定的な効果をもたらす。方法200は、シミュレーションを実行するステップ207をさらに含む。
【0074】
シミュレーション環境はたとえばモンテカルロシミュレーション環境とすることができる。イオントンネル70は、決定された総シミュレーションボリュームSVの第1の縁部に到達したイオン10が決定された総シミュレーションボリュームSVの他方の縁部で再導入されるように定められる。イオントンネル70は、決定された総シミュレーションボリュームSVの第1の縁部からのイオン10が決定された総シミュレーションボリュームSVの反対側の縁部までy-z平面内で移動するように定められる。エネルギーフィルタ25のより狭い幅は、エネルギーフィルタ25のより狭い幅がフィルタユニットセル30の少なくとも半分であるように定められる。イオントンネル70は、決定されたシミュレーション領域gと少なくとも同じ寸法をイオントンネル70が有さねばならないように定められる。基板26内の方法200のシミュレーション領域gの要求される寸法はシミュレーションタスクによって決定される。基板26内のシミュレーション領域gの要求される寸法は、たとえば、基板26上のマスキング構造26aの寸法によって決定される。
【0075】
方法200は、三角形状、角錐形状、逆角錐形状、または自由形状のエネルギーフィルタ25の近似された幾何学的寸法を実装するステップをさらに含む。エネルギーフィルタの近似された幾何学的寸法を実装するステップは、エネルギーフィルタの分析的数学的記述を使用すること、または/およびメッシュ記述を使用することを含む。方法200は、異なる形状、異なる材料組成または異なる層構造の複数の基本要素で構成されるフィルタユニットセル30の近似された幾何学的寸法を実装するステップをさらに含む。方法200は、イオンビーム10に対してエネルギーフィルタ25を傾けるステップをさらに含む。方法200は、イオントンネル70内のミラー80によってイオンビーム10に垂直な軸を中心にイオンビーム10を鏡映させるステップをさらに含む。
【0076】
方法200は、一次イオンの異なる一次エネルギー、イオンタイプまたは入射角での複数のシミュレーションを重ね合わせるステップをさらに含む。
【符号の説明】
【0077】
5 イオンビーム源
10 イオンビーム
20 イオン実装装置
21 シリコン層
22 二酸化シリコン層
23 バルクシリコン
24 ウェハホイール
25 エネルギーフィルタ
26 基板
30 フィルタユニットセル
40 ドーピング深さプロファイル
50 (fs)距離
60 複合フィルタ
70 イオントンネル
80 ミラー
100 イオン注入システム
200 コンピュータ実装方法
【図 】