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特許7706056ドレッシング方法、ドレッシング装置および砥石
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-03
(45)【発行日】2025-07-11
(54)【発明の名称】ドレッシング方法、ドレッシング装置および砥石
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/00 20060101AFI20250704BHJP
   B24B 33/08 20060101ALI20250704BHJP
【FI】
B24B53/00 D
B24B33/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024079919
(22)【出願日】2024-05-16
【審査請求日】2024-11-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390003665
【氏名又は名称】株式会社日進製作所グループ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】上山 吉崇
(72)【発明者】
【氏名】冨田 康夫
(72)【発明者】
【氏名】金森 真悟
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-160251(JP,A)
【文献】特開2008-290083(JP,A)
【文献】特開平09-285962(JP,A)
【文献】特開2002-364455(JP,A)
【文献】特開平11-285971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/00
B24B 33/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒を結合剤で結合してなる砥石を、前記砥石の研削面が露出した状態で保持し、レーザ光を、前記研削面に照射して前記結合剤を溶融および蒸発させることで、前記砥粒の突き出し量を調整するドレッシング方法であって、
前記レーザ光を、前記研削面における前記レーザ光が照射される照射領域の面積が少なくとも前記研削面の面積よりも小さくなるように集光して前記研削面に照射しつつ、前記研削面における前記照射領域を移動させながら、前記レーザ光の強度を変化させることで、前記研削面に前記突き出し量の平均値が異なる複数の領域を形成する、
ドレッシング方法。
【請求項2】
砥粒を結合剤で結合してなる砥石を、前記砥石の研削面が露出した状態で保持し、レーザ光を、前記研削面に照射して前記結合剤を溶融および蒸発させることで、前記砥粒の突き出し量を調整するドレッシング方法であって、
前記研削面における前記レーザ光の照射領域と、前記レーザ光の強度と、の少なくとも一方を変化させることで、前記研削面に前記突き出し量の平均値が異なる複数の領域を形成する、
ドレッシング方法。
【請求項3】
前記砥石は、平面視長尺の研削面を有し、ワークの加工孔の内面をホーニング加工する長尺のホーニングツールの先端部に、前記研削面の長手方向が前記ホーニングツールの長手方向に沿うように装着され、前記研削面が前記加工孔の内面に当接した状態で前記ホーニングツールを前記ホーニングツールの長手方向に沿って中心軸を中心として回転させることで、前記研削面の短手方向に摺動して前記加工孔の内面を研削し、
前記複数の領域は、前記研削面における短手方向と交差する方向へ延在する第1領域と、前記研削面における前記第1領域以外の第2領域と、から構成され、
前記第1領域における前記突き出し量の平均値は、前記第2領域における前記突き出し量の平均値に比べて大きい、
請求項1または2に記載のドレッシング方法。
【請求項4】
前記砥石は、平面視長尺の研削面を有し、ワークの加工孔の内面をホーニング加工する長尺のホーニングツールの先端部に、前記研削面の長手方向が前記ホーニングツールの長手方向に沿うように装着され、前記研削面が前記加工孔の内面に当接した状態で前記ホーニングツールを前記ホーニングツールの長手方向に沿って中心軸を中心として回転させることで、前記研削面の短手方向に摺動して前記加工孔の内面を研削し、
前記複数の領域は、前記研削面における短手方向における一端全体を含み且つ前記研削面の長手方向全体に亘って延在する第1領域と、前記研削面における前記第1領域以外の第2領域と、から構成され、
前記第1領域における前記突き出し量の平均値は、前記第2領域における前記突き出し量の平均値に比べて大きい、
請求項1または2に記載のドレッシング方法。
【請求項5】
砥粒を結合剤で結合してなる砥石を、前記砥石の研削面が露出した状態で保持する砥石保持部と、
レーザ光を、前記研削面における前記レーザ光が照射される照射領域の面積が少なくとも前記研削面の面積よりも小さくなるように集光して前記研削面に照射するレーザヘッドと、
前記レーザヘッドの姿勢を変更して前記レーザ光の放射方向を変更することにより、前記研削面における前記照射領域を移動させるヘッド姿勢変更部と、
前記ヘッド姿勢変更部を制御して、前記研削面における前記照射領域を移動させるとともに、前記レーザヘッドを制御して前記レーザ光の強度を変化させることで、前記研削面に前記砥粒の突き出し量の平均値が異なる複数の領域を形成する制御部と、を備える、
ドレッシング装置。
【請求項6】
砥粒を結合剤で結合してなる砥石を、前記砥石の研削面が露出した状態で保持する砥石保持部と、
レーザ光を前記研削面に照射するレーザヘッドと、
前記レーザヘッドの姿勢を変更して前記レーザ光の放射方向を変更することにより、前記研削面における前記レーザ光の照射領域を変化させるヘッド姿勢変更部と、
前記ヘッド姿勢変更部を制御して、前記研削面における前記照射領域を変化させることと、前記レーザヘッドを制御して前記レーザ光の強度を変化させることと、の少なくとも一方を行うことで、前記研削面に前記砥粒の突き出し量の平均値が異なる複数の領域を形成する制御部と、を備える、
ドレッシング装置。
【請求項7】
砥粒を結合剤で結合してなり、平面視長尺の研削面を有し、ワークの加工孔の内面をホーニング加工する長尺のホーニングツールの先端部に、前記研削面の長手方向が前記ホーニングツールの長手方向に沿うように装着され、前記研削面が前記加工孔の内面に当接した状態で前記ホーニングツールを前記ホーニングツールの長手方向に沿って中心軸を中心として回転させることで、前記研削面の短手方向に摺動して前記加工孔の内面を研削する砥石であって、
前記研削面における短手方向と交差する方向へ延在する第1領域における前記砥粒の突き出し量の平均値は、前記研削面における前記第1領域以外の第2領域における前記突き出し量の平均値に比べて大きい、
砥石。
【請求項8】
砥粒を結合剤で結合してなり、平面視長尺の研削面を有し、ワークの加工孔の内面をホーニング加工する長尺のホーニングツールの先端部に、前記研削面の長手方向が前記ホーニングツールの長手方向に沿うように装着され、前記研削面が前記加工孔の内面に当接した状態で前記ホーニングツールを前記ホーニングツールの長手方向に沿って中心軸を中心として回転させることで、前記研削面の短手方向に摺動して前記加工孔の内面を研削する砥石であって、
前記研削面における短手方向における一端全体を含み且つ前記研削面の長手方向全体に亘って延在する第1領域における前記砥粒の突き出し量の平均値は、前記研削面における前記第1領域以外の第2領域における前記突き出し量の平均値に比べて大きい、
砥石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドレッシング方法、ドレッシング装置および砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
ドレッシングもしくはツルーイングが必要な砥石の研削面もしくは補助研削面の結合剤を溶融、蒸発させ、砥粒突きだし量、砥石輪郭を制御する砥石の非接触ドレッシング・ツルーイング法が提案されている(例えば特許文献1参照)。この砥石の非接触ドレッシング・ツルーイング法では、砥石の砥石研削面もしくは補助研削面にレーザ発振器からレーザ照射して砥石の研削面もしくは補助研削面の結合剤を溶融、蒸発させることで、砥粒突き出し量、砥石輪郭を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-285971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、砥石のドレッシング・ツルーイングにおいては、砥石の用途に応じて砥石の研削性能をきめ細かく調整することが要請される場合がある。この場合、特許文献1に記載されている砥石の非接触ドレッシング・ツルーイング法では、要請される砥石の研削性能が出るように砥粒突き出し量を十分に制御することができない虞がある。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、砥石の研削性能を細かく調整することができるドレッシング方法、ドレッシング装置および砥石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るドレッシング方法は、
砥粒を結合剤で結合してなる砥石を、前記砥石の研削面が露出した状態で保持し、レーザ光を、前記研削面に照射して前記結合剤を溶融および蒸発させることで、前記砥粒の突き出し量を調整するドレッシング方法であって、
前記レーザ光を、前記研削面における前記レーザ光が照射される照射領域の面積が少なくとも前記研削面の面積よりも小さくなるように集光して前記研削面に照射しつつ、前記研削面における前記照射領域を移動させながら、前記レーザ光の強度を変化させることで、前記研削面に前記突き出し量の平均値が異なる複数の領域を形成する
【0007】
他の観点から見た本発明に係るドレッシング装置は、
砥粒を結合剤で結合してなる砥石を、前記砥石の研削面が露出した状態で保持する砥石保持部と、
レーザ光を、前記研削面における前記レーザ光が照射される照射領域の面積が少なくとも前記研削面の面積よりも小さくなるように集光して前記研削面に照射するレーザヘッドと、
前記レーザヘッドの姿勢を変更して前記レーザ光の放射方向を変更することにより、前記研削面における前記照射領域を移動させるヘッド姿勢変更部と、
前記ヘッド姿勢変更部を制御して、前記研削面における前記照射領域を移動させるとともに、前記レーザヘッドを制御して前記レーザ光の強度を変化させることで、前記研削面に前記砥粒の突き出し量の平均値が異なる複数の領域を形成する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、砥石の研削面におけるレーザ光の照射領域を移動させながら、レーザ光の強度を変化させることで、研削面に突き出し量の平均値が異なる複数の領域を形成する。これにより、砥石の研削性能を細かく調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係るドレッシング装置の概略構成図である。
図2】(A)は実施の形態に係るドレッシング方法および比較例に係るドレッシング方法でドレッシングしたときの砥石表面の砥粒の突き出し量の平均値を示す図であり、(B)は比較例に係るドレッシング方法でドレッシングした砥石を用いてワークをホーニング加工したときの加工孔の内壁の表面粗さの推移を示す図であり、(C)は実施の形態に係るドレッシング方法でドレッシングした砥石を用いてワークをホーニング加工したときの加工孔の内壁の表面粗さの推移を示す図である。
図3】実施の形態に係るドレッシング方法および比較例に係るドレッシング方法でドレッシングしたときの砥粒の突き出しのばらつきの大きさを示す図である。
図4】(A)は実施の形態に係るドレッシング方法でドレッシングした砥石を用いてワークをホーニング加工する際に必要なトルクの推移を示す図であり、(B)は実施の形態に係るドレッシング方法でドレッシングした砥石を用いてワークをホーニング加工したときの加工孔の内壁の表面粗さの推移を示す図である。
図5】(A)実施の形態に係るドレッシング方法でドレッシングした砥石の一例を示す図であり、(B)は実施の形態に係るドレッシング方法でドレッシングした砥石の他の一例を示す図である。
図6】実施の形態に係るドレッシング方法でドレッシングした砥石を用いてワークをホーニング加工したときの加工孔の内壁の表面粗さの推移を示す図である。
図7】実施の形態に係るドレッシング方法でドレッシングした砥石を用いてワークをホーニング加工したときの加工孔の内壁の表面粗さの推移を示す図である。
図8】実施の形態に係るドレッシング方法を説明するための図であり、(A)は実施例2の場合、(B)は実施例3の場合を示す図である。
図9】変形例に係るドレッシング装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係るドレッシング方法について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態に係るドレッシング方法では、砥粒を結合剤で結合してなる砥石を、砥石の研削面が露出した状態で砥石を保持し、レーザ光を、研削面におけるレーザ光が照射される照射領域の面積が少なくとも研削面の面積よりも小さくなるように集光して研削面に照射しつつ、研削面における前述の照射領域を移動させることで、結合剤を溶融および蒸発させることで、砥粒の突き出し量を調整する。このドレッシング方法では、研削面における照射領域を移動させながら、レーザ光の強度を変化させることで、研削面に砥粒の突き出し量の平均値が異なる複数の領域を形成する。
【0011】
本実施の形態に係るドレッシング装置は、図1に示すように、砥石保持部11と、レーザヘッド12と、ヘッド姿勢変更部13と、制御部21と、端末装置22と、を備える。砥石保持部11は、砥石Gを、その研削面Gfが露出した状態で砥石Gを保持する。砥石Gは、メタルボンド砥石、セラミックボンド砥石等である。砥石Gは、複数の砥粒を結合剤で結合したものである。ここで、砥粒としては、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、単結晶立法晶窒化ホウ素、多結晶立法晶窒化ホウ素等を採用することができる。この砥石Gは、例えば平面視長尺の研削面Gfを有し、ワークの加工孔の内面をホーニング加工する長尺のホーニングツールの先端部に、研削面Gfの長手方向がホーニングツールの長手方向に沿うように装着され、研削面Gfがワークの加工孔の内面に当接した状態でホーニングツールをホーニングツールの長手方向に沿って中心軸を中心として回転されることで、研削面Gfの短手方向に摺動して加工孔の内面を研削する。
【0012】
レーザヘッド12は、そのレーザ光LA1の照射口が砥石保持部11に対向するように配置され、レーザ光LA1を、研削面Gfにおける照射領域の面積が少なくとも研削面Gfの面積よりも小さくなるように集光して研削面Gfに照射する。レーザヘッド12は、例えばYAGレーザ励起色素レーザ発振器、YAGレーザ発振器等を有する。
【0013】
ヘッド姿勢変更部13は、レーザヘッド12の姿勢を変更することによりレーザ光LA1の放射方向を変更する。ヘッド姿勢変更部13は、矢印AR1に示すように、レーザヘッド12の姿勢を変更することにより砥石保持部11に保持された砥石Gの研削面Gfにおけるレーザ光LA1が照射される照射領域を移動させる。
【0014】
制御部21は、例えばPLC(Programmable Logic Controller)を有し、利用者が端末装置22を介して設定した設定情報に基づいて、レーザヘッド12およびヘッド姿勢変更部13を制御する。制御部21は、ヘッド姿勢変更部13を制御して、砥石Gの研削面Gfにおけるレーザ光LA1の照射領域を移動させながら、レーザヘッド12を制御してレーザ光LA1の強度を変化させることで、砥石Gの研削面Gfに砥粒の突き出し量が異なる複数の領域を形成する。ここで、制御部21は、レーザ光LA1の強度と、砥粒の突き出し量と、の相関関係を示す相関情報を記憶する相関情報記憶部(図示せず)を有し、利用者が端末装置22を介して設定した砥粒の突き出し量の設定値を示す設定情報と、当該相関情報と、に基づいて、レーザヘッド12から砥石Gの研削面Gfへ照射されるレーザ光LA1の強度を決定する。そして、制御部21は、決定した強度のレーザ光LA1がレーザヘッド12から出力されるようにレーザヘッド12を制御する。
【0015】
ここで、本実施の形態に係るドレッシング方法の特徴について、比較例に係るドレッシング方法と比較しながら説明する。ここでは、砥石として、長尺の研削面を有する砥石の研削面をドレッシングする場合について説明する。比較例に係るドレッシング方法では、砥石の研削面に砥石の砥粒よりも細かい砥粒が砥石との接触面に埋設された円筒状のグラインダを回転させながら砥石の研削面に接触させつつ、研削面の長手方向に沿って摺動させることによりドレッシングを行う。比較例に係るドレッシング方法で4つの砥石の研削面をドレッシングした場合と、本実施の形態に係るドレッシング方法で4つの砥石の研削面をドレッシングしたときの研削面における砥粒の突き出し量の平均値Rzを比較した結果を図2(A)に示す。図2(A)に示すように、比較例に係るドレッシング方法の場合、4つの砥石の砥粒の突き出し量の平均値が12μmよりも大きくなり、突き出し量のばらつきも5μm程度となった。これに対して、本実施の形態に係るドレッシング方法の場合、4つの砥石の砥粒の突き出し量の平均値を10μm程度に抑えることができ、突き出し量のばらつきも1μm程度に抑えることができた。また、比較例に係るドレッシング方法によりドレッシングした4つの砥石それぞれを用いてワークのホーニング加工を行った場合、ワークの加工孔の内壁の表面粗さRzwは、図2(B)に示すように、2μm以上のばらつきが生じた。なお、図2(B)では、比較例に係るドレッシング方法によりドレッシングした4つの砥石それぞれを用いてホーニング加工を行った場合の結果を濃淡の度合が異なる丸印で示している。一方、本実施の形態に係るドレッシング方法によりドレッシングした4つの砥石それぞれを用いてワークのホーニング加工を行った場合、ワークの加工孔の内壁の表面粗さRzwは、図2(C)に示すように、1.5μm以下のばらつきとなった。なお、図2(C)では、本実施の形態に係るドレッシング方法によりドレッシングした4つの砥石それぞれを用いてホーニング加工を行った場合の結果を濃淡の度合または大きさが異なる菱形印と矩形印とで示している。更に、図3に示すように、比較例に係るドレッシング方法でドレッシングした砥石の研削面全体における突き出し量のばらつきRzvは、55μm程度であるのに対して、本実施の形態に係るドレッシング方法でドレッシングした砥石の研削面全体における突き出し量のばらつきRzvは、25μm程度であった。以上の結果から、本実施の形態に係るドレッシング方法を採用することで、比較例に係るドレッシング方法を採用した場合に比べて、砥石の突き出し量を小さくすることができ、且つ複数の砥石をドレッシングしたときの複数の砥石間での突き出し量のばらつきも低減できることが判る。また、砥石の研削面全体における砥粒の突き出し量のばらつきも低減できることが判る。
【0016】
ところで、砥石の研削力を向上させるために砥石の砥粒の突き出し量を大きくすると、その分、砥石が先端部に固定されたホーニングツールを回転させる際に必要なトルクが小さくなる。一方、砥石の砥粒の突き出し量を大きくすると、その分、当該砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さが大きくなる。例えば図4(A)に示すように、実施例Aに係る砥石が先端部に固定されたホーニングツールを回転させる際に必要なトルクは、実施例Aに比べて砥粒の突き出し量が小さい実施例Bに係る砥石が先端部に固定されたホーニングツールを回転させる際に必要なトルクに比べて小さくなる。一方、例えば図4(B)に示すように、実施例Aに係る砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さは、実施例Aに比べて砥粒の突き出し量が小さい実施例Bに係る砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さに比べて大きくなる。例えば砥石が先端部に固定されたホーニングツールを回転させる際に必要なトルクが過度に大きく当該ホーニングツールを備えるホーニング加工装置でトルクエラーが発生する場合、砥石の研削力を向上させるために砥石の砥粒の突き出し量を大きくするように突き出し量を調整する必要がある。一方、当該砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さが当該ワークに求められる加工孔の内壁の表面粗さの規格上限値を超える場合、砥石の砥粒の突き出し量を小さくするように突き出し量を調整する必要がある。このように、砥石の砥粒の突き出し量は、ホーニング加工装置の能力とワークに求められる加工孔の内壁の表面粗さの規格とに基づいて細かく調整することが要請される。
【0017】
そこで、本実施の形態に係るドレッシング方法では、砥石Gの研削面Gfにおけるレーザ光LA1の照射領域を移動させながら、レーザ光LA1の強度を変化させることで、砥石Gの研削面Gfに突き出し量の平均値が異なる複数の領域を形成する。ここで、例えば図5(A)に示すように、前述の複数の領域が、砥石G1の研削面Gfにおける短手方向と交差する方向へ延在する第1領域Gf1と、研削面Gfにおける第1領域Gf1以外の第2領域Gf2と、から構成され、第1領域Gf1における砥粒の突き出し量の平均値が、第2領域Gf2における砥粒の突き出し量の平均値に比べて大きくなるように砥石Gのドレッシングを行う。或いは、例えば図5(B)に示すように、前述の複数の領域が、砥石G2の研削面Gfにおける短手方向における一端全体を含み且つ研削面Gfの長手方向全体に亘って延在する第1領域Gf1と、研削面Gfにおける第1領域Gf1以外の第2領域Gf2と、から構成され、第1領域Gf1における砥粒の突き出し量の平均値が、第2領域Gf2における砥粒の突き出し量の平均値に比べて大きくなるように砥石Gのドレッシングを行う。ここで、第1領域Gf1の面積の研削面Gf全体の面積に対する比率は、45%以上且つ62%以下にすることができる。
【0018】
ここで、砥石Gの研削面Gf全体の砥粒の突き出し量を均一にした実施例1に係る砥石と、図5(A)に示す研削面Gfを有する実施例2に係る砥石と、図5(B)に示す研削面Gfを有する実施例3に係る砥石と、を用いて、ワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さについて比較する。ここで、実施例1に係る砥石の研削面Gf全体の砥粒の突き出し量の平均値は、実施例2、3に係る砥石の研削面Gfの第1領域Gf1における砥粒の突き出し量の平均値と同じとなるようにドレッシングを行った。また、実施例2、3に係る砥石の第2領域Gf2における砥粒の突き出し量の平均値は互いに同じになるようにドレッシングを行った。図6に示すように、実施例2、3に係る砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さは、実施例1に係る砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さよりも小さくなった。また、実施例3に係る砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さの加工サイクル毎のばらつきは、実施例2に係る砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さの加工サイクル毎のばらつきよりも小さくなった。つまり、実施例2、3に係る砥石のように研削面の一部の砥粒の突き出し量を小さくすることで、実施例1に係る砥石のように研削面全体の砥粒の突き出し量を大きくした場合に比べて、当該砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁のいわゆる面粗度が改善することが判った。
【0019】
このように、砥石の研削面内において、砥粒の突き出し量が異なる領域を形成することで、当該砥石を用いてワークをホーニング加工した場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さ、或いは、当該砥石が先端部に固定されたホーニングツールを回転させる際に必要なトルクを微調整できる。
【0020】
また、砥石Gの研削面Gf全体の砥粒の突き出し量を均一にした実施例4に係る砥石と、図5(B)に示す研削面Gfを有する実施例5、6に係る砥石と、を用いて、ワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さについて比較する。ここで、実施例4に係る砥石の研削面Gf全体の砥粒の突き出し量の平均値は、実施例5、6に係る砥石の研削面Gfの第1領域Gf1における砥粒の突き出し量の平均値と同じとなるようにドレッシングを行った。また、実施例5に係る砥石は、その第1領域Gf1の研削面全体に対する比率が45%となるようにドレッシングを行い、実施例6に係る砥石は、その第1領域Gf1の研削面全体に対する比率が62%となるようにドレッシングを行った。図7に示すように、実施例5、6に係る砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さは、実施例4に係る砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さよりも小さくなった。また、実施例5に係る砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さは、実施例6に係る砥石を用いてワークのホーニング加工を行った場合のワークの加工孔の内壁の表面粗さよりも小さくなった。実施例5、6に係る砥石によるホーニング加工では、図8(A)および(B)の矢印に示すように砥石GがワークWに対して摺動する場合、砥粒ABの突き出し量が比較的大きい研削面Gfの第1領域Gf1により研削したワークWの加工面を、砥粒ABの突き出し量が比較的小さい研削面Gfの第2領域Gf2が掃くことにより、ワークWの加工面の表面粗さが低減されているものと考えられる。そして、図8(A)に示す実施例5に係る砥石Gの第2領域Gf2の面積が、図8(B)に示す実施例6に係る砥石Gの第2領域Gf2の面積に比べて大きいために、図8(A)の破線で囲んだ部分の加工面が、図8(B)の破線で囲んだ部分の加工面に比べて表面粗さが小さくなっている。つまり、砥石Gの研削面Gfにおける第1領域Gf1と第2領域Gf2との面積比率を変化させることで、ワークWの加工面の性状を制御することができる。
【0021】
以上説明したように、本実施の形態に係るドレッシング方法によれば、砥石Gの研削面Gfにおけるレーザ光の照射領域を移動させながら、レーザ光の強度を変化させることで、砥石Gの研削面に砥粒の突き出し量が異なる複数の領域を形成する。これにより、砥石Gの研削面Gfにおける複数の領域それぞれの面積割合を変化させることによっても砥石Gの研削性能を変化させることができるので、砥石Gの研削性能を細かく調整することができる。
【0022】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前述の各実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば、第1領域Gf1が、砥石Gの研削面Gf内に、当該研削面Gfの長手方向に沿って延在するように複数形成されていてもよい。
【0023】
実施の形態では、ドレッシング装置が、レーザヘッド12の姿勢を変更することによりレーザ光LA1の放射方向を変更するヘッド姿勢変更部13を備える例について説明した。但し、これに限らず、ドレッシング装置が、例えば図9の矢印AR2001に示すように、レーザヘッド12を砥石保持部11に保持された砥石Gの研削面Gfに対して平行な方向へ移動させることにより、砥石Gの研削面Gfにおけるレーザ光LA1が照射される照射領域を移動させるヘッド搬送部2013を備えるものであってもよい。ヘッド搬送部2013は、研削面Gfに平行な第1方向に沿ってレーザヘッド12を搬送する第1搬送ユニット2131と、レーザヘッド12および第1搬送ユニット2131を研削面Gfに平行であり且つ前述の第1方向と直交する第2方向に沿ってレーザヘッド12を搬送する第2搬送ユニット2132と、を有する。
【0024】
実施の形態では、レーザヘッド12が、レーザ光LA1を、研削面Gfにおける照射領域の面積が少なくとも研削面Gfの面積よりも小さくなるように集光して研削面Gfに照射する例について説明した。但し、これに限らず、例えばレーザヘッド12が、レーザ光LA1の照射領域の面積が研削面Gf全体の面積と略同じになるように集光するものであってもよい。そして、レーザ光LA1の強度の変化のさせ方を調整することにより、研削面Gf全体の砥粒の突き出し量を調整するものであってもよい。具体的には、レーザヘッド12が、最大強度でのレーザ光LA1の研削面Gf全体への照射と、最大強度の略半分の強度でのレーザ光LA1の研削面Gf全体への照射と、を繰り返す周期と、1つの繰り返し周期における最大強度での照射時間と略半分の強度での照射時間との比率と、を適宜変化させることで、砥粒の突き出し量を調整するものであってもよい。
【0025】
以上、本発明の実施の形態および変形例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、実施の形態および変形例が適宜組み合わされたもの、それに適宜変更が加えられたものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、ホーニングツールの先端部に固定される砥石のドレッシング方法として好適である。
【符号の説明】
【0027】
11:砥石保持部、12:レーザヘッド、13:ヘッド姿勢変更部、21:制御部、22:端末装置、2013:ヘッド搬送部、2131:第1搬送ユニット、2132:第2搬送ユニット、AB:砥粒、G,G1,G2:砥石、Gf:研削面、Gf1:第1領域、Gf2:第2領域、LA1:レーザ光、W:ワーク
【要約】
【課題】砥石の研削性能を細かく調整することができるドレッシング方法、ドレッシング装置および砥石を提供する。
【解決手段】ドレッシング方法は、砥粒を結合剤で結合してなる砥石Gを、砥石Gの研削面Gfが露出した状態で砥石Gを保持し、レーザ光LA1を集光して研削面Gfに照射しつつ、研削面Gfにおけるレーザ光LA1が照射される照射領域を移動させることで、結合剤を溶融および蒸発させて砥粒の突き出し量を調整する。そして、レーザ光LA1の強度を変化させることで、砥石Gの研削面Gfにおける砥粒の突き出し量を調整する。
【選択図】図1
図1
図2
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図8
図9