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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-03
(45)【発行日】2025-07-11
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/00 20060101AFI20250704BHJP
   G05B 19/4067 20060101ALI20250704BHJP
   B23G 1/16 20060101ALI20250704BHJP
   B23G 1/44 20060101ALI20250704BHJP
【FI】
B23Q15/00 D
G05B19/4067
B23G1/16 F
B23G1/44 C
B23G1/16 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021174886
(22)【出願日】2021-10-26
(65)【公開番号】P2023064544
(43)【公開日】2023-05-11
【審査請求日】2024-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 英介
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-086330(JP,A)
【文献】国際公開第2020/161881(WO,A1)
【文献】特開2015-187799(JP,A)
【文献】特開2001-277075(JP,A)
【文献】特開2006-088299(JP,A)
【文献】米国特許第5165828(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00 - 23/00
G05B 19/18 - 19/416
G05B 19/42 - 19/46
B23G 1/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対して相対移動可能な主軸に工具としてタップを装着し、前記タップを用いて前記ワークにネジ加工を行う工作機械の制御装置であって、
制御に関する所定のパラメータが予め記憶されるパラメータ準備手段と、
前記タップを前記ワークから退避動作させる退避手段と、
前記タップに切り粉の排出動作を行わせる切り粉排出手段と、を備え、
前記退避手段による前記タップの退避動作と、前記切り粉排出手段による切り粉の排出動作とがそれぞれ互いに異なる所定のタイミングで実行可能であり、
前記パラメータ準備手段は、前記タップの切り粉排出溝のピッチと、予め設定したタップ回転回数とを記憶しており、
前記切り粉排出手段は、前記切り粉排出溝のピッチと前記タップ回転回数とから切り粉の排出動作距離を計算し、前記タップに、加工方向と同方向に前記排出動作距離だけ送り動作及び回転動作を行わせることを特徴とする工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記パラメータ準備手段は、切り粉が排出でき、前記タップと前記ワークとに損傷なく退避できる動作距離を予め同定し、当該同定結果と前記ピッチとに基づいて前記タップ回転回数を決定していることを特徴とする請求項に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記ワークの加工が正常か否かを診断する加工診断手段を備え、
前記退避手段を実行する前記所定のタイミングは、前記加工診断手段で加工が異常と診断された際であることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械の制御装置。
【請求項4】
前記退避手段による退避動作が正常か否かを診断する退避診断手段を備え、
前記切り粉排出手段を実行する前記所定のタイミングは、前記退避診断手段が前記退避動作を異常と診断して前記退避手段による退避動作を中止させた際であることを特徴とする請求項1乃至の何れかに工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械において、加工異常等の発生時に工具を折損なく安全に自動で退避させる制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械において、工具としてタップを用いたネジ加工では、加工中に異常が生じた場合、加工途中のタップをネジ穴から抜き取る作業が必要となる。抜き取り動作を機械によって自動で行った場合、刃先と創成したねじ面との間で切り粉が噛みこんだ場合、タップに大きな負荷がかかり、最悪の場合は折損が生じてワークが不良となる。そのため、現状は人が抜き取り動作時の負荷を調整しながら手作業で行っており、加工再開までに多くの工数がかかり、生産性が悪化してしまう。したがって、タップの情報とワークの情報とをもとに、退避時の退避速度を制御する方法が提案されている。
例えば特許文献1には、タップのピッチ情報とワークの材種情報とを入力として、抜き取り動作の主軸速度を計算し、計算した速度で工具を退避させることで、タップやワークに損傷を起こさずに抜き取り動作を自動化する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-59715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の技術では、折損が生じない抜き取り動作の主軸速度を事前にワークの材種ごとに決定し、ワークの材種情報を入力として決定した主軸速度とタップのピッチ情報とをもとに計算した速度で工具を退避させる技術が提案されている。しかし、加工を中断した際の刃先と創成したネジ面間における切り粉の噛みこみ状態によっては、逆転動作を行うだけでは、タップに大きな負荷が生じてしまい、折損を防ぐことができない。図1に、タップ加工において、退避時の切り粉の噛みこみ状態が異なる場合の動作トルクを示す。上図は噛みこみが少ない場合、下図は噛みこみが多い場合を示す。噛みこみが少ない場合は折損なく退避できているが、噛みこみが多い場合は加工中断直前に動作トルクに振動が生じ、退避する逆転動作を行った後に工具折損が生じている。したがって、従来の発明では最悪の場合は折損が生じてワークが不良となる。または、人の手作業による抜き取りが発生し、生産性が悪化してしまう。
【0005】
そこで、本開示は、加工異常等の発生時に工具を折損なく自動で退避させることができ、生産性の悪化を抑制できる工作機械の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示は、ワークに対して相対移動可能な主軸に工具としてタップを装着し、前記タップを用いて前記ワークにネジ加工を行う工作機械の制御装置であって、
制御に関する所定のパラメータが予め記憶されるパラメータ準備手段と、
前記タップを前記ワークから退避動作させる退避手段と、
前記タップに切り粉の排出動作を行わせる切り粉排出手段と、を備え、
前記退避手段による前記タップの退避動作と、前記切り粉排出手段による切り粉の排出動作とがそれぞれ互いに異なる所定のタイミングで実行可能であり、
前記パラメータ準備手段は、前記タップの切り粉排出溝のピッチと、予め設定したタップ回転回数とを記憶しており、
前記切り粉排出手段は、前記切り粉排出溝のピッチと前記タップ回転回数とから切り粉の排出動作距離を計算し、前記タップに、加工方向と同方向に前記排出動作距離だけ送り動作及び回転動作を行わせることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記パラメータ準備手段は、切り粉が排出でき、前記タップと前記ワークとに損傷なく退避できる動作距離を予め同定し、当該同定結果と前記ピッチとに基づいて前記タップ回転回数を決定していることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記ワークの加工が正常か否かを診断する加工診断手段を備え、
前記退避手段を実行する前記所定のタイミングは、前記加工診断手段で加工が異常と診断された際であることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記退避手段による退避動作が正常か否かを診断する退避診断手段を備え、
前記切り粉排出手段を実行する前記所定のタイミングは、前記退避診断手段が前記退避動作を異常と診断して前記退避手段による退避動作を中止させた際であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、切り粉排出手段による切り粉の排出動作によって工具の切り粉の噛みこみを抑制し、加工異常等が発生した際の工具を退避手段によって折損なく自動で退避させることができる。よって、生産性の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】タップにおける退避時の主軸の動作トルクの変化を示す説明図である。
図2】工作機械の制御装置のブロック構成図である。
図3】制御装置による制御を示すフローチャートである。
図4】制御適用時の主軸の動作トルクの変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図2は、本開示の制御装置の一例を示すブロック構成図である。工作機械1に対し、制御装置10は併設されている。制御装置10は、工作機械1の位置制御装置(図示しない)に内包されていても構わない。
まず、工作機械1は、ベッド2上で紙面左右方向(Y軸方向)へ移動可能に支持されたテーブル3と、ベッド2上に固定されたコラム4と、コラム4に紙面直交方向(X軸方向)及び上下方向(Z軸方向)へ移動可能に支持された主軸頭5とを備えている。主軸頭5には、下向きの主軸6が回転可能に支持されて、工具7が装着可能となっている。
【0010】
制御装置10には、加工情報取得手段11、加工診断手段12、パラメータ準備手段13、退避手段14、退避診断手段15、退避継続判定手段16、切り粉排出手段17、アラーム発報手段18が設けられている。
加工情報取得手段11は、工作機械1の制御情報や各種センサ(図示しない)の測定信号を加工情報として取得する。
加工診断手段12は、加工情報取得手段11で取得された加工情報をもとに加工が正常か異常かを診断する。
パラメータ準備手段13には、本開示の制御に用いるパラメータが入力または計算されて、その値が記憶されている。
退避手段14は、加工診断手段12で異常が検知された際に工具7をワークWから退避させる退避動作を工作機械1に指令して行う。
退避診断手段15は、パラメータ準備手段13の設定値をもとに計算した破断トルク閾値と加工情報とを比較し、退避動作が正常か異常かを診断し、診断結果を退避継続判定手段16に出力する。
【0011】
退避継続判定手段16は、退避診断手段15の診断結果が正常の場合は退避動作の継続を退避手段14に指令し、異常の場合は退避動作の中止を退避手段14に指令し、切り粉排出手段17に切り粉を排出する切り粉排出動作の実施を指令する。
切り粉排出手段17は、パラメータ準備手段13の設定値を用いて計算した排出動作距離だけ、工具7の送りおよび回転動作を行う切り粉排出動作を工作機械1に指令する。
アラーム発報手段18は、退避動作と切り粉排出動作との両動作を1セットとしてカウントし、カウントしたセット数と、パラメータ準備手段13の設定値であるセット数閾値とを比較し、動作を中止してアラームを発報するか、退避動作を継続するかを判定する。
【0012】
以下、制御装置10による制御の詳細を、図3のフローチャートに基づいて説明する。
図3に示すステップ(以下単に「S」と表記する。)1はパラメータ準備手段13が、S2~S3は加工診断手段12が、S4およびS15、S17は退避手段14が、S5~S6、S8は退避診断手段15が、S7は加工情報取得手段11が、S9は退避継続判定手段16が、S10~S11は切り粉排出手段17および退避手段14が、S12~S14、S16はアラーム発報手段18が、それぞれ実行する。
まず、S1で、工具7となるタップの断面係数Z、引張強さH、安全率S、切り粉排出溝のピッチP、セット数閾値Nsを入力し、記憶する。タップ回転回数Nrは、予め切り粉が排出でき、タップとワークWに損傷なく退避できることを確認した動作距離を同定し、同定結果を切り粉排出溝のピッチPで除算して求め、記憶する。
S2で加工診断を実施し、S3の判別で加工の異常を検知しなかった場合はS2で加工診断を継続し、加工の異常を検知した場合はS4で工具7をワークWから離脱させる退避動作を行う。
S5で、制御を続行するか否かを判定し、続行しない場合はS15で退避動作を継続し、S17で退避動作が完了したか否かを判定し、完了した場合は終了し、完了していない場合はS5に戻る。S5で制御を続行する場合はS6に進む。
【0013】
S6では、タップの断面係数Zと引張強さH、安全率Sから破断トルク閾値Tbを以下の式(1)により計算する。
Tb=2ZH/S ・・(1)
S7で、退避動作中の主軸6の動作トルクTcを測定し、S8で動作トルクTcと破断トルク閾値Tbとを比較する。ここで動作トルクTcが破断トルク閾値Tbより小さい場合は、退避動作が正常とし、大きい場合は異常としてS9に出力する。S9では、退避動作が正常の場合は退避動作を続行と判定し、S15で退避動作を継続する。退避動作が異常の場合は退避の中止を判定し、S10で退避動作を中止し、以下の式(2)により排出動作距離Lを計算する。
L=PNr ・・(2)
【0014】
S11で、排出動作距離Lだけタップの送りおよび回転動作を行う切り粉排出動作を行う。切り粉排出動作の主軸回転速度と送り速度とは何ら限定されるものではなく、本実施例においては加工動作と同様の条件とする。
S12では、退避動作と切り粉排出動作との両動作を1セットとしてセット数Nをカウントする。S13で、セット数Nとセット数閾値Nsとを比較する。セット数閾値Nsは、退避動作と切り粉排出動作との両動作を1セットとし、機械の動作軸に損傷が発生しないセット数を予め確認し、その値を用いる。
S13の判別でセット数Nがセット数閾値Nsより小さい場合(S13でNo)は、S4で退避動作を続行し、大きい場合(S13でYes)はS14で動作を中止し、アラームを発報し、S16でセット数Nをリセットして終了する。
【0015】
図4に、本形態における制御適用時の主軸6の動作トルクの変化を示す。加工の異常を診断後に退避動作時の動作トルクを破断トルク閾値で監視し、破断トルク閾値を超える場合に切り粉排出動作を行い、動作トルクが破断トルク閾値を超えない場合に再び退避動作を行うことで折損なくタップをワークから退避できていることが分かる。
【0016】
このように、上記形態の工作機械1の制御装置10は、制御に関するパラメータが予め記憶されるパラメータ準備手段13と、工具7をワークWから退避動作させる退避手段14と、工具7に切り粉の排出動作を行わせる切り粉排出手段17と、を備え、加工の異常を検知したタイミングで、退避手段14による工具7の退避動作が、退避動作を中止したタイミングで切り粉排出手段17による切り粉の排出動作がそれぞれ実行可能となっている。
この構成によれば、切り粉排出手段17による切り粉の排出動作によって工具7の切り粉の噛みこみを抑制し、加工異常が発生した際の工具7を退避手段14によって折損なく自動で退避させることができる。よって、生産性の悪化を抑制することができる。
【0017】
以下、本開示の変更例について説明する。
上記形態では、加工異常が発生した際に退避手段による退避動作を実施しているが、退避動作は加工異常の発生時に限らず、通常の加工時において衝突防止等のために退避動作を実施するような場合も本開示は適用できる。
切り粉排出手段も、退避動作を中止したタイミングに限らず、通常の加工が終了したタップをネジ穴から抜き取る際等に実行してもよい。
上記形態では、退避診断手段と共に、退避動作を継続するか否かを判定する退避継続判定手段を設けているが、退避継続判定手段を省略し、退避診断手段での退避動作の異常診断に基づいて退避動作を中止させるようにしてもよい。退避診断手段に退避継続判定の処理を含めてもよい。
【0018】
加工診断手段は、加工情報を予め設定した閾値と比較し、正常か異常かを診断する方法、または機械学習を用いて加工情報を学習した数理モデルを用いて、正常か異常かを診断する方法を用いても何ら問題ない。
その他、工作機械は上記形態に限らない。工具もタップに限定しない。
【符号の説明】
【0019】
1・・工作機械、2・・ベッド、3・・テーブル、4・・コラム、5・・主軸頭、6・・主軸、7・・工具、10・・制御装置、11・・加工情報取得手段、12・・加工診断手段、13・・パラメータ準備手段、14・・退避手段、15・・退避診断手段、16・・退避継続判定手段、17・・切り粉排出手段、18・・アラーム発報手段、W・・ワーク。
図1
図2
図3
図4