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特許7706678加工診断装置、学習装置、推論装置、加工診断方法、加工診断プログラムおよび工作機械システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-03
(45)【発行日】2025-07-11
(54)【発明の名称】加工診断装置、学習装置、推論装置、加工診断方法、加工診断プログラムおよび工作機械システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20250704BHJP
   G05B 19/4065 20060101ALI20250704BHJP
   G05B 19/4155 20060101ALI20250704BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20250704BHJP
【FI】
G05B19/18 W
G05B19/4065
G05B19/4155 V
B23Q17/09 C
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2025510355
(86)(22)【出願日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2024023583
【審査請求日】2025-02-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000114787
【氏名又は名称】ヤマザキマザック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】石田 哲史
(72)【発明者】
【氏名】高島 範久
(72)【発明者】
【氏名】相川 駿介
(72)【発明者】
【氏名】新徳 公輔
(72)【発明者】
【氏名】五藤 彰広
(72)【発明者】
【氏名】井関 晃
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/102036(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/043742(WO,A1)
【文献】特開2015-170147(JP,A)
【文献】特開2019-200661(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239606(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/46
B23Q 15/00
B23Q 17/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を加工する加工機の動作状態に関する物理量と、前記物理量が得られたときの目標形状に依らない加工条件とを取得するデータ取得部と、
前記物理量および前記加工条件に基づいて、同じ加工条件での加工中に得られた物理量の加工終了までの所要時間の影響を受けない統計的な特徴量を前記加工条件ごとに算出する特徴量算出部と、
前記加工条件ごとの前記統計的な特徴量に基づいて、加工診断する推定部と、
を備え、
前記加工機は、入力された被加工物の材質および加工で使用する工具と、加工パラメータのデータベースとに基づいて加工プログラムを自動生成する加工プログラム生成部を有する数値制御工作機械に設けられ、前記加工プログラム生成部が生成した加工プログラムを用いて前記加工を行い、
前記データ取得部は、前記加工条件を前記加工プログラム生成部から取得し、
前記特徴量算出部は、前記データ取得部が新たに取得した前記物理量および前記データ取得部が過去に取得済みの前記物理量を用いて、前記統計的な特徴量を算出する、
ことを特徴とする加工診断装置。
【請求項2】
被加工物を加工する加工機の動作状態に関する物理量と、前記物理量が得られたときの加工条件とを取得するデータ取得部と、
前記物理量および前記加工条件に基づいて、同じ加工条件での加工中に得られた物理量の統計的な特徴量を前記加工条件ごとに算出する特徴量算出部と、
前記加工条件ごとの前記統計的な特徴量に基づいて、加工診断する推定部と、
を備え、
前記推定部は、前記加工機が同じ区間に対して同じ加工条件での加工を繰り返し実行しているときに得られた物理量の統計的な特徴量に基づいて前記加工診断を行う、
ことを特徴とする加工診断装置。
【請求項3】
前記加工条件を、前記被加工物の材質、前記加工で使用する工具、前記加工を行う際の周速、送り速度、径方向切込み量および軸方向切込み量とする、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の加工診断装置。
【請求項4】
前記加工機は、入力された被加工物の材質および加工で使用する工具と、加工パラメータのデータベースとに基づいて加工プログラムを自動生成する加工プログラム生成部を有する数値制御工作機械に設けられ、前記加工プログラム生成部が生成した加工プログラムを用いて前記加工を行い、
前記データ取得部は、前記加工条件を前記加工プログラム生成部から取得する、
ことを特徴とする請求項2に記載の加工診断装置。
【請求項5】
前記加工機は、CAMシステムが前記被加工物の目標形状に基づいて生成した加工プログラムを使用して前記加工を行い、
前記データ取得部は、前記加工条件を前記CAMシステムから取得する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の加工診断装置。
【請求項6】
前記推定部は、前記加工機が実施した加工が正常であるか異常であるかを前記統計的な特徴量に基づいて推定する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の加工診断装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記加工機が実施した加工の品質を前記統計的な特徴量に基づいて推定する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の加工診断装置。
【請求項8】
前記推定部による加工診断結果が、前記物理量が得られたときの加工で前記加工機が使用した工具の摩耗状態を含み、
前記摩耗状態が前記工具の交換が必要な摩耗量に達したことを示す場合に、工具の交換を指示する報知部、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の加工診断装置。
【請求項9】
前記推定部は、前記加工機が同じ区間に対して同じ加工条件での加工を繰り返し実行しているときに得られた物理量の統計的な特徴量に基づいて前記加工診断を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の加工診断装置。
【請求項10】
前記推定部は、被加工物に対する工具の切込み量が前記加工条件で示される規定切込み量とならない状態のときに得られた物理量の統計的な特徴量を除外した後の残りの統計的な特徴量を使用して前記加工診断を行う、
ことを特徴とする請求項2または9に記載の加工診断装置。
【請求項11】
前記推定部は、前記加工機による同じ区間に対する同じ加工条件での繰り返し加工のそれぞれで得られた物理量の特徴量に基づいて前記加工診断を繰り返し行い、被加工物に対する工具の切込み量が前記加工条件で示される規定切込み量となる前に行った前記加工診断の結果は無効とし、被加工物に対する工具の切込み量が前記加工条件で示される規定切込み量となった後に行った前記加工診断の結果を有効な加工診断結果とする、
ことを特徴とする請求項10に記載の加工診断装置。
【請求項12】
前記推定部は、被加工物に対する工具の切込み量が前記加工条件で示される規定切込み量となった後、同じ加工条件での繰り返し加工のうち、最終パス以外のパスの加工で得られた物理量の特徴量に基づく前記加工診断の結果が異常加工である場合、加工で使用した工具が折損または欠損したと推定する、
ことを特徴とする請求項10に記載の加工診断装置。
【請求項13】
前記特徴量算出部は、異なる加工プログラムを使用した加工において得られた前記物理量に基づいて、前記統計的な特徴量を算出する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の加工診断装置。
【請求項14】
前記加工条件ごとの前記統計的な特徴量に基づいて作成される学習用データを用いた機械学習を行い、前記統計的な特徴量に基づいて前記加工診断を行うための学習済モデルを前記加工条件ごとに生成する学習部、
を備え、
前記推定部は、前記データ取得部が前記物理量および前記加工条件を取得すると、取得された前記物理量に基づいて前記特徴量算出部が算出する特徴量と、取得された前記加工条件に対応する前記学習済モデルとを用いて前記加工診断を行う、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の加工診断装置。
【請求項15】
前記加工機が同じ区間に対して同じ加工条件での加工を繰り返し実行しているときに得られた物理量の統計的な特徴量のうち、被加工物に対する工具の切込み量が前記加工条件で示される規定切込み量とならない状態のときに得られた物理量の統計的な特徴量を除外した後の残りの統計的な特徴量を前記機械学習に用いる統計的な特徴量に決定する学習対象特定部、
を備えることを特徴とする請求項14に記載の加工診断装置。
【請求項16】
被加工物を加工する加工機の動作状態に関する物理量と、前記物理量が得られたときの目標形状に依らない加工条件とを取得するデータ取得部と、
前記物理量および前記加工条件に基づいて、同じ加工条件での加工中に得られた物理量の加工終了までの所要時間の影響を受けない統計的な特徴量を前記加工条件ごとに算出する特徴量算出部と、
前記加工条件ごとの前記統計的な特徴量に基づいて作成される学習用データを用いた機械学習を行い、前記統計的な特徴量に基づいて加工診断を行うための学習済モデルを前記加工条件ごとに生成する学習部と、
を備え、
前記加工機は、入力された被加工物の材質および加工で使用する工具と、加工パラメータのデータベースとに基づいて加工プログラムを自動生成する加工プログラム生成部を有する数値制御工作機械に設けられ、前記加工プログラム生成部が生成した加工プログラムを用いて前記加工を行い、
前記データ取得部は、前記加工条件を前記加工プログラム生成部から取得し、
前記特徴量算出部は、前記データ取得部が新たに取得した前記物理量および前記データ取得部が過去に取得済みの前記物理量を用いて、前記統計的な特徴量を算出する、
ことを特徴とする学習装置。
【請求項17】
被加工物を加工する加工機の動作状態に関する物理量と、前記物理量が得られたときの目標形状に依らない加工条件とを取得するデータ取得部と、
前記物理量および前記加工条件に基づいて、同じ加工条件での加工中に得られた物理量の加工終了までの所要時間の影響を受けない統計的な特徴量を前記加工条件ごとに算出する特徴量算出部と、
前記加工条件ごとの前記統計的な特徴量に基づいて作成される学習用データを用いた機械学習を行う学習装置で生成された、前記統計的な特徴量に基づいて加工診断を行うための学習済モデルと、前記特徴量算出部で算出された前記加工条件ごとの前記統計的な特徴量と、に基づいて、加工診断する推定部と、
を備え、
前記加工機は、入力された被加工物の材質および加工で使用する工具と、加工パラメータのデータベースとに基づいて加工プログラムを自動生成する加工プログラム生成部を有する数値制御工作機械に設けられ、前記加工プログラム生成部が生成した加工プログラムを用いて前記加工を行い、
前記データ取得部は、前記加工条件を前記加工プログラム生成部から取得し、
前記特徴量算出部は、前記データ取得部が新たに取得した前記物理量および前記データ取得部が過去に取得済みの前記物理量を用いて、前記統計的な特徴量を算出する、
ことを特徴とする推論装置。
【請求項18】
加工機による被加工物の加工結果を加工診断装置が推定する加工診断方法であって、
前記加工機の動作状態に関する物理量と、前記物理量が得られたときの目標形状に依らない加工条件とを取得するデータ取得ステップと、
前記物理量および前記加工条件に基づいて、同じ加工条件での加工中に得られた物理量の加工終了までの所要時間の影響を受けない統計的な特徴量を前記加工条件ごとに算出する特徴量算出ステップと、
前記加工条件ごとの前記統計的な特徴量に基づいて、加工診断する診断ステップと、
を含み、
前記加工機は、入力された被加工物の材質および加工で使用する工具と、加工パラメータのデータベースとに基づいて加工プログラムを自動生成する加工プログラム生成部を有する数値制御工作機械に設けられ、前記加工プログラム生成部が生成した加工プログラムを用いて前記加工を行い、
前記データ取得ステップでは、前記加工条件を前記加工プログラム生成部から取得し、
前記特徴量算出ステップでは、前記データ取得ステップで新たに取得した前記物理量および前記データ取得ステップで過去に取得済みの前記物理量を用いて、前記統計的な特徴量を算出する、
ことを特徴とする加工診断方法。
【請求項19】
被加工物を加工する加工機の動作状態に関する物理量と、前記物理量が得られたときの目標形状に依らない加工条件とを取得するデータ取得ステップと、
前記物理量および前記加工条件に基づいて、同じ加工条件での加工中に得られた物理量の加工終了までの所要時間の影響を受けない統計的な特徴量を前記加工条件ごとに算出する特徴量算出ステップと、
前記加工条件ごとの前記統計的な特徴量に基づいて、加工診断する診断ステップと、
をコンピュータに実行させ、
前記加工機は、入力された被加工物の材質および加工で使用する工具と、加工パラメータのデータベースとに基づいて加工プログラムを自動生成する加工プログラム生成部を有する数値制御工作機械に設けられ、前記加工プログラム生成部が生成した加工プログラムを用いて前記加工を行い、
前記データ取得ステップでは、前記加工条件を前記加工プログラム生成部から取得し、
前記特徴量算出ステップでは、前記データ取得ステップで新たに取得した前記物理量および前記データ取得ステップで過去に取得済みの前記物理量を用いて、前記統計的な特徴量を算出する、
ことを特徴とする加工診断プログラム。
【請求項20】
被加工物を加工する加工機と、
前記加工機を加工プログラムに従って制御する数値制御装置と、
前記加工機による加工を診断する加工診断装置と、を備え、
前記加工診断装置は、
被加工物を加工する加工機の動作状態に関する物理量と、前記物理量が得られたときの目標形状に依らない加工条件とを取得するデータ取得部と、
前記物理量および前記加工条件に基づいて、同じ加工条件での加工中に得られた物理量の加工終了までの所要時間の影響を受けない統計的な特徴量を前記加工条件ごとに算出する特徴量算出部と、
前記加工条件ごとの前記統計的な特徴量に基づいて、加工診断する推定部と、
を備え、
前記加工機は、入力された被加工物の材質および加工で使用する工具と、加工パラメータのデータベースとに基づいて加工プログラムを自動生成する加工プログラム生成部を有する数値制御工作機械に設けられ、前記加工プログラム生成部が生成した加工プログラムを用いて前記加工を行い、
前記データ取得部は、前記加工条件を前記加工プログラム生成部から取得し、
前記特徴量算出部は、前記データ取得部が新たに取得した前記物理量および前記データ取得部が過去に取得済みの前記物理量を用いて、前記統計的な特徴量を算出する、
ことを特徴とする工作機械システム。
【請求項21】
前記数値制御装置は、
入力された被加工物の材質および加工で使用する工具と、加工パラメータのデータベースとに基づいて、前記加工条件を決定するとともに前記加工プログラムを生成する、
ことを特徴とする請求項20に記載の工作機械システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、数値制御(NC:Numerical Control)工作機械が実施した加工の結果等を推定する加工診断装置、学習装置、推論装置、加工診断方法、加工診断プログラムおよび工作機械システムに関する。
【背景技術】
【0002】
数値制御工作機械は、使用する工具が加工の実施に伴い摩耗した場合は良好な加工結果が得られなくなることから、定められた加工結果が得られるかどうかを判定する技術、工具交換の必要性を判定する技術などがこれまで提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、主軸モータの駆動電流、振動、温度などを数値制御工作機械の動作状態を示す状態データとして収集し、収集した状態データに基づいて加工品質や工具の交換時期を予測する技術が記載されている。特許文献1に記載の技術では、同じ形状の加工結果物を繰り返し作成する加工を行う場合、例えば同じ加工条件で繰り返し状態データが取得できることを想定して、加工品質の予測に用いる予測モデルとしての回帰式を生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-123409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、主軸の回転速度、加工中の工具の送り速度、ワークに対する切込み量などの加工条件を考慮していない。このため、金型作成のための加工、特注品の加工など、同じ加工を繰り返し行うことが無い多品種少量生産のための加工では、同じ加工条件で状態データを繰り返し収集することが難しいため、加工品質の予測、工具交換時期の判別を行うことができない、という問題があった。
【0006】
1つの加工結果物を得るための加工では、通常、被加工物であるワークに対し、ワークに対する工具の切込み量や送り速度などの加工条件を変更しながら加工を進める。同じ形状の加工結果物を得るための加工を繰り返す場合であれば、繰り返し実施する各加工において、同じタイミングで加工条件が変更となり、加工中の状態データは毎回同様のタイミングで同様に変化する。このため、加工条件が不明であっても、繰り返し実行される各加工で得られる状態データから、加工品質の予測や工具の交換時期の判別が可能である。一方、加工条件が変更となるタイミングが加工ごとに異なる多品種少量生産のための加工では、状態データだけに基づいて加工品質の予測や工具の交換時期の判別を行うことは難しい。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、多品種少量生産のための加工を行う場合であっても加工品質の予測、工具交換時期の判別を行うことが可能な加工診断装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示にかかる加工診断装置は、被加工物を加工する加工機の動作状態に関する物理量と、物理量が得られたときの目標形状に依らない加工条件とを取得するデータ取得部と、物理量および加工条件に基づいて、同じ加工条件での加工中に得られた物理量の加工終了までの所要時間の影響を受けない統計的な特徴量を加工条件ごとに算出する特徴量算出部と、加工条件ごとの統計的な特徴量に基づいて、加工診断する推定部と、を備え、加工機は、入力された被加工物の材質および加工で使用する工具と、加工パラメータのデータベースとに基づいて加工プログラムを自動生成する加工プログラム生成部を有する数値制御工作機械に設けられ、加工プログラム生成部が生成した加工プログラムを用いて加工を行い、データ取得部は、加工条件を加工プログラム生成部から取得し、特徴量算出部は、データ取得部が新たに取得した物理量およびデータ取得部が過去に取得済みの物理量を用いて、統計的な特徴量を算出する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示にかかる加工診断装置は、多品種少量生産のための加工を行う場合であっても加工品質の予測、工具交換時期の判別を行うことができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態にかかる加工診断装置を適用して実現される工作機械システムの一例を示す図
図2】実施の形態にかかる工作機械システムの数値制御工作機械が実施する加工の一例を示す図
図3】実施の形態にかかる加工プログラムを作成するために必要な加工パラメータの一例を示す図
図4】数値制御装置の加工プログラム生成部が加工プログラムを生成する際に参照するデータベースの構成例を示す図
図5】実施の形態にかかる加工診断装置のハードウェア構成を示す図
図6】実施の形態にかかる加工診断装置の機能ブロック構成例を示す図
図7】加工診断装置が数値制御工作機械を診断するための学習済モデルを生成する動作の一例を示すフローチャート
図8】実施の形態にかかる加工診断装置の学習対象特定部が学習用データを作成する動作の一例を示すフローチャート
図9】アプローチ区間および目標寸法合わせ区間を説明するための図
図10】実施の形態にかかる加工診断装置が学習済モデルを用いて数値制御工作機械による加工結果を診断する動作の一例を示すフローチャート
図11】実施の形態にかかる加工診断装置による診断動作の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示の実施の形態にかかる加工診断装置、学習装置、推論装置、加工診断方法、加工診断プログラムおよび工作機械システムを図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
実施の形態.
図1は、実施の形態にかかる加工診断装置1を適用して実現される工作機械システム100の一例を示す図である。図1では、加工診断装置1による診断の対象となる数値制御工作機械7の構成も併せて記載している。
【0013】
まず、数値制御工作機械7の構成について説明する。数値制御工作機械7は、数値制御データ(NCデータ)を処理し、制御信号を出力する数値制御装置70と、数値制御装置70からの制御信号に従って被加工物(ワーク)WAに加工を加える加工機90とを備える。
【0014】
加工機90は、主軸91と、主軸91に取り付けられた工具92と、主軸91を回転駆動する主軸モータ93と、被加工物WAを固定するテーブル94と、テーブル94を移動する移動機構95と、移動機構95をx軸、y軸方向に位置合わせする2つのサーボモータ96x,96yと、主軸モータ93をz軸方向に位置合わせするサーボモータ96zと、を備える。主軸モータ93には、主軸アンプ85より駆動電流が供給され、サーボモータ96x,96y,96zには、サーボアンプ86より駆動電流が供給される。サーボモータ96x,96y,96zにより、工具92の被加工物WAに対する位置を、x軸,y軸,z軸方向においてそれぞれ独立に制御することができる。
【0015】
主軸モータ93には、電流センサS1、振動センサS2、温度センサS3が配置されている。また、加工機90には、コンタクター、ソレノイド、ランプ等の機器98と、加工機90内の各部の状態を検知し、検知信号を出力するリミットスイッチ、センサその他のスイッチ類97と、が配置されている。
【0016】
数値制御装置70は、情報を処理するプロセッサ71と、データを記憶する記憶部72と、加工診断装置1に接続された外部接続インタフェース(以下、I/Fと記載する)73と、NC操作パネル82に接続された操作パネルI/F74と、主軸アンプ85に接続された主軸制御I/F75と、サーボアンプ86に接続されたサーボ制御I/F76と、を備える。
【0017】
プロセッサ71は、記憶部72に記憶された加工プログラムと数値情報とに従って、主軸制御I/F75を介して主軸アンプ85に駆動信号を供給して、主軸モータ93を駆動し、サーボ制御I/F76を介してサーボアンプ86に駆動信号を供給し、サーボモータ96x,96y,96zを動作させる。これにより、主軸91を回転駆動し、工具92を位置決めして、被加工物WAを切削する。なお、記憶部72が記憶する加工プログラムは数値制御プログラムとも称される。
【0018】
また、デジタル入力部77は、電流センサS1、振動センサS2、温度センサS3、リミットスイッチ、センサその他のスイッチ類97からのデータを入力し、プロセッサ71に供給する。プロセッサ71は、これらのデータを記憶部72に格納する。また、プロセッサ71は、電流センサS1、振動センサS2および温度センサS3からのデータを外部接続I/F73を介して加工診断装置1に送信する。
【0019】
外部接続I/F73は、外部装置との間でデータ通信を行う。特に、本実施の形態においては、外部接続I/F73は、プロセッサ71の制御下に、電流センサS1、振動センサS2および温度センサS3が出力したデータに時刻データと種別データとを付加して、加工診断装置1に送信する。
【0020】
操作パネルI/F74は、図示を省略している表示部、キー操作部、等を備えるNC操作パネル82に接続され、NC操作パネル82に表示データを送信し、NC操作パネル82からキー操作信号を受信して、プロセッサ71に通知する。
【0021】
また、数値制御装置70は、加工機90からのデジタル信号を受信するデジタル入力部77と、加工機90にデジタル信号を送信するデジタル出力部78と、記憶部72で記憶される加工プログラムを生成する加工プログラム生成部79と、プロセッサ71に内蔵された内部タイマITと、を備える。
【0022】
ここで、加工プログラム生成部79について説明する。加工プログラム生成部79は、被加工物WAに対する加工が正常に行われた場合に得られる被加工物WAの最終的な形状である目標形状、加工が行われる前の被加工物WAの形状である加工前形状、被加工物WAの材質であるワーク材質、被加工物WAの加工で使用する工具である使用工具、加工パターン、周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量、といった加工内容を示す各種情報に基づいて、加工プログラムを自動的に生成する。
【0023】
加工プログラム生成部79は、加工プログラムを生成するために必要な上記の各種情報のうち、目標形状、加工前形状、ワーク材質、使用工具および加工パターンについては、数値制御工作機械7の外部から(例えば、作業者などから)取得する。加工プログラム生成部79は、例えば、NC操作パネル82および操作パネルI/F74を介して、目標形状、加工前形状、ワーク材質、使用工具および加工パターンを取得する。
【0024】
加工プログラム生成部79が数値制御工作機械7の外部から取得する情報のうち、使用工具および加工パターンについては、目標形状を得るための加工を開始してから加工を終了するまでに工具が移動する経路(以下、工具経路と称する)を形成する複数の加工区間のそれぞれに対して個別に設定される。加工区間の指定、および、加工区間それぞれにおける使用工具および加工パターンの設定は、例えば作業者が行う。
【0025】
加工プログラムを生成するために必要な上記の各種情報のうち、周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量は、使用工具および加工パターンに応じて設定可能な値が決まり、不適切な値が設定された場合には正常な加工ができなくなる。このため、周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量は、加工で使用可能な複数種類の工具のそれぞれと指定可能な複数の加工パターンのそれぞれとの組み合わせに対して予め決定し、データベース化されているものとする。周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量のデータベースは、例えば、記憶部72内に構築される。周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量の決定は、使用工具として選択可能な各工具のメーカ、数値制御工作機械7のメーカなどが行う。
【0026】
加工プログラム生成部79が加工プログラムを生成する具体例を説明する。例えば、図2に示すような、被加工物203を工具201が刃202で旋削加工するための加工プログラムを作成する場合、加工プログラム生成部79は、図3に例示する加工パラメータに基づいて加工プログラムを生成する。なお、図2は、実施の形態にかかる工作機械システム100の数値制御工作機械7が実施する加工の一例を示す図、図3は、加工プログラムを作成するために必要な加工パラメータの一例を示す図である。加工プログラム生成部79は、図3に示す加工パラメータのうち、「ユニット」、「加工部」、「仕上代-Z」、「工具」、「始点-X」、「始点-Z」、「終点-X」、および「終点-Z」については、NC操作パネル82および操作パネルI/F74を介して外部から取得する。また、加工プログラム生成部79は、図3に示す加工パラメータのうち、「径方向切込み量」、「周速」、および「送り速度」については、外部から取得した「工具」、「ユニット」、および「加工部」をキーとして、「径方向切込み量」、「周速」、および「送り速度」が登録されたデータベースを検索する。「径方向切込み量」、「周速」、および「送り速度」が登録されたデータベースの構成例を図4に示す。図4は、数値制御装置70の加工プログラム生成部79が加工プログラムを生成する際に参照するデータベースの構成例を示す図である。図4に示すデータベースには、「ワーク材質」、「工具番号」、「加工パターン」、「周速」、「送り速度」、「径方向切込み量」、「軸方向切込み量」などが登録される。
【0027】
図2に示す旋削加工では、回転させている被加工物203の端面に工具201の刃202を接触させ、この状態から工具201をX軸方向に移動させることで、「径方向切込み量」に従った切込み量で被加工物203をZ軸方向に切削する(切り込む)。目標形状とするために必要な切込み量が切削1回あたりの切込み量よりも大きい場合、工具201および刃202のZ軸方向の位置を変更して同様の切削を繰り返す。例えば、図2に示す旋削加工を行う場合の加工パラメータが図3に示す内容である場合、「始点-Z」が「4」、「終点-Z」が「0」、「仕上代-Z」が「0.15」であることから、Z軸方向に必要な切込み量は、工具201および刃202のZ軸方向の移動量(=4)から仕上代(=0.15)を差し引いた値(=3.85)となる。切削1回あたりのZ軸方向の切込み量は、加工パラメータの「径方向切込み量」で示され、図3では1.5である。切削1回あたりのZ軸方向の切込み量(=1.5)がZ軸方向に必要な切込み量(=3.85)よりも小さいため、切削を複数回繰り返す必要がある。具体的には、切削を3回繰り返す必要がある。また、切込み量を1.5とする切削を2回行った時点のZ軸方向の合計切込み量(=3)とZ軸方向に必要な切込み量(=3.85)との差(=0.85)が3回目の切削での切込み量となる。加工プログラム生成部79は、このような加工を行うための加工プログラムを図3に示す加工パラメータに基づいて作成する。なお、本実施の形態では、1つの区間に対して同じ加工を繰り返し実行する場合の1回の加工で切削を行う区間をパスと称する場合がある。例えば、1つの区間に対して切削を3回実行して目標形状まで加工する場合は3パスとなる。
【0028】
加工プログラム生成部79は、被加工物を目標形状まで加工するために必要な、他の加工区間の加工プログラムについても、加工内容を示す情報(加工パラメータ)を取得して、同様の方法で作成する。
【0029】
なお、記憶部72が記憶する加工プログラムは、加工プログラム生成部79が自動的に生成した加工プログラムに限定されない。作業者などが手動で作成した加工プログラムを記憶部72が記憶し、この加工プログラムに従って数値制御工作機械7が被加工物WAを加工してもよい。
【0030】
記憶部72が記憶する加工プログラムを手動で作成する場合、プログラムの作成者は、工具メーカが切削推奨値としてカタログなどに記載している、切込み、周速、送りの条件などを参考にするとともに、被加工物の材質(ワーク材質)、使用する工具、加工パターンなどを考慮して、周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量などを適切と思われる値に設定する。しかしながら、周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量などを適切な値に設定するためには、多くの知識や経験が必要となり、経験の浅い作成者はプログラムの作成が難しい。周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量などの設定が適切ではない場合、所望の加工品質が実現できない、加工機が故障する、工具が破損する、などの不具合が生じる可能性が高まる。これらの不具合の発生を防止するためには、試し加工などを繰り返し実施してプログラムを調整する必要があり、時間を要する。一方、加工プログラム生成部79は、ワーク材質、工具および加工パターンの組み合わせ別に周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量などが予め登録されているデータベースを利用して周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量などを自動的に設定する。このため、作成者は、ワーク材質、使用工具、加工パターン、目標形状を設定するだけで、上記のように、目標形状に達するまで、当該設定から検索された周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量などに従って繰り返し加工を行うプログラムを自動生成でき、経験を必要とせず、さらには、プログラム作成技術も必要とせずに短時間で効率的に加工プログラムを作成することができる。
【0031】
つづいて、加工診断装置1について説明する。加工診断装置1は、例えば、PC(Personal Computer)またはIPC(Industrial Personal Computer)、PLC(Programmable Logic Controller)、その他のFA(Factory Automation)装置である。また、数値制御装置70が、加工診断装置1の一部または全部として機能してもよい。図5は、実施の形態にかかる加工診断装置1のハードウェア構成を示す図である。加工診断装置1は、そのハードウェア構成として、図5に示されるように、プロセッサ51と、主記憶部52と、補助記憶部53と、入力部54と、出力部55と、通信部56と、を有する。主記憶部52、補助記憶部53、入力部54、出力部55および通信部56はいずれも、内部バス57を介してプロセッサ51に接続される。
【0032】
プロセッサ51は、集積回路であるCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、演算用GPU(Graphics Processing Unit)、またはFPU(Floating Point Unit)を含む。プロセッサ51は、補助記憶部53に記憶されるプログラムP1を実行することにより、加工診断装置1の種々の機能を実現して、後述の処理を実行する。
【0033】
主記憶部52は、RAM(Random Access Memory)を含む。主記憶部52には、補助記憶部53からプログラムP1がロードされる。そして、主記憶部52は、プロセッサ51の作業領域として用いられる。
【0034】
補助記憶部53は、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)に代表される不揮発性メモリを含む。補助記憶部53は、プログラムP1の他に、プロセッサ51の処理に用いられる種々のデータを記憶する。補助記憶部53は、プロセッサ51の指示に従って、プロセッサ51によって利用されるデータをプロセッサ51に供給し、プロセッサ51から供給されたデータを記憶する。
【0035】
入力部54は、入力キー、ボタン、スイッチ、キーボード、ポインティングデバイス、およびDI(Digital Input)接点(フォトカプラ入力)に代表される入力デバイスを含む。入力部54は、加工診断装置1のユーザによって入力された情報、その他の外部から提供される情報を取得して、取得した情報をプロセッサ51に通知する。
【0036】
出力部55は、LED(Light Emitting Diode)、LCD(Liquid Crystal Display)、DO(Digital Output)接点(フォトカプラ出力)およびスピーカに代表される出力デバイスを含む。出力部55は、プロセッサ51の指示に従って、種々の情報をユーザに提示し、または外部に出力する。
【0037】
通信部56は、外部の装置と通信するためのネットワークインタフェース回路とアナログ信号回路とを有する。外部の装置は、例えば、上述した数値制御装置70、外部センサ80である。外部センサ80は、数値制御工作機械7の外部に設けられたセンサであり、温度センサ、振動センサなどが該当する。通信部56は、外部から信号を受信して、この信号により示される情報をプロセッサ51へ出力する。また、通信部56は、プロセッサ51から出力された情報を示す信号を外部の装置へ送信し、またはアナログ信号を出力する。
【0038】
上述のハードウェア構成が協働することで、加工診断装置1は、数値制御工作機械7から収集したデータを用いて、数値制御工作機械7を診断するためのモデルの学習を行う。また、加工診断装置1は、モデルの学習が完了すると、学習済モデルと、数値制御工作機械7が被加工物WAを加工しているときに収集したデータとに基づいて、数値制御工作機械7が備える加工機90による加工診断、すなわち、加工機90が実施した加工の結果を診断する。加工診断の詳細については後述する。
【0039】
図6は、実施の形態にかかる加工診断装置1の機能ブロック構成例を示す図である。加工診断装置1は、データ取得部11、特徴量算出部12、記憶部13、学習対象特定部14、学習部15、推論部16および報知部17を備える。
【0040】
データ取得部11および報知部17は、図5に示す通信部56により実現される。また、記憶部13は、図5に示す主記憶部52および補助記憶部53により実現される。特徴量算出部12、学習対象特定部14、学習部15および推論部16は、図5に示すプロセッサ51、主記憶部52および補助記憶部53により実現される。すなわち、特徴量算出部12、学習対象特定部14、学習部15および推論部16は、これらの各部として動作するためのプログラムP1をプロセッサ51が実行することにより実現される。なお、特徴量算出部12、学習対象特定部14、学習部15および推論部16として動作するためのプログラムP1は、補助記憶部53に予め格納されていることを想定するがこれに限定されない。プログラムP1は、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROMなどの記録媒体に書き込まれた状態で加工診断装置1のユーザに供給され、ユーザが上記のプログラムP1を補助記憶部53にインストールする形態であってもよい。また、上記のプログラムP1は、通信部56がネットワークを介してサーバからダウンロードする形態であってもよい。
【0041】
図6に示す加工診断装置1の各部について説明する。
【0042】
データ取得部11は、加工機90が被加工物WAを加工中に収集された、加工機90の加工動作に関する物理量などを数値制御装置70から取得し、また、外部センサ80からのアナログデータを取得する。データ取得部11は、加工中に収集された物理量として、例えば、加工機90が有する主軸モータ93に配置された電流センサS1、振動センサS2および温度センサS3から、これらの各センサによる検出値を取得する。データ取得部11は、加工機90が備える各モータの回転数、移動量、トルク、力、加速度、温度などを取得してもよい。なお、数値制御装置70は、予め定められた一定の時間間隔で周期的に上記の物理量を収集し、収集した物理量に基づいて加工機90を制御する。
【0043】
また、データ取得部11は、数値制御装置70の加工プログラム生成部79が加工プログラムの生成時に参照した情報、具体的には、ワーク材質、使用工具、周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量などを取得する。また、データ取得部11は、数値制御装置70の加工プログラム生成部79が生成した加工プログラム名、数値制御装置70にて使用工具毎にカウントする工具の使用回数、工具の使用時間の累積値、加工プログラムの実行中のステップの情報、などを取得する。なお、これ以降の説明では、データ取得部11が取得する、加工プログラム生成部79が加工プログラムの生成時に参照した情報(ワーク材質、使用工具、周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量などの情報)を纏めて加工条件と称する場合がある。加工条件は、少なくとも、ワーク材質、使用工具、周速、送り速度、径方向切込み量、および軸方向切込み量を含むものとする。
【0044】
特徴量算出部12は、データ取得部11が取得した物理量の特徴量を算出する。特徴量算出部12は、所定期間に収集された複数の物理量に基づいて、統計的な特徴量、例えば、定められた期間における平均値、最大値、最小値、中央値、標準偏差、凸度、歪度などを算出する。
【0045】
記憶部13は、加工診断装置1が動作するために必要な各種データを記憶する。
【0046】
学習対象特定部14は、学習部15が数値制御工作機械7を診断するためのモデルを学習する際に学習対象とする特徴量を、数値制御装置70の記憶部72および加工プログラム生成部79から収集した加工条件情報を検索条件として、特徴量算出部12が算出した特徴量から抽出する。
【0047】
学習部15は、学習対象特定部14が抽出した特徴量に基づく学習用データを用いて機械学習を行い、数値制御工作機械7を診断するための学習済モデルを生成する。学習部15は、加工条件ごとに学習済モデルを生成する。すなわち、学習部15は、同じ加工条件で加工したときに収集された物理量の特徴量と、数値制御工作機械7で加工された被加工物の品質情報との関係を学習する。
【0048】
推論部16は、学習部15で生成された加工条件ごとの学習済モデルと、特徴量算出部12が算出した特徴量とに基づいて、数値制御工作機械7の加工診断を行う。推論部16は、具体的には、数値制御工作機械7の加工機90による加工結果が正常か否かの判定、工具の摩耗量や摩耗傾向などの状態判定を行う。推論部16は、加工結果が正常か否かの判定では、例えば、加工が終了した加工区間の寸法と目標寸法との差が定められた範囲内か否かの判定、および、加工が終了した後の被加工物の形状と目標形状との差が定められた範囲内か否かの判定の一方または両方を行う。また、推論部16は、加工機90による加工が終了した後の被加工物の寸法、曲率、真直度、面粗度を推定する。なお、推論部16は、加工結果の判定、状態判定、および、加工が終了した後の被加工物の推定(寸法、曲率、真直度、面粗度の推定)の全部を加工診断において実行してもよいし、一部を加工診断において実行してもよい。
【0049】
報知部17は、推論部16による推論結果、すなわち、数値制御工作機械7の診断結果を、数値制御装置70などに報知する。
【0050】
つづいて、加工診断装置1が数値制御工作機械7を診断するための学習済モデルを生成する学習フェーズ、および、加工診断装置1が学習済モデルを利用して数値制御工作機械7を診断する活用フェーズについて説明する。
【0051】
<学習フェーズ>
図7は、加工診断装置1が数値制御工作機械7を診断するための学習済モデルを生成する動作の一例を示すフローチャートである。
【0052】
加工診断装置1は、まず、モデルの生成に必要なデータを取得する(ステップS11)。具体的には、データ取得部11が、加工機90が被加工物WAを加工中に収集された加工動作に関する物理量と、加工条件とを数値制御装置70から取得する。データ取得部11は、数値制御工作機械7が加工機90で被加工物WAを加工しているときに上記のデータを取得してもよいし、数値制御工作機械7が加工機90で被加工物WAを加工したときに収集され、数値制御装置70で記憶されているデータを加工終了後に取得してもよい。データ取得部11が取得する、物理量が収集されたときの加工条件は、数値制御装置70が加工機90を制御して被加工物WAを加工するときに使用した加工プログラムを加工プログラム生成部79が生成するときに用いられた加工条件と同じ加工条件である。なお、ワーク材質については、同一の被加工物WAの加工中に1度取得すればよい。
【0053】
加工診断装置1は、次に、ステップS11で取得した物理量の特徴量を算出する(ステップS12)。具体的には、特徴量算出部12が、物理量の特徴量を算出する。ここで、同じ加工条件で行う加工であっても、加工する範囲(加工区間の長さ)が異なる場合は加工終了までの所要時間も異なる。このため、特徴量算出部12は、物理量の積分値といった、加工終了までの所要時間に応じて値が変化する特徴量ではなく、加工終了までの所要時間の影響を受けない統計的な特徴量を算出する。具体的には、特徴量算出部12は、定められた期間における平均値、最大値、最小値、中央値、標準偏差、凸度、歪度などを統計的な特徴量として算出する。特徴量算出部12は、例えば、ある加工条件での加工が開始されてから加工条件が変更となるまでの間に収集された物理量の平均値、最大値、最小値、中央値などを算出する。特徴量算出部12は、同じ加工条件で加工を行う区間を一定幅のサブ区間に分割し、サブ区間ごとに特徴量を算出してもよい。特徴量算出部12は、ステップS11でデータ取得部11が上記データを取得するごとに、取得した最新のデータと過去に取得済みのデータとを用いて特徴量を算出してもよいし、過去に取得済みのデータを用いて、定められたタイミングで特徴量を算出してもよい。定められたタイミングは、取得済みのデータの数が一定数に達したタイミングとしてもよいし、ユーザによる所定の操作を加工診断装置1が受け付けたタイミング、例えば、学習済モデルの生成を指示する操作を受け付けたタイミングとしてもよい。過去に取得済みのデータには、異なる加工プログラムを用いた加工において得られたデータ、すなわち、目標形状が異なる加工を異なる被加工物のそれぞれに対して実行しているときに得られたデータが混在していてもよい。また、特徴量算出部12は、定められた長さの一定期間が経過するごとに、該一定期間にデータ取得部11が取得したデータを用いて、特徴量を算出してもよい。
【0054】
加工診断装置1は、次に、ステップS12で算出した特徴量に基づいて、加工条件ごとに学習用データを作成する(ステップS13)。具体的には、学習対象特定部14が、特徴量算出部12で算出された特徴量を、加工条件が同じ特徴量ごとに纏めて、加工条件ごとの学習用データを作成する。このとき、学習対象特定部14は、同じ区間に対して同じ加工を繰り返し実行して目標形状(目標寸法)まで加工する場合、使用する加工条件が設定され、工具が被加工物への接近を開始してから工具が被加工物に接触し、加工条件で指定された切込み量での切削が開始となるまでの区間であるアプローチ区間を特定し、アプローチ区間で収集された物理量の特徴量については学習用データから除外する。アプローチ区間は、工具が被加工物に激しく衝突するのを防止するために設けられる。また、学習対象特定部14は、後述する目標寸法合わせ区間で収集された物理量の特徴量についても学習用データから除外する。すなわち、学習対象特定部14は、図8に示すように、繰り返しパスにおける特徴量を取得し(ステップS21)、学習対象とする特徴量を特定する(ステップS22)。繰り返しパスにおける特徴量とは、同じ区間に対して同じ加工を繰り返し実行したときに収集された物理量の特徴量である。
【0055】
ステップS21において、学習対象特定部14は、特徴量算出部12で算出された特徴量から、繰り返しパスにおける特徴量を抽出する。ステップS22において、学習対象特定部14は、繰り返しパスにおける特徴量のうち、アプローチ区間における特徴量および目標寸法合わせ区間における特徴量を除いた残りの特徴量を学習対象とする。図9は、アプローチ区間および目標寸法合わせ区間を説明するための図である。図9において、横軸は、切削加工動作を開始してからの経過時間である切削加工時間(秒)を示し、縦軸は、特徴量を示す。図9に示す例では、切削加工を開始後、切削加工時間が40秒を超えた辺りで工具が被加工物に接触して切削が開始され、1パスごとに特徴量が増加する。特徴量の大きさは切込み量と相関があり、切込み量が一定(規定切込み量)になると、1パスごとの特徴量の大きさが略一定となる。しかし、被加工物の加工対象面が一様ではなく凹凸などがある場合、工具が被加工物に接触して実際に切削を開始した直後は切込み量が加工条件で示される規定切込み量とならず、徐々に物理量や特徴量が大きくなるといったことがある。このような特性を考慮し、学習対象特定部14は、1パスごとの特徴量の変化量に基づいてアプローチ区間を特定する。学習対象特定部14は、例えば、切削加工を開始し、さらに、1パスごとの特徴量の増加が始まってから、1パスごとの特徴量の増加量が10%以下となるまでの区間をアプローチ区間とする。なお、アプローチ区間の特定に用いる変化量10%は一例である。学習対象特定部14は、他の値、例えば、変化量が5%以下となるまでの区間をアプローチ区間と判定してもよい。また、目標形状とするために必要な切込み量が、切削加工1回あたりの切込み量の整数倍とならない場合、繰り返しパスの最後のパス(以下、最終パスと称する)での切込み量が、直前までのパスでの切込み量よりも少なくなり、特徴量も減少する。このため、学習対象特定部14は、最終パスでの特徴量が1つ前のパスでの特徴量よりも大きく減少した場合、例えば、減少量(変化量)が10%を超えた場合、最終パスを目標寸法合わせ区間と判定し、学習対象から除外する。なお、目標形状とするために必要な切込み量が切削加工1回あたりの切込み量の整数倍である場合は最終パスが目標寸法合わせ区間とならない。このように、学習対象特定部14は、繰り返しパスにおける特徴量のうち、アプローチ区間および目標寸法合わせ区間のいずれにも該当しない区間で収集された物理量の特徴量を特定し、学習対象の特徴量とする。
【0056】
学習対象特定部14は、繰り返しパスにおける特徴量から学習対象の特徴量を特定する際に、物理量の平均値、中央値などの特徴量が最大のパスを中心として、隣接するパス間の特徴量の変化量が定められた範囲内であったパスにおける特徴量、例えば、特徴量の変化量が±10%以内のパスにおける特徴量を学習対象に決定してもよい。
【0057】
学習対象特定部14は、学習対象の特徴量を、同じ区間に対して同じ加工を繰り返し実行して目標寸法まで加工する際に収集された物理量の特徴量に限定してもよい。この場合、学習部15が学習済モデルを生成するための機械学習において、同じ加工を繰り返す場合の特徴量のトレンドを学習することが可能となる。
【0058】
図7の説明に戻り、加工診断装置1は、次に、加工条件ごとに学習済モデルを生成する(ステップS14)。具体的には、学習部15が、学習対象特定部14により作成された、加工条件ごとの学習用データを用いて機械学習を行い、加工条件のそれぞれに対応する複数の学習済モデルを生成する。学習は、加工条件ごとに学習用データとされた特徴量からモデルを生成し、モデル生成に用いた学習データまたは他の学習対象データより、主成分距離値や、ニューラルネットワークの異常度などを算出し、学習対象データ内のピーク値を正常異常判定閾値として取り出す。または、品質値を目的変数として、加工条件ごとの学習用データを用いて機械学習によって品質予測モデルを生成してもよい。すなわち、学習部15は、数値制御工作機械7の加工機90が被加工物WAを加工中に収集された物理量の特徴量に基づいて加工結果を推論するための学習済モデルを生成する。学習完了後の加工においては、加工後に算出した特徴量を元に学習済モデルが主成分距離値や、ニューラルネットワークの異常度が定められた正常異常判定閾値を超過しない場合は正常加工とし、または、学習済モデルで品質値を予測する場合は寸法(以下、実寸法と称する場合がある)、曲率、真直度、面粗度などの予測値が目標形状の寸法(以下、目標寸法と称する場合がある)との誤差が規定の範囲内である場合は正常とする。学習部15は、機械学習において、主成分分析、重回帰分析、サポートベクタマシン、決定木、勾配ブースティング決定木、ニューラルネットワークなどの機械学習手法を用いる。
【0059】
学習部15は、実寸法と目標寸法との誤差を加工結果とし、誤差と、学習用データとされた特徴量との関係を学習してもよい。この場合、学習部15は、数値制御工作機械7の加工機90が被加工物WAを加工中に収集された物理量の特徴量に基づいて加工品質を推論するための学習済モデル、具体的には、目標寸法と実寸法との誤差を推論するための学習済モデルを生成する。
【0060】
学習部15は、加工に用いた工具の摩耗状態と、学習用データとされた特徴量との関係を学習してもよい。この場合、学習部15は、数値制御工作機械7の加工機90が被加工物WAを加工中に収集された物理量の特徴量に基づいて工具の摩耗状態を推論するための学習済モデルを生成する。摩耗状態は、交換が必要な程度まで工具の刃が摩耗しているか否かの情報であってもよいし、工具の刃の初期状態(新品状態)からの実際の摩耗量であってもよいし、摩耗の程度、例えば、新品の状態を0%、交換が必要な状態を100%として、何%摩耗しているかを示す数値であってもよい。学習部15は、加工機90が1つの区間に対して同じ加工を繰り返し実行して目標寸法まで切削を行う場合、繰り返しパスのそれぞれにおける特徴量と工具の摩耗状態との関係を学習してもよいし、繰り返しパスごとの特徴量のトレンドと工具の摩耗状態との関係を学習してもよい。繰り返しパス前後で特徴量の差を取り、差のトレンドと工具の摩耗状態との関係を学習してもよい。工具が摩耗すると、加工中に収集される物理量の特徴量に変化が生じる。すなわち、工具の摩耗状態と特徴量または特徴量の差との間には相関がある。このため、繰り返しパスごとの特徴量のトレンドを学習することで、工具の摩耗状態を高精度に推論可能な学習済モデルを生成できる。
【0061】
このように、加工診断装置1は、数値制御工作機械7を診断するためのモデルの学習において、加工中に収集された物理量と、物理量を収集したときの加工条件とを数値制御装置70から取得し、物理量の特徴量と加工条件とに基づいて、加工条件ごとの学習用データを作成し、加工条件ごとの学習用データを用いた学習を行い加工条件ごとの学習済モデルを生成する。また、加工診断装置1は、加工条件ごとの学習用データを生成する際、加工中に収集された物理量の特徴量のうち、取得した加工条件で実際に被加工物を加工中に収集された物理量に基づいて算出した特徴量を特定して学習用データを作成する。
【0062】
加工診断装置1は、加工条件ごとの学習済モデルを複数種類生成してもよい。加工診断装置1は、例えば、加工機90が実施した加工が正常であるか異常であるかを推論するための学習済モデルと工具の摩耗状態を推論するための学習済モデルとを加工条件ごとに作成してもよい。加工診断装置1は、例えば、目標寸法と実寸法との誤差を推論するための学習済モデルと、工具の摩耗状態を推論するための学習済モデルとを加工条件ごとに生成してもよい。
【0063】
<活用フェーズ>
図10は、実施の形態にかかる加工診断装置1が学習済モデルを用いて数値制御工作機械7による加工結果を診断する動作の一例を示すフローチャートである。
【0064】
加工診断装置1は、まず、数値制御工作機械7の診断処理で必要なデータを取得する(ステップS31)。具体的には、データ取得部11が、被加工物WAを加工中の加工機90から収集した加工動作に関する物理量と、加工条件とを数値制御装置70から周期的に取得する。このステップS31においてデータ取得部11が取得するデータは、上述した学習フェーズのステップS11において収集するデータと同じ種類のデータである。
【0065】
加工診断装置1は、次に、ステップS31で取得したデータに含まれる物理量の特徴量を算出する(ステップS32)。具体的には、特徴量算出部12が、定められたタイミングで、上述した学習フェーズのステップS12で算出する特徴量と同様の特徴量を算出する。加工診断装置1は、例えば、データ取得部11がステップS31でデータを取得する周期の整数倍の周期で特徴量を算出する。加工診断装置1は、データ取得部11がステップS31で取得したデータに含まれる加工条件が変化した場合に、すなわち、データ取得部11が取得した最新のデータに含まれる加工条件がその前に取得したデータに含まれる加工条件と異なる場合に、変化する前の加工条件での加工中に収集された物理量の特徴量を算出してもよい。特徴量算出部12は、算出した特徴量と、特徴量の算出に用いた物理量が収集されたときの加工条件とを推論部16に出力する。
【0066】
加工診断装置1は、次に、ステップS32で算出した特徴量と、上述した学習フェーズで生成済の学習済モデルとに基づいて、数値制御工作機械7の加工機90による加工結果を推定する(ステップS33)。具体的には、推定部である推論部16が、特徴量算出部12から入力された特徴量と、特徴量算出部12から入力された加工条件に対応する学習済モデルとに基づいて加工結果を推定する加工診断を実行する。推論部16は、特徴量を学習済モデルに入力し、これに伴い学習済モデルから出力される、推定された加工結果を取得する。
【0067】
加工診断装置1は、次に、ステップS33での推定結果を出力する(ステップS34)。具体的には、ステップS33で推論部16が推定した加工結果を報知部17が数値制御装置70に出力する。
【0068】
なお、加工診断装置1は、ステップS33において工具の摩耗状態を推定し、工具の交換が必要な摩耗量に達したと推定した場合、ステップS34において、交換が必要な工具の情報を数値制御装置70に通知して工具の交換を指示してもよい。
【0069】
学習フェーズでも説明したように、同じ加工条件で繰り返し実行する加工であっても、アプローチ区間では、加工条件で示される切込み量での加工が行われない。すなわち、加工開始からアプローチ区間が終了するまでの区間で収集される物理量は、同じ加工条件で加工を行う他の区間で収集される物理量と大きく異なる。よって、アプローチ区間では学習済モデルを使用して正しい診断を行うことができず、診断を行った場合には診断結果が異常加工となる。このため、加工診断装置1は、繰り返し加工を開始後、アプローチ区間が終了して診断結果が初めて正常加工となるまで待ち、実際の診断を開始する。具体的には、加工診断装置1は、繰り返し加工を開始してから診断結果が初めて正常加工となるまでの間の診断結果は無効なものとして扱う。図11は、実施の形態にかかる加工診断装置1による診断動作の一例を示すフローチャートである。
【0070】
加工診断装置1は、まず、図10に示すステップS31~S33と同様の処理を実行して加工結果を推定し(ステップS41)、推定結果が正常加工であるか否かを確認する(ステップS42)。推定結果が異常加工である場合(ステップS42:No)、加工診断装置1は、推定結果が無効と判断してステップS41に戻り、加工結果の推定を再度行う。
【0071】
推定結果が正常加工である場合(ステップS42:Yes)、加工診断装置1は、診断を開始し(ステップS43)、加工結果を推定する(ステップS44)。このステップS44では、図10に示すステップS31~S34と同様の処理を実行し、加工結果の推定と推定した加工結果の出力とを行う。
【0072】
加工診断装置1は、ステップS44で加工結果を推定した後、推定結果が異常加工であるか否かを確認する(ステップS45)。推定結果が正常加工である場合(ステップS45:No)、加工診断装置1は、ステップS44に戻り、加工結果の推定と推定した加工結果の出力とを再度行う。一方、推定結果が異常加工である場合(ステップS45:Yes)、加工診断装置1は、最終パスであるか否か、すなわち、最終パスにおいて推定結果が異常加工となったのか否かを確認する(ステップS46)。最終パスにおいて推定結果が異常加工となった場合(ステップS46:Yes)、他のパスでの切込み量とは異なる切込み量で加工を行ったことが原因であるため、加工診断装置1は、そのまま動作を終了する。一方、最終パス以外において推定結果が異常加工となった場合(ステップS46:No)、使用した工具の折損または欠損が原因で特徴量の変化量が正常加工時とは異なる傾向となり、推定結果が異常加工となった可能性がある。このため、加工診断装置1は、工具が異常であることを数値制御工作機械7の数値制御装置70に通知し(ステップS47)、診断動作を終了する。
【0073】
このように、加工診断装置1は、被加工物WAを加工中の加工機90から収集した加工動作に関する物理量と、物理量を収集したときの加工条件とを数値制御装置70から取得し、取得した物理量の特徴量と、取得した加工条件に対応する学習済モデルとを用いて、数値制御工作機械7の加工診断、具体的には、数値制御工作機械7が備える加工機90による加工結果の推定を行う。
【0074】
なお、本実施の形態では、数値制御装置70が加工プログラム生成部79を備え、加工プログラム生成部79が、加工プログラムを生成することとしたが、このような構成に限定するものではない。CAD(Computer Aided Design)システムで作成された被加工物WAの目標形状の図面データに基づいてCAM(Computer Aided Manufacturing)システムが加工プログラムを作成する構成としてもよい。
【0075】
CAMシステムが加工プログラムを作成する場合、作業者が、CADシステムで作成された目標形状の図面から過去の類似加工の経験(過去に同一工具で切削した切削条件)などを参考にしながら切り取り量をCAMシステムに設定し、また、工具の通過点を示す座標情報をCAMシステムに登録する。作業者により必要な設定および登録が行われ、さらに、加工プログラムの作成が指示されると、CAMシステムは、登録された座標情報、および、設定された加工条件(ワーク材質、使用工具、周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量)に基づいて加工プログラムを自動生成する。CAMシステムは、加工プラグラムの行毎にどのような加工条件で加工を行うかの情報(以下、行毎加工条件情報と称する)を保持している。このため、加工診断装置1は、加工プログラム名と一緒に、行毎加工条件情報をCAMシステムから予め取得して記憶部13で保持しておく。加工診断装置1は、数値制御工作機械7で加工が実施されると、実行している加工プログラム名と、数値制御装置70が収集した物理量と、加工プログラムの実行中のステップの情報(以下、実行中ステップ情報と称する)とを数値制御装置70から取得し、取得した実行中ステップ情報と、記憶部13で保持している行毎加工条件情報とを突き合わせることで、取得した物理量が得られたときの加工条件を特定する。これにより、加工診断装置1は、加工条件ごとの学習用データを作成して機械学習を行い、加工条件ごとの学習済モデルを生成することができる。また、加工診断装置1は、加工条件ごとの学習済モデルを用いて、数値制御工作機械7による加工結果の診断を行うことができる。
【0076】
以上説明したように、本実施の形態にかかる加工診断装置1は、数値制御装置70および加工機90を備える数値制御工作機械7から、加工機90が被加工物WAを加工しているときに収集された物理量と、物理量が収集されたときの加工条件とを取得し、取得した物理量および加工条件を用いて機械学習を行い、数値制御工作機械7を診断するための学習済モデルを、加工条件ごとに生成する。また、加工診断装置1は、学習済モデルを生成した後は、加工機90が被加工物WAを加工しているときに収集された物理量と、物理量が収集されたときの加工条件とを取得し、取得した加工条件に対応する学習済モデルと、取得した物理量の特徴量とに基づいて、数値制御工作機械7の加工診断を行う。本実施の形態にかかる加工診断装置1は、物理量を収集したときの加工条件(ワーク材質、使用工具、周速、送り速度、径方向切込み量、軸方向切込み量)を考慮して加工診断を行うので、診断対象の数値制御工作機械7の加工機90が多品種少量生産のための加工を行う場合でも、数値制御工作機械7の加工診断を行うことができる。
【0077】
加工診断装置1は、数値制御工作機械7の加工診断動作において、加工区間ごとに異なる内容の診断を行うようにしてもよい。加工診断装置1は、例えば、加工機90が1つの加工区間に対して同じ加工を繰り返し実行して目標寸法まで切削を行う場合は工具の摩耗状態および加工結果を診断し、加工機90が1つの加工区間に対して同じ加工を繰り返さない(1回だけ加工を行う)場合は加工結果のみを診断するようにしてもよい。また、加工診断装置1は、加工機90が1つの加工区間に対して同じ加工を繰り返し実行して目標寸法まで切削を行う場合にのみ、工具の摩耗状態および加工結果のいずれか一方、または両方を診断するようにしてもよい。
【0078】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【0079】
例えば、実施の形態では、学習部15および推論部16が加工診断装置1の内部に設けられる構成について説明したが、学習部15および推論部16の一方または両方が加工診断装置1の外部に設けられてもよい。例えば、学習部15が外部の学習装置に設けられ、また、推論部16が外部の推論装置に設けられ、これらの学習装置および推論装置が通信ネットワークなどを介して加工診断装置1に接続される形態としてもよい。また、加工診断装置1が数値制御工作機械7に含まれる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 加工診断装置、7 数値制御工作機械、11 データ取得部、12 特徴量算出部、13,72 記憶部、14 学習対象特定部、15 学習部、16 推論部、17 報知部、51,71 プロセッサ、52 主記憶部、53 補助記憶部、54 入力部、55 出力部、56 通信部、70 数値制御装置、73 外部接続I/F、74 操作パネルI/F、75 主軸制御I/F、76 サーボ制御I/F、77 デジタル入力部、78 デジタル出力部、79 加工プログラム生成部、80 外部センサ、82 NC操作パネル、85 主軸アンプ、86 サーボアンプ、90 加工機、91 主軸、92,201 工具、93 主軸モータ、94 テーブル、95 移動機構、96x,96y,96z サーボモータ、100 工作機械システム、202 刃、203 被加工物。
【要約】
加工診断装置(1)は、被加工物を加工する加工機(90)の動作状態に関する物理量と、物理量が得られたときの加工条件とを取得するデータ取得部(11)と、物理量および加工条件に基づいて、同じ加工条件での加工中に得られた物理量の統計的な特徴量を加工条件ごとに算出する特徴量算出部(12)と、加工条件ごとの統計的な特徴量に基づいて、加工診断する推論部(16)と、を備える。
図1
図2
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図4
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図6
図7
図8
図9
図10
図11