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特許7706744画像による塗膜厚計測方法、塗膜厚計測プログラム、及び塗膜厚計測システム
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  • 特許-画像による塗膜厚計測方法、塗膜厚計測プログラム、及び塗膜厚計測システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-04
(45)【発行日】2025-07-14
(54)【発明の名称】画像による塗膜厚計測方法、塗膜厚計測プログラム、及び塗膜厚計測システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20250707BHJP
【FI】
G01B11/06 H
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021138655
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2023032494
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】藤本 修平
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-055504(JP,A)
【文献】特表2008-516017(JP,A)
【文献】特開2010-276349(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0141931(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01J 3/00- 4/04
G01J 7/00- 9/04
G01N 21/84-21/958
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像により塗膜厚を計測する方法であって、
対象とする塗料の膜厚を変えて塗った塗膜を有した複数の試験片に対して、光を照射し前記塗膜の散乱係数(S)と、吸収係数(K)を推定し決定するパラメータ決定ステップと、
前記散乱係数(S)と前記吸収係数(K)をKubelka-Munk理論に基づいた前記塗膜の反射光強度(R(T))と塗膜厚(T)の関係式に適用し膜厚推定式を導出する膜厚推定式導出ステップと、
計測対象とする対象物に塗った前記塗膜に対して照明を行い、撮像手段で反射光を画像として取得する画像取得ステップと、
前記画像から反射光強度(R(T))を求め前記膜厚推定式に適用し前記塗膜厚(T)を求める塗膜厚計算ステップと、
求めた前記塗膜厚(T)を提供する塗膜厚提供ステップとを有することを特徴とする画像による塗膜厚計測方法。
【請求項2】
前記パラメータ決定ステップにおける前記散乱係数(S)と、前記吸収係数(K)の推定は、想定される前記膜厚に対して十分な数の前記試験片を準備し、前記反射光強度(R(T))と前記塗膜厚(T)の測定の結果に基づいてLevenberg-Marquard法を含む非線形最小二乗法を用いて推定することを特徴とする請求項1に記載の画像による塗膜厚計測方法。
【請求項3】
前記膜厚推定式導出ステップにおいて、実際に計測した前記塗膜の計測膜厚を用いて前記膜厚推定式をフィッティングするフィッティングステップをさらに有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の画像による塗膜厚計測方法。
【請求項4】
前記パラメータ決定ステップにおける前記光と、前記画像取得ステップにおける前記照明を同じ条件の光としたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の画像による塗膜厚計測方法。
【請求項5】
前記撮像手段をスペクトルカメラとしたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の画像による塗膜厚計測方法。
【請求項6】
前記塗料を塗った前記膜厚が既知の塗膜サンプルを複数枚制作し、同一条件下で取得した前記塗膜サンプルサンプル画像取得するサンプル画像取得ステップと、前記画像取得ステップで取得した複数枚の前記塗膜サンプルも計測時サンプル画像として取得し、前記サンプル画像と前記計測時サンプル画像とを比較し前記散乱係数(S)と、前記吸収係数(K)を補正するパラメータ補正ステップを有したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の画像による塗膜厚計測方法。
【請求項7】
前記塗膜サンプルの前記膜厚は、計測対象とする前記対象物の前記塗膜の略上限と略下限の前記膜厚であることを特徴とする請求項6に記載の画像による塗膜厚計測方法。
【請求項8】
前記反射光強度(R(T))として彩度を用いることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の画像による塗膜厚計測方法。
【請求項9】
対象とする前記塗料は、計測対象とする前記対象物の前記塗膜の前記膜厚の範囲において、前記塗膜の反射光強度(R(T))が飽和を起こさない波長帯を有する塗料であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の画像による塗膜厚計測方法。
【請求項10】
画像により塗膜厚を計測するプログラムであって、
コンピュータに、
対象とする塗料の膜厚を変えて塗った塗膜を有した複数の試験片に対して、光を照射し前記塗膜の散乱係数(S)と、吸収係数(K)を推定し決定したパラメータを取得するパラメータ取得ステップと、
前記散乱係数(S)と前記吸収係数(K)をKubelka-Munk理論に基づいた前記塗膜の反射光強度(R(T))と塗膜厚(T)の関係式に適用し膜厚推定式を導出する膜厚推定式導出ステップと、
計測対象とする対象物に塗った前記塗膜に対して照明を行い、撮像手段で反射光を画像として取得する画像取得ステップと、
前記画像から反射光強度(R(T))を求め前記膜厚推定式に適用し前記塗膜厚(T)を求める塗膜厚計算ステップと、
求めた前記塗膜厚(T)を提供する塗膜厚提供ステップとを実行させることを特徴とする画像による塗膜厚計測プログラム。
【請求項11】
前記コンピュータに、
前記塗料を塗った前記膜厚が既知の塗膜サンプルを複数枚制作し、同一条件下で取得した前記塗膜サンプルのサンプル画像を取得するサンプル画像取得ステップと、
前記画像取得ステップで取得した複数枚の前記塗膜サンプルも計測時サンプル画像として取得し、前記サンプル画像と前記計測時サンプル画像とを比較し前記散乱係数(S)と、前記吸収係数(K)を補正するパラメータ補正ステップとを実行させることを特徴とする請求項10に記載の画像による塗膜厚計測プログラム。
【請求項12】
画像により塗膜厚を計測するシステムであって、
対象とする塗料の塗膜の散乱係数(S)と、吸収係数(K)をKubelka-Munk理論に基づいた前記塗膜の反射光強度(R(T))と塗膜厚(T)の関係式に適用し膜厚推定式を導出する膜厚推定式導出手段と、
計測対象とする対象物の前記塗膜に対して照明を行い、反射光を撮像手段で画像として取得する画像取得手段と、
前記画像から反射光強度(R(T))を求め前記膜厚推定式に適用し前記塗膜厚(T)を求める塗膜厚計算手段と、
求めた前記塗膜厚(T)を提供する塗膜厚提供手段とを備えたことを特徴とする画像による塗膜厚計測システム。
【請求項13】
前記画像取得手段における前記照明を、前記散乱係数(S)と前記吸収係数(K)を求めるときと同じ条件の光としたことを特徴とする請求項12に記載の画像による塗膜厚計測システム。
【請求項14】
前記撮像手段をスペクトルカメラとしたことを特徴とする請求項12又は請求項13に記載画像による塗膜厚計測システム。
【請求項15】
厚が既知の複数枚の塗膜サンプルの画像を同一条件下で取得したサンプル画像を記憶するサンプル画像記憶手段と、計測時に前記画像取得手段で取得した複数枚の前記塗膜サンプルの計測時サンプル画像と前記サンプル画像とを比較し前記散乱係数(S)と、前記吸収係数(K)を補正するパラメータ補正手段を備えたことを特徴とする請求項12から請求項14のいずれか1項に記載の画像による塗膜厚計測システム。
【請求項16】
前記反射光強度(R(T))として彩度を用いることを特徴とする請求項12から請求項15のいずれか1項に記載の画像による塗膜厚計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像により塗膜厚を計測する、画像による塗膜厚計測方法、塗膜厚計測プログラム、及び塗膜厚計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
造船塗装では、所定の塗装膜厚が確実に塗布されることが特に重要である。そのため、塗装の作業現場で作業者自身が所定膜厚の塗装が達成できたか否かを目視により確認するひとつの方策として、「Self-indicating(SI)機能」を有するSI塗料が開発されている。SI塗料は、塗料中の顔料成分の調整により所定膜厚に達するまで段階的に塗膜の色味が変化していく塗料であり、下地の色が見えなくなるまで塗料を塗り重ねれば所定膜厚が確実に確保できるとされている。
また、現場での塗装膜厚測定法は、電磁式あるいは超音波式膜厚計(乾燥状態の塗膜用)や、ウェットゲージ(湿潤状態の塗膜用)によって行われてきた。
【0003】
特許文献1には、表面粗さ判定部によって表面粗さ度(膜厚に対応する値)を判定し、通常は第1膜厚演算手段によって粗さ度と、粗さ度の時間変化量と、波長分布と、塗装条件とに基づいて塗装膜厚を算出するが、表面粗さ度が基準粗さ度以上(膜厚が40μm以下の薄い状態に相当する)の場合には、第2膜厚演算手段によって波長分布に基づいて塗装の膜厚を演算するように構成した塗装膜厚計測装置が開示されている。
また、特許文献2には、被塗物である鋼材に塗料を塗布して塗膜を施した塗装面に光を照射する光源と、反射光の色情報を計測する計測器と、該計測器で得られた色情報を膜厚に変換処理する信号処理手段とからなり、塗装面のスポット部の膜厚を非接触で測定する塗膜膜厚計測装置が開示されている。
また、特許文献3には、紫外線吸収剤を混入した透明な塗膜が形成された標準試験体の表面に照射した紫外線の反射率と、塗膜の膜厚とから膜厚の検量線図を予め作成しておき、標準試験体と同一組成の透明な塗料を基材表面に塗布して製造した被試験体の表面に紫外線を照射し、該紫外線の反射率から検量線図を基にして被試験体の膜厚を算出するようにした塗膜の膜厚測定方法が開示されている。
また、特許文献4には、ロールから銅板のシートを順次繰出し、塗工部にて酸化チタン塗料を塗布し、乾燥炉にて乾燥させた後、膜測定装置にて酸化チタンの膜厚を測定するにあたって、カラーCCDセンサを用い、シートの幅方向の全長に亘って撮像し、得られた映像信号を、コントローラのビデオボードにてRGBの各色成分の階調データに変換し、その内、測定に有効なGまたはBのデータを、演算回路が基準厚みテーブルに格納されている基準値に対照して該当する膜厚を求め、許容範囲から外れていると、マーカーにマーキングさせることで、酸化チタンの膜厚および重量を正確に測定し、塗工部での塗工量をFB(フィードバック)制御し、膜厚を一定に維持できる膜測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-105612号公報
【文献】特開2001-116520号公報
【文献】特開2003-4419号公報
【文献】特開2007-61780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電磁式/超音波式膜厚計やウェットゲージによる膜厚測定は、基本的に点計測であり、塗装膜厚の面的評価(塗装膜厚の分布計測)は困難である。
また、特許文献1の塗装膜厚計測装置は、計測したウェット膜厚から演算により乾燥後のドライ膜厚を予測するものであるため、取得したドライ膜厚の数値精度が低い可能性がある。
また、特許文献2の塗膜膜厚計測装置は、色強度等の色情報と膜厚との相対関係により膜厚を測定するに過ぎず、膜厚の計測精度が十分でない可能性がある。
また、特許文献3の膜厚測定方法は、透明な塗膜を対象としており、不透明な塗膜にも適用できるものではない。
また、特許文献4の膜測定装置は、工場で製膜されたフィルム状又はシート状の基材の膜厚を対象としており、造船塗装等にも適用できるものではない。
そこで本発明は、非接触かつ面的な膜厚測定を高精度に行うことができる、画像による塗膜厚計測方法、塗膜厚計測プログラム、及び塗膜厚計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応した画像による塗膜厚計測方法においては、画像により塗膜厚を計測する方法であって、対象とする塗料の膜厚を変えて塗った塗膜を有した複数の試験片に対して、光を照射し塗膜の散乱係数(S)と、吸収係数(K)を推定し決定するパラメータ決定ステップと、散乱係数(S)と吸収係数(K)をKubelka-Munk理論に基づいた塗膜の反射光強度(R(T))と塗膜厚(T)の関係式に適用し膜厚推定式を導出する膜厚推定式導出ステップと、計測対象とする対象物に塗った塗膜に対して照明を行い、撮像手段で反射光を画像として取得する画像取得ステップと、画像から反射光強度(R(T))を求め膜厚推定式に適用し塗膜厚(T)を求める塗膜厚計算ステップと、求めた塗膜厚(T)を提供する塗膜厚提供ステップとを有することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、画像を用いて非接触かつ面的な膜厚測定を高精度に行うことができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、パラメータ決定ステップにおける散乱係数(S)と、吸収係数(K)の推定は、想定される膜厚に対して十分な数の試験片を準備し、反射光強度(R(T))と塗膜厚(T)の測定の結果に基づいてLevenberg-Marquard法を含む非線形最小二乗法を用いて推定することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、塗膜の散乱係数(S)と吸収係数(K)を精度よく推定することができる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、膜厚推定式導出ステップにおいて、実際に計測した塗膜の計測膜厚を用いて膜厚推定式をフィッティングするフィッティングステップをさらに有することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、計測膜厚を用いてフィッティングさせた膜厚推定式から塗膜厚(T)を更に精度よく算出することができる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、パラメータ決定ステップにおける光と、画像取得ステップにおける照明を同じ条件の光としたことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、パラメータ決定ステップで決定した散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することなく同一条件のもとで膜厚計測を行うことができる。
【0010】
請求項5記載の本発明は、撮像手段をスペクトルカメラとしたことを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、特定波長の波長帯のスペクトル画像を取得し、波長帯別の反射光強度(R(T))を精度よく計測することができる。
【0011】
請求項6記載の本発明は、塗料を塗った膜厚が既知の塗膜サンプルを複数枚制作し、同一条件下で取得した塗膜サンプルサンプル画像取得するサンプル画像取得ステップと、画像取得ステップで取得した複数枚の塗膜サンプルも計測時サンプル画像として取得し、サンプル画像と計測時サンプル画像とを比較し散乱係数(S)と、吸収係数(K)を補正するパラメータ補正ステップを有したことを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、塗膜サンプルのサンプル画像と計測時サンプル画像を比較して散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することにより、サンプル画像と計測時サンプル画像の計測条件の違いを考慮して、塗膜厚(T)を精度よく計測することができる。
【0012】
請求項7記載の本発明は、塗膜サンプルの膜厚は、計測対象とする対象物の塗膜の略上限と略下限の膜厚であることを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、少ない塗膜サンプル数であっても、塗膜厚(T)を的確に、より高精度に計測することができる。
【0013】
請求項8記載の本発明は、反射光強度(R(T))として彩度を用いることを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、可視光領域であっても、反射光強度(R(T))としての彩度に基づいて塗膜厚(T)をより高精度に計測することができる。
【0014】
請求項9記載の本発明は、対象とする塗料は、計測対象とする対象物の塗膜の膜厚の範囲において、塗膜の反射光強度(R(T))が飽和を起こさない波長帯を有する塗料であることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、反射光強度(R(T))の飽和を起こさない波長帯を有する塗料を利用することで、波長帯を選択することにより、厚膜領域においても膜厚測定を可能とすることができる。
【0015】
請求項10記載に対応した画像による塗膜厚計測プログラムにおいては、画像により塗膜厚を計測するプログラムであって、コンピュータに、対象とする塗料の膜厚を変えて塗った塗膜を有した複数の試験片に対して、光を照射し塗膜の散乱係数(S)と、吸収係数(K)を推定し決定したパラメータを取得するパラメータ取得ステップと、散乱係数(S)と吸収係数(K)をKubelka-Munk理論に基づいた塗膜の反射光強度(R(T))と塗膜厚(T)の関係式に適用し膜厚推定式を導出する膜厚推定式導出ステップと、計測対象とする対象物に塗った塗膜に対して照明を行い、撮像手段で反射光を画像として取得する画像取得ステップと、画像から反射光強度(R(T))を求め膜厚推定式に適用し塗膜厚(T)を求める塗膜厚計算ステップと、求めた塗膜厚(T)を提供する塗膜厚提供ステップとを実行させることを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、画像による塗膜厚計測方法を、より正確かつ迅速に実行し、非接触かつ高精度に膜厚測定を行うことができる。
【0016】
請求項11記載の本発明は、コンピュータに、前記塗料を塗った前記膜厚が既知の塗膜サンプルを複数枚制作し、同一条件下で取得した前記塗膜サンプルのサンプル画像を取得するサンプル画像取得ステップと、
前記画像取得ステップで取得した複数枚の前記塗膜サンプルも計測時サンプル画像として取得し、前記サンプル画像と前記計測時サンプル画像とを比較し前記散乱係数(S)と、前記吸収係数(K)を補正するパラメータ補正ステップとを実行させることを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することにより、サンプル画像と計測時サンプル画像の計測条件の違いを考慮して、塗膜厚(T)を精度よく迅速に計測することができる。
【0017】
請求項12記載に対応した画像による塗膜厚計測システムにおいては、画像により塗膜厚を計測するシステムであって、対象とする塗料の塗膜の散乱係数(S)と、吸収係数(K)をKubelka-Munk理論に基づいた塗膜の反射光強度(R(T))と塗膜厚(T)の関係式に適用し膜厚推定式を導出する膜厚推定式導出手段と、計測対象とする対象物の塗膜に対して照明を行い、反射光を撮像手段で画像として取得する画像取得手段と、画像から反射光強度(R(T))を求め膜厚推定式に適用し塗膜厚(T)を求める塗膜厚計算手段と、求めた塗膜厚(T)を提供する塗膜厚提供手段とを備えたことを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、画像を用いて非接触かつ面的な膜厚測定を高精度に行うことができる。
【0018】
請求項13記載の本発明は、画像取得手段における照明を、散乱係数(S)と吸収係数(K)を求めるときと同じ条件の光としたことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、求めた散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することなく同一条件のもとで膜厚計測を行うことができる。
【0019】
請求項14記載の本発明は、撮像手段をスペクトルカメラとしたことを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、特定波長の波長帯のスペクトル画像を取得し、波長帯別の反射光強度(R(T))を精度よく計測することができる。
【0020】
請求項15記載の本発明は、膜厚が既知の複数枚の塗膜サンプルの画像を同一条件下で取得したサンプル画像を記憶するサンプル画像記憶手段と、計測時に画像取得手段で取得した複数枚の塗膜サンプルの計測時サンプル画像とサンプル画像とを比較し散乱係数(S)と、吸収係数(K)を補正するパラメータ補正手段を備えたことを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、塗膜サンプルのサンプル画像と計測時サンプル画像を比較して散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することにより、サンプル画像と計測時サンプル画像の計測条件の違いを考慮して、塗膜厚(T)を精度よく計測することができる。
【0021】
請求項16記載の本発明は、反射光強度(R(T))として彩度を用いることを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、可視光領域であっても、反射光強度(R(T))としての彩度に基づいて塗膜厚(T)をより高精度に計測することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の画像による塗膜厚計測方法によれば、画像を用いて非接触かつ面的な膜厚測定を高精度に行うことができる。
【0023】
また、パラメータ決定ステップにおける散乱係数(S)と、吸収係数(K)の推定は、想定される膜厚に対して十分な数の試験片を準備し、反射光強度(R(T))と塗膜厚(T)の測定の結果に基づいてLevenberg-Marquard法を含む非線形最小二乗法を用いて推定する場合には、塗膜の散乱係数(S)と吸収係数(K)を精度よく推定することができる。
【0024】
また、膜厚推定式導出ステップにおいて、実際に計測した塗膜の計測膜厚を用いて膜厚推定式をフィッティングするフィッティングステップをさらに有する場合には、計測膜厚を用いてフィッティングさせた膜厚推定式から塗膜厚(T)を更に精度よく算出することができる。
【0025】
また、パラメータ決定ステップにおける光と、画像取得ステップにおける照明を同じ条件の光とした場合には、パラメータ決定ステップで決定した散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することなく同一条件のもとで膜厚計測を行うことができる。
【0026】
また、撮像手段をスペクトルカメラとした場合には、特定波長の波長帯のスペクトル画像を取得し、波長帯別の反射光強度(R(T))を精度よく計測することができる。
【0027】
また、塗料を塗った膜厚が既知の塗膜サンプルを複数枚制作し、同一条件下で取得した塗膜サンプルサンプル画像取得するサンプル画像取得ステップと、画像取得ステップで取得した複数枚の塗膜サンプルも計測時サンプル画像として取得し、サンプル画像と計測時サンプル画像とを比較し散乱係数(S)と、吸収係数(K)を補正するパラメータ補正ステップを有した場合には、塗膜サンプルのサンプル画像と計測時サンプル画像を比較して散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することにより、サンプル画像と計測時サンプル画像の計測条件の違いを考慮して、塗膜厚(T)を精度よく計測することができる。
【0028】
また、塗膜サンプルの膜厚は、計測対象とする対象物の塗膜の略上限と略下限の膜厚である場合には、少ない塗膜サンプル数であっても、塗膜厚(T)を的確に、より高精度に計測することができる。
【0029】
また、反射光強度(R(T))として彩度を用いる場合には、可視光領域であっても、反射光強度(R(T))としての彩度に基づいて塗膜厚(T)をより高精度に計測することができる。
【0030】
また、対象とする塗料は、計測対象とする対象物の塗膜の膜厚の範囲において、塗膜の反射光強度(R(T))が飽和を起こさない波長帯を有する塗料である場合には、反射光強度(R(T))の飽和を起こさない波長帯を有する塗料を利用することで、波長帯を選択することにより、厚膜領域においても膜厚測定を可能とすることができる。
【0031】
また、本発明の画像による塗膜厚計測プログラムによれば、画像による塗膜厚計測方法を、より正確かつ迅速に実行し、非接触かつ高精度に膜厚測定を行うことができる。
【0032】
また、コンピュータに、膜厚推定式導出ステップを実行させる場合には、計測膜厚を用いてフィッティングさせた膜厚推定式を正確かつ迅速に導出することができる。
【0033】
また、コンピュータに、サンプル画像取得ステップ及びパラメータ補正ステップを実行させる場合には、散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することにより、サンプル画像と計測時サンプル画像の計測条件の違いを考慮して、塗膜厚(T)を精度よく迅速に計測するができる。
【0034】
また、本発明の画像による塗膜厚計測システムによれば、画像を用いて非接触かつ面的な膜厚測定を高精度に行うことができる。
【0035】
また、画像取得手段における照明を、散乱係数(S)と吸収係数(K)を求めるときと同じ条件の光とした場合には、求めた散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することなく同一条件のもとで膜厚計測を行うことができる。
【0036】
また、撮像手段をスペクトルカメラとした場合には、特定波長の波長帯のスペクトル画像を取得し、波長帯別の反射光強度(R(T))を精度よく計測することができる。
【0037】
また、膜厚が既知の複数枚の塗膜サンプルの画像を同一条件下で取得したサンプル画像を記憶するサンプル画像記憶手段と、計測時に画像取得手段で取得した複数枚の塗膜サンプルの計測時サンプル画像とサンプル画像とを比較し散乱係数(S)と、吸収係数(K)を補正するパラメータ補正手段を備えた場合には、塗膜サンプルのサンプル画像と計測時サンプル画像を比較して散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することにより、サンプル画像と計測時サンプル画像の計測条件の違いを考慮して、塗膜厚(T)を精度よく計測することができる。
【0038】
また、反射光強度(R(T))として彩度を用いる場合には、可視光領域であっても、反射光強度(R(T))としての彩度に基づいて塗膜厚(T)をより高精度に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の実施形態における画像による第一の塗膜厚計測方法のフロー図
図2】同画像による塗膜厚計測システムを機能実現手段で表した機能ブロック図
図3】同塗料の色変化(彩度)に対してパラメータ推定により決定した値に基づくK-M理論の予測値を示す図
図4】同散乱係数(S)と吸収係数(K)の値を変えたときの「膜厚-反射光強度」を示すグラフ
図5】同画像による第二の塗膜厚計測方法のフロー図
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の実施形態における画像による塗膜厚計測方法、塗膜厚計測プログラム、及び塗膜厚計測システムについて説明する。
図1は画像による第一の塗膜厚計測方法のフロー図、図2は画像による塗膜厚計測システムを機能実現手段で表した機能ブロック図である。
図2に示す塗膜厚計測システムは、画像により塗膜厚を計測するシステムであって、膜厚推定式導出手段10と、画像取得手段20と、塗膜厚計算手段30と、塗膜厚提供手段40と、サンプル画像記憶手段50と、パラメータ補正手段60と、撮像手段70と、入力手段80と、表示手段90を備え、画像による塗膜厚計測方法の一部を実行する。
コンピュータ100には、画像取得手段20、塗膜厚計算手段30、塗膜厚提供手段40、サンプル画像記憶手段50、及びパラメータ補正手段60が機能として設けられていると共に、画像による塗膜厚計測プログラムがインストールされている。
膜厚推定式導出手段10は、計測の対象とする塗料の塗膜の散乱係数(S)と吸収係数(K)を、Kubelka-Munk理論に基づいた塗膜の反射光強度(R(T))と塗膜厚(T)の関係式に適用し膜厚推定式を導出する。
画像取得手段20は、計測対象とする対象物110の塗膜111に対して照明を行い、反射光を撮像手段70で画像として取得する。
塗膜厚計算手段30は、取得した画像から反射光強度(R(T))を求め、膜厚推定式に適用し塗膜厚(T)を求める。
塗膜厚提供手段40は、求められた塗膜厚(T)を表示手段90に提供する。
【0041】
図1に示すように、第一の塗膜厚計測方法は、まず、対象とする塗料の膜厚を変えて塗った塗膜を有した複数の試験片1に対して光を照射し、塗膜の散乱係数(S)と、吸収係数(K)を推定して決定する(S1:パラメータ決定ステップ)。複数の試験片1は、塗膜厚の計測対象とする塗料を試験片1ごとに膜厚を異ならせて塗布したものであり、膜厚は既知である。
散乱係数(S)と吸収係数(K)は、塗料ごとに異なる値をとると想定されるパラメータである。
散乱係数(S)は、塗膜厚(T)の増加に対する反射率の増加割合である。極端な例として透明な塗膜の場合は、散乱係数(S)=0(塗膜内での光の反射がない)となる。例えば、塗料中の顔料粒子の反射光の強さを散乱係数(S)で評価することができる。同一の顔料粒子でも含有量が高くなれば散乱係数(S)も大きくなるといった変化が考えられ、また、高反射性の顔料粒子を用いれば散乱係数(S)も大きくなると考えられる。
吸収係数(K)は、塗膜厚(T)の増加に対する透過率の減少割合であり、塗膜111に入射した光の減衰のようなイメージである。樹脂ごとに吸収スペクトルの違いがあるため、樹脂の種類ごとに吸収係数(K)の値は異なり、また、入射光の波長帯によっても減衰の仕方は異なるものと想定される。
【0042】
パラメータ決定ステップS1はラボ実験等でも実施可能であり、塗膜の散乱係数(S)と吸収係数(K)は、現場での膜厚計測前に予めラボ実験で求めておくことができる。計測対象となる塗料や光源の組合せに対して散乱係数(S)と吸収係数(K)を予め測定しておけば、撮影機器や光源120などの諸条件をラボ実験時と同等のものとするなど撮影条件を整えることにより、現場でのワンショット撮影で膜厚分布を計測することが可能となる。
パラメータ決定ステップS1における処理手順は、例えば以下の通りである。
1)計測したい膜厚範囲に対して十分な数の試験片1を作成し、準備した各試験片1に光源から光を照射し、スペクトルカメラ等を用いて試験片1を撮影する。
2)撮影により取得した画像を基に、「膜厚-反射光強度」のデータを作成する。
3)作成した「膜厚-反射光強度」のデータを対象に、Levenberg-Marquard法等の非線形最小二乗法などを用いてパラメータ推定を行い、塗膜の散乱係数(S)と、吸収係数(K)を決定する。
このように、パラメータ決定ステップS1において、散乱係数(S)と吸収係数(K)を、想定される膜厚に対して十分な数の試験片1を準備し、測定の結果に基づいてLevenberg-Marquard法を含む非線形最小二乗法を用いて推定することで、塗膜の散乱係数(S)と吸収係数(K)を精度よく推定することができる。
【0043】
パラメータ決定ステップS1の後、求めた散乱係数(S)と吸収係数(K)を、入力手段80を用いてコンピュータ100に入力する。入力手段80は、例えばキーボードやマウス等である。コンピュータ100は、散乱係数(S)と吸収係数(K)をKubelka-Munk理論に基づいた塗膜の反射光強度(R(T))と塗膜厚(T)の関係式に適用し膜厚推定式を導出する(S2:膜厚推定式導出ステップ)。
膜厚推定式導出ステップS2においては、膜厚推定式導出手段10が、Kubelka-Munk理論を利用して、「膜厚-反射光強度」の関係をモデル化する。Kubelka-Munk理論は、物質に入射する光の強度と反射する光の強度を関連付ける理論で、塗料の色合わせなどに広く利用されている。Kubelka-Munk理論では、膜厚(T)と反射光強度(R(T))の関係式は次式(1)で表される。
【数1】
式(1)の逆関数は次式(2)と書け、式(2)が膜厚推定式となる。なお、lnは自然対数である。
【数2】
【0044】
ここで、図3は塗料の色変化(彩度)に対してパラメータ推定により決定した値に基づくK-M理論の予測値を示す図であり、塗膜厚(Dry film thickness)と彩度(Saturation)の関係を表している。なお、彩度は可視光領域における反射光強度(R(T))ともいえる。
図3中の「Measured data」は、市販の電磁式膜厚計で計測した値であり、一枚の試験片1について30回の計測を行った平均値と標準偏差を示している。図3から、塗膜の色変化をよく捉えていることが分かる。膜厚が大きくなると一定値に漸近し(色の飽和に対応)、反射光強度(R(T))が収束するときの値(R)に近い領域では推定誤差が大きくなる。反射光強度(R(T))が収束するときの値(R)は、散乱係数(S)と吸収係数(K)の値による。このように、反射光強度(R(T))として彩度を用いることで、可視光領域であっても、反射光強度(R(T))としての彩度に基づいて塗膜厚(T)をより高精度に計測することができる。すなわち、彩度を利用し可視光領域でもK-M理論に基づいて、塗膜厚(T)を求めることができる。このため、スペクトルカメラを用いなくても塗膜厚(T)を高精度に計測することができる。また、スペクトルカメラやハイパースペクトルカメラにより得た反射光強度(R(T))と、可視光領域のバンドで得られた彩度とを組み合わせて塗膜厚(T)を計測してもよい。なお、二種類程度の膜厚の色見本があれば画像による膜厚推定が可能である。
また、膜厚推定式導出ステップS2においては、実際に計測した塗膜111の計測膜厚を用いて膜厚推定式をフィッティングするフィッティングステップS2-1を有する。図3中の「K-M fitting」は、L-M法でK-M理論(式(1))のパラメータ推定を行い、「Measured data」にフィッティングさせた結果である。このように、膜厚推定式をフィッティングすることで、計測膜厚を用いてフィッティングさせた膜厚推定式である式(2)から塗膜厚(T)を更に精度よく算出することができる。
散乱係数(S)と吸収係数(K)は、塗膜111の材料(顔料や樹脂などの塗料成分)や、計測条件(撮影機器、光源120など)の他、反射光の波長によっても変化する(波長ごとに図3のフィッティング関数の形が変わる)と想定される。
【0045】
船舶においてバラストタンク塗装に用いられるSI塗料(Self Indication塗料)は、IMO(国際海事機関)による塗装性能基準(PSPC)で求められる膜厚320μmで色変化が飽和するように作られている。そのため、320μm以上の膜厚領域では膜厚が増大しても色は変化しなくなり肉眼での膜厚識別が不可能である。
しかし、例えば、ある波長帯では膜厚320μmを越えた範囲でも反射光強度(R(T))が飽和しないなど、反射光の波長によっては、肉眼で識別される色変化とは異なる変化をする場合が想定される。よって、対象とする塗料を、計測対象とする対象物110の塗膜111の膜厚の範囲において、塗膜111の反射光強度(R(T))が飽和を起こさない波長帯を有する塗料とし、反射光強度(R(T))が飽和しない波長帯を利用することで、波長帯を選択することにより、肉眼では膜厚識別が不可能な厚膜領域(320μm以上)での膜厚測定も可能となる。
ここで、図4は散乱係数(S)と吸収係数(K)の値を変えたときの「膜厚-反射光強度」を示すグラフである。線Aは、パラメータ決定ステップS1で算出した散乱係数(S)と吸収係数(K)のオリジナルの値を示し、線Bは、散乱係数(S)と吸収係数(K)をそれぞれオリジナルの値の2倍とした場合を示し、線Cは、散乱係数(S)と吸収係数(K)のをそれぞれオリジナルの値の0.5倍とした場合を示している。いずれの場合も一定値に収束するが、散乱係数(S)と吸収係数(K)の値が小さいほど収束する膜厚値が大きくなる。つまり、散乱係数(S)と吸収係数(K)が小さくなるような塗膜111の材料や波長帯の組合せにより、膜厚320μmを越えた範囲でも膜厚の計測が可能となり得る。
反射光強度(R(T))が収束するときの値(R)は、次式(3)で表される。
【数3】
式(3)を少し変形すると、Rは(K/S)のみの関数として表されることが分かる。つまり、散乱係数(S)と吸収係数(K)の値が変化した場合でも散乱係数(S)と吸収係数(K)の比が一定値であれば、図4に示すようにRは一定値になる。
【0046】
膜厚推定式導出ステップS2の後、計測対象とする対象物110に塗った塗膜111に対して光源120から照明を行い、撮像手段70で反射光を画像として取得する(S3:画像取得ステップ)。
画像取得ステップS3においては、画像取得手段20が、対象物110に対して例えば1cm四方から100cm四方程度の範囲を撮影する。撮影距離は例えば約1.0m~2.0m程度の所定範囲とし、焦点距離は任意である。
ここで、パラメータ決定ステップS1における光と、画像取得ステップS3における照明を同じ条件の光とした場合は、試験片1に対して照射する光の条件と、対象物110に対して照射する光の条件が同一となるため、パラメータ決定ステップS1で決定した散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することなく同一条件のもとで膜厚計測を行うことができる。なお、パラメータ決定ステップS1で使用する光源や、画像取得ステップS3で使用する光源120には、光強度のムラが少ない、撮影用の拡散光源等を使用することが好ましい。また、パラメータ決定ステップS1で使用する光源と、画像取得ステップS3で使用する光源120は、同一の光源であってもよい。
なお、パラメータ決定ステップS1で照射する光と画像取得ステップS3における照明は、白色光、特定の波長を含む光、又は特定の波長の光等、塗膜厚(T)を求めるに当たり相応しい反射光強度(R(T))が得られる光であれば任意に使用が可能である。
【0047】
本実施形態においては、画像取得ステップS3で使用する撮像手段70をスペクトルカメラとしている。これにより、特定波長の波長帯のスペクトル画像を取得し、数種類程度の波長帯別の反射光強度(R(T))を精度よく計測することができる。
また、撮像手段70は、数種類程度の波長帯の反射光強度(R(T))を計測する簡易的な方法として、例えば一般的なデジタルカメラなど、可視光カメラに特定波長帯の光のみを透過させるバンドパスフィルタを装着して撮影を行うものとすることもできる。
また、上述のように、散乱係数(S)と吸収係数(K)は反射光の波長ごとに異なり、例えば膜厚320μmを越えた範囲でも反射光強度(R(T))が飽和しない波長帯があり得る。そこで、撮像手段70として、複数の波長のスペクトルを計測できる多波長分光カメラ(ハイパースペクトルカメラ)を用いることが好ましい。これにより、例えば320μm以上の膜厚を更に精度よく計測することができる。なお、バンド数の多いスペクトルカメラ、又はハイパースペクトルカメラを用いることで、色見本(サンプル)が不要となる可能性もある。なお、撮影後に焦点を変えた画像や立体画像を得ることが可能なライトフィールドカメラを単独で、又はスペクトルカメラやハイパースペクトルカメラと組み合わせて使用することもできる。
【0048】
画像取得ステップS3の後、画像から反射光強度(R(T))を求め、膜厚推定式に適用し塗膜厚(T)を求める(S4:塗膜厚計算ステップ)。
パラメータである散乱係数(S)と吸収係数(K)は、パラメータ決定ステップS1で求められており既知であるため、光強度センサで塗膜111の表面からの反射光強度(R(T))を計測することで、塗膜厚計算手段30を用いて、式(2)から塗膜厚(T)を求めることができる。
【0049】
塗膜厚計算ステップS4の後、求めた塗膜厚(T)を、塗膜厚提供手段40から表示手段90へ提供する(S5:塗膜厚提供ステップ)。
表示手段90は、例えばコンピュータ100に接続されたプリンターやモニター等であり、塗膜厚提供手段40から提供された塗膜厚(T)に関する情報を処理して出力する。
【0050】
次に、図1に示すフローとは別の塗膜厚計測方法について説明する。図5は画像による第二の塗膜厚計測方法のフロー図である。なお、第一の塗膜厚計測方法のフローと同一の箇所は同一符号を付して説明を省略する。
第二の塗膜厚計測方法においては、図2に示すサンプル画像記憶手段50及びパラメータ補正手段60も利用する。サンプル画像記憶手段50は、膜厚が既知の複数枚の塗膜サンプル2の画像を同一条件下で取得したサンプル画像3を記憶するものである。また、パラメータ補正手段60は、計測時に画像取得手段20で取得した複数枚の塗膜サンプル2の計測時サンプル画像4とサンプル画像3とを比較し、散乱係数(S)と、吸収係数(K)を補正するものである。
【0051】
画像取得ステップS3(現場撮影時)の条件がパラメータ決定ステップS1(ラボ実験時)の条件とは異なっている場合には、膜厚が既知である数枚の塗膜サンプル2を対象物120(撮影対象)と同時に撮影しておく(同じ画像内におさめておく)ことにより、塗膜サンプル2からの反射光強度(R(T))を参照してパラメータの散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正できる。すなわち、パラメータ決定ステップS1と画像取得ステップS3とにおける撮影条件の違いを補正することができる。
そこで、図5に示すように、第二の塗膜厚計測方法においては、サンプル画像取得ステップS6と、パラメータ補正ステップS7を実行する。
サンプル画像取得ステップS6においては、塗料を塗った膜厚が既知の塗膜サンプル2を複数枚制作し、同一条件下で塗膜サンプル2をサンプル画像3として取得し、サンプル画像記憶手段50に記憶する。
パラメータ補正ステップS7においては、パラメータ補正手段60が、画像取得ステップS3で複数枚の塗膜サンプル2も計測時サンプル画像4として取得し、サンプル画像3と計測時サンプル画像4とを比較し、散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正する。
これにより、塗膜サンプルのサンプル画像3と計測時サンプル画像4を比較して散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することにより、サンプル画像3と計測時サンプル画像4の計測条件の違いを考慮して、塗膜厚(T)の膜厚分布を精度よく計測することができる。なお、散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正するためには、撮影画像中の各塗膜サンプル2の自動検出と、膜厚に紐づいた認識・分類処理が必要になるため、各塗膜サンプル2には、QRコード(登録商標)などの識別用のマーカーを付しておくことが好ましい。
また、塗膜サンプル2の膜厚値は、計測したい膜厚範囲の中でその差が大きくなるような値を採用することが好ましい。そのため、塗膜サンプル2の膜厚は、計測対象とする対象物110の塗膜111の略上限と略下限の膜厚とする。これにより、少ない塗膜サンプル数であっても、塗膜厚(T)の膜厚分布を的確に、より高精度に計測できる。例えば、計測したい膜厚範囲が0-450μmであるときには、50μmと400μmの塗膜サンプル2を準備する。
【0052】
以上説明したように、本発明の画像による塗膜厚計測方法、及び画像による塗膜厚計測システムによれば、画像を用いて非接触かつ面的な膜厚測定を高精度に行うことができる。
また、画像による塗膜厚計測プログラムを用い、コンピュータ100に、塗膜厚計測方法における画像取得ステップS3と、塗膜厚計算ステップS4と、塗膜厚提供ステップS5を実行させることで、画像による塗膜厚計測方法を、より正確かつ迅速に実行し、非接触かつ高精度に膜厚測定を行うことができる。
また、コンピュータ100に、膜厚推定式導出ステップS2を実行させることで、計測膜厚を用いてフィッティングさせた膜厚推定式を正確かつ迅速に導出することができる。
また、コンピュータ100に、サンプル画像取得ステップS6及びパラメータ補正ステップS7を実行させることで、散乱係数(S)と吸収係数(K)を補正することにより、サンプル画像3と計測時サンプル画像4の計測条件の違いを考慮して、塗膜厚(T)を精度よく迅速に計測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、Kubelka-Munk理論に基づき近似関数を構築して膜厚推定式を導出することで、造船塗膜やその他の塗膜について、精度よく塗膜厚を推定できる。
【符号の説明】
【0054】
1 試験片
2 塗膜サンプル
3 サンプル画像
4 計測時サンプル画像
10 膜厚推定式導出手段
20 画像取得手段
30 塗膜厚計算手段
40 塗膜厚提供手段
50 サンプル画像記憶手段
60 パラメータ補正手段
70 撮像手段
100 コンピュータ
110 対象物
111 塗膜
S1 パラメータ決定ステップ
S2 膜厚推定式導出ステップ
S2-1 フィッティングステップ
S3 画像取得ステップ
S4 塗膜厚計算ステップ
S5 塗膜厚提供ステップ
S6 サンプル画像取得ステップ
S7 パラメータ補正ステップ
図1
図2
図3
図4
図5