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特許7706894無線通信システム、子局装置、および無線通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-04
(45)【発行日】2025-07-14
(54)【発明の名称】無線通信システム、子局装置、および無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04Q 9/00 20060101AFI20250707BHJP
   G08B 27/00 20060101ALI20250707BHJP
【FI】
H04Q9/00 311J
G08B27/00 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021019077
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022122028
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】古澤 博行
【審査官】吉村 伊佐雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-243689(JP,A)
【文献】特開2015-049617(JP,A)
【文献】特開2001-218284(JP,A)
【文献】特開2017-091064(JP,A)
【文献】特開平11-296764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B23/00-31/00
G08C13/00-25/04
H03J9/00-9/06
H04B7/24-7/26
H04M3/00
3/16-3/20
3/38-3/58
7/00-7/16
11/00-11/10
H04Q9/00-9/16
H04W4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親局装置と、無線回線を介して前記親局装置と通信可能な複数の子局装置とを具備する無線通信システムにおいて、
前記子局装置は、
自局のアドレスを記憶する記憶部と、
前記親局装置から送信された制御信号を受信する受信部と、
前記受信された制御信号から宛先アドレスを抽出する宛先取得部と、
前記抽出された宛先アドレスと前記自局のアドレスとが一致しない場合に、前記制御信号の自局への到達時刻の予測値と実際の到達時刻との誤差が小さいほど緩和される判定基準と、前記宛先アドレスと前記自局のアドレスとの一致度とを比較して、前記一致度が前記判定基準以上であれば、前記受信された制御信号を自局宛てに特定する宛先特定部とを備える、無線通信システム。
【請求項2】
前記宛先特定部は、自局宛ての制御信号の送信間隔に基づいて前記制御信号の自局への到達時刻を予測する、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記親局装置は、子局装置を選択して前記制御信号の送出に係わる呼出間隔を設定するユーザ操作を受け付けるユーザインタフェースを備える、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記無線通信システムは、観測データを取得するテレメータであって、
前記子局装置は、
前記受信された制御信号が自局宛てと特定された場合に、前記観測データを応答信号に含めて返送する返送部を備える、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記親局装置は、正定時に前記制御信号を送信する、
請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記無線通信システムは、放流を行うことを報知する放流警報装置であって、
前記子局装置は、
前記受信された制御信号が自局宛てと特定された場合に、放流が開始されることを知らせる警報を発生する警報部を備える、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記子局装置は、さらに、前記放流警報装置のヘルスチェックデータを応答信号に含めて返送する返送部を有する、
請求項6に記載の無線通信システム。
【請求項8】
親局装置と、無線回線を介して前記親局装置と通信可能な複数の子局装置とを具備する無線通信システムの前記子局装置において、
自局のアドレスを記憶する記憶部と、
前記親局装置から送信された制御信号を受信する受信部と、
前記受信された制御信号から宛先アドレスを抽出する宛先取得部と、
前記抽出された宛先アドレスと前記自局のアドレスとが一致しない場合に、前記制御信号の自局への到達時刻の予測値と実際の到達時刻との誤差が小さいほど緩和される判定基準と、前記宛先アドレスと前記自局のアドレスとの一致度とを比較して、前記一致度が前記判定基準以上であれば、前記受信された制御信号を自局宛てに特定する宛先特定部とを具備する子局装置。
【請求項9】
親局装置および無線回線を介して前記親局装置と通信可能な複数の子局装置を具備する無線通信システムにおける無線通信方法であって、
前記子局装置が、前記親局装置から送信された制御信号を受信する過程と、
前記子局装置が、前記受信された制御信号から宛先アドレスを抽出する過程と、
前記子局装置が、前記抽出された宛先アドレスと自局のアドレスとが一致しない場合に、前記制御信号の自局への到達時刻の予測値と実際の到達時刻との誤差が小さいほど緩和される判定基準と、前記宛先アドレスと前記自局のアドレスとの一致度とを比較して、前記一致度が前記判定基準以上であれば、前記受信された制御信号を自局宛てに特定する過程とを具備する、無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無線通信システム、子局装置、および無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
雨量や河川の水位などのデータを収集するテレメータシステムとして知られる無線通信システムがある。また、ダム等が緊急放流を行う際に、その下流に対し放流を警報する放流警報システムとして知られる無線通信システムがある。いずれも、豪雨や洪水による災害を未然に防ぐために重要なシステムである。
【0003】
この種のテレメータシステムの基本構成は、国電通仕21号(非特許文献1)に記載されている。また、放流警報システムの基本構成は、国電通仕27号(非特許文献2)に記載されている。
【0004】
この種のテレメータシステムや、放流警報システム等の無線通信システムでは、70MHz帯/400MHz帯/450MHz帯の無線回線を用いている。監視装置~制御監視装置での各種の制御信号は、無線回線上で、既定の基本伝送フォーマットに従って授受される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平1-236400号公報
【文献】特開2001-69581号公報
【文献】特開2009-171497号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】”国電通仕第21号(暫定仕様) テレメータ装置標準仕様書(平成13年1月)”,[online],[令和2年9月21日アクセス],インターネット,<URL:https://www.mlit.go.jp/tec/it/denki/kikisiyou/kokudenntsushi21zantei.pdf>
【文献】”国電通仕第27号(暫定仕様) 放流警報装置標準仕様書(平成13年1月)”,[online],[令和2年9月21日アクセス],インターネット,<URL:https://www.mlit.go.jp/tec/it/denki/kikisiyou/kokudenntsushi27.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の無線通信システムでは、周囲の雑音発生源により、近年、ノイズの影響が目立ってきている。例えば、外来ノイズの影響によりデータを正常に授受することができず、観測データの欠落(欠測)となる事象が散見するようになってきている。また、システムのヘルスチェックの際にも不具合を生じたりして、原因究明や調査対応に苦慮している実態がある。
【0008】
そこで、目的は、耐ノイズ性を高めた無線通信システム、子局装置、および無線通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の無線通信システムは、親局装置と複数の子局装置が無線回線を介して接続され、子局装置が親局装置からの制御信号に基づく動作を行う無線通信システムである。親局装置は、宛先となるアドレス部を含む既定のフォーマットの制御信号を、無線回線を介して送信する。子局装置は、記憶部と、受信部と、宛先取得部と、宛先特定部と、処理部とを備える。記憶部は、自局のアドレスを記憶する。受信部は、無線回線を介して制御信号を受信する。宛先取得部は、受信された制御信号におけるアドレス部の受信宛先ビット列を取得する。宛先特定部は、受信宛先ビット列と自局のアドレスとの一致度が既定の判定基準を満たす場合に、受信された制御信号を自局宛てに特定する。処理部は、自局宛てに特定された制御信号に基づく動作を行う。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】テレメータシステムの一例を示す図。
図2】親局装置10から子局装置30に向けた制御信号の基本伝送フォーマットを示す図。
図3】子局装置30の一例を示す機能ブロック図。
図4】呼出間隔の設定に係わるウインドウの一例を示す図。
図5】呼出間隔設定ダイアログの一例を示す図。
図6】子局装置30の処理手順の一例を示す図。
図7】放流警報システムの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。
既存の技術では、無線回線でのノイズの影響などにより、制御信号の受信宛先ビット列を子局装置の復調部で正確に復元できない場合がある。アドレスを完全に復元できない場合には、制御信号の宛先が自局か、そうでないかを子局装置30側で判断できずに、観測データを送信することができなくなる場合があった。実施形態ではこれを解決可能な技術について説明する。
【0012】
[第1の実施形態]
第1の実施形態では、無線通信システムをテレメータシステムに適用した実施形態について説明する。テレメータシステムは、例えば河川情報システムや、ダム管理システムにおいて、河川やダム上流の雨量や水位を観測するために設けられる。国電通仕第21号方式のもとでは、親局装置10は、例えば10分、15分、30分、または1時間間隔の正定時ごとに、観測局で取得された観測データ(雨量、水位等)を収集する。観測データの収集の際には、親局装置10から既定の呼出間隔で実施される一括呼出に対し、子局装置30が順次応答する方式がとられる。
【0013】
図1は、テレメータシステムの一例を示す図である。図1に示されるシステムは、親局、中継局、および子局を具備する。いずれも1つだけを図示するが、もちろん1つだけに限定されるものではない。また、親局から距離が近い子局は、中継局を介さずに通信を行う。また、親局および子局間で送受信される無線信号は、70MHz帯/400MHz帯/450MHz帯の無線回線を介して、中継局経由で互いに双方向に信号やデータを授受する。
【0014】
親局は、親局装置10と、アンテナ11、電源12、表示部13、操作卓14、およびプリンタ15を備える。
親局装置10は、子局装置30に対して、観測データの送信要求信号を送信し、これに応答して子局装置30が返信してきた観測データを取りまとめる装置である。電源12は、外部からの電源供給を受けて親局装置10に電力を供給する電源部である。
表示部13は、例えば液晶パネルであり、各種の情報を表示するとともに、タップ操作によりユーザ操作を受け付けるユーザインタフェースである。操作卓14は、管理者による各種の操作や設定を受け付ける入力部である。また、プリンタ15は、各種の情報を出力するユーザインタフェースである。
【0015】
中継局は、中継装置20と、アンテナ21、アンテナ22、電源23を備える。中継装置20は、電源23からの電力供給を受け、親局装置10と子局装置30との間の無線通信を中継する。
【0016】
子局は、子局装置30と、電力を供給する電源50と、観測装置40としての雨量計40a、水位計40bとを備える。
【0017】
雨量計40aは、観測データとしての雨量データを取得する。水位計40bは、観測データとしての、河川や湖沼の水位データを取得する。
これら観測装置40(雨量計40a及び水位計40b)で取得されたデータは子局装置30に送られ、親局装置10からの送信要求を受けるまで一時的に記憶される。
【0018】
ここで、親局について、説明をする。
図1において、親局装置10は、予め定められた時刻、例えば10分間隔、30分間隔、または1時間間隔の正定時に、制御信号を定期的に送信する。制御信号は、宛先の子局装置30のアドレスと、データ送信要求メッセージとを含む。制御信号は、中継装置20を介して、複数の子局装置30に到達し、それぞれ受信される。このうち宛先アドレスに該当する子局のみが、当該子局に接続された観測装置で取得されたデータを含む応答信号を、親局装置10に返送する。このようにして、各子局装置30に接続された観測装置で取得されたデータが、親局装置10で集約される。
【0019】
ここで、制御信号のフォーマットについて説明する。
【0020】
図2は、親局装置10から子局装置30に向けた制御信号の基本伝送フォーマットを示す図である。子局装置30にとっては受信フォーマットである。
図2(a)は、ヘッドスペースに続く基本伝送フォーマットの受信宛先ビット列を示す図である。図2(a)に示されるように、ヘッドスペースに続く基本伝送フォーマットは、同期ビット(16ビット)、フラグシーケンス(8ビット)、アドレス(24ビット)、制御部(8ビット)、情報部(8ビット×n)、フレーム検査シーケンス(16ビット)、および、フラグシーケンス(8ビット)の、各データエリア(フィールド)を含む。情報部は8ビット×n(nバイト)のデータ量を持ち、それ以外のフィールドは合計で80ビット(10バイト)のデータ量である。
【0021】
図2(b)は、アドレス(アドレス部)の受信宛先ビット列について示す図である。アドレスは24ビットで表され、子局装置30ごとに予め一意に割り当てられる。
図2(b)において、(1)の1ビットは0に固定される。
(2)の7ビットが局番を表し、子局を識別するための情報である。個別呼出局番は、1~120の範囲(0b0000001~0b1111000)で定義される。ここで、0は未使用として、127は全局一括呼出に使用される。
【0022】
(3)の1ビットも0固定である。(4)の7ビットはシステム番号を示す。ここで、0は未使用とし、1~127の範囲(0b0000001~0b1111111)で定義される。
(5)の1ビットは1に固定、(6)の3ビットは系番号を示す。この系番号として用いられる3ビットは、同一システム内で一括呼出を分割して行う場合に使用される。なお、個別呼出、および一括呼出ともに、同一系番号が使用される。
(7)の4ビットは、地域コードを示す。
【0023】
図3は、子局に設けられる子局装置30の一例を示す機能ブロック図である。
子局装置30は、受信部31、復調部32、伝送制御部33、記憶部34、送信部35、変調部36、基本制御部37、時計部38、および、インタフェース部(I/F)39を備える。
【0024】
基本制御部37は、国電通仕第21号、あるいは国電通仕第27号等で要求される基本的な制御機能を実装する。
受信部31は、アンテナ1から分配器2を介して無線信号を取り込み、親局装置10からの制御信号を無線回線を介して受信する受信部である。
復調部32は、親局装置10から受信した制御信号を復調し、親局装置10から送られたメッセージのビット列を復元する復調部である。
変調部36は、無線帯域の搬送波信号を、観測データ等を含む送信データで変調し、親局装置10への応答信号を生成する。
送信部35は、応答信号を、分配器2を介してアンテナ1から無線回線に送信する。
【0025】
記憶部34は、フラッシュメモリ等の記憶デバイスであり、各種のデータを記憶する記憶部である。
【0026】
記憶部34は、受信宛先ビット列34aと、自局アドレス34b、および制御信号の自局への到達タイミング34cを記憶する。
自局アドレス34bは、自局に予め割り当てられた、個別呼出のための局番である。到達タイミング34cは、自局宛てと認識された制御信号が自局に到達したタイミングである。到達タイミング34cは、到達時刻、あるいは、既定時刻からのカウント値などで表すことができる。
インタフェース部39は、観測データを取得する観測装置(雨量計40a、水位計40b、情報提供機器40c等)に接続可能で、観測装置から各種のデータを取得するインタフェース部である。
【0027】
時計部38は、時刻情報、あるいは既定時刻からのカウントアップ数などの、計時情報を生成する。
【0028】
伝送制御部33は、CPU(Central Processing Unit)等の演算プロセッサであり、実施形態に係わる子局装置30の機能を制御する。
伝送制御部33は、宛先取得部33a、宛先特定部33b、および応答信号返信部33cを備える。
宛先取得部33aは、受信部31で受信され復調部32で復調された制御信号の、アドレス部の受信宛先ビット列を取得する取得部である。宛先取得部33aは、復調された制御信号のアドレス部の24ビット(図2(b))を取得し、記憶部34の受信宛先ビット列34aとして記憶する。
【0029】
宛先特定部33bは、受信信号のアドレスを特定する特定部である。宛先特定部33bは、記憶部34の受信宛先ビット列34aと、記憶部34に記憶された自局アドレス34bとを比較し、その一致度を計算する。一致度は、例えば自局アドレスのビット列と、制御信号から抽出された受信宛先ビット列との論理積(AND)をビットワイズで(ビット単位で)計算し、その総和を取ることで計算できる。そして宛先特定部33bは、一致度が既定の判定基準を満たす場合に、受信部31で受信された制御信号を自局宛てとして特定する。
【0030】
判定基準としては、先ず、全てのビットが一致することである。既存の技術ではこれが唯一の基準であったが、実施形態ではこれを緩和し、例えば24ビット(3バイト)のうち2バイトが一致すれば、自局宛てとして特定するようにする。つまり完全一致だけでなく、或る程度の不一致を許容する。これにより、ことでノイズへの耐性を飛躍的に高めることができる。
【0031】
もちろん、他局宛てを自局宛てと誤って特定することは防止されなくてはならない。実施形態では時計部38の機能を用いることでこのような誤認識を防止する。詳しくは後述する。
【0032】
応答信号返信部33cは、自局宛てとして特定された制御信号に基づく処理を行う処理部である。実施形態では、応答信号返信部33cは、自局宛てとして特定された制御信号に基づく応答信号を生成し、送信部35から無線回線を介して親局装置10に返信する返信部として機能する。
【0033】
次に、上記構成における作用を説明する。
先ず、親局装置10における呼出間隔の設定について説明する。
図4は、呼出間隔の設定に係わるウインドウの一例を示す図である。親局装置10の表示部13(図1)において、初期画面からタイミング制御ボタン(左下)がタップされると、子局装置30(観測局)の一覧を含む図4のウインドウが開かれる。図4において、例えば観測局A1をタップして選択し、呼出間隔設定ボタンがタップされると、図5のダイアログウインドウがオープンする。
【0034】
図5は、呼出間隔設定ダイアログの一例を示す図である。このダイアログ内にて、10分、30分、あるいは1時間のいずれかの間隔を選択して設定ボタンをタップすると、観測局A1への呼出間隔がセットされ、親局装置10に記憶される。親局装置10は、毎正時(00分)を基準に、設定された呼出間隔で観測局A1に制御信号を送出する。
【0035】
図6は、子局装置30の処理手順の一例を示す図である。
図6において、子局装置30は、親局装置10から自局宛ての制御信号の過去の到達時刻の傾向から、次の到達時刻を予測する(ステップS1)。
【0036】
そして、子局装置30は、次の制御信号の到来を待ち受ける(ステップS2)。待ち受け動作時に、子局装置30は、例えばミリ秒単位での時刻を時計部38から取得し、呼出間隔を記憶部34に記憶する。記憶する時刻(間隔)は、ある程度ノイズのない時間帯に間隔のずれを補正してもよい。
【0037】
次に子局装置30は、受信部31で制御信号を受信すると、その到達時刻を到達タイミング34cとして記憶部34に記憶する(ステップS3)。
【0038】
次に子局装置30は、予測された到達時刻と実際の到達時刻との誤差εを計算し(ステップS4)、その値に基づいて、判定基準Sを設定する(ステップS5)。ここで、判定基準Sとは、受信した制御信号が自局宛てか、あるいはそうでない(他局宛て)かを判定するための基準である。判定基準Sは、制御信号から抽出されたアドレスと自局アドレスとの一致度Mと比較されるもので、計時情報に基づいて決まる誤差εの値が小さくなればなるほど、緩和される。つまり誤差εが小さければ小さいほど、アドレスの一致度Mが低くても「自局宛て」の判定がなされる。
【0039】
さて、判定基準Sを設定すると、子局装置30は受信部31で受信した制御信号を、復調部32で復調する。そして、宛先取得部33aがアドレス領域のビット列を抽出し、記憶部34に記憶する(ステップS6)。
次に、子局装置30の宛先取得部33aは、自局アドレスと抽出したアドレスとの一致度Mを計算し(ステップS7)、その値に基づいて、制御信号に記載されたアドレスと自局アドレスとが一致するか否かを判定する(ステップS8)。ここで、一致すれば(Yes)、ステップS10に移行する。
【0040】
一方、ステップS8で両アドレスが一致しない(No)であれば、子局装置30は、一致度Mと判定基準Sとを比較する(ステップS9)。ここで、一致度Mが判定基準S以上であれば(Yes)、やはり自局宛てとの判定に至りステップS10に移行する。
【0041】
受信した制御信号が自局宛てと結論付けられると(ステップS10)、子局装置30は受信した制御信号に記載されたメッセージを読み取り、必要な観測データを含む応答信号を生成して親局装置10に返信する(ステップS11)。
【0042】
一方、ステップS9において、一致度Mが判定基準Sよりも低ければ、受信した制御信号は他局宛てと結論付けられ(ステップS12)、その信号は破棄される。そして、応答信号を返送することなく処理手順はステップS1に戻る。
【0043】
以上述べたように第1の実施形態では、親局装置10から送信された制御信号からアドレス部の受信宛先ビット列を抽出し、受信側の子局装置30で自局アドレスとビット単位で比較する。完全一致であれば自局宛てとの判定に至るが、完全一致でなくても、制御信号の到来時刻が予測値に近ければ、自局宛てと判定するようにした。つまり、記憶部34に記憶された時刻(間隔)において親局装置10から到達した信号は、アドレスの一部が一致していなくてもそれを許容し、自局宛てと設定するようにした。
【0044】
既存の技術では、アドレス部の受信宛先ビット列が自局アドレスと完全一致していなければ自局宛てと判定されなかったので、少しでもノイズを受けると自局宛てと判定されず、破棄されていた。このため観測データの欠落が生じることがあった。
【0045】
これに対し実施形態では、一斉呼出での呼出間隔が固定的であることを利用し、繰り返し到達する制御信号から、制御信号の送信間隔をいわば学習して、次に到達する制御信号の到達時刻を予測する。そして、予測とほぼ一致するタイミングで到達した制御信号を、アドレス情報の一部が不一致であっても自局宛てと判定するようにした。これにより、ノイズを受けた場合でも他局宛てと誤認識するおそれが少なくなり、従って、耐ノイズ性能を飛躍的に高めることが可能になる。
【0046】
これらのことから第1の実施形態によれば、耐ノイズ性を高めた無線通信システム、子局装置30、および無線通信方法を提供することが可能になる。ひいては、観測データの欠落を防止して豪雨災害の軽減を促すことが可能になる。
【0047】
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、無線通信システムを放流警報システムに適用した実施形態について説明する。
例えば豪雨時においては、河川上流のダムの決壊を防ぐためにダムの緊急放流操作が行われることがある。放流警報システムは、それに先立ち、流域河川の住民などに水位が増えることを告知するための設備である。国電通仕第27号方式のもとでは、例えば、ゲート開操作により水位が上昇する所定時間前に警報することが求められている。一般に、激しい豪雨時は、無線通信品質の劣化が発生することがあり、このような場合であっても、確実に放流警報を行うことを求められる。また、平常時においても、例えば1日に1回、放流警報装置のヘルスチェックが実施される。このため親局装置10は、所定の時刻に、放流警報装置で取得されたヘルスチェックデータを収集する。ヘルスチェックデータの収集の際には、親局装置10からの一括呼出に対し、子局装置30が順次応答する方式がとられる。
【0048】
図7は、放流警報システムの一例を示す図である。図7図1とで共通する部分には同じ符号を付して示し、異なる部分についてのみ説明する。
図7に示されるシステムも、第1実施形態のシステムと同様に、親局、中継局、および子局を具備する。そして、70MHz帯/400MHz帯/450MHz帯の無線回線を介して、親局と子局との間で、中継局を経由して互いに双方向に信号やデータが授受される。
【0049】
親局は、親局装置10と、アンテナ11を有した無線装置16を備える。なお、無線装置16は、親局装置10内に内蔵されていてもよい。
親局装置10は、ダム制御装置(図示せず)から緊急放流を行う前のサイレンの鳴動や緊急放送を行うための操作が行われたとき、これに応答して、子局装置に対してサイレンの鳴動や緊急放送を指示する制御信号を送信する装置である。サイレンの鳴動や緊急放送を指示する制御信号には、宛先の子局を指定するアドレスが付されている。
中継局は、中継装置20と、アンテナ21、22を有した無線装置24を備える。なお、無線装置24は、中継装置20内に内蔵されていてもよい。
子局は、放流を行うことを周辺の地域住民等へ報知する警報局である。子局としては、サイレンにより警報を行うサイレン警報局と、緊急放送を音声により放送するスピーカ警報局とがある。
【0050】
サイレン警報局は、サイレン警報装置60と、アンテナを備えた無線装置61と、警報スピーカ62、収音マイク63、サイレン制御盤64、サイレン65、回転灯66、回転灯制御盤67、表示板68、および電源69を備える。このうち、無線装置61は、サイレン警報装置60内に内蔵されていてもよい。また、警報スピーカ62、サイレン65は、警報部として機能し、宛先特定部33b(図3)によって、受信された制御信号が自局宛てと特定した場合に、放流が開始されることを知らせる警報を発生する。なお、第2の実施形態では、警報部が処理部として機能する。
【0051】
ここで、サイレン警報装置60の構成は、図3に示すインタフェース部39に接続される装置が、観測装置に代えて警報スピーカ62、収音マイク63、サイレン制御盤64、回転灯制御盤67、および表示板68になる点を除き、図3とほぼ同様のため、詳細な説明を説明する。
【0052】
子局装置としてのサイレン警報装置60は、親局からの制御信号に基づいてサイレン65を鳴動させる。更に、例えば1日1回の頻度で、サイレン警報装置60自身のヘルスチェックデータを取得する。例えば警報スピーカ62またはサイレン65を既定の音量で鳴らすための信号を送り、収音マイク63で既定レベルの音量で出力されることを確認できれば、サイレン警報装置60が正常に機能していることが分かる。サイレン警報装置60は、親局装置10から送信された制御信号に対し、ヘルスチェックデータを含む応答信号を返送する。
【0053】
スピーカ警報局は、スピーカ警報装置70と、アンテナを備えた無線装置71と、警報スピーカ72、収音マイク73、回転灯76、回転灯制御盤77、表示板78、および電源79を備える。このうち、無線装置71は、サイレン警報装置70内に内蔵されていてもよい。また、警報スピーカ72は、警報部として機能し、宛先特定部33b(図3)によって、受信された制御信号が自局宛てと特定した場合に、放流が開始されることを知らせる警報を発生する。
【0054】
ここで、スピーカ警報装置70の構成は、インタフェース部39に接続される装置が、観測装置に代えて警報スピーカ72、収音マイク73、回転灯制御盤77、および表示板78になる点を除き図3とほぼ同様のため、詳細な説明を説明する。
【0055】
子局装置としてのスピーカ警報装置70は、親局からの制御信号に基づいて警報スピーカ72から放流警報の放送を行う。更に、例えば1日1回の頻度で、スピーカ警報装置70自身のヘルスチェックデータを取得する。例えば警報スピーカ72を既定の音量で鳴らすための信号を送り、収音マイク73で既定レベルの音量で出力されていることを確認できれば、スピーカ警報装置70が正常に機能していることが分かる。スピーカ警報装置70は、親局装置10から送信された制御信号に対し、ヘルスチェックデータを含む応答信号を返送する。
【0056】
次に、子局装置の処理手順について、説明する。
子局装置としてのサイレン警報装置60、スピーカ警報装置70の処理手順は、図6に示した子局装置30の処理手順とほぼ同様である。第1の実施形態と異なる点は、受信部31で受信された制御信号が、宛先特定部33bにより自局宛てとして特定された場合に、サイレン警報装置60においてはサイレン65を鳴動させ、スピーカ警報装置70においては警報スピーカ72から警報音声を発出する点である。これ以外の点については図6のフローチャートとほぼ同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0057】
以上述べたように、第2の実施形態では、第1の実施形態での観測データが、装置自身のヘルスチェックデータに相当する。放流警報システムにおいても、テレメータシステムと同様の一斉呼出-応答によりデータ収集が行われるので、第1の実施形態における通信手順を第2の実施形態にも適用することができる。従って、第2の実施形態によっても、耐ノイズ性を高めた無線通信システム、子局装置30、および無線通信方法を提供することが可能になる。
【0058】
なお、この発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば図1において、親局装置10と子局装置30とが直接に無線通信することができれば、中継装置20を省略してもよい。図7においても同様である。
また、実施形態ではアドレス部と自局アドレスとの一致度をチェックするようにしたが、例えば図2のアドレス部、制御部、フレーム検査シーケンスのいずれかが一致するか否かをチェックしてもよい。
【0059】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1…アンテナ、2…分配器、10…親局装置、11…アンテナ、12…電源、13…表示部、14…操作卓、15…プリンタ、16…無線装置、20…中継装置、21…アンテナ、22…アンテナ、23…電源、24…無線装置、30…子局装置、31…受信部、32…復調部、33…伝送制御部、33a…宛先取得部、33b…宛先特定部、33c…応答信号返信部、34…記憶部、34a…受信宛先ビット列、34b…自局アドレス、34c…到達タイミング、35…送信部、36…変調部、37…基本制御部、38…時計部、39…インタフェース部、40…観測装置、40a…雨量計、40b…水位計、50…電源、60…サイレン警報装置、61…無線装置、62…警報スピーカ、63…収音マイク、64…サイレン制御盤、65…サイレン、66…回転灯、67…回転灯制御盤、68…表示板、69…電源、70…スピーカ警報装置、71…無線装置、72…警報スピーカ、73…収音マイク、76…回転灯、77…回転灯制御盤、78…表示板、79…電源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7