(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-04
(45)【発行日】2025-07-14
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20250707BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250707BHJP
【FI】
B41J2/14 307
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2021150408
(22)【出願日】2021-09-15
【審査請求日】2024-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】324006865
【氏名又は名称】理想テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】下里 正志
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-318727(JP,A)
【文献】特開2007-253567(JP,A)
【文献】特開2013-052608(JP,A)
【文献】特開2006-066655(JP,A)
【文献】特開2006-175845(JP,A)
【文献】米国特許第05983471(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/14
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧力室と、
複数の前記圧力室に対向配置され、変形により前記圧力室を変形させる、振動板と、 圧電体層を備え、前記振動板の、前記圧力室に対向する位置に接合される駆動圧電素子と、
圧電体層を備え、複数の前記駆動圧電素子の間に配されるとともに複数の前記圧力室の間に配される壁部に対応する位置に設けられ、前記振動板に接合される、補助圧電素子と、
前記駆動圧電素子のうち駆動対象の前記駆動圧電素子に駆動電圧を印加して前記駆動圧電素子を変形させる際に、複数の前記補助圧電素子に、前記駆動圧電素子の変形と逆方向に前記補助圧電素子を変形させる補助電圧を印加する、駆動部と、
を備え
、
前記補助電圧は前記補助圧電素子の分極方向への電圧が、逆方向の電圧よりも大きく、
前記駆動電圧は前記駆動圧電素子の分極方向への電圧が、逆方向の電圧よりも大きい、
液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記駆動圧電素子及び前記補助圧電素子は、積層される複数の圧電体層を有する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記補助電圧は、単独の印加で前記圧力室から液体が吐出する基準電圧よりも小さい、請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
複数の前記補助圧電素子を同時に駆動する、請求項1乃至3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
全ての前記補助圧電素子を同時に駆動する、請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドにおいて、PZT等の圧電体を用いたインクジェットヘッドが種々製品化されている。例えば、ベース部材上に接合した積層型圧電部材をダイシングによって溝を形成し、1つの圧電部材に対して所要数の圧電柱を所定の間隔で櫛歯状に形成した圧電アクチュエータを用い、駆動圧電柱の上端面を振動板に接合し圧力室内のインクに振動を与え、圧力室から連通するノズルよりインク滴を吐出させるインクジェットヘッドがある。圧電柱として、駆動波形を与えて駆動させる駆動圧電柱と、駆動波形を与えないで単なる支柱として使用する非駆動圧電柱が交互に並んでいる。
【0003】
このような液体吐出ヘッドにおいて、小さい駆動電圧で液体吐出性能を確保することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特登5668382号公報
【文献】特開2017-159561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、小さい駆動電圧で液体吐出性能を確保できる液体吐出ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態にかかる液体吐出ヘッドは、複数の圧力室と、振動板と、駆動圧電素子と、補助圧電素子と、駆動部と、を備える。振動板は、複数の前記圧力室に対向配置され、変形により前記圧力室を変形させる。駆動圧電素子は、前記振動板の、前記圧力室に対向する位置に接合される。補助圧電素子は、複数の前記駆動圧電素子の間に配されるとともに複数の前記圧力室の間に配される壁部に対応する位置に設けられ、前記振動板に接合される。駆動部は、前記駆動圧電素子のうち駆動対象の前記駆動圧電素子に駆動電圧を印加して前記駆動圧電素子を変形させる際に、複数の前記補助圧電素子に、前記駆動圧電素子の変形と逆方向に前記補助圧電素子を変形させる補助電圧を印加する。前記補助電圧は前記補助圧電素子の分極方向への電圧が、逆方向の電圧よりも大きく、前記駆動電圧は前記駆動圧電素子の分極方向への電圧が、逆方向の電圧よりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係るインクジェットヘッドの一部の構成を示す断面図。
【
図2】同インクジェットヘッドの一部の構成を示す斜視図。
【
図3】同インクジェットヘッドの一部の構成を示す断面図。
【
図4】同インクジェットヘッドの動作を示す説明図。
【
図5】第1実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成を示す説明図。
【
図6】比較例にかかるインクジェットヘッドの構成及び配線を示す説明図。
【
図7】比較例にかかるインクジェットヘッドの動作を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、第1実施形態に係る液体吐出ヘッドであるインクジェットヘッド1及び液体吐出装置であるインクジェット記録装置100について、
図1乃至
図5を参照して説明する。
図1は、インクジェットヘッド1の一部の概略構成を示す断面図であり、
図2はインクジェットヘッド1の一部の概略構成を示す斜視図である。
図3はインクジェットヘッドの一部の構成を示す断面図であり、
図4はインクジェットヘッドの動作を示す説明図である。
図5はインクジェット記録装置100の概略構成を示す説明図である。図中矢印X,Y,Zは互いに直交する3方向をそれぞれ示す。各図において説明のため、適宜構成を拡大、縮小または省略して示す。
【0009】
図1乃至
図4に示すように、インクジェットヘッド1は、ベース10と、圧電部材20と、振動板30と、マニホールド40と、複数のノズル51を有するノズルプレート50と、フレーム60と、FPC70と、を備える。
【0010】
圧電部材20は、複数の圧電素子として、駆動圧電素子23と、補助圧電素子24と、を交互に備える。圧電部材20は、複数の溝22によって一方側が複数に分割される。すなわち、圧電部材20は、一端側が例えばダイシング加工などで溝が形成されることにより複数に分割され、他端側が連結し、図中Xで示す第3方向に沿って駆動圧電素子23と補助圧電素子24とが溝22を挟んで交互に並列配置される。圧電部材20は、例えばベース10の第1方向の一方側の端部に配置され、ベース10に接合される。複数の圧電部材は厚さ方向が第1方向に沿って積層され、互いに接着層を介して接着されている。なお、圧電部材20は製造過程において分極されている。
【0011】
駆動圧電素子23及び補助圧電24は、アクチュエータであり、図中Z方向で示す第1方向に沿って積層される複数枚の圧電体層211と、ダミー層212と、各圧電体層の主面に形成される内部電極221,222と、外部電極223,224と、を備える。なお、一例として、駆動圧電素子23と補助圧電素子24は同じ構成とする。
【0012】
圧電体層211は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系、または無鉛のKNN(ニオブ酸ナトリウムカリウム)系等の圧電材料から薄板状に構成される。複数の圧電体層211は厚さ方向が積層方向に沿って積層され、互いに接着層を介して接着されている。
【0013】
内部電極221、222は銀パラジウムなどの焼成可能な導電性材料で所定形状に構成される導電膜である。内部電極221、222は各圧電体層211の主面の所定領域に形成される。内部電極221,222は、互いに異なる極である。例えば一方の内部電極221は図中Y方向で示す第2方向において圧電体層211の一方の端部に至り、他方の端部には至らない領域に形成される。第2方向は積層方向である第1方向に直交する方向である。他方の内部電極222は、図中Y方向で示す第2方向において圧電体層211の一方の端部には至らず、他方の端部に至る領域に形成される。内部電極221,222は圧電素子23,24の側面に形成される外部電極223,224にそれぞれ接続される。
【0014】
外部電極223,224は、圧電素子23,24の側面部に形成され、内部電極221,222の端部を集めて構成される。例えば外部電極223,224は、積層方向と直交する第2方向における一方の端面と他方の端面とに、それぞれ形成される。外部電極223,224はメッキ法やスパッタ法など既知の方法で、Ni、Cr、Auなどにより成膜されている。外部電極223と外部電極224とは例えば異なる極であり、外部電極223と外部電極224とが異なる側面部にそれぞれ配置されている。あるいは、外部電極223と224が同じ側面部の異なる領域に取り回されていてもよい。
【0015】
本実施形態において一例として外部電極223を個別電極、外部電極224を共通電極とする。複数の圧電素子23,24の個別電極となる外部電極223は、電極層が溝によって分割され、互いに独立して配置される。共通電極となる外部電極224は、電極層が溝よりもベース10側の領域で互いに連結され、例えば接地される。
【0016】
個別電極となる外部電極223は例えばFPC70に接続され、各種配線を介して、駆動IC等の実装部品に接続される。
【0017】
例えば、個々の外部電極223、224は、配線により駆動ICを介して、駆動部としての制御部116の駆動回路1161に接続され、CPU(Central Processing Unit)による制御によって駆動制御可能に構成される。
【0018】
ダミー層212は、圧電体層211と同材料である。ダミー層212は電極を片側にしか有さず、電界がかからないので変形しない。すなわち、ダミー層212は圧電体としては機能せず、圧電部材20をベース10に固定するベースとなり、あるいは組立中や組立後の精度を出すために研磨する研磨代となる。
【0019】
一例として、各圧電素子23,24は、圧電体層211の積層数を50層以下、各層の厚さを10μm~40μm、厚さと総積層数の積を1000μm未満とする。
【0020】
圧電素子23,24は、外部電極223,224を介して内部電極221,222に電圧が印加されることで、圧電体層211の積層方向に沿って縦振動する。例えばここで言う縦振動とは「圧電定数d33で定義される厚み方向の振動」である。なお本実施形態においては一例として
図2に示すように、1つおきに配される複数の駆動圧電素子23が振動板30を挟んで圧力室31に対応して配置され、残りの補助圧電素子24は振動板30を挟んで隔壁部42に対向する位置に配置される。
【0021】
振動板30は、例えば厚さ方向が積層方向である第1方向に沿って配され、第1方向と直交する面方向に延出するプレート部301を有する。振動板30は、複数の圧電素子23,24の積層方向の一方側、すなわちノズルプレート50側の面に接合される。振動板30は例えば変形可能に構成されたプレート部301の、圧電部材20の駆動圧電素子23及び補助圧電素子24と接合される面に、例えば突起状の複数の接合部を備え、接合部において圧電素子23,24に接着されていてもよい。
【0022】
プレート部301は例えば金属板であり、各圧力室31に対向するとともに個別に変位可能な複数の振動部位を有し、複数の振動部位が一体に連なって形成される。例えばプレート部301は1枚の平板状に構成され、各圧電素子23,24に接合された領域がそれぞれ個別に変位する振動部位を構成する。なお、プレート部301は、複数の振動部位が、変位しやすいように、振動部位と隣接する部位あるいは互いに隣接する振動部位間に、折り目や段差が形成されていてもよい。振動板30は、駆動圧電素子23,補助圧電素子24の伸長と圧縮によって、当該圧電素子23,24に対向配置された部位が変位することで、変形する。
【0023】
振動板30は、圧電素子23,24の一方側の端面に接合される。一例として、本実施形態において、振動板30の第1方向一方側の主面において第2方向の両端の領域はマニホールド40に接合される。インクジェットヘッド1の第2方向における中央部において、振動板30のマニホールド40との間にはインクが収容可能な圧力室31及びガイド流路34が形成される。振動板30の、第1方向の他方側の主面は、一端側の領域が圧電素子23,24に接合され、第2方向における他端側の所定の領域がフレーム60に接合される。振動板30の第1方向他方側の主面とフレーム60との間にはインクが収容可能な共通室32が形成される。すなわち、振動板30は一方側の面が圧電素子23,24に、他方側が圧力室31、隔壁部42、及びガイド流路34に、それぞれ面している。
【0024】
振動板30は、厚さ方向に貫通するとともに圧力室31と共通室32とを連通させる開口部33を有する。振動板30の第1方向における一方側に圧力室31が形成され、振動板30の第1方向における他方側に、共通室32が形成される。共通室32は第3方向に延出するとともに、第3方向に並ぶ複数の圧力室31に連通する。振動板30は、圧電素子23,24の変形に伴って変形することにより、圧力室31の容積を変化させる。
【0025】
マニホールド40は、振動板30の一方側に接合される。マニホールド40は、ノズルプレート50と振動板30との間に配され、隔壁部42によって隔てられる複数の圧力室31と、複数の圧力室31から開口部33に向けて第2方向に延びるとともに隔壁部42によって隔てられるガイド流路34と、を有する所定のインク流路35が形成される。マニホールド40は、振動板30の外縁部に接合される枠状部41と、複数のインク流路35を隔てる複数の隔壁部42と、ガイド流路34を形成するガイド壁43と、を備える。
【0026】
また、第3方向に並列する複数の圧力室31は、隔壁部42によって隔てられる。すなわち、圧力室31の第3方向の両側は隔壁部42によって構成される。各圧力室31は、第1方向一方側に配されるノズルプレート50に形成されたノズル51に連通する。また、圧力室31は、ノズルプレート50の反対側が振動板30によって塞がれる。
【0027】
複数の圧力室31は、ガイド流路34及び開口部33を介して共通室32に連通する。圧力室31は共通室32からガイド流路34を経て供給される液体を保有し、圧力室31の一部を形成する振動板30の振動によって変形することで、ノズル51から液体を吐出する。
【0028】
隔壁部42は、第3方向に並ぶ複数の圧力室31間を隔てるとともに、及び第3方向2並ぶ複数のガイド流路34間を隔て、圧力室31及びガイド流路34の両側部を構成する壁部材である。隔壁部42は振動板30を介して、補助圧電素子24に対向配置され、補助圧電素子24によって支持される。
【0029】
ノズルプレート50は、例えばSUS・Niなどの金属やポリイミドなどの樹脂材料からなる厚さ10μm~100μm程度の方形の板状に構成される。ノズルプレート50は圧力室31の一方側の開口を覆うように、マニホールド40の一方側に配置されている。ノズルプレート50には、厚さ方向に貫通する複数のノズル51が形成される。ノズル51は第3方向に沿って並び、ノズル列が形成される。各ノズル51は、複数の圧力室31に対応する位置にそれぞれ設けられている。
【0030】
フレーム60は振動板30の第1方向における他方側に配置される。フレーム60は、振動板30との間に共通室32を形成する。共通室32は、フレーム60の内側に形成され、振動板30に設けられた開口部33及びガイド流路34を通じて圧力室31に連通する。
【0031】
FPC70は、個別電極に接続される。FPC70は、ベース層71と、電極層72と、ハンダメッキ層73と、接着層74と、絶縁カバー層75と、を備える。
【0032】
FPC70は、圧電素子23,24の接合面27に、ハンダメッキ層73が形成された第1領域を対向して位置合わせして加熱して、ハンダメッキ層73のハンダを溶融させることで、外部電極223に電気的及び機械的に接続される。
【0033】
以上のように構成されたインクジェットヘッド1において、ノズルプレート50とフレーム60と、マニホールド40と、振動板30とによって、ノズル51に連通する複数の圧力室31と、複数のガイド流路34と、複数の圧力室31に連通する共通室32と、を有するインク流路35が形成される。例えば共通室32はカートリッジに連通し、インクが共通室32を通じて各圧力室31へ供給される。全ての圧電素子23,24は配線により電圧が印加可能に接続されている。インクジェットヘッド1において、制御部116が、駆動IC1161により電極221,222に駆動電圧及び補助電圧を印加すると、駆動圧電素子23及び補助圧電素子24が積層方向、すなわち各圧電体層211の厚さ方向に振動する。つまり、駆動圧電素子23及び補助圧電素子24は縦振動する。
【0034】
具体的には、制御部116は、駆動対象の駆動圧電素子23の内部電極221,222に駆動電圧を印加して、駆動対象の駆動圧電素子23を選択的に駆動する。また、制御部116は、駆動対象の駆動圧電素子23に所定の駆動電圧を印加して駆動するのと同時に、全ての補助圧電素子24に、駆動電圧と逆方向の補助電圧を印加することで、隔壁部42に対応する全ての補助圧電素子24を、駆動電圧素子23の変形とは反対方向に変形させる。そして、駆動対象の駆動圧電素子23と補助圧電素子24とによる、引張方向の変形と圧縮方向の変形を組み合わせて、振動板30を変形させ、圧力室31の容積を変化させることで、共通室32から液体を導き、ノズル51から吐出させる。
【0035】
以下、インクジェットヘッド1を備えるインクジェット記録装置100の一例について、
図7を参照して説明する。インクジェット記録装置100は、筐体111と、媒体供給部112と、画像形成部113と、媒体排出部114と、搬送装置115と、制御部116と、を備える。
【0036】
インクジェット記録装置100は、媒体供給部112から画像形成部113を通って媒体排出部114に至る所定の搬送路Aに沿って、吐出対象物である印刷媒体として例えば用紙Pを搬送しながらインク等の液体を吐出することで、用紙Pに画像形成処理を行う液体吐出装置である。
【0037】
筐体111は、インクジェット記録装置100の外郭を構成する。筐体111の所定箇所に、用紙Pを外部に排出する排出口を備える。
【0038】
媒体供給部112は複数の給紙カセットを備え、各種サイズの用紙Pを複数枚積層して保持可能に構成される。
【0039】
媒体排出部114は、排出口から排出される用紙Pを保持可能に構成された排紙トレイを備える。
【0040】
画像形成部113は、用紙Pを支持する支持部117と、支持部117の上方に対向配置された複数のヘッドユニット130と、を備える。
【0041】
支持部117は、画像形成を行う所定領域にループ状に備えられる搬送ベルト118と、搬送ベルト118を裏側から支持する支持プレート119と、搬送ベルト118の裏側に備えられた複数のベルトローラ120と、を備える。
【0042】
支持部117は、画像形成の際に、搬送ベルト118の上面である保持面に用紙Pを支持するとともに、ベルトローラ120の回転によって所定のタイミングで搬送ベルト118を送ることにより、用紙Pを下流側へ搬送する。
【0043】
ヘッドユニット130は、複数(4色)のインクジェットヘッド1と、各インクジェットヘッド1上にそれぞれ搭載された液体タンクとしてのインクタンク132と、インクジェットヘッド1とインクタンク132とを接続する接続流路133と、供給ポンプ134と、を備える。
【0044】
本実施形態において、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの4色のインクジェットヘッド1と、これらの各色のインクをそれぞれ収容するインクタンク132を備える。インクタンク132は接続流路133によってインクジェットヘッド1に接続される。
【0045】
また、インクタンク132には、図示しないポンプなどの負圧制御装置が連結される。そして、インクジェットヘッド1とインクタンク132との水頭値に対応して、負圧制御装置によりインクタンク132内を負圧制御することで、インクジェットヘッド1の各吐出ノズル28に供給されたインクを所定形状のメニスカスに形成させている。
【0046】
供給ポンプ134は、例えば圧電ポンプで構成される送液ポンプである。供給ポンプ134は、供給流路に設けられている。供給ポンプ134は、配線により制御部116の駆動回路1161に接続され、CPU(Central Processing Unit)による制御によって制御可能に構成される。供給ポンプ134は、インクジェットヘッド1に液体を供給する。
【0047】
搬送装置115は、媒体供給部112から画像形成部113を通って媒体排出部114に至る搬送路Aに沿って、用紙Pを搬送する。搬送装置115は、搬送路Aに沿って配置される複数のガイドプレート対121と、複数の搬送用ローラ122と、を備えている。
【0048】
複数のガイドプレート対121は、それぞれ、搬送される用紙Pを挟んで対向配置される一対のプレート部材を備え、用紙Pを搬送路Aに沿って案内する。
【0049】
搬送用ローラ122は、制御部116の制御によって駆動されて回転することで、用紙Pを搬送路Aに沿って下流側に送る。なお、搬送路Aには用紙の搬送状況を検出するセンサが各所に配置される。
【0050】
制御部116は、コントローラであるCPU等の制御回路と、各種のプログラムなどを記憶するROM(Read Only Memory)と、各種の可変データや画像データなどを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)と、外部からのデータの入力及び外部へのデータの出力をするインターフェイス部と、を備える。
【0051】
以上のように構成されたインクジェット記録装置100において、制御部116は、例えばインターフェイスにおいてユーザが操作入力部の操作による印刷指示を検出すると、搬送装置115を駆動して用紙Pを搬送するとともに、所定のタイミングでヘッドユニット130に対して印字信号を出力することで、インクジェットヘッド1を駆動する。インクジェットヘッド1は吐出動作として、画像データに応じた画像信号により、駆動ICに駆動信号を送り、内部電極221,222に駆動電圧を印加して吐出対象の駆動圧電素子23を選択的に駆動して積層方向に縦振動させ、圧力室31の容積を変化させることでノズル51からインクを吐出し、搬送ベルト118上に保持された用紙Pに画像を形成する。また、液体吐出動作として、制御部116は、供給ポンプ134を駆動することで、インクタンク132からインクジェットヘッド1の共通室32にインクを供給する。
【0052】
ここで、インクジェットヘッド1を駆動する駆動動作について、説明する。本実施形態にかかるインクジェットヘッド1は、圧力室31に対向配置される駆動圧電素子23と、複数の駆動圧電素子23の間に配される補助圧電素子24とを備え、これらの全ての素子23,24は配線により電圧が印加可能に接続されている。制御部116は、画像データに応じた画像信号により、駆動ICに駆動信号を送り、駆動対象の駆動圧電素子23の内部電極221,222に駆動電圧を印加して、駆動対象の駆動圧電素子23を選択的に変形させるとともに、全ての補助圧電素子24に、反対方向に変形する補助電圧を印加することで、振動板30を変形させる。そして、振動板30の引張方向の変形と圧縮方向の変形を組み合わせて、圧力室31の容積を変化させることで、液体を吐出させる。
【0053】
また、制御部116は、インクジェットヘッド1の、駆動対象の駆動圧電素子23に所定の駆動電圧を印加して駆動するのと同時に、全ての補助圧電素子24に、駆動電圧と逆方向の補助電圧を印加することで、隔壁部42に対応する全ての補助圧電素子24を、反対方向に変形させる。
【0054】
例えば制御部116は、引っ張り動作と、圧縮動作とを交互に行う。
図4は、非駆動時(引張タイミング)と、引張時と、非駆動時(圧縮タイミング)と、圧縮時の圧電素子23,24の変形の状態を示す。
図4に示すように、インクジェットヘッド1において、対象の圧力室31の内容積を増加させる引張時には、駆動対象の駆動圧電素子23を収縮(小収縮)し、駆動対象外の駆動圧電素子は変形させず(不動)、全ての補助圧電素子を伸長(小伸長)させる。また、インクジェットヘッド1において対象の圧力室31の内容積を減少させる圧縮時には、駆動対象の駆動圧電素子23を伸長(小伸長)し、駆動対象外の駆動圧電素子は変形させず(不動)、全ての補助圧電素子を収縮(小収縮)させる。なお、補助電圧の印加による補助圧電素子24の変形は、駆動電圧印加による駆動圧電素子23の変形のタイミングと同時に行うと良い。
【0055】
すなわち、インクジェットヘッド1において、駆動圧電素子23を収縮させる際には、駆動電圧と逆方向の補助電圧により補助圧電素子24を伸長させ、例えば駆動圧電素子23を伸長させる際には駆動電圧と逆方向の補助電圧を印加することで補助圧電素子24を収縮させる。すなわち、補助電圧は、駆動電圧に対して素子の伸長と収縮が逆となり、素子が接合される振動部位の振動方向が逆方向となる電圧であって、例えば共通電圧に対する電位差の、プラスとマイナスが逆なるような電圧に設定される。
【0056】
なお、補助圧電素子24を駆動する補助電圧だけでも圧力室31は伸縮するので、補助電圧だけではインクが吐出しない設定、例えば、単独の印加により液体を吐出できる基準電圧よりも低い電圧に、設定する。この補助電圧での補助圧電素子24の変形に、駆動電圧での駆動圧電素子23の変形が重なることで、初めて、駆動対象の駆動圧電素子23に対向するノズル51からのみインクを吐出する。すなわち、インクジェットヘッド1は、駆動圧電素子23の変形と、反対方向の補助圧電素子24の変形とを組み合わせて、振動板30が液体吐出条件を満たす変形を実現できればよく、駆動圧電素子23の変形のみで振動板30を変形させるよりも、駆動圧電素子の振動は小さく、駆動電圧は小さくてすむ。
【0057】
駆動電圧と補助電圧の大きさは適宜設定可能である。例えば、駆動電圧が最も小さくする場合には、駆動圧電素子と補助圧電素子に印加する電圧は1:1とする。
【0058】
また、駆動圧電素子に印加する駆動電圧を、補助圧電素子に印加する補助電圧よりも、大きく設定してもよい。例えば、補助圧電素子に印加する電圧が大きいと、温度が上がって粘度が下がったりして非吐出ノズルから誤吐出する可能性もあるため、誤吐出を防止する場合には、駆動圧電素子に印加する駆動電圧を、補助圧電素子に印加する補助電圧よりも、大きく設定する。
【0059】
また、分極劣化が懸念される場合には、伸長方向の電圧と縮小方向の電圧は、1:1ではなく、分極方向の通電を、分極方向と逆方向の通電よりも、大きく設定してもよい。例えば積層圧電体の場合、伸長する方向が分極方向であるため、伸長する方の電圧を大きく、縮む方向の電圧を小さく、設定する。例えば伸縮する圧電体の場合には、分極方向と逆方向に電圧を印加すると分極劣化が懸念されるが、駆動電圧や補助電圧について、収縮方向の電圧<伸長方向の電圧とすることで、分極劣化を抑えることができる。
【0060】
上述した実施形態にかかるインクジェットヘッド1及びインクジェット記録装置100によれば、小さい駆動電圧で、液体吐出性能を確保できる。
【0061】
図6及び
図7は比較例としてのインクジェットヘッド1000の構成及び動作を示す説明図である。インクジェットヘッド1000は、複数の圧電素子として、振動板1030を介して圧力室1031に対向する駆動圧電素子1023と、振動板1030を介して圧力室1031間に配される隔壁部1042に対向する非駆動圧電素子1024とを備える。インクジェットヘッド1000において、駆動圧電素子1023は駆動回路1025に接続されるが、非駆動圧電素子1024は電圧が印加されない構成である。
図7に示す様に、インクジェットヘッド1000において、ノズルプレート1050に形成されたノズル1051からインクを吐出させる場合、駆動対象の駆動圧電素子1023のみに電圧を印加する。例えば
図7に示すように、非駆動時は駆動圧電素子1023及び非駆動圧電素子1024を駆動しない。例えば対象の圧力室1031の内容積を増加させる引張時には、駆動対象の駆動圧電素子1023を収縮させ、駆動対象外の駆動圧電素子1023は変形させず、駆動圧電素子1023の間の非駆動圧電素子1024も変形させない。また、圧力室1031の内容積を減少させる圧縮時には、駆動対象の駆動圧電素子1023を伸長し、駆動対象外の駆動圧電素子1023は変形させず、駆動圧電素子1023の間の非駆動圧電素子1024も変形させない。この形態において、駆動圧電素子1023のみの変形で液体吐出が可能な変形量を確保する必要があるため、駆動圧電素子1023に大きな駆動電圧を印加する必要がある。
【0062】
一方、本実施形態にかかるインクジェットヘッド1においては、補助電圧を印加することによって、隣接する補助圧電素子24を駆動対象の駆動圧電素子23と逆方向に変位するように変形させることで、振動板30の変形量を一部担うことで、個々の駆動電圧の大きさに対して、圧力室31の変形量を大きく確保することができる。
【0063】
例えば発熱の少ないハード系のPZTや、鉛を使用しない無鉛圧電体を用いた場合、圧電体数が小さいので、積層数を増やす必要があり、大型化やコスト増の原因となるが、上記実施形態にかかるインクジェットヘッド1によれば、個々の圧電素子に印加する駆動電圧を下げることができるので、積層数を増やすことを最小限とすることができる。
【0064】
また、補助圧電素子は全て同じ動きとすればよいため、補助圧電素子の駆動回路は1つで済み、駆動回路コストが低減できる。
【0065】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0066】
例えば、上記実施形態においては、複数層の圧電体層を積層し、積層方向の縦振動(d33)を用いて圧電素子23,24を駆動する構成としたが、これに限られるものではない。例えば圧電素子23,24が単層の圧電部材で構成される形態にも適用可能である。
【0067】
また、圧電素子23,24の具体的な構成や、流路の形状、マニホールド40、ノズルプレート50、フレーム60を含む各種部品の構成や位置関係は上述した例に限られるものではなく、適宜変更可能である。また、ノズル51や圧力室31の配列も上記に限られるものではない。たとえばノズル51を2列以上配列してもよい。また、圧電素子23,24が積層方向の両端にダミー層212を有する例を示したがこれに限られるものではなく、圧電素子23,24の一方側のみにダミー層212を有していてもよく、あるいは圧電素子23,24がダミー層212を備えない構成であってもよい。また、上記実施形態においてはプレート部301に突起状の接合部302が設けられ、振動板30が接合部302において圧電素子23,24に接合される例を示したが、これに限られるものではない。例えば、振動板30が接合部302を備えない構成であって、プレート部301の一方の面が直接接合されていてもよい。
【0068】
また、補助圧電素子は全て同じ動きとして補助圧電素子の駆動回路を共通させる例を示したが、補助圧電素子を個別に駆動可能としてもよい。例えば印字が少ない場合、インク吐出に寄与しない場合も消費電力が発生するようなケースでは、個別に駆動することで、省電力を図れる。
【0069】
また、吐出する液体は印字用のインクに限られるものではなく、例えばプリント配線基板の配線パターンを形成するための導電性粒子を含む液体を吐出する装置等であっても良い。
【0070】
また、上記実施形態において、インクジェットヘッド1は、インクジェット記録装置等の液体吐出装置に用いられる例を示したが、これに限られるものではなく、例えば3Dプリンタ、産業用の製造機械、医療用途にも用いることが可能であり、小型軽量化及び低コスト化が可能である。
【0071】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、小さい駆動電圧で液体吐出性能を確保できる液体吐出ヘッド及び液体吐出装置を提供できる。
【0072】
この他、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。以下に、本願出願当初の特許請求の範囲に記載された発明と同等の記載を付記する。
(1)
複数の圧力室と、
複数の前記圧力室に対向配置され、変形により前記圧力室を変形させる、振動板と、 圧電体層を備え、前記振動板の、前記圧力室に対向する位置に接合される駆動圧電素子と、
圧電体層を備え、複数の前記駆動圧電素子の間に配されるとともに複数の前記圧力室の間に配される壁部に対応する位置に設けられ、前記振動板に接合される、補助圧電素子と、
前記駆動圧電素子のうち駆動対象の前記駆動圧電素子に駆動電圧を印加して前記駆動圧電素子を変形させる際に、複数の前記補助圧電素子に、前記駆動圧電素子の変形と逆方向に前記補助圧電素子を変形させる補助電圧を印加する、駆動部と、
を備える、
液体吐出ヘッド。
(2)
前記駆動圧電素子及び前記補助圧電素子は、積層される複数の圧電体層を有する、(1)に記載の液体吐出ヘッド。
(3)
前記補助電圧は、単独の印加で前記圧力室から液体が吐出する基準電圧よりも小さい、(1)または(2)に記載の液体吐出ヘッド。
(4)
複数の前記補助圧電素子を同時に駆動する、(1)乃至(3)のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
(5)
前記補助電圧は前記補助圧電素子の分極方向への電圧が、逆方向の電圧よりも大きく、 前記駆動電圧は前記駆動圧電素子の分極方向への電圧が、逆方向の電圧よりも大きい、(1)乃至(4)のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【符号の説明】
【0073】
1…インクジェットヘッド、10…ベース、20…圧電部材、22…溝
23…駆動圧電素子、24…補助圧電素子、30…振動板、31…圧力室、32…共通室、33…開口部、34…ガイド流路、35…インク流路、40…マニホールド、41…枠状部、42…隔壁部、43…ガイド壁、50…ノズルプレート、51…ノズル、60…フレーム、70…配線基板、71…ベース層、72…電極層、73…ハンダメッキ層、74…接着層、75…絶縁カバー層、100…インクジェット記録装置、111…筐体、112…媒体供給部、113…画像形成部、114…媒体排出部、115…搬送装置、116…制御部、117…支持部、118…搬送ベルト、119…支持プレート、120…ベルトローラ、121…ガイドプレート対、122…搬送用ローラ、130…ヘッドユニット、132…インクタンク、133…接続流路、134…供給ポンプ、201…積層圧電体、211…圧電体層、221,222…内部電極、223,224…外部電極、301…プレート部、302…接合部。