(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-04
(45)【発行日】2025-07-14
(54)【発明の名称】溶融炉
(51)【国際特許分類】
F23G 5/00 20060101AFI20250707BHJP
F23G 5/44 20060101ALI20250707BHJP
【FI】
F23G5/00 115Z
F23G5/44 B
F23G5/44 Z
(21)【出願番号】P 2021161339
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】井上 繁則
(72)【発明者】
【氏名】寳正 史樹
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-220744(JP,A)
【文献】特開平09-222217(JP,A)
【文献】特開2006-200792(JP,A)
【文献】特開平02-298718(JP,A)
【文献】実開昭61-120747(JP,U)
【文献】特開2002-340311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G 5/00 - 5/50
B09B 3/00 - 3/80
C22B 1/00 - 61/00
C21B 3/00 - 15/04
F27B 1/00 - 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有用金属を含む処理対象物を溶融処理する炉室と、溶融処理で生じた溶融スラグを排出する出滓口と、前記溶融スラグを前記出滓口に案内する炉床と、を備えた溶融炉であって、
前記溶融炉は、前記炉室を区画する内筒と、前記内筒の外周に配された外筒と、前記内筒と前記外筒との間に形成された処理対象物の貯留部と、前記内筒と前記外筒との相対回転により前記貯留部から前記炉室に切出された処理対象物が表面から溶融処理され、溶融したスラグが流下して前記炉床の中央部に形成された前記出滓口から排出される回転式表面溶融炉で構成され、
前記炉床に、
前記出滓口の手前側に形成された凹部により前記溶融スラグを滞留させて前記溶融スラグに含まれる溶融金属を沈降させる滞留機構
と、前記凹部の外周に未溶融の処理対象物の前記凹部への流入を阻止する第2の堰体と、を備えている溶融炉。
【請求項2】
有用金属を含む処理対象物を溶融処理する炉室と、溶融処理で生じた溶融スラグを排出する出滓口と、前記溶融スラグを前記出滓口に案内する炉床と、を備えた溶融炉であって、
前記溶融炉は、前記炉室を区画する内筒と、前記内筒の外周に配された外筒と、前記内筒と前記外筒との間に形成された処理対象物の貯留部と、前記内筒と前記外筒との相対回転により前記貯留部から前記炉室に切出された処理対象物が表面から溶融処理され、溶融したスラグが流下して前記炉床の中央部に形成された前記出滓口から排出される回転式表面溶融炉で構成され、
平面に形成された前記炉床のうち、前記出滓口の
周りに平面視で弧状に形成され
、同心円状に分散して配されている第1の堰体
と、前記第1の堰体の外周に未溶融の処理対象物の流入を阻止する第2の堰体により
、前記溶融スラグを滞留させて前記溶融スラグに含まれる溶融金属を沈降させる滞留機構が構成され、前記第1の堰体の上流側に溶融金属を沈降させ
る溶融炉。
【請求項3】
前記凹部に沈降した溶融金属を取り出す取出し機構を備えている請求項
1記載の溶融炉。
【請求項4】
前記取出し機構は、前記凹部の底部に連通し、溶融金属を流出させる案内流路で構成されている請求項
3記載の溶融炉。
【請求項5】
前記取出し機構は、前記凹部の底部に連通し、前記凹部から溶融金属を溢流させるガスノズルで構成されている請求項
3記載の溶融炉。
【請求項6】
前記凹部に沈降して固化した金属を再溶融する加熱機構を設けている請求項
1,3から5の何れかに記載の溶融炉。
【請求項7】
前記第1の堰体の上流側近傍に沈降した溶融金属を取り出す取出し機構を備えている請求項
2記載の溶融炉。
【請求項8】
前記取出し機構は、前記第1の堰体の上流側近傍の底部に連通し、溶融金属を流出させる案内流路で構成されている請求項
7記載の溶融炉。
【請求項9】
前記取出し機構は、前記第1の堰体の上流側近傍の底部の連通し、前記第1の堰体から溶融金属を溢流させるガスノズルで構成されている請求項
7記載の溶融炉。
【請求項10】
前記第1の堰体の上流側近傍に沈降して固化した金属を再溶融する加熱機構を設けている請求項
2,7から9の何れかに記載の溶融炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象物に含まれる有価金属を効率的に回収可能な溶融炉に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥、家畜ふん尿、生ごみのメタン発酵残さなどの有機性汚泥や、プラスチック、紙、RPF、プラスチックと金属を含むリサイクル残さなどの可燃物、焼却灰、汚染土壌、廃ガラス、廃陶器、石綿等の不燃物など、雑多な廃棄物が処理対象物として溶融炉で溶融処理されている。
【0003】
例えば、出滓口が形成された炉室と、炉室に向けて処理対象物を供給する処理対象物供給機構とを備え、処理対象物供給機構により炉室に供給された被処理物が表面から溶融して出滓口に流下するように構成された表面溶融炉によって、雑多な廃棄物が溶融処理される。
【0004】
このような溶融炉では、処理対象物に含まれる重金属類を揮散させてスラグから除去するために、炉内を還元性雰囲気に調節することが行なわれている。
【0005】
また、特許文献1には、溶融処理時に処理対象物に含まれるリンの揮散を抑制した表面溶融炉が提案されている。当該表面溶融炉は、バーナ及び空気供給機構が設置されるとともに出滓口が形成された炉室と、前記炉室に連通して設けられた被処理物収容部から被処理物を前記炉室に供給する被処理物供給機構とを備えて構成され、被処理物はリンと可燃物を含有し、前記炉室と前記被処理物収容部が連通する近傍であって前記炉室内の被処理物の表面に向けて空気を供給する縁部空気供給機構を備えている。
【0006】
当該表面溶融炉によれば、可燃物の熱分解により被処理物の表面近傍に残存する固定炭素分が、縁部空気供給機構から被処理物の表面に向けて供給される空気によって燃焼し、さらに余った酸素によってリン化合物やリン酸化物の還元反応が抑制されることでリンの揮散が抑制される。
【0007】
特許文献2には、下水汚泥のようなリン含有物質を溶融処理する際に、リン含有物質に含まれているリン成分が排ガスへ揮散するのを抑制して、当該リン成分をスラグ中に捕捉するリン含有物質の溶融処理方法が提案されている。当該溶融処理方法は、リンが乾燥物質換算量の0.04wt%以上含まれるリン含有物質に対して含水量を調整する前処理ステップと、前記前処理ステップで水分が調整されたリン含有物質を溶融炉に投入して溶融する溶融ステップと、前記溶融ステップで溶融生成されたスラグを冷却して固化する冷却ステップと、を含む。
【0008】
そして、当該溶融処理方法は、リン含有物質に2価または3価の鉄化合物を添加する鉄化合物添加ステップを前記前処理ステップまたはその前後に実行することにより、前記溶融ステップで、リン含有物質に含まれるリン成分の揮散を防止するとともに、リン成分のリン化鉄を含む金属リン化合物への移行を抑制しながらスラグに捕捉する。
【0009】
このような2価または3価の鉄化合物とリン含有物質との混合物が溶融炉に投入されると、投入された酸化第一鉄(FeO)或いは溶融過程で2価または3価の鉄化合物から生成される酸化第一鉄(FeO)によって融点降下作用が発現し、例えば、約1300℃の溶融温度のときに、鉄に対するリン含有物質の好ましい塩基度0.4~0.8よりも広い範囲で溶流度60%以上を確保でき、しかも被溶融物中のリン成分の揮散が抑制されてリンが金属リン化合物ではない形態でスラグ中に捕捉されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-190701号公報
【文献】特開2015-033691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、処理対象物に含まれる有用金属などの揮散を抑制するために、炉内雰囲気を酸化性雰囲気に調整したり、処理対象物に含まれる有用金属などの金属合金化を抑制してスラグに閉じ込めるために、溶融助剤を投入したりする溶融炉の運転方法が知られている。本明細書では、処理対象物に含まれる金属のうちスラグから回収して再利用可能な単体金属または合金を有用金属と称し、有用金属には、鉄、ニッケル、銅などの他に、銀、金、プラチナなどの貴金属やそれらの合金が含まれる。
【0012】
処理対象物に含まれる有用金属を回収するために、溶融処理により得られたスラグを粉砕処理して比重分離や磁力分離等の選別処理を行なうことで、スラグから有用金属を回収することができる。
【0013】
しかし、スラグに含まれる金属の粒径は非常に小さく、比重分離や磁力分離による金属の回収比率は低く、金属の回収率の向上を図るという観点で一層の改良が望まれていた。
【0014】
本発明の目的は、金属を含む処理対象物から再利用可能な有用金属を効率的に回収することができる溶融炉を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するため、本発明による溶融炉の第一の特徴構成は、有用金属を含む処理対象物を溶融処理する炉室と、溶融処理で生じた溶融スラグを排出する出滓口と、前記溶融スラグを前記出滓口に案内する炉床と、を備えた溶融炉であって、前記溶融炉は、前記炉室を区画する内筒と、前記内筒の外周に配された外筒と、前記内筒と前記外筒との間に形成された処理対象物の貯留部と、前記内筒と前記外筒との相対回転により前記貯留部から前記炉室に切出された処理対象物が表面から溶融処理され、溶融したスラグが流下して前記炉床の中央部に形成された前記出滓口から排出される回転式表面溶融炉で構成され、前記炉床に、前記出滓口の手前側に形成された凹部により前記溶融スラグを滞留させて前記溶融スラグに含まれる溶融金属を沈降させる滞留機構と、前記凹部の外周に未溶融の処理対象物の前記凹部への流入を阻止する第2の堰体と、を備えている点にある。
【0016】
貯留部から炉室に切り出された処理対象物がすり鉢状に堆積し、その表面で溶融処理されて生じる溶融スラグが、炉床の中央部に形成された出滓口に向けて流下する。溶融スラグが出滓口の手前で炉床に形成された凹部に流入すると、凹部が湯溜まりとして作用することで溶融スラグの溶融層が厚くなるとともに溶融物の流速が低下する。そのため、凹部では溶融スラグに懸濁し溶融スラグより比重が大きな微量の溶融金属が沈降する一方で、比重の小さな溶融スラグが出滓口に向けて流下する。そのような状態が継続すると、凹部に沈降して濃度が高くなった溶融金属が塊状になって蓄積されるようになる。このとき、炉室の内部ですり鉢状に堆積した未溶融の処理対象物が凹部に流入すると、凹部で溶融金属を適切に蓄積させることが困難になる。そのような場合でも、凹部の外周に第2の堰体を設けることにより、未溶融の処理対象物を堰き止めながら、第2の堰体を溢流した溶融物を凹部に流入させることができる。
【0017】
同第二の特徴構成は、有用金属を含む処理対象物を溶融処理する炉室と、溶融処理で生じた溶融スラグを排出する出滓口と、前記溶融スラグを前記出滓口に案内する炉床と、を備えた溶融炉であって、前記溶融炉は、前記炉室を区画する内筒と、前記内筒の外周に配された外筒と、前記内筒と前記外筒との間に形成された処理対象物の貯留部と、前記内筒と前記外筒との相対回転により前記貯留部から前記炉室に切出された処理対象物が表面から溶融処理され、溶融したスラグが流下して前記炉床の中央部に形成された前記出滓口から排出される回転式表面溶融炉で構成され、平面に形成された前記炉床のうち、前記出滓口の周りに平面視で弧状に形成され、同心円状に分散して配されている第1の堰体と、前記第1の堰体の外周に未溶融の処理対象物の流入を阻止する第2の堰体により、前記溶融スラグを滞留させて前記溶融スラグに含まれる溶融金属を沈降させる滞留機構が構成され、前記第1の堰体の上流側に溶融金属を沈降させる点にある。
【0018】
第1の堰体が出滓口の周りに同心円上に分散して配されることで、処理対象物の表面から溶融したスラグに対して炉室内での滞留時間を稼ぐことができ、滞留時に溶融スラグに懸濁している溶融金属に対して沈降による蓄積機会を効率的に確保することができる。第1の堰体で堰き止められた溶融スラグは平面視で弧状に形成された第1の堰体に沿って流れ、第1の堰体の端縁から出滓口に流出する。このとき、炉室の内部ですり鉢状に堆積した未溶融の処理対象物が第1の堰体まで流入すると、溶融金属に対して沈降による蓄積機会を確保することが困難になる。そのような場合でも、第1の堰体の外周に第2の堰体を設けることにより、未溶融の処理対象物を第2の堰体で堰き止めながら、第2の堰体を溢流または第2の堰体の端縁から流下した溶融スラグを第1の堰体に導くことができる。
【0019】
同第三の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記凹部に沈降した溶融金属を取り出す取出し機構を備えている点にある。
【0020】
出滓口の近傍の炉床には、高温による耐火物の損傷を回避するために冷却機構が設けられているため、凹部で沈降して蓄積した溶融金属が冷却により固化すると、それ以降は溶融金属を沈降させて蓄積するという凹部の機能が損なわれる。そのような場合でも、取出し機構を備えることで凹部に沈降した溶融金属が取り出されるようになり、所期の凹部の機能が維持される。
【0021】
同第四の特徴構成は、上述した第三の特徴構成に加えて、前記取出し機構は、前記凹部の底部に連通し、溶融金属を流出させる案内流路で構成されている点にある。
【0022】
凹部の底部に案内流路を連通させることにより、凹部で沈降して蓄積した金属を溶融状態で流出させることができる。
【0023】
同第五の特徴構成は、上述した第三の特徴構成に加えて、前記取出し機構は、前記凹部の底部に連通し、前記凹部から溶融金属を溢流させるガスノズルで構成されている点にある。
【0024】
凹部の底部にガスノズルを連通して、ガスを噴き込むことにより凹部で沈降して蓄積した溶融金属が凹部から溢流して出滓口に導かれる。なお、ガスとして窒素などの不活性ガスが好適に用いられる。
【0025】
同第六の特徴構成は、上述した第一、第三から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記凹部に沈降して固化した金属を再溶融する加熱機構を設けている点にある。
【0026】
凹部で沈降して蓄積した溶融金属が固化されても、加熱機構により再度溶融状態にすることで、溶融金属の粘性を下げることにより、上流側から凹部に流入する溶融スラグの流れにより出滓口に向けて押し流すことができる。なお、加熱機構として、例えば、凹部の直近の上方空間から加熱する燃焼バーナや、凹部の底部近傍に配置したヒータなど、適宜構成することができる。
【0027】
同第七の特徴構成は、上述した第三の特徴構成に加えて、前記第1の堰体の上流側近傍に沈降した溶融金属を取り出す取出し機構を備えている点にある。
【0028】
出滓口の近傍の炉床には、高温による耐火物の損傷を回避するために冷却機構が設けられているので、第1の堰体の上流側で沈降して蓄積した溶融金属が冷却により固化すると、その後に流下した溶融スラグに対して溶融金属の沈降による蓄積という第1の堰体の機能が損なわれる。そのような場合でも、取出し機構を備えることで第1の堰体の上流側で沈降した溶融金属が取り出されるようになり、所期の第1の堰体の機能が維持される。
【0029】
同第八の特徴構成は、上述した第七の特徴構成に加えて、前記取出し機構は、前記第1の堰体の上流側近傍の底部に連通し、溶融金属を流出させる案内流路で構成されている点にある。
【0030】
凹部の底部に案内流路を連通させることにより、第1の堰体の上流側で沈降して蓄積した金属を溶融状態で流出させることができる。
【0031】
同第九の特徴構成は、上述した第七の特徴構成に加えて、前記取出し機構は、前記第1の堰体の上流側近傍の底部の連通し、前記前記第1の堰体から溶融金属を溢流させるガスノズルで構成されている点にある。
【0032】
第1の堰体の上流側近傍の底部にガスノズルを連通して、ガスを噴き込むことにより第1の堰体の上流側近傍で沈降して蓄積した溶融金属が第1の堰体に沿って流れて出滓口に導かれる。なお、ガスとして窒素などの不活性ガスが好適に用いられる。
【0033】
同第十の特徴構成は、上述した第三、第七から第九の何れかの特徴構成に加えて、前記第1の堰体の上流側近傍に沈降して固化した金属を再溶融する加熱機構を設けている点にある。
【0034】
第1の堰体の上流側で沈降して蓄積した溶融金属が固化されても、加熱機構により再度溶融状態にすることで、溶融金属の粘性を下げることにより、上流側から第1の堰体に向けて流入する溶融スラグの流れにより出滓口に向けて押し流すことができる。なお、加熱機構として、例えば、第1の堰体の上流側の上方空間から加熱する燃焼バーナや、第1の堰体の上流側の底部近傍に配置したヒータなど、適宜構成することができる。
【発明の効果】
【0035】
以上説明した通り、本発明によれば、金属を含む処理対象物から再利用可能な有用金属を効率的に回収することができる溶融炉を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明が適用される溶融炉の一例である回転式表面溶融炉の説明図
【
図2】(a)は溶融炉の平面視の要部断面図、(b)から(d)は其々溶融炉に投入された処理対象物の断面を示し、炉床と溶融面の関係の説明図
【
図3】(a),(b)は炉床に形成された滞留機構である凹部の配置の説明図
【
図4】(a)は溶融炉の出滓口付近の要部を拡大した説明図、(b)から(d)は凹部に備えた取出し機構の説明図
【
図5】(a)は別実施形態を示し、炉床に形成された滞留機構である堰体の配置の説明図、(b)は溶融炉に投入された処理対象物の断面を示し、炉床と溶融面と堰体の関係の説明図
【
図6】(a)は別実施形態を示し、炉床に形成された滞留機構である堰体の配置の説明図、(b)は溶融炉に投入された処理対象物の断面を示し、炉床と溶融面と堰体の関係の説明図
【
図7】(a)から(c)は堰体の上流側に備えた取出し機構の説明図
【
図8】(a),(b)は表面溶融炉の別実施形態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明による溶融炉の実施形態を説明する。
【0038】
[表面溶融炉の構成]
図1には、表面溶融炉の一例である回転式の表面溶融炉1が示されている。当該表面溶融炉1は雑多な廃棄物を溶融処理するための炉で、下水汚泥、家畜ふん尿、生ごみのメタン発酵残さなどの有機性汚泥や、プラスチック、紙、RPF、プラスチックと金属を含むリサイクル残さなどの可燃物、焼却灰、汚染土壌、廃ガラス、廃陶器、石綿等の不燃物などが処理対象物となる。金属には、鉄、ニッケル、銅、銀、金などの有用金属に加えて重金属などが含まれる。以下では、プラスチックと金属を含むリサイクル残さと焼却灰の混合物が処理対象物となる場合を説明するが、これら以外の廃棄物が含まれていてもよい。
【0039】
回転式の表面溶融炉1は、同心円状に配された内筒2と外筒3を備え、内筒2と外筒3との間に処理対象物の貯留部15が形成されている。内筒2の内方に炉天井5が設けられ、外筒3の下部から中心方向に延出された炉床6が形成されている。炉床6の中央部には出滓口7が形成され、出滓口7の周囲には水冷式の冷却機構14が配されている。内筒2と炉天井5と炉床6で囲まれる空間で炉室4が形成され、其々の内壁は耐火物で覆われている。内筒2と外筒3は水封機構13で気密に構成されている。
【0040】
貯留部15に処理対象物を搬送するスクリュー式コンベア機構11を備え、炉室4に外気が流入しないように、二重ダンパ機構12を介して処理対象物が貯留部15に落下供給される。
【0041】
内筒2に対して外筒3が相対的に回転することにより、内筒2の下部に備えた切出し羽根9によって貯留部15に貯留された処理対象物が炉室4に投入され、処理対象物は出滓口7に向けてすり鉢状に分布する。炉天井5の中央部側に設けた2基の燃焼バーナ8により炉内は約1300℃の高温に加熱され、処理対象物は表面から溶融して上流側から下流側の出滓口7に向けて流下する。また、炉天井5のうち、径方向外側に燃焼用空気を供給する複数のノズル10が設けられている。
【0042】
炉室4に投入された処理対象物は、先ず廃プラスチックなどの可燃性成分が上流側で気化して、ノズル10から供給される燃焼用空気または酸素ガスによりガス燃焼する。このとき、上流側は弱還元性雰囲気となり、処理対象物に含まれる重金属が還元されて揮散し、二次燃焼室に排ガスとともに流下する。燃焼バーナ8及び炉天井5からの輻射熱で加熱された処理対象物は、表面から溶融して出滓口7に向けて流下する。このとき、溶融層の厚みは数十mmとなる。
図1で示す符号Aは未溶融の処理対象物、符号Bは溶融層、符号Cはガス化燃焼部を示す。
【0043】
図1には、処理対象物に含まれる廃プラスチック、焼却灰、金属、溶融スラグ、溶融金属を示す図形が例示されている。弱還元性雰囲気の下で、炉室4で溶融処理された処理対象物に含まれる有用金属は、酸化されることなく溶融スラグ中に合金の溶融金属として懸濁した状態で出滓口7に向けて流下する。
【0044】
出滓口7の下方には溶融スラグを冷却する水槽を備えた搬送機構が配され、水砕スラグとして炉外に排出される。また、炉室4で生じた燃焼ガスは、出滓口7の下流側に備えた二次燃焼室で燃焼され、排ガス処理設備で浄化された後に煙突から大気に排気される。煙突の上流側に配された誘引送風機により炉室4は負圧に維持される。
【0045】
[滞留機構の構成]
図2(a)には、表面溶融炉1の要部の平断面が示されている。外筒3と内筒2との間に形成された貯留部15から炉室4に切り出された処理対象物Aがすり鉢状に堆積する。その表面に溶融層Bが形成されて溶融スラグが出滓口7に向かって流下する。溶融スラグには、処理対象物Aに含まれる有用金属が溶融した微量の溶融金属Mが懸濁状態で分散している。
【0046】
図2(b)に示すように、炉床6の全域が平面に形成されていると、微量の溶融金属Mが懸濁した溶融スラグとともに出滓口7から滴下するため、水砕スラグとして固化されたスラグに粒径の小さな溶融金属Mが分散して含まれることとなり、スラグを粉砕して比重分離しても、有用金属を効率的に回収するのは非常に困難となる。
【0047】
そこで、炉床6に、溶融スラグを滞留させる滞留機構が形成されている。溶融処理で生じた溶融スラグが出滓口7に向けて流下する際に炉床6に備えた滞留機構によって溶融スラグが滞留すると、滞留域では、微量ではあるが溶融スラグより比重の大きな溶融金属が沈降して、次第にスラグ中に金属濃度が高い部分が形成される。そして、比重の小さな溶融スラグはやがて出滓口7に向けて流下する。このようにして、スラグ中に金属濃度が高い部分が形成されると、例えば後に冷却固化され、粉砕されたスラグから金属濃度が高い塊状物を容易く比重分離したり、磁力分離したりすることができ、有用金属の回収効率が上昇する。
【0048】
図2(c)及び
図3(a)には、平面に形成された炉床6のうち、出滓口7の手前側に形成された凹部6Aにより滞留機構が構成された例が示されている。溶融処理で生じた溶融スラグが凹部6Aに流入すると、凹部6Aが湯溜まりとして作用することで溶融スラグの溶融層が厚くなるとともに溶融物の流速が低下する。そのため、凹部では溶融スラグに懸濁し溶融スラグより比重が大きな微量の溶融金属が沈降する一方で、比重の小さな溶融スラグが出滓口7に向けて流下する。そのような状態が継続すると、凹部6Aに沈降した溶融金属の濃度が上昇して塊状に蓄積するようになる。そして、大きな凝集力が作用する場合には、粒径の大きな塊状の金属に凝集することもある。
【0049】
図3(a)に示すように、凹部6Aは、出滓口7の周りに平面視で円環状に形成されているため、溶融スラグが出滓口7に到る前に凹部6Aを通過して、溶融金属が蓄積されるようになる。なお、凹部6Aは出滓口7の周りに円環状に連続して形成されていなくともよく、
図3(b)に示すように、出滓口7の周りに平面視で円環となるように複数の凹部6Aを配列してもよい。
図3(b)では二つで構成された例を示しているが、三つであってもそれ以上であってもよい。
【0050】
図2(d)に示すように、凹部6Aの外周に未溶融の処理対象物Aの凹部6Aへの流入を阻止する堰体62を設けることが好ましい。炉室4の内部ですり鉢状に堆積した未溶融の処理対象物Aが凹部6Aに流入すると、凹部6Aで溶融金属を蓄積させることが困難になる。凹部6Aの外周に堰体62を設けることにより、未溶融の処理対象物Aを堰き止めながら、堰体62を溢流した溶融物を凹部6Aに流入させることができる。当該堰体62が本発明の第2の堰体となる。
【0051】
図4(a)に示すように、出滓口7の近傍の炉床には、高温による耐火物の損傷を回避するために冷却機構14が設けられているため、凹部6Aで沈降した溶融金属が冷却により固化すると、溶融金属の沈降による濃度上昇と蓄積という凹部6Aの機能が損なわれる虞がある。そこで、凹部6Aに沈降した溶融金属を取り出す取出し機構を備えていることが好ましい。
【0052】
図4(b)には、取出し機構の一例となる案内流路70が示されている。案内流路70は、凹部6Aの底部に連通し、溶融金属を凹部6Aから流出させるように構成されている。案内流路70には、バルブ71が設けられ、凹部6Aの溶融金属が所定量蓄積した時点でバルブ71を開放して溶融金属を取出し、その後バルブ71を閉塞するように調節される。
【0053】
図4(c)には、取出し機構の一例となるガスノズル72が示されている。ガスノズル72は、凹部6Aの底部に連通し、沈降した金属が固化する前に凹部6Aにガスを噴き込むように構成されている。ガスを噴き込むことにより凹部6Aで滞留し、沈降して蓄積した溶融金属が凹部6Aから溢流して出滓口7に導かれる。ガスとして窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスが好適に用いられる。なお、ガスを噴き込む際にノズル72を開放し、ガスを停止するときにノズルを閉止するシャッター機構を備えていることが好ましい。
【0054】
図4(d)には、取出し機構の一例となる加熱機構74が示されている。加熱機構74として凹部6Aの直近の上方空間から凹部6Aに沈降して固化した金属Mを加熱する燃焼バーナを用いることができる。当該加熱バーナは炉天井5に昇降自在に取り付けることができ、定期的に凹部6Aの直上に降下して、凹部6Aで固化した金属Mを再溶融することで溶融金属の粘性を下げて、上流側から凹部6Aに流入する溶融スラグの流れにより出滓口7に向けて押し流すことができる。
【0055】
加熱機構として、燃焼バーナ以外に凹部6Aの底部近傍にヒータを配置することも可能である。
【0056】
凹部6Aは、断面が弧状に形成されていることが好ましく、深さは100~200mmの範囲が好ましい。また、凹部6Aの幅は炉床6の半径の10%から20%の範囲で、200~500mmの範囲が好ましい。
【0057】
以上、取出し機構として複数の例を説明したが、各取出し機構の複数を採用することも可能である。例えば、加熱機構74とガスノズル72を組み合わせて、凹部6Aに沈降した金属が固化すると、加熱機構74により金属を再溶融した後に、ガスノズル72からガスを噴射してもよい。また、加熱機構74と案内流路70を組み合わせて、凹部6Aに沈降した金属が固化すると、加熱機構74により金属を再溶融した後に、案内流路70から溶融金属を取出してもよい。
【0058】
上述した何れかの取出し機構を操炉中の適切な時期に作動させ、或いは炉の停止直前に作動させることで、凹部6Aに沈降した金属Mを適切に取り出すことができる。また、炉の停止後に、作業者が凹部6Aに沈降した金属を削り取る作業を行なうように構成してもよい。
【0059】
[滞留機構の他の構成]
図5(a),(b)には、滞留機構の他の態様が示されている。
【0060】
平面に形成された炉床6のうち、出滓口7の手前側に平面視で弧状に形成された一対の第1の堰体61が出滓口7の周囲を囲むように、同心円上に分散配置されている。
【0061】
貯留部から炉室4に切り出された処理対象物がすり鉢状に堆積し、その表面で溶融処理されて生じる溶融スラグが、炉床6の中央部に形成された出滓口7に向けて流下する際に、出滓口7の周りに配置された第1の堰体61で堰き止められて滞留し、その後、第1の堰体61を迂回して出滓口7に流下する。滞留域では、溶融スラグに懸濁し溶融スラグより比重が大きな微量の溶融金属が沈降して、次第にスラグ中に金属濃度が高い部分が形成され、その後、金属濃度が高い部分が溶融スラグと共に出滓口7から排出される。
【0062】
第1の堰体61が出滓口7の周りに同心円上に分散して配されることで、処理対象物の表面から溶融したスラグに対して炉室4内での滞留時間を稼ぐことができ、滞留時に溶融スラグに懸濁している溶融金属を沈降させることで、効率的に金属成分の濃度を上げて蓄積する機会を確保することができる。第1の堰体61で堰き止められた溶融スラグは第1の堰体61の弧状面に沿って周方向に流れ、第1の堰体61の端縁から出滓口7に流出する。
図5(a)に示す一点鎖線は溶融スラグの流れを示している。
【0063】
この例では、平面視で出滓口7の中心と同心円上に弧状の堰体61が一対配置されているが、弧状の堰体61の数は三つであってもそれ以上の複数であってもよい。また、平面視で出滓口7の中心と同心円上に弧状の堰体61が径方向に複数段設置されていてもよい。その場合には、径方向の内側に配置された堰体61同士の隙間を、径方向の外側に配置された堰体61が覆うように配置することで、溶融スラグが出滓口7に向けて直線経路で流下するようなことを回避することができる。また、弧状の形状は円弧に限るものではなく、例えばアルファベットの「C」字状などを含み、さらには平面視矩形の堰体が同心円上に複数連接されて、全体として略弧状になる形状なども含む概念である。
【0064】
図6(a),(b)に示すように、第1の堰体61の外周に未溶融の処理対象物の滞留機構(第1の堰体61)への流入を阻止する第2の堰体62を設けることが好ましい。
【0065】
炉室4の内部ですり鉢状に堆積した未溶融の処理対象物Aが第1の堰体61まで流入すると、溶融金属Mに対して良好な滞留機会を確保することが困難になる。第1の堰体61の外周に第2の堰体62を設けることにより、未溶融の処理対象物Aを第2の堰体62で堰き止めながら、第2の堰体62を溢流または第2の堰体62の端縁から流下した溶融スラグのみを第1の堰体61で滞留させることができる。
【0066】
なお、第1の堰体61が出滓口7を囲む単一の円環状の堰体61で構成し、堰体61の上流側で溶融金属を沈降及び蓄積させるとともに、溶融スラグが堰体61を溢流して出滓口7に流下するように構成してもよい。この場合、円環状の堰体61の高さは、周方向に一定に形成してもよく、部分的に異ならせてもよい。高さが部分的に低い部位から溶融スラグを溢流させることができる。なお、このような堰体61の高さについての態様は、上述した弧状の堰体61でも適用可能である。
【0067】
何れの態様であっても、
図4(a)~(d)で説明したと同様に、第1の堰体61の上流側近傍に沈降した溶融金属を取り出す取出し機構を備えていることが好ましい。出滓口7と同心円上に複数の堰体61が分散配置されている場合には、各堰体61の端縁から溶融スラグとともに溶融金属の出滓口7に流出するのであるが、冷却機構14による影響で炉床6側に沈降する溶融金属が固化する場合もあるためである。
【0068】
図7(a)に示すように、取出し機構として、第1の堰体61の上流側近傍の底部に連通し、溶融金属を流出させる案内流路70で構成することができる。
【0069】
図7(b)に示すように、取出し機構として、第1の堰体61の上流側近傍の底部の連通し、第1の堰体61の上流域から出滓口7に向けて溶融金属を流出させるガスノズル72で構成することができる。第1の堰体61の上流側近傍の底部にガスノズル72を連通して、ガスを噴き込むことにより第1の堰体61の上流側近傍で沈降して蓄積した溶融金属が第1の堰体に沿って流れて出滓口に導かれる。なお、ガスとして窒素などの不活性ガスが好適に用いられる。
【0070】
図7(c)に示すように、第1の堰体61の上流側近傍に沈降して固化した金属を再溶融する加熱機構を設けることが好ましい。
【0071】
第1の堰体の上流側で沈降して蓄積した溶融金属が固化されても、加熱機構により再度溶融状態にすることで、溶融金属の粘性を下げることにより、上流側から第1の堰体に向けて流入する溶融スラグの流れにより出滓口に向けて押し流すことができる。加熱機構74として、例えば、第1の堰体61の上流側の上方空間から加熱する燃焼バーナや、第1の堰体61の上流側の底部近傍に配置したヒータなど、適宜構成することができる。
【0072】
以上の説明では、溶融スラグに懸濁している溶融金属を滞留させる滞留機構を回転式の表面溶融炉に備えた例を説明したが、本発明が適用される溶融炉は、回転式の表面溶融炉以外であってもよい。
【0073】
例えば、
図8(a)に示すように、炉床6の中央部に出滓口7が形成され、被処理物を投入する複数の押込み投入機構30を炉床6の周囲に配置された表面溶融炉1の炉床6に滞留機構(凹部6aまたは堰体)を備えることも可能である。当該表面溶融炉1は、炉床6と一体に構成された外筒3と、炉天井5と一体に構成された内筒2の双方が固定され、押込み投入機構30によって炉室内に被処理物が供給されるタイプである。
【0074】
また、
図8(b)に示すように、炉床6の端部に出滓口7が形成され、対向側に被処理物を投入する複数の押込み投入機構30が配置された表面溶融炉1の炉床6に滞留機構(凹部6aまたは堰体)を備えることも可能である。何れの表面溶融炉1も炉室4に押し込まれた処理対象物の上流側から下流側に向けて複数段のノズルの先端が溶融面近傍に位置するように配置されている。何れの場合も滞留機構(凹部6aまたは堰体)の形状は炉床6の形状と溶融スラグの流下方向に基づいて適宜設定すればよい。
【0075】
出滓口7から滴下して得られた金属含有スラグは粉砕機で微粒子に粉砕した後に比重分離装置で金属とスラグに分離される。
【0076】
上述した実施形態は、本発明の一例に過ぎず、各部の具体的構成は、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計することが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1:表面溶融炉
2:内筒
3:外筒
4:炉室
5:炉天井
6:炉床
6A:凹部(滞留機構)
7:出滓口
8:燃焼バーナ
9:切出し羽根
15:貯留部
61:第1の堰体(滞留機構)
62:第2の堰体
70:案内流路
71:バルブ
72:ガスノズル
74:加熱機構
A:未溶融の処理対象物
B:処理対象物の表面の溶融層
C:ガス化燃焼部
M:溶融金属