(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-04
(45)【発行日】2025-07-14
(54)【発明の名称】廃水処理方法および廃水処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20250707BHJP
C02F 3/00 20230101ALI20250707BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20250707BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20250707BHJP
C02F 1/56 20230101ALI20250707BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20250707BHJP
【FI】
C02F3/12 B
C02F3/12 D
C02F3/12 H
C02F3/12 S
C02F3/00 G
C02F3/34 Z
C02F1/52 Z
C02F1/56 Z
C02F1/44 F
(21)【出願番号】P 2021213368
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】若原 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸和
(72)【発明者】
【氏名】小松 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】松永 舞穂
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/093070(WO,A1)
【文献】特開2004-313923(JP,A)
【文献】特開2005-143454(JP,A)
【文献】特開2007-075754(JP,A)
【文献】特開2015-116537(JP,A)
【文献】国際公開第2011/039832(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/039831(WO,A1)
【文献】特開2010-029768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00
C02F 3/12
C02F 3/34
C02F 1/44
C02F 1/52-56
B01D 21/01
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1および工程2を含む廃水処理方法であって、
工程1:工程2の前工程であって、廃水中の懸濁物質の任意の一部を除去し流出懸濁物質濃度を低下させる工程;
工程2:上記工程1を経た上記廃水を、膜分離活性汚泥法で処理する工程;
所定期間内におけるパラメータXの挙動に従って、上記工程1における流出懸濁物質濃度を変化させ、
上記パラメータXは、
上記工程2におけるMLVSS/MLSS比率に関連するパラメータである、
廃水処理方法。
【請求項2】
上記パラメータXが所定期間内に基準値以下から基準値超に変化した場合に、上記工程1において流出懸濁物質濃度を低下させる、請求項1に記載の廃水処理方法。
【請求項3】
上記パラメータXが所定期間内に基準値超から基準値以下に変化した場合に、上記工程1において流出懸濁物質濃度を低下させる操作を解除する、請求項1または2に記載の廃水処理方法。
【請求項4】
上記工程1においては、沈澱池、フィルタ、浮上分離およびスクリーンからなる群より選択される1つ以上によって上記流出懸濁物質濃度を低下させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の廃水処理方法。
【請求項5】
上記工程1において、上記廃水に凝集剤を投入する工程を含み、
下記(i)の場合には、上記凝集剤を第1投入量で投入し、
下記(ii)の場合には、上記凝集剤を第2投入量で投入し、
上記第1投入量は、上記第2投入量よりも多い、
請求項1~4のいずれか1項に記載の廃水処理方法。
(i)上記パラメータXが所定期間内に基準値
以下から当該基準値
超に変化した場合
(ii)上記パラメータXが所定期間内に基準値超から当該基準値以下に変化した場合
【請求項6】
上記凝集剤は、高分子凝集剤、鉄系凝集剤およびアルミニウム系凝集剤からなる群より選択される1つ以上である、請求項5に記載の廃水処理方法。
【請求項7】
上記工程2において、上記廃水に微生物製剤を投入する工程を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の廃水処理方法。
【請求項8】
上記微生物製剤を事前培養する工程をさらに含み、当該事前培養された微生物製剤を廃水に投入する、請求項7に記載の廃水処理方法。
【請求項9】
上記微生物製剤を、凝集剤と混合した状態で廃水に投入する、請求項7または8に記載の廃水処理方法。
【請求項10】
上記微生物製剤はPseudomonas属細菌を含んでいる、請求項7~9のいずれか1項に記載の廃水処理方法。
【請求項11】
廃水処理装置および制御装置を備えている、廃水処理システムであって、
上記廃水処理装置は、
廃水中の懸濁物質の任意の一部を除去し流出懸濁物質濃度を低下させる懸濁物質除去槽と、
上記懸濁物質除去槽より下流に位置し、膜分離活性汚泥法で廃水を処理する生物反応槽と、
上記懸濁物質除去槽における廃水中の流出懸濁物質濃度の低下度合いを調節する除去調節部と、
を備えており、
上記制御装置は、
上記生物反応槽における汚泥性状に関連する情報を取得する情報取得部と、
所定期間におけるパラメータXの挙動を判定するパラメータX判定部と、
上記除去調節部を制御する除去制御部と、
を有しており、
所定期間内における上記パラメータXの挙動に従って、上記除去制御部は、上記除去調節部を介して上記懸濁物質除去槽における流出懸濁物質濃度を変化させ、
上記パラメータXは、
上記生物反応槽におけるMLVSS/MLSS比率に関連するパラメータである、
廃水処理システム。
【請求項12】
上記パラメータXが所定期間内に基準値以下から基準値超に変化した場合に、上記除去制御部は、上記除去調節部を介して上記懸濁物質除去槽において流出懸濁物質濃度を低下させる、請求項11に記載の廃水処理システム。
【請求項13】
上記パラメータXが所定期間内に基準値超から基準値以下に変化した場合に、上記除去制御部は、上記除去調節部を介して上記懸濁物質除去槽において流出懸濁物質濃度を低下させる操作を解除する、請求項11または12に記載の廃水処理システム。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか1項に記載の制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、上記情報取得部、上記パラメータX判定部および上記除去制御部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水処理方法および廃水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離活性汚泥法(MBR)を用いた廃水処理システムにおいては、濾過膜にファウラントを堆積させないことが課題の一つとなっている。ファウラントが堆積すると濾過膜の透過抵抗が増大し、廃水の濾過効率が低下するためである。このような課題を解決する手段の一例として間欠濾過サイクルと呼ばれる操作があり、間欠濾過サイクルを改善する技術が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-288543号公報
【文献】特開平09-075686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、膜分離活性汚泥法におけるファウラントの堆積防止技術には、依然として改善の余地が残されていた。
【0005】
本発明の一態様は、新規な廃水処理方法およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る廃水処理方法は、下記工程1および工程2を含む廃水処理方法であって、
工程1:工程2の前工程であって、廃水中の懸濁物質の任意の一部を除去し流出懸濁物質濃度を低下させる工程;
工程2:上記工程1を経た上記廃水を、膜分離活性汚泥法で処理する工程;
所定期間内におけるパラメータXの挙動に従って、上記工程1における流出懸濁物質濃度を変化させ、
上記パラメータXは、上記工程1に流入する廃水の性質、および/または、上記工程2における汚泥性状に関連付けられているパラメータである。
【0007】
本発明の一態様に係る廃水処理システムは、廃水処理装置および制御装置を備えている、廃水処理システムであって、
上記廃水処理装置は、
廃水中の懸濁物質の任意の一部を除去し流出懸濁物質濃度を低下させる懸濁物質除去槽と、
上記懸濁物質除去槽より下流に位置し、膜分離活性汚泥法で廃水を処理する生物反応槽と、
上記懸濁物質除去槽における廃水中の流出懸濁物質濃度の低下度合いを調節する除去調節部と、
を備えており、
上記制御装置は、
上記懸濁物質除去槽に流入する廃水の性質、および/または、上記生物反応槽における汚泥性状に関連する情報を取得する情報取得部と、
所定期間におけるパラメータXの挙動を判定するパラメータX判定部と、
上記除去調節部を制御する除去制御部と、
を有しており、
所定期間内における上記パラメータXの挙動に従って、上記除去制御部は、上記除去調節部を介して上記懸濁物質除去槽における流出懸濁物質濃度を変化させ、
上記パラメータXは、上記懸濁物質除去槽に流入する廃水の性質、および/または、上記生物反応槽における汚泥性状に関連付けられているパラメータである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、新規な廃水処理方法およびシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一態様に係る廃水処理方法の大略を示すフロー図である。
【
図2】約2年間にわたりMLVSS/MLSS比率の移動平均を追跡したグラフである。
【
図3】本発明の一態様に係る廃水処理方法における、稼働状態の選択を示すフロー図である。
【
図4】本発明の一態様に係る廃水処理システムの構成の大略を示すブロック図である。
【
図5】本発明の一態様に係る廃水処理システムに備わっている制御装置の構成の大略を示すブロック図である。
【
図6】本発明の他の態様に係る廃水処理システムの構成の大略を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能である。例えば、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0011】
本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0012】
〔1.廃水処理方法〕
本発明の一態様に係る廃水処理方法は、膜分離活性汚泥法の改善に関連している。膜分離活性汚泥法による廃水処理を安定して稼働させるためには、濾過膜へのファウラントの堆積を低減させることが非常に重要である。
【0013】
本発明者らの研究によれば、ファウラントの堆積を低減するためには、膜分離活性汚泥法による廃水処理(工程2)の前に、任意で廃水中の懸濁物質の一部を除去すること(工程1)が有効であることが判明した。さらに本発明者らの研究によれば、ファウラントが堆積しやすい環境(水温の低い冬季、油分の流入など)であるか否かを判断するパラメータとして、パラメータX(工程1に流入する廃水の性質、および/または、工程2における汚泥性状に関連付けられているパラメータ)が有用であることも判明した。本発明の一態様は、これらの知見に基づいて完成された。
【0014】
本発明の一実施形態に係る廃水処理方法では、所定期間におけるパラメータXの挙動に応じて、工程1における流出懸濁物質濃度を変化させる。このアプローチは、従来の廃水処理方法に対して次のような利点を有している。
【0015】
従来の廃水処理方法では、工程2における膜濾過能力が低下した際に、例えば、凝集剤および/または微生物製剤を投入する。しかし、この方法では、大量の凝集剤および/または微生物製剤を投入する必要があり、コストがかかる。一方、本発明の一実施形態に係る廃水処理方法は、工程2に流入する懸濁物質および有機物の量が減少するため、投入する凝集剤および/または微生物製剤を少なくできる。
【0016】
あるいは、微生物処理に必要な栄養素(ミネラルなど)を廃水に添加して補うこともある。しかし、この方法は、栄養素が不足していない廃水には応用できない。一方、本発明の一実施形態に係る廃水処理方法は、広範な廃水に応用できる。
【0017】
本発明の一実施形態に係る廃水処理方法によって処理される廃水は、有機性の廃水であることが好ましい。このような廃水の例としては、下水に加え、畜産産業、食品産業、製紙産業などにより排出される産業廃水が挙げられる。
【0018】
[1.1.工程1および工程2]
図1に示すように、本発明の一態様に係る廃水処理方法は、工程1および工程2を含む。工程1は、廃水中の懸濁物質の任意の一部を除去し流出懸濁物質濃度を低下させる工程である。工程2は、工程1を経た廃水を膜分離活性汚泥法で処理する工程である。工程1および工程2では廃水に対して行う処理が異なるので、工程1および工程2を異なる槽で実施することが好ましいが、同じ槽で実施してもよい。
【0019】
(工程1)
工程1では、廃水中の懸濁物質の任意の一部を除去する。工程1において懸濁物質の一部を除去することにより、工程2に流入する懸濁物質が減少する。その結果、工程2における微生物負荷が低下し、汚泥滞留時間が増加するので、ファウラントの堆積が低減される。一方、工程1において除去する懸濁物質が増え、流出懸濁物質濃度をより低くすると、稼働コストも上昇する。これらの間のバランスを取るために、本発明の一実施形態に係る廃水処理方法は、後述するパラメータXに基づいて工程1における流出懸濁物質濃度を変化させる。
【0020】
工程1で廃水中の懸濁物質を除去するか否かは、任意である。条件によっては、工程1において廃水中の懸濁物質を除去することなく、工程2へ移行する。
【0021】
本明細書において、懸濁物質(Suspended solid;SS)とは、廃水中に浮遊している不溶性物質の総称である。懸濁物質に含まれている成分には、沈降性が少ない粘度鉱物の微粒子、動物プランクトン(および、その死骸、分解物)、廃水由来の有機物(油分)などがある。
【0022】
廃水中の懸濁物質の一部を除去する際には、沈澱池、フィルタ、浮上分離、スクリーンなどが使用できる。このとき、廃水に凝集剤を投入することが好ましい。凝集剤を投入すると懸濁物質が凝集してフロックを形成するようになり、廃水から除去しやすくなる。
【0023】
凝集剤の例としては、カチオン系凝集剤が挙げられる。カチオン系凝集剤の例としては、無機系のカチオン系凝集剤および高分子系のカチオン系凝集剤が挙げられる。無機系のカチオン系凝集剤の例としては、鉄系凝集剤(塩化鉄、硫酸鉄、ポリ硫酸鉄など);アルミニウム系凝集剤(ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンドなど)が挙げられる。高分子系のカチオン系凝集剤の例としては、ポリアミン、ポリダドマックが挙げられる。高分子系のカチオン系凝集剤の中でも、カチオン量が多く荷電中和に特化したものは、「凝結剤」とも呼ばれる。本明細書においては、凝結剤も凝集剤の範疇に含める。
【0024】
これらの凝集剤の中で、無機系凝集剤は安価であり、廃水に対する脱リン効果も期待できる点で好ましい。さらに、鉄系凝集剤には、硫化水素を除去し、悪臭を防止する効果が期待できる。高分子系凝集剤は、無機系凝集剤と併せて使用してもよいが、高分子系凝集剤のみを用いてもよい。高分子系凝集剤を用いる場合は、凝集剤を用いてもよいし、凝結剤を用いてもよい。凝結剤には、膜濾過性を短期的に改善する効果も期待できる。
【0025】
(工程2)
工程2では、工程1を経た廃水を膜分離活性汚泥法で処理する。膜分離活性汚泥法とは、活性汚泥で処理した廃水を処理水と活性汚泥とに分離する際に、濾過膜を用いる廃水処理方法である。膜分離活性汚泥法は、当業者の間で広く知られている方法であるため、詳細な説明は省略する。
【0026】
工程2においては、廃水に微生物製剤を投入することが好ましい。微生物製剤を投入することにより、工程2における廃水中の微生物フローラを好適に変化させることができる。例えば、冬季など水温が低い状態においては、低温耐性のない微生物は溶解性有機物を多く産生し、これは濾過膜を閉塞させる原因物質となる。一方、微生物製剤として低温耐性の高い微生物を投入すれば、微生物フローラにおいて低温耐性の高い微生物が占める割合が増える。そのため、濾過膜を閉塞させる溶解性有機物の産生量を低減できる。
【0027】
低温耐性の高い微生物の例としては、Alteromonas属細菌、Shewanella属細菌、Pseudomonas属細菌、Psychrobacter属細菌が挙げられる。低温耐性の高い微生物を含んでいる市販の微生物製剤の例としては、Toler-X5100(Novozymes)が挙げられる。
【0028】
また、本発明の一実施形態に係る廃水処理方法では、工程1において廃水中の懸濁物質の一部を除去している。つまり、原水由来の微生物(廃水に元々含まれていた微生物)も、一部が除去されている。その結果、工程2における廃水中の微生物フローラに占める原水由来の微生物の割合が従来技術よりも低くなる。この点において、本発明の一実施形態に係る廃水方法では、工程2における廃水中の微生物フローラを好ましい状態に変化させやすい。
【0029】
一実施形態において、工程2において廃水中に投入する微生物製剤は、事前培養された微生物製剤である。微生物製剤は、保管中に微生物の活性が低下することがある。微生物製剤を事前培養することによって、活性を高めた状態の微生物を投入することが好ましい。
【0030】
一実施形態においては、微生物製剤を凝集剤と混合した状態で廃水中に投入する。凝集剤と混合しない微生物製剤(とりわけ、事前培養された微生物製剤)には、微生物が分散状態で含まれている。この状態のまま微生物製剤を廃水に投入すると、微生物の菌体が濾過膜を閉塞させる可能性がある。そのため、微生物製剤と凝集剤とを混合して、フロック状にした微生物を廃水に投入することが好ましい。
【0031】
微生物製剤と混合する凝集剤は、カチオン系凝集剤が好ましい。カチオン系凝集剤は、それ自体としても短期的な濾過性改善効果を有している。そのため、カチオン系凝集剤による短期的な濾過性改善効果と、微生物製剤による中長期的な濾過性改善効果が補完的に作用するようになる。凝集剤の具体例は、[1.1]節にて例示した通りである。
【0032】
[1.2.パラメータX]
本発明の一態様に係る廃水処理方法は、所定期間におけるパラメータXの挙動に応じて、稼働方法を選択する。パラメータXとは、下記(i)および(ii)の少なくとも一方に関連付けられているパラメータである。
(i)工程1に流入する廃水の性質(CODなど)
(ii)工程2における汚泥性状(MLSS、MLVSS、MLVSS/MLSS比率など)
COD(Chemical oxygen demand)とは、廃水中の有機物を化学的に酸化するときに必要な酸素量である。CODの値が高いほど、廃水中の有機物の量も多い。CODは、当業者であれば適切に測定できる。
【0033】
MLSS(Mixed liquor suspended solid)とは、工程2における懸濁物質の量である。MLVSS(Mixed liquor volatile suspended solid)とは、MLSSの強熱減量であり、MLSSに含まれる有機物の量を表している。したがって、MLVSS/MLSS比率は、MLSSに占める有機物の割合の多寡を反映するパラメータである。MLSSおよびMLVSSの測定方法は本技術分野において周知であり、当業者であればMLVSS/MLSS比率を容易に算出できる。
【0034】
一実施形態において、パラメータXは、工程1に流入する廃水のCODそれ自体である。一実施形態において、パラメータXは、工程1に流入する廃水のCODの移動平均である。工程1に流入する廃水のCODは、比較的短期間に変化しやすい傾向にある(例えば、油分を多く含む産業廃水が流入したとき)。したがって、CODの移動平均をパラメータXとする場合は、算出期間を短くすることが好ましい。
【0035】
一実施形態において、パラメータXは、MLVSS/MLSS比率それ自体である。一実施形態において、パラメータXは、MLVSS/MLSS比率の移動平均である。移動平均の算出期間は、目的に応じて適宜設定できる。移動平均の算出期間を長くすれば、長期的なMLVSS/MLSS比率の動向を捕捉しやすい。したがって、長期的な変動を伴う現象(季節変動など)を検出するのに有用である。移動平均の算出期間を短くすれば、短期的なMLVSS/MLSS比率の動向を捕捉しやすい。したがって、短期的な変動を伴う現象を検出するのに有用である。
【0036】
本発明者らが見出したところによると、MLVSS/MLSS比率は、ファウラントの堆積しやすい環境であるか否かを鋭敏に判断する指標となる。例えば、
図2は、北半球の廃水処理施設において、約2年間にわたりMLVSS/MLSS比率の移動平均を追跡したグラフである。このグラフによると、MLVSS/MLSS比率は、11月の間に顕著に上昇し、4~5月にかけて顕著に低下している。つまり、MLVSS/MLSS比率は、冬季の始まりに対応して鋭敏に上昇し、冬季の終わりに対応して鋭敏に低下している。
【0037】
また、大量の有機物(油分など)が流入すると、工程1に流入する廃水のCODが鋭敏に上昇する。そのため、流入する廃水の性質(CODなど)に関連付けられているパラメータXの挙動を追跡することによって、ファウラントの堆積しやすい環境をいち早く判定できる。
【0038】
冬季の開始および終了を判定するに当たって、パラメータXには、他のパラメータに対する利点がある。水温は、測定時によるばらつきが大きく、パラメータXほど一貫した傾向を示さない。工程2における濾過膜の抵抗は、反応が遅く、抵抗が上昇したときにはファウラントの堆積が進行してしまっている。
【0039】
[1.3.稼働方法の選択]
本発明の一態様に係る廃水処理方法は、パラメータXの挙動に応じて、工程1における流出懸濁物質濃度を変化させる。以下、
図3を参照しながら、本発明の一実施形態に係る廃水処理方法における稼働方法の選択について説明する。
【0040】
(S10)
S10では、パラメータXを算出する。パラメータXは、機械により全自動的に算出してもよいし、部分的に操作者が関与して半自動的に算出してもよいし、全面的に操作者の手作業により算出してもよい。
【0041】
(S20)
S20では、所定期間においてパラメータXの挙動を判定する。具体的には、「基準値以下から基準値超に変化した」「基準値超から基準値以下に変化した」「基準値超を維持していた」または「基準値以下を維持していた」のいずれに該当するかを判定する。判定結果に応じて、それぞれ、S30a、S30b、S30cまたはS30dに移行する。
【0042】
所定の期間は、当業者であれば適宜決定できる。一実施形態において、所定の期間は、N回目にMLVSS/MLSS比率を算出した時点を終点とし、N-1回目にMLVSS/MLSS比率を算出した時点を始点とする期間である。一実施形態において、所定の期間は、最後にMLVSS/MLSS比率を算出した時点を終点とし、最後より1回前にMLVSS/MLSS比率を算出した時点を始点とする期間である。
【0043】
基準値は、当業者であれば適宜決定できる。一実施形態において、基準値は、固定値である。例えば、冬季におけるパラメータXの標準値をX1とし、春季~秋季におけるパラメータXの標準値をX2としたときに、(X1+X2)÷2を基準値としてもよい。あるいは、過去におけるパラメータXのデータを蓄積し、冬季におけるパラメータXの最大値をX1とし、春季~秋季におけるパラメータXの最小値をX2としたときに、(X1+X2)÷2を基準値としてもよい。一実施形態において、基準値は、パラメータXの挙動により変化する値である。例えば、パラメータXの変化を表すグラフにおける変曲点を基準値としてもよい。あるいは、所定期間内におけるパラメータXの変化量が一定以上となる値を基準値としてもよい。一実施形態において、基準値は、パラメータX以外の要因によって変化する値である。例えば、水温がある温度以下になった場合にのみ、有効である基準値があってもよい。
【0044】
(S30a)
S30aでは、工程1における流出懸濁物質濃度を低下させる。例えば、工程1において廃水に投入する凝集剤の量を増加させる(第2投入量から第1投入量に切替える)。あるいは、工程1を実施する槽(懸濁物質除去槽1など)に流入させる廃水の量を増やす。
図2の例では、時点Bおよび時点Dにおいて、工程1における流出懸濁物質濃度を低下させればよい。
【0045】
このように稼働させれば、パラメータXが高まる傾向を見せたときに、工程2に流入する廃水の流出懸濁物質濃度を低下させることができる。その結果、工程2における微生物負荷が低下し、汚泥滞留時間が増加するので、ファウラントの堆積が発生しにくくなる。つまり、ファウラントの堆積が発生しやすい環境へと変化するタイミングで、ファウラントの堆積しにくい条件で工程2を実行できる。
【0046】
(S30b)
S30bでは、工程1において流出懸濁物質濃度を低下させる操作を解除する。例えば、工程1において廃水に投入する凝集剤の量を減少させる(第1投入量から第2投入量に切替える)。減少させた後の凝集剤の投入量(第2投入量)は、0であってもよい。あるいは、工程1を実施する槽(懸濁物質除去槽1など)に流入させる廃水の量を減らす。流量を減らした後に工程1を実施する槽(懸濁物質除去槽1など)に流入する廃水の量は、0であってもよい。すなわち、S30bでは、工程1において流出懸濁物質濃度を全く低下させなくなるように稼働状態を変化させてもよい。
図2の例では、時点Aおよび時点Cにおいて、工程1において流出懸濁物質濃度を低下させる操作を解除すればよい。
【0047】
このように稼働させれば、パラメータXが低まる傾向を見せたときに、工程1において流出懸濁物質濃度を低下させる操作を解除することができる。そのため、工程1で必要になっていた稼働コストを低減できる。つまり、ファウラントの堆積が発生しにくい環境へと変化するタイミングで、工程1にかかるコストを低減できる。
【0048】
(S30cおよびS30d)
S30cでは、第1稼働モードを実行する。S30dでは、第2稼働モードを実行する。工程1における流出懸濁物質濃度は、第1稼働モードの方が第2稼働モードよりも低い。したがって、S30cでは懸濁物質をより多く除去し、S30dでは懸濁物質をより少なく除去する。
【0049】
例えば、S30cでは廃水に第1投入量の凝集剤を投入し、S30dでは廃水に第2投入量の凝集剤を投入してもよい(ただし、第1投入量の方が第2投入量よりも多い)。第2投入量は、0であってもよい。あるいは、S30cでは工程1を実施する槽(懸濁物質除去槽1など)に第1割合の廃水を流入させ、S30dではS30cでは工程1を実施する槽(懸濁物質除去槽1など)に第2割合の廃水を流入させてもよい(ただし、第1割合の方が第2割合よりも多い)。第2割合は、0であってもよい。すなわち、S30dでは、工程1において懸濁物質を全く除去しなくてもよい。
図2の例では、時点B~時点Cにおいて、第1稼働モードで稼働させればよい。また、時点A~時点Bおよび時点C~時点Dにおいて、第2稼働モードで稼働させればよい。
【0050】
このように稼働させれば、パラメータXが高く維持されているときに、継続的に、工程2に流入する懸濁物質を減らすことができる。また、パラメータXが低く維持されているときに、継続的に、工程1で除去する懸濁物質を減らすことができる。そのため、ファウラントの堆積が発生しやすい環境が続いているときには、ファウラントの発生を低減できる稼働条件を維持できる。また、ファウラントの堆積が発生しにくい環境が続いているときには、工程1にかかるコストを低減できる稼働条件を維持できる。つまり、ファウラントの堆積が発生しやすいかどうかに応じて、適切な稼働条件を選択できる。
【0051】
なお、第1稼働モードおよび第2稼働モードは、さらに複数の稼働モードを内包していてもよい。例えば、第1稼働モードは、工程1における流出懸濁物質濃度がより低い第1a稼働モードと、工程1における流出懸濁物質濃度が比較的高い(しかし第2稼働モードよりは低い)第1b稼働モードと、を内包していてもよい。同様に、第2稼働モードは、工程1における流出懸濁物質濃度がより高い第2a稼働モードと、工程1における流出懸濁物質濃度が比較的低い(しかし第1稼働モードよりは高い)第2b稼働モードと、を内包していてもよい。
【0052】
〔2.廃水処理システム〕
本発明の一態様に係る廃水処理システムは、上述の廃水処理方法を実施できるように実装されている。以下、
図4~6を参照しながら、実装の一例について説明する。なお、
図4~6において、物質の流れは実線の矢印、情報の流れは破線の矢印で表している。
【0053】
[2.1.実施形態1]
図4は、実施形態1に係る廃水処理システム100aの構成の大略を表すブロック図である。廃水処理システム100aは、廃水に投入する凝集剤の量を調節することにより、廃水中の流出懸濁物質濃度を調節する。
【0054】
廃水処理システム100aは、廃水処理装置10aおよび制御装置20を備えている。廃水処理装置10aは、懸濁物質除去槽1、生物反応槽2および第1凝集剤タンク4を備えている。廃水処理装置10aは、任意で、測定部3、培養槽6、第2凝集剤タンク7を備えていてもよい。
【0055】
懸濁物質除去槽1は、廃水中の懸濁物質の任意の一部を除去する槽である。懸濁物質除去槽1の働きにより、懸濁物質除去槽1における流出する廃水の懸濁物質濃度が低下する。懸濁物質除去槽1は、例えば、沈澱池、浮上分離を行う槽、フィルタおよび/またはスクリーンを備えている槽、またはこれらの組合せである。上述の廃水処理方法においては、懸濁物質除去槽1は、工程1を実施する槽である。
【0056】
生物反応槽2は、膜分離活性汚泥法により廃水を処理する槽である。生物反応槽2は、懸濁物質除去槽1の下流に位置しているため、懸濁物質除去槽1において懸濁物質の一部が除去された廃水を処理する。上述の廃水処理方法においては、生物反応槽2は、工程2を実施する槽である。
【0057】
第1凝集剤タンク4は、凝集剤を格納しているタンクであって、制御装置20からの命令を受けて懸濁物質除去槽1に凝集剤を投入する。廃水処理システム100aにおいては、第1凝集剤タンク4が、懸濁物質除去槽1における流出懸濁物質濃度を調節する除去調節部に該当する。
【0058】
測定部3は、生物反応槽2における汚泥性状を、直接または間接的に測定するブロックである。測定部3は、例えば、MLSSを測定する透過散乱比較方式のセンサである。
図4では測定部3を生物反応槽2に設けているが、廃水処理装置10aの他の箇所に設けてもよい。例えば、配管L1に測定部3を設けて、懸濁物質除去槽1に流入する廃水のCODを測定してもよい。
【0059】
培養槽6は、微生物製剤に含まれる微生物を事前培養する槽である。第2凝集剤タンク7は、培養槽6で事前培養した微生物に混合するための凝集剤を格納しているタンクである。
【0060】
廃水処理システム100aにおける廃水処理の流れについて説明する。系外から流入した廃水は、配管L1を通じて懸濁物質除去槽1に送られる。懸濁物質除去槽1では、廃水から任意の一部の懸濁物質が除去される。流出懸濁物質濃度が低下した廃水は、配管L2を通じて生物反応槽へ送られる。除去された懸濁物質は、配管L4を通じて系外へ廃棄される。ここで、懸濁物質除去槽1における流出懸濁物質濃度は、懸濁物質除去槽1に投入される凝集剤の量によって制御される。凝集剤は、第1凝集剤タンク4から配管L11を通じて懸濁物質除去槽1に投入される。懸濁物質除去槽1に投入される凝集剤の量は、制御装置20によって制御されている。
【0061】
生物反応槽2に送られた廃水は、膜分離活性汚泥法により処理される。生物反応槽2では、活性汚泥に含まれる微生物の作用によって廃水中の有機物が分解され、活性汚泥と処理水とは濾過膜によって分離される。分離された処理水は、配管L3を通じて系外に放出される。生物反応槽2へは、微生物製剤を投入してもよい。微生物製剤を投入する際には、事前に事前培養した微生物を凝集剤と混合した状態で投入することが好ましい。このような態様を実装するために、廃水処理システム100aは、培養槽6、第2凝集剤タンク7、および配管L12、13を備えている。
【0062】
図5を参照しながら、制御装置20の内部構成について説明する。制御装置20は、廃水処理装置10の各部材と情報をやり取りし、これらの部材を制御する(
図4に描かれている以外の情報の流れが存在してもよい)。制御装置20は、例えば、コンピュータである。制御装置20は、制御部30(プロセッサなど)および記憶部40(メモリなど)を備えている。制御部30には、情報取得部31、パラメータX判定部32、および除去制御部33が含まれている。
【0063】
情報取得部31は、懸濁物質除去槽1に流入する廃水の性質、および/または、生物反応槽2における汚泥性状に関連する情報を取得する。一実施形態において、情報取得部31が取得する情報は、懸濁物質除去槽1に流入する廃水(配管L1を流通する廃水など)のCODである。一実施形態において、情報取得部31が取得する情報は、生物反応槽2におけるMLSSである。一実施形態において、情報取得部31が取得する情報は、生物反応槽2におけるMLVSSである。情報取得部31が取得する情報は、適切に加工することによって目的の情報(COD、MLSS、MLVSSなど)を表すようになる情報であってもよい。なお、
図4、6では、情報取得部31は、測定部3から情報を得るように描かれているが、他の部材から情報を得てもよい。例えば、分析装置から情報を得てもよいし、操作者によって情報を入力されてもよい。
【0064】
パラメータX判定部32は、情報取得部31が取得した情報に基づいて、パラメータXの挙動を判定する。パラメータX判定部32が実行する処理の一例を下記に示す。
ステップ1:情報取得部31が取得した情報に基づいて、MLVSS/MLSS比率(またはCOD)を求める。
ステップ2:ステップ1で求めたMLVSS/MLSS比率(またはCOD)から、パラメータXを算出する。
ステップ3:ステップ2で算出したパラメータXを記憶部40に書き込む。ステップ1~3を繰り返すことにより、記憶部40には、経時的なパラメータXの変化が蓄積される。
ステップ4:記憶部に蓄積された経時的なパラメータXの変化を読み出し、パラメータXの挙動が「基準値以下から基準値超に変化した」「基準値超から基準値以下に変化した」「基準値超を維持していた」または「基準値以下を維持していた」のいずれに該当するかを判定する。
【0065】
除去制御部33は、パラメータX判定部の判定結果に基づいて、第1凝集剤タンク4(除去調節部)を制御して、放出される凝集剤の量を調節する。具体的には、「基準値以下から基準値超に変化した」または「基準値超を維持していた」であった場合には、第1放出量で凝集剤を放出させる。「基準値超から基準値以下に変化した」または「基準値以下を維持していた」であった場合には、第2放出量で凝集剤を放出させる。ここで、第1放出量は、第2放出量よりも多い量である。
【0066】
このように第1凝集剤タンク4(除去調節部)を制御することにより、懸濁物質除去槽1における流出懸濁物質濃度は、以下のように調節されることになる。
・パラメータXが基準値を超えて上昇した場合には、流出懸濁物質濃度を低下させる。
・パラメータXが基準値超を維持した場合には、流出懸濁物質濃度を低いままにする。
・パラメータXが基準値を超えて低下した場合には、流出懸濁物質濃度を低下させる操作を解除する。
・パラメータXが基準値以下を維持した場合には、流出懸濁物質濃度を比較的高いままにする。
【0067】
[2.2.実施形態2]
図6は、実施形態2に係る廃水処理システム100bの概略を表すブロック図である。廃水処理システム100bは、懸濁物質除去槽1に流入する廃水の割合を調節することにより、流出懸濁物質濃度を調節する。
【0068】
廃水処理システム100bは、廃水処理装置10bおよび制御装置20を備えている。廃水処理装置10bは、懸濁物質除去槽1、生物反応槽2および流量調節機構9を備えている。廃水処理装置10bは、任意で、測定部3、培養槽6、第2凝集剤タンク7を備えていてもよい。このうち、流量調節機構9以外の部材については、実施形態1で説明した通りであるので、本節での説明は省略する。廃水処理システム100bにおいては、流量調節機構9が、懸濁物質除去槽1における流出懸濁物質濃度を調節する除去調節部に該当する。
【0069】
流量調節機構9は、配管L5aおよび配管L5bに廃水を分配する機構である。配管L5aに分配された廃水は、懸濁物質除去槽1に流入し、懸濁物質の一部が除去される。一方、配管L5bに分配された廃水は、生物反応槽2に直接流入する。廃水処理システム100bにおいて、除去制御部33は、流量調節機構9を制御して、配管L5aおよび配管L5bに分配される廃水の割合を調節する。このようにして、廃水処理システム100bは、懸濁物質除去槽1における流出懸濁物質濃度を、パラメータXの挙動に応じて変化させる。
【0070】
[2.3.その他の実施形態]
生物反応槽2に流入する廃水の流出懸濁物質濃度を変化させる方法の他の例としては、以下が挙げられる。
【0071】
(1)懸濁物質除去槽1における廃水の滞留時間を変化させる。滞留時間が長くなれば流出懸濁物質濃度が低くなり、滞留時間が短くなれば流出懸濁物質濃度が高くなる。廃水の滞留時間は、例えば、配管L1および配管L2の流量を調節することにより変化させられる。
【0072】
(2)懸濁物質除去槽1における汚泥の引き抜き量を変化させる。汚泥の引き抜き量が多いと流出懸濁物質濃度が低くなり、汚泥の引き抜き量が少ないと流出懸濁物質濃度が高くなる。汚泥の引き抜き量は、例えば、配管L4から放出する汚泥の量を調節することにより変化させられる。
【0073】
[2.4.ソフトウェアによる実現例]
制御装置20の機能は、コンピュータプログラムにより実現させることもできる。このプログラムは、制御装置20の制御部30に含まれる各部としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。このプログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1つ以上の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、コンピュータに備わっていてもよいし、備わっていなくてもよい。記録媒体がコンピュータに備わっていない場合、有線または無線の任意の伝送媒体を介して、プログラムをコンピュータに供給してもよい。
【0074】
また、制御部30に含まれる各部の機能の一部または全部は、論理回路により実現してもよい。例えば、制御部30に含まれる各部として機能する論理回路が形成された集積回路も、本発明の範囲に含まれる。別の例としては、量子コンピュータにより制御部30に含まれる各部の機能を実現してもよい。
【0075】
さらに、上記各実施形態で説明した各処理を、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは、制御装置20において動作するものであってもよいし、他の装置(エッジコンピュータ、クラウドサーバなど)で動作するものであってもよい。
【0076】
〔3.シミュレーション例〕
本発明の一態様に係る廃水処理方法の効果を、シミュレーションにより評価した。詳細を、下記表A~Cに示す。
【0077】
【0078】
表Aは、工程2(生物反応槽2)に流入するBODの組成を示す表である。比較例(従来技術)では、工程1を設けないので、固形BOD(懸濁物質)および溶解性BODの全量である200が工程2に流入する。一方、想定実施例では、工程1により固形BOD(懸濁物質)の一部である80が除去されるので、120のBODが工程2に流入する。
【0079】
表Bは、工程2(生物反応槽2)におけるMLSSの組成を示す表である。比較例および想定実施例は、以下の条件を想定している。
・比較例1:工程1を設けない。
・比較例2:工程1を設けず、工程2において微生物製剤を投入する。
・想定実施例1:工程1を設ける。
・想定実施例2:工程1を設け、工程2において微生物製剤を投入する。
【0080】
また、表Bの作成においては、以下の仮定を設けている。
・流入するBODのうち、固形BODは全て未分解固形物である。
・流入するBODのうち、溶解性BODは全て微生物に分解され、菌体へと変換される。変換率は、溶解性BODが100に対して微生物が40である。
【0081】
上記の仮定に基づくと、比較例1、2では、工程1による固形BOD(懸濁物質)の除去を実施しないから、未分解固形物の量は100である。一方、想定実施例1、2では、工程1により固形BOD(懸濁物質)のうち80を除去するから、未分解固形物の量は20である(表Aも参照)。溶解性BODは、工程1では除去されないから、比較例および想定実施例で同様に微生物に分解され、40の菌体に変換される。比較例2および想定実施例2では微生物製剤を投入するので、さらに10の菌体が投入される。
【0082】
したがって、MLSSに占める菌体の割合は、表Bに示す通りとなる。想定実施例1、2における菌体の割合は、比較例1、2における菌体の割合の2倍以上に達する。また、比較例2と想定実施例2を比較すると、微生物製剤由来の菌体の割合は、後者が前者の2倍に達している。つまり、本発明の一実施形態に係る廃水処理方法によれば、MLSSに占める菌体の割合を大幅に向上させられる。したがって、微生物による処理効率を大幅に向上させることができる。また、本発明の一実施形態に係る廃水処理方法によれば、同量の微生物製剤を投入した場合であっても、微生物製剤由来の菌体の割合を向上させられる。つまり、微生物製剤の効果がより発揮されやすい。
【0083】
表Cは、工程2(生物反応槽2)におけるF/M比(有機物/微生物比)を比較した表である。表Cの作成においては、以下の仮定を設けている。
・廃水の滞留時間は、一律で3時間である。
・MLSSの総量は、一律で12,000g/Lである(技術上、この程度がMLSSの上限値となる)。
【0084】
上記の仮定に、表Aで計算した流入するBODの量と、表Bで計算した菌体の割合とを組合せて、F/M比(1日あたりのBOD量/MLSS量、および、1日あたりのBOD量/菌体量)を算出すると、表Cに示す通りとなる。想定実施例は比較例よりも、F/M比が大幅に小さくなっていることが分かる。このことから、工程1における流出懸濁物質濃度を低くするほど、工程2における有機物負荷が低下することが分かる。したがって、本発明の一態様に係る廃水処理システムでは、同じ処理能力を得るために必要な生物処理槽を小型化できる。この点も、本発明の利点の一つである。
【0085】
〔4.まとめ〕
本発明には、以下の態様が含まれる。
【0086】
(1)下記工程1および工程2を含む廃水処理方法であって、
工程1:工程2の前工程であって、廃水中の懸濁物質の任意の一部を除去し流出懸濁物質濃度を低下させる工程;
工程2:上記工程1を経た上記廃水を、膜分離活性汚泥法で処理する工程;
所定期間内におけるパラメータXの挙動に従って、上記工程1における流出懸濁物質濃度を変化させ(S30a、S30b、S30c、S30d)、
上記パラメータXは、上記工程1に流入する廃水の性質、および/または、上記工程2における汚泥性状に関連付けられているパラメータである、
廃水処理方法。
【0087】
上記の構成によれば、パラメータXの挙動に応じて、工程2に流入する流出懸濁物質濃度を変化させることができる。パラメータXは、ファウラントが堆積しやすい環境であるか否かを反映するパラメータである。そのため、環境の変化に応じて、ファウラントの堆積を低減するか、廃水処理のコストを低減するか、いずれか適切な稼働方法を選択できる。
【0088】
(2)上記パラメータXが所定期間内に基準値以下から基準値超に変化した場合に、上記工程1において流出懸濁物質濃度を低下させてもよい(S30a)。
【0089】
上記の構成によれば、パラメータXが高まる傾向を見せたときに、工程2に流入する流出懸濁物質濃度を減らすことができる。そのため、工程2における微生物負荷が低下し、汚泥滞留時間が増加するので、ファウラントの堆積が発生しにくくなる。パラメータXが高まる傾向を見せたときは、工程2においてファウラントの堆積が発生しやすい環境へと変化するとき(冬季の始まり、油分の流入など)であるため、環境の変化に応じてファウラントの堆積を低減できる。
【0090】
(3)上記パラメータXが所定期間内に基準値超から基準値以下に変化した場合に、上記工程1において流出懸濁物質濃度を低下させる操作を解除してもよい(S30b)。
【0091】
上記の構成によれば、パラメータXが低まる傾向を見せたときに、工程1において流出懸濁物質濃度を低下させる操作を解除する。そのため、工程1で必要になっていた稼働コストを低減できる。パラメータXが低まる傾向を見せたときは、工程2においてファウラントの堆積が発生しにくい環境へと変化するとき(冬季の終わりなど)であるため、環境の変化に応じて廃水処理のコストを低減できる。
【0092】
(4)上記工程1においては、沈澱池、フィルタ、浮上分離およびスクリーンからなる群より選択される1つ以上によって上記流出懸濁物質濃度を低下させてもよい。
【0093】
上記の構成によれば、工程1において流出懸濁物質濃度を低下させる効率を向上させることができる。
【0094】
(5)上記工程1において、上記廃水に凝集剤を投入する工程を含み、
下記(i)の場合には、上記凝集剤を第1投入量で投入し、
下記(ii)の場合には、上記凝集剤を第2投入量で投入し、
上記第1投入量は、上記第2投入量よりも多くてもよい:
(i)上記パラメータXが所定期間内に基準値超から当該基準値以下に変化した場合
(ii)上記パラメータXが所定期間内に基準値超から当該基準値以下に変化した場合
【0095】
上記の構成によれば、ファウラントの堆積が発生しやすい環境に変化するときに、より多くの凝集剤を投入する。また、ファウラントの堆積が発生しにくい環境に変化するときに、より少ない凝集剤を投入する。つまり、環境変化に応じて凝集剤の投入量を変化させることになる。そのため、環境に応じてより適切な稼働方法を選択できる。
【0096】
(6)上記凝集剤は、高分子凝集剤、鉄系凝集剤およびアルミニウム系凝集剤からなる群より選択される1つ以上であってもよい。
【0097】
上記の構成によれば、工程1において流出懸濁物質濃度を低下させる効率を向上させることができる。
【0098】
(7)上記工程2において、上記廃水に微生物製剤を投入する工程を含んでもよい。
【0099】
上記の構成によれば、工程2において、微生物製剤由来の微生物が投入される。例えば、低温でも活性の高い微生物を投入すれば、工程2における廃水処理効率を向上させることができる。
【0100】
(8)上記微生物製剤を事前培養する工程をさらに含み、当該事前培養された微生物製剤を廃水に投入してもよい。
【0101】
上記の構成によれば、事前培養により活性化した微生物を投入できる。そのため、上記(7)の効果をより高めることができる。
【0102】
(9)上記微生物製剤を、凝集剤と混合した状態で廃水に投入してもよい。
【0103】
上記の構成によれば、フロック状態で微生物が投入される。そのため、分散した微生物により工程2において濾過膜が閉塞される事態を回避しやすい。
【0104】
(10)上記微生物製剤はPseudomonas属細菌を含んでいてもよい。
【0105】
上記の構成によれば、低温活性が高いPseudomonas属細菌を投入することになる。そのため、上記(7)の効果をより高めることができる。
【0106】
(11)廃水処理装置(10a、10b)および制御装置(20)を備えている、廃水処理システム(100a、100b)であって、
上記廃水処理装置(10a、10b)は、
廃水中の懸濁物質の任意の一部を除去し流出懸濁物質濃度を低下させる懸濁物質除去槽(1)と、
上記懸濁物質除去槽(1)より下流に位置し、膜分離活性汚泥法で廃水を処理する生物反応槽(2)と、
上記懸濁物質除去槽(1)における廃水中の流出懸濁物質濃度の低下度合いを調節する除去調節部(第1凝集剤タンク4、流量調節機構9)と、
を備えており、
上記制御装置(20)は、
上記懸濁物質除去槽に流入する廃水の性質、および/または、上記生物反応槽における汚泥性状に関連する情報を取得する情報取得部(31)と、
所定期間におけるパラメータXの挙動を判定するパラメータX判定部(32)と、
上記除去調節部を制御する除去制御部(33)と、
を有しており、
所定期間内における上記パラメータXの挙動に従って、上記除去制御部(33)は、上記除去調節部(第1凝集剤タンク4、流量調節機構9)を介して上記懸濁物質除去槽(1)における流出懸濁物質濃度を変化させ(S30a、S30b、S30c、S30d)、
上記パラメータXは、上記懸濁物質除去槽(1)に流入する廃水の性質、および/または、上記生物反応槽(2)における汚泥性状に関連付けられているパラメータである、
廃水処理システム。
【0107】
上記の構成によれば、上記(1)と同様の効果が得られる。
【0108】
(12)上記パラメータXが所定期間内に基準値以下から基準値超に変化した場合に、上記除去制御部(33)は、上記除去調節部(第1凝集剤タンク4、流量調節機構9)を介して上記懸濁物質除去槽(1)において流出懸濁物質濃度を低下させてもよい(S30a)。
【0109】
上記の構成によれば、上記(2)と同様の効果が得られる。
【0110】
(13)上記パラメータXが所定期間内に基準値超から基準値以下に変化した場合に、上記除去制御部(33)は、上記除去調節部(第1凝集剤タンク4、流量調節機構9)を介して上記懸濁物質除去槽(1)において流出懸濁物質濃度を低下させる操作を解除してもよい(S30b)。
【0111】
上記の構成によれば、上記(3)と同様の効果が得られる。
【0112】
また、上記各態様における制御装置は、コンピュータによって実現してもよい。本発明の範囲には、上記制御装置が備える各部としてコンピュータを動作させることにより、当該制御装置をコンピュータにて実現させる制御プログラムも含まれる。また、本発明の範囲には、上記制御プログラムが記録されているコンピュータ読取り可能な記録媒体も含まれる。
【符号の説明】
【0113】
1 :懸濁物質除去槽
2 :生物反応槽
4 :第1凝集剤タンク(除去調節部)
9 :流量調節機構(除去調節部)
10a:廃水処理装置
10b:廃水処理装置
20 :制御装置
31 :情報取得部
32 :パラメータX判定部
33 :除去制御部
100a:廃水処理システム
100b:廃水処理システム