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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-04
(45)【発行日】2025-07-14
(54)【発明の名称】体液性免疫を回避する組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/48 20060101AFI20250707BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20250707BHJP
   A61K 35/76 20150101ALN20250707BHJP
   A61K 48/00 20060101ALN20250707BHJP
   C07K 16/08 20060101ALN20250707BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20250707BHJP
   C12N 15/57 20060101ALN20250707BHJP
【FI】
A61K38/48
A61P37/06
A61K35/76
A61K48/00
C07K16/08 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/57
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021543205
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 US2020015386
(87)【国際公開番号】W WO2020159970
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】62/797,495
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/914,682
(32)【優先日】2019-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509307842
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】アラビンド アソカン
(72)【発明者】
【氏名】ザカリー エルモア
【審査官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/016318(WO,A1)
【文献】特表2018-510622(JP,A)
【文献】Expert Opin. Biol. Ther.,2015年,15. [6],p.845-855
【文献】Hum. Gene Ther. Methods,2013年,24, [2],p.59-67
【文献】Mol. Ther.,2017年,25, [8],p.1831-1842
【文献】PLos ONE,2015年,10, [7],Article.e0132011,<DOI:10.1371/journal.pone.0132011>
【文献】Trens Immunol.,2008年,29, [4],p.173-178
【文献】mAbs,2010年,2, [3],p.212-220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/
A61K 48/
A61K 35/
A61P 37/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中和抗体の量の減少を必要とする対象において前記中和抗体の量を減少させるための組成物であって、前記組成物は、配列番号1の配列有する抗体分解酵素の治療有効量を含み、ここで、前記中和抗体は、組換えAAVベクターに対する中和抗体である、及び/又は、前記組換えAAVベクターにコードされた治療用タンパク質若しくは治療用RNAに対する中和抗体である、組成物。
【請求項2】
過去に第1の組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで治療された、治療を必要とする対象を第2の組換えAAVベクターで治療するための組成物であって、
前記組成物は、抗体分解酵素の治療有効量を含み、前記抗体分解酵素は、列番号1の配列有し、ここで、
前記組成物は、(a)中和抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)中和抗体のFc受容体との結合を低減し、
前記中和抗体は、前記第1の組換えAAVベクター、前記第2の組換えAAVベクター、及び/又はこれらAAVベクターにコードされた治療用タンパク質若しくは治療用RNAに対する中和抗体である、組成物。
【請求項3】
前記中和抗体の量の減少を必要とする対象が、(i)前記組成物の投与前、又は(ii)前記組成物の投与後に、前記組換えAAVベクターにより治療される、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記抗体分解酵素の治療有効量が、約0.1mg/kg~約100mg/kgを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記中和抗体は、IgG、IgM、IgE、またはIgA抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組換えAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、AAVrh32.33、AAVrh74、トリAAVまたはウシAAVベクターである、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記対象における前記中和抗体の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも99%が、前記組成物の投与後に分解される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
薬学的に許容される担体及び/又は希釈剤をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、前記中和抗体の分解を促進し、及び/又は前記中和抗体のFc受容体との結合を低減する、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記抗体分解酵素は、融合タンパク質の一部であり、前記融合タンパク質は、第2のタンパク質を含み、前記第2のタンパク質はIgGプロテアーゼであり、および前記抗体分解酵素と前記第2のタンパク質とはリンカーによって分離されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記対象に静脈内投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記第1の組換えAAVベクター及び前記第2の組換えAAVベクターが、同一の血清型を有するか、又は前記第1の組換えAAVベクター及び前記第2の組換えAAVベクターが、異なる血清型を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項13】
前記第1の組換えAAVベクターが、第1の治療用タンパク質若しくは治療用RNAをコードし、かつ前記第2の組換えAAVが、第2の治療用タンパク質若しくは治療用RNAをコードする、請求項2に記載の組成物。
【請求項14】
前記対象に1回又は複数回投与される、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月14日出願の米国仮特許出願第62/914,682号および2019年1月28日出願の米国仮特許出願第62/797,495号の優先権を主張する。同出願はそれぞれ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出されたテキストファイルに関する記載
本願と共に電子的に提出されたテキストファイルの内容は、参照によりその全体が組み込まれる:配列表のコンピュータ可読形式のコピー(ファイル名:STRD_014_02WO_SeqList_ST25.txt、記録日2020年1月28日、ファイルの大きさ約180キロバイト)。
【0003】
技術分野
本願は、一般には遺伝子治療の分野、たとえばアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いる遺伝子治療に関する。より具体的には、本開示は、組換えAAVに対する中和抗体を減少させる組成物および方法を用いて組換えAAVによる治療の有効性を改善する組成物および方法に関する。
【0004】
連邦政府の補助金
本発明は、米国国立心肺血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute; NIH/NHLBI)から授与した連邦助成金第R01HL089221号、および米国国立一般医科学研究所(National Institute of General Medical Sciences; NIH/NIGMS)から授与した連邦助成金第R01GM127708号の政府支援を受けてなされた。連邦政府は、本発明において特定の権利を有する。
【背景技術】
【0005】
アデノ随伴ウイルス(AAV)はヒトの治療用遺伝子送達に使用することができるヘルパー依存型パルボウイルスである。2012年に初めてAAV1に基づく遺伝子治療が規制当局により承認されて以来、レーバー先天黒内障、血友病、およびその他の疾患における遺伝子治療用の組換えAAVベクターを含む臨床試験の有望な結果が報告されている。
【0006】
これらの遺伝子治療試験は異なる天然のAAV分離株を使用しているが、同じ除外基準を共有しており、登録しようとする患者候補者に抗AAV中和抗体(NAb)価が低いか検出不可能であることを要求する。この適格性基準は、ヒト集団において自然曝露による既有の抗AAV NAbの保有率が高いことから設けられた。たとえば、ヒト心不全患者全体で抗AAV1 NAb陽性(力価が1:2を超える)の保有率は約60%である。また、AAV血清型2に対するNAb価が高いほとんどの患者はAAV1に対しても測定可能な力価を有し、血清型間の交差反応性が示唆される。NAbは、オプソニン作用によってAAVベクターの遺伝子導入効率を大幅に低下させる可能性がある。オプソニン作用は排除を促進し、生体内分布を変化させ、細胞表面受容体結合を遮断し、かつ/あるいは効率的な形質導入に不可欠な付着後の工程に悪影響を及ぼす。
【0007】
既有の抗AAV Nabを克服する方策を開発するための努力は、AAVカプシド工学およびデコイ(おとり)、一時的な薬理による免疫調節、ならびに血漿交換に集中してきた。これらの手法は、前臨床動物モデルおよびヒトにおいて既有NAbの回避または減少によってAAV遺伝子導入を増強する能力が不十分であることがわかっている。
【0008】
したがって、当技術分野では、AAVベクターを用いた遺伝子送達の有効性を改善するために、既有の抗AAV NAb、および対象への投与後のAAVベクターに対する抗体の生成を低減、排除、または不活性化する組成物および方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本明細書では、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに対する1種以上の中和抗体の量の減少を必要とする対象の体内の中和抗体を減少させる組成物および方法が提供される。本明細書に記載の組成物および方法は、遺伝子送達の有効性を、たとえば対象の体内のAAVの循環時間および/または感染力を増大することで改善してもよい。本明細書に記載の組成物および方法はまた、治療AAVを過去に投与された対象に治療AAVを再投薬することを可能にしてもよい。実施形態によっては、野生型または突然変異型の抗体分解酵素、たとえばIdeZ(またはその断片)を投与することで、NAbの減少を必要とする対象の体内のNAbを減少させる。
【0010】
実施形態によっては、本開示は、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに対する中和抗体の量の減少を必要とする対象の体内の中和抗体を減少させる方法を提供する。この方法は、中和抗体の分解を促進する有効量の組成物を対象に投与することを含む。
【0011】
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる治療の準備を必要とする対象に治療を準備する方法も提供される。この方法は、(a)AAVベクターに対する中和抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)中和抗体のFc受容体との結合を低減する、有効量の組成物を対象に投与することを含む。
【0012】
治療を必要とする対象を組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで治療する方法も提供される。この方法は、(i)(a)AAVベクターに対する中和抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)中和抗体のFc受容体との結合を低減する、有効量の組成物を対象に投与すること、および(ii)有効量のAAVベクターを対象に投与することを含む。
【0013】
過去に第1の組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)で治療された、治療を必要とする対象を第2の組換えAAVベクターで治療する方法も提供される。この方法は、(i)(a)第1および/または第2の組換えAAVベクターに対する中和抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)中和抗体のFc受容体との結合を低減する、有効量の組成物を対象に投与すること、ならびに(ii)有効量の第2の組換えAAVベクターを対象に投与することを含む。
【0014】
異種核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに対する中和抗体の減少を必要とする対象の体内の中和抗体を減少させる方法も提供される。この方法は、有効量のAAVベクターと(a)AAVベクターまたは異種核酸によってコードされる組換えタンパク質に対する抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)抗体のFc受容体との結合を低減する、有効量の組成物とを対象に投与することを含む。
【0015】
本明細書に記載の組成物は、たとえば、抗体分解酵素またはその断片を含んでいてもよい。実施形態によっては、この組成物は抗体分解酵素またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む。実施形態によっては、抗体分解酵素またはその断片はシステインプロテアーゼ活性を有する。実施形態によっては、抗体分解酵素はIgGを特異的に切断する。実施形態によっては、抗体分解酵素は配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する。
【0016】
以下、これらおよび他の実施形態をより詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1A~1B:図1AはGST-IdeZ発現ベクターのマップを示す。この発現ベクターを用いて、組換えGST-IdeZを大腸菌(E.coli)で発現させ、グルタチオンセファロースを用いて精製した。
図1B図1Bは精製GST-IdeZを可視化するのに用いたゲルの画像を示す。
図2A-2B】図2A~2D:図2Aは、組換えIdeZ未処理(-)または処理(+)組換えIgG試料のバンド形成パターンを示すクーマシー染色済みSDS-PAGEゲルの画像を示す。図2Bは、rIdeZ未処理(-)または処理(+)マウス血清、霊長類血清、およびヒト血清試料のバンド形成パターンを示す同様の染色済みSDS-PAGEゲルの画像を示す。図2Aおよび2Bにおいて、*印はIgG重鎖切断産物(約31 kDa)を表す。
図2C-2D】図2Cは同様の実験の結果を示す。この実験では、組換えIdeZはイヌの血清IgGを切断することがわかった。図2DはIdeZによるヒト患者の血清IgGの切断を示す。
図3A図3A~3B:図3Aはウェスタンブロットの画像を示し、IdeZがマウスにおいてインビボでヒトIVIGを切断することを示す。*印は切断産物を表す。
図3B図3Bは、ヒトIVIG試料をインビトロでIdeZ処理した後のバンド形成パターンを示すクーマシー染色済みSDS-PAGEゲルの画像を示す。
図4図4図4は、マウスにヒト静注用免疫グロブリン(IVIG)を腹腔内注射した後、24時間後にPBSまたは組換えIdeZ (2.5 mg/kg)とAAV8-Luc (5×1012 vg/kg)とを注射した実験の結果を示すグラフである。注射の4週間後、肝臓内のルシフェラーゼ(Luc)導入遺伝子発現レベルを肝臓で分析した。ルシフェラーゼ発現レベルを総組織タンパク質濃度に対して正規化し、肝臓組織1 gあたりの相対発光量(RLU)で表した。実験はすべて3回行われた。L.O.D = 検出限界、*: p値<0.05である。
図5図5図5はIdeZタンパク質の結晶構造を示す。各図は異なる角度の図を表す。
図6図6図6中、示された血清試料は組換えGST-IdeZ (1μg)未処理(-)、または37°Cで3時間処理した(+)ものである。反応物を1:10で希釈し、還元条件でSDS-PAGEで分析した。次いでゲルをクーマシーブルーで染色した。*印はIgG重鎖切断産物を表す(約31 kDa)。
図7図7図7は、マウスに8 mgのヒトIVIGを腹腔内注射した実験の結果を示す。同じマウスに24時間後にPBS (-)または組換えGST-IdeZ (2.5 mg/kg) (+)を静脈注射した。血液試料をIVIG注射の前とIVIG注射の24時間後、48時間後、72時間後に採取した。血液試料をSDS-PAGEおよびウェスタンブロットで分析した。セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗ヒトIgG二次抗体(1:10,000)を用いてIVIGを調査した。各レーンは個々のマウスの血液試料を表す。
図8A図8A~8B:図8A~8Bは、マウスに8 mgのヒトIVIGを腹腔内注射した実験の結果を示す。同じマウスに24時間後にPBS (-)(図8A、左図)、または以下の用量の組換えGST-IdeZ (+): 0.25 mg/kg(図8A、右図)、1 mg/kg(図8B、左図)、または2.5 mg/kg(図8B、右図)を静脈注射した。血液試料をIVIG注射の72時間後に採取し、SDS-PAGEおよびウェスタンブロットで分析した。HRP結合ヤギ抗ヒトIgG二次抗体(1:10,000)を用いてIVIGを調査した。各レーンは個々のマウスの血液試料を表す。
図8B図8A~8B:図8A~8Bは、マウスに8 mgのヒトIVIGを腹腔内注射した実験の結果を示す。同じマウスに24時間後にPBS (-)(図8A、左図)、または以下の用量の組換えGST-IdeZ (+): 0.25 mg/kg(図8A、右図)、1 mg/kg(図8B、左図)、または2.5 mg/kg(図8B、右図)を静脈注射した。血液試料をIVIG注射の72時間後に採取し、SDS-PAGEおよびウェスタンブロットで分析した。HRP結合ヤギ抗ヒトIgG二次抗体(1:10,000)を用いてIVIGを調査した。各レーンは個々のマウスの血液試料を表す。
図9図9図9はマウスに8 mgのヒトIVIGを腹腔内注射した実験の結果を示す。同じマウスに24時間後にPBS (-)または組換えGST-IdeZ (1 mg/kg) (+)を静脈注射した。血液試料をIVIG注射の72時間後に採取し、SDS-PAGEおよびウェスタンブロットで分析した。HRP結合ヤギ抗ヒトIgG二次抗体(1:10,000)またはHRP結合ヤギ抗ヒトIgG Fc二次抗体(1:10,000)を用いてIVIGを調査した。
図10図10図10はヒトIVIGによるAAV8-Lucの中和特性を示す。ヒトIVIG試料を未処理のまま置くか、GST-IdeZ (1 μg)処理し、1:1000から1:102,400まで2倍ずつ段階希釈した。続いて、試料をインビトロでAAV8-Lucと共温置した(100,000 vg/細胞)。実線は、様々なIVIG希釈度におけるIVIG処理AAV8-Luc、およびGST-IdeZと共に事前温置されたIVIGで処理したAAV8-Lucの相対的な形質導入効率を表す。誤差棒は平均値の標準誤差(SEM)を表す(n = 3)。
図11図11図11は、マウスの肝臓のAAV8-Lucコピー数を示す。各棒は異なるマウスを表す。最初の8本の棒はAAV8のみを注射したマウスを表す(PBS-PBS-AAV8)。次の6本の棒は組換えIdeZおよびAAV8-Lucを注射したマウスを表す(PBS-IdeZ-AAV8)。続く6本の棒はIVIGを注射した後にAAV8-Lucを注射したマウスを表す(IVIG-PBS-AAV8)。最後の8本の棒はIVIGを注射した後にIdeZとAAV8-Lucの両方を注射したマウスを表す(IVIG-IdeZ-AA8)。細胞あたりのベクターゲノムコピー数を計算した。
図12図12A~12D:図12A~12Dは、マウスに8 mgのヒトIVIGを腹腔内注射した後、72時間後にPBSまたは組換えGST-IdeZ (2.5 mg/kg)を注射した実験の結果を示すグラフである。次いで、IdeZ処理の72時間後、マウスにAAV9-Luc (2×1011 vg/kg)を静脈注射した。肝臓におけるルシフェラーゼ(Luc)導入遺伝子発現レベルを注射の4週間後に肝臓および心臓で分析した。ルシフェラーゼ発現レベルを総組織タンパク質濃度に対して正規化し、肝臓組織1 gあたりの相対発光量(RLU)で表した。実験はすべて3回行われた。L.O.D = 検出限界である。
図13A図13A~13B:図13A~13Bは形質導入率(%)を肝臓(図13A)および心臓(図13B)について示す。血清試料を18人のヒト患者から得た。各ヒト患者の血清試料100 μlを2匹の異なるマウスに腹腔内注射した。次いでマウスに72時間後にPBSまたは組換えGST-IdeZ (2.5 mg/kg)を静脈注射した。続いて、IdeZ処理の72時間後にマウスにAAV9-Luc (2×1011 vg/匹)を静脈注射した。肝臓および心臓の形質導入レベルを注射の4週間後に分析した。AAV9-Luc (2×1011 vg/匹)を注射し血清処理しなかった対照マウスに対して形質導入レベルを正規化した。
図13B図13A~13B:図13A~13Bは形質導入率(%)を肝臓(図13A)および心臓(図13B)について示す。血清試料を18人のヒト患者から得た。各ヒト患者の血清試料100 μlを2匹の異なるマウスに腹腔内注射した。次いでマウスに72時間後にPBSまたは組換えGST-IdeZ (2.5 mg/kg)を静脈注射した。続いて、IdeZ処理の72時間後にマウスにAAV9-Luc (2×1011 vg/匹)を静脈注射した。肝臓および心臓の形質導入レベルを注射の4週間後に分析した。AAV9-Luc (2×1011 vg/匹)を注射し血清処理しなかった対照マウスに対して形質導入レベルを正規化した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
特に定義しない限り、本明細書で使用するすべての科学技術用語は本開示が属する技術分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。本明細書の詳細な説明で使用する用語は、特定の実施形態の説明のみを目的としており、限定を意図するものではない。
【0019】
本明細書で言及するすべての刊行物、特許出願、特許、GenBankまたは他の受入番号および他の参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0020】
本開示および添付の特許請求の範囲におけるAAVカプシドタンパク質のすべてのアミノ酸位置の指定はVP1カプシドサブユニットの番号付けに関するものである。当業者には自明のことであるが、本明細書に記載の修飾はAAVのcap遺伝子に挿入された場合、VP1、VP2および/またはVP3カプシドサブユニットの修飾を生じる可能性がある。あるいは、カプシドサブユニットを独立に発現させてカプシドサブユニット(VP1、VP2、VP3、VP1 + VP2、VP1 + VP3、またはVP2 + VP3)のうちの1つまたは2つのみで修飾を達成することができる。
【0021】
文脈によって特に示されない限り、本明細書に記載の様々な特徴を任意の組合せで使用することができることが特に意図される。
【0022】
定義
本明細書の説明および添付の特許請求の範囲において、以下の用語を使用する。
【0023】
単数形「a」、「an」、「the」は、文脈により明らかに違うと指定されない限り、複数形も含むよう意図される。
【0024】
また、本明細書で使用される場合、「約」という用語は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の長さ、用量、時間、温度などの量のように測定可能な値をいうとき、その特定の量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、またはさらには±0.1%の変動を包含するよう意図される。
【0025】
また、本明細書で使用される場合、「および/または」は、関連する列挙項目のうちの1つ以上の任意およびすべての可能な組合せ、さらには選択肢(「または」)として解釈されるときは組合せでないことも意味し包含する。
【0026】
本明細書中の値の範囲の記載は、本明細書で特に指示しない限り、範囲内にある各個別の値を個々に参照する簡略的な方法として役立つことを意図されているに過ぎず、各個別の値は本明細書に個々に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。たとえば、本明細書では、濃度範囲が1%~50%と記載されている場合、2%~40%、10%~30%、または1%~3%などの値が本明細書中に明示的に列挙されていることを意図する。これらは具体的に意図されるものの例に過ぎず、列挙された最低値と最高値との間でかつそれらを含む数値のすべての可能な組合せが本開示において明示的に記載されていると見なされるものとする。
【0027】
本明細書で使用される場合、「アデノ随伴ウイルス」(AAV)という用語は、AAV1型、AAV2型、AAV3型(3Aおよび3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、AAV12型、AAV13型、AAV rh32.33型、AAV rh8型、AAV rh10型、AAV rh74型、AAV hu.68型、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヘビAAV、アゴヒゲトカゲAAV、AAV2i8、AAV2g9、AAV-LK03、AAV7m8、AAV Anc80、AAV PHP.B、および現在知られているか後に発見される他の任意のAAVが含まれるが、これらに限定されない。たとえば、BERNARD N. FIELDS et al., VIROLOGY第2巻、第69章(第4版、Lippincott-Raven Publishers)を参照のこと。いくつかのAAV血清型および系統群が同定されている(たとえば、Gao et al, (2004) J. Virology 78:6381-6388; Moris et al, (2004) Virology 33-:375-383; および表2を参照のこと)。実施形態によっては、AAVベクターはWO 2019/028306(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)の表1に開示されているAAVベクターのいずれかから選択される。
【0028】
本明細書で使用される場合、「キメラAAV」という用語は、2つ以上の異なるAAV血清型に由来する領域、ドメイン、個々のアミノ酸を有するカプシドタンパク質を含むAAVを意味する。実施形態によっては、キメラAAVは第1のAAV血清型に由来する第1の領域と第2のAAV血清型に由来する第2の領域からなるカプシドタンパク質を含む。実施形態によっては、キメラAAVは、第1のAAV血清型に由来する第1の領域と、第2のAAV血清型に由来する第2の領域と、第3のAAV血清型に由来する第3の領域とからなるカプシドタンパク質を含む。実施形態によっては、キメラAAVは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、および/またはAAV12のうちの2つ以上に由来する領域、ドメイン、個々のアミノ酸を含んでいてもよい。たとえば、キメラAAVは以下(表1)に示す第1および第2のAAV血清型に由来する領域、ドメイン、および/または個々のアミノ酸を含んでいてもよい。ここで、AAVX+YはAAVXおよびAAVYに由来する配列を含むキメラAAVを示す。
【0029】
【表1】
【0030】
1つのカプシドタンパク質に複数のAAV血清型に由来の個々のアミノ酸または領域を含めることにより、複数のAAV血清型に個々に由来する複数の所望の特性を有するカプシドタンパク質を得ることができる。
【0031】
AAVおよび自律性パルボウイルスの様々な血清型のゲノム配列、さらには天然型の末端反復(TR)、Repタンパク質、およびカプシドサブユニットの配列は当技術分野で公知である。このような配列は文献またはGenBankなどの公開データベースで見つけることができる。たとえば以下を参照のこと:GenBank受入番号NC_002077、NC_001401、NC_001729、NC_001863、NC_001829、NC_001862、NC_000883、NC_001701、NC_001510、NC_006152、NC_006261、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、NC_001358、NC_001540、AF513851、AF513852、AY530579(これらの開示内容は、パルボウイルスおよびAAVの核酸およびアミノ酸配列を教示するために参照により本明細書に組み込まれる)。たとえば以下も参照のこと:Srivistava et al., (1983) J. Virology 45:555; Chiorini et al, (1998) J Virology 71:6823; Chiorini et al., (1999) J. Virology 73: 1309; Bantel-Schaal et al., (1999) J Virology 73:939; Xiao et al, (1999) J Virology 73:3994; Muramatsu et al., (1996) Virology 221:208; Shade et al, (1986) J. Virol. 58:921; Gao et al, (2002) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 99:11854; Moris et al, (2004) Virology 33:375-383; 国際特許公開WO 00/28061, WO 99/61601, WO 98/11244;および米国特許第6,156,303号(これらの開示内容は、パルボウイルスおよびAAVの核酸およびアミノ酸配列を教示するために参照により本明細書に組み込まれる)。表2も参照のこと。自律性パルボウイルスおよびAAVのカプシド構造はBERNARD N. FIELDS et al., VIROLOGY, 第2巻, 第69・70章(第4版、Lippincott-Raven Publishers)により詳細に記載されている。以下の結晶構造の説明も参照のこと:AAV2 (Xie et al., (2002) Proc. Nat. Acad. Sci. 99: 10405-10)、AAV9 (DiMattia et al., (2012) J. Virol. 86:6947-6958)、AAV8 (Nam et al, (2007) J. Virol. 81: 12260-12271)、AAV6 (Ng et al., (2010) J. Virol. 84:12945-12957)、AAV5 (Govindasamy et al. (2013) J. Virol. 87, 11187-11199)、AAV4 (Govindasamy et al. (2006) J. Virol. 80:11556-11570)、AAV3B (Lerch et al., (2010) Virology 403:26-36)、BPV (Kailasan et al., (2015) J. Virol. 89:2603-2614)、ならびにCPV (Xie et al, (1996) J. Mol. Biol. 6:497-520およびTsao et al, (1991) Science 251:1456-64)。
【0032】
【表2-1】
【表2-2】
【0033】
本明細書で使用される場合、「指向性」という用語は、ウイルスが特定の細胞または組織に優先的に侵入することを意味し、その後に細胞内のウイルスゲノムが持つ配列の発現(たとえば転写および任意には翻訳)(たとえば、組換えウイルスの場合は異種核酸の発現)があってもよい。
【0034】
当業者が認識しているとおり、ウイルスゲノム由来の異種核酸配列の転写は、たとえば誘導性プロモーターまたは他の方法で調節される核酸配列の場合、トランス作用因子が存在しないと開始されないことがある。rAAVゲノムの場合、ウイルスゲノム由来の遺伝子発現は、安定に組み込まれたプロウイルス、組み込まれていないエピソーム、および細胞内でウイルスが取り得る他の任意の形態に由来してもよい。
【0035】
本明細書で使用される場合、「全身指向性」および「全身性形質導入」(ならびに等価な用語)は、本開示のウイルスカプシドまたはウイルスベクターが全身の組織(たとえば、脳、肺、骨格筋、心臓、肝臓、腎臓、および/または膵臓)に対してそれぞれ指向性を示す、またはそれらの組織を形質導入することを示す。実施形態では、筋組織(たとえば、骨格筋、横隔膜筋、および心筋)の全身性形質導入が観察される。他の実施形態では、骨格筋組織の全身性形質導入が達成される。たとえば、特定の実施形態では、全身の本質的にすべての骨格筋が形質導入される(が形質導入の効率は筋の型によって異なり得る)。特定の実施形態では、四肢筋、心筋、および横隔膜筋の全身性形質導入が達成される。任意に、ウイルスカプシドまたはウイルスベクターは全身経路(たとえば、静脈内、関節内またはリンパ内などの全身経路)を介して投与される。あるいは、他の実施形態では、カプシドまたはウイルスベクターは局所送達される(たとえば、足蹠、筋内、皮内、皮下、外用)。
【0036】
特に示されない限り、「効率的な形質導入」または「効率的な指向性」、あるいは同様の用語は、適切な対照を参照して決定されてもよい(たとえば、それぞれ対照の形質導入または指向性の少なくとも約50%、約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%またはそれ以上)。実施形態によっては、ウイルスベクターは、骨格筋、心筋、横隔膜筋、膵臓(β島細胞を含む)、脾臓、胃腸管(たとえば、上皮および/または平滑筋)、中枢神経系の細胞、肺、関節細胞、および/または腎臓を効率的に形質導入するまたはそれらに対し効率的な指向性を有する。適切な対照は所望の指向性特性を含む様々な因子に依存する。たとえば、AAV8およびAAV9は骨格筋、心筋、および横隔膜筋の形質導入において非常に効率的であるが、肝臓も高い効率で形質導入するという不利益を有する。したがって、AAV8またはAAV9による骨格筋、心筋、および/または横隔膜筋の効率的な形質導入を示すが肝臓に対しては非常に低い形質導入効率を有するウイルスベクターを特定することができる。さらに、目的の指向性特性は複数の標的組織に対する指向性を反映する場合があるため、当然ながら適切なベクターはなんらかの妥協を示す場合がある。例示すると、本開示のウイルスベクターは骨格筋、心筋、および/または横隔膜筋の形質導入においてAAV8またはAAV9よりも効率が低い場合があるが、それでも、肝臓の形質導入レベルが低いことを理由に非常に望ましい場合がある。
【0037】
同様に、ウイルスが標識組織について「効率的に形質導入しない」または「効率的な指向性を有さない」、あるいは同様の用語であるかは、適切な対照を参照して決定されてもよい。特定の実施形態では、ウイルスベクターは肝臓、腎臓、生殖腺、および/または生殖細胞について効率的に形質導入しない(すなわち、効率的な指向性を有さない)。特定の実施形態では、組織(たとえば肝臓)の望ましくない形質導入は、所望の標的組織(たとえば、骨格筋、横隔膜筋、心筋、および/または中枢神経系の細胞)の形質導入レベルの約20%以下、約10%以下、約5%以下、約1%以下、約0.1%以下である。
【0038】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、特に指示されない限りペプチドとタンパク質の両方を包含する。
【0039】
「ポリヌクレオチド」はヌクレオチド塩基の配列であり、RNA配列、DNA配列、またはDNA-RNAハイブリッド配列(天然に存在するヌクレオチドと天然に存在しないヌクレオチドの両方を含む)であり得るが、代表的な実施形態では一本鎖または二本鎖のDNA配列である。
【0040】
本明細書で使用される場合、「単離された」ポリヌクレオチド(たとえば、「単離されたDNA」または「単離されたRNA」)は、天然に存在する生物またはウイルスのそれ以外の成分(たとえば、一般にはそのポリヌクレオチドに付随して見られる細胞またはウイルス構造成分、あるいは他のポリペプチドまたは核酸)のうちの少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されたポリヌクレオチドを意味する。代表的な実施形態では、「単離された」ヌクレオチドは出発物質に比べて少なくとも約10倍、約100倍、約1000倍、約10,000倍、またはそれ以上に濃縮されている。
【0041】
同様に、「単離された」ポリペプチドは、天然に存在する生物またはウイルスのそれ以外の成分(たとえば、一般にはそのポリペプチドに付随して見られる細胞またはウイルス構造成分、あるいは他のポリペプチドまたは核酸)のうちの少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されたポリペプチドを意味する。代表的な実施形態では、「単離された」ポリペプチドは出発材料に比べて少なくとも約10倍、約100倍、約1000倍、約10,000倍、またはそれ以上に濃縮されている。
【0042】
本明細書で使用される場合、ポリペプチドまたはウイルスベクターを「単離する」または「精製する」(あるいは文法的等価な語)は、そのポリペプチドまたはウイルスベクターを出発材料中のそれ以外の成分のうちの少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離することを意味する。代表的な実施形態では、「単離された」または「精製された」ポリペプチドまたはウイルスベクターは出発材料に比べて少なくとも約10倍、約100倍、約1000倍、約10,000倍、またはそれ以上に濃縮されている。
【0043】
本明細書に開示されている組成物および方法は、獣医および医療の両方の用途での使用を見出す。適切な対象としては、鳥類と哺乳類の両方が挙げられる。本明細書で使用される場合、「鳥類」という用語はニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、オウム、インコなどを包含するが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、「哺乳類」という用語はヒト、ヒト以外の霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ類などを包含するが、これらに限定されない。ヒト対象は新生児、乳幼児、若年、成人、および老齢期の対象を包含する。実施形態によっては、ヒト対象は生後6か月未満、2歳未満、5歳未満、10歳未満、10~18歳、19~29歳、30~35歳、36~40歳、または40歳を超える可能性がある。代表的な実施形態では、対象は本明細書に記載の方法を「必要とする」。「対象」および「患者」という用語は、本明細書ではヒト対象に関しては交換可能に使用される。
【0044】
「治療ポリペプチド」は、細胞または対象にタンパク質が存在しないまたは欠損していることにより生じる症状を緩和、低減、予防、遅延、かつ/あるいは安定化することができるポリペプチド、および/またはそれ以外の点で対象に利益(たとえば、抗がん効果または移植生存率の改善)を付与するポリペプチドである。
【0045】
「治療する(treat, treating)」または「治療」(およびその文法的変形)という用語は、対象の状態の重症度が下がる、少なくとも部分的に改善または安定化すること、ならびに/あるいは少なくとも1つの臨床症状のいくらかの緩和、軽減、減少、または安定化が達成されること、ならびに/あるいは疾患または障害の進行の遅延があることを意味する。
【0046】
「予防する(prevent, preventing)」および「予防」(ならびにその文法的変形)という用語は、対象における疾患、障害、および/または臨床症状の発症の予防および/または遅延、ならびに/あるいは本開示の方法がない場合に生じるものと比較した、その疾患、障害、および/または臨床症状の発症の重症度における低下を意味する。予防は完全(たとえば、その疾患、障害、および/または臨床症状が全く存在しない)であってもよい。予防は、対象におけるその疾患、障害、および/または臨床症状の出現および/または発症の重症度が本開示のない場合に生じるものよりも低くなるといった部分的なものであってもよい。
【0047】
「有効量」は、疾患、障害、または状態を治療するために対象に投与されたときにその疾患、障害、または状態の1つ以上の症状に影響を及ぼすまたはそれを軽減するのに十分な量を意味する。「有効量」は、たとえば疾患、障害、もしくは状態、および/またはその症状、疾患、障害、状態、および/またはその症状の重症度、対象の年齢、体重、および/または健康状態、ならびに処方医師の判断に依存して変動してもよい。任意の所定の例における適切な量は、当業者によって確認されてもよいし、通常の実験によって決定されてもよい。実施形態によっては、有効量は治療有効量である。
【0048】
本明細書で使用される場合、「ウイルスベクター」または「遺伝子送達ベクター」という用語は、核酸送達媒体として機能し、ビリオン内に内包されたベクターゲノム(たとえばウイルスDNA [vDNA])を含む、ウイルス(たとえばAAV)粒子を意味する。あるいは、文脈によっては、「ウイルスベクター」という用語はベクターゲノム/vDNA単体を指すのに使用される場合がある。
【0049】
「rAAVベクターゲノム」または「rAAVゲノム」は1つ以上の異種核酸配列を含むAAVゲノム(すなわちvDNA)である。rAAVベクターは一般に、ウイルスを生成するためにシス型の末端反復(TR)のみを必要とする。他のすべてのウイルス配列は不要であり、トランス型で供給されてもよい。典型的には、rAAVベクターゲノムは1つ以上のTR配列のみを保持するため、ベクターによって効率的に内包することができる導入遺伝子の大きさが最大になる。構造タンパク質および非構造タンパク質をコードする配列はトランス型で提供されてもよい(たとえば、プラスミドなどのベクターから、またはその配列を内包用細胞中に安定に組み込むことによって)。実施形態では、rAAVベクターゲノムは少なくとも1つのTR配列(たとえばAAV TR配列)、任意には2つのTR(たとえば2つのAAV TR)を含む。TR配列は、典型的にはベクターゲノムの5'末端および3'末端に存在し、異種核酸に隣接するがそれらと連続している必要はない。TRは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0050】
「末端反復」または「TR」という用語は、ヘアピン構造を形成し逆位末端反復として機能する(すなわち、複製、ウイルス内包、組込み、および/またはプロウイルスレスキューなどの所望の機能に関与する)任意のウイルス末端反復または合成配列を包含する。TRはAAV TRであってもAAV以外のTRであってもよい。たとえば、他のパルボウイルス(たとえば、イヌパルボウイルス(CPV)、マウスパルボウイルス(MVM)、ヒトパルボウイルスB-19)のTR配列などAAV以外のTR配列、または他の任意の適切なウイルス配列(たとえば、SV40複製起点として機能するSV40ヘアピン)をTRとして使用することができ、これらをさらに切断、置換、欠失、挿入、および/または付加により修飾することができる。さらに、TRは部分的または完全に合成であってもよい。
【0051】
「AAV末端反復」または「AAV TR」は任意のAAVに由来してもよく、例としては血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、あるいは現在知られているか後に発見される他の任意のAAVが挙げられるが、これらに限定されない(たとえば表2を参照のこと)。末端反復が、たとえば複製、ウイルス内包、組込み、および/またはプロウイルスレスキューなどの所望の機能に関与する限り、AAV末端反復は天然型の末端反復配列を有する必要はない(たとえば、天然型AAV TR配列は、挿入、欠失、切断、および/またはミスセンス変異によって変更されていてもよい)。
【0052】
本開示のウイルスベクターはさらに、「標的化された」ウイルスベクター(たとえば、指示された指向性を有する)および/または「ハイブリッド」パルボウイルス(すなわち、ウイルスTRとウイルスカプシドが別々のパルボウイルスに由来するもの)であってもよい。本開示のウイルスベクターはさらに、二重鎖パルボウイルス粒子であってもよい。したがって、実施形態によっては、二本鎖(二重鎖)ゲノムを本開示のウイルスカプシド中に内包することができる。さらに、ウイルスカプシドまたはゲノム配列は挿入、欠失、および/または置換など他の修飾を含む可能性がある。
【0053】
本明細書で使用される場合、「アミノ酸」という用語は任意の天然に存在するアミノ酸、その修飾形態、および合成アミノ酸を包含する。
【0054】
天然に存在する左旋性(L-)アミノ酸を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
あるいは、アミノ酸は修飾アミノ酸残基(非限定的な例を表4に示す)および/または翻訳後修飾(たとえば、アセチル化、アミド化、ホルミル化、水酸化、メチル化、リン酸化、または硫酸化)により修飾されたアミノ酸であってもよい。
【0057】
【表4-1】
【表4-2】
【0058】
さらに、天然に存在しないアミノ酸は「非天然」アミノ酸であってもよい(たとえばWang et al., Annu Rev Biophys Biomol Struct. 35:225-49 (2006)に記載のとおり)。これらの非天然アミノ酸を有利に用いて目的の分子をAAVカプシドタンパク質に化学的に連結することができる。
【0059】
本明細書で使用される場合、「ドメイン」という用語は、タンパク質配列および構造の一部でそのタンパク質鎖の残りの部分とは独立に進化、機能、かつ存在するものを包含するよう意図されている。ドメインは小型の三次元構造を形成することができ、多くの場合、独立に安定であり、かつ折り畳まれることができる。進化的に関連する様々なタンパク質に1つのドメインが出現してもよい。ドメインは約25アミノ酸~約500アミノ酸の長さで変動する。「ドメイン」はまた、野生型タンパク質由来で1つ以上のアミノ酸残基を保存的置換により置き換えられたドメインを包含する可能性がある。ドメインはタンパク質環境中で自己安定であるため、1つのタンパク質と別のタンパク質との間でドメインを遺伝子操作によって「交換」することでキメラタンパク質を作製することができる。
【0060】
本明細書で使用される場合、「突然変異型(mutant)」、「突然変異体(mutants)」、「変異型(variant)」または「変異体(variants)」という用語は、天然型タンパク質またはAAVで親タンパク質またはAAVの1つ以上のアミノ酸が別のアミノ酸で置換され、かつ/あるいは親AAVタンパク質の1つ以上のアミノ酸が欠失し、かつ/あるいは1つ以上のアミノ酸がタンパク質またはAAVに挿入され、かつ/あるいは1つ以上のアミノ酸が親タンパク質またはAAVに付加されたものを指定するよう意図されている。このような付加は、親タンパク質のN末端またはC末端あるいはその両方、さらには内部で起こる可能性がある。実施形態によっては、変異体のアミノ酸配列は天然型タンパク質のアミノ酸配列と少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも70%同一である。
【0061】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は宿主細胞内で増幅することができる任意の核酸実体を意味する。したがって、ベクターは自律複製ベクター、すなわち、染色体外の実体として存在し、その複製が染色体の複製とは独立であるベクター(たとえばプラスミド)であってもよい。あるいは、ベクターは、宿主細胞内に導入されると宿主細胞ゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体と共に複製されるベクターであってもよい。ベクターの選択は多くの場合、それが導入される宿主細胞に依存する。ベクターとしては、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスまたはコスミドベクターが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターは通常、複製起点と少なくとも1つの選択可能な遺伝子(すなわち、容易に検出可能な産物をコードする、またはその存在が細胞増殖に必須である遺伝子)を含む。
【0062】
「遺伝子治療」という用語は、内在性遺伝子の発現を遺伝子の外因的投与により変更する方法を意味する。本明細書で使用される場合、「遺伝子治療」は、必要な個体の体細胞または幹細胞に欠陥または欠損遺伝子に対応する機能性遺伝子を導入することによる、欠陥タンパク質をコードする欠陥遺伝子の置換または欠損遺伝子の置換も意味する。分化幹細胞または体性幹細胞を個体の身体から取り出した後、ウイルスベクターを遺伝子送達媒体として用いて欠陥遺伝子の正常なコピーを人工培養細胞に導入するエクスビボ法によって遺伝子治療を達成することができる。また、インビボ直接遺伝子導入技術により、治療結果を達成するために広範囲のウイルスベクター、リポソーム、タンパク質DNA複合体または裸のDNAを用いて個体の体内の細胞に生体内原位置で遺伝子を導入することができる。「遺伝子治療」という用語は、欠陥遺伝子またはタンパク質が欠陥でなければ機能したはずの内容と実質的に同様に機能するポリヌクレオチドを必要な個体の体細胞または幹細胞に導入することによる、欠陥タンパク質をコードする欠陥遺伝子の置換も意味する。
【0063】
「遺伝子編集」という用語は、生物または細胞のゲノム中の特定部位におけるDNAの挿入、欠失、または置換を意味する。遺伝子編集を1つ以上の標的化されたヌクレオチドシステム(CRISPR/Casシステム、CRISPR/Cpf1システム、Znフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、ホーミングエンドヌクレアーゼなど)を用いて実行してもよい。
【0064】
本明細書で使用される場合、「Fc受容体」という用語は、細胞上に存在するFcガンマ免疫グロブリン受容体(FcγR)を意味する。ヒトでは、FcγRはFcγRI (CD64)、FcγRIIA (CD32A)、FcγRIIB (CD32B)、FcγRIIIA (CD16a)、およびFcγRIIIB (CD16b)を含む受容体ファミリーのうちの1つ、いくつか、またはすべてを意味する。本明細書で使用される場合、FcγRという用語はFcγRI (CD64)、FcγyRIIA (CD32A)、FcγRIIB (CD32B)、FcγRIIIA (CD16a)、およびFcγRIIIB (CD16b)の天然に存在する多型を包含する。
【0065】
本明細書に記載される場合、システインプロテアーゼはタンパク質を分解する酵素である。システインプロテアーゼは一般に、触媒三残基または二残基の求核システインチオールを含む共通の触媒機構を有する。実施形態によっては、システインプロテアーゼは、抗原結合ドメイン(Fab)と定常ドメイン(Fc)とが互いに分離されるようにIgGを切断するIgGシステインプロテアーゼである。
【0066】
生物製剤に対する中和抗体を減少させる組成物
本開示は対象の体内の組換え生物製剤または薬物実体に対する中和抗体を減少させることができる組成物を提供する。実施形態によっては、組換え生物製剤は1種以上の組換えタンパク質をコードする異種核酸を含むベクターを含む。実施形態によっては、ベクターは組換えウイルスベクター、たとえば組換えAAVベクターである。
【0067】
実施形態によっては、組成物は、組換え生物製剤または薬物実体に対する抗体の排除または分解を促進、かつ/あるいは組換え生物製剤または薬物実体に対する抗体のFc受容体との結合を低減することで対象の体内の組換え生物製剤または薬物実体に対する中和抗体を減少させる。実施形態によっては、組成物は、AAVベクターまたは異種核酸によってコードされる1種以上の組換えタンパク質に対する抗体の排除または分解を促進、かつ/あるいはAAVベクターに対する抗体のFc受容体との結合を低減することで対象の体内の異種核酸を含むAAVベクターに対する中和抗体を減少させる。
【0068】
実施形態によっては、組成物はアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質またはビリオンを認識する抗体を分解する、または組換えAAVベクターの中和を予防することができる抗体分解酵素またはその断片を含む。実施形態によっては、組成物は抗体分解酵素またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む。実施形態によっては、抗体はIgG(IgG1、IgG2a、IgG2b、および/またはIgG3など)、IgM、IgE、ならびに/あるいはIgAを含む。模範的な実施形態では、抗体はIgGを含む。したがって、実施形態によっては、組成物はIgG分解酵素またはその断片を含む。実施形態によっては、IgG分解酵素またはその断片はシステインプロテアーゼ活性を有する。
【0069】
実施形態によっては、IgG分解酵素またはその断片は細菌から単離されるまたは由来する(たとえば、連鎖球菌(Streptococcus)属の細菌に由来する)。実施形態によっては、IgG分解酵素は、下の配列番号1に示すストレプトコッカス・エクイ(S. equi)の以下のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%(たとえば、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%、または100%、これらの間にあるすべての値および小範囲を含む)の同一性のアミノ酸配列を含む。
【0070】
【表5】
【0071】
配列番号1の配列はIdeZタンパク質に対応する。IdeZタンパク質の模範的な結晶構造を図5に示す(各図は異なる角度の図を示す)。
【0072】
本明細書に開示される場合、IdeZタンパク質はA群連鎖球菌で認識された、重鎖の下ヒンジ領域でIgGを切断して1つのF(ab’)2断片と1つのホモ二量体のFc断片とを生じることでIgG抗体を不活性化するシステインプロテアーゼである。このIgG分解酵素は短い半減期を有し、非常に効率的だがつかの間のIgG除去に伴い、急速に循環からほぼ排除される。
【0073】
実施形態によっては、IgG分解酵素またはその断片は化膿連鎖球菌(S. pyogenes)から単離されるか由来する。実施形態によっては、IgG分解酵素は配列番号13または配列番号14に対して少なくとも約50%(たとえば、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%、または100%、これらの間にあるすべての値および小範囲を含む)の同一性のアミノ酸配列を含む。
【0074】
実施形態によっては、IgG分解酵素またはその断片は合成酵素である。実施形態によっては、IgG分解酵素は配列番号15~52のうちのいずれか1つに対して少なくとも約50%(たとえば、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%、または100%、これらの間にあるすべての値および小範囲を含む)の同一性の配列を含む。
【0075】
本明細書に記載の中和抗体を減少させる組成物は抗体分解酵素またはその断片と第2のタンパク質とを含む融合タンパク質を含んでいてもよい。実施形態によっては、第2のタンパク質はIgGプロテアーゼである。
【0076】
実施形態によっては、中和抗体を減少させる組成物はAAVベクターに対する抗体のFc受容体との結合を低減する。実施形態によっては、組成物は、AAVベクターに対する抗体の急速な排除をその抗体のFc受容体に結合することで促進する。たとえば、組成物はAAVベクターに対するIgGの急速な排除をIgGの受容体(たとえばFcRN)に結合することで促進し、それによりIgG受容体の内部移行および分解も促進してもよい。実施形態によっては、組成物は治療抗体を含む。実施形態によっては、治療抗体はIgGである。実施形態によっては、治療抗体はロザノリキシズマブである。実施形態によっては、治療抗体の用量は0.05 mg/kg~約150 mg/kg、たとえば、約0.1 mg/kg、約0.5 mg/kg、約1 mg/kg、約2 mg/kg、約3 mg/kg、約4 mg/kg、約5 mg/kg、約6 mg/kg、約7 mg/kg、約8 mg/kg、約9 mg/kg、約10 mg/kg、約20 mg/kg、約30 mg/kg、約40 mg/kg、約50 mg/kg、約60 mg/kg、約70 mg/kg、約80 mg/kg、約90 mg/kg、約100 mg/kg、約110 mg/kg、約120 mg/kg、約130 mg/kg、約140 mg/kg、または約150 mg/kg(これらの間にあるすべての値および小範囲を含む)である。
【0077】
実施形態によっては、中和抗体を減少させる組成物は補体活性化を低減かつ/あるいは阻害する。たとえば、組成物は中和抗体を切断することでC1qが抗原抗体複合体(たとえばAAV-抗体複合体)に結合するのを防止してもよい。補体活性化を低減かつ/あるいは阻害することで補体カスケードの下流工程、たとえば免疫細胞の動員および(たとえばAAVの)オプソニン化を防止する。実施形態によっては、AAVによる治療の前に中和抗体を減少させる組成物で対象を治療することにより、AAVの投与時の患者体内での補体活性化が防止され、実施形態によっては、AAVの投与時に補体活性化は少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%低減される。実施形態によっては、AAVによる治療と同時に中和抗体を減少させる組成物で患者を治療することにより、AAV治療による患者体内での補体活性化が防止され、実施形態によっては、補体活性化は少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%低減される。実施形態によっては、AAVによる治療後に中和抗体を減少させる組成物の1つを用いて患者を治療することによって患者体内での補体活性化は低減され、実施形態によっては、補体活性化は少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%低減される。
【0078】
実施形態によっては、本明細書に開示されている組成物は、少なくとも1種の薬学的に許容される担体、賦形剤、および/または溶媒、たとえば、溶媒、緩衝剤、溶液、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などをさらに含む。実施形態によっては、薬学的に許容される担体、賦形剤、および/または溶媒は、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、滅菌等張水性緩衝剤、リン酸緩衝溶液、アミノ酸に基づく緩衝剤、重炭酸緩衝溶液、およびそれらの組合せを包含し得る。実施形態によっては、薬学的に許容される担体、賦形剤、および/または溶媒は、リン酸緩衝生理食塩水、滅菌生理食塩水、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、デキストラン、寒天、ペクチン、ピーナッツ油、ゴマ油、医薬品等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)またはそれらの適切な混合物を包含する。実施形態によっては、本明細書に開示されている組成物は微量の乳化剤または湿潤剤、あるいはpH緩衝剤をさらに含む。本明細書に開示されている組成物の製剤を生理学的に許容される担体、賦形剤、または安定化剤と混合することで、たとえば凍結乾燥粉末、泥状物、水溶液または懸濁液の形態で貯蔵用に調製してもよい(たとえば以下を参照のこと:Hardman, et al. (2001) Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics, McGraw-Hill, New York, N.Y.; Gennaro (2000) Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott, Williams, and Wilkins, New York, N.Y.; Avis, et al. (eds.) (1993) Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications, Marcel Dekker, NY; Lieberman, et al. (eds.) (1990) Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, Marcel Dekker, NY; Lieberman, et al. (eds.) (1990) Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems, Marcel Dekker, NY; Weiner and Kotkoskie (2000) Excipient Toxicity and Safety, Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y.)。
【0079】
実施形態によっては、本明細書に開示されている組成物は他の従来の医薬成分、たとえば保存剤または化学安定化剤(クロロブタノール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、二酸化硫黄、没食子酸プロピル、パラベン類、エチルバニリン、グリセリン、フェノール、パラクロロフェノール、またはアルブミンなど)をさらに含む。実施形態によっては、本明細書に開示されている組成物は抗菌剤および抗真菌剤(パラベン類、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸またはチメロサール)、等張剤(糖または塩化ナトリウム)、ならびに/あるいは吸収遅延剤(モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなど)をさらに含んでいてもよい。
【0080】
実施形態によっては、本開示の組成物を中性または塩形態で製剤する。薬学的に許容される塩としては、たとえば、無機酸(たとえば塩酸またはリン酸)あるいは有機酸(たとえば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸など)から誘導される酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と共に形成される)が挙げられる。実施形態によっては、タンパク質の遊離カルボキシル基と共に形成される塩を無機塩基(たとえば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄)あるいは有機塩基(たとえば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン)などから誘導してもよい。
【0081】
実施形態によっては、組成物は固体(再構成に適した凍結乾燥粉末など)、溶液、懸濁液、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤、または散剤の形態である。実施形態によっては、リポソーム、ナノカプセル、微粒子、小球体、脂質粒子、小胞、リポソーム、ナノ球体、ナノ粒子などを用いて組成物を送達用に製剤してもよい。
【0082】
中和抗体を減少させる組成物の投与量および投与方法
本明細書に開示されている生物製剤に対する中和抗体を減少させる組成物のいずれか1つの投与は、注射、輸液、またはそれらの組合せによって行われてもよい。本明細書に記載の組成物のいずれか1つを含む医薬組成物は、約0.05 mg/kg~約150 mg/kg、たとえば、約0.1 mg/kg、約0.5 mg/kg、約1 mg/kg、約2 mg/kg、約3 mg/kg、約4 mg/kg、約5 mg/kg、約6 mg/kg、約7 mg/kg、約8 mg/kg、約9 mg/kg、約10 mg/kg、約20 mg/kg、約30 mg/kg、約40 mg/kg、約50 mg/kg、約60 mg/kg、約70 mg/kg、約80 mg/kg、約90 mg/kg、約100 mg/kg、約110 mg/kg、約120 mg/kg、約130 mg/kg、約140 mg/kg、または約150 mg/kg(これらの間にあるすべての値および小範囲を含む)の投与量で投与されてもよい。
【0083】
本明細書に開示されている組成物のいずれか1つの治療有効量は1回用量で与えられてもよいが、1回用量に限定されない。したがって、1~50回用量、たとえば2回用量、5回用量、10回用量、15回用量、20回用量、25回用量、30回用量、35回用量、40回用量、45回用量、または50回用量(これらの間にあるすべての値および小範囲を含む)で投与を行ってもよい。本方法で2回以上の投与がある場合、約1分間~約1か月間、たとえば、約1分間、約2分間、約3分間、約4分間、約5分間、約6分間、約7分間、約8分間、約9分間、約10分間、約20分間、約40分間、約1時間、約2時間、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約15、約20、約24時間、約2日間、約5日間、約10日間、約15日間、約20日間(これらの間にあるすべての小範囲および値を含む)の時間間隔で投与の間隔を空けてもよい。本発明は時間的に等間隔な投薬間隔に限定されず、不等間隔での投薬、たとえば非限定的な例に過ぎないが、1日目、4日目、7日目、および25日目の投与からなる準備刺激計画を包含する。
【0084】
たとえば週1回、週2回、週3回、週4回、週5回、週6回、週7回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、5週間に1回などの投薬計画を本発明に利用することができる。投薬計画は、合計期間が約1日間~約1年間、たとえば、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、2か月間、3か月間、4か月間、5か月間、6か月間、7か月間、8か月間、9か月間、10か月間、11か月間、および12か月間(これらの間にあるすべての値および小範囲を含む)の投薬を包含する。
【0085】
上記の投薬計画の周期の例を示す。周期はおよそ、たとえば7日間毎、14日間毎、21日間毎、28日間毎、35日間毎、42日間毎、49日間毎、56日間毎、63日間毎、70日間毎などで繰り返されてもよい。周期の間に投薬しない間隔があってもよく、間隔はおよそ、たとえば7日間、14日間、21日間、28日間、35日間、42日間、49日間、56日間、63日間、70日間などである。
【0086】
本明細書に開示されている組成物を1種以上のさらなる治療剤と共に投与してもよい。さらなる治療剤との共投与の方法は当技術分野で周知である(Hardman, et al. (eds.) (2001) Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics, 10th ed., McGraw-Hill, New York, N.Y.; Poole and Peterson (eds.) (2001) Pharmacotherapeutics for Advanced Practice: A Practical Approach, Lippincott, Williams & Wilkins, Phila., Pa.; Chabner and Longo (eds.) (2001) Cancer Chemotherapy and Biotherapy, Lippincott, Williams & Wilkins, Phila., Pa.)。
【0087】
本明細書において、治療される対象としては、哺乳類、たとえばヒトおよびヒト以外の霊長類が挙げられる。実施形態によっては、対象はヒト、ヒト以外の霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ類から選択されてもよい。
【0088】
生物製剤に対する中和抗体を減少させる方法
本開示は、対象の体内の組換え生物製剤または薬物実体に対する中和抗体を減少させる方法を提供する。この方法は、治療有効量の組換え生物製剤または薬物実体と、本明細書に開示されている(a)組換え生物製剤または薬物実体に対する抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)抗体のFc受容体との結合を低減する治療有効量の組成物のいずれか1つとを対象に投与することを含む。
【0089】
実施形態によっては、対象の体内の組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに対する中和抗体の量を減少させる方法は、中和抗体の分解を促進する治療有効量の組成物を対象に投与することを含む。
【0090】
実施形態によっては、対象に組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる治療の準備をする方法は、(a)AAVベクターに対する中和抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)中和抗体のFc受容体との結合を低減する治療有効量の組成物を対象に投与することを含む。
【0091】
実施形態によっては、治療を必要とする対象を組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで治療する方法は、(i)(a)AAVベクターに対する中和抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)中和抗体のFc受容体との結合を低減する治療有効量の組成物を対象に投与すること、および(ii)治療有効量のAAVベクターを対象に投与することを含む。
【0092】
実施形態によっては、過去に第1の組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)で治療された対象を第2の組換えAAVベクターで治療する方法は、(i)(a)第1および/または第2の組換えAAVベクターに対する中和抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)中和抗体のFc受容体との結合を低減する治療有効量の組成物を対象に投与すること、ならびに(ii)治療有効量の第2の組換えAAVベクターを対象に投与することを含む。
【0093】
実施形態によっては、対象の体内の異種核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに対する中和抗体を減少させる方法は、治療有効量のAAVベクターと(a)AAVベクターまたは異種核酸によってコードされる組換えタンパク質に対する抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)抗体のFc受容体との結合を低減する治療有効量の組成物とを対象に投与することを含む。
【0094】
実施形態によっては、対象の体内の本明細書に開示されているアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターのいずれか1つに対する中和抗体を減少させる方法は、治療有効量のAAVベクターと(a)AAVベクターまたは異種核酸によってコードされる組換えタンパク質に対する抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)抗体のFc受容体との結合を低減する治療有効量の本明細書に開示されている組成物のいずれか1つを対象に投与することを含む。
【0095】
(a)第1のおよび/または第2の組換えAAVベクターに対する中和抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)中和抗体のFc受容体との結合を低減する組成物は、抗体分解酵素またはその断片を含んでいてもよい。実施形態によっては、この組成物は抗体分解酵素またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む。実施形態によっては、抗体分解酵素またはその断片はシステインプロテアーゼ活性を有していてもよい。実施形態によっては、抗体分解酵素はIgGを特異的に切断する。実施形態によっては、抗体分解酵素またはその断片は連鎖球菌(Streptococcus)属に由来する。実施形態によっては、抗体分解酵素は配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%または少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。実施形態によっては、抗体分解酵素は配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0096】
実施形態によっては、組成物は第1のタンパク質および第2のタンパク質を含む融合タンパク質を含んでいてもよく、第1のタンパク質は抗体分解酵素またはその断片であってもよい。実施形態によっては、第1のタンパク質と第2のタンパク質とはリンカーによって分離されている。実施形態によっては、第2のタンパク質はIgGプロテアーゼである。
【0097】
組成物は全身(たとえば、静脈内、関節内またはリンパ内)経路を介して投与されてもよい。実施形態によっては、組成物は局所(たとえば、筋内、皮内、皮下、外用)送達される。実施形態によっては、組成物は中和抗体を含むと知られている位置、たとえば脳脊髄液(CSF)に直接投与される。組成物は薬学的に許容される担体および/または希釈剤を含んでいてもよい。
【0098】
実施形態によっては、約0.1 mg/kg~約100 mg/kgの抗体分解酵素またはその断片が対象に投与される。実施形態によっては、約0.1 mg/kg~約100 mg/kgの融合タンパク質が対象に投与される。実施形態によっては、約0.05 mg/kg~約150 mg/kg、たとえば、約0.1 mg/kg、約0.5 mg/kg、約1 mg/kg、約2 mg/kg、約3 mg/kg、約4 mg/kg、約5 mg/kg、約6 mg/kg、約7 mg/kg、約8 mg/kg、約9 mg/kg、約10 mg/kg、約20 mg/kg、約30 mg/kg、約40 mg/kg、約50 mg/kg、約60 mg/kg、約70 mg/kg、約80 mg/kg、約90 mg/kg、約100 mg/kg、約110 mg/kg、約120 mg/kg、約130 mg/kg、約140 mg/kg、または約150 mg/kg(これらの間にあるすべての値および小範囲を含む)の抗体分解酵素またはその断片あるいは融合タンパク質が対象に投与される。
【0099】
実施形態によっては、減少かつ/あるいは分解されるべき中和抗体はIgG、IgM、IgE、および/またはIgAを包含する。実施形態によっては、中和抗体はIgGである。実施形態によっては、抗体は導入遺伝子を含むAAVベクターに対する中和抗体である。実施形態によっては、抗体は導入遺伝子によってコードされる組換えタンパク質に結合する。実施形態によっては、抗体はアデノ随伴ウイルスカプシドタンパク質またはそのビリオンに結合する。
【0100】
実施形態によっては、組換えAAVベクターはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、AAVrh32.33、AAVrh74、トリAAVまたはウシAAVベクターである。実施形態によっては、組換えAAVベクターは配列番号2~12のいずれか1つの配列、あるいはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列を有するカプシドタンパク質を含む。実施形態によっては、AAVベクターは野生型AAVベクターである。実施形態によっては、AAVベクターは突然変異型AAVベクターである。実施形態によっては、AAVベクターは野生型AAV1ベクターである。実施形態によっては、AAVベクターは野生型AAV2ベクターである。実施形態によっては、AAVベクターは野生型AAV4ベクターである。実施形態によっては、AAVベクターは野生型AAV8ベクターである。実施形態によっては、AAVベクターは野生型AAV9ベクターである。実施形態によっては、AAVベクターは突然変異型AAV1ベクターである。実施形態によっては、AAVベクターは突然変異型AAV2ベクターである。実施形態によっては、AAVベクターは突然変異型AAV4ベクターである。実施形態によっては、AAVベクターは突然変異型AAV8ベクターである。実施形態によっては、AAVベクターは突然変異型AAV9ベクターである。実施形態によっては、組換えAAVベクターは治療タンパク質または治療RNAをコードする異種核酸を含む。
【0101】
実施形態によっては、本明細書に記載の方法は抗体の同族の細胞表面受容体との相互作用を低減することを含む。このような方法により、遺伝子治療に適した患者集団が拡大し、さらには、AAVベクターで過去に治療された患者へのAAV再投薬/再投与が可能になる可能性がある。
【0102】
本開示の方法の実施形態によっては、組成物と同時にAAVベクターを対象に投与する。実施形態によっては、組成物の投与の後にAAVベクターを対象に投与する。実施形態によっては、組成物の投与の前にAAVベクターを対象に投与する。実施形態によっては、この方法は第2の異種核酸を含む第2のAAVベクターの1回以上のさらなる用量または第2の用量を投与することをさらに含む。実施形態によっては、第1のAAVベクターと第2のAAVベクターは同じAAVカプシドタンパク質を含む。実施形態によっては、第1のAAVベクターと第2のAAVベクターは異なるAAVカプシドタンパク質を含む。
【0103】
実施形態によっては、この方法はAAVベクターに対する抗体の分解を促進する。実施形態によっては、抗体のレベルは対照対象の体内の抗体のレベルに対して約95%~約0.01%(たとえば、約90%、約85%、約80%、約75%、約70%、約65%、約60%、約55%、約50%、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%、約10%、約5%、約1%、約0.1%、または約0.01%、これらの間にあるすべての値および小範囲を含む)の範囲内のレベルに減少される。本明細書で使用される場合、対照対象には組換え生物製剤、たとえばAAVベクターを投与するが本明細書に開示されている組成物のいずれか1つを投与しない。実施形態によっては、方法により、組成物の投与後に抗体の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%が分解される。
【0104】
実施形態によっては、対象には過去に組換えタンパク質が投与されている。したがって、実施形態によっては、本明細書に開示されている組成物のいずれか1つの投与により、対象の体内で以前の用量の組換えタンパク質に対して産生された抗体の循環濃度が下がる。
【0105】
重要なことに、本開示の組成物および方法を、抗体を減少させることができる他の薬理学的または介入的手法と組み合わせて用いることができる。
【0106】
組換えウイルスベクター
実施形態によっては、本明細書に開示されているベクターは異種核酸のインビトロ、エクスビボ、インビボでの細胞への送達に有用である。実施形態によっては、ベクターはウイルスベクター、たとえばAAVベクターである。特に、核酸を動物細胞、たとえば哺乳類細胞に送達または移入するのにウイルスベクターを有利に採用することができる。実施形態によっては、ウイルスベクターは異種核酸を包む組換えウイルスカプシド、たとえばAAVカプシドを含む。実施形態によっては、組換えウイルスカプシドは組換えカプシドタンパク質、たとえば組換えAAVカプシドタンパク質を含む。本開示に従って使用してもよいウイルスベクター、ウイルスカプシドおよび/またはカプシドタンパク質に関するさらなる詳細は、国際出願PCT/US2019/025617、PCT/US2019/025584、およびPCT/US2019/025610に示されている(各出願の内容は、あらゆる目的について参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0107】
実施形態によっては、AAVベクターはAAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh.32.33、AAVrh74、ウシAAV、トリAAV、あるいは現在知られているか後に認識される他の任意のAAVから選択されるAAV血清型のカプシドタンパク質を含む。実施形態によっては、AAVカプシドタンパク質はキメラである。
【0108】
実施形態によっては、カプシドタンパク質はアミノ酸配列に修飾(たとえば置換)を含むAAVカプシドタンパク質(VP1、VP2、および/またはVP3)であり、ウイルスカプシドおよびウイルスベクターは修飾AAVカプシドタンパク質を含む。実施形態によっては、本明細書に記載の修飾は修飾AAVカプシドタンパク質を含むウイルスベクターに1つ以上の所望の特性(中和抗体を回避する能力が挙げられるが、それに限定されない)を付与することができる。
【0109】
実施形態によっては、AAVカプシドタンパク質は1つ以上のアミノ酸置換を含み、この1つ以上の置換はAAVカプシドタンパク質の1つ以上の抗原部位を修飾する。1つ以上の抗原部位の修飾の結果、抗体による1つ以上の抗原部位への結合が阻害され、かつ/あるいは前記AAVカプシドタンパク質を含むウイルス粒子の感染力の中和が阻害される。実施形態によっては、1つ以上の抗原部位の修飾の結果、抗体による1つ以上の抗原部位への結合が阻害される。実施形態によっては、修飾された抗原部位は抗体がAAVカプシドと結合、あるいはAAVカプシドを認識または中和するのを防止することができる。ここで、抗体はIgG(IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3など)、IgM、IgE、またはIgAである。実施形態によっては、1つ以上の抗原部位の修飾の結果、AAVカプシドタンパク質を含むウイルス粒子の感染力が中和される。
【0110】
1つ以上のアミノ酸置換は、AAVカプシドタンパク質を含むAAV-抗原複合体のペプチドエピトープマッピングおよび/または低温電子顕微鏡研究で確認された1つ以上の抗原フットプリントに存在してもよい。実施形態によっては、1つ以上の抗原部位はWO 2017/058892(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているような一般的な抗原モチーフまたはCAMである。実施形態によっては、抗原部位はAAVカプシドタンパク質の可変領域(VR)、たとえばVR-I, VR-II、VR-III、VR-IV、VR-V、VR-VI、VR-VII、VR-VIII、VR-IXに存在する。実施形態によっては、1つ以上の抗原部位はAAVカプシドタンパク質のHIループに存在する。
【0111】
実施形態によっては、アミノ酸置換によって以下の血清型:AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh8、AAVrh10、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh32.22、ウシAAV、またはトリAAVのいずれか1つに由来のAAVカプシドタンパク質の任意の6個、7個、または8個のアミノ酸が置き換えられる。実施形態によっては、置換によってAAVカプシド配列に欠失が導入される。たとえば、6、7、8、または9アミノ酸の配列は、天然型のアミノ酸カプシド配列のそれぞれ7、8、9、または10個のアミノ酸を置き換えるように置換されている。実施形態によっては、置換によってAAVカプシド配列への挿入が導入される。たとえば、6、7、8、または9アミノ酸の配列は、天然型アミノ酸カプシド配列のそれぞれ5、6、7、または8個のアミノ酸を置き換えるように置換されている。
【0112】
実施形態によっては、1つ以上の抗原部位の1つ以上の置換によって第1のAAV血清型のカプシドタンパク質に由来の1つ以上の抗原部位を前記第1のAAV血清型とは異なる第2のAAV血清型のカプシドタンパク質に導入することができる。
【0113】
本明細書で使用される場合、「置換」は単一のアミノ酸置換を指す場合もあり、2個以上のアミノ酸の置換を指す場合もある。たとえば、実施形態によっては、本開示のカプシドタンパク質は少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個などの単一のアミノ酸置換を含んでいてもよい。実施形態によっては、本開示のカプシドタンパク質は複数の連続したアミノ酸の1つ以上の置換、たとえば2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、または12個の連続したアミノ酸の1つ以上の置換を含んでいてもよい。
【0114】
さらに、アミノ酸残基が野生型または天然型アミノ酸配列に存在するそのアミノ酸残基の他の任意のアミノ酸残基で置換されている本明細書に記載の実施形態では、他の任意のアミノ酸残基は当技術分野で公知の任意の天然または非天然のアミノ酸残基である(たとえば表3および4を参照のこと)。実施形態によっては、置換は保存的置換であってもよく、実施形態によっては、置換は非保存的置換であってもよい。
【0115】
実施形態によっては、AAVカプシドタンパク質は第1のアミノ酸置換および第2のアミノ酸置換を含み、第1のアミノ酸置換および第2のアミノ酸置換はAAVカプシドタンパク質の別々の抗原部位をそれぞれ修飾する。実施形態によっては、AAVカプシドタンパク質は第1の酸置換、第2のアミノ酸置換、および第3のアミノ酸置換を含み、第1のアミノ酸置換、第2のアミノ酸置換、および第3のアミノ酸置換はAAVカプシドタンパク質の別々の抗原部位をそれぞれ修飾する。
【0116】
本明細書に記載のAAVカプシドのいずれか1つは、HIループ内に修飾(たとえば置換または欠失)をさらに含んでいてもよい。HIループはAAVカプシド表面の突出したドメインでβ鎖βHとβIとの間に存在し、隣接する5つの部分からなるウイルスタンパク質(VP)に重なる各VPサブユニットから伸びている。実施形態によっては、AAVカプシドはHIループ内に1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個のアミノ酸置換を含む。実施形態によっては、AAVカプシドタンパク質は1個、2個、3個、または4個のアミノ酸置換を含み、各置換はAAVカプシドタンパク質の別々の抗原部位を修飾し、アミノ酸置換のうちの少なくとも1つはカプシドタンパク質のHIループを修飾する。実施形態によっては、AAVカプシドタンパク質は第1、第2、第3、および第4のアミノ酸置換を含む。
【0117】
実施形態によっては、本明細書に開示されているAAVカプシドタンパク質はヌクレオチド配列またはそれを含む発現ベクターによってコードされて発現される。ヌクレオチド配列はDNA配列であってもRNA配列であってもよい。
【0118】
実施形態によっては、現在知られているか後に発見される任意のAAVのカプシドタンパク質を修飾することで修飾カプシドタンパク質を作製する。さらに、修飾されるAAVカプシドタンパク質は天然に存在するAAVカプシドタンパク質(たとえば、AAV2、AAV3aもしくは3b、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、またはAAV11カプシドタンパク質あるいは表2に示されるAAVのいずれか)であってもよいが、そのように限定されない。当業者には自明であるが、AAVカプシドタンパク質に対する様々な操作が当技術分野で公知であり、本開示は天然に存在するAAVカプシドタンパク質の修飾に限定されない。たとえば、修飾されるカプシドタンパク質は天然に存在するAAV(たとえば、天然に存在するAAVカプシドタンパク質、たとえばAAV2、AAV3a、AAV3b、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、あるいは現在知られているか後に発見される他の任意のAAV)に由来する)との比較で既に改変されていてもよい。実施形態によっては、カプシドタンパク質はキメラカプシドタンパク質であってもよい。実施形態によっては、カプシドタンパク質は操作されたAAV、たとえばAAV2i8、AAV2g9、AAV-LK03、AAV7m8、AAV Anc80、AAV PHP.Bであってもよい。このようなAAVカプシドタンパク質も本開示の範囲内に含まれる。
【0119】
したがって、実施形態によっては、修飾されるAAVカプシドタンパク質は天然に存在するAAVに由来していてもよいが、カプシドタンパク質に対し挿入かつ/あるいは置換された1つ以上の外来配列(たとえば、天然型ウイルスにとって外因性であるもの)をさらに含み、かつ/あるいは1つ以上のアミノ酸の欠失によって改変されている。実施形態によっては、AAVカプシドタンパク質に対する修飾は「選択的」修飾である。この手法は、AAV血清型間でサブユニット全体または大きなドメインの交換を行う過去の研究(たとえば、国際特許公開WO 00/28004およびHauck et al., (2003) J. Virology 77:2768-2774を参照のこと)とは対照的である。特定の実施形態では、「選択的」修飾の結果、約20個以下、約18個以下、約15個以下、約12個以下、約10個以下、約9個以下、約8個以下、約7個以下、約6個以下、約5個以下、約4個以下、または約3個以下の連続したアミノ酸の挿入および/または置換および/または欠失が生じる。本開示の修飾カプシドタンパク質およびカプシドは現在知られているか後に認識される他の任意の修飾をさらに含んでいてもよい。
【0120】
したがって、本明細書で特定のAAVカプシドタンパク質(たとえば、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、またはAAV11カプシドタンパク質、あるいは表2に示すAAVのうちのいずれかに由来のカプシドタンパク質など)に言及する場合、天然型カプシドタンパク質および本開示の修飾以外の改変を有するカプシドタンパク質を包含するよう意図されている。このような改変としては、置換、挿入、および/または欠失が挙げられる。特定の実施形態では、カプシドタンパク質は、天然型AAVカプシドタンパク質配列と比較して、挿入された1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、または20個、20個未満、30個未満、40個未満、50個未満、60個未満、または70個未満の(本開示の挿入以外の)アミノ酸を含む。実施形態では、カプシドタンパク質は、天然型AAVカプシドタンパク質配列と比較して、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、または20個、20個未満、30個未満、40個未満、50個未満、60個未満、または70個未満の(本開示のアミノ酸置換以外の)アミノ酸置換を含む。本開示の実施形態では、カプシドタンパク質は、天然型AAVカプシドタンパク質配列と比較して、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、または20個、20個未満、30個未満、40個未満、50個未満、60個未満、または70個未満の(本開示のアミノ酸欠失以外の)アミノ酸の欠失を含む。
【0121】
2つ以上のアミノ酸配列間の配列類似性または同一性を決定する方法は当技術分野で公知である。当技術分野で公知の標準の技術を用いて配列類似性または同一性を決定してもよく、たとえばSmith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2, 482 (1981)の局所的配列同一性アルゴリズムによる方法、Needleman & Wunsch, J Mol. Biol. 48,443 (1970)の配列同一性整列アルゴリズムによる方法、Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 2444 (1988)の類似性検索方法による方法、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実行(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Drive, Madison, WIのGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)による方法、Devereux et al., Nucl. Acid Res. 12, 387-395 (1984)が記載しているBest Fit配列プログラム、または検査による方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
別の適切なアルゴリズムはAltschul et al., J Mol. Biol. 215, 403-410, (1990)およびKarlin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 5873-5787 (1993)に記載のBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムはAltschul et al., Methods in Enzymology, 266, 460-480 (1996); http://blast.wustl/edu/blast/ README.htmlから入手されたWU-BLAST-2プログラムである。WU-BLAST-2はいくつかの検索パラメータを用いるが、それらは初期設定値に設定されてもよい。パラメータは動的な値であり、目的配列を検索する対象の特定の配列の構成および特定のデータベースの構成に応じてプログラム自体によって確立される。ただし、感度を上げるために値を調整してもよい。
【0123】
また、さらなる有用なアルゴリズムはAltschul et al, (1997) Nucleic Acids Res. 25, 3389-3402で報告されているギャップ付きBLASTである。
【0124】
実施形態によっては、AAVベクターはAAVカプシドおよびAAVゲノムを含み、中和抗体を回避する表現型を有する。また、本明細書に開示されているAAVウイルス粒子またはベクターは、中和抗体を回避する表現型に加え、形質導入効率を高めるまたは維持する表現型も有する可能性がある。
【0125】
本開示によるウイルスベクターは当技術分野で公知の任意の方法、たとえばバキュロウイルスシステムを用いる発現によって作製されてもよい。
【0126】
本開示の実施形態によっては、ウイルスカプシドは、ウイルスカプシドに所望の標的組織に存在する細胞表面分子と相互作用するよう指示する(たとえばウイルスカプシドに対して置換または挿入された)標的化配列を含む、標的化されたウイルスカプシドであってもよい。たとえば、本開示のウイルスカプシドは目的の特定の標的組織(たとえば、肝臓、骨格筋、心臓、横隔膜筋、腎臓、脳、胃、腸、皮膚、内皮細胞、および/または肺)に対して比較的効率が低い指向性を有している場合がある。標的化配列をこれらの形質導入が低いベクターに有利に組み込むことで、ウイルスカプシドに所望の指向性、任意には特定の組織への選択的指向性を付与することができる。標的化配列を含むAAVカプシドタンパク質、カプシド、およびベクターは、たとえば国際特許公開WO 00/28004に記載されている。別の例として、天然に存在しない1つ以上のアミノ酸(Wang et al., Annu Rev Biophys Biomol Struct. 35:225-49 (2006)に記載のもの)を本開示のAAVカプシドサブユニットの直交部位に、形質導入が低いベクターを所望の標的組織に向け直す手段として組み込むことができる。これらの非天然アミノ酸を有利に用いて目的の分子をAAVカプシドタンパク質に化学的に連結することができる。AAVカプシドタンパク質の例としては、グリカン類(マンノース:樹状細胞標的化);特定のがん細胞種に対する標的化送達のためのRGD、ボンベシン、または神経ペプチド;特定の細胞表面受容体、たとえば成長因子受容体、インテグリンなどに対して標的化されたファージディスプレイから選択されたRNAアプタマーまたはペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。アミノ酸を化学修飾する方法は当技術分野で公知である。
【0127】
本開示の実施形態によっては、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターの由来源であるAAV血清型の形質導入効率に比べて同等またはより高い形質導入効率を有していてもよい。本開示の実施形態によっては、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターの由来源であるAAV血清型の形質導入効率に比べて低下した形質導入効率を有していてもよい。本開示の実施形態によっては、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターの由来源であるAAV血清型の指向性に比べて同等またはより高い指向性を有していてもよい。本開示の実施形態によっては、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターの由来源であるAAV血清型の指向性に比べて変更されたまたは異なる指向性を有していてもよい。本開示の実施形態によっては、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは脳組織に対して指向性を有しているまたは有するよう操作されていてもよい。本開示の実施形態によっては、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは肝臓組織に対して指向性を有しているまたは有するよう操作されていてもよい。
【0128】
当業者が認識しているとおり、AAVカプシドタンパク質によっては、対応するアミノ酸位置がウイルスに部分的に存在するか完全に存在するか、あるいはまったく存在しないかに応じて、対応する修飾は挿入および/または置換である。本明細書中の他の箇所で記載するように、対応するアミノ酸位置は周知技術を用いれば当業者には明らかである。
【0129】
AAVウイルスベクター
実施形態によっては、ウイルスベクターは本開示の修飾カプシドサブユニットを含む修飾AAVカプシドとベクターゲノムとを含む。たとえば、実施形態によっては、ウイルスベクターは(a)本開示の修飾カプシドタンパク質を含む修飾ウイルスカプシド(たとえば、修飾AAVカプシド)と、(b)末端反復配列(たとえばAAV TR)を含む異種核酸とを含み、末端反復配列を含む異種核酸は修飾ウイルスカプシドによってカプシド化されている。核酸は2つの末端反復配列(たとえば2つのAAV TR)を含んでいてもよい。
【0130】
実施形態によっては、本開示のウイルスベクターは、(i)修飾カプシドタンパク質がない場合のウイルスベクターによる形質導入レベルに比べて低い肝臓形質導入を有し、(ii)動物対象の体内で、ウイルスベクターによる、修飾カプシドタンパク質がない場合のウイルスベクターで観察されるレベルに比べて高い全身性形質導入を示し、(iii)内皮細胞で、修飾カプシドタンパク質がない場合のウイルスベクターによる運動レベルに比べて高い運動を示し、かつ/あるいは、修飾カプシドタンパク質がない場合のウイルスによる形質導入レベルに比べて、(iv)筋組織(たとえば骨格筋、心筋、および/または横隔膜筋)の形質導入の選択的増強を示し、(v)肝臓組織の形質導入の選択的増強を示し、かつ/あるいは(vi)脳組織(たとえばニューロン)の形質導入を低減する。特定の実施形態では、ウイルスベクターは肝臓に対する全身性形質導入を有する。
【0131】
実施形態によっては、ウイルスベクターは目的のポリペプチドまたは機能性RNAをコードする異種核酸を含む組換えウイルスベクターである。実施形態によっては、核酸は、(たとえば医療または獣医学用途のための)治療ポリペプチドまたは(たとえばワクチン用の)免疫原性ポリペプチドなどのポリペプチドあるいはRNAをコードする核酸である。
【0132】
あるいは、免疫原性ポリペプチドは任意の腫瘍またはがん細胞抗原であってもよい。腫瘍またはがん細胞抗原はがん細胞の表面で発現されてもよい。
【0133】
当業者には自明であるが、異種核酸を適切な制御配列と動作可能に結合することができる。たとえば、異種核酸を発現制御配列、たとえば転写/翻訳制御シグナル、複製起点、ポリアデニル化シグナル、配列内リボソーム進入部位(IRES)、プロモーター、および/またはエンハンサーなどと動作可能に結合することができる。さらに、目的の異種核酸の制御された発現を転写後のレベルで、たとえば、特定部位でスプライシング活性を選択的に遮断するオリゴヌクレオチド、小分子、および/または他の化合物の有無によって様々なイントロンの選択的スプライシングを調節することによって達成することができる。
【0134】
当業者が認識しているとおり、所望のレベルおよび組織特異的発現に応じて様々なプロモーター/エンハンサー配列を用いることができる。プロモーター/エンハンサー配列は、所望の発現パターンに応じて構成的であっても誘導性であってもよい。プロモーター/エンハンサー配列は固有であっても外来であってもよく、天然配列であっても合成配列であってもよい。「外来」は転写開始領域がその転写開始領域を導入する野生型の宿主には見られないという意味である。
【0135】
特定の実施形態では、プロモーター/エンハンサー配列は標的細胞または治療対象に固有であってもよい。代表的な実施形態では、プロモーター/エンハンサー配列は異種核酸配列に固有であってもよい。プロモーター/エンハンサー配列は一般には目的の標的細胞内で機能するように選択される。さらに、特定の実施形態では、プロモーター/エンハンサー配列は哺乳類のプロモーター/エンハンサー配列である。プロモーター/エンハンサー配列は構成的であっても誘導的であってもよい。
【0136】
誘導的発現制御配列は、典型的には異種核酸配列の発現に対して制御を行うのが望ましい用途において有利である。遺伝子送達のための誘導性プロモーター/エンハンサー配列は組織特異的または優先的なプロモーター/エンハンサー配列であってもよく、筋肉に特異的または優先的(たとえば心筋、骨格筋、および/または平滑筋に特異的または優先的)、神経組織に特異的または優先的(たとえば脳に特異的または優先的)、眼に特異的または優先的(たとえば網膜に特異的および角膜に特異的)、肝臓に特異的または優先的、骨髄に特異的または優先的、膵臓に特異的または優先的、脾臓に特異的または優先的、および肺に特異的または優先的なプロモーター/エンハンサー配列が挙げられる。他の誘導性プロモーター/エンハンサー配列としては、ホルモン誘導性および金属誘導性配列が挙げられる。模範的な誘導性プロモーター/エンハンサー配列としては、Tetオン/オフ配列、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター、およびメタロチオネインプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0137】
本開示によるウイルスベクターは異種核酸を広範囲の細胞(分裂細胞および非分裂細胞を含む)に送達する手段を提供する。たとえばインビトロでポリペプチドを作製するため、またはエクスビボの遺伝子治療のため、目的の核酸を細胞にインビトロで送達するのにウイルスベクターを採用することができる。必要な対象に核酸を送達してたとえば免疫原性または治療用ポリペプチドあるいは機能性RNAを発現させる方法においてウイルスベクターはさらに有用である。このようにして、ポリペプチドまたは機能性RNAを対象においてインビボで作製することができる。対象は、ポリペプチドが欠乏しているためにそのポリペプチドを必要としている対象であってもよい。さらに、対象の体内でのポリペプチドまたは機能性RNAの作製が何らかの有益な作用を損なう可能性があるという理由で方法を実施してもよい。
【0138】
本開示のウイルスベクターは、ポリペプチドまたは機能性RNAをコードする異種核酸を送達することで、治療用ポリペプチドまたは機能性RNAを送達するのが有益である任意の病状を治療かつ/あるいは予防するのに採用されてもよい。遺伝子導入は病状の理解および治療の提供にかなり有用である。欠陥遺伝子が既知でありクローン化されている多くの遺伝性疾患がある。一般に、上記の病状は2つの種類に分類される。一般に劣性遺伝する(通常は酵素の)欠乏状態と、調節または構造タンパク質が関与する可能性があり典型的には優性遺伝する不均衡状態である。欠乏状態の疾患の場合、遺伝子導入を用いて正常遺伝子を罹患組織に導入して補充療法を行う、さらには、アンチセンス変異を用いて疾患の動物モデルを作製することができる。不均衡な病状の場合、遺伝子導入を用いてモデル系に病状を起こし、それを病状に対抗する試みに使用することができる。したがって、本開示によるウイルスベクターは遺伝性疾患の治療および/または予防を可能にする。
【0139】
本開示によるウイルスベクターを、機能性RNAをインビトロまたはインビボで細胞に提供するために採用してもよい。機能性RNAは、たとえば非翻訳RNAであってもよい。実施形態によっては、細胞内での機能性RNAの発現によって細胞による特定の標的タンパク質の発現が減少する可能性がある。したがって、機能性RNAを投与して、必要な対象の体内で特定のタンパク質の発現を減少させることができる。実施形態によっては、細胞内での機能性RNAの発現によって細胞による特定の標的タンパク質の発現が増加する可能性がある。したがって、機能性RNAを投与して、必要な対象の体内で特定のタンパク質の発現を増加させることができる。実施形態によっては、機能性RNAの発現によって細胞内での特定の標的RNAのスプライシングが調節される可能性がある。したがって、機能性RNAを投与して、必要な対象の体内で特定のRNAのスプライシングを調節することができる。実施形態によっては、細胞内での機能性RNAの発現によって細胞による特定の標的タンパク質の機能が調節される可能性がある。したがって、機能性RNAを投与して、必要な対象の体内で特定のタンパク質の機能を調節することができる。また、機能性RNAを細胞にインビトロで投与して遺伝子発現および/または細胞生理学を調節(たとえば、細胞または組織培養系を最適化するために、あるいはスクリーニング方法において)することができる。
【0140】
あるいは、ウイルスベクターをエクスビボで細胞に投与し、改変細胞を対象に投与してもよい。異種核酸を含むウイルスベクターを細胞に導入し、細胞内で免疫原をコードする異種核酸を発現させ、対象の体内でその免疫原に対する免疫応答を誘導することができる。特定の実施形態では、細胞は抗原提示細胞(たとえば樹状細胞)である。
【0141】
キット
本開示の別の態様は、対象の体内の組換え生物製剤および/または薬物実体に対する中和抗体ならびに/あるいは免疫グロブリンを減少させかつ/あるいは除去するキットを提供する。このキットは本明細書に記載の組成物のいずれか1つと、その組成物を投与する手段と、使用説明書とを含む、それらからなる、またはそれらから本質的になる。実施形態によっては、試薬は免疫グロブリンG(IgG)分解酵素を含む。
【0142】
番号付き実施形態
以下の番号付きの実施形態が本開示の範囲に含まれる。
【0143】
1.組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに対する中和抗体の量の減少を必要とする対象の体内の前記中和抗体を減少させる方法であって、前記中和抗体の分解を促進する治療有効量の組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【0144】
2.前記中和抗体はIgG、IgM、IgE、またはIgAである、実施形態1の方法。
【0145】
3.前記中和抗体はIgGである、実施形態2の方法。
【0146】
4.前記組換えAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、AAVrh32.33、AAVrh74、トリAAVまたはウシAAVベクターである、実施形態1~3のいずれか1つの方法。
【0147】
5.前記AAVベクターは野生型AAVベクターである、実施形態4の方法。
【0148】
6.前記AAVベクターは突然変異型AAVベクターである、実施形態4の方法。
【0149】
7.前記組換えAAVベクターは治療タンパク質または治療RNAをコードする異種核酸を含む、実施形態1~6のいずれか1つの方法。
【0150】
8.前記対象の体内の抗体のうちの少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%が、前記組成物の投与の後に分解される、実施形態1~7のいずれか1つの方法。
【0151】
9.前記組成物は抗体分解酵素またはその断片を含む、実施形態1~8のいずれか1つの方法。
【0152】
10.前記組成物は、抗体分解酵素またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む、実施形態1~8のいずれか1つの方法。
【0153】
11.前記抗体分解酵素またはその断片はシステインプロテアーゼ活性を有する、実施形態9または10の方法。
【0154】
12.前記抗体分解酵素はIgGを特異的に切断する、実施形態9~11のいずれか1つの方法。
【0155】
13.前記抗体分解酵素またはその断片は連鎖球菌(Streptococcus)属に由来する、実施形態9~12のいずれか1つの方法。
【0156】
14.前記抗体分解酵素は、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%または少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態9~13のいずれか1つの方法。
【0157】
15.前記抗体分解酵素は配列番号1のアミノ酸配列を含む、実施形態14の方法。
【0158】
16.前記組成物は、第1のタンパク質および第2のタンパク質を含む融合タンパク質を含み、前記第1のタンパク質は抗体分解酵素またはその断片である、実施形態1~15のいずれか1つの方法。
【0159】
17.前記第1のタンパク質と第2のタンパク質とはリンカーによって分離されている、実施形態16の方法。
【0160】
18.前記第2のタンパク質はIgGプロテアーゼである、実施形態16または17の方法。
【0161】
19.約0.1 mg/kg~約100 mg/kgの前記抗体分解酵素またはその断片が前記対象に投与される、実施形態9~15のいずれか1つの方法。
【0162】
20.前記投与は、前記抗体のFc受容体との結合を低減する、実施形態1~19のいずれか1つの方法。
【0163】
21.前記組成物は静脈内投与される、実施形態1~20のいずれか1つの方法。
【0164】
22.前記組成物は薬学的に許容される担体および/または希釈剤を含む、実施形態1~21のいずれか1つの方法。
【0165】
23.前記対象はヒトである、実施形態1~22のいずれか1つの方法。
【0166】
24.前記対象は、前記組成物の投与の前に、前記組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで治療される、実施形態1~23のいずれか1つの方法。
【0167】
25.前記対象は、前記組成物の投与の前に、前記組換えAAVで治療されない、実施形態1~23のいずれか1つの方法。
【0168】
26.対象に組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる治療の準備をする方法であって、(a)前記AAVベクターに対する中和抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)前記中和抗体のFc受容体との結合を低減する、有効量の組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【0169】
27.前記中和抗体はIgG、IgM、IgE、またはIgAである、実施形態26の方法。
【0170】
28.前記中和抗体はIgGである、実施形態27の方法。
【0171】
29.前記組換えAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、AAVrh32.33、AAVrh74、トリAAVまたはウシAAVベクターである、実施形態26~28のいずれか1つの方法。
【0172】
30.前記AAVベクターは野生型AAVベクターである、実施形態29の方法。
【0173】
31.前記AAVベクターは突然変異型AAVベクターである、実施形態29の方法。
【0174】
32.前記組換えAAVは、治療タンパク質または治療RNAをコードする異種核酸を含む、実施形態26~31のいずれか1つの方法。
【0175】
33.前記抗体のうちの少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%が、前記組成物の投与の後に前記対象の体内で分解される、実施形態26~32のいずれか1つの方法。
【0176】
34.前記組成物は抗体分解酵素またはその断片を含む、実施形態26~33のいずれか1つの方法。
【0177】
35.前記組成物は、抗体分解酵素またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む、実施形態26~33のいずれか1つの方法。
【0178】
36.前記抗体分解酵素またはその断片はシステインプロテアーゼ活性を有する、実施形態34または35の方法。
【0179】
37.前記抗体分解酵素はIgGを特異的に切断する、実施形態26~36のいずれか1つの方法。
【0180】
38.前記抗体分解酵素またはその断片は連鎖球菌(Streptococcus)属に由来する、実施形態26~37のいずれか1つの方法。
【0181】
39.前記抗体分解酵素は、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%または少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態26~38のいずれか1つの方法。
【0182】
40.前記抗体分解酵素は配列番号1のアミノ酸配列を含む、実施形態39の方法。
【0183】
41.前記組成物は、第1のタンパク質および第2のタンパク質を含む融合タンパク質を含み、前記第1のタンパク質は抗体分解酵素またはその断片である、実施形態26~40のいずれか1つの方法。
【0184】
42.前記第1のタンパク質と前記第2のタンパク質とはリンカーによって分離されている、実施形態41の方法。
【0185】
43.前記第2のタンパク質はIgGプロテアーゼである、実施形態41または42の方法。
【0186】
44.約0.1 mg/kg~約100 mg/kgの前記抗体分解酵素またはその断片が前記対象に投与される、実施形態34~43のいずれか1つの方法。
【0187】
45.前記投与は、前記抗体のFc受容体との結合を低減する、実施形態28~44のいずれか1つの方法。
【0188】
46.前記組成物は静脈内投与される、実施形態26~45のいずれか1つの方法。
【0189】
47.前記組成物は薬学的に許容される担体および/または希釈剤を含む、実施形態26~46のいずれか1つの方法。
【0190】
48.前記対象はヒトである、実施形態26~47のいずれか1つの方法。
【0191】
49.治療を必要とする対象を組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで治療する方法であって、
(i)(a)前記AAVベクターに対する中和抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)前記中和抗体のFc受容体との結合を低減する、有効量の組成物を前記対象に投与すること、および
(ii)有効量の前記AAVベクターを前記対象に投与すること
を含む、方法。
【0192】
50.AAVベクターは前記組成物と同時に投与される、実施形態49の方法。
【0193】
51.前記AAVベクターは前記組成物の投与の後に投与される、実施形態49の方法。
【0194】
52.前記AAVベクターは前記組成物の投与の前に投与される、実施形態49の方法。
【0195】
53.第2のAAVベクターを前記対象に投与することをさらに含む、実施形態49~52のいずれか1つの方法。
【0196】
54.前記AAVベクターと前記第2のAAVベクターは、同一の血清型を有するAAVカプシドタンパク質を含む、実施形態53の方法。
【0197】
55.前記AAVベクターと前記第2のAAVベクターは、異なる血清型を有するAAVカプシドタンパク質を含む、実施形態53の方法。
【0198】
56.前記中和抗体はIgG、IgM、IgE、またはIgAである、実施形態45~55のいずれか1つの方法。
【0199】
57.前記中和抗体はIgGである、実施形態56の方法。
【0200】
58.前記組換えAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、AAVrh32.33、AAVrh74、トリAAVまたはウシAAVベクターである、実施形態49~57のいずれか1つの方法。
【0201】
59.前記AAVベクターは野生型AAVベクターである、実施形態58の方法。
【0202】
60.前記AAVベクターは突然変異型AAVベクターである、実施形態58の方法。
【0203】
61.前記組換えAAVベクターは治療タンパク質または治療RNAをコードする異種核酸を含む、実施形態49~60のいずれか1つの方法。
【0204】
62.前記抗体のうちの少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%が、前記組成物の投与の後に分解される、実施形態49~61のいずれか1つの方法。
【0205】
63.前記組成物は抗体分解酵素またはその断片を含む、実施形態49~62のいずれか1つの方法。
【0206】
64.前記組成物は、抗体分解酵素またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む、実施形態49~62のいずれか1つの方法。
【0207】
65.前記抗体分解酵素またはその断片はシステインプロテアーゼ活性を有する、実施形態63または64の方法。
【0208】
66.前記抗体分解酵素はIgGを特異的に切断する、実施形態63~65のいずれか1つの方法。
【0209】
67.前記抗体分解酵素またはその断片は連鎖球菌(Streptococcus)属に由来する、実施形態63~66のいずれか1つの方法。
【0210】
68.前記抗体分解酵素は、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%または少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態63~67のいずれか1つの方法。
【0211】
69.前記抗体分解酵素は配列番号1のアミノ酸配列を含む、実施形態68の方法。
【0212】
70.前記組成物は、第1のタンパク質および第2のタンパク質を含む融合タンパク質を含み、前記第1のタンパク質は抗体分解酵素またはその断片である、実施形態49~69のいずれか1つの方法。
【0213】
71.前記第1のタンパク質と前記第2のタンパク質とはリンカーによって分離されている、実施形態70の方法。
【0214】
72.前記第2のタンパク質はIgGプロテアーゼである、実施形態70または71の方法。
【0215】
73.約0.1 mg/kg~約100 mg/kgの前記抗体分解酵素またはその断片が前記対象に投与される、実施形態63~72のいずれか1つの方法。
【0216】
74.前記投与は、前記抗体のFc受容体との結合を低減する、実施形態49~73のいずれか1つの方法。
【0217】
75.前記組成物は静脈内投与される、実施形態49~74のいずれか1つの方法。
【0218】
76.前記組成物は薬学的に許容される担体および/または希釈剤を含む、実施形態49~75のいずれか1つの方法。
【0219】
77.前記対象はヒトである、実施形態49~76のいずれか1つの方法。
【0220】
78.過去に第1の組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)で治療された、治療を必要とする対象を第2のAAVベクターで治療する方法であって、
(i)(a)前記第1および/または第2の組換えAAVベクターに対する中和抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)前記中和抗体のFc受容体との結合を低減する、有効量の組成物を前記対象に投与すること、ならびに
(ii)有効量の前記第2の組換えAAVベクターを前記対象に投与すること
を含む、方法。
【0221】
79.前記第1の組換えAAVと前記第2の組換えAAVは同一の血清型を有する、実施形態78の方法。
【0222】
80.前記第1の組換えAAVと前記第2の組換えAAVは異なる血清型を有する、実施形態78の方法。
【0223】
81.前記中和抗体はIgG、IgM、IgE、またはIgAである、実施形態78~80のいずれか1つの方法。
【0224】
82.前記中和抗体はIgGである、実施形態81の方法。
【0225】
83.前記組換えAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、AAVrh32.33、AAVrh74、トリAAVまたはウシAAVベクターである、実施形態76~82のいずれか1つの方法。
【0226】
84.前記AAVベクターは野生型AAVベクターである、実施形態83の方法。
【0227】
85.前記AAVベクターは突然変異型AAVベクターである、実施形態83の方法。
【0228】
86.前記組換えAAVは、治療タンパク質または治療RNAをコードする異種核酸を含む、実施形態78~85のいずれか1つの方法。
【0229】
87.前記抗体のうちの少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%が、前記組成物の投与の後に分解される、実施形態78~86のいずれか1つの方法。
【0230】
88.前記組成物は抗体分解酵素またはその断片を含む、実施形態78~87のいずれか1つの方法。
【0231】
89.前記組成物は、抗体分解酵素またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む、実施形態78~87のいずれか1つの方法。
【0232】
90.前記抗体分解酵素またはその断片はシステインプロテアーゼ活性を有する、実施形態88または89の方法。
【0233】
91.前記抗体分解酵素はIgGを特異的に切断する、実施形態78~90のいずれか1つの方法。
【0234】
92.前記抗体分解酵素またはその断片は連鎖球菌(Streptococcus)属に由来する、実施形態78~91のいずれか1つの方法。
【0235】
93.前記抗体分解酵素は、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%または少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態78~92のいずれか1つの方法。
【0236】
94.前記抗体分解酵素は配列番号1のアミノ酸配列を含む、実施形態93の方法。
【0237】
95.前記組成物は、第1のタンパク質および第2のタンパク質を含む融合タンパク質を含み、前記第1のタンパク質は抗体分解酵素またはその断片である、実施形態87~94のいずれか1つの方法。
【0238】
96.前記第1のタンパク質と前記第2のタンパク質とはリンカーによって分離されている、実施形態95の方法。
【0239】
97.前記第2のタンパク質はIgGプロテアーゼである、実施形態95または96の方法。
【0240】
98.約0.1 mg/kg~約100 mg/kgの前記抗体分解酵素またはその断片が前記対象に投与される、実施形態78~97のいずれか1つの方法。
【0241】
99.前記投与は、前記抗体のFc受容体との結合を低減する、実施形態78~98のいずれか1つの方法。
【0242】
100.前記組成物は静脈内投与される、実施形態78~99のいずれか1つの方法。
【0243】
101.前記組成物は薬学的に許容される担体および/または希釈剤を含む、実施形態78~100のいずれか1つの方法。
【0244】
102.前記対象はヒトである、実施形態78~101のいずれか1つの方法。
【0245】
103.異種核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに対する中和抗体の減少を必要とする対象の体内の前記中和抗体を減少させる方法であって、有効量の前記AAVベクターと(a)前記AAVベクターまたは前記異種核酸によってコードされる組換えタンパク質に対する抗体の分解を促進し、かつ/あるいは(b)前記抗体のFc受容体との結合を低減する、有効量の組成物とを前記対象に投与することを含む、方法。
【0246】
104.前記抗体はIgGである、実施形態103の方法。
【0247】
105.前記対象は前記AAVベクターを前記組成物と同時に投与される、実施形態103または104の方法。
【0248】
106.前記対象は前記AAVベクターを前記組成物の投与の後に投与される、実施形態103または104の方法。
【0249】
107.前記対象は前記AAVベクターを前記組成物の投与の前に投与される、実施形態103または104の方法。
【0250】
108.第2の異種核酸を含む第2のAAVベクターの1回用量又は複数回用量を投与することをさらに含む、実施形態107の方法。
【0251】
109.前記AAVベクターと前記第2のAAVベクターは、同一の血清型を有するAAVカプシドタンパク質を含む、実施形態108の方法。
【0252】
110.前記AAVベクターと前記第2のAAVベクターは、異なる血清型を有するAAVカプシドタンパク質を含む、実施形態108の方法。
【0253】
111.前記組成物は薬学的に許容される担体および/または希釈剤をさらに含む、実施形態102~110のいずれか1つの方法。
【0254】
112.前記組成物は前記抗体の分解を促進する、実施形態102~111のいずれか1つの方法。
【0255】
113.前記対象の体内の前記抗体のレベルは、対照対象の体内の前記抗体のレベルに対して約95%~約0.01%の範囲内のレベルに減少され、前記対照対象は前記AAVベクターを投与されるが前記組成物を投与されない、実施形態112の方法。
【0256】
114.前記組成物は抗体分解酵素またはその断片を含む、実施形態112または113の方法。
【0257】
115.前記組成物は、抗体分解酵素またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む、実施形態112または113の方法。
【0258】
116.前記抗体分解酵素またはその断片はIgGシステインプロテアーゼ活性を有する、実施形態114または115の方法。
【0259】
117.前記抗体分解酵素またはその断片は連鎖球菌(Streptococcus)属に由来する、実施形態114~116のいずれか1つの方法。
【0260】
118.前記抗体分解酵素は、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも50%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態114~117のいずれか1つの方法。
【0261】
119.前記抗体分解酵素は配列番号1のアミノ酸配列を含む、実施形態114~118のいずれか1つの方法。
【0262】
120.前記組成物は前記抗体分解酵素またはその断片と第2のタンパク質とを含む融合タンパク質を含む、実施形態114~119のいずれか1つの方法。
【0263】
121.前記第2のタンパク質はIgGプロテアーゼである、実施形態120の方法。
【0264】
122.前記対象は約0.1 mg/kg~約100 mg/kgの前記抗体分解酵素またはその断片を投与される、実施形態114~121のいずれか1つの方法。
【0265】
123.前記対象はヒトである、実施形態108~122のいずれか1つの方法。
【0266】
124.前記組成物は前記抗体のFc受容体との結合を低減する、実施形態102の方法。
【0267】
なお、以上の説明および以下の実施例は例示を意図するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲内のその他の態様、利点、および変形例は本発明の属する技術分野の当業者にとって明らかである。
【実施例
【0268】
実施例1:組換えIdeZ (rIdeZ)のクローン化、発現、および精製
【0269】
IdeZコード配列をBamHIおよびSalI制限部位を用いてpGEX-6P-3ベクターにクローン化し、N末端にGSTタグが付いたIdeZ融合物(GST-IdeZ)を作製した(図1A)。GST-IdeZの発現をlacオペロンの下で制御し、IPTGを添加して産生を誘導した。グルタチオンセファロースを用いてIdeZタンパク質を精製し、過剰なグルタチオンで溶出した。SDS-PAGEを用いて発現および精製を監視した(図1B)。組換えIdeZを、Biorad Imagelab(商標)ソフトウェアを用いてBSAを基準として数量化した。
【0270】
実施例2:IdeZは組換えマウスIgGおよび複数の種の血清IgGを切断する
【0271】
rIdeZがインビトロで活性であるかを決定するために、マウス、霊長類、およびヒトの血清試料を組換えGST-IdeZ (1 μg)で37°Cで3時間処理した。図6に示すように、GST-IdeZはヒトおよび霊長類の血清中に存在するIgGを切断した。
【0272】
別の実験で、組換えマウスIgG (40 μg)をrIdeZ (NEB P0770S、160単位)と共に37°Cで2時間温置した。反応を非還元条件でSDS-PAGEで分析し、クーマシーブルーで染色した(図2A)。IdeZが存在する場合、組換えマウスIgGは、*印で示すように複数のバンドに切断された。矢印はIdeZタンパク質を示す。
【0273】
さらなる実験で、マウス、霊長類、およびヒトの血清試料を未処理(-)または組換えIdeZ (+)(NEB P0770S、320単位)で37°Cで3時間処理した。反応物を1:10に希釈し、還元条件でSDS-PAGEで分析した。次いでゲルをクーマシーブルーで染色した。図2Bに示すように、血清中に存在するIgGはIdeZにより切断された。図2B中、下のゲルはIgG重鎖切断産物(約31 kDa)を含むゲルの部分の過剰曝露を表す。IdeZはさらなるヒト患者(ドナー1~5)の血清試料中のIgGも切断した(図2D)。同様の実験で、IdeZがイヌ血清のIgGを切断することができることも観察された(図2C)。要約すると、これらのデータはIdeZが複数の種の血清中のIgGを切断することができることを実証している。
【0274】
実施例3:IdeZはヒトIVIGをインビトロおよびインビボで切断する
【0275】
ヒト静注用免疫グロブリン(IVIG)をGST-IdeZ (1 μg)またはIdeZ(NEB P0770SまたはGenscript)と共に37°Cで2時間温置した。反応物を還元条件でSDS-PAGEで分析し、クーマシーブルーで染色した。図3Bに示すように、IdeZはヒトIVIGをインビトロで切断した。
【0276】
マウスに8 mgのヒトIVIGを腹腔内注射した。同じマウスに24時間後にPBS (-)または組換えIdeZ (2.5 mg/kg) (+)を静脈注射した。IVIG注射の72時間後、血液試料を採取し、免疫ブロットを用いる還元条件でSDS-PAGEにより分析した。IVIGをヤギ抗ヒトIgG Alexa Fluor 647 (1:10,000)を用いて調査した。IdeZが存在する場合、*印で示すように、ヒトIVIGは複数のより小さな切断産物に消化された(図3A)。これらのデータはIdeZがインビボでヒトIVIGを切断することを示している。
【0277】
同様の実験で、マウスに8 mgのヒトIVIGを腹腔内注射した。同じマウスに24時間後にPBS (-)または組換えGST-IdeZ (2.5 mg/kg) (+)を静脈注射した。血液試料を注射の前、IVIG注射の24時間後、48時間後、および72時間後に採取した。図7に示すように、IdeZは24時間以内にヒトIVIGを切断し、切断のレベルは72時間(3日目)の時点まで上昇し続けた。
【0278】
実施例4:GST-IdeZによるIVIG切断の用量分析
【0279】
GST-IdeZによるIVIG切断の用量分析も行った。この実験では、マウスに8 mgのヒトIVIGを腹腔内注射した。同じマウスに24時間後にPBS (-)または組換えGST-IdeZ (0.25 mg/kg) (+)を静脈注射した。図8A~8Bに示すように、切断は用量依存性であった。最大用量(2.5 mg/kg)では、バンドの大きさの変化によって証明されるように、各試料中のIVIGのほぼすべてが切断された。
【0280】
IdeZの切断部位はヒト免疫グロブリンのヒンジ領域内にある。IdeZがIVIGを切断しているかを確認するため、PBS (-)または1 mg/kG IdeZ (+)マウスの血清試料をSDS-PAGEゲルに流し、抗Fabまたは抗Fc抗体を用いて調査した。図9に示すように、FabバンドはIdeZ処理の後に大きさが(約250 kDaから約150 kDaへ)変わっており、切断が起きたことを示している。FcバンドはIdeZ処理試料において約50 kDaで現れ、このドメインがFabから分離されていたことを示している。
【0281】
ヒトIVIGによるAAV8-Lucの中和の分析結果も準備した。GST-IdeZ (1 μg)未処理および処理ヒトIVIGを1:1000から1:102,400まで2倍ずつ段階希釈した後、AAV8-Lucと共温置し、培養液中の細胞に投与した(100,000 vg/細胞)。図10の曲線が証明するように、AAV8-Lucの中和はGST-IdeZが存在する場合には低減された。
【0282】
実施例5:IdeZはIVIG処理マウスにおいてAAV8-Lucの肝臓形質導入を回復する
【0283】
マウスに8 mgのヒトIVIGを腹腔内注射した。同じマウスに24時間後にPBSまたは組換えIdeZ (2.5 mg/kg)およびAAV8-Luc (5 x 1012 vg/kg)を静脈注射した。肝臓におけるルシフェラーゼ導入遺伝子発現レベルを注射の4週間後分析した。ルシフェラーゼ発現レベルを総組織タンパク質濃度に対して正規化し、肝臓組織1 gあたりの相対発光量(RLU)で表した。実験はすべて3回行われた。*: p値 < 0.05、L.O.D = 検出限界である。
【0284】
図4に示すように、IVIG処理マウスは肝臓でより低いAAV8-Luc形質導入レベルを示した。しかし、IdeZを共注射したIVIG処理マウスはPBS処理マウスと似たレベルのAAV8-Luc肝臓形質導入を示した。
【0285】
マウスの肝臓試料中のAAV8-Lucコピー数を計算した。図11に示すように、細胞あたりのAAV8-Lucのコピー数はAAV8-LucとIdeZを共注射したIVIG処理マウスの試料中の方が高かった。肝臓形質導入はIdeZ未処理マウスでは非常に低かった。
【0286】
要約すると、これらのデータはIdeZがIVIGによるAAVの中和を低減しAAV8-Lucの肝臓形質導入を促進することを示している。
【0287】
実施例6: IdeZはIVIG処理マウスにおいてAAV9-Lucの肝臓および心臓形質導入を回復する
【0288】
マウスに8 mgのヒトIVIGを腹腔内注射した。同じマウスに72時間後にPBSまたは組換えGST-IdeZ (2.5 mg/kg)を静脈注射した。次いで、IdeZ処理の72時間後、マウスにAAV9-Luc (2×1011 vg/匹)を静脈注射した。ルシフェラーゼ導入遺伝子発現レベルを注射の4週間後に肝臓および心臓で分析した。ルシフェラーゼ発現レベルを総組織タンパク質濃度に対して正規化し、肝臓組織1 gあたりの相対発光量(RLU)で表した。
【0289】
IVIG処理した雌雄のマウスは、肝臓(図12A図12C)と心臓(図12B図12D)でより低いAAV9-Luc形質導入レベルを示した。しかし、GST-IdeZを共注射したIVIG処理マウスはPBS処理マウスと似たレベルのAAV9-Lucの肝臓および心臓形質導入を示した。
【0290】
要約すると、これらのデータはIdeZがIVIGによるAAVの中和を無効にし、AAV9-Lucの肝臓および心臓形質導入を促進することを示している(L.O.D = 検出限界)。
【0291】
実施例7:IdeZは患者血清で処理したマウスでAAV9-Lucの肝臓および心臓形質導入レベルを改善する
【0292】
18人のヒト患者から得た血清試料を、肝臓および心臓内でのAAV9形質導入を中和する能力について試験した。
【0293】
ヒト血清試料あたり2匹のマウスを試験に使用し、両方のマウスに100 μlのヒト患者血清を腹腔内注射した。次いで、72時間後にマウスにPBSまたは組換えGST-IdeZ (2.5 mg/kg)を静脈注射した。続いて、IdeZ処理の72時間後にマウスにAAV9-Luc (2 x 1011 vg/匹)を静脈注射した。
【0294】
肝臓および心臓の形質導入レベルを注射の4週間後に分析した。AAV9-Luc (2×1011 vg/匹)を注射し血清処理しなかった対照マウスに対して形質導入レベルを正規化した。
【0295】
図13Aおよび13Bに示すように、ヒト患者血清で処理したマウスは異なる形質導入レベルを示した。しかし、強く中和する患者血清で処理したマウスは、GST-IdeZを共注射したときにより高い肝臓(図13A)および心臓(図13B)形質導入を示した。
【0296】
要約すると、これらのデータは、IdeZが患者の血清によるAAVの中和に拮抗し、AAV9-Lucの肝臓および心臓形質導入を促すことを示している。
【0297】
当業者は容易に認識することであるが、本開示は目的を実行し、言及された目的および利点、さらにはそれらに本来備わっているものを得るのに十分に適合している。本明細書に記載の本開示は、現在、好ましい実施形態の代表であり、模範的であり、本開示の範囲に対する限定を意図するものではない。特許請求の範囲によって定義される本開示の精神の範囲に包含されるそれらの変更および他の用途が当業者に浮かぶであろう。
図1A
図1B
図2A-2B】
図2C-2D】
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
【配列表】
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