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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-04
(45)【発行日】2025-07-14
(54)【発明の名称】管拡径工具
(51)【国際特許分類】
   B29C 57/04 20060101AFI20250707BHJP
   B21D 41/02 20060101ALN20250707BHJP
   B25F 5/00 20060101ALN20250707BHJP
【FI】
B29C57/04
B21D41/02
B25F5/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022005812
(22)【出願日】2022-01-18
(65)【公開番号】P2023104676
(43)【公開日】2023-07-28
【審査請求日】2024-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢加部 晃一
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0261959(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0308503(US,A1)
【文献】特開平07-154957(JP,A)
【文献】特開2016-120540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 57/04
B21D 41/02
B25F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の流体管の端部を拡径する管拡径工具であって、
電動モータと、
前記電動モータによって回転する雌ねじ部材と、
前記雌ねじ部材に螺合しかつ前記雌ねじ部材の回転によって前後方向に移動するねじ軸と、
前記ねじ軸から前方に延出する楔と、
前記楔が前記ねじ軸とともに前進した際に前記楔に押されて径方向外方に相互に開く複数のジョーと、
前記複数のジョーの後部と連結する回転駆動リングと、
前記回転駆動リングを回転させるために前記電動モータによって軸回転するスピンドルと、
前記スピンドルに螺合されかつ前記スピンドルが軸回転することで直線移動する直線移動部材と、
前記直線移動部材と前記回転駆動リングの間に設けられ前記直線移動部材の直線移動を前記回転駆動リングの回転に変換する動力変換機構を有する管拡径工具。
【請求項2】
請求項1に記載の管拡径工具であって、
前記スピンドルは、前記ねじ軸と平行に延出する管拡径工具。
【請求項3】
請求項2に記載の管拡径工具であって、
前記動力変換機構は、前記回転駆動リングと同軸上で回転可能な動力変換リングと、
前記直線移動部材と前記動力変換リングの2部材の内の第1部材から第2部材に向けて突出する凸部と、
前記第2部材において前記直線移動の方向および周方向に延出しかつ前記凸部が挿通される溝を有する管拡径工具。
【請求項4】
請求項3に記載の管拡径工具であって、
前記動力変換リングと前記回転駆動リングの間に前記回転駆動リングの回転方向を一方向に規制するワンウェイクラッチが設けられる管拡径工具。
【請求項5】
請求項4に記載の管拡径工具であって、
前記回転駆動リングは、前記動力変換リングの径方向内方に設けられ、
前記動力変換リングと前記回転駆動リングの径方向の間に前記ワンウェイクラッチが設けられる管拡径工具。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1つに記載の管拡径工具であって、
前記回転駆動リングと前記動力変換リングには、前記楔または前記ねじ軸が貫通される挿通孔が形成されている管拡径工具。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか1つに記載の管拡径工具であって、
前記凸部の外周にローラが設けられ、前記ローラが前記溝の壁面に当接する管拡径工具。
【請求項8】
請求項3~7のいずれか1つに記載の管拡径工具であって、
前記直線移動部材に沿って前後方向に延出して前記直線移動部材の軸回転を規制する回転規制部が設けられる管拡径工具。
【請求項9】
請求項3~8のいずれか1つに記載の管拡径工具であって、
前記動力変換リングが前記雌ねじ部材の前方に設けられる管拡径工具。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1つに記載の管拡径工具であって、
前記ねじ軸と前記雌ねじ部材の螺合部分にボールが介装される管拡径工具。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1つに記載の管拡径工具であって、
前記スピンドルと前後方向にオーバーラップしかつ前記電動モータによって軸回転する上流スピンドルを有し、前記上流スピンドルの軸回転によって前記雌ねじ部材と前記スピンドルが軸回転する管拡径工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば合成樹脂製の流体管の端部を被接続体に接続するために拡径する管拡径工具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばPEX(Crоss-linked pоlyethylene:架橋ポリエチレン)を材料とする流体管を金属製のパイプ等の被接続体に接続する場合がある。PEX管の端部の内径を拡げる管拡径工具が従来提供されている。PEX管の端部を、管拡径工具を用いて拡径して被接続体に装着する。PEX管の端部は、弾性変形によって次第に元の径に戻るように縮径する。端部が縮径したPEX管は、被接続体に対して密に接続される。接続されたPEX管は、自身の弾性を利用して被接続体に強固に保持される。
【0003】
特許文献1には、電動モータを駆動源としてPEX管を拡径する管拡径工具が記載されている。管拡径工具の前部には、PEX管の端部に対して前進または後退する略円錐状の楔と、楔の前方で楔の周方向に並ぶ複数のジョーが設けられる。複数のジョーは、前進する楔に押されて楔の径方向外方に相互に開く。複数のジョーをPEX管の端部開口に進入させた状態で径方向外方に開くことで、PEX管の端部を拡げることができる。
【0004】
例えば管拡径工具が6つのジョーを有する場合、PEX管の端部は周方向等間隔に6箇所で各ジョーから径方向外方に開く力を受ける。そのため1回の拡径動作では、PEX管の端部が略六角形に拡径される。PEX管の端部を円形に拡径するためには、拡径動作と、複数のジョーを楔の周方向に所定の角度(例えば15°~30°)で回転させる回転動作とを交互に繰り返し行う。これにより各ジョーがPEX管の内周面と接触する位置が回転動作によって移動する。そのためPEX管の端部は、均一に拡径されて円形に近づく。
【0005】
管拡径工具は、楔を前後動させてジョーを開閉させる楔前後動機構と、ジョーを回転させるジョー回転機構を有する。特許文献1に記載されるように従来の管拡径工具では、電動モータの出力によって楔前後動機構が駆動し、楔の前後動からジョーを回転させる力が取り出される。そのため電動モータを起点とする動力の伝達経路上で楔前後動機構の下流にジョー回転機構を配置する必要があり、配置の自由度が低かった。そのため工具本体をコンパクトに設けることが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第2020/0261959号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがってジョーを楔の周方向に回転させる機構の配置の自由度が高く使い勝手の良い管拡径工具が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一つの特徴によると合成樹脂製の流体管の端部を拡径する管拡径工具は、電動モータを有する。管拡径工具は、電動モータによって回転する雌ねじ部材を有する。管拡径工具は、雌ねじ部材に螺合しかつ雌ねじ部材の回転によって前後方向に移動するねじ軸を有する。管拡径工具は、ねじ軸から前方に延出する楔を有する。管拡径工具は、楔がねじ軸とともに前進した際に楔に押されて径方向外方に相互に開く複数のジョーを有する。管拡径工具は、複数のジョーの後部と連結する回転駆動リングを有する。管拡径工具は、回転駆動リングを回転させるために電動モータによって軸回転するスピンドルを有する。管拡径工具は、スピンドルに螺合されかつスピンドルが軸回転することで直線移動する直線移動部材を有する。管拡径工具は、直線移動部材と回転駆動リングの間に設けられ直線移動部材の直線移動を回転駆動リングの回転に変換する動力変換機構を有する。
【0009】
したがってスピンドルの回転が直線移動部材の直線移動に変換される。さらに直線移動部材の直線移動が回転駆動リングの回転に変換される。そのためスピンドルと回転駆動リングの間の動力伝達経路には、直線移動部材が介装される。直線移動部材を介装することにより動力伝達経路の構成部材は、例えば全て回転部材で設けられる場合と比べて配置の自由度が高くなる。そのため管拡径工具を使い勝手の良いコンパクトな形状に設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の第1実施例に係る管拡径工具の斜視図である。
図2】工具本体の本体ハウジングを取り外した状態の斜視図である。
図3】工具本体の本体ハウジングを取り外した状態の右側面図である。
図4】工具本体の分解斜視図である。
図5】楔が初期位置に位置する状態の管拡径工具の縦断面図である。
図6】ジョーの回転が終了した状態の工具本体の縦断面図である。
図7】楔が終端位置に位置する状態の工具本体の縦断面図である。
図8図5中のVIII-VIII線断面矢視図である。
図9】動力変換リングの下面図である。
図10】楔が初期位置に位置する状態の動力変換機構を左側下方から見た図である。
図11】ジョーの回転が終了した状態の動力変換機構を左側下方から見た図である。
図12】楔が終端位置に位置する状態の動力変換機構を左側下方から見た図である。
図13】ジョーを後方から見た斜視図である。
図14】本開示の第2実施例に係る管拡径工具の工具本体の本体ハウジングを取り外した状態の斜視図である。
図15】楔が初期位置に位置する状態の工具本体の縦断面図である。
図16図15中のXVI-XVI線断面矢視図である。
図17図16中のXVII-XVII線断面矢視図である。
図18】直線移動部材と動力変換リングの斜視図である。
図19図16中のXVII-XVII線断面に相当する図であって楔が終端位置に位置する状態の工具本体の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の他の特徴によるとスピンドルは、ねじ軸と平行に延出する。したがってスピンドルを前後方向に延出するねじ軸に沿って配置することで、上下方向および左右方向において管拡径工具をコンパクトに設けることができる。また、スピンドルや直線移動部材を前後動するねじ軸と干渉しないように設けることができる。
【0012】
本開示の他の特徴によると動力変換機構は、回転駆動リングと同軸上で回転可能な動力変換リングを有する。動力変換機構は、直線移動部材と動力変換リングの2部材の内の第1部材から第2部材に向けて突出する凸部を有する。動力変換機構は、第2部材において直線移動の方向および周方向に延出しかつ凸部が挿通される溝を有する。したがって直線移動部材の直線移動を、凸部と溝のシンプルな係合構造で動力変換リングの回転に変換できる。そのため動力変換機構をコンパクトに設けることができる。また、動力変換機構における動力の伝達ロスを抑制できる。
【0013】
本開示の他の特徴によると動力変換リングと回転駆動リングの間に回転駆動リングの回転方向を一方向に規制するワンウェイクラッチが設けられる。したがってジョーは、回転駆動リングとともに回転方向が一方向に規制される。そのため各ジョーが流体管の内周面と接触する位置は、ジョーが回転する一方向に移動する。これにより流体管の端部を均一な円形に拡径することができる。
【0014】
本開示の他の特徴によると回転駆動リングは、動力変換リングの径方向内方に設けられる。動力変換リングと回転駆動リングの径方向の間にワンウェイクラッチが設けられる。したがって動力変換リングとワンウェイクラッチと回転駆動リングを前後方向に短い長さで収容できる。そのため管拡径工具を前後方向にコンパクトにできる。
【0015】
本開示の他の特徴によると回転駆動リングと動力変換リングには、楔またはねじ軸が貫通される挿通孔が形成されている。したがって回転駆動リングと動力変換リングを楔またはねじ軸の径方向外方にコンパクトに配置できる。しかも管拡径工具の重心をねじ軸の軸線に近づけることができる。そのため管拡径工具の重量バランスを良好にして操作性を高めることができる。
【0016】
本開示の他の特徴によると管拡径工具には、凸部の外周にローラが設けられる。ローラが溝の壁面に当接する。したがってローラを介装することによって、直線移動部材の直線移動を動力変換リングの回転に変換する際の動力の伝達ロスを低減できる。
【0017】
本開示の他の特徴によると管拡径工具には、直線移動部材に沿って前後方向に延出して直線移動部材の軸回転を規制する回転規制部が設けられる。したがって直線移動部材の回転を規制することにより、スピンドルの回転を直線移動部材の直線移動に変換する変換効率を高めることができる。
【0018】
本開示の他の特徴によると動力変換リングが雌ねじ部材の前方に設けられる。したがって動力変換リングと雌ねじ部材を上下方向および左右方向においてコンパクトに配置できる。そのため管拡径工具を上下方向および左右方向においてコンパクトに設けることができる。
【0019】
本開示の他の特徴によるとねじ軸と雌ねじ部材の螺合部分にボールが介装される。したがって螺合部分に介装されたボールによって駆動力の伝達効率が良くなる。そのためねじ軸に対する雌ねじ部材の回転駆動を、効率良くねじ軸の前後動に変換できる。
【0020】
本開示の他の特徴によると管拡径工具は、スピンドルと前後方向にオーバーラップしかつ電動モータによって軸回転する上流スピンドルを有する。上流スピンドルの軸回転によって雌ねじ部材とスピンドルが軸回転する。したがって上流スピンドルをスピンドルと前後方向にオーバーラップさせることにより、管拡径工具を前後方向にさらに短く設けることができる。
【0021】
次に本開示の一つの実施例を図1~13に基づいて説明する。図1に示すように本実施例の管拡径工具1は、略円筒形状の本体ハウジング11に収容される工具本体10と、工具本体10の前後方向の中央から下方に延出するグリップ5を有する。使用者は、管拡径工具1の概ね後方(図1において左方奥側)に位置してグリップ5を把持する。以下の説明において、使用者の手前側を後方、使用者の手前側と反対側を前方とする。上下左右方向については使用者を基準とする。
【0022】
図1,4に示すように本体ハウジング11の前部には、リング状のキャップ2が装着される。キャップ2の内周面の内側には、前後方向に延出する略円錐状の楔3が設けられる。楔3は、本体ハウジング11の中心で前後方向に延出する円柱状のねじ軸28の前端に装着される。ねじ軸28は、楔3は、ねじ軸28とともに前後方向に移動可能である。楔3の径方向外方かつキャップ2の径方向内方には、前後方向に延出する複数のジョー4が設けられる。複数のジョー4は、楔3の周方向に等間隔に並ぶ。例えば6つのジョー4が設けられ、各ジョー4が楔3の周方向に60°間隔で配置される。複数のジョー4は、周方向に互いに密接して楔3を覆う閉じ位置と、径方向外方に相互に開いて楔3の先端を露出する開き位置の間で径方向に開閉可能である。
【0023】
図1に示すようにグリップ5の前面には、トリガ式のスイッチレバー6が設けられる。使用者は、グリップ5を把持した状態でスイッチレバー6を引いて操作することができる。グリップ5の内部には、スイッチレバー6の操作と連動してオンオフが切り替えられるスイッチ本体6aが設けられる。スイッチ本体6aは、スイッチレバー6を引いていない場合にオフ状態であり、スイッチレバー6を引いた場合にオン状態になる。グリップ5の下端には、グリップ5に対して前後方向および左右方向に拡径する略矩形箱形の拡径部7が設けられる。拡径部7には、コントローラ45が収容される。コントローラ45は、底浅の矩形箱形のケースと、ケース内に収容されかつ樹脂モールドされた制御基板を有する。コントローラ45は、厚み方向(ケースの最短辺が延びる方向)が上下方向に沿った姿勢で拡径部7に収容される。コントローラ45は、主として後述する電動モータ21の駆動を制御する。
【0024】
図1に示すように拡径部7の下面には、矩形箱形のバッテリ8を取り外し可能に装着できるバッテリ取付部7aが設けられる。バッテリ8は、バッテリ取付部7aに対して前方に向けてスライドさせることでバッテリ取付部7aから取り外すことができる。バッテリ8は、バッテリ取付部7aの前方から後方に向けてスライドさせることでバッテリ取付部7aに装着できる。バッテリ8は、バッテリ取付部7aから取り外して別途用意した充電器で繰り返し充電して使用できる。バッテリ8は、他の電動工具の電源として流用することができる。バッテリ8は、電動モータ21に電力を供給する電源として動作する。
【0025】
図4に示すように本体ハウジング11には、前側機構ハウジング12と第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14と後側機構ハウジング15が前側から後方に順に収容される。前側機構ハウジング12と第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14は、前後方向に貫通する挿通孔を中央に有する略円筒形状である。後側機構ハウジング15は、前後方向を板厚方向とする板状に設けられる。前側機構ハウジング12と第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14と後側機構ハウジング15は、協働して後述するスピンドル24と雌ねじ部材27を収容する機構ハウジングを形成する。前側機構ハウジング12と後側機構ハウジング15は、鉄を材料にして設けられる。第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14は、アルミニウムを材料にして設けられる。
【0026】
図2,4に示すように前側機構ハウジング12の前部外周面には、雄ねじ12aが設けられる。キャップ2の内周面には、雄ねじ12aと螺合する雌ねじ2bが設けられる。雄ねじ12aと雌ねじ2bを螺合させることで、キャップ2が前側機構ハウジング12の前部に連結される。前側機構ハウジング12の後部には、径方向外方に張り出した略矩形の板状の矩形張出部12cが設けられる。矩形張出部12cの4つの角部には、前後方向に貫通する透孔12eが形成される。
【0027】
図2,4に示すように第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14と後側機構ハウジング15は、径方向外方に張り出す4つのボス部13c,14c,15cをそれぞれ有する。各ボス部13c,14c,15cは、前後方向に延出する略円筒形状に形成される。各ボス部13c,14cの中央には、前後方向に貫通する透孔13f,14fが設けられる。各ボス部15cの中央には、前後方向に延出するねじ孔15dが設けられる。
【0028】
図2,4に示すように矩形張出部12cとボス部13c,14c,15cを前後方向に並べることにより、透孔12e,13f,14fとねじ孔15dが前後方向に連通する。4本のボルト16を、連通した各透孔12e,13f,14fに前方から後方へ挿通させ、ねじ孔15dに締結させる。これにより前側機構ハウジング12と後側機構ハウジング15は、第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14を前後方向の間に挟んだ状態でボルト16で連結される。
【0029】
図3~5に示すように前側機構ハウジング12の後端と第1中央機構ハウジング13の前端には、略円筒形状の係合部12bと係合部13aがそれぞれ設けられる。係合部12bの内周面と係合部13aの外周面は略同じ径である。係合部12bと係合部13aは、前後方向にオーバーラップしかつ係合部12bの内周面と係合部13aの外周面が密接したいわゆるインロー構造で係合する。
【0030】
図3~5に示すように第1中央機構ハウジング13の後端と第2中央機構ハウジング14の前端には、略円筒形状の係合部13bと係合部14aがそれぞれ設けられる。係合部13bの内周面と係合部14aの外周面は略同じ径である。係合部13bと係合部14aは、前後方向にオーバーラップしかつ係合部13bの内周面と係合部14aの外周面が密接したインロー構造で係合する。
【0031】
図3~5に示すように第2中央機構ハウジング14の後端には、略円筒形状の係合部14bが設けられる。後側機構ハウジング15の前面には、前方へ突出した略円筒形状の係合部15bが設けられる。係合部14bの内周面と係合部15bの外周面は略同じ径である。係合部14bと係合部15bは、前後方向にオーバーラップしかつ係合部14bの内周面と係合部15bの外周面が密接したインロー構造で係合する。
【0032】
図1,5に示すように本体ハウジング11の後部には、電動モータ21を収容する略円筒形状のモータハウジング20が設けられる。モータハウジング20は、ねじ軸28の下方かつグリップ5の上方に位置する。電動モータ21には、例えばDCブラシレスモータと称されるモータが用いられる。電動モータ21の出力軸21aは、モータ軸線Jに沿ってねじ軸28と平行に前後方向に延出する。出力軸21aは、モータハウジング20に取り付けられた軸受21e,21fによってモータ軸線Jを中心に回転可能に支持される。
【0033】
図5に示すようにモータハウジング20の内周面には、電動モータ21の固定子21bが回転不能に支持される。電動モータ21の回転子21cは、固定子21bの内周側で出力軸21aと一体に回転可能に出力軸21aに取り付けられる。回転子21cの前方には、回転数検知センサ21dが設けられる。回転数検知センサ21dは、回転子21cの回転角度を検知することで出力軸21aの回転数を検知する。回転子21cと後方の軸受21fの前後方向の間には、モータハウジング20内に冷却風を導入するためのファン22が出力軸21aに一体に取り付けられる。出力軸21aとともにファン22が回転すると、冷却風がモータハウジング20の前方から後方に向けて流れる。
【0034】
図5に示すように電動モータ21の前方には、出力軸21aの出力を減速するための遊星減速機構23が設けられる。遊星減速機構23は、モータ軸線Jを中心としかつ電動モータ21と略同じ径の略円柱状である。遊星減速機構23の後端には、第1サンギヤ23aが出力軸21aの前端と一体に設けられる。第1サンギヤ23aの径方向外方には、モータ軸線Jを中心とするリング状の第1インターナルギヤ23bが設けられる。第1サンギヤ23aと第1インターナルギヤ23bの間に複数の第1遊星ギヤ23cが噛み合う。第1遊星ギヤ23cは、第1サンギヤ23aの前方の第1キャリヤ23dと連結される。出力軸21aの回転駆動は、第1サンギヤ23aと第1遊星ギヤ23cを介して第1キャリヤ23dに減速して伝達される。
【0035】
図5に示すように第1キャリヤ23dは、前方の第2サンギヤ23eと一体に設けられ、かつ第2サンギヤ23eとともにモータ軸線Jを中心に回転可能である。第2サンギヤ23eの径方向外方には、モータ軸線Jを中心とするリング状の第2インターナルギヤ23fが設けられる。第2サンギヤ23eと第2インターナルギヤ23fの間に複数の第2遊星ギヤ23gが噛み合う。第2遊星ギヤ23gは、第2サンギヤ23eの前方に配置された第2キャリヤ23hと連結される。第2キャリヤ23hは、前方のスピンドル24と一体に設けられ、モータ軸線Jを中心に回転可能である。したがって第1キャリヤ23dの回転駆動は、第2サンギヤ23e、第2遊星ギヤ23g、第2キャリヤ23hを介してスピンドル24に減速して伝達される。かくして出力軸21aの回転駆動が遊星減速機構23を介してスピンドル24に減速して伝達される。
【0036】
図5に示すようにスピンドル24は、スピンドル軸受24b,24cによってモータ軸線Jを中心に回転可能に支持される。前方のスピンドル軸受24bは、第1中央機構ハウジング13の下部に凹設された凹部13dに圧入される。後方のスピンドル軸受24cは、第2中央機構ハウジング14の下部に凹設された凹部14dに圧入される。スピンドル軸受24b,24cは、第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14が協働して形成するスペース内に収容される。スピンドル24には、ねじ軸28に動力を伝達するためのギヤ26が一体に回転可能に設けられる。ギヤ26は、スピンドル軸受24b,24cの前後の間に設けられる。スピンドル24の外周面には、スピンドル軸受24bの前方において雄ねじ24aが形成される。
【0037】
図4,5に示すように工具本体10には、ボールねじ機構と称される送りねじ機構25が設けられる。送りねじ機構25は、ねじ軸28と雌ねじ部材27とギヤ26を有する。ねじ軸28は、本体ハウジング11の中心で前後方向に延出するねじ軸軸線K上に配置される。ねじ軸28は、ねじ軸軸線Kに沿って前後方向に移動可能である。ねじ軸28は、移動範囲の最後端に位置する際に出力軸21aと前後方向にオーバーラップする。雌ねじ部材27は、ねじ軸28と螺合しかつギヤ26と噛み合う略円筒形状に形成される。雌ねじ部材27の内周面には雌ねじ27bが設けられる。雌ねじ27bは、ねじ軸28の雄ねじ28aとの間に複数のボール28bを介して雄ねじ28aに螺合される。雌ねじ部材27の前後方向の中央には、径方向外方に突出してギヤ26と噛み合うギヤ27aが設けられる。ギヤ27aとギヤ26の噛み合いによってスピンドル24の回転駆動が雌ねじ部材27に減速して伝達される。
【0038】
図4,5に示すように雌ねじ部材27は、前後の雌ねじ部材軸受27c,27dによってねじ軸軸線Kを中心にして回転可能に支持される。ギヤ27aの前方の雌ねじ部材軸受27cは、第1中央機構ハウジング13の内周面13eに圧入される。ギヤ27aの後方の雌ねじ部材軸受27dは、第2中央機構ハウジング14の内周面14eに圧入される。雌ねじ部材軸受27c,27dは、第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14が協働して形成するスペース内に収容される。雌ねじ部材27の後面と後側機構ハウジング15の前面15aとの間には、雌ねじ部材27を後方に押すスラスト荷重を受けるためのスラスト軸受27eが設けられる。雌ねじ部材27の前面と後述する動力変換リング32の後面との間には、ワッシャ27fが設けられる。
【0039】
図2,3に示すようにねじ軸28の後部には、本体ハウジング11に対するねじ軸28の前後動をガイドするねじ軸ガイド29が設けられる。ねじ軸ガイド29は、ねじ軸28に連結されかつ左右方向に延出する支持部材29aと、支持部材29aの左右両端に設けられるローラ29bを有する。本体ハウジング11の左右の内周面には、前後方向に延出するループ形状の一対のレール29cが設けられる。ローラ29bは、レール29cと係合してレール29cに沿って前後方向に移動可能である。ねじ軸28は、ローラ29bに案内されて前後方向に移動可能である。
【0040】
図4,5に示すように工具本体10には、複数のジョー4を回転させる動力変換機構30が設けられる。動力変換機構30は、直線移動部材31と動力変換リング32を有する。直線移動部材31は、前後方向を軸方向とする略円筒形状に形成される。直線移動部材31は、内周面に設けられた雌ねじ31aと、略円筒形状の軸方向と直交して延出する円柱状の凸部31bを有する。凸部31bの上端には、凸部31bを周方向に覆いかつ凸部31bの軸回りに回転可能なローラ31cが設けられる。直線移動部材31の雌ねじ31aは、スピンドル24の雄ねじ24aと螺合される。前側機構ハウジング12の下部には、直線移動部材31の回転を規制する回転規制部12dが設けられる。回転規制部12dは、前側機構ハウジング12を径方向に貫通しかつ前後方向に直線状に延出する溝形状に形成される。
【0041】
図4,9に示すように動力変換リング32は、前後方向に貫通する挿通孔32dを中央に有する略円筒形状である。動力変換リング32の下部の外周面には、溝32a,32bが凹設される。溝32aは、動力変換リング32の周方向に延出し、例えば動力変換リング32の軸方向(前後方向)と45°の傾斜角度で交差する方向に延出する。溝32aの傾斜方向は、前側から見て前方に向けて反時計回り方向である。溝32bは、動力変換リング32の軸方向と平行に延出する。溝32aと溝32bには、ローラ31cを装着した凸部31bが挿通される。溝32aの前端と溝32bの後端は、凸部31bがスムーズに移動できるように連通されている。
【0042】
図5~8に示すように動力変換リング32は、前側機構ハウジング12に収容される。直線移動部材31は、前側機構ハウジング12の下方でスピンドル24の雄ねじ24aに螺合される。凸部31bは、回転規制部12dを貫通して上方に延出し、溝32aまたは溝32bに挿通される。ローラ31cは、溝32a,32bの壁面と回転規制部12dの壁面の両方に当接する。直線移動部材31は、凸部31bと回転規制部12dの係合によってスピンドル24の軸回りの回転が規制されている。
【0043】
図10~12に示すようにスピンドル24が軸回りに回転すると、雄ねじ24aと雌ねじ31aの螺合および直線移動部材31の軸回りの回転の規制によって直線移動部材31が前後方向に移動する。直線移動部材31が移動範囲の最後端に位置する際、凸部31bは溝32aの後端に位置する。直線移動部材31が最後端から前方に移動すると、凸部31bが溝32a内を前方へ移動する。直線移動部材31の回転が規制されているため、凸部31bは左右方向に移動しない。そのため前進する凸部31bが溝32aの壁面を押す。これにより動力変換リング32は、ねじ軸軸線Kを中心にして前側から見て時計回り方向に回転する。直線移動部材31がさらに前方へ移動すると、凸部31bが溝32aから溝32bに進入する。溝32bは前後方向に対して傾斜していないため、凸部31bが溝32bの壁面を押す力は発生しない。そのため動力変換リング32は回転しない。
【0044】
図10~12に示すように直線移動部材31が移動範囲の最前端から後方へ移動する際には、先ず凸部31bが溝32b内を移動する。この時、凸部31bが溝32bの壁面を押す力は発生しないため、動力変換リング32は回転しない。凸部31bが溝32a内を後方へ移動する際には、凸部31bが溝32aの壁面を押すことにより、動力変換リング32が前側から見て反時計回り方向に回転する。
【0045】
図4,5に示すように動力変換リング32の径方向内方には、円筒形状のワンウェイクラッチ33と略円筒形状の第1回転駆動リング34が設けられる。ワンウェイクラッチ33は、動力変換リング32の内周面に装着される。第1回転駆動リング34は、ワンウェイクラッチ33の径方向内方かつねじ軸28の径方向外方に配置される。ワンウェイクラッチ33は、前側から見て時計回り方向の回転駆動のみを許容して動力変換リング32から第1回転駆動リング34へ伝達する。一方、前側から見て反時計回り方向の回転駆動は、動力変換リング32からワンウェイクラッチ33を介して第1回転駆動リング34には伝達しない。
【0046】
図4,5に示すように第1回転駆動リング34は、前後方向に貫通する挿通孔34dを中央に有する略円筒形状である。挿通孔34dには、ねじ軸28が前後方向に移動可能に挿通される。第1回転駆動リング34は、ねじ軸軸線Kを中心とする円筒形状の小径部34aと大径部34bを有する。小径部34aは、大径部34bの後方に配置される。小径部34aは、ワンウェイクラッチ33の内周面に圧入される。大径部34bの外周面には、前後方向に延出する複数の凹溝34cが凹設される。複数の凹溝34cは、周方向に所定の間隔で配置され、例えば大径部34bの周方向に90°間隔で設けられる。
【0047】
図4,5に示すように第1回転駆動リング34の前方には、第1回転駆動リング34と係合する第2回転駆動リング35が設けられる。第2回転駆動リング35は、前後方向に貫通する挿通孔35eを中央に有する略円筒形状である。挿通孔35eには、ねじ軸28と第1回転駆動リング34が挿通される。第2回転駆動リング35の内周面には、径方向内方へ突出する複数の係合凸部35aが設けられる。第1回転駆動リング34を挿通孔35eに挿通することにより、複数の係合凸部35aが複数の凹溝34cと係合する。そのため第2回転駆動リング35は、第1回転駆動リング34と一体になってねじ軸軸線Kを中心に回転可能であり、かつ第1回転駆動リング34に対して前後方向にスライド可能である。
【0048】
図4,5に示すように第2回転駆動リング35の外周面の前部には、径方向外方に張り出したばね受け部35dが設けられる。動力変換リング32の前面の前方には、ワッシャ32cが設けられる。ばね受け部35dとワッシャ32cの間に圧縮ばね35cが介装される。第2回転駆動リング35は、圧縮ばね35cによって前方に向けて付勢される。第2回転駆動リング35の前面には、前後方向の凹凸を周方向に繰り返した形状の複数の噛み合い歯35bが設けられる。
【0049】
図4,5に示すように第2回転駆動リング35の前方には、第2回転駆動リング35および複数のジョー4と係合する第3回転駆動リング36が設けられる。第3回転駆動リング36は、前後方向に貫通する挿通孔36cを中央に有する略円筒形状である。挿通孔36cにはねじ軸28が挿通される。第3回転駆動リング36の後面には、前後方向の凹凸を周方向に繰り返した形状の複数の噛み合い歯36aが設けられる。噛み合い歯36aは、第2回転駆動リング35の噛み合い歯35bと係合する。第3回転駆動リング36は、噛み合い歯35bと噛み合い歯36aの噛み合いによって第2回転駆動リング35と一体になってねじ軸軸線Kを中心に回転可能である。第3回転駆動リング36の前端面には、前方に向けて突出する複数の係合凸部36bが設けられる。各係合凸部36bは、ジョー4の後端面に設けられた係合凹部4b(図13参照)と係合する。これにより複数のジョー4は、第3回転駆動リング36と一体になってねじ軸軸線Kを中心に回転可能である。
【0050】
例えばジョー4が流体管の内周面に食い付く場合がある。この場合に第2回転駆動リング35は、圧縮ばね35cの付勢力に抗して後退し、第3回転駆動リング36から離間する。これにより噛み合い歯35bと噛み合い歯36aの噛み合いが外れる。そのためねじ軸軸線Kを中心に複数のジョー4を回転させる動力の伝達経路が、第2回転駆動リング35と第3回転駆動リング36の間で遮断される。これにより流体管に食い付いたジョー4に回転駆動の過負荷が加わることを抑制し、各部材(例えば動力を伝達する直線移動部材31、動力変換リング32、回転駆動リング34,35,36)の破損を抑制できる。
【0051】
図5~7に示すようにジョー4の後部の径方向外周には、断面円弧状のリング収容溝4aが設けられる。複数のジョー4のリング収容溝4aは、周方向に連なって円環状の溝を形成する。複数のジョー4は、リング収容溝4aに挿入されかつ弾性的に伸縮可能なリング4cによって周方向に連結される。キャップ2の内周面には、リング4cを収容可能なジョー支持溝2aが径方向外方および周方向に延出して設けられる。ジョー支持溝2aは、リング4cの径方向の移動は許容するが、リング4cの前後方向の移動は規制する。複数のジョー4は、ジョー支持溝2aに支持されたリング4cを中心にして径方向に開閉する。
【0052】
図5~7,10~12を参照して送りねじ機構25と動力変換機構30の駆動について説明する。先ず電動モータ21の出力軸21aが回転する。出力軸21aの回転駆動が遊星減速機構23で減速されてスピンドル24に伝わる。スピンドル24が回転すると、ギヤ26とギヤ27aの噛み合いによって雌ねじ部材27が回転する。また、雄ねじ24aと雌ねじ31aの螺合および回転規制部12dによる直線移動部材31の回転の規制によって、直線移動部材31が前後方向に移動する。雌ねじ部材27が回転すると、雌ねじ27bと雄ねじ28aの螺合によってねじ軸28が前後方向に移動する。ねじ軸28が前進する際、ねじ軸28の前端に装着された楔3が複数のジョー4とリング4cを径方向外方の開き位置に移動するように押圧する。ねじ軸28が後退する際には、楔3の押圧力が解消されるため、リング4cが収縮して複数のジョー4が径方向内方の閉じ位置に戻る。
【0053】
直線移動部材31が前進し、凸部31bが溝32a内を前進する際、動力変換リング32が前側から見て時計回り方向に回転する。動力変換リング32の回転駆動は、ワンウェイクラッチ33を介して第1回転駆動リング34に伝わる。第1回転駆動リング34と第2回転駆動リング35と第3回転駆動リング36は、前側から見て時計回り方向に回転する。そのため第3回転駆動リング36に支持された複数のジョー4も前側から見て時計回り方向に回転する。凸部31bが溝32b内を前進する際には、動力変換リング32が回転しない。そのため第1回転駆動リング34、第2回転駆動リング35、第3回転駆動リング36、および複数のジョー4は回転しない。
【0054】
直線移動部材31が後退し、凸部31bが溝32b内を後退する際には、動力変換リング32が回転しない。そのため第1回転駆動リング34、第2回転駆動リング35、第3回転駆動リング36、および複数のジョー4は回転しない。凸部31bが溝32a内を後退する際には、動力変換リング32が前側から見て反時計回り方向に回転する。ワンウェイクラッチ33は、前側から見て時計回り方向の回転駆動のみを第1回転駆動リング34に伝達する。そのため第1回転駆動リング34、第2回転駆動リング35、第3回転駆動リング36、および複数のジョー4は回転しない。
【0055】
電動モータ21は、コントローラ45(図1参照)によって正転と逆転が切り替えられる。複数のジョー4は、電動モータ21が正転する際に前進する楔3に押されて径方向外方へ相互に開く。また、複数のジョー4は、電動モータ21が正転する際に動力変換機構30によって前側から見て時計回り方向に回転する。複数のジョー4は、電動モータ21が逆転する際に楔3の後退に伴って径方向内方へ相互に閉じる。また、複数のジョー4は、電動モータ21が逆転する際にワンウェイクラッチ33の回転規制によって回転しない。
【0056】
動力変換機構30による複数のジョー4の回転動作と、送りねじ機構25で楔3が前後動することによる複数のジョー4の開閉動作のタイミングは、各機構の設計によって変更できる。例えば動力変換リング32に設けられる溝32a,32bの形状や、ねじ軸28の前後方向の移動範囲等を変更することで動作のタイミングを変更できる。本実施例においては、複数のジョー4の回転動作が終わった直後に複数のジョー4が開閉するように設定される。
【0057】
図3,5に示すように雌ねじ部材27の後方には、ねじ軸28が移動範囲の最前端の終端位置に移動したことを検知する終端位置センサ42が設けられる。終端位置センサ42の後方には、ねじ軸28が移動範囲の最後端の初期位置に移動したことを検知する初期位置センサ41が設けられる。初期位置センサ41と終端位置センサ42は、ホールICと称される磁界を検知するセンサである。初期位置センサ41は、ねじ軸28の上方において本体ハウジング11に固定される。終端位置センサ42は、ねじ軸28の上方において前後方向に移動可能に本体ハウジング11に支持される。
【0058】
図1,5に示すように本体ハウジング11の上部には、終端位置センサ42を前後方向に移動可能にする位置調整機構44が設けられる。本体ハウジング11の上面には、本体ハウジング11を上下方向に貫通しかつ前後方向に直線状に延出する溝孔11aが設けられる。位置調整機構44は、溝孔11aを貫通して本体ハウジング11の上面から露出する操作部44aを有する。終端位置センサ42は、本体ハウジング11の内側で操作部44aの下端に支持される。終端位置センサ42は、操作部44aとともに溝孔11aに沿って前後方向にスライド可能である。操作部44aを使用者の指でスライド操作することで終端位置センサ42の前後位置を変更できる。
【0059】
図3,5に示すようにねじ軸28の後部上側には、磁石43が取り付けられる。初期位置センサ41は、磁石43と前後方向にオーバーラップした時点のねじ軸28と楔3の位置を初期位置として検知する。終端位置センサ42は、磁石43と前後方向にオーバーラップした時点のねじ軸28と楔3の位置を終端位置として検知する。
【0060】
上述するように合成樹脂製の流体管の端部を拡径する管拡径工具1は、図5~7に示すように電動モータ21を有する。管拡径工具1は、電動モータ21によって回転する雌ねじ部材27を有する。管拡径工具1は、雌ねじ部材27に螺合しかつ雌ねじ部材27の回転によって前後方向に移動するねじ軸28を有する。管拡径工具1は、ねじ軸28から前方に延出する楔3を有する。管拡径工具1は、楔3がねじ軸28とともに前進した際に楔3に押されて径方向外方に相互に開く複数のジョー4を有する。管拡径工具1は、複数のジョー4の後部と連結する回転駆動リング34,35,36を有する。管拡径工具1は、回転駆動リング34,35,36を回転させるために電動モータ21によって軸回転するスピンドル24を有する。管拡径工具1は、スピンドル24に螺合されかつスピンドル24が軸回転することで直線移動する直線移動部材31を有する。管拡径工具1は、直線移動部材31と回転駆動リング34,35,36の間に設けられ直線移動部材31の直線移動を回転駆動リングの回転に変換する動力変換機構30を有する。
【0061】
したがってスピンドル24の回転が直線移動部材31の直線移動に変換される。さらに直線移動部材31の直線移動が回転駆動リング34,35,36の回転に変換される。そのためスピンドル24と回転駆動リング34,35,36の間の動力伝達経路には、直線移動部材31が介装される。直線移動部材31を介装することにより動力伝達経路の構成部材は、例えば全て回転部材で設けられる場合と比べて配置の自由度が高くなる。そのため管拡径工具1を使い勝手の良いコンパクトな形状に設計できる。
【0062】
図5に示すようにスピンドル24は、ねじ軸28と平行に延出する。したがってスピンドル24を前後方向に延出するねじ軸28に沿って配置することで、上下方向および左右方向において管拡径工具1をコンパクトに設けることができる。また、スピンドル24や直線移動部材31を前後動するねじ軸28と干渉しないように設けることができる。
【0063】
図4~7に示すように動力変換機構30は、回転駆動リング34,35,36と同軸のねじ軸軸線K上で回転可能な動力変換リング32を有する。動力変換機構30は、直線移動部材31から動力変換リング32に向けて突出する凸部31bを有する。動力変換機構30は、動力変換リング32において直線移動の方向および周方向に延出しかつ凸部31bが挿通される溝32a,32bを有する。したがって直線移動部材31の直線移動を、凸部31bと溝32a,32bのシンプルな係合構造で動力変換リング32の回転に変換できる。そのため動力変換機構30をコンパクトに設けることができる。また、動力変換機構30における動力の伝達ロスを抑制できる。
【0064】
図5に示すように動力変換リング32と回転駆動リング34,35,36の間に回転駆動リング34,35,36の回転方向を一方向に規制するワンウェイクラッチ33が設けられる。したがってジョー4は、回転駆動リング34,35,36とともに回転方向が一方向に規制される。そのため各ジョー4が流体管の内周面と接触する位置は、ジョー4が回転する一方向に移動する。これにより流体管の端部を均一な円形に拡径することができる。
【0065】
図5,8に示すように第1回転駆動リング34は、動力変換リング32の径方向内方に設けられる。動力変換リング32と第1回転駆動リング34の径方向の間にワンウェイクラッチ33が設けられる。したがって動力変換リング32とワンウェイクラッチ33と第1回転駆動リング34を前後方向に短い長さで収容できる。そのため管拡径工具1を前後方向にコンパクトにできる。
【0066】
図4,5に示すように回転駆動リング34,35,36と動力変換リング32には、楔3またはねじ軸28が貫通される挿通孔34d,35e,36c,32dが形成されている。したがって回転駆動リング34,35,36と動力変換リング32を楔3またはねじ軸28の径方向外方にコンパクトに配置できる。しかも管拡径工具1の重心をねじ軸軸線Kに近づけることができる。そのため管拡径工具1の重量バランスを良好にして操作性を高めることができる。
【0067】
図5~8に示すように管拡径工具1には、凸部31bの外周にローラ31cが設けられる。ローラ31cが溝32a,32bの壁面に当接する。したがってローラ31cを介装することによって、直線移動部材31の直線移動を動力変換リング32の回転に変換する際の動力の伝達ロスを低減できる。
【0068】
図5~8に示すように管拡径工具1には、直線移動部材31に沿って前後方向に延出して直線移動部材31の軸回転を規制する回転規制部12dが設けられる。したがって直線移動部材31の回転を規制することにより、スピンドル24の回転を直線移動部材31の直線移動に変換する変換効率を高めることができる。
【0069】
図5に示すように動力変換リング32が雌ねじ部材27の前方に設けられる。したがって動力変換リング32と雌ねじ部材27を上下方向および左右方向においてコンパクトに配置できる。そのため管拡径工具1を上下方向および左右方向においてコンパクトに設けることができる。
【0070】
図5に示すようにねじ軸28と雌ねじ部材27の螺合部分にボール28bが介装される。したがって螺合部分に介装されたボール28bによって駆動力の伝達効率が良くなる。そのためねじ軸28に対する雌ねじ部材27の回転駆動を、効率良くねじ軸28の前後動に変換できる。
【0071】
次に本開示の第2実施例について図14~19に基づいて説明する。第2実施例の管拡径工具50は、図5に示す第1実施例の管拡径工具1の送りねじ機構25と動力変換機構30に代えて送りねじ機構60と動力変換機構70を有する。管拡径工具50の工具本体51には、前側機構ハウジング52、第1中央機構ハウジング53、第2中央機構ハウジング54、第3中央機構ハウジング55、後側機構ハウジング56が前側から後方に順に収容される。前側機構ハウジング52と第1中央機構ハウジング53と第2中央機構ハウジング54と第3中央機構ハウジング55は、前後方向に貫通する貫通孔を有する略円筒形状である。後側機構ハウジング56は、前後方向を板厚方向とする板状に設けられる。前側機構ハウジング52と後側機構ハウジング56は、鉄を材料にして設けられる。第1中央機構ハウジング53と第2中央機構ハウジング54と第3中央機構ハウジング55は、アルミニウムを材料にして設けられる。
【0072】
図14,15に示すように前側機構ハウジング52は、キャップ2の後方に設けられる。前側機構ハウジング52の前部外周面には、キャップ2の雌ねじ2bと螺合する雄ねじ52aが設けられる。前側機構ハウジング52、第1中央機構ハウジング53、第2中央機構ハウジング54、第3中央機構ハウジング55は、径方向外方に張り出す略円筒形状の4つのボス部52c,53c,54c,55cをそれぞれ有する。各ボス部52c,53c,54c,55cの中央には、前後方向に貫通する透孔が形成される。後側機構ハウジング56は、径方向外方に張り出す4つのボス部56cを有する。各ボス部56cの中央には、前後方向に延出するねじ孔が設けられる。ボス部52c,53c,54c,55c,56cを前後方向に並べて透孔とねじ孔を前後方向に連通させる。4本のボルト57を連通した各透孔に前方から後方へ挿通させ、後側機構ハウジング56のねじ孔に締結させる。これにより前側機構ハウジング52と後側機構ハウジング56は、第1中央機構ハウジング53と第2中央機構ハウジング54と第3中央機構ハウジング55を前後方向の間に挟んだ状態でボルト57で連結される。
【0073】
図15に示すように前側機構ハウジング52の後端には、略円筒形状の係合部52bが設けられる。第1中央機構ハウジング53の前端には、係合部52bの内周面と略同じ外径を有する略円筒形状の係合部53aが設けられる。第1中央機構ハウジング53の後端には、略円筒形状の係合部53bが設けられる。第2中央機構ハウジング54の前端には、係合部53bの内周面と略同じ外径を有する略円筒形状の係合部54aが設けられる。第2中央機構ハウジング54の後端には、略円筒形状の係合部54bが設けられる。第3中央機構ハウジング55の前端には、係合部54bの内周面と略同じ外径を有する略円筒形状の係合部55aが設けられる。係合部52bと係合部53a、係合部53bと係合部54a、係合部54bと係合部55aは、それぞれ前後方向にオーバーラップしかつ係合部52b,53b,54bの内周面と係合部53a,54a,55aの外周面が密接したインロー構造で係合する。
【0074】
図15に示すように遊星減速機構23の第2キャリヤ23hの前部には、上流スピンドル61が一体に取り付けられる。上流スピンドル61は、スピンドル軸受61a,61bによってモータ軸線Jを中心に回転可能に支持される。前方のスピンドル軸受61aは、第2中央機構ハウジング54の下部に凹設された凹部54dに圧入される。後方のスピンドル軸受61bは、後側機構ハウジング56の下部を前後方向に貫通する孔56dに圧入される。上流スピンドル61には、ねじ軸28に動力を伝達するためのギヤ62と、動力変換機構70(図16参照)に動力を伝達するためのギヤ63が一体に回転可能に取り付けられる。ギヤ62,63は、前後のスピンドル軸受61a,61bの間に設けられる。ギヤ63は、ギヤ62よりも後方に設けられる。
【0075】
図15に示すように工具本体51には、ボールねじ機構と称される送りねじ機構60が設けられる。送りねじ機構60は、ねじ軸28と雌ねじ部材27とギヤ62を有する。雌ねじ部材27のギヤ27aは、ギヤ62と噛み合って上流スピンドル61の回転駆動によってねじ軸軸線Kを中心に回転する。雌ねじ部材27を回転可能に支持する前方の雌ねじ部材軸受27cは、第2中央機構ハウジング54の内周面54eに圧入される。後方の雌ねじ部材軸受27dは、第3中央機構ハウジング55の内周面55dに圧入される。スラスト軸受27eは、雌ねじ部材27と後側機構ハウジング56の前後方向の間に介装される。
【0076】
図17,19に示すように工具本体51には、略円筒形状のスピンドル64が設けられる。スピンドル64は、前後方向に延出するスピンドル軸線P上に配置される。スピンドル軸線Pは、ねじ軸軸線Kの下側左方かつモータ軸線Jの上側左方に位置する(図16参照)。スピンドル64の外周には、径方向外方に張り出したギヤ65が一体に設けられる。ギヤ65は、上流スピンドル61に取り付けられたギヤ62(図15参照)と噛み合う。電動モータ21の出力が上流スピンドル61を介して伝わってスピンドル64を軸回りに回転させる。スピンドル64の後部は、スピンドル軸受64bによって回転可能に支持される。スピンドル軸受64bは、後側機構ハウジング56の下部を前後方向に貫通する孔56eに圧入される。スピンドル64の内周面には、雌ねじ64aが形成される。雌ねじ64aには、後述する直線移動部材71が螺合される。スピンドル64の前部は、螺合された直線移動部材71に支持される。
【0077】
図17,19に示すように工具本体51には、電動モータ21の出力を複数のジョー4を回転させる駆動力に変換する動力変換機構70が設けられる。動力変換機構70は、直線移動部材71と動力変換リング72を有する。直線移動部材71と動力変換リング72は、スピンドル軸線P上でスピンドル64の前方に配置される。
【0078】
図17~19に示すように直線移動部材71は、円柱状の軸部の外周に形成された雄ねじ71aと、雄ねじ71aの前方で雄ねじ71aよりも大径の円柱状に形成された摺動部71bを有する。雄ねじ71aは、スピンドル64の雌ねじ64aに螺合される。摺動部71bには上下方向に貫通する取付孔71cが設けられる。取付孔71cには、円柱状の凸部71dが上下双方に突出した状態で装着される。凸部71dの下端には、凸部71dを周方向に覆いかつ凸部71dの軸回りに回転可能なローラ71eが設けられる。第2中央機構ハウジング54の下部には、第2中央機構ハウジング54を径方向に貫通しかつ前後方向に直線状に延出する溝形状の回転規制部54fが設けられる。ローラ71eは、回転規制部54fに前後方向に移動可能に装着される。直線移動部材71は、ローラ71eと回転規制部54fの係合によってスピンドル軸線Pの軸回りの回転が規制される。
【0079】
図17~19に示すように動力変換リング72は、前部に設けられた円柱状の軸部72cと、軸部72cの後方に設けられた略円筒形状のリング部72eを有する。リング部72eの外周面には、径方向に貫通する溝72a,72bが設けられる。溝72aは、動力変換リング72の周方向に延出し、例えば動力変換リング72の軸方向(前後方向)と45°の傾斜角度で交差する方向に延出する。溝72aの傾斜方向は、前側から見て前方に向けて時計回り方向である。溝72bは、動力変換リング72の軸方向と平行に延出する。直線移動部材71の凸部71dは、溝72aまたは溝72bに挿通される。溝72aの前端と溝72bの後端は、凸部71dがスムーズに移動できるように連通されている。軸部72cの前端は、軸受72dによって回転可能に支持される。軸受72dは、第1中央機構ハウジング53の下部に凹設された凹部53dに圧入される。
【0080】
図17,19に示すようにスピンドル64が軸回りに回転すると、雌ねじ64aと雄ねじ71aの螺合および直線移動部材71の軸回りの回転の規制によって、直線移動部材71が前後方向に移動する。直線移動部材71が移動範囲の最後端から前方に移動すると、凸部71dが溝72a内を前方へ移動する。凸部71dは、回転の規制によって左右方向に移動しないため、溝72aの壁面を押す。そのため動力変換リング72は、スピンドル軸線Pを中心にして前側から見て反時計回り方向に回転する。直線移動部材71がさらに前方へ移動すると、凸部71dが溝72aから溝72bに進入する。溝72bは前後方向に対して傾斜していないため、凸部71dが溝72bの壁面を押す力は発生しない。そのため動力変換リング72は回転しない。直線移動部材71が移動範囲の最前端から後方に移動する場合は、先ず凸部71dが溝72b内を移動する。この時、動力変換リング72は回転しない。凸部71dがさらに後退して溝72a内を後方へ移動する際には、凸部71dが溝72aの壁面を押し、動力変換リング72が前側から見て時計回り方向に回転する。
【0081】
図17,19に示すように軸部72cの径方向外方には、円筒形状のワンウェイクラッチ73とギヤ74が設けられる。ワンウェイクラッチ73の内周面は、軸部72cの外周面に装着される。ギヤ74は、ワンウェイクラッチ73の外周面に装着される。ワンウェイクラッチ73は、前側から見て反時計回り方向の回転駆動のみを許容して動力変換リング72からギヤ74へ伝達し、時計回り方向の回転駆動は伝達しない。
【0082】
図15に示すように雌ねじ部材27の前方には、第1回転駆動リング75と第2回転駆動リング76と第3回転駆動リング77が後方から前方に順に配置される。第1回転駆動リング75と第2回転駆動リング76と第3回転駆動リング77は、ねじ軸軸線Kを中心とする略円筒形状である。第1回転駆動リング75と第2回転駆動リング76と第3回転駆動リング77の中央には、前後方向に貫通する挿通孔75c,76e,77bが設けられる。ねじ軸28は、前後方向に移動可能に挿通孔75c,76e,77bに挿通される。第1回転駆動リング75の外周面には、ギヤ74(図17参照)と噛み合うギヤ75aが設けられる。第1回転駆動リング75は、ギヤ74の回転駆動によってねじ軸軸線Kを中心に回転する。第1回転駆動リング75は、回転方向が一方向に規制されたギヤ74と噛み合うため、前側から見て時計回り方向にのみ回転する。第1回転駆動リング75の内周面には、径方向内方に突出する複数の係合凸部75b(図16参照)が設けられる。複数の係合凸部75bは、周方向に所定の間隔、例えば90°間隔で配置される。
【0083】
図15に示すように第2回転駆動リング76の外周面には、前後方向に延出する複数の凹溝76aが設けられる。第2回転駆動リング76を第1回転駆動リング75の挿通孔75cに挿通することにより、複数の凹溝76aが複数の係合凸部75bと係合する。そのため第2回転駆動リング76は、第1回転駆動リング75と一体になってねじ軸軸線Kを中心に回転可能であり、かつ第1回転駆動リング75に対して前後方向にスライド可能である。第2回転駆動リング76の外周面の前部には、径方向外方に張り出したばね受け部76dが設けられる。第1回転駆動リング75の前面には、ばね受け部75dが設けられる。ばね受け部76dとばね受け部75dの間に圧縮ばね76cが介装される。第2回転駆動リング76は、圧縮ばね76cによって前方に向けて付勢される。第2回転駆動リング76の前端面には、前後方向の凹凸を周方向に繰り返した形状の複数の噛み合い歯76bが設けられる。
【0084】
図15に示すように第3回転駆動リング77の後端面には、前後方向の凹凸を周方向に繰り返した形状の複数の噛み合い歯77aが設けられる。噛み合い歯76bと噛み合い歯77aが係合することにより、第2回転駆動リング76と第3回転駆動リング77が一体になってねじ軸軸線Kを中心に回転可能である。第3回転駆動リング77の前端面には、ジョー4の係合凹部4b(図13参照)と係合する係合凸部が設けられる。複数のジョー4は、第3回転駆動リング77と一体になってねじ軸軸線Kを中心に回転可能である。
【0085】
図15,17,19を参照して送りねじ機構60と動力変換機構30の駆動について説明する。先ず電動モータ21の出力軸21aの回転駆動が、遊星減速機構23で減速されて上流スピンドル61に伝わる。上流スピンドル61が回転すると、ギヤ62とギヤ27aの噛み合いによって雌ねじ部材27が回転し、ギヤ63とギヤ65の噛み合いによってスピンドル64が回転する。雌ねじ部材27が回転すると、雌ねじ27bと雄ねじ28aの螺合によってねじ軸28が前後方向に移動する。複数のジョー4は、ねじ軸28の前進によって径方向外方に相互に開き、ねじ軸28の後退によって径方向内方に閉じる。
【0086】
スピンドル64が回転すると、雌ねじ64aと雄ねじ71aの螺合および回転規制部54fによる直線移動部材71の回転の規制によって、直線移動部材71が前後方向に移動する。直線移動部材71が前進し、凸部71dが溝72a内を前進する際、動力変換リング72が前側から見て反時計回り方向に回転する。動力変換リング72の回転駆動は、ワンウェイクラッチ73を介してギヤ74に伝わる。第1回転駆動リング75は、ギヤ74とギヤ75aの噛み合いによって、前側から見て時計回り方向に回転する。第2回転駆動リング76と第3回転駆動リング77と複数のジョー4は、第1回転駆動リング75と一体になって回転する。凸部71dが溝72b内を前進する際には、動力変換リング72が回転しない。そのため第1回転駆動リング75、第2回転駆動リング76、第3回転駆動リング77、および複数のジョー4は回転しない。
【0087】
直線移動部材71が後退し、凸部71dが溝72b内を後退する際には、動力変換リング72が回転しない。そのため第1回転駆動リング75、第2回転駆動リング76、第3回転駆動リング77、および複数のジョー4は回転しない。凸部71dが溝72a内を後退する際には、動力変換リング72が前側から見て時計回り方向に回転する。ワンウェイクラッチ73は、前側から見て反時計回り方向の回転駆動のみをギヤ74に伝達する。そのためギヤ74の動力伝達経路の下流の第1回転駆動リング75、第2回転駆動リング76、第3回転駆動リング77、および複数のジョー4は回転しない。
【0088】
上述するように管拡径工具50は、図17に示すようにスピンドル64と前後方向にオーバーラップしかつ電動モータ21によって軸回転する上流スピンドル61を有する。上流スピンドル61の軸回転によって雌ねじ部材27とスピンドル64が軸回転する。したがって上流スピンドル61をスピンドル64と前後方向にオーバーラップさせることにより、管拡径工具50を前後方向にさらに短く設けることができる。
【0089】
以上説明した本実施例には様々な変更を加えることができる。ジョー4を6つ有する管拡径工具1,50を例示した。これに代えて、例えば5つ以下または7つ以上のジョー4を有していても良い。
【0090】
前側から見て前方に向けて反時計回り方向に傾斜する溝32aと、前側から見て時計回り方向の回転駆動のみを伝達するワンウェイクラッチ33を例示した。また、前側から見て前方に向けて時計回り方向に傾斜する溝72aと、前側から見て反時計回り方向の回転駆動のみを伝達するワンウェイクラッチ73を例示した。溝32a,72aの傾斜方向と、ワンウェイクラッチ33,73が回転駆動を伝達する方向を例示したものから左右逆に替えても良い。
【0091】
直線移動部材31に径方向に突出する凸部31bを設け、動力変換リング32の外周面に溝32a,32bを設ける構成を例示した。これに代えて、例えば直線移動部材31の側面に溝を設け、動力変換リング32の外周面から径方向に突出する凸部を設けても良い。スピンドル24,64の延出方向に沿って前後方向に移動する直線移動部材31,71を例示した。これに代えて、例えば左右方向または上下方向に沿って直線移動部材31,71を移動させても良い。直線移動部材31の回転を規制する回転規制部12dを前側機構ハウジング12に設ける構成を例示した。また、直線移動部材71の回転を規制する回転規制部54fを第2中央機構ハウジング54に設ける構成を例示した。回転規制部12d,54fが設けられるハウジングは、これに限定されない。
【0092】
モータ軸線Jがねじ軸軸線Kの下方に位置する管拡径工具1を例示した。また、スピンドル軸線Pがねじ軸軸線Kの下側左方かつモータ軸線Jの上側左方に位置する管拡径工具50を例示した。ねじ軸軸線Kに対するモータ軸線J、スピンドル軸線Pの位置関係はこれに限定されない。また、モータ軸線Jまたはスピンドル軸線Pをねじ軸軸線Kに対して傾斜させる構成にしても良い。
【0093】
ねじ軸28と雌ねじ部材27の間にボール28bが介装される送りねじ機構25,60を例示した。これに代えて、例えばねじ軸28と雌ねじ部材27が直接螺合してボールが介装されない送りねじ機構であっても良い。
【符号の説明】
【0094】
1…管拡径工具
2…キャップ、2a…ジョー支持溝、2b…雌ねじ
3…楔
4…ジョー、4a…リング収容溝、4b…係合凹部、4c…リング
5…グリップ
6…スイッチレバー、6a…スイッチ本体
7…拡径部、7a…バッテリ取付部
8…バッテリ
10…工具本体
11…本体ハウジング、11a…溝孔
12…前側機構ハウジング、12a…雄ねじ、12b…係合部、12c…矩形張出部
12d…回転規制部、12e…透孔
13…第1中央機構ハウジング、13a,13b…係合部、13c…ボス部
13d…凹部、13e…内周面、13f…透孔
14…第2中央機構ハウジング、14a,14b…係合部、14c…ボス部
14d…凹部、14e…内周面、14f…透孔
15…後側機構ハウジング、15a…前面、15b…係合部、15c…ボス部
15d…ねじ孔
16…ボルト
20…モータハウジング
21…電動モータ、21a…出力軸、21b…固定子、21c…回転子
21d…回転数検知センサ、21e,21f…軸受
22…ファン
23…遊星減速機構、23a…第1サンギヤ、23b…第1インターナルギヤ
23c…第1遊星ギヤ、23d…第1キャリヤ、23e…第2サンギヤ
23f…第2インターナルギヤ、23g…第2遊星ギヤ、23h…第2キャリヤ
24…スピンドル、24a…雄ねじ、24b,24c…スピンドル軸受
25…送りねじ機構(ボールねじ機構)
26…ギヤ
27…雌ねじ部材、27a…ギヤ、27b…雌ねじ、27c,27d…雌ねじ部材軸受
27e…スラスト軸受、27f…ワッシャ
28…ねじ軸、28a…雄ねじ、28b…ボール
29…ねじ軸ガイド、29a…支持部材、29b…ローラ、29c…レール
30…動力変換機構
31…直線移動部材(第1部材)、31a…雌ねじ、31b…凸部、31c…ローラ
32…動力変換リング(第2部材)、32a…溝、32b…溝、32c…ワッシャ
32d…挿通孔
33…ワンウェイクラッチ
34…第1回転駆動リング、34a…小径部、34b…大径部、34c…凹溝
34d…挿通孔
35…第2回転駆動リング、35a…係合凸部、35b…噛み合い歯、35c…圧縮ばね
35d…ばね受け部、35e…挿通孔
36…第3回転駆動リング、36a…噛み合い歯、36b…係合凸部、36c…挿通孔
41…初期位置センサ
42…終端位置センサ
43…磁石
44…位置調整機構、44a…操作部
45…コントローラ
50…管拡径工具
51…工具本体
52…前側機構ハウジング、52a…雄ねじ、52b…係合部、52c…ボス部
53…第1中央機構ハウジング、53a,53b…係合部、53c…ボス部
53d…凹部
54…第2中央機構ハウジング、54a,54b…係合部、54c…ボス部
54d…凹部、54e…内周面、54f…回転規制部
55…第3中央機構ハウジング、55a…係合部、55c…ボス部、55d…内周面
56…後側機構ハウジング、56c…ボス部、56d,56e…孔
57…ボルト
60…送りねじ機構(ボールねじ機構)
61…上流スピンドル、61a,61b…スピンドル軸受
62…ギヤ
63…ギヤ
64…スピンドル、64a…雌ねじ、64b…スピンドル軸受
65…ギヤ
70…動力変換機構
71…直線移動部材、71a…雄ねじ、71b…摺動部、71c…取付孔、71d…凸部
71e…ローラ
72…動力変換リング、72a,72b…溝、72c…軸部、72d…軸受
72e…リング部
73…ワンウェイクラッチ
74…ギヤ
75…第1回転駆動リング、75a…ギヤ、75b…係合凸部、75c…挿通孔
75d…ばね受け部
76…第2回転駆動リング、76a…凹溝、76b…噛み合い歯、76c…圧縮ばね
76d…ばね受け部、76e…挿通孔
77…第3回転駆動リング、77a…噛み合い歯、77b…挿通孔
J…モータ軸線
K…ねじ軸軸線
P…スピンドル軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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図19