(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】駆動システム、制御方法および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
H02K 7/06 20060101AFI20250708BHJP
H02K 33/00 20060101ALI20250708BHJP
H02K 41/02 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
H02K7/06 A
H02K33/00 A
H02K41/02 Z
(21)【出願番号】P 2021004648
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 敦
(72)【発明者】
【氏名】稲目 幸生
(72)【発明者】
【氏名】エッメ テジャ
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-175729(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187223(WO,A1)
【文献】特開2009-119904(JP,A)
【文献】特開2019-209781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 7/06
H02K 33/00
H02K 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより駆動されて変位を生じるアクチュエータと、
前記モータを駆動するドライバと、
前記ドライバに制御指令を与えるコントローラとを備え、
前記コントローラは、
バネ定数を決定する決定部と、
前記バネ定数と前記アクチュエータに生じている変位との積に
比例する駆動力を生じるように、前記制御指令を生成する指令生成部とを含む、駆動システム。
【請求項2】
前記決定部は、制御周期毎にバネ定数を設定する、請求項1に記載の駆動システム。
【請求項3】
前記決定部は、予め定められたパターンに従って、制御周期毎のバネ定数を設定する、請求項2に記載の駆動システム。
【請求項4】
前記モータと機械的に接続されて、前記アクチュエータの変位を検出するエンコーダをさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の駆動システム。
【請求項5】
前記コントローラは、前記アクチュエータに生じている変位を算出する算出部をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の駆動システム。
【請求項6】
前記算出部は、前記アクチュエータに物体が取り付けられた状態を基準とした変位を算出する、請求項5に記載の駆動システム。
【請求項7】
前記指令生成部は、前記モータが発生すべきトルクを指定するトルク指令を前記制御指令として出力する、請求項1~6のいずれか1項に記載の駆動システム。
【請求項8】
前記駆動システムは、共通の部材と機械的に接続された複数の前記アクチュエータを備えており、
前記コントローラは、前記共通の部材から目的の荷重が生じるように、前記複数のアクチュエータに対するそれぞれの制御指令を生成する、請求項1~7のいずれか1項に記載の駆動システム。
【請求項9】
モータにより駆動されて変位を生じるアクチュエータの制御方法であって、
バネ定数を決定するステップと、
前記バネ定数と前記アクチュエータに生じている変位との積に
比例する駆動力を生じるように、前記モータを制御するステップとを備える、制御方法。
【請求項10】
モータにより駆動されて変位を生じるアクチュエータを制御するための制御プログラムであって、前記制御プログラムはコンピュータに、
バネ定数を決定するステップと、
前記バネ定数と前記アクチュエータに生じている変位との積に
比例する駆動力を生じるように、前記モータを制御するステップとを実行させる、制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動システム、その駆動システムにおける制御方法、および、その駆動システムを制御するための制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
物体と物体とが接触するときに生じる運動エネルギを減衰あるいは制御するための機構として、バネやゴムなどの弾性体、ダンパ(例えば、オイルダンパ)、エアシリンダなどの様々な構成が提案および実用化されている。また、各種センサによるセンシング結果を用いた制御を採用する構成も存在する。
【0003】
バネやゴムを用いた機構は、組み込まれるバネやゴムの物理的な特性に依存して、運動エネルギを減衰させる性能が決まる。ダンパについては、サイズやオリフィス径などに依存して、運動エネルギを減衰させる性能が決まる。エアシリンダは、サイズやエア圧などに依存して、運動エネルギを減衰させる性能が決まる。これらの機械的な構成は、自重以下の力が制御できない、対象に応じた設計および機構が必要、位置精度が低いなどの課題がある。
【0004】
また、エアやモータなどで駆動されるアクチュエータ(例えば、シリンダ)をセンサによるセンシング結果に基づいて制御する構成も存在する。このような電気的な構成としては、以下のような先行技術がある。
【0005】
例えば、特開2006-074987号公報(特許文献1)は、車輪支持アッセンブリ上に支持された車両ボディに伝達される力をかなり減少させることを容易にするように粗い表面に亘って移動する車両車輪支持アッセンブリからのエネルギを能動的に吸収し、又は、該アッセンブリにエネルギを印加するための、経路に沿った、典型的には線形の制御可能な力源を開示する。
【0006】
特開2006-125633号公報(特許文献2)は、乗物内で実設備を能動的に懸架するための方法を開示する。開示された方法は、制御信号を、この制御信号に対する実設備の応答によって指示されるような実設備の特性と、基準設備の特性との差に基づいて変更することを含む。
【0007】
特表2013-521443号公報(特許文献3)は、基準フレームに対してボディのポジションを制御するよう構成されたアクティブ振動抑制デバイスを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-074987号公報
【文献】特開2006-125633号公報
【文献】特表2013-521443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したような電気的なアクチュエータは、制御ロジックなどの構成が複雑化し得る。例えば、アクチュエータと機械的に接触する物体の特性などを考慮して、制御ロジックを構成する必要があり、また、制御ロジックに含まれるパラメータが多数存在すると、チューニングにも手間がかかる。
【0010】
本発明の一つの目的は、制御ロジックの構成や設備設計のためのシミュレーションなどを容易に行うことができるアクチュエータを含む駆動システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一例に従う駆動システムは、モータにより駆動されて変位を生じるアクチュエータと、モータを駆動するドライバと、ドライバに制御指令を与えるコントローラとを含む。コントローラは、バネ定数を決定する決定部と、バネ定数とアクチュエータに生じている変位との積に基づいて算出される駆動力を生じるように、制御指令を生成する指令生成部とを含む。
【0012】
この構成によれば、アクチュエータから理想的なバネの挙動に従う荷重を発生させることができる。
【0013】
決定部は、制御周期毎にバネ定数を設定するようにしてもよい。この構成によれば、目的および状況に応じて、各制御周期における最適なバネ定数を設定できる。
【0014】
決定部は、予め定められたパターンに従って、制御周期毎のバネ定数を設定するようにしてもよい。この構成によれば、アプリケーションに応じて設定されるパターンを利用できる。
【0015】
駆動システムは、モータと機械的に接続されて、アクチュエータの変位を検出するエンコーダをさらに含んでいてもよい。この構成によれば、モータの回転量などに基づいて、アクチュエータに生じる変位を容易に取得できる。
【0016】
コントローラは、アクチュエータに生じている変位を算出する算出部をさらに含んでいてもよい。この構成によれば、アクチュエータが発生すべき荷重を正確に算出できる。
【0017】
算出部は、アクチュエータに物体が取り付けられた状態を基準とした変位を算出するようにしてもよい。この構成によれば、アクチュエータに取り付けられた物体の質量に影響されることなく、与えられる荷重が小さくても、理想的なバネの挙動を実現できる。
【0018】
指令生成部は、モータが発生すべきトルクを指定するトルク指令を制御指令として出力するようにしてもよい。この構成によれば、モータが発生すべきトルクを制御することで、理想的なバネの挙動に従って、アクチュエータが発生する荷重を制御できる。
【0019】
駆動システムは、共通の部材と機械的に接続された複数のアクチュエータを含んでいてもよい。このとき、コントローラは、共通の部材から目的の荷重が生じるように、複数のアクチュエータに対するそれぞれの制御指令を生成してもよい。この構成によれば、複数のアクチュエータと機械的に接続された共通の部材から目的の荷重を発生できる。
【0020】
本発明の別の一例に従えば、モータにより駆動されて変位を生じるアクチュエータの制御方法が提供される。制御方法は、バネ定数を決定するステップと、バネ定数とアクチュエータに生じている変位との積に基づいて算出される駆動力を生じるように、モータを制御するステップとを含む。
【0021】
本発明のさらに別の一例に従えば、モータにより駆動されて変位を生じるアクチュエータを制御するための制御プログラムが提供される。制御プログラムはコンピュータに、バネ定数を決定するステップと、バネ定数とアクチュエータに生じている変位との積に基づいて算出される駆動力を生じるように、モータを制御するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のある局面によれば、制御ロジックの構成や設備設計のためのシミュレーションなどを容易に行うことができるアクチュエータを含む駆動システムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施の形態に係る駆動システムの主要部を示す模式図である。
【
図2】本実施の形態に係る駆動システムの変形例の主要部を示す模式図である。
【
図3】本実施の形態に係る駆動システムを構成するアクチュエータの挙動を説明するための図である。
【
図4】本実施の形態に係る駆動システムを構成するコントローラのハードウェア構成例を示す模式図である。
【
図5】本実施の形態に係るアクチュエータが衝撃緩和動作を行うワーク搬送システムの模式図である。
【
図6】本実施の形態に係るアクチュエータの衝撃緩和動作に係る物理的観点から挙動を説明するための図である。
【
図7】本実施の形態に係るアクチュエータによる衝撃緩和動作を実現するための主要な機能構成を示す模式図である。
【
図8】本実施の形態に係るアクチュエータが弾性力発生動作を説明するための図である。
【
図9】本実施の形態に係るアクチュエータによる弾性力発生動作を実現するための主要な機能構成を示す模式図である。
【
図10】本実施の形態に係るアクチュエータを用いた物体間の接触による衝撃力の発生を抑制するための処理を説明するための図である。
【
図11】本実施の形態に係るアクチュエータによる衝撃緩和動作および弾性力発生動作を実現するための主要な機能構成を示す模式図である。
【
図12】本実施の形態に係るアクチュエータによる衝撃緩和動作および弾性力発生動作に係る処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図13】本実施の形態に係るアクチュエータを複数含む1自由度のステージ機構の例を示す模式図である。
【
図14】
図13(A)に示すステージ機構による弾性力発生動作を実現するための主要な機能構成を示す模式図である。
【
図15】本実施の形態に係るアクチュエータを複数含む多自由度のステージ機構の例を示す模式図である。
【
図16】本実施の形態に係るアクチュエータを用いたアプリケーションの一例を示す模式図である。
【
図17】
図16に示す組立装置における処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0025】
<A.適用例>
まず、本発明が適用される場面の一例について説明する。
【0026】
図1は、本実施の形態に係る駆動システム1の主要部を示す模式図である。
図1を参照して、駆動システム1は、アクチュエータ2および駆動装置4を含む。
【0027】
アクチュエータ2は、モータ18により駆動されて変位(
図1に示す例では、紙面上下方向の変位)を生じる。アクチュエータ2としては、モータにより駆動されるどのような構成を採用してもよいが、例えば、ボールネジやリニアアクチュエータなどを用いることができる。以下の説明では、一例として、ボールネジを主体とするアクチュエータ2に適用した場合について説明する。
【0028】
より具体的には、アクチュエータ2は、内部に空間をもつ本体部10と、本体部10の内部に形成されているネジ溝と係合するロッド12と、ロッド12の先端に設けられた先端部14と、ロッド12とモータ18とを機械的に結合する連結部材16と、モータ18の回転数あるいは回転角を検出するエンコーダ20とを含む。エンコーダ20は、モータ18と機械的に接続されて、アクチュエータ2の変位を検出することになる。
【0029】
駆動装置4は、モータ18に電力を供給して駆動するドライバ42と、エンコーダ20による検出信号を受けて、ドライバ42に制御指令を与えるコントローラ40とを含む。
【0030】
図1には、1つのアクチュエータ2からなる駆動システム1の例を示すが、複数のアクチュエータ2を含む構成を実現することもできる。
【0031】
図2は、本実施の形態に係る駆動システム1の変形例の主要部を示す模式図である。
図2を参照して、駆動システム1は、3つのアクチュエータ2を有している。駆動装置4は、それぞれのアクチュエータ2に対応する3つのドライバ42と、3つのアクチュエータ2を統括的に制御するコントローラ40とを含む。
【0032】
なお、駆動システム1に含まれるアクチュエータ2の数については、特に制限はなく、適用されるアプリケーションに応じて、適切な台数を設定すればよい。例えば、任意のワークを単一のアクチュエータ2で支持できる場合には、アクチュエータ2は1台でよい。また、大型のワークについては、ワークを支持するための部材を複数のアクチュエータ2で駆動するように構成してもよい。
【0033】
説明の便宜上、コントローラ40とドライバ42とをそれぞれ独立した構成要素として描いているが、コントローラ40とドライバ42とを独立した装置として実装してもよいし、両者を一体化した装置として実装してもよい。
【0034】
図3は、本実施の形態に係る駆動システム1を構成するアクチュエータ2の挙動を説明するための図である。
図3を参照して、本実施の形態に係る駆動システム1においては、バネの理想的な挙動となるようにアクチュエータ2を制御する。バネの理想的な挙動とは、例えば、
図3(A)に示すように、外力が与えられていない状態で自然長X
0を有するバネを想定する。
【0035】
このバネが長さX1(=X0+ΔX1)まで伸ばされると、元の自然長X0に戻ろうとする方向に復元力F1が発生する。復元力F1は、元の自然長X0からの伸び分ΔX1に比例することになる。一方、このバネが長さX2(=X0-ΔX2)まで縮められると、元の自然長X0に戻ろうとする方向に復元力F2が発生する。復元力F2は、元の自然長X0からの縮み分ΔX2に比例することになる。
【0036】
このように、本実施の形態に係る駆動システム1においては、いわば、物理的なバネをモータ18の制御で実現する。実現されるバネは、実質的に理想的な挙動(物理式に従う挙動)を示すので、単純な物理モデルを用いた制御ロジックの構成や設備設計のためのシミュレーションなどを容易に行うことができる。
【0037】
本実施の形態に係るアクチュエータ2のより詳細な動作例については後述する。
<B.コントローラ40のハードウェア構成例>
次に、本実施の形態に係る駆動システム1を構成するコントローラ40のハードウェア構成例について説明する。
【0038】
図4は、本実施の形態に係る駆動システム1を構成するコントローラ40のハードウェア構成例を示す模式図である。
図4を参照して、コントローラ40は、一種のコンピュータであり、主要なハードウェアコンポーネントとして、プロセッサ402と、主メモリ404と、入出力部406と、ストレージ408とを含む。
【0039】
プロセッサ402は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)などで構成され、ストレージ408に格納されたシステムプログラム410および制御プログラム412を読出して、主メモリ404に展開して実行することで、後述するようなアクチュエータ2の挙動を制御するための制御演算を実現する。
【0040】
入出力部406は、コントローラ40と外部装置との間の信号の送受信を担当する。
図4に示す例では、入出力部406は、エンコーダ20からの検出信号を受信するとともに、ドライバ42に対して制御指令を送信する。
【0041】
ストレージ408は、典型的には、SSD(Solid State Disk)やフレッシュメモリなどで構成され、基本的な処理を実現するためのシステムプログラム410と、制御プログラム412とが格納される。
【0042】
図4には、プロセッサ402がプログラムを実行することで必要な処理が提供される構成例を示したが、これらの提供される処理の一部または全部を、専用のハードウェア回路(例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)など)を用いて実装してもよい。
【0043】
<C.衝撃緩和動作>
次に、本実施の形態に係るアクチュエータ2の衝撃緩和動作について説明する。衝撃緩和動作においては、アクチュエータ2は与えられる荷重に応じてパッシブに動作する。
【0044】
図5は、本実施の形態に係るアクチュエータ2が衝撃緩和動作を行うワーク搬送システム100の模式図である。
図5を参照して、一例として、ロボット120の先端に設けられたエンドエフェクタ122により吸着されたワークWがステージ機構110上に配置される場合を示す。ステージ機構110は、ベース部112とプレート114とを含む。ベース部112とプレート114との間は、本実施の形態に係るアクチュエータ2を介して機械的に接続される。なお、
図5には、理解を容易にするために、アクチュエータ2をバネとして描いている。
【0045】
図5に示すようなワーク搬送システム100において、ワークWが配置されたときに、ワークWを受け止めるステージ機構110が動かなければ、ワークWは、いわばプレート114と衝突して止まることになる。すなわち、ワークWは衝突前後で移動速度が大きく変化するため、移動速度に変化に伴う加速度の変化によって、ワークWに対してステージ機構110から大きな荷重(衝撃力)が加わることになる。
【0046】
また、ステージ機構110がワークWに沿って動いたとしても、ワークWとプレート114との接触面積が小さければ、ワークWの接触部位に大きな荷重が与えられることになる。このような現象は、ポイントロードあるいは荷重集中とも称される。
【0047】
図5に示すように、物体と物体とが接触する際に発生する過大な荷重(衝撃力)を緩和し、あるいは、ポイントロードの発生を抑制するために、本実施の形態に係るアクチュエータ2は、衝撃緩和動作を行う。
【0048】
衝撃緩和動作においては、外力を受けたときのバネの挙動、すなわち外力に相当する復元力が発生する変位に相当する位置(すなわち、つり合い位置)まで収縮あるいは伸張する。このような収縮あるいは伸張の挙動は、実質的に理想的な物理挙動である物理モデルに従う。
【0049】
図6は、本実施の形態に係るアクチュエータ2の衝撃緩和動作に係る物理的観点から挙動を説明するための図である。
図6を参照して、バネとして振る舞うアクチュエータ2に荷重が与えられていない状態(自然長状態50)に対して、プレート114が取り付けられることで、プレート114の質量M1がアクチュエータ2に与えられる。アクチュエータ2は、プレート114の質量M1の荷重を受けて、所定の長さΔXbだけ短くなった位置(つり合い位置)で平衡状態になる(つり合い状態52)。このとき、アクチュエータ2の長さはXbであるとする。
【0050】
本実施の形態においては、つり合い位置を基準として、バネとしての挙動が算出される。例えば、アクチュエータ2に対して荷重Fが与えられると、つり合い位置から所定の長さXbだけ短くなった位置(荷重F発生時の位置)で平衡状態になる(荷重平衡状態54)。このとき、アクチュエータ2の長さはXであるとする。
【0051】
このようなつり合い状態52からの崩れに応じて、バネとしての挙動が決定される。ここで、説明の便宜上、最も単純な物理モデルとして、単振動モデルを想定する。つり合い位置を基準として、バネとしての挙動を考えると、アクチュエータ2のバネ定数をK(予め任意に設定可能である)とすると、バネの単振動の周期T=2π√(M1/K)となる。また、角周波数ω=2π/T=√(K/M1)となる。
【0052】
すなわち、何らかの荷重Fがアクチュエータ2に与えられると、与えられた荷重Fの大きさに応じた振幅A1で、アクチュエータ2は単振動を開始することになる。アクチュエータ2による単振動に係る各値は、以下のようになる。
【0053】
変位ΔX=A1×sin(ωt)
速度V=A1×ω×cos(ωt)
加速度a=A1×ω2×sin(ωt)=-ω2ΔX
後述するように、アクチュエータ2に物体が取り付けられた状態(つり合い状態52)を基準とした変位ΔXに基づいて、物理モデルなどが決定される。
【0054】
本実施の形態に係る駆動システム1においては、バネの挙動を示す物理モデルを用いて、アクチュエータ2でバネの挙動を再現する。物理モデルとしては、上述したような単振動モデルであってもよいし、プレート114の質量M1などを示す質量(マス)の要素を含むモデルであってもよいし、減衰(ダンピング)の要素を含むモデルであってもよい。これらの物理モデルは、バネについての運動方程式(F=K×X+M×Vなど)に従って決定されてもよい。
【0055】
図7は、本実施の形態に係るアクチュエータ2による衝撃緩和動作を実現するための主要な機能構成を示す模式図である。
図7を参照して、コントローラ40は、物理モデル420と、特性推定部422と、角周波数設定部424と、位置指令生成部426とを含む。
【0056】
物理モデル420は、バネとしての挙動を実現するためのモデルである。
図7には、一例として、単振動モデルを示す。この場合、物理モデル420は、変位ΔX(t)=A1×sin(ωt)に従って、任意の時間tにおける変位を算出する。
【0057】
特性推定部422は、アクチュエータ2に外部からの荷重が与えられることで生じる変位に基づいて、物理モデル420を構成するモデル構成部に相当する。より具体的には、特性推定部422は、エンコーダ20からの検出信号に基づいて、物理モデル420に含まれるパラメータ(
図7に示す例では、振幅A1)を推定する。推定されたパラメータは、物理モデル420に反映される。物理モデル420は、任意の荷重Fがアクチュエータ2に与えられることで生じる変化に基づいて、特性(パラメータ)が決定される。
【0058】
例えば、物理モデル420が単振動モデルである場合には、任意の荷重Fがアクチュエータ2に与えられた直後の位置変化(速度)に基づいて、物理モデル420の振幅A1を算出できる。
【0059】
このように、特性推定部422は、アクチュエータ2の変位の時間的変化(速度、加速度、加加速度など)に基づいて、物理モデル420のパラメータを推定する。推定されるパラメータは、物理モデル420に応じて適宜決定される。例えば、バネ定数やダンピング定数を決定してもよい。このように、アクチュエータ2に有意な変位が生じた場合に物理モデルのパラメータが推定されるので、物理モデル420は、アクチュエータ2に外部から所定の荷重に応じた特性を有することになる。
【0060】
角周波数設定部424は、アクチュエータ2に取り付けられる物体(
図1および
図2に示す例では、プレート114)の質量M1、および、予め設定されるバネ定数Kに基づいて、物理モデル420の角周波数ωを設定する。より具体的には、角周波数設定部424は、予め設定されるバネ定数K、および、既知の質量M1に基づいて、角周波数ωを設定する。上述したように、角周波数ω=2π/T=√(K/M1)として算出される。
【0061】
位置指令生成部426は、アクチュエータ2が物理モデル420に従う変位を生じるように、制御指令を生成する。より具体的には、位置指令生成部426は、物理モデル420に従って算出される変位ΔXに基づいて、各制御周期における制御指令(位置指令あるいは変位指令)を生成し、ドライバ42へ出力する。すなわち、位置指令生成部426は、モータ18の目標位置を指定する位置指令を制御指令として出力してもよい。
【0062】
以上のような処理手順によって、物理モデル420を規定するパラメータが推定される。そして、推定されたパラメータを含む物理モデル420に従って、アクチュエータ2の挙動が決定される。
【0063】
アクチュエータ2が単振動することによって、ワークWによる荷重Fに対して、アクチュエータ2は荷重Fa=K×X+M1×Vを発生することになる。すなわち、荷重Faには、プレート114(質量M1)が移動することにより生じるモーメントが反映される。
【0064】
上述したように、本実施の形態に係る衝撃緩和動作においては、物理的なバネ(ダンパとして動作)をモータ18の制御で実現する。つり合い位置を基準として制御するため、与えられる荷重が小さい場合であっても、物理式に従う挙動を実現できる。物理式に従う挙動をとるので、制御系を設計する際の事前計算やシミュレーションなどが容易になるとともに、実際の装置を構成した場合にも、事前の設計からのズレが少なくなる。
【0065】
通常、複数の部品からなる機構は、部品間の抵抗が存在し、存在する抵抗の大きさは周囲環境や使用履歴などによって変化するため、事前計算などが難しい。これに対して、本実施の形態に係る衝撃緩和動作においては、部品間の抵抗の大小に依存することなく、物理式に従う挙動を実現できる。また、本実施の形態に係るアクチュエータ2は、モータ18により駆動されるので、応答性および自由度を高めたバネを実現できる。
【0066】
<D.弾性力発生動作>
次に、本実施の形態に係るアクチュエータ2の弾性力発生動作について説明する。弾性力発生動作においては、フックの法則(Fa=バネ定数K×変位ΔX)に従って算出される荷重を発生する。本実施の形態においては、バネ定数Kを可変することで、目的の荷重(弾性力)をワークWなどに対して与えることができる。
【0067】
図8は、本実施の形態に係るアクチュエータ2が弾性力発生動作を説明するための図である。
図8(A)を参照して、アクチュエータ2が物理モデルに従って変位を発生する場合を想定する。一例として、アクチュエータ2が縮んだ状態から伸びた状態に変化する場合には、
図8(B)に示すような変位の時間的変化を示す。
【0068】
バネ定数Kが一定であれば、変位ΔX(自然長からの変化分)に比例した荷重Faが発生することになるが、バネ定数Kを時間的に変化させることで、発生する荷重Faの大きさを調整することができる。
【0069】
例えば、
図8(C)に示すように、バネ定数Kを時間的に変化させることで、荷重F
aの大きさは、
図8(D)に示すように変化する。
図8(D)に示す例では、時間経過に沿ってバネ定数Kを大きくすることで、発生する荷重F
aの変動を抑制している。
【0070】
また、要求される荷重Faが予め設定される場合には、各制御周期において、変位ΔXに対応するバネ定数Kを算出してもよい。
【0071】
図9は、本実施の形態に係るアクチュエータ2による弾性力発生動作を実現するための主要な機能構成を示す模式図である。
図9を参照して、コントローラ40は、荷重指令生成部428と、バネ定数変更部430と、変位算出部432とを含む。
【0072】
バネ定数変更部430は、バネ定数Kを決定する決定部に相当する。バネ定数変更部430は、任意の区間毎にバネ定数Kを設定してもよいし、制御周期毎にバネ定数Kを設定してもよい。一例として、バネ定数変更部430は、予め定められたパターンに従って、各制御周期におけるバネ定数K(t)を設定する。
【0073】
バネ定数変更部430は、
図8(C)に示すようなバネ定数K(t)を出力するパターンを有していてもよい。なお、複数種類のワークWが存在する場合には、バネ定数の複数のパターンをバネ定数変更部430に格納しておいてもよい。その場合には、設定モードに応じて、複数のパターンのうち1つを選択するようにしてもよい。
【0074】
変位算出部432は、エンコーダ20からの検出信号に基づいて、アクチュエータ2に生じている変位ΔXを算出する。変位算出部432が算出する変位ΔXは、アクチュエータ2に物体(
図1および
図2に示す例では、プレート114)が取り付けられた状態を基準として算出される。
【0075】
荷重指令生成部428は、バネ定数Kとアクチュエータ2に生じている変位ΔXとの積に基づいて算出される駆動力を生じるように、制御指令を生成する。より具体的には、荷重指令生成部428は、変位算出部432によって算出される変位ΔXと、バネ定数変更部430からのバネ定数K(t)とに基づいて、各制御周期において発生すべき荷重Fa(=K(t)×ΔX)を算出し、算出した荷重Faを発生するように、制御指令(典型的には、トルク指令)を生成し、ドライバ42へ出力する。すなわち、荷重指令生成部428は、モータ18が発生すべきトルクを指定するトルク指令を制御指令として出力してもよい。
【0076】
以上のような処理手順によって、変位ΔXおよびバネ定数Kに応じた荷重Faをアクチュエータ2から発生することができる。なお、実際には、プレート114(質量M1)が移動することにより生じるモーメントが反映されるため、アクチュエータ2は、荷重Fa=K×X+M1×Vを発生することになる。
【0077】
なお、減衰(ダンピング)の要素を含む物理モデルを採用した場合には、バネ定数Kに加えて、あるいは、バネ定数Kに代えて、ダンピング定数を時間的に変化させてもよい。
【0078】
上述したように、本実施の形態に係る弾性力発生動作においては、物理的なバネ(ダンパとして動作)をモータ18の制御で実現する。物理式に従う挙動をとるので、制御系を設計する際の事前計算やシミュレーションなどが容易になるとともに、実際の装置を構成した場合にも、事前の設計からのズレが少なくなる。
【0079】
また、本実施の形態に係る弾性力発生動作においては、アクチュエータに生じている変位に比例して荷重を発生するので、外力(外部からの荷重)を計測するためのセンサなどが不要になる。そのため、剛性の高い製造装置や無視できない内部抵抗をもつ製造装置であっても、発生する荷重を精緻に制御できる。
【0080】
また、本実施の形態に係る弾性力発生動作においては、バネ定数を変化させることができるので、アクチュエータに生じている変位に比例して荷重を発生するという物理式に従いつつ、アプリケーションに応じて目的の荷重を発生することができる。
【0081】
<E.衝撃緩和動作および弾性力発生動作>
上述した衝撃緩和動作および弾性力発生動作を切り替えることで、ワークWが接触する場合などに大きな荷重(衝撃力)が発生することを防止することができる。
【0082】
図10は、本実施の形態に係るアクチュエータ2を用いた物体間の接触による衝撃力の発生を抑制するための処理を説明するための図である。
図10を参照して、衝撃緩和動作が先行して実行され、何らかの荷重が与えられると、アクチュエータ2は与えられる荷重に応じてパッシブに動作する。その後、所定の切替条件で弾性力発生動作に切り替わり、生じている変位およびパターンにより規定されるバネ定数基づいて算出される荷重を発生する。
【0083】
衝撃緩和動作においては、外力(外部からの荷重)が与えられない限り、アクチュエータ2は何らの変位も生じない。外力が与えられると、与えられた外力に応じたパラメータが算出され、算出されたパラメータをもつ物理モデルでアクチュエータ2の変位が制御される。
【0084】
衝撃緩和動作と弾性力発生動作とを切り替えるための切替条件としては、アクチュエータ2に外部から荷重が与えられてからの経過時間、アクチュエータ2に生じている変位(現在位置)、外部装置からのトリガなど、に基づくようにしてもよい。
【0085】
図11は、本実施の形態に係るアクチュエータ2による衝撃緩和動作および弾性力発生動作を実現するための主要な機能構成を示す模式図である。
図11を参照して、コントローラ40は、物理モデル420と、特性推定部422と、角周波数設定部424と、位置指令生成部426と、荷重指令生成部428と、バネ定数変更部430と、変位算出部432と、選択部434とを含む。
【0086】
図11に示す機能構成は、
図7に示す衝撃緩和動作を実現するための機能構成と、
図9に示す弾性力発生動作を実現するための機能構成とを組み合わせた上で、選択部434を追加したものに相当する。すなわち、選択部434は、位置指令生成部426から出力される衝撃緩和動作を実現するための制御指令と、荷重指令生成部428から出力される弾性力発生動作を実現するための制御指令とのうちいずれからの制御指令を有効化するのかを選択する。
【0087】
選択部434は、切替条件436を有しており、切替条件436が満たされるか否かに基づいて、位置指令生成部426から出力される制御指令と、荷重指令生成部428から出力される制御指令との一方を選択して出力する。典型的には、選択部434は、位置指令生成部426からの制御指令を有効化しているときに、切替条件436が満たされると、荷重指令生成部428からの制御指令を有効化する。
【0088】
図12は、本実施の形態に係るアクチュエータ2による衝撃緩和動作および弾性力発生動作に係る処理手順の一例を示すフローチャートである。
図12に示す各ステップは、典型的には、コントローラ40のプロセッサ402が制御プログラム412を実行することで実現される。なお、プロセッサ402が制御プログラム412を実行する際に、処理の一部をシステムプログラム410が提供するライブラリなどを利用することもある。
【0089】
図12に示す処理のうち、ステップS2~S14が衝撃緩和動作に係る処理に相当し、ステップS20~S28が弾性力発生動作に係る処理に相当する。
【0090】
すなわち、コントローラ40は、まず、衝撃緩和動作に係る処理を実行する。より具体的には、コントローラ40は、エンコーダ20による検出信号に基づいて、アクチュエータ2に所定値を超える荷重が与えられたか否かを判断する(ステップS2)。アクチュエータ2に所定値を超える荷重が与えられていなければ(ステップS2においてNO)、ステップS2以下の処理が繰り返される。
【0091】
アクチュエータ2に所定値を超える荷重が与えられると(ステップS2においてYES)、コントローラ40は、エンコーダ20による検出信号に基づいて、アクチュエータ2の速度を算出し(ステップS4)、算出した速度に基づいて、物理モデルのパラメータを推定する(ステップS6)。そして、コントローラ40は、推定したパラメータを含む物理モデルを構成する(ステップS8)。このように、コントローラ40は、アクチュエータ2に外部からの荷重が与えられることで生じる変位に基づいて、物理モデルを構成する。
【0092】
コントローラ40は、アクチュエータ2に所定値を超える荷重が与えられてからの経過時間を物理モデルに入力して、現在の制御周期における制御指令(位置指令あるいは変位指令)を算出し(ステップS10)、算出した制御指令をドライバ42へ出力する(ステップS12)。すなわち、コントローラ40は、アクチュエータ2が物理モデルに従う変位を生じるようにモータ18を制御する。
【0093】
そして、コントローラ40は、弾性力発生動作へ切り替わるための条件(切替条件436)が満たされたか否かを判断する(ステップS14)。弾性力発生動作へ切り替わるための条件が満たされていなければ(ステップS14においてNO)、ステップS10以下の処理が繰り返される。
【0094】
弾性力発生動作へ切り替わるための条件が満たされていれば(ステップS14においてYES)、コントローラ40は、以下の弾性力発生動作に係る処理を実行する。より具体的には、コントローラ40は、予め設定されているパターンを参照して、現在の制御周期におけるバネ定数Kを決定する(ステップS20)。このように、コントローラ40は、バネ定数Kを決定する。
【0095】
続いて、コントローラ40は、現在のアクチュエータ2の変位を取得し(ステップS22)、バネ定数Kと現在のアクチュエータ2の変位とに基づいて、アクチュエータ2が発生すべき荷重を算出する(ステップS24)。そして、コントローラ40は、発生すべき荷重に対応する制御指令(位置指令あるいは変位指令)を算出し(ステップS26)、算出した制御指令をドライバ42へ出力する(ステップS28)。このように、コントローラ40は、バネ定数Kとアクチュエータ2に生じている変位ΔXとの積に基づいて算出される駆動力を生じるように、モータ18を制御する。
【0096】
このように、コントローラ40は、アクチュエータ2が衝撃緩和動作中(物理モデルに従う変位を生じるように、モータを制御しているとき)に、所定の切替条件が満たされると、バネ定数Kとアクチュエータ2に生じている変位ΔXとの積に基づいて算出される駆動力を生じるように、モータ18の制御を切り替える。
【0097】
そして、コントローラ40は、弾性力発生動作の終了条件が満たされたか否かを判断する(ステップS30)。弾性力発生動作の終了条件が満たされていなければ(ステップS30においてNO)、ステップS20以下の処理が繰り返される。
【0098】
弾性力発生動作の終了条件が満たされていれば(ステップS30においてYES)、処理は終了する。
【0099】
なお、
図12には、本実施の形態に係るアクチュエータ2による衝撃緩和動作と弾性力発生動作とを組み合わせた処理例を示すが、衝撃緩和動作のみ、および、弾性力発生動作のみを行うようにしてもよい。アクチュエータ2を利用するアプリケーションに応じて、適切な動作が選択されることになる。
【0100】
<F.駆動機構の例>
説明の便宜上、単一のアクチュエータ2からなる構成について例示したが、複数のアクチュエータ2を含む機構を実現してもよい。以下、アクチュエータ2を含む駆動機構の一例について説明する。
【0101】
(f1:1自由度のステージ機構)
図13は、本実施の形態に係るアクチュエータ2を複数含む1自由度のステージ機構の例を示す模式図である。
図13(A)および
図13(B)には、プレート114が3つのアクチュエータ2-1,2-2,2-3で支持されたステージ機構の構成例を示す。
図13(A)および
図13(B)に示されるステージ機構においては、共通の部材であるプレート114に複数のアクチュエータ2が機械的に接続されている。
【0102】
図13(A)に示すステージ機構においては、コントローラ40がアクチュエータ2-1,2-2,2-3を同期して制御することで、プレート114の面全体を制御することができる。このとき、コントローラ40は、共通の部材であるプレート114から目的の荷重が生じるように、アクチュエータ2-1,2-2,2-3に対するそれぞれの制御指令を生成する。
【0103】
図13(B)に示すステージ機構においては、コントローラ40-1,40-2,40-3がそれぞれアクチュエータ2-1,2-2,2-3を制御する。アクチュエータ2-1,2-2,2-3の各々が独立して制御されることで、プレート114に局所的な荷重が与えられた場合でも、局所的な荷重に応じた挙動を行うことができる。
【0104】
図14は、
図13(A)に示すステージ機構による弾性力発生動作を実現するための主要な機能構成を示す模式図である。
図14を参照して、アクチュエータ2-1,2-2,2-3は、ドライバ42-1,42-2,42-3によってそれぞれ駆動され、エンコーダ20-1,20-2,20-3によって変位が検出される。
【0105】
コントローラ40は、アクチュエータ2-1,2-2,2-3を制御するために、荷重指令生成部428-1,428-2,428-3と、バネ定数変更部430-1,430-2,430-3と、変位算出部432-1,432-2,432-3とをそれぞれ含む。
【0106】
プレート114の面全体が発生する荷重を制御するために、バネ定数変更部430-1,430-2,430-3の間で、それぞれのバネ定数を変更あるいは更新するタイミングが制御される。バネ定数を同期して徐々に変更するようにしてもよいし、変位のばらつきを補正するように、それぞれのバネ定数の間を調停してもよい。
【0107】
このような制御ロジックを採用することで、プレート114が発生する荷重を面全体で制御することができる。
【0108】
また、衝撃緩和動作についても、それぞれのアクチュエータに対応する物理モデルを互いに同期させることで、プレート114に生じる荷重を面全体で制御することができる。
【0109】
(f2:多自由度のステージ機構)
図15は、本実施の形態に係るアクチュエータ2を複数含む多自由度のステージ機構110Aの例を示す模式図である。
【0110】
図15を参照して、ステージ機構110Aは、2自由度をもつZθステージである。より具体的には、ステージ機構110Aは、θ軸方向に回転するように構成された回転部材118と、Z軸方向に伸張する3つのアクチュエータ2-1,2-2,2-3とを含む。
【0111】
図15に示すようなステージ機構110Aを用いることで、様々なアプリケーションでの利用が可能となる。
【0112】
(f3:その他)
上述したように、本実施の形態に係るアクチュエータ2は、アクチュエータ2単体で利用することもできるし、アクチュエータ2を組み込んだステージとして利用することもできる。さらに、ステージを含む製造装置として利用することもできる。
【0113】
<G.アプリケーション例>
本実施の形態に係るアクチュエータ2を用いたアプリケーションの一例について説明する。
【0114】
図16は、本実施の形態に係るアクチュエータ2を用いたアプリケーションの一例を示す模式図である。
図16には、ワークW1とワークW2とを貼り付けるために、両ワークを重ね合わせるアプリケーションを示す。
【0115】
図16(A)を参照して、2つのワークを重ね合わされる組立装置200は、ステージ機構110Aと、搬送機構150と、コントローラ40とを含む。ステージ機構110Aのプレート114上にワークW1が配置されている。ワークW1に重ね合わされるワークW2は、ステージ機構110Aの上方向から搬送機構150によって搬送される。コントローラ40は、ステージ機構110Aに制御指令を与えて、ステージ機構110Aを制御する。
【0116】
ステージ機構110Aは、モータ18により駆動されて第1の方向(Z軸方向)に変位を生じる1または複数のアクチュエータ2を含む。ステージ機構110Aの構成は、
図15を参照して説明したので、詳細な説明は繰り返さない。
【0117】
搬送機構150は、支持柱152とプレート154とを含む。プレート154は、支持柱152と連結されており、図示しない駆動機構によって、重力上下方向に移動が可能になっている。
【0118】
プレート154の表面には、吸着孔が形成されている。ワークW2は、図示しない吸着機構によって、プレート154の表面に吸着された状態で搬送される。
【0119】
次に、
図16(B)に参照して、組立装置200における処理手順を説明する。
まず、ワークW1とワークW2とが平行になるように、ステージ機構110Aのアクチュエータ2-1,2-2,2-3の変位が調整される((1)平行維持動作)。すなわち、コントローラ40は、ワークW1と重ね合わせられるワークW2に応じて、ワークW1とワークW2とが平行になるようにステージ機構110Aに制御指令を与える。
【0120】
平行維持動作は、搬送機構150に設けられた図示しないセンサによる検出信号に基づくフィードバック制御によって実現されてもよい。なお、平行維持動作においては、向き調整によって、ワークW1とワークW2とが衝突しないように、ワーク間には所定の距離マージンが設けられる。
【0121】
平行維持動作によってワークW1とワークW2との間が平行になるように調整された後、ワークW1とワークW2との距離を縮める、すなわちワークW2をワークW1の上に重ねるための制御が行われる((2)ワーク間接近動作)。ワーク間接近動作においては、搬送機構150がワークW2をワークW1に接近させるとともに、ステージ機構110Aのアクチュエータ2-1,2-2,2-3の変位を調整することで、ワークW1とワークW2との間を平行に維持する。
【0122】
ワークW1とワークW2とが接触する直前になると、衝撃緩和動作が開始される((3)衝撃緩和動作)。すなわち、コントローラ40は、アクチュエータ2にワークW2がワークW1に接触したことで生じる変位に基づいて、物理モデルを構成する。そして、コントローラ40は、アクチュエータ2が物理モデルに従う変位を生じるような制御指令を生成する。このように、ワークW2がワークW1と接触して荷重がアクチュエータ2に与えられると、アクチュエータ2は、上述したような物理モデルに従ったバネのように動作する。衝撃緩和動作によって、ワークW1とワークW2とが接触して生じる過大な荷重やポイントロードを回避できる。
【0123】
その後、所定の切替条件が満たされると、弾性力発生動作が開始される((4)弾性力発生動作)。すなわち、バネ定数Kとアクチュエータ2に生じている変位ΔXとの積に基づいて算出される駆動力を生じるような制御指令を生成する。弾性力発生動作によって、ワークW1とワークW2との間に押し付け力が発生し、ワークW1とワークW2との貼り付けが完了する。
【0124】
図17は、
図16に示す組立装置200における処理手順を示すフローチャートである。
図17に示す各ステップは、典型的には、コントローラ40のプロセッサ402が制御プログラム412を実行することで実現される。なお、プロセッサ402が制御プログラム412を実行する際に、処理の一部をシステムプログラム410が提供するライブラリなどを利用することもある。
【0125】
図17を参照して、処理開始が指示されると(ステップS100においてYES)、コントローラ40は、ステージ機構110A上にワークW1を配置する指示、および、搬送機構150にワークW2を吸着する指示を出力する(ステップS102)。そして、コントローラ40は、搬送機構150に吸着されたワークW2をワークW1に近付ける指示を出力する(ステップS104)とともに、平行維持動作を開始する。
【0126】
より具体的には、コントローラ40は、搬送機構150に吸着されたワークW2の傾きに基づいて、ワークW1とワークW2とが平行になるように、ステージ機構110Aのアクチュエータ2-1,2-2,2-3の変位を調整する(ステップS106)。このように、コントローラ40は、ワークW1と重ね合わせられるワークW2に応じて、ワークW1とワークW2とが平行になるようにステージ機構110Aに制御指令を与える。
【0127】
そして、コントローラ40は、ワークW1とワークW2との平行度合いに基づいて、ワーク間接近動作に切り替えるための切替条件が満たされたか否かを判断する(ステップS108)。切替条件が満たされていなければ(ステップS108においてNO)、ステップS106以下の処理が繰り返される。
【0128】
切替条件が満たされていれば(ステップS108においてYES)、コントローラ40は、ワークW1とワークW2とが平行に維持されるように、ステージ機構110Aのアクチュエータ2-1,2-2,2-3の変位を調整する(ステップS110)。そして、コントローラ40は、ワークW1とワークW2との間の距離に基づいて、衝撃緩和動作に切替するための切替条件が満たされたか否かを判断する(ステップS112)。切替条件が満たされていなければ(ステップS112においてNO)、ステップS110以下の処理が繰り返される。
【0129】
切替条件が満たされていれば(ステップS110においてYES)、コントローラ40は、衝撃緩和動作を開始する(ステップS114)。衝撃緩和動作においては、
図12のステップS2~S14に係る処理が実行される。
【0130】
そして、衝撃緩和動作から弾性力発生動作への切替条件が満たされると、コントローラ40は、弾性力発生動作を開始する(ステップS116)。弾性力発生動作においては、
図12のステップS20~S28に係る処理が実行される。
【0131】
ワークW1とワークW2との重ね合わせが完了すると、コントローラ40は、重ね合わされたワークW1およびワークW2を次工程に搬送するための指示を出力する(ステップS118)。以上によって、1回の処理が完了する。
【0132】
上述したように、本実施の形態に係る衝撃緩和動作および弾性力発生動作を含む一連の制御によって、ワーク間に発生する衝撃を緩和して、ワークに生じるダメージを軽減しつつ、ワーク間の面圧を均一にして押しつけることができる。これによって、不良品の発生を低減するとともに、より高い品質のワークを製造できる。
【0133】
<H.その他の実施の形態>
上述したように、本実施の形態に係るアクチュエータ2の制御(衝撃緩和動作および/または弾性力発生動作)は、搬送、重ね合わせ、張り合わせ、挿入といった、物体と物体との接触を含む任意のアプリケーションに適用可能である。
【0134】
また、本実施の形態に係るアクチュエータ2の衝撃緩和動作は、単体で、除振や振動抑制などのバネ機構やテンショナなどにも適用可能である。
【0135】
また、本実施の形態に係るアクチュエータ2の弾性力発生動作は、単体で、プレス装置などの任意の荷重を発生する機構に適用可能である。
【0136】
<I.利点>
本実施の形態によれば、アクチュエータが物理式に従う挙動をとるので、制御ロジックの構成や設備設計のためのシミュレーションを容易に行うことができる。また、実際の装置を構成した場合にも、事前の設計からのズレが少なくなる。
【0137】
なお、荷重および位置を制御する技術の一例として、インピーダンス制御およびアドミッタンス制御がある。
【0138】
インピーダンス制御は、目標位置およびインピーダンスが予め設定された状態で、荷重がアクチュエータに与えられると、目標位置に留まるようにアクチュエータの特性(軟らかさ)を調整する技術である。そのため、本実施の形態に係る衝撃緩和動作のような衝撃力を緩和するような制御を実現するものではなく、むしろより大きな衝撃力が発生することもある。また、インピーダンス制御においては、目標位置が与えられるため、本実施の形態に係る弾性力発生動作のように、発生する荷重を制御することはできない。
【0139】
アドミッタンス制御は、インピーダンスが予め設定された状態で、荷重がアクチュエータに与えられると、インピーダンスに基づいて動作速度(各制御周期における位置)が制御される。そのため、予め設定されたインピーダンスに基づく挙動しかできないので、本実施の形態に係る衝撃緩和動作のような衝撃力に応じて挙動を変化させることはできない。また、アドミッタンス制御は、荷重がアクチュエータに与えられたことで挙動を決定するので、本実施の形態に係る弾性力発生動作のように、発生する荷重を制御することはできない。
【0140】
以上のように、本実施の形態に係る衝撃緩和動作および弾性力発生動作は、インピーダンス制御およびアドミッタンス制御とは全く異なる制御である。
【0141】
<J.付記>
上述したような本実施の形態は、以下のような技術思想を含む。
【0142】
[構成1]
モータ(18)により駆動されて変位を生じるアクチュエータ(2)と、
前記モータを駆動するドライバ(42)と、
前記ドライバに制御指令を与えるコントローラ(40)とを備え、
前記コントローラは、
バネ定数を決定する決定部(430)と、
前記バネ定数と前記アクチュエータに生じている変位との積に基づいて算出される駆動力を生じるように、前記制御指令を生成する指令生成部(428)とを含む、駆動システム。
【0143】
[構成2]
前記決定部は、制御周期毎にバネ定数を設定する、構成1に記載の駆動システム。
【0144】
[構成3]
前記決定部は、予め定められたパターンに従って、制御周期毎のバネ定数を設定する、構成2に記載の駆動システム。
【0145】
[構成4]
前記モータと機械的に接続されて、前記アクチュエータの変位を検出するエンコーダ(20)をさらに備える、構成1~3のいずれか1項に記載の駆動システム。
【0146】
[構成5]
前記コントローラは、前記アクチュエータに生じている変位を算出する算出部(432)をさらに含む、構成1~4のいずれか1項に駆動システム。
【0147】
[構成6]
前記算出部は、前記アクチュエータに物体(114)が取り付けられた状態を基準とした変位を算出する、構成5に記載の駆動システム。
【0148】
[構成7]
前記指令生成部は、前記モータが発生すべきトルクを指定するトルク指令を前記制御指令として出力する、構成1~6のいずれか1項に記載の駆動システム。
【0149】
[構成8]
前記駆動システムは、共通の部材と機械的に接続された複数の前記アクチュエータを備えており、
前記コントローラは、前記共通の部材から目的の荷重が生じるように、前記複数のアクチュエータに対するそれぞれの制御指令を生成する、構成1~7のいずれか1項に記載の駆動システム。
【0150】
[構成9]
モータ(18)により駆動されて変位を生じるアクチュエータ(2)の制御方法であって、
バネ定数を決定するステップ(S20)と、
前記バネ定数と前記アクチュエータに生じている変位との積に基づいて算出される駆動力を生じるように、前記モータを制御するステップ(S22,S24,S26,S28)とを備える、制御方法。
【0151】
[構成10]
モータ(18)により駆動されて変位を生じるアクチュエータ(2)を制御するための制御プログラム(412)であって、前記制御プログラムはコンピュータ(40)に、
バネ定数を決定するステップ(S20)と、
前記バネ定数と前記アクチュエータに生じている変位との積に基づいて算出される駆動力を生じるように、前記モータを制御するステップ(S22,S24,S26,S28)とを実行させる、制御プログラム。
【0152】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0153】
1 駆動システム、2 アクチュエータ、4 駆動装置、10 本体部、12 ロッド、14 先端部、16 連結部材、18 モータ、20 エンコーダ、40 コントローラ、42 ドライバ、50 自然長状態、52 つり合い状態、54 荷重平衡状態、100 ワーク搬送システム、110,110A ステージ機構、112 ベース部、114,154 プレート、118 回転部材、120 ロボット、122 エンドエフェクタ、150 搬送機構、152 支持柱、200 組立装置、402 プロセッサ、404 主メモリ、406 入出力部、408 ストレージ、410 システムプログラム、412 制御プログラム、420 物理モデル、422 特性推定部、424 角周波数設定部、426 位置指令生成部、428 荷重指令生成部、430 バネ定数変更部、432 変位算出部、434 選択部、436 切替条件、W,W1,W2 ワーク。