(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】車両用冷却システム
(51)【国際特許分類】
B60W 10/30 20060101AFI20250708BHJP
F01P 3/20 20060101ALI20250708BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20250708BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20250708BHJP
B60W 20/40 20160101ALI20250708BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20250708BHJP
B60K 11/04 20060101ALI20250708BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20250708BHJP
【FI】
B60W10/30 900
F01P3/20 G
B60K6/48
B60K6/54
B60W20/40
B60W20/00
B60K11/04 H
F16H57/04 G
(21)【出願番号】P 2021121912
(22)【出願日】2021-07-26
【審査請求日】2024-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼畑 学之
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-143961(JP,A)
【文献】特開2012-162132(JP,A)
【文献】特開2014-3754(JP,A)
【文献】特開2019-81501(JP,A)
【文献】特開2019-129632(JP,A)
【文献】特開2021-8843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
F01P 3/20
B60K 11/04
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機を内蔵するトランスミッションを備え、
少なくともエンジンを駆動力源として用いて走行するエンジン走行モードと、前記エンジンを駆動力源として用いずに前記電動機を駆動力源として用いて走行するEV走行モードと、を走行モードとして有するハイブリッド車両に搭載され、
前記エンジンを駆動力源として作動する第1ウォータポンプを備え、前記エンジンを少なくとも冷却する冷却水が循環する高温冷却水循環回路と、
電気により作動する第2ウォータポンプを備え、前記電動機に電気的に接続されたインバータを少なくとも冷却し、前記高温冷却水循環回路を循環する冷却水よりも低温の冷却水が循環する低温冷却水循環回路と、を備える車両用冷却システムであって、
前記トランスミッションのトランスミッションオイルを冷却するオイルクーラへの冷却水の供給状態を切り替える冷却回路切替部と、
前記走行モードに基づいて前記冷却回路切替部を制御する制御部と、を備えることを特徴とする車両用冷却システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記走行モードと前記トランスミッションオイルのオイル温度と前記エンジンの水温とに基づいて前記冷却回路切替部を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用冷却システム。
【請求項3】
前記冷却回路切替部は、
前記低温冷却水循環回路の冷却水を前記オイルクーラに供給する第1状態と、
前記高温冷却水循環回路の冷却水および前記低温冷却水循環回路の冷却水を前記オイルクーラに供給しない第2状態と、
前記高温冷却水循環回路の冷却水を前記オイルクーラに供給する第3状態と、の何れかの供給状態に切替えられることを特徴とする請求項2に記載の車両用冷却システム。
【請求項4】
前記制御部は、現在の前記走行モードが前記EV走行モードであって、かつ、前記トランスミッションオイルのオイル温度が第1閾値以上である場合、前記エンジン走行モードに移行して、前記第3状態に切替えるように前記冷却回路切替部を制御することを特徴とする請求項3に記載の車両用冷却システム。
【請求項5】
前記高温冷却水循環回路は、冷却水との熱交換により車室内を暖房するヒータコアを備え、
前記冷却回路切替部は、前記低温冷却水循環回路の冷却水を前記オイルクーラおよび前記ヒータコアに供給する第4状態を有し、
前記制御部は、暖房要求があり、かつ、現在の前記走行モードが前記EV走行モードであり、かつ、前記オイル温度が前記第1閾値未満で、かつ、前記第1閾値よりも低い第2閾値以上である場合、前記第4状態に切替えるように前記冷却回路切替部を制御することを特徴とする請求項4に記載の車両用冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1冷却系統と、第1の冷却対象よりも低温の第2の冷却対象に冷却水を循環させる第2冷却系統と、変速機のオイルと第1冷却系統の冷却水との熱交換を行う第1熱交換器と、オイルと第2冷却系統の冷却水との熱交換を行う第2熱交換器と、を備える車両用冷却装置が記載されている。この車両用冷却装置は、油温が所定油温以下である場合、熱交換を行わせず、油温が所定油温よりも高く、かつ第2冷却系統の冷却水温が所定水温よりも高い場合、第1熱交換器によって熱交換を行わせ、油温が所定油温よりも高く、かつ第2冷却系統の冷却水温が所定水温以下である場合、両方の熱交換器によって熱交換を行わせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、エンジンと電動機とを備えるハイブリッド車両は、少なくともエンジンを駆動力源として用いて走行するエンジン走行モードと、エンジンを駆動力源として用いずに電動機を駆動力源として用いて走行するEV走行モードと、に切り替えが行われる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術を、電動機がトランスミッションに内蔵されたハイブリッド車両に適用した場合、電動機を内蔵するトランスミッションを適切に冷却できないという問題があった。すなわち、電動機用のインバータとトランスミッションとを共通の低温冷却系統により冷却するようにした場合、インバータの管理温度の影響を受けることによってトランスミッションが適正温度よりも低温に冷却されてしまったり、トランスミッションの高温時に放熱器の放熱量が不足してしまったりすることがあった。また、トランスミッションを高温冷却系統により冷却するようにした場合、高温冷却系統のウォータポンプが停止している状態ではトランスミッションに冷却水を供給できなかった。
【0006】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、電動機を内蔵するトランスミッションを適切に冷却できる車両用冷却システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電動機を内蔵するトランスミッションを備え、少なくともエンジンを駆動力源として用いて走行するエンジン走行モードと、前記エンジンを駆動力源として用いずに前記電動機を駆動力源として用いて走行するEV走行モードと、を走行モードとして有するハイブリッド車両に搭載され、前記エンジンを駆動力源として作動する第1ウォータポンプを備え、前記エンジンを少なくとも冷却する冷却水が循環する高温冷却水循環回路と、電気により作動する第2ウォータポンプを備え、前記電動機に電気的に接続されたインバータを少なくとも冷却し、前記高温冷却水循環回路を循環する冷却水よりも低温の冷却水が循環する低温冷却水循環回路と、を備える車両用冷却システムであって、前記トランスミッションのトランスミッションオイルを冷却するオイルクーラへの冷却水の供給状態を切り替える冷却回路切替部と、前記走行モードに基づいて前記冷却回路切替部を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように上記の本発明によれば、電動機を内蔵するトランスミッションを適切に冷却できる車両用冷却システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る車両用冷却システムを備える車両の構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係る車両用冷却システムの第1状態における冷却水の流れを示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係る車両用冷却システムの第2状態における冷却水の流れを示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例に係る車両用冷却システムの第3状態における冷却水の流れを示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施例に係る車両用冷却システムの、暖房要求のない場合の温度状態および走行モードに対する冷却回路切替部の制御状態を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例に係る車両用冷却システムの第4状態における冷却水の流れを示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施例に係る車両用冷却システムの、暖房要求のある場合の温度状態および走行モードに対する冷却回路切替部の制御状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係る車両用冷却システムは、電動機を内蔵するトランスミッションを備え、少なくともエンジンを駆動力源として用いて走行するエンジン走行モードと、エンジンを駆動力源として用いずに電動機を駆動力源として用いて走行するEV走行モードと、を走行モードとして有するハイブリッド車両に搭載され、エンジンを駆動力源として作動する第1ウォータポンプを備え、エンジンを少なくとも冷却する冷却水が循環する高温冷却水循環回路と、電気により作動する第2ウォータポンプを備え、電動機に電気的に接続されたインバータを少なくとも冷却し、高温冷却水循環回路を循環する冷却水よりも低温の冷却水が循環する低温冷却水循環回路と、を備える車両用冷却システムであって、トランスミッションのトランスミッションオイルを冷却するオイルクーラへの冷却水の供給状態を切り替える冷却回路切替部と、走行モードに基づいて冷却回路切替部を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両用冷却システムは、電動機を内蔵するトランスミッションを適切に冷却できる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明の一実施例に係る車両用冷却システムについて図面を用いて説明する。
図1から
図7は、本発明の一実施例に係る車両用冷却システムを示す図である。
【0012】
まず、構成を説明する。
図1において、車両1は、エンジン(図中、ENGと記す)2と、トランスミッション(図中、T/Mと記す)3と、電動機(図中、MGUと記す)4と、を備えている。
【0013】
エンジン2は、ガソリンまたはディーゼル燃料を用いる内燃機関型のエンジンであり、走行用の駆動力(エンジントルク)を発生する。エンジン2の内部には冷却水が流通する図示しないウォータジャケットが設けられている。
【0014】
トランスミッション3は、エンジン2に連結されており、エンジン2の発生する駆動力(エンジントルク)が伝達される。トランスミッション3は、図示しない変速機構を備えており、エンジン2から伝達された回転を変速機構によって変速し、図示しない駆動輪に伝達する。
【0015】
電動機4は、インバータ5を介して図示しないバッテリと電気的に接続されている。電動機4は、トランスミッション3における変速機構の後段の部分に内蔵されている。電動機4の発生する走行用の駆動力(電動機トルク)は、トランスミッション3の変速機構を介さずに駆動輪に伝達される。
【0016】
電動機4にはオイルクーラ(図中、O/Cと記す)4Aが設けられており、オイルクーラ4Aは、電動機4の内部を流通するトランスミッションオイルを、冷却水との熱交換により冷却する。
【0017】
車両1は、1つのラジエータ50を備えている。ラジエータ50は、走行風との熱交換により冷却水を冷却する。ラジエータ50は、エンジン2から取り込んだ相対的に高温の冷却水を冷却する高温部50Hと、オイルクーラ4Aから取り込んだ相対的に低温の冷却水を冷却する低温部50Lと、を備えている。
【0018】
車両1はエンジン冷却水循環回路21を備えている。エンジン冷却水循環回路21は、エンジン2とラジエータ50とを接続しており、エンジン2とラジエータ50との間で冷却水を循環させる。ラジエータ50は、エンジン冷却水循環回路21を循環する冷却水を冷却する。
【0019】
エンジン冷却水循環回路21は、エンジン2からラジエータ50に冷却水を送る送り通路21Aを備えており、送り通路21Aはラジエータ50に接続されている。
【0020】
エンジン冷却水循環回路21は、ラジエータ50により冷却された冷却水をエンジン2に戻す戻し通路21Bを備えており、戻し通路21Bはラジエータ50に接続されている。
【0021】
車両1は、エンジン2を駆動力源として作動する機械式のウォータポンプ(図中、WPと記す)32を備えている。ウォータポンプ32の図示しないプーリーは、エンジン2の図示しないクランクプーリーに対して図示しないファンベルトを介して連結されており、ウォータポンプ32は、エンジン2の回転から得た動力により冷却水を強制的に循環させる。ウォータポンプ32は本発明における第1ウォータポンプを構成する。ウォータポンプ32は、戻し通路21Bのエンジン2側の端部に設けられており、エンジン2によって駆動されることで、戻し通路21Bから吸引した冷却水をエンジン2に送る。
【0022】
エンジン2と送り通路21Aの間にはサーモスタット33が設けられている。サーモスタット33は、冷却水の温度が所定温度より低いときは閉弁し、エンジン冷却水循環回路21における冷却水の循環を阻止する。サーモスタット33は、冷却水の温度が所定温度より高くなると開弁し、エンジン冷却水循環回路21における冷却水の循環を許容する。すなわち、サーモスタット33が開弁している時は、ウォータポンプ32によってエンジン2に送られた冷却水は、エンジン2を冷却した後にエンジン2から排出される。そして、冷却水は、送り通路21Aを通ってラジエータ50に導入され、ラジエータ50において冷却された後、戻し通路21Bを通ってウォータポンプ32に戻される。
【0023】
車両1は高温冷却水循環回路22を備えている。高温冷却水循環回路22は、エンジン2を少なくとも冷却する冷却水が循環する。エンジン2には高温冷却水循環回路22を介してヒータコア31およびEGRクーラ30が接続されている。ヒータコア31はエンジン2から導入された高温の冷却水との熱交換により、図示しない車室を暖房する。EGRクーラ30は、エンジン2から排出された排気ガスを冷却水との熱交換により冷却する。EGRクーラ30により冷却された排気ガスはエンジン2の吸気経路に送られる。
【0024】
高温冷却水循環回路22は、エンジン2からヒータコア31に冷却水を送る送り通路22Aと、エンジン2からEGRクーラ30に冷却水を送る送り通路22Bと、ヒータコア31およびEGRクーラ30から冷却水をエンジン2に戻す戻し通路22Cとを有している。
【0025】
戻し通路22Cは、ヒータコア31からの冷却水とEGRクーラ30からの冷却水とを合流させるように集合している。送り通路22A、22Bの上流端は、サーモスタット33を介せずにエンジン2に接続されている。戻し通路22Cの下流端は、ウォータポンプ32の吸引側に接続されている。したがって、エンジン2の運転中は、サーモスタット33の閉弁または開弁に関わらず、高温冷却水循環回路22を冷却水が常に循環する。
【0026】
車両1は、低温冷却水循環回路23を備えている。低温冷却水循環回路23は、高温冷却水循環回路22を循環する冷却水よりも低温の冷却水が循環する。オイルクーラ4Aは、低温冷却水循環回路23を介してラジエータ50に接続されている。ラジエータ50は、低温冷却水循環回路23を循環する冷却水を冷却する。
【0027】
低温冷却水循環回路23は、オイルクーラ4Aからラジエータ50に冷却水を送る送り通路23Aと、ラジエータ50からオイルクーラ4Aに冷却水を戻す戻し通路23Bとを有している。戻し通路23Bには、電気により作動する電動ウォータポンプ(図中、EWPと記す)37と、インバータ(図中、INVと記す)5とが設けられている。電動ウォータポンプ37は本発明における第2ウォータポンプを構成する。低温冷却水循環回路23を循環する冷却水は、オイルクーラ4Aのオイルとインバータ5とを冷却する。
【0028】
したがって、低温冷却水循環回路23は、オイルクーラ4Aおよびインバータ5と、ラジエータ50との間で冷却水が循環する。低温冷却水循環回路23を循環する冷却水は、高温冷却水循環回路22を循環する冷却水よりも低温である。
【0029】
ラジエータ50には、エンジン冷却水循環回路21のラジエータ50への入口51Aと、低温冷却水循環回路23のラジエータ50への入口51Bとが形成されている。
【0030】
ラジエータ50には、エンジン冷却水循環回路21に対するラジエータ50の出口52Aと、低温冷却水循環回路23に対するラジエータ50の出口52Bとが形成されている。
【0031】
車両1は制御部10を備えている。制御部10は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されるECU(Electronic Control Unit)として構成されている。
【0032】
制御部10のROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを制御部10として機能させるためのプログラムが格納されている。制御部10は、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより目的の動作を達成する。
【0033】
制御部10は、少なくともエンジン2を駆動力源として用いて走行するエンジン走行モードと、エンジン2を駆動力源として用いずに電動機4を駆動力源として用いて走行するEV走行モードと、の何れかに走行モードを切替える。エンジン走行モードには、エンジン2を駆動力源として用いて走行する状態と、エンジン2および電動機4の両方を駆動力源として用いて走行する状態とがある。
【0034】
車両1は、冷却回路切替部40を備えている。冷却回路切替部40は、制御部10による制御によって、オイルクーラ4Aへの冷却水の供給状態を切り替える。冷却回路切替部40は、オイルクーラ4Aと低温冷却水循環回路23との間に設けられている。
【0035】
冷却回路切替部40は、連通通路24Aにより、高温冷却水循環回路22のヒータコア31への送り通路22Aと接続されている。冷却回路切替部40は、連通通路24Bにより、高温冷却水循環回路22のヒータコア31からの戻し通路22Cと接続されている。
【0036】
詳しくは、冷却回路切替部40には、冷却水の経路を切替えるバルブ41、42と、冷却水が通過する通路43、44、45が設けられている。通路43は、オイルクーラ4Aの冷却水出口とバルブ42とを接続している。通路44は、戻し通路23Bを介してインバータ5とバルブ41、42とを接続している。通路45は、オイルクーラ4Aの冷却水入口とバルブ41とを接続している。
【0037】
冷却回路切替部40は、低温冷却水循環回路23の冷却水をオイルクーラ4Aに供給する第1状態と、高温冷却水循環回路22の冷却水および低温冷却水循環回路23の冷却水をオイルクーラ4Aに供給しない第2状態と、高温冷却水循環回路22の冷却水をオイルクーラ4Aに供給する第3状態と、を有している。
【0038】
また、冷却回路切替部40は、低温冷却水循環回路23の冷却水をオイルクーラ4Aおよびヒータコア31に供給する第4状態を有している。冷却回路切替部40は、第1状態、第2状態、第3状態または第4状態の何れかの供給状態に切替えられる。
【0039】
このように、冷却回路切替部40は、高温冷却水循環回路22または低温冷却水循環回路23の少なくとも一方からオイルクーラ4Aに冷却水が供給される状態として、第1状態、第3状態、第4状態を有している。冷却回路切替部40は、オイルクーラ4Aに冷却水が供給されない状態として第2状態を有している。
【0040】
図2に示すように、冷却回路切替部40が第1状態のときは、低温冷却水循環回路23の送り通路23Aおよび戻し通路23Bが、冷却回路切替部40を介してオイルクーラ4Aに連通している。このため、第1状態において、低温冷却水循環回路23の冷却水は、オイルクーラ4Aの側に供給される。
【0041】
図3に示すように、冷却回路切替部40が第2状態のときは、冷却回路切替部40は低温冷却水循環回路23からオイルクーラ4Aを切り離している。第2状態では、低温冷却水循環回路23は、インバータ5、電動ウォータポンプ37、ラジエータ50の低温部50Lを循環する。
【0042】
このため、第2状態において、低温冷却水循環回路23の冷却水はオイルクーラ4Aに供給されない。また、第2状態では、連通通路24A、24Bがバルブ41、42により閉じられるため、高温冷却水循環回路22の冷却水はオイルクーラ4Aに供給されない。
【0043】
図4に示すように、冷却回路切替部40が第3状態のときは、冷却回路切替部40は低温冷却水循環回路23からオイルクーラ4Aを切り離している。第3状態では、低温冷却水循環回路23は、インバータ5、電動ウォータポンプ37、ラジエータ50の低温部50Lを循環する。
【0044】
このため、第3状態において、低温冷却水循環回路23の冷却水はオイルクーラ4Aに供給されない。また、第3状態では、冷却回路切替部40の通路45と高温冷却水循環回路22の送り通路22Aとが連通通路24Aを介して連通し、冷却回路切替部40の通路43と高温冷却水循環回路22の戻し通路22Cとが連通通路24Bを介して連通する。このため、高温冷却水循環回路22の冷却水がオイルクーラ4Aに供給される。
【0045】
図6に示すように、冷却回路切替部40が第4状態のときは、低温冷却水循環回路23の送り通路23Aおよび戻し通路23Bが、冷却回路切替部40を介してオイルクーラ4Aに連通している。
【0046】
このため、第4状態において、低温冷却水循環回路23の冷却水は、オイルクーラ4Aの側に供給される。また、この第4状態のときは、低温冷却水循環回路23の冷却水は、連通通路24Aによってヒータコア31に供給され、連通通路24Bによってヒータコア31から戻される。このため、低温冷却水循環回路23の冷却水がオイルクーラ4Aおよびヒータコア31に供給される。
【0047】
ここで、ウォータポンプ32は、エンジン2が停止している状態では、冷却水を循環させることができない。したがって、EV走行モードでは、エンジン2が停止状態であり、高温冷却水循環回路22を冷却水が循環しないため、高温冷却水循環回路22の冷却水によってトランスミッションオイルを冷却することはできない。一方、電動ウォータポンプ37は、電力により作動するため、EV走行モードでも駆動可能である。つまり、EV走行モードであっても、低温冷却水循環回路23内を循環する冷却水を用いてトランスミッションオイルを冷却することが可能である。
【0048】
制御部10は、走行モードに基づいて冷却回路切替部40を制御する。詳しくは、制御部10は、走行モードとトランスミッションオイルのオイル温度(以下、油温ともいう)とエンジンの水温とに基づいて冷却回路切替部40を制御する。
【0049】
図5、
図7は、温度状態および走行モードに対する冷却回路切替部40の制御状態を示す。
図5は、暖房要求のない場合の制御状態であり、
図7は、暖房要求のある場合の制御状態である。暖房要求とは、ヒータコア31を通過する温水によって車室を暖房する要求である。
【0050】
図5、
図7において、TWcは、エンジン水温に係る閾値であり、エンジン2の廃熱をトランスミッション3の暖機に利用してもよい下限水温である。TOc1は、電動機4の冷却に対して許容できる温度であって、トランスミッション3のオイル温度をさらに上昇させようとする場合の上限油温である。TOc2は、低温冷却水循環回路23の冷却水の温度との温度差が許容できないとするトランスミッション3のオイル温度の下限油温である。
【0051】
図5に基づいて、まず、エンジン水温<TWcの場合について説明する。トランスミッションオイルの油温(図中、トランスミッション油温と記す)が、油温<TOc1の場合は、エンジン走行モードおよびEV走行モードの何れのときも第2状態が選択される。油温≧TOc1、かつ油温<TOc2の場合は、エンジン走行モードでは第3状態が選択され、EV走行モードでは第1状態が選択される。油温≧TOc2の場合は、エンジン走行モードでは第3状態が選択され、EV走行モードではエンジン走行へ移行して第3状態にすることが選択される。
【0052】
次に、エンジン水温≧TWcの場合について、上記のエンジン水温<TWcの場合と異なる部分を説明する。油温<TOc1の場合は、エンジン走行モードでは第3状態が選択される。その他の場合は、
図5のエンジン水温<TWcの場合と同じである。
【0053】
図7に基づいて、まず、エンジン水温<TWcの場合について説明する。トランスミッションオイルの油温(図中、トランスミッション油温と記す)が、油温<TOc1の場合は、エンジン走行モードおよびEV走行モードの何れのときも第2状態が選択される。油温≧TOc1、かつ油温<TOc2の場合は、エンジン走行モードでは第3状態が選択され、EV走行モードでは第4状態が選択される。油温≧TOc2の場合は、エンジン走行モードでは第3状態が選択され、EV走行モードではエンジン走行へ移行して第3状態にすることが選択される。
【0054】
次に、エンジン水温≧TWcの場合について、上記のエンジン水温<TWcの場合と異なる部分を説明する。油温<TOc1の場合は、エンジン走行モードでは第3状態が選択される。その他の場合は、
図7のエンジン水温<TWcの場合と同じである。
【0055】
ここで、低温冷却水循環回路23の放熱器であるラジエータ50の低温部50Lの放熱性能を下げた場合、トランスミッションオイルのオイル温度がTOc2以上である場合に、低温冷却水循環回路23でトランスミッションオイルを冷却すると、インバータ5の管理温度を超えてしまう。高温冷却水循環回路22の許容温度は低温冷却水循環回路23の許容温度よりも高い。そのため、トランスミッションオイルのオイル温度がTOc2以上である場合、高温冷却水循環回路22によりトランスミッションオイルを冷却できるようにすることが望ましい。
【0056】
そこで、制御部10は、現在の走行モードがEV走行モードであって、かつ、トランスミッションオイルのオイル温度が第1閾値としてのTOc2以上である場合、エンジン走行モードに移行して、第3状態に切替えるように冷却回路切替部40を制御する。
【0057】
制御部10は、暖房要求があり、かつ、現在の走行モードがEV走行モードであり、かつ、オイル温度がTOc2未満で、かつ、TOc2よりも低い第2閾値としてのTOc1以上である場合、第4状態に切替えるように冷却回路切替部40を制御する。
【0058】
以上説明したように、本実施例の車両用冷却システムは、トランスミッション3のトランスミッションオイルを冷却するオイルクーラ4Aへの冷却水の供給状態を切り替える冷却回路切替部40と、走行モードに基づいて冷却回路切替部40を制御する制御部10と、を備える。
【0059】
これにより、走行モードに基づいて冷却回路切替部40が制御されるので、走行モードに応じて低温冷却水循環回路23または高温冷却水循環回路22の少なくとも一方からオイルクーラ4Aへ冷却水を供給し得る。このため、電動機4を内蔵するトランスミッション3を適切に冷却できる。
【0060】
また、本実施例の車両用冷却システムにおいて、制御部10は、走行モードとトランスミッションオイルのオイル温度とエンジンの水温とに基づいて冷却回路切替部40を制御する。
【0061】
これにより、走行モードとトランスミッションオイルのオイル温度とエンジン水温とに基づいて、トランスミッションオイルを冷却する冷却回路を切り替える冷却回路切替部40を制御するため、電動機を内蔵するトランスミッション3を適切に冷却することができる。
【0062】
また、本実施例の車両用冷却システムにおいて、冷却回路切替部40は、低温冷却水循環回路23の冷却水をオイルクーラ4Aに供給する第1状態と、高温冷却水循環回路22の冷却水および低温冷却水循環回路23の冷却水をオイルクーラ4Aに供給しない第2状態と、高温冷却水循環回路22の冷却水をオイルクーラ4Aに供給する第3状態と、の何れかの供給状態に切替えられる。
【0063】
これにより、EV走行モードにおいてトランスミッションオイルの温度が低い場合は、冷却回路切替部40を第2状態とし、低温冷却水循環回路23からトランスミッションオイルを冷却する冷却水の供給を停止することで、インバータ5の管理温度の影響を避けてトランスミッション3を過度に冷却しないようにすることができる。このため、トランスミッション3の伝達効率の悪化を抑制することができる。
【0064】
また、エンジン走行モードにおいてエンジン2の水温が低くトランスミッションオイルのオイル温度が低い場合にも、冷却回路切替部40を第2状態とし、低温冷却水循環回路23からトランスミッションオイルを冷却する冷却水の供給を停止することで、トランスミッション3を冷却しないようにすることができる。このため、トランスミッション3の伝達効率の悪化を抑制することができる。
【0065】
また、本実施例の車両用冷却システムにおいて、制御部10は、現在の走行モードがEV走行モードであって、かつ、トランスミッションオイルのオイル温度が第1閾値としてのTOc2以上である場合、エンジン走行モードに移行して、第3状態に切替えるように冷却回路切替部40を制御する。
【0066】
これにより、低温冷却水循環回路23の放熱器であるラジエータ50の低温部50Lの放熱性能を下げた場合であっても、トランスミッションオイルのオイル温度が高温の時のインバータの管理温度を満たすことができる。
【0067】
また、本実施例の車両用冷却システムにおいて、高温冷却水循環回路22は、冷却水との熱交換により車室内を暖房するヒータコア31を備えている。また、冷却回路切替部40は、低温冷却水循環回路23の冷却水をオイルクーラ4Aおよびヒータコア31に供給する第4状態を有している。そして、制御部10は、暖房要求があり、かつ、現在の走行モードがEV走行モードであり、かつ、オイル温度が第1閾値としてのTOc2未満で、かつ、TOc2よりも低い第2閾値としてのTOc1以上である場合、第4状態に切替えるように冷却回路切替部40を制御する。
【0068】
これにより、エンジン2を熱源として利用できないEV走行モードにおいても、オイル温度が第1閾値としてのTOc2未満で、かつ、TOc2よりも低い第2閾値としてのTOc1以上であることを条件に、オイルクーラ4Aにより暖められた温水をヒータコア31に供給して車室内を暖房することが可能になる。このため、車室内の暖房のためにPTCヒータ等の電気式ヒータを備えたり、エンジン2を運転したりすることが不要となるので、燃費を向上させることができる。
【0069】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0070】
1...車両
2...エンジン
3...トランスミッション
4...電動機
4A...オイルクーラ
5...インバータ
10...制御部
22...高温冷却水循環回路
23...低温冷却水循環回路
31...ヒータコア
32...ウォータポンプ(第1ウォータポンプ)
37...電動ウォータポンプ(第2ウォータポンプ)
40...冷却回路切替部
TOc1...第2閾値
TOc2 ...第1閾値