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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】化学反応装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/08 20060101AFI20250708BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20250708BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20250708BHJP
   C25B 9/17 20210101ALI20250708BHJP
   C25B 9/60 20210101ALI20250708BHJP
   C25B 9/70 20210101ALI20250708BHJP
   C25B 3/26 20210101ALN20250708BHJP
【FI】
C25B15/08 302
C25B1/02
C25B9/00 Z
C25B9/17
C25B9/60
C25B9/70
C25B3/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021146054
(22)【出願日】2021-09-08
(65)【公開番号】P2023039080
(43)【公開日】2023-03-20
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】竹田 康彦
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-189929(JP,A)
【文献】特開2021-063267(JP,A)
【文献】特開2017-089010(JP,A)
【文献】特開2021-063268(JP,A)
【文献】特開2016-174982(JP,A)
【文献】実開昭53-083536(JP,U)
【文献】実公昭49-033701(JP,Y1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0262759(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に配置された電極間に液体を供給し、前記液体に含まれる物質を反応させる化学反応装置であって、
前記容器には、前記反応によって生ずる気体を排出させる排気口とは別に前記液体を排出するための円形の排出口が1つ以上設けられており、
前記排出口は鉛直方向において前記排気口より低い位置に設けられ、前記液体の液面は前記排気口より低い位置にあり、
前記電極の反応面において前記液体の流れを整える整流板を備え、
鉛直方向における前記反応面の上端の各箇所と、当該各箇所から最短距離にある前記排出口の縁を結んだ線と、鉛直方向の沿った線とがなす角度の最大値が30°以上84°以下であり、
前記反応面の上端から前記排出口の縁までの高さが前記排出口の直径以上であることを特徴とする化学反応装置。
【請求項2】
容器内に配置された電極間に液体を供給し、前記液体に含まれる物質を反応させる化学反応装置であって、
前記容器には、前記反応によって生ずる気体を排出させる排気口とは別に前記液体を排出するための円形の排出口が1つ以上設けられており、
前記排出口は鉛直方向において前記排気口より低い位置に設けられ、前記液体の液面は前記排気口より低い位置にあり、
前記電極の反応面において前記液体の流れを整える整流板を備え、
鉛直方向における前記反応面の上端の各箇所と、当該各箇所から最短距離にある前記排出口の縁を結んだ線と、鉛直方向の沿った線とがなす角度の最大値が30°以上70°以下であり、
前記反応面の上端から前記排出口の縁までの高さが前記排出口の直径の1.6倍以上であることを特徴とする化学反応装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化学反応装置であって、
前記電極は、還元反応用電極と酸化反応用電極であり、
前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極とが離間して対向する位置に配置されていることを特徴とする化学反応装置。
【請求項4】
請求項3に記載の化学反応装置であって、
前記液体は電解液であり、
前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極の少なくとも一方における反応に伴って前記気体が発生することを特徴とする化学反応装置。
【請求項5】
請求項4に記載の化学反応装置であって、
前記物質は、二酸化炭素(CO)であり、
前記還元反応用電極において二酸化炭素(CO)が還元され、前記酸化反応用電極において酸素(O)が発生することを特徴とする化学反応装置。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項に記載の化学反応装置であって、
複数の前記還元反応用電極と複数の前記酸化反応用電極が交互に積層されていることを特徴とする化学反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
容器内に還元反応用電極と酸化反応用電極とを離間させて対向させ、還元反応用電極と酸化反応用電極との間に電解液を流通させることで、電解液に含有される物質(反応基質)を化学反応させる化学反応装置が開示されている(特許文献1)。また、複数の光電気化学反応セルのユニットを直列及び並列に接続した構成が開示されている(特許文献2)。
【0003】
ところで、化学反応装置における反応効率を向上させるためには、対向配置された還元反応用電極と酸化反応用電極との間において電解液の逆流を防ぎ、電解液の流れをできるだけ均一化することが要求される。そこで、このような化学反応装置において、電解液の流れを均一化するために、反応によって生ずる気体を容器から排出させる排気口と、排気口とは別に液体を容器から排出させる越流口とを備え、越流口は鉛直方向に沿って排気口よりも低い位置に配置されている構成が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-087074号公報
【文献】特開2017-048442号公報
【文献】特開2021-062339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来技術では電解液の流れに対する電解液の排出口の数や配置の影響について充分に考慮した構成は示されていなかった。そこで、複数の排出口を適切な位置に設けることによって流れを均一化させることが求められている。
【0006】
また、電解液の排出口の数が増加すると、各排出口に接続される配管等の周辺部品の点数も多くなり、化学反応装置の製造コストが増大するため、排出口の数はできるだけ少なくすることが好ましい。
【0007】
さらに、還元反応用電極と酸化反応用電極における反応面積を大きくするためには化学反応装置の高さを充分に確保することが必要であるが、高さを必要以上に高くすると装置の大型化につながる。化学反応装置の大型化を避けるためには、電解液の排出口を還元反応用電極及び酸化反応用電極の上端に近づけることが好ましい。しかしながら、従来技術では電解液の流れに対する電解液の排出口の数や配置の影響について充分に考慮されておらず、電解液の排出口を還元反応用電極及び酸化反応用電極の上端にどの程度まで近づけることができるかについて最適化されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、容器内に配置された電極間に液体を供給し、前記液体に含まれる物質を反応させる化学反応装置であって、前記容器には、前記反応によって生ずる気体を排出させる排気口とは別に前記液体を排出するための排出口が1つ以上設けられており、前記排出口は鉛直方向において前記排気口より低い位置に設けられ、前記液体の液面は前記排気口より低い位置にあり、前記電極の反応面において前記液体の流れを整える整流板を備え、鉛直方向における前記反応面の上端の各箇所と、当該各箇所から最短距離にある前記排出口の縁を結んだ線と、鉛直方向の沿った線とがなす角度の最大値が30°以上84°以下であり、前記反応面の上端から前記排出口の縁までの高さが前記排出口の直径以上であることを特徴とする化学反応装置である。
【0009】
本発明の別の態様は、容器内に配置された電極間に液体を供給し、前記液体に含まれる物質を反応させる化学反応装置であって、前記容器には、前記反応によって生ずる気体を排出させる排気口とは別に前記液体を排出するための排出口が1つ以上設けられており、前記排出口は鉛直方向において前記排気口より低い位置に設けられ、前記液体の液面は前記排気口より低い位置にあり、前記電極の反応面において前記液体の流れを整える整流板を備え、鉛直方向における前記反応面の上端の各箇所と、当該各箇所から最短距離にある前記排出口の縁を結んだ線と、鉛直方向の沿った線とがなす角度の最大値が30°以上70°以下であり、前記反応面の上端から前記排出口の縁までの高さが前記排出口の直径の1.6倍以上であることを特徴とする化学反応装置である。
【0010】
ここで、前記電極は、還元反応用電極と酸化反応用電極であり、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極とが離間して対向する位置に配置されていることが好適である。
【0011】
また、前記液体は電解液であり、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極の少なくとも一方における反応に伴って前記気体が発生することが好適である。また、前記物質は、二酸化炭素(CO)であり、前記還元反応用電極において二酸化炭素(CO)が還元され、前記酸化反応用電極において酸素(O)が発生することが好適である。
【0012】
また、複数の前記還元反応用電極と複数の前記酸化反応用電極が交互に積層されていることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電解液の流れを均一にした化学反応装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態における化学反応装置の構成を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態における化学反応装置の構成を示す断面模式図である。
図3】本発明の実施の形態における還元反応用電極の構成を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における酸化反応用電極の構成を示す図である。
図5】本発明の実施例における排出口の配置を説明する図である。
図6】本発明の実施例及び比較例の構成及び解析結果を示す図である。
図7】本発明の実施例1における電解液の流速分布の解析結果を示す図である。
図8】本発明の実施例及び比較例における流速の標準偏差の平均/流量の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態における化学反応装置100は、図1の斜視模式図及び図2の断面模式図に示すように、酸化反応用電極102、還元反応用電極104、整流板106、電解液108、容器110及びオリフィス板112を含んで構成される。
【0016】
化学反応装置100は、図中のZ方向が鉛直方向となるように配置して使用される。なお、図2は、電解液108が供給された状態における化学反応装置100をY-Z平面で切断した断面図を示す。
【0017】
容器110は、酸化反応用電極102、還元反応用電極104及び整流板106を支持すると共に、電解液108が流れる流路を構成する部材である。容器110は、化学反応装置100をセルとして構成するために必要な機械的な強度を備える材料で構成される。例えば、容器110は、金属、プラスチック等によって構成することができる。
【0018】
容器110には、容器110内に電解液108を供給するための供給口110aが設けられる。また、容器110内から電解液108を排出するための排出口110bが設けられる。すなわち、供給口110aから反応基質を含んだ電解液108を容器110内に供給し、酸化反応用電極102と還元反応用電極104の間の反応領域に電解液108を流通させた後、排出口110bから電解液108を容器110の外へ排出する。
【0019】
また、容器110には、化学反応装置100における反応によって生じた気体を容器110から排出させる排気口110cが設けられる。供給口110aは、容器110において酸化反応用電極102及び還元反応用電極104が配置された反応領域よりも鉛直方向に沿って下方に配置することが好適である。また、排気口110cは、容器110において酸化反応用電極102及び還元反応用電極104が配置された反応領域よりも鉛直方向に沿って上方に配置することが好適である。
【0020】
電解液108の排出口110bは、容器110内に供給された電解液108に対して酸化反応用電極102及び還元反応用電極104が十分に反応に寄与するように、鉛直方向(Z方向)において酸化反応用電極102及び還元反応用電極104の上端よりも上方に配置することが好適である。これにより、酸化反応用電極102及び還元反応用電極104の全体が電解液108に浸された状態で排出口110bから電解液108を排出させることができる。なお、排気口110cは、鉛直方向(Z方向)に沿って排出口110bよりも高い位置に設けることが好適である。
【0021】
酸化反応用電極102及び還元反応用電極104は、それぞれX方向及びZ方向に拡がる板状の部材であり、Y方向に沿って互いに対向するように並べて配置される。本実施の形態では、触媒を片面に担持させた酸化反応用電極102を2枚、触媒を両面に担持させた酸化反応用電極102を3枚、触媒を両面に担持させた還元反応用電極104を4枚、酸化触媒と還元触媒とが担持されたX-Z面方向に広がった反応面が互いに対向するように配置される。すなわち、図2のY方向に沿って左側から、片面に触媒を担持させた酸化反応用電極102、整流板106及び両面に触媒を担持させた還元反応用電極104、整流板106及び両面に触媒を担持させた酸化反応用電極102、整流板106及び両面に触媒を担持させた還元反応用電極104、整流板106及び両面に触媒を担持させた酸化反応用電極102・・・片面に触媒を担持させた酸化反応用電極102が配置される。このように、複数の酸化反応用電極102、複数の整流板106及び複数の還元反応用電極104がY方向に沿って積層されている。
【0022】
還元反応用電極104は、還元反応によって物質を還元するために利用される電極である。還元反応用電極104は、図3の断面図に示すように、基板114上に形成される。還元反応用電極104は、導電層10及び還元触媒層12を含んで構成される。
【0023】
基板114は、還元反応用電極104を構造的に支持する部材である。基板114は、特に材料が限定されるものではないが、例えば、ガラス基板等とされる。また、基板114は、例えば、金属又は半導体を含んでもよい。基板114として用いられる金属は、特に限定されるものではないが、チタン(Ti)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)を含むことが好適である。基板114として用いられる半導体は、特に限定されるものではないが、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、シリコン(Si)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タンタル(Ta)等とすることが好適である。
【0024】
基板114を絶縁体とした場合、基板114と還元触媒層12との間に導電層10が設けられる。導電層10は、還元反応用電極104の還元触媒層12に対して電圧を印加するために設けられる。導電層10は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電層とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0025】
還元触媒層12は、還元触媒機能を有する材料から構成される。還元触媒層12は、錯体触媒を含むことが好適である。還元触媒層12は、例えば、ルテニウム錯体とすることが好適である。錯体触媒は、例えば、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(MeCN)Cl]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)Cl]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(CHCN)Cl]等とすることができる。
【0026】
錯体触媒による修飾は、錯体をアセトニトリル(MeCN)溶液に溶解した液を導電層10の上に塗布することで作ることができる。また、錯体触媒による修飾は、電解重合法により行うこともできる。作用極として導電層10の電極、対極にフッ素含有酸化スズ(FTO)で被覆したガラス基板、参照電極にAg/Ag電極を用い、錯体触媒を含む電解液中においてAg/Ag電極に対して負電圧となるようにカソード電流を流した後、Ag/Ag電極に対して正電位となるようにアノード電流を流すことにより導電層10の表面上を錯体触媒で修飾することができる。電解質の溶液には、アセトニトリル(MeCN)、電解質には、Tetrabutylammoniumperchlorate(TBAP)を用いることができる。
【0027】
また、還元触媒層12は、カーボン材料(C)を含む導電体を含んで構成することができる。カーボン材料の構造体の単体のサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボン材料は、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン及びグラファイトの少なくとも1つを含むことが好適である。グラフェン及びグラファイトであればサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボンナノチューブであれば直径が1nm以上40nm以下であることが好適である。導電体は、エタノール等の液体に混ぜ合わせたカーボン材料をスプレーで塗布し、加熱することによって形成することができる。スプレーの代わりに、スピンコートによって塗布してもよい。また、スピンコートを用いず、直接溶液を滴下して乾かして塗布してもよい。
【0028】
還元触媒層12における還元触媒の担持方法は、例えば、金属錯体(触媒)をアセトニトリル(MeCN)溶液に溶解した液(例えば、Ru錯体ポリマー溶液)をカーボンペーパー、カーボンクロス等のカーボン系材料の上に塗布、乾燥することで作製することができる。また、還元触媒の担持は、電解重合法により行うこともできる。例えば、作用極としてカーボン系材料の電極、対極にフッ素含有酸化スズ(FTO)で被覆したガラス基板、参照電極にAg/Ag電極を用い、還元触媒を含む電解液中においてAg/Ag電極に対して負電圧となるようにカソード電流を流した後、Ag/Ag電極に対して正電位となるようにアノード電流を流すことによりカーボン系材料に還元触媒で担持することができる。電解質の溶液には、例えば、アセトニトリル(MeCN)、電解質には、例えば、Tetrabutylammoniumperchlorate(TBAP)を用いることができる。
【0029】
なお、図3では、基板114の片方の面のみに導電層10及び還元触媒層12を形成した例を示したが、基板114の両方の面に導電層10及び還元触媒層12を形成してもよい。
【0030】
酸化反応用電極102は、酸化反応によって物質を酸化するために利用される電極である。酸化反応用電極102は、図4の断面図に示すように、基板116上に形成される。酸化反応用電極102は、導電層14及び酸化触媒層16を含んで構成される。
【0031】
基板116は、酸化反応用電極102を構造的に支持する部材である。基板116は、還元反応用電極104に用いられる基板114と同様の材料とすることができる。
【0032】
導電層14は、酸化反応用電極102における集電を効果的にするために設けられる。導電層14は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0033】
酸化触媒層16は、酸化触媒機能を有する材料を含んで構成される。酸化触媒機能を有する材料は、例えば、酸化イリジウム(IrOx)を含む材料とすることができる。酸化イリジウムは、ナノコロイド溶液として導電層14の表面上に担持することができる(T.Arai et.al, Energy Environ. Sci 8, 1998 (2015))。
【0034】
例えば、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイドを合成する。先ず、2mMの塩化イリジウム酸(IV)カリウム(KIrCl)水溶液50mlに10wt%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えてpH13に調整した黄色溶液を、ホットスターラーを用いて90℃で20分加熱する。これによって得られた青色溶液を氷水で1時間冷却する。そして、冷やした溶液(20ml)に3M硝酸(HNO)を滴下してpH1に調整し、80分攪拌し、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液を得る。さらに、この溶液に1.5wt%NaOH水溶液(1-2ml)を滴下してpH12に調整する。このようにして得られた酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液を、導電層14上にpH12に塗布し、乾燥炉内にいて60℃で40分間保持して乾燥させる。乾燥後、析出した塩を超純水で洗浄し、酸化反応用電極102を形成することができる。なお、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液の塗布及び乾燥を複数回繰り返してもよい。
【0035】
なお、図4では、基板116の片方の面のみに導電層14及び酸化触媒層16を形成した例を示したが、基板116の両方の面に導電層14及び酸化触媒層16を形成してもよい。
【0036】
整流板106は、酸化反応用電極102と還元反応用電極104の間の空間を仕切って電解液108の流れを整える部材である。整流板106は、電解液の供給口110aから排出口110bへ向かう方向(Z方向)に沿って延設された板状の部材である。整流板106は、板面がY方向に沿うように、X方向に沿って複数枚配置される。これによって、Y方向と交差する方向(X方向)に沿った電解液108の流れが制限され、供給口110aから排出口110bへ向かう方向(Z方向)に電解液108の流れを整えることができる。
【0037】
化学反応装置100は、還元反応用電極104と酸化反応用電極102の間に電解液108を導入することで機能する。すなわち、容器110の中に還元反応用電極104と酸化反応用電極102を収納し、還元反応用電極104と酸化反応用電極102の表面に反応基質が溶解された電解液108を供給する。
【0038】
反応基質は、炭素化合物とすることができ、例えば、二酸化炭素(CO)とすることができる。また、電解液108は、リン酸緩衝水溶液やホウ酸緩衝水溶液とすることが好適である。具体的な構成例では、二酸化炭素(CO)飽和リン酸緩衝液のタンクを設け、ポンプによって供給口110aから還元反応用電極104と酸化反応用電極102との表面に電解液108を供給し、還元反応によって生じたギ酸(HCOOH)を電解液108と共に排出口110bから外部の燃料タンクに回収すると同時に、酸化反応により生じた酸素(O)を排気口110cから排出する。
【0039】
なお、酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間にバイアス電源を設けて、酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間に電位差を与えてもよい。バイアス電源は、例えば、太陽電池とすることができる。バイアス電源として太陽電池を採用した場合、太陽電池は、容器110に隣接して配置することができる。例えば、容器110の背面に太陽電池セルを配置し、太陽電池セルの正極を酸化反応用電極102に接続し、負極を還元反応用電極104に接続すればよい。
【0040】
二酸化炭素(CO)からギ酸(HCOOH)等を合成する場合、水(HO)は酸化されて二酸化炭素(CO)に電子とプロトンを供給する。pH7付近では水(HO)の酸化電位は0.82V、還元電位は?0.41V(何れもNHE)である。また、二酸化炭素(CO)から一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メチルアルコール(CHOH)への還元電位はそれぞれ?0.53V,?0.61V,?0.38Vである。したがって、酸化電位と還元電位の電位差は1.20~1.43Vである。
【0041】
さらに、化学反応装置100には、オリフィス板112が設けられる。オリフィス板112は、供給口110aから容器110内へ導入される電解液108の流れを制限する貫通孔であるオリフィス孔が設けられた板状部材である。オリフィス板112は、容器110において供給口110aから酸化反応用電極102及び還元反応用電極104が設けられた領域に至る流路上に配置される。オリフィス板112は、必要な機械的な強度を備える材料で構成される。例えば、オリフィス板112は、金属、プラスチック等によって構成することができる。
【0042】
化学反応装置100では、酸化反応用電極102、還元反応用電極104及び整流板106によって形成される空間が電解液108を流すための流路となる。オリフィス板112は、供給口110aとこれらの流路との間に配置される。オリフィス板112には、酸化反応用電極102、還元反応用電極104及び整流板106によって形成される流路と供給口110aとの間を繋ぐオリフィス孔が設けられる。オリフィス孔の径は例えば0.5mmとし、間隔は例えば10mmとすればよい。
【0043】
したがって、供給口110aから供給された電解液108は、供給口110aからオリフィス板112までの空間に溜められた後、オリフィス板112のオリフィス孔を介して酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間の流路に噴出される。酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間の流路に電解液108が流れ込むと当該流路が電解液108によって満たされる。さらに、電解液108が排出口110bから容器110から排出される。
【0044】
本実施の形態では、さらにセパレータを設けてもよい。セパレータは、酸化反応用電極102と還元反応用電極104の間を仕切る部材である。セパレータは、電解液108内においてプロトンを伝達することができる多孔体であるプロトン伝導フィルムによって構成することができる。セパレータは、例えば、レーヨン不織布、ビニロン不織布、親水化超高分子量ポリエチレン多孔体フィルム、親水化ポリプロピレンメッシュ、親水化超高分子量ポリエチレン多孔質フィルムで構成することができる。また、セパレータは、整流板106と一体化してもよい。
【0045】
<実施例>
本発明の実施の形態における化学反応装置100の実施例について以下に説明する。実施例では、酸化反応用電極102と還元反応用電極104を設け、それぞれの酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間には9枚の整流板106を配置した。また、化学反応装置100内において、電解液108の供給口110aと酸化反応用電極102及び還元反応用電極104の間にオリフィス板112を設けた。
【0046】
酸化反応用電極102及び還元反応用電極104のサイズは1m角とした。なお、容器110の横幅方向(X方向)の内寸Wは1078mmとし、厚さ方向(Y方向)の内寸T2は166mmとし、最大14対の酸化反応用電極102及び還元反応用電極104を設置可能なサイズとした。
【0047】
酸化反応用電極102にはTi板にIrOxコロイドを塗布し、乾燥させたものを用いた。還元反応用電極104にはカーボンペーパー/マルチウォールカーボンナノチューブにRu錯体ポリマーを担持させてチタン基板にカーボン系接着剤を用いて貼り付けたものを用いた。
【0048】
酸化反応用電極102及び還元反応用電極104は、触媒を担持させた反応面を対向させて容器110内に配置した。電解液108は、別の容器にてバブリングによりCOを飽和溶解させた0.4Mリン酸緩衝液とした。酸化反応用電極102及び還元反応用電極104には直流電源として結晶系シリコン太陽電池を接続して光を照射して電圧を印加した。
【0049】
図5は、実施例における排出口110bの配置を説明するための図である。実施例及び比較例において、排出口110bは円形とした。
【0050】
図6は、実施例1~13及び比較例1における化学反応装置100の構成及び試験結果を示す。ここで、酸化反応用電極102及び還元反応用電極104の反応面の上端において排出口110bから最も離れた点Pと排出口110bの縁とを結んだ線Qと鉛直方向(Z方向)とのなす角度θ(酸化反応用電極102及び還元反応用電極104の反応面の上端の各箇所とそこから最短距離にある排出口110bの縁とを結んだ線と鉛直方向(Z方向)とのなす角の最大の角度θ)、排出口110bの直径D、及び、酸化反応用電極102及び還元反応用電極104の反応面の上端と排出口110bの縁までの距離Lとする。また、排出口110bは、酸化反応用電極102及び還元反応用電極104の反応面の横幅に対して均等に配置した。
【0051】
例えば、実施例1では、容器110内に8対の酸化反応用電極102及び還元反応用電極104を配置した。酸化反応用電極102及び還元反応用電極104の全体の厚さ(図2中の厚さT1)は94mmであった。また、排出口110bの数は10個とし、角度θは29°、距離Lと直径Dの比L/Dは9.29とした。
【0052】
図7は、実施例1について電解液108の流速分布の流体解析を実施した結果を示す。なお、図1に示した化学反応装置100は1m角であり、排出口110bが2箇所に設けられているが、左右対称の構造をしているため、実施例1~13及び比較例1では4分割した左上側の50cm角のサイズで排出口110bが1箇所に設けられた構成を用い、50cm角サイズの下端で流速分布が均一であることを仮定して解析を行った。
【0053】
積層された酸化反応用電極102及び還元反応用電極104の間の流路において反応面の上端から10mm下の位置(図7中の破線の位置)の流速の標準偏差は2.30×10-3L/min~2.91×10-3L/minであった。また、電解液108の流速の標準偏差の平均を流量で除算した値は7.14×10-5であった。すなわち、実施例1において電解液108の流速は容器110内において略均一であった。また、排出口110bに最も近い酸化反応用電極102及び還元反応用電極104の間の流路に電解液108が逆流する現象もみられなかった。
【0054】
同様に、図8に示すように、実施例2~13においても電解液108の流速の標準偏差の平均を流量で除算した値は10-5のオーダーとなった。すなわち、実施例2~13において電解液108の流速は容器110内において略均一であった。また、排出口110bに最も近い酸化反応用電極102及び還元反応用電極104の間の流路に電解液108が逆流する現象もみられなかった。
【0055】
実施例1~13の解析結果から、角度θが30°以上70°以下であり、かつ、距離Lが直径Dの1.6倍以上であれば酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間の流路内において電解液108の流速の標準偏差の平均を流量で除算した値を7.73×10-5以下に保つことができる。また、この場合、酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間の流路に電解液108の逆流は生じない。
【0056】
さらに、実施例1~8の解析結果から、角度θが30°以上84°以下であり、かつ、距離Lが直径Dの1.0倍以上であれば酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間の流路内において電解液108の流速の標準偏差の平均を流量で除算した値を1.03×10-4以下に保つことができる。また、この場合、酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間の流路に電解液108の逆流は生じない。
【0057】
これに対して、比較例1のように角度θが88°であり、かつ、距離Lが直径Dの0.03倍とした場合、酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間の流路内において電解液108の流速の標準偏差の平均を流量で除算した値は2.72×10-4となり1.03×10-4以上となった。すなわち、比較例1では、実施例1~13に対して酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間の流路内の電解液108の流速は不均一になった。また、この場合、酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間の流路に電解液108の逆流がみられた。
【0058】
前述のとおり、1m角のサイズの化学反応装置100に対して50cm角のサイズで解析を行ったため、1m角のサイズの場合には図7に示した解析結果を横に並べて排出口110bを2箇所にしても同様の結果を得ることができる。さらに、1.5m角のサイズとした場合、図7に示した解析結果をさらに並べて排出口110bを3箇所にしてもよい。すなわち、角度θと距離Lとが所定の条件を満たせば流体の流速を均一にできるので、排出口110bの数は容器110又は酸化反応用電極102、還元反応用電極104の横幅と化学反応装置100のサイズによって規定される距離Lの許容範囲に合わせて選択することができる。例えば、横幅が狭く、距離Lの許容値が大きければ排出口110bを1つにし、横幅が広く、距離Lの許容範囲が小さくなれば排出口110bの数を増やせばよい。
【0059】
以上のように、本実施の形態によれば、化学反応装置100において容器110の高さを抑えつつ、酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間の流路において流体の流速を均一にすることができる。
【符号の説明】
【0060】
10 導電層、12 還元触媒層、14 導電層、16 酸化触媒層、100 化学反応装置、102 酸化反応用電極、104 還元反応用電極、106 整流板、108 電解液、110 容器、110a 供給口、110b 排出口、110c 排気口、112 オリフィス板、114 基板、116 基板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8