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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】内燃機関の燃料噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/34 20060101AFI20250708BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
F02D41/34
F02P13/00 303A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021176450
(22)【出願日】2021-10-28
(65)【公開番号】P2023065991
(43)【公開日】2023-05-15
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 紘晶
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0039780(US,A1)
【文献】特開2007-032326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00-29/06、41/00-45/00
F02P 1/00- 3/12、 7/00-17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内噴射弁とポート噴射弁と点火プラグとを備えた内燃機関における燃料噴射を制御する内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
当該燃料噴射制御装置は、前記内燃機関の負荷と前記内燃機関の回転数とに基づいて、前記筒内噴射弁と前記ポート噴射弁のうち前記筒内噴射弁の使用を決定した後、前記内燃機関の負荷が予め定められた所定値以上であるときに、前記筒内噴射弁の燃料噴射開始時期を、前記内燃機関における圧縮完了時点の上死点をクランク角度の基準としたときに当該基準となる上死点よりも進角側となる領域において、前記筒内噴射弁によって噴射された燃料の前記点火プラグへの付着が認められるクランク角度のうち最も遅角側となるクランク角度よりも遅角側に設定するとともに、前記内燃機関の要求燃料噴射量を算出し、当該要求燃料噴射量に基づいて設定された暫定噴射終了時期が、前記筒内噴射弁によって噴射された燃料の前記点火プラグへの付着が回避されるように設定された限界噴射終了時期よりも遅角側であると判断したときに、前記暫定噴射終了時期が前記限界噴射終了時期を超過した期間である超過噴射期間に噴射されることが想定される超過筒内噴射量を前記ポート噴射弁で噴射させ、前記要求燃料噴射量から前記超過筒内噴射量を減じた最終筒内噴射量を前記筒内噴射弁で噴射させる、
内燃機関の燃料噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筒内噴射を行う内燃機関において、燃料の噴射開始時期を制御する提案がされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-90230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内燃機関が備える点火プラグは、その先端側を燃料と吸気との混合気が燃料することで高温となる燃焼室内に露出させた状態で設置されている。筒内噴射を行う内燃機関では、燃料噴射のタイミングによっては筒内へ向かって噴射された燃料が霧化する前に点火プラグへ付着する可能性がある。点火プラグに付着した燃料は、その気化潜熱によって、点火プラグを冷却する。このため、点火プラグに燃料が付着すると、点火プラグは、気化潜熱による冷却と混合気の燃焼による加熱とを繰り返し受けることになる。点火プラグは、冷却と加熱とを繰り返し受けることで、異常、例えばその表面が孔状に侵食される孔食が生じることがある。このような異常を抑制するためには、点火プラグに腐食に強い材料を採用することが考えられる。しかしながら、このような材料の採用は、点火プラグのコスト上昇となり、望ましくない。
【0005】
特許文献1は、燃料の噴射開始時期を制御するものではあるが、点火プラグへの燃料の付着や、この燃料の付着に起因して点火プラグに生じる可能性がある異常を回避することを考慮したものとはなっていない。
【0006】
そこで、本明細書開示の発明は、筒内噴射を行う内燃機関において点火プラグに生じる異常の発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書開示の内燃機関の燃料噴射制御装置は、筒内噴射弁と点火プラグとを備えた内燃機関における燃料噴射を制御する内燃機関の燃料噴射制御装置であって、前記内燃機関の負荷が予め定められた所定値以上であるときに、前記筒内噴射弁の燃料噴射開始時期を、所定のクランク角度よりも遅角側に設定する。
【発明の効果】
【0008】
本明細書開示の発明は、筒内噴射を行う内燃機関において点火プラグに生じる異常の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(A)は実施形態の燃料噴射制御装置(ECU)を装備した内燃機関の概略構成を示す説明図であり、図1(B)は図1(A)に示す内燃機関の燃焼室周辺を拡大して示す説明図である。
図2図2(A)はTDCを基準としてピストンの位置(クランク角度)を示す説明図であり、図2(B-1)は吸気行程の期間と圧縮行程の期間を模式的に示す説明図であり、図2(B-2)は膨張行程の期間と排気工程の期間を示す模式的に示す説明図である。
図3図3は実施形態における燃料噴射制御の一例を示すフローチャートである。
図4図4は実施形態における燃料噴射制御で用いられる噴射パターン決定マップの一例である。
図5図5は実施形態における燃料噴射制御で用いられる筒内噴射弁の噴射開始時期決定マップの一例である。
図6図6は実施形態における燃料噴射制御で用いられる筒内噴射弁の噴射期間決定マップの一例である。
図7図7は実施形態における燃料噴射制御で用いられる筒内噴射弁の限界噴射終了時期決定マップの一例である。
図8図8(A)は筒内噴射弁から噴射された燃料が点火プラグに付着する様子を示す説明図であり、図8(B)は筒内噴射弁から噴射された燃料の点火プラグへの付着が回避される様子を示す説明図である。
図9図9(A)は燃料が点火プラグに付着する可能性がある噴射期間を示す説明図であり、図9(B)は噴射開始時期を遅角させて、燃料の点火プラグへの付着を回避することができる噴射期間を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。ただし、図面中、各部の寸法、比率等は、実際のものと完全に一致するようには図示されていない場合がある。また、図面によっては細部が省略されて描かれている場合もある。
【0011】
(実施形態)
【0012】
以下、図面を参照して本実施形態の燃料噴射制御装置として機能するECU(Electronic Control Unit)を装備した内燃機関10および内燃機関10における燃料噴射制御について説明する。
【0013】
[内燃機関]
内燃機関10は、燃料と空気との混合気に点火する4サイクルエンジンである。内燃機関10は、シリンダブロック20およびシリンダヘッド21を有する。図1(A)に示すように、内燃機関10では、シリンダブロック20の上にシリンダヘッド21が取り付けられ、シリンダブロック20の下に不図示のクランクケースが取り付けられる。ピストン22はシリンダブロック20に設けられたシリンダ20a内に収納されている。ピストン22はコンロッドを介してクランクシャフトに連結されている。ピストン22は図1(A)の上下方向に摺動可能である。シリンダブロック20、シリンダヘッド21およびピストン22によって、燃焼室24が区画される。シリンダヘッド21の内壁が燃焼室24の天井部24aを形成している。
【0014】
シリンダヘッド21には、吸気ポート26、および排気ポート28が接続されている。吸気ポート26の上流側には吸気通路12が接続されている。排気ポート28の下流側には排気通路14が接続されている。
【0015】
吸気通路12には上流側から順に、エアクリーナ15、エアフローメータ16、スロットルバルブ18およびポート噴射弁32aが設けられている。エアクリーナ15は、吸気通路12内の空気から塵芥などを取り除き、空気を浄化する。エアフローメータ16は吸気通路12内の空気の流量を検出する。スロットルバルブ18は空気の流量を調整する。スロットルバルブ18の開度が大きくなるほど、空気の流量は増加する。スロットルバルブ18の開度が小さくなるほど、空気の流量は減少する。排気通路14には触媒29が設けられている。
【0016】
シリンダヘッド21に、吸気バルブ17、排気バルブ19、点火プラグ30、および筒内噴射弁32bが設けられている。吸気バルブ17および排気バルブ19は、不図示の動弁機構によって開閉する。吸気バルブ17が開弁することで吸気ポート26と燃焼室24とが連通する。排気バルブ19が開弁することで排気ポート28と燃焼室24とが連通する。点火プラグ30は、先端部に備えた電極間に火花を飛ばし、燃焼室24内の混合気に対して点火する。筒内噴射弁32bは、燃焼室24内に向かって燃料噴射を行う。
【0017】
点火プラグ30および筒内噴射弁32bは、燃焼室24の天井部24aの中央部に設けられている。中央部とは、吸気ポート26と排気ポート28とに挟まれた位置である。内燃機関10の気筒の延伸方向(図1(A)の上下方向)に対して、点火プラグ30および筒内噴射弁32bは傾斜している。点火プラグ30は排気バルブ19側に傾斜している。筒内噴射弁32bは吸気バルブ17側に傾斜している。点火プラグ30の先端部および筒内噴射弁32bの先端部は、燃焼室24の内部に露出している。このように、本実施形態の内燃機関10は、センター噴射構造を採用している。センター噴射構造を採用することで、筒内噴射弁32bによって点火プラグ30の近傍に噴霧を行い、火炎を噴霧の方向に指向させることができる。この結果、燃焼室24内における安定した燃焼が実現され、効果的にエミッションの低減を図ることができる。
【0018】
点火プラグ30は、排気バルブ19と筒内噴射弁32bとの間に位置する。筒内噴射弁32bは、点火プラグ30と吸気バルブ17との間に位置する。すなわち、図1(A)に示すように、内燃機関10の一方の内壁から反対側の内壁に向けて、排気バルブ19、点火プラグ30、筒内噴射弁32b、および吸気バルブ17が、この順に並ぶ。
【0019】
ECU11は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、バックアップRAM及びその他の記憶装置を備える。ECU11は、内燃機関10における燃料噴射制御を行う。つまり、ECU11は、燃料噴射制御装置として機能する。ECU11は、CPU、ROMやその他の記憶装置に記憶されたプログラムやマップに基づいて演算処理や各種制御を実行する。RAMは、CPUによる演算結果や各種センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは内燃機関10の停止時などにおいて保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。ECU11はエアフローメータ16が検出する空気の流量を取得する。ECU11は、ポート噴射弁32aおよび筒内噴射弁32bからの燃料の噴射量および噴射のタイミングを制御する。ECU11はスロットルバルブ18の開度を制御する。また、ECU11には、回転数センサ33と電気的に接続されており、内燃機関10のエンジン回転数を取得する。
【0020】
ポート噴射弁32aは吸気ポート26に向かって燃料噴射を行う(ポート噴射)。筒内噴射弁32bは燃焼室24に燃料を噴射する(筒内噴射)。ECU11は、内燃機関10の運転状況に応じて噴射パターンの選択を行う。つまり、ECU11は、筒内噴射のみを行う噴射形態、ポート噴射のみを行う噴射形態、さらには、筒内噴射とポート噴射の双方を行う噴射形態のいずれかを選択する。噴射パターンの選択については、後に詳細に説明する。
【0021】
吸気バルブ17が開弁することで、図1(B)に示すように吸気ポート26から燃焼室24に空気が導入される。ポート噴射が行われる場合は、燃料と混合された状態の空気が燃焼室24内に導入される。筒内噴射が行わる場合には、燃焼室24内で、燃料と空気との混合気が生成される。点火プラグ30が混合気に点火することで、混合気が燃焼する。混合気の燃焼によってピストン22が上下に往復運動する。ピストン22からクランクシャフトに動力が伝達され、クランクシャフトが回転する。排気バルブ19が開弁すると、燃焼後の排気は排気ポート28に排出される。触媒29は排気を浄化する。
【0022】
[燃料噴射制御]
つぎに、内燃機関10における燃料噴射制御について図2(A)~図9(C)を参照して説明する。
【0023】
≪燃料噴射制御の概略≫
まず、内燃機関10における燃料噴射制御の概略について説明する。本実施形態の内燃機関10では、筒内噴射弁32bから噴射され、霧化する前の燃料が点火プラグ30に付着しないように、燃料噴射のタイミングが制御される。点火プラグ30に筒内噴射弁32bから噴射された燃料が付着すると、点火プラグ30に異常が生じる可能性がある。点火プラグ30に生じる可能性がある異常としては、例えば、点火プラグ30の先端部に位置している電極部の表面に生じる孔食がある。孔食は、燃焼室24内に露出している点火プラグ30の電極部が、付着した燃料の気化潜熱による冷却と混合気の燃料による加熱とを繰り返し受けることで表面保護層の欠損を起こし、そこから酸化が進展し、腐食することで生じる。ここで、点火プラグ30への燃料の付着は、ピストン22(図1(A)、図1(B)参照)がTDC(Top Dead Centre)に近い程生じやすい。これは、ピストン22がTDCに近いと、筒内噴射弁32b(図1(A)、図1(B)参照)から噴射された燃料がシリンダ20a(図1(A)、図1(B)参照)の径方向に広がり易いためである。本実施形態の内燃機関10は、燃焼室24の天井部24aに点火プラグ30と筒内噴射弁32bとが並列設置されたセンター噴射構造を採用しているため、点火プラグ30への燃料の付着が生じ易い。しかしながら、ピストン22がTDCから遠ざかり、筒内噴射弁32bとピストン22との距離が広がると、噴射された燃料は、シリンダ20aの下方に向かって拡散されるため、点火プラグ30への付着は回避される。
【0024】
そこで、本実施形態の内燃機関10では、筒内噴射される場合に筒内噴射弁32bから噴射された燃料が点火プラグ30に付着しないように、筒内噴射弁32bによる燃料噴射開始時期が制御される。点火プラグ30の表面に生じる孔食は、燃焼室24内が高温となる場合に生じやすい。このため、本実施形態では、内燃機関10の負荷が予め定めた閾値以上となる場合に、燃料噴射開始時期を遅角させる。
【0025】
≪燃料噴射制御の詳細≫
以下、燃料噴射制御の詳細について説明する。燃料噴射制御には、燃料噴射開始時期と燃料噴射終了時期の制御が含まれる。燃料噴射開始時期や燃料噴射終了時期は、ピストン22の位置によって表現される。そこで、燃料噴射制御の詳細な説明に先立って、ピストンの位置の表記につき、図2(A)~図2(B-2)を参照しつつ説明する。
【0026】
内燃機関10は、4サイクルエンジンであり、図2(A)に示すように、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気工程の4つの行程を、繰り返し行う。4サイクルエンジンでは、これらの4つの行程を行う間にクランクシャフトが2回転、つまり、720°回転する。そして、ピストン22はシリンダ20a内を二往復する。このような4サイクルエンジンでは、圧縮行程が完了し、膨張行程に移行する際に位置するTDC(上死点)を基準として、このTDCよりも進角側をBTDC(Before Top Dead Centre)と表記し、TDCよりも遅角側をATDC(After Top Dead Centre)と表記する。圧縮行程が完了した際のTDCよりも進角側の位置を表す場合、例えば、進角側に180°の位置は、BTDC180と表記し、進角側に360°の位置は、BTDC360と表記する。同様に、遅角側に180°の位置はATDC180と表記し、遅角側に360°の位置はATDC360と表記する。
【0027】
この表記に従うと、吸気行程は、BTDC360からBTDC180までとなり、圧縮行程はBTDC180からTDC(=TDC0)までとなる。同様に、膨張行程は、TDC(=TDC0)からATDC180までとなり、排気行程はATDC180からATDC360までとなる。
【0028】
なお、内燃機関10において実際に吸気したり排気したりする行程の期間は、吸気バルブ17や排気バルブ19の開弁期間に依存するが、ここでは、便宜上、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気工程の4つの行程の各期間は、それぞれ、180°ずつの期間としている。
【0029】
図3を参照すると、ECU11は、ステップS1において、エンジン回転数とエンジン負荷を取得する。エンジン回転数は、回転数センサ33によって検出された検出値がECU11に送信されることで取得される。エンジン負荷は、エアフローメータ16によって検出された吸入空気量に基づいて取得される。
【0030】
ECU11は、ステップS2において、噴射パターンを決定する。噴射パターンは、ステップS1において取得したエンジン回転数とエンジン負荷とを図4に示す噴射パターン決定マップに当て嵌めることによって決定される。噴射パターンにはポート噴射弁32aのみを用いるポート噴射パターンと、筒内噴射弁32bのみを用いる筒内噴射パターンの2パターンが含まれる。
【0031】
ECU11は、ステップS3において、筒内噴射弁32bを使用するか否かを判定する。ECU11は、ステップS2で決定した噴射パターンがポート噴射パターンである場合には否定判定(No判定)を行い、ステップS4へ進む。一方、ECU11は、ステップS2で決定した噴射パターンが筒内噴射パターンである場合には肯定判定(Yes判定)を行い、ステップS5へ進む。
【0032】
ECU11は、ステップS4において、ポート噴射弁32aを用いた燃料噴射を行う。ステップS4におけるポート噴射は、内燃機関10の一回の吸気行程に対する燃料噴射量の全量をポート噴射弁32aによって行うことから、燃料が点火プラグ30に付着することがない。このため、本実施形態のステップS4におけるポート噴射では、点火プラグ30への燃料の付着を回避するための燃料噴射開始時期の制御は行われない。
【0033】
ECU11は、ステップS5において、筒内噴射弁32bによる燃料の噴射に関し、その噴射開始時期を決定する。噴射開始時期は、ステップS1において取得したエンジン回転数とエンジン負荷とを図5に示す噴射開始時期決定マップに当て嵌めることによって決定される。図5に示す噴射開始時期決定マップを参照すると、エンジン負荷に対して負荷閾値Lthが設定されている。ここで、図8(A)を参照する。図8(A)は、ピストン22がTDCに近い位置にあり、筒内噴射弁32bから噴射された燃料Fuの一部が点火プラグ30に付着する様子を示している。内燃機関10の負荷が高く、燃焼室24内における燃焼温度が高くなる状態において、点火プラグ30に燃料が付着すると、点火プラグ30に異常が生じる可能性がある。負荷閾値Lthは、点火プラグ30に燃料が付着したときに、点火プラグ30に異常が生じるか否かを検証するシミュレーションの結果に基づき、点火プラグ30における異常の発生を回避することができると想定される値に設定されている。
【0034】
図5に示す噴射開始時期決定マップによれば、エンジン負荷が負荷閾値Lthよりも低い領域では、エンジン回転数に応じた噴射開始時期がBTDC280~BTDC330の範囲で設定されている。具体的に、エンジン負荷が負荷閾値Lthよりも低い領域では、エンジン回転数が高くなるほど、噴射開始時期は、進角側に設定されている。これに対し、エンジン負荷が負荷閾値Lth以上の領域では、エンジン回転数に関わらず、噴射開始時期は、一律にBTDC300に設定されている。ここで、再び図8(A)を参照すると、ピストン22の位置は、概ねBTDC330の位置とされている。このようなピストン位置で筒内噴射弁32bから燃料噴射が開始されると、点火プラグ30に燃料が付着する可能性がある。これに対し、図8(B)は、ピストン22の位置が概ねBTDC300とされた状態が示されている。このように、ピストン22の位置がBTDC300程度であると、燃料の点火プラグ30への付着が回避される。つまり、ピストン22の位置が遅角側に移動したタイミングで燃料噴射を開始することで、燃料の点火プラグ30への付着が回避される。
【0035】
ECU11は、ステップS6において、要求燃料噴射量[mg/st]を算出する。要求燃料噴射量[mg/st]は、ステップS1で取得したエンジン負荷と当量比(又は目標A/F:目標空燃比)とを用いて算出される。当量比は予め設定されている値であり、例えば、1.1の数値(目標A/Fでは13.2)が与えられている。なお、ステップS5とステップS6の順番は問わず、これらの順番を入れ替えてもよいし、同時に実行するようにしてもよい。なお、当量比や目標A/Fの値は、一例であって、これに限定されるものではない。
【0036】
ECU11は、ステップS7において、暫定噴射終了時期を算出する。ここで、暫定噴射終了時期としているのは、算出された噴射終了時期がTDCに近い場合に、噴射終了時期に近いタイミングで噴射された燃料が点火プラグ30に付着することを回避すべく、噴射終了時期が変更されることがある為である。噴射終了時期の変更の説明は、ステップS8の説明と併せて行う。暫定噴射終了時期は、まず、ステップS6で算出した要求燃料噴射量とステップS1で取得したエンジン回転数を図6に示す噴射期間決定マップに当て嵌めて、要求燃料噴射量を噴射するために必要となる噴射期間を決定する。ここで、噴射期間は、噴射時間ではなく、クランク角度によって表現される。このため、エンジン回転数が高回転となると、噴射時間が同一であっても噴射期間としては長くなる。暫定噴射終了時期は、このようにして算出された噴射期間と、ステップS5で決定した噴射開始時期とに基づいて算出される。つまり、噴射開始時期に噴射期間を加えた期間の終期が暫定噴射終了時期とされる。
【0037】
ECU11は、ステップS8において、限界噴射終了時期を算出する。ここで限界噴射終了時期は、噴射終了時期がTDCに近づくことで、筒内噴射弁32bから噴射された燃料が点火プラグ30に付着することを回避することができるように設定されている。つまり、限界噴射終了時期は、この時期よりも遅角側まで燃料噴射が継続されていると、点火プラグ30に燃料が付着する可能性がある時期に設定されている。図9(A)や図9(B)を参照すると、限界噴射終了時期はBTDC90に設定されている。限界噴射終了時期は、ステップS1において取得したエンジン回転数とエンジン負荷とを図7に示す限界噴射終了時期決定マップに当て嵌めることによって決定される。図7に示す限界噴射終了時期決定マップを参照すると、回転数閾値NEthが設定されている。そして、エンジン回転数が回転数閾値NEthよりも低い場合には、限界噴射終了時期はBTDC60に設定され、エンジン回転数が回転数閾値NEth以上である場合には、限界噴射終了時期はBTDC90に設定されている。エンジン回転数が高回転である場合に、限界噴射終了時期を進角側に設定するのは、エンジン回転数が高回転であると、ピストン22の上昇速度が速く、点火プラグ30に燃料が付着する状態になり易い為である。なお、限界噴射終了時期としてのBTDC60やBTDC90は、一例であって、これに限定されるものではない。
【0038】
ECU11は、ステップS9において、暫定噴射終了時期が限界噴射終了時期よりも進角側であるか否かを判定する。ECU11は、ステップS9において肯定判定した場合、ステップS10へ進む。ステップS10では、暫定噴射終了時期を最終的な噴射終了時期として筒内噴射弁32bから燃料の噴射を行う。一方、ECU11は、ステップS9において否定判定した場合、ステップS11へ進む。
【0039】
ECU11は、ステップS11において、超過噴射期間を算出する。超過噴射期間とは、暫定噴射終了時期が限界噴射終了時期を超えている期間である。ここで、超過噴射期間はクランク角度[CA]で表現されている。
【0040】
ECU11は、ステップS12において、超過筒内噴射量[mg/st]を算出する。超過筒内噴射量[mg/st]を算出するために、ECU11は、まず、ステップS11で算出したクランク角度で表現されている超過噴射期間[CA]を、エンジン回転数[rpm]を用いて超過噴射時間[ms]に換算する。そして、ECU11は、筒内噴射弁32bの燃圧[MPa]を含む噴射特性に基づいて超過筒内噴射量[mg/st]を算出する。ここで、図9(B)を参照すると、超過筒内噴射量[mg/st]は、限界噴射終了時期よりも遅角側で噴射される燃料量である。超過筒内噴射量[mg/st]はポート噴射弁32aによって噴射される。
【0041】
ECU11は、ステップS13において、最終筒内噴射量[mg/st]を算出する。最終筒内噴射量[mg/st]は、ステップS6で算出した要求燃料噴射量[mg/st]からステップS12で算出した超過筒内噴射量[mg/st]を減算することで算出される。
【0042】
ECU11は、ステップS14において、ポート噴射弁32aに対し、超過筒内噴射量分の噴射を指示し、筒内噴射弁32bに対し、最終筒内噴射量分の噴射を指示する。
【0043】
以上で、内燃機関10の一回の吸気行程に対する燃料噴射量の全量の噴射が実行される。筒内噴射弁32bによって噴射された燃料は、点火プラグ30に付着することが回避される期間内に噴射される。
【0044】
[効果]
本実施形態では、内燃機関10の負荷が予め定められた負荷閾値Lth以上であるときに、筒内噴射弁32bの燃料噴射開始時期が所定のクランク角度よりも遅角側に設定される。これにより、ピストン22の位置が下がった位置で筒内噴射弁32bによる燃料噴射が開始されるため、点火プラグ30に燃料が付着することが回避され、点火プラグ30に生じる異常の発生が抑制される。
【0045】
上記実施形態は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
【符号の説明】
【0046】
10 内燃機関 11 ECU(燃料噴射制御装置)
12 吸気通路 14 排気通路
15 エアクリーナ 16 エアフローメータ
17 吸気バルブ 18 スロットルバルブ
19 排気バルブ 20 シリンダブロック
20a シリンダ 21 シリンダヘッド
22 ピストン 24 燃焼室
24a 天井部 26 吸気ポート
28 排気ポート 29 触媒
30 点火プラグ 32a ポート噴射弁
32b 筒内噴射弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9