(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/40 20160101AFI20250708BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20250708BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20250708BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20250708BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20250708BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20250708BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20250708BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20250708BHJP
【FI】
B60W20/40
B60K6/48 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/02 900
F02D45/00 372
F02D29/06 D
F02D29/06 J
B60L50/16
(21)【出願番号】P 2021180961
(22)【出願日】2021-11-05
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加地 雅広
(72)【発明者】
【氏名】小松 雄大
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-180977(JP,A)
【文献】特開2006-188972(JP,A)
【文献】特開2017-190039(JP,A)
【文献】特開2015-063258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
F02D 45/00
F02D 29/06
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と電動機との間に
クラッチを備えるハイブリッド車両に搭載され、前記電動機からの動力だけを用いて走行する電動走行モードで前記内燃機関の始動条件が成立したときには、前記
クラッチのスリップ係合と前記電動機のアシスト制御とにより前記内燃機関の回転数を増加させて前記内燃機関を始動する始動制御を実行するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記始動制御は、
前記クラッチのスリップ係合および前記電動機のアシスト制御により前記内燃機関の回転数が増加を開始したとき以降の所定タイミングで、前記内燃機関の制御量マップとして第1マップを用いて設定される点火時期で前記内燃機関の点火制御を開始し、前記内燃機関の点火制御を開始した後は、前記制御量マップとして前記第1マップと異なる第2マップを用いて前記内燃機関の点火制御を継続しながら前記クラッチを解放すると共に前記電動機のアシスト制御を終了し、前記内燃機関の回転数が前記電動機の回転数に略一致したとき以降に前記クラッチを完全係合させる
ハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関し、詳しくは、内燃機関と電動機との間に摩擦係合装置を備えるハイブリッド車両に搭載されるハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド車両の制御装置としては、内燃機関と電動機との間に摩擦係合装置(クラッチ)を備えるハイブリッド車両に搭載され、内燃機関の始動条件が成立したときには、クラッチのスリップ係合と電動機によるアシスト制御(電動機からの補償トルクの出力)を伴って内燃機関を始動する始動制御を実行するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この制御装置では、始動制御において、電動機の基準回転数に対する実際の回転数の乖離量を算出し、乖離量に応じて、摩擦係合装置を係合させる際のトルク容量を変更している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のハイブリッド車両の制御装置では、始動制御において、始動制御の進行状況に応じて摩擦係合装置の係合状態が変化する。したがって、始動制御の進行状況に応じて、適正に内燃機関を制御することが望まれている。
【0005】
本発明のハイブリッド車両の制御装置は、始動制御の進行状況に応じて、適正に内燃機関を制御することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド車両の制御装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド車両の制御装置は、
内燃機関と電動機との間に摩擦係合装置を備えるハイブリッド車両に搭載され、前記電動機からの動力だけを用いて走行する電動走行モードで前記内燃機関の始動条件が成立したときには、前記摩擦係合装置のスリップ係合と前記電動機のアシスト制御とにより前記内燃機関の回転数を増加させて前記内燃機関を始動する始動制御を実行するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記始動制御は、前記始動制御の進行状況に基づいて複数の前記内燃機関の制御量マップから選択される1つの前記制御量マップを用いて前記内燃機関を制御する
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明のハイブリッド車両の制御装置では、始動制御は、始動制御の進行状況に基づいて複数の内燃機関の制御量マップから選択される1つの制御量マップを用いて内燃機関を制御する。これにより、始動制御の進行状況に応じて、より適正に内燃機関を制御できる。
【0009】
こうした本発明のハイブリッド車両の制御装置において、前記摩擦係合装置は、クラッチであり、前記始動制御は、前記クラッチのスリップ係合および前記電動機のアシスト制御により前記内燃機関の回転数が増加を開始したとき以降の所定タイミングで、前記制御量マップとして第1マップを用いて設定される点火時期で前記内燃機関の点火制御を開始し、前記点火制御を開始した後は、前記制御量マップとして前記第1マップと異なる第2マップを用いて前記内燃機関の点火制御を継続しながら前記クラッチを解放し、前記内燃機関の回転数が前記電動機の回転数に略一致したとき以降に前記クラッチを完全係合させてもよい。こうすれば、より適正の点火時期で内燃機関を始動することができる。
【0010】
また、本発明のハイブリッド車両の制御装置において、前記第1マップは、前記内燃機関の始動性を良好にすると共に初爆のショックを抑制するように前記点火時期を設定するマップであり、前記第2マップは、前記内燃機関の燃焼性を向上させると共に早期に前記内燃機関の回転と前記電動機の回転とを同期するように前記点火時期を設定するマップとしてもよい。こうすれば、内燃機関を迅速に点火すると共に初爆のショックを抑制することができ、内燃機関を点火した後は、内燃機関の燃焼性を向上させると共に早期に内燃機関の回転と前記電動機の回転とを同期させることができる。
【0011】
この場合において、前記第1マップは、前記電動機が前記内燃機関をクランキングする際のトルクが大きいときには、小さいときに比して前記点火時期を遅角させ、前記内燃機関の回転数が低いときには、高いときに比して前記点火時期を遅角させ、前記電動機の回転数が高いときには、低いときに比して前記点火時期を進角させてもよい。
【0012】
また、この場合において、前記第2マップは、前記内燃機関の回転数が前記電動機の回転数以上のときには、前記点火時期を走行に要求されるトルクに対応する基準点火時期より遅角させ、前記内燃機関の回転数が所定回転数未満であり且つ前記内燃機関の吸気管圧が所定圧力以上のときには、前記点火時期を前記基準点火時期より遅角させ、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数未満であり且つ前記内燃機関の吸気管圧が前記所定圧力未満のときには、前記点火時期を前記基準点火時期より進角させてもよい。
【0013】
さらに、本発明のハイブリッド車両の制御装置において、前記始動制御は、スロットル開度が、走行に要求される要求トルクに対応するスロットル開度より大きくなるように前記内燃機関を制御してもよい。こうすれば、始動性を向上させつつ、内燃機関の回転を早期に電動機の回転に同期させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド車両の制御装置を搭載するハイブリッド車20の構成の概略を示す構成図である。
【
図2】エンジン22の始動処理におけるエンジン22の回転数Ne、モータ30の回転数Nm、クラッチK0のトルク(クラッチトルク)の時間変化の一例を示す説明図である。
【
図3】エンジンECU24により実行されるエンジン制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド車両の制御装置を搭載するハイブリッド車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド車20は、図示するように、エンジン22と、モータ30と、インバータ32と、バッテリ36と、クラッチK0と、トルクコンバータ40と、自動変速機42と、ハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「HVECU」という)70とを備える。
【0017】
エンジン22は、燃料タンクからのガソリンや軽油などの燃料を用いて動力を出力する内燃機関として構成されている。このエンジン22のクランクシャフト23は、クラッチK0を介してモータ30の回転軸31(回転子)に接続されている。エンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24により運転制御されている。
【0018】
エンジンECU24は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。エンジンECU24には、エンジン22を運転制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。エンジンECU24に入力される信号としては、例えば、エンジン22のクランクシャフト23の回転位置を検出するクランクポジションセンサ23aからのクランクシャフト23のクランク角θcrや、エンジン22の冷却水の温度を検出する図示しない水温センサからのエンジン22の冷却水温Tw、エンジン22の図示しないインテークマニホールド内の圧力を検出する圧力センサ22aからの吸気管圧Pinを挙げることができる。エンジンECU24からは、エンジン22を運転制御するための各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。エンジンECU24から出力される信号としては、スロットルバルブへの制御信号や、燃料噴射弁への制御信号、点火プラグへの制御信号を挙げることができる。エンジンECU24は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。エンジンECU24は、クランクポジションセンサ23aからのクランクシャフト23のクランク角θcrに基づいてエンジン22の回転数Neを演算している。
【0019】
モータ30は、同期発電電動機として構成されており、回転子コアに永久磁石が埋め込まれた回転子と、固定子コアに三相コイルが巻回された固定子とを有する。このモータ30の回転子が固定された回転軸31は、クラッチK0を介してエンジン22のクランクシャフト23に接続されていると共にトルクコンバータ40に接続されている。インバータ32は、モータ30の駆動に用いられると共に電力ライン37に接続されている。モータ30は、モータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)34によってインバータ32の複数のスイッチング素子がスイッチング制御されることにより、回転駆動される。
【0020】
モータECU34は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。モータECU34には、モータ30を駆動制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。モータECU34に入力される信号としては、例えば、モータ30の回転子の回転位置を検出する回転位置センサ30aからのモータ30の回転子の回転位置θmや、モータ30の各相の相電流を検出する電流センサからのモータ30の各相の相電流Iu,Ivを挙げることができる。モータECU34からは、インバータ32への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。モータECU34は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。モータECU34は、回転位置センサ30aからのモータ30の回転子の回転位置θmに基づいて、モータ30の電気角θeや角速度ωm、回転数Nmを演算している。
【0021】
バッテリ36は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、インバータ32と共に電力ライン37に接続されている。
【0022】
クラッチK0は、例えば油圧駆動の摩擦クラッチとして構成されており、HVECU70によって制御され、エンジン22のクランクシャフト23とモータ30の回転軸31との接続および接続の解除を行なう。
【0023】
トルクコンバータ40は、一般的な流体伝動装置として構成されており、モータ30の回転軸31の動力を自動変速機42の入力軸43にトルクを増幅して伝達したり、トルクを増幅することなくそのまま伝達したりする。このトルクコンバータ40は、モータ30の回転軸31に接続された入力側のポンプインペラ40pと、自動変速機42の入力軸43に接続された出力側のタービンランナ40tと、タービンランナ40tからポンプインペラ40pへの作動油の流れを整流するステータと、ステータの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチと、ポンプインペラ40pとタービンランナ40tとを連結する油圧駆動のロックアップクラッチ40cとを有する。
【0024】
自動変速機42は、6段変速の自動変速機として構成されており、入力軸43と、駆動輪49にデファレンシャルギヤ48を介して連結された出力軸44と、複数の遊星歯車と、油圧駆動の複数の摩擦係合要素(クラッチ、ブレーキ)とを有する。自動変速機42は、複数の摩擦係合要素の係脱により、第1速から第6速までの前進段や後進段を形成して、入力軸43と出力軸44との間で動力を伝達する。
【0025】
クラッチK0やロックアップクラッチ40c、自動変速機42には、図示しない油圧制御装置により、機械式オイルポンプや電動オイルポンプからの作動油の油圧が調圧されて供給される。油圧制御装置は、複数の油路が形成されたバルブボディや、複数のレギュレータバルブ、複数のリニアソレノイドバルブなどを有する。この油圧制御装置は、HVECU70により制御される。
【0026】
HVECU70は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。HVECU70には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。HVECU70に入力される信号としては、例えば、バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ36aからのバッテリ36の電圧Vbや、バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ib、バッテリ36に取り付けられた温度センサ36cからのバッテリ36の温度Tbを挙げることができる。自動変速機42の入力軸43に取り付けられた回転数センサ43aからの入力軸43の回転数Nin(タービンランナ40tの回転数Nt)や、自動変速機42の出力軸44に取り付けられた回転数センサ44aからの出力軸44の回転数Noutも挙げることができる。イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号や、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSPも挙げることができる。アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ87からの車速V、加速度センサ88からの加速度αも挙げることができる。
【0027】
HVECU70からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。HVECU70から出力される信号としては、例えば、油圧制御装置(クラッチK0や、トルクコンバータ40のロックアップクラッチ40c、自動変速機42)への制御信号も挙げることができる。HVECU70は、エンジンECU24やモータECU34と通信ポートを介して接続されている。
【0028】
HVECU70は、電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ibに基づいてバッテリ36の蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと温度センサ36cからのバッテリ36の温度Tbとに基づいてバッテリ36の許容出力電力としての出力制限Woutを演算したりしている。
【0029】
こうして構成された実施例のハイブリッド車20では、HVECU70とエンジンECU24とモータECU34との協調制御により、ハイブリッド走行モード(HV走行モード)や電動走行モード(EV走行モード)で走行するように、エンジン22とクラッチK0とモータ30とトルクコンバータ40(ロックアップクラッチ40c)と自動変速機42とを制御する。ここで、HV走行モードは、クラッチK0を係合状態としてエンジン22やモータ30からの動力を用いて走行するモードであり、EV走行モードは、クラッチK0を解放状態としてモータ30からの動力だけを用いて走行するモードである。
【0030】
HV走行モードやEV走行モードにおける自動変速機42の制御では、HVECU70は、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて自動変速機42の目標変速段M*を設定し、自動変速機42の変速段Mが目標変速段M*となるように自動変速機42を制御する。また、HV走行モードやEV走行モードにおけるロックアップクラッチ40cの制御では、モータ30の回転数Nmなどに基づいてロックアップクラッチ40cを制御する。
【0031】
HV走行モードにおけるエンジン22およびモータ30の制御では、HVECU70は、最初に、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて、自動変速機42の出力軸44に要求される要求トルクTorqを設定する。続いて、モータ30の回転数Nmを自動変速機42の出力軸44の回転数Noutで除して回転数比Gtを演算し、要求トルクTorqを回転数比Gtで除して、モータ30の回転軸31に要求される要求トルクTmrqを演算する。そして、要求トルクTmrqになまし処理を施して目標トルクTmtgを設定し、設定した目標トルクTmtgがモータ30の回転軸31に出力されるようにエンジン22の目標トルクTe*やモータ30のトルク指令Tm*を設定し、エンジン22の目標トルクTe*をエンジンECU24に送信すると共にモータ30のトルク指令Tm*をモータECU34に送信する。なお、モータ30のトルク指令Tm*は、モータ30の最大許容トルクTmmax以下の範囲内で設定される。最大許容トルクTmmaxは、実施例では、モータ30の定格最大トルクTmrtと、バッテリ36の出力制限Woutをモータ30の回転数Nmで除して得られるバッテリ起因最大トルクTmbtと、のうちの小さい方が用いられる。エンジンECU24は、目標トルクTe*を受信すると、エンジン22が目標トルクTe*で運転されるようにエンジン22の運転制御(吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火制御など)を行なう。モータECU34は、トルク指令Tm*を受信すると、モータ30がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ32の複数のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。このHV走行モードでは、エンジン22の停止条件が成立すると、エンジン22の停止処理を実行してEV走行モードに移行する。
【0032】
EV走行モードにおけるモータ30の制御では、HVECU70は、HV走行モードと同様にモータ30の回転軸31の要求トルクTmrqや目標トルクTmtgを設定し、設定した目標トルクTmtgがモータ30の回転軸31に出力されるようにモータ30のトルク指令Tm*を設定してモータECU34に送信する。なお、モータ30のトルク指令Tm*は、モータ30の最大許容トルクTmmax以下の範囲内で設定される。モータECU34によるインバータ32の制御については上述した。このEV走行モードでは、エンジン22の始動条件が成立すると、エンジン22の始動処理(始動制御)を実行してHV走行モードに移行する。
【0033】
図2は、エンジン22の始動処理におけるエンジン22の回転数Ne、モータ30の回転数Nm、クラッチK0のトルク(クラッチトルク)の時間変化の一例を示す説明図である。エンジン22の始動処理では、クラッチK0のスリップ係合およびモータ30のアシスト制御によりエンジン22の回転数Neが増加を開始してからエンジン22のピストンが1回目(最初)の上死点または2回目の上死点に達したタイミングでエンジン22の燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量制御などを開始する。その後、エンジン22の燃料噴射制御や点火制御を継続しながらクラッチK0を解放すると共にモータ30のアシスト制御を終了し、エンジン22の回転数Neを更に増加させる。クラッチK0がスリップ係合し始めてからモータ30のアシスト制御を終了するまでの期間を「始動制御前期」と称する。そして、エンジン22の回転数Neがモータ30の回転数Nmに略一致した以降にクラッチK0を完全係合させる。クラッチK0を解放してからクラッチK0を完全係合させるまでの期間を「始動制御中期」と称する。その後、上述したHV走行モードでの走行を開始する。クラッチK0を完全係合させてからHV走行モードでの走行を開始するまでの期間を「始動制御後期」と称する。ここで、アシスト制御では、エンジン22の回転数Neを増加させつつ目標トルクTmtgがモータ30の回転軸31に出力されるように、モータ30の最大許容トルクTmmax以下の範囲内で、目標トルクTmtgとアシストトルクTmasとの和のトルクをモータ30のトルク指令Tm*に設定してモータ30(インバータ32)を制御する。アシストトルクTmasは、エンジン状態や環境やエンジン始動手法に応じて変化する値であり、実験や解析などにより定められる。なお、アシスト制御の実行中には、要求トルクTmrqをエンジン22の始動条件が成立したときの値で上限ガードするものとしてもよい。
【0034】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド車20の動作、特に、エンジン22の始動処理においてエンジン22を制御する際の動作について説明する。
図3は、エンジンECU24により実行されるエンジン制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、エンジン22の始動処理を実行しているときに、繰り返し実行される。
【0035】
本ルーチンが実行されると、エンジンECU24のCPUは、吸気管圧Pin、エンジン22の回転数Ne、モータ30の回転数Nm、アシストトルクTmas、エンジン22の目標トルクTe*を入力する処理を実行する(ステップS100)。吸気管圧Pinは、エンジン22の図示しないインテークマニホールド内の圧力を検出する圧力センサ22aで検出された値を入力している。エンジン22の回転数Neは、演算した値を入力している。モータ30の回転数Nmは、モータECU34で演算した値を、モータECU34から通信を介して入力している。上述したように、アシストトルクTmasは、実験や解析などにより定められた値を入力している。目標トルクTe*は、HV走行モードにおけるエンジン22およびモータ30の制御と同様の手法で設定された値を、HVECU70より通信を介して入力している。
【0036】
続いて、始動処理の進行状況、即ち、現在が始動制御前期、始動制御中期、始動制御後期のいずれかであるかを判定する(ステップS110)。始動制御前期であると判定したときには、エンジン22の回転数Neとモータ30の回転数NmとアシストトルクTmasと後述する第1マップMap1とから目標点火時期Tfire*を設定すると共に、目標スロットル開度TH*を所定開度THrefに設定する(ステップS120)。第1マップMap1は、始動制御前期におけるエンジン22の回転数Neとモータ30の回転数NmとアシストトルクTmasとエンジン22の点火時期との関係を表すマップである。第1マップMap1では、エンジン22の回転数Neが大きいときには小さいときに比して点火時期を遅角させて(点火時期を遅くして)エンジン22の点火を開始する際の初爆のショックを抑制し、モータ30の回転数Nmが高いときに低いときに比して点火時期を進角させて(点火時期を早くして)エンジン22の点火を開始する際のエンジン22から出力されるトルクを大きくしてエンジン22の回転数Neを迅速に増加させ、モータ30のアシストトルクTmasが大きいときには小さいときに比して点火時期を遅角させてエンジン22の回転数Neが急峻に増加しすぎないように設定するマップとなっている。第1マップMap1を用いることにより、エンジン22の始動性を良好にすると共に初爆のショックを抑制するように目標点火時期Tfire*を設定できる。
【0037】
こうして目標点火時期Tfire*、目標スロットル開度TH*を設定すると、始動制御前期では、エンジン22のピストンが1回目(最初)の上死点または2回目の上死点に達したタイミングで目標点火時期Tfire*でエンジン22が点火すると共にスロットルバルブの開度が目標スロットル開度TH*となるようにエンジン22を制御して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。こうした制御により、始動制御前期においては、エンジン22の始動性を良好にすると共に初爆のショックを抑制できる。
【0038】
ステップS110で始動制御中期であると判定したときには、エンジン22の回転数Neとモータ30の回転数Nmと吸気管圧Pinと後述する第2マップMap2とから目標点火時期Tfire*を設定すると共に、目標スロットル開度TH*を所定開度THrefに設定する(ステップS130)。第2マップMap2は、始動制御中期におけるエンジン22の回転数Neとモータ30の回転数Nmと吸気管圧Pinとエンジン22の点火時期との関係を示すマップである。第2マップMap2では、エンジン22の回転数Neがモータ30の回転数Nm以上のときには、点火時期をエンジン22から目標トルクTe*を効率良く出力するために定められる点火時期としての基準点火時期より遅角させて(点火時期を遅くして)エンジン22の回転数Neを低下させてエンジン22の回転とモータ30の回転との同期を図る。エンジン22の回転数Neが所定回転数Neref未満であり且つ吸気管圧Pinが所定圧力Pref以上のときには、停止からのエンジンの回転数Neが上昇中と判断して、点火時期を基準点火時期より遅角させて(点火時期を遅くして)エンジン22の回転数Neがモータ30の回転数Nmより高くなることを抑制する。エンジン22の回転数Neが所定回転数Neref未満であり且つ吸気管圧Pinが所定圧力Pref未満のときには点火時期を基準点火時期より進角させて(点火時期を早くして)エンジン22の燃焼性を向上させる。第2マップMap2を用いることにより、エンジン22の燃焼性が向上し且つエンジン22の回転とモータ30の回転とが早期に同期するように目標点火時期Tfire*を設定できる。なお、所定回転数Neref、所定圧力Prefは、エンジン22の回転数Neとモータ30の回転数Nmと吸気管圧Pinに対して一定値でもよいし、エンジン22の回転数Neとモータ30の回転数Nmと吸気管圧Pinとに応じて変化する値であってもよい。
【0039】
こうして目標点火時期Tfire*、目標スロットル開度TH*を設定すると、目標点火時期Tfire*でエンジン22が点火すると共にスロットルバルブの開度が目標スロットル開度TH*となるようにエンジン22を制御して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。こうした制御により、始動制御中期において、エンジン22の燃焼性を向上させると共に、エンジン22の回転とモータ30の回転とを早期に同期させることができる。
【0040】
ステップS110で始動制御後期であると判定したときには、目標点火時期Tfire*をエンジン22から目標トルクTe*を効率良く出力する点火時期としての基準点火時期に設定すると共に、目標スロットル開度TH*をエンジン22から目標トルクTe*を出力する際のスロットル開度としての基準開度に設定し(ステップS140)、目標点火時期Tfire*でエンジン22が点火すると共にスロットルバルブの開度が目標スロットル開度TH*となるようにエンジン22を制御して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。こうした制御により、エンジン22から目標トルクTe*を出力させることができる。
【0041】
このように、実施例では、始動処理(始動制御)において、始動処理(始動制御)の進行状況(始動制御前期であるか始動制御中期であるか)に基づいて、第1、第2マップMap1、Map2から1つのマップを選択し、選択したマップを用いてエンジン22を制御するから、始動制御の進行状況に応じて、適正に、エンジン22を制御できる。また、始動制御後期には、目標点火時期Tfire*をエンジン22から目標トルクTe*を効率良く出力する点火時期としての基準点火時期に設定すると共に、目標スロットル開度TH*をエンジン22から目標トルクTe*を出力する際のスロットル開度としての基準開度に設定するから、エンジン22から目標トルクTe*を出力させることができる。
【0042】
以上説明した実施例のハイブリッド車両の制御装置を搭載するハイブリッド車20によれば、始動処理(始動制御)は、始動制御の進行状況に基づいて、第1、第2マップMap1、Map2から1つのマップを選択し、選択したマップを用いてエンジン22を制御するから、始動処理(始動制御)の進行状況に応じて、適正に、エンジン22を制御できる。
【0043】
実施例のハイブリッド車両の制御装置を搭載するハイブリッド車20では、第1マップMap1は、始動制御前期におけるエンジン22の回転数Neとモータ30の回転数NmとアシストトルクTmasとエンジン22の点火時期との関係を表すマップとし、エンジン22の回転数Neとモータ30の回転数NmとアシストトルクTmasと第1マップMap1とに基づいてエンジン22の目標点火時期Tfire*を設定している。しかし、第1マップMap1を、始動制御前期におけるエンジン22の回転数Neおよびモータ30の回転数NmおよびアシストトルクTmasのうちの少なくとも1つとエンジン22の点火時期との関係を表すマップとし、エンジン22の回転数Neおよびモータ30の回転数NmおよびアシストトルクTmasのうちの少なくとも1つと第1マップMap1からエンジン22の目標点火時期Tfire*を設定してもよい。
【0044】
実施例のハイブリッド車両の制御装置を搭載するハイブリッド車20では、第1マップMap1では、エンジン22の回転数Neが大きいときには小さいときに比して点火時期を遅角させ、モータ30の回転数Nmが高いときに低いときに比して点火時期を進角させて、モータ30のアシストトルクTmasが大きいときには小さいときに比して点火時期を遅角させている。しかし、始動制御前期における点火時期は、エンジン22の始動性を良好にすると共に初爆のショックを抑制するように設定されればよいことから、エンジン22の仕様によっては、エンジン22の回転数Neやモータ30の回転数Nm、モータ30のアシストトルクTmasに対して実施例とは異なる傾向で設定されてもよい。
【0045】
実施例のハイブリッド車両の制御装置を搭載するハイブリッド車20では、第2マップMap2は、始動制御中期におけるエンジン22の回転数Neとモータ30の回転数Nmと吸気管圧Pinとエンジン22の点火時期との関係を示すマップとし、エンジン22の回転数Neとモータ30の回転数Nmと吸気管圧Pinと第2マップMap2とに基づいて、エンジン22の目標点火時期Tfire*を設定している。しかし、第2マップMap2を、始動制御中期におけるエンジン22の回転数Neおよびモータ30の回転数Nmおよび吸気管圧Pinのうちの少なくとも1つとエンジン22の点火時期との関係を示すマップとし、エンジン22の回転数Neおよびモータ30の回転数Nmおよび吸気管圧Pinのうちの少なくとも1つと第2マップMap2とからエンジン22の目標点火時期Tfire*を設定してもよい。
【0046】
実施例のハイブリッド車両の制御装置を搭載するハイブリッド車20では、第2マップMap2では、エンジン22の回転数Neがモータ30の回転数Nm以上のときには、点火時期をエンジン22から目標トルクTe*を効率良く出力するために定められる点火時期としての基準点火時期より遅角させて(点火時期を遅くして)、エンジン22の回転数Neが所定回転数Neref未満であり且つ吸気管圧Pinが所定圧力Pref以上のときには点火時期を基準点火時期より遅角させて(点火時期を遅くして)、エンジン22の回転数Neが所定回転数Neref未満であり且つ吸気管圧Pinが所定圧力Pref未満のときには点火時期を基準点火時期より進角させている。しかし、始動制御中期における点火時期は、エンジン22の燃焼性を向上させると共に、エンジン22の回転とモータ30の回転とが早期に同期するように設定されればよいことから、エンジン22の仕様によっては、エンジン22の回転数Neやモータ30の回転数Nm、吸気管圧Pinに対して実施例とは異なる傾向で設定されてもよい。
【0047】
実施例のハイブリッド車両の制御装置を搭載するハイブリッド車20では、第1、第2マップMap1、Map2をエンジン22の回転数Neとモータ30の回転数NmとアシストトルクTmasや吸気管圧Pinとエンジン22の点火時期との関係を示すマップとしている。しかし、第1、第2マップMap1、Map2をエンジン22の回転数Neとモータ30の回転数NmとアシストトルクTmasや吸気管圧Pinなどのハイブリッド車で走行に応じて変化するパラメータとエンジン22を制御するための他の制御量、例えば、燃料噴射量など他の制御量との関係を示すマップとしてもよい。
【0048】
実施例のハイブリッド車両の制御装置を搭載するハイブリッド車20では、ステップS120、S130で、目標スロットル開度TH*を所定開度THrefに設定している。しかし、ステップS120、S130で、目標スロットル開度TH*をエンジン22から目標トルクTe*を出力する際のスロットル開度としての基準開度に設定してもよい。
【0049】
実施例のハイブリッド車両の制御装置を搭載するハイブリッド車20では、クラッチK0は、油圧駆動の摩擦クラッチとして構成されるものとしたが、電磁クラッチなどの乾式クラッチとして構成されるものとしてもよい。
【0050】
実施例のハイブリッド車両の制御装置を搭載するハイブリッド車20では、自動変速機42は、6段変速の自動変速機として構成されるものとしたが、4段変速や5段変速、8段変速、10段変速などの自動変速機として構成されるものとしてもよい。
【0051】
実施例のハイブリッド車両の制御装置を搭載するハイブリッド車20では、エンジンECU24とモータECU34とHVECU70とを備えるものとした。しかし、これらのうちの少なくとも2つを一体に構成するものとしてもよい。
【0052】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジンECU24とモータECU34とHVECU70とが「ハイブリッド車両の制御装置」に相当する。
【0053】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0054】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
20 ハイブリッド車、22 エンジン、23 クランクシャフト、23a クランクポジションセンサ、24 エンジンECU、30 モータ、30a 回転位置センサ、31 回転軸、32 インバータ、34 モータECU、36 バッテリ、36a 電圧センサ、36b 電流センサ、36c 温度センサ、37 電力ライン、40 トルクコンバータ、40c ロックアップクラッチ、40p ポンプインペラ、40t タービンランナ、42 自動変速機、43 入力軸、43a 回転数センサ、44 出力軸、44a 回転数センサ、48 デファレンシャルギヤ、49 駆動輪、70 HVECU、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、87 車速センサ、88 加速度センサ。