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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/00 20060101AFI20250708BHJP
   C25D 17/06 20060101ALI20250708BHJP
   C25D 21/02 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
C25D17/00 H
C25D17/00 K
C25D17/06 A
C25D21/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021213696
(22)【出願日】2021-12-28
(65)【公開番号】P2023097530
(43)【公開日】2023-07-10
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 圭児
(72)【発明者】
【氏名】近藤 春樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 和昭
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 功二
(72)【発明者】
【氏名】柳本 博
(72)【発明者】
【氏名】森 連太郎
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178140(JP,A)
【文献】特開2018-154854(JP,A)
【文献】特開2018-135544(JP,A)
【文献】特開2017-133085(JP,A)
【文献】特開平02-070087(JP,A)
【文献】特開昭58-177487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/00
C25D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
前記陽極と陰極である基材との間に配置されるとともに前記基材の上方に位置する電解質膜と、
前記陽極が嵌め込まれた天板部と、前記天板部の周縁から下方に延びる側壁部と、前記基材側に開口して前記電解質膜に覆われる開口部とを有し、めっき液を収容する収容体と、
前記陽極と前記基材との間に電圧を印加する電源部と、を備え、
前記電解質膜が前記基材と接触した状態で、前記電圧の印加により前記めっき液中の金属イオンに由来した金属皮膜を前記基材の表面に成膜する成膜装置であって、
前記成膜装置は、
前記電解質膜が前記基材に接触して成膜を行う成膜状態と、前記電解質膜が前記基材から離間する非成膜状態とのいずれか一方の状態から他方の状態となるように、前記収容体を移動させる収容体移動装置と、
前記側壁部に内蔵された複数のヒータからなり、前記側壁部を介して前記収容体に収容される前記めっき液を加熱する加熱装置と、
記電解質膜を前記収容体から引き離し、更に引き離した前記電解質膜前記収容体の前記開口部を再び覆うように、前記電解質膜を上下方向に移動させる電解質膜移動装置と、
を更に備え
前記電解質膜移動装置は、前記非成膜状態において、前記収容体から前記電解質膜への伝熱を抑えるように前記電解質膜を前記収容体から引き離すことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記収容体への前記めっき液の供給と、前記収容体から前記めっき液が排出されるように前記収容体への気体供給とを行う供給装置を備える請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記収容体から前記電解質膜を引き離した状態で、前記基材側から前記電解質膜に接触し前記電解質膜の熱を吸収する吸熱部材、又は、前記収容体から前記電解質膜を引き離した状態で、前記基材側から前記電解質膜に接触し前記電解質膜を冷却する冷却装置を備える請求項1又は2に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関し、特に固相電析法に適した成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固相電析法に適した成膜装置として、例えば下記特許文献1に記載されたように、陽極と陰極である基材との間に配置される電解質膜と、陽極及びめっき液を収容し、基材側に開口した開口部を電解質膜で覆った収容体と、陽極と基材との間に電圧を印加する電源部とを備えており、電圧の印加によりめっき液中の金属イオンに由来した金属皮膜を基材の表面に成膜するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-169399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固相電析法で成膜する場合、成膜速度を高めるために、通常めっき液を30~90℃昇温して成膜を行う。また、複数の基材に対し成膜を連続的に実施する場合、収容体を所定の温度に保ったまま基材の交換を行う。そして、基材を交換する際にも収容体からの熱が電解質膜に伝熱し続けるため、電解質膜は収容体と同じ温度になる。これによって、電解質膜に付着しためっき液が蒸発し、電解質膜が乾燥状態になり、電解質膜の内部や表面にめっき成分(金属)が析出することがある。このようにめっき成分が電解質膜に析出した状態で交換された基材の表面に再び成膜すると、形成される金属皮膜にピットやピンホールが発生し、金属皮膜の品質に影響を与える可能性がある。
【0005】
本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、電解質膜に付着しためっき液の蒸発を抑制することができる成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る成膜装置は、陽極と、前記陽極と陰極である基材との間に配置される電解質膜と、前記陽極及びめっき液を収容し、前記基材側に開口した開口部を前記電解質膜で覆った収容体と、前記陽極と前記基材との間に電圧を印加する電源部と、を備え、前記電解質膜が前記基材と接触した状態で、前記電圧の印加により前記めっき液中の金属イオンに由来した金属皮膜を前記基材の表面に成膜する成膜装置であって、前記成膜装置は、前記電解質膜が前記基材に接触して成膜を行う成膜状態と、前記電解質膜が前記基材から離間する非成膜状態とのいずれか一方の状態から他方の状態となるように、前記収容体を移動させる収容体移動装置と、前記めっき液を加熱する加熱装置と、前記非成膜状態において、前記電解質膜を前記収容体から引き離し、又は引き離した前記電解質膜を前記収容体の前記開口部を再び覆うように、前記電解質膜を移動させる電解質膜移動装置と、を更に備えることを特徴としている。
【0007】
本発明に係る成膜装置では、非成膜状態において、電解質膜を収容体から引き離し、又は引き離した電解質膜を収容体の開口部を再び覆うように、電解質膜を移動させる電解質膜移動装置を備えるので、成膜された基材を次に成膜しようとする基材と交換する際に、電解質膜移動装置を用いて収容体から電解質膜を引き離すことで、収容体から電解質膜への伝熱を抑えることができる。その結果、電解質膜の温度が下がるので、電解質膜に付着しためっき液の蒸発を抑制することができ、電解質膜の乾燥を防止することができる。
【0008】
本発明に係る成膜装置において、前記収容体への前記めっき液の供給と、前記収容体から前記めっき液が排出されるように前記収容体への気体供給とを行う供給装置を備えることが好ましい。このようにすれば、収容体からめっき液を排出する際に、供給装置を用いて収容体に気体を供給することでめっき液を確実に排出することができる。この際に、収容体からの熱が電解質膜に伝熱しようとするが、電解質膜移動装置で電解質膜を収容体から引き離すことにより、収容体からの伝熱を抑えることができるので、電解質膜に付着しためっき液の蒸発を抑制することができる。
【0009】
本発明に係る成膜装置において、前記収容体から前記電解質膜を引き離した状態で、前記基材側から前記電解質膜に接触し前記電解質膜の熱を吸収する吸熱部材、又は、前記基材側から前記電解質膜に接触し前記電解質膜を冷却する冷却装置を備えることが好ましい。このようにすれば、吸熱部材を用いて電解質膜の熱を吸収し、又は冷却装置を用いて電解質膜を冷却することにより、電解質膜の温度を更に下げることができるので、電解質膜に付着しためっき液の蒸発を一層抑制することができる。
【0010】
また、本発明に係る成膜方法は、金属イオンを含むめっき液と接触した電解質膜を基材に接触させた状態で、陽極と、陰極である前記基材との間に電圧を印加し、前記電解質膜に含まれる金属イオンに由来した金属皮膜を前記基材の表面に成膜する成膜方法であって、収容体に形成された開口部を覆った前記電解質膜を、前記電解質膜に対向して配置された前記基材に接触させた後、前記めっき液を前記収容体に収容した状態で前記陽極と前記基材との間に電圧を印加して前記金属皮膜を成膜する工程と、前記金属皮膜の成膜後、前記収容体に収容された前記めっき液を前記収容体から排出する工程と、前記めっき液を前記収容体から排出した後、前記収容体を前記基材から離間させる工程と、前記収容体を前記基材から離間させた後、前記電解質膜を前記収容体から引き離す工程と、前記電解質膜を前記収容体から引き離した状態で、成膜された前記基材を次に成膜しようとする前記基材と交換する工程と、を含むことを特徴としている。
【0011】
本発明に係る成膜方法では、収容体を基材から離間させた後、電解質膜を収容体から引き離す工程を含むため、成膜された基材を次に成膜しようとする基材と交換する工程の前に、収容体から電解質膜を引き離すことで、収容体から電解質膜への伝熱を抑えることができる。その結果、電解質膜の温度を下げることができるので、電解質膜に付着しためっき液の蒸発を抑制することができ、電解質膜の乾燥を防止することができる。
【0012】
本発明に係る成膜方法において、前記電解質膜を前記収容体から引き離す工程と、成膜された前記基材を次に成膜しようとする前記基材と交換する工程との間に、吸熱部材又は冷却装置で前記電解質膜の温度を下げる工程を更に含むことが好ましい。このようにすれば、吸熱部材又は冷却装置で電解質膜の温度を下げることで、電解質膜に付着しためっき液の蒸発を一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電解質膜に付着しためっき液の蒸発を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る成膜装置を示す概略断面図である。
図2】電解質膜移動装置によって電解質膜が収容体から離間する様子を示す概略断面図である。
図3】電解質膜移動装置によって電解質膜が収容体から離間する様子を示す斜視図である。
図4】第1実施形態の成膜方法を示す工程図である。
図5】第2実施形態に係る成膜装置の吸熱部材を説明するための斜視図である。
図6】吸熱部材が電解質膜の下方に配置される様子を示す斜視図である。
図7】吸熱部材に起立周壁部が設けられることを説明するための斜視図である。
図8】第3実施形態に係る成膜装置の電解質膜移動装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明に係る成膜装置及び成膜方法の実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、その重複説明を省略する。
【0016】
[第1実施形態]
本実施形態の成膜装置1は、固相電析法を用いて基材12の表面に金属皮膜を形成する(言い換えれば、皮膜する)ためのめっき装置である。図1に示すように、成膜装置1は、陽極11と、陰極である基材12と、陽極11と基材12との間に配置された電解質膜13と、陽極11及びめっき液を収容する収容体14と、収容体14の下方に配置されるとともに基材12を載置するための載置台15と、陽極11と基材12との間に電圧を印加する電源部16と、備えている。
【0017】
陽極11は、金属材料により平板状に形成され、収容体14内に充填されるめっき液と接触できる状態で収容体14に内蔵されている。陽極11は、導線などを介して電源部16の正極と電気的に接続されている。この陽極11は、基材12に形成される金属皮膜と同じ材料(例えば銅)からなる可溶性の陽極、又は、めっき液に対して不溶性を有する材料(例えばチタン)からなる陽極のいずれであってもよい。
【0018】
基材12は例えば板状部材である。基材12の材料として、銅、銀、金、ニッケル、アルミニウム、鉄などの金属材料からなってもよく、樹脂、セラミックスなどの表面に上述した金属からなる金属層が被覆されていてもよい。基材12は、載置台15に設けられた導電部材17を介して電源部16の負極と電気的に接続されている。
【0019】
電解質膜13は、いわゆる固体電解質膜であり、一定の可撓性を有する。電解質膜13は、収容体14に収容されためっき液に接触させることにより、めっき液に含まれた金属イオンをその内部に含浸(含有)する。そして、電圧が印加されたときに、陰極(基材12)の表面に金属イオン由来の金属を析出する。
【0020】
電解質膜13の厚みは、例えば5~200μmである。電解質膜13の材料としては、例えばデュポン社製のナフィオン(登録商標)などのフッ素系樹脂、炭化水素系樹脂、ポリアミック酸樹脂、旭硝子社製のセレミオン(CMV、CMD、CMFシリーズ)などのイオン交換機能を有した樹脂を挙げることができる。
【0021】
収容体14は、めっき液に対して不溶性の材料からなり、その内部にめっき液を収容する液収容空間Sを有するように形成されている。具体的には、収容体14は、下方(すなわち、基材12側)に開口した開口部141と、開口部141の反対側に配置された天板部142と、天板部142の周縁から下方に延びる側壁部143とを有する。天板部142の底面には、上述した陽極11が嵌め込まれている。収容体14の陽極11に対向する位置には、電解質膜13が開口部141を覆うように配置されている。そして、陽極11、側壁部143及び電解質膜13によって囲まれた空間は、上述の液収容空間Sになる。
【0022】
すなわち、本実施形態の収容体14では、陽極11と電解質膜13とは、互いに離間して配置されて非接触状態にあるが、液収容空間Sにめっき液が充填されると、陽極11及び電解質膜13は、めっき液を介して接触することになる。
【0023】
また、収容体14には、めっき液が供給される供給流路14aと、めっき液が排出される排出流路14bとが設けられている。収容体14は、配管を介してタンク19及びポンプ20と接続されている。そして、タンク19からポンプ20によって送り出されためっき液は、供給流路14aから液収容空間Sに流入し、排出流路14bから排出されてタンク19に戻る。更に、排出流路14bの下流側には圧力調整弁21が設けられており、圧力調整弁21及びポンプ20により収容体14内のめっき液を所定の圧力で加圧することが可能である。
【0024】
また、タンク19とポンプ20との間には、三方弁24が設けられている。三方弁24は、タンク19と連通する通路、及びポンプ20と連通する通路に加えて、空気を取り入れる通路も有する。タンク19、ポンプ20及び三方弁24は、特許請求の範囲に記載の「供給装置」を構成する。すなわち、三方弁24において、タンク19と連通する通路及びポンプ20と連通する通路が連通した場合、ポンプ20の駆動により、タンク19に貯留されためっき液が収容体14の液収容空間Sに供給される。一方、三方弁24において、空気を取り入れる通路及びタンク19と連通する通路が連通した場合、ポンプ20の駆動により、空気が収容体14の液収容空間Sに供給される。液収容空間Sへの空気供給は、液収容空間S内のめっき液を排出するために用いられる。なお、ここでは、空気に代えて、三方弁24を介して接続されるガスボンベに貯留される他の気体を用いてもよい。
【0025】
更に、収容体14の供給流路14aは、仕切弁25を介して大気に開放される開放経路と接続されている。
【0026】
めっき液は、形成される金属皮膜の金属をイオンの状態で含有している液であり、その金属としては、銅、ニッケル、銀、または錫などを挙げることができる。めっき液は、これらの金属を、硝酸、リン酸、コハク酸、硫酸、またはピロリン酸などの酸で溶解(イオン化)した水溶液である。例えば金属がニッケルの場合には、そのめっき液としては、硝酸ニッケル、リン酸ニッケル、コハク酸ニッケル、硫酸ニッケル、ピロリン酸ニッケル、またはスルファミン酸ニッケルなどの水溶液を挙げることができる。また、金属が銅の場合には、そのめっき液としては、硫酸銅、ピロリン酸銅などを含む水溶液を挙げることができる。
【0027】
載置台15は、導電性を有する材料からなり、載置される基材12が電解質膜13と対向するように、収容体14の下方に配置されている。載置台15には、導電部材17が設けられている。導電部材17は、例えば金属板を断面Z字状に折り曲げることにより形成されている。導電部材17の一端部(図1及び図2では、下端部)は載置台15と接触し、他端部(図1及び図2では、上端部)は基材12の上面と接触している。なお、導電部材17は、基材12に脱着可能である。
【0028】
更に、本実施形態の成膜装置1は、電解質膜13が基材12に接触して成膜を行う成膜状態と、電解質膜13が基材12から離間する非成膜状態とのいずれか一方の状態から他方の状態となるように、収容体14を移動させる収容体移動装置18と、めっき液を加熱する加熱装置22と、非成膜状態において、電解質膜13を収容体14から引き離し又は引き離した電解質膜13を収容体14の開口部141を再び覆うように、電解質膜13を移動させる電解質膜移動装置23と、を備えている。
【0029】
収容体移動装置18は、例えば収容体14の上部に配置されており、油圧式または空圧式のシリンダ、電動式のアクチュエータ、リニアガイド及びモータなどによって構成されている。そして、収容体移動装置18の駆動によって、収容体14に配置された電解質膜13が載置台15に載置された基材12と接触するように、収容体14を載置台15と接近させることができる。また、収容体移動装置18の駆動によって、基材12に接触した電解質膜13が基材12から離れるように、収容体14を載置台15から離間させることができる。
【0030】
加熱装置22は、めっき液を加熱できるものであれば、その構成及び配置場所は特に限定されない。加熱装置22は、例えば収容体14の天板部142に内蔵されたヒータ、収容体14の側壁部143に内蔵されたヒータ、タンク19の内部に配置された投げ込みヒータ、タンク19の下部に配置されたヒータ、及び、載置台15に内蔵されたヒータのうち少なくとも一つであってもよい。なお、本実施形態では、加熱装置22は、例えば収容体14の側壁部143に内蔵された複数のヒータであり、側壁部143を介して液収容空間Sに収容されるめっき液を所定の温度となるように加熱する。このようにめっき液を所定の温度となるように加熱することで、金属皮膜の成膜速度を高めることができる。
【0031】
電解質膜移動装置23は、非成膜状態において、電解質膜13を保持した状態で該電解質膜13を収容体14に対して接離可能に設けられている。図1図3に示すように、本実施形態の電解質膜移動装置23は、収容体14の側壁部143の外壁に取り付けられた4本のリニアガイド231と、下方から電解質膜13を保持するとともにリニアガイド231に沿って上下方向に昇降可能な電解質膜保持枠233と、図示しないボールねじを回転させることにより電解質膜保持枠233を昇降させるモータ232と、を有する。電解質膜保持枠233は、四角枠状に形成されており、成膜時の電解質膜13と基材12との接触に干渉しないように、基材12よりも大きくなっている(図3参照)。
【0032】
電解質膜移動装置23において、例えばモータ232が正回転すると、ボールねじ軸が正回転し、それに伴って電解質膜保持枠233がリニアガイド231に沿って下降する。従って、電解質膜保持枠233により保持された電解質膜13は、収容体14から離れる(図2参照)。一方、モータ232が逆回転すると、ボールねじ軸が逆回転し、それに伴って電解質膜保持枠233がリニアガイド231に沿って上昇する。従って、電解質膜保持枠233により保持された電解質膜13は、収容体14に接近する。電解質膜13は、最終的に収容体14の開口部141を覆う位置まで上昇する(図1参照)。
【0033】
なお、電解質膜移動装置23は、上述した構造に限定されずに、例えば油圧式または空圧式のシリンダ、電動式のアクチュエータなどを含むように構成されてもよい。
【0034】
本実施形態の成膜装置1では、非成膜状態において、電解質膜13を収容体14から引き離し、又は引き離した電解質膜13を収容体14の開口部141を再び覆うように、電解質膜13を移動させる電解質膜移動装置23を備えるので、成膜された基材12を次に成膜しようとする基材12と交換する際に、該電解質膜移動装置23を用いて収容体14から電解質膜13を引き離すことで、収容体14から(より具体的には、収容体14の側壁部143から)電解質膜13への伝熱を抑えることができる。その結果、電解質膜13の温度が下がるので、電解質膜13に付着しためっき液の蒸発を抑制することができ、電解質膜13の乾燥を防止することができる。従って、電解質膜13を利用して交換された新しい基材12の表面に再び成膜する際に、乾燥によるめっき液からの成分の析出に起因した成膜不良を防止することができる。
【0035】
以下、図4を基に本実施形態の成膜方法を説明する。本実施形態の成膜方法では、上述の成膜装置1を用いて、複数の基材12に対し成膜を連続的に実施する場合を想定するものである。更に、以下の説明では、電解質膜13が電解質膜移動装置23の電解質膜保持枠233に保持されていることを前提とする。
【0036】
まず、ステップS101では、これから成膜しようとする基材12を載置台15に載置する。
【0037】
ステップS101に続くステップS102では、電解質膜移動装置23を用いて、電解質膜保持枠233に保持された電解質膜13で収容体14の開口部141を覆うように、電解質膜13を収容体14に接近させる。
【0038】
ステップS102に続くステップS103では、開口部141を覆った電解質膜13が載置台15に載置された基材12と接触するように、収容体移動装置18を用いて収容体14を下降させる。
【0039】
ステップS103に続くステップS104では、ポンプ20を駆動してタンク19に貯留されためっき液を収容体14に送る。これによって、タンク19に貯留されためっき液は、収容体14の供給流路14aから収容体14の液収容空間Sに供給される。そして、めっき液の液圧を受け、電解質膜13は基材12を押圧する。
【0040】
ステップS104に続くステップS105では、電圧印加を開始する。すなわち、電源部16を用いて、陽極11と陰極である基材12との間に電圧を印加する。電圧が印加されると、陰極である基材12の表面において金属イオン由来の金属が析出し、該基材12の表面に金属皮膜が形成される。
【0041】
そして、所望の膜厚の金属皮膜が形成されると、電圧印加を終了する(ステップS106参照)。
【0042】
なお、ステップS102~S106は、特許請求の範囲に記載の「金属皮膜を成膜する工程」を構成する。
【0043】
ステップS106に続くステップS107では、三方弁24及びポンプ20を用いて、収容体14の液収容空間Sに圧縮空気を供給し、液収容空間Sに収容されためっき液を排出する。すなわち、ステップS107は特許請求の範囲に記載の「めっき液を収容体から排出する工程」である。
【0044】
液収容空間Sに収容されためっき液を排出した後、収容体14の内部を大気に開放する。このようにすれば、液収容空間Sに供給された圧縮空気を大気に放出することができ、収容体14の開口部141を覆う電解質膜13の温度を下げることができる。
【0045】
ステップS107に続くステップS108では、基材12に接触した電解質膜13が基材12から離れるように、収容体移動装置18を用いて収容体14を上昇させる。これによって、収容体14は基材12から離間する。すなわち、ステップS108は特許請求の範囲に記載の「収容体を基材から離間させる工程」である。
【0046】
ステップS108に続くステップS109では、電解質膜移動装置23を用いて電解質膜13を収容体14から引き離す。すなわち、ステップS109は特許請求の範囲に記載の「電解質膜を収容体から引き離す工程」である。
【0047】
ステップS109に続くステップS110では、成膜された基材12を載置台15から取り外す。ステップS110が終わると、次に成膜しようとする基材12を載置台15に載置する(ステップS101)。ステップS110およびステップS101は、特許請求の範囲に記載の「成膜された基材を次に成膜しようとする基材と交換する工程」を構成する。これによって、上述のステップS101~S110が繰り返し実施される。
【0048】
本実施形態の成膜方法では、成膜された基材12を次に成膜しようとする基材12と交換する前に、収容体14から電解質膜13を引き離すことで、収容体14から(より具体的には、収容体14の側壁部143から)電解質膜13への伝熱を抑えることができる。その結果、電解質膜13の温度を下げることができるので、電解質膜13に付着しためっき液の蒸発を抑制することができ、電解質膜13の乾燥を防止することができる。従って、該電解質膜13で交換された基材12の表面に再び成膜する際に、乾燥によるめっき液からの成分の析出に起因した成膜不良を防止することができる。
【0049】
[第2実施形態]
次に、図5及び図6を基に成膜装置の第2実施形態を説明する。本実施形態の成膜装置1Aは、吸熱部材26を更に備える点において上述の第1実施形態と相違している。以下では、その相違点のみを説明する。
【0050】
図5及び図6に示すように、吸熱部材26は、例えば平板状を呈しており、電解質膜13より大きく形成されている。吸熱部材26は、上下方向と直交する前後方向(図5の矢印方向参照)においてスライド可能に設けられた左右一対のフレーム部材27に保持されている。
【0051】
より具体的には、フレーム部材27は、長尺状を呈しており、吸熱部材26を嵌め込むための凹溝271を有するように形成されている。フレーム部材27に用いられる材料としては、アルミニウムなどの金属材料、又は硬い樹脂材料が挙げられる。そして、左右一対のフレーム部材27は、凹溝271同士が対向した状態で、電解質膜移動装置23のリニアガイド231及び電解質膜保持枠233の下方に配置されている。このようにすれば、フレーム部材27に保持された吸熱部材26を基材12側から(言い換えれば、電解質膜13の下方から)電解質膜13に接触させることができる。
【0052】
吸熱部材26は、例えば銅やアルミニウムなどの熱伝導率の高い金属材料、母材又は母材にコーティングされた物質であってイオン化されにくい材料、グラファイトシートやカーボンファイバーシートなどの熱伝導シート、窒化アルミニウムなどにより形成されている。
【0053】
本実施形態の成膜装置1Aによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られるほか、吸熱部材26を更に備えるため、収容体14から電解質膜13を引き離した状態で、電解質膜13の下方から吸熱部材26を電解質膜13に接触させることで電解質膜13の熱を吸収することができる。これによって、電解質膜13の温度を更に下げることができるので、電解質膜13に付着しためっき液の蒸発を一層抑制することができる。
【0054】
なお、吸熱部材26の形状は上述した平板状に限定されず、例えば図7に示すように、電解質膜13の下方から電解質膜保持枠233に嵌め込むように、上方に起立する起立周壁部261が更に形成されてもよい。このようにすれば、電解質膜13の下方からのみならず、電解質膜保持枠233を介して電解質膜13の四周からも電解質膜13の熱を吸収することができるので、電解質膜13に付着しためっき液の蒸発をより一層抑制できる。なお、この場合において、吸熱部材26は、フレーム部材27によって前後方向にスライドできるとともに、上下方向にも移動できるように構成される。
【0055】
また、本実施形態では、吸熱部材26に代えて、ヒートシンクや水冷可能なチラーなどの冷却装置を用いてもよい。冷却装置は、下方から電解質膜13に接触した状態で電解質膜13を冷却するように、例えば吸熱部材26と同様にフレーム部材27に支持されるように設けられる。このようにすれば、吸熱部材26を用いた場合と同様な作用効果を得られる。
【0056】
なお、第2実施形態の成膜方法は、第1実施形態のステップS109(電解質膜を収容体から引き離すステップ)とステップS110(成膜された基材を取り外すステップ)との間に吸熱部材26で電解質膜13の温度を下げるステップ、ステップS101(基材を載置するステップ)とステップS102(電解質膜で収容体の開口部を覆う工程)との間に吸熱部材26を撤去するステップをそれぞれ加えればよい。本実施形態の成膜方法によれば、電解質膜13に付着しためっき液の蒸発を一層抑制することができる。
【0057】
[第3実施形態]
以下、図8を基に成膜装置の第3実施形態を説明する。本実施形態の成膜装置1Bは、電解質膜移動装置23が収容体14側に配置されておらず、載置台15側に配置される点において上述の第1実施形態と相違している。以下では、その相違点のみを説明する。
【0058】
図8に示すように、電解質膜移動装置23は、載置台15の外壁に取り付けられた4本のリニアガイド231と、下方から電解質膜13を保持するとともにリニアガイド231に沿って上下方向に昇降可能な電解質膜保持枠233と、ボールねじを回転させることにより電解質膜保持枠233を昇降させるモータ(図示せず)と、を有する。電解質膜保持枠233は、四角枠状に形成されており、成膜時において電解質膜13と基材12との接触に干渉しないように、基材12及び電解質膜13のいずれよりも大きくなっている。
【0059】
本実施形態の成膜装置1Bによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られる。
【0060】
[実施例及び比較例]
本願発明者らは、電解質膜に付着しためっき液の蒸発を抑制する効果を確認するため、更に伝熱解析での検証を行った。具体的には、熱回路網法を用いて、電解質膜の周縁部(すなわち、収容体の側壁部と接触する部分)の温度と、電解質膜の中央部(すなわち、収容体の開口部の中央に対応する部分)の温度をそれぞれ算出した。
【0061】
ここでは、加熱装置でめっき液を70℃に加熱しためっき液で、金属皮膜を成膜する場合を想定している。具体的には、算出条件を、収容体の温度を70℃に設定し、めっき液排出後の液収容空間S内の大気(空気)の温度を40℃に設定した。このような状態で60秒間保持した後、上述した電解質膜の周縁部の温度及び中央部の温度をそれぞれ算出した。算出した結果を表1に示す。
【0062】
また、表1に示す実施例1は、第1実施形態の成膜装置1を用いた例であり、表2に示す実施例2は第2実施形態の成膜装置1A(吸熱部材26を備える)を用いた例である。更に、比較のため、対策なしの成膜装置(すなわち、電解質膜移動装置23を設けない従来の成膜装置)を用いて同条件で温度算出を行った。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、対策なしの比較例では、電解質膜の周縁部の温度は70℃であった。これは、電解質膜の周縁部が収容体14の側壁部143と接触し、側壁部143からの熱により加熱され続けるため、温度が下がらないからである。また、電解質膜の中央部の温度は収容体14の周辺の空気の温度とほぼ同じで、40.2℃であった。これは、電解質膜の中央部は周縁部からの伝熱を受け、温度が下がり難いからである。
【0065】
一方、実施例1では、電解質膜の周縁部の温度は35℃、電解質膜の中央部の温度は25℃(室温と略同じ)であった。実施例1及び比較例の結果から、第1実施形態の成膜装置1によれば収容体から電解質膜への伝熱を抑えることができ、電解質膜に付着しためっき液の蒸発を抑制できる効果が示された。
【0066】
また、実施例2では、電解質膜の周縁部の温度は25℃(室温と略同じ)、電解質膜の中央部の温度は25℃(室温と略同じ)であった。実施例1及び実施例2の結果から、吸熱部材を備えることで電解質膜の温度を更に下げることができ、電解質膜に付着しためっき液の蒸発を一層抑制できる効果が示された。
【0067】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0068】
1,1A,1B:成膜装置、11:陽極、12:基材、13:電解質膜、14:収容体、14a:供給流路、14b:排出流路、15:載置台、16:電源部、17:導電部材、18:収容体移動装置、19:タンク、20:ポンプ、21:圧力調整弁、22:加熱装置、23:電解質膜移動装置、24:三方弁、25:仕切弁、26:吸熱部材、27:フレーム部材、141:開口部、142:天板部、143:側壁部、231:リニアガイド、232:モータ、233:電解質膜保持枠、261:起立周壁部、271:凹溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8