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  • 特許-セラミックス球形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】セラミックス球形体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20250708BHJP
   B02C 17/20 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
C04B35/486
B02C17/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021553014
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2021030514
(87)【国際公開番号】W WO2022044983
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2024-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2020144207
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】神井 康宏
(72)【発明者】
【氏名】新貝 真之
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正樹
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-075236(JP,A)
【文献】特開2017-056429(JP,A)
【文献】特開2006-193345(JP,A)
【文献】国際公開第2010/067782(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/486
B02C 17/20
C01G 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニアを主成分とし、正方晶の割合が80容量%以上95容量%以下、単斜晶の割合が5容量%以下であるセラミックス球形体であって、
平均粒径をX(μm)とした時に直径がX/2(μm)となるような該球形体の断面と該球形体の表面との交線部における最大高さうねりWz(μm)が、平均粒径X(μm)の0.5%以上1.2%以下であることを特徴とするセラミックス球形体。
【請求項2】
単斜晶の割合が0.1容量%以上である請求項1に記載のセラミックス球形体。
【請求項3】
粒度分布における1%粒径(D1)が0.7X(μm)以上であり、99%粒径(D99)が1.3X(μm)以下である請求項1又は2に記載のセラミックス球形体。
【請求項4】
最小粒径が0.7X(μm)以上であり、最大粒径が1.3X(μm)以下である請求項1~3のいずれかに記載のセラミックス球形体。
【請求項5】
前記セラミックス球形体の内部欠陥率が0.5%以下である請求項1~4のいずれかに記載のセラミックス球形体。
【請求項6】
前記セラミックス球形体の平均粒径が、30μm以上300μm以下である請求項1~5のいずれかに記載のセラミックス球形体。
【請求項7】
表面粗さRaが2.0nm以上5.0nm以下であり、チタン酸バリウム粉末の湿式粉砕に用いられる請求項1~6のいずれかに記載のセラミックス球形体。
【請求項8】
転動造粒成形法を用いて原料粉末を球状に成形した後、得られた成形体を、転動造粒機内で水のみを添加しながら、さらに10時間以上転動させる表面うねり低減工程を有する請求項1~7のいずれかに記載のセラミックス球形体の製造方法。
【請求項9】
前記表面うねり低減工程中の転動造粒機中の水分率を、造粒成長時よりも2~5%高くする請求項8に記載のセラミックス球形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス球形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料用途で使用される粉末の微粉砕やインク用途における顔料の分散時に、粉砕用メディアを用いて粉砕するボールミル、振動ミル、サンドミル、ビーズミル等の粉砕機が広く使用されている。こうした粉砕機用に用いられる、ボール、ビーズ等の粉砕用メディア(以下、単に「メディア」という場合がある)として、耐摩耗性、耐衝撃性の面で優れるジルコニアを主成分とするセラミックス焼結体が使用されている。
【0003】
ジルコニアを主成分とするセラミックス焼結体としては、ZrOとYの組成比率を限定し、Al量およびSiO量を制御することで、耐久性および耐摩耗性を向上したとするメディアが開示されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-316178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年は特に被粉砕物の性能向上を目的として粒子の微細化が一層求められており、それに伴い、300μm以下の粉砕用微小径メディアの利用が拡大している。微小径メディアは、転動造粒成形法、液中造粒成形法、プラズマ溶融成形法などにより製造されることが一般的であるが、いずれの造粒方法においても成形過程における粒の成長履歴、熱履歴、表面張力などの影響によりメディア表面にうねり形状が存在する。
【0006】
このようなメディア表面のうねりは局所的に曲率半径が小さい箇所である。本発明者らが検討した結果、メディア同士、メディアと被粉砕物およびメディアと装置壁面との衝突の際、メディア表面のうねり箇所では接触面積が小さく、高い圧力が印加される結果、メディアの破損が生じやすい要因となっていることがわかった。特に、水中に被粉砕物およびメディアを粉砕機等に混合して粉砕・分散を長時間行った場合、水温が高くなり、セラミックス焼結体の劣化が進み、破損が起きやすかった。
【0007】
本発明は、粉砕機に用いられるボール、ビーズ等のメディアとして用いることが可能で、常温の状態および水温が高い状態で粉砕・分散を行っても破損が生じにくいセラミックス球形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、上記課題を解決するための本発明は、ジルコニアを主成分とし、正方晶の割合が80容量%以上95容量%以下、単斜晶の割合が5容量%以下であるセラミックス球形体であって、平均粒径をX(μm)とした時に直径がX/2(μm)となるような該球形体の断面と該球形体の表面との交線部における最大高さうねりWz(μm)が、平均粒径X(μm)の0.5%以上1.2%以下であることを特徴とするセラミックス球形体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセラミックス球形体は、これを用いて常温の状態および水温が高い状態で被粉砕物の粉砕・分散を行ってもセラミックス球形体の破損が抑制されるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のセラミックス球形体における最大高さうねりWzの測定箇所、測定方向、および実際に測定したうねりプロファイル例を示した図である。図中のz軸方向の最大高さうねりを測定しており、x軸、y軸はそれに直交する平面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のセラミックス球形体は、ジルコニアを主成分とするセラミックス焼結体からなる。なお、以下本明細書においては、最終製品としてのセラミック焼結体、すなわち粉砕用メディア以外の、製造工程において一度以上の焼結を経て得られる中間体としてのセラミックス焼結体を総称して「中間焼結体」と呼称する。また、最終製品としてのセラミックス焼結体および中間焼結体の両者を総称して単に「焼結体」と呼称する。
【0012】
本発明のセラミックス球形体は、ジルコニアを主成分とするセラミック原料粉末(以下、単に「原料粉末」という場合がある)を球状に成形することで得られる。ここで、本明細書においてジルコニアを主成分とする、とは、ジルコニアの比率が90重量%以上であることを意味するが、ジルコニアの比率が全成分の93重量%以上であれば、特に高い強度を得ることができるため好ましい。
【0013】
セラミックスにおける各成分の含有量は次のようにして求めることができる。まず、セラミックスの試料を、万能試験機を用いて圧壊し、圧壊片約0.3gを白金るつぼに入れ、硫酸水素カリウムで融解する。これを希硝酸で溶解して定溶し、ICP発光分光分析法を用いて各金属元素を定量し、さらにそれを酸化物に換算して含有量を求める。以下、本発明のセラミックス球形体における成分を金属元素で表記することもあれば、酸化物で表記することもある。
【0014】
また、本発明のセラミックス球形体は、上記のような主成分以外に、酸化物換算でイットリア(Y)、セリア(CeO)、アルミナ(Al)、マグネシア(MgO)、カルシア(CaO)等を含むことが好ましい。これらは安定化剤として機能し、セラミックス球形体の強度、靭性を向上させることができる。中でもイットリアを含有することが好ましい。イットリアの含有量は、セラミックス球形体におけるイットリア/ジルコニアのモル比で4.6/95.4以上5.6/94.4以下が好ましく、より好ましくは4.8/95.2以上5.5/94.5以下である。
【0015】
本発明のセラミックス球形体は正方晶の割合が80容量%以上95容量%以下、単斜晶の割合が5容量%以下である。正方晶の含有量が80容量%以上であると、応力が印加された時に正方晶が単斜晶に変異して体積膨張し、メディアの亀裂を抑制することができるが、80容量%未満だとその効果が小さくなる場合がある。一方、正方晶の含有量が95容量%より大きいと、高温の水中において劣化が生じやすいため、粉砕・分散を長時間行う等して水温が上昇した場合に、セラミックス球形体が破損しやすくなる場合がある。また、破損防止の点から単斜晶の割合は少なければ少ないほど良く、5容量%以下である。好ましくは3容量%以下、より好ましくは1容量%以下である。しかしながら、セラミックス球形体の製造工程において、表面形状を平滑にするために後述の通り湿式研磨や後洗浄を行うことが一般的であり、湿式研磨時の水温上昇や研磨後の洗浄、乾燥する過程において、単斜晶が少なくとも0.1%以上は形成されることから、完全なゼロにはならないことが一般的である。セラミックス球形体の各結晶相の割合は、粉末X線回折法により測定することができる。
【0016】
本発明のセラミックス球形体は、平均粒径をX(μm)とした時に直径がX/2(μm)となるような該球形体の断面と該球形体の表面との交線部における最大高さうねりWz(μm)が、平均粒径X(μm)の0.5%以上1.2%以下、すなわち、(Wz/X)×100が0.5以上1.2以下である。一般に最大高さうねりは粒子の粒径に応じて大きくなるので、本発明では最大高さうねりを平均粒径で除した値を評価する。(Wz/X)×100が1.2より大きいと、粉砕中のセラミックス球形体同士またはセラミックス球形体と被粉砕物等との衝突において、セラミックス球形体に局所的な圧力集中が生じる結果、破損が生じやすくなる。(Wz/X)×100は1.0以下がより好ましい。また、(Wz/X)×100が0.5より小さいと、工業製品としての生産性に乏しい。
【0017】
ここで、平均粒径Xはセラミックス球形体を撮影した後、画像解析・計測ソフトを用いて測定することができる。具体的には以下のようにして測定される値である。セラミックス球形体の集合体をデジタルマイクロスコープで倍率10~200倍で撮影する。画像解析・計測ソフトを用いて、測定用画像の明度を基準として撮影画像を2値化する。2値化画像を最小二乗平均により円型図形分離し、分離したそれぞれの円の直径を個々のセラミックス球形体の直径として算出する。1000個のセラミックス球形体の直径の数平均値を平均粒径Xとする。
【0018】
また、「最大高さうねりWz」はJIS B 0601:2013に基づき、図1に示す通り、セラミックス球形体の直径1よりも小さい、X/2の直径2となるような該球形体の断面と該球形体の表面との交線部3について、上方4からセラミックス球形体をレーザー顕微鏡で観察して求めることができる。最大高さうねりWzを小さくする方法としては、例えば、後述する転動造粒機内で水のみを添加しながら長時間の転動を行うことが挙げられる。
【0019】
本発明のセラミックス球形体の内部欠陥率は0.5%以下が好ましい。ここで「内部欠陥」とは、セラミックス球形体内部における割れや空孔をいう。内部欠陥はセラミックス球形体を研削し、内部欠陥率が0.5%以下であることにより、セラミックス球形体の破損をより抑制することができる。内部欠陥率を0.5%以下とする方法としては、例えば、得られたセラミックス球形体に後述する熱間等方圧加圧処理を施す、後述する成形体の表面うねり低減工程を行うなどが挙げられる。
【0020】
本発明のセラミックス球形体は、平均粒径Xが30μm以上300μm以下であることが好ましい。平均粒径Xが30μm以上であることにより、被粉砕物とセラミックス球形体の分離が容易となり、セラミックス球形体の混入を防ぐことができる。平均粒径Xが300μm以下であることにより、被粉砕物を均一かつ微小に粉砕・分散することができる。平均粒径Xは後述する篩式分級などにより上記範囲とすることができる。
【0021】
本発明のセラミックス球形体は、最小粒径が0.7X(μm)以上であり、最大粒径が1.3X(μm)以下であることが好ましい。最小粒径が0.7X以上であることにより、被粉砕物とセラミックス球形体の分離が容易となり、セラミックス球形体の混入を防ぐことができる。また、最大粒径が1.3X(μm)以下であることにより、粉砕後の被粉砕物を均一な粒度分布とすることができる。最小粒径および最大粒径は、前述の平均粒径Xの測定と同様にして画像解析・計測ソフトを用い、円型図形分離したそれぞれの円の直径の最小値を最小粒径、最大値を最大粒径とすることで測定することができる。最小粒径および最大粒径は後述する篩式分級などにより上記範囲とすることができる。
【0022】
なお、セラミックス球形体の製造過程における不均一性に起因して、全ての粒子を球形状にすることは難しく、真球性の悪い粒子が1~数%ほど存在するケースが一般的である。特に、楕円形状の物は、円相当径よりも小さい開口幅の分級網を楕円短軸で通過してくる可能性や、逆に円相当径よりも大きい開口幅の分級網を楕円長軸で捕捉される可能性があり、セラミックス球形体の粒度分布の外側に外れ値として存在する可能性がある。そのため、抜き取りでの粒径評価で上記のような特殊形状の粒子の影響を排除できるよう、最小粒径や最大粒径ではなく、1%粒径(D1)、99%粒径(D99)で定義するほうがセラミックス球形体の粒径範囲をより正しく把握する上で好ましい。したがって、本発明におけるセラミックス球形体は、D1が0.7X(μm)以上であり、D99が1.3X(μm)以下であることが好ましい。D1、D99は最小粒径、最大粒径と同様の手法で評価可能である。
【0023】
本発明のセラミックス球形体は種々の方法で製造することができる。以下、一例として、転動造粒成形法により製造した例の詳細を説明する。
【0024】
原料粉末はまず、転動造粒成形法を用いて球状に成形される。転動造粒成形法は、回転しているドラム内に、セラミックス原料粉末と、結合剤および水分を含む液体バインダーとを交互に添加することによって球状の微粒を形成し、その後、回転の連動を微粒及び粉末に与えることで粒を成長させ、球状の成形体を作製する方法である。
【0025】
次に、得られた成形体の表面うねり低減工程として、少なくとも重量100kg以上の成形体を転動造粒機内で水のみを添加しながら少なくとも10時間以上、好ましくは約20時間、より好ましくは30時間以上、更に転動を行う。これにより、成形体表面が平坦化し、表面うねりが小さくなる。この工程中の転動造粒機中の水分率は造粒成長時よりも2~5%高めに設定することが望ましい。これによりセラミックス球形体の表層が水分を多く含む状態とすることで、転動圧力を受けた際の粒子移動(可塑性変形)が容易になる結果、凸部分が平坦化し、最大高さうねりWzの小さい平滑なセラミックス球形体を得ることができる。尚、水分過剰で粒子同士の凝集が生じないよう、経過時間毎に転動造粒中の粒子の加湿状態を把握するための外観目視観察や、サンプルを少量抜き取って行う粒子状態の顕微鏡観察、あるいは水分率やかさ密度といった加湿状態を示す物理量の把握など、品質管理をしながら転動を行う必要がある。
【0026】
また、上記の表面うねり低減工程は、成形体の緻密化を促進する効果も有しており、内部欠陥率の低減にも有効である。
【0027】
このように得られた成形体は水分を含んでいるため、そのまま後述する焼結工程に供すると、成形体内部の水分が急激に蒸発することで成形体に割れが生じる可能性がある。そのため、成形体は、焼結工程に供する前に、乾燥機等を用いて成形体内部の水分を徐々に減少させる乾燥工程に供される。
【0028】
このように、成形され、乾燥工程を経た成形体をコウバチ等に入れて焼成炉で焼成する焼結工程を行うことで、バインダーの除去および粉末粒子の結合がなされ、セラミックス焼結体が得られる。焼結工程では、1350~1450℃で1~3時間焼成することが好ましい。
【0029】
焼結工程を経た焼結体は、そのまま、あるいはさらに後述する研磨を経て、粉砕用メディアとして使用することができる。しかし、粉砕用メディアの欠陥をさらに減少させるためには、後述する熱間等方圧加圧工程を行うことが好ましい。以下、焼結工程後にさらに熱間等方圧加圧工程を行う場合について説明する。なお、熱間等方圧加圧工程を行わない場合、前述の焼結工程後の焼結体は最終製品であって「中間焼結体」ではないが、熱間等方圧加圧工程を行う場合の以下の説明においては「中間焼結体」として記述する。
【0030】
前述のように、焼結工程で得られた中間焼結体は、次に、熱間等方圧加圧(Hot Isostatic Pressing)処理(以下「HIP処理」という)を行う熱間等方圧加圧工程に供することが好ましい。HIP処理は、高温と等方的な圧力を被処理物に同時に加える処理であり、中間焼結体にHIP処理を行うことで、形状を変えることなく中間焼結体内部に残存する空隙や割れなどの欠陥を除去することができる。
【0031】
HIP処理は、焼結工程における焼結温度に対して0℃~50℃低い温度で行うことが好ましい。それより低い温度であると、HIP処理中におけるジルコニア等のセラミックス粉末の拡散が不十分となり、欠陥が残ってしまう場合がある。一方、HIP処理の温度が焼結温度より高いと、中間焼結体が粒成長することで強度低下を招き、また強度のバラツキも大きくなってしまう場合がある。HIP処理の温度は、より好ましくは焼結工程における焼結温度に対して0℃~40℃低い温度であり、さらに好ましくは0℃~30℃低い温度である。
【0032】
HIP処理の圧力は、欠陥を除去できるのに十分な圧力があればよく、100MPa以上の圧力で処理すれば問題無く処理することができる。高圧状態にするにはArガス雰囲気中で処理することが好ましい。
【0033】
以上のようにして得られた焼結体は、そのまま粉砕用メディアとして用いることができるが、さらにバレル研磨装置、ボールミル、ビーズミル等の装置を用いて表面を研磨することによって、より高品質な粉砕用メディアを得ることができる。
【0034】
さらに、焼結体を分級工程により分級することが好ましい。分級工程により所望の平均粒径、最小粒径および最大粒径とすることができる。分級方法としては、メッシュ状の篩を用いて分級する篩式分級などが挙げられる。篩分級は、篩を2段重ねて、相対的に粒径の大きい粗粉と相対的に粒径の小さい微粉を1回の操作で分離するようにしてもよい。
【0035】
なお、上記の表面研磨工程に関して、本発明者らが検討した結果、特に、高い攪拌エネルギーを有するビーズミル装置を用いた湿式研磨を行うことで、より良好な表面平滑性が得られることを見い出した。表面平滑性は、湿式分散プロセスにおけるセラミックス球形体の摩耗量に大きく影響する因子であり、表面平滑性が悪い場合、すなわち表面の凹凸が大きい又は多い場合、セラミックス球形体同士あるいはセラミックス球形体と被分散物との間で生じる衝突の際に、凸形状部分が容易に削れることでセラミックス球形体の主要成分であるジルコニアの摩耗量が増大する結果、被分散物の品質に大きな影響を与えうる。特に、本発明のセラミックス球形体メディアの主要な用途である、積層セラミックスコンデンサ製造用の高誘電体原料に用いられるチタン酸バリウム粉末を湿式分散する工程においては、セラミックス球形体の摩耗に起因するジルコニア成分がチタン酸バリウムに混入することで、チタン酸バリウムの焼結反応を阻害する影響を及ぼし、焼結後のチタン酸バリウムの一次粒子径の均一性が損なわれることが知られている。このような一次粒子径の不均一さは、コンデンサの電気特性(容量、誘電損失など)を悪化させたり、1層当りの厚さが僅か1μmにも満たない薄い誘電体層の形成において表面凹凸を助長し、平坦な積層構造を形成するプロセスにおける阻害要因となりうる。そのため、チタン酸バリウムの湿式分散工程において、被粉砕物に混入したジルコニア摩耗量は高い精度で管理されており、摩耗量が少ない且つ安定したセラミックス球形体メディアが望まれている。それを実現するためには、セラミックス球形体表面の平滑性の確保が必要である。
【0036】
上記のビーズミル装置を用いた研磨工程において、良好な表面平滑性を得るために重要なプロセス因子は、研磨材の種類(素材、粒径)およびそのスラリー濃度、攪拌速度(周速)、処理時間である。微小なサイズのセラミックス球形体ほど自重が軽いため、表面を研磨するためには高い研磨エネルギーが必要である。研磨材としては、切削力の高いシリコンカーバイト(SiC)やアルミナ(Al)を用いることが望ましく、その粒径は大きいほど切削力が高い反面、粒径が小さいほど切削傷を低減できるため平滑な表面が得られやすい。そのため、生産効率観点からは、最初に大きな粒径の研磨材で粗研磨したのち、仕上げ研磨として小さい粒径の研磨材を用いることが有用であり、粗研磨用としては粒径3~10μm程度、仕上げ研磨用としては0.5~2μm程度の粒径が望ましい。また、研磨材のスラリー濃度は、研磨処理中の研磨材自身の凝集防止の観点から1~5重量%程度とすることが望ましい。同じく凝集防止の観点からは、研磨材の種類に応じた分散剤を0.3~3重量%ほど添加することが望ましい。装置運転条件である攪拌速度(周速)は、生産能力の観点からは速いほうが望ましいが、速すぎる場合にはセラミックス球形体の表面に研磨材の残渣付着が発生しやすくなるため、両立の観点からは8~14m/sの範囲が望ましい。処理時間は、装置スペックやセラミックス球形体のサイズ、研磨材の種類などに応じて異なるが、少なくとも2時間以上、望ましくは4時間以上行うことが望ましい。また、研磨処理が完了したのちに、研磨材を含まない水のみ、もしくは水と分散剤のみで処理することで、セラミックス球形体表面に付着した残渣を除去することが可能であり、0.5~2時間程度行うことが望ましい。
【0037】
以上のようなビーズミルを用いた湿式研磨を適正な条件で行った結果、例えばバレル研磨方式では表面粗さRa=20~40nm程度の平滑性に対して、Ra=2~10nmの平滑性を得ることが可能になる。2nm以下にするにはより微小な粒径の研磨材を用いて長時間もしくは高い周速での研磨を行う必要があるが、研磨材の凝集が生じやすくなる結果、製品への混入が懸念されるため、本発明による製法としては上記の表面粗さ範囲が妥当である。表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて評価することが可能である。なお、本発明では、セラミックス球形体10個を抜き取り評価し、その平均値を表面粗さ値Raとしている。
【0038】
上記の表面粗さRa=2~10nmのセラミックス球形体のチタン酸バリウムの湿式分散における摩耗量を評価した結果、Ra=10nmから5nmまでは平滑なほど摩耗量も低減するが、5nm以下ではほぼ横ばいになることが分かった。これは、ジルコニア球形体がチタン酸バリウムからの切削作用を受けるため、例え初期平滑性が2nm程度であっても、使用後には切削傷により5nm前後の平滑性に悪化するためであると考えられる。以上の結果から、本発明におけるチタン酸バリウムの湿式分散用途に関して、セラミックス球形体起因のジルコニア摩耗量を低減かつ安定化させるには、セラミックス球形体の表面粗さRa=2~5nmの範囲が望ましい。
【実施例
【0039】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0040】
(測定方法)
(平均粒径、最小粒径、最大粒径、1%粒径(D1)、99%粒径(D99)
粒径は次の方法で測定した。セラミックス球形体の集合体をデジタルマイクロスコープVHX-2000(Keyence製)で倍率10~200倍で撮影した。画像解析・計測ソフトウェアWinROOF(登録商標:三谷商事社製)を用いて、測定用画像の明度を基準として2値化した。2値化画像を最小二乗平均により円型図形分離し、分離したそれぞれの円の直径を個々のセラミックス球形体の直径として算出した。また、1000個のセラミックス球形体の直径の数平均値を平均粒径Xとした。また、円型図形分離したそれぞれの円の直径の最小値を最小粒径、最大値を最大粒径とした。加えて、個数割合で最小側から数えて累積個数1%の相当径を1%粒径(D1)、累積個数99%の相当径を99%粒径(D99)とした。
【0041】
(結晶相の割合)
試料を樹脂包埋し、断面出しおよび鏡面研磨を行って測定試料とした。それを試料ホルダーに貼り付け、広角X線回折法(微小部X線回折)で測定を行った。測定条件は以下のとおりである。
X線源:CuK線(多層膜ミラー使用)
出力:50kV、22mA
スリット系:100μmφピンホール
測定範囲:2θ=23°~33°、70°~77°
積算時間:3600秒/フレーム。
【0042】
測定結果より、以下の式を用いてジルコニアの各結晶層の含有率を算出した。
単斜晶の含有率(%)=[{I(111)+I(1-1-1)}/{I(111)+I(1-1-1)+It+c(111)}]×100
立方晶の含有率(%)=[It+c(111)/{I(111)+I(1-1-1)+It+c(111)}]×[{I(400)/{I(400)+I(400)+I(004)}×100
正方晶の含有率(%)=100-単斜晶の含有率-立方晶の含有率
ここに、Iは回折強度を示す。添え字のm、t、cはそれぞれ単斜晶、立方晶、正方晶を示す。回折強度の( )内は各結晶の指数を示す。
【0043】
(最大高さうねりWz)
最大高さうねりWz(μm)はJIS B 0601:2013に基づく。セラミックス球形体をレーザー顕微鏡VK-X-150(Keyence製)を用いて、図1中の4に示す測定方向(図1中のz軸方向)から、直径が図1中の2に示すX/2(μm)となるような該球形体の断面(図1中のz軸と直行するxy平面上)と該球形体の表面との交線部、すなわち図1中の3に示す箇所について、非接触で10個の球形体を対象に、測定長=平均粒径X/2×3.141(μm)、高周波成分除去用カットオフ値λs=2.5(μm)、低周波成分除去用λc=無しの条件でz軸方向の最大高さうねりWzを測定し、最大高さうねりWzの平均値を算出した。ここで図1中の5は、本発明における最大高さうねりWzの測定プロファイル例である。
【0044】
(表面粗さRa)
表面粗さRa(nm)はJIS B 0601:2013に基づく。セラミックス球形体の集合体から粒子を任意に10個抜き取りし、原子間力顕微鏡(Bruker社、NanoScopeV)を用いて、セラミックス球形体の平均粒径Xの1/10四方サイズの測定エリアで球形体中心付近を走査速度=0.3Hz、解像度256×256で走査して、得られた画像について、Flatten1次、PlaneFit-x3次処理を行い、曲面を平面にフィッテイング補正した画像を得た。平面補正した画像について、表面粗さRaを評価する。各粒子につき3回ずつ評価し、10粒子×3回=計30点のRaの平均値をこのセラミックス球形体での表面粗さ値Raとした。
【0045】
(内部欠陥率)
内部欠陥率は次の方法で測定した。セラミックス球形体を研削機で球形体径の40~60%の大きさまで研削した後、さらに粒径6μmのダイヤモンドスラリーで10分以上仕上げ研磨して略断面を得た。得られたサンプルを、デジタルマイクロスコープVHX-2000(Keyence製)で倍率10~200倍で観察し、観察できる割れの数をカウントした。200個のセラミックス球形体を観察し、それらの内、割れや点欠陥があるセラミックス球形体の割合を算出し、内部欠陥率とした。
【0046】
(圧壊荷重値)
圧壊荷重値は次の方法で測定した。セラミックス球形体を直径20mmのジルコニア製の円柱状冶具で挟み、電子式万能試験機CATY-2000YD(米倉製作所製)で0.5mm/minの速度で圧縮荷重をかけ、破壊したときの荷重値を測定した。測定は30個のセラミックス球形体で行い、値は平均値を採用した。また、セラミックス球形体が高温の水中に曝された場合の強度試験として、得られたセラミックス球形体を水温90℃中に50時間静置し、その後のセラミックス球形体の圧壊荷重値を「水熱試験後の圧壊荷重値」として測定した。測定は30個の球形体で行い、値は平均値を採用した。さらに、{(水熱試験前の圧壊荷重値)―(水熱試験後の圧壊荷重値)}/(水熱試験前の圧壊荷重値)×100により水熱試験後の圧壊荷重の低下率として算出した。
【0047】
(割れ試験)
次の方法により割れ試験を行った。得られたセラミックス球形体の集合体をビーズミル装置(広島メタル&マシナリー社製、型式UAM-015)に220g充填し、20℃の純水300gを循環し、周速12m/sで24時間の攪拌を行った。攪拌後、セラミックス球形体を取り出し、デジタルマイクロスコープVHX-2000(Keyence)を用いて倍率10~200倍で観察を行い、割れの有無を確認した。1000個のセラミックス球形体を確認し、割れたセラミックス球形体の個数を割れ個数とした。
【0048】
(チタン酸バリウムの湿式分散における摩耗量評価、割れ評価)
次の方法によりチタン酸バリウムの湿式分散におけるセラミックス球形体の摩耗量評価を行った。得られたセラミックス球形体の集合体をビーズミル装置(広島メタル&マシナリー社製、型式UAM-015)に220g充填し、20℃の純水300gにチタン酸バリウム30g(シグマアルドリッチ社、チタン(IV)酸バリウム)、分散剤を3g(東京化成工業(株)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を調合して作製したスラリーを循環し、周速12m/sで4時間の湿式分散を実施。得られたスラリーを熱風乾燥機で90℃×24時間乾燥し、乾固したチタン酸バリウム粉末をすり鉢を用いて微粉砕したのち、蛍光X線分析装置(理学電気工業製 ZSX PrimusII)を用いてチタン、バリウムの強度ピーク面積に対するジルコニウムの強度ピーク面積の比率を求めることで、チタン酸バリウム粉末中のジルコニア量(セラミックス球形体摩耗量)を算出した。また、この試験の実施後に、前述の割れ試験と同様の手法にて、デジタルマイクロスコープを用いてセラミックス球形体の割れ個数を確認した。
【0049】
[実施例1]
オキシ塩化ジルコニウムに塩化イットリウムを、得られるセラミックス球形体における酸化物換算で表1のイットリア/ジルコニアモル比に示す割合となるよう加え、共沈法で原料粉末を作製した。
【0050】
次に上記原料粉末を用いて転動造粒成形法で焼結後の平均粒径Xが50μm前後となるサイズまで成形体を造粒成型した。
【0051】
次に、得られた成形体の表面うねり低減工程として、転動造粒機内で水分率を一定に保つよう水のみを添加しながら約40時間の転動を行うことにより、表面うねりを低減させた。
【0052】
以上のとおり得られた成形体を乾燥した後に、1400℃で2時間焼成し、中間焼結体を得た(焼結工程)。その後、中間焼結体に対し、1380℃、120MPaで1.5時間HIP処理を行った(熱間等方圧加圧工程)。得られた焼結体についてバレル研磨装置を用いて表面研磨した後、篩式分級を行うことで、表1に示す粉砕用球形メディアを作製した。
【0053】
[実施例2]
実施例1の原料粉末を用いて、実施例1と同様に転動造粒成形法で焼結後の平均粒径Xが100μm前後となるサイズまで成形体を造粒し、表面うねり低減工程を実施した。得られた成形体を乾燥して水分を除去した後に、焼成、HIP処理を行った。得られた焼結体はバレル研磨装置で表面を研磨した後、篩式分級を行うことで、表1に示す粉砕用球形メディアを作製した。
【0054】
[実施例3]
実施例1の原料粉末を用いて、実施例1と同様に転動造粒成形法で焼結後の平均粒径Xが200μm前後となるサイズまで成形体を造粒し、表面うねり低減工程を実施した。得られた成形体を乾燥して水分を除去した後に、焼成、HIP処理を行った。得られた焼結体はバレル研磨装置で表面を研磨した後、篩式分級を行うことで、表1に示す粉砕用球形メディアを作製した。
【0055】
[実施例4]
実施例1と同様に、転動造粒成形法で焼結後の平均粒径Xが50μm前後となるサイズまで成形体を造粒した。表面うねり低減工程の時間を10時間に短縮した以外は実施例1と同様に実施して、表1に示す粉砕用球形メディアを作製した。
【0056】
[実施例5]
実施例2と同様に、転動造粒成形法で焼結後の平均粒径Xが100μm前後となるサイズまで成形体を造粒した。表面うねり低減工程の時間を10時間に短縮した以外は実施例2と同様に実施して、表1に示す粉砕用球形メディアを作製した。
【0057】
[実施例6]
実施例3と同様に、転動造粒成形法で焼結後の平均粒径Xが200μm前後となるサイズまで成形体を造粒した。表面うねり低減工程の時間を10時間に短縮した以外は実施例3と同様に実施して、表1に示す粉砕用球形メディアを作製した。
【0058】
[実施例7]
実施例2と同様に、転動造粒成形法で焼結後の平均粒径Xが100μm前後となるサイズまで成形体を造粒した。HIP工程の処理温度を1380℃から1300℃に変更した以外は実施例2と同様に実施して、表1に示す粉砕用球形メディアを作製した。
【0059】
[実施例8]
実施例1と同じ製造プロセスをHIP処理まで行い、研磨工程はビーズミルを用いて以下の通り実施した。研磨材として粒径3μmのアルミナ((株)チップトン社、ライト1A)を3.0重量%、分散剤としてポリカルボン酸ナトリウム塩(中京油脂(株)、セルナD-305)を0.5重量%調合した研磨スラリーを用いて、ビーズミル攪拌周速=12m/sで計6時間研磨したのち、粒径1μmのアルミナ((株)チップトン社、ライト1A)を1.0重量%、分散剤は同じくD-305を0.5重量%調合した研磨スラリーで4時間の研磨を実施。最後にD-305のみ0.5重量%調合したスラリーで2時間の共摺りを行うことでセラミックス球形体の表面残渣を除去し、表面粗さRa=2nmのセラミックス球形体を得た。その後の篩式分級は実施例1と同様の手法で行った。
【0060】
[実施例9]
実施例1と同じ製造プロセスをHIP処理まで行い、研磨工程はビーズミルを用いて以下の通り実施した。研磨材として粒径3μmのアルミナ((株)チップトン社、ライト1A)を3.0重量%、分散剤としてポリカルボン酸ナトリウム塩(中京油脂(株)、セルナD-305)を0.5重量%調合した研磨スラリーを用いて、ビーズミル攪拌周速=12m/sで計6時間研磨したのち、D-305のみ0.5重量%調合したスラリーで2時間の共摺りを行うことでセラミックス球形体の表面残渣を除去して表面粗さRa=5nmのセラミックス球形体を得た。その後の篩式分級は実施例1と同様の手法で行った。
【0061】
[実施例10]
実施例1と同じ製造プロセスをHIP処理まで行い、研磨工程はビーズミルを用いて以下の通り実施した。研磨材として粒径3μmのアルミナ((株)チップトン社、ライト1A)を3.0重量%、分散剤としてポリカルボン酸ナトリウム塩(中京油脂(株)、セルナD-305)を0.5重量%調合した研磨スラリーを用いて、ビーズミル攪拌周速=12m/sで計3時間研磨したのち、D-305のみ0.5重量%調合したスラリーで2時間の共摺りを行うことでセラミックス球形体の表面残渣を除去して表面粗さRa=10nmのセラミックス球形体を得た。その後の篩式分級は実施例1と同様の手法で行った。
【0062】
[比較例1]
実施例1と同様に、転動造粒成形法で焼結後の平均粒径Xが50μm前後となるサイズまで成形体を造粒した。表面うねり低減工程を省略した以外は実施例1と同様に実施して、表1に示す粉砕用球形メディアを作製した。
【0063】
[比較例2]
実施例2と同様に、転動造粒成形法で焼結後の平均粒径Xが100μm前後となるサイズまで成形体を造粒した。表面うねり低減工程を省略した以外は実施例2と同様に実施して、表1に示す粉砕用球形メディアを作製した。
【0064】
[比較例3]
実施例3と同様に、転動造粒成形法で焼結後の平均粒径Xが200μm前後となるサイズまで成形体を造粒した。表面うねり低減工程を省略した以外は実施例3と同様に実施して、表1に示す粉砕用球形メディアを作製した。
【0065】
[比較例4~6]
オキシ塩化ジルコニウムに塩化イットリウムを、得られるセラミックス球形体における酸化物換算で表1のイットリア/ジルコニアモル比に示す割合となるよう加え、共沈法で原料粉末を作製した。
【0066】
次に上記原料粉末を用いて、実施例2と同様に、転動造粒成形法で焼結後の平均粒径が100μmとなるサイズまで成形体を造粒し、表面うねり低減工程を実施した。得られた成形体を乾燥して水分を除去した後に、焼成、HIP処理を行った。得られた焼結体はバレル研磨装置で表面を研磨した後、篩式分級を行うことで、表1に示す粉砕用球形メディアを作製した。
【0067】
[比較例7]
比較例1と同じ製法をHIP工程まで行い、研磨工程は実施例8と同じビーズミルを用いた研磨条件にて実施することで、表面粗さRa=3nmの表面平滑性を得た。篩式分級も実施例8と同様に実施した。
【0068】
評価結果を表1~2に示す。
【0069】
実施例1~6に示されるとおり、表面うねりを低減することにより、破損しにくいセラミックス球形体が得られた。実施例7では、HIP温度を下げたことで内部欠陥率が高くなり、割れ個数がやや増加したが、許容範囲内であった。
【0070】
比較例1~3では、表面うねりが大きいため、破損しやすいセラミックス球形体であった。比較例4では、単斜晶の割合が大きいため、破損しやすいセラミックス球形体であった。比較例5では、正方晶の割合が大きいため水熱試験後の圧壊荷重値の低下率が大きく、水温が上昇した場合に破損する可能性の高いセラミックス球形体であった。比較例6では正方晶の割合が小さいため、破損しやすいセラミックス球形体であった。
【0071】
また、実施例1および実施例8~10に示されるとおり、表面粗さRa=5~20nmの範囲では、Raの低減に伴いチタン酸バリウムの湿式分散におけるジルコニア摩耗量は低減するが、5nmと2nmでは同程度となった。また、その際のセラミックス球形体の割れ個数は、実施例1,8~10いずれも発生ゼロであった。また、割れ試験における割れ耐性は、実施例1と同様に実施例8~10においても発生ゼロであった。
【0072】
比較例7では、チタン酸バリウムの湿式分散におけるジルコニア摩耗量は実施例10よりは少ないものの実施例8~9よりは高めの数値となった。セラミックス球形体の割れ発生が見られており、微小な割れ破片がチタン酸バリウム分散物に混入した影響との可能性が考えられる。割れ試験における割れ個数についても比較例1と大差無く、割れ発生が見られた。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【符号の説明】
【0075】
1:セラミックス球形体の直径
2:X/2(μm)となる直径
3:直径がX/2(μm)となるようなセラミックス球形体の断面と該球形体の表面との交線部
4:最大高さうねりWzの測定方向
5:最大高さうねりWzの測定プロファイルの事例
図1