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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/17 20160101AFI20250708BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20250708BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20250708BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20250708BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20250708BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20250708BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20250708BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20250708BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20250708BHJP
【FI】
B60W20/17 ZHV
B60W10/08 900
B60W10/26 900
B60K6/48
F02D45/00 364A
F02D45/00 362
B60L15/20 J
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022041472
(22)【出願日】2022-03-16
(65)【公開番号】P2023136059
(43)【公開日】2023-09-29
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】服部 晋治
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-264796(JP,A)
【文献】特開2001-054206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
F02D 45/00
B60L 15/20
B60L 50/16
B60L 50/60
B60L 58/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンパトルクとは逆位相のトルクをモータに与えることで振動を除去する制振制御を実施するハイブリット車両の制御方法であって、
所定の回転数でエンジンを回転させる際に、制振制御を実施した場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、制振制御を実施しない場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、の差が所定の値以上であるか否かを判定し、
前記差が所定の値以上である場合に、制振制御を実行する際に、
エンジンの回転数が、
前記制振制御を実施する場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、前記制振制御を実施しない場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、の差が所定のトルク以上となる領域であり、かつ、
エンジントルクが、
前記制振制御を実施する場合において所定の振動が発生するエンジントルク以下であるとともに、前記制振制御を実施しない場合において所定の振動が発生するエンジントルク以上である領域を、制振制御を実行する領域として設定し、
前記制振制御を実行する領域では、
制振制御に必要な電池出力を、エンジンの回転数と、制振を行う際に発生させる制振トルクの値と、を利用して算出し、
前記制振制御を実施する前に、前記算出された制振制御に必要な電池出力をリザーブする、
車両の制御方法。
【請求項2】
前記制振制御に必要な電池出力がリザーブできない場合に、制振制御を実行しない条件となるまでエンジンの回転数を上昇させる、
請求項1に記載の車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の動力源として内燃機関とモータが使用されており、動力源として内燃機関とモータの両方が利用されるハイブリット車が知られている。
【0003】
車両が走行する際には、車両こもり音が発生する場合がある。具体的には、車両は、弾性体で構成されており、各コンポーネンツやそれらが結合されている系に時間的に変化するトルクが加わると、ねじり振動を生ずる。そして、トルクの振動数がねじり共振周波数に合致すると、ねじり振動の振幅が増加して騒音等の原因となる。
【0004】
特許文献1では、このねじり振動を低減する技術として、クランク角とインプットシャフト角から算出されたダンパトルクを、モータによって逆位相で出力することによって、トルクの変動を低減する制御を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-100580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された制御方法では、モータからトルクを出力する必要があることから、車両の制振制御を必要としない状態のときに、制振制御のためのトルクを出力させ続けると、燃費が低下するという問題がある。
【0007】
本開示は、上記に示す課題を鑑みてなされたものであり、車両に制振制御が必要である場合にのみ制振制御を実施することで、燃費を向上させた車両の制御方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示にかかる車両の制御方法は、ダンパトルクとは逆位相のトルクをモータに与えることで振動を除去する制振制御を実施するハイブリット車両の制御方法であって、所定の回転数でエンジンを回転させる際に、制振制御を実施した場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、制振制御を実施しない場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、の差が所定の値以上であるか否かを判定し、前記差が所定の値以上である場合に、制振制御を実行する。
これにより、制振制御を実行するか否かを、制振制御を実施した場合における振動発生のエンジントルクと制振制御を実施しない場合における振動発生エンジントルクの差分に応じて決定できる。
【0009】
さらに、本開示にかかる車両の制御方法は、エンジンの回転数が、前記制振制御を実施する場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、前記制振制御を実施しない場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、の差が所定のトルク以上となる領域であり、かつ、エンジントルクが、前記制振制御を実施する場合において所定の振動が発生するエンジントルク以下であるとともに、前記制振制御を実施しない場合において所定の振動が発生するエンジントルク以上である領域を、制振制御を実行する領域として設定し、前記制振制御を実行する領域では、制振制御に必要な電池出力を、エンジンの回転数と、制振を行う際に発生させる制振トルクの値と、を利用して算出し、前記制振制御を実施する前に、前記算出された制振制御に必要な電池出力をリザーブする。
これにより、制振制御が必要である場合に、制振制御が実行されやすくなる。
【0010】
さらに、本開示にかかる車両の制御方法は、前記制振制御に必要な電池出力がリザーブできない場合に、制振制御を実行しない条件となるまでエンジンの回転数を上昇させる。
これにより、電池出力が確保できない場合に、電池出力に寄らずに制振することができる。
【発明の効果】
【0011】
これにより、車両の制振制御を実行しつつ燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1にかかる車両の動力にかかる接続の一例を示した図である。
図2】実施の形態1にかかる車両の動作制御にかかる構成の一例を示した図である。
図3】実施の形態1にかかるNVラインと制振ONラインの一例を示した図である。
図4】実施の形態1にかかる制振制御の手順の一例を示したフローチャートである。
図5】実施の形態2にかかる制振制御の手順の一例を示したフローチャートである。
図6】実施の形態2にかかるNVラインと制振ONラインと制振領域の一例を示した図である。
図7】実施の形態2にかかる電池出力のリザーブのイメージを示した図である。
図8】実施の形態3にかかるエンジンの最低回転数を上昇させてNV性能の悪化を抑制する手順の一例を示したフローチャートである。
図9】実施の形態3にかかる通常時の最低回転数と、制振制御に必要な最大の電池出力をリザーブできない場合に最低回転数を引き上げた状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1
以下、図面を参照して実施の形態1に係る車両の制御方法について説明する。ここでは車両とは、ハイブリット車であるものとして説明する。図1は、車両の動力にかかる接続の一例を示した図である。
【0014】
車両1は、内燃機関(以下、エンジン)11と、モータ12と、変換部13と、車輪14と、を備える。また車両1は、エンジン11とモータ12の間を接続するダンパ21と、モータ12と変換部13の間を接続するインプットシャフト22と、変換部13と車輪14の間を接続するドライブシャフト23と、を備える。
【0015】
また図2に示すように、車両1は、車両の動作制御にかかる構成を有している。具体的には、車両1は、制振制御を行う場合、及び、制振制御を行わない場合のNV(Noise Vibration)性能上の上限等の情報を記憶している記憶部31と、演算部32と、制振制御を行うか否かを判定する判定部33と、判定部33の判定に応じてモータ12に制振制御を実行させる制御部34と、を備える。
【0016】
エンジン11は、典型的にはガソリンエンジンであって、燃料であるガソリンと空気の混合気を圧縮したあと点火、燃焼、膨張させるという行程を繰り返し、運動エネルギーを出力し、トルクを発生させる。
【0017】
モータ12は、車両1に格納された電池により蓄えられた電力を用いてトルクを発生させる。モータ12は、制御部34からの制御に応じて、エンジン11からダンパ21に与えられるダンパトルクとは逆位相の制振トルクを発生させる。すなわち制振トルクとは、制振を行うために発生させるトルクである。
【0018】
ここで、電池の電力は、モータ12により車輪14を回転させるための動力を発生させることや、モータ12に制振制御を実行させること、及び、車両内の電気機器を動作させるために利用される。
【0019】
変換部13は、動力源であるエンジン11やモータ12からインプットシャフト22を介して入力された動力に関して、車両1の走行状態に合わせて車輪14が適切に動作するように力の変換を行う。
【0020】
典型的には、変換部13は、トランスミッションと、ディファレンシャルギアと、を有する。トランスミッションは、歯車や軸などからなり、動力源の動力をトルクや回転数、回転方向を変えてシャフトに伝達する。また、ディファレンシャルギアは、車両1がカーブを曲がるときなどの道路状況や運転状況に応じて、左右の車輪の回転差を吸収するように変換する差動装置である。
【0021】
車輪14は、変換部13により変換された力を、ドライブシャフト23を介して受けることで回転動作を行う。これにより車両1は走行を行う。
【0022】
記憶部31は、制振制御がありの場合及び制振制御がなしの場合のNV(Noise Vibration)性能を記憶している。例えば記憶部31では、図3に示されている内容を記憶している。
【0023】
ここで図3は、車両1における所定のギア段について、常に制振制御がありの状態として、エンジンの回転数を変化させた際に、NV性能上の上限となるエンジントルクの値が変化する状態を示した制振ありNVラインと、常に制振制御がなしの状態として、エンジンの回転数を変化させた際に、NV性能上の上限となるエンジントルクの値が変化する状態を示した制振なしNVラインと、この車両1で許容されるNV性能を示したNVラインと、を示している。
【0024】
すなわち、図3に示した夫々のNVラインは、所定のエンジンの回転数に対して、大きなエンジントルクを発生させた場合にNV性能が悪化し、エンジントルクを小さくした場合にNV性能が良化することに基づいて、エンジンの回転数ごとに許容される上限のエンジントルクの値を示したラインである。
【0025】
さらに図3では、モータ12において制振制御を実行するか否かの判定基準とする制振ONラインを示している。なお以下では、制振制御を行う状態であることを制振制御がONの状態、制振制御を行わない状態であることを制振制御がOFFの状態として説明することがある。制振ONラインについては、後に詳述する。
【0026】
演算部32は、例えば、記憶部31に記憶されている情報に基づいて、判定部33において判定を実行できるように、情報を変換する演算を行うことができる。
【0027】
判定部33は、モータ12に制振制御を実施させるか否かの判定を行う。具体的には判定部33は、図3において、制振制御がありの場合のNVラインと、制振制御がなしの場合のNVラインの差があらかじめ定めた所定の値より大きい場合に、制振制御を実行するように判定する。すなわち判定部33は、図3においてこれらの2つのラインが上下に大きく開いている箇所において、制振制御を実行するように判定する。
【0028】
一方で、判定部33は、制振制御がありの場合のNVラインと、制振制御がなしの場合のNVラインの差が、あらかじめ定めた所定の値以下である場合に、制振制御を実行しないように判定する。
【0029】
すなわち、判定部33では、所定の回転数でエンジンを回転させる際に、制振制御を実施した場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、制振制御を実施しない場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、の差が、所定の値以上であるか否かを判定する。ここで所定の振動とは、車両1において許容できる振動の上限である。また、所定の値は任意の値とすることができるが、典型的には、後述する制振トルクの上限の値とする。
【0030】
制御部34は、判定部33の判定結果に応じて、モータ12に制振制御の実施状態を変更するように制御する。ここでは、制御部34は、判定部33により判定された制振制御を実施した場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、制振制御を実施しない場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、の差が所定の値以上であるか否かを、少なくとも条件の1つとして、制振制御を実行する。
【0031】
なお後述するように、制御部34では、モータ12を動作させるための電池出力や、その他の電力のシステム等を動作させるための電力の制御などを行うことも可能である。
【0032】
なお以下では、車両1は、エンジンの回転数やエンジントルクの値を取得可能なセンサを有しており、適宜これらのセンサ値を取得しているものとして説明する。
【0033】
ここで、車両1における制振制御の手順の一例を、図4に示すフローチャートを参照して説明する。
【0034】
なお、制振制御のためにモータ12から発生させる制振トルクの上限は、制振トルクを発生させることによって車両動力等の性能に大きな影響を及ぼさない値とする。例えば、制振トルクの上限は30Nmと定義する。
【0035】
判定部33では、取得された車両1の現在のエンジンの回転数とエンジントルクが図3に示した二次元グラフ上において、制振ONライン以上であるか否かを判定する(ステップS11)。ここで図3をより詳細に説明することにより、判定部33における判定について説明する。
【0036】
図3に示すように、制振ありNVラインでは、所定のエンジンの回転数が回転数R1より低速の状態から回転数R1までは、回転数の上昇とともにエンジントルクの値が上昇する。そして、制振ありNVラインは、エンジンの回転数R1から回転数R3まで上昇させた場合に、エンジントルクの値はほぼ一定の状態である。そして、さらに回転数を上昇させ、エンジンの回転数が回転数R3より高い状態では、回転数の上昇とともにエンジントルクの値も上昇する。
【0037】
一方で、制振なしNVラインでは、所定のエンジンの回転数が回転数R1より低速の状態から回転数R2までは、回転数の上昇とともにエンジントルクの値が上昇する。なお、この回転数R2は、回転数R1より高い回転数である。このとき、制振なしNVラインは、エンジンの回転数R1から回転数R4まで上昇させた場合に、エンジントルクの値はほぼ一定の状態である。この回転数R4は、回転数R3より僅かに高い回転数である。そして、さらに回転数を上昇させ、エンジンの回転数が回転数R4より高い状態では、回転数の上昇とともにエンジントルクの値も上昇する。
【0038】
ここで、図3の制振ありNVラインと制振なしNVラインについて、エンジンの回転数であるときのエンジントルクの値の差について説明する。なお図3に示すように、制振ありNVラインは、制振なしNVラインより常に上方である。すなわち、制振ありであれば、同じ回転数であるときに制振なしのときに比べて、であれば許容されるNV性能上のエンジントルクの上限が高くなる。
【0039】
回転数R1より回転数が低い状態から回転数R1までは、制振ありNVラインはエンジンの回転数が上昇するにつれてエンジントルクの値が高くなる。また、制振なしNVラインも同様に、エンジンの回転数が上昇するにつれてエンジントルクの値が高くなる。ここで図3に示すように、この区間において、制振ありNVラインと制振なしNVラインはほぼ平行である。
【0040】
この回転数R1までの区間において、制振ありNVラインと制振なしNVラインは大きく乖離している。言い換えると、同じエンジンの回転数において、制振ありの場合と、制振なしの場合において許容されるNV性能上のエンジントルクの上限の差は大きい状態である。
【0041】
回転数R1から回転数R2まででは、制振ありNVラインはエンジンの回転数が上昇してもエンジントルクの値はほぼ一定であり、制振なしNVラインではエンジンの回転数が上昇するにつれてエンジントルクの値が高くなる。言い換えると、回転数R1から回転数R2まで、制振ありの場合は許容されるエンジントルクはほぼ一定であるが、制振なしの場合は回転数が高くなるにつれて許容されるエンジントルクが高くなる。すなわち、この回転数R1から回転数R2の区間では、制振なしNVラインは、回転数が上がるにつれて制振ありNVラインに徐々に近接する。
【0042】
回連数R2から回転数R3までは、制振ありNVラインにおいて、エンジントルクの値はほぼ一定である。一方、制振なしNVラインにおいても同様に、エンジントルクの値はほぼ一定である。すなわち、この回転数R2から回転数R3の区間では、制振ありでも制振なしでも、許容されるエンジントルクは回転数に寄らずにほぼ一定である。このとき、制振ありNVラインと制振なしNVラインはほぼ平行、かつ近接している状態である。
【0043】
回転数R3から回転数R4までは、制振ありNVラインではエンジンの回転数が上昇するにつれてエンジントルクの値が高くなり、制振なしNVラインはエンジンの回転数が上昇してもエンジントルクの値はほぼ一定である。ここで、回転数R3と回転数R4の回転数の差は僅かであるため、回転数が上昇しても、制振ありNVラインと制振なしNVラインは近接している状態のままである。
【0044】
回転数R4より回転数が高い状態では、制振ありNVラインと制振なしNVラインは、いずれもエンジンの回転数が上昇するにつれてエンジントルクの値が高くなる。ここで図3に示すように、この区間において、制振ありNVラインと制振なしNVラインはほぼ平行であり、制振ありNVラインと制振なしNVラインは近接している状態のままである。
【0045】
次に、車両のNV性能上の上限ラインである車両のNVラインについて説明する。図3に示すように、エンジンの回転数が回転数R2より低い状態では、NVラインは、制振ありNVラインの僅かに上方に設定され、エンジンの回転数が回転数R2以上のときには、NVラインは制振なしNVラインより僅かに上方に設定される。
【0046】
このとき、エンジンの回転数が回転数R2より低い領域は、車両のNVラインが、制振ありNVライン及び制振なしNVラインより上にある領域である。すなわちこの領域は、制振トルク上限より上に、NVラインがある領域となっている。
【0047】
一方、エンジンの回転数が回転数R2以上の領域では、車両のNVラインは、制振なしNVラインより高いが、制振ありNVラインより低くなっている。すなわちこの領域は、車両のNVラインが、制振トルク上限以下である領域である。
【0048】
ここで図3に示すように、制振をONにするか否かを判定する制振ONラインを、以下のように設定する。車両1では、図3に示したエンジンの回転数及びエンジントルクの出力が、制振ONライン以上である場合に、制振制御を行うこととする。
【0049】
より具体的には、制振ONラインは、エンジンの回転数が回転数R2より低い領域では、制振なしNVラインより僅かに下に設定される。このエンジンの回転数が回転数R2より低い領域とは、すなわち、制振ありNVラインと制振なしNVラインの乖離が大きい領域である。
【0050】
また図3に示すように、エンジンの回転数が回転数R2以上である状態では、制振ONラインは無限の上方に設定される。言い換えると、エンジンの回転数が回転数R2以上である状態では、エンジンの回転数とエンジントルクがどんな値であっても、制振ONラインより下方であると判定されるように設定される。
【0051】
ここで、判定部33は、車両のエンジンの回転数とエンジントルクが、図3における制振ONライン以上であると判定した場合には(ステップS11でYes)、制振制御を実行する(ステップS12)。すなわち制御部34は、モータ12での制振制御をON状態とする。
【0052】
一方、判定部33は、車両のエンジンの回転数とエンジントルクが、図3における制振ONラインより低いと判定した場合には(ステップS11でNo)、制振制御を実行しない(ステップS13)。すなわち、制御部34は、モータ12での制振制御をOFF状態とする。
【0053】
これにより、制振なしで車両のNV性能を満足する範囲では、制振制御はOFF状態とすることができる。
【0054】
一方、制振なしでは車両のNV性能を満足できず、制振ありにすることで車両のNV性能を満足することができる範囲では、制振制御をON状態とすることができる。具体的には、車両1では、制振ありと制振なしでNVラインの差が制振トルク上限以上になる範囲、すなわち、上述したエンジンの回転数が回転数R2より小さい領域では、制振なしNVラインを越えるエンジントルクである場合に、制振制御をON状態とすることができる。
【0055】
したがって、車両1では、エンジンの回転数とエンジントルクとの関係を示した2次元グラフ上に制振ONラインを設定し、エンジントルクが制振ONライン以上の値である場合に制振制御を実行することができる。このとき車両1では、制振ありNVラインと制振なしNVラインの差が大きい場合には、制振ありでNVラインを引き上げた方がエネルギーマネジメント上有利であるため、制振制御を実行することで効率を向上させることができる。
【0056】
一方で、車両1では、制振ありNVラインと制振なしNVラインの差が小さく、その差が、制振トルクの上限である30Nm未満であるような場合には、こもり制振を実施しない方がエネルギーマネジメント上有利と考えられるため、制振制御を実行しないように制御することができる。これにより車両1では、制振制御に用いられる電池の電力を、効率的に使用することができる。
【0057】
実施の形態2
実施の形態1では、ダンパトルクに対する逆位相のトルクをモータによって出力することによって制振することについて説明した。しかしながら、モータからトルクを出力する必要があるため、他の制御で出力を奪われている場合、モータでのトルクを発生させることができない場合には、車両のNV性能が悪化することが考えられる。
【0058】
したがって、制振制御を実施する領域では、モータにより制振制御のトルクを発生させるための必要な電池出力をリザーブし、動力などに使用可能なシステムトルク上限を算出することによって車両のNV性能が悪化することを抑制する方法について説明する。
【0059】
なお、実施の形態2では、実施の形態1で説明した車両1と同様の構成の車両を利用するため、各構成物品にも同様の符号を付し、説明を省略する。
【0060】
ここで図5を参照して、制振制御を行う必要があるか否かを判定し、制振制御が必要な場合に、制振制御のための電池出力をリザーブする手順の一例について説明する。
【0061】
判定部33は、現在の車両1のエンジンの回転数と、エンジントルクが制振領域内であるか否かを判定する(ステップS21)。
【0062】
ここで、制振領域について説明する。図6は、常に制振制御がありの状態としてエンジンの回転数を変化させた際に、NV性能上の上限となるエンジントルクの値が変化する状態を示した制振ありNVラインと、常に制振制御がなしの状態としてエンジンの回転数を変化させた際に、NV性能上の上限となるエンジントルクの値が変化する状態を示した制振なしNVラインと、この車両1で許容されるNVラインを示すとともに、設定された制振領域を示している。ここで、制振ありNVライン、制振なしNVライン、NVライン、制振ONラインについては、図3に示したものと同様であるため、説明を省略する。
【0063】
図6に示した制振領域は、エンジンの回転数が回転数R2より低い領域であって、上方が制振ありNVライン、下方が制振なしNVラインに挟まれた領域である。
【0064】
言い換えると、制振領域は、エンジンの回転数に関し、制振制御を実施する場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、制振制御を実施しない場合において所定の振動が発生するエンジントルクと、の差が所定の値以上となる回転数の領域とする。すなわち、図6において制振領域として設定される横軸の範囲は、縦軸において制振ありNVラインと制振なしNVラインの差が大きい範囲であり、ここでは回転数R2より低い範囲である。
【0065】
さらに制振領域は、エンジントルクに関し、制振制御を実施する場合において所定の振動が発生するエンジントルク以下であるとともに、制振制御を実施しない場合において所定の振動が発生するエンジントルク以上である領域とする。すなわち、図6において制振領域として設定される縦軸の範囲は、上限が制振ありNVライン、下限が制振なしNVラインとなる。
【0066】
車両1のエンジンの回転数と、エンジントルクが制振領域内であれば(ステップS21でYes)、車両1は、モータ12によるこもり制振制御を行うためにリザーブする電池出力の算出を行う(ステップS22)。
【0067】
ここで演算部32は、リザーブされる電池出力の大きさを、エンジンの回転数と、制振を行う際に発生させる制振トルクの上限の値と、を利用して算出する。より具体的には、演算部32は、エンジンの回転数とエンジントルクが制振領域内であること、及び、制振トルクの上限の値から、モータ12で制振制御のためのトルクを発生させるための電池出力の値を算出する。
【0068】
ここで図7は、電池出力のリザーブのイメージを示した図である。図7に示すように、制振制御をモータに実行させるために必要な電池の出力は、時間の経過とともにWin側とWout側とで交互に大きくなる状態を繰り返すSin波状となる。したがって、ステップS22では、図7に示すように電池のWin側とWout側の両方において、これらの両方の振幅の大きさをカバーするように、リザーブする電池出力の値を算出する。その後、ステップS23に進む。
【0069】
車両1のエンジンの回転数と、エンジントルクが制振領域でなければ(ステップS21でNo)、ステップS23に進む。
【0070】
演算部32は、動力などに使用可能な電池の出力上限を算出する(ステップS23)。すなわち、演算部32は、ステップS22において制振制御を行うためにリザーブする電池出力を算出した場合には、総出力からリザーブする分の出力を減算することにより、動力などに使用可能な電池の出力上限を算出する。一方で、演算部32において、制振制御を行うためにリザーブする電池出力を算出しなかった場合には、リザーブする分の電池出力は無いものとして、電池の出力上限を算出する。
【0071】
制御部34は、ステップS23で算出した使用可能な電池の出力上限を越えない範囲で、車両の制御を行う(ステップS24)。すなわち、制御部34では、制振制御のための電池出力のリザーブが必要な場合にはリザーブを実行することから、リザーブが必要でない場合に比べて、動力や、その他の電子機器等に利用できる電池の出力上限が低下した状態となる。
【0072】
これにより、制振制御を実施する領域では、制振に必要な電池出力をリザーブした状態とすることができる。車両1の状態が、制振制御を実施する領域であるか否かにより、電池出力をリザーブするか否かを変更することから、電池出力を効率よく利用することができる。
【0073】
実施の形態3
実施の形態2では、制振制御を実施する制振領域である場合に、電池のWin側とWout側の両方において、これらの両方の振幅の大きさをカバーするように電池出力をリザーブすることについて説明した。しかしながら、低温時や低充電状態において、WinとWoutがそれぞれ絞られ必要な出力がリザーブできないような状況では、こもり制振が実施できず、車両のNV性能が悪化することが考えられる。
【0074】
したがって実施の形態3では、制振制御に必要なトルクをモータ12に発生させるための電池出力がリザーブできない場合に、エンジンの最低回転数を上昇させることで、車両のNV性能が悪化しないようにする方法について説明する。
【0075】
なお、実施の形態3では、実施の形態2と同様に、実施の形態1で説明した車両1と同様の構成の車両を利用するため、各構成物品にも同様の符号を付し、説明を省略する。この後に説明する図9に示されている、制振ありNVライン、制振なしNVライン、NVライン、制振ONラインについては、図3に示したものと同様であるため、説明を省略する。
【0076】
ここで図8を参照して、制振制御のための電力をリザーブできない場合に、エンジンの最低回転数を上昇させてNV性能の悪化を抑制する手順について説明する。
【0077】
演算部32は、現在のギア段において、モータ12で制振制御のためにリザーブしたい最大の電池出力を算出する(ステップS31)。
【0078】
ここで演算部32は、モータ12で制振制御を行うためにリザーブしたい最大の電池出力の大きさを、エンジンの回転数と、エンジントルクと、制振トルク上限から算出する。
【0079】
なお、リザーブしたい最大の電池出力は、実施の形態2に示したステップS22と同様に、電池のWin側とWout側の両方において、これらの両方の振幅の大きさをカバーするように算出する。
【0080】
次に、車両1では、現在の電池のWinとWoutの両方の値を取得する(ステップS32)。例えば、車両1に設けられたセンサにより、電池のWinとWoutの値を取得する。
【0081】
判定部33は、ステップS31で算出された、リザーブしたい最大の電池出力と、ステップS32で取得された現在の電池のWinとWoutの値と、を比較して、リザーブしたい最大の電池出力の確保が可能であるか否かを判定する(ステップS33)。
【0082】
制振制御に必要な最大の電池出力をリザーブできる場合には(ステップS33でYes)、電池出力をリザーブして処理を終了する。
【0083】
制振制御に必要な最大の電池出力をリザーブできない場合には(ステップS33でNo)、現ギアにおけるエンジンの最低回転数を引き上げる(ステップS34)。
【0084】
ここで図9は、通常時の最低回転数と、制振制御に必要な最大の電池出力をリザーブできない場合に最低回転数を引き上げた状態を示した図である。図9示すように、通常時の最低回転数は回転数R1より低い回転数となっている。そして、制振制御に必要な最大の電池出力をリザーブできない場合には、この最低回転数を回転数R2まで引き上げることができる。
【0085】
具体的には、車両1では、通常の最低回転数から回転数R2までの間に所定のエンジントルクを発生させた場合に、エンジンの回転数とエンジントルクの関係が、図9に示す制振なしNVラインより上の状態になる箇所がある。この場合には、車両1のNV性能が低下する。
【0086】
そこで車両1では、最低回転数を回転数R2まで引き上げることとする。すなわち、通常であれば回転数R2より低い回転数で所定のトルクを発生させていることに代えて、エンジントルクを回転数R2まで引き上げた状態で、同様のトルクを発生させることとなる。これにより、エンジンの回転数とエンジントルクの関係は、図9に示す制振なしNVラインより下となる状態となりやすくなり、車両1はNV性能的に良好な状態となる。
【0087】
以上のことから、制振制御のための電力をリザーブできない場合には、制振制御を実行しない条件となるまでエンジンの最低回転数を上昇させることにより、NV性能の悪化を抑制することができる。
【0088】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。すなわち上記の記載は、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされており、当業者であれば、実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。
【0089】
実施の形態1では、エンジンの回転数が回転数R2より低い場合には制振制御を行う場合と行わないが有り、回転数R2以上の回転数では制振制御を行わないものとして説明したが、これに限られない。すなわち回転数R2を閾値とする必要は無く、例えば、回転数R1~回転数R2を閾値とすることができる。
【0090】
実施の形態2についても同様に、制振領域を設ける際のエンジンの回転数の上限を回転数R2としたが、これに限られない。
【0091】
また、実施の形態3に示したエンジンの最低回転数の引き上げは、回転数R2まで引き上げることとしたが、これに限られず、図9に示した制振なしNVラインが十分に上昇するところまで最低回転数を引き上げることとしても良い。
【0092】
実施の形態1、実施の形態2、及び実施の形態3に記載した内容は、いずれかの複数を任意に組み合わせて用いることができる。
【符号の説明】
【0093】
11 内燃機関
12 モータ
13 変換部
14 車輪
21 ダンパ
22 インプットシャフト
23 ドライブシャフト
31 記憶部
32 演算部
33 判定部
34 制御部
図1
図2
図3
図4
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図7
図8
図9