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特許7707974電極合材及び非水系リチウムイオン二次電池
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  • 特許-電極合材及び非水系リチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】電極合材及び非水系リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20250708BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20250708BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250708BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250708BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20250708BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/36 D
H01M10/052
H01M10/0566
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022044315
(22)【出願日】2022-03-18
(65)【公開番号】P2023137891
(43)【公開日】2023-09-29
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】仲西 梓
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-165007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 10/052
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン系粒子がカチオン性ポリマーによって少なくとも部分的に被覆されている、第1のシリコン系活物質、及び
シリコン系粒子がアニオン性ポリマーによって少なくとも部分的に被覆されている、第2のシリコン系活物質
を含有しており、
前記第1のシリコン系活物質と前記第2のシリコン系活物質は互いに異なるシリコン系活物質である、
電極合材。
【請求項2】
前記シリコン系粒子がSi粒子である、請求項1に記載の電極合材。
【請求項3】
前記第1のシリコン系活物質と前記第2のシリコン系活物質との含有比率が、25:75~75:25である、請求項1又は2に記載の電極合材。
【請求項4】
前記カチオン性ポリマーは、ポリ(ジアリルジメチルクロリド)、ポリエチレンイミン、ポリピロール、及びポリアニリンを含む群から選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電極合材。
【請求項5】
前記アニオン性ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルフォネート、ポリアクリル酸、及びポリスチレンスルホン酸を含む群から選択される少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の電極合材。
【請求項6】
前記第1のシリコン系活物質は、水中におけるゼータ電位が+30.0mV以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電極合材。
【請求項7】
前記第2のシリコン系活物質は、水中におけるゼータ電位が-15.0mV以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の電極合材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の電極合材を含有している、負極電極体。
【請求項9】
正極電極体、セパレータ、及び請求項8に記載の負極電極体がこの順で、電解液によって満たされている電池ケース内に収容されている、非水系リチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記第1のシリコン系活物質は、純水中でのゼータ電位が正であり、前記第2のシリコン系活物質は、純水中でのゼータ電位が負である、請求項1~7のいずれか一項に記載の電極合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極合材及び非水系リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、シリコン材料と、該シリコン材料を覆う炭素層と、該炭素層を覆うカチオン性ポリマーを有するカチオン性ポリマー層と、を具備することを特徴とする複合体を開示している。
【0003】
特許文献2は、リチウム蓄電池用の負極材料であって、ケイ素を含むコアを含み、前記コアの表面は、OSiH基(ここで1<x<3、1≦y≦3、およびx>yである)を有し、前記材料は、pH3.5~9.5の範囲内で正のゼータ電位を有する、負極材料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-48628号公報
【文献】国際公開第2013/087780号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電池、例えばリチウムイオン電池のサイクルに伴う充放電容量の低下を抑制することが求められている。
【0006】
本開示は、電池の充放電サイクルに伴う充放電容量の低下を抑制することができる、電極合材、及び非水系リチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
シリコン系粒子がカチオン性ポリマーによって少なくとも部分的に被覆されている、第1のシリコン系活物質、及び
シリコン系粒子がアニオン性ポリマーによって少なくとも部分的に被覆されている、第2のシリコン系活物質
を含有している、電極合材。
《態様2》
前記シリコン系粒子がSi粒子である、態様1に記載の電極合材。
《態様3》
前記第1のシリコン系活物質と前記第2のシリコン系活物質との含有比率が、25:75~75:25である、態様1又は2に記載の電極合材。
《態様4》
前記カチオン性ポリマーは、ポリ(ジアリルジメチルクロリド)、ポリエチレンイミン、ポリピロール、及びポリアニリンを含む群から選択される少なくとも一種である、態様1~3のいずれか一つに記載の電極合材。
《態様5》
前記アニオン性ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルフォネート、ポリアクリル酸、及びポリスチレンスルホン酸を含む群から選択される少なくとも一種である、態様1~4のいずれか一つに記載の電極合材。
《態様6》
前記第1のシリコン系活物質は、水中におけるゼータ電位が+30.0mV以上である、態様1~5のいずれか一つに記載の電極合材。
《態様7》
前記第2のシリコン系活物質は、水中におけるゼータ電位が-15.0mV以下である、態様1~6のいずれか一つに記載の電極合材。
《態様8》
態様1~7のいずれか一つに記載の電極合材を含有している、負極電極体。
《態様9》
正極電極体、セパレータ、及び態様8に記載の負極電極体がこの順で、電解液によって満たされている電池ケース内に収容されている、非水系リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電池の充放電サイクルに伴う充放電容量の低下を抑制することができる、電極合材、及び非水系リチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の第1の実施形態に従う、非水系リチウムイオン二次電池1である。
図2図2は、実施例1~3、比較例1、及び参考例1の非水系リチウムイオン二次電池における、シリコン系活物質Bの含有量(%)と50サイクル充放電後の容量維持率(%)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0011】
《電極合材》
本開示の電極合材は、シリコン系粒子がカチオン性ポリマーによって少なくとも部分的に被覆されている、第1のシリコン系活物質、及びシリコン系粒子がアニオン性ポリマーによって少なくとも部分的に被覆されている、第2のシリコン系活物質を含有している。
【0012】
非水系リチウムイオン二次電池において、電解液とのSEIの形成を抑制する観点から、シリコン系の負極活物質の表面をカチオン性ポリマーで被覆した、シリコン系活物質を使用することが考えられる。
【0013】
しかしながら、この様なシリコン系活物質同士は、同じ符号のゼータ電位を有するため、互いに引き合わない。そのため、非水系リチウムイオン二次電池の充放電に伴うシリコン系活物質の膨張収縮に起因する電極体の機械的劣化を抑制できない。結果として、充放電サイクルの進行に伴う充放電容量の低下は不可避的である。
【0014】
これに対して、本開示の電極合材は、シリコン系粒子がカチオン性ポリマーによって少なくとも部分的に被覆されている、第1のシリコン系活物質、及びシリコン系粒子がアニオン性ポリマーによって少なくとも部分的に被覆されている、第2のシリコン系活物質を含有している。
【0015】
電解液中において、第1のシリコン系活物質はゼータ電位が正となるのに対して、第2のシリコン系活物質はゼータ電位が負となる。したがって、本開示の電極合材を非水系リチウムイオン二次電池の電極体に適用すると、電解液中において第1のシリコン系活物質と第2のシリコン系活物質とが互いに引き合うことにより、非水系リチウムイオン二次電池の充放電に伴うシリコン系活物質の膨張収縮に起因する電極体の機械的劣化を抑制することができる。これにより、充放電サイクルの進行に伴う充放電容量の低下が抑制される。
【0016】
本開示の電極合材中において、第1のシリコン系活物質Aと第2のシリコン系活物質Bとの含有比率(A:B)は、25:75~75:25であってよい。ここで、含有比率は、第1のシリコン系活物質の含有量(質量)と第2のシリコン系活物質の含有量(質量)との比率である。
【0017】
A:Bは、25:75、30:70、50:50、70:30、又は75:25であってよい。
【0018】
〈第1のシリコン系活物質〉
第1のシリコン系活物質は、シリコン系粒子がカチオン性ポリマーによって少なくとも部分的に被覆されている、第1のシリコン系活物質である。
【0019】
シリコン系粒子は、例えばSi合金粒子又はSi粒子であってよい。Si合金粒子としては、例えばSn、Ti、Fe、Ni、Cu、Co、及びAlからなる群から選択される一つ以上の金属とSiとの合金であってよい。
【0020】
カチオン性ポリマーは、非水系リチウムイオン二次電池の使用条件において電解液との反応性が低く、かつ電解液中で正のゼータ電位を有する任意のカチオン性ポリマーであってよい。
【0021】
カチオン性ポリマーは、例えばポリ(ジアリルジメチルクロリド)、ポリエチレンイミン、ポリピロール、及びポリアニリンを含む群から選択される少なくとも一種であることができる。
【0022】
第1のシリコン系活物質は、水中におけるゼータ電位が+30.0mV以上であることが好ましい。なお、水中とは、純水中を意味する。
【0023】
第1のシリコン系活物質の水中におけるゼータ電位は、+30.0mV以上+60.0mV以下であってよい。ゼータ電位は、+30.0mV以上、+33.0mV以上、+36.0mV以上、又は+39.0mV以上であってよく、+60.0mV以下、+50.0mV以下、+45.0mV以下、又は+40.0mV以下であってよい。
【0024】
なお「ゼータ電位」は、界面動電位とも呼ばれ、固体と液体の界面における電位差のうちの、界面動電現象に有効に作用する部分を意味する。本発明に関し、このゼータ電位は、電気泳動光散乱法であるレーザードップラー法によって測定されるゼータ電位である。
【0025】
〈第2のシリコン系活物質〉
第2のシリコン系活物質は、シリコン系粒子がアニオン性ポリマーによって少なくとも部分的に被覆されている、第2のシリコン系活物質である。
【0026】
シリコン系粒子は、例えば第1のシリコン系活物質に関して記載したものを挙げることができる。
【0027】
アニオン性ポリマーは、非水系リチウムイオン二次電池の使用条件において電解液との反応性が低く、かつ電解液中で負のゼータ電位を有する任意のアニオン性ポリマーであってよい。
【0028】
アニオン性ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルフォネート、ポリアクリル酸、及びポリスチレンスルホン酸を含む群から選択される少なくとも一種であることができる。
【0029】
第2のシリコン系活物質は、水中におけるゼータ電位が-15.0mV以下であることが好ましい。なお、水中とは、純水中を意味する。
【0030】
第2のシリコン系活物質の水中におけるゼータ電位は、-15.0mV以下-30.0mV以上であってよい。水中におけるゼータ電位は、-15.0mV以下、-16.0mV以下、-17.0mV以下、又は-18.0mV以下であってよく、-30.0mV以上、-28.0mV以上、-25.0mV以上、又は-20.0mV以上であってよい。
【0031】
《負極電極体》
負極電極体は、負極集電体及び負極活物質を有している。負極電極体は、例えば層状又は棒状等の負極電極体の表面を負極活物質層が部分的に又は全体にわたって被覆している形状であってよい。負極活物質層は、本開示の電極合材を含有している。
【0032】
負極活物質層は、本開示の電極合材、及び随意にバインダ及び導電助剤等を含有していることができる。
【0033】
負極活物質層は、例えば基材上に、本開示の電極合材と随意のバインダ及び導電助剤等を分散させたスラリーを付着・乾燥させることによって形成してよい。基材は、例えば金属等の導電性を有する材料から構成されていることができ、負極集電体を兼ねていることができる。
【0034】
〈負極集電体〉
負極集電体に用いられる材料は、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、金、白金、亜鉛又はカーボン等であってよい。また、負極集電体は、これらの材料の表面にニッケル、クロム、又は炭素等がメッキ又は蒸着されたものを採用してもよい。負極集電体は、銅、若しくは銅の合金、又はこれらの表面にニッケル、クロム、又は炭素等がメッキ又は蒸着されたものを用いるのが好ましい。
【0035】
負極集電体の形状は、特に限定されず、例えば、棒状又は層状であってよい。
【0036】
〈バインダ〉
バインダとしては、例えばポリアクリル酸系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ブタジエンゴム(BR)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよいが、これらに限定されない。
【0037】
〈導電助剤〉
導電助材としては、公知のものを用いることができ、例えば、炭素材料、及び金属粒子等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラックやファーネスブラック等のカーボンブラック、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができ、中でも、電子伝導性の観点から、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。金属粒子としては、ニッケル、銅、鉄、及びステンレス鋼等の粒子が挙げられる。
【0038】
《非水系リチウムイオン二次電池》
本開示の非水系リチウムイオン二次電池は、正極電極体、セパレータ、及び本開示の負極電極体がこの順で、電解液によって満たされている電池ケース内に収容されている、非水系リチウムイオン二次電池である。
【0039】
図1は、本開示の第1の実施形態に従う非水系リチウムイオン二次電池1の模式図である。なお、図1は、本開示の非水系リチウムイオン二次電池を限定する趣旨ではない。
【0040】
図1に示すように、本開示の第1の実施形態に従う非水系リチウムイオン二次電池1は、正極集電体層11及び正極集電体層11上に配置されている正極活物質層12を有する正極電極体層10、セパレータ層20、並びに負極集電体層31及び負極集電体層31上に配置されている負極活物質層32を有する負極電極体層30が、電解液40によって満たされている外装体100内に収容された構造を有していることができる。ここで、負極電極体層30は、本開示の負極電極体である。なお、図1は本開示を限定する趣旨ではない。
【0041】
〈正極電極体〉
正極電極体は、正極集電体及び正極活物質を有している。正極電極体は、例えば層状又は棒状等の正極電極体の表面を正極活物質を含有する層、即ち正極活物質層が部分的に又は全体にわたって被覆している形状であってよい。
【0042】
正極集電体に用いられる材料は、負極集電体に関して記載した材料を使用してよい。なかでも、正極集電体の材料は、アルミニウムであることが好ましい。
【0043】
正極集電体層の形状も、負極集電体に関して記載した形状であってよい。
【0044】
正極活物質層は、リチウムイオン電池に採用されうる任意の正極活物質を含有していてよい。
【0045】
このような正極活物質は、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1+xMn2-x-y(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等であってよいが、これらに限定されない。
【0046】
また、このような正極活物質は、例えば硫黄系活物質であってもよい。ここで、硫黄系活物質は、少なくともS元素を含有する活物質である。硫黄系活物質は、Li元素を含有していてもよく、含有していなくてもよい。硫黄系活物質としては、例えば、単体硫黄、硫化リチウム(LiS)、多硫化リチウム(Li、2≦x≦8)が挙げられる。
【0047】
〈セパレータ〉
セパレータは、多孔質の樹脂の層、例えばポリプロピレン又はポリエチレンの層であってよい。
【0048】
セパレータとしては、多孔性ポリエチレン膜(PE)、多孔性ポリプロピレン膜(PP)、多孔性ポリオレフィン膜、多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜を用いることができる。また、セパレータとしては、リチウムイオン導電性ポリマー電解質膜を用いることもできる。これらのセパレータは、単独で又は組み合わせて使用することができる。電池出力を高める観点からは、多孔性ポリエチレン膜(PE)を上下二層の多孔性ポリプロピレン膜(PP)で挟んだ三層コートセパレータを用いることが好ましい。
【0049】
〈負極電極体〉
負極電極体は、本開示の負極電極体である。
【0050】
〈電解液〉
電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物であってよい。非水溶媒としては、有機電解質、フッ素系溶媒、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びそれらの二種以上の組合せからなる群より選択される材料を挙げることができる。
【0051】
非水溶媒としては、フッ素系溶媒、例えばフッ素化炭酸エステルが好ましい。具体的なフッ素化炭酸エステルとしては、炭酸メチル-2,2,2-トリフルオロエチル(MFEC;Carbonic acid, methyl 2,2,2-trifluoroethyl ester;CAS 156783-95-8)、及び/又はジフルオロジメチルカーボネート(DFDMC)が好ましく、これらを体積比50対50で混合したものが特に好ましい。
【0052】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiIのリチウム化合物(リチウム塩)、及びそれらの二種以上の組合せからなる群より選択される材料を挙げることができる。電池電圧の向上及び耐久性の観点からは、LiPFが支持塩として好ましい。
【0053】
〈電池ケース〉
電池ケースは、非水系電解液に対して不活性な材料、例えば樹脂から構成されていることができる。
【実施例
【0054】
《実施例1~3、比較例1、及び参考例1》
〈実施例1〉
(シリコン系活物質Aの調整)
カチオン性ポリマーであるポリ(ジアリルジメチルクロリド)(Sigma-Aldrich社製)0.5wt%を含む1L溶液中に、Si粒子を1g、ホモジナイザーを用いて分散させ、1時間撹拌した。撹拌後の溶液を100mLの水で3回ろ過、洗浄し、余分なポリマーを除去した。得られた粉末をさらに60℃24時間真空乾燥することで、シリコン系活物質Aを得た。
【0055】
なお、水中におけるシリコン系活物質Aのゼータ電位は、+39.5mVであった。
【0056】
(シリコン系活物質Bの調整)
アニオン性ポリマーであるPEDOT:PSS(Sigma-Aldrich社製)、0.05wt%を含む1L溶液中に、Si粒子を1g、ホモジナイザーを用いて分散させ、1時間撹拌した。撹拌後の溶液を100mLの水で3回ろ過、洗浄し、余分なポリマーを除去した。得られた粉末をさらに60℃24時間真空乾燥することで、シリコン系活物質Bを得た。
【0057】
なお、水中におけるシリコン系活物質Bのゼータ電位は、-19.5mVであった。
【0058】
(正極電極体の調整)
スクリュー管瓶にNMP、PVdF系バインダー5wt%酪酸ブチル溶液、正極活物質としての平均粒径6mのLiNi1/3Co1/3Mn1/3、導電助剤としてのVGCFを容器に加え、あわとり練太郎(株式会社シンキー製ARE-310)で10分間攪拌した。アプリケーターを使用してブレード法にてAl箔(昭和電工株式会社製)上に塗工し、80℃のホットプレート上で60分間乾燥させた。
【0059】
(負極電極体の調整)
スクリュー管瓶に、水、ポリアクリル酸系バインダー、負極活物質としてのシリコン系活物質A及びB、導電助剤としてVGCF、KBを容器に加え、あわとり練太郎(株式会社シンキー製ARE-310)で10分間攪拌した。アプリケーターを使用してブレード法にてCu箔(古河電気工業株式会社製)上に塗工し、80℃のホットプレート上で60分間乾燥させた。
【0060】
なお、シリコン系活物質A及びBの比率A:Bは、75:25であった。
【0061】
(非水系リチウムイオン二次電池の調整)
正極電極体及び負極電極体を、それぞれ直径14mm及び16mmに打ち抜いた後、ロールプレス機にセットし、20kN/cmでプレスを行った。その後、正極電極体は120℃、負極電極体は60℃で24時間真空乾燥を行った。
【0062】
正極電極体及び負極電極体をグローブボックスに移動させて、負極電極体の上に電解液(1.2M LiPF溶液。溶媒はFEC:EC:EMC:DMC(1:2:4:3vol%))を1ml滴下し、セパレータ(ポリプロピレン製)を積層して、再度電解液を1ml滴下したのち、正極電極体を積層させて、自動コインセルカシメ機(宝泉株式会社)を用いてコインセル形状の非水系リチウムイオン二次電池を作製した。
【0063】
〈実施例2〉
シリコン系活物質A及びBの比率A:Bを50:50としたことを除いて実施例1と同様にして、実施例2の非水系リチウムイオン二次電池を作製した。
【0064】
〈実施例3〉
シリコン系活物質A及びBの比率A:Bを25:75としたことを除いて実施例1と同様にして、実施例3の非水系リチウムイオン二次電池を作製した。
【0065】
〈比較例1〉
シリコン系活物質Bを用いなかったこと、即ちシリコン系活物質A及びBの比率A:Bを100:0としたことを除いて実施例1と同様にして、比較例1の非水系リチウムイオン二次電池を作製した。
【0066】
〈参考例1〉
シリコン系活物質Aを用いなかったこと、即ちシリコン系活物質A及びBの比率A:Bを0:100としたことを除いて実施例1と同様にして、参考例1の非水系リチウムイオン二次電池を作製した。
【0067】
〈充放電サイクル試験〉
各例の非水系リチウムイオン二次電池に対して、0.1Cレートで4.2Vまで定電流充電した後に、0.1Cレートで2.5Vまで放電した際の電池容量を初期容量として、1Cレートで4.2Vまで定電流充電した後に1Cで定電流放電を行う充放電試験を50回繰り返し、初期容量に対して50サイクル後の放電容量維持率を算出した。
【0068】
〈結果〉
結果を表1及び図2に示した。
【0069】
【表1】
【0070】
表1及び図2に示すように、シリコン系活物質A及びBを用いた実施例1~3の非水系リチウムイオン二次電池では、50サイクル後の放電容量維持率がそれぞれ順に79.1%、82.5%、及び83.0%であった。他方、シリコン系活物質Bを用いなかった比較例1の非水系リチウムイオン二次電池では、50サイクル後の放電容量維持率が77.6%であった。即ち、シリコン系活物質A及びBを用いた実施例1~3の非水系リチウムイオン二次電池は、シリコン系活物質Bを用いなかった比較例1の非水系リチウムイオン二次電池よりも50サイクル後の放電容量維持率が高かった。
【0071】
なお、シリコン系活物質Aを用いなかった参考例1では、50サイクル後の放電容量維持率が81.8%であった。
【符号の説明】
【0072】
1 非水系リチウムイオン二次電池
10 正極電極体層
11 正極集電体層
12 正極活物質層
20 セパレータ層
30 負極電極体層
31 負極集電体層
32 負極活物質層
40 電解液
図1
図2