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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/19 20160101AFI20250708BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20250708BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20250708BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20250708BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20250708BHJP
   F16D 48/06 20060101ALI20250708BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20250708BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20250708BHJP
【FI】
B60W20/19
B60K6/48 ZHV
B60W10/02 900
B60W10/08 900
B60W20/40
F16D28/00 A
B60L15/20 K
B60L50/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022105163
(22)【出願日】2022-06-29
(65)【公開番号】P2024005122
(43)【公開日】2024-01-17
【審査請求日】2024-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】塚本 典弘
(72)【発明者】
【氏名】竹市 章
(72)【発明者】
【氏名】仲西 直器
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-331534(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065635(WO,A1)
【文献】特開2017-193193(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0274147(US,A1)
【文献】特許第5794377(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20- 6/547
B60W 10/00-10/30,20/00-20/50
B60L 1/00- 3/12, 7/00-13/00,
15/00-58/40
F16D 25/00-39/00,45/00-48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられた第1クラッチと、前記動力伝達経路における前記電動機と前記駆動輪との間に設けられた第2クラッチと、を備えた車両の、制御装置であって、
前記第1クラッチの解放状態において前記電動機のみを動力源に用いて走行するモータ走行から前記第1クラッチの係合状態において少なくとも前記エンジンを動力源に用いて走行するエンジン走行への切替えを、前記第2クラッチをスリップ状態とするスリップ制御を行っている状態において実行するものであり、
前記モータ走行中には、前記エンジン走行への切替えに伴って前記エンジンを始動する前から前記スリップ制御を行うと共に、前記モータ走行中に前記第2クラッチへの入力トルクが、前記第2クラッチをパッククリアランスが詰められたパック詰め完了状態とするように制御するときのトルク容量を下回っている場合には、前記スリップ制御を停止することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記スリップ制御は、前記第2クラッチを前記車両に対する要求駆動トルクを実現する前記第2クラッチへの入力トルクに応じたトルク容量にて制御している状態において、前記第2クラッチの入力回転速度と出力回転速度との回転速度差であるスリップ量を予め定められた目標スリップ量とするように前記電動機の出力を制御する回転速度制御であることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記目標スリップ量は、前記第2クラッチへの入力トルクが小さい程、小さな値が設定されていることを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記第2クラッチを前記パック詰め完了状態とするように制御するときのトルク容量を、前記第2クラッチのトルク容量の下限値として前記第2クラッチを制御することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び電動機と駆動輪との間にクラッチを備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられた第1クラッチと、前記動力伝達経路における前記電動機と前記駆動輪との間に設けられた第2クラッチと、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両の制御装置がそれである。この特許文献1には、第1クラッチの解放状態且つ第2クラッチの係合状態において電動機のみを動力源に用いて走行するモータ走行中に第1クラッチを係合状態に向けて制御することでエンジンを始動する際には、第2クラッチをスリップ状態又は解放状態とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5794377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、モータ走行中にエンジンを始動する場合、例えば始動ショックの抑制とレスポンスの向上との観点から、第2クラッチをエンジンの始動の開始前からスリップ状態に制御することが考えられる。ところで、モータ走行中に第2クラッチをスリップ状態に制御しているときに、第2クラッチへの入力トルクが低い場合、第2クラッチのパッククリアランスが詰められていない状態とする必要が生じる可能性がある。このような状態から車両を加速させる場合、第2クラッチをパッククリアランスが詰められたパック詰め完了状態としてからでないと、第2クラッチのトルク容量を上昇させられない。そうすると、本来は応答性がエンジンよりも良い電動機を用いたモータ走行であるにも関わらず、加速レスポンスが悪化するおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンの始動に際してショックを抑制することができると共に、電動機によるモータ走行に際して加速レスポンスの悪化を抑制することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられた第1クラッチと、前記動力伝達経路における前記電動機と前記駆動輪との間に設けられた第2クラッチと、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記第1クラッチの解放状態において前記電動機のみを動力源に用いて走行するモータ走行から前記第1クラッチの係合状態において少なくとも前記エンジンを動力源に用いて走行するエンジン走行への切替えを、前記第2クラッチをスリップ状態とするスリップ制御を行っている状態において実行するものであり、(c)前記モータ走行中には、前記エンジン走行への切替えに伴って前記エンジンを始動する前から前記スリップ制御を行うと共に、前記モータ走行中に前記第2クラッチへの入力トルクが、前記第2クラッチをパッククリアランスが詰められたパック詰め完了状態とするように制御するときのトルク容量を下回っている場合には、前記スリップ制御を停止することにある。
【発明の効果】
【0007】
前記第1の発明によれば、モータ走行中には、エンジンの始動前からスリップ制御が行われるので、速やかにエンジンの始動を開始でき、又、エンジンの始動に伴うトルク変動によるショックを抑制することができる。加えて、モータ走行中に第2クラッチへの入力トルクが、第2クラッチをパック詰め完了状態とするように制御するときのトルク容量を下回っている場合には、スリップ制御が停止させられるので、第2クラッチへの入力トルクが低下している状態から加速要求が為されたとしても第2クラッチのトルク容量が上昇させられ易い。よって、エンジンの始動に際してショックを抑制することができると共に、電動機によるモータ走行に際して加速レスポンスの悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2】発進クラッチの一例を示す部分断面図である。
図3】発進クラッチにおけるPT特性の一例を示す図である。
図4】WSC入力トルクとWSC目標差回転速度との予め定められた関係を示す図である。
図5】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、エンジンの始動に際してショックを抑制すると共にBEV走行に際して加速レスポンスの悪化を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例
【0010】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、動力源として機能する、エンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0011】
エンジン12は、公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12のトルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0012】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する公知の回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGのトルクであるMGトルクTmが制御される。MGトルクTmは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、バッテリ54からの電力により動力を発生する加速側となる正トルクでは力行トルクである。MGトルクTmは、例えば正回転の場合、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により発電を行う減速側となる負トルクでは回生トルクである。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギーも同意である。前記動力は、特に区別しない場合には駆動力、トルク、及び力も同意である。
【0013】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、断接クラッチK0、発進クラッチWSC、自動変速機20、減速ギヤ機構22、減速ギヤ機構22に連結されたディファレンシャルギヤ24等を備えている。断接クラッチK0は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と電動機MGとの間に設けられた第1クラッチである。発進クラッチWSCは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路における電動機MGと駆動輪14との間に設けられた第2クラッチである。減速ギヤ機構22は、自動変速機20の出力回転部材である変速機出力歯車26に連結されている。
【0014】
又、動力伝達装置16は、ディファレンシャルギヤ24に連結された1対のドライブシャフト28等を備えている。又、動力伝達装置16は、ケース18内において、エンジン12と断接クラッチK0とを連結するエンジン連結軸30、断接クラッチK0と発進クラッチWSCとを連結する電動機連結軸32等を備えている。又、動力伝達装置16は、ケース18内において、機械オイルポンプ34、電動機連結軸32と機械オイルポンプ34とを連結する伝達部材36等を備えている。伝達部材36は、例えばスプロケット及びチェーンで構成されている。機械オイルポンプ34は、動力源(エンジン12、電動機MG)により駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。
【0015】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸32に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。
【0016】
断接クラッチK0は、例えば公知の摩擦係合装置である。断接クラッチK0は、車両10に備えられた油圧制御回路56から供給される調圧されたK0油圧PRk0により断接クラッチK0のトルク容量であるK0トルク容量Tk0が変化させられることで、係合状態、スリップ状態、解放状態などの作動状態つまり制御状態が切り替えられる。
【0017】
発進クラッチWSCは、例えばアクチュエータにより押圧される多板式のクラッチにより構成される湿式の摩擦係合装置である。発進クラッチWSCは、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるWSC油圧PRwscにより発進クラッチWSCのトルク容量であるWSCトルク容量Twscが変化させられることで、制御状態が切り替えられる。
【0018】
発進クラッチWSCの入力側部材は、電動機連結軸32と一体的に連結されている。発進クラッチWSCの出力側部材は、自動変速機20の入力回転部材である変速機入力軸38と一体的に連結されている。
【0019】
図2は、発進クラッチWSCの一例を示す部分断面図である。図2において、発進クラッチWSCは、クラッチドラム100と、クラッチハブ102と、セパレートプレート104と、摩擦プレート106と、ピストン108と、リターンスプリング110と、バネ受板112と、スナップリング114と、を含んでいる。クラッチドラム100とクラッチハブ102とは、同じ軸心CS上に設けられている。図2では、軸心CSの上半分における発進クラッチWSCの径方向外周部分が示されている。軸心CSは、電動機連結軸32、変速機入力軸38などの軸心である。クラッチドラム100は、例えば変速機入力軸38と連結されている。クラッチハブ102は、例えば電動機連結軸32と連結されている。セパレートプレート104は、複数枚の略円環板状の外周縁がクラッチドラム100の筒部100aの内周面にスプライン嵌合されている。摩擦プレート106は、複数枚のセパレートプレート104の間に介在させられて、複数枚の略円環板状の内周縁がクラッチハブ102の外周面にスプライン嵌合されている。ピストン108は、セパレートプレート104の方向に伸びる押圧部108aが外周縁に設けられている。リターンスプリング110は、ピストン108とバネ受板112との間に介在させられており、ピストン108の一部をクラッチドラム100の底板部100bに当接するように付勢する。発進クラッチWSCには、ピストン108とクラッチドラム100の底板部100bとの間に油室116が形成されている。クラッチドラム100には、油室116に通じる油路118が形成されている。発進クラッチWSCでは、クラッチドラム100、ピストン108、リターンスプリング110、バネ受板112、油室116などによって油圧アクチュエータとしてのクラッチアクチュエータ120が構成されている。
【0020】
発進クラッチWSCにおいて、油圧制御回路56からWSC油圧PRwscが油路118を通って油室116に供給されると、WSC油圧PRwscによってピストン108がリターンスプリング110の付勢力に抗してセパレートプレート104の方向に移動し、ピストン108の押圧部108aがセパレートプレート104及び摩擦プレート106を押圧すると、発進クラッチWSCは係合状態へ切り替えられる。発進クラッチWSCは、WSC油圧PRwscによりWSCトルク容量Twscが変化させられることで、制御状態が切り替えられる。
【0021】
発進クラッチWSCでは、油室116に作動油OILが充填され、リターンスプリング110による付勢力に対抗するピストン108の押し付け力(=PRwsc×ピストン受圧面積)によってセパレートプレート104と摩擦プレート106との間のクリアランスが詰められた状態、すなわち発進クラッチWSCのパッククリアランスが詰められた状態とされると、所謂パック詰め完了状態とされる。発進クラッチWSCは、パック詰め完了状態から更にWSC油圧PRwscが増大させられることで、WSCトルク容量Twscが発生させられる。つまり、発進クラッチWSCのパック詰め完了状態は、そのパック詰め完了状態からWSC油圧PRwscを増大させれば発進クラッチWSCがトルク容量を持ち始める状態すなわちWSCトルク容量Twscが発生し始める状態である。パック詰め完了状態とする為のWSC油圧PRwscは、ピストン108がストロークエンドに到達し、且つWSCトルク容量Twscが発生していない状態とする為のWSC油圧PRwsc、つまりパックストロークエンド(=PSE)圧PRpseである。本実施例では、WSC油圧PRwscがPSE圧PRpseのときのWSCトルク容量Twscを、PSEトルクTpseと称する。
【0022】
図3は、発進クラッチWSCにおけるWSC油圧PRwscとWSCトルク容量Twscとの関係であるPT特性の一例を示す図である。図3において、WSC油圧PRwscがPSE圧PRpse以上とされると、WSC油圧PRwscに比例してWSCトルク容量Twscが増大させられる。又、発進クラッチWSCは湿式の摩擦係合装置である為、WSC油圧PRwscがPSE圧PRpse以下とされるストロークバック領域では、セパレートプレート104と摩擦プレート106との間での引き摺り損失(引き摺りトルクも同意)に対応するWSCトルク容量Twscが発生させられている。
【0023】
自動変速機20は、例えば遊星歯車装置と係合装置CBとを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば複数の公知の摩擦係合装置を含んでいる。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧されたCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルク容量Tcbが変化させられることで、制御状態が切り替えられる。
【0024】
自動変速機20は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比γat(=入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数の変速段のうちの何れかの変速段が形成される。入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機20の入力回転速度である。入力回転速度Niは、発進クラッチWSCの出力側部材の回転速度でもある。出力回転速度Noは、変速機出力歯車26の回転速度であり、自動変速機20の出力回転速度である。
【0025】
機械オイルポンプ34、及び、車両10に備えられた、ポンプ用モータ60によって駆動される電動オイルポンプ58のうちの少なくとも一方が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。
【0026】
車両10は、更に、車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、車両10の各種制御を実行する。
【0027】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ70、72、74、76、78、80、82、84、86などによる検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、電動機MGの回転速度であって発進クラッチWSCの入力側部材の回転速度でもあるMG回転速度Nm、入力回転速度Ni、車速Vに対応する出力回転速度No、アクセル開度θacc、スロットル弁開度θth、ブレーキオン信号Bon、バッテリ温度THbat、バッテリ充放電電流Ibat、バッテリ電圧Vbat、作動油OILの温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
【0028】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置50、52、56、60などに各種指令信号等(例えばエンジン制御指令信号Se、MG制御指令信号Sm、CB油圧制御指令信号Scb、K0油圧制御指令信号Sk0、WSC油圧制御指令信号Swsc、電動オイルポンプ制御指令信号Seopなど)が、それぞれ出力される。
【0029】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、動力源制御手段すなわち動力源制御部92及びクラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部94を備えている。
【0030】
動力源制御部92は、エンジン12の作動を制御する機能と、電動機MGの作動を制御する機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0031】
動力源制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された、すなわち予め定められた、前記駆動要求量を求める為の関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdem[Nm]である。要求駆動トルクTrdemは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]等を用いることもできる。動力源制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機20の変速比γat等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seと、電動機MGを制御するMG制御指令信号Smと、を出力する。
【0032】
動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動パワーPrdemを賄える場合には、車両10を駆動する駆動モードをBEV駆動モードとする。BEV駆動モードは、断接クラッチK0の解放状態において、電動機MGのみを動力源に用いて走行するモータ走行(=BEV走行)が可能なモータ駆動モードである。一方で、動力源制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求駆動パワーPrdemを賄えない場合には、駆動モードをエンジン駆動モードつまりHEV駆動モードとする。HEV駆動モードは、断接クラッチK0の係合状態において、少なくともエンジン12を動力源に用いて走行するエンジン走行つまりハイブリッド走行(=HEV走行)が可能なハイブリッド駆動モードである。他方で、動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動パワーPrdemを賄える場合であっても、バッテリ54の充電が必要な場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、HEV駆動モードを成立させる。
【0033】
動力源制御部92は、エンジン12の制御状態を停止状態から運転状態へ切り替えるエンジン始動要求の有無を判定する。例えば、動力源制御部92は、BEV駆動モード時に、要求駆動パワーPrdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲よりも増大したか否か、又は、エンジン12等の暖機が必要であるか否か、又は、バッテリ54の充電が必要であるか否かなどに基づいて、エンジン始動要求が有るか否かを判定する。
【0034】
クラッチ制御部94は、動力源制御部92によりエンジン始動要求が有ると判定された場合には、エンジン12の始動制御を実行するように断接クラッチK0を制御する。例えば、クラッチ制御部94は、クランキングトルクTcrをエンジン12側へ伝達する為のK0トルク容量Tk0が得られるように、解放状態の断接クラッチK0を係合状態に向けて制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を出力する。クランキングトルクTcrは、エンジン回転速度Neを引き上げるエンジン12のクランキングに必要な所定のトルクである。
【0035】
動力源制御部92は、エンジン始動要求が有ると判定した場合には、エンジン12の始動制御を実行するようにエンジン12及び電動機MGを制御する。例えば、動力源制御部92は、クラッチ制御部94による断接クラッチK0の係合状態への切替えに合わせて、電動機MGがクランキングトルクTcrを出力する為のMG制御指令信号Smを出力する。又、動力源制御部92は、エンジン12のクランキングに連動して、燃料供給やエンジン点火などを開始する為のエンジン制御指令信号Seを出力する。
【0036】
クラッチ制御部94は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機20の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機20の変速段を切り替える為のCB油圧制御指令信号Scbを出力する。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機20の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。
【0037】
ここで、動力源制御部92は、BEV走行からHEV走行への切替えを、発進クラッチWSCのスリップ制御CNslpを行っている状態において実行する。スリップ制御CNslpは、発進クラッチWSCをスリップ状態とする制御である。これにより、エンジン12の始動制御に伴うトルク変動による始動ショックを抑制することができる。始動ショックは、例えば断接クラッチK0の半係合時、同期時、同期後のエンジントルクTeの制御誤差に起因する。
【0038】
クラッチ制御部94は、スリップ制御CNslpの実行中には、発進クラッチWSCを車両10に対する要求駆動トルクTrdemを実現するWSC入力トルクTinwに応じたWSCトルク容量Twscにて制御する。つまり、クラッチ制御部94は、スリップ制御CNslpの実行中には、要求駆動トルクTrdemを実現するWSC入力トルクTinwと同等のWSCトルク容量Twscが得られるように発進クラッチWSCを制御する、つまりWSC油圧PRwscを制御する(図3参照)。WSC入力トルクTinwは、発進クラッチWSCへの入力トルクである。要求駆動トルクTrdemを実現するWSC入力トルクTinwは、例えば損失等を考慮して要求駆動トルクTrdemを電動機連結軸32上に換算したトルク、つまりWSC要求トルクである。
【0039】
動力源制御部92は、WSC要求トルクと同等のWSCトルク容量Twscとなるように発進クラッチWSCが制御されている状態において、要求駆動パワーPrdemを実現する電動機MGの出力であるMGパワーPmを所定量増加することで、スリップ制御CNslpを行う。MGパワーPmの増加分は、発進クラッチWSCがスリップ状態とされることで消費されるが、要求駆動パワーPrdemを実現するMGパワーPm分は、駆動輪14へ伝達される。
【0040】
エンジン始動要求が有ると判定されたときには、速やかにHEV走行に移行することが好ましい。その為、動力源制御部92は、BEV走行中には、HEV走行への切替えに伴ってエンジン12を始動する前からスリップ制御CNslpを行う。つまり、動力源制御部92は、BEV走行中には、エンジン12の始動に備えて、スリップ制御CNslpを行う。本実施例では、BEV走行中に行うスリップ制御CNslpを、BEV時WSCスリップ制御CNslpevと称する。
【0041】
動力源制御部92は、BEV時WSCスリップ制御CNslpevを実行する際には、例えばMG回転速度Nmの目標値である目標MG回転速度Nmtgtを設定し、MG回転速度Nmを目標MG回転速度Nmtgtとするように、フィードバック制御によってMGパワーPmを制御する。目標MG回転速度Nmtgtは、予め定められたWSC目標差回転速度ΔNwsctgtに入力回転速度Niを加算した値(=ΔNwsctgt+Ni)である。WSC目標差回転速度ΔNwsctgtは、WSC差回転速度ΔNwscの目標値である。WSC差回転速度ΔNwscは、発進クラッチWSCの差回転速度であって、発進クラッチWSCの入力回転速度と出力回転速度との回転速度差であるスリップ量である。WSC目標差回転速度ΔNwsctgtは、目標スリップ量である。発進クラッチWSCの入力回転速度は、発進クラッチWSCの入力側部材の回転速度であって、MG回転速度Nmと同値である。発進クラッチWSCの出力回転速度は、発進クラッチWSCの出力側部材の回転速度であって、入力回転速度Niと同値である。つまり、WSC差回転速度ΔNwscは、MG回転速度Nmと入力回転速度Niとの回転速度差である。本実施例では、MG回転速度Nmから入力回転速度Niを減算したときの値をWSC差回転速度ΔNwsc(=Nm-Ni)とする。
【0042】
このように、スリップ制御CNslpは、発進クラッチWSCを要求駆動トルクTrdemを実現するWSC入力トルクTinwに応じたWSCトルク容量Twscにて制御している状態において、WSC差回転速度ΔNwscをWSC目標差回転速度ΔNwsctgtとするようにMGパワーPmを制御する回転速度制御CNmgである。
【0043】
ところで、BEV時WSCスリップ制御CNslpevの実行中に、例えばクリープ走行のようにWSC入力トルクTinwが低い場合、発進クラッチWSCにおける引き摺りトルクを低減させる為に、リターンスプリング110による付勢力によってピストン108を初期位置側に移動させる必要が生じる。ピストン108の初期位置は、WSC油圧PRwscがゼロ値のときのピストン108の位置である。尚、WSC油圧PRwscはゼロ値とするのではなく、所定圧をかけており、油路118や油室116には作動油OILが充填されている。上記クリープ走行は、例えばアクセルオフのままでブレーキオフ操作が為されたときに車両10がゆっくり動くクリープ現象を生じさせる走行である。
【0044】
上述したようなWSC入力トルクTinwが低くされた走行状態から加速要求が為された場合、WSCトルク容量Twscが上昇させられる方向にピストン108を移動させてからでないと、つまり発進クラッチWSCをパック詰め完了状態としてからでないと、発進クラッチWSCは十分なトルクを伝達することができない。その為、ピストン108が移動している間の無駄時間が生じる。そうすると、BEV走行は、本来、エンジン12に比べて応答性が良いとされている電動機MGを用いて走行しているにも関わらず、加速が良くないと感じられてしまうおそれがある。このように、BEV時WSCスリップ制御CNslpevの実行時に、加速応答遅れつまり加速レスポンスの悪化を招くおそれがある。
【0045】
そこで、動力源制御部92は、発進クラッチWSCをパック詰め完了状態とするように制御するときのWSCトルク容量TwscであるPSEトルクTpseよりもWSC入力トルクTinwが大きい場合には、BEV時WSCスリップ制御CNslpev(回転速度制御CNmgも同意)を実行し、PSEトルクTpseよりもWSC入力トルクTinwが小さい場合には、BEV時WSCスリップ制御CNslpevを実行しない(図3参照)。つまり、動力源制御部92は、BEV走行中にWSC入力トルクTinwがPSEトルクTpseを下回っている場合には、BEV時WSCスリップ制御CNslpevを停止する。
【0046】
又、発進クラッチWSCを解放状態からパック詰め完了状態とするようにピストン108が移動している間の無駄時間を抑制又は無くすには、ピストン108がパック詰め完了状態の位置からリターンスプリング110による付勢力によって発進クラッチWSCを解放状態とする方向へ移動させられることを防止又は抑制することが好ましい。そこで、動力源制御部92は、PSEトルクTpseをWSCトルク容量Twscの下限値として発進クラッチWSCを制御する。つまり、動力源制御部92は、WSC入力トルクTinwがPSEトルクTpseを下回っても、発進クラッチWSCを制御するときのWSC油圧PRwscの指示値をPSE圧PRpseよりも下げない。
【0047】
BEV走行中には、PSEトルクTpseを境として、発進クラッチWSCが係合状態とスリップ状態との間で切り替えられる。その為、発進クラッチWSCが係合状態とされるときの係合ショック、又は、発進クラッチWSCがスリップ状態とされるときの解放ショックが懸念される。これに対して、BEV時WSCスリップ制御CNslpevにおけるWSC目標差回転速度ΔNwsctgtを、WSC入力トルクTinwに応じて変更する。例えば、WSC入力トルクTinwが小さい程、WSC目標差回転速度ΔNwsctgtを小さく設定する。つまり、WSC入力トルクTinwがPSEトルクTpseに近い程、WSC目標差回転速度ΔNwsctgtをゼロ値に近い値とする。
【0048】
図4は、WSC入力トルクTinwとWSC目標差回転速度ΔNwsctgtとの予め定められた関係を示す図である。図4において、WSC目標差回転速度ΔNwsctgtは、WSC入力トルクTinwが小さい程、小さな値が設定されている。動力源制御部92は、BEV時WSCスリップ制御CNslpevを実行する際には、例えば図4の関係にWSC入力トルクTinwを適用することでWSC目標差回転速度ΔNwsctgtを算出し、目標MG回転速度Nmtgtを設定する。
【0049】
図5は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、エンジン12の始動に際してショックを抑制すると共にBEV走行に際して加速レスポンスの悪化を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えばBEV走行中に繰り返し実行される。
【0050】
図5において、フローチャートの各ステップは動力源制御部92の機能に対応している。ステップ(以下、ステップを省略する)S10において、WSC入力トルクTinwがPSEトルクTpseを下回っているか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合はS20において、WSC入力トルクTinwが「PSEトルクTpse+α」を上回っているか否かが判定される。「α」は、BEV時WSCスリップ制御CNslpevつまり回転速度制御CNmgを実行するか否かの判定において設けられたヒステリシス分である。上記S10の判断が肯定される場合はS30において、回転速度制御CNmgが終了させられる。上記S20の判断が肯定される場合はS40において、回転速度制御CNmgが作動させられる。上記S20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。尚、図5のフローチャートから明らかなように回転速度制御CNmgは作動と非作動とが繰り返される場合があり、回転速度制御CNmgを終了することは、回転速度制御CNmgを停止することや非作動とされることと同意である。
【0051】
上述のように、本実施例によれば、BEV時WSCスリップ制御CNslpevが行われるので、速やかにエンジン12の始動を開始でき、又、エンジン12の始動ショックを抑制することができる。加えて、BEV走行中にWSC入力トルクTinwがPSEトルクTpseを下回っている場合には、BEV時WSCスリップ制御CNslpevが停止させられるので、WSC入力トルクTinwが低下している状態から加速要求が為されたとしてもWSCトルク容量Twscが上昇させられ易い。よって、エンジン12の始動に際してショックを抑制することができると共に、BEV走行に際して加速レスポンスの悪化を抑制することができる。
【0052】
また、本実施例によれば、BEV時WSCスリップ制御CNslpevは、WSC差回転速度ΔNwscをWSC目標差回転速度ΔNwsctgtとするようにMGパワーPmを制御する回転速度制御CNmgであるので、発進クラッチWSCが適切に狙いのスリップ状態とされる。又、余分な電力の消費を抑制したり、発進クラッチWSCの耐久性低下を抑制することができる。
【0053】
また、本実施例によれば、WSC目標差回転速度ΔNwsctgtは、WSC入力トルクTinwが小さい程、小さな値が設定されているので、BEV時WSCスリップ制御CNslpevの開始時や終了時にWSC目標差回転速度ΔNwsctgtがゼロ値又はゼロ近傍の値とされ、発進クラッチWSCの解放ショックや係合ショックが抑制される。
【0054】
また、本実施例によれば、PSEトルクTpseをWSCトルク容量Twscの下限値として発進クラッチWSCが制御されるので、発進クラッチWSCのピストン108がリターンスプリング110によって発進クラッチWSCを解放状態とする方向へ移動させられることが防止又は抑制される。又、加速要求が為されたときにWSCトルク容量Twscが速やかに上昇させられる。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0056】
例えば、前述の実施例では、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路における電動機MGと駆動輪14との間に設けられた第2クラッチとして、発進クラッチWSCを例示したが、この態様に限らない。例えば、この第2クラッチは、発進クラッチWSCに替えて、自動変速機20を動力伝達不能状態つまりニュートラル状態とすることができる係合装置CBが用いられても良い。又は、発進クラッチWSCに替えてトルクコンバータ等の流体式伝動装置が車両10に備えられる場合には、この第2クラッチは、流体式伝動装置に設けられたロックアップクラッチが用いられても良い。尚、第2クラッチとして発進クラッチWSCが用いられる場合には、自動変速機20は必ずしも備えられている必要はない。
【0057】
また、前述の実施例において、BEV走行中にWSC入力トルクTinwがPSEトルクTpseを下回っている状態で、バッテリ54の充電要求等によってエンジン12を始動して運転状態に移行する場合は、WSC油圧PRwscの指示値をPSE圧PRpseよりも下げて、BEV時WSCスリップ制御CNslpevを作動させても良い。
【0058】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0059】
10:車両
12:エンジン
14:駆動輪
90:電子制御装置(制御装置)
K0:断接クラッチ(第1クラッチ)
MG:電動機
WSC:発進クラッチ(第2クラッチ)
図1
図2
図3
図4
図5