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  • 特許-制御装置 図1
  • 特許-制御装置 図2
  • 特許-制御装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20250708BHJP
   G08G 1/09 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
F16H61/02
G08G1/09 F
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022107634
(22)【出願日】2022-07-04
(65)【公開番号】P2024006590
(43)【公開日】2024-01-17
【審査請求日】2024-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊崎 健太
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-102441(JP,A)
【文献】特開2018-103858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12
F16H 61/16-61/24
F16H 61/66-61/70
F16H 63/40-63/50
G08G 1/00-99/00
G05D 1/00- 1/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔オペレータによる遠隔運転の対象であり、ギヤ段を変更することで変速を行う変速機を有する車両を制御する制御装置であって、
前記車両に対する前記遠隔運転が行われている間は、前記遠隔運転が行われていないときに使用される通常の変速線図とは異なる遠隔運転用変速線図に従って変速を行い、
前記遠隔運転用変速線図は、前記通常の変速線図と比較して、アップ変速線が高速側に、ダウン変速線が低速側に移動した変速線図である、
制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠隔運転が可能な車両を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、遠隔運転装置によって被遠隔運転車の遠隔運転を開始するときに、遠隔運転装置の装備の状態と被遠隔運転車の装備の状態とが一致していないことで発生する不具合を抑制するための情報処理装置を開示している。情報処理装置は、遠隔運転の対象である被遠隔運転車の装備の状態を示す第1装備状態情報を取得する。そして、遠隔運転装置の装備の状態を示す第2装備状態情報と、第1装備状態情報とに基づいて、遠隔運転装置を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-174993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
変速機を有する遠隔車両を遠隔オペレータが遠隔運転する場合、車速の変化に応じて変速が行われ、遠隔車両のギヤ段が変更されることがある。変速が行われるとアクセルの入力量を一定にしていても加速度が変化するため、遠隔オペレータが車速のコントロールをしにくくなり、遠隔車両の車両挙動が不安定になる恐れがある。
【0005】
本開示は、変速機を有する遠隔車両において、車両挙動の安定性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、遠隔オペレータによる遠隔運転の対象であり、ギヤ段を変更することで変速を行う変速機を有する車両を制御する制御装置に関する。
制御装置は、車両に対する遠隔運転が行われている間は、遠隔運転が行われていないときよりも変速の実施を抑制する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、変速機を有する遠隔車両において、変速によって遠隔オペレータが遠隔車両のコントロールをしにくくなることを減らし、車両挙動の安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ギヤ段、車速、及び加速度の関係を説明するためのタイムチャートである。
図2】本実施の形態に係る車両に搭載される変速機が従う締結表の例である。
図3】本実施の形態に係る制御装置が使用する変速線図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して、本開示の実施の形態を説明する。
【0010】
1.概要
遠隔オペレータが車両を遠隔運転するための遠隔運転システムが知られている。遠隔運転の対象となる遠隔車両は、遠隔運転車両及び自動運転車両を含む。自動運転車両については、例えば、自動運転走行が困難と判断された時には遠隔オペレータによる遠隔運転の対象となることがある。遠隔運転システムは、遠隔オペレータ側の遠隔端末、及び遠隔運転の対象となる遠隔車両側の車両端末を含む。遠隔端末と車両端末との間の情報の送受信は通信ネットワークを介して行われる。車両端末から遠隔端末へは、カメラ、レーダー、GPS等の車載センサから取得される情報が送信される。遠隔オペレータは、遠隔端末が受信した情報に基づき、遠隔端末に備えられるアクセルやブレーキなどの入力装置を操作して操作情報を入力する。遠隔オペレータが入力したアクセル、ブレーキ、ステアリング操作角などの操作情報は遠隔端末から車両端末へ送信され、遠隔車両が遠隔運転される。
【0011】
このような遠隔車両の中には、ギヤ段を変更することで変速を行う変速機を有する車両がある。変速が行われると、遠隔オペレータによるアクセルの入力量に対する加速度が変化する。図1には、変速機を有する遠隔車両の、ギヤ段、車速、及び加速度の推移がタイムチャートで示されている。時刻T1で遠隔運転を開始した遠隔オペレータは、アクセルの入力量が一定となるように入力装置を操作する。ギヤ段が変更されなければアクセルの入力量に対する加速度は変わらないため、T1からT2にかけては一定の加速度で車速が上昇していく。T2において、車速がV2に上昇したことを受けて変速機は変速を行い、ギヤ段を1速ギヤ段から2速ギヤ段に変更する。これにより、T2からT3にかけては、変速による加速度変化が生じ、加速度は一定でなくなっている。また、変速前後の駆動力差によりアクセルの入力量に対する加速度が変わるため、T3以降はT1からT2までの間よりも加速度が小さくなっている。
【0012】
遠隔車両においては、ドライバが車両に乗車して操作する場合と異なり、遠隔オペレータは変速による加速度の変化を体感することができない。そのため、遠隔運転が行われている間に遠隔車両のギヤ段が変更されると、遠隔オペレータが車速を思い通りにコントロールすることが難しくなり、車両の挙動が不安定になることがある。それに加えて、遠隔運転システムにおいては、遠隔端末と車両端末との間の情報の送受信は通信ネットワークを介して行われるため、通信遅延が生じやすい。通信遅延が生じると、遠隔オペレータの操作に対する車両の挙動の時間的な遅れが発生するため、遠隔オペレータが適切な操作量を把握することは更に難しくなる。
【0013】
本開示の制御装置は、このような事態を防ぎ車両挙動の安定性を高めるために、変速機を有する遠隔車両を制御する装置である。制御装置は、遠隔端末に含まれる装置であってもよいし、車両端末に含まれる装置であってもよい。制御装置は、遠隔オペレータによる遠隔運転が行われている間は遠隔運転が行われていない時と比較して変速の実施を抑制し、変速を発生しにくくする。以下に制御装置の実施形態を説明する。
【0014】
2.1つ目の実施形態
1つ目の実施形態においては、制御装置は、遠隔車両の遠隔運転が行われている間は変速を中止する。変速機は、例えば、図2に例示される締結表に従ってクラッチやブレーキを締結させることでそれぞれのギヤ段を形成する。制御装置による制御が行われていないとき、例えば、変速機はクラッチC1とブレーキB2を締結させることで1速ギヤ段を形成し、車速が上昇してアップ変速が行われる車速に到達したら、ブレーキB2を開放させてブレーキB1とクラッチC1を締結させることで1速ギヤ段から2速ギヤ段へのアップ変速を行う。或いは、例えば、クラッチC2とブレーキB1を締結させることで4速ギヤ段を形成し、車速が低下してダウン変速が行われる車速に到達したら、ブレーキB1を開放させてクラッチC1とクラッチC2を締結させることで4速ギヤ段から3速ギヤ段へのダウン変速を行う。
【0015】
1つ目の実施形態において、制御装置は、車速が上昇したときに行われるアップ変速、及び車速が低下したときに行われるダウン変速の何れをも禁止し、ギヤ段を遠隔運転が開始したときのギヤ段に固定する。例えば、遠隔運転開始時にギヤ段が1速ギヤ段であれば、車速が上昇して2速ギヤ段にアップ変速する車速に到達しても変速が行われないように、クラッチC1とブレーキB2が締結された状態のまま維持させる。或いは、例えば、遠隔運転開始時のギヤ段が4速ギヤ段であれば、車速が低下して3速ギヤ段にダウン変速する車速に到達しても変速が行われないように、クラッチC2とブレーキB1が締結された状態を維持させる。
【0016】
1つ目の実施形態においては、遠隔運転中は変速が行われないため、変速による駆動力の変化が発生して遠隔オペレータが車速コントロールしづらくなることを防ぐ。これにより、車両挙動の安定性を向上させることができる。
【0017】
3.2つ目の実施形態
2つ目の実施形態においても、制御装置は、遠隔運転が行われている間は変速を中止する。ただし、2つ目の実施形態においては、ギヤ段毎に上限車速が設定され、走行車速が上限車速を上回ったときには変速の中止がキャンセルされる。部品耐久性の観点から、それぞれのギヤ段には超過しないことが望ましい車速が存在する。上限車速は、そのような、超過しないことが望ましい車速を考慮して予め設定される車速である。上限車速まで車速が上昇したときは、制御装置による変速の中止はキャンセルされ、アップ変速が行われる。こうして、ローギヤのまま高速で走行することによる部品の故障を防ぐことができる。
【0018】
なお、2つ目の実施形態においても、車速が低下したときのダウン変速は中止される。ハイギヤのまま低速で走行することによる部品の故障の恐れは小さいため、部品耐久性の観点からは、ギヤ段毎の下限車速を設定する必要性は小さいためである。また、上限車速は、遠隔運転が行われてない通常時にアップ変速が行われる車速よりも高い車速に設定されるため、アップ変速についても、遠隔運転中は通常時よりも行われにくくなる。そのため、2つ目の実施形態においても、変速の頻度を小さくし、車両挙動の安定性を高めることができる。
【0019】
4.3つ目の実施形態
3つ目の実施形態においても、制御装置は、遠隔運転が行われている間は変速が発生しにくくなるように車両を制御する。3つ目の実施形態においては、制御装置は、遠隔運転中は変速線図を変更し、通常時とは異なる遠隔運転用の変速線図に従って変速を行うように車両を制御する。遠隔運転用の変速線図は、通常時の変速線図と比較して、アップ変速線が高速側に、ダウン変速線が低速側に移動した変速線図である。
【0020】
3つ目の実施形態においては、遠隔運転中も変速は完全には中止されない。ただし、変速線図が変更されることで、車速の上昇時は通常時よりも高速側で、車速の低下時は通常時よりも低速側で変速が行われるようになり、通常時と比較すると変速は行われにくくなる。こうして、変速が行われて遠隔オペレータが車速を思い通りにコントロールしにくくなる場面は減らしつつ、高車速でローギヤが使われて部品の故障につながることや、低車速でハイギヤが使われて過度に駆動力が弱くなることを防ぐことができる。
【0021】
図3は、変更される変速線図のうちの、アップ変速線の例を示している。破線は通常時のアップ変速線を、実線は遠隔運転中のアップ変速線を示している。遠隔運転中のアップ変速線が通常時のアップ変速線よりも高速側に移動されることで、車速が上昇したときに通常時よりも高い車速で変速が行われるようになり、変速の頻度を減らすことができる。なお、図3に示される変速線図では遠隔運転中のアップ変速線は通常時のアップ変速線を高速側にずらしただけのものとなっているが、遠隔運転中のアップ変速線と通常時のアップ変速線は異なる形の変速線であってもよい。
【0022】
図示されないが、遠隔運転中のダウン変速線は逆に、通常時のダウン変速線を低速側に移動した変速線に変更される。これにより、車速が低下したときに通常時よりも低い車速で変速が行われるようになり、変速の頻度を減らすことができる。遠隔運転中のダウン変速線についても、通常時のダウン変速線を低速側にずらしただけのものであってもよいし、通常時のダウン変速線と異なる形の変速線であってもよい。
【0023】
3つ目の実施形態においても、遠隔運転中は変速の頻度を減らすことができる。そのため、遠隔オペレータが思い通りの車速に車両をコントロールしにくくなる事態を減らし、車両の走行の安定性を高めることができる。同時に、変速を完全には中止しないことで、ハイギヤのまま低車速で走行することによる過度な駆動力の低下や、ローギヤのまま高車速で走行することによる部品の故障を防ぐことができる。
図1
図2
図3