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  • 特許-エンジンの制御装置 図1
  • 特許-エンジンの制御装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 17/00 20060101AFI20250708BHJP
   F02D 41/30 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
F02D17/00 B
F02D41/30
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022110239
(22)【出願日】2022-07-08
(65)【公開番号】P2024008398
(43)【公開日】2024-01-19
【審査請求日】2024-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】飯澤 侑貴
(72)【発明者】
【氏名】藤竹 良徳
(72)【発明者】
【氏名】熊沢 卓
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】本田 信之介
(72)【発明者】
【氏名】谷山 元彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 啓太
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-213387(JP,A)
【文献】特開2013-11176(JP,A)
【文献】特開2021-110324(JP,A)
【文献】特開2021-154774(JP,A)
【文献】国際公開第2021/205567(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 17/00
F02D 41/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有するエンジンの制御装置であって、
前記エンジンを制御するとともに、前記エンジンの運転中に、前記エンジンの一つまたは一部の前記気筒だけ燃料の供給を休止する部分気筒フューエルカットを実行するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記エンジンのトルクを制御するための指示エンジントルクを出力し、
前記指示エンジントルクに追従して運転された前記エンジンの実際の前記トルクを検出または推定した実エンジントルクを求め、
前記指示エンジントルクまたは前記実エンジントルクのいずれか大きい方が、前記エンジンの高トルク状態を判定するために定めた負荷閾値を上回っている場合は、前記部分気筒フューエルカットの実行を禁止する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の気筒を有するエンジンの制御装置に関し、特に、エンジンの運転中に、一つまたは一部の気筒だけ燃料の供給を休止すること(部分気筒フューエルカット)が可能なエンジンの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、部分気筒フューエルカットを実行する場合であっても、排気性状の悪化を適切に判定することを目的とした内燃機関の判定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2022-65266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載された内燃機関(エンジン)のように、複数の気筒を有するエンジンの運転中に、一つまたは一部の気筒だけ燃料の供給を休止する、いわゆる部分気筒フューエルカット(あるいは、気筒休止運転)を実行することにより、エンジンの燃費向上を図ることできる。但し、エンジンの出力トルクが大きいときに部分気筒フューエルカットの状態に移行すると、エンジンの出力トルクの落ち込みが大きくなり、ショックが発生してしまうおそれがある。
【0005】
この発明は上記のような技術的課題に着目して考え出されたものであり、ショックの発生を抑制して、適切に部分気筒フューエルカットを実行することが可能なエンジンの制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、複数の気筒を有するエンジンの制御装置であって、前記エンジンを制御するとともに、前記エンジンの運転中に、前記エンジンの一つまたは一部の前記気筒だけ燃料の供給を休止する部分気筒フューエルカットを実行するコントローラを備え、前記コントローラは、前記エンジンのトルクを制御するための指示エンジントルクを出力し、前記指示エンジントルクに追従して運転された前記エンジンの実際の前記トルクを検出または推定した実エンジントルクを求め、前記指示エンジントルクまたは前記実エンジントルクのいずれか大きい方が、前記エンジンの高トルク状態を判定するために予め定めた負荷閾値を上回っている場合は、前記部分気筒フューエルカットの実行を禁止する(もしくは、前記指示エンジントルクおよび前記実エンジントルクがいずれも前記負荷閾値未満の場合に、前記部分気筒フューエルカットの実行を許可する)ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明のエンジンの制御装置によれば、指示エンジントルクと実エンジントルクとのいずれか大きい方の値に基づいて、エンジンの高トルク状態の判定が行われる。そして、エンジンが高トルク状態であると判定した場合には、部分気筒フューエルカットの実行が禁止される。そのため、ショックの発生を抑制して、適切に部分気筒フューエルカットを実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】この発明のエンジンの制御装置における課題を説明するための図であって、エンジントルク(指示エンジントルク、および、実エンジントルク)の変化、ならびに、部分気筒フューエルカット許可フラグの変化を示すタイムチャートである。
図2】この発明のエンジンの制御装置によって実行される制御を説明するための図であって、エンジントルク(指示エンジントルク、および、実エンジントルク)の変化、ならびに、部分気筒フューエルカット許可フラグの変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
【0010】
この発明の実施形態で制御の対象にするエンジンは、例えば、駆動力源として車両に搭載されるガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関であり、出力の調整、ならびに、始動および停止などの作動状態が電気的に制御するように構成される。ガソリンエンジンであれば、スロットルバルブの開度、燃料の供給量または噴射量、点火の実行および停止、ならびに、点火時期などが電気的に制御される。また、ディーゼルエンジンであれば、燃料の噴射量、燃料の噴射時期、あるいは、(EGRシステムにおける)スロットルバルブの開度などが電気的に制御される。
【0011】
更に、この発明の実施形態で制御の対象にするエンジンは、複数の気筒(シリンダ)を有し、それら複数の気筒のうちの、一つまたは一部の気筒だけ燃料の供給を休止する部分気筒フューエルカット(あるいは、気筒休止運転)が可能な構成になっている。具体的なエンジンの構成例としては、例えば、前述した“特許文献1の図1”に示されているような四つの気筒を有するエンジン(内燃機関)を挙げることができる。そして、この発明の実施形態におけるエンジンの制御装置は、“特許文献1の図1”における“制御装置70”と同様のコントローラを備えている。この発明の実施形態におけるコントローラは、エンジンの運転状態を制御するとともに、上記のような部分気筒フューエルカットを実行する。
【0012】
前述したように、エンジンの運転時に、そのエンジンが大きなトルク(エンジントルク)を出力している状態(高トルク状態)で部分気筒フューエルカットを実行すると、部分気筒フューエルカットによるエンジントルクの低下量、すなわち、エンジントルクの落ち込みが大きくなり、ショックが発生してしまう。その対策として、エンジントルクの大きさに対する閾値を設け、その閾値をエンジントルクが上回る場合に、部分気筒フューエルカットの実行を禁止することが考えられる。例えば、図1のタイムチャートに示すように、エンジンの高トルク状態を判定するための閾値として、負荷閾値TH’が設定される。エンジントルクが負荷閾値TH’を上回る場合に、エンジンは高トルク状態であると判定される。
【0013】
通常、エンジンは、コントローラが出力するエンジントルクの指令値(指示エンジントルク)に対して、実際のエンジントルク(実エンジントルク)が追従するように制御される。したがって、従来の制御技術では、図1のタイムチャートに示すように、指示エンジントルクL1’が、負荷閾値TH’よりも低い範囲で、部分気筒フューエルカット許可フラグFL’がONにされる。すなわち、時刻t1以前、および、時刻t2以降の期間で、部分気筒フューエルカット(部分気筒FC)の実行が許可される。指示エンジントルクL1’が、負荷閾値TH’を上回る場合には、部分気筒フューエルカット許可フラグFL’がOFFにされる。すなわち、時刻t1から時刻t2の間で、部分気筒フューエルカット(部分気筒FC)の実行が禁止される。
【0014】
但し、実エンジントルクL2’(実際のエンジントルクの検出値または推定値)は、指示エンジントルクL1’に対して不可避的に遅れ時間を伴って変化する。そのため、上記のようにしてエンジンの高トルク状態を判定した場合は、図1の時刻t2から時刻t3の間のように、実エンジントルクL2’が負荷閾値TH’よりも大きい状態でも、部分気筒フューエルカットの実行が許可されてしまう。なお、実エンジントルクL2’を基にエンジンの高トルク状態を判定した場合も、部分気筒フューエルカットを実行する際の制御遅れに起因して、実際に部分気筒フューエルカットが実行されたタイミングで、既に、実エンジントルクL2’が負荷閾値TH’よりも大きい状態になっている場合がある。そのため、従来の制御技術では、部分気筒フューエルカットが実行された際に、エンジントルクの落ち込みが大きくなり、ショックが発生してしまう可能性がある。
【0015】
そこで、この発明の実施形態におけるエンジンの制御装置では、エンジンのトルクを制御するための指示エンジントルクが出力されとともに、その指示エンジントルクに追従して運転されたエンジンが実際に出力するエンジントルクを検出または推定した実エンジントルクが求められる。そして、指示エンジントルクまたは実エンジントルクのいずれか大きい方が、エンジンの高トルク状態を判定するために予め定めた負荷閾値を上回っている場合は、部分気筒フューエルカットの実行が禁止される。
【0016】
具体的には、図2のタイムチャートに示すように、指示エンジントルクL1または実エンジントルクL2のいずれか大きい方が、負荷閾値THよりも低い範囲で、部分気筒フューエルカット許可フラグFLがONにされる。すなわち、指示エンジントルクL1および実エンジントルクL2が共に負荷閾値THよりも小さくなる時刻t10以前、および、時刻t20以降の期間で、部分気筒フューエルカット(部分気筒FC)の実行が許可される。指示エンジントルクL1または実エンジントルクL2のいずれか大きい方が、負荷閾値THを上回る場合には、部分気筒フューエルカット許可フラグFLがOFFにされる。すなわち、実エンジントルクL2よりも大きい指示エンジントルクL1が負荷閾値THよりも大きくなる時刻t10から、指示エンジントルクL1よりも大きい実エンジントルクL2が負荷閾値THよりも大きくなる時刻t20の間で、部分気筒フューエルカット(部分気筒FC)の実行が禁止される。
【0017】
上記のようにしてエンジンの高トルク状態を判定し、その判定結果に応じて部分気筒フューエルカットの実行の可否を判断することにより、エンジントルクが増加傾向の場合は、実エンジントルクL2よりも先に大きくなる指示エンジントルクL1を基に、実エンジントルクL2の増加に先行して、部分気筒フューエルカットの実行が禁止される。一方、エンジントルクが減少傾向の場合は、指示エンジントルクL1に遅れて小さくなる実エンジントルクL2を基に、実エンジントルクL2の低下を待って、部分気筒フューエルカットの実行が許可される。その結果、部分気筒フューエルカットの実行が許可され(部分気筒フューエルカット許可フラグFLがONになり)、実際に部分気筒フューエルカットが実行される際には、実エンジントルクL2が負荷閾値THよりも小さい状態になっている。そのため、エンジンの高トルク状態で部分気筒フューエルカットが実行されることが回避され、部分気筒フューエルカットの実行に伴うショックの発生を抑制することができる。
【0018】
したがって、この発明の実施形態におけるエンジンの制御装置によれば、指示エンジントルクL1と実エンジントルクL2とのいずれか大きい方の値に基づいて、エンジンの高トルク状態の判定が行われる。そして、エンジンが高トルク状態であると判定した場合には、部分気筒フューエルカットの実行が禁止される。言い換えると、指示エンジントルクL1および実エンジントルクL2が、いずれも、エンジンの高トルク状態を判定する負荷閾値THよりも低い場合にのみ、部分気筒フューエルカットの実行が許可される。そのため、ショックの発生を抑制して、適切に、部分気筒フューエルカットを実行することができる。
【符号の説明】
【0019】
L1、L1’ 指示エンジントルク
L2、L2’ 実エンジントルク
FL、FL’ 部分気筒フューエルカット許可フラグ
TH、TH’ 負荷閾値
図1
図2