(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】触媒
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20250708BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20250708BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20250708BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20250708BHJP
B01J 31/28 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
H01M4/86 H
H01M4/86 B
H01M4/92
H01M8/10 101
H01M12/08 K
B01J31/28 M
(21)【出願番号】P 2022114005
(22)【出願日】2022-07-15
【審査請求日】2024-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】大久保 慶一
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-090987(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104051745(CN,A)
【文献】国際公開第2019/221156(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
C25B 1/00-15/08
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素還元活性を有する金属粒子と、塩基性官能基を有する添加剤と、酸性官能基を有するバインダーと
、担体とを有し、
前記金属粒子は、前記担体に担持され、
前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、
前記バインダーの総酸性官能基量に対する前記添加剤の総塩基官能基量の比(塩基点量/酸点量)が
0.34以上6.82以下であ
り、
前記金属粒子は、白金粒子、白金合金粒子、及び、白金を含む複合粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記担体の重量に対する前記添加剤の重量が0.0100以上0.150以下であり、
前記担体の重量に対する前記バインダーの重量が0.700以上1.15以下であり、
前記バインダーがパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーであり、
前記バインダーの酸性官能基1モル当たりの等価質量が600g/mol以上1100g/mol以下であり、
前記添加剤がオレイルアミン、メラミン、及び、メラミンの重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記添加剤の塩基性官能基1モル当たりの等価質量が21.0g/mol以上267g/mol以下であることを特徴とする、触媒。
【請求項2】
前記金属粒子は、
白金コバルト合金粒子である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記添加剤
がメラミン、又は、メラミンの重合体であり、
前記添加剤の塩基性官能基1モル当たりの等価質量が
21.0g/molである、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の触媒を含む、燃料電池用又は金属空気電池用の空気極。
【請求項5】
請求項
4に記載の空気極をカソードとして有する、燃料電池。
【請求項6】
請求項
4に記載の空気極をカソードとして有する、金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学的酸素還元用の触媒について様々な研究がなされている。
特許文献1では、白金を含有するナノ粒子と、メラミン化合物、チオシアヌル酸化合物、並びに前記メラミン化合物若しくは前記チオシアヌル酸化合物をモノマーとする重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有する、電気化学的酸素還元用触媒が開示されている。
特許文献2では、白金を含有するナノ粒子と、メラミン化合物をモノマーとする特定の重合体及び特定のメラミン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、を含有する、実用的な温度条件として70-85℃において耐久性が高い電気化学的酸素還元用触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/221156号
【文献】国際公開第2021/090746号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸素還元活性を有する触媒に触媒性能向上のために添加剤として有機窒素化合物を添加すると、触媒層のひび割れが発生する場合がある。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、有機窒素化合物を含み、且つ、触媒層のひび割れの発生を抑制することができる触媒を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示においては、酸素還元活性を有する金属粒子と、塩基性官能基を有する添加剤と、酸性官能基を有するバインダーとを有し、
前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、
前記バインダーの総酸性官能基量に対する前記添加剤の総塩基官能基量の比(塩基点量/酸点量)が0より大きく6.82以下であることを特徴とする、触媒を提供する。
【0007】
本開示の触媒においては、前記有機窒素化合物が下記一般式(1)で表されるモノマー、又は、少なくとも一部に当該モノマーを含むポリマーであってもよい。
【0008】
【0009】
[ 一般式(1)中、R1、R2、R3は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又は、ニトリル基、アミド基、イミン基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基、スルホ基、カルボン酸基、リン酸基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、アルコキシ基、フェノール基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数1~10のアルキルスルホン酸基、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルケニルアミノ基、炭素数1~10のアルケニルスルホン酸基、炭素数1~10のパーフルオロアルケニル基、及び、炭素数1~10のアルケニル基からなる官能基群より選ばれる1種の官能基であり、当該官能基は、それぞれ分子鎖に、前記官能基群より選ばれる少なくとも1種の官能基、芳香環、ヘテロ環、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及び、水素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を有していてもよい。]
【0010】
本開示の触媒においては、前記金属粒子は、白金粒子、白金合金粒子、及び、白金を含む複合粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0011】
本開示の触媒においては、さらに、担体を含み、
前記金属粒子は、前記担体に担持されていてもよい。
【0012】
本開示の触媒においては、前記担体の重量に対する前記添加剤の重量が0.0100以上0.150以下であってもよい。
【0013】
本開示の触媒においては、前記担体の重量に対する前記バインダーの重量が0.700以上1.15以下であってもよい。
【0014】
本開示の触媒においては、前記バインダーがパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーであり、
前記バインダーの酸性官能基1モル当たりの等価質量が600g/mol以上1100g/mol以下であってもよい。
【0015】
本開示の触媒においては、前記添加剤がオレイルアミン、メラミン、又は、メラミンの重合体であり、
前記添加剤の塩基性官能基1モル当たりの等価質量が21.0g/mol以上267g/mol以下であってもよい。
【0016】
本開示においては、前記触媒を含む、燃料電池用又は金属空気電池用の空気極を提供する。
【0017】
本開示においては、前記空気極をカソードとして有する、燃料電池を提供する。
【0018】
本開示においては、前記空気極をカソードとして有する、金属空気電池を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本開示は、有機窒素化合物を含み、且つ、触媒層のひび割れの発生を抑制することができる触媒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示による実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄(例えば、本開示を特徴付けない触媒の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、数値範囲における上限値と下限値は任意の組み合わせを採用できる。
【0021】
1.触媒
本開示においては、酸素還元活性を有する金属粒子と、塩基性官能基を有する添加剤と、酸性官能基を有するバインダーとを有し、
前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、
前記バインダーの総酸性官能基量に対する前記添加剤の総塩基官能基量の比(塩基点量/酸点量)が0より大きく6.82以下であることを特徴とする、触媒を提供する。
【0022】
触媒層のひび割れは、製品の耐久性を落とすことや、製品の歩留まりを下げること、膜-電極接合体を作成できないという課題に直結する。触媒層のひび割れは、添加材である有機窒素化合物が、酸性官能基を有するバインダーと結合することで、バインダーの触媒層結着機能を阻害するためである。有機窒素化合物は塩基性官能基を有し、バインダーは酸性官能基を有する。酸塩基相互作用により、両者が結合を形成する。バインダーは元来、触媒中に含まれる金属や、その担持体(担体)と相互作用することで、触媒層のひび割れを防ぎ、触媒の1次粒子や2次粒子間の結着を促進させる機能を担っている。有機窒素化合物の添加はバインダーの機能を阻害し、触媒層のひび割れを誘発する。
本開示の触媒は、触媒中に含まれる総酸性官能基量と、総塩基官能基量の比率を制御することで、触媒層のひび割れを抑制することができ、製品の歩留まりをあげることができ、製品の耐久性をあげることができる。
【0023】
本開示の触媒は、酸素還元活性を有する金属粒子と、塩基性官能基を有する添加剤と、酸性官能基を有するバインダーとを有する。
【0024】
添加剤は、塩基性官能基を有する。添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物である。
有機窒素化合物としては、窒素1モル当たりの乾燥重量を表す窒素当量が20~270g・eq-1を満たす化合物であってもよく、20~70g・eq-1を満たす化合物であってもよい。
窒素当量は、以下の式から算出することができる。なお、重合体の場合は当該モノマーの窒素当量を当該重合体の窒素当量とみなす。
窒素当量(g・eq-1)=分子量(g/mol)÷分子中の窒素物質量(molN/mol)
有機窒素化合物としては、アミン官能基を有する化合物であってもよく、ピリジン型窒素を有する化合物であってもよく、トリアジン環を含む化合物であってもよい。有機窒素化合物としては、下記一般式(1)で表されるモノマー、又は、少なくとも一部に当該モノマーを含むポリマーであってもよい。
【0025】
【0026】
[ 一般式(1)中、R1、R2、R3は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又は、ニトリル基、アミド基、イミン基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基、スルホ基、カルボン酸基、リン酸基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、アルコキシ基、フェノール基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数1~10のアルキルスルホン酸基、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルケニルアミノ基、炭素数1~10のアルケニルスルホン酸基、炭素数1~10のパーフルオロアルケニル基、及び、炭素数1~10のアルケニル基からなる官能基群より選ばれる1種の官能基であり、当該官能基は、それぞれ分子鎖に、前記官能基群より選ばれる少なくとも1種の官能基、芳香環、ヘテロ環、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及び、水素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を有していてもよい。]
【0027】
一般式(1)中、R1、R2、R3は、それぞれ、1級アミン、2級アミン、3級アミン、又は、4級アンモニウムカチオンであってもよい。
【0028】
有機窒素化合物としては、例えば、メラミン化合物(窒素当量21g・eq-1)、チオシアヌル酸化合物(窒素当量59g・eq-1)、シアヌル酸化合物(窒素当量34g・eq-1)、オレイルアミン(窒素当量267g・eq-1)、テトラデシルアミン(窒素当量213g・eq-1)、
2,4,6-Tris[bis(methoxymetyl)amino]-1,3,5-triazine(窒素当量65g・eq-1)、
6-(Dibutylamino)-1,3,5-triazine-2,4-dithiol(窒素当量68g・eq-1)、
2,4-Diamino-6-butylamino-1,3,5-triazine(窒素当量30 g eq-1)、
2,4,6-Tris(pentafluoroethyl)-1,3,5-triazine(窒素当量145g・eq-1)、及び、これらをモノマーとする重合体、並びに、
Poly(melamine-co-formaldehyde)methylated(窒素当量20~40g・eq-1)、及び、
Poly(melamine-co-formaldehyde)isobutylated(窒素当量20~40g・eq-1)等であってもよい。また、前述の添加剤を2種類以上含んでいてもよい。
メラミン化合物としては、メラミン、メラミンの誘導体等であってもよい。チオシアヌル酸化合物としては、チオシアヌル酸、チオシアヌル酸の誘導体等であってもよい。シアヌル酸化合物としては、シアヌル酸、シアヌル酸の誘導体等であってもよい。
メラミン化合物、チオシアヌル酸化合物、又はシアヌル酸化合物をモノマーとする重合体としては、上記したメラミン化合物、チオシアヌル酸化合物、又はシアヌル酸化合物を繰り返し単位の主鎖に有するメラミン樹脂、チオシアヌル酸樹脂、又はシアヌル酸樹脂等が挙げられる。
添加剤としては、上記の中でも、オレイルアミン、メラミン(1,3,5-triazine-2,4,6-triamine)、又は、これらの重合体であってもよい。重合体の場合は、モノマーの場合よりも金属粒子に吸着した後、脱離し難くなるため、吸着安定性が向上する。重合体は、重合度が1~10000の範囲であってもよい。
【0029】
添加剤の塩基性官能基1モル当たりの等価質量が21.0g/mol以上267g/mol以下であってもよい。
【0030】
金属粒子は、酸素還元活性(酸素還元触媒能)を有する金属ではあればよく、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、及び、イットリウム等の金属が挙げられ、これらの金属を2種類以上用いてもよい。また、金属は酸化物、窒化物、硫化物、及び、リン化物等であってもよい。
金属粒子は、上記の中でも、白金粒子、白金合金粒子、及び、白金を含む複合粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
白金合金、及び、白金を含む複合粒子に含まれる、白金以外の金属は、例えば、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、及び、イットリウム等の金属が挙げられ、これらの金属を2種類以上含んでいてもよい。
白金合金中の白金以外の金属の元素比率は特に限定されず、0.11~50atm%であってもよい。
金属粒子の粒子径(粒径)は、特に限定されず、1~100nmであってもよい。
【0031】
本開示において、粒子の粒径は、X線回折法により測定される平均結晶子径である。
粒子の粒径は、電子顕微鏡により100~1000個の粒子の粒径を測定し、これらの平均値を粒子の平均粒径としてもよい。本開示では上記2つの方法で粒径を測定した。
【0032】
本開示の触媒は、カーボン、及び、酸化物等の担体を含んでいてもよい。
金属粒子は、担体に担持されている。
金属粒子を担体に担持させる方法は、特に限定されず、従来公知の方法を適宜採用することができる。
担体は、1次粒子であってもよく2次粒子であってもよい。
担体の1次粒子の粒径は、例えば、5~500nmであってもよい。
担体に担持される金属粒子の金属担持比率は、特に限定されず、1~60%であってもよく、18~48%であってもよい。
担体は、導電性を有するカーボン、及び、酸化物、または、これらの内少なくとも2種類を含む混合物等であってもよい。
カーボンは、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ローラーブラック、ディスクブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、及び、VULCAN(登録商標)系カーボン等)、活性炭、黒鉛、グラッシーカーボン、グラファイト、グラフェン、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、窒化カーボン、硫黄化カーボン、及び、リン化カーボン、またはこれらの内少なくとも2種類を含む混合物等であってもよい。
酸化物は、チタン酸化物、ニオブ酸化物、スズ酸化物、タングステン酸化物、及び、モリブデン酸化物、またはこれらの内少なくとも2種類を含む混合物等であってもよい。
【0033】
バインダーは、酸性官能基を有するものであればよい。バインダーは、高分子電解質であってもよい。高分子電解質は、電解質、アイオノマ、又は、イオノマと呼ぶことがある。本開示では、以下バインダーと記載する。バインダーは、酸性官能基として、スルホン酸、及び、リン酸等を有していてもよい。バインダーは、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーであってもよく、アニオン交換ポリマーであってもよく、ポリエーテルエーテルケトン、及び、ポリベンズイミダゾール等を主成分とするポリマーであってもよい。
【0034】
バインダーの酸性官能基1モル当たりの等価質量が600g/mol以上1100g/mol以下であってもよい。
【0035】
[塩基点量/酸点量]
本開示の触媒は、前記バインダーの総酸性官能基量に対する前記添加剤の総塩基官能基量の比(塩基点量/酸点量)が0より大きく6.82以下である。
塩基点量/酸点量の比は、(添加剤中の総塩基性官能基量)/(バインダー中の総酸性官能基量)で定義する。
塩基点量/酸点量は以下の式から算出してもよい。
塩基点量/酸点量(-)=(担体重量に対する添加剤重量割合(-)÷添加材の塩基性官能基1モル当たりの等価質量(g/mol))÷(担体重量に対するバインダー重量(-)÷バインダーの酸性官能基1モル当たりの等価質量(g/mol))
塩基点となる塩基性官能基の種類は、特に制限されず、脂肪族アミン基、及び、芳香族アミン基等のアミン基、並びに、ピリジン基、イミン基、ニトリル基、及び、ピロール基等であってもよい。
酸点となる酸性官能基の種類は、特に制限されず、スルホン酸基、及び、リン酸基等であってもよい。
【0036】
[担体重量に対する添加剤重量]
本開示の触媒においては、前記担体の重量に対する前記添加剤の重量が0.0100以上0.150以下であってもよい。
担体重量に対する添加剤重量は、(添加剤重量)/(担体重量)で定義する。
【0037】
[担体重量に対するバインダー重量]
本開示の触媒においては、前記担体の重量に対する前記バインダーの重量が0.700以上1.15以下であってもよい。
担体重量に対するバインダー重量は、(バインダー重量)/(担体重量)で定義する。
【0038】
[添加剤重量評価法]
本開示の触媒に含まれる添加剤の重量の評価法は、CHN元素分析で窒素含有量を測定する手法、及び、触媒から添加剤を抽出し、添加剤を直接測定する手法等がある。
CHN元素分析で窒素含有量を測定する手法は、酸素で試料を一定時間燃焼させた後、生成した二酸化炭素、水、窒素酸化物をそれぞれ定量することで、試料中に含まれるカーボン、水素、窒素原子の量を定量する手法である。添加剤を導入前後の試料で窒素量を比較することで、添加剤の量を評価することが可能である。
酸素還元触媒から添加剤を抽出し、添加剤を直接測定する手法は、触媒中に含まれる添加剤を溶解する溶媒で添加剤を抽出した上で添加剤を定性・定量分析する手法である。
分析手法として、クロマトグラフィー、紫外可視分光法(UV-vis)、赤外分光法(IR)、及び、核磁気共鳴法(NMR)等がある。
【0039】
[金属粒子重量、担体重量、バインダー重量の評価法]
本開示の触媒に含まれる金属粒子の重量、担体の重量、バインダーの重量の評価法は、熱重量分析(TG)、及び、高周波誘導結合プラズマ発光分光(ICP)等がある。
熱重量分析(TG)は、ガス雰囲気、温度等を変化させた際の重量を測定する手法である。昇温し、水分、導電性担体、イオン交換基を有する高分子、不純物を燃焼させた後に、残存した重量を金属粒子重量とする測定手法である。
高周波誘導結合プラズマ発光分光(ICP)は、プラズマで励起させた原子が放出する発光線の波長と強度から含有元素を定性、定量する手法である。測定温度やガス雰囲気を制御することで任意の物質の重量を算出することが可能である。
触媒中に含まれる金属粒子重量、担体重量、バインダー重量を直接的に定量することが可能である。
【0040】
本開示の触媒は、燃料電池用であってもよく、金属空気電池用であってもよい。本開示の触媒は、燃料電池のカソードに用いてもよく、燃料電池のアノードに用いてもよく、金属空気電池の空気極に用いてもよい。また、本開示の触媒は、燃料電池の逆反応である水電解用のアノードに用いてもよく、水電解用のカソードに用いてもよく、CO2還元用のアノードに用いてもよく、CO2還元用のカソードに用いてもよい。
【0041】
本開示の触媒の形状は層状であってもよい。すなわち、本開示の触媒は、触媒層であってもよい。
触媒層形成方法は、例えば以下の方法等が挙げられる。
【0042】
[触媒インク調製工程]
まず、容器に金属粒子を担持した担体(金属粒子担持担体)と、バインダーと、添加剤と、溶媒と、を所定量投入し、これらを、撹拌機を用いて攪拌し、触媒インクを調製する。
溶媒種は特に限定されず、任意の液体を使用することができ、水、アルコール、又は、少なくとも1種のアルコールと水の混合溶液等であってもよい。
アルコールとしては、メタノール、ジアセトンアルコール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
撹拌機は、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、ビーズミル等のボールミル、ハイシェアー、フィルミックス等が挙げられる。攪拌速度、攪拌時間、回転数等の攪拌条件は、特に限定されず、適宜設定することができる。
その後、真空脱泡処理を行い、1日静置する。静置する時間に制限はなく、任意で設定することができる。また、静置せずに使用することも可能である。また、再度、真空脱泡処理を行ってもよい。
【0043】
[触媒インク塗工工程]
調製した触媒インクを基材上に塗工し、塗工後に溶媒を除去する。例えば、基材上に触媒インクを塗工し、塗工後の触媒インクを加温し、溶媒を乾燥除去する。
基材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、イオン交換基を有する電解質膜、カーボンファイバーや金属ファイバーで構成されるガス拡散層(GDL)、及び、マイクロポーラスレイヤー(MPL)を有するカーボンファイバーや金属ファイバーで構成されるガス拡散層等が挙げられる。
塗工方法は基材上に触媒インクを均一に塗工可能な方法であればよく、ダイコート法、スピンコート法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スキージ法、スプレーコート法、及び、アプリケーター法等が挙げられる。加温速度や加温時間は、溶媒種等によって適宜設定することができる。また、加温と同時に脱気することで除去速度をあげてもよい。
塗工膜厚や、金属粒子含有量は変更することも可能である。
塗工膜厚は、5~30μmであってもよく、白金量が0.1~0.6 mg cm-2を満たすように塗工してもよい。
【0044】
2.空気極
本開示においては、前記触媒を含む、燃料電池用又は金属空気電池用の空気極を提供する。
本開示の空気極は、本開示の触媒を含む。本開示の空気極は、本開示の触媒層であってもよい。
本開示の空気極は、燃料電池用又は金属空気電池用であってもよい。
【0045】
3.燃料電池
本開示においては、前記空気極をカソードとして有する、燃料電池を提供する。
【0046】
本開示の燃料電池は、本開示の空気極をカソード(カソード触媒層)として有する。
本開示の燃料電池は、本開示の空気極をカソードとして有する以外は従来公知の燃料電池の構成を適宜採用することができる。本開示の燃料電池は、本開示の触媒を含むアノードを有していてもよい。本開示の燃料電池は、本開示の触媒層をアノード(アノード触媒層)として有していてもよい。
本開示の燃料電池は、ひび割れが少ない本開示の触媒を含む空気極をカソードとして用いるため、燃料電池の発電性能や耐久性能を向上させることができる。
【0047】
4.金属空気電池
本開示においては、前記空気極をカソードとして有する、金属空気電池を提供する。
【0048】
本開示の金属空気電池は、本開示の空気極をカソードとして有する。
本開示の金属空気電池は、本開示の空気極をカソードとして有する以外は従来公知の金属空気電池の構成を適宜採用することができる。
本開示の金属空気電池は、ひび割れが少ない本開示の触媒を含む空気極をカソードとして用いるため、金属空気電池の発電性能や耐久性能を向上させることができる。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
金属粒子として白金コバルト合金粒子(金属粒子径3~4 nm)、添加剤として1,3,5-triazine-2,4,6-triamine(メラミン、富士フィルム和光純薬製)、担体としてカーボン(アセチレンブラック)、バインダーとしてパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを用意し、以下の方法でこれらを含む触媒からなる層(触媒層)を形成した。
【0050】
[触媒層形成方法]
容器に金属粒子を担持した担体(金属粒子担持担体、金属担持比率48 wt%)と、バインダーと、添加剤と、溶媒として、水、およびジアセトンアルコールと、を所定量投入し、これらを、ビーズミルを使用して300rpmで計4時間攪拌し、触媒インクを調製した。
触媒インクを真空脱泡処理し、1日静置した。
その後、再度、触媒インクを真空脱泡処理した。
調製した触媒インクを基材としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)上にダイコート法を用いて塗工し、塗工後の触媒インクを加温し、溶媒を乾燥除去し、触媒層を形成した。触媒層中の含有白金量が0.20 mg cm-2になるよう塗工した。
形成した触媒層をマイクロスコープで40倍および500倍で観察した。なお、倍率を変更することも可能である。
500倍で観察した撮影画像中の面積比率から、触媒層のひび割れ面積割合(%)を評価した。
ひび割れ面積2%以下を◎とし、ひび割れ面積10%以下を〇とし、ひび割れ面積10%より大きい場合を△とし、触媒層生成不可の場合を×とした。結果を表1に示す。
【0051】
[塩基点量/酸点量]
バインダーの総酸性官能基量に対する添加剤の総塩基官能基量の比(塩基点量/酸点量)
は以下の式から算出した。塩基点量/酸点量の比、担体重量に対する添加剤重量割合、担体重量に対するバインダー重量割合を表1に示す。
塩基点量/酸点量(-)=(担体重量に対する添加剤重量割合(-)÷添加材の塩基性官能基1モル当たりの等価質量(g/mol))÷(担体重量に対するバインダー重量(-)÷バインダーの酸性官能基1モル当たりの等価質量(g/mol))
【0052】
(実施例2~20、比較例1~14)
塩基点量/酸点量が、表1~9に示す値となるように、添加材種、担体重量に対する添加剤重量割合、添加材の塩基性官能基1モル当たりの等価質量、担体重量に対するバインダー重量、バインダーの酸性官能基1モル当たりの等価質量の少なくともいずれか1つを表1~9に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で触媒層を形成し、触媒層のひび割れ面積割合(%)を評価した。なお、実施例13~14では、添加剤としてオレイルアミンを用いた。比較例6~14では、添加材を用いなかった。結果を表1~9に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
[評価結果]
表1~9に示すように、実施例1~20は、比較例1~14よりも触媒層のひび割れ面積が小さいことが分かる。
上記の結果から、塩基点量/酸点量の比が0より大きく6.82以下であることにより、有機窒素化合物を含む場合に、触媒層のひび割れの発生を抑制することができることが実証された。