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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】電力授受システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/38 20060101AFI20250708BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20250708BHJP
   H02J 3/46 20060101ALI20250708BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20250708BHJP
   H02J 7/35 20060101ALI20250708BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20250708BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20250708BHJP
   B60L 53/14 20190101ALI20250708BHJP
   B60L 55/00 20190101ALI20250708BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20250708BHJP
【FI】
H02J3/38 110
H02J3/32
H02J3/46
H02J13/00 311T
H02J7/35 K
H02J7/00 P
B60L50/60
B60L53/14
B60L55/00
B60L58/10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022119545
(22)【出願日】2022-07-27
(65)【公開番号】P2024017113
(43)【公開日】2024-02-08
【審査請求日】2024-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知也
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-136839(JP,A)
【文献】特開2014-003737(JP,A)
【文献】特開2005-312224(JP,A)
【文献】特開2021-035135(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0262019(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00-7/12,7/34-7/36
H02J 3/00-5/00
H02J 13/00
B60L 1/00-3/12,7/00-13/00,15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力授受を行う電力授受システムであって、
電気事業者の電力系統と、
複数の車両と、
上位アグリゲータである第1サーバ装置と、
前記第1サーバ装置からの要請に従って、前記電力系統と前記複数の車両の各々との間で前記電力授受を行う下位アグリゲータである第2サーバ装置とを備え、
前記第2サーバ装置は、前記要請に従った前記電力授受の実行期間において、前記電力系統と前記複数の車両の各々との間の前記電力授受における電力の合計値が許容範囲内前記要請に基づく目標電力よりも大きくなるように、前記電力系統と前記複数の車両の各々との間の前記電力授受における電力を制御する、電力授受システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力授受を行う電力授受システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力会社などの電気事業者による発電に依存した従来型の電力供給システムが見直され、IoT(Internet of Things)を利用した高度なエネルギマネジメント技術により複数の分散型エネルギリソース(以下、「DER(Distributed Energy Resources)」とも称する。)を束ね、これらDERを遠隔・統合制御することによってあたかも1つの発電所のように機能させるVPP(Virtual Power Plant)と称される仕組みが考えられている。特開2020-156149号公報(特許文献1)には、電気事業者の電力系統とDERとして適用される車両のバッテリとの間で電力授受を行うことが可能なVPPシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-156149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたVPPシステムによれば、電気事業者から電力授受の要請を受けたアグリゲータと複数の車両の各々のユーザとの間で電力授受の取引を事前に行い、その後、予定していた実行期間において電力系統と複数の車両との間で電力授受を行うことが可能である。しかしながら、VPPシステムにおいては、電力授受の目標電力の許容範囲内に実績値を収めるための複数の車両との間の取引が事前に行われる。このため、様々な要因によって複数の車両の一部が実行期間において電力授受を実行できない場合も想定される。このような場合、実行期間において目標電力の許容範囲内に電力授受の実績値を収めることができないおそれがあった。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、目標電力の許容範囲内に電力授受の実績値を収めることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に係る電力授受システムは、電気事業者の電力系統と、複数の車両と、電力系統と複数の車両の各々との間で電力授受を行うサーバ装置とを備える。サーバ装置は、許容範囲内において電力授受の目標電力よりも大きい電力を充足するように、電力系統と複数の車両の各々との間の電力授受における電力を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、許容範囲内において電力授受の目標電力よりも大きい電力を充足するように、電力系統と複数の車両の各々との間の電力授受における電力が制御されるため、事前に取引を行った複数の車両の一部が実行期間において電力授受を実行できない場合でも、残りの車両を用いて目標電力の許容範囲内に電力授受の実績値を収めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る電力授受システムの構成の一例を説明するための図である。
図2】実施の形態に係る電力授受システムが適用されるVPPシステムの概要を説明するための図である。
図3】電力授受における時間経過に対する目標電力の推移の一例を示す図である。
図4】実施の形態に係る電力授受システムにおいて実行される処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中、同一または相当部分には同一符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0010】
[電力授受システムの構成]
図1は、実施の形態に係る電力授受システム1の構成の一例を説明するための図である。図1に示すように、電力授受システム1は、電力系統PGと、車両50と、サーバ装置30と、EMS(Energy Management System)60と、EVSE(Electric Vehicle Supply Equipment)40と、スマートメータ13と、ユーザ端末80とを備え、車両50を利用したエネルギマネジメントによってVPPを実現する。
【0011】
電力系統PGは、電力会社などの電気事業者によって提供される電力網である。電力系統PGは、複数のEVSE40と電気的に接続されており、各EVSE40に電力を供給するとともに、各EVSE40から電力を受け取る。
【0012】
車両50は、たとえば電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)またはプラグインハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)である。なお、車両50は、個人が所有するPOV(Personally Owned Vehicle)であってもよいし、MaaS(Mobility as a Service)事業者が管理する車両であってもよい。車両50は、バッテリ130と、ECU(Electronic Control Unit)150と、通信機器180と、インレット110と、充放電器120とを備える。
【0013】
バッテリ130は、たとえばリチウムイオン電池またはニッケル水素電池のような二次電池を含む。二次電池には、たとえば、複数のリチウムイオン電池が互いに電気的に接続された組電池を採用することができる。車両50は、バッテリ130に蓄えられた電力を用いて走行可能である。
【0014】
ECU150は、プロセッサ、RAM(Random Access Memory)、および記憶装置などを含むコンピュータである。プロセッサは、たとえば、マイクロコントローラ(microcontroller)、CPU(central processing unit)、またはMPU(Micro-processing unit)などで構成される。なお、プロセッサは、プログラムを実行することによって各種の処理を実行する機能を有するが、これらの機能の一部または全部を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)などの専用のハードウェア回路を用いて実装してもよい。「プロセッサ」は、CPUまたはMPUのようにストアードプログラム方式で処理を実行する狭義のプロセッサに限らず、ASICまたはFPGAなどのハードワイヤード回路を含み得る。このため、プロセッサは、コンピュータ読み取り可能なコードおよび/またはハードワイヤード回路によって予め処理が定義されている、処理回路(processing circuitry)と読み替えることもできる。RAMは、DRAM(Dynamic Random Access Memory)またはSRAM(Static Random Access Memory)などの揮発性メモリであり、プロセッサによって処理されるデータを一時的に記憶する作業用メモリとして機能する。記憶装置は、ROM(Read Only Memory)またはフラッシュメモリなどの不揮発性メモリであり、プログラムの他、プログラムで使用される各種のデータ(たとえば、マップ、数式、および各種パラメータ)を記憶する。なお、ECU150は、1チップで構成されてもよいし、複数のチップで構成されてもよい。
【0015】
通信機器180は、各種の通信I/F(インターフェース)を含む。ECU150は、通信機器180を介して、ユーザ端末80と通信可能に構成されている。
【0016】
インレット110は、充電ケーブル42のコネクタ43が接続可能に構成されており、充電ケーブル42を介して、車両50の外部から供給される電力を受け取ったり、車両50の外部に対して電力を供給したりする。たとえば、車両50は、EVSE40に接続された充電ケーブル42のコネクタ43が車両50のインレット110に接続(プラグイン)されることによって、充放電可能な状態になる。
【0017】
充放電器120は、インレット110とバッテリ130との間に配置される。充放電器120は、インレット110からバッテリ130までの電力経路を接続と遮断とで切り替えるリレーと、電力変換回路(たとえば、双方向コンバータ)とを含む。充放電器120に含まれるリレーおよび電力変換回路の各々は、ECU150によって制御される。
【0018】
車両50は、充放電可能な状態において、外部充電(すなわち、EVSE40から供給される電力によってバッテリ130を充電すること)と外部放電(すなわち、車両50からEVSE40に対して放電すること)とが可能になる。外部充電のための電力は、EVSE40から充電ケーブル42を介してインレット110に供給される。充放電器120は、インレット110が受電した電力をバッテリ130の充電に適した電力に変換し、変換された電力をバッテリ130に出力する。外部放電のための電力は、バッテリ130から充放電器120に供給される。充放電器120は、バッテリ130から供給される電力を外部放電に適した電力に変換し、変換された電力をインレット110に出力する。ECU150は、外部充電および外部放電のいずれかを実行する場合、充放電器120のリレーを閉状態(接続状態)に制御し、外部充電および外部放電のいずれも実行しない場合、充放電器120のリレーを開状態(遮断状態)に制御する。
【0019】
サーバ装置30は、制御装置31と、記憶装置32と、通信装置33とを備え、たとえば、一部または全ての機能をクラウド型のサーバ装置として実現させる。
【0020】
制御装置31は、プロセッサおよびRAMなどを含むコンピュータである。プロセッサは、たとえば、マイクロコントローラ、CPU、またはMPUなどで構成される。なお、プロセッサは、プログラムを実行することによって各種の処理を実行する機能を有するが、これらの機能の一部または全部を、ASICまたはFPGAなどの専用のハードウェア回路を用いて実装してもよい。「プロセッサ」は、CPUまたはMPUのようにストアードプログラム方式で処理を実行する狭義のプロセッサに限らず、ASICまたはFPGAなどのハードワイヤード回路を含み得る。このため、プロセッサは、コンピュータ読み取り可能なコードおよび/またはハードワイヤード回路によって予め処理が定義されている、処理回路(processing circuitry)と読み替えることもできる。RAMは、DRAMまたはSRAMなどの揮発性メモリであり、プロセッサによって処理されるデータを一時的に記憶する作業用メモリとして機能する。
【0021】
記憶装置32は、ROMまたはフラッシュメモリなどの不揮発性メモリ、SSD(solid state drive)またはHDD(hard disk drive)などの記憶装置であり、プログラムの他、プログラムで使用される各種のデータ(たとえば、マップ、数式、および各種パラメータ)を記憶する。
【0022】
通信装置33は、各種の通信I/F(インターフェース)を含む。制御装置31は、通信装置33を介して、ユーザ端末80と通信可能に構成されている。通信装置33とユーザ端末80との間の通信は、WiFiまたはBluetooth(登録商標)などの無線通信が適用され得る。
【0023】
EMS60は、サーバ装置30の指令に従い、EVSE40と通信を行う。EMS60は、たとえばHEMS(Home Energy Management System)、FEMS(Factory Energy Management System)、またはBEMS(Building Energy Management System)である。サーバ装置30は、EVSE40と直接的に通信することなく、EMS60を介してEVSE40と通信する。
【0024】
EVSE40は、たとえば、交流電力を供給可能なAC給電設備であり、この場合、車両50の充放電器120は、AC給電設備に対応する回路を有する。なお、EVSE40は、直流電力を供給可能なDC給電設備であってもよく、この場合、車両50の充放電器120は、DC給電設備に対応する回路を有してもよい。EVSE40としては、特定のユーザのみが利用可能な非公共のEVSE(たとえば、家庭用のEVSE)と、不特定多数のユーザが利用可能な公共のEVSEとがある。EVSE40は、制御部41と、電源回路44と、充電ケーブル42とを備える。
【0025】
制御部41は、電源回路44を制御して、充電ケーブル42を介して車両50のバッテリ130に電力を供給したり、車両50のバッテリ130からの電力を受け取ったりする。
【0026】
電源回路44には、充電ケーブル42が接続される。電源回路44は、制御部41の制御に従って、充電ケーブル42を介して車両50のバッテリ130に電力を供給したり、車両50のバッテリ130からの電力を受け取ったりする。
【0027】
充電ケーブル42は、EVSE40の本体に常に接続されていてもよいし、EVSE40の本体に対して着脱可能であってもよい。充電ケーブル42は、先端にコネクタ43を有するとともに、内部に電力線を含む。
【0028】
スマートメータ13は、電力を使用する需要家(たとえば、個人または事業者)ごとに付与され、所定時間(たとえば、30分間)が経過するごとに需要家における電力調整量を計測する。たとえば、スマートメータ13は、電力系統PGからEVSE40に供給される電力量またはEVSE40から電力系統PGに供給される電力を計測する。スマートメータ13は、計測した電力調整量を示す情報を含む信号をサーバ装置30に送信する。なお、スマートメータ13の代わりに、車両50に搭載された電力量計を用いてもよいし、EVSE40に内蔵された電力量計を用いてもよい。
【0029】
上述したEVSE40およびEMS60は、1つの住宅または事業所(たとえば、工場または商業施設)に設置される。スマートメータ13は、電力系統PGと住宅または事業所との間で調整される電力調整量を計測する。
【0030】
ユーザ端末80は、デスクトップ型のPC(personal computer)、ラップトップ型のPC、スマートフォン、スマートウォッチ、ウェアラブルデバイス、およびタブレットPCなど、ネットワークを介してサーバ装置30および車両50の各々と通信可能な情報端末である。ユーザ端末80は、ユーザが携帯可能な携帯端末であってもよいし、ナビゲーションシステムなどの車両50に搭載された情報端末であってもよい。
【0031】
図示は省略するが、ナビゲーションシステムは、プロセッサと、記憶装置と、タッチパネルディスプレイと、GPS(Global Positioning System)モジュールとを含む。記憶装置は、地図情報を記憶する。タッチパネルディスプレイは、ユーザからの入力を受け付けたり、地図およびその他の情報を表示したりする。GPSモジュールは、GPS衛星からGPS信号を受信する。ナビゲーションシステムは、GPS信号を用いて車両50の位置を特定することができる。ナビゲーションシステムは、ユーザからの入力に基づき、車両50の現在位置から目的地までの走行ルート(たとえば、最短ルート)を見つけるための経路探索を行い、経路探索により見つかった走行ルートをタッチパネルディスプレイの地図上に表示することができる。
【0032】
ユーザ端末80には、所定のアプリケーションソフトウェア(以下、単に「アプリ」とも称する。)がインストールされている。ユーザ端末80は、車両50のユーザによって用いられ、アプリを通じてサーバ装置30と情報の遣り取りを行う。たとえば、ユーザは、ユーザ端末80にインストールされたVPP用のアプリを用いて、サーバ装置30と情報の遣り取りを行うことで、VPPに参加することができる。
【0033】
[VPPシステムの概要]
図2は、実施の形態に係る電力授受システム1が適用されるVPPシステムの概要を説明するための図である。図2に示すように、電力授受システム1は、電力会社E1と、上位アグリゲータE2と、下位アグリゲータE3と、複数の車両50A,50B,50Cとを備える。複数の車両50A,50B,50Cの各々は、図1に示す車両50に対応する。なお、図2の例において、電力授受システム1は、複数の車両50Aに対応するようにして、EVSE40、EMS60、およびスマートメータ13を備えているが、他の車両50B,50Cの各々に対しても、図示しないEVSE40、EMS60、およびスマートメータ13を備えている。
【0034】
電力会社E1は、発電事業者または送配電事業者などの電気事業者である。図2の例においては、電力会社E1は、発電事業者および送配電事業者を兼ねている。電力会社E1は、発電所11と、送配電設備12と、サーバ装置10とを備える。電力会社E1は、発電所11および送配電設備12によって電力系統PGを構築し、サーバ装置10を用いて電力系統PGを保守および管理する。発電所11は、電気を発生させるための発電装置を備え、発電装置によって生成された電力を送配電設備12に供給する。発電所11による発電方式には、火力発電、水力発電、風力発電、原子力発電、および太陽光発電など、公知の発電方式が適用され得る。送配電設備12は、送電線、変電所、および配電線を備え、発電所11から供給される電力の送電および配電を行う。
【0035】
DERを束ねてエネルギマネジメントを行う事業者は、「アグリゲータ」とも称される。電力会社E1は、たとえばアグリゲータと連携することにより、電力系統PGにおける電力を調整することができる。上位アグリゲータE2は、複数のサーバ装置(たとえば、サーバ装置20A,20B)を含む。上位アグリゲータE2に含まれる複数のサーバ装置は、互いに異なる事業者に帰属する。下位アグリゲータE3は、複数のサーバ装置(たとえば、サーバ装置30A,30B)を含む。下位アグリゲータE3に含まれる複数のサーバ装置は、互いに異なる事業者に帰属する。なお、図2に示す下位アグリゲータE3に含まれる各サーバ装置は、図1に示すサーバ装置30に対応する。以下、区別して説明する場合を除いて、上位アグリゲータE2に含まれる各サーバ装置を「サーバ装置20」とも称し、下位アグリゲータE3に含まれる各サーバ装置を「サーバ装置30」とも称する。サーバ装置20の数およびサーバ装置30の数は、互いに独立しており、任意に設定され得る。
【0036】
図2の例においては、1つのサーバ装置10が上位アグリゲータE2である複数のサーバ装置20に対してエネルギマネジメントを要請し、サーバ装置10から要請を受けた各サーバ装置20が下位アグリゲータE3である複数のサーバ装置30に対してエネルギマネジメントを要請する。さらに、サーバ装置20から要請を受けた各サーバ装置30が複数のDERユーザ(たとえば、車両50のユーザ)に対してエネルギマネジメントを要請する。電力会社E1は、このような階層構造(ツリー構造)を利用して、多くのユーザに対してエネルギマネジメントを要請することができる。なお、上位アグリゲータE2および下位アグリゲータE3は、同一のサーバ装置によって機能するように構成されてもよい。
【0037】
電力会社E1(サーバ装置10)から上位アグリゲータE2(サーバ装置20)に対する要請、上位アグリゲータE2(サーバ装置20)から下位アグリゲータE3(サーバ装置30)に対する要請、および下位アグリゲータE3(サーバ装置30)から各ユーザに対する要請は、DR(ディマンドリスポンス)要請とも称される。DRとは、DERを制御することによって電力需要パターンを変化させることである。各ユーザに対してDERを用いて電力を積極的に使って電力需要を引き上げるようなDRを「上げDR」とも称する。一方、各ユーザに対して節電または放電によって電力需要を引き下げるようなDRを「下げDR」とも称する。
【0038】
サーバ装置30は、管轄エリアのエネルギマネジメントを行う。サーバ装置30が管轄するエリアは、1つの街(たとえば、スマートシティ)であってもよいし、工場であってもよいし、大学のキャンパスであってもよい。下位アグリゲータE3は、サーバ装置30の管轄エリアに存在するDERユーザとエネルギマネジメントに関する契約を結ぶ。このような契約を結んだユーザは、下位アグリゲータE3からのDR要請に従ってDERを用いてエネルギマネジメントを行うことによって、下位アグリゲータE3から所定のインセンティブを受け取ることができる。一方、下位アグリゲータE3からのDR要請に従うことを許諾したにもかかわらず、DR要請に従わなかったユーザには、上述した契約によって所定のペナルティが科される。契約によってエネルギマネジメントが義務付けられたDERおよびDERユーザは、サーバ装置30に登録される。
【0039】
サーバ装置30は、サーバ装置20からDR要請を受けたときに、サーバ装置30に登録されたDERの中から、当該DR要請に応えるためのDERを選択する。このように選択されたDERを「EMDER」とも称する。サーバ装置30は、EMDERの選択後、各EMDERのユーザに対して指令を送信する。各EMDERのユーザは、サーバ装置30から受けた指令に基づき、サーバ装置30からのDR要請に従うエネルギマネジメント(たとえば、電力系統PGの需給調整)を行う。
【0040】
EMDERごとの電力調整量(たとえば、所定期間における充電電力および/または放電電力)は、スマートメータ13によって計測される。スマートメータ13によって計測された電力調整量は、サーバ装置10に送信される。なお、図2の例において、サーバ装置30は、サーバ装置10を介してスマートメータ13によって計測された電力調整量を取得するが、スマートメータ13から直接的に電力調整量を取得してもよい。スマートメータ13によって計測された電力調整量は、インセンティブの算定に用いられてもよい。
【0041】
上述のように構成された電力授受システム1において、サーバ装置20は、電力会社E1(サーバ装置10)または上位アグリゲータE2(サーバ装置20)からの要請に従って電力授受の目標電力を充足させるために、登録された複数の車両50の中からDR要請を行う少なくとも1つの車両を選択し、選択した少なくとも1つの車両50のユーザのユーザ端末80に対してDR要請を送信する。DR要請を受信したユーザがユーザ端末80を用いてDR要請を許諾すると、サーバ装置30は、電力授受(DR要請)を実行する実行期間において、選択した少なくとも1つの車両50を用いた電力授受を予定する。サーバ装置30は、実行期間が到来すると、DR信号をEMS60に送信することで、DR要請の目標電力を充足させるように、DR要請を許諾したユーザの車両50に電力授受を行わせることができる。
【0042】
なお、「電力授受」とは、EVSE40を用いて車両50のバッテリ130を充電することによって電力系統PGから車両50に対して電力が供給されること、および、EVSE40を用いて車両50のバッテリ130が放電することによって車両50から電力系統PGに対して電力が供給されることのうち、少なくとも1つを含む概念である。たとえば、サーバ装置30から車両50のユーザに対して上げDRが要請された場合は、電力授受として、電力系統PGから車両50に対して電力が供給されたり、供給される電力が上げられたりする。一方、サーバ装置30から車両50のユーザに対して下げDRが要請された場合は、電力授受として、電力系統PGから車両50に対して供給される電力が下げられたり、逆に、車両50から電力系統PGに対して電力が供給されたりする。
【0043】
また、目標電力を充足することは、実際に実行期間において実行された電力授受によって得られる車両50における充電電力または放電電力の実績値が、DR要請によって指定された実行期間における目標電力(充電電力の目標値,放電電力の目標値)の許容範囲内に収まることを意味する。
【0044】
許容範囲としては、たとえば、サーバ装置30がDR要請を許諾した全ての車両50に対して指定する電力授受の目標値(全ての車両50における充電電力の合計目標値,全ての車両50における放電電力の合計目標値)に対する±10%範囲が設定される。
【0045】
[時間経過に対する電力授受の推移の一例]
図3は、電力授受における時間経過に対する目標電力の推移の一例を示す図である。図3(A)においては、横軸に時間をとり、縦軸に充電電力をとったグラフにおいて、電力授受における時間経過に対する目標電力の推移が示されている。図3(B)においては、図3(A)に示された実行期間における部分Sを拡大したグラフが示されている。なお、図3においては、サーバ装置30から各車両50のユーザに対して上げDRが要請された場合の例が示されており、縦軸は、電力系統PGから各需要者に供給される充電電力の合計値が示されている。
【0046】
サーバ装置30は、選択した少なくとも1つの車両50を用いた電力授受によって、DR要請によって指定された目標電力を充足させるように、電力系統PGから各需要者に対して供給される電力を調整する。たとえば、図3(A)に示すように、サーバ装置30は、電力会社E1または上位アグリゲータE2からの要請に従って、電力P1から電力P2へと引き上げられる目標電力を充足させるために、登録された複数の車両50の中からDR要請を行う少なくとも1つの車両50を選択し、選択した少なくとも1つの車両50との間で、実行期間において電力授受を行うことを予定しておく。たとえば、図2に示す例において、サーバ装置30は、車両50A,50B,50Cの中からDR要請を行う車両50A,50Bを選択して、車両50A,50Bとの間で、実行期間において充電を行うことを予定しておく。
【0047】
サーバ装置30は、実行期間前のDR更新タイミングt1(たとえば、実行期間の45分前)において、電力会社E1または上位アグリゲータE2からの要請によって指定された実行期間における目標電力P2が更新されたか否かを確認し、目標電力P2が更新されている場合は、実行期間において電力授受を予定している少なくとも1つの車両50に対して指定する目標電力P2を更新する。
【0048】
サーバ装置30は、その後、実行期間前のタイミングt2(たとえば、実行期間の30分前)から実行期間が開始するDR要請実行タイミングt3までの事前期間において、目標電力を電力P1から電力P2へと徐々に引き上げる。
【0049】
サーバ装置30は、DR要請実行タイミングt3において、DR要請を許諾した少なくとも1つの車両50に対してDR要請を実行することで、目標電力P2を充足させるように、許容範囲内で電力系統PGから少なくとも1つの車両50に対して供給される充電電力を調整する。
【0050】
このように、電力授受システム1によれば、電力会社E1または上位アグリゲータE2から電力授受の要請を受けたサーバ装置30と複数の車両50の各々のユーザとの間で電力授受の取引を事前に行い、その後、予定していた実行期間において電力系統PGと少なくとも1つの車両50との間で電力授受を行うことができる。
【0051】
ここで、DR要請を許諾した車両50のユーザは、事前期間が到来する前に、予め決められたEVSE40の充電ケーブル42のコネクタ43を、車両50のインレット110に接続するように義務づけられている。このようにすることで、実行期間が開始する前には、DR要請を許諾した全ての車両50が電力授受を実行するための準備を完了させることができる。しかしながら、ユーザの急な予定の変更、渋滞などの道路状況、または車両50の不具合などの様々な要因によって、実際には、DR要請を許諾した全ての車両50が実行期間において電力授受を実行することができない場合がある。このような場合、サーバ装置30は、電力授受の目標電力P2を充足させるための車両50の数を確保することができず、目標電力P2の許容範囲内に電力授受の実績値を収めることができないおそれがある。
【0052】
なお、図2においては、電力授受として、電力系統GPから供給される電力を用いて車両50が充電する例を示しているが、車両50が放電することで電力系統GPに対して電力を供給する場合も、図2に示す例と同様の課題がある。
【0053】
そこで、実施の形態に係る電力授受システム1において、サーバ装置30は、許容範囲内において電力授受の目標電力P2よりも大きい電力を充足するように、電力系統PGと複数の車両50の各々との間の電力授受において指定する電力を制御するように構成されている。具体的には、サーバ装置30は、許容範囲内において充電電力の目標電力P2よりも大きい充電電力を得るように、電力系統GPから供給される電力を用いて車両50が実行する充電における充電電力を制御する。あるいは、サーバ装置30は、許容範囲内において放電電力の目標電力P2よりも大きい放電電力を得るように、車両50が実行する放電における充電電力を制御する。
【0054】
たとえば、サーバ装置30は、DR要請実行タイミングt3から開始する実行期間において、許容範囲内で充電電力の実績値が目標電力P2よりも大きくなるように、DR要請を許諾した車両50が接続されるEVSE40に対応するEMS60に対して指定する充電電力を制御する。すなわち、サーバ装置30は、目標電力P2に対してマージンをもたせるように、EMS60に対して指定する充電電力を設定する。これにより、図3(B)に示すように、DR要請実行タイミングt3から開始する実行期間において、充電電力の実績値が目標電力P2よりも大きくなり得る。
【0055】
ここで、実行期間におけるDR要請実行タイミングt3以降のタイミングt4において、DR要請を許諾した複数の車両50(たとえば、車両50A,50B,50C)のうちの一部の車両50(たとえば、車両50C)が電力授受を実行できない場合がある。しかしながら、実施の形態に係る電力授受システム1において、サーバ装置30は、許容範囲内において電力授受の目標電力P2よりも大きい電力を充足するように、電力系統PGと複数の車両50(たとえば、車両50A,50B,50B)の各々との間の電力授受において指定する電力を制御している。これにより、実績値は目標電力P2を下回ることがあったとしても、サーバ装置30は、残りの車両50(たとえば、車両50A,50B)を用いて少なくとも目標電力P2の許容範囲内に電力授受の実績値を収めることができ得る。
【0056】
[電力授受システムにおいて実行される処理の手順]
図4は、実施の形態に係る電力授受システム1において実行される処理の手順を示すフローチャートである。図4においては、サーバ装置30が実行する処理、ユーザ端末80が実行する処理、およびEMS60が実行する処理が示されている。なお、以下において、ステップを「S」と略す。
【0057】
図4に示すように、サーバ装置30は、電力会社E1または上位アグリゲータE2からDR要請を受けたか否かを判定する(S301)。サーバ装置30は、DR要請を受けた場合(S301でYES)、電力会社E1または上位アグリゲータE2からのDR要請に応じてDR要請をする車両50の組合せを決定する(S302)。
【0058】
サーバ装置30は、決定した車両50のユーザのユーザ端末80にDR要請する旨の情報を含むDR要請信号を送信する(S303)。DR要請信号は、たとえば、DR要請を実行する日時(タイミング)を示す情報、上げDR/下げDRの区別を示す情報、および、DRで要求される車両50の1台当りの充電電力/放電電力を示す情報などを含む。
【0059】
一方、ユーザ端末80は、VPP用のアプリにおいて、サーバ装置30からDR要請信号を受信したか否かを判定する(S801)。ユーザ端末80は、サーバ装置30からDR要請信号を受信した場合(S801でYES)、DR要請を許諾するか否かを確認するための画面をディスプレイに表示する(S802)。DR要請を許諾するか否かを確認するための画面は、たとえば、許諾の意思を入力するためのボタンのアイコン画像などを含む。
【0060】
ユーザ端末80は、サーバ装置30からDR要請信号を受信していない場合(S801でNO)、または、S802の後、DR要請を許諾するか否かを確認するための画面において、DR要請の許諾がされたか否かを判定する(S803)。ユーザ端末80は、DR要請の許諾がされた場合(S803でYES)、DR要請を許諾する旨の情報を含む許諾信号をサーバ装置30に送信する(S804)。
【0061】
ユーザ端末80は、DR要請の許諾がされていない場合(S803でNO)、または、S804の後、実行する処理を呼出元の上位処理に戻す。
【0062】
一方、サーバ装置30は、ユーザ端末80から許諾信号を受信したか否かを判定する(S304)。サーバ装置30は、ユーザ端末80から許諾信号を受信した場合(S304でYES)、許諾信号を送信してきたユーザ端末80のユーザおよび車両50などに関する情報をDR要請リストに追加する(S305)。
【0063】
サーバ装置30は、ユーザ端末80から許諾信号を受信していない場合(S304でNO)、または、S305の後、DR更新タイミングが到来したか否かを判定する(S306)。サーバ装置30は、DR更新タイミングが到来した場合(S306でYES)、DR要請の更新があるか否かを判定する(S307)。すなわち、サーバ装置30は、電力会社E1または上位アグリゲータE2からの要請によって指定された実行期間における目標電力が更新されたか否かを判定する。サーバ装置30は、DR要請の更新がある場合(S307でYES)、DR要請を更新して、DR要請を許諾した車両50に対して指定する目標電力を更新する(S308)。
【0064】
サーバ装置30は、DR更新タイミングが到来していない場合(S306でNO)、DR要請の更新がない場合(S307でNO),または、S308の後、DR要請実行タイミングが到来したか否かを判定する(S309)。サーバ装置30は、DR要請実行タイミングが到来した場合(S309でYES)、DR要請を実行させるための情報を含むDR信号を、電力授受の準備が完了している車両50が接続されたEVSE40に対応するEMS60に送信する(S310)。DR信号は、たとえば、DR要請を実行することを指令する情報、およびDRで要求される車両50の1台当りの充電電力/放電電力を示す情報などを含む。このとき、サーバ装置30は、許容範囲内において電力授受の目標電力よりも大きい電力を充足するように、1台当りの指定する授受電力をDR信号によって指定する。たとえば、サーバ装置30は、許容範囲内において充電電力の目標値よりも実績値が大きくなるように、1台当りの充電電力をDR信号によって指定する。あるいは、サーバ装置30は、許容範囲内において放電電力の目標値よりも実績値が大きくなるように、1台当りの放電電力をDR信号によって指定する。
【0065】
サーバ装置30は、DR要請実行タイミングが到来していない場合(S309でNO)、または、S310の後、実行する処理を呼出元の上位処理に戻す。
【0066】
一方、DR要請を許諾した車両50に対応するEMS60は、サーバ装置30からDR信号を受信したか否かを判定する(S601)。EMS60は、サーバ装置30からDR信号を受信した場合(S601でYES)、DR信号に応じて車両50のバッテリ130の充電または放電するように、EVSE40および車両50を制御する(S602)。
【0067】
たとえば、DR信号で示されるDR要請が上げDRである場合、EMS60は、DR信号で示される電力量に従って車両50に対する充電を開始するための信号を、EVSE40および車両50に送信する。これにより、指定された充電の目標電力の許容範囲内で目標電力よりも実績値が大きくなるように車両50に対する充電が開始される。
【0068】
また、DR信号で示されるDR要請が下げDRである場合、EMS60は、DR信号で示される電力量に従って車両50から放電を開始するための信号を、EVSE40および車両50に送信する。これにより、指定された放電の目標電力の許容範囲内で目標電力よりも実績値が大きくなるように車両50からの放電が開始される。
【0069】
EMS60は、サーバ装置30からDR信号を受信していない場合(S601でNO)、または、S602の後、実行する処理を呼出元の上位処理に戻す。
【0070】
このように、電力授受システム1によれば、許容範囲内において電力授受の目標電力よりも大きい電力を充足するように、電力系統PGと複数の車両50の各々との間の電力授受における電力が制御されるため、事前に取引を行った複数の車両50の一部が実行期間において電力授受を実行できない場合でも、残りの車両を用いて目標電力の許容範囲内に電力授受の実績値を収めることができる。
【0071】
[変形例]
以上、実施の形態に係る電力授受システム1を説明したが、電力授受システム1は上記の実施の形態に限らず、その他の形態で成されていてもよい。たとえば、上述した実施の形態において、車両50は、充電および放電のいずれも実行可能な所謂V2G対応車両であったが、充電が実行可能である一方で放電を実行不可能な所謂V1G対応車両であってもよい。
【0072】
さらに、サーバ装置30は、DR要請を許諾して図4のS305に示すDR要請リストに追加された複数の車両50のうち、V2G対応車両の割合に応じて、電力授受の目標電力に対してマージンをもたせる電力量を設定してもよい。具体的には、V2G対応車両は、充電のみならず放電を実行することもできるため、サーバ装置30は、V2G対応車両を用いた方が、V1G対応車両を用いるよりも、電力授受の実績値を調整することが容易である。このため、サーバ装置30は、DR要請を許諾した複数の車両50のうち、V2G対応車両の割合が基準値よりも大きいときは、V2G対応車両の割合が基準値よりも小さいときよりも、電力授受の目標電力に対してマージンをもたせる電力量を小さく設定してもよい。
【0073】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1 電力授受システム、10,20,20A,20B,30,30A,30B サーバ装置、11 発電所、12 送配電設備、13 スマートメータ、31 制御装置、32 記憶装置、33 通信装置、41 制御部、42 充電ケーブル、43 コネクタ、44 電源回路、50,50A,50B,50C 車両、80 ユーザ端末、110 インレット、120 充放電器、130 バッテリ、180 通信機器、E1 電力会社、E2 上位アグリゲータ、E3 下位アグリゲータ、PG 電力系統。
図1
図2
図3
図4