(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F01M 11/03 20060101AFI20250708BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20250708BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20250708BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20250708BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20250708BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20250708BHJP
B60W 20/18 20160101ALI20250708BHJP
B60W 20/20 20160101ALI20250708BHJP
B60W 20/50 20160101ALI20250708BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20250708BHJP
F16H 59/74 20060101ALI20250708BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20250708BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20250708BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20250708BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
F01M11/03 L
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/10 900
B60W20/18
B60W20/20
B60W20/50
F16H61/02
F16H59/74
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/12
B60L15/20 K
(21)【出願番号】P 2022133600
(22)【出願日】2022-08-24
【審査請求日】2024-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】中野 真人
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 宣彦
(72)【発明者】
【氏名】関口 慶人
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-168379(JP,A)
【文献】特開2017-013728(JP,A)
【文献】特開2022-017842(JP,A)
【文献】特開2017-081447(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0283364(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 11/00
B60K 6/00
B60W 10/00 - 20/00
F16H 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関の出力軸にトルクを付与可能なモータジェネレータと、を有する車両を制御対象とし、
前記内燃機関の運転中、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記内燃機関の潤滑油に含まれる水の量である希釈水量を算出する水量算出処理と、
前記希釈水量が多い場合に、前記内燃機関の運転を継続させつつ、前記希釈水量が少ない場合に比べて前記内燃機関における単位期間当たりのトルクが小さくなるように前記
モータジェネレータを制御する特定処理と、
を実行
し、
前記特定処理では、前記希釈水量が少ない場合に比べて、前記モータジェネレータから前記内燃機関の前記出力軸に付与するトルクを大きくする
車両の制御装置。
【請求項2】
内燃機関と、前記内燃機関の出力軸との間でトルクを授受可能なトルク付与装置と、を有する車両を制御対象とし、
前記内燃機関の運転中、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記内燃機関の潤滑油に含まれる水の量である希釈水量を算出する水量算出処理と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記潤滑油の温度を算出する油温算出処理と、を実行し、
前記潤滑油の温度が予め定められた規定温度以上である場合には、前記希釈水量が多い場合に、前記内燃機関の運転を継続させつつ、前記希釈水量が少ない場合に比べて前記内燃機関における単位期間当たりのトルクが小さくなるように前記トルク付与装置を制御する特定処
理を実行
し、
前記潤滑油の温度が前記規定温度未満である場合には、前記特定処理の実行に代えて、前記希釈水量が多い場合に、前記内燃機関の運転を継続させつつ、前記希釈水量が少ない場合に比べて前記内燃機関における単位期間当たりのトルクが大きくなるように前記トルク付与装置を制御する増大処理を実行する
車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関、内燃機関を駆動する第1モータジェネレータ、及び走行用の第2モータジェネレータを有する車両が開示されている。内燃機関は、クランクシャフトを収容しているクランク室と、スロットルバルブを有する吸気通路と、ブローバイガスの回収通路とを有する。回収通路は、クランク室と、吸気通路における、スロットルバルブに対して下流側の部分とを連通している。
【0003】
上記内燃機関では、燃料の燃焼に伴って発生した水の一部が気筒からクランク室に混入する。そして、この水は、クランク室の底に溜まっている潤滑油に混入する。そこで、上記車両の制御装置は、潤滑油に混入している水の量が多くなった場合、内燃機関での燃料の燃焼を停止させる。そして、制御装置は、スロットルバルブを閉じた状態で第1モータジェネレータによってクランクシャフトを回転させる。これに伴い、回収通路内が大気圧に対して負圧になる。この負圧は、潤滑油に混入している水の蒸発を促進するとともに、蒸発した水を吸気通路へと還流させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の技術ように、潤滑油に混入した水を低下させる上で内燃機関を停止する場合、次のような問題がある。すなわち、特許文献1では、第1モータジェネレータによってクランクシャフトを回転させている間、車両に要求される駆動力を第2モータジェネレータのみで賄う。しかし、例えばバッテリの充電率が不足している場合などでは、車両に要求される駆動力を第2モータジェネレータのみで賄いきれないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両の制御装置は、内燃機関と、前記内燃機関の出力軸との間でトルクを授受可能なトルク付与装置と、を有する車両を制御対象とし、前記内燃機関の運転中、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記内燃機関の潤滑油に含まれる水の量である希釈水量を算出する水量算出処理と、前記希釈水量が多い場合に、前記内燃機関の運転を継続させつつ、前記希釈水量が少ない場合に比べて前記内燃機関における単位期間当たりのトルクが小さくなるように前記トルク付与装置を制御する特定処理と、を実行する。
【0007】
上記構成において、特定処理を実行すると、単位期間当たりの内燃機関のトルクが小さくなることに伴い気筒内の圧力が低下する。したがって、気筒からクランク室に漏れ出すガスが減少する。このことで、このガスとともにクランク室に至って潤滑油に混入する水が少なくなる。その一方で、内燃機関が運転を継続していれば、クランク室ひいては潤滑油の温度は相当に高い状態にある。そのため、潤滑油から蒸発する水の量は、ほとんど低下しない。このように、上記構成では、蒸発する水の量がほとんど一定であるのに対して混入する水の量は低下するので、内燃機関の運転を継続したまま希釈水量を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】
図3は、変速マップの一例を表した図である。
【
図4】
図4は、変速マップの一例を表した図である。
【
図5】
図5は、動力マップの一例を表した図である。
【
図6】
図6は、設定処理の処理手順を表したフローチャートである。
【
図7】
図7は、対処処理の処理手順を表したフローチャートである。
【
図8】
図8は、対処処理の変更例を表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、車両の制御装置の一実施形態を、図面を参照して説明する。
<車両の全体構成>
図1に示すように、車両90は、内燃機関10、駆動クラッチ81、モータジェネレータ82、変速ユニット80、油圧機構86、ディファレンシャル71、複数の駆動輪72、インバータ78、及びバッテリ79を有する。
【0010】
内燃機関10は、車両90の駆動源である。内燃機関10の詳細は後述する。内燃機関10は、クランクシャフト14を有する。クランクシャフト14は、内燃機関10の出力軸である。
【0011】
モータジェネレータ82は、車両90の駆動源である。モータジェネレータ82は、電動機及び発電機の双方の機能を有する。モータジェネレータ82は、ステータ82C、ロータ82B、及び回転軸82Aを有する。ロータ82Bは、ステータ82Cに対して回転可能である。回転軸82Aは、ロータ82Bと一体回転する。モータジェネレータ82は、インバータ78を介してバッテリ79と電気的に接続している。バッテリ79は、モータジェネレータ82に電力を供給したり、モータジェネレータ82からの電力を受けたりする。インバータ78は、直流交流の変換を行う。
【0012】
駆動クラッチ81は、内燃機関10とモータジェネレータ82との間に介在している。駆動クラッチ81は、油圧機構86からの油圧に応じて接続状態又は切断状態になる。駆動クラッチ81は、接続状態では、クランクシャフト14とモータジェネレータ82の回転軸82Aとを接続する。駆動クラッチ81は、切断状態では、クランクシャフト14とモータジェネレータ82の回転軸82Aとを切り離す。図示は省略するが、油圧機構86は、複数の油路、作動油の流通経路を切り替えるソレノイドバルブ、及び油路に作動油を供給する電動式のポンプ等を含んでいる。
【0013】
変速ユニット80は、トルクコンバータ83及び自動変速機85を有する。トルクコンバータ83は、ポンプインペラ83A、タービンライナ83B、及びロックアップクラッチ84を有する。トルクコンバータ83は、トルク増幅機能を有した流体継ぎ手である。ポンプインペラ83Aは、モータジェネレータ82の回転軸82Aと一体回転する。タービンライナ83Bは、自動変速機85の入力軸85Aと一体回転する。ロックアップクラッチ84は、油圧機構86からの油圧に応じてポンプインペラ83Aとタービンライナ83Bとを直結する。
【0014】
自動変速機85は、変速比を多段階に切り替え可能な有段式の変速機である。自動変速機85は、上記入力軸85Aに加え、出力軸85B、複数の摩擦係合要素85C、及び複数の遊星歯車機構85Dを有する。なお、
図1では、複数の摩擦係合要素85Cを一まとめにして表している。複数の遊星歯車機構85Dについても同様である。複数の摩擦係合要素85C及び複数の遊星歯車機構85Dは、入力軸85Aと出力軸85Bとの間に介在している。複数の摩擦係合要素85Cは、複数のクラッチ及び複数のブレーキで構成されている。すなわち、摩擦係合要素85Cは、クラッチ及びブレーキのいずれかである。各摩擦係合要素85Cは、油圧機構86からの油圧に応じて断接状態が切り替わる。そして、各摩擦係合要素85Cの断接状態に応じて、自動変速機85は予め設定された複数の変速段のいずれかを形成する。複数の変速段は、前進走行用の変速段、後進走行用の変速段、入力軸85Aと出力軸85Bとの動力伝達を遮断する非走行用の変速段のいずれかである。さらに、前進走行用の変速段には、例えば「1速」~「5速」といった複数の変速段が存在する。前進走行用の各変速段には、別々の変速比が設定されている。変速段が大きいほど、変速比は小さくなっている。変速比は、入力軸85Aの回転速度を出力軸85Bの回転速度で除算した値である。
【0015】
自動変速機85の出力軸85Bは、ディファレンシャル71を介して左右の駆動輪72に接続している。ディファレンシャル71は、左右の駆動輪72に回転速度の差が生じることを許容する。なお、駆動クラッチ81、モータジェネレータ82、及び変速ユニット80は、一つながりのケースに収容されている。すなわち、駆動クラッチ81、モータジェネレータ82、及び変速ユニット80は、一体的なハイブリッドトランスアスクルとして構成されている。
【0016】
以上の一連の動力伝達系において、駆動クラッチ81が接続状態の場合、内燃機関10のクランクシャフト14は、モータジェネレータ82、トルクコンバータ83、及び自動変速機85に対してトルクを付与できる。また、駆動クラッチ81が接続状態の場合、モータジェネレータ82は、クランクシャフト14に対してトルクを付与できる。これらモータジェネレータ82、トルクコンバータ83、及び自動変速機85は、クランクシャフト14との間でトルクを授受可能なトルク付与装置である。クランクシャフト14との間でトルクを授受可能とは、クランクシャフト14からトルクが付与されること、及びクランクシャフト14に対してトルクを付与することの少なくとも一方が可能であることを指す。なお、モータジェネレータ82は、クランクシャフト14とともに駆動輪72にもトルクを付与できる。
【0017】
車両90は、自動変速機85のシフトレンジQを切り替えるためのシフト装置290を有する。シフト装置290は、乗員によって操作されるシフトレバーを有する。シフトレバーによって「Dレンジ」が選択されている場合、自動変速機85は前進走行用の変速段を形成する。シフトレバーによって「Rレンジ」が選択されている場合、自動変速機85は後進走行用の変速段を形成する。シフトレバーによって「Nレンジ」又は「Pレンジ」が選択されている場合、自動変速機85は非走行用の変速段を形成する。
【0018】
車両90は、シフトセンサ56、バッテリセンサ57、車速センサ58、アクセルセンサ59、及びパワースイッチ60を有する。シフトセンサ56は、シフト装置290で選択されているシフトレンジQを検出する。バッテリセンサ57は、バッテリ79の電流、電圧、及び温度といったバッテリ情報Bを検出する。車速センサ58は、車両90の走行速度を車速SPとして検出する。アクセルセンサ59は、車両90におけるアクセルペダルの踏み込み量をアクセル操作量ACCとして検出する。上記の各センサは、自身が検出した情報に応じた信号を後述の制御装置100に繰り返し送信する。パワースイッチ60は、車両90のシステム起動用スイッチである。パワースイッチ60は、ドライバの操作に応じた信号Uを後述の制御装置100に送信する。
【0019】
<内燃機関の概略構成>
図2に示すように、内燃機関10は、シリンダブロック26、オイルパン27、及びクランク室28を有する。また、内燃機関10は、複数の気筒11、複数のピストン12、複数のコネクティングロッド13、及び上記クランクシャフト14を有する。気筒11の数は4つである。なお、
図2では、複数の気筒11のうち1つのみを示している。ピストン12及びコネクティングロッド13についても同様である。ピストン12及びコネクティングロッド13は、気筒11毎に設けられている。
【0020】
気筒11は、シリンダブロック26に区画された空間である。気筒11は、燃料及び吸入空気の混合気が燃焼する空間である。ピストン12は、気筒11に位置している。ピストン12は往復動する。ピストン12は、コネクティングロッド13を介してクランクシャフト14に連結している。クランクシャフト14は、ピストン12の往復動に応じて回転する。クランクシャフト14は、クランク室28に位置している。クランク室28は、シリンダブロック26における下寄りの部分と、オイルパン27とで区画された空間である。シリンダブロック26における下寄りの部分は、クランクケースと呼称されることもある。クランク室28は、各気筒11と連通している。オイルパン27は、箱型である。オイルパン27の底には、内燃機関10の各種部位を潤滑する潤滑油が溜まっている。
【0021】
内燃機関10は、ウォータージャケット25を有する。なお、
図2では、便宜上、ウォータージャケット25を太実線で示している。ウォータージャケット25は、シリンダブロック26に区画された、冷却水が流通する通路である。ウォータージャケット25は、複数の気筒11の周囲に位置している。
【0022】
内燃機関10は、複数の点火プラグ19を有する。なお、
図2では、複数の点火プラグ19のうちの1つのみを示している。点火プラグ19は、気筒11毎に設けられている。点火プラグ19は、気筒11において吸入空気と燃料との混合気に点火を行う。
【0023】
内燃機関10は、複数の燃料噴射弁17を有する。なお、
図2では、複数の燃料噴射弁17のうちの1つのみを示している。燃料噴射弁17は、気筒11毎に設けられている。燃料噴射弁17は、後述の吸気通路15を介さず気筒11に直接燃料を供給する。燃料噴射弁17は、燃料として水素を噴射する。
【0024】
内燃機関10は、吸気通路15、スロットルバルブ16、及び排気通路21を有する。吸気通路15は、各気筒11に接続している。吸気通路15には、外部からの吸入空気が流通する。スロットルバルブ16は、吸気通路15の途中に位置している。スロットルバルブ16は、吸入空気の量(以下、吸入空気量と記す。)GAを調整する。排気通路21は、各気筒11に接続している。排気通路21には、各気筒11からの排気が流通する。
【0025】
内燃機関10は、ブローバイガス還流機構を有する。ブローバイガス還流機構は、シリンダブロック26における気筒11を区画している壁面と、ピストン12との隙間を通じてクランク室28に漏れ出すガスであるブローバイガスを吸気通路15に還流させるための機構である。ブローバイガス還流機構は、第1ブローバイガス通路31、第2ブローバイガス通路32、及びPCVバルブ33を有する。第1ブローバイガス通路31は、クランク室28と、吸気通路15における、スロットルバルブ16に対して上流側の部分とを連通している。第2ブローバイガス通路32は、クランク室28と、吸気通路15における、スロットルバルブ16に対して下流側の部分とを連通している。PCVバルブ33は、第2ブローバイガス通路32の途中に位置している。PCVバルブ33は、内燃機関10の運転中、吸気通路15におけるスロットルバルブ16に対して下流側の部分の圧力が規定値よりも低くなると開弁する。このとき、第2ブローバイガス通路32は、クランク室28から吸気通路15へとブローバイガスが流通することを許容する。なお、ブローバイガスが第2ブローバイガス通路32を流れる場合、第1ブローバイガス通路31では吸気通路15からクランク室28へと吸入空気が流れる。
【0026】
内燃機関10は、クランクポジションセンサ40、エアフロメータ41、水温センサ44、及び油温センサ45を有する。クランクポジションセンサ40は、クランクシャフト14の回転位置CRを検出する。エアフロメータ41は、吸入空気量GAを検出する。水温センサ44は、ウォータージャケット25の出口における冷却水の温度(以下、冷却水温と記す。)Wを検出する。油温センサ45は、オイルパン27に溜まっている潤滑油の温度Lを検出する。これらの各センサは、自身が検出した情報に応じた信号を後述の制御装置100に繰り返し送信する。
【0027】
<制御装置の概略構成>
図1に示すように、車両90は、制御装置100を有する。制御装置100は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサとして構成し得る。なお、制御装置100は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、またはそれらの組み合わせを含む回路(circuitry)として構成してもよい。プロセッサは、CPU111及び、RAM並びにROM112等のメモリを含む。メモリは、処理をCPU111に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。制御装置100は、日時の情報を生成する回路であるリアルタイムクロックを有する。また、制御装置100は、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ113を有する。制御装置100は、ROM112が記憶しているプログラムをCPU111が実行することにより、以下に説明する各種の処理を行う。
【0028】
制御装置100は、パワースイッチ60からの信号Uを受信する。制御装置100は、パワースイッチ60がオン操作されることに応じた信号Uを受信すると、バッテリ79とモータジェネレータ82とを電気的に接続する。そのことで、制御装置100は、車両90を走行可能な状態にする。以下では、パワースイッチ60がオン操作されてから次にオフ操作されるまでの期間のことを、「1トリップ」と呼称する。
【0029】
制御装置100は、1トリップ中、車両90に取り付けられている各種センサからの検出信号を繰り返し受信する。具体的には、制御装置100は、次の各パラメータについての検出信号を受信する。
【0030】
・クランクポジションセンサ40が検出するクランクシャフト14の回転位置CR
・エアフロメータ41が検出する吸入空気量GA
・水温センサ44が検出する冷却水温W
・油温センサ45が検出する潤滑油の温度L
・シフトセンサ56が検出するシフトレンジQ
・バッテリセンサ57が検出するバッテリ情報B
・車速センサ58が検出する車速SP
・アクセルセンサ59が検出するアクセル操作量ACC
制御装置100は、各種センサから受信した検出信号に基づいて、以下のパラメータを随時算出する。制御装置100は、クランクシャフト14の回転位置CRに基づいて、クランクシャフト14の回転速度である機関回転速度NEを算出する。また、制御装置100は、機関回転速度NE及び吸入空気量GAに基づいて機関負荷率KLを算出する。機関負荷率KLは、気筒11に充填される空気量を定めるパラメータである。具体的には、機関負荷率KLは、1燃焼サイクル当たりに1つの気筒11に流入する空気量を基準空気量で除算した値である。基準空気量は機関回転速度NEに応じて変わる。1燃焼サイクルは、1つの気筒11が吸気行程、圧縮行程、膨張行程、及び排気行程を1度ずつ迎える一連の期間である。制御装置100は、バッテリ情報Bに基づいて、バッテリ79の充電率SOCを算出する。バッテリ79の充電率SOCは、バッテリ79の残容量をバッテリ79の満充電容量で除算した値である。バッテリ79の満充電容量は、例えばバッテリ79の電圧及びバッテリ79の温度に基づいて算出できる。バッテリ79の残容量は、例えばバッテリ79の電圧及び電流に基づいて算出できる。
【0031】
<内燃機関の制御について>
制御装置100は、内燃機関10を制御対象とする。制御装置100は、内燃機関10のトルク(以下、機関トルクと記す。)TE及び機関回転速度NEを制御するために、スロットルバルブ16、燃料噴射弁17、点火プラグ19などの各種操作対象機器を操作する。そのことによって、制御装置100は、吸入空気量GA、噴射燃料量、点火時期などを調整する。そして、要求される機関トルクTE及び機関回転速度NEが得られるようにする。
【0032】
<モータジェネレータの制御について>
制御装置100は、モータジェネレータ82を制御対象とする。制御装置100は、モータジェネレータ82のトルク及び回転速度を制御するために、インバータ78を操作する。そのことによって、制御装置100は、モータジェネレータ82を力行運転させたり回生運転させたりする。そして、モータジェネレータ82に要求されるトルク及び回転速度が得られるようにする。
【0033】
制御装置100は、モータジェネレータ82を制御する上で、バッテリ79の充電率SOCを考慮する。例えば後述のハイブリッドモードでの走行中あれば、制御装置100は、バッテリ79の充電率SOCが予め定められた目標充電率Vを下回ると、モータジェネレータ82を回生運転させてバッテリ79に発電させる。一方、制御装置100は、バッテリ79の充電率SOCが目標充電率Vを上回ると、モータジェネレータ82を力行運転させてバッテリ79に放電させる。例えば、制御装置100は、バッテリ79の充電率SOCと目標充電率Vとの差の絶対値が大きいほど、単位時間当たりに充電又は放電させる量を多くする。こうした制御の結果として、バッテリ79の充電率SOCは、目標充電率Vを跨いで上下に変動しつつ、目標充電率V近傍の値に維持されることになる。
【0034】
制御装置100は、上記の目標充電率Vとして2つの設定値を利用可能である。一方の設定値である第1設定値V1は、通常の走行時に確保しておくべきバッテリ79の充電率SOCとして予め定められている。他方の設定値である第2設定値V2は、第1設定値V1よりも大きい値となっている。ここで、内燃機関10の動力を要すことなくバッテリ79の電力のみによって車両90を走行させることを電動走行と呼称する。つまり電動走行では、内燃機関10とモータジェネレータ82のうちモータジェネレータ82のトルクのみで車両90を走行させることになる。上記の第2設定値V2は、電動走行によって車両90を予め定められた規定距離だけ走行させるのに必要なバッテリ79の充電率SOCの最小値として定められている。規定距離は、後述の対処処理において電動走行処理を継続すると見込まれる期間での最大走行距離よりもやや長い距離として定められている。第1設定値V1、第2設定値V2、及び規定距離は、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。制御装置100は、後述の設定処理を通じて目標充電率Vを第1設定値V1と第2設定値V2とで切り替える。
【0035】
なお、制御装置100は、モータジェネレータ82の発電によって生じるモータジェネレータ82の抵抗をブレーキとして利用することもある。こうした発電に伴うモータジェネレータ82の抵抗によるブレーキを回生ブレーキと呼称する。制御装置100は、車両90の減速中などにこうした回生ブレーキを利用する。
【0036】
<自動変速機の制御について>
制御装置100は、自動変速機85を制御対象とする。制御装置100は、自動変速機85の変速比を制御するために、油圧機構86のソレノイドバルブ等を操作する。そのことによって、制御装置100は、摩擦係合要素85Cの断接状態を切り替える。すなわち、制御装置100は、自動変速機85の変速段ひいては変速比を切り替える。
【0037】
制御装置100は、自動変速機85の変速段を切り替えるための情報として、複数の変速マップを予め記憶している。変速マップは、現状の走行状況において最適な変速段である目標変速段を規定するものである。複数の変速マップの基本的な特徴は同じである。以下、その特徴について説明する。
図3に示すように、変速マップでは、車速SPをX軸、アクセル操作量ACCをY軸とした直交座標において、目標変速段を切り替えるための複数の変速線が設定されている。なお、
図3では、複数の変速線のうちの一部の変速線のみを示している。以下、
図3の実線で示される変速線を対象に、変速マップにおける変速線の特性を説明する。ある特定のアクセル操作量ACC1に着目すると、複数の変速線は、車速SPが大きいほど高変速段が選択されるように並んでいる。また、ある特定の車速SP2に着目すると、複数の変速線は、アクセル操作量ACCが大きいほど低変速段が選択されるように並んでいる。そして、ある特定の変速線から視て車速SPの小さい側から大きい側へと当該変速線を横切るように車速SPが変化した場合、アップシフトの判断が成立する。例えば、「2速」と「3速」とを切り替える変速線を特定変速線A1としたとき、特定変速線A1を挟んで車速SPが第1車速SP1から第2車速SP2に増加すると、アップシフトの判断が成立する。また、ある特定の変速線から視てアクセル操作量ACCの大きい側から小さい側へと当該変速線を横切るようにアクセル操作量ACCが変化した場合も、アップシフトの判断が成立する。一方、ある特定の変速線から視て車速SPの大きい側から小さい側へと当該変速線を横切るように車速SPが変化した場合、ダウンシフトの判断が成立する。また、ある特定の変速線から視てアクセル操作量ACCの小さい側から大きい側へと当該変速線を横切るようにアクセル操作量ACCが変化した場合も、ダウンシフトの判断が成立する。制御装置100は、アップシフト又はダウンシフトの判断が成立すると、目標変速段を変更する。なお、
図3では同一のマップによってアップシフトとダウンシフトとを説明したが、実際にはアップシフト用の変速マップとダウンシフト用の変速マップとは別々に用意してある。この点、以下に説明する複数種のマップのそれぞれについていえることである。ただし、アップシフト用の変速マップとダウンシフト用の変速マップとで基本的な特徴は共通であるため、それらを個別に説明することは省略する。
【0038】
制御装置100が記憶している変速マップには、通常マップと、低負荷マップと、高負荷マップとがある。これらのマップのうち、先ず通常マップと低負荷マップの違いを説明する。なお、
図3では、実線で通常マップを示し、二点鎖線で低負荷マップを示している。通常マップと低負荷マップとでは、全ての変速線について次のような違いがある。すなわち、ある特定のアクセル操作量ACC1に着目すると、二点鎖線で示す低負荷マップの変速線は、実線で示す通常マップの変速線から視て、車速SPの大きい側にシフトしている。こうした違いがあることで、同一の走行状況であっても、通常マップを利用した場合と低負荷マップを利用した場合とでは異なる変速段が選択され得る。この点について、「2速」と「3速」とを切り替える上記の特定変速線A1を例として詳述する。例えば、アクセル操作量ACCが第1操作量ACC1であるときに、車速SPが通常マップの特定変速線A1を挟んで第1車速SP1から第2車速SP2に増加した第1走行状況を考える。なお、第2車速SP2は、低負荷マップの特定変速線A2上の車速SPよりも低い値である。第1走行状況では、通常マップを利用していれば、目標変速段は「2速」から「3速」へとアップシフトする。一方、低負荷マップを利用している場合には、変速段は依然として「2速」のままである。このように、低負荷マップでは、通常マップに比べ、同一の車速SP及び同一のアクセル操作量ACCに対して、小さい変速段が選択され得る。換言すると、低負荷マップは、通常マップに比べて大きな変速比が選択され易くなっている。
【0039】
次に、通常マップと高負荷マップの違いを説明する。
図4に示すように、高負荷マップは、低負荷マップとは逆の特徴を有する。すなわち、ある特定のアクセル操作量ACCに着目すると、二点鎖線で示す高負荷マップの変速線は、実線で示す通常マップの変速線から視て、車速SPの小さい側にシフトしている。したがって、高荷マップを利用した場合、通常マップを利用した場合に比べ、同一の車速SP及び同一のアクセル操作量ACCに対して大きい変速段が選択され得る。換言すると、高負荷マップは、通常マップに比べて小さな変速比が選択され易くなっている。
【0040】
<車両の駆動モードについて>
制御装置100は、状況に応じて車両90の駆動モードをハイブリッドモード又は電動モードに切り替える。制御装置100は、電動モードでは、内燃機関10を停止状態にする一方で、モータジェネレータ82を駆動させる。そして、制御装置100は、モータジェネレータ82のみを車両90の駆動源として利用する。なお、電動モードには、駆動クラッチ81を切断状態にする通常電動モードと、駆動クラッチ81を接続状態にするモータリングモードとがある。モータリングモードは、後述の対処処理専用のものである。一方、制御装置100は、ハイブリッドモードでは、内燃機関10とモータジェネレータ82との双方を駆動させ、且つ駆動クラッチ81を接続状態にする。そして、制御装置100は、内燃機関10とモータジェネレータ82との双方を車両90の駆動源として利用する。なお、制御装置100は、ハイブリッドモードでは、内燃機関10の動力によってモータジェネレータ82に発電させることもある。
【0041】
制御装置100は、1トリップ中、車速SP及びアクセル操作量ACCに基づいて、車両90の推力として要求される力である要求駆動力を繰り返し算出する。そして、この要求駆動力とバッテリ79の最新の充電率SOCとに基づいて、車両90の駆動モードを選択する。制御装置100は、基本的には、要求駆動力が小さいときには電動モードを選択し、要求駆動力が大きいときにはハイブリッドモードを選択する。要求駆動力が小さい場合の例は、車両90の発進時、前進加速度の小さい軽負荷走行時などである。ただし、制御装置100は、バッテリ79の充電率SOCが低い場合には、要求駆動力が小さくてもハイブリッドモードを選択する。
【0042】
制御装置100は、電動モードを選択した場合、要求駆動力が得られるようにモータジェネレータ82を制御する。ハイブリッドモードでの制御の詳細はこの後説明する。
<ハイブリッドモードでの制御の詳細>
制御装置100がハイブリッドモードを選択している場合の内燃機関10、モータジェネレータ82、及び自動変速機85の制御の仕方の詳細を説明する。ここで、ハイブリッドモードでの制御を行うための処理として、通常処理、特定処理、及び増大処理の3種がある。これら3種の処理の基本的な内容は共通している。以下では、その共通内容について説明し、その後に各処理の違いを説明する。
【0043】
制御装置100は、各処理では、複数の変速マップのうちのいずれかに基づいて、最新の車速SPとアクセル操作量ACCとに対応する目標変速段を決定する。そして、制御装置100は、自動変速機85の実際の変速段が目標変速段と一致するように自動変速機85を制御する。また、制御装置100は、最新の要求駆動力などに基づいて、機関回転速度NEの目標値(以下、目標機関回転速度と記す。)、機関トルクTEの目標値(以下、目標機関トルクと記す。)、モータジェネレータ82のトルクの目標値(以下、目標モータトルクと記す。)を算出する。そして、制御装置100は、実際の機関トルクTEが目標機関トルクに一致し、且つ実際の機関回転速度NEが目標機関回転速度に一致するように内燃機関10を制御する。また、制御装置100は、モータジェネレータ82の実際のトルクが目標モータトルクに一致するようにモータジェネレータ82を制御する。制御装置100は、各目標値の算出と、目標値に基づく自動変速機85、内燃機関10、及びモータジェネレータ82の制御と、を繰り返す。なお、逐一の説明は割愛するが、目標機関トルク及び目標モータトルクは、単位期間あたりを対象とした値である。単位期間は、例えば内燃機関10の1燃焼サイクルである。
【0044】
制御装置100は、例えば以下のようにして目標機関回転速度、目標機関トルク、及び目標モータトルクを算出する。先ず、制御装置100は、最新の要求駆動力などに基づいて、車両90の走行上要求される出力の総計であるシステム出力の目標値(以下、目標システム出力と記す。)を算出する。システム出力は、軸トルクJTと機関回転速度NEとの積として定められるパラメータである。軸トルクJTは、機関トルクTEとモータジェネレータ82のトルクとの和を示す。ちなみに、機関回転速度NEとモータジェネレータ82の回転速度とは同じである。制御装置100は、目標システム出力を算出すると、この目標システム出力と最新の目標変速段とに対応する、軸トルクJTと機関回転速度NEとの組み合わせを算出する。このとき、制御装置100は、例えば
図5に示す動力マップを参照する。
図5に示すように、動力マップは、機関回転速度NEをX軸、軸トルクJTをY軸とした直交座標において、変速段毎の動作線Dを示したものである。動作線Dは、各変速段における機関回転速度NEと軸トルクJTとの関係を表したものである。各変速段の動作線Dは、次のような特徴を有する。すなわち、各変速段において、機関回転速度NEが高いほど軸トルクJTは大きくなっている。ある特定の機関回転速度NE1に着目すると、変速段が大きいほど軸トルクJTは大きくなっている。また、ある特定の軸トルクJT1に着目すると、変速段が小さいほど機関回転速度NEは大きくなっている。なお、動力マップには、機関回転速度NEと軸トルクJTとの積で規定される等出力線Fが示されている。
図5の二点鎖線で示すように、等出力線Fは、反比例曲線となっている。ある特定のシステム出力に着目すると、小さい変速段では、大きい変速段に比べて、機関回転速度NEが高く且つ軸トルクJTが小さくなっている。制御装置100は、こうした動力マップに基づいて、目標システム出力と目標変速段とに対応する、軸トルクJTと機関回転速度NEとの組み合わせを算出する。この組み合わせの算出にあたり、先ず制御装置100は、目標システム出力に対応する等出力線Fを特定する。また、制御装置100は、目標変速段に対応する動作線Dを特定する。そして、制御装置100は、特定した等出力線Fと動作線Dとの交点Hとなる機関回転速度NE1を目標機関回転速度とする。また、制御装置100は、上記交点Hとなる軸トルクJT1を、軸トルクJTの目標値(以下、目標軸トルクと記す。)とする。なお、
図5では、目標変速段が「5速」である場合を例として交点Hを示している。制御装置100は、目標軸トルクを算出すると、この目標軸トルクを内燃機関10とモータジェネレータ82とに分配する。このとき、制御装置100は、バッテリ79の充電率SOCを考慮する。すなわち、制御装置100は、バッテリ79の充電要求がある場合、モータジェネレータ82に回生運転させるべく目標モータトルクを負の値に設定する。一方、制御装置100は、バッテリ79の放電要求がある場合、モータジェネレータ82に力行運転させるべく目標モータトルクを正の値に設定する。制御装置100は、目標モータトルクを算出すると、目標軸トルクから目標モータトルクを減算した値を目標機関トルクとする。なお、制御装置100は、バッテリ79の充電率SOCが同じであれば、目標モータトルクを常に同じ値に設定する。制御装置100は、以上のようにして各目標値を算出する。
【0045】
さて、通常処理、特定処理、及び増大処理では、自動変速機85の制御に利用する変速マップが異なる。制御装置100は、通常処理では、通常マップを利用する。制御装置100は、特定処理では、低負荷マップを利用する。制御装置100は、増大処理では、高負荷マップを利用する。ここで、特定処理で利用する低負荷マップでは、通常処理で利用する通常マップに比べて、同一の車速SP且つ同一のアクセル操作量ACCの下で小さい変速段を設定する。つまり、特定処理では、通常処理に比べて、同じ要求駆動力ひいては目標システム出力に対して小さい変速段を設定することになる。上記のとおり、同一の目標システム出力に対して小さい変速段を設定すると、大きい変速段を設定した場合に比べて、目標機関回転速度が高くなり且つ目標軸トルクが小さくなる。ここで、バッテリ79の充電率SOCが同じであれば、目標モータトルクは同じである。つまり、特定処理では、当該特定処理を実行するときと各規定パラメータの値が同一の条件下で通常処理を行う場合に比べて、目標機関回転速度が高くなり且つ目標機関トルクが小さくなる。規定パラメータは、車速SP、アクセル操作量ACC、及びバッテリ79の充電率SOC、ひいてはそれらから定まる要求駆動力、目標システム出力、及び目標モータトルクである。このように、制御装置100は、特定処理では、当該特定処理を実行するときと各規定パラメータの値が同一の条件下で通常処理を行う場合に比べて、機関回転速度NEが高くなり且つ単位期間あたりの機関トルクTEが小さくなるように自動変速機85を制御する。上記とは反対に、高負荷マップを利用する増大処理では、通常マップを利用する通常処理に比べて大きい目標変速段を設定する。つまり、増大処理では、当該増大処理を行うときと各規定パラメータの値が同一の条件下で通常処理を行う場合に比べて、機関回転速度NEが低くなり且つ単位期間当たりの機関トルクTEが大きくなるように自動変速機85を制御する。なお、以下では、各規定パラメータの値が同一の条件下であることを、単に同一条件下と記す。
【0046】
上記した通常処理、特定処理、及び増大処理のうち、特定処理と増大処理は、後述の対処処理専用のものである。すなわち、制御装置100は、1トリップ中にハイブリッドモードで車両90を走行させる場合、これら通常処理、特定処理、及び増大処理のうち、基本的には、通常処理を選択する。そして、制御装置100は、後で詳述する対処処理との関連で、潤滑油に混入している水の量である希釈水量Pが判定値PA以上の場合に限って、特定処理又は増大処理を選択する。換言すると、制御装置100は、希釈水量Pが判定値PA未満であるときには通常処理を行い、希釈水量Pが判定値PA以上であるときには特定処理又は増大処理を行うことになる。なお、制御装置100は、通常処理の実行中には通常処理フラグをオンにし、通常処理の非実行中には通常処理フラグをオフにする。
【0047】
<水量算出処理>
希釈水量Pについて詳述する。希釈水量Pは、詳細には、潤滑油の単位体積あたりに含まれる水の量である。内燃機関10において、気筒11からクランク室28へと漏れ出すブローバイガスは、混合気の燃焼に伴う水分を含んでいる。この水分が液化して潤滑油に混入することがある。潤滑油に水が混入する状況が継続すると、潤滑油に含まれる水の量である希釈水量Pが増えていく。それとともに水による潤滑油の希釈が進む。一方、潤滑油の温度Lが上昇すると、潤滑油に混入している水は気化する。それとともに、希釈水量Pは減少していく。気化した水分は、内燃機関10の運転状態に応じてPCVバルブ33開弁すると、第2ブローバイガス通路32を介して吸気通路15に流入する。制御装置100は、このようにして増減している希釈水量Pを算出するための水量算出処理を実行可能である。
【0048】
制御装置100は、1トリップ中、水量算出処理を繰り返す。制御装置100は、1回の水量算出処理につき1度、希釈水量Pを算出する。制御装置100は、希釈水量Pの算出にあたり、先ず、新規混入量P1と蒸発水量P2とを算出する。新規混入量P1は、水量算出処理を前回実行してから次に水量算出処理を実行するまでの間に新たに潤滑油に混入する水の量である。蒸発水量P2は、水量算出処理を前回実行してから次に水量算出処理を実行するまでの間に潤滑油から蒸発する水の量である。制御装置100は、新規混入量P1と蒸発水量P2とを算出すると、新規混入量P1から蒸発水量P2を減算した値を更新値として算出する。そして、制御装置100は、この更新値を、不揮発性メモリ113に記憶している希釈水量Pの前回値に加算する。制御装置100は、得られた値を最新の希釈水量Pとして算出する。制御装置100は、最新の希釈水量Pを算出すると、その値を不揮発性メモリ113に記憶する。なお、制御装置100は、古いデータで新しいデータを上書きしつつ、ある一定期間の希釈水量Pを経時的に記憶していく。制御装置100は、この希釈水量Pの経時データのうちの最新の値を上記の前回値として取り扱う。なお、水量算出処理の実行間隔は、例えば数秒である。
【0049】
制御装置100は、新規混入量P1を算出するための情報として、新規マップを予め記憶している。新規マップは、機関回転速度NEと機関負荷率KLと加算水量との関係を表したものである。加算水量は、機関回転速度NEがある特定の値であり、且つ機関負荷率KLがある特定の値であるときに、単位時間において潤滑油に新に混入する水の量である。この単位時間は、水量算出処理の実行間隔と同じになっている。新規マップにおける機関回転速度NEと機関負荷率KLと加算水量とは、基本的には次のような関係になっている。すなわち、機関回転速度NEが同じであれば、機関負荷率KLが高いほど加算水量は多くなっている。ここで、機関負荷率KLが高いと、燃料噴射量が多くなる。したがって、混合気の燃焼に伴って発生する水が多くなる。そのことに加え、機関負荷率KLが高いと、気筒11内の圧力が高くなる。それに伴い、気筒11からクランク室28に漏れ出すガスが多くなる。これらのことが相まって、機関負荷率KLが高いときにはクランク室28に混入する水の量が多くなり得る。新規マップは、こういった因果関係を反映している。新規マップは、例えば実験又はシミュレーションを基に作成されたものである。制御装置100は、新規混入量P1を算出するにあたり、新規マップにおいて現状の機関回転速度NEと機関負荷率KLとに対応する加算水量を現状の新規混入量P1として算出する。
【0050】
制御装置100は、蒸発水量P2を算出するための情報として、蒸発マップを予め記憶している。蒸発マップは、潤滑油の温度Lと減算水量との関係を表したものである。減算水量は、潤滑油の温度Lがある特定の値であるときに、単位時間において潤滑油から蒸発する水の量である。単位時間は、新規マップと同様、水量算出処理の実行間隔と同じになっている。蒸発マップでは、基本的には、潤滑油の温度Lが高いほど減算水量は多くなっている。蒸発マップは、例えば実験又はシミュレーションを基に作成されたものである。制御装置100は、蒸発水量P2を算出するにあたり、蒸発マップにおいて現状の潤滑油の温度Lに対応する減算水量を現状の蒸発水量P2として算出する。
【0051】
ここで、新規マップで加算水量を規定している機関回転速度NE及び機関負荷率KLは、内燃機関10の運転状態を表すパラメータである。また、蒸発マップで減算水量を規定している潤滑油の温度Lも、内燃機関10の運転状態を表すパラメータである。制御装置100は、希釈水量Pを算出するにあたってこれら新規マップ及び蒸発マップを利用する。すなわち、制御装置100は、内燃機関10の運転状態に基づいて希釈水量Pを算出する。
【0052】
なお、上記のとおり、制御装置100は、1トリップ中に水量算出処理を繰り返す。この1トリップの中では、車両90がハイブリッドモードであるときと電動モードであるときとがある。車両90が電動モードである期間は、内燃機関10が停止する。この内燃機関10の停止中には、内燃機関10での燃料の燃焼を停止させることになる。内燃機関10での燃料の燃焼を停止させると、燃料の燃焼に伴って新たに発生する水はなくなる。したがって、潤滑油に新に混入する水は略なくなる。一方で、1トリップの開始後に内燃機関10の暖機が完了してしまえば、基本的に潤滑油の温度Lは相応に高い。潤滑油の温度Lが高くなれば潤滑油に混入している水は蒸発する。したがって、電動モードでの走行中は、新たに潤滑油に混入する水がないまま潤滑油から水が蒸発することで希釈水量Pは減少する。潤滑油から蒸発した水は、内燃機関10が再始動したときに第2ブローバイガス通路32を介して吸気通路15に流入することになる。こうした過程での希釈水量Pの減少分を考慮すべく、本実施形態では、車両90が電動モードである期間も含め、1トリップ中に水量算出処理を継続する。一方で、制御装置100は、1トリップが終了するとその時点で水量算出処理を終了する。ここで、1トリップの終了時点で潤滑油の温度Lが高く、1トリップの終了後に潤滑油から水が蒸発することもあり得る。しかし、あるトリップが終了してから次のトリップが開始するまでのソーク期間は相応に長いことが多い。このソーク期間ではPCVバルブ33が閉じている。したがって、ソーク期間に潤滑油から蒸発した水は吸気通路15には戻らない。そして、この水は、ソーク期間中に潤滑油を含む機関温度の低下とともに潤滑油へ再度混入する。こうした観点から、ソーク期間中は水量算出処理を休止する。なお、制御装置100は、ソーク期間が短い場合には、当該ソーク期間に蒸発する水の量を次のトリップで水量算出処理を開始するときに考慮する。すなわち、制御装置100は、ソーク期間が規定ソーク期間よりも短いときには、1トリップの初回に水量算出処理を実行する際、当該ソーク期間に蒸発する水の量を蒸発マップに基づいて算出する。そして、制御装置100は、不揮発性メモリ113に記憶している希釈水量Pの前回値からこの水の量を減算した値と、上記の更新値とを加算して、最新の希釈水量Pを算出する。制御装置100は、規定ソーク期間を予め記憶している。規定ソーク期間は、内燃機関10で燃料の燃焼を停止したタイミングから、蒸発後の水が潤滑油に再混入するし始めるまでの時間の長さとして、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。
【0053】
<設定処理>
制御装置100は、1トリップ中、バッテリ79の目標充電率Vを設定するための設定処理を繰り返す。制御装置100は、設定処理では、上記の希釈水量Pとの関連で、目標充電率Vを第1設定値V1と第2設定値V2とで切り替える。以下、設定処理の具体的な処理手順について説明する。
【0054】
図6に示すように、制御装置100は、設定処理を開始すると先ずステップS110の処理を行う。ステップS110において、制御装置100は、予測水量PYを算出する。予測水量PYは、現時点から所定期間後における希釈水量Pの予測値である。所定期間は、例えば10分である。制御装置100は、所定期間を予め記憶している。所定期間は、車両90の走行を継続したときに、ある程度余裕をもって次の事項を実現できると見込まれる時間の長さである。上記の事項は、バッテリ79の充電率SOCを第1設定値V1から第2設定値V2へと高めることである。所定期間は、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。制御装置100は、予測水量PYを算出するにあたって、希釈水量Pの単位時間あたりの変化量である水量変化率を算出する。具体的には、制御装置100は、希釈水量Pの経時データのうち、最新の希釈水量Pと、一つ前に算出した希釈水量Pとを参照する。そして、制御装置100は、最新の希釈水量Pから一つ前の希釈水量Pを減算した値を、水量算出処理の実行間隔で除算する。制御装置100は、得られた値を水量変化率として取り扱う。この後、制御装置100は、水量変化率と所定期間との積を予測水量PYとして算出する。なお、所定期間は、水量変化率の単位時間と同一の単位に換算してある。制御装置100は、予測水量PYを算出すると、処理をステップS120に進める。
【0055】
ステップS120において、予測水量PYが判定値PA以上であるか否かを判定する。制御装置100は、判定値PAを予め記憶している。ここで、潤滑油の希釈が進むと、潤滑油の潤滑機能が低下する。判定値PAは、こうした機能低下を避ける上で、希釈水量Pを減らす処置が必要とみなせる値として、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。制御装置100は、ステップS110で算出した予測水量PYが判定値PA未満の場合(ステップS120:NO)、処理をステップS130に進める。この場合、制御装置100は、目標充電率Vとして第1設定値V1を設定する。なお、制御装置100は、処理がステップS130に進んだ時点で目標充電率Vとして第1設定値V1を設定している場合にはその状態を維持する。
【0056】
一方、ステップS120において、制御装置100は、予測水量PYが判定値PA以上の場合(ステップS120:YES)、処理をステップS140に進める。この場合、制御装置100は、目標充電率Vとして第2設定値V2を設定する。なお、制御装置100は、処理がステップS140に進んだ時点で目標充電率Vとして第2設定値V2を設定している場合にはその状態を維持する。
【0057】
制御装置100は、ステップS130又はステップS140の処理を実行すると、設定処理の一連の処理を一旦終了する。この後、制御装置100は、再度ステップS110の処理を実行する。制御装置100は、1トリップ中、以上のような設定処理を繰り返す。
【0058】
<対処処理の概要>
上記のとおり、制御装置100は、ハイブリッドモードでの走行中は、基本的には通常処理を行っている。すなわち、制御装置100は、1トリップの開始後、初回にハイブリッドモードで走行する状況になると、通常処理を選択する。その後も、制御装置100は、この後説明する対処処理で希釈水量Pが判定値PA以上であると判定される状況以外では、ハイブリッドモードで走行する状況では常に通常処理を選択する。そうした通常処理の実行中は、電動モードでの走行中とは異なり、内燃機関10を運転させることに伴って、潤滑油に新たに混入する水が存在する。車両90の走行状況によっては、潤滑油に新たに混入する水が増えることなどに起因して、希釈水量Pが多くなることがある。制御装置100は、こうした希釈水量Pの増加に対処するための処理として、対処処理を実行可能である。
【0059】
制御装置100は、対処処理の一環として、第1判定処理を実行可能である。制御装置100は、第1判定処理では、現状の希釈水量Pが判定値PA以上であるか否かを判定する。判定値PAについては既に説明したとおりである。
【0060】
制御装置100は、対処処理の一環として、油温算出処理を実行可能である。制御装置100は、油温算出処理では、内燃機関10の運転状態に基づいて、現状の潤滑油の温度Lを算出する。本実施形態において、制御装置100は、内燃機関10の運転状態を表すパラメータである潤滑油の温度Lの現状の値を、当該温度Lを検出する油温センサ45の検出信号に基づいて算出する。
【0061】
制御装置100は、対処処理の一環として、第2判定処理を実行可能である。制御装置100は、第2判定処理では、現状の潤滑油の温度Lが規定温度LA以上であるか否かを判定する。制御装置100は、規定温度LAを予め記憶している。ここで、潤滑油に水が混入している状態で潤滑油の温度Lを徐々に上げていくとする。潤滑油の温度Lが水の沸点に近い温度になると、潤滑油からの水の蒸発量は急増し始める。規定温度LAは、潤滑油からの水の蒸発量が急増し始める温度であり、例えば70℃である。規定温度LAは、内燃機関10の暖機が完了したとみなせる温度でもある。規定温度LAは、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。
【0062】
制御装置100は、対処処理の一環として、上記の特定処理を実行可能である。制御装置100は、以下の3つの項目が満たされていることを条件に特定処理を行う。
(CN1)希釈水量Pが判定値PA以上である。
(CN2)バッテリ79の充電率SOCが上記の第2設定値V2未満である。
(CN3)潤滑油の温度Lが規定温度LA以上である。
【0063】
上記のとおり、特定処理は、ハイブリッドモードで車両90を制御するための処理の一種である。すなわち、制御装置100は、特定処理では、内燃機関10の運転を継続させたまま希釈水量Pへの対処を行うことになる。その際、制御装置100は、同一条件下で通常処理を行う場合に比べて機関トルクTEが小さくなるように自動変速機85を制御する。このように自動変速機85を制御することについては、特定処理で低負荷マップを利用することとの関連で既に説明したとおりである。なお、上で特定処理との比較対象としている通常処理の実行中は、希釈水量Pが判定値PA未満の状況である。したがって、制御装置100は、特定処理では、同一条件下で希釈水量Pが判定値PA未満である場合に比べて機関トルクTEが小さくなるように自動変速機85を制御するともいえる。すなわち、制御装置100は、希釈水量Pが多い場合に、内燃機関10の運転を継続させつつ、希釈水量Pが少ない場合に比べて機関トルクTEが小さくなるように自動変速機85を制御する。
【0064】
制御装置100は、対処処理の一環として、上記の増大処理を実行可能である。制御装置100は、上記の3つの項目のうち(CN1)と(CN2)が満たされていても(CN3)が満たされていない場合には、特定処理に代えて増大処理を行う。上記のとおり、増大処理は、ハイブリッドモードで車両90を制御するための処理の一種である。すなわち、制御装置100は、増大処理では、特定処理と同様、内燃機関10の運転を継続させたまま希釈水量Pへの対処を行う。その際、制御装置100は、同一条件下で通常処理を行う場合に比べて機関トルクTEが大きくなるように自動変速機85を制御する。このように自動変速機85を制御することについては、増大処理で高負荷マップを利用することとの関連で既に説明したとおりである。なお、増大処理は、上記の特定処理と同様の観点において次のようにもいえる。すなわち、制御装置100は、増大処理では、同一条件下で希釈水量Pが判定値PA未満である場合に比べて機関トルクTEが大きくなるように自動変速機85を制御する。換言すると、制御装置100は、希釈水量Pが多い場合に、内燃機関10の運転を継続させつつ、希釈水量Pが少ない場合に比べて機関トルクTEが大きくなるように自動変速機85を制御する。
【0065】
制御装置100は、対処処理の一環として、電動走行処理を実行可能である。制御装置100は、上記の3つの項目のうち(CN1)が満たされていても(CN2)が満たされていない場合には、項目(CN3)の成立可否に拘わらず、特定処理に代えて電動走行処理を行う。電動走行処理は、電動モードの一種である上記のモータリングモードによって車両90を走行させる処理である。すなわち、制御装置100は、電動走行処理では、内燃機関10での燃料の燃焼を停止した状態でモータジェネレータ82のトルクのみで車両90を走行させる。また、制御装置100は、電動走行処理では、駆動クラッチ81を接続状態にする。このことで、モータジェネレータ82の回転軸82Aとともにクランクシャフト14が回転する。つまり、モータジェネレータ82のトルクがクランクシャフト14に付与される。
【0066】
なお、以下では、特定処理、増大処理、及び電動走行処理を総称して水量低減処理と呼称することがある。
<対処処理の具体的な処理手順>
制御装置100は、1トリップ中、対処処理の開始条件が成立している場合に対処処理を実行する。開始条件は、通常処理によって車両90を走行させていることである。制御装置100は、車速SPがゼロよりも大きく、且つ通常処理フラグがオンである場合に、開始条件が成立していると判断する。
【0067】
図7に示すように、制御装置100は、対処処理を開始すると、先ずステップS200の処理を実行する。ステップS200において、制御装置100は、現状の希釈水量Pが判定値PA以上であるか否かを判定する。制御装置100は、ステップS200の判定を行うにあたり、希釈水量Pの経時データにおける最新の値を参照する。そして、制御装置100は、この値を現状の希釈水量Pとして取り扱う。制御装置100は、この希釈水量Pが判定値PA未満の場合(ステップS200:NO)、対処処理の一連の処理を一旦終了する。この場合、制御装置100は、開始条件が成立していれば、再度ステップS200の処理を実行する。なお、ステップS200の処理は、第1判定処理である。
【0068】
一方、ステップS200において、制御装置100は、現状の希釈水量Pが判定値PA以上である場合(ステップS200:YES)、処理をステップS210に進める。
ステップS210において、制御装置100は、車両90の駆動モードをハイブリッドモードからモータリングモードに切り替え可能か否かを判定する。具体的には、制御装置100は、バッテリ79の充電率SOCが第2設定値V2以上であるか否かを判定する。制御装置100は、バッテリ79の充電率SOCが第2設定値V2以上である場合(ステップS210:YES)、処理をステップS220に進める。
【0069】
ステップS220において、制御装置100は、電動走行処理を開始する。すなわち、制御装置100は、車両90の駆動モードをモータリングモードに切り替える。そして、制御装置100は、これ以降、モータリングモードによる車両90の走行を継続する。制御装置100は、ステップS220の処理を実行すると、処理をステップS230に進める。なお、制御装置100は、この後ステップS240を実行するまでは、途中で駆動モードを変更したり水量低減処理の種類を変更したりしない。この点、後述のステップS320及びステップS330についても同様である。
【0070】
一方、ステップS210において、制御装置100は、バッテリ79の充電率SOCが第2設定値V2未満の場合(ステップS210:NO)、処理をステップS310に進める。そして、ステップS310において、制御装置100は、現状の潤滑油の温度Lが規定温度LA以上であるか否かを判定する。制御装置100は、ステップS310の判定を行うにあたり、油温センサ45から受信した最新の潤滑油の温度Lを現状の潤滑油の温度Lとして算出する。そして、制御装置100は、現状の潤滑油の温度Lが規定温度LA以上の場合(ステップS310:YES)、処理をステップS320に進める。なお、ステップS310の処理は、油温算出処理と第2判定処理とを兼ねている。
【0071】
ステップS320において、制御装置100は、ハイブリッドモードを維持したまま通常処理から特定処理へと処理内容を切り替える。そして、制御装置100は、これ以降、特定処理によって車両90の走行を継続する。制御装置100は、ステップS320の処理を実行すると、処理をステップS230に進める。
【0072】
一方、ステップS310において、制御装置100は、現状の潤滑油の温度Lが規定温度LA未満の場合(ステップS310:NO)、処理をステップS330に進める。そして、ステップS330において、制御装置100は、ハイブリッドモードを維持したまま通常処理から増大処理へと処理内容を切り替える。そして、制御装置100は、これ以降、増大処理によって車両90の走行を継続する。制御装置100は、ステップS330の処理を実行すると、処理をステップS230に進める。
【0073】
ステップS230において、制御装置100は、現状の希釈水量Pが終了値PB未満であるか否かを判定する。制御装置100は、終了値PBを予め記憶している。終了値PBは、希釈水量Pが十分に少なくなり、水量低減処理を終了してよい値として、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。制御装置100は、ステップS230の判定を行うにあたり、ステップS200と同様の要領で現状の希釈水量Pを把握する。そして、制御装置100は、現状の希釈水量Pが終了値PB以上の場合(ステップS230:NO)、再度ステップS230の処理を実行する。この後、制御装置100は、現状の希釈水量Pが終了値PB未満になるまでステップS230の処理を繰り返す。そして、制御装置100は、現状の希釈水量Pが終了値PB未満になると(ステップS230:YES)、処理をステップS240に進める。
【0074】
ステップS240において、制御装置100は、これまで行ってきた水量低減処理を終了する。そして、制御装置100は、通常時の処理を再開する。すなわち、これ以降、制御装置100は、通常処理によるハイブリッドモード、又は通常電動モードによる車両90の走行を再開する。この後、制御装置100は、対処処理の一連の処理を一旦終了する。この後、制御装置100は、対処処理の開始条件が成立していれば、再度ステップS200の処理を行う。
【0075】
以上が対処処理の詳細である。なお、水量低減処理を開始してから希釈水量Pが終了値PB未満にまで減少するのに要する期間は、例えば数分程度である。これらの水量低減処理の実行中に車両90が停車することもあり得る。水量低減処理の実行中に車両90が停止した場合、制御装置100は、その時点で処理をステップS240に進めて対処処理を終了する。車両90が停車すれば、電動モードにおける希釈水量Pの推移で説明した場合と同様、新たに潤滑油に混入する水は略なくなる。
【0076】
<実施形態の作用>
(A)設定処理について
制御装置100は、1トリップ中、希釈水量Pの時間変化傾向に応じてバッテリ79の目標充電率Vを切り替える。そして、制御装置100は、希釈水量Pが増加傾向にある場合(ステップS120:YES)、将来的な対処のために、目標充電率Vを第1設定値V1から第2設定値V2へと切り替える(ステップS140)。これに伴い、バッテリ79の充電率SOCは第2設定値V2へ向けて徐々に増加していく。このことで、将来的に希釈水量Pが判定値PAに至ったときに、対処処理のステップS210でモータリングモードへの切り替えを実現し易くなる。
【0077】
(B)電動走行処理について
さて、希釈水量Pの増加傾向が継続して希釈水量Pが判定値PAに至ったとする(ステップS200:YES)。このとき、バッテリ79の充電率SOCが第2設定値V2にまで高まっていたとする(ステップS210:YES)。この場合、制御装置100は、水量低減処理として電動走行処理を行う(ステップS220)。すなわち、制御装置100は、車両90の駆動モードをハイブリッドモードからモータリングモードに切り替える。そして、制御装置100は、内燃機関10での燃料噴射及び点火を停止して混合気の燃焼を停止する。このことで、クランク室28ひいては潤滑油への新たな水の混入は略なくなる。ここで、電動走行処理の開始前までは内燃機関10を駆動していたことから、電動走行処理の開始時点での潤滑油の温度Lは基本的には高い状態にある。さらに、電動走行処理では、モータジェネレータ82のトルクによってクランクシャフト14を回転させる。このクランクシャフト14の回転は、潤滑油を攪拌する。このことは、潤滑油の温度Lの上昇を促進し得る。したがって、電動走行処理の実行中、潤滑油の温度Lは高い状態に維持される。そして、潤滑油から蒸発する水の量が多い状態が継続する。潤滑油へ新たに混入する水が略なくなり、且つ潤滑油からの水の蒸発が継続することで希釈水量Pは低下していく。
【0078】
(C)特定処理について
希釈水量Pの増加傾向が継続して希釈水量Pが判定値PAに至った際(ステップS200:YES)、状況によってはバッテリ79の充電率SOCが第2設定値V2にまで至っていないこともあり得る(ステップS210:NO)。仮にこのときに潤滑油の温度Lが規定温度LA以上になっていたとする(ステップS310:YES)。この場合、制御装置100は、水量低減処理として特定処理を行う。すなわち、制御装置100は、ハイブリッドモードを維持したまま通常処理から特定処理へと処理内容を切り替える(ステップS320)。なお、処理がステップS320に進む状況は、次のような状況である。すなわち、潤滑油の温度Lが高くて当該潤滑油からの水の蒸発量が多いものの、それを上回るほどに、新たに潤滑油に混入する水の量が多く、結果として希釈水量Pが多い状況である。例えば内燃機関10の暖機完了後において、機関トルクTEひいては機関負荷率KLが高い状況が継続している状況などが挙げられる。そうした状況下で、制御装置100は特定処理を行うことになる。
【0079】
上記のとおり、変速マップとして低負荷マップを利用する特定処理では、単位期間当たりの機関トルクTEが小さくなる。それに伴い、機関負荷率KLひいては気筒11内の圧力が低下する。そして、気筒11からクランク室28に漏れ出すガスが減少する。それとともに、そうしたガスと一緒にクランク室28に至って潤滑油に混入する水が少なくなる。その一方で、特定処理では、内燃機関10の運転を継続することから、特定処理の開始前から引き続いて潤滑油の温度Lの高い状態が維持される。その上、特定処理では、使用する変速マップとの関連で機関回転速度NEが高くなる。このことで、クランクシャフト14による潤滑油の攪拌を通じた潤滑油の温度Lの更なる上昇が見込まれる。したがって、潤滑油から蒸発する水の量が多い状態が継続する。潤滑油へ新たに混入する水が少なくなり、且つ潤滑油からの水の蒸発が継続することで希釈水量Pは低下していく。
【0080】
(D)増大処理について
希釈水量Pが判定値PAまで増加した際(ステップS200:YES)、次のような状況になっていることもあり得る。すなわち、バッテリ79の充電率SOCが第2設定値V2にまで至っていないことに加え(ステップS210:NO)、さらに潤滑油の温度Lが規定温度LA未満の状況である(ステップS310:NO)。この場合、制御装置100は、ハイブリッドモードを維持したまま通常処理から増大処理へと処理内容を切り替える(ステップS330)。なお、処理がステップS330に進む状況は、例えば内燃機関10の暖機完了前であって潤滑油の温度Lが相応に低い状況である。この場合、潤滑油の温度Lが低いことから、潤滑油から蒸発する水の量が少なくなる。そしてそれに付随して、希釈水量Pが判定値PA以上になり得る。こうした状況下で、制御装置100は、増大処理を行うことになる。
【0081】
上記のとおり、高負荷マップを利用する増大処理では、単位期間当たりの機関トルクTEが大きくなる。そのことで、機関負荷率KLが高まるとともに、内燃機関10全体の温度とともに潤滑油の温度Lも急増する。そして、潤滑油から蒸発する水の量が増える。このことで、希釈水量Pが低下していく。
【0082】
<実施形態の効果>
(1)上記(C)に記載したとおり、特定処理を行うと、潤滑油に新たに混入する水の量を低減できる。制御装置100は、こうした特定処理を、潤滑油の温度Lが高い場合には行う。このような、潤滑油から蒸発する水の量が多い状況下でさらに特定処理を行って潤滑油に混入する水の量を少なくすることで、希釈水量Pを速やかに低下させることができる。
【0083】
(2)上記(D)に記載したとおり、増大処理を行うと、潤滑油の温度Lが速やかに上昇させることができる。そこで、制御装置100は、潤滑油の温度Lが低い場合には増大処理を行う。増大処理を行うことで、潤滑油から水が蒸発しにくい状況を解消できる。そして、希釈水量Pを速やかに低下させることができる。
【0084】
(3)制御装置100は、希釈水量Pが多くなったときにバッテリ79の充電率SOCがある程度高い場合、電動走行処理を行う。上記(B)に記載したとおり、電動走行処理を行うと、内燃機関10では、新たに発生する水ひいては潤滑油に新に混入する水が略なくなる。その一方で、モータジェネレータ82とともに回転するクランクシャフト14による潤滑油の攪拌などを通じて、潤滑油の温度Lは高い状態に維持される。したがって、希釈水量Pを速やかに低下させることができる。
【0085】
<変更例>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0086】
・設定処理に関して、予測水量PYの算出方法は、上記実施形態の例に限定されない。所定期間後の希釈水量Pを適切に算出できるのであれば、予測水量PYの算出方法は問わない。例えば、回帰分析を用いて予測水量PYを算出してもよい。この場合、時間をX軸、希釈水量PをY軸とした直交座標において希釈水量Pの回帰直線を算出する。そして、その回帰直線の傾きに所定期間を乗算すればよい。希釈水量Pの履歴を用いずに予測水量PYを算出してもよい。例えば、車両90の走行状態に基づいて予測水量PYを算出してもよい。ここで、車両90の加速状態が継続すると、内燃機関10の機関負荷率KLが高まる状態が続くことから、その後に希釈水量Pが多くなることもあり得る。こうした点を踏まえ、例えば、車両90の前進加速度がゼロよりも大きい状態の継続時間と、現状から所定期間後の希釈水量Pとの関係を表したマップを作成しておいてもよい。そして、そうしたマップに基づいて予測水量PYを算出してもよい。前進加速度は、例えば車速SPの微分値を用いてもよいし、車両90に加速度センサを設けて検出してもよい。また、予測水量PYを算出するにあたり、乗員の運転習慣の情報を利用してもよい。例えば、乗員がある特定の操作をした後の所定期間後に希釈水量Pがある所定値近傍に増加する傾向があるとする。この場合、その操作があったことを条件に、その操作があった時点から所定期間後の予測水量PYを所定値として算出するようにしてもよい。こうした所定値を、車両90の走行中に随時学習してもよい。
【0087】
・予測水量PYを算出する上での所定期間は、適宜変更可能である。所定期間は、次の事項を考慮してあればよい。その事項とは、電動走行処理による走行が可能な程度にまでバッテリ79の充電率SOCを高くするのに要する期間を確保できることである。
【0088】
・設定処理のステップS120で利用する予測水量PYの閾値として、対処処理のステップS200で利用する判定値PAとは異なる値を採用してもよい。例えば、上記閾値は、判定値PAより小さくてもよい。この場合、より早い段階から目標充電率Vを第2設定値V2に切り替えてバッテリ79の充電率SOCを高めることができる。上記閾値は、将来的な予測水量PYの増加に対処すべく、事前にバッテリ79の充電率SOCを高めるのに適したな値になっていればよい。
【0089】
・第2設定値V2の定め方は、上記実施形態のように規定距離を考慮したものに限定されない。例えば後述の変更例のように、対処処理のステップS210の判定の閾値として第2設定値V2を利用しないのであれば、電動走行処理による走行距離とは関係なく第2設定値V2を定めてもよい。この場合でも、第2設定値V2を極力高く設定しておけば、バッテリ79の充電を促進し易くなる。バッテリ79の充電率SOCが高くなっていれば、水量低減処理として電動走行処理を利用する機会が増える。
【0090】
・対処処理で行う特定処理に関して、低負荷マップの内容は、上記実施形態の例に限定されない。すなわち、低負荷マップは、全ての変速線が通常マップに対して車速SPの大きい側にシフトしていなくてもよい。例えば、複数の変速線のうちの一部の変速線のみが通常マップに対して車速SPの大きい側にシフトしていてもよい。また、希釈水量P毎に異なる低負荷マップを用意してもよい。同一の車速SP及び同一のアクセル操作量ACCに関して低負荷マップと通常マップとを比較したとき、低負荷マップは、通常マップに比べて小さい変速段が選択される領域が少なくとも一部存在していればよい。こうした低負荷マップであれば、特定処理で次のことを実現できるといえる。すなわち、同一条件下で通常処理を行う場合に比べて、自動変速機85に設定する変速比を大きくできるといえる。
【0091】
・上記変更例と同様、高負荷マップの内容は、上記実施形態の例に限定されない。すなわち、同一の車速SP及び同一のアクセル操作量ACCに関して高負荷マップと通常マップとを比較したとき、高負荷マップは、通常マップに比べて大きい変速段が選択される領域が少なくとも一部存在していればよい。こうした高負荷マップであれば、増大処理で次のことを実現できるといえる。すなわち、同一条件下で通常処理を行う場合に比べて、自動変速機85に設定する変速比を小さくできるといえる。
【0092】
・特定処理の内容は、上記実施形態の例に限定されない。特定処理では、上記実施形態の態様に代えて、又は加えて他の態様を採用してもよい。他の態様を採用した場合でも、特定処理では、同一条件下で通常処理を行う場合に比べて機関トルクTEを小さくできればよい。特定処理で採用する他の態様として、例えば、モータジェネレータ82を利用したものを採用してもよい。ここで、モータジェネレータ82を力行運転させている場合、モータジェネレータ82は内燃機関10のクランクシャフト14にトルクを付与する格好になる。特定処理で採用する他の態様として、同一条件下で通常処理を行う場合に比べて、モータジェネレータ82を力行運転させるときの目標モータトルクをある一定値だけ大きくしてもよい。この場合、目標軸トルクに占める目標機関トルクの割合が小さくなる。したがって、この態様では、同一条件下で通常処理を行う場合に比べて、単位期間当たりの機関トルクTEが小さくなる。機関トルクTEが小さくなることで、上記実施形態と同様、潤滑油に新たに混入する水の量が少なくなる。
【0093】
・特定処理で採用する他の態様として、例えばロックアップクラッチ84を利用したものを採用してもよい。ここで、ロックアップクラッチ84は、内燃機関10のクランクシャフト14からトルクが付与されるトルク付与装置である。このロックアップクラッチ84は、油圧機構86からの油圧に応じて断接状態が切り替わる。ロックアップクラッチ84は、接続状態では、上記実施形態で説明したとおりポンプインペラ83Aとタービンライナ83Bとを直結する。一方、ロックアップクラッチ84は、切断状態では、ポンプインペラ83Aとタービンライナ83Bとを切り離す。さて、要求駆動力ひいては目標システム出力が同一の状況下でロックアップクラッチ84を接続状態から切断状態に切り替えると、軸トルクJTひいては機関トルクTEが低下し、機関回転速度NEが高くなる。この特性を利用し、次のような態様を採用してもよい。すなわち、通常処理ではロックアップクラッチ84を接続状態にする一方で、特定処理ではロックアップクラッチ84を切断状態にする。そうすれば、特定処理では、同一条件下で通常処理を行う場合に比べて機関トルクTEを小さくできる。
【0094】
・増大処理の内容は、上記実施形態の例に限定されない。増大処理では、上記実施形態の態様に代えて、又は加えて他の態様を採用してもよい。他の態様を採用した場合でも、増大処理では、同一条件下で通常処理を行う場合に比べて機関トルクTEを大きくできればよい。例えば、上記実施形態の態様に代わる他の態様として、同一条件下で通常処理を行う場合に比べて、モータジェネレータ82を力行運転させるときの目標モータトルクをある一定値だけ小さくしてもよい。この場合、目標軸トルクに占める目標機関トルクの割合が大きくなる。したがって、この態様では、同一条件下で通常処理を行う場合に比べて、単位期間当たりの機関トルクTEが大きくなる。機関トルクTEが大きくなることで、上記実施形態と同様、潤滑油の温度Lを速やかに上昇させることができる。
【0095】
・車両90がハイブリッドモードのまま減速状態になることもある。増大処理の他の態様として、例えば減速中の回生ブレーキを禁止してもよい。回生ブレーキを禁止するとバッテリ79の充電の機会が減る。そしてその分だけバッテリ79の充電率SOCが低くなりがちであり、バッテリ79の充電率SOCが目標充電率Vを下回る機会も増える。それに伴い、内燃機関10の動力によってモータジェネレータ82に発電させてバッテリ79を充電する機会が増える。内燃機関10の動力によってモータジェネレータ82に発電させる場合、その発電の分だけ機関トルクTEを大きくすることになる。したがって、回生ブレーキを禁止する態様も増大処理として有効である。ちなみに、車両90がハイブリッドモードのまま減速状態になった場合、内燃機関10は燃料カットをしていることもあれば、アイドル運転をしていることもある。アイドル運転とは、内燃機関10が自立して運転可能な最小限度の機関回転速度NEで内燃機関10を運転させることである。
【0096】
・モータリングモードに関して、内燃機関10で混合気の燃焼を停止させることは必須ではない。すなわち、モータリングモードでは、内燃機関10で混合気の燃焼を継続しつつモータジェネレータ82によってクランクシャフト14を回転させてもよい。このとき内燃機関10は、例えばアイドル運転など、当該内燃機関10の出力するトルクが限定的な状態で駆動される。
【0097】
・電動走行処理では、モータリングモードではなく、通常電動モードで車両90を走行させてもよい。
・対処処理のステップS210で電動モードに切り替え可能であるか否かを判断する態様は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、第2設定値V2とは異なる閾値によって、電動モードへの切り替えの可否を判断してもよい。バッテリ79の充電率SOCのみならず、現状の要求駆動力を加味してステップS210の判定を行ってもよい。
【0098】
・バッテリ79の充電率SOCによっては、電動走行処理の実行途中で当該電動走行処理を他の水量低減処理に切り替えてもよい。
・特定処理、増大処理、及び電動走行処理の終了の判断の仕方は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、特定処理を開始してから予め定められた一定期間が経過したときに当該特定処理を終了してもよい。この場合、希釈水量Pの低下速度を考慮して、上記一定期間を適切な値に定めておけばよい。モータリング処理及び増大処理を終了するタイミングについても同様である。特定処理と、増大処理と、電動走行処理とで、終了までの継続期間を異なる長さに設定してもよい。
【0099】
・対処処理において電動走行処理を利用することは必須ではない。すなわち、対処処理におけるステップS210及びステップS220の処理を廃止してもよい。そして、ステップS200の判定がYESになった場合、バッテリ79の充電率SOCの大小に拘わらず特定処理又は増大処理を行ってもよい。対処処理から電動走行処理を廃止するのであれば、目標充電率Vを高めるべく予測水量PYに応じて目標充電率Vを第2設定値V2に切り替える必要はない。すなわち、設定処理を廃止してもよい。この場合、例えば1トリップを通じて目標充電率Vを第1設定値V1にしてもよいし、状況に応じて目標充電率Vを第1設定値V1から他の値に変更してもよい。
【0100】
・対処処理において、増大処理を利用することは必須ではない。すなわち、対処処理におけるステップS330及びステップS310を廃止してもよい。そして、潤滑油の温度Lの大小に拘わらず、希釈水量Pが判定値PA以上である場合に特定処理によって希釈水量Pを低下させてもよい。上記変更例のように対処処理から電動走行処理を廃止することに加えて増大処理を廃止してもよいし、電動走行処理を廃止することなく増大処理のみを廃止してもよい。
【0101】
・判定値PAの定め方は、適宜変更可能である。判定値PAは、希釈水量Pを低下させるための処置の要否を判断できる値であればよい。判定値PAは、固定値でなくてもよく、状況に応じて可変に設定してもよい。希釈水量Pが多い場合に、希釈水量が少ない場合に比べて機関トルクTEが小さくなるように特定処理を行うことができればよい。
【0102】
・規定温度LAの定め方は、適宜変更可能である。規定温度LAは、内燃機関10の暖機が完了する温度より低くてもよい。潤滑油から蒸発する水の量と、潤滑油に新たに混入する量との関係からいって、特定処理と増大処理のうちより適切なものを選択できるように規定温度LAが設定してあればよい。
【0103】
・希釈水量Pの算出手法は、上記実施形態の例に限定されない。希釈水量Pは、内燃機関10の運転状態に基づいて算出してあればよい。例えば、希釈水量Pを算出する上で冷却水温Wを考慮してもよい。冷却水温Wは、シリンダブロック26における気筒11を区画している壁面の温度を反映する。そして、この壁面の温度に応じて、当該壁面での結露のし易さひいてはクランク室28へと至る水の量も変わり得る。こうした観点において、冷却水温Wも、希釈水量Pを算出する上でのパラメータとして有効である。希釈水量Pを算出する上で、潤滑油中の水の量を検出するセンサを利用してもよい。この場合、そうしたセンサを内燃機関10に取り付ければよい。予め機械学習された写像を利用して希釈水量Pを算出してもよい。
【0104】
・潤滑油の温度Lの算出方法は、上記実施形態の例に限定されない。潤滑油の温度Lは、内燃機関10の運転状態に基づいて算出してあればよい。潤滑油の温度Lをセンサによって検出することに代えて、例えば、内燃機関10が始動してからの吸入空気量GAの積算値、冷却水温Wといったパラメータに基づいて算出してもよい。こうした態様を採用する場合、これらのパラメータと、潤滑油の温度Lとの関係を表したマップを予め実験又はシミュレーションで作成しておけばよい。
【0105】
・内燃機関10の構成は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、気筒11の数を上記実施形態の数から変更してもよい。燃料噴射弁17を、吸気通路15を介して気筒11に燃料を供給するタイプのものに変更してもよい。燃料噴射弁17が噴射する燃料は水素に限定されず、例えばガソリンでもよい。ブローバイガス処理機構の構成を、上記実施形態のものから変更してもよい。ブローバイガス処理機構は、クランク室28から吸気通路15へと還流させることができればよい。クランク室28から水分を排出する上で、ブローバイガス処理機構以外の構成を利用してもよい。例えば、クランク室28と内燃機関10の外部とを連通する換気通路を設けてもよい。そして、そうした換気通路を通じて、潤滑油から蒸発した水を外部に排出してもよい。
【0106】
・車両90の全体構成は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、車両90は、自動変速機として、無段式の自動変速機を採用してもよい。この場合、無段式の自動変速機に合わせて、通常マップ、低負荷マップ、及び高負荷マップの内容を変更すればよい。有段式の自動変速機の場合と同様、同一条件下で通常処理を行う場合に比べて自動変速機に設定する変速比を大きくできるように低負荷マップを作成しておけばよい。高負荷マップについても、上記実施形態と同様の観点で作成しておけばよい。
【0107】
・車両は、駆動源として、内燃機関に加え、2つのモータジェネレータを有していてもよい。こうした構成を採用する場合、通常処理、特定処理、及び増大処理による車両の動力伝達系の基本的な制御の内容を、車両の構成に合わせて変更すればよい。車両の駆動源として内燃機関及び2つのモータジェネレータを有する構成とする場合、例えば、遊星歯車機構を用いてこれら内燃機関及び2つのモータジェネレータを連結することが考えられる。遊星歯車機構は、外歯歯車のサンギア、内歯歯車のリングギア、サンギアとリングギアとの間に介在する複数のピニオンギア、及び複数のピニオンギアを支持するキャリアを有する。サンギア、リングギア、及びキャリアは、同軸で回転可能である。内燃機関のクランクシャフトは、キャリアに連結している。2つのモータジェネレータのうちの一方である第1モータジェネレータは、サンギアに連結している。2つのモータジェネレータのうちの他方である第2モータジェネレータは、リングギアを介して内燃機関及び第1モータジェネレータに連結している。第1モータジェネレータは、内燃機関のスタータモータとして機能する。すなわち、第1モータジェネレータは、クランクシャフトにトルクを付与できる。第2モータジェネレータは、走行用のモータとして機能する。すなわち、第2モータジェネレータは、駆動輪にトルクを付与できる。
【0108】
上記構成の場合、例えば、特定処理として、第2モータジェネレータによる走行のアシストトルクを通常処理より増やしてもよい。この場合、同じ要求駆動力を得る上での機関トルクTEを小さくできる。逆に、増大処理として、第2モータジェネレータによる走行のアシストトルクを通常処理より減らしてもよい。この場合、同じ要求駆動力を得る上での機関トルクTEを大きくできる。こうした特定処理や増大処理を採用してもよい。上記実施形態で説明した判定値PA及び規定温度LAを基準として各処理の実行の要否を判断し、必要に応じてこれら特定処理及び増大処理を行えばよい。上記の第2モータジェネレータのように、自身の制御内容の変更に応じて機関トルクTEを変更できるものは、内燃機関のクランクシャフトとの間でトルクを授受するトルク付与装置に含まれる。なお、特定処理として、第1モータジェネレータからクランクシャフトにトルクを付与してもよい。
【0109】
・車両は、駆動源として内燃機関のみを有し、モータジェネレータを有していなくてもよい。こういった車両でも、内燃機関との間でトルクを授受可能な例えば自動変速機といったトルク付与装置を有していれば、希釈水量Pが多くなったときに特定処理又は増大処理を実現できる。例えば、駆動源として内燃機関のみを有するとともに、当該内燃機関に連結した有段式の自動変速機を有している車両を考える。そして、この車両において、上記実施形態と同様、制御装置が通常処理、特定処理、及び増大処理によって内燃機関及び自動変速機を制御するものとする。上記実施形態と同様、制御装置は、基本的には、通常処理によって車両を走行させる。こうした車両において、例えば
図8に示す対処処理を適用してもよい。なお、
図8において上記実施形態と同じ処理を行う部分には、上記実施形態と同じステップ番号を付している。
【0110】
制御装置は、通常処理で車両を走行させていることを条件に対処処理を開始する。制御装置は、対処処理を開始すると、先ずステップS200の処理を実行する。制御装置は、ステップS200において現状の希釈水量Pが判定値PA未満である場合には対処処理の一連の処理を終了する一方で、現状の希釈水量Pが判定値PA以上である場合には処理をステップS310に進める。そして、制御装置は、現状の潤滑油の温度Lが規定温度LA以上の場合には(ステップS310:YES)、特定処理を開始する(ステップS320)。すなわち、制御装置は、変速マップとして低負荷マップを利用して自動変速機85を制御する。一方、制御装置は、現状の潤滑油の温度Lが規定温度LA未満の場合には(ステップS310:NO)、増大処理を開始する(ステップS330)。すなわち、制御装置は、変速マップとして高負荷マップを利用して自動変速機を制御する。この後、制御装置は、希釈水量Pが終了値PB未満になるまで特定処理又は増大処理を継続する。そして、制御装置は、希釈水量Pが終了値PB未満になると(ステップS230:YES)、現状で実行している水量低減処理を終了するとともに対処処理を終了する。以上のような対処処理によって希釈水量Pを低減させてもよい。こうした態様でも、要求駆動力ひいては内燃機関に要求される出力を維持したまま希釈水量Pを低下させることができる。なお、車両の駆動源として内燃機関のみを有する車両を対象とした場合、規定パラメータからバッテリ79の充電率SOCひいては目標モータトルクを廃止すればよい。
【0111】
・上記変更例のように、車両が駆動源として2つのモータジェネレータを有したり、車両が駆動源として内燃機関のみを有したりする場合において、増大処理を利用することなく、特定処理のみを用いて希釈水量Pを低減させてもよい。
【0112】
<付記事項>
上記実施形態及び変更例は、以下に記載する構成を含む。
[付記1]内燃機関と、前記内燃機関の出力軸との間でトルクを授受可能なトルク付与装置と、を有する車両を制御対象とし、前記内燃機関の運転中、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記内燃機関の潤滑油に含まれる水の量である希釈水量を算出する水量算出処理と、前記希釈水量が多い場合に、前記内燃機関の運転を継続させつつ、前記希釈水量が少ない場合に比べて前記内燃機関における単位期間当たりのトルクが小さくなるように前記トルク付与装置を制御する特定処理と、を実行する車両の制御装置。
【0113】
[付記2]前記トルク付与装置は、前記内燃機関の前記出力軸からトルクが付与される自動変速機であり、前記特定処理では、前記希釈水量が少ない場合に比べて、前記自動変速機の変速比を大きくする[付記1]に記載の車両の制御装置。
【0114】
[付記3]前記トルク付与装置は、前記内燃機関の前記出力軸にトルクを付与可能なモータジェネレータであり、前記特定処理では、前記希釈水量が少ない場合に比べて、前記モータジェネレータから前記内燃機関の前記出力軸に付与するトルクを大きくする[付記1]に記載の車両の制御装置。
【0115】
[付記4]前記内燃機関の運転中、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記内燃機関の潤滑油の温度を算出する油温算出処理を実行し、前記潤滑油の温度が予め定められた規定温度以上である場合に、前記特定処理を実行する[付記1]~[付記3]の何れか1つに記載の車両の制御装置。
【0116】
[付記5]前記潤滑油の温度が前記規定温度未満である場合には、前記特定処理の実行に代えて、前記希釈水量が多い場合に、前記内燃機関の運転を継続させつつ前記希釈水量が少ない場合に比べて前記内燃機関の単位期間当たりのトルクが大きくなるように前記トルク付与装置を制御する増大処理を実行する[付記4]に記載の車両の制御装置。
【0117】
[付記6]前記車両は、当該車両の駆動輪にトルクを付与可能なモータジェネレータと、前記モータジェネレータに電力を供給するバッテリと、を有し、前記内燃機関と前記モータジェネレータのうち前記モータジェネレータのトルクのみで前記車両を予め定められた規定距離だけ走行させるのに必要な前記バッテリの充電率の最小値を設定値としたとき、前記バッテリの充電率が予め定められた前記設定値以上である場合には、前記特定処理の実行に代えて、前記モータジェネレータのトルクのみで前記車両を走行させる電動走行処理を実行する[付記1]~[付記5]の何れか1つに記載の車両の制御装置。
【符号の説明】
【0118】
10…内燃機関
14…クランクシャフト
72…駆動輪
79…バッテリ
82…モータジェネレータ
85…自動変速機
90…車両
100…制御装置