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  • 特許-ハイブリッド車の制御装置 図1
  • 特許-ハイブリッド車の制御装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】ハイブリッド車の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20250708BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20250708BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20250708BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20250708BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/445 ZHV
B60W20/00
B60L50/16
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022135847
(22)【出願日】2022-08-29
(65)【公開番号】P2024032275
(43)【公開日】2024-03-12
【審査請求日】2024-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福代 英司
【審査官】熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-248681(JP,A)
【文献】特開2012-111448(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0167817(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/445
B60W 20/00
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸に連結された駆動軸に動力を出力するエンジンと、前記駆動軸に動力を入出力可能なモータと、前記駆動軸に接続されるギヤ機構と、共にハイブリッド車に搭載され、停車中に前記エンジンの始動指示がなされたときには、前記ギヤ機構のギヤを一方向に押し当てるための押し当てトルクが出力されるように前記モータを制御する押し当て制御を実行し、前記押し当て制御の実行を開始してから前記ハイブリッド車が移動していると判定したときには、前記押し当て制御を中止するハイブリッド車の制御装置であって、
前記押し当てトルクとは逆方向のトルクが出力されるように前記モータを制御した後に前記押し当て制御を実行し、
前記押し当て制御の実行を開始してからの前記モータの回転量から前記ギヤのバックラッシュを詰めるための前記モータの回転量を減じた値が所定値を超えているときには、前記ハイブリッド車が移動していると判定する
ハイブリッド車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド車の制御装置としては、車軸に連結された駆動軸に動力を出力するエンジンと、駆動軸に動力を入出力可能なモータと、駆動軸に接続されるギヤ機構と、共にハイブリッド車に搭載されるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、停車時にエンジンの始動要請がなされたときには、モータから押し当てトルクが出力する押し当て制御を実行する。そして、押し当て制御中にギヤ機構のバックラッシュを詰めていないときには、モータの回転量に基づいて車両が移動しているか否かを判定し、車両が移動しているときには押し当て制御を中止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-248681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のハイブリッド車の制御装置では、モータの回転量がバックラッシュの詰まりによるものなのか、車両の移動によるものなのかの区別ができない。そのため、モータの回転量から、車両の移動を適正に判定することが望まれている。
【0005】
本発明のハイブリッド車の制御装置は、車両が移動しているか否かを適正に判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド車の制御装置は、
車軸に連結された駆動軸に動力を出力するエンジンと、前記駆動軸に動力を入出力可能なモータと、前記駆動軸に接続されるギヤ機構と、共にハイブリッド車に搭載され、停車中に前記エンジンの始動指示がなされたときには、前記ギヤ機構のギヤを一方向に押し当てるための押し当てトルクが出力されるように前記モータを制御する押し当て制御を実行し、前記押し当て制御の実行を開始してから前記ハイブリッド車が移動していると判定したときには、前記押し当て制御を中止するハイブリッド車の制御装置であって、
前記押し当てトルクとは逆方向のトルクが出力されるように前記モータを制御した後に前記押し当て制御を実行し、
前記押し当て制御の実行を開始してからの前記モータの回転量から前記ギヤのバックラッシュを詰めるための前記モータの回転量を減じた値が所定値を超えているときには、前記ハイブリッド車が移動していると判定する
ことを要旨とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ハイブリッド車20の構成の概略を示す構成図である。
図2】制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図3】トルク指令Tm2*などの時間変化の一例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0009】
図1は、本発明の一実施例としての制御装置を搭載するハイブリッド車20の構成の概略を示す構成図である。ハイブリッド車20は、図示するように、エンジン22と、プラネタリギヤ30と、モータMG1,MG2と、インバータ41,42と、バッテリ50と、電子制御ユニット(以下、「HVECU」という)70とを備える。
【0010】
エンジン22は、例えばガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料を用いて動力を出力する内燃機関として構成されている。エンジン22は、ECU70によって運転制御されている。プラネタリギヤ30は、シングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されており、サンギヤにはモータMG1の回転子が接続され、リングギヤには駆動輪39a,39bにデファレンシャルギヤ38を介して連結された駆動軸36が接続され、キャリアには、エンジン22のクランクシャフト23が接続されている。モータMG1、MG2は、例えば同期発電電動機として構成されている。モータMG2は、回転子が駆動軸36に接続されている。インバータ41,42は、モータMG1,MG2の駆動に用いられると共に電力ライン54を介してバッテリ50に接続されている。モータMG1,MG2は、ECU70によって、インバータ41,42の図示しない複数のスイッチング素子がスイッチング制御されることにより、回転駆動される。バッテリ50は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されている。このバッテリ50は、ECU70により管理されている。ECU70は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。ECU70には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。ECU70に入力される信号としては、例えば、エンジン22を運転制御するのに必要な各種センサからの信号や、モータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する図示しない回転位置センサからの回転位置θm1,θm2などのモータMG1,MG2を駆動制御するのに必要な各種センサからの信号、バッテリ50を管理するのに必要な各種センサからの信号を挙げることができる。ECU70からは、エンジン22を運転制御するための各種制御信号やインバータ41,42の図示しない複数のスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0011】
こうして構成された実施例のハイブリッド車20では、基本的には、ECU70の制御により、エンジン22の運転を伴って走行するハイブリッド走行(HV走行)モードや、エンジン22の運転停止を伴って走行する電動走行(EV走行)モードで走行する。
【0012】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド車20の動作、特に、駆動軸36に接続された駆動系ギヤ機構に含まれるギヤ(例えば、プラネタリギヤ30やデファレンシャルギヤ38など)を一方向に押し当てる押し当て制御を実行する際の動作について説明する。図2はECU70により実行される制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、押し上げ制御の実行の要求(以下、「押し当て要求」という)がなされたときに実行される。この押し当て要求は、エンジン22の運転を停止しての停車中にエンジン22の始動指示と共になされる。なお、エンジン22の始動指示がなされてから所定時間tsが経過したとき、即ち、押し当て要求がなされてから所定時間tsが経過したときには、モータMG1によりエンジン22のクランクシャフト23のクランキングを開始してエンジン22の回転数Neを上昇させ、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nsに至ったときにエンジン22における燃料噴射制御や点火制御などを開始して、エンジン22を始動する。
【0013】
本ルーチンが実行されると、ECU70は、逆トルクTm2ref1をモータMG2の目標トルクTtに設定し(ステップS100)、予め定められた時定数で目標トルクTtに向かって変化して目標トルクTtとなるようにトルク指令Tm2*を設定する緩変化処理を行なうと共にモータMG2がトルク指令Tm2*で駆動するようにインバータ42を制御する(ステップS110)。逆トルクTm2ref1は、後述する正の値の押し当てトルクTm2ref2とは逆方向の負の値のトルクとして予め実験や解析、機械学習などにより定めたトルクである。そして、時間trefが経過するか否かを判定し(ステップS120)、時間trefが経過するまで、ステップS110、S120を繰り返す。時間trefは、モータMG2から駆動軸36に逆トルクTm2ref1を出力する時間として予め実験や解析、機械学習などにより定めた時間である。こうしてモータMG2から逆トルクTm2ref1を出力することにより、駆動系ギヤ機構のギヤのバックラッシュを最大にすることができる。
【0014】
ステップS120で時間trefが経過したときには、モータMG2の回転子の回転位置を検出する図示しない回転位置センサからのモータMG2の回転位置θm2を入力し(ステップS130)、入力した回転位置θm2を初期値θinitに設定する(ステップS140)。そして、正の値の押し当てトルクTm2ref2を目標トルクTtに設定し(ステップS150)、定められた時定数で目標トルクTtに向けて変化するようトルク指令Tm2*を設定する緩変化処理を行なうと共にモータMG2がトルク指令Tm2*で駆動するようにインバータ42を制御する押し当て制御を実行する(ステップS160)。こうして、モータMG2から押し当てトルクTm2ref2を駆動軸36に出力することにより、駆動系ギヤ機構のギヤのバックラッシュを小さくする(ガタ詰を行なう)ことができる。
【0015】
続いて、ステップS130と同様の処理で回転位置θm2を入力し(ステップS170)、トルク指令Tm2*に換算係数cを乗じて駆動軸36のねじれ角に相当するモータMG2の回転量としてのねじれ回転量dθtoを演算する(ステップS180)。換算係数cは、モータMG2から出力されるトルクをこのトルクによる駆動軸36のねじれ角に換算するための換算係数c1に、駆動軸36のねじれ角をモータMG2の回転量θto(回転位置θの変化量)に換算する換算係数c2を乗じた値である。換算係数c1、c2は、予め実験や解析、機械学習などにより定めた値である。
【0016】
こうしてねじれ回転量dθtoを定めると、ステップS170で入力した回転位置θm2から初期値θinitを減じたモータMG2の回転量dθ(=θm2-θinit)から駆動系ギヤ機構のギヤのバックラッシュの減少量(ガタ詰め量)に相当するモータMG2の回転量dθbrとねじれ回転量dθtoとを減じることにより、車両の移動距離に相当するモータMG2の回転量dθm2を演算し(ステップS190)、回転量dθm2が正の値の閾値(所定値)dθrefより大きいか否かを判定する(ステップS200)。閾値dθrefは、車両が移動しているか否かを判定するための閾値である。ここで、回転量dθm2について説明する。図3は、押し当て要求の有無やトルク指令Tm2*、モータMG2の回転位置θm2、トルク指令Tm1*の時間変化の一例を説明するための説明図である。押し当て要求がなされると(時刻t0)、トルク指令Tm2*がステップS100で設定した目標トルクTt(=Tm2ref1、負の値)に向けて緩やかに変化し、目標トルクTtに至る。そして、押し当て要求がなされてから時間trefが経過するまで(時刻t1)、トルク指令Tm2*は目標トルクTtで維持される。このとき、駆動系ギヤ機構のギヤは、モータMG2の回転、即ち、回転位置θm2の変化に伴って、押し当てる方向とは逆の方向、つまり、バックラッシュが大きくなる方向に空転して、バックラッシュが最大となる位置で保持される。押し当て要求がなされてから時間trefが経過すると、トルク指令Tm2*がステップS150で設定した目標トルクTt(=Tm2ref2)に向けて緩やかに変化し、目標トルクTtに至る。駆動系ギヤ機構のギヤは、モータMG2の回転に伴って、駆動軸36がねじれた後に駆動系ギヤ機構のギヤが空転してガタ詰めされてバックラッシュが無くなり、その後、駆動軸36がねじれた後に回転して車両が移動する。したがって、モータMG2の回転量dθのうち回転量dθbrとねじれ回転量dθto分は車両に移動に寄与しないことになる。実施例では、ステップS200で回転量dθから回転量dθbr、ねじれ回転量dθtoを減じた回転量dθm2を車両が移動したか否かを判定するから、車両が移動したか否かを適正に判定できる。
【0017】
ステップS200で回転量dθm2が閾値dθref以下のときには、車両が移動していないと判断して、エンジン22の始動が完了したか否かを判定し(ステップS210)、エンジン22の始動が完了していないときには、ステップS160に戻り、回転量dθm2が閾値dθrefを超えるか、エンジン22の始動が完了するまで、ステップS160~S210の処理を繰り返す。ステップS210でエンジン22の始動が完了したときには、本ルーチンを終了する。ステップS200で回転量dθm2が閾値dθrefを超えているときには、車両が移動していると判断して、押し当て制御を中止して(ステップS220)、本ルーチンを終了する。これにより、車両の移動を抑制できる。
【0018】
以上説明した実施例の制御装置を搭載するハイブリッド車20によれば、逆トルクTm2ref1が出力されるようにモータMG2を制御した後に押し当て制御を実行し、モータMG2の回転量dθから回転量dθbrとねじれ回転量dθtoとを減じた回転量dθm2が閾値dθrefを超えているときには、車両が移動していると判定することにより、車両が移動したか否かを適正に判定できる。
【0019】
実施例の制御装置を搭載するハイブリッド車20では、ステップS190では、回転量dθから回転量dθbrとねじれ回転量dθtoとを減じた値を回転量dθm2としている。しかし、回転量dθから回転量dθbrを減じた値を回転量dθ2としてもよい。
【0020】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0021】
20 ハイブリッド車、22 エンジン、30 プラネタリギヤ、70 電子制御ユニット(ECU)、MG1、MG2 モータ。
図1
図2
図3