(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】燃料噴射装置の異常検出装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20250708BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
F02D45/00 369
F02D43/00 301
(21)【出願番号】P 2022144663
(22)【出願日】2022-09-12
【審査請求日】2024-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】成田 航平
【審査官】村山 美保
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-66156(JP,A)
【文献】特開2009-108811(JP,A)
【文献】特開2019-218911(JP,A)
【文献】特開2007-177662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室へ燃料を供給する燃料噴射装置の異常検出装置であって、
予め定められた規定期間内に、燃料タンクから前記燃料噴射装置へと供給される燃料の消費量の積算値を消費積算量として算出する第1積算処理と、
前記規定期間内に、前記燃料噴射装置から前記燃焼室へ噴射する要求噴射量の積算値を要求積算量として算出する第2積算処理と、
前記消費積算量から前記要求積算量を減算した差分の絶対値を、前記規定期間で除算した値を判定値としたとき、前記判定値が予め定められた閾値以上であるとき、前記燃料噴射装置の異常を検出する検出処理と、
を実行する
燃料噴射装置の異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置の異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関の燃焼室へ燃料を供給する燃料噴射装置と、内燃機関の制御装置と、が記載されている。特許文献1における内燃機関の制御装置は、空燃比センサが検出する空燃比を目標空燃比とすべく、燃料噴射装置からの要求噴射量をフィードバック制御する。そして、制御装置は、要求噴射量が許容値以上の場合には、フィードバック制御での補正値に基づいて異常検出を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような内燃機関では、吸入空気量を調整するスロットルバルブが劣化等することによって、スロットルバルブの動作に異常が発生することがある。また、内燃機関へ外気を吸入するための吸気通路に、デポジット等の異物が堆積して吸気通路に異常が発生することがある。これらの場合、燃料噴射装置そのものには異常がなくても、空燃比センサの値が異常値となり得る。そのため、特許文献1に記載されている技術では、スロットルバルブ等が異常状態であるにも拘らず、燃料噴射装置の異常を誤検出してしまう虞がある。よって、吸入空気量及びその影響を受ける空燃比の値を必ずしも要しないで、燃料噴射装置の異常を検出する技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、内燃機関の燃焼室へ燃料を供給する燃料噴射装置の異常検出装置であって、予め定められた規定期間内に、燃料タンクから前記燃料噴射装置へと供給される燃料の消費量の積算値を消費積算量として算出する第1積算処理と、前記規定期間内に、前記燃料噴射装置から前記燃焼室へ噴射する要求噴射量の積算値を要求積算量として算出する第2積算処理と、前記消費積算量から前記要求積算量を減算した差分の絶対値を、前記規定期間で除算した値を判定値としたとき、前記判定値が予め定められた閾値以上であるとき、前記燃料噴射装置の異常を検出する検出処理と、を実行する燃料噴射装置の異常検出装置である。
【0006】
上記構成によれば、判定値は、消費積算量と要求積算量とから算出される。そして、消費積算量と要求積算量との差分は、吸入空気量の大小に影響を受けない。よって、仮に、吸入空気量を調整するスロットルバルブ等に異常が発生して吸入空気量が変動したとしても、それに起因して燃料噴射装置の異常が検出されることはない。一方で、消費積算量と要求積算量との差分は、燃料噴射装置及び燃料噴射装置への燃料の供給経路の異常に影響を受ける。したがって、吸入空気量及びその影響を受ける値を要さずとも、燃料噴射装置の異常を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】
図2は、異常検出の一連の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(一実施形態)
以下、燃料噴射装置の異常検出装置の一実施形態について、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0009】
<内燃機関の概要>
図1に示すように、内燃機関10は、シリンダブロック11と、シリンダヘッド12と、ピストン13と、気筒14と、を備えている。気筒14は、シリンダブロック11の内部に区画されている円柱状の空間である。気筒14の軸方向における両側は、シリンダブロック11の外部に開口している。ピストン13は、気筒14に配置されている。ピストン13の頂面は、気筒14の軸方向の第1端を向いている。シリンダヘッド12は、シリンダブロック11に連結している。シリンダヘッド12の外面は、凹部15を有している。凹部15は、気筒14の軸方向で、当該気筒14と向かい合っている。気筒14を区画するシリンダブロック11の壁面、凹部15の壁面、及びピストン13の頂面は、燃焼室Rを区画している。
【0010】
内燃機関10は、コネクティングロッド16と、クランク軸17とを備えている。コネクティングロッド16は、ピストン13に連結している。コネクティングロッド16は、ピストン13を挟んでシリンダヘッド12とは反対方向に延びている。クランク軸17は、コネクティングロッド16に連結している。クランク軸17及びコネクティングロッド16は、ピストン13の往復運動を回転運動に変換する。
【0011】
シリンダヘッド12は、吸気ポート18を有している。吸気ポート18は、シリンダヘッド12の内部に区画されている空間である。吸気ポート18の第1端は、凹部15に向けて開口している。吸気ポート18の第2端は、シリンダヘッド12の外部に向けて開口している。
【0012】
シリンダヘッド12は、排気ポート19を有している。排気ポート19は、シリンダヘッド12の内部に区画されている空間である。排気ポート19の第1端は、凹部15に向けて開口している。排気ポート19の第2端は、シリンダヘッド12の外部に向けて開口している。
【0013】
内燃機関10は、吸気バルブ20と、排気バルブ21とを備えている。吸気バルブ20は、吸気ポート18の第1端を開閉する弁である。排気バルブ21は、排気ポート19の第1端を開閉する弁である。
【0014】
なお、
図1では、燃焼室Rと、燃焼室Rに連結している吸気ポート18及び排気ポート19とを1組のみ図示しているが、内燃機関10は、燃焼室Rと、燃焼室Rに連結している吸気ポート18及び排気ポート19等と、を複数組備えている。
【0015】
内燃機関10は、外気を吸入するための吸気通路31を備えている。吸気通路31は、吸気ポート18の第2端に接続している。吸気通路31は、スロットルバルブ32を収容している。スロットルバルブ32は、弁開度の変更を通じて、吸気通路31を流れる空気の流量である吸入空気量GAを調整する。吸気通路31から吸入された空気は、吸気ポート18を介して、燃焼室Rに流れ込む。
【0016】
内燃機関10は、燃料噴射装置33を備えている。燃料噴射装置33は、シリンダヘッド12に取り付けられている。そのため、燃料噴射装置33は、吸気通路31のスロットルバルブ32よりも下流側の部分に位置している。燃料噴射装置33は、吸気ポート18に燃料を噴射する。これにより、燃料噴射装置33は、燃焼室Rに燃料を供給する。
【0017】
内燃機関10は、点火プラグ35を備えている。点火プラグ35は、シリンダヘッド12に取り付けられている。点火プラグ35は、吸気ポート18と排気ポート19との間に位置している。点火プラグ35は、燃焼室Rに導入された混合気をスパークにより点火する。
【0018】
内燃機関10は、燃焼室Rでの燃焼により生じた排ガスの排出路である排気通路41を備えている。排気通路41は、排気ポート19の第2端に接続している。排気通路41は、排気浄化触媒42を収容している。排気浄化触媒42は、排気中の例えば一酸化炭素や窒素酸化物を浄化する。
【0019】
また、内燃機関10は、燃料供給装置50を備えている。燃料供給装置50は、燃料タンク51と、燃料供給路52と、燃料ポンプ53と、を備えている。
燃料タンク51は、燃料を貯留するタンクである。燃料供給路52の第1端は、燃料タンク51内に位置している。また、燃料供給路52の第2端は、燃料噴射装置33に接続している。そして、燃料ポンプ53は、燃料供給路52の途中に位置している。燃料ポンプ53は、燃料タンク51から燃料を汲み上げて、燃料噴射装置33に供給する。
【0020】
内燃機関10は、クランク角センサ91を備えている。クランク角センサ91は、クランク軸17の近傍に位置している。クランク角センサ91は、クランク軸17の回転位相SCを検出する。
【0021】
内燃機関10は、エアフロメータ92を備えている。エアフロメータ92は、吸気通路31におけるスロットルバルブ32よりも上流側に位置している。エアフロメータ92は、吸気通路31を流通する空気の流量である吸入空気量GAを検出する。
【0022】
内燃機関10は、燃料流量センサ93を備えている。燃料流量センサ93は、燃料供給路52に位置している。燃料供給路52は、燃料供給路52を流通する燃料の流量である燃料流量FAを検出する。なお、燃料流量FAは、単位時間あたりに燃料タンク51から燃料噴射装置33へ供給される燃料の消費量である。
【0023】
内燃機関10を搭載している車両は、制御装置100を備えている。制御装置100は、内燃機関10を制御対象としている。制御装置100は、クランク軸17の回転位相SCを示す信号を、クランク角センサ91から取得する。制御装置100は、吸入空気量GAを示す信号を、エアフロメータ92から取得する。制御装置100は、燃料流量FAを示す信号を、燃料流量センサ93から取得する。
【0024】
制御装置100は、CPU101、周辺回路102、ROM103、記憶装置104、及びバス105を備えている。バス105は、CPU101、周辺回路102、ROM103、及び記憶装置104を互いに通信可能に接続している。周辺回路102は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、リセット回路等を含む。ROM103は、CPU101が各種の制御を実行するための各種のプログラムを予め記憶している。CPU101は、ROM103に記憶された各種のプログラムを実行することにより、内燃機関10の燃料噴射装置33を制御する。特に、ROM103は、燃料噴射装置33の異常を検出するための異常検出プログラムを記憶している。また、CPU101は、検出及び算出した値を、予め定められた期間分だけ、記憶装置104に時系列データとして記憶する。そして、制御装置100は、燃料噴射装置33の異常検出装置として機能する。
【0025】
制御装置100は、燃料噴射装置33を制御対象として、噴射制御処理を実行する。噴射制御処理では、CPU101は、先ず、1回の燃焼に供される燃料の量である要求噴射量を算出する。CPU101は、機関負荷及び機関回転速度に基づいて要求噴射量を算出する。なお、本実施形態では、機関負荷として、吸入空気量GAを機関回転速度によって除算した値が用いられる。CPU101は、クランク角センサ91から取得した回転位相SCに基づいて機関回転速度を算出する。
【0026】
<異常検出に関する一連の処理>
CPU101は、内燃機関10が駆動している状態では、予め定められた頻度で、ROM103に記憶された異常検出プログラムを繰り返し実行する。
【0027】
図2に示すように、CPU101は、異常検出プログラムを開始すると、先ずステップS11の処理を行う。ステップS11では、CPU101は、第1積算処理を行う。第1積算処理では、CPU101は、消費積算量CVを算出する。消費積算量CVは、予め定められた規定期間RT内に、燃料タンク51から燃料噴射装置33へと供給される燃料の消費量の積算値である。具体的には、CPU101は、現在時刻から予め定められた一定時間前の時刻までを規定期間RTとする。そして、CPU101は、記憶装置104が記憶している燃料流量FAの時系列データを参照して、規定期間RT内の燃料流量FAを積算し、これを消費積算量CVとする。その後、CPU101は、処理をステップS12へ進める。
【0028】
ステップS12では、CPU101は、第2積算処理を行う。第2積算処理では、CPU101は、要求積算量DVを算出する。要求積算量DVは、規定期間RT内に、燃料噴射装置33から燃焼室Rへ噴射する要求燃料量の積算値である。具体的には、CPU101は、記憶装置104が記憶している要求噴射量の時系列データを参照して、規定期間RT内の要求噴射量を積算し、これを要求積算量DVとする。なお、ステップS12での規定期間RTは、ステップS11での規定期間RTと同一の時間である。その後、CPU101は、処理をステップS13へ進める。
【0029】
ステップS13では、CPU101は、判定値算出処理を行う。判定値算出処理では、CPU101は、判定値JVを算出する。判定値JVは、消費積算量CVから要求積算量DVを減算した差分Dの絶対値を、規定期間RTで除算した値である。具体的には、CPU101は、消費積算量CVから要求積算量DVを減算して差分Dを算出する。次に、CPU101は、差分Dの絶対値を規定期間RTで除算して判定値JVを算出する。したがって、判定値JVは常に正の値である。その後、CPU101は、処理をステップS14へ進める。
【0030】
ステップS14では、CPU101は、判定値JVが予め定められた閾値TH以上であるか否かを判定する。閾値THは、燃料噴射装置33が劣化等によって、正常に機能しなくなっている状態、つまり異常状態となったときの差分Dの絶対値を規定期間RTで除算した値として予め試験やシミュレーションによって定められている。判定値JVが閾値TH未満であったとき(S14:NO)、CPU101は、今回の一連の処理を終了する。一方で、判定値JVが閾値TH以上であったとき(S14:YES)、CPU101は、処理をステップS15へ進める。
【0031】
ステップS15では、CPU101は、検出処理を行う。検出処理では、CPU101は、燃料噴射装置33の異常を検出する。具体的には、記憶装置104に記憶している燃料噴射装置33の状態パラメータを、異常状態を示す状態とする。その後、CPU101は、今回の一連の処理を終了する。
【0032】
なお、CPU101は、記憶装置104に記憶している燃料噴射装置33の状態パラメータが異常状態を示す状態となると、例えば、異常状態を示す警告をユーザに行う。具体的には、内燃機関10が搭載されている車両のディスプレイに、異常状態を示すメッセージを表示する。そして、ディーラなどによって燃料噴射装置33が交換等された場合に、記憶装置104に記憶している燃料噴射装置33の状態パラメータは、正常状態を示す状態に変更される。
【0033】
(実施形態の作用)
上記実施形態によれば、劣化等によって燃料噴射装置33が想定よりも多い燃料を噴射したり、想定よりも少ない燃料を噴射したりするようになる。この場合、判定値JVは、燃料噴射装置33が劣化するほど、大きな値となる。そして、ステップS14において肯定判定されたとき、すなわち判定値JVが閾値TH以上であるとき、CPU101は、検出処理を行う。
【0034】
(実施形態の効果)
上記実施形態によれば、判定値JVは、消費積算量CVと要求積算量DVとから算出される。そして、消費積算量CVと要求積算量DVとの差分Dは、吸入空気量GAの大小に影響を受けない。よって、仮に、吸入空気量GAを調整するスロットルバルブ32に異常が発生して吸入空気量GAが変動したとしても、それに起因して燃料噴射装置33の異常が検出されることはない。また、仮に、吸気通路31に、デポジット等の異物が堆積して吸気通路31に異常が発生して吸入空気量GAが変動したとしても、それに起因して燃料噴射装置33の異常が検出されることはない。一方で、消費積算量CVと要求積算量DVとの差分Dは、燃料噴射装置33及び燃料噴射装置33への燃料供給路52の異常に影響を受ける。したがって、吸入空気量GA及びその影響を受ける値を要さずとも、燃料噴射装置33の異常を検出できる。
【0035】
(その他の実施形態)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0036】
・判定値JVの算出の仕方は、上記実施形態の例に限られない。例えば、消費積算量CVを規定期間RTで除算した値から、要求積算量DVを規定期間RTで除算した値を減算して算出してもよい。
【0037】
・消費積算量CVの算出の仕方は、上記実施形態の例に限られない。例えば、燃料タンク51に貯留されている燃料の重量を測定する質量センサによって、燃料の質量を検出するとする。このとき、規定期間RT内に、質量センサが検出した燃料の質量の変化量を、消費積算量CVとして算出してもよい。
【0038】
・判定値JVが閾値TH未満である場合において、判定値JVと閾値THとの差分Dに基づいて、燃料噴射装置33の寿命を推定してもよい。この変更例において、判定値JVと閾値THとの差分Dが小さいほど、燃料噴射装置33の寿命を短く推定すればよい。
【0039】
・判定値JVが閾値TH未満である場合において、判定値JVと閾値THとの差分Dの絶対値が一定の値を上回った場合に、車両のユーザに注意喚起を行ってもよい。
・燃料噴射装置33は、吸気ポート18に燃料を噴射する装置に限られない。例えば、燃料噴射装置33は、燃焼室Rへ直接燃料を噴射する装置であってもよい。
【0040】
・燃料噴射装置33の異常検出装置は、内燃機関10の制御装置100とは別の装置であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
10…内燃機関 33…燃料噴射装置 51…燃料タンク CV…消費積算量 D…差分 DV…要求積算量 JV…判定値 R…燃焼室 RT…規定期間 TH…閾値