(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
B60R 16/06 20060101AFI20250708BHJP
H05F 1/00 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
B60R16/06 P
H05F1/00 G
H05F1/00 H
(21)【出願番号】P 2022144985
(22)【出願日】2022-09-13
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関川 裕也
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 敏雄
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/050242(WO,A1)
【文献】特開2021-079923(JP,A)
【文献】特開2013-163499(JP,A)
【文献】特開2008-050508(JP,A)
【文献】特開2006-315548(JP,A)
【文献】特開昭63-218199(JP,A)
【文献】実開昭58-130845(JP,U)
【文献】米国特許第05525411(US,A)
【文献】特開昭62-156395(JP,A)
【文献】特開2020-009643(JP,A)
【文献】特開2007-262622(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10020027(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/06
H05F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアフロアパネルを含むトランクルームと、
前記リアフロアパネルの上に搭載される発泡樹脂製のカバー板と、
前記
カバー板の外表面と前記
リアフロアパネルとの間に配置されて前記
リアフロアパネルを覆う帯電防止シートと、を有する車両であって、
前記帯電防止シートは、前記
カバー板の外表面に対向する前記
リアフロアパネルの対向部の全体を覆うように
前記リアフロアパネルと前記カバー板との間に挟み込まれており、周縁部が前記カバー板から外側にはみ出していること、
を特徴とする車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両であって、
車室のフロアパネルと、
前記フロアパネルの上に取付けられる座席と、
前記座席と前記フロアパネルとの間に配置されて前記フロアパネルを覆う他の帯電防止シートと、を有する車両であって、
前記座席は、前記フロアパネルから離間して配置される発泡樹脂製のクッションを含み、
前記
他の帯電防止シートは、前記
クッションの外表面に対向する前記
フロアパネルの表面の全体を覆うように、前記
フロアパネルから離間し、前記
クッションに接するように前記
フロアパネルと前記
クッションとの間に配置されていること、
を特徴とする車両。
【請求項3】
請求項
1に記載の車両であって、
前記帯電防止シートは、摩擦帯電列においてゼロ電位付近の天然繊維で構成されてお
り、保湿性、通気性を備えること、
を特徴とする車両。
【請求項4】
請求項
3に記載の車両であって、
前記帯電防止シートは、ネル布又は木綿の織物又は和紙で構成されていること、
を特徴とする車両。
【請求項5】
請求項
2に記載の車両であって、
前記他の帯電防止シートは、摩擦帯電列においてゼロ電位付近の天然繊維で構成されており、保湿性、通気性を備えること、
を特徴とする車両。
【請求項6】
請求項5に記載の車両であって、
前記他の帯電防止シートは、ネル布又は木綿の織物又は和紙で構成されていること、
を特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の帯電電位の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、路面に対して絶縁状態に保持されている車体が路面を走行することを含む外部要因により、車両にプラスの静電気が帯電すること、及びこの車両に帯電したプラスの静電気が車両の運転に何らかの影響を与えることが知られている。このような車両に帯電するプラスの静電気対策として、マイナスイオン発生器で発生させたマイナスイオンを除電対象物に向かって放出させて、除電対象物の除電を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術は、車両に帯電するプラスの静電気による影響を抑制するものではあるが、車体の広範囲にわたってプラスの静電気の帯電を抑制するには改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明は、車体の帯電電位を効果的に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両は、リアフロアパネルを含むトランクルームと、前記リアフロアパネルの上に搭載される発泡樹脂製のカバー板と、前記カバー板の外表面と前記リアフロアパネルとの間に配置されて前記リアフロアパネルを覆う帯電防止シートと、を有する車両であって、前記帯電防止シートは、前記カバー板の外表面に対向する前記リアフロアパネルの対向部の全体を覆うように前記リアフロアパネルと前記カバー板との間に挟み込まれており、周縁部が前記カバー板から外側にはみ出していること、を特徴とする。
【0007】
これにより、カバー板に帯電した電荷によりリアフロアパネルが帯電することを抑制し車体の帯電電位を効果的に抑制できる。そして、車両の本来の制御性能を発揮させると共に、本来の空力性能を発揮させることができる。
【0012】
本発明の車両において、車室のフロアパネルと、前記フロアパネルの上に取付けられる座席と、前記座席と前記フロアパネルとの間に配置されて前記フロアパネルを覆う他の帯電防止シートと、を有する車両であって、前記座席は、前記フロアパネルから離間して配置される発泡樹脂製のクッションを含み、前記他の帯電防止シートは、前記クッションの外表面に対向する前記フロアパネルの表面の全体を覆うように、前記フロアパネルから離間し、前記クッションに接するように前記フロアパネルと前記クッションとの間に配置されてもよい。
【0013】
これにより、クッションに帯電した電荷によりフロアパネルが帯電することを抑制し、車体の帯電電位を抑制することができる。
【0016】
本発明の車両において、帯電防止シート、および他の帯電防止シートは、摩擦帯電列においてゼロ電位付近の天然繊維で構成されて、保湿性、通気性を備えてもよい。さらに、前記帯電防止シート、および他の帯電防止シートは、ネル布又は木綿の織物又は和紙で構成されてもよい。
【0017】
このような一般的な材料で帯電防止シートを構成するので、簡便な構成で効果的に車体の帯電電位を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、車体の帯電電位を効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態の車両の平面図であって、ルーフとトランクルームのリアフードを取り外して車室とトランクルームの内部が見えるようにした図である。
【
図2】
図1に示す車両のトランクルームの断面図であって、
図1に示すA-A断面である。
【
図3】
図1に示す車両の車室の断面図であって、
図1に示すB-B断面である。
【
図4】
図2に示すリアフロアと、ネル布と、カバー板とを示す拡大模式図であって、
図2のC部詳細図である。
【
図5】ネル布の保湿性、通気性と車体の電位との関係を示すグラフである。
【
図6】従来技術のリアフロアと、カバー板とを示す拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら実施形態の車両100について説明する。各図に示す矢印FR、矢印UP、矢印RHは、車両100の前側、上側、右側をそれぞれ示している。また、各矢印FR、UP、RHの反対方向は、後側、下側、左側を示す。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両100の前後方向の前後、左右方向の左右、上下方向の上下を示すものとする。
【0021】
図1に示すように、車両100の車体10は、フロントコンパートメント11と、車室12と、トランクルーム14とを備えている。フロントコンパートメント11は、車体10の前方に配置され、内部にエンジンやモータ等の駆動ユニットを収容する内部空間である。
【0022】
車室12は、車体10の中央に配置され、運転者や同乗者が搭乗する空間である。車室12の内部には、運転者席21、パッセンジャ席22、後部座席25が配置されている。尚、
図1は、ルーフを取り外して車室12の内部が見えるようにした図である。
【0023】
トランクルーム14は、車体後方に配置され、内部に荷物を搭載する空間である。トランクルーム14は図示しないリアフードで覆われている。リアフードは、前端が回転自在に車体10に取付けられており、後端が上下に移動することでトランクルーム14を開閉する。尚、
図1は、リアフードを取り外してトランクルーム14の内部が見えるようした図である。
【0024】
次に
図1、2を参照してトランクルーム14の詳細構造について説明する。
図2に示すように、トランクルーム14は、車体10の構成部材であるリアフロアパネル15を備えている。リアフロアパネル15は金属製の板部材である。リアフロアパネル15は、幅方向両端の平板部15Aと、車両幅方向中央に設けられた凹部15Cと、左右の平板部15Aと凹部15Cとの間の段部15B(左側の部分と右側の部分)とで構成されている。平板部15Aは、トランクルーム14の側壁16の下端に接続されている。側壁16の車両幅方向外側にはトランクルーム14の側面の意匠面を構成するアウタパネル17が取付けられている。凹部15Cは、内部にスペアタイヤ50を収容する空間である。段部15Bは、その外側の平板部15Aよりも少し凹んだ領域で、凹みの深さは凹部15Cよりも小さい。段部15Bの右側の部分と段部15Bの左側の部分の右端部(凹部15Cに近い部分)との間の領域の上側には右カバー板31が搭載されている。右カバー板31は、凹部15Cの上面も覆っている。また、段部15Bの左側の領域の上側には、左カバー板32が搭載されている。右カバー板31と左カバー板32とは、発泡樹脂で構成された厚板状の帯電性部材で、カバー板30を構成する。右カバー板31の下側の外表面31Aと左カバー板32の下側の外表面32Aに対向する段部15Bと凹部15Cの領域Dは、カバー板30の外表面30Aに対向する車体10の対向部を構成する。
【0025】
右カバー板31と段部15Bとの間、及び左カバー板32と段部15Bとの間、並びに凹部15Cに収容されたスペアタイヤ50と右カバー板31との間とには帯電防止シートであるネル布40の主体部41が挟み込まれている。ネル布40の周縁部42は、段部15Bから平板部15Aの上に少しはみ出している。これにより、ネル布40は、カバー板30の下側の外表面30Aに対向する段部15Bと凹部15Cの表面の領域Dの全体を覆っている。尚、
図2では車両幅方向の領域Dを図示するが車両前後方向も同様、ネル布40は、カバー板30の下側の外表面30Aに対向する段部15Bと凹部15Cの表面とスペアタイヤ50の表面の全体を覆っている。
【0026】
次に
図1、3を参照して後部座席25の詳細構造について説明する。後部座席25は、フロアパネル13の上に取付けられるフレーム26と、フレーム26の上に取付けられるクッション23と、背もたれ24とで構成されている。フロアパネル13は、金属製の板部材で車体10の構成部材である。クッション23は、発泡樹脂製の帯電性部材である。フレーム26の内部には、モータ駆動用のバッテリ27が格納されている。クッション23の下面とバッテリ27の上面、及び、クッション23の下面とフレーム26との間にはネル布43が配置されている。このように、ネル布43は、フロアパネル13から離間し、クッション23の下側の外表面に接するようにフロアパネル13とクッション23、及び、クッション23の下面とフレーム26との間に配置されている。また、ネル布43は、クッション23の下側の外表面の全面に対向するフロアパネル13の領域Eを覆うように配置されている。尚、
図3では車両幅方向の領域Eを図示するが車両前後方向も同様、ネル布43は、クッション23の下側の外表面の全面に対向するフロアパネル13を覆っている。
【0027】
次に
図4を参照してトランクルーム14に取付けたネル布40の作用/効果について説明する。車両100が走行すると、高圧電線などの外的な要因によって帯電しやすい発泡樹脂製のカバー板30が帯電する。この場合、
図4に示すように、右カバー板31の外表面31Aにマイナスの静電気が帯電する。ネル布40を取付けることにより車体10の帯電電位がゼロ電位に保持される理由については詳細には解明されていないが、下記のように保湿性、通気性を有するネル布40に因る電磁波の吸収によると考えられている。
【0028】
ネル布40は、摩擦帯電列においてゼロ電位付近の天然繊維で構成されている。また、ネル布40は、保湿性、通気性を備えている。ネル布40は、右カバー板31の下側の外表面31Aに対向する段部15Bを覆っている。これにより、ネル布40は、右カバー板31と近接して配置されている段部15Bとの間での静電誘導を抑制する。これにより、右カバー板31に帯電したマイナスの静電気の電荷により段部15Bが帯電することが抑制される。同様に、ネル布40は、右カバー板31の外表面31Aと対向する凹部15Cを覆っており、左カバー板32は外表面32Aと対向する段部15Bを覆っている。このように、ネル布40は、カバー板30の下側の外表面30Aに対向する段部15Bと凹部15Cの表面の全体を覆っている。これにより、カバー板30の外表面30Aに帯電した電荷によりリアフロアパネル15が帯電することを抑制する。そして、リアフロアパネル15の全体においてプラスの静電気が帯電することを抑制し、車体10の帯電電位を抑制することができる。また、ネル布40は、右カバー板31と段部15Bとの間の摩擦により段部15Bに電荷が帯電することを抑制できる。これにより、ネル布40は効果的に車体10の帯電電位をゼロ電位に保持することができる。
【0029】
また、発明者らの研究によると、
図5に示すように、ネル布40の保湿性、通気性が高くなると車体10の電位が低下することが確認されている。このことから、上記のような効果を得るには、ネル布40が保湿性、通気性を有することが必要であることがわかる。
【0030】
一方、
図6に示すように、ネル布40を備えない従来技術の車両110の場合、車体10の電位が上昇してしまう。この理由についても詳細には解明されていないが、下記のような理由によると考えられている。
【0031】
右カバー板31に帯電したマイナスの静電気電荷によって、右カバー板31と段部15Bの間の空気層に静電誘導が発生し、段部15Bにプラスの静電気が帯電する。このため、従来技術の車両110では車体10の電位が上昇してしまう。これに対して、実施形態の車両100は、ネル布40がカバー板30によるリアフロアパネル15への静電誘導を抑制するので、車体10の帯電電位をゼロ電位に保持することができる。
【0032】
また、後部座席25に取付けたネル布43は、クッション23の下側の外表面の全面に対向するフロアパネル13の全面を覆うように配置されている。これにより、クッション23とフロアパネル13との間の静電誘導を抑制する。このため、クッション23に帯電した電荷によりフロアパネル13が帯電することを抑制し、車体10の帯電電位をゼロ電位に保持することができる。
【0033】
このように、実施形態の車両100は、ネル布40、43により効果的に車体10の帯電電位をゼロ電位に保持できるので、車体10の帯電電位が制御系やセンサに影響を及ぼすことを抑制して車両100の本来の制御性能を発揮させることができる。また、車両100は、車体10の外面にプラスの静電気が帯電することを抑制できるので、車体10の表面での剥離流の発生を抑制して車両100の本来の空力性能を発揮させて燃費を向上させることができる。
【0034】
以上の説明では、帯電防止シートはネル布40で構成することとして説明したが、摩擦帯電列においてゼロ電位付近の天然繊維で構成され、保湿性、通気性を備えものであればこれに限らず、例えば、木綿の織物又は和紙等で構成してもよい。また、帯電防止シートとして木綿のタオルに界面活性剤を含有する洗濯用の柔軟剤等を含有させた布を用いてもよい。この場合、界面活性剤の作用により布の電磁波吸収性能が高まり、帯電性部材に帯電した電荷により車体10の構成部材が帯電することを抑制できる。
【0035】
また、以上の説明では、後部座席25のクッション23の下側にネル布43を配置することとして説明したが、これに限らず、運転者席21、パッセンジャ席22の各クッションの下側にネル布43を配置するようにしてもよい。これにより、運転者席21、パッセンジャ席22の各クッションに帯電した電荷によりフロアパネル13が帯電することを抑制し、車体10の帯電電位を低減することができる。そして、車両100の本来の制御性能、空力性能を効果的に発揮させることができる。
【符号の説明】
【0036】
10 車体、11 フロントコンパートメント、12 車室、13 フロアパネル、14 トランクルーム、15 リアフロアパネル、15A 平板部、15B 段部、15C 凹部、16 側壁、17 アウタパネル、21 運転者席、22 パッセンジャ席、23 クッション、25 後部座席、26 フレーム、27 バッテリ、30 カバー板、30A,31A,32A 外表面、31 右カバー板、32 左カバー板、40,43 ネル布、41 主体部、42 周縁部、50 スペアタイヤ、100,110 車両。