(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】エアバッグ装置及び乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/2338 20110101AFI20250708BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
B60R21/2338
B60R21/207
(21)【出願番号】P 2022165757
(22)【出願日】2022-10-14
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 光由
(72)【発明者】
【氏名】山本 武司
(72)【発明者】
【氏名】岩間 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】楠原 由人
(72)【発明者】
【氏名】石井 力
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0061211(US,A1)
【文献】米国特許第11383667(US,B1)
【文献】特開2017-185978(JP,A)
【文献】特開2017-087767(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0065628(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/2338
B60R 21/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の衝突時にガスを発生するインフレータと、
前記インフレータで発生したガスが供給され、車両用シートのシート後方側からシート上方側を通ってシート前方側へ膨張展開するエアバッグと、
を備え、
膨張展開状態の前記エアバッグは、
前記車両用シートに着座した乗員の頭部の左右両側を通ってシート前後方向に延在する一対の前後チャンバと、
前記一対の前後チャンバと連通され、前記一対の前後チャンバの間で前記乗員のシート前方側に配置されるエアバッグ本体と、
一端部が前記エアバッグ本体又は前記一対の前後チャンバのシート前方側部分に取り付けられ、他端部が前記車両用シートのシートバック又は車体に取り付けられた一対の後方テザーと、
を有し、
少なくともサイドドア側における前記後方テザーは、
前記車両の衝突時から所定時間経過後に、前記他端部が前記車両用シートのシートバック又は車体から外れるように構成されているエアバッグ装置。
【請求項2】
前記後方テザーの他端部
は、スクイブ又はマイクロガスジェネレータが作動することで外れるように構成されている請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
乗員が着座する車両用シートと、
前記車両用シートにおけるシート後方側の部位に搭載された請求項1又は請求項2に記載のエアバッグ装置と、
を備えた乗員保護装置。
【請求項4】
車両の衝突時にガスを発生するインフレータと、
前記インフレータで発生したガスが供給され、車両用シートのシート後方側からシート上方側を通ってシート前方側へ膨張展開するエアバッグと、
前記車両用シートに乗員を拘束するための3点式のシートベルト装置と、
を備え、
膨張展開状態の前記エアバッグは、
前記車両用シートに着座した前記乗員の頭部の左右両側を通ってシート前後方向に延在する一対の前後チャンバと、
前記一対の前後チャンバと連通され、前記一対の前後チャンバの間で前記乗員のシート前方側に配置されるエアバッグ本体と、
一端部が前記エアバッグ本体又は前記一対の前後チャンバのシート前方側部分に取り付けられ、他端部が前記車両用シートのシートバック又は車体に取り付けられた後方テザーと、
を有し、
前記後方テザーは、
前記シートベルト装置の非ショルダベルト側にのみ設けられており、
前記車両の衝突時から所定時間経過後に、前記他端部が前記車両用シートのシートバック又は車体から外れるように構成されている
乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置及びエアバッグ装置を備えた乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されたエアバッグ装置は、衝撃入力時に高圧のガスを発生するインフレータと、インフレータからのガスの供給を受けて車両用シートのシートバックから膨張展開する袋体と、を備えている。袋体は、車両用シートに着座する乗員の胴体を挟んでシートバックとは反対側に展開する胴体支持部と、乗員の頭部を挟んでシート幅方向両側にそれぞれ展開するとともに胴体支持部に接続する一対の頭部支持部と、を備えている。また、袋体には、展開状態において、一対の頭部支持部の間で上下方向に貫通し、乗員の頭部を避ける逃げ部が形成されている。更に、このエアバッグ装置には、展開した胴体支持部と車両用シート又は車体とを連結する連結部材が設けられている。
【0003】
下記特許文献2に開示されたエアバッグ装置は、インフレータと、インフレータから供給されるガスにより展開するエアバッグと、を備えている。エアバッグは、座席の背面側に展開する後方膨張部と、後方膨張部の幅方向両側から前方側へ延びる一対の側方膨張部と、一対の側方膨張部から中央側へ延び、その中央側で相互に連結されて乗員の前方を覆う一対の前方膨張部と、を有している。また、このエアバッグ装置には、エアバッグの収納部より前方側で座席の幅方向両側に設けられる一対の支持点とエアバッグとを連結する連結部材が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-018593号公報
【文献】特開2019-218014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、エアバッグ装置には、エアバッグ本体(袋体、エアバッグ)と車両用シート又は車体とを連結する連結部材が設けられている。そのため、車両が衝突した後、乗員が車外へ脱出(降車)しようとした際に、サイドドア側にある連結部材が邪魔で脱出し難くなる(降車が妨げられる)可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、車両が衝突した後、乗員が速やかに車外へ脱出できるエアバッグ装置と、それを備えた乗員保護装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る第1の態様のエアバッグ装置は、車両の衝突時にガスを発生するインフレータと、前記インフレータで発生したガスが供給され、車両用シートのシート後方側からシート上方側を通ってシート前方側へ膨張展開するエアバッグと、を備え、膨張展開状態の前記エアバッグは、前記車両用シートに着座した乗員の頭部の左右両側を通ってシート前後方向に延在する一対の前後チャンバと、前記一対の前後チャンバと連通され、前記一対の前後チャンバの間で前記乗員のシート前方側に配置されるエアバッグ本体と、一端部が前記エアバッグ本体又は前記一対の前後チャンバのシート前方側部分に取り付けられ、他端部が前記車両用シートのシートバック又は車体に取り付けられた一対の後方テザーと、を有し、少なくともサイドドア側における前記後方テザーは、前記車両の衝突後に解放可能に構成されている。
【0008】
第1の態様の発明によれば、車両の衝突時にインフレータで発生したガスがエアバッグに供給され、エアバッグが車両用シートのシート後方側からシート上方側を通ってシート前方側へ膨張展開する。膨張展開状態のエアバッグは、車両用シートに着座した乗員の頭部の左右両側を通ってシート前後方向に延在する一対の前後チャンバと、一対の前後チャンバと連通され、一対の前後チャンバの間で乗員のシート前方側に配置されるエアバッグ本体と、を有している。
【0009】
そして、このエアバッグは、一端部がエアバッグ本体又は一対の前後チャンバのシート前方側部分に取り付けられ、他端部が車両用シートのシートバック又は車体に取り付けられた一対の後方テザーを有しており、少なくともサイドドア側における後方テザーが車両の衝突後に解放可能に構成されている。したがって、車両の衝突後に、サイドドア側における後方テザーを解放させることにより、乗員が速やかに車外へ脱出可能となる。なお、ここで言う「衝突時」には、衝突の不可避を予測(予知)したときも含まれる。
【0010】
また、本発明に係る第2の態様のエアバッグ装置は、第1の態様のエアバッグ装置であって、前記後方テザーの他端部には、前記車両用シートのシートバック又は車体に取り付けられたバックル装置に対して着脱可能なタングが設けられている。
【0011】
第2の態様の発明によれば、後方テザーの他端部には、車両用シートのシートバック又は車体に取り付けられたバックル装置に対して着脱可能なタングが設けられている。したがって、バックル装置の解除ボタンを押すことで、後方テザーが簡単に解放される。このように、簡単な構成で、後方テザーが確実に解放されるため、車両の衝突後に、乗員が速やかに車外へ脱出可能となる。
【0012】
また、本発明に係る第3の態様のエアバッグ装置は、第1の態様のエアバッグ装置であって、前記後方テザーは、前記乗員を拘束したことによるシート前方側への引張荷重が作用した後に、シート前方側へ引っ張られることで前記他端部が前記車両用シートのシートバック又は車体から外れるように構成されている。
【0013】
第3の態様の発明によれば、後方テザーが、乗員を拘束したことによるシート前方側への引張荷重が作用した後に、シート前方側へ引っ張られることで他端部が前記車両用シートのシートバック又は車体から外れるように構成されている。つまり、シート前方側へ引っ張るという簡単な操作で、後方テザーが解放される。したがって、車両の衝突後に、乗員が速やかに車外へ脱出可能となる。
【0014】
また、本発明に係る第4の態様のエアバッグ装置は、第1の態様のエアバッグ装置であって、前記後方テザーは、前記車両の衝突時から所定時間経過後に、前記他端部が前記車両用シートのシートバック又は車体から外れるように構成されている。
【0015】
第4の態様の発明によれば、後方テザーが、車両の衝突時から所定時間経過後に、他端部が車両用シートのシートバック又は車体から外れるように構成されている。つまり、特別な操作を要することなく、後方テザーが解放される。したがって、車両の衝突後に、乗員が速やかに車外へ脱出可能となる。なお、ここで言う「所定時間経過後」とは、乗員のシート前方側への移動量が最大となった時間以降である。
【0016】
また、本発明に係る第5の態様のエアバッグ装置は、第4の態様のエアバッグ装置であって、前記後方テザーの他端部は、スクイブ又はマイクロガスジェネレータが作動することで外れるように構成されている。
【0017】
第5の態様の発明によれば、スクイブ又はマイクロガスジェネレータが作動することで、後方テザーの他端部が外れる。つまり、簡易な機構で、後方テザーが迅速に解放される。したがって、車両の衝突後に、乗員が速やかに車外へ脱出可能となる。
【0018】
また、本発明に係る第6の態様の乗員保護装置は、乗員が着座する車両用シートと、前記車両用シートにおけるシート後方側の部位に搭載された第1~第5の何れかの態様のエアバッグ装置と、を備えている。
【0019】
第6の態様の発明によれば、乗員が着座する車両用シートにおけるシート後方側の部位に、エアバッグ装置が搭載される。このエアバッグ装置は、第1~第5の何れかの態様のものであるため、第1~第5の何れかの態様と同様の作用効果が得られる。
【0020】
また、本発明に係る第7の態様の乗員保護装置は、車両の衝突時にガスを発生するインフレータと、前記インフレータで発生したガスが供給され、車両用シートのシート後方側からシート上方側を通ってシート前方側へ膨張展開するエアバッグと、前記車両用シートに乗員を拘束するための3点式のシートベルト装置と、を備え、膨張展開状態の前記エアバッグは、前記車両用シートに着座した前記乗員の頭部の左右両側を通ってシート前後方向に延在する一対の前後チャンバと、前記一対の前後チャンバと連通され、前記一対の前後チャンバの間で前記乗員のシート前方側に配置されるエアバッグ本体と、一端部が前記エアバッグ本体又は前記一対の前後チャンバのシート前方側部分に取り付けられ、他端部が前記車両用シートのシートバック又は車体に取り付けられた後方テザーと、を有し、前記後方テザーは、前記シートベルト装置の非ショルダベルト側にのみ設けられている。
【0021】
第7の態様の発明によれば、車両の衝突時にインフレータで発生したガスがエアバッグに供給され、エアバッグが車両用シートのシート後方側からシート上方側を通ってシート前方側へ膨張展開する。膨張展開状態のエアバッグは、車両用シートに着座した乗員の頭部の左右両側を通ってシート前後方向に延在する一対の前後チャンバと、一対の前後チャンバと連通され、一対の前後チャンバの間で乗員のシート前方側に配置されるエアバッグ本体と、を有している。
【0022】
そして、このエアバッグは、一端部がエアバッグ本体又は一対の前後チャンバのシート前方側部分に取り付けられ、他端部が車両用シートのシートバック又は車体に取り付けられた後方テザーを有しており、その後方テザーは、シートベルト装置の非ショルダベルト側にのみ設けられている。つまり、後方テザーは、シートベルト装置のショルダベルト側であるサイドドア側には設けられていない。したがって、車両の衝突後に、乗員が速やかに車外へ脱出可能となる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、車両が衝突した後、乗員が速やかに車外へ脱出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態に係る乗員保護装置のエアバッグ装置におけるエアバッグが膨張展開した状態を示す概略斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグが乗員に対して膨張展開した状態を示す概略側面図である。
【
図3】第1実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグを構成する前後チャンバの展開図である。
【
図4】第1実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグを構成するエアバッグ本体の展開図である。
【
図5】第1実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグが膨張展開しつつ乗員の頭部と車室の天井との間の隙間を通過しているときの状態を示す概略側面図である。
【
図6】第1実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグが膨張展開しつつ乗員の肩部を通過しているときの状態を示す概略側面図である。
【
図7】第1実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグが膨張展開しつつ乗員の前方側に配置されようとしているときの状態を示す概略側面図である。
【
図8】(A)第1実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグの乗員拘束初期時を示す概略側面図である。(B)第1実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグによる乗員拘束後期時を示す概略側面図である。(C)第1実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグによる乗員拘束終了時を示す概略側面図である。
【
図9】第2実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグが乗員に対して膨張展開した状態を示す概略側面図である。
【
図10】(A)~(D)第2実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグにおける後方テザーが外れる工程を示す概略側面図である。
【
図11】(A)第3実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグにおける後方テザーが外れる前の状態を示す概略側面図である。(B)第3実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグにおける後方テザーが外れた後の状態を示す概略側面図である。
【
図12】(A)第3実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグにおける後方テザーが外れる前の状態を示す概略側面図である。(B)第3実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグにおける後方テザーが外れた後の状態を示す概略側面図である。
【
図13】第4実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグが乗員に対して膨張展開した状態を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各図において適宜示す矢印UPを車両及び車両用シートの上方向、矢印FRを車両及び車両用シートの前方向、矢印RHを車両及び車両用シートの右方向、矢印LHを車両及び車両用シートの左方向とする。したがって、以下の説明で、特記することなく上下、前後、左右の方向を記載した場合は、車両及び車両用シートにおける上下、前後、左右を示すものとする。また、左右方向は、車幅方向及びシート幅方向と同義である。
【0026】
<第1実施形態>
まず、第1実施形態について説明する。
図1に示されるように、第1実施形態に係る乗員保護装置10は、車両用シート12と、エアバッグ装置30と、によって構成されている。車両用シート12は、車両(自動車)のフロントシート又はリヤシートである。ここでは、フロントシート13(
図5~
図7参照)ではなく、リヤシートを車両用シート12とする。この車両用シート12は、シートクッション14と、シートクッション14の後端部に回動可能に設けられたシートバック16と、シートバック16の上端部に昇降可能に設けられたヘッドレスト18と、を有している。
【0027】
なお、
図1等においては、保護すべき乗員(着座者)のモデルとして、衝突試験用のダミー人形(人体ダミー)Dが車両用シート12のシートクッション14に着座した状態が示されている。ダミー人形Dは、例えば前面衝突試験用ダミー(Hybrid III)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。ダミー人形Dは、衝突試験法で定められた標準的な着座姿勢で着座しており、車両用シート12は、着座姿勢に対応した基準設定位置に位置している。以下、説明を分かり易くするために、ダミー人形Dを「乗員D」と称する。
【0028】
図1、
図2に示されるように、車両用シート12のシートクッション14に着座した乗員Dは、シートベルト装置20が備えるシートベルト22によって車両用シート12に拘束されるようになっている。シートベルト装置20は、3点式のシートベルト装置であり、図示しないリトラクタ及びアンカと、バックルと、がそれぞれ車両用シート12に設けられた所謂シート付のシートベルト装置である。
【0029】
エアバッグ装置30は、エアバッグ32と、一対のインフレータ44(
図3参照)と、モジュールケース46と、を備えている。エアバッグ32は、通常時には折り畳まれた状態で一対のインフレータ44と共にモジュールケース46内に収納されている。モジュールケース46は、中空の直方体形状に形成されている。このモジュールケース46は、車両用シート12の後方上部(詳細には、シートバック16の上方側でヘッドレスト18の後方側)に配置されており、シートバック16の上端部又は図示しない車体に固定されている。
【0030】
エアバッグ32は、一対のインフレータ44からガスが供給されて、車両用シート12の後方側から上方側を通って前方側へ膨張展開(展開及び膨張)するようになっている。このエアバッグ32は、前後チャンバ34と、エアバッグ本体40と、を有している。前後チャンバ34は、乗員Dの頭部Hの左右両側を通って前後方向に延在する左右一対の前後延在部34Aと、一対の前後延在部34Aの前端部を左右方向に繋ぐ連結部34Bと、を有している。そして、エアバッグ本体40は、連結部34Bの後方側で前後チャンバ34に対して遅れて乗員D側(後方側)へ膨張展開し、一対の前後延在部34Aの間で、かつ乗員Dの前方側に配置されるようになっている。
【0031】
図3に示されるように、前後チャンバ34は、長尺な2枚の基布36、38が重ね合わされ、その周縁部が縫製部S1において縫製されることによって、長尺な袋状に形成されている。また、
図4に示されるように、エアバッグ本体40は、1枚の基布42が4つの折線L1、L2、L3、L4に沿って折り曲げられ、縫製部S2において縫製されることによって、袋状に形成されている。
【0032】
縫製部S2では、縫製ラインS21と縫製ラインS22とが縫製され、縫製ラインS23と縫製ラインS24とが縫製され、縫製ラインS25と縫製ラインS26とが縫製され、縫製ラインS27と縫製ラインS28とが縫製される。なお、基布36、38、42は、例えばポリアミド系又はポリエステル系の布材によって構成されている。また、前後チャンバ34を構成する2枚の基布36、38のうちの一方又は両方は、エアバッグ本体40を構成する基布42よりも伸び難い基布とされている。
【0033】
図3に示されるように、前後チャンバ34の長手方向両端部(一対の前後延在部34Aの後端部)は、左右一対のインフレータ44を収容する一対のインフレータ収容部34Cとされている。つまり、前後チャンバ34の長手方向中央部(一対の前後延在部34Aの前端部を左右方向に繋ぐ部分)が連結部34Bとされており、連結部34Bと一対のインフレータ収容部34Cとの間が、それぞれ前後延在部34Aとされている。
【0034】
図示は省略するが、エアバッグ装置30は、一対のインフレータ44の作動を制御する制御装置(ECU)を備えている。制御装置は、一対のインフレータ44及び図示しない衝突センサ(カメラ等も含む)と電気的に接続されており、車両の前面衝突を検出又は前面衝突の不可避を予測(以下「予知」という)可能に構成されている。そして、制御装置は、衝突センサからの情報に基づいて、車両の前面衝突を検出又は予知すると、一対のインフレータ44を作動させるようになっている。
【0035】
一対のインフレータ44は、例えば燃焼式又はコールドガス式のシリンダ型インフレータであり、車両の前面衝突時に、制御装置によって作動されることで、ガスを発生させるようになっている。なお、制御装置がインフレータ44を作動させる車両の前面衝突の形態には、フルラップ前面衝突の他、斜め衝突や微小ラップ衝突等のオフセット前面衝突も含まれる。
【0036】
一対のインフレータ44を収容する一対のインフレータ収容部34Cは、モジュールケース46内において左右両側に分かれて配置されている。各インフレータ収容部34C内に収容されている各インフレータ44は、軸線方向がシートバック16の上下方向に沿う姿勢で配置されている。各インフレータ44には、例えば上下一対のスタッドボルト(図示省略)が設けられている。
【0037】
一対のスタッドボルトは、インフレータ収容部34C、モジュールケース46及びシートバック16の図示しないフレームを貫通しており、各スタッドボルトにナット(図示省略)が螺合されている。これにより、インフレータ収容部34C、インフレータ44及びモジュールケース46が、シートバック16のフレームに固定されている。
【0038】
一対の前後延在部34Aは、それぞれ長尺な管状に形成されている。そして、連結部34Bの左右方向中央部には、一対の前後延在部34Aが接続される連結部34Bの左右方向両端部よりも下方側へ突出する拡大部34B1が一体に形成されている。つまり、連結部34Bは、各前後延在部34Aに連通した略「T」字型の袋状に形成されている。そして、この拡大部34B1を含む連結部34Bの左右方向中央部の後方側に連通孔48が設けられるようになっている。
【0039】
すなわち、前後チャンバ34の基布36に形成された貫通孔50の周囲と、エアバッグ本体40の基布42に形成された貫通孔52(
図4参照)の周囲と、が縫製されて縫製部S3が形成されており、貫通孔50と貫通孔52とが連通されることで、連通孔48が形成されるようになっている。なお、貫通孔50及び貫通孔52は、一例として略逆台形状に形成されている。したがって、縫製部S3は、一例として略逆台形状に形成され、その縫製部S3の内側に、連結部34B内とエアバッグ本体40内とを連通させる連通孔48が位置するようになっている。
【0040】
また、一対の前後延在部34A、連結部34B及びエアバッグ本体40は、通常時にはロール折りや蛇腹折り等の所定の折り畳み方で折り畳まれてモジュールケース46内に収容されている。そして、モジュールケース46には、図示しないティアラインが形成されている。このティアラインは、エアバッグ32の膨張展開時に、エアバッグ32の膨張圧を受けて開裂するように構成されている。これにより、エアバッグ32がモジュールケース46の外側へ一対の前後延在部34A、連結部34B、エアバッグ本体40の順で膨張展開可能となっている。
【0041】
また、
図1、
図2に示されるように、膨張展開した一対の前後延在部34Aは、乗員Dの頭部Hの左右両側で前後方向に延在し、頭部Hに対して左右両側からそれぞれ隙間を空けて対向するようになっている。そして、膨張展開した一対の前後延在部34Aの前端部は、膨張展開した連結部34Bによって左右方向に繋がれた状態となる。これにより、一対の前後延在部34A及び連結部34Bを含む前後チャンバ34が、平面視で後向きに開口した略「U」字状となる構成になっている(
図13参照)。
【0042】
また、エアバッグ本体40は、連通孔48からガスが供給されて後方側(乗員D側)へ向けて膨張展開するようになっている。つまり、エアバッグ本体40は、連結部34Bの後方側で前後チャンバ34に対して遅れて乗員D側(後方側)へ膨張展開するようになっている。したがって、エアバッグ本体40は、前後チャンバ34の膨張展開時に、乗員Dの頭部Hと車室の天井28(
図5参照)との間の隙間を後方側から前方側へ通過可能になっている。
【0043】
そして、膨張展開したエアバッグ本体40は、乗員Dの頭部H、胸部C及び腹部Bに対して前後方向に隙間を空けて対向するようになっている(
図2参照)。なお、このエアバッグ本体40は、乗員拘束時の中期から後期に亘り、乗員Dの大腿部Fと胸部Cとの間に挟まれるように、その膨張展開時の形状が設定されている。
【0044】
また、
図1、
図2に示されるように、エアバッグ32には、左右一対の後方テザー54、左右一対の前上テザー56及び左右一対の前下テザー58が取り付けられている。後方テザー54、前上テザー56及び前下テザー58は、例えばポリアミド系又はポリエステル系の布材によって長尺帯状に構成されている。そして、後方テザー54、前上テザー56及び前下テザー58を構成する布材は、前後チャンバ34を構成する基布36、38及びエアバッグ本体40を構成する基布42よりも伸び難く構成されている。この伸び難さは、布の材質や厚み等で調整される。
【0045】
一対の前上テザー56は、エアバッグ本体40において前後チャンバ34より上方側に膨張展開する上部の前側における左右両側の壁面と、一対の前後延在部34Aの前部と、をそれぞれ連結する構成になっている。すなわち、一対の前上テザー56の各一端部は、エアバッグ本体40において前後チャンバ34より上方側に膨張展開する上部の前側における左右両側の壁面にそれぞれ縫製されている。そして、一対の前上テザー56の各他端部は、一対の前後延在部34Aの前部にそれぞれ縫製されている。
【0046】
一対の前下テザー58は、エアバッグ本体40において前後チャンバ34より下方側に膨張展開する下部の前側における左右両側の壁面と、一対の前後延在部34Aの前部と、をそれぞれ連結する構成になっている。すなわち、一対の前下テザー58の各一端部は、エアバッグ本体40において前後チャンバ34より下方側に膨張展開する下部における左右両側の壁面にそれぞれ縫製されている。そして、一対の前下テザー58の各他端部は、一対の前後延在部34Aの前部にそれぞれ縫製されている。
【0047】
一方、一対の後方テザー54の各一端部は、エアバッグ本体40において前後チャンバ34より下方側に膨張展開する下部の前側における左右両側の壁面にそれぞれ縫製されて取り付けられている。そして、一対の後方テザー54の各他端部は、シートバック16の側部(又は乗員Dより後方側の図示しない車体)にそれぞれ取り付けられている。したがって、エアバッグ32の膨張展開状態では、一対の後方テザー54が一対の前後延在部34Aの下方側で斜め後方下側へ延在する。
【0048】
すなわち、一対の後方テザー54は、側面視で斜め後方下側へ向かって傾斜した傾斜姿勢を採る。これにより、エアバッグ32による乗員Dの拘束時に、エアバッグ本体40が、一対の後方テザー54によって斜め後方下側へ相対的に引き込まれ(引っ張られ)、エアバッグ本体40及び一対の前後延在部34Aの前部が、モジュールケース46を回動中心として斜め後方下側へ相対的に引き込まれる構成になっている。
【0049】
また、一対の後方テザー54の各他端部のうち、少なくとも図示しないサイドドア側における後方テザー54は、車両の衝突後に解放可能に構成されている。すなわち、この後方テザー54は、シートバック16の側部(又は乗員Dより後方側の図示しない車体)に対して着脱可能に構成されている。
【0050】
具体的には、後方テザー54の他端部には、タング24(
図3参照)が取り付けられている。そして、そのタング24が着脱可能なバックル装置26が、シートバック16の側部(又は乗員Dより後方側の図示しない車体)に固定されている。このような構成によれば、バックル装置26の解除ボタン(図示省略)を押すことにより、後方テザー54の他端部が簡単に外れる(解放される)。
【0051】
以上のような構成とされた第1実施形態に係るエアバッグ装置30及び乗員保護装置10において、次にその作用について説明する。
【0052】
車両の前面衝突を衝突センサによって検出(又は予知)すると、制御装置の制御により一対のインフレータ44が作動する。つまり、一対のインフレータ収容部34C内で、それぞれインフレータ44からガスが噴出される。一対のインフレータ収容部34C内で発生したガスは、一対の前後延在部34Aを通って連結部34B側へ流れ、連通孔48を通ってエアバッグ本体40内に供給される。
【0053】
具体的には、まず
図5に示されるように、モジュールケース46のティアラインがエアバッグ32の膨張圧を受けて開裂し、そのエアバッグ32が車両用シート12の後方側から上方側を通って(矢印にて示す)前方側へ膨張展開する。すなわち、エアバッグ32がシートバック16の後方上部からヘッドレスト18の上方側及び乗員Dの頭部Hの上方側を通って前方側へ展開する。
【0054】
次に、
図6に示されるように、一対の前後チャンバ34の前後延在部34Aとエアバッグ本体40(
図7参照)とで囲まれた空隙部分に乗員Dの頭部Hが相対的に挿通される。つまり、一対の前後チャンバ34の前後延在部34Aが乗員Dの頭部Hの左右両側に配置されつつ(矢印にて示す)前方側へ展開される。
【0055】
そして次に、
図7に示されるように、一対の前後チャンバ34の前後延在部34Aにおける前端部を左右方向に繋ぐ連結部34Bからガスが供給されることによってエアバッグ本体40が乗員D側(矢印にて示す後方側)へ向けて膨張展開される。つまり、
図2に示されるように、一対の前後チャンバ34の間で、かつ乗員Dの前方側に、エアバッグ本体40が配置される。
【0056】
なお、エアバッグ本体40の膨張展開時に、一対の前上テザー56が、エアバッグ本体40の上部の前側における左右両側の部位と、一対の前後延在部34Aの前部と、をそれぞれ連結する。この一対の前上テザー56により、エアバッグ本体40(エアバッグ32)の膨張展開完了時に、エアバッグ本体40が前後チャンバ34に対して連結部34B回りに不用意に上方側へ変位(回転)するのを抑制することができる。
【0057】
また、エアバッグ本体40の膨張展開時に、一対の前下テザー58が、エアバッグ本体40の下部の前側における左右両側の部位と、一対の前後延在部34Aの前部と、をそれぞれ連結する。この一対の前下テザー58により、エアバッグ本体40(エアバッグ32)の膨張展開完了時に、エアバッグ本体40が前後チャンバ34に対して連結部34B回りに不用意に下方側へ変位(回転)するのを抑制することができる。
【0058】
また、エアバッグ32の膨張展開完了時に、一対の後方テザー54が、一対の前後延在部34Aの下方側で斜め後方下側へ延在する。すなわち、一対の後方テザー54が、エアバッグ本体40の斜め前方上側への移動を制限する。これにより、そのエアバッグ32の上下方向及び前後方向への揺動を抑制することができる(エアバッグ本体40の展開挙動の安定化に寄与することができる)。
【0059】
この状態で、
図8(A)に示されるように、車両の前面衝突の衝撃によって前方側へ慣性移動した乗員Dがエアバッグ本体40に拘束される。具体的には、
図8(B)に示されるように、乗員Dの拘束時には、前後チャンバ34(前後延在部34A)が乗員Dの前方側への移動によって、その前方側へ伸張される。そして、エアバッグ本体40が乗員Dによって前方へ向かって押圧されることにより、その前方側へ圧縮変形される。
【0060】
したがって、エアバッグ本体40のエネルギー吸収性能を向上させることができる。つまり、前後チャンバ34及びエアバッグ本体40の両方が引張荷重を受ける場合、エアバッグ本体40から乗員Dに加わる荷重が右肩上がりに増加してしまうが、エアバッグ本体40の圧縮変形により乗員Dに加わる荷重を減少させることができる。
【0061】
しかも、エアバッグ本体40は、エアバッグ32による乗員拘束時の中期から後期に亘って、乗員Dの大腿部Fと胸部Cとの間に挟まれるように形状が設定されているため、乗員Dの上半身に対して広い面積で接触することができる。これにより、エアバッグ本体40から乗員Dに加わる荷重を良好に低減させることができる。
【0062】
また、エアバッグ本体40は、前後チャンバ34の膨張展開後に、連結部34Bの後方側で乗員D側へ膨張展開するため、エアバッグ本体40と乗員Dとの間の隙間が小さくなる。これにより、乗員Dがエアバッグ本体40に早期に拘束されるので、エアバッグ本体40による乗員Dの初期拘束性能を向上させることができる。
【0063】
また、エアバッグ本体40には、前後チャンバ34の膨張展開状態において、連結部34Bの左右方向中央部の後方側に形成されている連通孔48を介してインフレータ44からのガスが供給される。つまり、インフレータ44から噴出され、前後チャンバ34の一対の前後延在部34A及び連結部34Bを流れてきたガスが連通孔48を通ってエアバッグ本体40内に供給される。
【0064】
したがって、エアバッグ本体40を前後チャンバ34に対して充分に遅らせて膨張展開させることができる。つまり、前後チャンバ34の膨張展開によって乗員Dの頭部Hと車室の天井28との間の狭い隙間を後方側から前方側へ通過した後に、エアバッグ本体40を後方側へ向けて膨張展開させることが容易にできる(
図5~
図7参照)。よって、エアバッグ本体40が、その狭い隙間に詰まるのを防止することができ、エアバッグ32における展開不良の発生を抑制又は防止することができる。
【0065】
また、乗員Dの拘束時には、エアバッグ本体40が、後方テザー54によって斜め後方下側へ相対的に引き込まれる。つまり、一対の後方テザー54は、エアバッグ本体40による乗員拘束時に前後チャンバ34と共に前後方向に伸張され、乗員Dからエアバッグ本体40に加わる荷重を前後チャンバ34と共に受け止めて支えることができる。
【0066】
また、少なくともサイドドア側における後方テザー54が、車両の衝突後に解放可能に構成されている。すなわち、バックル装置26の解除ボタンを押すことで、後方テザー54の他端部に設けられているタング24が簡単に外れる(後方テザー54が解放される)。したがって、
図8(C)に示されるように、車両の衝突後に、サイドドア側における後方テザー54を解放させることにより、乗員Dは、速やかに車外へ脱出することができる(降車性能を向上させることができる)。
【0067】
また、第1実施形態の場合、後方テザー54の他端部に設けられたタング24と、そのタング24が着脱可能なバックル装置26と、を含んで構成されているため、簡単な構成で、後方テザー54が確実に解放される。したがって、タング24及びバックル装置26を含んで構成されていない場合に比べて、車両の衝突後に、乗員Dが、より速やかに車外へ脱出することができる(降車性能を更に向上させることができる)。
【0068】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同等の部位には、同じ符号を付して詳細な説明(共通する作用も含む)は適宜省略する。
【0069】
図9に示されるように、この第2実施形態では、少なくともサイドドア側における後方テザー54が、乗員Dを拘束したことによる前方側への引張荷重が作用した後に、その前方側へ引っ張られることで、その他端部が車両用シート12のシートバック16の側部(又は乗員Dより後方側の図示しない車体)から外れるように構成されている。
【0070】
具体的には、
図10に示されるように、シートバック16の左右両側部には、それぞれガイド溝60Aが形成されたガイドプレート60が固定されている。左側のガイド溝60Aは、側面視で略「Z」字状に形成されており、右側のガイド溝(図示省略)は、側面視で略逆「Z」字状に形成されている(左側のガイド溝60と左右対称形状に形成されている)。
【0071】
そして、後方テザー54の他端部には、そのガイド溝60Aに係合して案内される略円柱状の突起部53が、後方テザー54の厚み方向を軸方向として取り付けられている。更に、後方テザー54の突起部53が取り付けられている部位には、付勢部材としての引張コイルスプリング62の一端部が取り付けられており、引張コイルスプリング62の他端部は、シートバック16(又は車体)に取り付けられている。
【0072】
このような構成によれば、
図10に示されるように、後方テザー54が、前方側への引張荷重が作用した後に、その前方側へ引っ張られることにより、その他端部がガイドプレート60から外れる。具体的に説明すると、
図10(A)に示されるように、車両の衝突前(通常時)には、突起部53が、ガイド溝60Aの下端部に位置するとともに、この状態で、引張コイルスプリング62によって斜め後方上側へ付勢されている(引っ張られている)。そのため、車両の衝突前(通常時)において、突起部53がガイドプレート60から外れることはない。
【0073】
車両が前面衝突すると、
図10(B)に示されるように、エアバッグ本体40による乗員拘束時に慣性力によって前方側へ移動する乗員Dにより、引張コイルスプリング62の付勢力に抗して、後方テザー54が前方側へ引っ張られる。すると、突起部53がガイド溝60Aに沿って前方側へ移動する。この状態では、後方テザー54は、ガイドプレート60から外れないため、エアバッグ本体40は、後方テザー54によって相対的に斜め後方下側へ引っ張られ、乗員Dは、そのエアバッグ本体40により効果的に拘束される。
【0074】
乗員拘束終了後は、後方テザー54に対する前方側への引張荷重がなくなるため、
図10(C)に示されるように、後方テザー54の他端部(突起部53)は、引張コイルスプリング62の付勢力により、ガイド溝60Aに沿って斜め後方上側へ移動する。その後、乗員Dが、車両から降車する際には、その乗員Dが手動で後方テザー54を斜め前方上側へ引っ張る。すると、
図10(D)に示されるように、突起部53がガイド溝60A内から外れる。
【0075】
したがって、この状態で後方テザー54を乗員Dが手動で持ち上げれば、引張コイルスプリング62も伸長するため、乗員Dは、後方テザー54及び引張コイルスプリング62を下方側からくぐり抜けることができ、車両から脱出することができる。このように、第2実施形態では、後方テザー54を前方側へ引っ張るという簡単な操作により、その後方テザー54を解放させることができる。よって、車両の衝突後に、乗員Dは速やかに車外へ脱出することができる。
【0076】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態及び第2実施形態と同等の部位には、同じ符号を付して詳細な説明(共通する作用も含む)は適宜省略する。
【0077】
この第3実施形態では、後方テザー54が、車両の衝突時から所定時間経過後に、その他端部がシートバック16の側部(又は車体)から外れるように構成されている。具体的には、後方テザー54の他端部が、
図11に示されるマイクロガスジェネレータ68又は
図12に示されるスクイブ66が作動することで、シートバック16の側部(又は車体)から外れるように構成されている。
【0078】
図11(A)に示されるように、後方テザー54の後端部には、側面視で延在方向と直交する方向を軸方向とする筒部55が一体に形成されている。また、シートバック16の側部には、離脱装置70が固定されている。離脱装置70は、マイクロガスジェネレータ68を上面側に内蔵した本体部72と、その本体部72の上面における後端部から上方側へ延在する側面視略逆「L」字状の支持部74と、円柱状のピン76と、を有している。
【0079】
ピン76は、支持部74の長さよりも少し長く形成され、その基部(上端部)76Aが、支持部74の上部前端に車幅方向を軸方向として回動可能に支持されている。そして、このピン76は、後方テザー54の筒部55内に挿通され、その先端部(下端部)76Bが、本体部72の上面に離脱可能に取り付けられている。
【0080】
すなわち、
図11(B)に示されるように、マイクロガスジェネレータ68が作動すると、本体部72の上面に対するピン76の先端部76Bの取り付け状態が解除され、そのピン76の先端部76Bがガスの圧力により前方側へ押し出されるように構成されている。この状態で後方テザー54を前方側へ引っ張ると、ピン76の先端部76Bが基部76Aを中心に前方側へ回動し、そのピン76が筒部55から外れるようになっている。つまり、後方テザー54の他端部がシートバック16の側部から外れるようになっている。
【0081】
また、
図12(A)に示されるように、シートバック16の側部にスクイブ66を備えた離脱装置64を固定するようにしてもよい。この離脱装置64は、その上面側にスクイブ66が内蔵されており、後方テザー54の他端部は、シートバック16の側部に固定されている。そして、そのスクイブ66と上下方向に近接して対向する後方テザー54の一部54Cは、他の部位よりも幅が狭くなるように形成されている。したがって、
図12(B)に示されるように、スクイブ66が作動すると、その後方テザー54の一部54Cが焼き切れるようになっている。つまり、後方テザー54の他端部がシートバック16の側部から外れるようになっている。
【0082】
このように、第3実施形態によれば、乗員Dが特別な操作を必要とすることなく、車両の衝突時から所定時間経過後に、自動的に後方テザー54の他端部がシートバック16の側部から外れる(後方テザー54が解放される)。したがって、車両の衝突後に、乗員Dが速やかに車外へ脱出することができる。なお、ここで言う「所定時間経過後」とは、乗員Dの前方側への移動量が最大となった時間以降である。
【0083】
また、この第3実施形態によれば、マイクロガスジェネレータ68又はスクイブ66が作動することで、後方テザー54の他端部が外れる。つまり、簡易な機構で、後方テザー54の他端部がシートバック16の側部から迅速に外れる(後方テザー54が迅速に解放される)。したがって、車両の衝突後に、乗員Dがより速やかに車外へ脱出することができる。
【0084】
<第4実施形態>
最後に、第4実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態~第3実施形態と同等の部位には、同じ符号を付して詳細な説明(共通する作用も含む)は適宜省略する。
【0085】
図13に示されるように、この第4実施形態では、後方テザー54が、シートベルト装置20の非ショルダベルト側(肩部Kにシートベルト22が掛かっていない側)にのみ設けられている。すなわち、この後方テザー54は、シートベルト装置20のショルダベルト側(肩部Kにシートベルト22が掛かっている側)には設けられていない。通常、シートベルト装置20のショルダベルト側がサイドドア側である。したがって、車両の衝突後に、脱出側であるサイドドア側には後方テザー54が無いため、後方テザー54が邪魔になるような不具合がなく、乗員Dは速やかに車外へ脱出することができる。
【0086】
また、後方テザー54が、シートベルト装置20のショルダベルト側に設けられていないため、ショルダベルト(シートベルト22)と後方テザー54とが互いに引っ掛かる(絡まる)こともない。なお、車両用シート12に着座している乗員Dは、ショルダベルトによって車幅方向外側の肩部K及び胸部Cが拘束されており、車幅方向外側の肩部Kには既に拘束力が作用している。そのため、車幅方向外側(サイドドア側)の後方テザー54を廃止しても、車両の前面衝突時における乗員拘束性能を確保することができる。
【0087】
以上、本実施形態に係るエアバッグ装置30及び乗員保護装置10について、図面を基に説明したが、本実施形態に係るエアバッグ装置30及び乗員保護装置10は、図示のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能なものである。
【0088】
例えば、一対の後方テザー54の各一端部は、エアバッグ本体40において前後チャンバ34より下方側に膨張展開する下部の前側における左右両側の壁面ではなく、一対の前後延在部34Aの長手方向中間部、詳細には膨張展開した各前後延在部34Aの前部(前方側部分)に縫製されて取り付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0089】
10 乗員保護装置
12 車両用シート
16 シートバック
20 シートベルト装置
24 タング
26 バックル装置
30 エアバッグ装置
32 エアバッグ
34 前後チャンバ
40 エアバッグ本体
44 インフレータ
54 後方テザー
66 スクイブ
68 マイクロガスジェネレータ