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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/16 20200101AFI20250708BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20250708BHJP
   B60W 40/09 20120101ALI20250708BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20250708BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
B60W30/16
B60W60/00
B60W40/09
G08G1/16 E
G08G1/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022204745
(22)【出願日】2022-12-21
(65)【公開番号】P2024089401
(43)【公開日】2024-07-03
【審査請求日】2024-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 優和
(72)【発明者】
【氏名】高本 聡
(72)【発明者】
【氏名】橋本 洋介
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-133250(JP,A)
【文献】特開平06-179336(JP,A)
【文献】特開2017-001671(JP,A)
【文献】特開2017-138959(JP,A)
【文献】特開2003-291685(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0365089(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 60/00
B60T 7/12 - 8/1769
8/32 - 8/96
B62D 6/00 - 6/10
F02D 29/00 - 29/06
G08G 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動運転と自動運転とを切り替え可能な自車両を制御する制御装置であって、
複数ドライバの運転データに基づいて予め特定され、車間情報及び自車両速度に対する車間嗜好値の関係を示す第1の関数を記憶する記憶装置と、
プロセッサと、
を備え、
前記車間情報は、先行車に対する前記自車両の車間時間又は車間距離であり、
前記車間嗜好値は、前記車間情報についてのドライバの嗜好を示し、
前記プロセッサは、
前記ドライバによる前記手動運転での追従走行中に取得される前記車間情報及び前記自車両速度に応じた前記ドライバの前記車間嗜好値を、前記第1の関数に従って算出し、
算出された前記車間嗜好値に基づいて、前記追従走行中の前記自車両の加速度、減速度、減速タイミング、及び加速タイミングのうちの少なくとも1つについての前記ドライバの嗜好を示す残りの運転嗜好値を算出し、
算出された前記残りの運転嗜好値に基づいて、前記ドライバの乗車中の前記自動運転における前記加速度、前記減速度、前記減速タイミング、及び前記加速タイミングのうちの前記少なくとも1つの制御目標値を算出する目標値算出処理を実行する
車両の制御装置。
【請求項2】
前記記憶装置は、
前記複数ドライバの運転データに基づいて予め特定され、先行車速度と前記自車両速度との相対速度、前記加速度、及び前記車間情報に対する加速度嗜好値の関係を示す第2の関数と、
前記複数ドライバの運転データ、前記第1の関数、及び前記第2の関数に基づいて予め特定され、前記車間嗜好値に対する前記加速度嗜好値の関係を示す第3の関数と、
を記憶し、
前記加速度嗜好値は、前記残りの運転嗜好値の1つであり、
前記プロセッサは、
前記車間嗜好値に応じた前記加速度嗜好値を前記第3の関数に従って算出し、
前記目標値算出処理において、前記第3の関数に従って算出された前記加速度嗜好値と前記相対速度と前記車間情報とに応じた前記加速度の目標値を、前記第2の関数に従って前記制御目標値として算出する
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記記憶装置は、
前記複数ドライバの運転データに基づいて予め特定され、先行車速度と前記自車両速度との相対速度、前記減速度、及び前記車間情報に対する減速度嗜好値の関係を示す第4の関数と、
前記複数ドライバの運転データ、前記第1の関数、及び前記第4の関数に基づいて予め特定され、前記車間嗜好値に対する前記減速度嗜好値の関係を示す第5の関数と、
を記憶し、
前記減速度嗜好値は、前記残りの運転嗜好値の1つであり、
前記プロセッサは、
前記車間嗜好値に応じた前記減速度嗜好値を前記第5の関数に従って算出し、
前記目標値算出処理において、前記第5の関数に従って算出された前記減速度嗜好値と前記相対速度と前記車間情報とに応じた前記減速度の目標値を、前記第4の関数に従って前記制御目標値として算出する
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記記憶装置は、
前記複数ドライバの運転データに基づいて予め特定され、先行車速度と前記自車両速度との相対速度、前記減速タイミング、及び前記車間情報に対する減速タイミング嗜好値の関係を示す第6の関数と、
前記複数ドライバの運転データ、前記第1の関数、及び前記第6の関数に基づいて予め特定され、前記車間嗜好値に対する前記減速タイミング嗜好値の関係を示す第7の関数と、
を記憶し、
前記減速タイミング嗜好値は、前記残りの運転嗜好値の1つであり、
前記プロセッサは、
前記車間嗜好値に応じた前記減速タイミング嗜好値を前記第7の関数に従って算出し、
前記目標値算出処理において、前記第7の関数に従って算出された前記減速タイミング嗜好値と前記相対速度と前記車間情報とに応じた前記減速タイミングの目標値を、前記第6の関数に従って前記制御目標値として算出する
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記記憶装置は、
前記複数ドライバの運転データに基づいて予め特定され、先行車速度と前記自車両速度との相対速度、前記加速タイミング、及び前記車間情報に対する加速タイミング嗜好値の関係を示す第8の関数と、
前記複数ドライバの運転データ、前記第1の関数、及び前記第8の関数に基づいて予め特定され、前記車間嗜好値に対する前記加速タイミング嗜好値の関係を示す第9の関数と、
を記憶し、
前記加速タイミング嗜好値は、前記残りの運転嗜好値の1つであり、
前記プロセッサは、
前記車間嗜好値に応じた前記加速タイミング嗜好値を前記第9の関数に従って算出し、
前記目標値算出処理において、前記第9の関数に従って算出された前記加速タイミング嗜好値と前記相対速度と前記車間情報とに応じた前記加速タイミングの目標値を、前記第8の関数に従って前記制御目標値として算出する
請求項1に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、手動運転と自動運転とを切り替え可能な車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両の自動走行制御装置を開示している。自動走行制御装置は、ドライバによる手動運転中に、車両の運転方法に関するドライバの嗜好をドライバ毎に学習する。そして、自動走行制御装置は、当該学習の結果に基づいて車両走行を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平07-108849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動運転での追従走行に対してドライバの運転嗜好をより適切に反映させるためには、より多くの自動運転パラメータ(車間時間、及び加速度など)を対象として複数の運転嗜好値を取得することが望ましい。そして、運転嗜好の取得対象のドライバの手動運転中に、そのような複数の運転嗜好値を簡便に学習して取得できることが求められる。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、先行車に対する自車両の追従走行に関するドライバの運転嗜好値を簡便かつ適切に取得できるようにした車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る車両の制御装置は、手動運転と自動運転とを切り替え可能な自車両を制御する制御装置であって、第1の関数を記憶する記憶装置と、プロセッサと、を備える。第1の関数は、複数ドライバの運転データに基づいて予め特定され、車間情報及び自車両速度に対する車間嗜好値の関係を示す。車間情報は、先行車に対する自車両の車間時間又は車間距離である。車間嗜好値は、車間情報についてのドライバの嗜好を示す。プロセッサは、ドライバによる手動運転での追従走行中に取得される車間情報及び自車両速度に応じたドライバの車間嗜好値を、第1の関数に従って算出する。プロセッサは、算出された車間嗜好値に基づいて、追従走行中の自車両の加速度、減速度、減速タイミング、及び加速タイミングのうちの少なくとも1つについてのドライバの嗜好を示す残りの運転嗜好値を算出する。そして、プロセッサは、算出された残りの運転嗜好値に基づいて、ドライバの乗車中の自動運転における加速度、減速度、減速タイミング、及び加速タイミングのうちの少なくとも1つの制御目標値を算出する目標値算出処理を実行する。付け加えると、第1の関数は、機械学習を用いて特定されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、先行車に対する自車両の追従走行に関するドライバの運転嗜好値を簡便かつ適切に取得できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る車両の構成の一例を概略的に示す図である。
図2】実施の形態で用いられる車間情報を説明するための図である。
図3】各運転嗜好値PVの関係をドライバ毎に表したグラフである。
図4】実施の形態に係る車両走行制御に関連する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面とともに、本開示の実施の形態について説明する。
【0010】
1.車両の構成
図1は、実施の形態に係る車両1の構成の一例を概略的に示す図である。車両1は、車両制御システム10を備えている。車両制御システム10は、車両1に搭載され、車両1の走行を制御する。車両制御システム10は、車両状態センサ12、認識センサ14、位置センサ16、通信装置18、走行装置20、電子制御ユニット(ECU)22、運転切替スイッチ24、及びドライバモニタ26を含む。
【0011】
車両状態センサ12は、車両1の状態を検出する。車両状態センサ12は、例えば、車速センサ、前後加速度センサ、アクセルペダルセンサ、ブレーキペダルセンサ、及び操舵角センサを含む。認識センサ14は、車両1の周囲の状況を認識(検出)する。認識センサ14は、例えば、カメラを含む。位置センサ16は、車両1の位置及び方位を検出する。位置センサ16は、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機を含む。
【0012】
通信装置18は、車両1の外部と通信を行う。通信装置18は、例えば、外部システムと通信を行い、様々な情報を取得する。当該情報は、例えば、地図情報及び交通情報を含む。地図情報は、道路勾配等の道路情報を含む。交通情報は、例えば、渋滞に関する情報を含む。
【0013】
走行装置20は、車両1を動作させる装置である。例えば、走行装置20は、駆動装置、制動装置、及び操舵装置を含む。駆動装置は、例えば、車両1の駆動(加速)のための電動機及び内燃機関の少なくとも一方を含む。制動装置は、車両1の制動(減速)のためのブレーキアクチュエータを含む。操舵装置は、例えば、車両1の操舵のためのステアリングモータを含む。
【0014】
ECU22は、車両1を制御するコンピュータであり、本開示に係る「車両の制御装置」の一例に相当する。ECU22は、プロセッサ28と記憶装置30とを含んでいる。プロセッサ28は、各種処理を実行する。各種処理は、後述の車両走行制御に関する処理を含む。記憶装置30は、プロセッサ28による処理に必要な各種情報を格納する。プロセッサ28がコンピュータプログラムを実行することにより、ECU22による各種処理が実現される。コンピュータプログラムは、記憶装置30に格納されている。あるいは、コンピュータプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。なお、ECU22は、複数のECUを組み合わせて構成されていてもよい。
【0015】
車両制御システム10は、車両1の自動運転を制御する自動運転制御を実行可能に構成されている。この自動運転制御は、先行車に対する車両(自車両)1の車間時間T又は車間距離Dを制御しつつ当該先行車に追従するように車両1を走行させる追従走行機能を有する。より詳細には、ここでいう自動運転は、例えば、米国の自動車技術会(SAE)の定義におけるレベル3以上の自動運転に相当するが、必ずしもレベル3以上の自動運転に限られない。すなわち、当該自動運転制御は、上記の追従走行機能を有するものであればよく、例えば、アダプティブクルーズコントロール(ACC)であってもよい。このような自動運転制御には、公知の技術が適用される。このため、自動運転制御の詳細に関する説明は省略される。
【0016】
運転切替スイッチ24は、ドライバ2によって操作され、ドライバ2による手動運転と自動運転との間で車両1の運転を切り替えるために用いられる。すなわち、車両1は、手動運転と自動運転とを切り替え可能に構成されている。手動運転は、ドライバ2が自らの意思でアクセルペダル、ブレーキペダル、及びステアリングホイールを操作することによって行われる。
【0017】
ドライバモニタ26は、例えば、ドライバ2を撮像するように車両1の室内に設置されたカメラを含む。このカメラによって得られる画像を解析することによって、ドライバ2(個人)を特定したり、ドライバ2の状態及び動作を検出したりすることができる。
【0018】
2.車両走行制御
本実施形態では、自動運転での追従走行に対してドライバ2の運転嗜好をより適切に反映させるために、ECU22は、後述の「第1の嗜好値算出処理PR1」、「第2の嗜好値算出処理PR2」、及び「目標値算出処理PR3」を実行する。
【0019】
より具体的には、ドライバ2の運転嗜好を評価するために、ドライバ2の運転嗜好を示す運転嗜好値PVが用いられる。運転嗜好値PVは、例えば、追従走行中のドライバ2の運転の特性を示す。より詳細には、一例として、運転嗜好値PVは、追従走行中の運転の特性に応じた数値(例えば、パーセンタイル値)によって特定される(例えば、後述の図3参照)。
【0020】
本実施形態では、運転嗜好値PVとして、車間嗜好値PV1、加速度嗜好値PV2、減速度嗜好値PV3、減速タイミング嗜好値PV4、及び加速タイミング嗜好値PV5が用いられる。各運転嗜好値PV1~PV5は、ドライバ2による手動運転中に、後述の各関数f1~f9を利用して算出される。関数f1~f9のそれぞれは、複数ドライバによる手動運転での追従走行中に収集された運転データDD(いわゆる、ビッグデータ)に基づいて予め特定されている。算出された各運転嗜好値PV1~PV5は、当該ドライバ2の乗車中に行われる自動運転での追従走行中の自動運転制御に反映される。
【0021】
2-1.第1の嗜好値算出処理PR1
第1の嗜好値算出処理(又は、単に算出処理)PR1では、ECU22は、関数f1(第1の関数)を利用して車間嗜好値PV1を算出する。車間嗜好値PV1は、「車間情報」についてのドライバ2の嗜好を示す値である。図2は、実施の形態で用いられる車間情報を説明するための図である。ここでいう車間情報とは、図2に示されるように、追従走行中における先行車に対する自車両1の車間時間T又は車間距離Dである。以下の説明は、車間時間Tを例に挙げて行われるが、車間距離Dについても同様に当てはまる。
【0022】
関数f1は、下記の式(1)に示すように、車間時間T及び自車両速度(車速V)に対する車間嗜好値PV1の関係を示している。関数f1は、複数ドライバの運転データDDに含まれる車間時間T及び車速Vのデータに基づいて予め特定されている。関数f1は、例えば、式(1)のように関係式として記憶装置30に記憶されている。あるいは、関数f1は、マップ(表)として記憶されていてもよい。
PV1=f1(T,V) ・・・(1)
【0023】
車間嗜好値PV1は、追従走行中の車間時間Tについてのドライバ2の運転の特性を示す。より具体的には、例えば、車間嗜好値PV1は、複数ドライバを対象として収集された車間時間T及び車速Vのデータ(ビッグデータ)に基づく各車速Vでの車間時間Tのパーセンタイル値である。すなわち、車間嗜好値PV1は、0~100の値をとる。ここでは、一例として、車間嗜好値PV1は、各車速Vでの車間時間Tのデータを数値の大きい順に並べたときのパーセンタイル値であるものとする。このため、車間時間Tが短いほど、パーセンタイル値(すなわち、車間嗜好値PV1)が大きくなる。したがって、車間嗜好値PV1は、その値が大きいほど、車間時間Tの設定(選択)に関してドライバがよりアグレッシブであることを示す。関数f1によれば、このように特定される車間嗜好値PV1を、車間時間Tと車速Vから算出できる。
【0024】
算出処理PR1は、ドライバ2による手動運転での追従走行中に実行される。算出処理PR1では、ECU22は、当該追従走行中に取得される車間時間T及び車速Vに応じた当該ドライバ2の車間嗜好値PV1を関数f1に従って算出する。算出処理PR1によれば、車間時間Tについてのドライバ2の運転嗜好の学習値として、車間嗜好値PV1が算出される。
【0025】
2-2.第2の嗜好値算出処理PR2
第2の嗜好値算出処理(又は、単に算出処理)PR2は、残りの運転嗜好値PV2~PV5を算出する処理に相当する。
【0026】
(加速度嗜好値PV2)
まず、加速度嗜好値PV2は、追従走行中の自車両1の加速度Gxaについてのドライバ2の嗜好を示す。より詳細には、加速度Gxaは、追従走行中に先行車の加速に応じて自車両1を加速させる際の加速度に相当する。算出処理PR2では、ECU22は、算出処理PR1によって算出された車間嗜好値PV1に基づいて加速度嗜好値PV2を算出する。記憶装置30は、加速度嗜好値PV2に関連する関数f2及びf3のそれぞれを、関係式又はマップとして記憶している。
【0027】
関数f2は、下記の式(2)に示すように、相対速度ΔV、加速度Gxa、及び車間時間Tに対する加速度嗜好値PV2の関係を示す。相対速度ΔVは、先行車の速度に対する自車両速度(車速V)の差に相当する。関数f2は、複数ドライバの運転データDDに含まれる相対速度ΔV、加速度Gxa、及び車間時間Tのデータに基づいて予め特定されている。
PV2=f2(ΔV,Gxa,T) ・・・(2)
【0028】
加速度嗜好値PV2は、追従走行中の加速度Gxaについてのドライバ2の運転の特性を示している。より具体的には、例えば、加速度嗜好値PV2は、複数ドライバを対象として収集された相対速度ΔV、加速度Gxa、及び車間時間Tのデータ(ビッグデータ)に基づく各相対速度ΔV及び各車間時間Tでの加速度Gxaのパーセンタイル値である。すなわち、加速度嗜好値PV2は、0~100の値をとる。ここでは、一例として、加速度嗜好値PV2は、各相対速度ΔV及び各車間時間Tでの加速度Gxaのデータを数値の小さい順に並べたときのパーセンタイル値であるものとする。このため、加速度Gxaが高いほど、パーセンタイル値(すなわち、加速度嗜好値PV2)が大きくなる。したがって、加速度嗜好値PV2は、その値が大きいほど、加速度Gxaの要求(選択)に関してドライバがよりアグレッシブであることを示す。関数f2によれば、このように特定される加速度嗜好値PV2を、相対速度ΔV、加速度Gxa、及び車間時間Tから算出できる。
【0029】
関数f3は、下記の式(3)に示すように、車間嗜好値PV1に対する加速度嗜好値PV2の関係を示す。
PV2=f3(PV1) ・・・(3)
【0030】
関数f3は、複数ドライバの運転データDDと関数f1及びf2とに基づいて予め特定されている。図3は、各運転嗜好値PVの関係をドライバ毎に表したグラフである。図3では、車間嗜好値PV1に対する加速度嗜好値PV2及び減速度嗜好値PV3の関係が、一例として9人のドライバ毎に表されている。図3中の各運転嗜好値PV1~PV3は、当該9人のドライバの運転データDDに基づいて、上述の関数f1及びf2と後述の関数f4に従ってドライバ毎に算出されたものである。なお、以下のことは、他の減速タイミング嗜好値PV4及び加速タイミング嗜好値PV5についても同様にいえる。
【0031】
図3より、ドライバ毎に各運転嗜好値PVを見た場合、運転嗜好値PV2及びPV3は、同じドライバの車間嗜好値PV1に近い値をとっていることが分かる。すなわち、運転データDDの解析結果より、車間嗜好値PV1と他の運転嗜好値PV2及びPV3との間に高い相関性が認められることが分かる。本実施形態では、この知見に基づき、複数ドライバの運転データDDを利用して関数f1及びf2からそれぞれ得られる車間嗜好値PV1と加速度嗜好値PV2との関係から、近似関数が関数f3として予め特定されている。
【0032】
上述した関数f3の利用により、追従走行中にある車間時間Tとある車速Vの下でドライバ2の車間嗜好値PV1を一度算出(取得)してさえおけば、車間嗜好値PV1及び関数f3から加速度嗜好値PV2を算出できるようになる。すなわち、ドライバ2による追従走行中に、関数f2の引数に相当する相対速度ΔV及び加速度Gxa(関数f1の引数として取得される車間時間Tを除く)を取得する必要なしに、車間嗜好値PV1から加速度嗜好値PV2を算出できる。このように、関数f3によれば、あるドライバの車間嗜好値PV1の値が分かれば、当該ドライバの加速度Gxaの嗜好を車間嗜好値PV1から把握できるようになる。このことは、後述される他の運転嗜好値PV3~PV5についても同様である。このように、本実施形態によれば、手動運転での追従走行中の運転嗜好の学習のための処理を簡便化しつつ、各運転嗜好値PVを取得できるようになる。
【0033】
(減速度嗜好値PV3)
次に、減速度嗜好値PV3は、追従走行中の自車両1の減速度Gxbについてのドライバ2の嗜好を示す。より詳細には、減速度Gxbは、追従走行中に先行車の減速に応じて自車両1を減速させる際の減速度に相当する。算出処理PR2では、ECU22は、算出処理PR1によって算出された車間嗜好値PV1に基づいて減速度嗜好値PV3を算出する。記憶装置30は、減速度嗜好値PV3に関連する関数f4及びf5のそれぞれを、関係式又はマップとして記憶している。
【0034】
関数f4は、下記の式(4)に示すように、相対速度ΔV、減速度Gxb、及び車間時間Tに対する減速度嗜好値PV3の関係を示す。関数f4は、複数ドライバの運転データDDに含まれる相対速度ΔV、減速度Gxb、及び車間時間Tのデータに基づいて予め特定されている。
PV3=f4(ΔV,Gxb,T) ・・・(4)
【0035】
減速度嗜好値PV3は、追従走行中の減速度Gxbについてのドライバ2の運転の特性を示している。減速度嗜好値PV3の詳細は、加速度Gxaに代えて減速度Gxbを対象としている点を除き、加速度嗜好値PV2の詳細と同様である。このため、その詳細な説明は省略されるが、例えば、減速度嗜好値PV3は、その値が大きいほど、減速度Gxbの要求(選択)に関してドライバがよりアグレッシブであることを示す。
【0036】
関数f5は、下記の式(5)に示すように、車間嗜好値PV1に対する減速度嗜好値PV3の関係を示している。車間嗜好値PV1と減速度嗜好値PV3との間の相関性については、図3とともに説明した通りである。本実施形態では、この知見に基づき、複数ドライバの運転データDDを利用して関数f1及びf4からそれぞれ得られる車間嗜好値PV1と減速度嗜好値PV3との関係から、近似関数が関数f5として予め特定されている。
PV3=f5(PV1) ・・・(5)
【0037】
(減速タイミング嗜好値PV4)
次に、減速タイミング嗜好値PV4は、追従走行中の自車両1の減速タイミングTMbについてのドライバ2の嗜好を示す値である。より詳細には、減速タイミングTMbは、例えば、追従走行中に先行車の減速に応じて自車両1を減速させる際の当該先行車の減速開始時点から自車両1の減速開始時点までの時間(応答時間)に相当する。算出処理PR2では、ECU22は、算出処理PR1によって算出された車間嗜好値PV1に基づいて減速タイミング嗜好値PV4を算出する。記憶装置30は、減速タイミング嗜好値PV4に関連する関数f6及びf7のそれぞれを、関係式又はマップとして記憶している。
【0038】
関数f6は、下記の式(6)に示すように、相対速度ΔV、減速タイミングTMb、及び車間時間Tに対する減速タイミング嗜好値PV4の関係を示す。関数f6は、複数ドライバの運転データDDに含まれる相対速度ΔV、減速タイミングTMb、及び車間時間Tのデータに基づいて予め特定されている。
PV4=f6(ΔV,TMb,T) ・・・(6)
【0039】
減速タイミング嗜好値PV4は、追従走行中の減速タイミングTMbについてのドライバ2の運転の特性を示している。減速タイミング嗜好値PV4の詳細は、加速度Gxaに代えて減速タイミングTMbを対象としている点を除き、加速度嗜好値PV2の詳細と同様である。このため、その詳細な説明は省略されるが、例えば、減速タイミングTMbが早いほど、すなわち、上記応答時間が短いほど、減速タイミングTMbの設定(選択)に関してドライバがよりアグレッシブであることを示す。
【0040】
関数f7は、下記の式(7)に示すように、車間嗜好値PV1に対する減速タイミング嗜好値PV4の関係を示している。図3に示す関係と同様に、車間嗜好値PV1と減速タイミング嗜好値PV4との間にも高い相関性が認められる。本実施形態では、この知見に基づき、複数ドライバの運転データDDを利用して関数f1及びf6からそれぞれ得られる車間嗜好値PV1と減速タイミング嗜好値PV4との関係から、近似関数が関数f7として予め特定されている。
PV4=f7(PV1) ・・・(7)
【0041】
(加速タイミング嗜好値PV5)
次に、加速タイミング嗜好値PV5は、追従走行中の自車両1の加速タイミングTMaについてのドライバ2の嗜好を示す値である。より詳細には、加速タイミングTMaは、例えば、追従走行中に先行車の加速に応じて自車両1を加速させる際の当該先行車の加速開始時点から自車両1の加速開始時点までの時間(応答時間)に相当する。算出処理PR2では、ECU22は、算出処理PR1によって算出された車間嗜好値PV1に基づいて加速タイミング嗜好値PV5を算出する。記憶装置30は、加速タイミング嗜好値PV5に関連する関数f8及びf9のそれぞれを、関係式又はマップとして記憶している。
【0042】
関数f8は、下記の式(8)に示すように、相対速度ΔV、加速タイミングTMa、及び車間時間Tに対する加速タイミング嗜好値PV5の関係を示す。関数f9は、複数ドライバの運転データDDに含まれる相対速度ΔV、加速タイミングTMa、及び車間時間Tのデータに基づいて予め特定されている。
PV5=f8(ΔV,TMa,T) ・・・(8)
【0043】
加速タイミング嗜好値PV5は、追従走行中の加速タイミングTMaについてのドライバ2の運転の特性を示している。加速タイミング嗜好値PV5の詳細は、加速度Gxaに代えて加速タイミングTMaを対象としている点を除き、加速度嗜好値PV2の詳細と同様である。このため、その詳細な説明は省略されるが、例えば、加速タイミングTMaが早いほど、すなわち、上記応答時間が短いほど、加速タイミングTMaの設定(選択)に関してドライバがよりアグレッシブであることを示す。
【0044】
関数f9は、下記の式(9)に示すように、車間嗜好値PV1に対する加速タイミング嗜好値PV5の関係を示している。図3に示す関係と同様に、車間嗜好値PV1と加速タイミング嗜好値PV5との間にも高い相関性が認められる。本実施形態では、この知見に基づき、複数ドライバの運転データDDを利用して関数f1及びf8からそれぞれ得られる車間嗜好値PV1と加速タイミング嗜好値PV5との関係から、近似関数が関数f9として予め特定されている。
PV5=f9(PV1) ・・・(9)
【0045】
2-3.目標値算出処理PR3
目標値算出処理(又は、単に算出処理)PR3では、ECU22は、ドライバ2の乗車中の自動運転での追従走行中に用いられる加速度Gxa、減速度Gxb、減速タイミングTMb、及び加速タイミングTMaのそれぞれの制御目標値を算出する。
【0046】
具体的には、ECU22は、算出処理PR2によって算出された加速度嗜好値PV2に基づいて、加速度Gxaの目標値Gxatを制御目標値として算出する。より詳細には、目標値Gxatの算出のために、上述の関数f3に従って算出された加速度嗜好値PV2と、現在の相対速度ΔV及び車間時間Tとが用いられる。そして、当該加速度嗜好値PV2と現在の相対速度ΔV及び車間時間Tとに応じた目標値Gxatが、関数f2に従って算出される。
【0047】
また、算出処理PR3では、減速度Gxb、減速タイミングTMb、及び加速タイミングTMaのそれぞれの目標値Gxbt、TMbt、及びTMatについても、目標値Gxatと同様に算出される。すなわち、減速度嗜好値PV3に応じた目標値Gxbtの算出のために関数f4及びf5が用いられる。減速タイミング嗜好値PV4に応じた目標値TMbtの算出のために関数f6及びf7が用いられる。そして、加速タイミング嗜好値PV5に応じた目標値TMatの算出のために関数f8及びf9が用いられる。
【0048】
2-4.処理の流れ
図4は、実施の形態に係る車両走行制御に関連する処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、車両制御システム10の起動中に繰り返し実行される。付け加えると、車両制御システム10が起動する時に、ECU22は、ドライバモニタ26を用いて、車両1に現在搭乗しているドライバ2を特定する処理を実行する。あるいは、ドライバ2の特定は、例えば、車両制御システム10の起動中に手動運転と自動運転との間で運転が切り替わる度に実行されてもよい。
【0049】
ステップS100において、ECU22(プロセッサ28)は、車両1が手動運転中か自動運転中かを判定する。この判定は、例えば、運転切替スイッチ24の操作状態に基づいて行うことができる。
【0050】
車両1が手動運転中である場合(ステップS100;Yes)、処理はステップS102に進む。ステップS102では、ECU22は、車間嗜好学習条件が成立するか否かを判定する。車間嗜好学習条件は、現在特定されているドライバ2の車間嗜好値PV1の算出(学習)を実行する条件である。当該学習条件は、例えば、先行車が存在すること、所定期間(例えば、5秒)の相対速度ΔVの移動平均値の絶対値が所定の閾値(例えば、2km/h)以内であること、自車両1の車速Vが所定の閾値(例えば、1km/h)より高いこと、自車両1の前後加速度Gxの絶対値が所定の閾値(例えば、0.2m/s)未満であること、及び、これら4つの条件が所定時間(例えば、4秒)以上成立することを含む。
【0051】
車間嗜好学習条件が成立しない場合(ステップS102;No)、処理はリターンに進む。一方、車間嗜好学習条件が成立する場合(ステップS102;Yes)、処理はステップS104に進む。
【0052】
ステップS104において、ECU22は、現在の車間時間T、及び現在の車速Vを取得する。車速Vは、車両状態センサ12を用いて検出される。車間時間Tは、検出された車速Vと、例えば認識センサ14を用いて取得される車間距離Dとに基づいて算出される。その後、処理はステップS106に進む。
【0053】
ステップS106において、ECU22は、現在追従走行を行っているドライバ2の車間嗜好値PV1を学習値として算出する。車間嗜好値PV1は、ステップS104にて取得された車間時間T及び車速Vと関数f1から算出される。算出された車間嗜好値PV1は、記憶装置30に記憶される。なお、関数f1を用いて車間嗜好値PV1を算出するために用いられる車間時間T及び車速Vのそれぞれは、例えば、車間嗜好学習条件が成立する度にステップS104において複数回取得された値の平均値又は中央値であってもよい。図4では、ステップS104及びS106の処理が「第1の嗜好値算出処理PR1」に相当する。
【0054】
ステップS106に続くステップS108において、ECU22は、関数f3、f5、f7、及びf9を用いて、算出された車間嗜好値PV1から残りの運転嗜好値PV2~PV5をそれぞれ算出する。すなわち、ECU22は、第2の嗜好値算出処理PR2を実行する。算出された運転嗜好値PV2~PV5は、記憶装置30に記憶される。
【0055】
一方、車両1が自動運転中である場合(ステップS100;No)、ECU22は、上述の自動運転制御を実行するとともに、処理はステップS110に進む。ステップS110では、ECU22は、嗜好学習が完了したか否かを判定する。具体的には、ステップS110では、ECU22は、手動運転中に処理がステップS108にまで進み、現在のドライバ2の各運転嗜好値PV2~PV5が車間嗜好値PV1とともに取得及び記憶されているか否かを判定する。
【0056】
ステップS110の判定結果がNoの場合には、処理はリターンに進む。一方、当該判定結果がYesの場合には、処理はステップS112に進む。ステップS112では、ECU22は、追従走行の各制御目標値に各運転嗜好値PV1~PV5を反映させる。具体的には、ECU22は、ステップS106にて算出された車間嗜好値PV1と現在の車速Vと関数f1から、車間時間Tの目標値Ttを算出する。また、ECU22は、上述の目標値算出処理PR3を実行し、残りの運転嗜好値PV2~PV5のそれぞれの目標値Gxat、Gxbt、TMbt、及びTMatを算出する。
【0057】
3.効果
以上説明したように、本実施形態によれば、ドライバ2による手動運転での追従走行中に、車間時間T(車間情報)と車速Vから当該ドライバ2の車間嗜好値PV1が算出される。そして、車間嗜好値PV1から残りの運転嗜好値PV2~PV5が算出(導出)される。つまり、車間時間Tと車速Vからドライバ2の各運転嗜好値PV1~PV5を算出できる。このように、本実施形態によれば、追従走行に関するドライバ2の運転嗜好値PV1~PV5を簡便かつ適切に取得できるようになる。そして、各運転嗜好値PV1~PV5が反映された追従走行を自動運転中に行えるようになる。
【0058】
ところで、上述した実施の形態においては、各運転嗜好値PV1~PV5の算出のために、複数ドライバの運転データDDを用いて統計学的手法に従って予め特定された関数f1~f9が用いられている。このような例に代え、関数f1~f9は、複数ドライバの運転データDDを用いた機械学習を利用して予め特定されてもよい。
【0059】
また、上述したステップS108においては、関数f3、f5、f7、及びf9を用いて、車間嗜好値PV1から運転嗜好値PV2~PV5がそれぞれ算出される。このような例に代え、図3とともに説明された知見に基づき、車間嗜好値PV1と同じ値が各運転嗜好値PV2~PV5として算出(設定)されてもよい。
【0060】
また、車間嗜好値PV1から算出される残りの運転嗜好値PVは、加速度嗜好値PV2、減速度嗜好値PV3、減速タイミング嗜好値PV4、及び加速タイミング嗜好値PV5のうちの何れか1つ又は全部ではない複数であってもよい。
【0061】
上述した実施の形態においては、本開示に係る「記憶装置」及び「プロセッサ」の一例である記憶装置30及びプロセッサ28は、車両1に搭載されている。他の例として、本開示に係る「記憶装置」の少なくとも一部は、車両1と通信可能な外部システムに備えられていてもよい。外部システムは、例えば、クラウド上の管理サーバである。同様に、本開示に係る「プロセッサ」による処理の少なくとも一部は、当該外部システムに備えられたプロセッサによって実行されてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 車両、 2 ドライバ、 10 車両制御システム、 12 車両状態センサ、 14 認識センサ、 16 位置センサ、 18 通信装置、 20 走行装置、 22 電子制御ユニット(ECU)、 24 運転切替スイッチ、 26 ドライバモニタ、 28 プロセッサ、 30 記憶装置
図1
図2
図3
図4