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特許7708103ノズルプレート、インクジェットヘッド、ノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッドの製造方法
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  • 特許-ノズルプレート、インクジェットヘッド、ノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッドの製造方法 図1A
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  • 特許-ノズルプレート、インクジェットヘッド、ノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッドの製造方法 図4D
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】ノズルプレート、インクジェットヘッド、ノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20250708BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
B41J2/16 401
B41J2/16 503
B41J2/16 507
B41J2/16 517
B41J2/14 501
B41J2/14 613
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022533875
(86)(22)【出願日】2021-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2021023363
(87)【国際公開番号】W WO2022004459
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2024-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2020111031
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 明久
(72)【発明者】
【氏名】平野 肇志
(72)【発明者】
【氏名】西浦 知宏
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-251811(JP,A)
【文献】特開2000-246475(JP,A)
【文献】特開平10-217485(JP,A)
【文献】国際公開第2019/202723(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0068724(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/16
B41J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドのノズルプレートであって、
前記ノズルプレートは、上層基板と接着剤により接着される第1の面と、
インクを吐出するノズルの開口部が設けられた第2の面と、を備え、
前記第1の面は、縁部に段差部が形成され
前記第2の面は、縁部が平面状であるノズルプレート。
【請求項2】
前記段差部に、ドロスが形成されている請求項1に記載のノズルプレート。
【請求項3】
前記ノズルプレートを形成する基材は、シリコンまたは金属である請求項1又は2に記載のノズルプレート。
【請求項4】
前記段差部は、前記ノズルプレートの中心方向に5μm以上10μm以下の深さを有する請求項1から3のいずれか一項に記載のノズルプレート。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のノズルプレートを備えるインクジェットヘッド。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法であって、
1枚の基材に対して複数のノズルプレートの外形を形成するように第1の面のみに凹部を形成する溝加工工程と、
前記基材の第2の面に開口部が形成されるようにノズルを形成するノズル形成工程と、
レーザー加工により前記凹部を切断して前記基材から前記ノズルプレートを切り出す外形加工工程と、を備えるノズルプレートの製造方法。
【請求項7】
前記凹部は、ウェットエッチングにより形成される請求項6に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項8】
前記第2の面に撥水膜を形成する撥水膜形成工程を備える請求項6又は7に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか一項に記載のノズルプレートを製造するノズルプレート製造工程と、
前記ノズルプレートの第1の面と上層基板とを接着剤により接着する接着工程と、
を有するインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルプレート、インクジェットヘッド、ノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出するインクジェットヘッドは、ノズルが形成された基材であるノズルプレートに、流路基材が接着剤により接着され、当該ノズルからインクを吐出する。基材にノズルを形成する方法としては、ツールを基材に押し込み、凹部が基材の裏面に達するように絞り加工を行った後、基材裏面の凸部を研磨することで、基材を貫通するようにツールの形状を転写させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなノズルプレートの基材としては、インクに対する化学的安定性や、機械的な摩擦に対する耐久性といった観点からSUS(Steel Use Stainless、ステンレス鋼)等の金属類が用いられる。ノズルが形成された金属板からノズルプレートの外形を加工する方法としては、例えばエッチング液によるウェットエッチング(特許文献2参照)や、レーザー機器によるレーザーエッチング(特許文献3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3755332号公報
【文献】特開2019-217706号公報
【文献】特開2007-307842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ウェットエッチングによって外形加工を行う場合、ノズル内にレジストマスクが入り込んでしまい、外形加工後にレジスト剥離を行っても、ノズル内にレジスト残渣が残ってしまう恐れがある。
【0006】
さらに、レーザーエッチングによって外形加工を行う場合、レーザー加工位置近傍にドロスによる凸部に起因した接着不良、或いはボイドが発生する恐れがある。レーザー装置をピコ秒やフェトム秒等の短パルスレーザーにすることでドロスの発生を抑制できるが、一般に用いられるナノ秒パルスのレーザー装置に比べて装置価格が高価となるため、経済性に劣るという課題を抱える。
【0007】
また、ノズルプレートに流路基材を接着する際に、接着剤が側面にはみ出す接着不良が発生するおそれがある。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、接着の際に接着不良又はボイドの発生を抑制することができるノズルプレート、インクジェットヘッド、ノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、インクジェットヘッドのノズルプレートであって、
前記ノズルプレートは、上層基板と接着剤により接着される第1の面と、
インクを吐出するノズルの開口部が設けられた第2の面と、を備え、
前記第1の面は、縁部に段差部が形成され
前記第2の面は、縁部が平面状である
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のノズルプレートであって、
前記段差部に、ドロスが形成されている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のノズルプレートであって、
前記ノズルプレートを形成する基材は、シリコンまたは金属である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載のノズルプレートであって、
前記段差部は、前記ノズルプレートの中心方向に5μm以上10μm以下の深さを有する。
【0013】
請求項5に記載の発明は、インクジェットヘッドであって、
請求項1から4のいずれか一項に記載のノズルプレートを備える。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法であって、
1枚の基材に対して複数のノズルプレートの外形を形成するように第1の面のみに凹部を形成する溝加工工程と、
前記基材の第2の面に開口部が形成されるようにノズルを形成するノズル形成工程と、
レーザー加工により前記凹部を切断して前記基材から前記ノズルプレートを切り出す外形加工工程と、を備える。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のノズルプレートの製造方法であって、
前記凹部は、ウェットエッチングにより形成される。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項6又は7に記載のノズルプレートの製造方法であって、
前記第2の面に撥水膜を形成する撥水膜形成工程を備える。
【0017】
請求項9に記載の発明は、インクジェットヘッドの製造方法であって、
請求項1から4のいずれか一項に記載のノズルプレートを製造するノズルプレート製造工程と、
前記ノズルプレートの第1の面と上層基板とを接着剤により接着する接着工程と、
を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のノズルプレート、ノズルプレートを備えるインクジェットヘッド、ノズルプレートの製造方法、インクジェットヘッドの製造方法によれば、接着の際に接着不良又はボイドの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】本実施形態に係るインクジェットヘッドの全体図である。
図1B図1AのIB-IB線による断面図である。
図2】本実施形態に係るノズルプレートの拡大断面図である。
図3】本実施形態に係るノズルプレートの製造方法を示すフローチャートである。
図4A】本実施形態に係るノズルプレートの製造方法を示す上面図及びA-B線による断面図である。
図4B】本実施形態に係るノズルプレートの製造方法を示す上面図及びA-B線による断面図である。
図4C】本実施形態に係るノズルプレートの製造方法を示す上面図及びA-B線による断面図である。
図4D】本実施形態に係るノズルプレートの製造方法を示す上面図及びA-B線による断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のノズルプレート、ノズルプレートを備えるインクジェットヘッド、ノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッドの製造方法に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1Aは、本実施形態に係るインクジェットヘッド1の全体図であり、図1Bは、図1Aのインクジェットヘッド1を側面側(-X方向側)から見たIB-IB線による断面図である。図1Bでは、4つのノズル列に含まれる4つのノズル14を含む面でのインクジェットヘッド1の断面が示されている。
インクジェットヘッド1は、ヘッドチップ2と、共通インク室70と、支持基板80と、配線部材3と、駆動部4などを備える。
【0022】
ヘッドチップ2は、ノズル14からインクを吐出させるための構成であり、複数(ここでは4枚)の板状の基板が積層形成されている。ヘッドチップ2における最下方の基板は、ノズルプレート10である。ノズルプレート10には複数のノズル14が形成されており、当該ノズル14の開口部が設けられているインク吐出面(ノズルプレート10の露出面)に対して略垂直にインクが吐出可能とされる。ノズルプレート10のインク吐出面とは反対側には、上方(+Z方向)に向かって順番に圧力室基板20(チャンバープレート)、スペーサー基板40及び配線基板50が接着剤等によって接着されて積層されている。以下では、これらノズルプレート10、圧力室基板20、スペーサー基板40及び配線基板50の各基板を各々又はまとめて流路基板10、20、40、50などとも記す。
【0023】
これらの流路基板10、20、40、50には、ノズル14に連通するインク流路が設けられており、配線基板50の露出される側(+Z方向側)の面で開口されている。この配線基板50の露出面上には、全ての開口を覆うように共通インク室70が設けられている。共通インク室70は、インク室形成部材70cにインクを供給するインク供給部70aと、インク室形成部材70cのインクを排出するインク排出部70bとがそれぞれ上部に設けられており、共通インク室70のインク室形成部材70c内に貯留されるインクは、配線基板50の開口から各ノズル14へ供給される。
【0024】
インク流路の途中には、圧力室21が設けられている。圧力室21は、圧力室基板20を上下方向(Z方向)に貫通して設けられており、圧力室21の上面は、圧力室基板20とスペーサー基板40との間に設けられた振動板30により構成されている。圧力室21内のインクには、振動板30を介して圧力室21と隣り合って設けられている格納部41内の圧電素子60の変位(変形)によって振動板30(圧力室21)が変形することで、圧力変化が付与される。圧力室21内のインクに適切な圧力変化が付与されることで、圧力室21に連通するノズル14からインク流路内のインクが液滴として吐出される。
【0025】
支持基板80は、ヘッドチップ2の上面に接合されており、共通インク室70のインク室形成部材70cを保持している。支持基板80には、インク室形成部材70cの下面の開口とほぼ同じ大きさ及び形状の開口が設けられており、共通インク室70内のインクは、インク室形成部材70cの下面の開口、及び支持基板80の開口を通ってヘッドチップ2の上面に供給される。
【0026】
配線部材3は、例えば、FPC(Flexible Printed Circuits)などであり、配線基板50の配線に接続されている。この配線を介して格納部41内の配線51及び接続部52(導電部材)に伝えられる駆動信号により圧電素子60が変位動作する。配線部材3は、支持基板80を貫通して引き出されて駆動部4に接続される。
【0027】
駆動部4は、インクジェット記録装置の制御部からの制御信号や、電力供給部からの電力供給などを受けて、各ノズル14からのインク吐出動作や非吐出動作に応じて、圧電素子60の適切な駆動信号を配線部材3に出力する。駆動部4は、IC(Integrated Circuit)などで構成されている。
【0028】
図2は、ノズルプレート10の構成を示す断面図である。図2では、ノズルプレート10の断面が拡大して示されている。
【0029】
ノズルプレート10は、基材から切り出され、ノズル14が設けられた基板11と、基板11の板面及びノズル14の内壁面に設けられた保護膜12と、基板11の下面側で保護膜12に重ねて形成された撥水膜13と、縁部に設けられた切欠である段差部151と、各ノズル14の両側に設けられたグルーガード16と、を有している。
なお、以下では、基板11の上面側の面を第1の面11aとし、基板11の下面側の面を第2の面11bと記す。
【0030】
基板11は、厚さ25μmから300μm程度のSUS(Steel Use Stainless、ステンレス鋼)等の基材から切り出される板状部材である。基材としてSUSを用いることで、インクに対する化学的安定性や、機械的な摩擦耐久性に優れたノズルプレート10を形成することができる。なお、後述するように、基板11としてシリコン基板を用いた場合は、基板11の外層には熱酸化膜が形成されていても良い。
【0031】
ノズル14は、基板11の第2の面11bに円形の開口部を有する円筒状の孔である。
ノズル14の開口部の直径は、15μm~30μm程度とすることができる。
【0032】
保護膜12は、インクとの接触により溶解しない材質のもの、例えば、炭化ケイ素(SiC)、炭化酸化ケイ素(SiOC)及び酸化ケイ素(SiO2)の他、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ハフニウム(HfO2)及び酸化タンタル(Ta23)といった金属酸化膜や、金属酸化膜にシリコンを含有させた金属シリケート膜(タンタルシリケート(TaSiO)等)などを用いることができる。
保護膜12の厚さは、特には限られないが、例えば50nm~500nm程度とすることが望ましい。
【0033】
このような耐インク性を有する材質からなる保護膜12は、基板11がインク(特に、アルカリ性のインクや酸性のインク)により浸食されるのを抑制する。また、保護膜12は、後述する撥水膜13の下地膜として用いても良い。耐インク性を有する保護膜12は、インクと接触しても剥離が生じにくいため、保護膜12を下地膜とすることで、下地膜としての保護膜12とともに撥水膜13が剥離するのを抑制できる。
【0034】
撥水膜13は、保護膜12に重ねて形成され、その表面がインク吐出面をなす。撥水膜13は、インクに対する撥水性を持たせて、インクや異物の付着を抑制するために設けられている層である。撥水膜13としては、前述したような素材からなる保護膜12を下地膜として、パーフルオロキシル基を有するシランカップリング剤を蒸着させることで形成される。
また、撥水膜13には、ノズル14の形成位置に撥水膜13を貫通する開口部が設けられ、ノズル14から吐出されるインクは、当該開口部から射出される。
【0035】
段差部151は、第1の面11aの外周に沿って設けられた切欠であり、縁部に後述するレーザー加工によって発生したドロス152が付置されている。段差部151は、ノズルプレート10の凹部15に外形加工を行った際に生じるドロス152が、ノズルプレート10と流路基板20との接着を阻害するのを防ぐ空間である。また、ノズルプレート10と流路基板20との接着の際にノズルプレート10の端面からはみ出した接着剤を収容する空間となる。
段差部151の深さは、特に限られないが5μm~10μmとするのが好ましい。
【0036】
グルーガード16は、ノズル14が形成された列に対して略平行になるように設けられた凹溝部である。グルーガード16を設けることで、ノズルプレート10を上層基板である圧力室基板20と接着剤にて接着する際に、余分な接着剤がノズル14に入り込んでしまう恐れを小さくすることができる。
なお、図2においてはグルーガード16をノズル14の両脇にそれぞれ1つずつ設けているが、その位置及び個数はこれに限られない。
【0037】
次に、本実施形態のインクジェットヘッド1の製造方法について、ノズルプレート10の製造方法を中心に説明する。
図3は、ノズルプレート10の製造に係る処理(ノズルプレート製造処理)の手順を示すフローチャートである。また、図4Aから図4Dは、ノズルプレート製造処理を説明する上面図及びA-B線による断面図である。
図4Aから図4Dに示すように、本実施形態に係るノズルプレート製造処理によれば、1枚の基材から複数のノズルプレート10を同時に製造することができる。
【0038】
ノズルプレート製造処理においては、初めに、図4Aに示すように、基板11の第1の面11aにおける、後工程であるステップS106にて外形加工を行う部分に対して、ウェットエッチング処理にて溝加工(ハーフエッチング)を行い、凹部15を形成する(ステップS101)。
【0039】
ウェットエッチング処理としては、基板11の溝加工を行う部分を除いた箇所にレジストマスクを形成し、エッチング液を浸漬させることで行うことができる。なお、レジストマスクとしては、エッチング液に抗して基板11を保護することができればよく、例えばシリコン等の無機材料により形成することができる。また、エッチング液としては、例えば、基板11がSUS基材である場合は、塩化第二鉄(FeCl2)あるいは塩化第二銅(CuCl2)等を含む水溶液である中性塩エッチング液を用いるのが一般的である。また、基板11がシリコン基板である場合は、硝酸(HNO3)とフッ酸(HF)の混合液を用いるのが一般的である。しかし、これに限られず、公知のエッチング液から任意に選択することができる。
ウェットエッチング処理後、基板11の表面からレジストマスクを除去する。
【0040】
なお、溝加工工程においては、ノズル14の形成される列に平行な凹溝部であるグルーガード16を同時に形成する。
【0041】
次に、図4Bに示すように、基板11に対してパンチ加工を行い、ノズル14を形成する(ステップS102)。
【0042】
パンチ加工としては、ツールを用いて基板11に対してプレスを行う。具体的にはツールにおけるノズル形成部が設けられた一面と、基板11の第1の面11aとを対向させ、ノズル形成部を、第1の面11aに押し付けて、プレスを行う。これにより、第1の面11aには、第2の面11bに向けて凹んだノズル凹部が形成され、第2の面11bにはノズル凸部が形成される。
【0043】
次に、第2の面11bから突出するノズル凸部を研磨し、除去する(ステップS103)。すると、第2の面11bにノズル14が開口する。
これにより、基板11には、第1の面11aから第2の面11bにかけて貫通するノズル14が形成される。
【0044】
次に、ノズルプレート10に対して保護膜12を形成するとともに、インク吐出面側である第2の面11bに対して撥水膜13の形成を行う(ステップS104)。
【0045】
はじめに、基板11の表面を洗浄して、基板11に付着している異物を除去する。基板11の洗浄方法は、例えばUS洗浄とすることができる。
【0046】
基板11の洗浄後、基板11の表面に対してイオンボンバード処理を行う。イオンボンバード処理は、減圧環境下で処理対象の部材に対してイオンを衝突させることで処理対象の部材に物理的作用を及ぼす処理である。
このようなイオンボンバード処理により、基板11の表面に付着した不純物や薄い酸化被膜が除去されて清浄化され、保護膜12の密着性を向上させることができる。また、基板11の表面の酸化が抑制される。
【0047】
イオンボンバード処理後、基板11の表面にプラズマCVD法により保護膜12を形成し、保護膜12が形成された基板11を洗浄して、保護膜12に付着している異物を除去する。保護膜12の洗浄方法は、上記と同様に、US洗浄とすることができる。
【0048】
保護膜12の洗浄後、図4Cに示すように、保護膜12上に撥水膜13の形成を行う。撥水膜13は、例えばパーフルオロキシル基を有するシランカップリング剤を用いた、真空蒸着法に代表される乾式プロセスにより形成される。シランカップリング剤としては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン,N-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン,N-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン,N-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン,N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン,γ-ユレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシランカップリング剤や、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン,γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシランカップリング剤が適用可能である。
なお、撥水膜13の形成方法としてはこれに限られず、例えばフッ素含有有機ケイ素化合物をフッ素系溶剤で薄めた液に基板11を浸漬させた後に熱乾燥させる等、従来公知の成分及び方法に基づいて形成すれば良い。
【0049】
次に、第2の面11b以外に形成された撥水膜13を除去する(ステップS105)。具体的には、まず第2の面11bをポリイミドテープでマスキングして基板11をアッシング装置に設置し、O2プラズマに数十秒晒すことで、第2の面11b以外に形成された撥水膜13を除去する。その後、ポリイミドテープを除去して洗浄する。
以上の方法により、基板11の表面全体に保護膜12が形成され、また第2の面11bのみに撥水膜13が形成される。
【0050】
次に、図4Dに示すように、基板11に対してレーザー加工により外形加工を行う(外形加工工程、ステップS106)。
【0051】
外形加工工程においては、前工程であるステップS101にて溝加工を行った、基板11の凹部15に沿って、レーザー機器を用いてレーザー加工を行って凹部15を切断することで、基材からノズルプレート10を切り出す。レーザー機器により発生させるレーザー光としては、例えばエキシマレーザー光等を好ましく例示することができる。エキシマレーザー光は、波長が短く、好ましい微細加工が可能であるからである。エキシマレーザー光の波長は190nm~355nmの範囲であり、具体的には、例えばArF(波長193nm)、KrF(248nm)、XeCl(波長308nm)、XeF(波長351nm)等を好ましく挙げられる。なお、レーザー光としてはYAGレーザーやCO2レーザー等、従来公知のものを用いても構わない。
【0052】
本工程におけるレーザー加工は、先述したようにノズルプレート10の凹部15を切断して行われるため、外形加工工程後のノズルプレート10の縁部には図2に示すような段差部151が形成される。
また、通常、レーザー加工によってSUSである基板11の外形加工を行うと、ドロス152が加工部近傍に形成されるが、本発明においては、凹部15に沿ってレーザー加工が行われるため、図2に示すように、ドロス152が段差部151の縁部に形成される。
【0053】
以上の方法により、ドロス152が付置した段差部151が、基板11の縁部に形成されたノズルプレート10が得られる。当該ノズルプレート10と、流路基板20、40、50とを積層させてヘッドチップ2を製造し、共通インク室70、支持基板80、配線部材3及び駆動部4などと組み合わせて所定の外装部材に組み込むことで、インクジェットヘッド1が完成する。
【0054】
続いて、上記実施形態の外形加工で形成されるドロスの高さを確認するために行った実験について説明する。
【0055】
本実験では、SUSをレーザー加工した際に形成されるドロス152の高さを評価した。
具体的には、厚さ50μmであるSUS304HTA材を基材として、YVO4結晶を用いた固体レーザー装置であるMD-U1000C(株式会社キーエンス製、波長:355nm、パルス幅:14nsec、スイッチ:40kHz、スキャンスピード:200mm/sec)を用いて、レーザーの出力(2.4W/1.8W/1.2W/0.6W)及びアシストガスの有無を変更した各水準につき20スキャンずつレーザー加工を行った。次いで、40kHzの超音波を用いて純水で20分US洗浄を行った後、レーザー顕微鏡であるVK-X250(株式会社キーエンス製)を用いて、加工部近傍に発生したドロス152の高さを測定し、平均値を算出した。
表Iは本実験の結果を示す表である。
【0056】
【表1】
【0057】
表1の水準1-3に示すように、レーザーの出力を小さくするにつれて、ドロス152の高さを低くすることができる。ただし、水準4及び8に示すように、出力を0.6W以下まで小さくしてしまうと、外形加工を行えなくなってしまうので、好ましくない。
また、水準5-7に示すように、アシストガスを用いることで、レーザーの出力の変化によるドロス152の高さの変化を小さくすることができ、高さが5μm以下で安定するようになる。
実験1に示すように、レーザー加工に際して発生するドロス152の高さは5μm程度、特に10μm以下であるため、段差部151は深さが5μm程度であれば、圧力室基板20に接着する際にドロス152が接着不良やボイド発生の原因となりにくくなる。また、段差部151の深さが10μm程度であれば、レーザー加工時の条件に関わらず、外形加工後にドロス152が接着の障害となるのを防ぐことができる。
【0058】
以上のように、上記実施形態に係るノズルプレート10の製造方法は、外形加工を行う部分に対してウェットエッチング処理にて溝加工を行い、1枚の基材に複数の凹部15を形成する溝加工工程と、パンチ加工と研磨により複数のノズル14を形成するノズル形成工程と、凹部15に沿って複数のノズルプレート10の外形加工をレーザー加工によって行う外形加工工程と、を少なくとも含む。
このような方法によれば、外形加工工程によって生じるドロス152が、溝加工工程によって形成された段差部151に発生するため、ノズルプレート10を圧力室基板20に接着する際に、接着不良やボイド発生といった不具合の発生を抑制することができる。
【0059】
また、上記実施形態に係るノズルプレート10の製造方法においては、前記不具合の発生を抑制するために、ノズルプレート10の縁部に発生するドロス152を研磨により除去する必要が無い。よって、ノズルプレート10を効率よく製造することができ、生産性に優れる。
【0060】
また、上記実施形態に係るノズルプレート10の製造方法においては、図4に示すように、1枚の基板11から複数のノズルプレート10を製造するように各加工処理を行うことができる。よって、複数のノズルプレート10を効率良く製造することができ、生産性に優れる。
【0061】
また、上記実施形態に係るノズルプレート10の製造方法においては、レーザー加工によって外形加工を行うため、ウェットエッチングによって外形加工を行う場合に比べて、レジストマスクの形成及び除去といった工程が不要となり、ノズル14内部におけるレジスト残渣も発生しなくなる。よって、ノズルプレート10を効率よく製造することができ、生産性に優れる。
【0062】
また、上記実施形態に係るノズルプレート10の製造方法においては、外形加工工程に際してドロス152が発生しても前記不具合の発生を抑制することができる。よって、パルス幅がピコ秒、或いはフェムト秒オーダー等の短パルスレーザー機器を使用する必要が無く、ノズルプレート10を安価に提供することができる。
【0063】
また、上記実施形態に係る製造方法によって製造されたノズルプレート10は、段差部151にドロス152が発生しているため、上層基板である圧力室基板20と接着剤にて接着する際、接着剤の量が多かったとしても、ドロス152が壁となって側面にはみ出してしまうのを防ぐことができる。
【0064】
また、上記実施形態に係る製造方法によって製造されたノズルプレート10を用いることで、インクジェットヘッド1を安価かつ効率よく製造することができ、生産性に優れる。
【0065】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施形態においては、ノズルプレート10の基材は、SUSからなるものとしたが、これに限られず、例えば、シリコン基板、Niなどの金属を電鋳したものなど、従来公知の素材を用いても良い。
【0066】
また、上記実施形態では、基板11の表面全体に保護膜12を形成する例を用いて説明したが、これに限られず、保護膜12は、基板11の表面のうち、第1の面11a及びノズル14の内壁面のうち少なくとも一部(すなわち、インクが接触する可能性があり耐インク性を持たせる必要のある任意の範囲)に設けることとしても良い。
【0067】
また、保護膜12は単層構造としたが、保護膜12の構成はこれに限られず、多層構造としても構わない。また、保護膜12が不要な場合は、ノズルプレート10に保護膜12を設けなくても構わない。
【0068】
また、ノズル14の内壁面は、ノズル14の開口部に近いほど第1の面11aに平行な断面積が小さくなるようにテーパー形状をなしていても良い。
【0069】
また、ノズルプレート10に設けられるノズル14は、ノズル14よりも広い開口部を有する連通路や、ノズル14から吐出されずに排出されるインクを導くインク流路等を備える構成としても良い。ノズル14の形状としても、図2に示したような略円錐台状に限られない。
【0070】
また、インクジェットヘッド1のインク吐出面に撥水性を付与する必要がない場合などでは、ノズルプレート10には必ずしも撥水膜13を設けなくても良い。
【0071】
また、上記実施形態では、圧電素子60を変形させることで圧力室21内のインクの圧力を変動させてインクを吐出させるベントモードのインクジェットヘッド1を例に挙げて説明したが、これに限定する趣旨ではない。例えば、圧電体の内部に圧力室を設け、圧力室の壁面の圧電体にシアモード型の変位を生じさせて圧力室内のインクの圧力を変動させるシアモードのインクジェットヘッドに対して本発明を適用しても良い。また、圧力室を変形させる方式に限られず、例えば、加熱によりインクに気泡を生じさせてインクを吐出するサーマル方式のインクジェットヘッドに対して本発明を適用しても良い。
【0072】
また、上記実施形態では、溝加工工程においては、凹部15はウェットエッチング処理によって形成するものとしたが、これに限られず、レーザー加工によって形成しても構わない。ただし、レーザー加工を行った場合、基材が歪み、反りが生じる恐れがあるため、ウェットエッチングによって形成するのが好ましい。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、接着の際に接着不良又はボイドの発生を抑制するノズルプレートに利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 インクジェットヘッド
10 ノズルプレート
11a 第1の面
11b 第2の面
13 撥水膜
14 ノズル
15 凹部
20 圧力室基板(上層基板)
151 段差部
152 ドロス
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D