(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】視認判定装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20250708BHJP
【FI】
G08G1/16 F
(21)【出願番号】P 2023015532
(22)【出願日】2023-02-03
【審査請求日】2024-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100187311
【氏名又は名称】小飛山 悟史
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】山田 健太
(72)【発明者】
【氏名】藤野 次郎
(72)【発明者】
【氏名】原 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】森本 寛
(72)【発明者】
【氏名】川上 悟
【審査官】小林 俊介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-071773(JP,A)
【文献】特開2020-181281(JP,A)
【文献】特開2010-257293(JP,A)
【文献】特開2021-030888(JP,A)
【文献】特開2018-151903(JP,A)
【文献】特開2017-126151(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0134870(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 -99/00
A61B 3/00 - 3/18
B60K 35/00 -37/20
B60R 1/00 - 1/04
B60R 1/08 - 1/31
G06T 7/00 - 7/90
G06V 10/00 -20/90
G06V 30/418
G06V 40/16
G06V 40/20
G06F 3/01
G06F 3/048- 3/04895
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を基準として予め設定された座標マップである注視領域マップを有し、前記車両のドライバモニタカメラにより検出した前記車両のドライバの視線に基づいて
前記注視領域マップ上で推定される前記車両のドライバの視認範囲と前記車両の外部センサにより取得した前記車両の前方の物体の
前記注視領域マップ上の位置とを比較することで、
前記ドライバの視認判定に用いる前記注視領域マップの補正を行う視認判定装置であって、
前記車両の車速が補正禁止閾値以上である場合、又は、前記車両の走行姿勢が直進姿勢ではない場合には、
前記注視領域マップの補正を行わない、視認判定装置。
【請求項2】
前記車両の車速が前記補正禁止閾値以上である場合、及び、前記車両の走行姿勢が前記直進姿勢ではない場合には、前記注視領域マップの補正を行わない、請求項1に記載の視認判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視認判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、視認判定装置に関する技術文献として、特開2020-071773号公報が知られている。この公報には、運転者の視界における障害物情報の位置と視線検出部により検出される視線とを比較することにより、視線検出部によって検出される運転者の視線のキャリブレーションを行う装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の装置では、車両の走行状態がキャリブレーションに与える影響を考慮できていない。このため、車両の高速走行時や旋回時など不適切な状況下でキャリブレーションを行うことにより視認判定の精度の低下を招くおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、車両を基準として予め設定された座標マップである注視領域マップを有し、車両のドライバモニタカメラにより検出した車両のドライバの視線に基づいて注視領域マップ上で推定される車両のドライバの視認範囲と車両の外部センサにより取得した車両の前方の物体の注視領域マップ上の位置とを比較することで、ドライバの視認判定に用いる注視領域マップの補正を行う視認判定装置であって、車両の車速が補正禁止閾値以上である場合、又は、車両の走行姿勢が直進姿勢ではない場合には、注視領域マップの補正を行わない。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、不適切な状況におけるドライバの視認範囲の補正により物体に対するドライバの視認判定の精度が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る視認判定装置を示すブロック図である。
【
図2】(a)視認範囲の補正が行われる状況の一例を説明する図である。(b)注視領域マップの補正の一例を説明するための図である。
【
図3】視認範囲補正処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0009】
図1に示される視認判定装置100は、乗用車などの車両に搭載され、車両のドライバが車外の物体を視認しているか否かを判定する装置である。視認判定装置100は、例えば歩行者などの視認すべき物体をドライバが一度も視認していない場合に、警報を出力することでドライバに注意喚起を行う。また、視認判定装置100は、運転支援装置にドライバの視認判定結果を送信することで、運転支援中のドライバの監視状態の確認などに用いられてもよい。
【0010】
視認判定装置100は、ドライバの視線を推定すると共に車両前方の他車両などの物体を検出することで視認判定を行う。また、視認判定装置100は、ドライバの視認範囲の推定結果と物体の検出結果とを比較することで、視認範囲の補正を行う。視認判定について、ドライバの個人差などにより適切に視認範囲を推定できない場合があるため、所定条件下で視認範囲の補正を行うことで視認判定の精度の低下を抑制する。
【0011】
[視認判定装置の構成]
図1に示されるように、視認判定装置100は、視認判定ECU10[Electronic Control Unit]を備えている。視認判定ECU10は、CPU[Central Processing Unit]とROM[Read OnlyMemory]又はRAM[Random Access Memory]などの記憶部を有する電子制御ユニットである。視認判定ECU10は、運転支援ECUや自動運転ECUの一部であってもよい。
【0012】
視認判定ECU10は、ドライバモニタカメラ1、外部センサ2、内部センサ3、地図データベース4、及びHMI5[Human Machine Interface]と接続されている。
【0013】
ドライバモニタカメラ1は、ドライバを撮像するためのカメラである。ドライバモニタカメラ1は、CCD[Charge Coupled Device]又はCIS[CMOS ImageSensor]などの撮像素子を有するデジタルカメラとすることができる。ドライバモニタカメラ1は、例えばドライバ正面のステアリングコラムのカバー上に設けられ、所定のフレームレートでドライバの顔を含む頭部を撮像する。ドライバモニタカメラ1は、ドライバ撮像画像を視認判定ECU10へ送信する。
【0014】
外部センサ2は、車両の周辺の状況を検出する検出機器である。外部センサ2は、カメラ、レーダセンサのうち少なくとも一つを含む。
【0015】
カメラは、車両の外部状況を撮像する撮像機器である。カメラは、例えば車両のフロントガラスの裏側に設けられ、車両の前方を撮像する。カメラは、車両の外部状況に関する撮像情報を視認判定ECU10へ送信する。レーダセンサは、電波(例えばミリ波)又は光を利用して車両の周囲の物体を検出する検出機器である。レーダセンサには、例えば、ミリ波レーダ又はライダー[LIDAR:Light Detection and Ranging]が含まれる。レーダセンサは、検出した物体の情報を視認判定ECU10へ送信する。
【0016】
内部センサ3は、車両の走行状態を検出する検出機器である。内部センサ3は、車速センサ、及びヨーレートセンサを含む。車速センサは、車両の速度を検出する検出器である。車速センサは、検出した車速情報(車輪速情報)を視認判定ECU10に送信する。
【0017】
ヨーレートセンサは、車両の重心の鉛直軸周りのヨーレート(回転角速度)を検出する検出器である。ヨーレートセンサとしては、例えばジャイロセンサを用いることができる。ヨーレートセンサは、検出した車両のヨーレート情報を視認判定ECU10へ送信する。
【0018】
地図データベース4は、地図情報を記憶するデータベースである。地図情報には、道路の位置情報、道路形状の情報(例えばカーブ、直線部の種別、カーブの曲率等)、交差点及び分岐点の位置情報、及び構造物の位置情報などが含まれる。
【0019】
HMI5は、視認判定装置100とドライバとの間で情報の入出力を行うためのインターフェイスである。HMI5はディスプレイ及びスピーカを備えている。HMI5は、メータECUを含む装置として構成されていてもよく、ディスプレイは例えばMID[Multi Information Display]である。HMI5は、視認判定ECU10からの制御信号に応じて、ディスプレイの画像出力やスピーカからの音声出力を行う。
【0020】
次に、視認判定ECU10の機能的構成について説明する。
図1に示すように、視認判定ECU10は、視認範囲推定部11、物体認識部12、視認判定部13、及び補正実行部14を有している。
【0021】
視認範囲推定部11は、ドライバモニタカメラ1の撮像したドライバ撮像画像に基づいて、ドライバの視認範囲を推定する。視認範囲とは、予め設定された注視領域マップ上でドライバが視認していると推定される範囲である。注視領域マップは、車両を基準とした座標系(車両座標系)における車外の物体とドライバの視認範囲との対応付けのために用いられる。注視領域マップは、奥行方向の影響を考慮して三次元の空間座標マップとして形成されていてもよく、二次元の平面座標マップとして形成されていてもよい。注視領域マップについては、周知のマップ(座標系)を採用することができる。
【0022】
注視領域マップは複数用意されていてもよい。注視領域マップは、ドライバの個人認証が行われている場合、ドライバの個人データ(体格、座高、基準姿勢のアイポイント高さ、斜視の強度など)に応じて適切なマップが選択されてもよい。また、注視領域マップは、ドライバの現在の姿勢、現在のシートポジション、現在のアイポイント位置などに応じて一定時間毎に適切なマップが選択されてもよい。
【0023】
ここで、
図2(a)は、視認範囲の補正が行われる状況の一例を説明する図である。
図2(a)に、注視領域マップC、ドライバの視線EL、ドライバの視認範囲EA、第一の他車両N、第一の他車両Nの検出ボックスDN、第二の他車両M、及び第二の他車両Mの検出ボックスDMを示す。また、ドライバの視認範囲EAの移動ベクトルBEと第一の他車両Nの検出ボックスDNの移動ベクトルBNを示す。ここでは、理解を容易にするため注視領域マップCを平面座標マップとして説明する。平面座標マップは、例えばドライバから見た車両奥行方向に直交する平面として設定される。
【0024】
図2(a)に示す状況において、視認範囲推定部11は、ドライバモニタカメラ1のドライバ撮像画像に基づいて、ドライバの視線ELを推定する。視認範囲推定部11は、予め設定された注視領域マップC上で視線ELに対応する領域を視認範囲EAとして推定する。なお、視認範囲推定部11は、必ずしも視線ELの推定を行う必要はなく、機械学習モデルなどによってドライバ撮像画像から直接的に視認範囲EAを推定してもよい。
【0025】
視認範囲推定部11は、ドライバの視認範囲EAの推定結果に基づいて、視認範囲EAの移動ベクトルBEを認識する。移動ベクトルBEは、注視領域マップC上における視認範囲EAの移動方向及び移動速度から求められる。
【0026】
物体認識部12は、外部センサ2の検出結果に基づいて、車両前方の物体の位置、物体の移動方向、及び物体の移動速度を認識する。物体には、他車両、自転車、歩行者、動物などの移動体が含まれる。物体には、パイロン、ガードレール、道路標識、路面表示、電柱、縁石、看板、店や家などの建物などの静止物が含まれてもよい。物体が静止物であっても、車両の走行により相対的に移動することで視認範囲の補正に用いることができる。物体認識部12は、車両の位置情報と地図データベース4の地図情報を用いて静止物を認識してもよい。
【0027】
また、物体認識部12は、周知の手法(例えば座標変換)により、注視領域マップC上における物体の位置、物体の移動方向、及び物体の移動速度を認識する。注視領域マップC上における物体の移動方向とは、車両のドライバから見た相対的な移動方向である。注視領域マップC上における物体の移動速度とは、車両のドライバから見た相対的な移動速度である。物体認識部12は、注視領域マップC上における物体の大きさ(面積)も認識する。
【0028】
図2(a)に示す状況において、物体認識部12は、車両の前方を横切る方向に移動する第一の他車両Nを認識する。物体認識部12は、例えば立方体の検出ボックスDNの形で第一の他車両Nの認識及び追跡を行う。物体認識部12は、座標変換により注視領域マップC上における第一の他車両Nの位置、第一の他車両Nの移動方向、及び第一の他車両Nの移動速度を認識する。物体認識部12は、第一の他車両Nの移動方向及び移動速度から移動ベクトルBNを求める。物体認識部12は、同様にして車両の対向車である第二の他車両M及び検出ボックスDMを認識する。
【0029】
視認判定部13は、視認範囲推定部11の認識した視認範囲EAと物体認識部12の認識した車両前方の物体とに基づいて、物体に対するドライバの視認判定を行う。視認判定部13は、注視領域マップC上におけるドライバの視認範囲EAと物体の重なりからドライバが物体を視認しているか否かを判定する。
【0030】
視認判定部13は、例えば注視領域マップC上で第一の他車両Nの検出ボックスDNなどの物体に対するドライバの視認範囲EAの重複割合が一定閾値以上である場合に、ドライバが物体を視認していると判定する。一定閾値は7割であってもよく、8割であってもよい。一定閾値の値は特に限定されない。
【0031】
視認判定部13は、
図2(a)に示す状況において、ドライバの視認範囲EAと第一の他車両Nの検出ボックスDNが重なっていないことから、ドライバは第一の他車両Nを視認していないと判定する。なお、視認判定部13は、注視領域マップC上における視認範囲EA及び物体の関係に基づいて、その他の周知の手法により視認判定を行ってもよい。
【0032】
補正実行部14は、予め設定された補正条件が満たされた場合に、注視領域マップC上におけるドライバの視認範囲EAと物体との関係に基づいてドライバの視認判定を補正する。具体的に、補正実行部14は、ドライバの視認判定に用いる注視領域マップCを補正する。
【0033】
補正実行部14は、補正条件として、注視領域マップC上で視認範囲EAの移動ベクトルBEが一定以上の長さであるか否かを判定する。判定閾値としての長さは予め設定された値である。補正実行部14は、視認範囲EAの移動ベクトルBEが一定以上の長さである場と判定した合、補正条件の一つが満たされたとする。
【0034】
また、補正実行部14は、補正条件として、注視領域マップC上でドライバの視認範囲EAからの距離が所定範囲内の物体が存在するか否かを判定する。所定範囲にはゼロ距離は含まれない(すなわち視認範囲EAと重なりのある物体は含まない)。補正実行部14は、視認範囲EAからの距離が所定範囲内の物体が存在すると判定した場合、補正条件の一つが満たされたとする。距離判定は、ドライバの視認範囲EAの移動ベクトルBEの始点と物体の移動ベクトルの始点との距離を用いて判定されてもよい。以下、視認範囲EAからの距離が所定範囲内の物体を対象物と呼ぶ。
【0035】
補正実行部14は、補正条件として、注視領域マップC上で対象物の移動ベクトルとドライバの視認範囲EAの移動ベクトルBEが類似しているか否かを判定する。二つの移動ベクトルが類似している場合の一例は、注視領域マップC上で二つの移動ベクトルのなす角度差が角度閾値未満であり、且つ、二つの移動ベクトルの長さの差分の大きさ(絶対値)が長さ閾値未満の場合である。角度閾値及び長さ閾値は予め設定された値である。注視領域マップCが空間座標マップである場合には、ドライバから見た車両奥行方向に直交する平面上において二つの移動ベクトルのなす角度差を用いて判定が行われる。
【0036】
その他、二つの移動ベクトルの類似判定は上述した方法に限定されない。補正実行部14は、二つの移動ベクトルが同じ法線を描くときに移動ベクトルが類似していると判定してもよい。
【0037】
補正実行部14は、例えば
図2(a)に示す状況において、第一の他車両Nの移動ベクトルBNとドライバの視認範囲EAの移動ベクトルBEが類似していると判定する。補正実行部14は、注視領域マップC上で対象物の移動ベクトル(例えば第一の他車両Nの移動ベクトルBN)とドライバの視認範囲EAの移動ベクトルBEが類似していると判定した場合、補正条件の一つが満たされたとする。
【0038】
更に、補正実行部14は、補正条件として、車両の車速が補正禁止閾値未満であるか否かを判定する。補正禁止閾値は、40km/hであってもよく、50km/hであってもよく、60km/hであってもよい。補正禁止閾値の値は特に限定されない。車両の車速は、内部センサ3の車速センサから取得することができる。補正実行部14は、車両の車速が補正禁止閾値未満であると判定された場合、補正条件の一つが満たされたとする。
【0039】
また、補正実行部14は、補正条件として、車両の走行姿勢が直進姿勢であるか否かを判定する。直進姿勢とは、車両が旋回していない姿勢である。補正実行部14は、例えば車両のヨーレートに基づいて、直進姿勢を判定する。補正実行部14は、車両のヨーレートが所定値未満の状態が一定時間継続した場合に、車両の走行姿勢が直進姿勢であると判定してもよい。補正実行部14は、車両の操舵角から直進姿勢を判定してもよい。補正実行部14は、車両の走行姿勢が直進姿勢であると判定した場合、補正条件の一つが満たされたとする。
【0040】
補正実行部14は、補正条件が全て満たされた場合に、注視領域マップCの補正を行う。補正実行部14は、
図2(b)に示す状況において全ての補正条件が満たされたと判定する。補正実行部14は、補正条件が一つでも満たされない場合には、注視領域マップCの補正を行わない。
【0041】
補正実行部14は、注視領域マップCにおいて対象物に対応する領域の拡大、領域の縮小又は領域を上下左右へ寄せることにより、注視領域マップCの補正を行う。
図2(b)は、注視領域マップの補正の一例を説明するための図である。
【0042】
図2(b)に示すように、補正実行部14は、注視領域マップC上における第一の他車両Nとドライバの視認範囲EAとの関係に基づいて、注視領域マップCを補正する。補正実行部14は、ドライバが第一の他車両Nを視認していると判定されやすくなるように注視領域マップCを補正する。具体的に、補正実行部14は、注視領域マップCにおいて第一の他車両Nに対応する領域を上下左右に拡大して周辺領域を合わせる拡大補正を行う。これにより、注視領域マップC上に座標変換されたドライバの視認範囲EAが第一の他車両Nに向かってスライドすることになる。補正実行部14は、例えば注視領域マップC上における視認範囲EAと第一の他車両Nとの距離が離れているほどスライド補正量を大きい値としてもよい。
【0043】
同様に、補正実行部14は、注視領域マップC上における第二の他車両Mとドライバの視認範囲EAとの関係に基づいて、ドライバが第二の他車両Mを視認していると判定されやすくなるように注視領域マップCを補正する。例えばドライバの視認範囲EAが第二の他車両Mから右側に離れた位置を移動していたとする。この場合、補正実行部14は、例えば注視領域マップCにおいて第二の他車両Mに対応する領域を右にずらす右寄せ補正を行う。これにより、注視領域マップC上に座標変換されたドライバの視認範囲EAが第二の他車両Mに向かってスライドし、ドライバが第二の他車両Mを視認していると判定されやすくなる。
【0044】
なお、補正実行部14は、注視領域マップCにおいて第一の他車両Nに対応する領域ではなく、当該領域の周辺領域や当該領域を除くマップ全体をスライドさせることで、ドライバが第一の他車両Nを視認していると判定されやすくしてもよい。
【0045】
補正実行部14は、対象物に対応する領域ごとに補正回数を制限してもよい。補正実行部14は、所定回数の補正を行った領域に対しては、補正条件を厳しくして補正が発生しにくくしてもよく、補正量を減少させてもよい。所定回数は一回であってもよく、二回であってもよく、三回以上であってもよい。補正条件は例えば各種の閾値の値を判定されにくい値に変更することで厳しくすることができる。
【0046】
[視認判定装置の処理]
次に、本実施形態に係る視認判定装置100の処理について
図3を参照して説明する。
図3は、視認範囲補正処理の一例を示すフローチャートである。視認範囲補正処理は、車両のイグニッションがONの状態のときに繰り返し実行される。
【0047】
図3に示すように、視認判定装置100の視認判定ECU10は、S10として、視認範囲推定部11によりドライバの視認範囲EAの推定を行う。ドライバモニタカメラ1の撮像したドライバ撮像画像に基づいて、注視領域マップC上のドライバの視認範囲EAを推定する。
【0048】
S11において、視認判定ECU10は、物体認識部12により車両の前方の物体を認識する。物体認識部12は、外部センサ2の検出結果に基づいて、注視領域マップC上の物体の位置、物体の移動方向、及び物体の移動速度を認識する。物体認識部12は、注視領域マップC上の物体の移動ベクトルも認識する。
【0049】
S12において、視認判定ECU10は、補正実行部14により視認範囲EAの移動ベクトルBEが一定以上の長さであるか否かを判定する。視認判定ECU10は、視認範囲EAの移動ベクトルBEが一定以上の長さであると判定した場合(S12:YES)、S13に移行する。視認判定ECU10は、視認範囲EAの移動ベクトルBEが一定以上の長さであると判定しなかった場合(S12:NO)、視認範囲補正処理を終了する。
【0050】
S13において、視認判定ECU10は、補正実行部14により注視領域マップC上でドライバの視認範囲EAからの距離が所定範囲内の物体が存在するか否かを判定する。視認判定ECU10は、ドライバの視認範囲EAからの距離が所定範囲内の物体が存在すると判定された場合(S13:YES)、S14に移行する。視認判定ECU10は、ドライバの視認範囲EAからの距離が所定範囲内の物体が存在すると判定されなかった場合(S13:NO)、視認範囲補正処理を終了する。
【0051】
S14において、視認判定ECU10は、補正実行部14により注視領域マップC上で対象物の移動ベクトルとドライバの視認範囲EAの移動ベクトルBEが類似しているか否かを判定する。視認判定ECU10は、対象物の移動ベクトルとドライバの視認範囲EAの移動ベクトルBEが類似していると判定した場合(S14:YES)、S15に移行する。視認判定ECU10は、対象物の移動ベクトルとドライバの視認範囲EAの移動ベクトルBEが類似していると判定しなかった場合(S14:NO)、視認範囲補正処理を終了する。
【0052】
S15において、視認判定ECU10は、補正実行部14により車両の車速が補正禁止閾値未満であるか否かを判定する。視認判定ECU10は、車両の車速が補正禁止閾値未満であると判定した場合(S15:YES)、S16に移行する。視認判定ECU10は、車両の車速が補正禁止閾値未満であると判定しなかった場合(S15:NO)、視認範囲補正処理を終了する。
【0053】
S16において、視認判定ECU10は、補正実行部14により車両の走行姿勢が直進姿勢であるか否かを判定する。視認判定ECU10は、車両の走行姿勢が直進姿勢であると判定した場合(S16:YES)、S17に移行する。視認判定ECU10は、車両の走行姿勢が直進姿勢であると判定しなかった場合(S16:NO)、視認範囲補正処理を終了する。
【0054】
S17において、視認判定ECU10は、補正実行部14により注視領域マップCの補正(視認範囲の補正)を行う。補正実行部14は、例えば
図2(a)に示す注視領域マップC上における第一の他車両Nとドライバの視認範囲EAとの関係に基づいて、注視領域マップCを補正する。補正実行部14は、
図2(b)に示すようにドライバが第一の他車両Nを視認していると判定されやすくなるように領域をスライドさせることで注視領域マップCを補正する。
【0055】
以上説明した本実施形態に係る視認判定装置100によれば、補正条件が満たされた場合に、ドライバの視認範囲EAが対象物を視認していると判定されやすくなるように注視領域マップCの補正を行うことで、車両前方の物体に対するドライバの視認判定の精度を向上させることができる。
【0056】
更に、視認判定装置100によれば、車両の車速が補正禁止閾値未満ではない場合(車速が補正禁止閾値以上である場合)や車両の走行姿勢が直進姿勢ではない場合には注視領域マップCの補正が行われないので、不適切な状況における補正によってドライバの視認判定の精度が低下することを抑制することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。
【0058】
例えば補正条件は上述した全てを満たす必要はない。補正条件には、視認範囲EAの移動ベクトルBEの長さの判定(
図3のS12)を含めなくてもよい。補正条件には、少なくとも車両の車速の判定(
図3のS15)と車両の姿勢の判定(
図3のS16)が含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1…ドライバモニタカメラ、10…視認判定ECU、11…視認範囲推定部、12…物体認識部、13…視認判定部、14…補正実行部、100…視認判定装置、EA…視認範囲、EL…視線。