(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】推定システム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20250708BHJP
【FI】
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2023025017
(22)【出願日】2023-02-21
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 有康
(72)【発明者】
【氏名】田邉 千済
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-208893(JP,A)
【文献】特開2013-021857(JP,A)
【文献】特開2018-061400(JP,A)
【文献】特開2017-093151(JP,A)
【文献】特開2007-252094(JP,A)
【文献】特開2010-088261(JP,A)
【文献】特開2010-74868(JP,A)
【文献】特開2009-240147(JP,A)
【文献】特開2010-288359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置と、
前記蓄電装置に接続され、第1レグ回路、第2レグ回路および第3レグ回路を含む第1三相インバータと、
前記第1三相インバータに接続された第1三相交流モータとを備え、
前記第1レグ回路、前記第2レグ回路および前記第3レグ回路の各々は、上アーム回路と、前記上アーム回路と相補的にオンオフされる下アーム回路とを含み、
前記第1三相インバータのモードは、前記第1レグ回路の前記上アーム回路、前記第2レグ回路の前記下アーム回路、および前記第3レグ回路の前記下アーム回路がオンしている第1モードと、前記第1レグ回路の前記下アーム回路、前記第2レグ回路の前記上アーム回路、および前記第3レグ回路の前記上アーム回路がオンしている第2モードとを含み、
前記第1三相交流モータの第1相コイルと前記第1レグ回路との間を流れる交流電流を検出する第1電流センサと、
前記蓄電装置の電流値を推定する推定処理を実行する処理装置とをさらに備え、
前記推定処理は、前記第1三相インバータのモードが前記第1モードまたは前記第2モードである場合に前記第1電流センサの検出値
のみに従って前記電流値を推定する第1処理を含む、推定システム。
【請求項2】
前記第1処理は、前記第1電流センサの検出値のピーク値に従って前記電流値を推定する処理を含む、請求項1に記載の推定システム。
【請求項3】
前記第1三相交流モータの第2相コイルと前記第2レグ回路との間を流れる交流電流を検出する第2電流センサをさらに備え、
前記第1三相インバータのモードは、前記第1レグ回路の前記下アーム回路、前記第2レグ回路の前記上アーム回路、および前記第3レグ回路の前記下アーム回路がオンしている第3モードと、前記第1レグ回路の前記上アーム回路、前記第2レグ回路の前記下アーム回路、および前記第3レグ回路の前記上アーム回路がオンしている第4モードとを含み、
前記推定処理は、前記第1三相インバータのモードが前記第3モードまたは前記第4モードである場合に前記第2電流センサの検出値
のみに従って前記電流値を推定する第2処理をさらに含む、請求項2に記載の推定システム。
【請求項4】
前記第2処理は、前記第1電流センサが前記ピーク値を検出した後の、前記第2電流センサの検出値のピーク値に従って前記電流値を推定する処理を含む、請求項3に記載の推定システム。
【請求項5】
各々が、前記蓄電装置から電力を受けて作動するように構成された少なくとも1つの電気機器をさらに備え、
前記処理装置は、前記少なくとも1つの電気機器
が停止
して通電していない時に前記第1処理を実行する、請求項1に記載の推定システム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの電気機器は、
前記蓄電装置の出力電圧で作動するように構成された補機と、
前記出力電圧を降圧するように構成された電力変換器と、
前記蓄電装置に対して前記第1三相インバータと並列に接続された第2三相インバータとを含む、請求項5に記載の推定システム。
【請求項7】
蓄電装置と、
前記蓄電装置に接続され、第1レグ回路、第2レグ回路および第3レグ回路を含む第1三相インバータと、
前記第1三相インバータに接続された第1三相交流モータとを備え、
前記第1レグ回路、前記第2レグ回路および前記第3レグ回路の各々は、上アーム回路と、前記上アーム回路と相補的にオンオフされる下アーム回路とを含み、
前記第1三相インバータのモードは、前記第1レグ回路の前記上アーム回路、前記第2レグ回路の前記下アーム回路、および前記第3レグ回路の前記下アーム回路がオンしている第1モードと、前記第1レグ回路の前記下アーム回路、前記第2レグ回路の前記上アーム回路、および前記第3レグ回路の前記上アーム回路がオンしている第2モードとを含み、
前記第1三相交流モータの第1相コイルと前記第1レグ回路との間を流れる交流電流を検出する第1電流センサと、
前記蓄電装置と前記第1三相インバータとの間に接続され
、上アーム回路および下アーム回路を含む昇圧チョッパ回路
と、
前記蓄電装置の電流値を推定する推定処理を実行する処理装置とをさらに備え、
前記推定処理は、前記第1三相インバータのモードが前記第1モードまたは前記第2モードである場合に前記第1電流センサの検出値に従って前記電流値を推定する第1処理を含み、
前記処理装置は、前記昇圧チョッパ回路の前記上アーム回路の導通状態と、前記昇圧チョッパ回路の前記下アーム回路の非導通状態とが維持されており、かつ、前記第1三相交流モータの負荷が一定である時に前記第1処理を実行する
、推定システム。
【請求項8】
前記電流値を検出する電流検出部をさらに備え、
前記処理装置は、前記第1電流センサの検出値と前記電流検出部の検出値を比較することによって、前記電流検出部の故障の有無を診断する故障診断処理を実行するようにさらに構成される、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、推定システムに関し、特に、蓄電装置の電流値を推定する推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2006-20401号公報(特許文献1)は、バッテリ管理システムを開示する。このシステムは、バッテリ(蓄電装置)と、三相交流モータと、多数のセンサと、制御ユニットとを含む。各センサは、アクセル開度、車速、三相交流モータの回転数、およびバッテリの端子間電圧などの、対応する物理量を検出する。制御ユニットは、これらの物理量の検出値に従ってバッテリ電流の推定値を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各センサの検出値は、オフセット誤差およびゲイン誤差などの誤差を含み得る。上記のように多数の検出値を用いて推定値が算出されると、この推定値は、多数の検出値にそれぞれ含まれる多数の誤差の影響を受ける。これは、推定値の精度の低下を招く。
【0005】
本開示は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、蓄電装置の電流値を精度よく推定するための推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の推定システムは、蓄電装置と、第1三相インバータと、第1三相交流モータとを備える。第1三相インバータは、蓄電装置に接続され、第1レグ回路、第2レグ回路および第3レグ回路を含む。第1三相交流モータは、第1三相インバータに接続されている。第1レグ回路、第2レグ回路および第3レグ回路の各々は、上アーム回路と、上アーム回路と相補的にオンオフされる下アーム回路とを含む。第1三相インバータのモードは、第1レグ回路の上アーム回路、第2レグ回路の下アーム回路、および第3レグ回路の下アーム回路がオンしている第1モードと、第1レグ回路の下アーム回路、第2レグ回路の上アーム回路、および第3レグ回路の上アーム回路がオンしている第2モードとを含む。推定システムは、第1電流センサと、処理装置とをさらに備える。第1電流センサは、第1三相交流モータの第1相コイルと第1レグ回路との間を流れる交流電流を検出する。処理装置は、蓄電装置の電流値を推定する推定処理を実行する。推定処理は、第1三相インバータのモードが第1モードまたは第2モードである場合に第1電流センサの検出値に従って電流値を推定する第1処理を含む。
【0007】
インバータのモードが第1モードにある場合、第1レグ回路の上アーム回路、第1三相交流モータの中性点、第2レグ回路の下アーム回路および第3レグ回路の下アーム回路、ならびに蓄電装置からなる第1閉ループ回路が形成される。同様に、インバータのモードが第2モードにある場合、第1レグ回路の下アーム回路、第1三相交流モータの中性点、第2レグ回路の上アーム回路および第3レグ回路の上アーム回路、ならびに蓄電装置からなる第2閉ループ回路が形成される。上記の構成とすることにより、第1閉ループ回路または第2閉ループ回路において、第1電流センサの検出値が蓄電装置の電流値に等しいという仮定の上でこの電流値が推定される。これにより、電流値を推定するためには第1電流センサの検出値のみで十分であり、多数のセンサの検出値を要しない。その結果、多数のセンサの検出値を用いることに起因して電流値の推定精度が低下する事態が回避される。したがって、蓄電装置の電流値を精度よく推定することができる。
【0008】
好ましくは、第1処理は、第1電流センサの検出値のピーク値に従って電流値を推定する処理を含む。
【0009】
好ましくは、推定システムは、第1三相交流モータの第2相コイルと第2レグ回路との間を流れる交流電流を検出する第2電流センサをさらに備える。第1三相インバータのモードは、第1レグ回路の下アーム回路、第2レグ回路の上アーム回路、および第3レグ回路の下アーム回路がオンしている第3モードと、第1レグ回路の上アーム回路、第2レグ回路の下アーム回路、および第3レグ回路の上アーム回路がオンしている第4モードとを含む。推定処理は、第1三相インバータのモードが第3モードまたは第4モードである場合に第2電流センサの検出値に従って電流値を推定する第2処理をさらに含む。
【0010】
好ましくは、第2処理は、第1電流センサがピーク値を検出した後の、第2電流センサの検出値のピーク値に従って電流値を推定する処理を含む。
【0011】
第1処理および第2処理は、それぞれ、第1三相交流モータの第1相を流れる交流電流(第1交流電流)、および第2相を流れる交流電流(第2交流電流)の1周期ごとに実行される。これにより、電流値は、第1交流電流の1周期ごとのみならず第2交流電流の1周期ごとにも判定される。その結果、処理装置は、第1処理のみが実行される場合よりも多くのピーク値を電流値の推定値として用いることができる。処理装置は、例えば、これらのピーク値の絶対値の最大値と最小値との間の差分が所定の微小値未満であることに基づいて、第1電流センサおよび第2電流センサの双方が故障していないことを確認することができる。これにより、処理装置は、第1電流センサおよび第2電流センサの検出値に基づく推定値の信頼性が高いことを確認することができる。
【0012】
好ましくは、推定システムは、各々が、蓄電装置から電力を受けて作動するように構成された少なくとも1つの電気機器をさらに備える。処理装置は、当該少なくとも1つの電気機器の停止時に第1処理を実行する。
【0013】
上記少なくとも1つの電機機器が作動する場合、蓄電装置からインバータのみならず当該少なくとも1つの電機機器へも電力が供給される(電流が流れる)。その結果、第1電流センサの検出値が蓄電装置の電流値に等しいとは限らない。上記の構成とすることにより、蓄電装置から当該少なくとも1つの電機機器への電流が流れていない状態で第1推定処理が実行される。これにより、蓄電装置の電流値の推定精度をさらに向上させることができる。
【0014】
好ましくは、上記少なくとも1つの電気機器は、蓄電装置の出力電圧で作動するように構成された補機と、出力電圧を降圧するように構成された電力変換器と、蓄電装置に対して第1三相インバータと並列に接続された第2三相インバータとを含む。
【0015】
好ましくは、推定システムは、蓄電装置と第1三相インバータとの間に接続された昇圧チョッパ回路をさらに備える。昇圧チョッパ回路は、上アーム回路と、下アーム回路とを含む。処理装置は、昇圧チョッパ回路の上アーム回路の導通状態と、昇圧チョッパ回路の下アーム回路の非導通状態とが維持されており、かつ、第1三相交流モータの負荷が一定である時に第1処理を実行する。
【0016】
上アーム回路の導通状態と、下アーム回路の非導通状態とが維持されており、かつ、三相交流モータの負荷が一定である時、第1閉ループ回路または第2閉ループ回路の電流は、昇圧チョッパ回路のリアクトルに起因して変化しない。上記の構成とすることにより、車両が昇圧チョッパ回路を備える場合であっても、第1推定処理により蓄電装置の電流値を精度よく推定することができる。
【0017】
好ましくは、推定システムは、電流値を検出する電流検出部をさらに備える。処理装置は、第1電流センサの検出値と電流検出部の検出値を比較することによって、電流検出部の故障の有無を診断する故障診断処理を実行するようにさらに構成される。
【0018】
上記の構成とすることにより、電流検出部の故障の有無を正確に診断することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、蓄電装置の電流値を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施の形態に従う推定システムが搭載される車両の全体構成図である。
【
図2】モードAにおけるインバータおよびモータの導通状態を説明する図である。
【
図3】モードBにおけるインバータおよびモータの導通状態を説明する図である。
【
図4】モードCにおけるインバータおよびモータの導通状態を説明する図である。
【
図5】モードDにおけるインバータおよびモータの導通状態を説明する図である。
【
図6】モードEにおけるインバータおよびモータの導通状態を説明する図である。
【
図7】モードFにおけるインバータおよびモータの導通状態を説明する図である。
【
図8】インバータのモードの変化に起因するモータの各相電流の変化を例示する図である。
【
図9】電流センサのセンサ誤差を説明するための図である。
【
図10】ECU(Electronic Control Unit)が電流センサのピーク値に従ってバッテリ電流値を推定する処理を説明する図である。
【
図11】メモリに記憶されているデータを模式的に示す図である。
【
図13】実施の形態においてECUにより実行される処理の手順の一例を説明するフローチャートである。
【
図14】推定処理の手順を例示するフローチャートである。
【
図15】故障診断処理の手順を例示するフローチャートである。
【
図16】実施の形態においてECUにより実行される処理の手順の他の例を説明するフローチャートである。
【
図17】判定処理の手順の一例を表すフローチャートである。
【
図18】判定処理の手順の他の例を表すフローチャートである。
【
図19】変形例に従う推定システムが搭載される車両の全体構成図である。
【
図20】変形例においてECUにより実行される処理の手順の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明を繰り返さない。実施の形態は、推定システムが車両に搭載される例を説明する。
【0022】
図1は、実施の形態に従う推定システムが搭載される車両の全体構成図である。この車両は、4輪駆動可能な電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)である。
【0023】
図1を参照して、車両1は、バッテリ5と、監視ユニット7と、SMR(System Main Relay)8と、キャパシタC1と、電圧センサ9と、インバータ20,70と、モータ25,75と、センサユニット27,76とを備える。車両1は、電流センサ30u,30v,30wと、HMI(Human Machine Interface)装置50と、アクセルペダル52と、ブレーキペダル53と、スタートスイッチ(ST-SW)55とをさらに備える。車両1は、高圧補機80と、DC-DCコンバータ90と、低圧補機92とをさらに備える。
【0024】
バッテリ5と、監視ユニット7と、SMR8と、電圧センサ9と、インバータ20,70と、モータ25,75と、センサユニット27,76と、電流センサ30u,30v,30wと、HMI装置50と、高圧補機80と、DC-DCコンバータ90と、低圧補機92とは、本開示の「推定システム」の一例に相当する。
【0025】
バッテリ5は、ニッケル水素電池またはリチウムイオン電池などの二次電池である。バッテリ5の正極は、SMR8を介して正極線PL1に接続されている。バッテリ5の負極は、SMR8を介して負極線NLに接続されている。バッテリ5は、本開示の「蓄電装置」の一例に相当する。
【0026】
監視ユニット7は、電流センサ7aと、電圧センサ7bと、温度センサ7cとを含む。電流センサ7a、電圧センサ7b、および温度センサ7cは、それぞれ、バッテリ5の電流IB、電圧VB、および温度TBを検出する。電流センサ7aは、本開示の「電流検出部」の一例に相当する。
【0027】
SMR8は、バッテリ5に接続されている。キャパシタC1は、正極線PL1と負極線NLとの間に接続されており、正極線PL1と負極線NLとの間の電圧変動を平滑化する。電圧センサ9は、正極線PL1と負極線NLとの間の電圧VHを検出する。
【0028】
インバータ20は、三相インバータであって、SMR8を介してバッテリ5に接続されている。インバータ20は、レグ回路21u、レグ回路21v、およびレグ回路21wを含む。レグ回路21、レグ回路21v、およびレグ回路21wの各々は、上アーム回路22と、上アーム回路22と相補的にオンオフされる下アーム回路23とを含む。
【0029】
レグ回路21u、レグ回路21v、およびレグ回路21wの上アーム回路22を、それぞれ、上アーム回路22u,22v,22wとも表す。レグ回路21u、レグ回路21v、およびレグ回路21wの下アーム回路23を、それぞれ、下アーム回路23u,23v,23wとも表す。
【0030】
上アーム回路22uおよび下アーム回路23uの中間点は、モータ25のU相端子に接続されている。上アーム回路22vおよび下アーム回路23vの中間点は、モータ25のV相端子に接続されている。上アーム回路22wおよび下アーム回路23wの中間点は、モータ25のW相端子に接続されている。
【0031】
上アーム回路22uは、ダイオードD1と、スイッチング素子Q1とを含む。下アーム回路23uは、ダイオードD2と、スイッチング素子Q2とを含む。上アーム回路22vは、ダイオードD3と、スイッチング素子Q3とを含む。下アーム回路23vは、ダイオードD4と、スイッチング素子Q4とを含む。上アーム回路22wは、ダイオードD5と、スイッチング素子Q5とを含む。下アーム回路23wは、ダイオードD6と、スイッチング素子Q6とを含む。スイッチング素子Q1~Q6の各々は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、またはMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタである。ダイオードD1~D6は、それぞれ、スイッチング素子Q1~Q6に逆並列に接続されている。
【0032】
インバータ20は、バッテリ5からSMR8を介して供給される直流電力を交流電力に変換してモータ25に供給するように構成されている。インバータ20は、モータ25により発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ5に供給するようにも構成されている。インバータ20の動作については、後ほど詳述する。
【0033】
モータ25は、インバータ20および車両1の駆動輪(この例では、図示しない前輪)に接続された三相交流モータである。モータ25は、インバータ20からの三相交流電力を受けて回転して車両1の走行駆動力を発生する。モータ25のU相コイルLU、V相コイルLV、およびW相コイルLWは、中性点NPを介して互いに接続されている。モータ25のU相抵抗、V相抵抗、およびW相抵抗を、それぞれ、U相抵抗RU、V相抵抗RV、およびW相抵抗RWとも表す。
【0034】
電流センサ30u,30v,30wは、それぞれ、電流Iu,Iv,Iwを検出する。電流Iuは、U相コイルLUとレグ回路21uとの間を流れる交流電流である。電流Ivは、V相コイルLVとレグ回路21vとの間を流れる交流電流である。電流Iwは、W相コイルLWとレグ回路21wとの間を流れる交流電流である。
【0035】
HMI装置50は、車両1のユーザに各種情報を報知したり、各種のユーザ操作を受けたりする。ユーザ操作は、高圧補機80または低圧補機92の作動または停止を指示する操作を含む。アクセルペダル52およびブレーキペダル53の各々は、車両1の走行駆動力(走行速度)の要求値を設定するために操作される。
【0036】
スタートスイッチ55は、車両1の走行システムの起動状態および停止状態を切り替えるためにユーザにより操作される。走行システムの起動状態は、SMR8の閉成状態に相当する。走行システムの停止状態は、SMR8の開放状態に相当する。センサユニット27は、モータ25の回転速度ω、トルクTRおよび各相電圧を検出する。
【0037】
インバータ70は、三相インバータである。インバータ70は、バッテリ5に対してインバータ20と並列に接続されており、バッテリ5から電力を受けて作動するように構成されている。インバータ70は、インバータ20と同様に3つのレグ回路(図示せず)を含む。インバータ70は、本開示の「電気機器」の一例である。
【0038】
モータ75は、三相交流モータである。モータ75は、インバータ70に接続されており、インバータ70から供給される三相交流電力を受けて作動(回転)する。モータ75は、後輪(図示せず)を駆動して車両1の走行駆動力を発生するように構成されている。この例では、モータ25に由来する駆動力がメインの走行駆動力として用いられる一方で、モータ75に由来する駆動力は、車両1の4輪駆動時に用いられるものとする。センサユニット76は、モータ75の回転速度、トルク、各相電流(電流Iua,Iva,Iwa)、および各相電圧を検出する。
【0039】
高圧補機80は、この例ではエアコンであるが、バッテリヒータであってもよい。高圧補機80は、バッテリ5から電力を受けてバッテリ5の出力電圧で作動するように構成されている。高圧補機80は、本開示の「電気機器」の一例である。高圧補機80には、電流センサ81が設けられている。電流センサ81は、高圧補機80の入力電流IC1を検出するように構成されている。高圧補機80の停止時、入力電流IC1は零である。
【0040】
DC-DCコンバータ90は、バッテリ5から電力を受けて作動するように構成された電力変換器である。DC-DCコンバータ90は、バッテリ5の出力電圧を(例えば、12Vに)降圧する。DC-DCコンバータ90は、本開示の「電気機器」の一例である。DC-DCコンバータ90には、電流センサ91が設けられている。電流センサ91は、DC-DCコンバータ90の入力電流IC2を検出するように構成されている。DC-DCコンバータ90の停止時、入力電流IC2は零である。
【0041】
低圧補機92は、例えばオーディオ機器である。低圧補機92は、DC-DCコンバータ90により降圧された電圧で作動する。
【0042】
ECU100は、プロセッサ102と、メモリ104とを含む。プロセッサ102は、例えばCPU(Central Processing Unit)であって、各種の演算処理を実行する。メモリ104は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含む(いずれも図示せず)。ROMは、プロセッサ102により実行されるプログラムを記憶する。
【0043】
ECU100は、SMR8、インバータ20,70、モータ25,75、HMI装置50、高圧補機80、DC-DCコンバータ90、および低圧補機92などの、車両1の各種機器を制御する。ECU100は、監視ユニット7、電圧センサ9、センサユニット27,76、および電流センサ30u,30v,30w,81,91の検出値、アクセルペダル52もしくはブレーキペダル53の操作量、または、HMI装置50もしくはスタートスイッチ55へのユーザ操作に従って、上記各種機器を制御する。ECU100は、監視ユニット7の検出値に従ってバッテリ5のSOC(State Of Charge)を推定する。
【0044】
ECU100は、高圧補機80の電力消費が基準消費量未満である場合に高圧補機80を停止可能に構成されている。同様に、ECU100は、低圧補機92の電力消費が基準消費量未満である場合にDC-DCコンバータ90を停止可能に構成されている。基準消費量を示す値は、メモリ104に記憶されている。
【0045】
ECU100は、車両1の走行駆動力の要求値が基準要求値未満である場合(例えば、アクセルペダル52の開度が所定開度未満である場合)にインバータ20,70のうちインバータ70を停止可能に構成されている。インバータ70の停止時、車両1は、インバータ20が作動している限り2輪駆動により走行する。基準要求値を示す値は、メモリ104に記憶されている。
【0046】
ECU100は、上アーム回路22u,22v,22wの各々をオンオフする。上アーム回路22u,22v,22wをオンオフすることは、それぞれ、スイッチング素子Q1,Q3,Q5をオンオフすることに相当する。ECU100は、下アーム回路23u,23v,23wの各々をオンオフする。下アーム回路23u,23v,23wをオンオフすることは、それぞれ、スイッチング素子Q2,Q4,Q6をオンオフすることに相当する。ECU100は、下アーム回路23u,23v,23wを、それぞれ、上アーム回路22u,22v,22wと相補的にオンオフする。
【0047】
ECU100は、信号S1~S6を通じてスイッチング素子Q1~Q6のオンオフを制御し、それによりインバータ20を制御する。
【0048】
図2~
図7を用いて、インバータ20の動作について説明する。
図2~
図7の説明において、SMR8が閉成状態にあり、かつ、インバータ70(モータ75)、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90が停止しているものとする。以下に説明するように、インバータ20のモード(スイッチング状態)は、モードA~モードFを含む。
【0049】
図2は、モードAにおけるインバータ20およびモータ25の導通状態を説明する図である。
図2を参照して、モードAにおいて、上アーム回路22u,22w、および下アーム回路23vがオンしており、かつ、上アーム回路22v、および下アーム回路23u,23wがオフしている。上アーム回路22uおよび上アーム回路22w、中性点NP、下アーム回路23v、ならびにバッテリ5からなる閉ループ回路を「ループ回路CLA」とも表す(
図2の太線部)。モードAは、本開示の「第4モード」の一例に相当する。
【0050】
図3は、モードBにおけるインバータ20およびモータ25の導通状態を説明する図である。
図3を参照して、モードBにおいて、上アーム回路22u、および下アーム回路23v,23wがオンしており、かつ、上アーム回路22v,22w、および下アーム回路23uがオフしている。上アーム回路22u、中性点NP、下アーム回路23vおよび下アーム回路23w、ならびにバッテリ5からなる閉ループ回路を「ループ回路CLB」とも表す(
図3の太線部)。モードBは、本開示の「第1モード」の一例に相当する。
【0051】
図4は、モードCにおけるインバータ20およびモータ25の導通状態を説明する図である。
図4を参照して、モードCにおいて、上アーム回路22u,22v、および下アーム回路23wがオンしており、かつ、上アーム回路22w、および下アーム回路23u,23vがオフしている。上アーム回路22u,22v、中性点NP、下アーム回路23w、ならびにバッテリ5からなる閉ループ回路を「ループ回路CLC」とも表す(
図4の太線部)。
【0052】
図5は、モードDにおけるインバータ20およびモータ25の導通状態を説明する図である。
図5を参照して、モードDにおいて、上アーム回路22v、および下アーム回路23u,23wがオンしており、かつ、上アーム回路22u,22w、および下アーム回路23vがオフしている。上アーム回路22v、中性点NP、下アーム回路23uおよび下アーム回路23w、ならびにバッテリ5からなる閉ループ回路を「ループ回路CLD」とも表す(
図5の太線部)。モードDは、本開示の「第3モード」の一例に相当する。
【0053】
図6は、モードEにおけるインバータ20およびモータ25の導通状態を説明する図である。
図6を参照して、モードEにおいて、上アーム回路22v,22w、および下アーム回路23uがオンしており、かつ、上アーム回路22u、および下アーム回路23v,23wがオフしている。下アーム回路23u、中性点NP、上アーム回路22vおよび上アーム回路22w、ならびにバッテリ5からなる閉ループ回路を「ループ回路CLE」とも表す(
図6の太線部)。モードEは、本開示の「第2モード」の一例に相当する。
【0054】
図7は、モードFにおけるインバータ20およびモータ25の導通状態を説明する図である。
図7を参照して、モードFにおいて、上アーム回路22w、および下アーム回路23u,23vがオンしており、かつ、上アーム回路22u,22v、および下アーム回路23wがオフしている。上アーム回路22w、中性点NP、下アーム回路23u,23v、ならびにバッテリ5からなる閉ループ回路を「ループ回路CLF」とも表す(
図7の太線部)。
【0055】
モードA~モードFは、車両1の力行時または回生時のいずれにおけるモードであってもよい。
【0056】
図8は、インバータ20のモードの変化に起因するモータ25の各相電流の変化を例示する図である。この図は、スイッチング素子Q1~Q6のオンオフ状態(スイッチングパターン)と各モードとの関係をも一覧表示している。
【0057】
図8を参照して、下部分において、縦軸は、各相電流(電流Iu,IvまたはIw)の大きさを示し、横軸は、時間を示す。各相電流の振幅は、IAである。線210,220,230は、それぞれ、モードの変化とともに電流Iu,Iv,Iwがどのように変化するかを模式的に示す。電流の大きさが正である場合、当該電流がバッテリ5の正極から中性点NPに向けて流れる。電流の大きさが負である場合、当該電流が中性点NPからバッテリ5の負極に向けて流れる。この例では、理解を容易にするために、各相電流の歪み(高調波成分)は描かれていない。
【0058】
図9は、電流センサのセンサ誤差を説明するための図である。
図9を参照して、線405は、ある電流センサにより検出される電流と、この電流センサのセンサ誤差が取り得る範囲の上限および下限との関係を表す。この電流センサは、例えば、電流センサ30u,30v,30w,81または91である。センサ誤差は、オフセット誤差およびゲイン誤差を含み得る。オフセット誤差は、非検出電流の大きさとは無関係な、理想値(0)からの誤差である。ゲイン誤差は、非検出電流の大きさが増加するほど増加する誤差である。幅EW1は、上記電流センサのセンサ誤差が取り得る範囲の幅である。
【0059】
線415は、n個の(この例では、n=2)電流センサの各々が電流を検出する場合に各電流センサにより検出される電流と、各電流センサのセンサ誤差の合計が取り得る範囲の上限および下限との関係を表す。幅EW2は、これらのセンサ誤差の合計が取り得る範囲の幅であり、幅EW1よりも大きい。このように、多くの電流センサが用いられるほど(nが増加するほど)、センサ誤差の影響が大きくなる。
【0060】
図1を再び参照して、バッテリ5のSOCを正確に推定するためには、電流IBの検出値に含まれる誤差が小さいことを要する。そのような誤差が小さいためには、電流センサ7aが故障していない(正常である)ことが重要である。電流センサ7aの故障の有無を診断する一つの手法は、電流センサ7aとは別のバッテリ電流センサ(図示せず)を冗長的に車両1に搭載して、この冗長的な電流センサの検出値と、電流センサ7aの検出値との差分を算出することである。この差分が相対的に小さい場合には電流センサ7aが正常であると診断される。他方、差分が相対的に大きい場合には電流センサ7a(または冗長的なバッテリ電流センサ)が故障していると診断される。
【0061】
電流センサ7aの故障の有無を診断するために冗長的な電流センサを車両1に搭載することは、コスト増大を招く。そのようなコスト増大を回避するために、冗長的な電流センサ無しで電流IBを推定することが好ましい。電流IBの推定値と、電流IBの検出値(電流センサ7aの検出値)との差分を算出することで、この差分が大きいかまたは小さいかに従って電流センサ7aの故障の有無を診断することができる。
【0062】
実施の形態では、ECU100は、電流センサ7aの検出値に依存することなくバッテリ5の電流値(バッテリ電流値)を推定する推定処理を実行するように構成されている。バッテリ電流値を推定することは、電流IBの推定値を算出することに相当する。ECU100は、車両1の走行システムの起動中に推定処理を実行する。
【0063】
以下、ECU100による推定処理を説明する前に、比較例におけるECUによる電流IBの推定手法を説明する。比較例では、SMR8が閉成状態にあり、かつ、インバータ70(モータ75)、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90の全てが作動しているものとする。
【0064】
比較例のECUは、以下の式(1)に従って電流IBを推定する。
(電流IBの推定値)=(入力電流IC1の検出値)+(入力電流IC2の検出値)+(インバータ20の推定電流の算出値)+(インバータ70の推定電流の算出値)…(1)
式(1)の右辺の第3項は、モータ25の出力(回転数ωおよびトルクTRの積)とモータ25の電力損失との差分を電圧センサ9の検出値(電圧VH)により除算したものに相当する。当該電力損失は、モータ25の各相電流(電流Iu,Iv,Iw)の検出値、各相抵抗値、および回転数ωに従って算出される。同様に、右辺の第4項は、モータ75の出力(回転数およびトルクの積)とモータ75の電力損失との差分を電圧VHにより除算したものに相当する。当該電力損失は、モータ75の各相電流の検出値、各相抵抗値、および回転数に従って算出される。
【0065】
比較例のように電流IBを推定するためには、電流センサ30u~30w,81,91、センサユニット27,76を含む多数のセンサの検出値を要する。前述のように、各センサの検出値は、オフセット誤差およびゲイン誤差などの誤差を含み得る。比較例のように多数の検出値を用いてバッテリ電流値が推定されると、その推定値は、多数の検出値にそれぞれ含まれる多数のセンサ誤差の影響を受ける。その結果、各センサ誤差に起因する誤差が推定値において積み重ねられて、電流IBの推定値の精度が低下する可能性がある。したがって、比較例では、電流IBを精度よく推定することができない可能性がある。
【0066】
以下、
図1~
図3、
図5および
図6を再び参照して、実施の形態においてECU100により実行される電流IBの推定処理を説明する。
【0067】
ECU100は、インバータ20のモードがモードB(
図3)またはモードE(
図6)にある場合に、電流センサ30u(電流Iu)の検出値に従ってバッテリ電流値を推定する第1処理を実行する。第1処理は、前述の推定処理に含まれる。第1処理は、例えば、以下の式(2)に従って電流IBを推定することに相当する。
【0068】
(電流IBの推定値)=(入力電流IC1の検出値)+(入力電流IC2の検出値)+(電流Iuの検出値)+(電流Iuaの検出値)…(2)
式(2)は、インバータ20,70の推定電流の算出値に代えて、電流Iuの検出値と、電流Iuaの検出値とが用いられる点において比較例の式(1)とは異なる。式(2)の右辺の第4項(電流Iuaの検出値)は、電流Iua,IvaおよびIwaの検出値に基づいて定められるインバータ70の入出力電流の値として表されてもよい。
【0069】
実施の形態では、ECU100が、例えば、インバータ70(モータ75)、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90を停止している状態で第1処理を実行する例を主に説明する。この場合、電流IBを推定するためには式(2)の右辺の第1項、第2項、および第4項を要しないため、式(2)は、以下の式(3)により表される。
【0070】
(電流IBの推定値)=(電流Iuの検出値)…(3)
式(3)によれば、ループ回路CLB(
図3)またはループ回路CLE(
図6)において、電流センサ30uの検出値がバッテリ電流値に等しいという仮定の上でバッテリの電流値が推定される。これにより、電流センサ30vの検出値がバッテリ電流値としてそのまま用いられる。すなわち、バッテリ電流値を推定するためには電流センサ30uの検出値のみで十分であり、その他の多数のセンサの検出値を要しない。その結果、多数のセンサの検出値を用いることに起因してバッテリ電流値の推定精度が低下する事態が回避される。したがって、バッテリ電流値を精度よく推定することができる。
【0071】
同様に、ECU100は、インバータ20のモードがモードD(
図5)またはモードA(
図2)にある場合に、電流センサ30vの検出値(電流Iv)に従ってバッテリ電流値を推定する第2処理を実行することもできる。第2処理は、前述の推定処理に含まれる。第2処理は、例えば、以下の式(4)に従って電流IBを推定することに相当する。
【0072】
(電流IBの推定値)=(入力電流IC1の検出値)+(入力電流IC2の検出値)+(電流Ivの検出値)+(電流Ivaの検出値)…(4)
式(4)の右辺の第4項は、電流Iua,IvaおよびIwaの検出値に基づいて定められるインバータ70の入出力電流の値として表されてもよい。
【0073】
ECU100は、例えばインバータ70、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90を停止している状態で第2処理を実行する。この場合、式(4)は、以下の式(5)により表される。
【0074】
(電流IBの推定値)=(電流Ivの検出値)…(5)
式(5)によれば、ループ回路CLD(
図5)またはループ回路CLA(
図2)において、電流センサ30vの検出値がバッテリ電流値に等しいという仮定の上でバッテリ電流値が推定される。これにより、第1処理の場合と同様の理由でバッテリ電流値を精度よく推定することができる。
【0075】
同様に、ECU100は、インバータ20のモードがモードC(
図4)またはモードF(
図7)にある場合に、電流センサ30wの検出値(電流Iw)に従ってバッテリ電流値を推定する第3処理を実行することもできる。
【0076】
第1処理、第2処理および第3処理は、それぞれ、電流センサ30u,30v,30wの検出値のピーク(ピーク値)に従ってバッテリ電流値を推定する処理に相当する。以下、この点を詳しく説明する。
【0077】
図10は、ECU100が電流センサ30u,30v,30wのピーク値に従ってバッテリ電流値を推定する処理を説明する図である。この図は、
図8に基づいている。
【0078】
図10を参照して、線210,220,230は、それぞれ、
図8において説明されたものと同じである。線300は、バッテリ電流値(直流電流の値)を模式的に示す。ピーク値Iup+,Ivp+,Iwp+は、それぞれ、電流センサ30u,30v,30wの検出値の正のピーク値である。
【0079】
時刻taでは、電流センサ30uは、ピーク値Iup+を検出する(線210)。ECU100は、ピーク値Iup+をバッテリ電流値の推定値ESVとして判定する。時刻taの後、電流Iuが減少する一方で、電流Ivが増大する(線220)。
【0080】
時刻tbでは、電流センサ30vは、ピーク値Ivp+を検出する。ECU100は、ピーク値Ivp+を推定値ESVとして判定する。この場合、前述の第2処理は、電流センサ30uが時刻taにおいてピーク値Iup+を検出した後の電流センサ30vの検出値のピーク値Ivp+に従ってバッテリ電流値を推定する処理に相当する。時刻tbの後、電流Ivが減少する一方で、電流Iwが増大する(線230)。
【0081】
時刻tcでは、電流センサ30wは、ピーク値Iwp+を検出する。ECU100は、ピーク値Iwp+を推定値ESVとして判定する。時刻tcの後、電流Iwが減少する一方で、電流Iuが増大する。
【0082】
ECU100は、時刻tp,tq,trでも、それぞれ、ピーク値Iup-,Ivp-,Iwp-に従って推定処理を実行する。ピーク値Iup-,Ivp-,Iwp-は、それぞれ、電流センサ30u,30v,30wの検出値の負のピーク値である。この場合、時刻tpでは、推定値ESVがピーク値Ivp-である。時刻tqでは、推定値ESVがピーク値Iwp-である。時刻trでは、推定値ESVがピーク値Iup-である。
【0083】
このように、ECU100は、時刻ta,tb,tc,tp,tq,trで、それぞれ、ピーク値Iup+,Ivp+,Iwp+,Iup-,Ivp-,Iwp-を推定値ESVとして判定する。これにより、バッテリ電流値(線300)と、推定値ESVとの食い違いを可能な限り低減することができる。ピーク値Iup+,Ivp+,Iwp+,Iup-,Ivp-,Iwp-の各々は、本開示の「ピーク値」の一例に相当する。
【0084】
推定値ESVは、ピーク値Ivp-,Iup+,Iwp-,Ivp+,Iup-,Iwp+の間をこの順番で遷移する。なお、実際には、バッテリ5のSOCの時間変化に依存してバッテリ電流値が変化するため、これらのピーク値も時間tに依存して変化し得る。
【0085】
この例では、前述の第1処理、第2処理および第3処理は、それぞれ、電流Iu,Iv,Iwの半周期ごとに実行される(例えば、第1処理については時刻ta,trで実行され、第2処理についてはtp,tbで実行され、第3理についてはtq,tcで実行される)。これにより、推定値ESVは、電流Iuの半周期ごとのみならず電流Ivの半周期ごとおよび電流Iwの半周期ごとにも判定される。その結果、ECU100は、第1処理のみが実行される場合よりも多くのピーク値を推定値ESVとして用いることができる。ECU100は、例えば、ピーク値Ivp-,Iup+,Iwp-,Ivp+,Iup-,Iwp+の絶対値の最大値と最小値との間の差分が所定の微小値未満であることに基づいて、電流センサ30u,30v,30wのいずれも故障していないことを確認することができる(仮に、この差分が微小値よりも大きい場合、少なくとも1つの電流センサが故障している可能性がある)。これにより、ECU100は、電流センサ30u,30v,30wの検出値に基づく推定値ESVの信頼性が高いことを確認することができる。上記の微小値は、メモリ104に記憶されている。
【0086】
ECU100は、例えば電流センサ30uの検出値(一例として、ピーク値Iup+)と、電流センサ7aの検出値を比較する(例えば、これらの検出値の差分がしきい値未満であるか否かを判定する)ことによって、電流センサ7aの故障の有無を診断する故障診断処理を実行するようにも構成されている。
【0087】
例えば、上記の差分がしきい値以上である場合、バッテリ電流値の検出値が推定値から乖離しているため、電流センサ7aが故障している可能性がある。その一方で、差分がしきい値未満である場合、バッテリ電流値の検出値が推定値に近似しているため、電流センサ7aが正常であると考えられる。実施の形態では、バッテリ電流値の推定値が精度よく算出されるため、電流センサ7aの故障の有無を正確に診断することができる。なお、故障診断処理は、数秒で完了する。
【0088】
ECU100は、例えば、ピーク値Ivp-,Iup+,Iwp-,Ivp+,Iup-,Iwp+の絶対値の最大値と最小値との間の差分が前述の微小値未満である場合に、故障診断処理を実行してもよい。これにより、推定値ESVの信頼性が高い場合に電流センサ7aの故障の有無が診断される。その結果、故障診断処理の信頼性を保証できる。
【0089】
図11は、メモリ104に記憶されているデータを模式的に示す図である。
図11を参照して、データ500は、推定値ESVの判定のために用いられる電流センサ(対象センサ)と、インバータ20のモードとの関係を表す。対象センサは、インバータ20のモードごとに定められている。
【0090】
図1を再び参照して、実施の形態では、ECU100は、インバータ70、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90のうち少なくとも1つの停止時に推定処理を実行する。
【0091】
インバータ70、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90が作動する場合、それぞれ、バッテリ5からインバータ20(モータ25)のみならず、インバータ70、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90へも電力が供給される(インバータ70への入力電流、入力電流IC1,IC2が流れる)。よって、インバータ70、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90のうち少なくともいずれかが作動している間、電流センサ30uの検出値がバッテリ電流値に等しいとは限らない。
【0092】
上記のように、インバータ70、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90の少なくとも1つの停止時に推定処理を実行することで、インバータ70の入力電流、入力電流IC1,IC2の少なくとも1つが流れていない状態でバッテリ電流値を推定することができる。これにより、インバータ70の入力電流の検出値と、電流センサ81の検出値と、電流センサ81の検出値とのうち少なくとも1つが不要になる。よって、インバータ70の入力電流、入力電流IC1,IC2の全てが流れている状態で電流センサ30u,81,91の検出値と、センサユニット76の検出値とに基づいてバッテリ電流値が推定される例(具体的には、インバータ70の入力電流、入力電流IC1,IC2の検出値と、電流Iuの検出値との合計として電流IBの値が推定される例)と比較して、バッテリ電流値の推定のために用いられるセンサの数を低減することができる。その結果、バッテリ電流値を精度よく推定することができる。
【0093】
好ましくは、ECU100は、インバータ70、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90の全ての停止時に推定処理を実行する。これにより、インバータ70の入力電流、入力電流IC1,IC2のいずれもが流れていない状態で停止処理が実行される。その結果、電流センサ30uの検出値がバッテリ電流値に等しいという仮定の下でバッテリ電流値を推定することができる。したがって、バッテリ電流値の推定のために用いられるセンサの数を必要最小限にすることができ、それによりバッテリ電流値の精度推定をさらに高めることができる。
【0094】
ECU100は、インバータ70(モータ75)、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90のうち少なくともいずれかが作動している場合、例えば式(2)または式(4)に従って推定処理を実行する。このように推定処理を実行することでも、インバータ20の推定電流(式(1)の右辺の第3項)が算出される比較例と比較して、バッテリ電流値の推定のために用いられるセンサの数を低減することができる。
【0095】
図12は、実施の形態の利点を説明する図である。
図12を参照して、この例は、比較例および実施の形態の各々における、バッテリ電流値の推定誤差を表す。
【0096】
比較例では、推定誤差ER1は、ノイズ由来誤差NE1と、センサ由来誤差SE1とを含む。ノイズ由来誤差NE1は、例えば、スイッチング素子Q1~Q6のスイッチングノイズに由来する。バッテリ電流値が式(1)に従って推定されるため、センサ由来誤差SE1は、誤差SE11~SE15を含む。誤差SE11は、電圧VHに対する電圧センサ9のセンサ誤差に由来する。誤差SE12は、回転速度ωに対するセンサユニット27のセンサ誤差に由来する。誤差SE13は、トルクTRに対するセンサユニット27のセンサ誤差に由来する。誤差SE14は、電流センサ30u~30wのセンサ誤差に起因するインバータ20の電力損失の算出誤差に由来する。誤差SE15は、電流センサ81,91のセンサ誤差に由来する。
【0097】
実施の形態では、推定誤差ER2は、ノイズ由来誤差NE2と、センサ由来誤差SE2とを含む。ノイズ由来誤差NE1は、比較例と同様に、例えばスイッチングノイズに由来する。センサ由来誤差SE2は、前述の対象センサ(例えば、電流センサ30u)のセンサ誤差である。この例では、バッテリ電流値を推定するためには対象センサ以外のセンサを要しない。したがって、センサの数の増加に起因するセンサ誤差の増加を防止することができる。その結果、比較例の場合よりも精度よくバッテリ電流を推定することができる(ER2<ER1)。
【0098】
図13は、実施の形態においてECU100により実行される処理の手順の一例を説明するフローチャートである。このフローチャートは、走行システム起動中に、所定の周期ごとに実行される。以下、ステップを「S」と略す。
【0099】
図13を参照して、ECU100は、バッテリ電流値を推定する推定処理を実行し(S150)、推定処理の結果に従って故障診断処理を実行する(S160)。S160の後、処理は、リターンに移行する。以下、S150,S160の手順を詳細に説明する。
【0100】
図14は、推定処理の手順を例示するフローチャートである。このフローチャートの説明において
図2~
図7、
図10および
図11を適宜参照する。
【0101】
図14を参照して、ECU100は、データ500を用いて、インバータ20のモードに従って処理を切り替える(S152)。
【0102】
インバータ20のモードがモードAである場合、ECU100は、対象センサが電流センサ30vであると判定し、ピーク値Ivp-に従ってバッテリ電流値を推定する(S153)。この例では、ECU100はピーク値Ivp-を推定値ESVとして判定する。
【0103】
インバータ20のモードがモードBである場合、ECU100は、対象センサが電流センサ30uであると判定し、ピーク値Iup+に従ってバッテリ電流値を推定する(S154)。この例では、ECU100はピーク値Iup+を推定値ESVとして判定する。
【0104】
インバータ20のモードがモードCである場合、ECU100は、対象センサが電流センサ30wであると判定し、ピーク値Iwp-に従ってバッテリ電流値を推定する(S155)。この例では、ECU100はピーク値Iwp-を推定値ESVとして判定する。
【0105】
インバータ20のモードがモードDである場合、ECU100は、対象センサが電流センサ30vであると判定し、ピーク値Ivp+に従ってバッテリ電流値を推定する(S156)。この例では、ECU100はピーク値Ivp+を推定値ESVとして判定する。
【0106】
インバータ20のモードがモードEである場合、ECU100は、対象センサが電流センサ30uであると判定し、ピーク値Iup-に従ってバッテリ電流値を推定する(S157)。この例では、ECU100はピーク値Iup-を推定値ESVとして判定する。
【0107】
インバータ20のモードがモードFである場合、ECU100は、対象センサが電流センサ30wであると判定し、ピーク値Iwp+に従ってバッテリ電流値を推定する(S158)。この例では、ECU100はピーク値Iwp+を推定値ESVとして判定する。
【0108】
図15は、故障診断処理の手順を例示するフローチャートである。
図15を参照して、ECU100は、電流センサ7aから電流IBの検出値を取得する(S162)。
【0109】
ECU100は、推定値ESVと電流IBの検出値との差分Diffが基準値未満であるか否かを判定する(S164)。差分Diffが基準値未満である場合(S164においてYES)、ECU100は、電流センサ7aが正常であると診断する(S166)。差分Diffが基準値以上である場合(S164においてNO)、ECU100は、電流センサ7aが故障している可能性があると診断する(S168)。S166またはS168の後、処理は、
図13の「リターン」に移行する。
【0110】
図16は、実施の形態においてECU100により実行される処理の手順の他の例を説明するフローチャートである。このフローチャートは、S103が追加されている点において
図13のフローチャートとは異なるが、その他の点について
図13のフローチャートと同じである。
【0111】
図16を参照して、ECU100は、インバータ70(モータ75)、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90のうち少なくとも1つが停止しているか否かを判定するための判定処理を実行する(S103)。
【0112】
図17は、この判定処理の手順の一例を表すフローチャートである。
図17を参照して、ECU100は、インバータ70、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90のうち少なくとも1つの電機機器が停止しているか否かを判定する(S104)。当該少なくとも1つの電機機器が停止している場合(S104においてYES)、処理は、S150に進む。インバータ70、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90のうち全てが作動している場合(S104においてNO)、処理は、
図16の「リターン」に移行する。
【0113】
図18は、判定処理の手順の他の例を表すフローチャートである。
図18を参照して、このフローチャートは、S104に代えて、S105,S110,S120が実行される点において
図17のフローチャートとは異なる。
【0114】
図18を参照して、ECU100は、インバータ70が停止しているか否かに従って処理を切り替える(S105)。具体的には、ECU100は、走行駆動力の要求値が基準要求値未満であるか否かをアクセルペダル52の開度およびブレーキペダル53の開度に従って判定し、この判定の結果に従って処理を切り替える。インバータ70が作動している場合(S105においてNO)、処理は、
図16の「リターン」に移行する。インバータ70が停止している場合(S105においてYES)、処理は、S110に進む。
【0115】
ECU100は、高圧補機80が停止しているか否かに従って処理を切り替える(S110)。具体的には、ECU100は、高圧補機80の作動がHMI装置50を用いて指示されているか否かに従って処理を切り替える。高圧補機80が作動している場合(S110においてNO)、処理は、「リターン」に移行する。高圧補機80が停止している場合(S110においてYES)、処理は、S120に進む。
【0116】
ECU100は、DC-DCコンバータ90が停止しているか否かに従って処理を切り替える(S120)。具体的には、ECU100は、低圧補機92の作動がHMI装置50を用いて指示されているか否かに従って処理を切り替える。DC-DCコンバータ90が作動している場合(S120においてNO)、処理は、「リターン」に移行する。DC-DCコンバータ90が停止している場合(S120においてYES)、処理は、S150に進む。
【0117】
図18の例では、ECU100は、インバータ70、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90の全てが停止しているか否かを判定し、これらの全てが停止している場合に推定処理(S150)および故障診断処理(S160)を実行する。
【0118】
仮に車両が2つ以上のインバータ(走行用モータ)を含んでいない場合、S105は、省かれてもよい。実施の形態では、車両1が2つ以上の走行用モータ(モータ25,75)を含むため(S105においてYES)、処理は、S110に進む。
【0119】
ECU100は、高圧補機80が作動している場合であっても、高圧補機80の電力消費が基準消費量未満であることに基づいて、推定処理に先立って高圧補機80を停止してもよい。この場合、処理は、S110からS120に進む。同様に、ECU100は、DC-DCコンバータ90が作動している場合であっても、低圧補機92の電力消費が基準消費量未満であることに基づいて、推定処理に先立ってDC-DCコンバータ90を停止してもよい。この場合、処理は、S120からS150に進む。
【0120】
前述のように、故障診断処理は、数秒で完了する。よって、ECU100は、故障診断処理(推定処理)に先立って、高圧補機80、およびDC-DCコンバータ90のうち少なくとも1つの機器(例えば、これらの機器の全て)を上記のように停止する場合であっても当該少なくとも1つの機器を長期間にわたって停止することを要しない。したがって、ユーザビリティの低下が回避される。
【0121】
以上のように、実施の形態によれば、バッテリ電流値を精度よく推定することができる。実施の形態は、車両1(4輪駆動の電動車)などの複数のモータを搭載する車両のバッテリ電流値を推定する際に特に効果的である。そのような車両は、一般的に、多数のセンサを含む。これらのセンサの検出値に基づいて比較例のようにバッテリ電流値を推定することで、その推定精度を低下させる可能性がある。その一方で、実施の形態では、そのような車両においても、必要最小限の数の電流センサ(例えば、電流センサ30u,30vまたは30wのみ)を用いてバッテリ電流値を推定することができ、それによりバッテリ電流値の推定精度を高めることができる。その結果、冗長的な電流センサ無しで電流センサ7aの故障の有無を正確に診断することができる。したがって、冗長的な電流センサを車両1に搭載することに起因する、車両1の重量およびコスト増加を回避できる。
【0122】
[実施の形態の変形例]
図19は、この変形例に従う推定システムが搭載される車両の全体構成図である。
図19を参照して、車両1Aは、昇圧チョッパ回路110をさらに備える点において車両1とは異なる。
【0123】
昇圧チョッパ回路110は、バッテリ5とインバータ20との間に接続されている。昇圧チョッパ回路110は、バッテリ5の出力電圧を電圧VL(後述)として受けて昇圧する。昇圧された電圧は、インバータ20の入力電圧(電圧VH)として与えられる。昇圧チョッパ回路110は、本開示の「推定システム」の構成要素の一例である。
【0124】
昇圧チョッパ回路110は、リアクトルL11と、キャパシタC2と、電圧センサ111と、上アーム回路112と、下アーム回路114とを含む。
【0125】
リアクトルL1は、正極線PL2に接続されている。キャパシタC2は、正極線PL2と負極線NLとの間に接続されている。電圧センサ111は、正極線PL2と負極線NLとの間の電圧VLを検出する。
【0126】
上アーム回路112は、スイッチング素子Q11と、ダイオードD11とを含む。ダイオードD11は、スイッチング素子Q11に逆並列に接続されている。下アーム回路114は、スイッチング素子Q12と、ダイオードD12とを含む。ダイオードD12は、スイッチング素子Q12に逆並列に接続されている。
【0127】
ECU100は、スイッチング素子Q11およびスイッチング素子Q12のオンオフを制御する。ECU100は、上アーム回路112の導通状態と、下アーム回路114の非導通状態とを維持する上アームオン制御を実行可能に構成されている。上アームオン制御は、スイッチング素子Q11,Q12をそれぞれオンおよびオフに維持することに相当する。ECU100は、例えば、電圧VHと電圧VLとの差分が所定値よりも小さい場合(電圧VLが電圧VHに近似している場合)に上アーム制御を実行する。上アームオン制御によれば、スイッチング素子Q11,Q12における電力損失を低減するとともに、デッドタイムに起因する電圧変動を防止することができる。
【0128】
ECU100は、上アームオン制御を実行しており、かつ、モータ25の負荷が一定である時に前述の第1処理および第2処理を実行するように構成されている。ECU100は、モータ25の負荷が一定であるか否かをトルクTRに従って判定することができる。
【0129】
なお、モータ25の負荷が一定であるため、ループ回路CLA,CLB,CLC,CLD,CLEまたはCLFの電流(インバータ20の入出力電流)は、リアクトルL1の誘導起電力の変動により影響されない。その結果、この変形例において、実施の形態と同様にバッテリ電流値を精度よく推定することができる。
【0130】
図20は、この変形例においてECU100により実行される処理の手順の一例を説明するフローチャートである。
図20を参照して、このフローチャートは、S101,S102が追加されている点において
図16のフローチャートとは異なるが、その他の点について
図16のフローチャートと同じである。
【0131】
ECU100は、上アームオン制御を実行しているか否か(例えば、電圧VHと電圧VLとの差分が所定値よりも小さいか否か)に従って処理を切り替える。ECU100が上アームオン制御を実行していない場合(S101においてNO)、処理は、リターンに移行する。ECU100が上アームオン制御を実行している場合(S101においてYES)、処理は、S102に進む。
【0132】
ECU100は、モータ25の負荷が一定であるかをトルクTRに従って判定する(S102)。モータ25の負荷が一定でない場合(S102においてNO)、処理は、リターンに移行する。モータ25の負荷が一定である場合(S102においてYES)、処理は、S103に進む。
図20のフローチャートにおいて、S103が省かれてもよい。この場合、ECU100は、S102の後にS150を実行する。
【0133】
この変形例によれば、インバータ20が昇圧チョッパ回路110により昇圧された電圧を受けて作動する場合であってもバッテリ電流値を精度よく推定することができる。
【0134】
[その他の変形例]
車両1は、各ピーク値を検出するためのピーク検出回路(図示せず)をECU100とは別個に含んでもよい。当該ピーク検出回路は、それが検出するピーク値をECU100に与える。
【0135】
車両1は、電流センサ30wを含んでいなくてもよい。この場合、ECU100は、電流センサ30u,30vの検出値(電流Iu,Iv)に従って電流Iwを推定する。具体的には、ECU100は、例えば、前述の第1処理から第3処理のうち第1処理および第2処理のみを実行する(時刻ta,tb,tp,trにおいてのみバッテリ電流値を推定する)。
【0136】
車両1は、ハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)、プラグインハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、または燃料電池車(FCEV:Fuel Cell Electric Vehicle)などの電動車両であってもよい。
【0137】
車両1は、インバータ70およびモータ75を含んでいなくてもよい。この場合、車両1は、2輪駆動の電動車両である。
【産業上の利用可能性】
【0138】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0139】
1,1A 車両、5 バッテリ、7 監視ユニット、7a,30u,30v,30w,81,91 電流センサ、20,70 インバータ、21,21u,21v,21w レグ回路、22,22u,22v,22w,112 上アーム回路、23,23u,23v,23w,114 下アーム回路、25,75 モータ、27,76 センサユニット、80 高圧補機、90 DC-DCコンバータ、110 昇圧チョッパ回路。