(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】正極活物質粒子、正極活物質粒子の製造方法、及び、リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20250708BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250708BHJP
C01G 53/502 20250101ALI20250708BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250708BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
C01G53/502
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2023043303
(22)【出願日】2023-03-17
【審査請求日】2024-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】由淵 想
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】森本 勝太
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-033887(JP,A)
【文献】特開2019-169365(JP,A)
【文献】特開2002-313337(JP,A)
【文献】Chunyu Cui et al,Structure and Interface Design Enable Stable Li-Rich Cathode,Journal of the American Chemical Society,米国,American Chemical Society,2020年04月22日,142,8918-8927
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
C01G25/00-47/00;49/10-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子であって、
O2型構造を有し、
Li
aNa
bMn
x-pNi
y-qCo
z-rM
p+q+rO
2(ここで、1.0<a<1.30、0≦b≦0.20、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r≦0.15であり、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である)で示される化学組成を有し、かつ、
球状である、
正極活物質粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の正極活物質粒子であって、
粒子表面が、複数の結晶子によって構成される、
正極活物質粒子。
【請求項3】
正極活物質粒子の製造方法であって、
P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得ること、及び、
前記Na含有遷移金属酸化物粒子にイオン交換材料を接触させることで、前記Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiに置換して、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子を得ること、を含み、
前記Na含有遷移金属酸化物粒子が、球状であり、
前記Li含有遷移金属酸化物粒子が、球状であり、かつ
前記イオン交換材料が、水酸化リチウムとリチウム塩とを含む、
製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法であって、
前記Na含有遷移金属酸化物粒子が、Na
cMn
x-pNi
y-qCo
z-rM
p+q+rO
2(0<c<0.70、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r≦0.15であり、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である)で示される化学組成を有する、
製造方法。
【請求項5】
請求項3
又は4に記載の製造方法であって、
前駆体粒子を得ること、
前記前駆体粒子の表面をNa塩で被覆して、被覆粒子を得ること、及び、
前記被覆粒子を焼成して、前記Na含有遷移金属酸化物粒子を得ること、を含む、
製造方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の製造方法であって、
前記前駆体粒子の表面の40面積%以上を前記Na塩で被覆して、前記被覆粒子を得ること、を含み、
前記前駆体粒子が、球状である、
製造方法。
【請求項7】
リチウムイオン電池であって、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、
前記正極活物質層が、請求項1又は2に記載の正極活物質粒子を含む、
リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、正極活物質粒子、正極活物質粒子の製造方法、及び、リチウムイオン電池の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の正極活物質としてO2型構造を有するものが知られている。特許文献1に開示されているように、O2型構造を有する正極活物質は、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換することにより得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
O2型構造を有する正極活物質は、レート特性及び容量について、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
正極活物質粒子であって、
O2型構造を有し、
LiaNabMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、1.0<a<1.30、0≦b≦0.20、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r≦0.15であり、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である)で示される化学組成を有し、かつ、
球状である、
正極活物質粒子。
<態様2>
態様1の正極活物質粒子であって、
粒子表面が、複数の結晶子によって構成される、
正極活物質粒子。
<態様3>
正極活物質粒子の製造方法であって、
P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得ること、及び、
前記Na含有遷移金属酸化物粒子にイオン交換材料を接触させることで、前記Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiに置換して、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子を得ること、を含み、
前記イオン交換材料が、水酸化リチウムとリチウム塩とを含む、
製造方法。
<態様4>
態様3の製造方法であって、
前記Na含有遷移金属酸化物粒子が、球状であり、かつ、
前記Li含有遷移金属酸化物粒子が、球状である、
製造方法。
<態様5>
態様3又は4の製造方法であって、
前記Na含有遷移金属酸化物粒子が、NacMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(0<c<0.70、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r≦0.15であり、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である)で示される化学組成を有する、
製造方法。
<態様6>
態様3~5のいずれかの製造方法であって、
前駆体粒子を得ること、
前記前駆体粒子の表面をNa塩で被覆して、被覆粒子を得ること、及び、
前記被覆粒子を焼成して、前記Na含有遷移金属酸化物粒子を得ること、を含む、
製造方法。
<態様7>
態様6の製造方法であって、
前記前駆体粒子の表面の40面積%以上を前記Na塩で被覆して、前記被覆粒子を得ること、を含み、
前記前駆体粒子が、球状である、
製造方法。
<態様8>
リチウムイオン電池であって、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、
前記正極活物質層が、態様1又は2の正極活物質粒子を含む、
リチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0006】
本開示の正極活物質粒子は、優れたレート特性及び容量を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】正極活物質粒子の外観形状の一例を示すSEM写真図である。
【
図2】正極活物質粒子の製造方法の流れの一例を示している。
【
図3】P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子の製造方法の流れの一例を示している。
【
図4】リチウムイオン電池の構成の一例を概略的に示している。
【
図5】P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得る際の焼成条件の一例を示している。
【
図6A】実施例1に係る正極活物質粒子の外観形状を示すSEM写真図である。
【
図6B】実施例2に係る正極活物質粒子の外観形状を示すSEM写真図である。
【
図6C】比較例1に係る正極活物質粒子の外観形状を示すSEM写真図である。
【
図6D】比較例2に係る正極活物質粒子の外観形状を示すSEM写真図である。
【
図6E】参考例1に係る正極活物質粒子の外観形状を示すSEM写真図である。
【
図7】正極活物質粒子のX線回折パターンを示している。
【
図8A】実施例1に係るセルの初回充放電曲線を示している。
【
図8B】実施例2に係るセルの初回充放電曲線を示している。
【
図8C】比較例1に係るセルの初回充放電曲線を示している。
【
図8D】比較例2に係るセルの初回充放電曲線を示している。
【
図8E】参考例1に係るセルの初回充放電曲線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.正極活物質粒子
図1に一実施形態に係る正極活物質粒子の外観形状の一例を示す。一実施形態に係る正極活物質粒子は、O2型構造を有し、Li
aNa
bMn
x-pNi
y-qCo
z-rM
p+q+rO
2(ここで、1.0<a<1.30、0≦b≦0.20、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r≦0.15であり、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である)で示される化学組成を有し、かつ、球状である。
【0009】
1.1 正極活物質粒子の結晶構造
一実施形態に係る正極活物質粒子は、結晶構造として、少なくともO2型構造(空間群P63mcに属する)を有する。正極活物質粒子は、O2型構造を有するとともに、O2型構造以外の結晶構造を有していてもよい。O2型構造以外の結晶構造としては、例えば、O2型構造からLiを脱挿入した際に形成されるT♯2型構造(空間群Cmcaに属する)やO6型構造(空間群R-3mに属し、c軸長が2.5nm以上3.5nm以下、典型的には2.9nm以上3.0nm以下であって、同じく空間群R-3mに属するO3型構造とは異なる)等が挙げられる。正極活物質粒子は、主相としてO2型構造を有するものであってもよいし、主相としてO2型構造以外の結晶構造を有するものであってもよい。正極活物質粒子は、その充放電状態によって、主相となる結晶構造が変化し得る。
【0010】
一実施形態に係る正極活物質粒子は、1つの結晶子からなる単結晶であってもよいし、複数の結晶子を有する多結晶であってもよい。
図1に示されるように、正極活物質粒子の表面は、複数の結晶子によって構成されていてもよい。正極活物質粒子の表面が複数の結晶子を有する場合、正極活物質粒子の表面に結晶粒界が存在することとなる。ここで、結晶粒界は、インターカレーションの入口及び出口となる場合がある。すなわち、正極活物質粒子が、その表面に複数の結晶子を有する場合、インターカレーションの出入り口が多くなって反応抵抗が低下する効果、リチウムイオンの移動距離が短くなって拡散抵抗が減少する効果、充放電時の膨張収縮量の絶対量が少なくなり、割れが発生し難くなる効果、などが期待できる。
【0011】
一実施形態に係る正極活物質粒子を構成する結晶子のサイズは、大きくても小さくてもよいが、結晶子のサイズが小さいほうが、結晶粒界が多くなり、上述の有利な効果が発揮され易い。例えば、正極活物質粒子を構成する結晶子の直径が、1μm未満であると、より高い性能が得られ易い。尚、「結晶子」や「結晶子の直径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)によって正極活物質粒子の表面を観察することにより求めることができる。すなわち、正極活物質粒子の表面を観察し、結晶粒界によって囲まれる1つの閉じられた領域が観察された場合、当該領域を「結晶子」とみなす。当該結晶子について最大のフェレ径を求め、これを「結晶子の直径」とみなす。尚、仮に粒子が単結晶からなる場合、当該粒子そのものが一つの結晶子といえ、当該粒子の最大のフェレ径が「結晶子の直径」である。或いは、結晶子の直径は、EBSDやXRDによって求めることもできる。例えば、結晶子の直径は、XRDパターンの回折線の半値幅からシェラーの式に基づいて求めることができる。正極活物質粒子は、いずれかの方法により特定された結晶子の直径が1μm未満であると、より高い性能が得られ易い。
【0012】
一実施形態に係る正極活物質粒子の結晶子は、粒子表面に露出する第1面を有していてもよく、当該第1面は、平面状であってもよい。正極活物質粒子の表面は、複数の平面が連結された構造を有していてもよい。正極活物質粒子を製造する際、一の結晶子と他の結晶子とが互いに連結するまで、粒子の表面において結晶子を成長させることで、平面状の第1面を有する結晶子が得られ易い。
【0013】
1.2 正極活物質粒子の化学組成
一実施形態に係る正極活物質粒子は、LiaNabMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2で示される化学組成を有する。ここで、1.00<a<1.30、0≦b≦0.20、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r≦0.15である。また、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である。従来において、O2型構造を有する正極活物質粒子は、Liの組成比が1.00以下(上記のaが1.00以下)にしかならず、容量について改善の余地があった。これに対し、本開示の正極活物質粒子は、O2型構造を有しつつも、Liの組成比が1.00超(上記のaが1.00超)であり、優れた容量を有するものとなる(尚、上述の通り、従来の正極活物質粒子及び本開示の正極活物質粒子ともに、O2型構造とともに他の結晶構造が含まれていてもよい。)。このようなLiを過剰に含む正極活物質粒子は、本発明者による新たな方法により製造することができる。正極活物質粒子の製造方法については後述する。
【0014】
上記化学組成において、aは、1.00超であり、1.02以上、1.04以上、1.06以上、1.08以上、1.10以上、1.12以上、1.14以上、又は、1.16以上であってもよく、かつ、1.30以下であり、1.28以下、1.26以下、1.24以下、1.22以下、又は、1.20以下であってもよい。上記化学組成において、bは、0以上、0.01以上、0.02以上又は0.03以上であってもよく、かつ、0.20以下、0.15以下又は0.10以下であってもよい。上記化学組成において、xは、0以上、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上又は0.50以上であってもよく、かつ、1.00以下、0.90以下、0.80以下、0.70以下、又は、0.60以下であってもよい。上記化学組成において、yは、0以上、0.10以上、又は、0.15以上であってもよく、かつ、1.00以下、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、0.30以下、又は、0.20以下であってもよい。上記化学組成において、zは、0以上、0.10以上、0.20以上、又は、0.25以上であってもよく、かつ、1.00以下、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、又は、0.35以下であってもよい。Mは充放電に寄与しないものが多い。この点、p+q+rが0.15以下であることで、高い充放電容量が確保され易い。p+q+rは、0.10以下であってもよく、0.05以下であってもよく、0であってもよい。Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0015】
1.3 正極活物質粒子の形状
一実施形態に係る正極活物質粒子は、球状である。リチウムイオン二次電池の正極活物質層に球状の正極活物質粒子が含まれる場合、球状でない正極活物質粒子(例えば、板状の粒子)が含まれる場合と比較して、結晶子の成長が抑制され易くなり、結晶子が小さくなり易いというメリットがある。すなわち、正極活物質粒子が球状である場合、結晶子サイズの低減によって反応抵抗が低下し、活物質内部の拡散抵抗が低下し易い。さらに、球状化によって屈曲度が低減され、正極活物質層を構成する層内のリチウムイオン伝導抵抗が低下するものと考えられる。結果として、球状の正極活物質粒子は、球状でない正極活物質粒子と比較して、優れたレート特性を有するものとなり易い。このような球状の正極活物質粒子は、本発明者による新たな方法により製造することができる。正極活物質粒子の製造方法については後述する。尚、「球状」とは、円形度が0.80以上であることを意味する。正極活物質粒子の円形度は、0.81以上、0.82以上、0.83以上、0.84以上、0.85以上、0.86以上、0.87以上、0.88以上、0.89以上又は0.90以上であってもよい。正極活物質粒子の円形度は4πS/L2で定義される。ここで、Sは粒子の正投影面積であり、Lは粒子の正投影像の周囲長である。正極活物質粒子の円形度は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)や光学顕微鏡によって粒子の外観又は上述の断面形状を観察することにより求めることができる。
【0016】
一実施形態に係る正極活物質粒子は、中実の粒子であってよいし、中空の粒子であってもよいし、空隙を有する粒子であってもよい。正極活物質粒子が、中空の粒子である場合や空隙を有する粒子である場合、中空部や空隙部に液体を充填することが可能と考えられる。例えば、正極活物質粒子の外表面だけでなく内部にまで電解液が行き渡り、粒子と電解液との接触面積が増大し易い。
【0017】
1.4 正極活物質粒子のサイズ
一実施形態に係る正極活物質粒子のサイズは、特に限定されない。例えば、一実施形態に係る正極活物質粒子の直径Dは、0.1μm以上10μm以下、0.5μm以上8.0μm以下、又は、1.0μm以上6.0μm以下であってもよい。尚、正極活物質粒子の直径Dとは、SEM等で当該正極活物質粒子の外観又は断面形状を観察した場合における円相当直径をいう。正極活物質粒子が複数である場合における正極活物質粒子の直径Dとは、複数の正極活物質粒子の各々の円相当直径の数平均値である。
【0018】
2.正極活物質粒子の製造方法
Liを過剰に含む正極活物質粒子は、例えば、以下の方法によって製造することができる。
図2に示されるように、一実施形態に係る正極活物質粒子の製造方法は、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得ること(工程S1)、及び、前記Na含有遷移金属酸化物粒子にイオン交換材料を接触させることで、前記Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiに置換して、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子を得ること(工程S2)、を含む。ここで、前記イオン交換材料は、水酸化リチウムとリチウム塩とを含む。
【0019】
2.1 工程S1
工程S1においては、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得る。ここで、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子の形状によって、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子の形状が定まる。一実施形態に係る製造方法において、当該Na含有遷移金属酸化物粒子が、球状であり、かつ、当該Li含有遷移金属酸化物粒子が、球状である。すなわち、O2型構造を有し、かつ、球状であるLi含有遷移金属酸化物粒子を製造する場合は、工程S1において、P2型構造を有し、かつ、球状であるNa含有遷移金属酸化物粒子を得るとよい。
【0020】
P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子は、例えば、
図3に示される方法により製造することができる。すなわち、一実施形態に係る製造方法は、前駆体粒子を得ること(工程S11)、前記前駆体粒子の表面をNa塩で被覆して、被覆粒子を得ること(工程S12)、及び、前記被覆粒子を焼成して、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得ること(工程S13)、を含む。
【0021】
2.1.1 工程S11
工程S11においては、前駆体粒子を得る。ここで、当該前駆体粒子は、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素を含む塩であってもよい。当該前駆体粒子は、例えば、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩及び水酸化物のうちの少なくとも1つであってもよい。具体的には、MeCO3(MeはMn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素である)で示される塩であってもよいし、MeSO4で示される塩であってもよいし、Me(NO3)2で示される塩であってもよいし、Me(CH3COO)2で示される塩であってもよいし、Me(OH)2で示される化合物であってもよい。これらは水和物であってもよい。また、前駆体粒子は、遷移金属元素Me以外に、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素Mを含んでいてもよい。
【0022】
また、当該前駆体粒子は、球状であってもよい。「球状」の定義については上述した通りである。前駆体粒子が球状であることで、Na含有遷移金属酸化物粒子やLi含有遷移金属酸化物粒子(正極活物質粒子)の形状も球状となり得る。球状の前駆体粒子のサイズは特に限定されるものではない。球状の前駆体粒子は、例えば、共沈法やゾルゲル法等の溶液法によって得ることができる。具体的には、共沈法の場合、MeSO4の水溶液と、Na2CO3の水溶液とを準備し、各々の水溶液を滴下して混合することで、沈殿物が得られる。当該沈殿物は、MeCO3で示される球状の前駆体粒子である。MeSO4の水溶液において、Mの硫酸塩等を溶解させることで、前駆体粒子としてMeとMとを含む炭酸塩を得てもよい。
【0023】
2.1.2 工程S12
工程S12においては、上記の前駆体粒子の表面をNa塩で被覆して、被覆粒子を得る。一実施形態に係る製造方法は、上記の前駆体粒子の表面の40面積%以上をNa塩で被覆して、被覆粒子を得ること、を含むものであってもよい。ここで、当該前駆体粒子は、球状であってもよい。前駆体粒子が球状であり、かつ、前駆体粒子に対するNa塩の被覆率が40面積%以上であることで、球状のP2型粒子や球状のO2型粒子が得られ易くなる。当該被覆粒子は、上記の前駆体粒子の表面の50面積%以上、60面積%以上又は70面積%がNa塩で被覆されて得られるものであってもよい。Na塩としては、例えば、炭酸塩や硝酸塩等が挙げられる。
【0024】
前駆体粒子の表面をNa塩で被覆する方法としては、様々な方法が挙げられる。最終的に球状のO2型正極活物質粒子を得る場合は、例えば、転動流動コーティング法やスプレードライ法が採用されるとよい。すなわち、Na塩を溶解したコーティング溶液を準備し、前駆体粒子の表面全体にコーティング溶液を接触させると同時に、或いは、接触させた後に、乾燥する。コーティングの条件(温度、時間、回数等)を調整することで、例えば、前駆体粒子の表面の40面積%以上をNa塩で被覆することができる。本発明者の知見によると、Na塩の被覆率が小さいと、被覆粒子を焼成した場合に、被覆粒子の表面においてP2型結晶が異常成長し易く、板状のNa含有遷移金属酸化物粒子が得られる一方で、球状のNa含有遷移金属酸化物粒子が得られ難い。Na塩の被覆率が大きい場合、被覆粒子を焼成した場合に、P2型結晶の結晶子を小さくすることができ、被覆粒子の形状が前駆体粒子の形状と対応する球状となり易い。被覆粒子におけるNa塩の被覆量は、P2型構造を得るために十分となるような量(十分な量のNaがドープされるような量)であればよい。
【0025】
2.1.3 工程S13
工程S13においては、上記の被覆粒子を焼成して、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得る。ここで、当該Na含有遷移金属酸化物粒子は、板状であってもよいし、球状であってもよいが、上述の通り、球状である場合に、より優れた性能が発揮され易い。Na含有遷移金属酸化物粒子が板状である場合、その後に得られるO2型正極活物質も板状となる。一方で、Na含有遷移金属酸化物粒子が球状である場合、その後に得られるO2型正極活物質も球状となる。
【0026】
工程S13における焼成温度は、P2型構造が生成する温度であればよい。焼成温度が低過ぎると、Naドープが行われず、P2型構造も得られ難い。一方、焼成温度が高過ぎると、P2型構造ではなくO3型構造が生成し易い。焼成温度は、例えば、700℃以上1100℃以下であってもよく、800℃以上1000℃以下であってもよい。
【0027】
工程S13における焼成時間は、目的とするNa含有遷移金属酸化物粒子の形状に応じて、適宜調整されればよい。上述した通り、被覆粒子におけるNa塩の被覆率が小さい場合は、被覆粒子を焼成した場合に、被覆粒子の表面においてP2型結晶が異常成長し易く、板状のNa含有遷移金属酸化物粒子が得られ易い。一方で、被覆粒子におけるNa塩の被覆率が大きい場合は、当該被覆粒子を焼成した場合に、粒子の表面に結晶子の小さなP2型結晶が形成され易く、一のP2型結晶子と他のP2型結晶子とを互いに連結させるようにして、粒子の表面に沿ってP2型結晶を成長させることで、球状のNa含有遷移金属酸化物粒子を得ることができる。焼成時間が短過ぎると、Naドープが行われず、目的とするP2型構造が得られない。一方、焼成時間が長過ぎると、P2型構造が過剰に成長し、板状の粒子となる。本発明者が確認した限りでは、焼成時間が30分以上3時間以下である場合に、球状のNa含有遷移金属酸化物粒子が得られ易く、これを超えると板状のNa含有遷移金属酸化物粒子が得られ易い。
【0028】
工程S13における焼成雰囲気は、特に限定されず、例えば、大気雰囲気等の酸素含有雰囲気や不活性ガス雰囲気であってよい。
【0029】
以上の工程S11~S13を経て得られるNa含有遷移金属酸化物粒子は、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素と、Naと、Oとを含むものであってもよい。特に、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Ni及びCoのうちの少なくとも一方と、Oとを含む場合、中でも、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Niと、Coと、Oとを含む場合に、正極活物質粒子の性能が一層高くなり易い。Na含有遷移金属酸化物粒子は、NacMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2で示される化学組成を有するものであってもよい。ここで、0<c<0.70、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r≦0.15である。また、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である。Na含有遷移金属酸化物粒子がこのような化学組成を有する場合、P2型構造がさらに維持され易い。上記化学組成において、cは、0超、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上、0.50以上又は0.60以上であってもよい。上記化学組成において、xは、0以上、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上又は0.50以上であってもよく、かつ、1.00以下、0.90以下、0.80以下、0.70以下、又は、0.60以下であってもよい。上記化学組成において、yは、0以上、0.10以上、又は、0.15以上であってもよく、かつ、1.00以下、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、0.30以下、又は、0.20以下であってもよい。上記化学組成において、zは、0以上、0.10以上、0.20以上、又は、0.25以上であってもよく、かつ、1.00以下、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、又は、0.35以下であってもよい。Mは充放電に寄与しないものが多い。この点、p+q+rが0.15以下であることで、高い充放電容量が確保され易い。p+q+rは、0.10以下であってもよく、0.05以下であってもよく、0であってもよい。Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0030】
2.2 工程S2
工程S2においては、上記のNa含有遷移金属酸化物粒子にイオン交換材料を接触させることで、当該Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiに置換して、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子を得る。ここで、前記イオン交換材料は、水酸化リチウムとリチウム塩とを含む。
【0031】
イオン交換には、例えば、リチウム塩を含む水溶液を用いる方法と、溶融させたリチウム塩を用いる方法とがある。P2型構造が水の侵入により壊れやすいものである観点、及び、結晶性の観点から、上記の2つの方法のうち、溶融させたリチウム塩を用いる方法が好ましい。すなわち、上述のP2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子と当該リチウム塩とを混合したうえで、当該リチウム塩の融点以上の温度に加熱して、Na含有遷移金属酸化物粒子に溶融させたリチウム塩を接触させることで、イオン交換により、Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiに置換することができる。
【0032】
ここで、工程S2においては、イオン交換材料として、リチウム塩とともに水酸化リチウムを併用することが重要である。イオン交換時、Li源として、Li濃度の高いものを使用することで、イオン交換反応を促進することができ、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子におけるLiの組成比が、1.0を超える(上記のaが1.0を超える)ものとなる。リチウム塩とともに水酸化リチウムを併用することで、このような効果が得られ易い。
【0033】
工程S2において、イオン交換材料を構成するリチウム塩の種類は、特に限定されるものではない。一実施形態において、イオン交換材料を構成するリチウム塩は、塩化リチウム、臭化リチウム及びヨウ化リチウムのうちの少なくとも1種のハロゲン化リチウムを含むものであってもよい。特に、塩化リチウムを用いた場合に、より優れた性能が確保され易い。また、一実施形態において、イオン交換材料を構成するリチウム塩は、硝酸リチウムを含むものであってもよい。また、一実施形態において、イオン交換材料を構成するリチウム塩は、上記のハロゲン化リチウムと硝酸リチウムとの混合塩であってもよい。ハロゲン化リチウムや硝酸リチウムは、融点が低く、より低温でのイオン交換が可能となる。
【0034】
工程S2において、イオン交換材料に含まれる水酸化リチウムとリチウム塩との比率は、特に限定されるものではない。一実施形態に係るイオン交換材料において、水酸化リチウムとリチウム塩との合計(100モル%)に占める水酸化リチウムの割合は、10モル%以上90モル%以下、20モル%以上80モル%以下、40モル%以上75モル%以下、50モル%以上70モル%以下、又は、55モル%以上65モル%以下であってもよい。これにより、イオン交換材料の融点が低下し、イオン交換材料としてより最適なものとなる。一実施形態に係るイオン交換材料において、水酸化リチウムのモル比は、リチウム塩のモル比よりも多くてもよい。工程S2において、イオン交換材料は、水酸化リチウム及びリチウム塩のみからなるものであってもよいし、水酸化リチウム及びリチウム塩に加えて、何らかの任意成分が含まれていてもよい。
【0035】
工程S2において、イオン交換温度は、例えば、上記のイオン交換材料の融点以上、かつ、600℃以下、500℃以下、400℃以下、又は、300℃以下であってもよい。イオン交換温度が高過ぎると、O2型構造ではなく、安定相であるO3型構造が生成し易い。一方で、イオン交換にかかる時間を短時間とする観点からは、イオン交換における温度はできるだけ高温であるとよい。イオン交換時間は、特に限定されるものではないが、例えば、10分以上10時間以下、30分以上7時間以下、又は、1時間以上5時間以下であってもよい。本発明者が確認した限りでは、270℃以上320℃以下のイオン交換温度、かつ、1時間以上8時間以下のイオン交換時間において、O2型結晶構造を有する正極活物質粒子がより適切に製造され易い。
【0036】
3.リチウムイオン電池
本開示の正極活物質粒子は、リチウムイオン電池の正極活物質として採用され得る。
図4に一実施形態に係るリチウムイオン電池100の構成を概略的に示す。
図4に示されるように、リチウムイオン電池100は、正極活物質層20、電解質層30及び負極活物質層40を有する。前記正極活物質層20は、本開示の正極活物質粒子を有する。リチウムイオン電池100は、前記正極活物質層20、前記電解質層30及び前記負極活物質層40のうちの少なくとも1つが固体電解質を含んでいてもよい。さらに、リチウムイオン電池100は、固体電池であってもよい。固体電池とは、キャリアイオン伝導性を有する電解質が主に固体電解質によって構成されているものをいう。ただし、一部に液体成分が含まれていてもよい。或いは、リチウムイオン電池100は、液体成分を実質的に含まない全固体電池であってもよい。或いは、リチウムイオン電池100は、電解液を含む液系電池であってもよい。また、
図4に示されるように、リチウムイオン電池100は、正極活物質層20と接触する正極集電体10を備えていてもよい。また、リチウムイオン電池100は、負極活物質層40と接触する負極集電体50を備えていてもよい。
【0037】
3.1 正極集電体
正極集電体10は、リチウムイオン電池の正極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、正極集電体10は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等から選ばれる少なくとも1種の形状を有していてもよい。正極集電体10は、金属箔又は金属メッシュによって構成されていてもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体10は、複数枚の箔からなっていてもよい。正極集電体10を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、V、Mg、Pb、Ge、In、Sn、Zr、及び、ステンレス鋼等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。特に、酸化耐性を確保する観点等から、正極集電体10がAlを含むものであってもよい。正極集電体10は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。例えば、正極集電体10は、炭素コート層を有していてもよい。また、正極集電体10は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、正極集電体10が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体10の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上1mm以下であってもよく、下限は1μm以上であってもよく、上限は100μm以下であってもよい。
【0038】
3.2 正極活物質層
正極活物質層20は、正極活物質として、少なくとも、上記の本開示の正極活物質粒子を含む。また、正極活物質層20は、電解質を含んでいてもよい。電解質は、固体電解質であってもよいし、液体電解質であってもよいし、固体電解質と液体電解質との組み合わせであってもよい。また、正極活物質層20は、導電助剤及びバインダーのうちの一方又は両方を含んでいてもよい。また、正極活物質層20は、電解質と、導電助剤及びバインダーのうちの一方又は両方とを含んでいてもよい。また、正極活物質層20は、電解質と導電助剤とバインダーとを含んでいてもよい。さらに、正極活物質層20は、各種の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質層20における正極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、正極活物質層20全体(固形分全体)を100質量%として、正極活物質(本開示の正極活物質粒子、及び、その他の正極活物質の合計)の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%以下又は90質量%以下であってもよい。正極活物質層20の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の正極活物質層20であってもよい。正極活物質層20の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0039】
3.2.1 正極活物質
正極活物質層20は、正極活物質として、上記の本開示の正極活物質粒子のみを含むものであってよい。或いは、正極活物質層20は、上記の本開示の正極活物質粒子に加えて、これとは異なる種類の正極活物質(その他の正極活物質)を含んでいてもよい。本開示の技術による効果を一層高める観点からは、正極活物質層20におけるその他の正極活物質の含有量は、少量であってよい。例えば、正極活物質層20に含まれる正極活物質の全体を100質量%として、上記の本開示の正極活物質粒子に由来する正極活物質の含有量が、50質量%以上100質量%以下、60質量%以上100質量%以下、70質量%以上100質量%以下、80質量%以上100質量%以下、90質量%以上100質量%以下、95質量%以上100質量%以下、又は、99質量%以上100質量%以下であってもよい。
【0040】
その他の正極活物質は、リチウムイオン電池の正極活物質として公知のものをいずれも採用可能である。公知の活物質のうち、リチウムイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が、相対的に貴である物質を正極活物質とし、相対的に卑である物質を負極活物質として用いることができる。その他の正極活物質は、例えば、各種のリチウム含有化合物、単体硫黄及び硫黄化合物等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。正極活物質としてのリチウム含有化合物は、少なくとも1種の元素Mと、Liと、Oとを含むリチウム含有酸化物であってもよい。元素Mは、例えば、Mn、Ni、Co、Al、Mg、Ca、Sc、V、Cr、Cu、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Sn、Sb、W、Pb、Bi、Fe及びTiから選ばれる少なくとも1つであってもよく、Mn、Ni、Co、Al、Fe及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。より具体的には、リチウム含有酸化物は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルマンガン酸リチウム、コバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(Li1±αNixCoyMnzO2±δ(例えば、0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1))、スピネル系リチウム化合物(Li1+xMn2-x-yMyO4(MはAl、Mg、Co、Fe、Ni及びZnから選ばれる一種以上)で表わされる組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(例えば、Li1±αNipCoqAlrO2±δ(例えば、p+q+r=1))、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム(LiMPO4等、MはFe、Mn、Co及びNiから選ばれる一種以上)等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。その他の正極活物質は、構成元素として、少なくとも、Ni、Co及びMnのうちの少なくとも一つと、Liと、Oとを含むリチウム含有酸化物を含むものであってもよい。或いは、その他の正極活物質は、構成元素として、少なくとも、Ni、Co及びAlのうちの少なくとも一つと、Liと、Oとを含むリチウム含有酸化物を含むものであってもよい。その他の正極活物質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0041】
その他の正極活物質の形状は、リチウムイオン電池の正極活物質として一般的な形状であればよい。その他の正極活物質は、例えば、粒子状であってもよい。その他の正極活物質は、空隙を有するものであってよく、例えば、多孔質であってもよいし、中空のものであってもよい。その他の正極活物質は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。その他の正極活物質の平均粒子径D50は、例えば1nm以上500μm以下であってもよく、下限は5nm以上又は10nm以上であってもよく、上限は100μm以下、50μm以下又は30μm以下であってもよい。尚、平均粒子径D50とは、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。
【0042】
3.2.2 保護層
正極活物質(上記の本開示の正極活物質粒子、その他の正極活物質)の表面には、イオン伝導性の保護層が形成されていてもよい。すなわち、正極活物質層20は、正極活物質と保護層との複合体を含んでいてもよく、当該複合体において正極活物質の表面の少なくとも一部が保護層によって被覆されていてもよい。これにより、例えば、正極活物質と他の電池材料(後述の硫化物固体電解質等)との反応等が抑制され易くなる。イオン伝導性の保護層は、各種のイオン伝導性化合物を含み得る。イオン伝導性化合物は、例えば、イオン伝導性酸化物及びイオン伝導性ハロゲン化物等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0043】
イオン伝導性酸化物は、例えば、B、C、Al、Si、P、S、Ti、La、Zr、Nb、Mo、Zn及びWから選ばれる少なくとも1種の元素と、Liと、Oとを含むものであってもよい。イオン伝導性酸化物は、Nを含む酸窒化物であってもよい。より具体的には、イオン伝導性酸化物は、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、LiAlO2、Li4SiO4、Li2SiO3、Li3PO4、Li2SO4、Li2TiO3、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、Li2ZrO3、LiNbO3、Li2MoO4、Li2WO4、LiPON、Li2O-LaO2、Li2O-ZnO2等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。イオン伝導性酸化物は、各種のドープ元素によって一部の元素が置換されたものであってもよい。
【0044】
イオン伝導性ハロゲン化物は、例えば、後述のハロゲン化物固体電解質として例示された各種化合物のうちの少なくとも1種であってもよい。イオン伝導性のハロゲン化物は、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sn、Al、Sc、Ga、Bi、Sb、Zr、Hf、Ti、Ta、Nb、W、Y、Gd、Tb及びSmからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Cl、Br、I及びFからなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン元素と、Liとを含んでもよい。イオン伝導性のハロゲン化物は、Ti、Al、Gd、Ca、Zr及びYからなる群より選択される少なくとも1種と、Cl、Br、I及びFからなる群より選択される少なくとも1種と、Liとを含んでもよい。また、イオン伝導性のハロゲン化物は、Ti及びAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Cl、Br、I及びFからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Liとを含んでもよい。また、イオン伝導性のハロゲン化物は、例えば、LiとTiとAlとFとの複合ハロゲン化物であってもよい。
【0045】
正極活物質の表面に対する保護層の被覆率(面積率)は、例えば、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上100nm以下であってもよく、下限は1nm以上であってもよく、上限は20nm以下であってもよい。
【0046】
3.2.3 電解質
正極活物質層20は、電解質を含み得る。正極活物質層20に含まれ得る電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質であってもよく、固体電解質と液体電解質との組み合わせであってもよい。
【0047】
3.2.3.1 固体電解質
固体電解質としては、リチウムイオン電池用の固体電解質として公知のものを用いればよい。固体電解質は無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、イオン伝導性及び耐熱性に優れる。無機固体電解質としては、例えば、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、及び、イオン結合性の無機固体電解質などが挙げられる。無機固体電解質の中でも、硫化物固体電解質、さらにその中でも構成元素として少なくともLi、S及びPを含む硫化物固体電解質の性能が高い。或いは、無機固体電解質の中でも、イオン結合性の固体電解質、さらにその中でも構成元素として少なくともLi、Y及びハロゲン(Cl、Br、I及びFのうちの少なくとも1つ)を含む固体電解質の性能が高い。固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。固体電解質は粒子状であってもよい。固体電解質の平均粒子径(D50)は、例えば10nm以上10μm以下であってもよい。尚、本願にいう平均粒子径D50とは、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。固体電解質の25℃におけるイオン伝導度は、例えば、1×10-5S/cm以上、1×10-4S/cm以上、又は、1×10-3S/cm以上であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0048】
酸化物固体電解質は、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等から選ばれる1種以上であってもよい。また、酸化物固体電解質と液体電解質とが組み合わされた場合、イオン伝導性が改善され得る。
【0049】
硫化物固体電解質は、ガラス系硫化物固体電解質(硫化物ガラス)であってもよく、ガラスセラミックス系硫化物固体電解質であってもよく、結晶系硫化物固体電解質であってもよい。硫化物ガラスは、非晶質である。硫化物ガラスは、ガラス転移温度(Tg)を有するものであってもよい。また、硫化物固体電解質が結晶相を有する場合、結晶相としては、例えば、Thio-LISICON型結晶相、LGPS型結晶相、アルジロダイト型結晶相が挙げられる。
【0050】
硫化物固体電解質は、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、及び、S元素を含有するものであってもよい。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。また、硫化物固体電解質は、S元素をアニオン元素の主成分として含有するものであってもよい。
【0051】
硫化物固体電解質は、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-GeS2、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(ただし、m、nは正の数。Zは、Ge、Zn、Gaのいずれか。)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか。)から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0052】
硫化物固体電解質の組成は、特に限定されないが、例えば、xLi2S・(100-x)P2S5(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLi2S・(1-x)P2S5)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)等が挙げられる。或いは、硫化物固体電解質は、一般式:Li4-xGe1-xPxS4(0<x<1)で表される組成を有していてもよい。上記一般式において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Sの一部は、ハロゲン(F、Cl、Br及びIの少なくとも一つ)で置換されていてもよい。或いは、硫化物固体電解質は、Li7-aPS6-aXa(Xは、Cl、Br及びIの少なくとも一種であり、aは、0以上、2以下の数である)で表される組成を有していてもよい。aは、0であってもよく、0より大きくてもよい。後者の場合、aは、0.1以上であってもよく、0.5以上であってもよく、1以上であってもよい。また、aは、1.8以下であってもよく、1.5以下であってもよい。
【0053】
イオン結合性の固体電解質は、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sn、Al、Sc、Ga、Bi、Sb、Zr、Hf、Ti、Ta、Nb、W、Y、Gd、Tb及びSmからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。これらの元素は、水中でカチオンを生成し得る。また、イオン結合性固体電解質材料は、例えば、さらに、Cl、Br、I及びFからなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン元素を含んでもよい。これらの元素は、水中でアニオンを生成し得る。イオン結合性の固体電解質は、Gd、Ca、Zr及びYからなる群より選択される少なくとも1種と、Cl、Br、I及びFからなる群より選択される少なくとも1種と、Liとを含んでもよい。また、イオン結合性の固体電解質は、LiとYとを含み、かつ、Cl、Br、I及びFからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。より具体的には、イオン結合性の固体電解質は、LiとYとClとBrとを含むものであってもよく、LiとCaとYとGdとClとBrとを含むものであってもよく、又は、LiとZrとYとClとを含むものであってもよい。さらに具体的には、イオン結合性の固体電解質は、Li3YBr2Cl4、Li2.8Ca0.1Y0.5Gd0.5Br2Cl4、及び、Li2.5Y0.5Zr0.5Cl6のうちの少なくとも1種であってもよい。
【0054】
イオン結合性の固体電解質は、ハロゲン化物固体電解質であってもよい。ハロゲン化物固体電解質は、イオン伝導性に優れる。ハロゲン化物固体電解質としては、例えば、式(1):
LiαMβXγ ・・・(A)
で示される組成を有するものであってもよい。ここで、α、β及びγは、それぞれ独立して0より大きい値であり、Mは、Li以外の金属元素及び半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、Xは、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。尚、「半金属元素」は、B、Si、Ge、As、Sb及びTeからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。また、「金属元素」は、(i)周期表第1族から第12族中に含まれるすべての元素(ただし、水素を除く)および(ii)周期表第13族から第16族に含まれるすべての元素(ただし、B、Si、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、SおよびSeを除く。)を含むものであってもよい。金属元素は、ハロゲン化物イオンと共に無機化合物を形成し、カチオンとなり得る。
【0055】
式(A)において、Mは、Y(すなわち、イットリウム)を含んでもよい。Yを含むハロゲン化物固体電解質は、LiaMebYcX6(ここで、a+mb+3c=6、c>0、Meは、Li及びY以外の金属元素及び半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、mはMeの価数である)で示される組成を有するものであってもよい。Meは、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sc、Al、Ga、Bi、Zr、Hf、Ti、Sn、Ta及びNbからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0056】
ハロゲン化物固体電解質は、式(A1):Li6-3dYdX6で示される組成を有するものであってもよい。式(A1)において、Xは、Cl、Br及びIからなる群より選択される1種以上の元素である。dは、0<d<2を満たすものであってもよく、d=1であってもよい。ハロゲン化物固体電解質は、式(A2):Li3-3δY1+δCl6で示される組成を有するものであってもよい。式(A2)において、0<δ≦0.15であってもよい。ハロゲン化物固体電解質は、式(A3):Li3-3δY1+δBr6で示される組成を有するものであってもよい。式(A3)において、0<δ≦0.25であってもよい。ハロゲン化物固体電解質は、式(A4):Li3-3δ+aY1+δ-aMeaCl6-x-yBrxIyで示される組成を有するものであってもよい。式(A4)において、Meは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。式(A4)においては、例えば、-1<δ<2、0<a<3、0<(3-3δ+a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6および(x+y)≦6が満たされる。ハロゲン化物固体電解質は、式(A5):Li3-3δY1+δ-aMeaCl6-x-yBrxIyで示される組成を有するものであってもよい。式(A5)において、Meは、Al、Sc、Ga及びBiからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。式(A5)において、-1<δ<1、0<a<2、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、かつ、(x+y)≦6であってもよい。ハロゲン化物固体電解質は、式(A6):Li3-3δ-aY1+δ-aMeaCl6-x-yBrxIyで示される組成を有するものであってもよい。式(A6)において、Meは、Zr、Hf及びTiからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。式(A6)において、-1<δ<1、0<a<1.5、0<(3-3δ-a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、かつ、(x+y)≦6であってもよい。ハロゲン化物固体電解質は、式(A7):Li3-3δ-2aY1+δ-aMeaCl6-x-yBrxIyで示される組成を有するものであってもよい。式(A7)において、Meは、Ta及びNbからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。式(A7)において、-1<δ<1、0<a<1.2、0<(3-3δ-2a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、かつ、(x+y)≦6であってもよい。
【0057】
イオン結合性の固体電解質は、錯体水素化物固体電解質であってもよい。錯体水素化物固体電解質は、LiイオンとHを含む錯イオンとから構成され得る。Hを含む錯イオンは、例えば、非金属元素、半金属元素及び金属元素のうちの少なくとも1つを含む元素Mと、当該元素Mに結合したHと、を有するものであってもよい。また、Hを含む錯イオンは、中心元素としての元素Mと、当該元素Mを取り巻くHとが共有結合を介して互いに結合していてもよい。また、Hを含む錯イオンは、(MmHn)α-で表されるものであってもよい。この場合のmは任意の正の数字であり、nやαはmや元素Mの価数等に応じて任意の正の数字を採り得る。元素Mは錯イオンを形成し得る非金属元素や金属元素であればよい。例えば、元素Mは、非金属元素としてB、C及びNのうちの少なくとも1つを含んでいてもよく、Bを含んでいてもよい。また、例えば、元素Mは、金属元素として、Al、Ni及びFeのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。特に錯イオンがBを含む場合や、C及びBを含む場合に、より高いイオン伝導性が確保され易い。Hを含む錯イオンの具体例としては、(CB9H10)-、(CB11H12)-、(B10H10)2-、(B12H12)2-、(BH4)-、(NH2)-、(AlH4)-、及び、これらの組み合わせが挙げられる。特に、(CB9H10)-、(CB11H12)-、又は、これらの組み合わせを用いた場合に、より高いイオン伝導性が確保され易い。すなわち、錯体水素化物固体電解質は、Li、C、B及びHを含むものであってもよい。
【0058】
3.2.3.2 液体電解質
液体電解質(電解液)は、キャリアイオンとしてのリチウムイオンを含む液体である。電解液は水系電解液であっても非水系電解液であってもよい。電解液の組成はリチウムイオン二次電池の電解液の組成として公知のものと同様とすればよい。電解液は、水又は非水系溶媒にリチウム塩を溶解させたものであってもよい。非水系溶媒としては、例えば、カーボネート系溶媒が挙げられる。カーボネート系溶媒は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)等が挙げられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiTFSI、LiFSI等が挙げられる。
【0059】
3.2.4 導電助剤
正極活物質層20に含まれ得る導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、チタン、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0060】
3.2.5 バインダー
正極活物質層20に含まれ得るバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー等が挙げられる。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0061】
3.2.6 その他
正極活物質層20は、上記の各成分以外に、各種の添加剤を含んでいてもよい。例えば、分散剤や潤滑剤等である。
【0062】
正極活物質層20は、公知の方法を応用することにより製造することができる。例えば、上記の本開示の正極活物質粒子等を含む正極合材を、乾式又は湿式にて成形すること等によって正極活物質層20を容易に形成可能である。正極活物質層20は、正極集電体10とともに成形されてもよいし、正極集電体10とは別に成形されてもよい。
【0063】
3.3 電解質層
電解質層30は正極活物質層20と負極活物質層40との間に配置される。電解質層30は少なくとも電解質を含む。電解質層30は、固体電解質及び液体電解質(電解液)のうちの一方又は両方を含んでいてもよいし、さらに任意にバインダー及び各種の添加剤等を含んでいてもよい。電解質層30における電解質とバインダー等との含有量は特に限定されない。或いは、電解質層30は、電解液を保持するとともに、正極活物質層20と負極活物質層40との接触を防止するためのセパレータ等を有するものであってもよい。電解質層30の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上2mm以下であってもよく、下限は1μm以上であってもよく、上限は1mm以下であってもよい。
【0064】
電解質層30は、1つの層からなるものであってもよいし、複数の層からなるものであってもよい。例えば、電解質層30は、正極活物質層20側に配置された第1層と、負極活物質層40側に配置された第2層とを備えるものであってよく、第1層が第1電解質を含み、第2層が第2電解質を含むものであってもよい。第1電解質と第2電解質とは、互いに異なる種類のものであってもよい。第1電解質及び第2電解質は、各々、上記の酸化物固体電解質、硫化物固体電解質及びイオン結合性の固体電解質から選ばれる少なくとも1種であってもよい。例えば、第1層がイオン結合性の固体電解質を含み、第2層がイオン結合性の固体電解質及び硫化物固体電解質のうちの少なくとも1種を含むものであってもよい。
【0065】
電解質層30に含まれる電解質としては、上述の正極活物質層20に含まれ得る電解質として例示されたもの(固体電解質及び/又は液体電解質)の中から適宜選択されればよい。また、電解質層30に含まれ得るバインダーについても、上述の正極活物質層20に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。セパレータは、二次電池において通常用いられるセパレータであればよく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル及びポリアミド等の樹脂からなるもの等が挙げられる。セパレータは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。複層構造のセパレータとしては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ、又は、PP/PE/PP若しくはPE/PP/PEの3層構造のセパレータ等を挙げることができる。セパレータは、セルロース不織布、樹脂不織布、ガラス繊維不織布といった不織布からなるものであってもよい。
【0066】
3.4 負極活物質層
負極活物質層40は、少なくとも、負極活物質を含む。また、負極活物質層40は、任意に、電解質、導電助剤、バインダー及び各種の添加剤等を含んでいてもよい。負極活物質層40における各成分の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、負極活物質層40の固形分全体を100質量%として、負極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上又は70質量%以上であってもよく、100質量%以下、100質量%未満、95質量%以下又は90質量%以下であってもよい。或いは、負極活物質層40全体を100体積%として、負極活物質と、任意に電解質、導電助剤、バインダーとが合計で85体積%以上、90体積%以上又は95体積%以上含まれていてもよく、残部は空隙であってもその他の成分であってもよい。負極活物質層40の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。負極活物質層40の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上2mm以下であってもよく、下限は1μm以上、10μm以上又は30μm以上であってもよく、上限は1mm以下、500μm以下又は100μm以下であってもよい。
【0067】
3.4.1 負極活物質
負極活物質層40に含まれる負極活物質は、リチウムイオン電池の負極活物質として公知のものをいずれも採用可能である。公知の活物質のうち、所定のキャリアイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が上記の正極活物質と比べて卑な電位である種々の物質が採用され得る。負極活物質は、例えば、SiやSi合金や酸化ケイ素等のシリコン系活物質;グラファイトやハードカーボン等の炭素系活物質;チタン酸リチウム等の各種酸化物系活物質;金属リチウムやリチウム合金等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。負極活物質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。負極活物質の形状は、リチウムイオン電池の負極活物質として一般的な形状であればよい。例えば、負極活物質は粒子状であってもよい。負極活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。負極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上500μm以下であってもよく、下限は5nm以上、又は10nm以上であってもよく、上限は100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。或いは、負極活物質層40は、リチウム箔等のシート状(箔状、膜状)の活物質からなるものであってもよい。
【0068】
3.4.2 その他
負極活物質層40に含まれ得る電解質としては、上述の正極活物質層20に含まれ得る電解質として例示されたもの(固体電解質及び/又は液体電解質)の中から適宜選択されればよい。負極活物質層40に含まれ得る導電助剤は、例えば、上述の正極活物質層20に含まれ得る導電助剤として例示したものの中から適宜選択されればよい。負極活物質層40に含まれ得るバインダーは、例えば、上述の正極活物質層20に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質や導電助剤やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0069】
負極活物質層40は、上記の各成分以外に、各種の添加剤を含んでいてもよい。例えば、分散剤や潤滑剤等である。
【0070】
負極活物質層40は、公知の方法を応用することにより製造することができる。例えば、上記の各種成分を含む負極合材を乾式又は湿式にて成形すること等によって負極活物質層40を容易に形成可能である。負極活物質層40は、負極集電体50とともに成形されてもよいし、負極集電体50とは別に成形されてもよい。
【0071】
3.5 負極集電体
負極集電体50は、リチウムイオン電池の負極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、負極集電体50は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。負極集電体50は、金属箔又は金属メッシュであってもよく、或いは、カーボンシートであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。負極集電体50は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。負極集電体50を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、V、Mg、Pb、Ge、In、Sn、Zr、及び、ステンレス鋼等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。特に、還元耐性を確保する観点及びリチウムと合金化し難い観点から、負極集電体50がCu、Ni及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものであってもよい。負極集電体50は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。例えば、負極集電体50は、炭素コート層を有していてもよい。負極集電体50は、炭素コート層を有するアルミニウム箔であってもよい。また、負極集電体50は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、負極集電体50が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔の間に何らかの層を有していてもよい。負極集電体50の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上1mm以下であってもよく、下限は1μm以上であってもよく、上限は100μm以下であってもよい。
【0072】
3.6 その他の構成
リチウムイオン電池100は、上記の構成のほか、電池として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。リチウムイオン電池100は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。また、複数のリチウムイオン電池100が、任意に電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。リチウムイオン電池100は、このほか必要な端子等の自明な構成を備えていてよい。リチウムイオン電池100の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。リチウムイオン電池100は、二次電池であってもよい。
【0073】
4.リチウムイオン電池の製造方法
リチウムイオン電池100は、公知の方法を応用することで製造することができる。例えば、以下のようにしてリチウムイオン電池100が製造され得る。ただし、リチウムイオン電池100の製造方法は、以下の方法に限定されるものではなく、例えば、乾式成形等によって各層が形成されてもよい。
(1)正極活物質層を構成する正極活物質等を溶媒に分散させて正極スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。その後、ドクターブレード等を用いて、正極スラリーを正極集電体或いは後述の電解質層の表面に塗工し、その後乾燥させることで、正極集電体或いは電解質層の表面に正極活物質層を形成し、正極とする。ここで、正極活物質層はプレス成形されてもよい。
(2)負極活物質層を構成する負極活物質等を溶媒に分散させて負極スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。その後、ドクターブレード等を用いて、負極スラリーを負極集電体或いは後述の電解質層の表面に塗工し、その後乾燥させることで、負極集電体或いは電解質層の表面に負極活物質層を形成し、負極とする。ここで、負極活物質層がプレス成形されてもよい。
(3)負極と正極とで電解質層を挟み込むように各層を積層し、負極集電体、負極活物質層、電解質層、正極活物質層及び正極集電体をこの順に有する積層体を得る。電解質層は、例えば、電解質とバインダーとを含む電解質合剤を成形して得られたものであってよく、プレス成形されて得られたものであってもよい。ここで、さらに積層体がプレス成形されてもよい。積層体には必要に応じて端子等のその他の部材が取り付けられる。電解液を用いる場合は、電解質層にセパレータを採用してもよい。
(4)積層体を電池ケースに収容して密封することで、リチウムイオン電池が得られる。
【0074】
5.リチウムイオン電池の容量を増加させる方法
本開示の技術は、リチウムイオン電池の容量を増加させる方法としての側面も有する。すなわち、本開示のリチウムイオン電池の容量増加方法は、リチウムイオン電池の正極活物質層において、上記の本開示の正極活物質粒子を使用することを特徴とする。
【0075】
6.リチウムイオン電池を有する車両
上述の通り、本開示の正極合材を用いてリチウムイオン電池の正極活物質層が形成された場合、当該リチウムイオン電池の容量の増加が期待できる。このようなリチウムイオン電池は、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)及び電気自動車(BEV)から選ばれる少なくとも1種の車両において好適に使用され得る。すなわち、本開示の技術は、リチウムイオン電池を有する車両であって、前記リチウムイオン電池が、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、前記正極活物質層が、本開示の正極活物質粒子を含むもの、としての側面も有する。
【実施例】
【0076】
以上の通り、本開示の正極活物質層、リチウムイオン二次電池、及び、これら製造方法等の一実施形態について説明したが、本開示の技術は、その要旨を逸脱しない範囲で上記の実施形態以外に種々変更が可能である。以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
1.前駆体粒子の作製
MnSO4・5H2O、NiSO4・6H2O及びCoSO4・7H2Oを目的の組成比となるように秤量し、1.2mol/Lの濃度となるように蒸留水に溶解させて、第1液を得た。また、別の容器にNa2CO3を1.2mol/Lの濃度となるように蒸留水に溶解させて、第2液を得た。続いて、1000mLの純水をあらかじめ入れておいた反応容器に、上記の第1液及び第2液を、各々500mL、約4mL/min速度で滴下した。滴下終了後、室温にて撹拌速度150rpmで1h撹拌した。沈殿物を純水で洗浄し、遠心分離機で固液分離した。得られた沈殿物を120℃で一晩乾燥させ、乳鉢粉砕後に気流分級にて微粒子を取り除き、Mn、Ni及びCoを含む混合塩粒子(前駆体粒子)を得た。前駆体粒子は、0.80の円形度を有する球状粒子であった。
【0078】
2.P2型構造をするNa含有遷移金属酸化物粒子の作製
2.1 球状の場合(実施例1、2及び比較例1)
150g/LとなるようにNa2CO3と蒸留水を秤量した後、完全に溶解するまでスターラーを用いて撹拌することで、Na2CO3水溶液を作製した。Na2CO3水溶液中に上記の前駆体粒子を混合することで、スラリーとした。Na2CO3と上記の前駆体粒子とは、乾燥後にNa0.7Mn0.5Ni0.2Co0.3O2の組成となるように混合した。得られたスラリーをスプレードライによって乾燥させた。具体的には、スプレードライ装置DL410を用いて、スラリー送液速度30mL/min、入口温度200℃、循環風量0.8m3/min、噴霧エア圧0.3MPaの条件で、上記の前駆体粒子の表面の90面積%をNa2CO3で被覆し、被覆粒子を得た。
【0079】
大気雰囲気にて、アルミナるつぼを用いて、電気炉内で被覆粒子の焼成を行った。具体的には、被覆粒子に対して、下記表1及び
図5に示されるような、「第1昇温工程」、「予備焼成工程」、「第2昇温工程」、「本焼成工程」、「炉内冷却工程」及び「炉外冷却工程」を行った。尚、「炉内冷却工程」とは、電気炉内での冷却工程をいい、「炉外冷却工程」とは、電気炉外にて大気放冷を行う工程を意味する。その後、ドライ雰囲気で乳鉢にて粉砕を行うことで、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物(Na
0.7Mn
0.5Ni
0.2Co
0.3O
2)を得た。当該Na含有遷移金属酸化物は、0.82の円形度を有する球状粒子であった。
【0080】
2.2 板状の場合(参考例1及び比較例2)
Na
2CO
3と上記の前駆体粒子とを、Na
0.7Mn
0.5Ni
0.2Co
0.3O
2の組成となるようにドライ雰囲気にて秤量し、乳鉢で混合して、混合物を得た。大気雰囲気下にて、アルミナるつぼを用いて、電気炉内で混合物の焼成を行った。具体的には、混合物に対して、下記表1及び
図5に示されるような、「第1昇温工程」、「予備焼成工程」、「第2昇温工程」、「本焼成工程」、「炉内冷却工程」及び「炉外冷却工程」を行った。その後、ドライ雰囲気で乳鉢にて粉砕を行うことで、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物(Na
0.7Mn
0.5Ni
0.2Co
0.3O
2)を得た。当該Na含有遷移金属酸化物は、板状の粒子であった。
【0081】
【0082】
3.O2型構造を有する活物質の作製
3.1 実施例1、参考例1
LiOHとLiClとを65:35のモル比となるように秤量し、イオン交換に必要な最低Li量の10倍となるモル比でP2型球状粒子(実施例1)又はP2型板状粒子(参考例1)と混合して、混合物を得た。アルミナるつぼを用いて、大気雰囲気下で、300℃で4h、混合物の焼成を行い、焼成物を得た。当該焼成物に残存した塩を純水で洗浄し、真空ろ過にて固液分離し、沈殿物を得た。沈殿物を120℃で一晩乾燥させ、O2型構造を有する正極活物質粒子を得た。
【0083】
3.2 実施例2
LiOHとLiNO3とを60:40のモル比となるように秤量し、イオン交換に必要な最低Li量の10倍となるモル比でP2型球状粒子と混合して、混合物を得た。アルミナるつぼを用いて、大気雰囲気下で、300℃で1h、混合物の焼成を行い、焼成物を得た。当該焼成物に残存した塩を純水で洗浄し、真空ろ過にて固液分離し、沈殿物を得た。沈殿物を120℃で一晩乾燥させ、O2型構造を有する正極活物質粒子を得た。
【0084】
3.3 比較例1、2
LiClとLiNO3とを50:50のモル比となるように秤量し、イオン交換に必要な最低Li量の10倍となるモル比でP2型球状粒子(比較例1)又はP2型板状粒子(比較例2)と混合して、混合物を得た。アルミナるつぼを用いて、大気雰囲気下で、280℃で1h、混合物の焼成を行い、焼成物を得た。当該焼成物に残存した塩を純水で洗浄し、真空ろ過にて固液分離し、沈殿物を得た。沈殿物を120℃で一晩乾燥させ、O2型構造を有する正極活物質粒子を得た。
【0085】
3.4 イオン交換条件についての補足
実施例1、2、比較例1、2及び参考例1の各々のイオン交換条件を下記表2にまとめた。
【0086】
【0087】
4.正極活物質粒子の外観形状の観察
図6A~6Eに、実施例1、2、比較例1、2及び参考例1の各々の正極活物質粒子のSEM画像を示す。
図6Aが実施例1、
図6Bが実施例2、
図6Cが比較例1、
図6Dが比較例2、
図6Eが参考例1である。
図6D及び6Eに示されるように、板状のP2型粒子を用いた場合は、イオン交換後に得られるO2型構造を有する正極活物質粒子も板状となった。一方で、
図6A~6Cに示されるように、球状のP2型粒子を用いた場合は、イオン交換後に得られるO2型構造を有する正極活物質粒子も球状となった。実施例1に係る正極活物質粒子の円形度は、0.83、実施例2に係る正極活物質粒子の円形度は、0.81、比較例1に係る正極活物質粒子の円形度は、0.85であった。尚、板状のO2型正極活物質粒子は、実質的に1つの結晶子から構成されていた。一方、球状のO2型正極活物質粒子の表面は、複数の結晶子によって構成されており、当該結晶子の直径は、1μm未満であり、当該結晶子は、粒子表面に露出する第1面を有し、当該第1面が、平面状であった。
【0088】
5.正極活物質粒子の結晶構造
実施例1、2、比較例1、2及び参考例1の各々の正極活物質粒子について、X線回折測定を行った。結果を
図7に示す。
図7に示されるように、いずれの正極活物質粒子についても、O2型結晶構造を有するものであった。
【0089】
6.正極活物質粒子の元素分析
実施例1、2、参考例1、比較例1、2の各々の正極活物質粒子について、ICPによる元素分析を行った。結果を下記表3に示す。
【0090】
【0091】
7.評価用のセルの作製
実施例1、2、比較例1、2及び参考例1の各々の正極活物質粒子を用いてコインセルを作製した。コインセルの作製手順は以下の通りである。
(1)正極活物質粒子と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比で、正極活物質粒子:AB:PVdF=85:10:5となるように秤量し、N-メチル-2-ピロリドンに分散混合して、正極合材スラリーを得た。正極合材スラリーをアルミニウム箔上に塗工し、120℃で一晩真空乾燥させることで、正極活物質層と正極集電体との積層物である正極を得た。
(2)電解液として、TDDK-217(ダイキン社製)を用意した。
(3)負極として金属リチウム箔を用意した。
(4)正極、電解液及び負極を用いて、コインセル(CR2032)を作製した。
【0092】
8.充放電特性評価
25℃に保持した恒温槽において、2.0-4.8Vの電圧範囲で、0.1C(実施例1、2及び参考例1については1C=270mA/gであり、比較例1、2については1C=220mA/gである)で充電し、その後、0.5C、1C又は3Cで放電し、各々のレートにおける放電容量を測定した。初回充放電曲線の結果を
図8A~8Eに示す。
図8Aが実施例1、
図8Bが実施例2、
図8Cが比較例1、
図8Dが比較例2、
図8Eが参考例1である。また、各セルのレート特性を
図9に示す。
【0093】
9.評価結果
表3、
図6A~6E、
図7、
図8A~8E及び
図9に示される結果から以下のことが分かる。
(1)表3及び
図7に示されるように、実施例1、2及び参考例1に係る正極活物質粒子は、O2型構造を有するとともに、Liを過剰に含むもの(1.0<a)である。一方で、比較例1、2に係る正極活物質粒子は、O2型構造を有するとともに、Liが少ないもの(a<0.7)である。実施例1、2及び参考例1については、イオン交換材料として、リチウム塩とともに水酸化リチウムを併用したため、イオン交換が促進され、Li過剰系の正極活物質粒子が得られたものと考えられる。
(2)
図8A~8Eに示されるように、実施例1、2及び参考例1に係るセルは、比較例1、2に係るセルよりも、優れた初回充電容量及び初回放電容量を有する。実施例1、2及び参考例1に係るセルは、比較例1、2に係るセルよりも、初回充電時に負極へと供給可能なLi量が多いため、初回充電容量が高まったものと考えられる。また、比較例1、2のようにa<0.7である場合、正極活物質へのLi挿入時(放電時)に価数が変化する元素がNi、Mn、Coであると考えられる一方、実施例1、2及び参考例1のように1.0<aであるLi過剰系正極活物質の場合、Ni、Mn、Coに加えて酸素が寄与するものと考えられる。そのため、実施例1、2及び参考例1に係るセルは、比較例1、2に係るセルよりも、初回放電容量が高まったものと考えられる。
(3)
図9に示されるように、実施例1、2に係るセルは、参考例1に係るセルよりも、低レート放電時の容量と高レート放電時の容量との差が小さく、高レート放電時においても大きな容量を維持できることが分かる。すなわち、実施例1、2に係るセルは、参考例1に係るセルよりも、レート特性に優れる。実施例1、2に係る球状の正極活物質粒子(
図6A及び6B)は、参考例1に係る板状の正極活物質粒子(
図6E)よりも、結晶子の成長が抑制され、結晶子が小さくなって、反応抵抗が低下し、活物質内部の拡散抵抗が低下したものと考えられる。さらに、球状化によって屈曲度が低減され、正極を構成する層内のリチウムイオン伝導抵抗が低下したものと考えられる。結果として、レート特性が向上したものと考えられる。
【0094】
10.補足
尚、上記の実施例では、特定の化学組成を有する正極活物質粒子を例示したが、本開示の正極活物質粒子の化学組成はこれに限定されるものではない。例えば、正極活物質粒子は、結晶構造の安定化などを目的として、Ni、Mn及びCo以外のその他の元素Mを含んでいてもよい。元素Mについては上述した通りである。
【0095】
また、上記の実施例では、特定のイオン交換温度及びイオン交換時間にて正極活物質粒子を製造する場合を例示したが、イオン交換温度及びイオン交換時間は、これに限定されるものではない。本発明者が確認した限りでは、270℃以上320℃以下のイオン交換温度、かつ、1時間以上8時間以下のイオン交換時間において、O2型結晶構造を有する正極活物質粒子がより適切に製造され易い。
【0096】
11.まとめ
以上の実施例から、以下の要件(1)~(3)を満たす正極活物質粒子は、優れたレート特性及び容量を有するものといえる。
(1)正極活物質粒子が、O2型構造を有する。
(2)正極活物質粒子が、LiaNabMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、1.0<a<1.30、0≦b≦0.20、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r≦0.15であり、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である)で示される化学組成を有する。
(3)正極活物質粒子が、球状である。
【0097】
また、以上の実施例及び参考例から、Li過剰系のO2型正極活物質粒子は、例えば、以下の要件(4)を満たす方法により製造可能であるといえる。
(4)正極活物質粒子の製造方法は、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得ること、及び、前記Na含有遷移金属酸化物粒子にイオン交換材料を接触させることで、前記Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiに置換して、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子を得ること、を含み、かつ、前記イオン交換材料が、水酸化リチウムとリチウム塩とを含む。
【符号の説明】
【0098】
100 リチウムイオン電池
10 正極集電体
20 正極活物質層
30 電解質層
40 負極活物質層
50 負極集電体