(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】二次電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20250708BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250708BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250708BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250708BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250708BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250708BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20250708BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20250708BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
H02J7/00 B
(21)【出願番号】P 2023058833
(22)【出願日】2023-03-31
【審査請求日】2024-04-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】野本 和誠
【審査官】山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110931843(CN,A)
【文献】国際公開第2021/060541(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/080870(WO,A1)
【文献】特開2016-185905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
H01M 10/05 -10/0587
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
H01M 10/42 -10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池システムであって、二次電池及び制御部を備え、
前記二次電池は、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質、硫化物固体電解質及びフッ素系液体材料を含み、
前記正極活物質は、Li含有酸化物であり、
前記Li含有酸化物は、構成元素として、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1種の遷移金属元素を含み、
前記正極活物質層は、前記フッ素系液体材料として、パーフルオロポリエーテルを含み、
前記制御部は、前記二次電池の充電終止電位における正極電位が4.3V(vs.Li/Li+)以上となるように、前記二次電池の充電を制御する、
二次電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は二次電池システムを開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、二次電池の正極活物質層において、正極活物質とともに硫化物固体電解質を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の二次電池は、高電圧領域(例えば、4.3V(vs.Li/Li+)以上)において抵抗が増加し易い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
二次電池システムであって、二次電池及び制御部を備え、
前記二次電池は、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質、硫化物固体電解質及びフッ素系液体材料を含み、
前記制御部は、前記二次電池の充電終止電位における正極電位が4.3V(vs.Li/Li+)以上となるように、前記二次電池の充電を制御する、
二次電池システム。
<態様2>
態様1の二次電池システムであって、
前記正極活物質層は、前記フッ素系液体材料として、パーフルオロポリエーテルを含む、
二次電池システム。
<態様3>
態様1又は2二次電池システムであって、
前記正極活物質は、Li含有酸化物である、
二次電池システム。
<態様4>
態様3の二次電池システムであって、
前記Li含有酸化物は、構成元素として、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1種の遷移金属元素を含む、
二次電池システム。
【発明の効果】
【0006】
本開示の二次電池システムによれば、高電圧領域における二次電池の抵抗増加が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】二次電池システムの構成の一例を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の二次電池システムの一実施形態について説明するが、本開示の二次電池システムは以下に示される実施形態に限定されるものではない。
【0009】
図1に示されるように、一実施形態に係る二次電池システム100は、二次電池10及び制御部20を備える。前記二次電池10は、正極活物質層12、電解質層13及び負極活物質層14を備える。前記正極活物質層12は、正極活物質、硫化物固体電解質及びフッ素系液体材料を含む。前記制御部20は、前記二次電池10の充電終止電位における正極電位が4.3V(vs.Li/Li+)以上となるように、前記二次電池10の充電を制御する。
【0010】
1.二次電池
二次電池10は、正極活物質層12、電解質層13及び負極活物質層14を備える。また、
図1に示されるように、二次電池10は、正極活物質層12と接触する正極集電体11を備えていてもよい。また、二次電池10は、負極活物質層14と接触する負極集電体15を備えていてもよい。
【0011】
1.1 正極活物質層
正極活物質層12は、正極活物質、硫化物固体電解質及びフッ素系液体材料を含む。また、正極活物質層12は、任意に、導電助剤やバインダーを含んでいてもよい。また、正極活物質層12は、任意に、その他の電解質を含んでいてもよい。正極活物質層12における各成分の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、正極活物質層12は、フッ素系液体材料を1体積%以上25体積%以下含んでいてもよい。正極活物質層12に含まれるフッ素系液体材料の含有量は、例えば、1体積%以上、3体積%以上、5体積%以上、7体積%以上、8体積%以上、9体積%以上、10体積%以上、11体積%以上又は12体積%以上、かつ、25体積%以下、24体積%以下、22体積%以下、20体積%以下、18体積%以下、16体積%以下、14体積%以下又は12体積%以下であってもよい。尚、正極活物質層12におけるフッ素系液体材料の体積率は、例えば、以下の通りにして測定することができる。すなわち、事前に正極活物質層12の体積を光学顕微鏡やSEMを用いて測定する。正極活物質層12に含まれるフッ素系液体材料の体積は、正極活物質層12を溶媒(フッ素系液体材料を溶解可能かつ他の電極材料を溶解しないもの)で洗浄し、吸引ろ過等でフッ素系液体材料の溶解した濾液を回収し、回収した溶媒をGC-MSで分析することによって特定してもよいし、当該溶媒の沸点がフッ素系液体材料の沸点と大きく異なる場合は蒸留によりフッ素系液体材料を抽出するなどして、フッ素系液体材料の体積を直接測定してもよい。これにより、事前に測定した正極活物質層12全体の体積に占めるフッ素系液体材料の体積割合が算出される。また、正極活物質層12の固形分全体を100質量%として、正極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上又は70質量%以上であってもよく、100質量%未満、95質量%以下又は90質量%以下であってもよい。また、正極活物質層12の固形分全体を100質量%として、硫化物固体電解質の含有量が0質量%超、5質量%以上又は10質量%以上であってもよく、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下又は30質量%以下であってもよい。或いは、正極活物質層12全体を100体積%として、正極活物質と、硫化物固体電解質と、フッ素系液体材料と、任意にその他の電解質、導電助剤及びバインダーとが合計で85体積%以上、90体積%以上又は95体積%以上含まれていてもよく、残部は空隙であってもその他の成分であってもよい。正極活物質層12の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。正極活物質層12の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上又は10μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下又は500μm以下であってもよい。
【0012】
1.1.1 正極活物質
正極活物質は、例えば、Li含有化合物、単体硫黄及び硫黄化合物等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。特に、正極活物質がLi含有化合物を含む場合に、一層高い効果が得られ易い。正極活物質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。一実施形態において、正極活物質は、Li含有酸化物であってもよい。Li含有酸化物は、少なくとも1種の元素Mと、Liと、Oとを含むものであってもよい。元素Mは、例えば、Mn、Ni、Co、Al、Mg、Ca、Sc、V、Cr、Cu、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Sn、Sb、W、Pb、Bi、Fe及びTiから選ばれる少なくとも1種であってもよく、Mn、Ni、Co、Al、Fe及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。より具体的には、Li含有酸化物は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルマンガン酸リチウム、コバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(Li1±αNixCoyMnzO2±δ(例えば、0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1))、スピネル系リチウム化合物(Li1+xMn2-x-yMyO4(MはAl、Mg、Co、Fe、Ni及びZnから選ばれる一種以上)で表わされる組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(例えば、Li1±αNipCoqAlrO2±δ(例えば、p+q+r=1))、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム(LiMPO4等、MはFe、Mn、Co及びNiから選ばれる一種以上)等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。特に、正極活物質としてのLi含有酸化物が、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1種の遷移金属元素を含む場合に、一層高い性能が得られ易い。或いは、正極活物質が、構成元素として、少なくとも、Ni、Co及びAlのうちの少なくとも1種の元素を含む場合にも、一層高い性能が得られ易い。正極活物質の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、粒子状であってもよい。正極活物質粒子は、中実の粒子であってもよく、中空の粒子であってもよく、空隙を有する粒子であってもよい。正極活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。正極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上500μm以下であってもよい。下限は、5nm以上又は10nm以上であってもよく、また、上限は、100μm以下、50μm以下又は30μm以下であってもよい。尚、本願において平均粒子径D50とは、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。
【0013】
正極活物質の表面には、イオン伝導性酸化物を含有する保護層が形成されていてもよい。これにより、正極活物質と硫化物固体電解質との反応等がさらに抑制され易くなる。イオン伝導性酸化物としては、例えば、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、LiAlO2、Li4SiO4、Li2SiO3、Li3PO4、Li2SO4、Li2TiO3、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、Li2ZrO3、LiNbO3、Li2MoO4、Li2WO4などが挙げられる。イオン伝導性酸化物は、PやB等のドープ元素によって一部の元素が置換されたものであってもよい。正極活物質の表面に対する保護層の被覆率(面積率)は、例えば、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上又は1nm以上であってもよく、100nm以下又は20nm以下であってもよい。
【0014】
1.1.2 硫化物固体電解質
硫化物固体電解質は、リチウムイオン電導性を有する固体電解質として公知のものをいずれも採用可能である。硫化物固体電解質は、ガラス系硫化物固体電解質(硫化物ガラス)であってもよく、ガラスセラミックス系硫化物固体電解質であってもよく、結晶系硫化物固体電解質であってもよい。硫化物固体電解質が結晶相を有する場合、結晶相としては、例えば、Thio-LISICON型結晶相、LGPS型結晶相、アルジロダイト型結晶相が挙げられる。硫化物固体電解質は、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、及び、S元素を含有するものであってもよい。特に、構成元素として、Li、P及びSを含むものの性能が高い。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。特に、構成元素として、Li、P、S及びハロゲン元素を含むものの性能が高い。硫化物固体電解質の組成は、特に限定されないが、例えば、xLi2S・(100-x)P2S5(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLi2S・(1-x)P2S5)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)等が挙げられる。或いは、硫化物固体電解質は、一般式:Li4-xGe1-xPxS4(0<x<1)で表される組成を有していてもよい。上記一般式において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Sの一部は、ハロゲン(F、Cl、Br及びIの少なくとも一つ)で置換されていてもよい。或いは、硫化物固体電解質は、Li7-aPS6-aXa(Xは、Cl、Br及びIの少なくとも一種であり、aは、0以上、2以下の数である)で表される組成を有していてもよい。aは、0であってもよく、0より大きくてもよい。後者の場合、aは、0.1以上であってもよく、0.5以上であってもよく、1以上であってもよい。また、aは、1.8以下であってもよく、1.5以下であってもよい。硫化物固体電解質の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、粒子状であってもよい。硫化物固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0015】
1.1.3 フッ素系液体材料
フッ素系液体材料は、構成元素としてフッ素を含む液体材料である。本発明者の知見によると、正極活物質層12においては、上記の正極活物質と硫化物固体電解質との界面にフッ素系液体材料が介在する。すなわち、フッ素系液体材料によって、正極活物質と硫化物固体電解質との直接接触が抑えられる。これにより、正極電位が高電位となった場合でも、硫化物固体電解質が高電位に曝され難くなり、硫化物固体電解質の分解が抑制される。結果として、正極電位が高電位となった場合でも、二次電池10の抵抗増加が低減される。また、フッ素系液体材料は、他の電池材料に対する反応性が低い。そのため、正極活物質層12にフッ素系液体材料が含まれていたとしても、正極活物質や硫化物固体電解質等が安定して存在し得る。フッ素系液体材料は、例えば、炭素鎖にフッ素が結合した、有機系のフッ素化合物であってもよい。例えば、正極活物質層12は、フッ素系液体材料として、パーフルオロポリエーテルを含んでいてもよい。フッ素系液体材料としてのパーフルオロポリエーテルは、エーテル結合を有することから、他の電池材料の表面に対する親和性が高いものと考えられ、例えば、活物質材料の間の空隙、硫化物固体電解質材料の間の空隙、及び、活物質材料と硫化物固体電解質材料との間の空隙等により適切に存在し得るものと考えられる。これにより、正極活物質と硫化物固体電解質との直接接触が一層抑えられる。また、パーフルオロポリエーテルは、上述の通り、他の電池材料に対する反応性が低い。
【0016】
正極活物質層12は、フッ素系液体材料として、下記式(1)で示されるパーフルオロポリエーテルを含んでいてもよい。
E1-Rf1-RF-O-Rf2-E2(1)
[式(1)中、Rf1及びRf2は、それぞれ独立して、1個又はそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-16の2価のアルキレン基であり、
E1及びE2は、それぞれ独立して、フッ素基、水素基、水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、C1-10のアルキルエステル基、1個以上の置換基を有してもよいアミド基、1個以上の置換基を有してもよいアミノ基、からなる群より選ばれる1価の基であり、
RFは、2価のフルオロポリエーテル基である。]
【0017】
上記式(1)において、Rf1及びRf2は、それぞれ独立して、1個又はそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-16の2価のアルキレン基である。一の態様において、上記1個又はそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-16の2価のアルキレン基における「C1-16の2価のアルキレン基」は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖又は分枝鎖のC1-6アルキルアルキレン基、特にC1-3アルキレン基であってもよく、より好ましくは直鎖のC1-6アルキレン基、特にC1-3アルキレン基であってもよい。一の態様において、上記1個又はそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-16の2価のアルキレン基における「C1-16の2価のアルキレン」は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖又は分枝鎖のC1-6フルオロアルキレン基、特にC1-3フルオロアルキレン基であり、具体的には、-CF2CH2-、及び、-CF2CF2CH2-であってもよく、また、より好ましくは直鎖のC1-6パーフルオロアルキレン基、特にC1-3パーフルオロアルキレン基であり、具体的には、-CF2-、-CF2CF2-、及び、-CF2CF2CF2-からなる群から選択される基であってもよい。
【0018】
上記式(1)において、E1及びE2は、それぞれ独立して、フッ素基、水素基、水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、C1-10のアルキルエステル基、1個以上の置換基を有してもよいアミド基、1個以上の置換基を有してもよいアミノ基、からなる群より選ばれる1価の基である。上述の通り、パーフルオロポリエーテルは、後述の硫化物固体電解質に対する反応性が低い。そのため、パーフルオロポリエーテルと硫化物固体電解質とが接触した場合でも、硫化物固体電解質の変質や劣化によるイオン伝導性の低下が生じ難い。特に、パーフルオロポリエーテルが、末端基としての非極性基を有するものである場合に、パーフルオロポリエーテルと硫化物固体電解質との反応が一層抑制され、さらに高い効果が期待できる。この点、上記E1及びE2は、それぞれ独立して、好ましくは、フッ素基である。一の態様において、E1-Rf1及びE2-Rf2は、それぞれ独立して、-CF3、-CF2CF3、及び、-CF2CF2CF3からなる群から選択される基であってもよい。
【0019】
上記式(1)において、RFは、各出現においてそれぞれ独立して、2価のフルオロポリエーテル基である。RFは、好ましくは、式(2):
-(OC6F12)a-(OC5F10)b-(OC4F8)c-(OC3RFa
6)d-(OC2F4)e-(OCF2)f- (2)
[式(2)中:RFaは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、
a、b、c、d、e及びfは、それぞれ独立して、0~200の整数であり、
a、b、c、d、e及びfの和は1以上であり、
a、b、c、d、e又はfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり、
ただし、すべてのRFaが水素原子又は塩素原子である場合、a、b、c、e及びfの少なくとも1つは、1以上である。]
で表される基である。RFaは、好ましくは、水素原子又はフッ素原子であり、より好ましくは、フッ素原子である。a、b、c、d、e及びfは、好ましくは、それぞれ独立して、0~100の整数であってもよい。a、b、c、d、e及びfの和は、好ましくは5以上であり、より好ましくは10以上であり、例えば15以上又は20以上であってもよい。a、b、c、d、e及びfの和は、好ましくは200以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは60以下であり、例えば50以下又は30以下であってもよい。
【0020】
これら繰り返し単位は、直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよい。RFにおいて、fに対するdの比(以下、「d/f比」という)は、0.5~4であってもよく、好ましくは0.6~3であり、より好ましくは0.7~2であり、さらにより好ましくは0.8~1.4である。d/f比を4以下にすることにより、潤滑性、化学的安定性がより向上する。d/f比がより小さいほど、潤滑性はより向上する。一方、d/f比を0.5以上にすることにより、化合物の安定性をより高めることができる。d/f比がより大きいほど、フルオロポリエーテル構造の安定性はより向上する。この場合、fの値は0.8以上であることが好ましい。上記において、RF部分の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば500~30,000、好ましくは1,500~30,000、より好ましくは2,000~10,000である。本願において、RFの数平均分子量は、19F-NMRにより測定される値である。
【0021】
1.1.4 その他の成分
正極活物質層12に含まれ得るその他の電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。当該固体電解質は無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。硫化物固体電解質以外の無機固体電解質としては、例えば、酸化物固体電解質や、ハロゲン化物固体電解質や、錯体水素化物固体電解質等が挙げられる。当該電解液は、例えば、カーボネート系溶媒にリチウム塩を所定濃度で溶解させたものであってもよい。カーボネート系溶媒としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。リチウム塩としては、例えば、LiTFSIやLiFSI等のリチウムアミド塩やLiPF6等が挙げられる。
【0022】
正極活物質層12に含まれ得る導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0023】
正極活物質層12に含まれ得るバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー等が挙げられる。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0024】
1.2 電解質層
電解質層13は、正極活物質層12と負極活物質層14との間に配置され、セパレータとして機能し得る。電解質層13は、少なくとも電解質を含み、さらに任意に、バインダー等を含んでいてもよい。例えば、電解質層13は上記の硫化物固体電解質を含んでいてもよい。電解質層13は、さらに、分散剤や上記のフッ素系液体材料等のその他の成分を含んでいてもよい。電解質層13における各成分の含有量は特に限定されず、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。電解質層13の形状は特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。電解質層13の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0025】
1.3 負極活物質層
負極活物質層14は、少なくとも負極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてもよい。負極活物質層14はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。負極活物質は、シリコン系活物質や炭素系活物質や酸化物系活物質等の公知の活物質から適当なものが採用されればよい。負極活物質層14における各成分の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、負極活物質層14の固形分全体を100質量%として、負極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上又は70質量%以上であってもよく、100質量%以下、95質量%以下又は90質量%以下であってもよい。負極活物質層の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の負極活物質層であってもよい。負極活物質層14の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上又は10μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下又は500μm以下であってもよい。
【0026】
1.4 その他の構成
二次電池10の正極集電体11や負極集電体15は、各々、二次電池の集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。二次電池10は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。また、複数の二次電池10が、任意に電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。二次電池10は、このほか必要な端子等の自明な構成を備えていてよい。二次電池10の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。二次電池10は、正極活物質層12において上記の正極活物質及び硫化物固体電解質とともにフッ素系液体材料が含まれることを除いて、例えば、特許文献1(特開2019-125510号公報)等に開示されたような方法によって製造され得る。すなわち、二次電池10を構成する各層は、湿式成形や乾式成形等によって製造されればよい。
【0027】
2.制御部
図1に示されるように、二次電池システム100は、制御部20を備える。制御部20は、二次電池10の充放電を制御可能なものであればよく、その構成は特に限定されるものではない。制御部20は、二次電池10の充放電を制御するために必要となる公知の構成を備え、例えば、CPU、RAM、ROM等を備えるものであってもよい。
【0028】
制御部20は、二次電池10の充電終止電位における正極電位が4.3V(vs.Li/Li+)以上となるように、二次電池10の充電を制御する。従来の二次電池は、正極電位が4.3V(vs.Li/Li+)以上の高電位となるまで充電を行った場合、硫化物固体電解質の分解等が生じ、二次電池の抵抗が増加し易い。これに対し、本実施形態に係る二次電池システム100においては、上述の通り、二次電池10の正極活物質層12が正極活物質及び硫化物固体電解質とともにフッ素系液体材料を含むことで、二次電池10の正極電位が4.3V(vs.Li/Li+)以上の高電位となった場合でも、硫化物固体電解質の分解等が抑制され易く、二次電池10の抵抗増加が低減され易い。
【0029】
制御部20は、二次電池10の充電終止電位における正極電位が4.4V(vs.Li/Li+)以上、4.5V(vs.Li/Li+)以上、4.6V(vs.Li/Li+)以上、又は、4.7V(vs.Li/Li+)以上となるように二次電池10の充電を制御するものであってもよい。充電終止電位の上限は特に限定されない。例えば、制御部20は、二次電池10の充電終止電位における正極電位が4.3V(vs.Li/Li+)以上5.0V(vs.Li/Li+)以下となるように、二次電池10の充電を制御するものであってもよい。尚、制御部20は、上述の通り、二次電池10の充電を制御するものであるが、二次電池10の充電に加えて放電を制御するものであってもよい。二次電池10の放電終止電位は、二次電池10の性能等に応じて適宜決定されればよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
1.正極の作製
1.1 実施例1~4、比較例7、8
有機溶媒中にバインダー(PVdF)と、導電助剤(VGCF)と、硫化物固体電解質(LiI-LiBr-Li2S-P2S5)と、正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)と、パーフルオロポリエーテル(PFPE、富士フイルム和光純薬製パーフルオロ(ポリオキシプロピレンエチルエーテル)2700)とを超音波ホモジナイザーを用いて混練することで、正極合材スラリーを得た。得られた正極合材スラリーをAl箔上に塗工し、乾燥することで、正極集電体としてのAl箔上に正極活物質層を備えるプレス用の正極を得た。ここで、合材に占めるPFPEの体積率が、8体積%となるようにした。
【0032】
1.2 比較例1~6
正極合材中にPFPEを添加しなかったことを除き、実施例1~4、比較例7、8と同様にしてプレス用の正極を得た。
【0033】
2.電解質層の作製
有機溶媒中にバインダー(PVdF)と、硫化物固体電解質(LiI-LiBr-Li2S-P2S5)とを添加し、超音波ホモジナイザーを用いて混練することで、電解質合材スラリーを得た。得られた電解質合材スラリーをAl箔上に塗工し、乾燥することで、基材としてのAl箔上に固体電解質層を形成した。
【0034】
3.電池の作製
上記のプレス用の正極を短冊状に切り出した。切り出した正極活物質層と、固体電解質層とを重ね合わせて、165℃で50kN/cmの圧力でロールプレスし、基材としてのAl箔を剥がすことで、正極活物質層の表面に固体電解質層を転写した。固体電解質層の表面にφ13.00mmに打ち抜いたLi箔を重ね合わせることで、Al箔/正極活物質層/固体電解質層/Li箔の構成を有する積層体を得た。積層体に電流取り出しタブを取り付け、真空ラミシーラーを用いてアルミラミネートに封入することで、評価用の電池を作製した。
【0035】
4.電池の性能評価
作製した電池について、充電終止電圧(上限電圧)まで充電を行い、当該上限電圧にてトリクル試験(各上限電圧で1週間保持)を行い、トリクル試験前及び後の抵抗値を測定した。具体的には、トリクル試験前及び後の各々の電池について、3.7Vに電圧を調整し、5Cレートで放電した際の5秒後の電圧降下から、抵抗値を算出した。トリクル試験前の抵抗値に対するトリクル試験後の抵抗値を測定し、これを抵抗増加率とした。結果を下記表1に示す。尚、下記表1においては、比較例1についての抵抗増加率を基準(100%)として、比較例2~8、実施例1~4についての抵抗増加率を相対化して示している。
【0036】
【0037】
表1に示される結果から明らかなように、正極活物質層が正極活物質とともに硫化物固体電解質を含み、かつ、PFPEを含まない場合(比較例1~6)、トリクル試験における正極電位が4.3V(vs.Li/Li+)未満では、トリクル試験後も電池の抵抗が増加しないのに対し(比較例1、2)、トリクル試験における正極電位が4.3V(vs.Li/Li+)以上となると、トリクル試験後に電池の抵抗が増加することがわかる(比較例3~6)。比較例3~6においては、硫化物固体電解質が高電位に曝されたことで、硫化物固体電解質が分解し、その結果、電池の抵抗が増加したものと考えられる。
【0038】
一方、正極活物質層が正極活物質とともに硫化物固体電解質を含み、かつ、PFPEを含む場合(比較例7、8、実施例1~4)、トリクル試験における正極電位が4.3V(vs.Li/Li+)未満では、PFPEを含ませたことによる有利な効果は特に発揮されない(比較例1、2と比較例7、8との比較)。一方で、トリクル試験における正極電位が4.3V(vs.Li/Li+)以上となると、PFPEを含ませたことで、電池の抵抗増加を抑制できることがわかる(比較例3~6と実施例1~4との比較)。実施例1~4においては、PFPEによって、正極活物質と硫化物固体電解質との直接接触が抑えられ、正極電位が高電位となった場合でも、硫化物固体電解質が高電位に曝され難くなり、硫化物固体電解質の分解が抑制され、結果として、正極電位が高電位となった場合でも電池の抵抗増加が低減されたものと考えられる。
【0039】
5.補足
尚、上記の実施例では、フッ素系液体材料として特定のPFPEを例示したが、フッ素系液体材料の種類は当該PFPEに限定されるものではない。また、上記の実施例では、特定の電池材料(正極活物質としてのNCM、硫化物固体電解質としてのLiI-LiBr-Li2S-P2S5、バインダーとしてのPVdF、導電助剤としてのVGCF、負極活物質としてのLi箔)を用いた場合を例示したが、これら以外の電池材料を用いた場合であっても、正極活物質層において正極活物質及び硫化物固体電解質とともにフッ素系液体材料を併用することによって、上記の効果が発揮されるものと考えられる。
【0040】
6.まとめ
以上の結果から、以下の構成を備える二次電池システムによれば、高電位領域における二次電池の抵抗増加を低減できるものといえる。
(1)二次電池システムは、二次電池及び制御部を備える。
(2)前記二次電池は、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を備える。
(3)前記正極活物質層は、正極活物質、硫化物固体電解質及びフッ素系液体材料を含む。
(4)前記制御部は、前記二次電池の充電終止電位における正極電位が4.3V(vs.Li/Li+)以上となるように、前記二次電池の充電を制御する。
【符号の説明】
【0041】
100 二次電池システム
10 二次電池
11 正極集電体
12 正極活物質層
13 電解質層
14 負極活物質層
15 負極集電体
20 制御部