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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】導電性2次元粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/00 20060101AFI20250708BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20250708BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20250708BHJP
   C01B 32/921 20170101ALI20250708BHJP
【FI】
H01B5/00 Z
H01B1/00 Z
H01B1/22 A
C01B32/921
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023550424
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2022030048
(87)【国際公開番号】W WO2023053721
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2021161527
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】小柳 雅史
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/131643(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/025026(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/00
H01B 1/00
H01B 1/22
C01B 32/921
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の層を含む、層状材料の導電性2次元粒子であって、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子を含まず、
フッ素原子、酸素原子、および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種を有し、
1つの層の層本体のチタン原子と他の層の層本体のチタン原子が、酸素原子を介して結合している、導電性2次元粒子。
【請求項2】
X線回折測定して得られるプロファイルにおいて、(002)面のピークが、2θ=8°以上に存在する、請求項1に記載の導電性2次元粒子。
【請求項3】
リン酸イオンを含む、請求項1または2に記載の導電性2次元粒子。
【請求項4】
請求項1または2に記載の導電性2次元粒子を含む、導電性膜。
【請求項5】
導電率が5000S/cm以上である、請求項4に記載の導電性膜。
【請求項6】
請求項1または2に記載の導電性2次元粒子を含む、導電性ペースト。
【請求項7】
請求項1または2に記載の導電性2次元粒子と、ポリマーとを含む導電性複合材料。
【請求項8】
(a)以下の式:
AX
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b)塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子を含まないエッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチングを行うこと、
(c)エッチングして得られたエッチング処理物を、水で洗浄し、水洗浄物を得ること、
(d)前記水洗浄物と、該水洗浄物の層間挿入用化合物とを含む混合液を撹拌することを含む、層間挿入用化合物のインターカレーション処理を行うこと、
(e)前記インターカレーション処理して得られたインターカレーション処理物を用い、デラミネーションを行うこと、および
(f)前記デラミネーションを行って得られたデラミネーション処理物に対し、不活性ガス雰囲気で200℃以上に加熱する熱処理を行って、導電性2次元粒子を得ること
を含む、導電性2次元粒子の製造方法。
【請求項9】
前記(e)で、インターカレーション処理物のデラミネーションを、極性有機分散媒および水系分散媒のうちの1以上を用いて行う、請求項8に記載の導電性2次元粒子の製造方法。
【請求項10】
前記エッチング液はフッ酸を少なくとも含む、請求項8または9に記載の導電性2次元粒子の製造方法。
【請求項11】
前記エッチング液は更にリン酸を含む、請求項10に記載の導電性2次元粒子の製造方法。
【請求項12】
前記(d)で、前記水洗浄物の層間挿入用化合物として水酸化リチウムを用いる、請求項8または9に記載の導電性2次元粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電性2次元粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる2次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(粉末、フレーク、ナノシート等を含み得る)の形態を有する。
【0003】
現在、種々の分野へのMXeneの応用に向けて様々な研究がなされている。該応用に向け、MXeneを含む材料の特性をより高めるため、MXeneの構造を変更することが検討されている。例えば非特許文献1には、MXene二次元膜を用いた淡水化のための分離技術が示されている。上記MXene二次元膜の膨潤性を抑制し、一価の金属イオンを効率よく捕捉するため、MXeneナノシートの水酸基を利用して、自己架橋反応により隣り合うナノシート間にTi-O-Ti結合を形成することが示されている。
【0004】
また、非特許文献2には、MXene膜をイオンのふるい分けや水の浄化に応用することが示されている。非特許文献2では、MXene膜の膨潤を抑えて、K/Pb2+の混合物の効果的なイオンふるい分けと、重金属イオン(Pb)の除去の効率を高めるため、熱架橋した2次元MXene膜を用いることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Self-Crosslinked MXene (Ti3C2Tx) Membraneswith Good Antiswelling Property forMonovalent Metal Ion Exclusion(ACS Nano 2019, 13, 10535-10544)
【文献】Voltage-enhanced ion sieving and rejection of Pb2+ through a thermally cross-linked two-dimensional MXene membrane (Chemical Engineering Journal 401 (2020) 126073)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1と非特許文献2に示された架橋したMXene膜は、例えば種々の電気デバイスに適用するときに、優れた導電性を示さないか、高い導電率を長期間にわたって示すことが難しい。本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、高い導電率を長期間にわたって示す導電性膜等の形成に有用な導電性2次元粒子、高い導電率を長期間にわたって示す導電性膜、前記導電性2次元粒子の製造方法、および前記導電性2次元粒子を含む導電性ペーストと導電性複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの要旨によれば、
1つまたは複数の層を含む、層状材料の導電性2次元粒子であって、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子を含まず、
フッ素原子、酸素原子、および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種を有し、
1つの層の層本体のチタン原子と他の層の層本体のチタン原子が、酸素原子を介して結合している、導電性2次元粒子が提供される。
【0008】
本開示のもう1つの要旨によれば、
(a)以下の式:
AX
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b)塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子を含まないエッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチングを行うこと、
(c)エッチングして得られたエッチング処理物を、水で洗浄し、水洗浄物を得ること、
(d)前記水洗浄物と、該水洗浄物の層間挿入用化合物とを含む混合液を撹拌することを含む、層間挿入用化合物のインターカレーション処理を行うこと、
(e)前記インターカレーション処理して得られたインターカレーション処理物を用い、デラミネーションを行うこと、および
(f)前記デラミネーションを行って得られたデラミネーション処理物に対し、不活性ガス雰囲気で200℃以上に加熱する熱処理を行って、導電性2次元粒子を得ること
を含む、導電性2次元粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、導電性2次元粒子は、所定の1つまたは複数の層を含み、塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子を含まず、フッ素原子、酸素原子、および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種を有し、1つの層の層本体のチタン原子と他の層の層本体のチタン原子が、酸素原子を介して結合しており、これにより、MXeneを含み、高い導電率を長期にわたり示す、導電性2次元粒子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の導電性2次元粒子における層間架橋結合を説明する模式断面図である。
図2】本実施形態の導電性2次元粒子を構成するMXeneを説明する模式断面図である。
図3】本実施形態の導電性膜を説明する模式断面図である。
図4】実施例におけるFT-IR分析結果を示す図である。
図5】実施例における別のFT-IR分析結果を示す図である。
図6】実施例におけるXRDプロファイルを示す図である。
図7】実施例における別のXRDプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1:導電性2次元粒子)
以下、本開示の1つの実施形態における導電性2次元粒子について詳述するが、本開示はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本実施形態における導電性2次元粒子は、
1つまたは複数の層を含む、層状材料の導電性2次元粒子であって、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子を含まず、
フッ素原子、酸素原子、および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種を有し、
1つの層の層本体のチタン原子と他の層の層本体のチタン原子が、酸素原子を介して結合している。上記導電性2次元粒子は、これを用いて例えば導電性膜を形成したときに、初期導電率が高く、かつ導電率の経時劣化が抑制された導電性膜を形成することができるものである。
【0013】
前記導電性2次元粒子は、1つの層の層本体のチタン原子と他の層の層本体のチタン原子が、酸素原子を介して結合している。以下、この結合を「層間架橋結合」ということがある。図1は、本実施形態の導電性2次元粒子における層間架橋結合を説明する模式断面図である。図1に模式的に示す通り、導電性2次元粒子100において、1つの層のMXene10aの層本体のチタン原子(図示せず)と、他の層のMXene10bの層本体のチタン原子(図示せず)とが、酸素原子21を介して結合しており、2層のMXeneの間で架橋構造23が形成されている。図1では、説明を容易にするため、2層のMXene間の架橋構造を示しているが、本実施形態の導電性2次元粒子は、図示していないが、図1のMXene10aとその上部に存在する他のMXeneとの架橋構造と、図1のMXene10bとその下部に存在する他のMXeneとの架橋構造も含み得、3層以上のMXeneが架橋構造により結合する場合も含みうる。また、図1は、単層のMXeneどうしの架橋構造を示しているが、本実施形態の導電性2次元粒子を構成するMXeneの少なくとも一つが、複数の層であるMXene(好ましくは後述する少層MXene)であってもよい。
【0014】
本実施形態の導電性2次元粒子は、導電性2次元粒子中の、原子半径の大きなハロゲン原子が含まれておらず、MXeneの層本体と層本体の間の距離が短くなり、導電性2次元粒子の製造過程における熱処理で、MXeneの層本体と層本体の間の架橋が多く形成されると考えられる。その結果として、MXeneの層間が十分狭くなり、水分子の侵入が十分に抑制されて、耐吸湿性が高まると考えられる。また架橋構造は、MXene表面の水酸基の脱水反応により形成されると考えられる。架橋構造が形成されることにより、水の吸着サイトであるMXene表面の水酸基が減少することも、耐吸湿性向上に寄与すると考えられる。本実施形態の導電性2次元粒子を含む導電性膜、特に、本実施形態の導電性2次元粒子で形成された導電性膜は、導電率が高く、かつ高導電率を長期にわたり維持できる。層間架橋結合は、後述する実施例に示す通り、FT-IR(フーリエ変換赤外線分光法)により、チタン原子-酸素原子-チタン原子(Ti-O-Ti)の結合を示す800~900cm-1のピークの有無で判断できる。
【0015】
以下では、本実施形態の導電性2次元粒子を構成する、1つまたは複数の層を含むMXeneについて説明する。上記層状材料は、層状化合物として理解され得、「M」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxまたはzが使用されることもある。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0016】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0017】
MXeneは、上記の式:Mが、以下のように表現されるものが知られている。
ScC、TiC、TiN、ZrC、ZrN、HfC、HfN、VC、VN、NbC、TaC、CrC、CrN、MoC、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)C、(Ti,Nb)C、WC、W1.3C、MoN、Nb1.3C、Mo1.30.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti、Ti、Ti(CN)、Zr、(Ti,V)、(TiNb)C、(TiTa)C、(TiMn)C、Hf、(HfV)C、(HfMn)C、(VTi)C、(CrTi)C、(CrV)C、(CrNb)C、(CrTa)C、(MoSc)C、(MoTi)C、(MoZr)C、(MoHf)C、(MoV)C、(MoNb)C、(MoTa)C、(WTi)C、(WZr)C、(WHf)C
Ti、V、Nb、Ta、(Ti,Nb)、(Nb,Zr)、(TiNb)C、(TiTa)C、(VTi)C、(VNb)C、(VTa)C、(NbTa)C、(CrTi)C、(Cr)C、(CrNb)C、(CrTa)C、(MoTi)C、(MoZr)C、(MoHf)C、(Mo)C、(MoNb)C、(MoTa)C、(WTi)C、(WZr)C、(WHf)C、(Mo2.71.3)C(上記式中、「2.7」および「1.3」は、それぞれ約2.7(=8/3)および約1.3(=4/3)を意味する。)
【0018】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子であり得る。例えば、MXeneの前駆体であるMAX相は、TiAlCであり、MXeneは、Tiである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。
【0019】
なお、本実施形態において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、電極の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0020】
以下では、本実施形態に係る導電性2次元粒子を構成するMXeneについて図2を用いて説明する。
【0021】
本実施形態に係る導電性2次元粒子は、図2(a)に模式的に例示する1つの層のMXene10c(単層MXene)の架橋物を含む集合物、より具体的には、2以上のMXene10cが架橋した架橋物を複数含む集合物である。MXene10cは、より詳細には、Mで表される層本体(M層)1aと、層本体1aの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T3a、5aとを有するMXene層7aである。よって、MXene層7aは、「M」とも表され、sは任意の数である。
【0022】
本実施形態に係る導電性2次元粒子は、架橋構造を形成するMXeneが、1つの層、または複数の層でありうる。複数の層のMXene(多層MXene)として、図2(b)に模式的に示す通り、2つの層のMXene10dが挙げられるが、これらの例に限定されない。図2(b)中の、1b、3b、5b、7bは、前述の図2(a)の1a、3a、5a、7aと同じである。多層MXeneの、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。前記MXene10cは、上記多層MXene10dが個々に分離されて1つの層で存在するものであり、分離されていない多層MXene10dが、残存し、上記単層MXene10cと多層MXene10dの混合物である場合がある。上記多層MXeneを含む場合であっても、多層MXeneは、層間剥離処理を経て得られた、層数の少ないMXeneであることが好ましい。前記「層数が少ない」とは、例えばMXeneの積層数が10層以下であることをいう。以下、この「層数の少ない多層MXene」を「少層MXene」ということがある。少層MXeneの積層方向の厚みは、15nm以下であることが好ましく、さらに10nm以下であることが好ましい。また、単層MXeneと少層MXeneを併せて「単層・少層MXene」ということがある。
【0023】
架橋構造を形成するMXeneは、その多くが単層・少層MXeneであることが好ましい。架橋構造を形成するMXeneの多くが単層・少層MXeneであることによって、MXeneの比表面積を多層MXeneよりも大きくすることができ、その結果、導電性の経時劣化を更に抑制することができる。例えば、MXeneの積層数が10層以下かつ厚みが15nm以下、好ましくは10nm以下である、単層・少層MXeneが、架橋構造を形成する全MXeneに占める割合で、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、更に好ましくは95体積%以上である。また、単層MXeneの体積が、少層MXeneの体積よりも多いことがより好ましい。これらのMXeneの真密度は、存在形態により大きく変動はしないため、単層MXeneの質量が、少層MXeneの質量よりも多いことがより好ましいともいえる。これらの関係にある場合、MXeneの比表面積を増大させることができ、導電性の経時劣化をより更に抑制することができる。最も好ましくは、単層MXeneのみで架橋構造が形成されていることである。
【0024】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例え1nm以上、30μm以下とすることができ、例えば1nm以上、5nm以下、更には1nm以上、3nm以下としてもよい(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)。含まれうる多層MXeneの、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、図2(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上、10nm以下、特に0.8nm以上、5nm以下、より特に約1nmであり、層の総数は、2以上、20,000以下でありうる。
【0025】
前記導電性2次元粒子は、塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子(以下、これらを総称して「ハロゲン原子」ということがある)を含まない。導電性2次元粒子がハロゲン原子を含まないことによって、導電性2次元粒子の製造過程で、MXeneの層本体と層本体の架橋が形成されやすい。MXeneの層本体と層本体で多く架橋した導電性2次元粒子を含む導電性膜は、従来の架橋したMXene膜よりも、耐吸湿性に優れ、高い導電率を長期にわたって示す。
【0026】
上記「塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子を含まない」とは、後述する実施例に示す通り、イオンクロマトグラフィー装置を用いて測定したときに、各原子の含有率が定量下限値未満、すなわち、塩素原子が0.004質量%未満、ヨウ素原子が0.04質量%未満、および臭素原子が0.02質量%未満であることをいう。前記含有率は、最も好ましくはいずれも0質量%である。
【0027】
前記導電性2次元粒子は、フッ素原子、酸素原子、および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種を有する。好ましくは、MXeneを構成する層本体の表面に、フッ素原子、酸素原子、および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種を有することである。導電性2次元粒子は、原子半径の小さいフッ素原子、酸素原子、および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種が、例えば、MXeneを構成する層本体の表面に存在することで、層間距離が狭くなり、導電性2次元粒子の製造過程で、MXeneの層本体と層本体の架橋が形成されやすい。MXeneの層本体と層本体で架橋が多く形成されることによって、高い耐吸湿性を実現できる。導電性2次元粒子にフッ素原子、酸素原子、および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種が存在することは、後述の通り、XPS法で確認することができる。
【0028】
前記導電性2次元粒子は、更に、表面にリン酸イオン(PO 3-)を有していてもよい。上記リン酸イオンは、導電性2次元粒子の製造工程で使用する原料であるHPO(リン酸)に由来していてもよい。上記リン酸イオンを有することで、導電性2次元粒子の製造過程で、MXeneの単層化が生じやすく、導電性2次元粒子として単層・少層MXeneがより多く含まれたものが得られる。単層・少層MXeneがより多く含まれた導電性2次元粒子を用いて形成される導電性膜は、導電率がより高いため好ましい。更にはリン酸イオンに由来する、リン原子を含みうる。導電性2次元粒子がリン原子を含むことによって、高い導電率を達成しやすいため好ましい。本実施形態の導電性2次元粒子は、前記リン原子の含有率が0.2質量%以上14質量%以下でありうる。導電性2次元粒子におけるリン酸イオンの存在は、例えば、MXeneの層のMとの結合を、X線光電子分光装置を用い、高分解能分析(ナロースキャン分析)を行って確認することができる。また、導電性2次元粒子におけるリン原子の存在は、XPS法で確認することができる。
【0029】
前記導電性2次元粒子は、X線回折測定して得られるプロファイルにおいて、(002)面のピークが、2θ=8°以上に存在することが好ましい。本実施形態の導電性2次元粒子は、前述の通り、ハロゲン原子、分散剤等を含んでおらず、MXeneを構成する層と層の間の距離が従来のMXeneよりも短い。MXeneの層間が狭いことによって、水分子が侵入し難く、耐吸湿性に優れる。MXeneの層間が狭いことは、X線回折測定して得られるXRDプロファイルから判断できる。X線回折測定して得られるXRDプロファイルにおいて、MXeneの(002)面に相当する10°(deg)以下の低角のピークの位置で判断できる。XRDプロファイルにおけるピークが高角であるほど、層間距離が狭まっていることを示す。本実施形態における導電性2次元粒子は、X線回折測定して得られる(002)面のピークが2θ=8.0°以上であることが好ましい。前記ピーク位置はより好ましくは8.5°以上である。なお、ピーク位置の上限は9.0°程度である。前記ピーク位置は、ピークトップをいう。前記X線回折測定は、後述する実施例に示す条件で測定すればよい。測定対象は、導電性2次元粒子であってもよく、または導電性2次元粒子を含む導電性膜であってもよい。
【0030】
(実施形態2:導電性2次元粒子の製造方法)
以下、本発明の実施形態における導電性2次元粒子の製造方法について詳述するが、本開示はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0031】
本実施形態の導電性2次元粒子の製造方法は、
(a)以下の式:
AX
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b)塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子を含まないエッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチングを行うこと、
(c)エッチングして得られたエッチング処理物を、水で洗浄し、水洗浄物を得ること、
(d)前記水洗浄物と、該水洗浄物の層間挿入用化合物とを含む混合液を撹拌することを含む、層間挿入用化合物のインターカレーション処理を行うこと、
(e)前記インターカレーション処理して得られたインターカレーション処理物を用い、デラミネーションを行うこと、および
(f)前記デラミネーションを行って得られたデラミネーション処理物に対し、不活性ガス雰囲気で200℃以上に加熱する熱処理を行って、導電性2次元粒子を得ること
を含む。この製造方法により、高い導電率を長期的に示す導電性膜等の製造に最適な、導電性2次元粒子を製造することができる。
【0032】
以下、上記製造方法の各工程について詳述する。
・工程(a)
まず、所定の前駆体を準備する。本実施形態において使用可能な所定の前駆体は、MXeneの前駆体であるMAX相であり、
以下の式:
AX
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される。
【0033】
上記M、X、nおよびmは、MXeneで説明した通りである。Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである。
【0034】
MAX相は、Mで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「M層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。
【0035】
上記MAX相は、既知の方法で製造することができる。例えばTiC粉末、Ti粉末およびAl粉末を、ボールミルで混合し、得られた混合粉末をAr雰囲気下で焼成し、焼成体(ブロック状のMAX相)を得る。その後、得られた焼成体をエンドミルで粉砕して次工程用の粉末状MAX相を得ることができる。
【0036】
・工程(b)
塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子を含まないエッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチングを行う。本実施形態の製造方法で用いるエッチング液は、塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子を含まない。すなわち、例えば、HCl、HI、HBrといった酸、その他の塩化物、ヨウ化物、臭化物を含まない。前記エッチング液はフッ酸を少なくとも含む。前記エッチング液は更にリン酸と硫酸のうちの1以上を含むことが好ましく、より好ましくは更にリン酸を含む。例えばエッチング液に含まれるHClとLiFを系中で反応させてHFを発生させる、いわゆるMILD法でエッチングを行うことも可能であるが、好ましくは、HF(フッ酸)を含むエッチング液でエッチングする、いわゆるACID法か、リン酸を更に含むエッチング液でエッチングすることが好ましい。これらの方法によれば、前記MILD法よりも、数平均フェレー径が好ましくは3μm以上の平面領域の大きいフレーク状の層状材料の粒子(MXene粒子)を容易に得られるため好ましい。エッチングのその他の条件は、特に限定されず、既知の条件を採用することができる。エッチング液として、上記酸と溶媒として例えば純水との混合液を用いることが挙げられる。上記エッチング液中のHF濃度は、例えば1.5M以上、14M以下、HPO濃度は例えば5.5M以上、HSO濃度は例えば5.0M以上とすることが挙げられる。前記A原子のエッチングでは、A原子と共に、場合によりM原子の一部も選択的にエッチングされうる。上記エッチングにより得られたエッチング処理物として例えばスラリーが挙げられる。
【0037】
・工程(c)
前記エッチングにより得られたエッチング処理物を、水洗浄する。水洗浄を行うことによって、上記エッチングで用いた酸等を十分に除去できる。エッチング処理物と混合させる水の量や洗浄方法は特に限定されない。例えば水を加えて撹拌、遠心分離等を行うことが挙げられる。撹拌方法として、ハンドシェイク、オートマチックシェイカー、シェアミキサー、ポットミルなどを用いた撹拌が挙げられる。撹拌速度、撹拌時間等の撹拌の程度は、処理対象物の量や濃度等に応じて調整すればよい。前記水での洗浄は1回以上行えばよい。好ましくは水での洗浄を複数回行う。例えば具体的に、(i)(エッチング処理物または下記(iv)で得られた残りの沈殿物に)水を加え、(ii)撹拌し、(iii)撹拌物を遠心分離し、(iv)遠心分離後に上澄み液を廃棄し、残りの沈殿物を回収する、の工程(i)~(iv)を2回以上、例えば15回以下の範囲内で行うことが挙げられる。
【0038】
・工程(d)
前記水洗浄物と、該水洗浄物の層間挿入用化合物とを含む混合液を撹拌することを含む、層間挿入用化合物のインターカレーション処理を行う。
【0039】
水処理物の層間挿入用化合物は、水処理物の層間に挿入でき、次工程である工程(e)のデラミネーションで各層に分離できる化合物であれば、具体的な種類は問わない。前記層間挿入用化合物として、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物が好ましい。より好ましくはLi含有化合物である。Li含有化合物として、Liイオンと陽イオンが結合したイオン性化合物を用いることができる。例えばLiイオンの、水酸化物、リン酸塩、硫酸塩を含む硫化物塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。好ましくは、水酸化物であり、より好ましくは水酸化リチウムである。
【0040】
インターカレーション処理のその他の条件は特に限定されない。水洗浄物と、該水洗浄物の層間挿入用化合物とを含む混合液の液性も問わない。水洗浄物と、該水洗浄物の層間挿入用化合物とを含む混合液はアルカリ性であることが好ましい。混合液のpHは8~14の範囲であることが好ましい。混合液をアルカリ性にする方法は限定されず、層間挿入用化合物として、水酸化物、好ましくはLi含有化合物として水酸化リチウムを含む混合液とすること、または、層間挿入用化合物と、pH調整剤として例えば、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物とを含む混合液とすること等が挙げられる。
【0041】
インターカレーション用配合物に占める、前記層間挿入用化合物の含有率は、0.001質量%以上とすることが好ましい。上記含有率は、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上である。一方、溶液中の分散性の観点からは、前記層間挿入用化合物の含有率を、10質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量%以下である。
【0042】
インターカレーションの具体的な方法は特に限定されず、例えば、上記MXeneの水分媒体クレイに対して、前記層間挿入用化合物を混合し、撹拌を行ってもよいし、静置してもよい。例えば室温で撹拌することが挙げられる。上記撹拌の方法は、例えば、スターラー等の撹拌子を用いる方法、撹拌翼を用いる方法、ミキサーを用いる方法、及び遠心装置を用いる方法等が挙げられる。撹拌時間は、電極の製造規模に応じて設定することができ、例えば12~24時間の間で設定することが挙げられる。
【0043】
・工程(e)
インターカレーションにより得られたインターカレーション処理物を用い、デラミネーションを行う。例えば、インターカレーション処理物を、遠心分離し、上澄みを廃棄後に残りの沈殿物を水で洗浄する工程を含む、デラミネーションが挙げられる。デラミネーション処理の条件は特に限定されない。デラミネーションに用いる分散媒も特に限定されず、例えば、極性有機分散媒および水系分散媒のうちの1以上を用いて行うことが挙げられる。前記極性有機分散媒として、例えば、沸点285℃以下で、カルボニル基、エステル基、アミド基、ホルムアミド基、カルバモイル基、カーボネート基、アルデヒド基、エーテル基、スルホニル基、スルフィニル基、ヒドロキシル基、シアノ基、およびニトロ基のうちの1以上を有する極性有機分散媒が挙げられる。極性有機分散媒として、より具体的には、例えば、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸プロピレン(PC)、Nメチルホルムアミド(NMF)、アセトン(acetone)、メチルエチルケトン(MEK)、およびテトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、Nメチルアセトアミド(NMAc)、N,Nジメチルホルムアミド(DMF)、N,Nジメチルアセトアミド(DMAC)、スルホラン、N-メチルピロリドン(NMP)のうちの1以上が挙げられる。水系分散媒は、代表的には水であり、場合により、水に加えて他の液状物質を比較的少量(全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい。例えば、デラミネーションにおける複数回の撹拌を、極性有機分散媒および水系分散媒で行うことが挙げられる。例えば、インターカレーション処理物に、Nメチルホルムアミド(NMF)などの極性有機分散媒を加えて撹拌し、その後、水系分散媒を加えて撹拌し、遠心分離して上澄み液を回収することを、1回以上、好ましくは2回以上、10回以下繰り返し、単層・少層MXeneを含む上澄み液を、デラミネーション処理物として得ることが挙げられる。または、この上澄み液を遠心分離し、遠心分離後の上澄み液を廃棄して、単層・少層MXene含有クレイをデラミネーション処理物として得てもよい。
【0044】
・工程(f)
前記デラミネーションを行って得られたデラミネーション処理物に対し、不活性ガス雰囲気で200℃以上に加熱する熱処理を行って、導電性2次元粒子を得る。熱処理の温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは400℃以上である。熱処理の温度は、例えば700℃以下でありうる。熱処理の雰囲気は、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気とする。熱処理時の圧力も特に限定されず、常圧であっても真空であってもよい。本実施形態では、塩素などの立体の大きい元素を含まないMXeneを、酸化することなく高温でアニールすることによって、従来の架橋型MXeneでは実現できなかった、狭い層間を有し、耐吸湿性(信頼性)の大幅に向上した架橋MXeneを実現できる。
【0045】
(実施形態3:導電性膜)
本実施形態の導電性膜として、本実施形態の導電性2次元粒子を含有する導電性膜(架橋MXeneフィルム)が挙げられる。図3を参照して、本実施形態の導電性膜を説明する。図3では導電性2次元粒子100のみが積層して得られた導電性膜30を例示している。本実施形態の導電性膜は、これに限定されない。
【0046】
導電性膜は、ポリマー(樹脂)をさらに含む導電性複合材料フィルム(導電性複合材料膜)であってもよい。前記ポリマーは、例えば、フィルム形成時に添加されるバインダー等の添加物として含まれていてもよいし、強度またはフレキシブル性を具備させるために添加されたものであってもよい。前記導電性複合材料フィルムの場合、前記ポリマーは、導電性複合材料フィルム(乾燥時)に占める割合で、0体積%超であって、好ましくは30体積%以下とすることができる。前記ポリマーの割合は、更には10体積%以下、より更には5体積%以下としてもよい。言い換えると、導電性複合材料フィルム(乾燥時)に占める導電性2次元粒子(層状材料の粒子)の割合は、70体積%以上とすることが好ましく、更には90体積%以上、より更には95体積%以上としてもよい。導電性膜は、前記導電性2次元粒子の割合が異なる2以上の導電性複合材料フィルムの積層膜であってもよい。
【0047】
前記ポリマーとして、例えば、親水性ポリマー(疎水性ポリマーに親水性助剤が配合されて親水性を呈するものと、疎水性ポリマー等の表面を親水化処理したものを含む)が挙げられ、親水性ポリマーとして、ポリスルホン、セルロースアセテート、再生セルロース、ポリエーテルスルホン、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アクリル酸系水溶性ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアニリンスルホン酸、およびナイロンからなる群より選択される1以上をより好ましくは含むことが挙げられる。
【0048】
前記親水性ポリマーとして、極性基を有する親水性ポリマーであって、前記極性基が、前記層の修飾または終端Tと水素結合を形成する基であるものがより好ましい。前記ポリマーとして例えば、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アクリル酸系水溶性ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアニリンスルホン酸、およびナイロンよりなる群から選択される1種類以上のポリマーが好ましく用いられる。
【0049】
これらの中でも、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、およびアルギン酸ナトリウムよりなる群から選択される1種類以上のポリマーがより好ましい。前記ポリマーとして、水素結合ドナー性と水素結合アクセプター性の両方の性質を持つウレタン結合を有するポリマーが好ましく、その観点から、前記水溶性ポリウレタンが特に好ましい。
【0050】
前記導電性膜の膜厚は、0.5μm以上、20μm以下であることが好ましい。前記導電性膜の膜厚を厚くすることによって、粒界の接触抵抗が小さくなり導電率が高くなりやすいため、0.5μm以上とすることが好ましい。前記膜厚は、より好ましくは1.0μm以上である。導電性の観点からは膜厚は厚いほど好ましいが、フレキシブル性等が求められる場合、前記膜厚は好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。前記導電性膜の膜厚は、例えばマイクロメーターでの測定、走査型電子顕微鏡(SEM)、マイクロスコープ、またはレーザー顕微鏡などの方法による断面観察により測定することができる。
【0051】
本実施形態の導電性膜は、例えば、前記導電性2次元粒子で形成された膜厚が10μmのシート状であるときに、好ましくは5000S/cm以上の導電率を維持する。前記導電率は、より好ましくは5500S/cm以上、更に好ましくは6000S/cm以上の導電率を達成できる。導電性膜の導電率の上限は特に存在しないが、例えば10000S/cm以下であり得る。導電率は次のようにして求めることができる。すなわち、表面抵抗率は4探針法により測定し、厚み[cm]と表面抵抗率[Ω/□]をかけた値が、体積抵抗率[Ω.cm]となり、その逆数として、導電率[S/cm]を求めることができる。
【0052】
(導電性膜の製造方法)
【0053】
上記の通り生成された導電性2次元粒子を用いて、本実施形態の導電性膜を製造する方法は特に限定されない。例えば次に例示する通り、導電性膜を形成することができる。
【0054】
まず前述の通り調製した導電性2次元粒子を媒体液に存在させた、導電性2次元粒子の分散体を用意する。上記媒体液として、水系媒体液、有機系媒体液が挙げられる。上記導電性2次元粒子の分散体を構成する媒体液は、代表的には水であり、場合により、水に加えて他の液状物質を比較的少量(全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい。
【0055】
乾燥させる前に、導電性2次元粒子の分散体を用い、導電性膜の前駆体(「前駆体膜」とも言う)を形成してもよい。前駆体膜の形成方法は特に限定されず、例えば吸引ろ過、塗工、スプレーなどを利用できる。
【0056】
より詳細には、導電性2次元粒子の分散体として、例えば導電性2次元粒子を含む上澄み液を、適宜調整(例えば水系媒体液で希釈)して、ヌッチェなどに設置したフィルター(導電性膜と共に所定の部材を構成するものであっても、最終的に導電性膜から分離されるものであってもよい)を通じて吸引ろ過し、水系媒体液を少なくとも部分的に除去することによって、該フィルター上に前駆体膜を形成することができる。フィルターは、特に限定されないが、メンブレンフィルターなどを使用し得る。上記吸引ろ過を行うことで、前記バインダー等を使用せずに導電性膜を作製することができる。本実施形態の導電性2次元粒子を用いれば、この様にバインダー等を使用せずに導電性膜を作製することができる。
【0057】
または、導電性2次元粒子の分散体をそのままで、または適宜調整(例えば水系媒体液で希釈、またはバインダーを添加)して、基材に塗布してもよい。塗布方法として、例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、エアブラシ等のノズルを用いて、スプレー塗布を行う方法、テーブルコーター、コンマコーター、バーコーターを用いたスリットコート、スクリーン印刷、メタルマスク印刷等の方法、スピンコート、ディップコート、滴下等が挙げられる。前記基材として、例えば生体信号センシング電極に適した金属材料、樹脂等で形成された基板を適宜採用することができる。任意の適切な基材(導電性膜と共に所定の部材を構成するものであっても、最終的に導電性膜から分離されるものであってもよい)上に塗工することにより、該基材上に前駆体膜を形成することができる。
【0058】
次に、上記で形成した前駆体膜を乾燥させて、例えば、前記図3に模式的に示す通り導電性膜30を得ることができる。本開示において「乾燥」は、前駆体中に存在し得る水系媒体液を除去することを意味する。
【0059】
乾燥は、自然乾燥(代表的には常温常圧下にて、空気雰囲気中に配置する)や空気乾燥(空気を吹き付ける)などのマイルドな条件で行っても、温風乾燥(加熱した空気を吹き付ける)、加熱乾燥、および/または真空乾燥などの比較的アクティブな条件で行ってもよい。前記乾燥は、例えば、常圧オーブンあるいは真空オーブンを用いて400度以下の温度で行ってもよい。
【0060】
前駆体膜の形成および乾燥は、所望の導電性膜厚さが得られるまで適宜繰り返してもよい。例えば、スプレーと乾燥との組み合わせを複数回繰り返して実施してもよい。
【0061】
導電性膜の別の製造方法として、後述する実施例に示す通り、架橋前導電性2次元粒子を用いて架橋前導電性膜を形成してから、熱処理を行って導電性膜を得てもよい。前記架橋前導電性2次元粒子を用いた架橋前導電性膜の形成と、熱処理は、前述した条件で行えばよい。
【0062】
本実施形態の導電性複合材料がシート状の形態を有する場合、例えば次に例示する通り、前記導電性2次元粒子とポリマーを混合し、塗膜を形成することができる。
【0063】
まず上記導電性2次元粒子を媒体液(水系媒体液と有機系媒体液のうちの1以上)中に存在させた導電性2次元粒子の分散体、または粉末状の導電性2次元粒子と、ポリマーとを混合すればよい。上記導電性2次元粒子の分散体を構成する媒体液は、代表的には水であり、場合により、水に加えて他の液状物質を比較的少量(全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい。
【0064】
上記導電性2次元粒子とポリマーの撹拌は、ホモジナイザー、プロペラ撹拌機、薄膜旋回型撹拌機、プラネタリーミキサー、機械式振とう機、ボルテックスミキサーなどの分散装置を用いて行うことができる。
【0065】
上記導電性2次元粒子とポリマーの混合物であるスラリーを、基材(例えば基板)に塗布すればよいが、塗布方法は限定されない。例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、エアブラシ等のノズルを用いて、スプレー塗布を行う方法、テーブルコーター、コンマコーター、バーコーターを用いたスリットコート、スクリーン印刷、メタルマスク印刷等の方法、スピンコート、ディップコート、滴下による塗布方法が挙げられる。上記基材は、例えば生体信号センシング電極に適した金属材料、樹脂等で形成された基板を適宜採用することができる。
【0066】
上記塗布および乾燥は、所望の厚みの膜が得られるまで、必要に応じて複数回繰り返し行ってもよい。乾燥および硬化は、例えば、常圧オーブンあるいは真空オーブンを用いて400度以下の温度で行ってもよい。
【0067】
(実施形態4:導電性ペースト)
本実施形態の導電性2次元粒子を用いたその他の用途として、前記導電性2次元粒子を含有する導電性ペーストが挙げられる。該導電性ペーストとして、例えば、導電性2次元粒子と、媒体との混合物が挙げられる。前記媒体として、水系媒体液、有機系媒体液、ポリマー、金属粒子、セラミックス粒子等が挙げられ、これらのうちの1以上を含むものが挙げられる。導電性ペーストに占める導電性2次元粒子の質量割合は、例えば50%以上であることが挙げられる。
【0068】
上記導電性ペーストを用い、例えば、基材等に塗布し、乾燥させて導電性膜を形成すること等が用途の一例として挙げられる。
【0069】
(実施形態5:導電性複合材料)
本実施形態の導電性2次元粒子を用いたその他の用途として、前記導電性2次元粒子とポリマーを含有する導電性複合材料が挙げられる。該導電性複合材料は、上述した導電性複合材料フィルム(導電性複合材料膜)の形状に限定されない。該導電性複合材料の形状は、前記フィルム形状以外に、厚みを有するもの、直方体、球体、多角形体等であってもよい。
【0070】
上記ポリマーとして、前記導電性複合材料フィルム(導電性複合材料膜)に使用のポリマーと同様のポリマーを用いることができる。例えば、成形のためのバインダー等の添加物として含まれていてもよいし、強度またはフレキシブル性を具備させるために添加されたものであってもよい。前記ポリマーは、導電性複合材料(乾燥時)に占める割合で、0体積%超であって、好ましくは30体積%以下とすることができる。前記ポリマーの割合は、更には10体積%以下、より更には5体積%以下としてもよい。言い換えると、導電性複合材料(乾燥時)に占める層状材料の粒子の割合は、70体積%以上とすることが好ましく、更には90体積%以上、より更には95体積%以上としてもよい。
【0071】
前記ポリマーとして、例えば、親水性ポリマー(疎水性ポリマーに親水性助剤が配合されて親水性を呈するものと、疎水性ポリマー等の表面を親水化処理したものを含む)が挙げられ、親水性ポリマーとして、ポリスルホン、セルロースアセテート、再生セルロース、ポリエーテルスルホン、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アクリル酸系水溶性ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアニリンスルホン酸、およびナイロンからなる群より選択される1以上をより好ましくは含むことが挙げられる。
【0072】
前記親水性ポリマーとして、極性基を有する親水性ポリマーであって、前記極性基が、前記層の修飾または終端Tと水素結合を形成する基であるものがより好ましい。該ポリマーとして例えば、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アクリル酸系水溶性ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアニリンスルホン酸、およびナイロンよりなる群から選択される1種類以上のポリマーが好ましく用いられる。
【0073】
これらの中でも、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、およびアルギン酸ナトリウムよりなる群から選択される1種類以上のポリマーがより好ましい。前記ポリマーとして、水素結合ドナー性と水素結合アクセプター性の両方の性質を持つウレタン結合を有するポリマーが好ましく、その観点から、前記水溶性ポリウレタンが特に好ましい。
【0074】
以上、本発明の実施形態における導電性2次元粒子、該導電性2次元粒子の製造方法、導電性膜、導電性ペーストおよび導電性複合材料について詳述したが、種々の改変が可能である。なお、本開示の導電性2次元粒子は、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよく、また、本開示の導電性2次元粒子の製造方法は、上述の実施形態における導電性2次元粒子を提供するもののみに限定されないことに留意されたい。
【実施例
【0075】
〔試料の作製〕
[実施例1~5、比較例1~5]
本実施形態では、架橋前導電性2次元粒子に熱処理して本実施形態の導電性2次元粒子、すなわち架橋導電性2次元粒子が得られるが、本実施例では、架橋前導電性2次元粒子を用いて架橋前導電性膜を形成してから、熱処理を行い、架橋導電性膜、すなわち本実施形態の導電性2次元粒子で形成された導電性膜を得た。
【0076】
実施例1~5では、以下に詳述する、(1)前駆体(MAX)の準備、(2)前駆体のエッチング、(3)エッチング後の洗浄、(4)Liのインターカレーション、(5)デラミネーション、(6)架橋前導電性2次元粒子を用いた膜の形成および熱処理を順に実施して試料を得た。また比較例1~5は、前記膜の形成まで行って試料を得た。
【0077】
(1)前駆体(MAX)の準備
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1350℃で2時間焼成した。これにより得られた焼成体(ブロック状MAX)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、前駆体(粉末状MAX)としてTiAlC粒子を得た。
【0078】
(2)前駆体のエッチング
上記方法で調製したTiAlC粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件でエッチングを行って、TiAlC粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。
(エッチング条件)
・前駆体:TiAlC(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:下記表1に示す組成、但し、フッ酸は濃度48%、リン酸は濃度85%の試薬を使用
・前駆体投入量:3.0g
・反応容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:24h
・スターラー回転数:400rpm
【0079】
【表1】
【0080】
(3)エッチング後の洗浄
上記スラリーを均等に2分割して、50mL遠沈管2本にそれぞれ挿入した。そして、遠心分離機を用いて3500G、5分間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。その後、(i)各遠沈管中の残りの沈殿物に純水35mLを追加し、(ii)ハンドシェイクにより撹拌、(iii)3500G、5分間の条件で遠心分離し、(iv)上澄み液を除去した。この(i)から(iv)の工程を10回繰り返した。そして最後に、3500G、5分間の条件で遠心分離を行ってTi-水分媒体クレイを得た。
【0081】
(4)Liインターカレーション
上記方法で調製したTi-水分媒体クレイに対し、以下の条件で撹拌を行い、Liイオンのインターカレーションを行った。
(Liインターカレーションの条件)
・Ti-水分媒体クレイ(洗浄後MXene):固形分0.75g
・純水:20mL
・Liイオン源:純水15mL+LiOH0.75g
・反応容器:100mLアイボーイ
・温度:20~25℃(室温)
・撹拌時間:18時間
・撹拌回転数:700rpm
【0082】
上記撹拌終了後、50mL遠沈管に移し替え、遠心分離機を用いて3500G、5分間の条件で遠心分離を行い、上澄み液を廃棄した。その後、(i)遠沈管中の残りの沈殿物に純水35mLを追加し、(ii)ハンドシェイクにより撹拌、(iii)3500G、5分間の条件で遠心分離し、(iv)上澄み液を除去した。この(i)から(iv)の工程を5回繰り返した。そして最後に、3500G、5分間の条件で遠心分離を行ってLiインターカレーション処理物を得た。
【0083】
(5)デラミネーション
Liインターカレーション処理物に対し、以下に示す条件でデラミネーションを行った。
(デラミネーションの条件)
・インターカレーション後MXene(Liインターカレーション処理物):固形分0.75g
・溶剤:NMF15mL
・反応容器:100mLアイボーイ
・温度:20~25℃(室温)
・撹拌時間:18時間
・撹拌:700rpm
【0084】
上記撹拌後、純水15mLを加えて、シェーカーで15分間撹拌後に、遠心分離機を用いて3500G、5分間の条件で遠心分離を行って、単層化したMXeneを含む上澄み液を回収した。更に純水30mLを追加し、上記と同様にシェーカーで撹拌後に遠心分離を行った。その後、得られた上澄み液を回収し、これを、遠心分離機を用いて4000G,2時間の条件で遠心分離を行って、上澄み液を廃棄し、残りの沈殿物として単層・少層MXene(架橋前導電性2次元粒子)を得た。
【0085】
(6)架橋前導電性2次元粒子を用いた膜の形成および熱処理
上記デラミネーションにて得られた、架橋前導電性2次元粒子のクレイを吸引ろ過した。吸引ろ過のフィルターには、メンブレンフィルター(メルク株式会社製、デュラポア、孔径0.45μm)を用いた。上記上澄み液中には、MXene2次元粒子の固形分で0.05g、純水40mL含まれていた。ろ過後、実施例1~5は、80℃真空乾燥を24時間実施後、不活性(窒素)雰囲気で、500℃でアニール(熱処理)を行って試料を得た。一方、比較例1~5は、それぞれ実施例1~5と同様に膜を形成し、80℃で24時間の真空乾燥を行い、熱処理を行わずに試料を得た。すなわち、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4、実施例5と比較例5は、膜(架橋前MXeneフィルム)の作製まで同じであり、熱処理の有無が異なっている。
【0086】
[比較例6、7]
比較例7では、以下に詳述する、(1)前駆体(MAX)の準備、(2)前駆体のエッチングとLiインターカレーション、(3)洗浄、(4)デラミネーション、(5)MXene粒子を用いた膜の形成および熱処理を順に実施して試料を得た。また比較例6は、前記膜の形成まで行って試料を得た。
【0087】
(1)前駆体(MAX)の準備:実施例1~5と同じ
【0088】
(2)前駆体のエッチングとLiのインターカレーション
・前駆体:TiAlC(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:LiF3g
HCl(9M)30mL
・前駆体投入量:3g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:24h
・スターラー回転数:400rpm
【0089】
(3)洗浄
上記スラリーを50mL遠沈管2本に2分割して挿入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。各遠沈管中の残りの沈殿物に(i)純水40mLを追加し、(ii)再度3500Gで遠心分離を行って(iii)上澄み液を分離除去した。この(i)~(iii)の操作を合計10回繰り返し、10回目の上澄みのpHが5超であることを確認し、上澄み液を廃棄し、Ti-水分媒体クレイを得た。
【0090】
(4)デラミネーション
上記Ti-水分媒体クレイに(i)純水40mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、(ii)3500Gで遠心分離し、(iii)上澄み液を単層MXene含有液として回収した。この(i)~(iii)の操作を、合計4回繰り返して、単層MXene含有上澄み液を得た。さらに、この上澄み液を、遠心分離機を用いて4300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、単層・少層MXene含有試料として単層・少層MXene含有クレイを得た。
【0091】
〔架橋前MXeneフィルムの作製と熱処理〕
上記デラミネーションにて得られた、架橋前導電性2次元粒子のクレイを吸引ろ過した。吸引ろ過のフィルターには、メンブレンフィルター(メルク株式会社製、デュラポア、孔径0.45μm)を用いた。上記上澄み液中には、MXene2次元粒子の固形分で0.05g、純水40mL含まれていた。ろ過後、比較例6は、80℃で24時間の真空乾燥を行い、熱処理を行わずに試料を得た。また比較例7は、80℃真空乾燥を24時間実施後、不活性(窒素)雰囲気で、500℃でアニール(熱処理)を行って試料を得た。
【0092】
〔評価〕
上記実施例1~5の試料(架橋MXeneフィルム)、比較例1~6の試料(非架橋MXeneフィルム)および比較例7の試料(架橋MXeneフィルム)を用い、架橋構造の測定、MXene粒子の表面基の組成分析、MXene層間距離の測定、ならびに、各MXeneフィルムの初期導電率およびσ/σの測定を行った。各測定方法の詳細について下記に示す。
【0093】
(架橋構造の測定(FT-IR分析))
実施例3の試料(架橋MXeneフィルム)、比較例3の試料(非架橋MXeneフィルム)、比較例6の試料(非架橋MXeneフィルム)および比較例7の試料(架橋MXeneフィルム)の構造を、Agilent社製のFT-IR装置を用いて確認した。その結果を、比較例3については図4(a)、実施例3については図4(b)、比較例6については図5(a)、比較例7については図5(b)に示す。これらの図面から、実施例3では、チタン原子-酸素原子-チタン原子(Ti-O-Ti)の層間架橋結合を確認できた。一方、比較例3、比較例6および比較例7では、上記層間架橋結合を確認できなかった。また、比較例3、比較例6および比較例7では、水酸基のピークが明確に確認されたが、実施例3では、水酸基のピークが確認されなかった。これらのことから、実施例3では、MXene表面の水酸基の脱水反応により、チタン原子-酸素原子-チタン原子(Ti-O-Ti)の層間架橋結合が形成されたと考えられる。
【0094】
(MXene粒子の表面基の組成分析)
実施例1~5の試料(架橋MXeneフィルム)と比較例7の試料(架橋MXeneフィルム)のMXene粒子の表面基の組成を、アルバック・ファイ株式会社製のX線光電子分光装置(製品名:VersaProbe)を用いて、下記の条件でXPS測定を行って求めた。その結果を表2に示す。なお、実施例1~5の塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子の量はいずれも、イオンクロマトグラフィー(IC)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、Dionex ICS-5000)で検出下限であった。すなわち、いずれの原子も、上記イオンクロマトグラフィーでの各原子の定量下限(Clの定量下限:0.004質量%、Brの定量下限:0.02質量%、Iの定量下限:0.04質量%)よりも小さかった。
(XPS測定条件)
入射X線:単色化AlKα
X線出力:25.6W
測定面積:直径100μm
光電子取込角度:45.0度
パスエネルギー:23.50eV
【0095】
【表2】
【0096】
表2では、実施例1~5の表面基の組成分析について示したが、実施例1~5とMXene粒子の製造方法が同じである、比較例1~5についても、MXene粒子の表面基の組成分析は、実施例1~5と同様であると考えられる。
【0097】
(MXene層間距離の測定)
MXeneの層間距離は、導電性2次元粒子を用いても測定できるが、本実施例では、MXeneフィルムを用いて測定した。より詳細には、下記条件により、実施例1~5、比較例2、比較例6および比較例7の試料(架橋MXeneフィルムまたは非架橋MXeneフィルム)のXRD測定を行って、2次元X線回折像を得た。そしてXRDプロファイルにおいて(002)面のピーク位置を求めた。その結果を図6および図7に示す。図6において、実施例1のプロファイルが1a、実施例2のプロファイルが2a、実施例3のプロファイルが3a、実施例4のプロファイルが4a、実施例5のプロファイルが5aである。また図7において、比較例2のプロファイルが2b、比較例6のプロファイルが6b、比較例7のプロファイルが7bである。
【0098】
(XRD測定条件)
・使用装置:株式会社リガク製 MiniFlex600
・条件
光源:Cu管球
特性X線:CuKα=1.54Å
測定範囲:2度~20度(比較例6のみ5度~20度)
ステップ:50step/度
サンプル:濾過フィルム
【0099】
図6および図7において、実施例1~5は(002)面のピークが2θ=8°以上であって高角側にあり、層間が狭まっていることがわかる。一方、比較例2、比較例6および比較例7は、(002)面のピークが2θ=8°を下回って低角側にあり、層間が広くなった。
【0100】
(MXeneフィルムの初期導電率およびσ/σの測定)
得られたMXeneフィルムの初期導電率を求めた。1サンプルにつき3箇所で、まず表面抵抗率を測定し、これをR(Ω)とした。表面抵抗率の測定には、簡易型低抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリティック製、ロレスタAX MCP-T370)を用いてフィルムの表面抵抗を4端子法にて測定した。また1サンプルにつき3箇所で、厚み(μm)を測定した。厚み測定には、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、MDH-25MB)を用いた。上記表面抵抗率とフィルム厚みから体積抵抗率を求め、その値の逆数を取ることで初期導電率(S/cm)を算出した。上記3箇所の初期導電率の平均値を採用した。その結果を表3に示す。
【0101】
また、上記MXeneフィルムを、文献:Pristine Titanium Carbide MXene Films with Environmentally Stable Conductivity and Superior Mechanical Strength (Adv. Funct. Mater. 2020, 30, 1906996)の図5cに示された試験装置と同様に、密閉されたデシケーターの底部に少量の水を入れ、該水と直接接触させないよう上記MXeneフィルムを載置し、室温かつ湿度が飽和した湿潤環境下で7日間保持し、その後、上記と同様に、1サンプルにつき3箇所で、表面抵抗率を測定し、フィルム厚みから、導電率(S/cm)を算出した。上記3箇所の7日後の導電率の平均値(σ)を採用した。そして、初期導電率の平均値(σ)に対する7日後の導電率の平均値(σ)の割合として、(σ/σ)×100(%)を求めた。その結果を表3に併記する。本実施例では(σ/σ)×100(%)が70%以上の場合を、耐吸湿性が高く、高信頼性を備えていると評価した。前記(σ/σ)×100(%)は、好ましくは80%以上である。
【0102】
【表3】
【0103】
以上の結果から、本実施形態の導電性2次元粒子は、立体の大きいハロゲン原子(Cl、I、Br)を表面に有しておらず、MXene表面は主に立体の小さい元素F,Oで形成されており、かつ架橋構造(Ti-O-Ti)が形成されている。その結果、該導電性2次元粒子を用いて得られた導電性膜は、層間距離が狭く、また吸湿しにくく、高い初期導電率を示し、かつ導電率の経時変化が抑えられて高信頼性を示した。
【0104】
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
<1> 1つまたは複数の層を含む、層状材料の導電性2次元粒子であって、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子を含まず、
フッ素原子、酸素原子、および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種を有し、
1つの層の層本体のチタン原子と他の層の層本体のチタン原子が、酸素原子を介して結合している、導電性2次元粒子。
<2> X線回折測定して得られるプロファイルにおいて、(002)面のピークが、2θ=8°以上に存在する、<1>に記載の導電性2次元粒子。
<3> リン酸イオンを含む、<1>または<2>に記載の導電性2次元粒子。
<4> <1>~<3>のいずれかに記載の導電性2次元粒子を含む、導電性膜。
<5> 導電率が5000S/cm以上である、<4>に記載の導電性膜。
<6> <1>~<3>のいずれかに記載の導電性2次元粒子を含む、導電性ペースト。
<7> <1>~<3>のいずれかに記載の導電性2次元粒子と、ポリマーとを含む導電性複合材料。
<8> (a)以下の式:
AX
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b)塩素原子、ヨウ素原子および臭素原子を含まないエッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチングを行うこと、
(c)エッチングして得られたエッチング処理物を、水で洗浄し、水洗浄物を得ること、
(d)前記水洗浄物と、該水洗浄物の層間挿入用化合物とを含む混合液を撹拌することを含む、層間挿入用化合物のインターカレーション処理を行うこと、
(e)前記インターカレーション処理して得られたインターカレーション処理物を用い、デラミネーションを行うこと、および
(f)前記デラミネーションを行って得られたデラミネーション処理物に対し、不活性ガス雰囲気で200℃以上に加熱する熱処理を行って、導電性2次元粒子を得ること
を含む、導電性2次元粒子の製造方法。
<9> 前記(e)で、インターカレーション処理物のデラミネーションを、極性有機分散媒および水系分散媒のうちの1以上を用いて行う、<8>に記載の導電性2次元粒子の製造方法。
<10> 前記エッチング液はフッ酸を少なくとも含む、<8>または<9>に記載の導電性2次元粒子の製造方法。
<11> 前記エッチング液は更にリン酸を含む、<10>に記載の導電性2次元粒子の製造方法。
<12> 前記(d)で、前記水洗浄物の層間挿入用化合物として水酸化リチウムを用いる、<8>~<11>のいずれかに記載の導電性2次元粒子の製造方法。
【0105】
本出願は、日本国特許出願である特願2021-161527号を基礎出願とする優先権主張を伴う。特願2021-161527号は参照することにより本明細書に取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本実施形態の導電性2次元粒子を含む導電性膜および導電性ペーストは、任意の適切な用途に利用され得、例えば電気デバイスにおける電極として特に好ましく使用され得る。
【符号の説明】
【0107】
1a、1b 層本体(M層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10a、10b、10c、10d MXene
21 酸素原子
23 架橋構造
30 導電性膜
100 導電性2次元粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7