IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

特許7708344亜鉛めっき鋼板および部材、ならびに、それらの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】亜鉛めっき鋼板および部材、ならびに、それらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250708BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20250708BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20250708BHJP
   C22C 18/00 20060101ALN20250708BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/60
C21D9/46 J
C22C38/00 301Z
C22C18/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2025515495
(86)(22)【出願日】2024-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2024041530
【審査請求日】2025-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2024069310
(32)【優先日】2024-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179589
【弁理士】
【氏名又は名称】酒匂 健吾
(72)【発明者】
【氏名】秦 克弥
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 聖太郎
(72)【発明者】
【氏名】中垣内 達也
(72)【発明者】
【氏名】津田 斉祐
【審査官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/146828(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/191021(WO,A1)
【文献】特開2017-048412(JP,A)
【文献】国際公開第2024/202227(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 9/46
C22C 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地鋼板と、該下地鋼板の表面の亜鉛めっき層と、を有する亜鉛めっき鋼板であって、
該下地鋼板は、
質量%で、
C:0.05%以上0.20%以下、
Si:0.2%以上1.8%以下、
Mn:1.50%以上3.00%以下、
P:0.100%以下、
S:0.0500%以下、
Al:0.010%以上1.000%以下および
N:0.0100%以下
であり、
以下の(1)式および(2)式の関係を満足し、
残部がFeおよび不可避的不純物である、
成分組成と、
前記下地鋼板の板厚1/4位置において、
フェライトおよびベイナイトの1種または2種の合計面積率:20%以上90%以下、
マルテンサイトの面積率:10%以上80%以下および
M1/Mt:0.30以下
であり、
Mtは、前記マルテンサイトの面積率(%)であり、
M1は、前記マルテンサイトを構成する領域のうち、第1の領域の面積率(%)であり、
前記第1の領域は、以下の(3)式および(4)式の関係を満足する領域である、
鋼組織と、を有し、
前記下地鋼板の拡散性水素量が0.50質量ppm以下であり、
引張強さが780MPa以上である、亜鉛めっき鋼板。
[C]+[Si]/24+[Mn]/6≦0.65 ・・・(1)
0.13≦[Si]/[Mn]≦0.75 ・・・(2)
[C]/[C]≧2.4 ・・・(3)
[Mn]/[Mn]≧1.5 ・・・(4)
ここで、[C]、[Si]および[Mn]はそれぞれ、前記下地鋼板の成分組成のC、SiおよびMnの含有量(質量%)である。また、[C]および[Mn]はそれぞれ、前記マルテンサイトを構成する領域のCおよびMnの濃度(質量%)である。
【請求項2】
前記下地鋼板の成分組成が、さらに、質量%で、
Nb:0.40%以下、
Ti:0.40%以下、
V:0.45%以下、
B:0.0100%以下、
Cr:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Mo:1.00%以下、
Sb:0.100%以下、
Sn:0.100%以下、
Cu:1.00%以下、
Ta:0.100%以下、
W:0.200%以下、
Mg:0.010%以下、
Zn:0.020%以下、
Co:0.500%以下、
Zr:0.20%以下、
Ca:0.0200%以下、
Ce:0.0200%以下、
Se:0.0200%以下、
Te:0.0200%以下、
Ge:0.0200%以下、
As:0.0500%以下、
Sr:0.0200%以下、
Cs:0.0200%以下、
Hf:0.0200%以下、
Pb:0.0200%以下、
Bi:0.0200%以下および
REM(Ceを除く):0.0200%以下
のうちから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の亜鉛めっき鋼板を用いてなる、部材。
【請求項4】
請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼スラブを、
仕上げ圧延終了温度:840℃以上1000℃以下および
巻取温度:620℃以下
の条件で熱間圧延を施し、熱延鋼板を得る、熱間圧延工程と、
ついで、前記熱延鋼板に、
圧下率:20%以上80%以下
の条件で冷間圧延を施し、冷延鋼板を得る、冷間圧延工程と、
ついで、前記冷延鋼板を、
焼鈍温度:750℃以上900℃以下および
焼鈍時間:1秒以上30秒以下
の条件で焼鈍する、焼鈍工程と、
ついで、前記冷延鋼板を、
雰囲気水素濃度:30体積%未満および
冷却停止温度:600℃以下
の条件で冷却する、冷却工程と、
ついで、前記冷延鋼板に亜鉛めっき処理を施す、亜鉛めっき処理工程と、
を有し、
以下の(5)式の関係を満足する、亜鉛めっき鋼板の製造方法。
1.5((CT-350)/100)×T×log10(t+10)×1.15HA×1.05HB≦6800 ・・・(5)
ここで、
CT:熱間圧延工程での巻取温度(℃)、
T:焼鈍工程での焼鈍温度(℃)、
t:焼鈍工程での焼鈍時間(秒)、
HA:焼鈍工程での雰囲気水素濃度(体積%)および
HB:冷却工程での雰囲気水素濃度(体積%)
である。
【請求項5】
請求項1または2に記載の亜鉛めっき鋼板に、成形加工または接合加工の少なくとも一方を施して部材とする、工程を有する、部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部材等に好適に用いられる、亜鉛めっき鋼板および部材、ならびに、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点から、自動車産業では、COなどの排気ガスを低減しようとする試みが進められている。具体的には、自動車部材の素材となる鋼板を高強度化し、薄くすることによって、車体を軽量化して燃費を向上させる。これにより、排気ガス量を低減しようとする試みが進められている。
【0003】
また、車体防錆性能の観点から、自動車部材の素材となる鋼板には、亜鉛めっきが施される場合がある。
【0004】
このような自動車部材の素材となる鋼板として、例えば、特許文献1には、
「質量%で、C:0.04~0.14%、Si:0.4~2.2%、Mn:1.2~2.4%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.002~0.5%、Ti:0.005~0.1%、N:0.006%以下を含有し、さらに%S、%TiをそれぞれS、Ti含有量とした時に(%Ti)/(%S)≧5を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする穴拡げ性に優れた低降伏比高強度冷延鋼板。」
が開示されている。
【0005】
特許文献2には、
「質量%で、C:0.07~0.22%、Si:0.005~1.0%、Mn:1.5~2.8%、P:0.001~0.1%、S:0.001~0.01%、N:0.0005~0.01%、Al:0.02~1.0%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、ミクロ組織が、フェライトが面積率で20~70%、残留オーステナイトが面積率で1~5%以下、面積率で20%以上70%以下のマルテンサイトおよび残部がベイナイトであり、かつ(A-1)(A-2)(B)の式を満足することを特徴とする成形性に優れた溶融亜鉛めっき高強度鋼板。」
が開示されている。
【0006】
特許文献3には、
「鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記鋼板は、質量%で、C:0.11%以上0.20%以下、Si:0.001%以上0.35%以下、Mn:2.0%以上3.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.001%以上1.5%以下、Ti:0.001%以上0.30%以下、N:0.02%以下、B:0.0021%以上0.0080%以下を含有し、さらに下記(1)式を満足する化学組成と、残留オーステナイトが7体積%以下である金属組織とを有し、
前記溶融亜鉛めっき鋼板は、圧延直角方向の引張強度が1180MPa以上である、
ことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板。
15×sol.Al+100×Ti≧1.5 ・・・(1)」
が開示されている。
【0007】
特許文献4には、
「質量%で、、C:0.07~0.25%、Si:0.3~2.50%、Mn:1.5~3.0%、Ti:0.005~0.09%、B:0.0001~0.01%、P:0.001~0.03%、S:0.0001~0.01%、Al:2.5%以下、N:0.0005~0.0100%、O:0.0005~0.007%を含有し、を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼であり、
鋼板組織がフェライトを主とし、1μm以下のブロックサイズより構成されるマルテンサイトを含み、フェライトの体積率が60%以上であり、マルテンサイト中のC濃度が0.3%~0.9%であり、引張最大強度(TS)と降伏応力(YS)との比からなる降伏比(YR)が0.75以下であることを特徴とする延性及び耐遅れ破壊特性の良好な引張最大強度900MPa以上を有する高強度鋼板。」
が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-069574号公報
【文献】特開2010-156031号公報
【文献】特開2013-108154号公報
【文献】特開2011-111671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、鋼板を高強度化すると、一般的に延性が低下する。しかし、自動車部材の素材となる鋼板(以下、自動車用鋼板ともいう)には、高い強度と、優れた延性、具体的には、引張試験における全伸び(以下、単にElともいう)の向上とを両立することが要求される。
【0010】
また、近年、世界規模で自動車の普及が進んでおり、多種多様な地域および気候のなかで種々の用途で使われる観点から、耐遅れ破壊特性の一層の向上が求められている。ここで、遅れ破壊とは、鋼板(鋼板を素材とする部品)に高い応力が加わった状態で、鋼板中の水素が原子間結合力を低下させたり、局所的な変形を生じさせたりすることによって、微小亀裂が生じ、その微小亀裂が進展することで破壊に至る現象である。
【0011】
しかしながら、特許文献1~4に開示される鋼板は、上記の要求特性を全て満足するものとは言えない。
【0012】
本発明は、上記の要求に応えるために開発されたものであって、高い強度と、優れた延性と、優れた耐遅れ破壊特性と、を兼備する亜鉛めっき鋼板を、その有利な製造方法とともに、提供することを目的とする。また、本発明は、上記の亜鉛めっき鋼板を素材とする部材およびその製造方法を提供することを目的とする。なお、本開示において、「~」を用いて表す数値範囲はいずれも、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、以下の知見を得た。
【0014】
(1)下地鋼板の成分組成を所定の範囲に調製したうえで、下地鋼板の鋼組織を、フェライトおよびベイナイトの合計面積率、ならびに、マルテンサイトの面積率をそれぞれ20%以上90%以下および10%以上80%以下に制御する。これにより、高い強度と、優れた延性とを両立することが可能となる。
【0015】
(2)耐遅れ破壊特性の一層の向上には、亜鉛めっき鋼板に高い応力が付与された際に生成するボイドを抑制することが有効である。特に、マルテンサイトを構成する領域のうち、CおよびMn濃度の高い領域と、フェライトまたはベイナイトとの界面におけるボイドの生成および連結を抑制することが有効である。そのためには、下地鋼板の鋼組織において、フェライトおよびベイナイトの合計面積率、ならびに、マルテンサイトの面積率を上記の範囲に制御しつつ、M1/Mtを0.30以下に制御することが重要である。これにより、高い強度と、優れた延性とを確保しつつ、優れた耐遅れ破壊特性が得られる。
【0016】
ここで、
Mtは、マルテンサイトの面積率(%)、
M1は、マルテンサイトを構成する領域のうち、第1の領域の面積率(%)
である。
【0017】
また、第1の領域は、以下の(3)式および(4)式の関係を満足する領域である。
[C]/[C]≧2.4 ・・・(3)
[Mn]/[Mn]≧1.5 ・・・(4)
ここで、[C]および[Mn]はそれぞれ、下地鋼板の成分組成のCおよびMnの含有量(質量%)である。また、[C]および[Mn]はそれぞれ、マルテンサイトを構成する領域のCおよびMnの濃度(質量%)である。
【0018】
(3)下地鋼板の拡散性水素量を低減する。これにより、さらに耐遅れ破壊特性が向上する。
【0019】
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
【0020】
1.下地鋼板と、該下地鋼板の表面の亜鉛めっき層と、を有する亜鉛めっき鋼板であって、
該下地鋼板は、
質量%で、
C:0.05%以上0.20%以下、
Si:0.2%以上1.8%以下、
Mn:1.50%以上3.00%以下、
P:0.100%以下、
S:0.0500%以下、
Al:0.010%以上1.000%以下および
N:0.0100%以下
であり、
以下の(1)式および(2)式の関係を満足し、
残部がFeおよび不可避的不純物である、
成分組成と、
前記下地鋼板の板厚1/4位置において、
フェライトおよびベイナイトの1種または2種の合計面積率:20%以上90%以下、
マルテンサイトの面積率:10%以上80%以下および
M1/Mt:0.30以下
であり、
Mtは、前記マルテンサイトの面積率(%)であり、
M1は、前記マルテンサイトを構成する領域のうち、第1の領域の面積率(%)であり、
前記第1の領域は、以下の(3)式および(4)式の関係を満足する領域である、
鋼組織と、を有し、
前記下地鋼板の拡散性水素量が0.50質量ppm以下であり、
引張強さが780MPa以上である、亜鉛めっき鋼板。
[C]+[Si]/24+[Mn]/6≦0.65 ・・・(1)
0.13≦[Si]/[Mn]≦0.75 ・・・(2)
[C]/[C]≧2.4 ・・・(3)
[Mn]/[Mn]≧1.5 ・・・(4)
ここで、[C]、[Si]および[Mn]はそれぞれ、前記下地鋼板の成分組成のC、SiおよびMnの含有量(質量%)である。また、[C]および[Mn]はそれぞれ、前記マルテンサイトを構成する領域のCおよびMnの濃度(質量%)である。
【0021】
2.前記下地鋼板の成分組成が、さらに、質量%で、
Nb:0.40%以下、
Ti:0.40%以下、
V:0.45%以下、
B:0.0100%以下、
Cr:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Mo:1.00%以下、
Sb:0.100%以下、
Sn:0.100%以下、
Cu:1.00%以下、
Ta:0.100%以下、
W:0.200%以下、
Mg:0.010%以下、
Zn:0.020%以下、
Co:0.500%以下、
Zr:0.20%以下、
Ca:0.0200%以下、
Ce:0.0200%以下、
Se:0.0200%以下、
Te:0.0200%以下、
Ge:0.0200%以下、
As:0.0500%以下、
Sr:0.0200%以下、
Cs:0.0200%以下、
Hf:0.0200%以下、
Pb:0.0200%以下、
Bi:0.0200%以下および
REM(Ceを除く):0.0200%以下
のうちから選ばれる少なくとも1種を含有する、前記1に記載の亜鉛めっき鋼板。
【0022】
3.前記1または2に記載の亜鉛めっき鋼板を用いてなる、部材。
【0023】
4.前記1または2に記載の成分組成を有する鋼スラブを、
仕上げ圧延終了温度:840℃以上1000℃以下および
巻取温度:620℃以下
の条件で熱間圧延を施し、熱延鋼板を得る、熱間圧延工程と、
ついで、前記熱延鋼板に、
圧下率:20%以上80%以下
の条件で冷間圧延を施し、冷延鋼板を得る、冷間圧延工程と、
ついで、前記冷延鋼板を、
焼鈍温度:750℃以上900℃以下および
焼鈍時間:1秒以上30秒以下
の条件で焼鈍する、焼鈍工程と、
ついで、前記冷延鋼板を、
雰囲気水素濃度:30体積%未満および
冷却停止温度:600℃以下
の条件で冷却する、冷却工程と、
ついで、前記冷延鋼板に亜鉛めっき処理を施す、亜鉛めっき処理工程と、
を有し、
以下の(5)式の関係を満足する、亜鉛めっき鋼板の製造方法。
1.5((CT-350)/100)×T×log10(t+10)×1.15HA×1.05HB≦6800 ・・・(5)
ここで、
CT:熱間圧延工程での巻取温度(℃)、
T:焼鈍工程での焼鈍温度(℃)、
t:焼鈍工程での焼鈍時間(秒)、
HA:焼鈍工程での雰囲気水素濃度(体積%)および
HB:冷却工程での雰囲気水素濃度(体積%)
である。
【0024】
5.前記1または2に記載の亜鉛めっき鋼板に、成形加工または接合加工の少なくとも一方を施して部材とする、工程を有する、部材の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高い強度と、優れた延性と、優れた耐遅れ破壊特性と、を兼備する亜鉛めっき鋼板が得られる。また、本発明の亜鉛めっき鋼板は、高い強度と、優れた延性と、優れた耐遅れ破壊特性と、を兼備するので、自動車の骨格構造部材などの素材として、極めて有利に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を、以下の実施形態に基づき説明する。まず、本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板の下地鋼板の成分組成について説明する。なお、成分組成における単位はいずれも「質量%」であり、以下、特に断らない限り、単に「%」で示す。
【0027】
C:0.05%以上0.20%以下
Cは、マルテンサイトおよびベイナイトの強度を上昇させる元素である。そのため、Cは、所望の強度を確保する観点から含有させる。C含有量が0.05%未満では、フェライトの面積率が増加して所望の強度を得ることができなくなる。一方、C含有量が0.20%を超えると、引張強さ(以下、TSともいう)が過度に高くなり、Elが低下する。また、過度にマルテンサイトが硬質化し、耐遅れ破壊特性が低下する。したがって、C含有量は0.05%以上0.20%以下とする。C含有量は、好ましくは0.06%以上、より好ましくは0.07%以上である。また、C含有量は、好ましくは0.18%以下、より好ましくは0.17%以下である。
【0028】
Si:0.2%以上1.8%以下
Siは、固溶強化により鋼板の強度を向上させる元素である。また、Siは、フェライトの強度を増加することにより、強度低下を抑制しながら延性を向上させる元素である。さらに、Siは、焼鈍工程およびその後の冷却工程において、フェライト変態を促進させる元素である。すなわち、Siは、フェライトの面積率に影響する元素である。ここで、Si含有量が0.2%未満では、フェライトの面積率が減少し、延性が低下する。一方、Si含有量が過剰になる、特には1.8%を超えると、熱間圧延時および冷間圧延時の圧延荷重の著しい増加を招く。また、靭性の低下を招く。したがって、Si含有量は0.2%以上1.8%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上である。また、Si含有量は、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.0%以下である。
【0029】
Mn:1.50%以上3.00%以下
Mnは、鋼の焼入れ性を向上させる元素である。Mnは、マルテンサイトの面積率を所定量確保するために含有させる。Mn含有量が1.50%未満では、焼入れ性が不足し、フェライトおよびベイナイトが過剰に生成する。これにより、所望の強度を確保することが困難になる。一方、Mnを過剰に含有させると、フェライトおよびベイナイト変態が遅延し、延性の低下を招く。したがって、Mn含有量は1.50%以上3.00%以下とする。Mn含有量は、好ましくは1.65%以上であり、より好ましくは1.80%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは2.85%以下、より好ましくは2.70%以下である。
【0030】
P:0.100%以下
Pは、固溶強化の作用を有し、強度を高める元素である。このような効果を得るため、P含有量は0.001%以上が好ましい。また、P含有量は、生産技術上の制約から、より好ましくは0.002%以上である。一方、P含有量が0.100%を超えると、Pが、旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させる。そのため、耐遅れ破壊特性が低下する。したがって、P含有量は0.100%以下とする。P含有量は、好ましくは0.050%以下、より好ましくは0.030%以下である。
【0031】
S:0.0500%以下
Sは、粗大なMnS等の粒子を形成し、延性を低下させる。また、粗大なMnS等の粒子は、耐遅れ破壊特性も低下させる。特に、S含有量が0.0500%を超えると、優れた耐遅れ破壊特性が得られなくなる。したがって、S含有量は0.0500%以下とする。S含有量は、好ましくは0.0100%以下、より好ましくは0.0050%以下、さらに好ましくは0.0030%以下である。なお、S含有量の下限は特に限定されるものではない。S含有量は好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0002%以上である。
【0032】
Al:0.010%以上1.000%以下
Alは、脱酸を行い、鋼中の介在物を低減するために含有させる。また、Alは、焼鈍工程およびその後の冷却工程におけるフェライト変態を促進させる元素である。すなわち、Alは、フェライトの面積率に影響する元素である。ここで、Al含有量が0.010%未満では、フェライトの面積率が減少し、延性が低下する。一方、Al含有量が1.000%を超えると、フェライトの面積率が過度に増加し、所望の強度を得ることが困難になる。したがって、Al含有量は、0.010%以上1.000%以下とする。Al含有量は、好ましくは0.015%以上、より好ましくは0.030%以上である。また、Al含有量は、好ましくは0.500%以下、より好ましくは0.100%以下である。
【0033】
N:0.0100%以下
Nは、結晶粒界をピン止めするAlN等の窒化物系析出物を生成させる元素であり、伸びを良好にするために含有させることができる。しかし、N含有量が0.0100%を超えると、AlN等の窒化物系析出物が粗大化するため、伸びが低下する。したがって、N含有量は0.0100%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0070%以下、より好ましくは0.0050%以下である。なお、N含有量の下限は特に限定されるものではない。生産技術上の制約から、N含有量は0.0006%以上が好ましい。
【0034】
[C]+[Si]/24+[Mn]/6≦0.65 ・・・(1)
C、SiおよびMnの含有量が過剰になると、特に、[C]+[Si]/24+[Mn]/6が0.65を超えると、耐遅れ破壊特性が低下する。その理由は、粗大な介在物が増加すること、また、C、SiおよびMnの粒界偏析によって粒界破壊が促進されるためと考えられる。したがって、[C]+[Si]/24+[Mn]/6は0.65以下とする。[C]+[Si]/24+[Mn]/6は、好ましくは0.62以下、より好ましくは0.58以下である。[C]+[Si]/24+[Mn]/6の下限は、特に限定されない。例えば、[C]+[Si]/24+[Mn]/6は、好ましくは0.30以上である。
【0035】
0.13≦[Si]/[Mn]≦0.75 ・・・(2)
高い強度と延性を両立するためには、[Si]/[Mn]を適正な値に制御することが重要である。[Si]/[Mn]が0.13未満では、適正量のフェライトおよびベイナイトの量が得られず、強度が過剰となるおそれがある。一方、[Si]/[Mn]が0.75を超えると、フェライトおよびベイナイトが過剰に生成されるため、所望の強度を得ることが困難になる。したがって、[Si]/[Mn]を0.13以上0.75以下とする。[Si]/[Mn]は、好ましくは0.14以上、より好ましくは0.15以上である。また、[Si]/[Mn]は、好ましくは0.65以下、より好ましくは0.55以下である。
【0036】
以上、本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板の下地鋼板の成分組成の基本となる元素(以下、基本成分元素ともいう)について説明した。本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板の下地鋼板は、上記基本成分元素を含有し、上記基本成分元素以外の残部はFe(鉄)および不可避的不純物を含む成分組成を有する。ここで、本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板の下地鋼板は、上記基本成分元素を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することが好ましい。本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板の下地鋼板には、上記基本成分元素に加え、任意添加元素として、以下のうちから選ばれる少なくとも1種を含有させてもよい。
Nb:0.40%以下、
Ti:0.40%以下、
V:0.45%以下、
B:0.0100%以下、
Cr:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Mo:1.00%以下、
Sb:0.100%以下、
Sn:0.100%以下、
Cu:1.00%以下、
Ta:0.100%以下、
W:0.200%以下、
Mg:0.010%以下、
Zn:0.020%以下、
Co:0.500%以下、
Zr:0.20%以下、
Ca:0.0200%以下、
Ce:0.0200%以下、
Se:0.0200%以下、
Te:0.0200%以下、
Ge:0.0200%以下、
As:0.0500%以下、
Sr:0.0200%以下、
Cs:0.0200%以下、
Hf:0.0200%以下、
Pb:0.0200%以下、
Bi:0.0200%以下および
REM(Ceを除く):0.0200%以下
【0037】
なお、上記の任意添加元素は、上記の上限量以下で含有していれば、本発明の効果が得られるため、下限は特に設けない。なお、上記の任意添加元素を後述する好適な下限値未満で含む場合、当該元素は不可避的不純物として含まれるものとする。
【0038】
Nb:0.40%以下
Nbは、熱間圧延工程や焼鈍工程において、微細な析出物、例えば、炭化物や窒化物、炭窒化物を形成することによって、TSを上昇させる。また、Nbは、水素のトラップサイトとなる微細な析出物の形成によって下地鋼板の拡散性水素量を低減し、耐遅れ破壊特性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Nb含有量は0.002%以上が好ましい。一方、Nb含有量が0.40%を超えると、熱間圧延工程のスラブ加熱時に未固溶で残存するNbN、Nb(C,N)、(Nb,Ti)(C,N)等のNb系の粗大な析出物が増加し、耐遅れ破壊特性が低下する。したがって、Nbを含有させる場合、Nb含有量は、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.10%以下である。
【0039】
Ti:0.40%以下
Tiは、熱間圧延工程や焼鈍工程において、微細な析出物を形成することによって、TSを上昇させる。また、Tiは、水素のトラップサイトとなる微細な析出物の形成によって下地鋼板の拡散性水素量を低減し、耐遅れ破壊特性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Ti含有量は0.002%以上が好ましい。一方、Ti含有量が0.40%を超えると、熱間圧延工程のスラブ加熱時に未固溶で残存するTiN、Ti(C,N)、Ti(C,S)、TiS等のTi系の粗大な析出物が増加し、耐遅れ破壊特性が低下する。したがって、Tiを含有させる場合、Ti含有量は、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.10%以下である。
【0040】
V:0.45%以下
Vは、NbやTiと同様、熱間圧延工程や焼鈍工程において、微細な析出物を形成することによって、TSを上昇させる。また、Vは、水素のトラップサイトとなる微細な析出物の形成によって下地鋼板の拡散性水素量を低減し、耐遅れ破壊特性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、V含有量は0.001%以上が好ましい。V含有量は、より好ましくは0.005%以上である。一方、V含有量が0.45%を超えると、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、延性が低下するおそれがある。したがって、Vを含有させる場合、V含有量は、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.060%以下である。
【0041】
B:0.0100%以下
Bは、オーステナイト粒界に偏析することにより、焼入れ性を高める元素である。また、Bは、焼鈍工程の後の冷却工程におけるフェライトの生成および粒成長を制御する元素である。このような効果を得るためには、B含有量は0.0001%以上が好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0002%以上である。一方、B含有量が0.0100%を超えると、BN等の窒化物系析出物の量が過剰となるため、延性が低下するおそれがある。したがって、Bを含有させる場合、B含有量は好ましくは0.0100%以下、より好ましくは0.0050%以下、さらに好ましくは0.0030%以下である。
【0042】
Cr:1.00%以下
Crは、焼入れ性を高めてマルテンサイトの生成を促し、これにより、TSを上昇させる元素である。このような効果を得るためには、Cr含有量は0.0005%以上が好ましい。Cr含有量は、より好ましくは0.010%以上である。一方、Cr含有量が1.00%を超えると、マルテンサイトの面積率が増加し、延性が低下するおそれがある。したがって、Crを含有させる場合、Cr含有量は、好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.60%以下、さらに好ましくは0.30%以下である。
【0043】
Ni:1.00%以下
Niは、焼入れ性を高めてマルテンサイトの生成を促し、これにより、TSを上昇させる元素である。このような効果を得るためには、Ni含有量は0.005%以上が好ましい。Ni含有量は、より好ましくは、0.020%以上である。一方、Ni含有量が1.00%を超えると、マルテンサイトの面積率が増加し、延性が低下するおそれがある。したがって、Niを含有させる場合、Ni含有量は好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.50%以下である。
【0044】
Mo:1.00%以下
Moは、焼入れ性を高めてマルテンサイトの生成を促し、これにより、TSを上昇させる元素である。また、Moは、水素のトラップサイトとなる微細な析出物の形成によって下地鋼板の拡散性水素量を低減し、耐遅れ破壊特性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Mo含有量は0.010%以上が好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.030%以上である。一方、Mo含有量が1.00%を超えると、マルテンサイトの面積率が増加し、所望の延性が得られない場合がある。したがって、Moを含有させる場合、Mo含有量は、好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.30%以下である。
【0045】
Sb:0.100%以下
Sbは、焼鈍中の鋼板表面近傍でのCの拡散を抑制し、鋼板表面近傍における軟質層の形成を制御するために有効な元素である。このような効果を得るためには、Sb含有量は0.002%以上が好ましい。Sb含有量は、より好ましくは0.005%以上である。一方、Sb含有量が0.100%を超えると、鋳造性の低下を招く場合がある。したがって、Sbを含有させる場合、Sb含有量は、好ましくは0.100%以下、より好ましくは0.060%以下、さらに好ましくは0.040%以下である。
【0046】
Sn:0.100%以下
Snは、鋼板表面近傍での酸化や窒化を抑制し、それによる鋼板表面近傍でのCやBの含有量の低下を抑制する。これにより、鋼板表面近傍において過度にフェライトが生成することが抑制され、強度の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Sn含有量は0.002%以上が好ましい。ただし、Sn含有量が0.100%を超えると、鋳造性の低下を招く場合がある。したがって、Snを含有させる場合、Sn含有量は、好ましくは0.100%以下、より好ましくは0.040%以下であり、さらに好ましくは0.020%以下である。
【0047】
Cu:1.00%以下
Cuは、焼入れ性を高めてマルテンサイトの生成を促し、これにより、TSを上昇させる元素である。このような効果を得るためには、Cu含有量は0.005%以上が好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.020%以上である。一方、Cu含有量が1.00%を超えると、マルテンサイトの面積率が過度に増加する。さらに、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、延性や耐遅れ破壊特性の低下を招く。したがって、Cuを含有させる場合、Cu含有量は好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.20%以下である。
【0048】
Ta:0.100%以下
Taは、Ti、NbおよびVと同様に、熱間圧延工程や焼鈍工程において、微細な析出物を形成することによって、TSを上昇させる。加えて、Taは、Nb炭化物やNb炭窒化物に一部固溶し、(Nb,Ta)(C,N)のような複合析出物を生成する。これにより、析出物の粗大化を抑制し、析出強化を安定化させる。その結果、TSをさらに上昇させる。このような効果を得るためには、Ta含有量は0.001%以上が好ましい。一方、Ta含有量が0.100%を超えると、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、延性や耐遅れ破壊特性の低下を招く。したがって、Taを含有させる場合、Ta含有量は、好ましくは0.100%以下、より好ましくは0.050%以下である。
【0049】
W:0.200%以下
Wは、Ti、NbおよびVと同様に、熱間圧延工程や焼鈍工程において、微細な析出物を形成することによって、TSを上昇させる。また、Wは、水素のトラップサイトとなる微細な析出物の形成によって下地鋼板の拡散性水素量を低減し、耐遅れ破壊特性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、W含有量は0.001%以上が好ましい。W含有量は、より好ましくは0.005%以上である。一方、W含有量が0.200%を超えると、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、延性や耐遅れ破壊特性の低下を招く。したがって、Wを含有させる場合、W含有量は、好ましくは0.200%以下、より好ましくは0.060%以下である。
【0050】
Mg:0.010%以下
Mgは、硫化物や酸化物などの介在物の形状を球状化して鋼板の耐遅れ破壊特性を向上させるために有効な元素である。このような効果を得るためには、Mg含有量は0.0001%以上が好ましい。ただし、Mg含有量が0.010%を超えると、表面品質が低下する。したがって、Mgを含有させる場合、Mg含有量は、好ましくは0.010%以下、より好ましくは0.005%以下、さらに好ましくは0.001%以下である。
【0051】
Zn:0.020%以下
Znは、介在物の形状を球状化して鋼板の耐遅れ破壊特性を向上させるために有効な元素である。このような効果を得るためには、Zn含有量は0.001%以上が好ましい。一方、Zn含有量が0.020%を超えると、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、却って耐遅れ破壊特性の低下を招く場合がある。したがって、Znを含有させる場合、Zn含有量は好ましくは0.020%以下である。
【0052】
Co:0.500%以下
Coは、Znと同様、介在物の形状を球状化して鋼板の耐遅れ破壊特性を向上させるために有効な元素である。このような効果を得るためには、Co含有量は0.001%以上が好ましい。一方、Co含有量が0.500%を超えると、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、却って耐遅れ破壊特性の低下を招く場合がある。したがって、Coを含有させる場合、Co含有量は好ましくは0.500%以下である。
【0053】
Zr:0.20%以下
Zrは、旧オーステナイト粒の微細化を通じて高強度化に寄与する。また、Zrは、旧オーステナイト粒の微細化によるマルテンサイトやベイナイトの内部構造単位であるブロックサイズ、ベイン粒径等の低減を通じて高強度化に寄与する。さらに、Zrは、鋳造性を改善する。このような効果を得るためには、Zr含有量は0.001%以上が好ましい。ただし、Zrを多量に含有させると、熱間圧延工程の前の鋼スラブの加熱の際に未固溶で残存するZrN系やZrS系の粗大な析出物が増加し、延性が低下する。したがって、Zrを含有させる場合、Zr含有量は、好ましくは0.20%以下、より好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.01%以下である。
【0054】
Ca:0.0200%以下
Caは、鋼中で介在物として存在する。ここで、Ca含有量が0.0200%を超えると、粗大な介在物が多量に生成し、延性および耐遅れ破壊特性が低下するおそれがある。また、表面品質も低下する。したがって、Caを含有させる場合、Ca含有量は0.0200%以下が好ましい。なお、Ca含有量の下限は特に限定されるものではない。Ca含有量は、例えば、0.0005%以上が好ましい。また、生産技術上の制約から、Ca含有量は0.0010%以上がより好ましい。
【0055】
Ce:0.0200%以下、Se:0.0200%以下、Te:0.0200%以下、Ge:0.0200%以下、As:0.0500%以下、Sr:0.0200%以下、Cs:0.0200%以下、Hf:0.0200%以下、Pb:0.0200%以下、Bi:0.0200%以下およびREM(Ceを除く):0.0200%以下
Ce、Se、Te、Ge、As、Sr、Cs、Hf、Pb、BiおよびREMはいずれも、鋼板の耐遅れ破壊特性を向上させるために有効な元素である。このような効果を得るためには、Ce、Se、Te、Ge、As、Sr、Cs、Hf、Pb、BiおよびREMの含有量はそれぞれ0.0001%以上が好ましい。一方、Ce、Se、Te、Ge、Sr、Cs、Hf、Pb、BiおよびREM含有量がそれぞれ0.0200%を超えると、また、As含有量が0.0500%を超えると、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、却って耐遅れ破壊特性が低下する場合がある。したがって、これらの元素を含有させる場合、Ce、Se、Te、Ge、Sr、Cs、Hf、Pb、BiおよびREM含有量はそれぞれ0.0200%以下、As含有量は0.0500%以下とすることが好ましい。なお、Ce、Se、Te、Ge、As、Sr、Cs、Hf、Pb、BiおよびREMは、それぞれ単独で含有させてもよいし、複合して含有させてもよい。また、ここでいうREMとは、Ceを除く原子番号57番のLa(ランタン)から71番のLu(ルテチウム)までのランタノイドの14元素と、原子番号21番のSc(スカンジウム)と、原子番号39番のY(イットリウム)とを合わせた16元素の総称である。これらの16元素を単独でまたは組み合わせて含有させることができる。なお、REM含有量は、これらの16元素の合計含有量を意味する。
【0056】
上記の元素以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。なお、上記の任意添加元素はいずれも0%であってもよい。不可避的不純物とは、原料、製造プロセスまたは製造設備などから不可避的に混入される不純物であり、本発明の目的を阻害しない範囲で含有されることが許容される。原料としては、鉄鉱石、還元鉄またはスクラップ等が挙げられる。不純物としては、例えば、O(酸素)などが挙げられる。また、上記の各任意添加元素の含有量が好適下限値未満の場合には、当該元素を不可避的不純物として含むともいえる。
【0057】
つぎに、本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板の下地鋼板の鋼組織について説明する。なお、各相の面積率は、鋼組織全体の面積に対して各相が占める面積の割合である。
【0058】
フェライトおよびベイナイトの1種または2種の合計面積率(以下、フェライトおよびベイナイトの合計面積率ともいう):20%以上90%以下
フェライトおよびベイナイトは軟質であるため、優れた延性を得るうえで有効である。所望の延性を得るために、フェライトおよびベイナイトの合計面積率を20%以上とする。一方、フェライトおよびベイナイトの面積率が過剰になると、所望の強度を得ることが困難となる。そのため、フェライトおよびベイナイトの合計面積率を90%以下とする。フェライトおよびベイナイトの合計面積率は、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。また、フェライトおよびベイナイトの合計面積率は、好ましくは75%以下、より好ましくは65%以下である。なお、フェライトおよびベイナイトはそれぞれ単独で含有されていてもよく、これらの両方が含有されていてもよい。フェライトおよびベイナイトはいずれも、強度および延性を所望の範囲に調整するものであるため、本開示ではフェライトおよびベイナイトそれぞれの面積率を特定する必要はない。
【0059】
マルテンサイトの面積率:10%以上80%以下
マルテンサイトは硬質であり、鋼板の高強度化に必要な組織である。ここで、マルテンサイトの面積率が10%未満になると、所望の強度が得られない。一方、マルテンサイトの面積率の過度の増加は、延性の低下の原因となる。したがって、マルテンサイトの面積率は10%以上80%以下とする。マルテンサイトの面積率は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上である。また、マルテンサイトの面積率は、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下である。
【0060】
なお、マルテンサイトとは、マルテンサイト変態点(単にMs点ともいう。)以下でオーステナイトから変態することにより生成する硬質な組織である。また、マルテンサイトは、焼入れままのいわゆるフレッシュマルテンサイトと、該フレッシュマルテンサイトが焼戻されたいわゆる焼戻しマルテンサイトとの両方を含む。
【0061】
また、下地鋼板の鋼組織には、残留オーステナイトが含まれていてもよい。残留オーステナイトは、強度と延性のバランスを向上させる。ただし、残留オーステナイトが過剰になると、例えば、鋼板を部品に成形する際に、残留オーステナイトがマルテンサイト変態し、割れの起点が増加する。そのため、残留オーステナイトの面積率は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。残留オーステナイトの面積率は0%であってもよい。
【0062】
なお、残留オーステナイトとは、オーステナイトからフェライト、マルテンサイト、ベイナイトまたはその他の金属相に変態せずに残ったオーステナイトである。また、残留オーステナイトは、例えば、オーステナイト中にC等の元素が濃化することによりマルテンサイト変態点が室温以下となることで、生成する(オーステナイトが変態せずに残留する)。
【0063】
上記したフェライト、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の残部組織の面積率は10%以下とすることが好ましい。残部組織の面積率は、より好ましくは5%以下である。また、残部組織の面積率は0%であってもよい。
【0064】
なお、残部組織としては、特に限定されず、例えば、パーライト、および、セメンタイトなどの炭化物が挙げられる。残部組織の種類は、例えば、SEM(Scanning Electron Microscope;走査電子顕微鏡)による観察で確認することができる。なお、パーライトは、比較的高温でオーステナイトから生成し、層状のフェライトとセメンタイトからなる組織である。
【0065】
ここで、フェライトおよびベイナイトの合計面積率、ならびに、マルテンサイトの面積率は、下地鋼板の板厚1/4位置において、例えば、以下のように測定する。すなわち、亜鉛めっき鋼板の下地鋼板の圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)が観察面となるように、亜鉛めっき鋼板から試料を切り出す。ついで、ダイヤモンドペーストを用いて試料の観察面を研磨し、ついで、アルミナを用いて試料の観察面を仕上げ研磨する。ついで、試料の観察面をナイタールでエッチングし、組織を現出させる。そして、SEMにより、倍率:1500倍の条件で、試料の観察面を5視野観察する。ついで、得られた組織画像から、Adobe Systems社のAdobe Photoshopを用いて以下の領域を色分け(画定)する。そして、ポイントカウンティング法により、フェライトおよびベイナイトの合計面積率、ならびに、マルテンサイトの面積率を算出する。具体的には、各SEM像の実長さ:82μm×57μmの領域において、4.8μmの間隔で16×15の格子点を設置する。ついで、フェライトおよびベイナイト、ならびに、マルテンサイト上の格子点の数をそれぞれ数える。ついで、フェライトおよびベイナイト、ならびに、マルテンサイト上の格子点の数をそれぞれ、全ての格子点の数で除し、100を乗じることにより、フェライトおよびベイナイトの合計面積率、ならびに、マルテンサイトの面積率を算出する。
【0066】
フェライト:黒色を呈した領域であり、形態は塊状である。また、フェライトは、BCC格子の結晶粒からなる組織である。フェライトは、オーステナイトからの変態により生成する。
ベイナイト:黒色から濃い灰色を呈した領域であり、形態は塊状や不定形などである。また、ベイナイトは、上述したように、針状または板状のフェライト中に微細な炭化物が分散した硬質な組織である。ベイナイトは、フェライトよりも低い温度域(Ms点以上)において、オーステナイトからの変態により生成する。
マルテンサイト:白色から薄い灰色を呈した領域である。また、マルテンサイトは、上述したように、Ms点以下の温度域においてオーステナイトからの変態により生成する硬質な組織である。マルテンサイトは、焼入れままのいわゆるフレッシュマルテンサイトと、該フレッシュマルテンサイトが焼戻されたいわゆる焼戻しマルテンサイトとの両方を含む。このうち、焼戻しマルテンサイトは、炭化物を内包する。
【0067】
また、残留オーステナイトの面積率は、下地鋼板の板厚1/4位置において、以下のように測定する。すなわち、下地鋼板を板厚方向(深さ方向)に板厚の1/4位置まで機械研削した後、シュウ酸による化学研磨を行い、観察面とする。ついで、観察面を、X線回折法により観察する。入射X線にはCoKα線を使用し、bcc鉄の(200)、(211)および(220)各面の回折強度に対するfcc鉄(オーステナイト)の(200)、(220)および(311)各面の回折強度の比を求める。ついで、各面の回折強度の比から、残留オーステナイトの体積率を算出する。そして、残留オーステナイトが三次元的に均質であるとみなして、残留オーステナイトの体積率を、残留オーステナイトの面積率とする。
【0068】
さらに、残部組織の面積率は、100%から上記のようにして求めたフェライトおよびベイナイトの合計面積率、マルテンサイトの面積率、ならびに、残留オーステナイトの面積率を減じることにより求める。
[残部組織の面積率(%)]=100-[フェライトおよびベイナイトの合計面積率(%)]-[マルテンサイトの面積率(%)]-[残留オーステナイトの面積率(%)]
【0069】
M1/Mt:0.30以下
マルテンサイトは硬質であり、鋼板の高強度化に必要な組織である。ただし、鋼板に応力が加わると、マルテンサイトと軟質なフェライトまたはベイナイトとの界面、特に、マルテンサイトを構成する領域のうち、CおよびMn濃度の高い領域とフェライトまたはベイナイトとの界面にボイドが生成する。そして、これらのボイドが連結することにより、遅れ破壊が生じる。このようなボイドの生成および連結を抑制し、優れた耐遅れ破壊特性を得るためには、マルテンサイトを構成する領域において、CおよびMn濃度の高い領域に当たる第1の領域の割合を低減し、それ以外の領域(以下、第2の領域ともいう)の割合を増加させることが有効である。そのため、M1/Mtを0.30以下とする。M1/Mtは、好ましくは0.25以下、より好ましくは0.20以下である。M1/Mtの下限は特に限定されず、0であってもよい。
【0070】
ここで、M1は、例えば、参考文献1に記載の要領に準拠して求める。
参考文献1:山下ら「高精度FE-EPMAによる低炭素鋼の初析フェライト変態初期における炭素の分配」、鉄と鋼、Vol.103(2017) No.11 P.14-20
【0071】
すなわち、上記の各相の面積率の測定で使用した試料を用いて、下地鋼板の板厚1/4位置において、電解放出型電子線マイクロアナライザー(FE―EPMA)により、CおよびMnの定量分析を実施し、CおよびMnの二次元分布(CマッピングおよびMnマッピング)作成する。ここでは、表面のカーボンコンタミネーションを防ぎながらCの定量分析を行い、ついで、同一視野においてMnの定量分析を行う。Cの定量分析では、加速電圧は7kV、照射電流は5nAとする。Mnの定量分析では、加速電圧を9kV、照射電流は10nAとする。ついで、上記の各相の面積率の測定に使用した組織画像とCおよびMnの二次元分布とを照合する。そして、マルテンサイトを構成する領域においてCおよびMnの濃度が以下の(3)式および(4)式の関係を満足する領域を第1の領域、それ以外の領域を第2の領域として画定する。ついで、第1の領域として画定した領域の合計の面積を求め、当該合計の面積を観察視野の全面積で除することにより、M1を求める。
[C]/[C]≧2.4 ・・・(3)
[Mn]/[Mn]≧1.5 ・・・(4)
ここで、[C]および[Mn]はそれぞれ、下地鋼板の成分組成のCおよびMnの含有量(質量%)である。また、[C]および[Mn]はそれぞれ、マルテンサイトを構成する領域のCおよびMnの濃度(質量%)である。
【0072】
なお、上掲(3)式および(4)式に係る[C]/[C]および[Mn]/[Mn]の上限は特に限定されない。例えば、[C]/[C]は好ましくは5.0以下であり、[Mn]/[Mn]は好ましくは3.0以下である。
【0073】
下地鋼板の拡散性水素量:0.50質量ppm以下
優れた耐遅れ破壊特性を得る観点から、下地鋼板の拡散性水素量を0.50質量ppm以下とする。また、下地鋼板の拡散性水素量は、好ましくは0.45質量ppm以下、より好ましくは0.40質量ppm以下、さらに好ましくは0.35質量ppm以下である。なお、下地鋼板の拡散性水素量の下限は特に限定されず、0質量ppmであってもよい。ただし、下地鋼板の拡散性水素量は、生産技術上の制約から、0.01質量ppm以上が好ましい。
【0074】
ここで、下地鋼板の拡散性水素量は、例えば、以下のようにして測定する。すなわち、亜鉛めっき鋼板から長さが30mm、幅が5mmの試験片を採取し、ルータ(精密グラインダー)により亜鉛めっき層を除去する。ついで、昇温脱離分析法により、試験片から放出される水素量を測定する。具体的には、試験片を、25℃から300℃までを昇温速度200℃/hで連続加熱した後、室温まで冷却する。この際、当該連続加熱における25℃から210℃までの温度域で、試験片から放出される水素量(積算水素量)を測定する。そして、測定した水素量を、試験片(亜鉛めっき層除去後で、連続加熱前の試験片)の質量で除し、質量ppm単位に換算した値を、下地鋼板の拡散性水素量とする。
【0075】
つぎに、本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層について説明する。亜鉛めっき層は、鋼板の一方の表面のみに設けてもよく、両面に設けてもよい。なお、亜鉛めっき層は、Znを主成分(Zn含有量が50.0質量%以上)とするめっき層を指す。亜鉛めっき層としては、溶融亜鉛めっき層や合金化溶融亜鉛めっき層を例示できる。なお、亜鉛めっき層を有する鋼板は、亜鉛めっき鋼板ということもできる。また、上述した溶融亜鉛めっき層および合金化溶融亜鉛めっきを有する鋼板は、それぞれ溶融亜鉛めっき鋼板(GI)および合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)ということもできる。
【0076】
ここで、溶融亜鉛めっき層は、例えば、Znと、20.0質量%以下のFe、0.001質量%以上1.0質量%以下のAlにより構成することが好適である。また、溶融亜鉛めっき層には、任意に、Pb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Cr、Co、Ca、Cu、Li、Ti、Be、BiおよびREMからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を合計で0.0質量%以上3.5質量%以下含有させてもよい。また、溶融亜鉛めっき層のFe含有量は、より好ましくは7.0質量%未満である。なお、上記の元素以外の残部は、不可避的不純物である。
【0077】
また、合金化溶融亜鉛めっき層は、例えば、Znと、20質量%以下のFe、0.001質量%以上1.0質量%以下のAlにより構成することが好適である。また、合金化溶融亜鉛めっき層には、任意に、Pb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Cr、Co、Ca、Cu、Li、Ti、Be、BiおよびREMからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を合計で0.0質量%以上3.5質量%以下含有させてもよい。合金化溶融亜鉛めっき層のFe含有量は、より好ましくは7.0質量%以上、さらに好ましくは8.0質量%以上である。また、合金化溶融亜鉛めっき層のFe含有量は、より好ましくは15.0質量%以下、さらに好ましくは12.0質量%以下である。なお、上記の元素以外の残部は、不可避的不純物である。
【0078】
加えて、亜鉛めっき層の片面あたりのめっき付着量は、特に限定されるものではないが、20g/m以上80g/m以下とすることが好ましい。
【0079】
なお、亜鉛めっき層のめっき付着量は、以下のようにして測定する。すなわち、10質量%塩酸水溶液1Lに対し、Feに対する腐食抑制剤(朝日化学工業(株)製「イビット700BK」(登録商標))を0.6g添加した処理液を調整する。ついで、該処理液に、供試材となる鋼板を浸漬し、亜鉛めっき層を溶解させる。そして、溶解前後での供試材の質量減少量を測定し、その値を、下地鋼板の表面積(めっきで被覆されていた部分の表面積)で除することにより、めっき付着量(g/m)を算出する。
【0080】
つぎに、本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板の機械特性について、説明する。
【0081】
TS:780MPa以上
本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板のTSは、780MPa以上である。本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板のTSの上限は、特に限定されない。例えば、本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板のTSは、1300MPa未満が好ましい。
【0082】
ここで、TSは、JIS Z 2241(2022)(以下、単に、JIS Z 2241ともいう)に準拠する引張試験により測定する。
【0083】
優れた延性とは、JIS Z 2241に準拠する引張試験で測定される全伸び(El)が、以下の式を満足することを意味する。
780MPa≦TS<980MPaの場合、15%≦El
980MPa≦TSの場合、9%≦El
【0084】
優れた耐遅れ破壊特性とは、SEP1970に準拠する遅れ破壊試験において、鋼板(試験片)に当該鋼板の降伏強度(YS)に相当する応力を負荷し、応力を負荷してから96時間を経過する時点で当該鋼板に破断が発生しないことを意味する。
【0085】
なお、前述した特許文献3および4に開示の技術では、所定の応力を負荷した状態で、鋼板を塩酸などの酸性水溶液に一定の時間浸漬することにより、鋼板に強制的に水素を侵入させて、耐遅れ破壊特性を評価している。しかしながら、このような試験では強制的に鋼板(下地鋼板)に水素を侵入させて評価することになり、鋼板の製造工程で侵入する水素の影響は評価できない。そのため、本明細書では、上記したSEP1970に準拠する遅れ破壊試験により、耐遅れ破壊特性を評価している。
【0086】
上記の各特性の詳細な測定要領は、後述する実施例に記載するとおりである。
【0087】
また、本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板の板厚は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.5mm以上3.5mm以下である。
【0088】
[2]部材
つぎに、本発明の一実施形態に従う部材について、説明する。本発明の一実施形態に従う部材は、上記の亜鉛めっき鋼板を用いてなる(素材とする)部材である。例えば、素材である亜鉛めっき鋼板に、成形加工および接合加工の少なくとも一方を施して部材とする。ここで、上記の亜鉛めっき鋼板は、高い強度と、優れた延性と、優れた耐遅れ破壊特性と、を兼備する。そのため、本発明の一実施形態に従う部材は、自動車分野で使用される部材に適用して特に好適である。
【0089】
[3]亜鉛めっき鋼板の製造方法
つぎに、本発明の一実施形態に従う亜鉛めっき鋼板の製造方法について、説明する。なお、ここでいう各温度は、特に説明がない限り、鋼スラブおよび鋼板の表面温度を意味する。
【0090】
まず、上記の成分組成を有する鋼スラブを準備する。例えば、鋼素材を溶製して上記の成分組成を有する溶鋼とする。溶製方法は特に限定されず、転炉溶製や電気炉溶製等、公知の溶製方法を用いることができる。ついで、得られた溶鋼を固めて鋼スラブとする。溶鋼から鋼スラブを得る方法は特に限定されない。例えば、連続鋳造法、造塊法または薄スラブ鋳造法等を用いることができる。マクロ偏析を防止する観点から、連続鋳造法が好ましい。
【0091】
ここでは、従来法に加え、直送圧延や直接圧延といった省エネルギープロセスも問題なく適用できる。従来法は、得られた鋼スラブを一旦室温まで冷却し、その後、再度加熱し、熱間圧延する方法である。直送圧延は、得られた鋼スラブを室温まで冷却せずに、温片のままで加熱炉に装入し、熱間圧延する方法である。直接圧延は、鋼スラブにわずかの保熱を行った後、直ちに熱間圧延する方法である。また、炭化物の溶解や圧延荷重の低減の観点から、スラブ加熱温度は1100℃以上が好ましい。一方、スケールロスの増大を防止するため、スラブ加熱温度は1300℃以下が好ましい。鋼スラブは、例えば、常法に従う条件により、粗圧延によりシートバーとする。なお、スラブ加熱温度を低めにする場合、熱間圧延時のトラブル発生を防止する観点から、仕上げ圧延前にバーヒーターなどを用いてシートバーを加熱することが好ましい。
【0092】
[熱間圧延工程]
ついで、鋼スラブに、以下の条件の熱間圧延を施して熱延鋼板を得る。
【0093】
仕上げ圧延終了温度:840℃以上1000℃以下
仕上げ圧延終了温度が840℃未満では、フェライトの生成が促進され、熱延鋼板の巻取前に過度にフェライトが生成する。これにより、未変態オーステナイトにCおよびMnが濃化する。未変態オーステナイトへの過度なCの濃化は、パーライト変態を促進する。すなわち、熱間圧延後に得られる熱延鋼板の鋼組織において、パーライトが過度に生成する。パーライトはフェライトとセメンタイトの層状組織であり、Mnはセメンタイトに濃化する。ここで、最終製品の下地鋼板の鋼組織(以下、最終組織ともいう)においてマルテンサイトへのMn濃化を抑制する観点からは、焼鈍工程前の冷延鋼板の組織においてMnの濃化領域を極力低減することが重要である。そのため、仕上げ圧延終了温度は840℃以上とする。仕上げ圧延終了温度は、好ましくは850℃以上である。一方、仕上げ圧延終了温度が過度に高くなると、後述する巻取温度までの冷却が困難になる場合がある。そのため、仕上げ圧延終了温度は1000℃以下とする。仕上げ圧延終了温度は、好ましくは950℃以下である。
【0094】
巻取温度:620℃以下
巻取温度が620℃超では、巻取時にパーライトが過度に多くなり、Mn濃化が促進される。巻取温度が低いほど、パーライトの生成量は減少するため、巻取温度は低い方が好ましい。したがって、巻取温度は620℃以下とする。巻取温度は、好ましくは600℃以下、より好ましくは580℃以下である。一方、巻取温度が400℃未満になると、鋼板が過度に硬質化して冷間圧延時の破断を引き起こす可能性がある。したがって、巻取温度は、好ましくは400℃以上、より好ましくは420℃以上である。
【0095】
なお、熱延鋼板の表面に生成した1次スケールおよび2次スケールを除去するために、デスケーリングを適宜行ってよい。熱延鋼板を冷間圧延する前に、十分酸洗してスケールの残存を軽減するのがよい。また、冷間圧延時の荷重低減の観点から、任意に、熱延鋼板に熱延板焼鈍を施してもよい。
【0096】
[冷間圧延工程]
ついで、熱延鋼板に、以下の条件の冷間圧延を施して冷延鋼板を得る。
【0097】
圧下率:20%以上80%以下
冷間圧延における圧下率は20%以上とする。すなわち、圧下率が20%未満では、焼鈍工程において鋼組織の粗大化や不均一が生じやすくなり、最終製品においてTSや延性が低下する。したがって、圧下率は20%以上とする。一方、圧下率が80%を超えると、鋼板の形状不良が生じやすくなる。また、焼鈍工程での温度ムラによる鋼組織の不均一や、亜鉛めっき付着量の不均一が生じるおそれもある。したがって、圧下率は80%以下とする。圧下率は、好ましくは30%以上である。また、圧下率は、好ましくは70%以下である。
【0098】
[焼鈍工程]
ついで、冷延鋼板を、以下の条件で焼鈍する。
【0099】
焼鈍温度:750℃以上900℃以下
焼鈍温度が750℃未満の場合、フェライトとオーステナイトの二相域での加熱中におけるオーステナイトの生成割合が不十分になる。そのため、焼鈍後にフェライトの面積率が過度に増加して、所望の強度が得られない。一方、焼鈍温度が900℃を超えると、所望のフェライトおよびベイナイトの面積率が得られず、延性が低下する。したがって、焼鈍温度は750℃以上900℃以下とする。焼鈍温度は、好ましくは890℃以下、より好ましくは880℃以下である。なお、焼鈍温度は、焼鈍工程での最高到達温度である。
【0100】
焼鈍時間:1秒以上30秒以下
最終組織においてマルテンサイトへのCおよびMn濃化を抑制する観点からは、焼鈍工程でのオーステナイトへのCおよびMn濃化を抑制することが重要である。そのためには、焼鈍時間は短いほどよい。また、下地鋼板の拡散性水素量を低減するためにも、焼鈍時間は短いほどよい。そのため、焼鈍時間は30秒以下とする。焼鈍時間は、好ましくは25秒以下、より好ましくは20秒以下、さらに好ましくは15秒以下である。一方、焼鈍時間が1秒未満になると、遅れ破壊の起点となる粗大なFe系析出物が十分に溶解しないため、耐遅れ破壊特性が低下する。したがって、焼鈍時間は1秒以上とする。焼鈍時間は、好ましくは3秒以上、より好ましくは5秒以上である。なお、焼鈍時間とは、焼鈍温度での保持時間である。
【0101】
1.5((CT-350)/100)×T×log10(t+10)×1.15HA×1.05HB≦6800 ・・・(5)
優れた耐遅れ破壊特性を得るには、最終組織においてマルテンサイトへのCおよびMn濃化を抑制するとともに、下地鋼板の拡散性水素量を低減することが重要である。これらを両立するには、熱間圧延条件および焼鈍条件、特には、CT:熱間圧延工程での巻取温度(℃)、T:焼鈍工程での焼鈍温度(℃)、t:焼鈍工程での焼鈍時間(秒)およびHA:焼鈍工程での雰囲気水素濃度(体積%)と、後述するHB:冷却工程での雰囲気水素濃度(体積%)との関係を適切に制御する、具体的には、上掲(5)式の関係を満足させることが重要である。そのため、1.5((CT-350)/100)×T×log10(t+10)×1.15HA×1.05HB(以下、(5)式の左辺値ともいう)は、6800以下とする。(5)式の左辺値は、好ましくは6500以下、より好ましくは6000以下である。(5)式の左辺値の下限は特に限定されるものではない。(5)式の左辺値は、例えば、2000以上が好ましい。なお、酸化物が下地鋼板の表面に生成し、これにより、めっき付着量が減少することを抑制する観点から、焼鈍工程での雰囲気水素濃度(以下、単にHAともいう)は、好ましくは1体積%以上、より好ましくは2体積%以上である。また、下地鋼板の拡散性水素量を低減する低減する観点から、HAは、好ましくは15体積%以下、より好ましくは10体積%以下である。
【0102】
[冷却工程]
ついで、上記のようにして焼鈍を施した冷延鋼板を、以下の条件で冷却する。
【0103】
雰囲気水素濃度:30体積%未満
冷却工程での雰囲気水素濃度(以下、単にHBともいう)が30体積%以上では、下地鋼板の拡散性水素量が増加し、耐遅れ破壊特性が低下する。したがって、HBは30体積%未満であり、好ましくは26体積%未満、より好ましくは22体積%未満である。HBの下限は特に限定されるものではない。生産技術上の制約から、HBは、好ましくは0.2体積%以上、より好ましくは0.5体積%以上である。
【0104】
冷却停止温度:600℃以下
冷却停止温度が600℃超では、フェライトおよびパーライトが過剰に生成し、所望の強度が得られない。したがって、冷却停止温度は600℃以下であり、好ましくは580℃以下、より好ましくは560℃以下である。冷却停止温度の下限は特に限定されない。ただし、後述する亜鉛めっき処理、特に、溶融亜鉛めっき処理や合金化溶融亜鉛めっき処理を行う場合、めっき浴への侵入板温をめっき浴温よりも高くすることが好ましい。そのため、冷却停止温度が過度に低くなると、冷延鋼板の再加熱のための設備能力を高くすることが要求され、設備投資負担が増大するおそれがある。したがって、冷却停止温度は好ましくは350℃以上、より好ましくは400℃以上である。
【0105】
冷却停止後の(亜鉛めっき処理工程までの)条件は、特に限定されない。例えば、冷却停止後、冷延鋼板を350~600℃の温度域において10~150秒保持してもよい。
【0106】
[亜鉛めっき処理工程]
ついで、冷延鋼板に亜鉛めっき処理を施し、亜鉛めっき鋼板を得る。亜鉛めっき処理としては、例えば、溶融亜鉛めっき処理および合金化溶融亜鉛めっき処理が挙げられる。処理条件は常法に従えばよい。
【0107】
例えば、溶融亜鉛めっき処理の場合、冷延鋼板を440℃以上500℃以下の亜鉛めっき浴中に浸漬させた後、ガスワイピング等によって、めっき付着量を調整することが好ましい。亜鉛めっき浴としては、前記した亜鉛めっき層の組成となれば特に限定されるものではないが、例えば、Al含有量が0.10質量%以上0.23質量%以下であり、残部がZnおよび不可避的不純物からなる組成のめっき浴を用いることが好ましい。
【0108】
また、合金化溶融亜鉛めっき処理の場合、上記の要領で溶融亜鉛めっき処理を施した後、450℃以上600℃以下の温度域で合金化処理を施すことが好ましい。合金化温度が450℃未満では、Zn-Fe合金化速度が過度に遅くなってしまい、合金化が困難となる場合がある。一方、合金化温度が600℃を超えると、未変態オーステナイトがパーライトへ変態し、強度および延性が低下する場合がある。したがって、合金化処理における合金化温度は450℃以上600℃以下が好ましい。合金化処理における合金化温度は、より好ましくは460℃以上、さらに好ましくは470℃以上である。また、合金化処理における合金化温度は、より好ましくは580℃以下、さらに好ましくは560℃以下である。
【0109】
また、めっき付着量は、片面あたり20g/m以上80g/m以下とすることが好ましい。なお、めっき付着量は、ガスワイピング等により調節することが可能である。
【0110】
亜鉛めっき処理工程後の条件は、特に限定されない。例えば、溶融亜鉛めっき処理または合金化溶融亜鉛めっき処理を行う場合、生産性の観点から、亜鉛めっき鋼板を、溶融亜鉛めっき処理または合金化溶融亜鉛めっき処理終了後、50℃以下の温度まで平均冷却速度(以下、亜鉛めっき処理後の冷却速度ともいう):0.5℃/秒以上で冷却することが好ましい。亜鉛めっき処理後の冷却速度は、より好ましくは1℃/秒以上、さらに好ましくは2℃/秒以上である。亜鉛めっき処理後の冷却速度の上限も特に限定されるものではないが、設備投資負担軽減の観点から、亜鉛めっき処理後の冷却速度は、好ましくは200℃/秒以下、より好ましくは100℃/秒以下である。
【0111】
[調質圧延工程]
また、上記のようにして得た亜鉛めっき鋼板に、さらに、調質圧延を施してもよい。この場合、形状矯正や表面粗度調整の観点から、伸長率は0.10%以上好ましい。伸長率は、より好ましくは0.12%以上、さらに好ましくは0.15%以上である。伸長率の上限は特に限定されない。ただし、伸長率が2.00%を超えると、降伏応力が過度に上昇し、亜鉛めっき鋼板を部材に成形する際の寸法精度が低下するおそれがある。そのため、伸長率は2.00%以下が好ましい。
【0112】
また、調質圧延は上述した各工程を行うための焼鈍装置と連続した装置上(オンライン)で行ってもよいし、各工程を行うための焼鈍装置とは不連続な装置上(オフライン)で行ってもよい。また、調質圧延の圧延回数は、1回でもよく、2回以上であってもよい。なお、調質圧延と同等の伸長率を付与できれば、レベラー等による圧延であっても構わない。
【0113】
なお、生産性の観点から、上記の焼鈍工程および亜鉛めっき処理工程などの一連の処理は、連続焼鈍ラインであるCAL(Continuous Annealing Line)や溶融亜鉛めっきラインであるCGL(Continuous Galvanizing Line)で行うのが好ましい。溶融亜鉛めっき処理後は、めっきの目付け量を調整するために、ワイピングが可能である。
【0114】
上記した以外の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。以上説明した本発明の一実施形態に係る亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、高い強度と、優れた延性と、優れた耐遅れ破壊特性と、を兼備する亜鉛めっき鋼板が得られ、該亜鉛めっき鋼板は、例えば、自動車部材に好適に用いることができる。
【0115】
[4]部材の製造方法
つぎに、本発明の一実施形態に従う部材の製造方法について、説明する。本発明の一実施形態に従う部材の製造方法は、上記の亜鉛めっき鋼板に、成形加工および接合加工の少なくとも一方を施して部材とする、工程を有する。ここで、成形加工方法は、特に限定されず、例えば、プレス成形等の一般的な加工方法を用いることができる。また、接合加工方法も、特に限定されず、例えば、スポット溶接、レーザー溶接、アーク溶接等の一般的な溶接や、リベット接合、かしめ接合等を用いることができる。なお、成形条件および接合条件については特に限定されず、常法に従えばよい。
【実施例
【0116】
表1に示す成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物)を有する鋼素材を転炉にて溶製し、連続鋳造法にて鋼スラブを得た。ついで、表2に示す条件で、鋼スラブに粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、熱延鋼板を得た。ついで、得られた熱延鋼板に、酸洗および表2に示す条件の冷間圧延を施し、冷延鋼板を得た。ついで、得られた冷延鋼板に、表2に示す条件で、焼鈍、冷却および亜鉛めっき処理を行い、亜鉛めっき鋼板を得た。また、一部の例では、表2に示す条件で、調質圧延を実施した。なお、明記していない条件は、常法に従うものとした。
【0117】
ここで、亜鉛めっき処理工程では、溶融亜鉛めっき処理または合金化溶融亜鉛めっき処理を行い、溶融亜鉛めっき鋼板(以下、GIともいう)または合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下、GAともいう)を得た。なお、表2では、亜鉛めっき処理工程の種類についても、「GI」および「GA」と表示している。
【0118】
ここで、溶融亜鉛めっき処理では、めっき浴は、Al:0.20質量%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる組成とした。めっき浴温は470℃とした。めっき付着量は、片面あたり45~72g/m(両面めっき)とした。また、最終的に得られたGIの亜鉛めっき層の組成は、Fe:0.1~1.0質量%、Al:0.2~1.0質量%であり、残部がZnおよび不可避的不純物からなるものであった。
【0119】
また、合金化溶融亜鉛めっき処理では、めっき浴は、Al:0.14質量%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる組成とした。めっき浴温は470℃とした。めっき付着量は、片面あたり45g/m(両面めっき)とした。合金化温度は520℃とした。また、最終的に得られたGAの亜鉛めっき層の組成は、Fe:7~15質量%、Al:0.1~1.0質量%であり、残部がZnおよび不可避的不純物からなるものであった。
【0120】
かくして得られた鋼板を用いて、上述した要領により、下地鋼板の鋼組織の同定、M1/Mt、および、拡散性水素量の測定を行った。測定結果を表3に示す。
【0121】
また、以下の要領により、引張試験を行い、以下の基準により、TSおよびElを評価した。
・TS
合格(優れる):780MPa≦TS
不合格(不良):TS<780MPa
・El
合格(優れる):
780MPa≦TS<980MPaの場合、15%≦El
980MPa≦TSの場合、9%≦El
不合格(不良):
780MPa≦TS<980MPaの場合、El<15%
980MPa≦TSの場合、El<9%
【0122】
引張試験は、JIS Z 2241に準拠して行った。すなわち、得られた亜鉛めっき鋼板から、長手方向が下地鋼板の圧延方向に対して直角となるようにJIS5号試験片を採取した。採取した試験片を用いて、クロスヘッド速度が10mm/minの条件で引張試験を行い、TSおよびElを測定した。結果を表3に併記する。
【0123】
遅れ破壊試験は、SEP1970に準拠して行った。すなわち、得られた亜鉛めっき鋼板ら、長手方向が下地鋼板の圧延方向と直角になるように85mm×30mmの試験片を採取した。採取した試験片の長軸および短軸の中心位置に、半径:10mmの穴を打ち抜いた。ついで、試験片に、試験片を採取した鋼板の降伏強度(YS)に相当する応力を長手方向に負荷し、その状態で96時間保持した。なお、降伏強度(YS)は、上述した引張試験により測定した。そして、以下の基準により、耐遅れ破壊特性を評価した。
合格(優れる):96時間経過時点で破断の発生なし
不合格(不良):96時間経過時点までに破断の発生あり
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
表3に示したように、発明例ではいずれも、TS、Elおよび耐遅れ破壊特性の全てが合格であった。一方、比較例では、TS、Elおよび耐遅れ破壊特性のうちの少なくとも1つが不合格ではあった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明によれば、高い強度と、優れた延性と、優れた耐遅れ破壊特性と、を兼備する亜鉛めっき鋼板が得られる。また、当該亜鉛めっき鋼板は、自動車の骨格構造部材などの素材として、極めて有利に適用することができる。これにより、車体軽量化による燃費向上を図ることができるので、産業上の利用価値は極めて大きい。
【要約】
高い強度と、優れた延性と、優れた耐遅れ破壊特性と、を兼備する亜鉛めっき鋼板を、提供する。下地鋼板について、所定の成分組成、鋼組織および拡散性水素量とする。特に、下地鋼板の鋼組織においてM1/Mtを0.30以下に制御し、かつ、下地鋼板の拡散性水素量を0.50質量ppm以下に低減する。