(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】予後判定装置、予後判定プログラム、及び予後判定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20250708BHJP
A61B 3/10 20060101ALI20250708BHJP
A61B 3/14 20060101ALI20250708BHJP
G16H 50/50 20180101ALI20250708BHJP
【FI】
A61B5/00 G
A61B3/10 100
A61B3/14
G16H50/50
(21)【出願番号】P 2022536435
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 JP2021026548
(87)【国際公開番号】W WO2022014661
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2024-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2020121098
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520228991
【氏名又は名称】DeepEyeVision株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 秀徳
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0296320(US,A1)
【文献】国際公開第2019/075410(WO,A1)
【文献】特開2010-165127(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109998477(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111199794(CN,A)
【文献】特開2002-351977(JP,A)
【文献】特開2019-24738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00 - 6/58
A61B 8/00 - 8/15
G16H 10/00 - 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者が罹患した疾患に関する医療画像及び生体パラメータを取得する取得部と、
前記医療画像に関する情報と、前記生体パラメータに関する情報と、前記対象者に行う予定の治療に関する情報と、を判別器に入力し、前記判別器によって、前記治療を行った場合の前記対象者の予後に関する情報を出力する出力部と、を備え、
前記判別器は、実治療データと補間治療データに基づく機械学習処理によって生成したものであり、
前記実治療データは、実際に行われた前記治療に関するデータであって、治療前の患者の医療画像及び生体パラメータに関する情報と、前記患者に施した治療に関する情報と、該治療後の前記患者の予後に関する情報と、を含み、
前記補間治療データは、治療後の前記患者の予後を補間する情報であって、前記実治療データと前記治療を行った場合の典型モデルから生成される情報を含
み、
前記典型モデルは、前記実治療及びその予後について前記実治療データよりも短い間隔で予後を記録した情報を開示する医学論文及び/又は治験データを含む、公開されている情報に基づいて作成される、
予後判定装置。
【請求項2】
前記出力部が、前記判別器によって、前記治療を行わなかったとした場合の予後に関する情報をさらに出力する、
請求項1に記載の予後判定装置。
【請求項3】
前記対象者が過去に受けた治療に関する情報、前記対象者の年齢、又は前記対象者の性別の少なくともいずれかが、前記判別器にさらに入力される、
請求項1又は2に記載の予後判定装置。
【請求項4】
前記予後に関する情報を、前記治療の種類毎、前記治療のコスト毎、又は前記予後毎に、表示制御する表示部をさらに備える、
請求項1~3のいずれか一項に記載の予後判定装置。
【請求項5】
前記治療を行った場合の典型モデルは、治療に関する情報と、該治療後の予後に関する情報を含み、前記治療前の医療画像を含まない情報から作成される、
請求項1~4のいずれか一項に記載の予後判定装置。
【請求項6】
前記医療画像が眼底画像であり、前記予後が視力予後である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の予後判定装置。
【請求項7】
前記眼底画像が、水平方向の断層像及び鉛直方向の断層像である、
請求項6に記載の予後判定装置。
【請求項8】
前記予後に関する情報として、縦軸を視力、横軸を時間軸として、予後の経過をプロットしたグラフを治療方法毎に重ねて表示したグラフを表示制御する表示部をさらに備える、
請求項1~3のいずれか一項に記載の予後判定装置。
【請求項9】
予後判定装置に、
対象者が罹患した疾患に関する医療画像及び生体パラメータを取得するステップと、
前記医療画像に関する情報と、前記生体パラメータに関する情報と、前記対象者に行う予定の治療に関する情報と、を判別器に入力し、前記判別器によって、前記治療を行った場合の前記対象者の予後に関する情報を出力するステップと、を実行させ、
前記判別器は、実治療データと補間治療データに基づく機械学習処理によって生成したものであり、
前記実治療データは、実際の治療に関するデータであって、治療前の患者の医療画像及び生体パラメータに関する情報と、前記患者に施した治療に関する情報と、該治療後の前記患者の予後に関する情報と、を含み、
前記補間治療データは、治療後の前記患者の予後を補間する情報であって、前記実治療データと前記治療を行った場合の典型モデルから生成される情報を含
み、
前記典型モデルは、前記実治療及びその予後について前記実治療データよりも短い間隔で予後を記録した情報を開示する医学論文及び/又は治験データを含む、公開されている情報に基づいて作成される、
予後判定プログラム。
【請求項10】
予後判定装置が、
対象者が罹患した疾患に関する医療画像及び生体パラメータを取得するステップと、
前記医療画像に関する情報と、前記生体パラメータに関する情報と、前記対象者に行う予定の治療に関する情報と、を判別器に入力し、前記判別器によって、前記治療を行った場合の前記対象者の予後に関する情報を出力するステップと、を実行し、
前記判別器は、実治療データと補間治療データに基づく機械学習処理によって生成したものであり、
前記実治療データは、実際の治療に関するデータであって、治療前の患者の医療画像及び生体パラメータに関する情報と、前記患者に施した治療に関する情報と、該治療後の前記患者の予後に関する情報と、を含み、
前記補間治療データは、治療後の前記患者の予後を補間する情報であって、前記実治療データと前記治療を行った場合の典型モデルから生成される情報を含
み、
前記典型モデルは、前記実治療及びその予後について前記実治療データよりも短い間隔で予後を記録した情報を開示する医学論文及び/又は治験データを含む、公開されている情報に基づいて作成される、
予後判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予後判定装置、予後判定プログラム、及び予後判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医科診療において、医療画像は各種疾患の診断において重要な判断材料とされている。例えば、光干渉断層計(オプティカルコヒーレンストモグラフィー、Optical Coherence Tomography:OCT、以下OCT装置と記す)は、被検眼の3次元イメージングや3次元的な構造解析・機能解析を可能とし、網膜の眼科診断等において広く利用されている。また、心血管領域では、カテーテル型OCT装置は冠動脈の診
断においても利用されている。
【0003】
網膜の眼科診断においてOCT装置を用いることにより得られる眼底の断層像は、被験者の目の疾患に関する情報や視力等の情報など診断にとって重要な情報を含む。しかしながら、眼底の断層像の診断には専門医による読影が必要とされるため、十分な経験を積んだ専門医がいない場合には、正確な診断が難しいという問題がある。
【0004】
そこで、近年では医療画像の画像解析の重要性が増してきており、例えば、上記の例でいえば眼底の異常を検出する画像処理方法が開発されつつある。より具体的には、特許文献1には、被検眼の眼底画像から脈絡膜情報を取得し、脈絡膜情報と、脈絡膜の標準データベースとを比較して、眼底に異常があるか否かを判定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
専門医には、医療画像から対象者の疾患を診断することのほかに、対象者の疾患の状態にあわせた適切な治療方法や、その治療をした場合の予後の見込みを判断することも求められる。そのため、医療画像から所定の治療を行った場合の予後を判定できるような仕組みの実現が望まれる。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、医療画像に基づいて、所定の治療を行った場合の予後を判定できる予後判定装置、予後判定プログラム、及び予後判定方法を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る予後判定装置は、対象者が罹患した疾患に関する医療画像及び生体パラメータを取得する取得部と、前記医療画像に関する情報と、前記生体パラメータに関する情報と、前記対象者に行う予定の治療に関する情報と、を判別器に入力し、前記判別器によって、前記治療を行った場合の前記対象者の予後に関する情報を出力する出力部と、を備え、前記判別器は、実治療データと補間治療データに基づく機械学習処理によって生成したものであり、前記実治療データは、実際に行われた前記治療に関するデータであって、治療前の患者の医療画像及び生体パラメータに関する情報と、前記患者に施した治療に関する情報と、該治療後の前記患者の予後に関する情報と、を含み、前記補間治療データは、治療後の前記患者の予後を補間する情報であって、前記実治療データと前記治療を行った場合の典型モデルから生成される情報を含む。
【0009】
この構成によれば、専門医に拠ることなく、医療画像に基づいて、所定の治療を行った場合の予後を判定することが可能となる。また、治療方法の選択肢が複数ある場合には、治療毎に予後を判定することが可能であるため、医師又は対象者が治療方法を選ぶときの参考情報を提示することが可能となる。さらに、上記判別器は、実治療データと補間治療データとを学習用データとして用いて得られたものとなるため、実治療データが少ない場合でも、十分な学習用データを用意することが可能となり、出力される予後に関する情報の判定精度がより向上する。
【0010】
また、上記予後判定装置の出力部は、判別器によって、治療を行わなかったとした場合の予後に関する情報をさらに出力するようにしてもよい。
【0011】
これにより、治療を行った場合の対比情報として、治療を行わなかったとした場合の予後に関する情報についても提供することができる。また、治療を行った場合と治療を行わなかった場合の予後を対比することで、治療の効果を評価することも可能となる。
【0012】
さらに、上記予後判定装置は、対象者が過去に受けた治療に関する情報、対象者の年齢、又は対象者の性別の少なくともいずれかを、判別器にさらに入力されるようにしてもよい。
【0013】
これにより、判別器は、過去に行った治療の遍歴や対象者の年齢や性別についても考慮することができ、予後判定装置が出力する予後に関する情報の判定精度が向上する。
【0014】
また、上記予後判定装置は、予後に関する情報を、治療の種類毎、治療のコスト毎、又は予後毎に、表示制御する表示部をさらに備えていてもよい。
【0015】
これにより、治療の種類に応じて、治療のコストやその治療をした場合の予後を対比して表示することができる。
【0016】
さらに、治療を行った場合の典型モデルは、治療に関する情報と、該治療後の予後に関する情報を含み、前記治療前の医療画像を含まない情報から作成されてもよい。
【0017】
このような典型モデルは、例えば、治療方法とその予後について記載している医学論文や治験データなど公開されている情報に基づいて作成することができる。
【0018】
また、上記医療画像は眼底画像であり、上記予後が視力予後であってもよい。さらに、眼底画像が水平方向の断層像及び鉛直方向の断層像であってもよい。
【0019】
これにより、本実施形態の予後判定装置は、視力の予後を判定する装置として機能する。また、眼底画像として水平方向の断層像及び鉛直方向の断層像を用いることで、予後判定制度がより向上する傾向にある。そのほか、上記に限られることなく、本実施形態の予後判定装置は、医療画像の種類と対象とする疾患等をそれぞれ設定することで、任意の疾患の予後を判定する装置として機能する。
【0020】
さらに、本発明の実施形態に係る予後判定プログラムは、予後判定装置に、対象者が罹患した疾患に関する医療画像及び生体パラメータを取得するステップと、前記医療画像に関する情報と、前記生体パラメータに関する情報と、前記対象者に行う予定の治療に関する情報と、を判別器に入力し、前記判別器によって、前記治療を行った場合の前記対象者の予後に関する情報を出力するステップと、を実行させ、前記判別器は、実治療データと補間治療データに基づく機械学習処理によって生成したものであり、前記実治療データは、実際の治療に関するデータであって、治療前の患者の医療画像及び生体パラメータに関する情報と、前記患者に施した治療に関する情報と、該治療後の前記患者の予後に関する情報と、を含み、前記補間治療データは、治療後の前記患者の予後を補間する情報であって、前記実治療データと前記治療を行った場合の典型モデルから生成される情報を含む。
【0021】
また、本発明の実施形態に係る予後判定方法では、予後判定装置が、対象者が罹患した疾患に関する医療画像及び生体パラメータを取得するステップと、前記医療画像に関する情報と、前記生体パラメータに関する情報と、前記対象者に行う予定の治療に関する情報と、を判別器に入力し、前記判別器によって、前記治療を行った場合の前記対象者の予後に関する情報を出力するステップと、を実行し、前記判別器は、実治療データと補間治療データに基づく機械学習処理によって生成したものであり、前記実治療データは、実際の治療に関するデータであって、治療前の患者の医療画像及び生体パラメータに関する情報と、前記患者に施した治療に関する情報と、該治療後の前記患者の予後に関する情報と、を含み、前記補間治療データは、治療後の前記患者の予後を補間する情報であって、前記実治療データと前記治療を行った場合の典型モデルから生成される情報を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、医療画像に基づいて、所定の治療を行った場合の予後を判定できる予後判定装置、予後判定プログラム、及び予後判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る情報処理装置の機能的な構成を示すブロック図の一例を示す。
【
図3】実治療データの一例を説明するための図である。
【
図4】典型モデルの一例を説明するための図である。
【
図5】補間治療データの一例を説明するための図である。
【
図6】学習部の行う機械学習処理を例示するフローチャートの一例である。
【
図7】出力部の行う予後に関する情報を出力する処理を例示するフローチャートの一例である。
【
図8】予後判定装置であるサーバと利用者端末により構成される予後判定システムの処理シーケンスの一例である。
【
図9】表示装置に表示制御される、予後の経過を治療方法毎に重ねて表示したグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0025】
<ハードウェア構成>
本発明の一実施形態では、例えば、予後判定装置である情報処理装置100によって、医療画像に基づいて所定の治療を行った場合の予後を判定する予後判定システム1が構築される。
【0026】
図1に、本発明の一実施形態の予後判定システムに含まれる情報処理装置100を示すブロック図を示す。情報処理装置100は、典型的には、1つ又は複数のプロセッサ110、有線又は無線の通信を制御する通信インターフェース120、入出力インターフェース130、メモリ140、ストレージ150及びこれらの構成要素を相互接続するための1つ又は複数の通信バス160を含み、これらの協働により、本開示に記載される処理、機能、または、方法を実現する。
【0027】
プロセッサ110は、メモリ140に記憶されるプログラムに含まれるコード、または、命令によって実現する処理、機能、または、方法を実行する。プロセッサ110は、限定でなく例として、1又は複数の中央処理装置(CPU)、GPU(Graphics Processing Unit)を含む。
【0028】
通信インターフェース120は、ネットワークを介して他の情報処理装置と各種データの送受信を行う。当該通信は、有線、無線のいずれで実行されてもよく、互いの通信が実行できるのであれば、どのような通信プロトコルを用いてもよい。例えば、通信インターフェース120は、ネットワークアダプタ等のハードウェア、各種の通信用ソフトウェア、又はこれらの組み合わせとして実装される。
【0029】
入出力インターフェース130は、情報処理装置100に対する各種操作を入力する入力装置、および、情報処理装置100で処理された処理結果を出力する出力装置を含む。例えば、入出力インターフェース130は、キーボード、マウス、及びタッチパネル等の情報入力装置、OCT装置や眼底カメラ等の画像入力装置、及びディスプレイ等の画像出力装置を含む。なお、情報処理装置100は、外付けの入出力インターフェース130を接続することで、所定の入力を受け付けてもよい。例えば、情報処理装置100は、OCT装置や眼底カメラ等の画像入力装置が外付けされていてもよい。
【0030】
なお、画像入力装置は取得する医療画像に応じて適宜選択することができる。本実施形態における医療画像としては、特に限定されないが、例えば、X線、CT、MRI、核医学(PET、SPECT)、超音波、内視鏡、による画像が挙げられる。なお、医療画像は、静止画であってもよいし、ダイナミック画像(動画)であってもよい。また、医療画像は、JPEGなどの汎用フォーマットの画像情報であってもよいし、例えば、DICOM(Digital Imaging and COmmunication in Medicine)などの国際規格に準じた医療用
フォーマットの画像情報であってもよい。このような医療用フォーマットに準じた医療画像には、例えば、CT等の検査条件や検査日時、その他規格で定める患者の年齢や性別などの各タグ情報が付随していてもよい。
【0031】
メモリ140は、ストレージ150からロードしたプログラムを一時的に記憶し、プロセッサ110に対して作業領域を提供する。メモリ140には、プロセッサ110がプログラムを実行している間に生成される各種データも一時的に格納される。メモリ140は、限定でなく例として、DRAM、SRAM、DDR RAM又は他のランダムアクセス固体記憶装置などの高速ランダムアクセスメモリ等であってよく、これらが組み合わせられてもよい。
【0032】
ストレージ150は、プログラム、各種機能部、及び各種データを記憶する。ストレージ150は、限定でなく例として、磁気ディスク記憶装置、光ディスク記憶装置、フラッシュメモリデバイス、又は他の不揮発性固体記憶装置などの不揮発性メモリ等であってよく、これらが組み合わせられてもよい。ストレージ150の他の例としては、プロセッサ110から遠隔に設置される1つ又は複数の記憶装置を挙げることができる。
【0033】
本発明の一実施形態において、ストレージ150はプログラム、機能部及びデータ構造、又はそれらのサブセットを格納する。情報処理装置100は、ストレージ150に記憶されているプログラムに含まれる命令をプロセッサ110が実行することによって、
図1に示すように、取得部155、出力部156、表示部157、及び学習部158として機能するように構成されている。
【0034】
オペレーティングシステム151は、例えば、様々な基本的なシステムサービスを処理するとともにハードウェアを用いてタスクを実行するためのプロシージャを含む。
【0035】
ネットワーク通信部152は、例えば、情報処理装置100を他のコンピュータに、通信インターフェース120、及びインターネット、他のワイドエリアネットワーク、ローカルエリアネットワーク、メトロポリタンエリアネットワークなどの1つ又は複数の通信ネットワークを介して接続するために使用される。
【0036】
対象者データ153は、予後の判定がされる対象者の個人情報を記録するものであり、判別器に入力される医療画像や生体パラメータを記録してもよい。例えば、
図2に示すように対象者データ153には、対象者の性別、年齢、疾患名、治療歴、医療画像、視力、及び血液検査に関する情報などが含まれてもよい。また、医療画像、視力、及び血液検査に関する情報は、現在の情報だけでなく過去の情報を含んでいてもよい。対象者データ153は、ストレージ150が格納する電子カルテであってもよいし、遠隔のサーバが格納する電子カルテであってもよい。
【0037】
なお、本実施形態において「生体パラメータ」とは、医療画像以外の対象者の情報であり、例えば、性別、年齢、身長、体重、視力、聴力、血圧、血液検査、尿検査、心電図検査の結果、入力時の診断、疾患のステージ、既往歴、治療歴などの情報が挙げられる。さらに、生体パラメータには、予後を判断する際に指標となる値、例えば眼疾患における視力などが含まれていてもよい。なお、以下においては眼疾患を例として説明することがあるが、特に断りがない限り、視力は予後を判断する際に指標となる値の例として用いる。
【0038】
また、本実施形態において「対象者」とは、本実施形態の予後判定装置により予後が判定される者をいう。一方で、「患者」とは、後述する学習用データに記憶される実治療データ等の元となった者をいう。
【0039】
学習用データ154は、判別器を生成するために用いられるデータセットである。学習用データ154は、実際の治療において取得される実治療データを含み、実治療データから生成される補間治療データをさらに含む。
【0040】
例えば、治療前の医療画像に関する情報と、治療に関する情報と、治療後の予後に関する情報と、を含む。学習用データ154は、ストレージ150に格納されるほか、遠隔のサーバに格納されていてもよい。
【0041】
学習用データ154は、実際の治療において取得される実治療データを含み、実治療データから生成される補間治療データをさらに含む。
【0042】
学習用データ154が含む実治療データは、実際の治療に関するデータであって、実治療前の医療画像及び生体パラメータに関する情報と、患者に施した治療に関する情報と、治療後の患者の予後に関する情報と、を含む。なお、治療後の患者の予後に関する情報には、患者の医療画像及び生体パラメータに関する情報が含まれていてもよい。このような実治療データは、医師、看護師、その他医療関係者、あるいは医療機関から、収集することができる。このような医療機関から収集された実治療データは、
図3に示すように、治療の予後を定期的にまんべんなく記録したものではなく、患者の来院のタイミングによって間をあけて取得されることがほとんどである。
【0043】
このような実治療データのみに基づいて予後の予測モデルを作成しようとすれば
図3の破線のようなモデルが得られることとなるが、このようにして得られたモデルは治療後の経過データの取得頻度が少ないために、正確に予後を示すものである確証はない。また、仮に複数の患者からこのような実治療データを相当数集めることが可能であったとしても、個々の実治療データが正確なモデルを作成するには不十分なものであるため、予後を精度よく判別できるモデルを作成することは困難である。
【0044】
さらに、実際には、同じ疾患であっても患者に施される治療の種類は多岐にわたるため、同じ疾患で同じ治療を施された患者の実治療データを相当数集めること自体困難である。また、予後の予測精度をより向上するためには、年齢や性別などが同程度の患者群について実治療データを集めることが考えられるが、そのような実治療データを相当数集めることはより一層困難である。
【0045】
これに対して、本実施形態においては、実治療データを補う補間治療データを作成し、これを学習用データの一部とする。補間治療データは、治療後の患者の予後を補間する情報であって、実治療データと治療を行った場合の典型モデルから生成される情報を含む。この補間治療データは、例えば、ある医療画像に関する情報を有する個人に対して、ある治療方法を実施したと仮定した時に、典型モデルから予測される予後に関する情報を補ったものである。
【0046】
典型モデルは、例えば、治療に関する情報と、該治療後の予後に関する情報を含んでもよい。典型モデルは、治療前の医療画像を含まない情報から作成されてもよいし、治療前の医療画像を含む情報から作成されてもよい。同様に、典型モデルは、ある治療の予後を示すモデルとして、治療前の医療画像を考慮するものであっても考慮しないものであってもよい。
【0047】
図4に典型モデルのイメージを示す。
図4においては、ある治療を施したときの患者の視力予後を一日おきに記録したときの、その経過から構成される典型モデルを示す。このような典型モデルは、例えば、治療方法とその予後について記載している医学論文や治験データなど公開されている情報に基づいて作成することができる。
【0048】
典型モデルの元となるこのような治療方法に関する医学論文或いは治験に関する情報は、その治療方法を実施した時の予後、特には治療方法の医学的効果に関する情報を含み、医学的効果を示すものであるという性格上、日常的に医療機関で取得される実治療データよりもより短い間隔で予後を記録したものである。そのため、実治療データのみから構成される予後の予測モデル(
図3の破線参照)と比較して、典型モデル(
図4の実線参照)は正確に予後を示すものとなる。
【0049】
また、実治療データでは、例えば最初の治療から2か月後に次の治療を施したりする場合があるため、最初の治療から次の治療をせずに3か月経過した後の予後、最初の治療から次の治療をせずに4か月経過した後の予後については、データがないということがあり得る(
図3の破線参照)。しかし、典型モデルであれば、より長いスパンにおける予後を表すことができる(
図4の実線参照)。
【0050】
そして、実治療データに上記典型モデルを適用して、実治療データの間の予後を補間して、補間治療データを作成する。
図5に、補間治療データのイメージを示す。
図5では、治療直前(0か月)の実治療データA0と治療から2月後の実治療データA2の間、2月後の実治療データA2と治療から3月後の実治療データA3の間、及び治療から3月後の実治療データA3以降において、データが補間されている。この補間治療データの作成方法は特に限定されないが、例えば、実治療データから、治療後の予後に関する情報を内挿または外挿してもよい。
【0051】
このように実治療データに上記典型モデルを適用して補間治療データを生成することで、実治療データが治療の予後を定期的に記録したものではないなどの事情があったとしても、実治療データの不足を補間治療データにより補うことができる。そのため、実治療データと補間治療データに基づく機械学習処理によって生成した判別器はより正確に予後を示すことができるものとなる。
【0052】
補間治療データは、予後を判断する際に指標となる値を補間したものであれば、実治療データのすべてを補間したものでなくともよい。例えば、
図5においては、実治療データには、予後を判断する際に指標となる視力に加え、治療前の患者の医療画像及び視力以外の生化学的パラメータに関する情報などが含まれるが、補間治療データには、治療からの経過日数と視力に関する情報が含まれれば、医療画像や視力以外の生化学的パラメータに関する情報が含まれなくてもよい。
【0053】
また、実治療データにおいても、例えば、
図5における実治療データA0,A2,A3のすべてが医療画像及び視力以外の生化学的パラメータを含まなくてもよく、例えば、実治療データA0のみが医療画像及び視力以外の生化学的パラメータを含み、実治療データA2,A3は、予後を判断する際に指標となる視力に関する情報のみを含むようにしてもよい。
【0054】
このなかでも、実治療データは、治療直前の検査結果における医療画像(実治療データA0)を少なくとも含むことが好ましい。この場合に構成される学習用データは、実治療データとして、治療直前の検査結果における医療画像と、行った治療に関する情報と、治療後の患者の予後に関する情報と、を含み、補間治療データとして、補間された予後に関する情報を含む。すなわち、この学習用データは、所定の医療画像の状態の個人に対してある治療を行ったとしたら、その予後がどのように推移するかということを示すデータとなる。
【0055】
このような学習用データを相当数揃えて機械学習処理によって生成した判別器は、医療画像に関する情報と、生化学的パラメータに関する情報と、行う予定の治療に関する情報とに基づいて、治療を行った場合の予後に関する情報を出力するものとなる。
【0056】
取得部155は、通信インターフェース120又は入出力インターフェース130から、対象者の、医療画像に関する情報と、生体パラメータに関する情報と、行う予定の治療に関する情報を取得する処理を実行する。取得部155が取得した、各情報は対象者データ153に格納することができる。以下、眼疾患を例に取得部155について説明するが、本実施形態は眼疾患に制限されるものではない。
【0057】
眼疾患の場合には、取得部155が取得する医療画像しては眼底画像が挙げられる。また、眼底画像に関する情報としては、特に限定されないが、例えば、OCT装置により得られる眼底の断層像、眼底カメラにより得られる眼底写真が含まれていてもよい。さらに、眼底画像は水平方向の断層像及び鉛直方向の断層像であってもよい。
【0058】
また、眼疾患の場合には、取得部155が取得する生体パラメータに関する情報には、予後を判断する際に指標となる視力に関する情報が含まれていてもよい。このような視力に関する情報としては、ランドルト環、Eチャート、スネレン視標等を用いた視力検査あるいは視力検査装置により得られた視力の値が挙げられる。また、視力に関する情報には、例えばアムスラーチャートなどの見え方に関する公知の検査結果が含まれていてもよい。
【0059】
さらに、取得部155が取得する予定の治療に関する情報は、対象者の目に関する疾患に対して行う治療に関する情報である。例えば、加齢黄斑変性を患っている対象者には、抗血管内皮増殖因子療法(抗VEGF療法)、光線力学的療法、レーザー光凝固術などの治療方法が知られている。また、抗VEGF療法にも、抗VEGF薬硝子体内注射の種類として、ルセンティス(ラニビズマブ)、マクジェン(ペガプタニブ)、アイリーア(アフリベルセプト)などが知られている。注射の頻度や回数は病気の状態によってさまざまであるが、一例として、抗VEGF療法では、4週間や、6週間毎に、抗VEGF薬を目に直接注射する。また、抗VEGF療法と光線力学的療法とを併用すること等もある。
【0060】
行う予定の治療に関する情報は、このような治療方法に関する情報であり、例えば、抗VEGF療法を4週間に一度行う場合、抗VEGF療法を6週間に一度行う場合、4週間に一度行う抗VEGF療法と光線力学的療法とを併用する場合など、対象者の目に関する疾患に対して行うことのできる複数の治療パターンを含んでいてもよい。
【0061】
また、行う予定の治療に関する情報は、上記のような具体的な治療方法に代えて又は加えて、疾患名を含んでいてもよい。例えば、行う予定の治療に関する情報として、疾患名「加齢黄斑変性」を含む場合には、加齢黄斑変性に対する公知の治療方法を指定したものと見做すことができる。これにより、加齢黄斑変性に対する複数の治療方法に対して、治療後の予後に関する情報をそれぞれ出力することができる。
【0062】
さらに、行う予定の治療に関する情報は、疾患名に代えて又は加えて、疾患名を診断するのに必要な医者の所見を含んでいてもよい。例えば、行う予定の治療に関する情報として、所見「視界の中心部だけが歪んでみえる(変視)」や「中心部が暗くみえる(中心暗点)」を含む場合には、当該所見に関連する疾患の治療方法を指定したものと見做すことができる。これにより、当該所見に対して効果のある複数の治療方法に対して、治療後の予後に関する情報をそれぞれ出力することができる。
【0063】
なお、上記では加齢黄斑変性を例としたが、対象とする疾患は上記に限られるものではなく、黄斑上膜、黄斑円孔、黄斑浮腫、緑内障、白内障、その他の目に関する疾患全般を対象とすることができる。
【0064】
さらに、行う予定の治療に関する情報には、その治療に関する費用に関する情報が対応付けられていてもよい。治療に関する費用に関する情報としては、例えば、各治療に対する医療点数や、1割負担、3割負担、又は全額負担などの場合の医療費が挙げられる。
【0065】
なお、ストレージ150は、治療と、その治療に対応付けられた費用に関する情報とを含むデータを有していてもよい。この場合、行う予定の治療に関する情報が治療の費用に関する情報を含まない場合であっても、取得部155は、行う予定の治療に関する情報を取得した時に、上記データベースを参照し、行う予定の治療に関する情報に対して、費用に関する情報を対応付けることができる。
【0066】
また、取得部155は、対象者に対して過去に行った治療に関する情報、対象者の年齢、又は対象者の性別の少なくともいずれかを取得するようにしてもよい。これら個人情報は、後述する判別器によって出力する治療後の予後に関する情報の精度を上げる要素として利用することができる。
【0067】
取得部155が取得する上記各情報は、医師、看護師、その他医療関係者、あるいは医療機関が、通信インターフェース120を介して、情報処理装置100に入力することができる。また、取得部155が取得する上記各情報は、取得部155が入出力インターフェース130を介して他の端末又はサーバから受信してもよい。
【0068】
出力部156は、医療画像に関する情報と、生体パラメータに関する情報と、行う予定の治療に関する情報を判別器に入力し、治療を行った場合の予後に関する情報を出力する処理を実行する。判別器は、特に制限されないが、例えば、上記学習用データに基づく機械学習処理によって生成される学習済みモデルであってもよい。
【0069】
出力部156は、上記情報の他に、対象者に対して過去に行った治療に関する情報、対象者の年齢、又は対象者の性別の少なくともいずれかを、判別器にさらに入力するようにしてもよい。予後は、治療歴や年齢或いは性別にも影響され得るため、判別器に入力する情報にこれら情報を加えることで、治療を行った場合の予後に関する情報の正確性がより向上しうる。
【0070】
治療を行った場合の予後に関する情報としては、例えば、予後を判断する際に指標となる値の将来の変化に関する情報や、将来の疾患の進行に関する情報が挙げられる。また、予後に関する情報は、上記治療パターンが複数ある場合には、その各治療パターンに対応付けられた予後に関する情報等を含んでいてもよい。これにより、各治療パターンによってその予後がどのような変化をたどるかを対比比較することができる。また、各治療パターンに対応付けられる費用についても対比比較することができる。
【0071】
さらに、出力部156は、判別器によって、治療を行わなかったとした場合の予後に関する情報をさらに出力するようにしてもよい。これにより、治療を行わない場合における、予後に関する情報を取得することが可能となる。そのため、治療を行わない場合と、行った場合に、その予後がどのような変化をたどるかを対比比較することができる。
【0072】
以上のような構成を有することにより、予後判定は、専門医に拠ることなく、医療画像に基づいて、所定の治療を行った場合の予後を判定することが可能となる。
【0073】
また、情報処理装置100は、判別器によって出力された予後に関する情報を、表示装置に表示制御する処理を実行する表示部157を有していてもよい。例えば、表示部157は、予後に関する情報を、治療の種類毎、治療のコスト毎、又は予後毎に、表示制御することができる。
【0074】
眼疾患を例にすると、表示部157は、ディスプレイ等の画像出力装置に、治療方法A、治療方法B,治療方法C・・・を行った場合に予測される、1週間後、2週間後、3週間後・・・の視力を、縦軸を視力、横軸を時間軸として、治療方法ごとにプロットして表示するよう制御することができる。また、表示部157は、ディスプレイ等に、治療方法をコストの高い順又は低い順にリスト表示したり、治療方法を1月後の予後が良い順又は悪い順にリスト表示したりするよう制御することができる。
【0075】
これにより、各治療の種類毎によってその予後がどのような変化をたどるかを対比比較したり、治療の種類毎に治療のコストを対比比較したりすることができる。このような対比比較は、医者が対象者に医療方針を説明する際の参考資料として、あるいは、対象者が治療方針を選択する際の参考資料として、使用することができる。
【0076】
また、情報処理装置100は、学習用データに基づく機械学習処理によって、判別器を生成する処理を実行する学習部158を有していてもよい。機械学習処理としては、教師あり学習や半教師あり学習が挙げられる。
【0077】
学習用データ154は、上述したように、例えば、治療前の医療画像に関する情報と、治療に関する情報と、治療後の予後に関する情報と、を含む。また、学習用データは、実際の治療において取得される実治療データと、実治療データから生成される補間治療データを含む。
【0078】
このように補間治療データをさらに含むことにより、一つの実治療前の医療画像に関する情報に対して、治療方法A、治療方法B,治療方法C・・・をそれぞれ行った場合を仮定することができ、複数の治療後の予後に関する情報を得ることが可能となる。そのため、学習用データを効率的に収集することができ、その学習用データを用いて得られる判別器の精度がより向上する。
【0079】
また、学習部158は、実治療データから生成される補間治療データを作成する処理をさらに実行してもよい。補間治療データの作成では、例えば、学習部158は、医学論文等に含まれる治療方法の医学的効果に関する情報に基づいて、その治療方法を実施した時の予後を予測する典型モデルを作成する。そして、学習部158は、実治療データに典型モデルを適用して、実治療データの間の予後を補間して補間治療データを作成する。
【0080】
また、実治療データから、治療後の予後に関する情報を内挿または外挿により補間治療データを作成する場合も、上記予後を予測する典型モデルを利用して、内挿または外挿を行うことができる。
【0081】
このように補間治療データを作成することで、学習用データに含まれる症例数を増加させることができる。実治療データとこのような補間治療データとを含む学習用データをもちいて機械学習処理をすることにより、生成される判別器が出力する予後に関する情報がより向上する。
【0082】
<動作処理>
次に、このように構成された本発明の実施形態の情報処理装置100の動作について説明する。
【0083】
(判別器の作成)
図6は、情報処理装置100の学習部158が、学習用データを用いて判別器を作成する機械学習処理を例示するフローチャートである。
【0084】
ステップS201において、学習部158は、学習用データとして実治療データを収集する。この際、学習部158は、情報処理装置100の対象者データ153、又は、ネットワークで接続された他の情報処理装置もしくはサーバに格納された対象者データから、実治療データを収集することができる。
【0085】
ステップS202において、学習部158は、所定の治療方法を実施した時の予後を予測する典型モデルを取得する。学習部158は、医師、その他医療関係者、あるいは医療機関が作成した典型モデルを取得してもよいし、ネットワークで接続された他の情報処理装置もしくはサーバに格納された典型モデルを取得してもよい。また、学習部158は、医学論文等に含まれる治療方法の医学的効果に関する情報に基づいて、機械学習処理により典型モデルを作成しそれを取得してもよい。
【0086】
なお、典型モデルは、全体の傾向をモデルに予め学習させることを目的とするので、全く同一条件の症例報告がなくても最も近い文献・報告書から予後を抜き出して使用してもよい。また、臨床研究の報告や市販後調査の報告があればその平均を用い、学習対象と同じ人種のデータが無ければ他の人種のデータであっても構わない。さらに、稀少疾患で臨床研究が行われていなければ症例報告を用いることもできる。
【0087】
また、例えば、視力予後に関してはlogMAR視力で検討するので、ETDRSや小数視力など他の視力指標であれば換算して用いるようにしてもよい。通常報告されている予後は1ヶ月おきなど間隔が広いため、線形補間を基本としつつ、他の文献や専門家知見から一度向上した後で増悪するなど線形な経緯ではないことが推測される場合はそれに従うようにしてもよい。報告のない期間に対する予後データの外挿も、基本は線形に延長するが、例えば薬剤の効果が切れる前に次の投与が行われる報告ばかりの場合、追加投与なしの予後はその先に自然予後のデータを当てはめるようにしてもよい。さらに、類縁疾患がある場合はその予後データを用いることもできる。
【0088】
ステップS203において、学習部158は、実治療データと典型モデルに基づいて、補間治療データを作成する。例えば、学習部158は、実治療データの実治療前の医療画像に関する情報を、典型モデルに入力し、仮定した治療に関する情報と、仮定した治療後の予後に関する情報と、を得る。これにより、学習部158は、実治療データの実治療前の医療画像に関する情報と、仮定した治療に関する情報と、仮定した治療後の予後に関する情報と、を含む補間治療データを得ることができる。
【0089】
ステップS204において、学習部158は、実治療データと補間治療データとを含む学習用データから、判別器を作成する。例えば、学習部158は、学習用データを用いて、治療後の予後に関する情報を正解ラベルとして機械学習を行う。
【0090】
(予後の推定)
図7は、情報処理装置100の出力部156が、判別器によって、治療を行った場合の
予後に関する情報を出力する処理を例示するフローチャートである。
【0091】
ステップS301において、取得部155は、医療画像に関する情報と、生体パラメータに関する情報と、を取得する。この際、取得部155は、通信インターフェース120を介して、他の情報処理装置や測定装置から、医療画像に関する情報と生体パラメータに関する情報を取得してもよいし、入出力インターフェース130を介して、キーボードやタッチパネル等の情報入力装置から医療画像に関する情報と生体パラメータに関する情報を取得してもよい。
【0092】
ステップS302において、取得部155は、行う予定の治療に関する情報を取得してもよい。例えば、医者がキーボードやタッチパネル等の情報入力装置を操作することで、取得部155は行う予定の治療に関する情報を取得することができる。対象者の疾患に対する医師の所見が、加齢黄斑変性である場合には、医師はその情報を入力することができるし、また、疾患名に代えて「視界の中心部だけが歪んでみえる」などの所見を入力することもできる。あるいは、「抗VEGF療法を6週間に一度行う」などの具体的治療方法を入力することもできる。取得部155は、これら入力に応じて、行う予定の治療に関する情報を取得することができる。
【0093】
また、取得部155は、医師からの入力操作に代えて、情報処理装置のストレージ又は情報処理装置がアクセス可能なサーバに記憶された電子カルテ情報から、対象者の疾患名あるいは症状などを行う予定の治療に関する情報を取得してもよい。
【0094】
ステップS303において、出力部156は、医療画像に関する情報と、生体パラメータに関する情報と、行う予定の治療に関する情報と、を判別器に入力し、判別器によって、治療を行った場合の予後に関する情報を出力する。この際、行う予定の治療に関する情報が、複数の治療方法を含む場合には、出力部156は、治療方法毎に予後に関する情報を出力することができる。
【0095】
また、出力部156は、治療方法毎にその治療に関する費用に関する情報を付して、予後に関する情報を出力することができる。これにより、治療方法毎に、その治療を行った場合の費用を比較することができる。
【0096】
ステップS304において、表示部157は、出力された予後に関する情報を、ディスプレイ等の画像出力装置に表示制御する。表示制御方法は、特に制限されないが、例えば、縦軸を視力、横軸を時間軸として、予後の経過をプロットしたグラフや、そのグラフを治療方法毎に重ねて表示したグラフ、あるいは、予後視力や治療コストの昇順または降順で並べたリスト等が挙げられる。
【0097】
以上説明した本発明の実施形態に係る情報処理装置100が提供する予後判定システムでは、例えば、黄斑専門医のような眼科医の中でも特定の疾患に対してより専門性の高い専門医に拠ることなく、医療画像に基づいて、所定の治療を行った場合の予後を判定することが可能となる。また、治療方法の選択肢が複数ある場合には、治療毎に予後を判定することが可能であるため、医師又は対象者が治療方法を選ぶときの指標を提示することが可能となる。
【0098】
なお、上述したとおり、本発明は、上記の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において様々な変形が可能である。すなわち、上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。
【0099】
例えば、取得部155は、治療後の予後に関する情報を電子カルテ情報から取得し、学習部158へ渡すようにしてもよい。これにより学習部158は、治療後の予後に関する情報を学習用データに追加し、追加学習をすることができる。
【0100】
また、上記予後判定システムは、インターネット等の通信ネットワークを介して通信可能に接続された、予後判定装置であるサーバ200と利用者端末300により構成されてもよい。
【0101】
図8に、予後判定装置であるサーバ200と利用者端末300により構成される予後判定システムの処理シーケンスを示す。サーバ200は、インターネット等の通信ネットワークを介して、利用者端末300と通信可能に接続されている。サーバ200は、利用者端末300から受信した、医療画像に関する情報と、視力に関する情報と、行う予定の治療に関する情報を判別器に入力し、治療を行った場合の予後に関する情報を出力し、出力した情報を利用者端末300に送信する予後判定システムを提供する。
【0102】
ここで、サーバ200は、本発明の予後判定システムの全部又は一部を実装する情報処理装置の一例であり、上述した情報処理装置100の有するハードウェア構成や機能部の構成を有することができる。また、利用者端末300は、情報の送受信及び情報を表示可能なディスプレイを備えた通常のコンピュータであってもよい。
【0103】
ステップS401において、利用者端末300は、医療画像に関する情報、視力に関する情報、及び行う予定の治療に関する情報をサーバ200に対して送信する。そして、ステップS402において、サーバ200の取得部は、医療画像に関する情報、視力に関する情報、及び行う予定の治療に関する情報を取得する。
【0104】
ステップS403において、サーバ200の出力部は、利用者端末300から受信した、医療画像に関する情報と、視力に関する情報と、行う予定の治療に関する情報を判別器に入力し、治療を行った場合の予後に関する情報を出力する。
【0105】
ステップS404において、サーバ200は、出力した予後に関する情報を利用者端末300に送信する。そして、ステップS405において、利用者端末300は、予後に関する情報を表示装置に表示制御することができる。
【0106】
図9に、利用者端末300の表示装置に表示制御される、予後の経過を治療方法毎に重ねて表示したグラフの一例を示す。グラフの縦軸は視力を示し、横軸は週数を示す。
図9には、対象者の現在の視力は0.5であり、各治療法を実施した時の予後の経過が示されている。このようなグラフによれば、治療を行わなかったとした場合(無治療)には、対象者の視力が低下すること、治療を行えば視力の回復が見込まれることが分かる。また、アフリベルセプトを例にとれば、10~16週後に再度治療をすることで、視力の維持が見込まれること等、次回診療時の治療方針を決めることもできる。
【0107】
これにより、サーバ200にアクセスできる利用者端末300であれば、予後判定システムを利用することが可能となり、医療レベルの地域格差を解消することができる。
【符号の説明】
【0108】
1…予後判定システム、100…情報処理装置、110…プロセッサ、120…通信インターフェース、130…入出力インターフェース、140…メモリ、150…ストレージ、151…オペレーティングシステム、152…ネットワーク通信部、153…対象者データ、154…学習用データ、155…取得部、156…出力部、157…表示部、158…学習部、160…通信バス、200…サーバ、300…利用者端末