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  • 特許-ベアリングおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】ベアリングおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20250708BHJP
   F16C 19/52 20060101ALI20250708BHJP
   F16C 43/04 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/52
F16C43/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021106657
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2022025011
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2024-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020126936
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000111834
【氏名又は名称】パーカー加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 滋
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-023509(JP,A)
【文献】実開平06-043351(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
F16C 43/00-43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪、内輪およびそれらに挟まれた転動体を有するベアリングであって、
前記外輪の外周面および/または前記内輪の内周面に、
りん酸塩皮膜または黒色酸化皮膜と、その表面上の耐摩耗剤および有機樹脂を含む焼成膜とを有し、
前記耐摩耗剤は、酸化鉄、酸化クロム、酸化アルミニウムおよび二酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1つであり、
絶縁性に加え、耐クリープ摩耗性を備えたベアリング。
【請求項2】
前記焼成膜において、
固体潤滑剤の含有率が0~29質量%、
前記耐摩耗剤の含有率が4~69質量%、
前記有機樹脂の含有率が30~80質量%である、請求項1に記載のベアリング。
【請求項3】
外輪、内輪およびそれらに挟まれた転動体を有するベアリングの製造方法であって、
前記外輪の外周面および/または前記内輪の内周面に、りん酸塩皮膜または黒色酸化皮膜を形成した後、その表面上に耐摩耗剤および有機樹脂を含む焼成膜を焼成温度120~230℃にて焼成することで形成する工程を備え、
前記耐摩耗剤は、酸化鉄、酸化クロム、酸化アルミニウムおよび二酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1つであり、
絶縁性に加え、耐クリープ摩耗性を備えたベアリングの製造方法。
【請求項4】
前記焼成膜において、
固体潤滑剤の含有率が0~29質量%、
前記耐摩耗剤の含有率が4~69質量%、
前記有機樹脂の含有率が30~80質量%である、請求項3に記載のベアリングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベアリングおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題から自動車の電動化が進んでいる。それに伴い使用されるベアリングに漏洩電流による電食が発生、ベアリングが破損してしまう事が報告されている。
ベアリングの電食を防止する為に、従来はベアリングの外輪、もしくは内輪の他の部品との嵌合部分にセラミック等の硬質の絶縁物質をコーティングして対処している事が多かった。
しかしながら、セラミック等の無機硬質の物質は施工する費用も高額で有り、また硬質な物質である事から、ベアリングがクリープすると篏合相手側であるアルミ合金等のハウジング部品が摩耗することで、ユニット機能に影響する可能性が危惧されていた。
【0003】
また、従来、耐クリープ摩耗性を向上させる為に塗布されている固体潤滑物質等を含む焼成膜も耐クリープ摩耗性は有るものの、塗膜が柔らかい事から、初期では絶縁性が維持されるが、ベアリングが摺動するにつれて焼成膜が摩耗していき絶縁性が維持できない問題が有った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような状態に鑑み、セラミックよりも安価で絶縁性を有し、クリープによる摩耗が発生し難い皮膜を有するベアリングおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の(1)~(4)である。
(1)外輪、内輪およびそれらに挟まれた転動体を有するベアリングであって、
前記外輪の外周面および/または前記内輪の内周面に、
りん酸塩皮膜または黒色酸化皮膜と、その表面上の耐摩耗剤および有機樹脂を含む焼成膜とを有し、
絶縁性に加え、耐クリープ摩耗性を備えたベアリング。
(2)前記焼成膜において、
固体潤滑剤の含有率が0~29質量%、
前記耐摩耗剤の含有率が4~69質量%、
前記有機樹脂の含有率が30~80質量%である、上記(1)に記載のベアリング。
(3)外輪、内輪およびそれらに挟まれた転動体を有するベアリングの製造方法であって、
前記外輪の外周面および/または前記内輪の内周面に、りん酸塩皮膜または黒色酸化皮膜を形成した後、その表面上に耐摩耗剤および有機樹脂を含む焼成膜を焼成温度120~230℃にて焼成することで形成する工程を備える、
絶縁性に加え、耐クリープ摩耗性を備えたベアリングの製造方法。
(4)前記焼成膜において、
固体潤滑剤の含有率が0~29質量%、
前記耐摩耗剤の含有率が4~69質量%、
前記有機樹脂の含有率が30~80質量%である、上記(3)に記載のベアリングの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、セラミックよりも安価で絶縁性を有し、クリープによる摩耗が発生し難い皮膜を有するベアリングおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明のベアリングの概略斜視図である。
図2】実施例において用いた摩擦摩耗試験機の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について説明する。
本発明は外輪、内輪およびそれらに挟まれた転動体を有するベアリングであって、前記外輪の外周面および/または前記内輪の内周面に、りん酸塩皮膜または黒色酸化皮膜と、その表面上に耐摩耗剤および有機樹脂を含む焼成膜とを有し、絶縁性に加え、耐クリープ摩耗性を備えたベアリングである。
このようなベアリングを、以下では「本発明のベアリング」ともいう。
【0009】
また、本発明は、外輪、内輪およびそれらに挟まれた転動体を有するベアリングの製造方法であって、前記外輪の外周面および/または前記内輪の内周面に、りん酸塩皮膜または黒色酸化皮膜を形成した後、その表面上に耐摩耗剤および有機樹脂を含む焼成膜を焼成温度120~230℃にて焼成することで形成する工程を備える、絶縁性に加え、耐クリープ摩耗性を備えたベアリングの製造方法である。
このようなベアリングの製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0010】
本発明のベアリングは、本発明の製造方法によって製造することが好ましい。
【0011】
本発明のベアリングについて説明する。
図1に本発明のベアリングの好適態様の概略斜視図を示す。
図1に示す本発明のベアリング1は、外輪2、内輪4およびそれらに挟まれたボール6を有する。
ベアリングの形状は外輪2、内輪4およびそれらに挟まれる位置に配置されたボール6を有する態様であれば特に限定されない。外輪2、内輪4およびボール6の各々の形状についても同様である。
外輪2、内輪4およびボール6の本体の材質も特に限定されず、金属、特に軸受鋼等の鋼材であることが好ましい。
なお、ボール6は本発明における転動体の一例である。本発明において転動体はボールに限定されず、例えば一般的なベアリングが有する従来公知の転動体と同様の態様のものであってよい。
【0012】
そして、本発明のベアリングは、外輪2の外周面20および/または内輪4の内周面40に、りん酸塩皮膜または黒色酸化皮膜と、焼成膜との2つの皮膜を重ねて有する。
本発明のベアリングは、外輪2の外周面20と隣り合う面である2つの側面22や、内輪4の内周面40に隣り合う面である2つの側面42にも、りん酸塩皮膜または黒色酸化皮膜と、焼成膜との2つの皮膜を重ねて有していてもよい。
【0013】
りん酸塩皮膜を形成することで焼成膜の密着性を向上させることができる。
りん酸塩としては、例えば、りん酸マンガン、りん酸鉄、りん酸亜鉛、りん酸亜鉛カルシウム等が挙げられ、これらの中でもりん酸マンガンを用いることが好ましい。
りん酸塩皮膜は、りん酸塩水溶液(例えばりん酸マンガン水溶液)に浸漬処理することでベアリング本体の表面(外輪2の外周面20および/または内輪4の内周面40を少なくとも含む表面)に形成することができる。
ここでりん酸塩皮膜を形成する前の下地処理として、エッチング加工やブラスト加工を行い、粗面化させてもよい。
りん酸塩皮膜の厚さは特に限定されないが、1~15μmであることが好ましく、3~7μmであることがより好ましい。
【0014】
黒色酸化皮膜は、皮膜生成過程において素材溶出とマグネタイト生成により寸法変化が少なく、高密着性のマグネタイト集合体を生成し、耐摩耗性能並びに塗膜密着性能を有する。黒色酸化皮膜は強アルカリ性の黒色酸化処理水溶液に浸漬処理することでベアリング本体の表面(外輪2の外周面20および/または内輪4の内周面40を少なくとも含む表面)に形成することができる。
黒色酸化皮膜の厚さは特に限定されないが、0.2~3.0μmであることが好ましく、1.0~2.5μmであることがより好ましい。
【0015】
本発明のベアリングは、りん酸塩皮膜または黒色酸化皮膜の上に焼成膜を有する。
焼成膜は耐摩耗剤を含むものであるが、焼成膜における耐摩耗剤の含有率が4~69質量%であることが好ましく、13~50質量%であることがより好ましい。
なお、耐摩耗剤の具体例は後述する。
【0016】
また、焼成膜における固体潤滑剤の含有率は0~29質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることがさらに好ましい。すなわち、焼成膜は固体潤滑剤を含むことが好ましいが、含まなくてもよい。
なお、固体潤滑剤の具体例は後述する。
【0017】
また、焼成膜における有機樹脂の含有率が30~80質量%であることが好ましく、49~80質量%であることがより好ましく、49~60質量%であることがさらに好ましい。
なお、有機樹脂の具体例は後述する。
【0018】
焼成膜の厚さは特に限定されないが、10~60μmであることが好ましく、20~40μmであることがより好ましい。
【0019】
本発明のベアリングが有するりん酸塩皮膜および焼成膜の厚さは、未処理のベアリングをゼロ点とし、従来公知の電磁式膜厚計を用い測定した値を意味するものとする。なお、黒色酸化皮膜の膜厚は従来公知の断面拡大観察及びカロテストにより測定した値を意味するものとする。
【0020】
次に、本発明の製造方法について説明する。
初めに、従来公知の外輪、内輪および転動体(ボール等)を含む金属などからなるベアリングをりん酸塩水溶液(りん酸マンガン水溶液等)または黒色酸化処理水溶液に浸漬し、処理することで、表面(外輪2の外周面20および/または内輪4の内周面40)にりん酸塩皮膜または黒色酸化皮膜を形成する。
なお、浸漬の他、従来公知の外輪、内輪および転動体(ボール等)を含む金属などからなるベアリングにりん酸塩水溶液をスプレーまたは塗布することで、その表面にりん酸塩皮膜を形成することもできる。
【0021】
りん酸塩水溶液におけるりん酸塩の濃度は特に限定されないが、3~5質量%であることが好ましい。
【0022】
また、黒色酸化皮膜は、従来公知の外輪、内輪および転動体(ボール等)を含む金属などからなるベアリングを、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムと反応促進剤とを主体とする水溶液(120~150℃に調整した水溶液であることが好ましい)へ浸漬処理することで形成できる。また、外輪および内輪を個別に浸漬処理してもよい。
【0023】
次に、得られたりん酸塩皮膜または黒色酸化皮膜の表面上に焼成膜を形成する。
りん酸塩皮膜または黒色酸化皮膜の表面上に、耐摩耗剤および有機樹脂を含む混合溶液を塗布し、その後、焼成温度120~230℃にて焼成することで焼成膜を形成することができる。
焼成温度は混合溶液の成分によって適宜設定される。具体的には120~230℃であるが、120~160℃の範囲内であることが好ましい。
【0024】
溶媒中に耐摩耗剤および有機樹脂を含む混合溶液は、さらに固体潤滑剤含むことが好ましい。
【0025】
固体潤滑剤としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(4フッ化エチレンと6フッ化プロピレン共重合体)等のふっ素樹脂や二硫化モリブデン、グラファイト、グラフェン、ポリエチレン、二硫化タングステンが挙げられる。
塗布する混合溶液中の固体潤滑剤の含有率は0.1~10質量%であることが好ましく、0.2~5.0質量であることがより好ましく、0.25~2.7質量%であることがより好ましく、0.8~1.9質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
耐摩耗剤としては、酸化鉄、酸化クロム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミナホワイト、ジルコニア、炭化タングステン、炭化チタン、二酸化チタン、炭化ケイ素、イリジウム、酸化ベリリウム、酸化ジルコニウム、ボロンカーバイト、タングステンカーバイト、シリコンカーバイト、ダイヤモンドが挙げられる。
塗布する混合溶液中の耐摩耗剤の含有率は0.5~24.5質量%であることが好ましく、1.0~16.5質量%であることがより好ましく、12~21質量%であることがより好ましく、15~18質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
有機樹脂として有機バインダーおよび硬化剤を用いることが好ましい。有機バインダーとしてはポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、イソシアネート樹脂およびエラストマー樹脂等が挙げられる。また、硬化剤としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート樹脂等が挙げれられる。
塗布する混合溶液中の有機樹脂(有機バインダー+硬化剤)の含有率は4.5~18.0質量%であることが好ましく、9.0~18.0質量%であることがより好ましく、5~17質量%であることが好ましく、8~14質量%であることがより好ましい。
【0028】
塗布する混合溶液中の溶媒として、例えば、ヘキサンやヘプタン等の脂肪族炭化水素、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、γ‐ブチロラクトン等のエステル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド類等を用いることができる。溶媒の好ましい具体例として、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、キシレンなどが挙げられる。
塗布する溶液中の混合溶媒の含有率は60~90質量%であることが好ましく、70~85質量%であることがより好ましい。
混合溶液を塗布する方法は特に限定されない。例えば、スプレー、電着を含む浸漬塗装装置、スピンコーター、バーコーター、インクジェット、印刷を用いて塗布した後、120~230℃の焼成温度にて焼成することで、焼成膜を形成することができる。
【実施例
【0029】
<実験1>
<サンプルの用意>
鋼製のリング(材質:AISI4620(米国規格)、表面硬さ:60HRC 外径:φ35mm)を3質量%のりん酸マンガン水溶液中に浸漬して、厚さが3μmのりん酸マンガン皮膜を形成した。その後、りん酸マンガン皮膜の表面上に、以下の組成(溶媒分を除く)の溶液をスプレーで塗布した。そして120℃の焼成温度で焼成し、厚さが20μmの焼成膜を形成した。
・固体潤滑剤(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン):5質量%
・耐摩耗剤(酸化鉄:酸化クロム=100質量部:90~110質量部):合計35質量%
・有機樹脂(ポリアミドイミド樹脂:エポキシ樹脂=100質量部:20~30質量部):合計60質量%
このようにして得られた皮膜付きの鋼製リングを、「サンプル1」とする。
なお、このサンプル1に形成した皮膜は、本発明のベアリングが有する皮膜と同じ構成を備えている。
【0030】
次に、サンプル1の場合と同様に、鉄製のリングを3質量%のりん酸マンガン水溶液中に浸漬して、厚さが3μmのりん酸マンガン皮膜を形成した後、表面に、以下の組成(溶媒分を除く)の溶液をスプレーで塗布した。そして120℃の焼成温度で焼成し、厚さが20μmの焼成膜を形成した。
・ポリアミドイミド樹脂:30~40質量%
・エポキシ樹脂10~20質量%
・二硫化モリブデン20~30質量%
・グラファイト質量1~10%
・三酸化アンチモン20~30質量%
このようにして得られた皮膜付きの鋼製リングを、「サンプル2」とする。
なお、このサンプル2に形成した皮膜は従来品が備える皮膜であり、本発明のベアリングが有する皮膜と同じ構成を備えるサンプル1の比較対象として用いる。
【0031】
<摺動試験>
次に、上記のようにして得られたサンプル1およびサンプル2について、摺動試験に供した。
摺動試験とは、次のような試験である。
サンプル1およびサンプル2を、各々、図2に示すブロックオンリング式LFW-1摩擦摩耗試験機(米国 Falex社製)にセットし、アルミ製ブロック(材質:ADC12)に荷重65LBSを加えて、このブロックをサンプルの表面に摺動させながら、サンプル1,2のリングを回転数55rpmで30分間回転させた。なお、試験中、摺動する部分に潤滑油(日産純正CVTオイル)を添加した。
このような摺動試験に供した後のサンプル1およびサンプル2を、以下ではサンプル10およびサンプル20とする。
【0032】
<絶縁性評価試験>
上記のようにして得られたサンプル1、サンプル2、サンプル10およびサンプル20について絶縁性評価試験を行った。
絶縁性評価試験は測定機器としてTOS5301(菊水電子工業株式会社製)を用いて行った。
具体的には、サンプル1については、初めに、鋼製リングにおける焼成膜が形成されていない箇所に負極を装着し、焼成膜が形成されている箇所に正極を装着した。
また、サンプル10については、初めに、鋼製リングにおける焼成膜が形成されていない箇所に負極を装着し、焼成膜が形成されている摺動箇所に正極を装着した。
また、サンプル2については、初めに、鋼製リングにおける焼成膜が形成されていない箇所に負極を装着し、その皮膜が形成されている箇所に正極を装着した。
また、サンプル20については、初めに、鋼製リングにおける焼成膜が形成されていない箇所に負極を装着し、その皮膜が形成されている摺動箇所に正極を装着した。
そして、サンプル1およびサンプル2の各々について、10秒間で設定電圧(120V、250Vまたは500V)まで昇圧させ、60秒間、設定電圧を保持している間に、リミット電流を超えるか否か(リークが発生するか否か)によって絶縁性を評価した。
なお、この試験において、リミット電流は10mA(AC)、500mA(DC)とした。
結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示すように、サンプル1およびサンプル10の場合、設定電圧が250V、500Vのいずれであっても、また、AC、DCのいずれであっても、60秒間、設定電圧を保持するまでの間にリークは発生しなかった。すなわち、サンプル1およびサンプル10は絶縁性に優れることが確認できた。
【0035】
一方、サンプル2およびサンプル20の場合、設定電圧が120V、ACの場合、昇圧中にリークが発生し、DCの場合、設定電圧で保持している途中においてリークが発生した。また、設定電圧が250V、DCの場合、昇圧中にリークが発生した。すなわち、サンプル2およびサンプル20は、サンプル1およびサンプル10に比べ、絶縁性に劣ることが確認できた。
【0036】
<摩耗性能評価試験>
サンプル1、サンプル10、サンプル2およびサンプル20)のアルミ製ブロックの摩耗量を、接触粗さ計(東京精密社製、SURFCOM1500SP、プローブ:2μmR、60°円錐ダイヤ)を用いて測定した。
その結果、サンプル1とサンプル10との比較(差異)から求められる摩耗量と、サンプル2とサンプル20との比較(差異)から求められる摩耗量とは、共に測定できない程度(または約10μm以下)であった。
これより、サンプル1およびサンプル10の皮膜は、サンプル2およびサンプル20の皮膜と同程度のアルミ製ブロックの耐摩耗性を備えると考えられる。
【0037】
<実験2>
<摺動部材の準備>
N-メチル-2-ピロリドンを含む溶媒に、有機バインダーとしてポリアミドイミド樹脂と、硬化剤としてエポキシ樹脂硬化剤とを所定割合で入れ、さらに固体潤滑剤および耐摩耗剤も入れ、これらを混合することで混合溶液を得た。
ここで固体潤滑剤として、実施例1~5ではPTFEを用い、実施例6および比較例1では二硫化モリブデン及びグラファイトを用いた。
また、耐摩耗剤として、実施例1~5では酸化鉄及び酸化クロムの混合物並びに酸化アルミニウムを、実施例6は酸化クロム、酸化アルミニウム、二酸化チタンを用いた。また、比較例1では耐摩耗剤を用いなかった。ただし、比較例1では混合溶液に、二硫化モリブデンの酸化防止剤として一般的に用いられる摺動補助剤である三酸化アンチモンを加えた。
表2に混合溶液中の配合組成(溶媒分を除く)を示す。なお、表2に示す組成は焼成膜における各成分の組成とほぼ同一になると考えられる。
【0038】
【表2】
【0039】
次に、摺動用試験片としてリング状の鋼材(材質AISI4620:米軍規格;表面硬度がHRC60;外径φ35mm)を用意した。そして、この鋼材の外周表面にりん酸マンガン被膜を形成した後、その上に実施例1~6および比較例1に係る混合溶液の各々をスプレー塗布した。そして、各々を120℃の焼成温度で焼成し、リング鋼材を得た。
なお、リング鋼材における焼成膜の厚さは、いずれにおいても25μmであった。
なお、比較例1に形成した焼成膜は従来品が備える皮膜であり、本発明のベアリングが有する皮膜と同じ構成を備える実施例1~6の比較対象として用いる。
【0040】
<摺動試験>
鋼材であるベアリングと嵌合するアルミ材ハウジングの摺動環境を模した試験として、表2に示す各種組成(実施例1~6および比較例1)の焼成膜を有するリング状鋼材の外周面とアルミ材ブロックの一部の表面を摺動させるために、図2にように配置させ、以下の評価を実施した。
・試験装置
ファレックス社製 ブロックオンリング試験機(LFW-1)
・試験片
リング(材質:AISI 4620;表面硬度:HRC60;外径φ=35mm)
ブロック(材質:ADC12)
・試験条件
雰囲気:ATフルードDW-1
荷重:100から1000lbs(100lbs/min 1Step) ステップアップ荷重制御
回転数:100rpm
試験時間:10分
【0041】
<摩耗量測定>
摺動試験後のアルミ合金ブロック材の摩耗量を表面粗さ計により以下の条件にて測定した。
試験機:東京精密社製 SURFCOM 1400G
算出規格:JIS-'01/'13規格
測定種別:断面測定
測定速度:0.3 mm/s
測定長さ:10.0 mm
スタイラス形状:φ1.6 ルビー
形状除去:最小二乗直線
判定基準:アルミ合金ブロック材の最大摩耗量が40μm以下を良、40μm以上を不良とした。
なお、摺動試験後の摩耗形態はリング形状に合わせた形状となるため、最大摩耗量を測定値とした。
【0042】
<絶縁評価試験条件>
表2に示す各種組成(実施例1~6及び比較例1)に対する摺動試験後の摺動部材について、以下の測定条件にて絶縁破壊評価を実施した。
使用機器:耐電圧・絶縁抵抗試験器 TOS5301(菊水電子工業株式会社製)
・測定条件
・直流
上限:6.20kV
リミット:0.5mA 0.5mA以上の電流値で停止
昇圧時間:10秒
開始時電圧:0V
絶縁判定: 0.5mA以上の電流値でリーク判定しその際の電圧値を測定
・交流
上限:5.50kV
リミット:10mA 10mA以上の電流値で停止
昇圧時間:10秒
開始時電圧:0V
周波数:50Hz
絶縁判定: 10mA以上の電流値でリーク判定しその際の電圧値を測定
・測定方法:測定器の正極と負極に高電圧テストリードにあるワニ口クリップ部をリング状鋼材の焼成膜が形成されていない部位(内径)および摺動部位(外径)に設置する。測定器の電圧を上記測定条件により測定を実施する。測定は3回測定し、その平均値をデータとする。
・判定基準:直流及び交流の測定においてリミット停止した際を不良、絶縁判定時で0.1kV以上を良とした。
【0043】
<実施例・比較例に対する評価結果>
摺動試験後のアルミブロック摩耗量並びに絶縁破壊測定結果を表3に示す。
従来仕様の焼成膜である比較例1は摺動試験によるアルミブロック摩耗は抑えられているが、焼成膜が摩耗する事で絶縁性能は得られない。これに対して実施例1~6においては摺動試験によるアルミブロック摩耗は抑えられている事に加えて、摺動試験後の絶縁性を確保することを確認した。
【0044】
【表3】
【符号の説明】
【0045】
1 本発明のベアリング
2 外輪
20 外輪の外周面
4 内輪
40 内輪の内周面
6 ボール
図1
図2