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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】異常検知装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20250708BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20250708BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
G05B23/02 302R
B23Q17/00 A
B23Q17/09 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022537989
(86)(22)【出願日】2021-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2021026911
(87)【国際公開番号】W WO2022019249
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-02-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2020124645
(32)【優先日】2020-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】胡 蓮成
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和宏
(72)【発明者】
【氏名】飯島 一憲
【合議体】
【審判長】本庄 亮太郎
【審判官】鈴木 貴雄
【審判官】大山 健
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0228137(US,A1)
【文献】特開2019-188540(JP,A)
【文献】特開2008-87094(JP,A)
【文献】特開2018-40456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B23/02
B23Q17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械においてモータで駆動される駆動部に異物を噛み込んだことを検知する異常検知装置であって、
前記駆動部の状態を診断する指令及びモータのフィードバック信号に基づいて、複数の回転速度で前記駆動部を駆動する前記モータを検知動作させるための制御指令を作成する制御部と、
前記検知動作時における、前記駆動部を駆動するモータに対する前記制御指令又は前記制御指令に基づいて前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を前記駆動部の動作状態を示す情報として取得する駆動部情報取得部と、
前記駆動部情報取得部が取得した前記駆動部を駆動するモータに対する制御指令又は前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を周波数解析した結果の周波数分布と、予め正常時に前記駆動部を駆動する前記モータ検知動作させた際に取得された前記駆動部を駆動するモータに対する制御指令又は前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を周波数解析した結果の周波数分布との類似性に基づいて、前記駆動部の状態を判定する駆動部状態判定部と、
前記駆動部状態判定部による判定結果に基づいて、前記駆動部の状態が正常時と異なることを通知する通知部と、
を備えた異常検知装置。
【請求項2】
工作機械においてモータで駆動される駆動部に異物を噛み込んだことを検知する異常検知装置であって、
前記駆動部の状態を診断する指令及びモータのフィードバック信号に基づいて、複数の回転速度で前記駆動部を駆動する前記モータを検知動作させるための制御指令を作成する制御部と、
前記検知動作時における、前記駆動部を駆動するモータに対する前記制御指令又は前記制御指令に基づいて前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を前記駆動部の動作状態を示す情報として取得する駆動部情報取得部と、
前記駆動部情報取得部が取得した前記駆動部を駆動するモータに対する前記制御指令又は前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を解析し、その解析の結果に基づいて前記駆動部の状態を判定する駆動部状態判定部と、
前記駆動部状態判定部による判定結果に基づいて、前記駆動部の状態が正常時と異なることを通知する通知部と、
を備え、
予め正常時に前記駆動部を駆動する前記モータ検知動作させた際に取得された前記駆動部を駆動するモータに対する制御指令又は前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を周波数解析したデータを機械学習して得られた学習モデルを予め記憶しており、
前記駆動部状態判定部は、該学習モデルと、前記駆動部情報取得部が取得した前記駆動部を駆動するモータに対する制御指令又は前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を周波数解析の結果とに基づいて、前記駆動部の状態を判定する、
た異常検知装置。
【請求項3】
工作機械においてモータで駆動される駆動部に異物を噛み込んだことを検知する異常検知装置であって、
前記駆動部の状態を診断する指令及びモータのフィードバック信号に基づいて、複数の回転速度で前記駆動部を駆動する前記モータを検知動作させるための制御指令を作成する制御部と、
前記検知動作時における、前記駆動部を駆動するモータに対する前記制御指令又は前記制御指令に基づいて前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を前記駆動部の動作状態を示す情報として取得する駆動部情報取得部と、
前記駆動部情報取得部が取得した前記駆動部を駆動するモータに対する制御指令又は前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号について、それぞれの回転速度における統計量を算出した結果と、予め正常時に前記駆動部を駆動する前記モータ検知動作させた際に取得された前記駆動部を駆動するモータに対する制御指令又は前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号について、それぞれの回転速度における統計量を算出した結果との値と変化傾向の類似性に基づいて、前記駆動部の状態を判定する駆動部状態判定部と、
前記駆動部状態判定部による判定結果に基づいて、前記駆動部の状態が正常時と異なることを通知する通知部と、
を備えた異常検知装置。
【請求項4】
工作機械においてモータで駆動される駆動部に異物を噛み込んだことを検知する異常検知装置であって、
前記駆動部の状態を診断する指令及びモータのフィードバック信号に基づいて、複数の回転速度で前記駆動部を駆動する前記モータを検知動作させるための制御指令を作成する制御部と、
前記検知動作時における、前記駆動部を駆動するモータに対する前記制御指令又は前記制御指令に基づいて前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を前記駆動部の動作状態を示す情報として取得する駆動部情報取得部と、
前記駆動部情報取得部が取得した前記駆動部を駆動するモータに対する前記制御指令又は前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を解析し、その解析の結果に基づいて前記駆動部の状態を判定する駆動部状態判定部と、
前記駆動部状態判定部による判定結果に基づいて、前記駆動部の状態が正常時と異なることを通知する通知部と、
を備え、
予め正常時に前記駆動部を駆動する前記モータ検知動作させた際に取得された前記駆動部を駆動するモータに対する制御指令又は前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号について、それぞれの回転速度における統計量を算出したデータを機械学習して得られた学習モデルを予め記憶しており、
前記駆動部状態判定部は、該学習モデルと、前記駆動部情報取得部が取得した前記駆動部を駆動するモータに対する制御指令又は前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号について、それぞれの回転速度における統計量を算出した結果とに基づいて、前記駆動部の状態を判定する、
た異常検知装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記検知動作においてそれぞれの回転速度を予め定めた所定時間維持するように制御する、
請求項1~4のいずれか1つに記載の異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検知装置に関し、特に工作機械の駆動部への異物の噛み込みを検知する異常検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、主軸に取り付けられた工具によりワークを切削加工する。ワークの切削加工中には切粉や金属粉等が発生する。また、ワークの切削加工中に、加工内容に応じて、或いは、工具の摩耗や折損等が原因で、主軸に取り付けた工具の交換が行われる。
【0003】
工作機械において工具の交換を行う際に、テーパ面とシャンクとの間に切粉や金属粉等が噛み込む場合がある。テーパ面とシャンクとの間に切粉や金属粉等が噛み込んだ場合、主軸に対する工具の相対的な位置が本来の位置とはずれた状態で不正確にクランプされる。そして、そのまま加工を開始して主軸が高速回転すると、刃具が折損したり、びびり振動が発生して加工面品質が低下したり、真円度及び面粗度の精度が低下したりする。
【0004】
このような問題を解決するのに、例えば、切粉等の噛み込みに起因する電力値変化から検知方法がある(例えば、特許文献1等)。また、外付け検知センサ(例えば、主軸チャック部に取り付けられた振動センサ)の波形データを取得し、AI(ディープラーニング)により分析する方法もある(例えば、特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-040072号公報
【文献】国際公開第2018/146733号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
テーパ面とシャンクとの間に微小な切粉や金属粉等が噛み込んだ場合、主軸への工具の取り付け状態は、微妙に偏心はしているものの噛み込んでない場合と比べて殆ど変わらない。そのため、単純な工具取り付け異常を検知する機能では、このような異常を自動検知しにくいという課題がある。高精度なセンサを設けて微小な異物の噛み込みを検出することも考えられるが、これは設備コストの増大につながり、また、センサの取付位置と噛み込んだ異物の場所による検査精度に大きく影響がある上に、常に振動波形の分析をする必要があるため計算コストの増大にもつながる。
【0007】
また、主軸に係る異常の種類は、切粉等の噛み込み以外にも、加工ワークのバラツキや工具自身の摩耗等の異常も存在するので、異物を噛み込んだ状況を精度よく検知できない可能性もある。
更に、同様の問題は送り軸の案内面と駆動部の間に微小な切粉や金属粉等が入り込んで出てこない場合や、ボールねじナットの溝に微小な切粉や金属粉等が噛み込んでいる場合等、工作機械の電動機で駆動される駆動部に微小な異物が入り込んだ場合にも発生する。
そのため、ツールクランプの僅かな異常状態を自動的かつ正確に検知する技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による異常検知装置は、モータ(主軸)を複数の回転速度で回転する検知動作をさせながら主軸の応答を観測し、その応答に基づいて工具の偏心を検知することで、上記課題を解決する。
【0009】
そして、本発明の一態様は、工作機械においてモータで駆動される駆動部に異物を噛み込んだことを検知する異常検知装置であって、前記駆動部の状態を診断する指令及びモータのフィードバック信号に基づいて、複数の回転速度で前記駆動部を駆動する前記モータを検知動作させるための制御指令を作成する制御部と、前記検知動作時における、前記駆動部を駆動するモータに対する前記制御指令又は前記制御指令に基づいて前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を前記駆動部の動作状態を示す情報として取得する駆動部情報取得部と、前記駆動部情報取得部が取得した前記駆動部を駆動するモータに対する制御指令又は前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を周波数解析した結果の周波数分布と、予め正常時に前記駆動部を駆動する前記モータを検知動作させた際に取得された前記駆動部を駆動するモータに対する制御指令又は前記駆動部を駆動するモータのフィードバック信号を周波数解析した結果の周波数分布との類似性に基づいて、前記駆動部の状態を判定する駆動部状態判定部と、前記駆動部状態判定部による判定結果に基づいて、前記駆動部の状態が正常時と異なることを通知する通知部と、を備えた異常検知装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様により、高精度センサの導入コスト等をかけることなく、高い精度で主軸への異物の噛み込みを検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態による異常検知装置の概略的なハードウェア構成図。
図2】一実施形態による異常検知装置の概略的な機能ブロック図。
図3】検知動作の例を示す図。
図4】検知動作の他の例を示す図。
図5】正常時の主軸の動作状態を示す情報の周波数分布の例を示す図。
図6】異常時の主軸の動作状態を示す情報の周波数分布の例を示す図。
図7】正常時及び異常時の主軸の動作状態を示す情報の統計量の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は本発明の一実施形態による異常検知装置の要部を示す概略的なハードウェア構成図である。
本発明の異常検知装置1は、例えば、工作機械を制御する制御装置として実装することができ、また、工作機械を制御する制御装置に併設されたパソコンや、該制御装置に有線/無線のネットワークを介して接続されたエッジコンピュータ、フォグコンピュータ、クラウドサーバ等に実装することもできる。本実施形態では、工作機械を制御する制御装置として実装した異常検知装置の例を示す。
【0013】
本発明の異常検知装置1が備えるCPU11は、異常検知装置1を全体的に制御するプロセッサである。CPU11は、バス22を介してROM12に格納されたシステム・プログラムを読み出し、該システム・プログラムに従って異常検知装置1全体を制御する。RAM13には一時的な計算データや表示データ、及び外部から入力された各種データ等が一時的に格納される。
【0014】
不揮発性メモリ14は、例えばバッテリ(図示せず)でバックアップされたメモリやSSD(Solid State Drive)等で構成され、異常検知装置1の電源がオフされても記憶状態が保持される。不揮発性メモリ14には、インタフェース15を介して外部機器72から読み込まれたデータや加工プログラム、入力装置71を介して入力されたデータや加工プログラム、工作機械から取得される各データ等が記憶される。不揮発性メモリ14に記憶されたデータや加工プログラムは、実行時/利用時にはRAM13に展開されても良い。また、ROM12には、公知の解析プログラムなどの各種システム・プログラムがあらかじめ書き込まれている。
【0015】
インタフェース15は、異常検知装置1のCPU11とUSB装置等の外部機器72と接続するためのインタフェースである。外部機器72側からは、例えば工作機械の制御に用いられる加工プログラムや各パラメータ等を読み込むことができる。また、異常検知装置1内で編集した加工プログラムや各パラメータ等は、外部機器72を介して外部記憶手段に記憶させることができる。
【0016】
プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)16は、異常検知装置1に内蔵されたシーケンス・プログラムで工作機械及び該工作機械の周辺装置(例えば、工具交換装置や、ロボット等のアクチュエータ、工作機械に取付けられているセンサ等)にI/Oユニット17を介して信号を出力し制御する。また、産業機械の本体に配備された操作盤の各種スイッチや周辺装置等の信号を受け取り、その信号に必要な信号処理をした後、CPU11に渡す。
【0017】
表示装置70には、メモリ上に読み込まれた各データ、加工プログラムやシステム・プログラム等が実行された結果として得られたデータ等がインタフェース18を介して出力されて表示される。また、キーボードやポインティングデバイス等から構成される入力装置71は、インタフェース19を介して作業者による操作に基づく指令,データ等をCPU11に渡す。
【0018】
工作機械が備える軸を制御するための軸制御回路30は、CPU11からの軸に沿って駆動部を移動させるための制御指令量を受け取って、該指令をサーボアンプ40に出力する。サーボアンプ40はこの指令を受け取って、工作機械が備える駆動部を軸に沿って移動させるサーボモータ50を駆動する。軸のサーボモータ50は位置・速度検出器を内蔵し、この位置・速度検出器からの位置・速度フィードバック信号を軸制御回路30にフィードバックし、位置・速度のフィードバック制御を行う。なお、図1のハードウェア構成図では軸制御回路30、サーボアンプ40、サーボモータ50は1つずつしか示されていないが、実際には制御対象となる工作機械に備えられた軸の数だけ用意される。例えば、一般的な工作機械を制御する場合には、工具が取り付けられた主軸とワークとを直線3軸(X軸,Y軸,Z軸)方向へ相対的に移動させる3組の軸制御回路30、サーボアンプ40、サーボモータ50が用意される。
【0019】
スピンドル制御回路60は、主軸回転指令を受け取って、スピンドルアンプ61にスピンドル速度信号を出力する。スピンドルアンプ61はこのスピンドル速度信号を受け取って、工作機械のスピンドルモータ62を指令された回転速度で回転させ、工具を駆動する。スピンドルモータ62にはポジションコーダ63が結合され、ポジションコーダ63が主軸の回転に同期して帰還パルスを出力し、その帰還パルスはCPU11によって読み取られる。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態による異常検知装置1が備える機能を概略的なブロック図として示したものである。
本実施形態による異常検知装置1が備える各機能は、図1に示した異常検知装置1が備えるCPU11がシステム・プログラムを実行し、異常検知装置1の各部の動作を制御することにより実現される。
本実施形態による異常検知装置1は、工作機械の電動機で駆動される駆動部としての主軸に着目し、主軸を複数の回転数で検知のための動作をさせてその結果を解析することで主軸に発生した微小な変化を検知する機能を備える。
【0021】
本実施形態の異常検知装置1は、制御部110、駆動部情報取得部120、駆動部状態判定部130、及び通知部140を備える。また、異常検知装置1のRAM13乃至不揮発性メモリ14には、入力装置71、外部機器72等から取得したNCプログラム210が予め記憶される。更に、異常検知装置1のRAM13乃至不揮発性メモリ14には、取得された駆動部としての主軸の動作状態に係る情報を記憶するための領域である駆動部情報記憶部220、及び駆動部としての主軸が正常に動作している状態で取得された主軸の動作状態に係る情報が予め記憶された正常時駆動部情報記憶部230が予め用意されている。
【0022】
制御部110は、図1に示した異常検知装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理と、軸制御回路30、スピンドル制御回路60、PLC16を用いた工作機械2の各部の制御処理が行われることで実現される。
制御部110は、NCプログラム210を解析してサーボモータ50及びスピンドルモータ62を備えた工作機械2及び該工作機械2の周辺装置を制御するための指令データを作成する。そして、制御部110は、作成した指令データに基づいて、工作機械2及び周辺装置の各部を制御する。制御部110は、例えば工作機械2の各軸に沿って駆動部を移動させる指令に基づいて軸の移動に係るデータを生成してサーボモータ50に出力する。また、制御部110は、例えば工作機械2の主軸を回転させる指令に基づいて主軸の回転に係るデータを生成してスピンドルモータ62に出力する。更に、制御部110は、例えば工作機械2の周辺装置を動作させる指令に基づいて該周辺装置を動作させる所定の信号を生成してPLC16に出力する。一方で、制御部110は、サーボモータ50やスピンドルモータ62の状態(モータの電流値、位置、速度、加速度、トルク等)をフィードバック値として取得して各制御処理に使用する。
【0023】
制御部110は、NCプログラム210からの指令或いは図示しない操作盤又は入力装置71から受け取ったオペレータからの指令に基づいて、主軸の状態を診断する診断モードに切り替わる。診断モードに切り替わると、制御部110は、複数の回転速度で主軸を検知動作させるための指令データを作成し、該指令データに基づいて主軸の回転動作を制御する。検知動作は、少なくとも予め定められた複数の回転速度で主軸を回転させる。検知動作は、図3に例示されるように、連続的に主軸の回転速度を変化させる、所謂スイープ動作であっても良いし、また、より精度高く主軸の状態を検知したい場合には、図4に例示されるように、予め定めた複数の回転速度において所定時間ずつ速度を維持する動作であって良い。この速度を維持する時間は主軸や工具の材質、形状などによって異なるが、共振による振動の増加が発生するのに十分な時間(例えば、300~500msec)であれば良い。
【0024】
駆動部情報取得部120は、図1に示した異常検知装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理と、軸制御回路30、スピンドル制御回路60、PLC16を用いた工作機械2の各部の制御処理が行われることで実現される。
駆動部情報取得部120は、制御部110により工作機械2が検知動作を行っている際に、スピンドルモータ62の動作状態に係る情報を取得する。駆動部情報取得部120が取得するスピンドルモータ62の動作状態に係る情報は、例えば、スピンドルモータ62に対するトルクコマンドであって良いし、また、スピンドルモータ62の電流値又は電圧値でもあって良いし、更には、スピンドルモータ62からフィードバックされる位置や速度等の情報であっても良い。これらの情報は、スピンドルモータ62に対して特別なセンサ等を取り付けることなく取得できるものであり、スピンドルモータ62に発生する振動の影響が表れる。駆動部情報取得部120は、これらの情報を制御部110から取得し、その取得したスピンドルモータ62の動作状態に係る情報を時系列データとして駆動部情報記憶部220に記憶する。
【0025】
駆動部状態判定部130は、図1に示した異常検知装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理が行われることで実現される。
駆動部状態判定部130は、駆動部情報記憶部220に記憶されたスピンドルモータ62の動作状態に係る情報を解析する。駆動部状態判定部130は、時系列データである駆動部情報記憶部220に記憶されたスピンドルモータ62の動作状態に係る情報に対して例えば周波数解析や統計的解析等を行う。駆動部状態判定部130は、周波数解析を行う場合には、例えばフーリエ変換等の公知の解析手法を用いればよい。また、統計的な解析を行う場合には、それぞれの回転速度で主軸を回転させた際に計測された値について平均、分散、標準偏差、歪度、尖度等の公知の統計量を算出して解析すれば良い。駆動部状態判定部130は、このようにして解析されたスピンドルモータ62の動作状態に係る情報と、正常時駆動部情報記憶部230に記憶されている情報とに基づいて、スピンドルモータ62の動作状態が正常時のものであるか否かを解析する。
【0026】
駆動部状態判定部130は、例えば主軸が正常に動作している状態で取得された主軸の動作状態に係る情報と、駆動部情報取得部120が取得したスピンドルモータ62の動作状態に係る情報との類似性に基づいて、スピンドルモータ62の動作状態が正常時のものであるか否かを解析するようにしても良い。駆動部状態判定部130は、類似性が所定の閾値以上である場合に、主軸の状態が正常であると判定できる。主軸の動作状態に係る情報に基づいてスピンドルモータ62の動作状態の正常/異常を判断する場合には、正常時駆動部情報記憶部230には、予め主軸が正常に動作している状態で取得されたスピンドルモータ62の動作状態に係る情報(周波数分布や各統計量等)を記憶しておく。
【0027】
図5に、正常時のスピンドルモータ62の動作状態に係る情報(トルクコマンド)の周波数分布の例を示す。また、図6に、微小な切粉等が噛み込んだ状態でのスピンドルモータ62の動作状態に係る情報(トルクコマンド)の周波数分布の例を示す。
図6に示されるように、微小な切粉等が噛み込んだ状態で動作させたスピンドルモータ62は共振点に変化が生じ、その動作状態に係る情報の主要な周波数成分は正常時のものと比べると異なる。そこで、周波数分布の類似性は、例えば成分が大きい所定数の周波数について、それぞれの周波数における振幅の差分二乗和が所定の閾値以下である場合に類似と判断するようにしても良い。また、一般的な周波数分布の類似度を算出するアルゴリズムを用いて類似度を算出し、算出された値に基づいて類似の判断をしてもよい。
【0028】
図7に、正常時(正常A及びB)と異常時(切粉あり)において、スピンドルモータ62を複数の回転速度で段階的に動作させた場合に検出された動作状態に係る情報(トルクコマンド)について、それぞれの回転速度で平均値等の統計量を算出した例を示す。
図7に示されるように、正常時には、それぞれの回転速度における統計量は類似した値と変化傾向を取る。しかしながら、異常時においては正常時とは異なる値または変化傾向を取ることが実験により観測されている。例えば、分散値や標準偏差に着目すると、異常時には正常時に見られないピーク(図中白抜き矢印の部分)が表れる。駆動部をただ単に動作させただけでは微小な切粉が噛み込みの検出は困難である。しかしながら、複数の回転速度で段階的に動作させ、それぞれの回転速度で統計量を算出し、正常時における各回転速度での統計量と比較することで、容易に異常(切粉の噛み込み)を検出することができるようになる。
【0029】
この時、正常時駆動部情報記憶部230には、主軸が正常に動作している状態で取得されたスピンドルモータ62の動作状態に係る情報の典型的なサンプルを複数記憶しておくようにしてもよい。また、正常時駆動部情報記憶部230には、異なる工具を取り付けた場合のそれぞれのスピンドルモータ62の動作状態に係る情報を記憶しておいてもよい。同じ正常時であっても、環境や主軸乃至工具への付着物、工具の種類などによって、スピンドルモータ62の動作状態に係る情報が異なる場合があるが、いくつかの動作状態に係る情報のサンプルを予め記憶しておくことで、いずれかのサンプルに類似した動作状態に係る情報が得られれば、駆動部状態判定部130は主軸の状態が正常であると判定できる。
【0030】
駆動部状態判定部130は、例えば主軸が正常に動作している状態で取得された主軸の動作状態に係る情報(周波数分布や統計量等)を機械学習し、その機械学習をして得られた学習モデルと、駆動部情報取得部120が取得したスピンドルモータ62の動作状態に係る情報(周波数分布や統計量等)とに基づいて、スピンドルモータ62の動作状態が正常時のものであるか否かを解析するようにしても良い。この場合には、正常時駆動部情報記憶部230には、予め主軸が正常に動作している状態で取得されたスピンドルモータ62の動作状態に係る情報を学習した学習モデルを記憶しておく。学習モデルは、例えば正常時のスピンドルモータ62の動作状態に係る情報を教師なし学習したクラスタ集合や自己符号化器であって良い。また、学習モデルは、例えば正常時のスピンドルモータ62の動作状態に係る情報と、異常時のスピンドルモータ62の動作状態に係る情報とを用いて教師あり学習したニューラルネットワークやサポートベクタマシン等であっても良い。例えば、クラスタ集合を用いる場合、正常時駆動部情報記憶部230に記憶されるクラスタ集合と、駆動部情報取得部120が取得したスピンドルモータ62の動作状態に係る情報の距離が所定の閾値内に収まる場合に、駆動部状態判定部130は主軸の状態が正常であると判定できる。自己符号化器やニューラルネットワーク、サポートベクタマシンを用いた場合も同様に、算出された値と所定の閾値を比較し、その乖離度合いから正常であるか否かを判定することができる。
【0031】
通知部140は、図1に示した異常検知装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理と、インタフェース18等をも用いた入出力処理とが行われることで実現される。
通知部140は、駆動部状態判定部130が主軸の状態が正常であると判定しなかった場合、すなわち主軸の状態が異常であると判定した場合に、所定の通知を各部に対して行う。通知部140は、主軸の状態が正常であると判定されなかった場合に、例えば、主軸に異物が噛み込んでいる旨を表示装置70に表示しても良いし、主軸に異物が噛み込んでいる旨を示す警報を発しても良いし、制御部110に機械停止信号を出力するようにしても良いし、さらには図示しないネットワークを介して上位の管理装置(フォグコンピュータやクラウドサーバ等)に主軸に異物が噛み込んでいる旨を示すメッセージを送信しても良い。
【0032】
上記構成を備えた本実施形態による異常検知装置1は、スピンドルモータ62の動作状態に係る情報を解析することで、微小な異物が主軸に噛み込んだ場合であっても高い精度で検知することが可能となる。主軸の異常を診断するための診断モードにおいては、所定の複数の回転数において主軸を回転させる検知動作を行うが、その複数の回転数において所定時間だけ回転を維持することで、共振点のずれや統計量の変化を検出しやすくすることができる。また、動作状態に係る情報の周波数分布や各回転速度における統計量の変化に基づいて正常時との違いを分析することで、時系列データをそのまま解析するだけでは検知しにくい微小な変化を検知することが可能となる。
【0033】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態の例のみに限定されることなく、適宜の変更を加えることにより様々な態様で実施することができる。
例えば上記した実施形態では、主軸を駆動するスピンドルモータ62の動作状態に係る情報を解析することで正常時との違い検知し、微小な異物が主軸に噛み込む等の微小な変化を検知しているが、主軸を移動させる送り軸やボールねじナットを駆動するサーボモータ50の動作状態に係る情報に対して同様の検知方法を適用しても良い。これにより、主軸を移動させる送り軸の案内面と駆動部の間に微小な切粉や金属粉等が入り込んで出てこない場合や、主軸を移動させるボールねじナットの溝に微小な切粉や金属粉等が噛み込んでいる場合等、工作機械の電動機で駆動される駆動部に微小な異物が入り込んだ場合にも微小な変化を検知することが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1 異常検知装置
2 工作機械
11 CPU
12 ROM
13 RAM
14 不揮発性メモリ
15,18,19 インタフェース
16 PLC
17 I/Oユニット
22 バス
30 軸制御回路
40 サーボアンプ
50 サーボモータ
60 スピンドル制御回路
61 スピンドルアンプ
62 スピンドルモータ
63 ポジションコーダ
70 表示装置
71 入力装置
72 外部機器
110 制御部
120 駆動部情報取得部
130 駆動部状態判定部
140 通知部
210 NCプログラム
220 駆動部情報記憶部
230 正常時駆動部情報記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7