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特許7708843炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法
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  • 特許-炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法 図1
  • 特許-炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20250708BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250708BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20250708BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
H01M4/36 C
H01M4/58
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023215082
(22)【出願日】2023-12-20
(65)【公開番号】P2024098959
(43)【公開日】2024-07-24
【審査請求日】2024-02-05
(31)【優先権主張番号】112101114
(32)【優先日】2023-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】517232729
【氏名又は名称】台湾立凱電能科技股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Advanced Lithium Electrochemistry Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No. 2-1, Singhua Rd., Taoyuan Dist., Taoyuan City,330,Taiwan,
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】王雅慧
(72)【発明者】
【氏名】蔡鋒諺
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-535803(JP,A)
【文献】国際公開第2009/131095(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103730657(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113097455(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00 - 25/46
H01M 4/00 - 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法であって、
第1スラリーと、リチウム源と、第1炭素重量を有する第1炭素源とを提供するステップ(a)であって、前記第1スラリーは、鉄源とリン源とで形成され、前記リチウム源、前記鉄源および前記リン源は、前記炭素被覆リン酸鉄リチウム材料のコアを構成し、且つ前記第1炭素重量が投入値に等しい、ステップ(a)と、
前記第1炭素源と、前記リチウム源と、前記第1スラリーとを混合して粉砕し、第2スラリーを形成する、ステップ(b)と、
前記第2スラリーの炭素含有量を分析して損耗量を求めるステップ(c)であって、前記損耗量が前記投入値よりも小さく且つ0よりも大きい、ステップ(c)と、
第2炭素重量を有する第2炭素源を前記第2スラリーに添加して第3スラリーを形成するステップ(d)であって、前記第2炭素重量が前記損耗量に等しい、ステップ(d)と、
前記第3スラリーを乾燥・焼結させ、前記炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を形成するステップ(e)であって、前記炭素被覆リン酸鉄リチウム材料は、コアを被覆する炭素被覆層を備え、前記炭素被覆層は、前記第1炭素源と前記第2炭素源とで構成される、ステップ(e)とを含むことを特徴とする炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項2】
前記第1炭素源が水溶性糖類である、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項3】
前記炭素含有量が糖度計を用いて分析される、ことを特徴とする請求項2に記載の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項4】
前記炭素含有量の分析は、サンプルに対して行い、前記サンプルは、前記第2スラリーから採取されるものである、ことを特徴とする請求項3に記載の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項5】
前記サンプルは凝集剤を含む、ことを特徴とする請求項4に記載の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項6】
前記第1炭素源、前記リチウム源、および前記第1スラリーは、ボールミル法で粉砕する、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項7】
前記第3スラリーは、噴霧乾燥方法で乾燥する、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項8】
前記第3スラリーは、非酸化雰囲気下で焼結する、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項9】
前記第3スラリーは、550℃~750℃の焼結温度で焼結する、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項10】
前記炭素被覆リン酸鉄リチウム材料は、第3重量および炭素重量含有率を有し、前記炭素重量含有率は、目標値を前記第3重量の数値で割ったもので、前記目標値は、前記投入値の40%~70%である、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項11】
前記炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の前記炭素重量含有率は1.0%~1.6%である、ことを特徴とする請求項10に記載の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項12】
前記損耗量が前記投入値の30%以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法に関し、特に、スラリー炭素含有量を即時検出するための炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、良好なサイクル充放電特性および高いエネルギー密度により、エネルギー貯蔵の分野で広く使用されている。中でも、リン酸鉄リチウム(LiFePO)を正極材料に用いたリチウムイオン電池は、材料コストが安く、安全性が高いという特徴があり、開発の潜在力を持つ電池として注目されている。しかしながら、リン酸鉄リチウムのオリビン構造により、リチウムイオンの拡散性と電子伝導性が低く、リン酸鉄リチウムの応用が制限される。
【0003】
上記の欠点を考慮して、現在の産業のほとんどは、性能を改善するために、リン酸鉄リチウムを炭素コーティング(被覆)する。炭素コーティング工程では、リチウム含有スラリーがアルカリ性であり且つ粉砕工程により温度が上昇するため、炭素源がこのアルカリ性かつ高温の環境下で容易に酸化、分解され、最終的に形成された炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素含有量が減少する。よって、従来の炭素コーティング工程では、炭素含有量が要件を満たしているかどうかを確認するために、燃焼方法により炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素含有量を分析する。しかし、このようにして検出された炭素含有量が要件を満たさない場合、焼結により形成された炭素被覆リン酸鉄リチウム材料もうすでに調整することはできず、廃棄して新しい原料で再生産することしかできない。したがって、従来の炭素コーティング工程では、製品の品質が安定せず、コストの増加や時間の無駄が発生しやすくなる。
【0004】
このような事情に鑑みてなされたものであり、本発明では、製品の品質の安定性を確保しながら、コストと時間の無駄を削減するために、スラリー炭素含有量を即時検出できる炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、スラリー炭素含有量を即時検出できる炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法を提供することであり、製品の品質の安定性を確保しながら、コストの低減と製造時間の短縮を実現する。まず、第1スラリーと、水溶性糖類などの第1炭素源(材料)と、リチウム源(材料)とを混合して第2スラリーを形成する。第1スラリーは、鉄源(材料)とリン源(材料)とで形成され、且つ第1炭素源(材料)は、投入値に等しい第1重量を有する。次に、第2スラリーをサンプリング(標本抽出)し、サンプルの炭素含有量を糖度計などで分析して損耗量を求める。次に、水溶性糖類などの第2炭素源(材料)を第2スラリーに添加して第3スラリーを形成し、ここで、第2炭素源(材料)は、損耗量に等しい第2重量を有する。最後に、第3スラリーを乾燥・焼結させて炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を形成する。スラリーの乾燥および焼結の前に、スラリーの炭素含有量を分析することで、測定された炭素含有量が要件を満たさない場合、損耗量に応じて第2炭素源(材料)を添加することができ、製品の品質の安定性を確保するとともに、製品が要件を満たさないための再生産の必要性による余分なコストと時間の無駄を削減することができる。燃焼により炭素量分析を行う従来の元素分析装置と比較して、糖度計は液体スラリーの炭素含有量に適しているだけでなく、検出値を迅速に得ることができるので、サンプリング分析から検出値を得るまでの時間を短縮し、分析コストを削減することができ、炭素源(材料)の酸化と分解によって引き起こされる炭素含有量の減少を防ぐことができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明は、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法を提供する。炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法は、第1スラリーと、リチウム源と、第1重量を有する第1炭素源とを提供するステップ(a)であって、第1スラリーは、鉄源とリン源とで形成され、リチウム源、鉄源およびリン源は、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料のコア層を構成し、且つ第1重量が投入値に等しい、ステップ(a)と、第1炭素源と、リチウム源と、第1スラリーとを混合して粉砕し、第2スラリーを形成する、ステップ(b)と、第2スラリーの炭素含有量を分析して損耗量を求めるステップ(c)であって、損耗量が投入値よりも小さく且つ0よりも大きい、ステップ(c)と、第2重量を有する第2炭素源を第2スラリーに添加して第3スラリーを形成するステップ(d)であって、第2重量が損耗量に等しい、ステップ(d)と、第3スラリーを乾燥・焼結させ、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を形成するステップ(e)であって、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料は、コア層を被覆する炭素被覆層を備え、炭素被覆層は、第1炭素源と第2炭素源とで構成される、ステップ(e)とを含む。
【0007】
ある実施形態では、第1炭素源が水溶性糖類である。
【0008】
ある実施形態では、炭素含有量が糖度計を用いて分析する。
【0009】
ある実施形態では、炭素含有量の分析は、サンプルに対して行い、サンプルは、第2スラリーから採取される。
【0010】
ある実施形態では、サンプルは凝集剤を含む。
【0011】
ある実施形態では、炭素源、前記リチウム源、および第1スラリーは、ボールミル法で粉砕する。
【0012】
ある実施形態では、第3スラリーが噴霧乾燥方法で乾燥する。
【0013】
ある実施形態では、第3スラリーが非酸化雰囲気下で焼結する。
【0014】
ある実施形態では、第3スラリーが550℃~750℃の焼結温度で焼結する。
【0015】
ある実施形態では、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料は、第3重量および炭素重量含有率を有し、炭素重量含有率は、目標値を第3重量の数値で割ったもので、目標値は、投入値の40%~70%である。
【0016】
ある実施形態では、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素重量含有率は1.0%~1.6%である。
【0017】
ある実施形態では、損耗量が投入値の30%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態における炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法のフローチャートである。
図2】本発明の実施形態におけるスラリーの糖度-炭素重量含有率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の特徴と利点を示すいくつかの典型的な実施形態について、後述の説明において詳細に記述する。本発明は異なる態様において様々な変更を加えることができ、いずれも本発明の範囲から逸脱することなく、かつその説明及び図面は本質的に説明するために用いられものであり、本発明を限定する意図はないことを理解されたい。本発明の広い範囲の数値範囲およびパラメータはいずれも近似値であるが、具体的な場合には可能な限り正確に数値を記載している。「第1」、「第2」、「第3」などの用語は、特許請求の範囲において異なる構成要素を記述するために用いられることができるが、これらの構成要素はこれらの用語によって限定されるべきではなく、実施形態において記述されたこれらの構成要素は異なる構成要素記号によって示されることを理解されたい。これらの用語は、異なる構成要素を区別するためのものである。例えば、第1構成要素は第2構成要素と称されることができ、同様に、第2構成要素も第1構成要素と称されることができ、実施形態の範囲から逸脱することがない。また、明細書の用語「および/または」とは、1つまたは複数の関連特徴のいずれ1つまたはその組合せを意味している。また、「約」という用語は、当業者によって一般に受け入れられる標準誤差範囲内の平均値を指す。操作/動作に関する実施形態において明確に定義しない限り、本明細書に記載されているすべての数値範囲、量、数値およびパーセントなど(例えば、角度、維持時間、温度、操作条件、割合及びそれに相当するパーセントなど)はいずれも、すべての実施形態において用語の「約」または「実質的に」に理解すべきである。内容に記載されない限り、本発明及び特許請求の範囲の数値はいずれも、必要に応じて変化しえる近似値に取ることができる。例えば、各パラメータは、少なくとも記載されている有効桁数に照らして、通常の丸めの原則を適用して解釈しても良い。また、本明細書での数値範囲は、一方の端点から他方の端点まで、または2つの端点の間の範囲として表することができる。本明細書に記載されているすべての範囲は、特に定義されていない限り、端点を含むことを留意されたい。
【0020】
図1および図2を参照されたい。図1は、本発明の実施形態における炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法のフローチャートである。図2は、本発明の実施形態におけるスラリーの糖度-炭素重量含有率(炭素含有の重量パーセント)を示す図である。本実施形態では、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法は、以下のステップを含む。まず、ステップS1に示すように、第1スラリーと、第1重量(質量)を有する第1炭素源とリチウム源とを提供(用意)する。前記第1スラリーは、鉄源およびリン源から形成され、リチウム源と鉄源とリン源は、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料のコア層を形成するように配合されたもので構成され、且つ第1重量は投入値と等しい。本実施形態では、鉄源は、例えば、鉄粉であり、リン源は、例えば、リン酸(HPO)であり、第1スラリーは、例えば、鉄粉とリン酸水溶液とを反応させることにより形成する。より安定な第1スラリーを形成するには、反応時間は、例えば、17時間~24時間である。本実施形態では、第1炭素源は、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、マルトースまたはラクトースなどの水溶性糖類が挙げられるが、本発明はこれに限定されない。リチウム源は、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、硝酸リチウム(LiNO)または塩化リチウム(LiCl)などのリチウム塩が挙げられるが、本発明はこれに限定されない。なお、リチウム源は、例えば、複数の異なるリチウム塩の組合せでもよく、本発明はこれに限定されない。本実施形態では、目標値は、本発明の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料に含まれる炭素重量であり、且つ炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の目標重量と目標炭素重量含有率から換算することができる。目標値は、例えば、投入値の40%~70%であり、投入値に対する目標値の比率は、異なる焼結過程によって決める。本実施形態では、目標値は、好ましくは、投入値の50%である。ある実施形態では、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の重量は、例えば、1000gであり、目標炭素重量含有率は、例えば、1.0%であり、目標値が投入値の50%である。計算により、目標値は10g、投入値および第1重量が20gであることが分かる。
【0021】
ステップS2に示すように、第1炭素源とリチウム源と第1スラリーとを混合して粉砕し、第2スラリーを形成する。本実施形態では、第1炭素源とリチウム源と第1スラリーは、例えば、ボールミル法で9時間~12時間粉砕し、第2スラリーを形成する。第2スラリーのメジアン粒子径(D50)は、例えば、1.0μmである。なお、本発明の粉砕条件および第2スラリーのメジアン粒子径(D50)はこれに限定されず、実際の需要に応じて変更することができる。また、ステップS1で第1重量を有する第1炭素源を添加し、ステップS2で第1炭素源とリチウム源と第1スラリーとを混合して粉砕することで、第1炭素源をリン酸鉄チリ有無材料の前駆体間に均一に分散させることができる。
【0022】
ステップS3に示すように、第2スラリーの炭素含有量を分析して損耗量を取得し、損耗量は、投入値より小さく且つゼロより大きい。損耗量は投入値の30%以下であることが好ましい。本実施形態では、炭素含有量分析は、第2スラリーをサンプリングしてサンプルを取得し(第2スラリーからサンプルを取る)、糖度計でそのサンプルの糖度値を測定する。ある実施形態では、サンプルは、例えば、凝集剤を用いて最初に清澄化され得る。スラリーの糖度と炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素重量含有率の対応関係は図2に示す。糖度と炭素重量含有率のデータを回帰分析すると、以下の回帰直線式(1)が得られる。
y = 0.4523x - 1.1487 (1)
【0023】
回帰直線式(1)では、xは糖度(°Bx)であり、yは炭素重量含有率(%)であり、両者間の決定係数(coefficient of determination, R)は0.8311である。言い換えれば、スラリーの糖度と炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素重量含有率との間の相関係数(correlation coefficient, R)は0.9117であり、両者の間には高い正の相関関係がある。本実施形態では、損耗量は、前工程における酸化分解による第1炭素源の重量損失であり、すなわち、投入値から第2スラリーに含まれる炭素重量を差し引いた値である。第2スラリーに含まれる炭素重量は、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の重量、第2スラリーのサンプルから測定した糖度値、および投入値に対する目標値の比を用いて計算することができる。本実施形態では、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の重量は例えば1000gであり、目標炭素重量含有率は1.0%であり、目標値は10gであり、投入値は20gであり、且つ第2スラリーのサンプルより測定された糖度値は例えば4.53°Bxである。前述した回帰直線式(1)を用いて換算すると、第2スラリーから形成される炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素重量含有率は0.9%であることが分かる。炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の重量および投入値に対する目標値の比(50%)を用いて換算すると、当前の第2スラリーにおける炭素重量は18gであることが分かる。最後、20gの投入値から18gの第2スラリー中の炭素重量を差し引くと、損耗量は2gであることが分かる。なお、本発明に使用する糖度および炭素重量含有率を換算する方法は、前述した回帰直線式(1)に限定されず、より多くデータまたは異なる統計分析方法に基づいて最適化、調整することができる。本実施形態では、糖度計の分解能は0.04°Bxである。したがって、前述した回帰直線式(1)を用いて検出できる炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素含有量損耗量の分解能は0.02%未満であり、前工程での酸化分解により損失した第1炭素源の重量を効率的且つ正確に検出することができる。なお、本発明はこれに限定されない。
【0024】
ステップS4に示すように、第2重量の第2炭素源(第2重量を有する第2炭素源)を第2スラリーに添加して第3スラリーを形成し、第2重量は損耗量に等しい。本実施形態では、損耗量は投入値の30%以下であることが好ましい。損耗量が多いほど、ステップS4に添加される第2スラリーの第2重量の第2炭素源を多く添加する。この場合、第2炭素源が均一に分散して第3スラリーを形成するために、追加の混合分散時間を長くする必要があるが、第2炭素源が混合過程において酸化分解する問題が生じる。本実施形態では、損耗量は投入値の30%以下であるため、追加の混合および分離時間をあまり長くする必要がないので、第2炭素源と第2スラリーとを均一に混合して第3スラリーを形成することができる。もちろん、本発明はこれに限定されない。本実施形態では、損耗量は例えば0.5gであるため、0.5gの第2重量を有する第2炭素源を第2スラリーに添加して混合する。第2スラリーを乾燥・焼結する前に、炭素含有量を分析し、測定された炭素含有量が要件を満たさない場合、損耗量に応じて第2炭素源の添加を行い、製品の品質の安定性を確保し、製品が基準を満たさないことによる再生産の必要性、追加のコスト、および時間の無駄を低減することができる。また、糖度計は、液相のスラリー中の炭素含有量を分析に適しているだけでなく、検出値が迅速に得られるため、サンプリング分析から検出値が得られるまでの時間が短縮され、酸化分解による炭素源の炭素含有量の減少も軽減される。また、サンプルに凝集剤を添加して清澄処理することにより、糖度計の検出精度も向上する。
【0025】
ステップS5に示すように、第3スラリーを乾燥および焼結して炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を形成する。炭素被覆リン酸鉄リチウム材料は、コア層を被覆する炭素被覆層を更に備え、炭素被覆層は、第1炭素源と第2炭素源とで構成される。本実施形態では、前工程のステップの生成物は、例えば、噴霧乾燥方法によって乾燥され、且つ非酸化雰囲気中で550℃~750℃の温度で7時間~15時間焼結する。炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素重量含有率は例えば1.0%~1.6%である。なお、本発明の乾燥方法、焼結条件および炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素重量含有率はこれに限定されず、実際の需要に応じて調整することができる。
【0026】
以下、実施例を参照しながら、本発明の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法を説明する。
【0027】
実施例:
【0028】
第1スラリー、第1炭素源およびリチウム源を提供する。第1スラリーは5585gの鉄粉、11526gの85%リン酸水溶液および40Lの脱イオン水をバレル内で20時間反応させることによって形成される。本実施例では、炭素被覆の炭酸リチウム鉄材料の目標重量は1578gであり、目標炭素重量含有率は1.4%であり、目標値は投入値の50%である。これにより計算すると、目標値は22.1g、投入値および第1重量は44.2gであることが分かる。本実施例の第1炭素源はグルコースであり、分子中の炭素原子の質量比は40%であるため、44.2gの第1重量を満たすために、110.5gのグルコースを提供する。リチウム源は、1197gの水酸化リチウム第1(LiOH)および1847gの炭酸リチウム(LiCO)である。5585gの鉄粉は100モルの鉄を含有し、11526gの85%リン酸水溶液は100モルのリンを含有し、1197gの水酸化リチウムおよび1847gの炭酸リチウムは100モルのリチウムを含有し、これによって、100モルのリン酸鉄リチウム(LiFePO)を生成することができる。
【0029】
110.5gのグルコース、1197gの水酸化リチウムおよび1847gの炭酸リチウムを、撹拌中の第1スラリーにそれぞれ添加して反応させ、ボールミル法により粉砕して第2スラリーを形成した。第2スラリーのメジアン粒子径は1.0μmである。
【0030】
第2スラリーをサンプリングしてサンプルを得る。清澄化のためにサンプルに凝集剤を添加し、清澄化されたサンプルを糖度計で検測し、5.10°Bxの糖度値を検出した。前述した回帰直線式(1)を用いて換算すると、第2スラリーで形成された炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素重量含有率は1.16%である。炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の目標重量1578gおよび投入値に対する目標値の比(50%)を用いて換算すると、当前の第2スラリー中の炭素重量は36.6gであることが分かる。本実施例の投入値は44.2gであるため、損耗量は7.6gである。
【0031】
次に、第2重量を有する第2炭素源を第2スラリーに添加して第3スラリーを形成し、第2重量は7.6gの損耗量に等しい。本実施例の第2炭素源はグルコースであり、分子中の炭素原子の質量比は40%であるため、7.6gの第2重量を満たすために、19gのグルコースを提供する必要がある。19gのグルコースは、第2スラリーとより迅速に混合するために、脱イオン水を添加してグルコース水溶液を形成する方法で第2スラリーに添加する。
【0032】
最後、前工程のステップの生成物を乾燥および焼結し、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を形成する。前工程のステップの生成物は、噴霧乾燥方法によって乾燥され、且つ窒素雰囲気中で550℃~750℃の温度で10時間焼結して炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を形成した。実施例の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料について、元素分析装置を用いて元素分析を行ったところ、炭素重量含有率は1.4%であった。
【0033】
上述したように、本発明は、スラリー炭素含有量を即時検出できる炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法を提供し、製品の品質の安定性を確保しながら、コストの低減と製造時間の短縮を実現することができる。まず、第1スラリーと、水溶性糖類などの第1炭素源と、リチウム源とを混合して第2スラリーを形成する。第1スラリーは、鉄源とリン源とで形成され、且つ第1炭素源は、投入値に等しい第1重量を有する。次に、第2スラリーをサンプリングし、サンプルの炭素含有量を糖度計などで分析して、損耗量を求める。次に、水溶性糖類などの第2炭素源を第2スラリーに添加して第3スラリーを形成し、ここで、第2炭素源は、損耗量に等しい第2重量を有する。最後に、第3スラリーを乾燥・焼結させて炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を形成する。スラリーの乾燥および焼結の前に、スラリーの炭素含有量を分析することで、測定された炭素含有量が要件を満たさない場合、損耗量に応じて第2炭素源を添加することができ、製品の品質の安定性を確保するとともに、製品が要件を満たさないための再生産の必要性による余分なコストと時間の無駄を削減することができる。燃焼により炭素量分析を行う従来の元素分析装置と比較して、糖度計は液体スラリーの炭素含有量に適しているだけでなく、検出値を迅速に得ることができ、サンプリング分析から検出値を得るまでの時間を短縮し、分析コストを削減することができるので、炭素源の酸化と分解によって引き起こされる炭素含有量の減少を防ぐことができる。
【0034】
本発明は、当業者なら様々な修正を加えることができるが、特許請求の範囲によって定義される範囲から逸脱することはない。
【符号の説明】
【0035】
S1、S2、S3、S4、S5:ステップ
図1
図2