(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】ノンアルコールビール様飲料およびノンアルコールビール様飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/56 20060101AFI20250708BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20250708BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20250708BHJP
C12C 5/02 20060101ALI20250708BHJP
C12C 12/04 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
A23L2/56
A23L2/38 103A
A23L2/00 B
A23L2/00 H
C12C5/02
C12C12/04
(21)【出願番号】P 2024153348
(22)【出願日】2024-09-05
【審査請求日】2024-09-17
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】金沢 孟紀
(72)【発明者】
【氏名】青野 一志
【審査官】齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-027309(JP,A)
【文献】Jens Laaks et.al,In-Tube Extraction-GC-MS as a High-Capacity Enrichment Technique for the Analysis of Alcoholic Beverages,Journal of Agricultural and Food Chemistry,2014年,62,3081-3091
【文献】Peter Vastik et.al,Novel Saccharomyces cerevisiae × Saccharomyces mikatae Hybrids for Non-alcoholic Beer Production,Fermentation,2023年02月25日,9,221
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/56
A23L 2/00
C12C 5/02
C12C 12/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3.0~4.3のLogPを有する高疎水性香気成分を含み、29~43mg/100mlの全窒素量とを有する、ノンアルコールビール様飲料であって、
更に4.9以下のpHを有し、
前記高疎水性香気成分は、ミルセン、β-イオノン、リナロール、シトロネロール及びゲラニオールから成る群から選択される少なくとも一種のテルペン系化合物とエステル系化合物とを含み、
前記テルペン系化合物はリナロール
、ミルセン
及びシトロネロールを含み、前記エステル系化合物はオクタン酸エチルを含み、
リナロール濃度が
15~50ppbであ
り、
リナロール、ミルセン、シトロネロール及びオクタン酸エチル合計濃度が84.6~400ppbであ
る、ノンアルコールビール様飲料。
【請求項2】
アルコール濃度が0.04v/v%未満である、請求項1に記載のノンアルコールビール様飲料。
【請求項3】
1~10w/w%の外観エキス濃度を有する、請求項1に記載のノンアルコールビール様飲料。
【請求項4】
脱アルコール麦汁発酵液を含む、請求項1に記載のノンアルコールビール様飲料。
【請求項5】
80w/w%以下の麦芽比率を有する、請求項4に記載のノンアルコールビール様飲料。
【請求項6】
麦汁発酵液は10w/w%以上の原麦汁エキス濃度を有する、請求項4に記載のノンアルコールビール様飲料。
【請求項7】
麦汁発酵液は90%以下の外観最終発酵度を有する、請求項4に記載のノンアルコールビール様飲料。
【請求項8】
トランス-2-ノネナールを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のノンアルコールビール様飲料。
【請求項9】
3.0~4.3のLogPを有する高疎水性香気成分を含有させること;及び
全窒素量を29~43mg/100mlに調節すること;
を含む、ノンアルコールビール様飲料の製造方法であって
更にpHを4.9以下に調整すること
を含み、
前記高疎水性香気成分は、ミルセン、β-イオノン、リナロール、シトロネロール及びゲラニオールから成る群から選択される少なくとも一種のテルペン系化合物とエステル系化合物とを含み、
前記テルペン系化合物はリナロール
、ミルセン
及びシトロネロールを含み、前記エステル系化合物はオクタン酸エチルを含み、
リナロール濃度が
15~50ppbであ
り、
リナロール、ミルセン、シトロネロール及びオクタン酸エチル合計濃度
が84.6~400ppb
である、ノンアルコールビール様飲料の製造方法。
【請求項10】
3.0~4.3のLogPを有する高疎水性香気成分を含有させること;及び
全窒素量を29~43mg/100mlに調節すること;
を含む、ノンアルコールビール様飲料のビールらしいコクの持続期間を延長する方法であって
更にpHを4.9以下に調整すること
を含み、
前記高疎水性香気成分は、ミルセン、β-イオノン、リナロール、シトロネロール及びゲラニオールから成る群から選択される少なくとも一種のテルペン系化合物とエステル系化合物とを含み、
前記テルペン系化合物はリナロール
、ミルセン
及びシトロネロールを含み、前記エステル系化合物はオクタン酸エチルを含み、
リナロール濃度が
15~50ppbであ
り、
リナロール、ミルセン、シトロネロール及びオクタン酸エチル合計濃度
が84.6~400ppb
である、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンアルコールビール様飲料に関し、特に1v/v%未満のアルコール濃度を有する、ノンアルコールビール様飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
酔うことがなく安全性に優れ、健康に対する影響が軽いという理由から、ノンアルコールビール様飲料が注目されている。ノンアルコールビール様飲料とは、アルコール度数が「1%未満」のビール様飲料をいう。
【0003】
ビールとは、麦芽、ホップ、及び水を原料として、これらを、酵母を用いて発酵させて得られる飲料をいう。ビール様飲料は、味及び香りがビールと同様になるように設計された飲料をいう。ビール様飲料は発酵させたものであっても、発酵させないものであってもよい。発泡酒、及び麦芽由来の糖液、ホップ、香料及び炭酸ガス等を混合させた飲料はビール様飲料に含まれる。
【0004】
特許文献1には、苦味価が5未満、総ポリフェノール量が30mg/L以上、総ポリフェノール量(mg/L)に対する全窒素量(mg/L)の比が0.1超3.0以下である、ビールテイスト飲料が記載されている。特許文献1のビールテイスト飲料はアルコール度数が1v/v%以上であるビールテイストアルコール飲料であってもよく、アルコール度数が1v/v%未満であるノンアルコールビールテイスト飲料であってもよいものである。このビールテイスト飲料では、全窒素量は、ビールらしいコクがより一層良好になるという観点から所定の量に調整されている。
【0005】
特許文献2には、ビール等の麦芽飲料は、製造してから時間が経つにしたがって酸化し、酸化劣化臭あるいは老化臭、老化味と呼ばれる不快な香り及び味感を生成する問題を有し、その問題の解決手段として、3-メチル-2-ブテン―1-チオール等の含硫化合物を含有させて、かかる不快な香味を減感することが記載されている。
【0006】
特許文献3には、炭酸飲料の香気成分の中で、LogPが3以上という疎水性が高いものの割合を減らすことで、容器詰め炭酸飲料を開栓したときに噴出する程度が低減されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-92516号公報
【文献】特開2018-174756号公報
【文献】特開2022-66506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ノンアルコールビール様飲料は、特に、麦汁をアルコール発酵させる工程及び麦汁発酵液を脱アルコールする工程を経て製造されたものである場合、アルコール分が持つ香気及び甘味が除かれ、その結果、官能面では、香気、甘味、コク及びキレが減少している。その結果、脂質等が少し酸化劣化しただけでも、ビールらしいコクが損なわれてしまうという問題がある。
【0009】
特許文献1には、ビールテイスト飲料の全窒素量を調整することで、ビールらしいコクが良好になることは記載されているが、良好な特性を維持する必要性及び手段については記載されていない。また、特許文献1には、麦汁発酵液を脱アルコールする工程を経て製造される、ノンアルコールビール様飲料は記載されていない。特許文献2及び3にはノンアルコールビール様飲料が記載されておらず、酸化劣化臭がビールらしいコクを損なうことも記載されていない。
【0010】
本発明は、前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、ビールらしいコクの持続期間が長いノンアルコールビール様飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の態様を提供する。
[1]3.0~4.3、好ましくは3.0~3.8のLogPを有する高疎水性香気成分を含み、10~50mg/100ml、好ましくは29~43mg/100ml、より好ましくは30~42mg/100ml、更に好ましくは32~40mg/100mlの全窒素量を有する、ノンアルコールビール様飲料。
【0012】
[2]前記高疎水性香気成分を400ppb以下、好ましくは10~200ppb、より好ましくは30~150ppb、更に好ましくは50~130ppb、更に好ましくは60~125ppb、更に好ましくは70~110ppbの濃度で含む、[1]のノンアルコールビール様飲料。
【0013】
[3]前記高疎水性香気成分はテルペン系化合物とエステル系化合物とを含む、[1]又は[2]のノンアルコールビール様飲料。
【0014】
[4]前記テルペン系化合物はリナロール及びミルセンから成る群から選択される少なくとも一種を含み、前記エステル系化合物はオクタン酸エチルを含む、[3]のノンアルコールビール様飲料。
【0015】
[5]アルコール濃度が0.04v/v%未満である、[1]~[4]のいずれかのノンアルコールビール様飲料。
【0016】
[6]1~10w/w%、好ましくは2~9w/w%、更に好ましくは4~9w/w%、更に好ましくは5~9w/w%の外観エキス濃度を有する、[1]~[5]のいずれかのノンアルコールビール様飲料。
【0017】
[7]4.9以下、好ましくは3.8~4.8、更に好ましくは4.0~4.6のpHを有する、[1]~[6]のいずれかのノンアルコールビール様飲料。
【0018】
[8]脱アルコール麦汁発酵液を含む、[1]~[7]のいずれかのノンアルコールビール様飲料。
【0019】
[9]麦汁発酵液は80w/w%以下、好ましくは50~80w/w%の麦芽比率を有する、[8]のノンアルコールビール様飲料。
【0020】
[10]麦汁発酵液は10w/w%以上、好ましくは10~18w/w%、より好ましくは11~17w/w%、更に好ましくは11.5~16.5w/w%、更に好ましくは12~15.5w/w%の原麦汁エキス濃度を有する、[8]又は[9]のノンアルコールビール様飲料。
【0021】
[11]麦汁発酵液は90%以下、好ましくは35~90%、より好ましくは40~60%の外観最終発酵度を有する、[8]~[10]のいずれかのノンアルコールビール様飲料。
【0022】
[12]3.0~4.3、好ましくは3.0~3.8のLogPを有する高疎水性香気成分を含有させること;及び
全窒素量を10~50mg/100ml、好ましくは29~43mg/100ml、より好ましくは30~42mg/100ml、更に好ましくは32~40mg/100mlに調節すること;
を含む、ノンアルコールビール様飲料の製造方法。
【0023】
[13]3.0~4.3、好ましくは3.0~3.8のLogPを有する高疎水性香気成分を含有させること;及び
全窒素量を10~50mg/100ml、好ましくは29~43mg/100ml、より好ましくは30~42mg/100ml、更に好ましくは32~40mg/100mlに調節すること;
を含む、ノンアルコールビール様飲料のビールらしい複雑味及び飲み応えの持続期間を延長する方法。
【0024】
[14]前記テルペン系化合物と該エステル系化合物との比率が0.07~1.0、好ましくは0.15~0.7、より好ましくは0.21~0.52、更に好ましくは0.23~0.47である、[3]~[11]のいずれかのノンアルコールビール様飲料。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば良好な香味の持続期間が長いノンアルコールビール様飲料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。更に本明細書の数値範囲の上限、及び下限は当該数値を任意に選択して、組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、ノンアルコールビール様飲料及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示すノンアルコールビール様飲料及びその製造方法に限定されない。
【0027】
<ノンアルコールビール様飲料>
本発明のノンアルコールビール様飲料は、アルコール濃度が1v/v%未満である。例えば、本発明のノンアルコールビール様飲料は1v/v%未満、好ましくは0.5v/v%以下、より好ましくは0.1v/v%以下、更に好ましくは0.04v/v%以下、特に好ましくは0.02v/v%以下、最も好ましくは0.01v/v%以下のアルコール濃度を有する。本発明のノンアルコールビール様飲料は、実質的にアルコールを含まないノンアルコールビール様飲料であってもよい。このようなノンアルコールビール様飲料の具体例には、アルコール濃度0.00v/v%のノンアルコールビール様飲料が挙げられる。「ビール様」とは、ビールを想起させる味及び香気をいう。また、「アルコール」という文言はエタノールを意味する。
【0028】
本発明のノンアルコールビール様飲料は、発酵ノンアルコールビール様飲料であってよい。発酵ノンアルコールビール様飲料は、例えば、発酵後のビールに脱アルコール処理を施すことでアルコール分を低下させた液を含むか、又はこれをベース液として使用する、ノンアルコールビール様飲料である。
【0029】
<高疎水性香気成分>
本発明のノンアルコールビール様飲料は、高疎水性香気成分を含む。そのことで、ノンアルコールビール様飲料を保存する場合に生成する、酸化臭及び老化味が減感される。本明細書において「減感」とは、人間の嗅覚及び味覚において感じにくくすることをいう。文言「減感」の意味には、対象物にその本来の香気とは別の香気を加えることで、対象物本来の香気を包み隠すこと、即ち、マスキングが含まれる。
【0030】
ノンアルコールビール様飲料に酸化臭及び老化味が生成した場合、ノンアルコールビール様飲料のビールらしいコクが損なわれやすい。しかし、高疎水性香気成分を含むノンアルコールビール様飲料においては、保存した場合でもビールらしいコクの持続期間が延長される。これは、酸化臭及び老化味が高疎水性香気成分によって減感される効果と考えられる。
【0031】
香気成分の疎水性の高さは、オクタノール/水分配係数(LogP)に基づいて特定することができる。本明細書において、高疎水性香気成分とは、LogPが3.0以上である香気成分をいう。高疎水性香気成分のLogPが3.0未満であると、酸化臭及び老化味を減感するための必要量が多くなり、ノンアルコールビール様飲料のビールらしい香味が損なわれることがある。高疎水性香気成分のLogPが高すぎると、水系からの香気の揮発性が高くなり、香りが突出し、香気バランスが悪化する。高疎水性香気成分のLogPは、好ましくは3.0~4.3、より好ましくは3.0~3.8である。高疎水性香気成分の具体例を表1に示す。
【0032】
【0033】
高疎水性香気成分は、ノンアルコールビール様飲料の高疎水性香気成分濃度が、例えば400ppbになる量で、ノンアルコールビール様飲料に含有させる。ノンアルコールビール様飲料の高疎水性香気成分濃度が低すぎると、ノンアルコールビール様飲料を保存等した場合にビールらしい複雑味、及び飲み応えが損なわれやすくなる。高疎水性香気成分濃度が400ppbを超えると香味バランスが悪くなり、ノンアルコールビール様飲料のビールらしい香味が損なわれることがある。ノンアルコールビール様飲料の高疎水性香気成分濃度は、好ましくは10~200ppb、より好ましくは30~150ppb、更に好ましくは50~130ppb、更に好ましくは60~125ppb、更に好ましくは70~110ppbである。
【0034】
高疎水性香気成分濃度は、内部標準物質を用いてヘッドスペースGC装置で測定するか、または、GC/MS装置に供し、特定イオンの相対的強度から定量することができる。
【0035】
高疎水性香気成分はテルペン系化合物を含む。テルペン系化合物とは、イソプレンに基づく骨格(C5H8)n[式中、nは2以上の整数である。]を有する化合物をいう。テルペン系化合物には、ミルセン、β-イオノン、リナロール、シトロネロール及びゲラニオールが含まれる。中でも好ましいテルペン系化合物には、リナロール及びミルセンが含まれる。
【0036】
リナロール及びミルセンを含有する原料としては、ホップ、ホップエキス、ホップ香料などが挙げられる。リナロール及びミルセンは、天然物から単離又は抽出されたもの、食品化学的に許容される手法によって化学合成されたもの、リナロールを含有する原料に由来するもの、製造工程において、リナロールに変換される前駆体を含有する原料に由来するもの、のいずれであってもよい。
【0037】
高疎水性香気成分はエステル系化合物を含む。エステル系化合物とは、エステル結合に基づく骨格R-COO-R’[式中、R及びR’はアルキル基である。]を有する化合物をいう。エステル系化合物には、オクタン酸エチルが含まれる。一般に、オクタン酸エチルは発酵中に酵母によって生成されるが、化合物又は香料として入手可能なものを別途添加してもよい。
【0038】
高疎水性香気成分は、同一の単位に換算したテルペン系化合物濃度とエステル系化合物濃度との比率(テルペン系化合物濃度/エステル系化合物濃度)が、例えば0.07~1.0、好ましくは0.15~0.7、より好ましくは0.21~0.52、更に好ましくは0.23~0.47である。この比率におけるテルペン系化合物濃度の単位は「ppb」である。また、この比率におけるエステル系化合物濃度の単位は「ppb」である。前記比率の範囲をこのように調節することで、ノンアルコールビール様飲料に酸化臭及び老化味が生成した場合でも、これらを感じ難くなり、ノンアルコールビール様飲料のビールらしいコクも良好に維持される。その結果、ノンアルコールビール様飲料のビールらしいコクの持続期間が延長される。
【0039】
高疎水性香気成分は、リナロール濃度が5~50ppbであることがより好ましく、13~30ppbであることが更に好ましく、15~26ppbであることが更に好ましい。高疎水性香気成分は、オクタン酸エチル濃度が40~130ppbであることがより好ましく、50~100ppbであることが更に好ましく、53~83ppbであることが更に好ましい。そうすることで、良好な香味の持続時間がより延長されやすくなる。
【0040】
また、高疎水性香気成分は、良好な香味の持続時間をより延長する観点から、リナロール濃度とオクタン酸エチル濃度との比率(リナロール濃度/オクタン酸エチル濃度)が0.04~0.80であることがより好ましく、0.15~0.50であることが更に好ましく、0.20~0.43であることが更に好ましい。
【0041】
<全窒素量>
本発明のノンアルコールビール様飲料は窒素化合物を含む。本発明のノンアルコールビール様飲料の全窒素量は10~50mg/100mLである。本発明における「全窒素量」とは、タンパク質、アミノ酸等の全ての窒素化合物の総量である。全窒素量はコク、飲み応え、味の厚み、味わい等に影響する。全窒素量を10mg/100mL以上とすることによってノンアルコールビール様飲料のコク等を向上させることができる。他方、全窒素量が増大すると旨味が目立ちビールらしいコクが低下することがある。全窒素量を50mg/mL以下とすることによって、飲み口を軽して、ノンアルコールビール様飲料にビールらしいコクを付与することができる。ノンアルコールビール様飲料の全窒素量は、好ましくは29~43mg/100ml、より好ましくは30~42mg/100ml、更に好ましくは32~40mg/100mlである。
【0042】
ノンアルコールビール様飲料における全窒素量は、例えば改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.9 全窒素」に記載されている方法によって測定することができる。
【0043】
<外観エキス濃度>
ノンアルコールビール様飲料の外観エキス濃度は、好ましくは1~10w/w%に調整される。ノンアルコールビール様飲料の外観エキス濃度が1w/w%未満であると、ノンアルコールビール様飲料の飲み応えが不十分になる場合がある。また、ノンアルコールビール様飲料の外観エキス濃度が10w/w%を超えると、ノンアルコールビール様飲料に過度な呈味感をもたらし、全体のバランスが崩れる場合がある。ノンアルコールビール様飲料の外観エキス濃度は、より好ましくは2~9w/w%であり、更に好ましくは4~9w/w%であり、更に好ましくは5~9w/w%である。
【0044】
ノンアルコールビール様飲料の外観エキス濃度は、例えば、ビール酒造組合編集:BCOJビール分析法(2004)に記載の方法により測定することができる。
【0045】
<pH>
ノンアルコールビール様飲料のpHは、好ましくは4.9以下に調整される。そのことでノンアルコールビール様飲料の微生物に対する耐久性が向上する。一方、pHが低すぎると、得られるノンアルコールビール様飲料の酸味が強く、酸味と甘味のバランスが悪くなり、嗜好性が低下する。本発明のノンアルコールビール様飲料のpHは、より好ましくは3.8~4.8、更に好ましくは4.0~4.6である。ここで、ノンアルコールビール様飲料のpHは、最終製品としてのpHである。
【0046】
ノンアルコールビール様飲料のpHは、製造工程のいずれかの時点において、pH調整剤を含有させることで調整することができる。pH調整剤の種類は限定されない。食品添加物に限らず、例えば飲料及び食品やそれらの製造工程に使用することができる酸、それらの塩及びpH低下能を有するビール原料であれば、pH調整剤として使用することができる。pH低下能を有するビール原料として、例えば、サワーモルト、濃色麦芽等がある。好ましいpH調整剤はフィチン酸、クエン酸、乳酸、乳酸菌、リン酸、リンゴ酸、無水亜硫酸、酒石酸、グルコン酸、酢酸、コハク酸、アジピン酸、イタコン酸、フマル酸及びこれらの組み合わせである。より好ましいpH調整剤はフィチン酸、乳酸、乳酸菌、リン酸、リンゴ酸、無水亜硫酸、酒石酸及びこれらの組み合わせである。ノンアルコールビール様飲料の香味に与える影響を考慮すると、これらの中でも酸味が少ないフィチン酸が最も好ましい。
【0047】
<苦味価>
ノンアルコールビール様飲料の苦味価は、ビールと同等の苦味になるように調整される。ノンアルコールビール様飲料の苦味価は、具体的には、5~100BU、好ましくは10~35BU、より好ましくは15~27BUに調整される。
【0048】
ノンアルコールビール様飲料の苦味価は、製造工程のいずれかの時点において、苦味物質を含有させることで調整することができる。苦味物質としては、単離したイソα酸を用いることができる。また、イソα酸はホップに含有されており、ホップ又はホップエキスとして用いることもできる。ホップ又はホップエキスとは、ホップの葉、その磨砕物、これらを水や熱湯で抽出した抽出液、抽出液の濃縮物及び乾燥物を指す。
【0049】
ノンアルコールビール様飲料の苦味価は、ビール酒造組合編集:BCOJビール分析法、8.15(2004)に記載の方法により測定することができる。
【0050】
<炭酸ガス圧>
本発明のノンアルコールビール様飲料の炭酸ガス圧は、ビールと同等の飲用感になるように調整される。本発明のノンアルコールビール様飲料の炭酸ガス圧は、好ましくは0.23MPa以上である。そうすることで、ノンアルコールビール様飲料の微生物に対する耐久性が向上する。一方、炭酸ガス圧が高すぎると、ノンアルコールビール様飲料の香味が軽く、ボディ感が低下し、飲み応えに劣ったものになる。本発明のノンアルコールビール様飲料の炭酸ガス圧は、好ましくは0.23~0.30MPa、より好ましくは0.24~0.26MPaである。ノンアルコールビール様飲料の炭酸ガス圧は、脱アルコール麦汁発酵液に炭酸ガスを添加することで調整することができる。
【0051】
<脱アルコール麦汁発酵液>
本発明のノンアルコールビール様飲料の一形態に発酵後脱アルコール処理ビール様飲料がある。発酵後脱アルコール処理ビール様飲料は、脱アルコール麦汁発酵液、またはこれに由来する成分を含むノンアルコールビール様飲料である。脱アルコール麦汁発酵液とは、麦汁をビール酵母で発酵させて得られる発酵液、即ち麦汁発酵液から、アルコールを除去して得られる液体である。
【0052】
本発明でいう麦汁は、通常のビールを製造する際に使用される麦汁を意味し、これには麦芽に由来する成分、及び必要に応じてホップに由来する成分が含まれる。麦芽に由来する成分とは、麦芽に含まれる成分をいう。ホップに由来する成分とは、イソα酸等のホップに含まれる成分をいう。脱アルコール麦汁発酵液に由来する成分とは、脱アルコール麦汁発酵液に含まれる成分をいう。
【0053】
麦汁発酵液は、例えば、以下の方法によって製造することができる。まず、麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、はじめに35~60℃で20~90分間保持することにより原料に由来するタンパク質をアミノ酸等へ分解し、糖化工程へ移行する。その際、必要に応じて、主原料と副原料以外に、トランスグルコシダーゼ等の酵素、並びにスパイス及びハーブ類等の香味成分等が添加される。
【0054】
その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦汁発酵液の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60~72℃にて30~90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76~78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な糖液を得る。また、糖化処理を行う際に、酵素を必要な範囲で適当量添加してもよい。
【0055】
糖化に供される原料、即ち澱粉質原料は麦芽を含む。糖化に供される原料中の麦芽の含有量は、ビールらしい飲み応えを低減させない観点から、25w/w%以上、好ましくは40w/w%以上、より好ましくは50w/w%以上である。糖化に供される原料は麦芽比率100w/w%であってもよい。麦芽比率とは、澱粉質原料の重量に対する麦芽の重量の比率である。麦芽比率が高くなるほど、アルコール濃度の低減に伴う火薬臭、薬品臭及び飲用後べたつき感が発生しやすくなる。焦げ臭及び枝豆臭を抑制する観点から、麦芽比率は80w/w%以下であることが好ましく、50~80w/w%であることがより好ましい。
【0056】
副原料とは、麦芽とホップ以外の原料を意味する。該副原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉質原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。その他、香味を付与又は改善することを目的として用いられるスパイス類、ハーブ類、及び果物等も、副原料に含まれる。
【0057】
糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味する。該糖化酵素として、例えば、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
【0058】
麦汁煮沸の操作は、ビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行えばよい。例えば、pHを調整した糖液を煮沸釜に移し、煮沸する。糖液の煮沸開始時から、ワールプール静置の間に、ホップを添加する。ホップとして、ホップエキス又はホップから抽出した成分を使用してもよい。糖液は次いでワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な温度まで冷却する。
【0059】
上記麦汁煮沸までの操作により、麦汁が得られる。得られた麦汁を酵母により発酵させて、麦汁発酵液が得られる。麦汁の発酵は常法に従って行えばよい。例えば、冷却した麦汁にビール酵母を接種して、発酵タンクに移し、アルコール発酵を行うことができる。
【0060】
麦汁発酵液の外観最終発酵度は、ビールらしい飲み応えを低減させない観点から、90%以下、好ましくは35~90%、より好ましくは40~60%に調整する。一方で、外観最終発酵度が前記範囲外である場合には、アルコール濃度の低減に伴う火薬臭、薬品臭及び飲用後べたつき感が発生することがある。
【0061】
発酵度とは、発酵後のビールにおいて、どれだけ発酵が進んだか、発酵の進み方を示す重要な指標である。そして、さらに最終発酵度とは、原麦汁エキスに対して、ビール酵母が資化可能なエキスの割合を意味する。ここで、ビール酵母が資化可能なエキスとは、原麦汁エキスから、製品ビールに含まれるエキス(即ち、ビール酵母が利用可能なエキスをすべて発酵させた後に残存するエキス(最終エキスという)を差し引いたものである。外観最終発酵度とは、最終エキスの値に、外観エキス、即ち、アルコールを含んだままのビールの比重から求めたエキス濃度(%)を使用して計算した最終発酵度をいう。
【0062】
尚、「エキス」とは、麦汁の蒸発残留固形分をいう。エキスは、主として糖分からなる。エキスの含有量は、原料である麦芽や各種澱粉、糖類の仕込み量を変えることにより調整することができる。ビール様発酵麦芽飲料の真正エキス濃度は、例えばEBC法(ビール酒造組合編集:BCOJビール分析法、7.2(2004))により測定することができる。エキスという文言は、文脈に応じて、不揮発性固形分そのもの、不揮発性固形分の量、又は不揮発性固形分の濃度(%)を意味する。
【0063】
麦汁発酵液の外観最終発酵度Vendは、例えば下記式(1)により、求めることができる。
【0064】
Vend(%)={(P-Eend)/P}×100 (1)
[式中、Pは原麦汁エキスであり、Eendは、外観最終エキスである。]
【0065】
原麦汁エキスPは、製品ビールのアルコール濃度とエキスの値から、Ballingの式に従い、理論上アルコール発酵前の麦汁エキスの値を逆算するものである。具体的には、Analytica-EBC(9.4)(2007)に示される方法により、求めることができる。また、外観最終エキスEendはビールをフラスコに採取し、新鮮な圧搾酵母を多量に添加し、25℃で攪拌しながら、エキスの値がこれ以上低下しなくなるまで発酵させて(24時間)、残存ビール中の外観エキスの値を測定することにより、求めることができる。
【0066】
外観最終エキスEendは、最終エキスのアルコールを含んだ比重から計算されるため、マイナスの値を示すことがある。その結果、外観最終発酵度は100%を超える場合がある。
【0067】
麦汁発酵液の外観最終発酵度は、例えば、原料を糖化させる際の酵素の使用有無、及び、原材料の種類や配合量等の糖化条件を調整することにより、制御することができる。例えば、原料の糖化時間を長くすれば、酵母が使用する事ができる糖濃度を高めることができ、麦汁発酵液の外観最終発酵度を高めることができる。
【0068】
麦汁発酵液の原麦汁エキス濃度は、ビールらしい飲み応えを低減させない観点から、例えば10w/w%以上、又は10~18w/w%の麦汁エキス濃度を有するように調整する。一方で、麦汁エキス濃度が前記範囲外である場合には、アルコール濃度の低減に伴う火薬臭、薬品臭及び飲用後べたつき感が発生することがある。麦汁発酵液の原麦汁エキス濃度は、好ましくは11~17w/w%、より好ましくは11.5~16.5w/w%、更に好ましくは12~15.5w/w%である。
【0069】
原麦汁エキス濃度は、例えば、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の8.3.6.アルコライザー法でエタノールを、8.4.3.アルコライザー法で真正エキスを測定し、8.5エキス関係計算法で、原麦汁エキス濃度を算出することができる。
【0070】
発酵終了後、更に、熟成工程として、得られた麦汁発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させる。次いで濾過工程として、熟成後の麦汁発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去する。
【0071】
麦汁発酵液は、麦汁上面発酵液であってよく、麦汁下面発酵液であってもよいが、後味をすっきりさせる観点から麦汁下面発酵液であることが好ましい。麦汁上面発酵液とは、麦汁に上面発酵酵母を接種し、通常の発酵条件、例えば15~25℃で数日間発酵させた麦汁発酵液をいう。麦汁下面発酵液とは、麦汁に下面発酵酵母を接種し、通常の発酵条件、例えば10℃前後でおよそ1週間発酵させた麦汁発酵液をいう。
【0072】
酵母及びタンパク質等が除去された麦汁発酵液は、必要に応じて、含まれている炭酸ガスが除去される。また、麦汁発酵液は、脱アルコール工程に供されて、含まれているアルコールが除去される。麦汁発酵液からアルコールを除去する方法は従来から知られている方法を使用して行う。例えば、麦汁発酵液を加熱するか、減圧下加熱して、アルコールを気化させる方法、逆浸透膜等によりアルコールを除去する方法等が挙げられる。
【0073】
脱アルコール工程は、ノンアルコールビール様飲料のアルコール濃度が所望の程度になるように、アルコールが除去されていればよい。脱アルコール工程は、麦汁発酵液のアルコール濃度が例えば1%(v/v)未満、好ましくは0.5%(v/v)未満、より好ましくは0.1%(v/vV)未満になるまで行われる。
【0074】
脱アルコール麦汁発酵液は、好ましくは、3.5%(w/w)以上の真正エキス濃度を有する。脱アルコール麦汁発酵液の真正エキス濃度が3.5%(w/w)未満であると、得られるノンアルコールビール様飲料のエキス濃度を適切に調節することが困難になり、その結果、飲みごたえが不十分になり、酸味が強くなり易くなる。脱アルコール麦汁発酵液の真正エキス濃度は、好ましくは5~10.0%(w/w)、より好ましくは7~9%(w/w)である。
【0075】
真正エキス濃度とは、不揮発性固形物の濃度%(w/w)をいう。ノンアルコールビール様飲料の真正エキス濃度は、例えばEBC法(ビール酒造組合編集:BCOJビール分析法、7.2(2004))により測定することができる。
【0076】
<ノンアルコールビール様飲料の製造方法>
本発明のノンアルコールビール様飲料の製造方法は、ある一形態においては、脱アルコール麦汁発酵液をノンアルコールビール様飲料に含有させることを含む。この場合、脱アルコール麦汁発酵液をノンアルコールビール様飲料のベース液として使用してもよい。
【0077】
ノンアルコールビール様飲料が脱アルコール麦汁発酵液、又はこれに由来する成分を含むことで、ノンアルコールビール様飲料に発酵感、複雑味、及びビールらしい香味等が付与される。
【0078】
ノンアルコールビール様飲料に含まれる脱アルコール麦汁発酵液又はこれに由来する成分の量及び濃度は特に限定されず、所望の香味に応じて適宜設定することができる。
【0079】
本発明のノンアルコールビール様飲料の製造方法は、3.0~4.3のLogPを有する高疎水性香気成分をノンアルコールビール様飲料に所定量含有させることを含む。ノンアルコールビール様飲料中の高疎水性香気成分濃度は、高疎水性香気成分自体を添加剤として添加する方法、又は高疎水性香気成分を含有する香料を添加剤として添加する方法を使用して調節することができる。
【0080】
高疎水性香気成分の中には、原料から麦汁発酵液に導入されるものもある。このため、高疎水性香気成分を含む原料の使用量を調節することによっても、ノンアルコールビール様飲料の高疎水性香気成分濃度を調節することができる。高疎水性香気成分を含む原料の具体例としては、ホップ等が挙げられる。
【0081】
ノンアルコールビール様飲料の製造方法において、高疎水性香気成分の濃度の調節は、例えば、麦汁煮沸後の冷却工程、発酵工程、熟成工程又はろ過等任意の工程で行うことができる。この場合、香料を添加する工程が前工程であればあるほど、香料中の成分の濃度の消長が考えられるため、後発酵工程の終了後に行うことが望ましい。
【0082】
ノンアルコールビール様飲料の全窒素量は、酵母の種類、酵母が資化可能な原材料の種類及び使用量を調整することによって制御できる。例えば、窒素含有量の多い麦芽等の使用量を増やすことにより全窒素量を増加させることができる。窒素含有量の多い原料としては、例えば、麦芽、大豆、酵母エキス、エンドウ、未発芽の穀物などが挙げられる。また未発芽の穀物としては、例えば、未発芽の大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦、大豆、エンドウ等が挙げられる。ノンアルコールビール様飲料の全窒素量は、窒素源を添加することによって制御してもよい。窒素源としては、例えば、大豆タンパク質、エンドウタンパク質等のタンパク質、タンパク質の分解物、アミノ酸等が挙げられる。
【0083】
また、ノンアルコールビール様飲料の製造方法は、外観エキス濃度調整工程を含んでよい。
【0084】
ノンアルコールビール様飲料の製造方法は、公知の装置等を用いた、カラメル色素等を添加する工程、煮沸工程、pH調整工程、ろ過工程、香味調整工程、炭酸ガスを溶解させる工程等を更に含んでもよい。
【0085】
ノンアルコールビール様飲料の製造方法は、必要に応じて、食物繊維、大豆ペプチド、炭酸、エキス類、香料、酸味料、甘味料、苦味料、着色料、酸化防止剤、pH調整剤、各種栄養成分等を添加する工程を更に含んでもよい。
【実施例】
【0086】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0087】
<高疎水性香気成分濃度の測定方法>
高疎水性香気成分濃度は、攪拌枝吸着抽出法(SBSE法:Stir Bar Sorptive Extraction)により測定した。即ち、測定に供する試料に、内部標準としてβダマスコンを0.1ppbになるように添加した。試料を5倍希釈し、希釈サンプル20mlを30ml容バイアルに採取した。47μlのPDMS(ポリジメチルシロキサン)でコーティングした攪拌枝(長さ=20mm;Twister(商品名);Gerstel社製、Germany)をバイアルに入れ、蓋を締め、40℃で2時間攪拌し、攪拌枝にホップ香気成分を吸着させた。攪拌枝をバイアルから取り出し、水滴を完全に除去後、加熱脱着ユニット(Thermal desorption unit(TDU))(Gerstel社製)とプログラマブル温度-蒸発インレット(Programmable temperature-vaporization inlet;CIS4)(Gerstel社製)を装備したGC-MSに挿入した。
【0088】
【0089】
<全窒素量の測定方法>
全窒素量は、前記改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の8.9全窒素に記載の方法によって測定した。
【0090】
<製造例>
(1)麦汁発酵液の製造
仕込釜に粉砕麦芽、水及びコーンスターチを投入し、70℃で糊化、100℃で液化を行った。麦芽比率は50w/w%とした。次に仕込槽に粉砕麦芽、酵素及び温水を投入し、55℃付近でタンパク休止を行った後、仕込釜から仕込槽へ液を移送し、60℃から76℃の範囲の温度で糖化を行った。この糖化液を濾過槽であるロイターにて濾過し、その後煮沸釜に移して、ホップを添加し、60分間煮沸した。ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて10℃まで冷却し、冷麦汁を得た。水分量を加減することで麦汁のエキス濃度を12%に調整した。この麦汁にビール酵母を加え、7日間10℃前後で発酵させた後、ビール酵母を除去した。タンクを移し替えて7日間熟成させた後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させた。その後脱気水を加えて希釈後、珪藻土を用いて濾過し、麦汁発酵液を得た。得られた麦汁発酵液を発酵液とした。
【0091】
(2)脱アルコール麦汁発酵液の製造
(i)蒸留残液の製造
発酵液を90mbar付近の減圧下で、脱ガスタンク内にスプレーし炭酸ガスを除去した後、プレートクーラーを用いて50℃付近まで加熱した。その後、90mbar付近の減圧カラム内で50℃付近に加熱した水蒸気と接触させ、揮発成分を水蒸気に吸着させ、アルコール及び揮発成分を取り除き、アルコール濃度0.037v/v%の脱アルコール麦汁発酵液を作製した。得られた脱アルコール麦汁発酵液から7.5Lを採取しこれに水を2.5L加えて、蒸留残液とした。
【0092】
(ii)飲用試料の製造及び分析
蒸留残液の外観エキス濃度を測定したところ、5.22%であった。なお、外観エキスとは、発酵飲料のエキスを、20℃において同じ比重をもったシュークロース水溶液のシュークロース濃度(通常は質量%)として表わしたものをいう。アルコールを含むため、外観エキスは本来の意味でのエキス(可溶性蒸発残渣=真正エキス)とは異なる。
【0093】
蒸留残液に対して、0.23MPaのガス圧(20℃)になる量で炭酸ガスを溶解させ、4℃に調温して、飲用に供する飲用試料を作製した。飲用試料の高疎水性香気成分濃度、並びに酢酸エチル濃度及び酢酸イソアミル濃度を測定した。結果を表3に示す。また、飲用試料の全窒素量を測定したところ28mg/100mlであった。
【0094】
【0095】
<実施例1>
高疎水性香気成分としてリナロール及びオクタン酸エチルを準備した。また、窒素源として大豆タンパクを準備した。飲用試料を14点の試料に分割し、リナロール、オクタン酸エチル及び大豆タンパクを表5及び表6に記載の濃度となるよう添加した。その後、前記試料を一組にして、7日間暗所37℃に保存した。
【0096】
高疎水性香気成分について上述した方法と同様にして、ビール様飲料のトランス-2-ノネナール(以下、「E2N」という。)濃度を測定した。結果を表5及び表6に示す。尚、E2Nは、ビール様飲料の酸化劣化の指標として、特徴的なカードボード臭や、好ましくない甘味、粉っぽい味感などが認められている物質である(特開2019-080579号公報)。
【0097】
各試料を約4℃の液温に調温し、ビール専門のパネリスト10名による官能評価を行った。評価項目は、「ビールらしいコクの強さ」とした。
【0098】
各評価項目について、5段階評価で採点した。採点基準は次の通り設定した。各パネリストが採点した値の平均値を表5及び表6に示す。
【0099】
<採点基準>
0℃で暗所に7日間保存した試料1の官能の強さを5点とする。
37℃で、30日間保存した試料1の官能の強さを1点とする。
【0100】
【0101】
【0102】
<参考例1>
LogPが3未満の酢酸エチル(LogP=0.7)を準備した。また、窒素源として大豆タンパクを準備した。試料1に酢酸エチル及び大豆タンパクを表6に記載の濃度となるよう添加し、試料15~試料17を調製した。試料15~試料17を保存試験に供し、さらに保存後の試料についてE2N濃度を測定し、官能試験を行った。結果を表6に示す。
【0103】
【0104】
<参考例2>
LogPが3未満の酢酸イソアミル(LogP=2.3)を準備した。酢酸エチルの代わりに酢酸イソアミルを使用すること以外は参考例1と同様にして香気成分濃度を調整した試料を製造し、保存試験を行った。保存後の試料について、E2N濃度を測定し、官能試験を行った。結果を表7に示す。
【0105】
【要約】
【課題】ビールらしいコクの持続期間が長いノンアルコールビール様飲料を提供すること。
【解決手段】3.0~4.3のLogPを有する高疎水性香気成分を含み、10~50mg/100mlの全窒素量を有する、ノンアルコールビール様飲料。
【選択図】なし