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7708983ポリエステルの回収方法およびリサイクルポリエステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】ポリエステルの回収方法およびリサイクルポリエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/08 20060101AFI20250708BHJP
   C08J 11/24 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
C08J11/08
C08J11/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024561461
(86)(22)【出願日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2023042280
(87)【国際公開番号】W WO2024117056
(87)【国際公開日】2024-06-06
【審査請求日】2025-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2022189738
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 遼
(72)【発明者】
【氏名】須之内 慧
【審査官】伊藤 孝佑
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2661077(KR,B1)
【文献】特開2014-058476(JP,A)
【文献】特開昭51-115577(JP,A)
【文献】特開2008-239985(JP,A)
【文献】特開2005-255963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/08
C08J 11/24
C08J 11/26
C08G 63/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてポリエステルからなる繊維で構成され、
ウレタン基を構成成分とするポリマーからなり、ソフトセグメントとハードセグメントから構成される弾性繊維を、単独成分の糸条または混紡繊維、混繊糸、カバリング糸、複合糸のいずれかの形態にて含有する繊維製品を、
ポリエステルのガラス転移温度以上、ポリエステルのガラス転移温度+100℃以下の温度範囲の芳香族アルコールまたはその誘導体の溶液にて処理することを特徴とするポリエステルの回収方法。
【請求項2】
繊維製品が分散染料にて染色されたものである、請求項1記載のポリエステルの回収方法。
【請求項3】
ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートである、請求項1記載のポリエステルの回収方法。
【請求項4】
ウレタン基を構成成分とするポリマーが、ポリエーテル系ポリウレタンである、請求項1記載のポリエステルの回収方法。
【請求項5】
芳香族アルコールがベンジルアルコールである、請求項1記載のポリエステルの回収方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の回収方法により得られたポリエステルを、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)に解重合して、その後その芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を再重合する、リサイクルポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル繊維とウレタン繊維を含有する繊維製品からポリエステルを回収する方法、およびそのポリエステルを解重合してさらに再重合することでポリエステルを製造するポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルはその優れた特性により繊維製品等として広く用いられているが、使用された後のポリエステル繊維製品の有効利用は、環境問題も含め大きな課題となっている。
【0003】
主な処理方法としてはマテリアルリサイクル、サーマルリサイクル、ケミカルリサイクル等が検討されており、中でも再生に伴う品質の低下が少ないという観点では、ポリエステルポリマーをジカルボン酸とジオールからなる原料まで解重合してから再重合するなどのケミカルリサイクルが、クローズドループのリサイクルとしては優れている。中でも、直接重縮合反応を行って再生ポリエステルを製造することが可能な中間体を用いる方法は、消費エネルギーの観点からも優れた方法である。
【0004】
しかし、そのようにして得られる再生ポリエステルポリマーには、白色化しにくいという問題があった。
【0005】
特にポリエステル繊維製品が、ポリウレタン等の異種ポリマーを含んだり、染色された製品である場合には、効率よくかつ着色を抑えて回収することは困難であった。
【0006】
例えば特許文献1では、着色要因物質除去工程として、解重合後の中間体とした後、着色要因物質を吸着剤に接触させる吸着処理、着色要因物質を分解剤で分解する分解処理、着色要因物質を還元剤で還元する還元処理などが試みられている。しかし、ポリマーに明らかに混入されている染料等の着色要因物質はある程度除去されるものの、リサイクル原料を用いない通常生産の製造方法によるポリエステルポリマー並みに着色を抑えたポリエステルポリマーを得る製造方法は、いまだ得られていなかった。
【0007】
また、本発明者らの検討によれば、主としてポリエステルからなる繊維で構成され、かつ、ポリウレタンを含有する繊維製品では、特に解重合前後の工程での分離が困難であり、再重合後のケミカルリサイクルポリエステルの色相は褐色がかることが多かった。そして繊維製品などへのリサイクルに用いた場合、品位に劣るものであった。
【文献】特開2008-88096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ポリエステル繊維およびポリウレタン繊維を含有する繊維製品から着色の少ないポリエステルを回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のポリエステルの回収方法は、主としてポリエステルからなる繊維で構成され、ウレタン基を構成成分とするポリマーからなる繊維を含有する繊維製品を、ポリエステルのガラス転移温度以上、ポリエステルのガラス転移温度+100℃以下の温度範囲の芳香族アルコールまたはその誘導体の溶液にて処理することを特徴とする。
【0010】
本発明は、繊維製品が分散染料にて染色されたものであること、ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであること、ウレタン基を構成成分とするポリマーがポリエーテル系ポリウレタンであること、芳香族アルコールがベンジルアルコールであること、を好ましい態様として含む。
【0011】
本発明のもう一つの発明は、上記の回収方法により得られたポリエステルを、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)に解重合して、その後その芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を再重合してリサイクルポリエステルとする、リサイクルポリエステルの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリエステル繊維およびポリウレタン繊維を含有する繊維製品から着色の少ないポリエステルを回収する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔繊維製品〕
本発明のポリエステルの回収方法は、主としてポリエステルからなる繊維で構成され、ウレタン基を構成成分とするポリマーからなる繊維を含有する繊維製品から、ポリエステルを回収する方法である。ここで「主としてポリエステルからなる繊維で構成され」とは、ポリエステルからなる繊維が繊維製品を構成する繊維のうち最も多い繊維であることを意味する。ポリエステルからなる繊維は、繊維製品の、好ましくは50wt%以上、さらに好ましくは80wt%以上を占める。
【0014】
ここでポリエステルは、多価カルボン酸と、ポリアルコールとを、脱水縮合してエステル結合を形成させることによって合成された重縮合体である。そして、ポリエステルは、エステル結合を有するポリマーであり、一般的に脂肪族ポリエステル、半芳香族ポリエステルおよび全芳香族ポリエステルに分類される。
【0015】
このポリエステルを構成する多価カルボン酸は、好ましくはジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体である。ジカルボン酸として、好ましくはテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸といった芳香族ジカルボン酸が用いられる。
【0016】
ポリエステルを構成するもう一方の成分であるポリアルコールは、好ましくはジオールまたはそのエステル形成性誘導体である。ジオールとして、好ましくは炭素数2~20の脂肪族グリコールが用いられる。この脂肪族グリコールとして、エチレングリコール(以下、EGと略記することがある)、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールを例示することができる。脂肪族グリコールは、炭素数3~30の脂環族グリコールであってよく、具体的には、1,4-シクロヘキサンジメタノールを例示することができる。
【0017】
上記の多価カルボン酸とポリアルコールとを組み合わせたポリエステルを、本発明では出発物質として用いる。このポリエステルとして、好ましくいものはポリアルキレンテレフタレートであり、なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0018】
本発明で用いられる繊維製品は、上記の主としてポリエステルからなる繊維の他に、さらに、ウレタン基を構成成分とするポリマーからなる繊維を含有する。
【0019】
ここでウレタン基を構成成分とするポリマーからなる繊維として、ポリウレタン繊維、ポリウレタンウレア繊維を例示することができる。これらは、弾性繊維の性質を有することが多い。
【0020】
ウレタン基を構成成分とするポリマーからなる繊維として好ましいものは、分子鎖にウレタン結合(-NHCOO-)を有するポリウレタン繊維である。ポリウレタン繊維は、屈曲性を有する低融点のソフトセグメントと、高融点のハードセグメントから構成され、優れた弾性を有する。このポリウレタン繊維は、そのソフトセグメントに応じて、ポリエーテル系ポリウレタン繊維とポリエステル系ポリウレタン繊維に分類される。
【0021】
本発明において、ポリウレタン繊維は、ポリエーテル系ポリウレタン繊維が好ましく、なかでも、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルジオールをジオール成分とし、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートをジイソシアネート成分とし、エチレンジアミンをジアミン成分として得られるポリエーテル系ポリウレタン繊維が特に好ましい。
【0022】
このポリエーテル系ポリウレタン繊維として、旭化成せんい株式会社製の“ロイカ”(登録商標)が例示される。
【0023】
ポリウレタン繊維は、伸長弾性率の高い繊維であることが好ましい。
【0024】
ポリウレタン繊維は、単独成分の糸条として用いられていてもよく、ポリエステル繊維などとの、混紡繊維、混繊糸、カバリング糸(芯がウレタン繊維)、複合糸などの形態をとっていてもかまわない。
【0025】
繊維製品におけるポリウレタン繊維の含有量は、好ましくは50wt%以下、さらに好ましくは50wt%未満、さらに好ましくは30wt%以下、特に好ましくは5~20wt%である。
【0026】
繊維製品は、例えばスポーツウェア、ユニフォーム、ソックスといった形態であっても構わない。
【0027】
本発明において、繊維製品が染色された繊維製品であることは、好ましい態様である。染色が分散染料によることも、好ましい態様である。さらに、分散染料が窒素原子を含有する染料であることも、好ましい態様である。
【0028】
本発明の回収方法は、上記の繊維製品を、ポリエステルのガラス転移温度以上かつポリエステルのガラス転移温度+100℃以下の温度範囲の芳香族アルコールまたはその誘導体の溶液にて処理し、ポリエステルを回収する方法である。
【0029】
〔芳香族アルコール〕
芳香族アルコールまたはその誘導体として、ベンジルアルコール,ベンズアルデヒド、安息香酸を例示することができ、好ましくはベンジルアルコール(以下「BA」と記載することがある)を用いる。
【0030】
〔処理〕
芳香族アルコールまたはその誘導体は、加熱された溶液状態で使用される。芳香族アルコールまたはその誘導体は、他の溶媒を混合して用いてもよい。いずれも沸点が、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは150~250℃である。
【0031】
本発明の回収方法は、このような芳香族アルコールまたはその誘導体の溶液にて、ポリエステルのガラス転移温度以上かつポリエステルのガラス転移温度+100℃以下の温度範囲の条件にて繊維製品を処理し、ポリエステルを回収する。
【0032】
繊維製品の処理の温度は、好ましくはポリエステルのガラス転移温度の+10℃以上かつ+80℃以下の範囲、さらに好ましくはポリエステルのガラス転移温度の+15℃以上かつ+60℃以下の範囲である。
【0033】
処理時の溶液の量は、処理される繊維製品の重量を基準として、好ましくは3~1000倍、さらに好ましくは5~500倍、特に好ましくは8~50倍である。
【0034】
処理は、繊維製品を溶液に浸漬することで行う。この処理は、繊維製品を浸漬した溶液で静置することで行ってもよいが、好ましくは繊維製品を浸漬した溶液を液流循環や回転羽等により撹拌することで行う。
【0035】
浸漬後、繊維製品は脱液される。浸漬後の脱液の処理として、圧搾処理、遠心分離による脱液処理、ソックスレー抽出といった方法を適用することができる。
【0036】
複数回の浸漬および脱液を繰り返すことが好ましく、好ましくは5回以上、特に好ましくは6~10回の浸漬および脱液を繰り返す。
【0037】
脱液後の溶液を含む繊維製品の重量が、繊維製品の乾燥重量を基準に好ましくは300wt%以下、さらに好ましくは150~250wt%、特に好ましくは180~220wt%となる条件で脱液処理を行う。
【0038】
〔リサイクルポリエステルの製造方法〕
そしてもう一つの本発明であるリサイクルポリエステルの製造方法は、上記のポリエステルの回収方法にて得られたポリエステルを、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)に解重合し、その後その芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を再重合する、リサイクルポリエステルの製造方法である。
【0039】
この方法により、黄色度の小さい、白色度の高いポリエステルを得ることができる。
【0040】
〔解重合〕
解重合する際には触媒を用いることが好ましい。触媒として、好ましくは第一遷移金属系の触媒を用いる。具体的には、第一遷移金属系の酸化物や脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、アルコラートが例示される。
【0041】
第一遷移金属として、好ましくはマンガン、亜鉛を用いる。触媒として、好ましくは酸化マンガン、酢酸マンガン、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、特に好ましくは酢酸マンガンを用いる。触媒は1種または2種以上を組み合わせてもよい。
【0042】
触媒は、あらかじめアルキレングリコール中に溶解された溶液として用いることが好ましい。アルキレングリコール(以下、AGと略記することがある)として、繊維製品に用いられたポリエステルの骨格構造を形成しているジオール成分と同じジオールを用いることが好ましい。
【0043】
アルキレングリコールとして、中間体の芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を再重合して得られる、最終的に生成物として得られるポリエステルを構成するジオールを用いてもよい。
【0044】
ポリエステルの骨格構造を形成しているジオール成分と同じジオールは、ポリエステルがポリエチレンテレフタレート(PET)の場合にはエチレングリコール(EG)であり、ポリトリメチレンテレフタレートの場合には1,3-プロパンジオール(トリメチレングリコール、C3G)であり、ポリブチレンテレフタレートの場合には1,4-ブタンジオール(C4G)である。ジオールは、混合物であってもかまわない。
【0045】
一般的に、ポリエステルの解重合品は長時間保管等によって、徐々に変色の度合いが高くなることが多いが、本発明の回収方法および製造方法で得られたものは、明らかに変色が少ない。特に、解重合時にマンガン系触媒を用いると、変色が少ない。
【0046】
解重合時の触媒の使用量は、ポリエステルに対して、好ましくは20~500mmol%、さらに好ましくは30~300mmol%、特に好ましくは50~150mmol%である。ここで「mol%」は、ポリエステルの構成単位に対する触媒分子の個数の比を示す。「mmol%」は、その1/1000倍である。触媒使用量が前記の範囲より少ないと触媒活性は十分ではなく、多いと変色を抑制する効果が減少するため好ましくない。触媒にマンガン系触媒を用いると少ない使用量で解重合を行うことができる。
【0047】
解重合時に、アルキレングリコールを、回収処理後のポリエステルの重量に対して、好ましくは2~20倍、さらに好ましくは3~10倍の量を用いる。このように解重合時のアルキレングリコールの量を多く使用し、さらに後に晶析、固液分離を行うことによって、解重合触媒、その他の異物の混入量を低減することができる。また、特に酢酸マンガンを触媒として用いた場合には、アルキレングリコールとの溶解性が高く、より効果的に後工程にて残存する触媒の量を低減することができる。
【0048】
〔晶析〕
触媒を用いて解重合した後に、アルキレングリコール中にて降温して晶析することが好ましい。晶析時の降温条件として、好ましくは60℃以上の温度から25℃以下に降温すること、さらに15℃以下に冷却することが好ましい。
【0049】
さらに晶析後に固液分離することが好ましい。固液分離後のケーク中のアルキレングリコール含有量は、好ましくは100wt%以下、さらに好ましくは55wt%以下、さらに好ましくは1~30wt%、特に好ましくは5~25wt%である。
【0050】
解重合後のケークは、晶析後に、水またはアルキレングリコールにて洗浄することが好ましい。洗浄は、洗浄液を噴霧しながらヌッチェろ過器にて処理することで行うことが好ましい。これらの処理を行うことにより、アルキレングリコール中に溶解している解重合触媒や、その他の着色原因物質等を洗い流し、より精製度の高い芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を得ることができる。
【0051】
洗浄に用いる溶液としては、好ましくは粘度が低いものを用い、この観点から好ましくは水を用いる。洗浄液の量は、ケークの重量を基準に、好ましくは1から100倍量、さらに好ましくは1.5から10倍量である。洗浄時の液温は好ましくは0から40℃である。液温がこれより高いと、ケーク自体が溶解しやすくなり、収率が低下するため好ましくない。
【0052】
洗浄の後、真空乾燥機等にて乾燥するなどして、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を得ることができる。
【0053】
得られた芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)について、活性炭など吸着剤を用い、異物などの吸着処理を行っても構わない。
【0054】
なお、本発明の製造方法にて用いられているアルキレングリコールが再重合後のポリエステルのジオール成分と同じである場合、そのまま乾燥させずに再重合することができる。これは、好ましい態様である。
【0055】
〔芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)〕
このようにして得られる芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)は、リサイクルポリエステルの製造に用いられる。
【0056】
芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)は、使用した繊維製品のポリエステルや、解重合に用いたアルキレングリコールにより異なる。
【0057】
繊維製品のポリエステルが、主としてテレフタル酸を多価カルボン酸として用いたポリエステル(ポリアルキレンテレフタレート)が原料とする場合には、ベンゼンジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)(以下、BHAT;ビスヒドロキシアルキルテレフタレートということがある)が得られる。
【0058】
この場合、解重合に用いるアルキレングリコールとしてC3G(1,3‐プロパンジオール(トリメチレングリコール))を用いると、BHPT(ビスヒドロキシプロピルテレフタレート)が得られる。また、解重合に用いるアルキレングリコールとしてC4G(1,4-ブタンジオール)を用いると、BHBT(ビスヒドロキシブチルテレフタレート)が得られる。また、解重合に用いるアルキレングリコールとしてエチレングリコールを用いた場合には、BHET(ビスヒドロキシエチルテレフタレート)が得られる。
【0059】
〔再重合〕
芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)は、従来公知の方法にて再重合することによりポリエステルとなる。このポリエステルは、着色しにくい、色相に優れた、リサイクルポリエステルである。
【0060】
ポリエステルを得るための再重合時の触媒として、例えばアンチモン系、ゲルマニウム系またはチタン系の公知の触媒を用いることができ、好ましくは三酸化二アンチモンを用いる。
【0061】
再重合時に反応で発生するアルキレングリコールは、反応器外に流去しながら重縮合反応を行うことが好ましい。触媒の使用量は、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)重量に対して好ましくは10~1000ppmの範囲である。
【0062】
触媒を用いて重縮合した後、正リン酸、亜リン酸といった従来公知のリン系の安定剤を添加することが好ましい。リン系安定剤の使用量は、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)重量に対して好ましくは1~100ppmの範囲である。
【0063】
このようにして得られたリサイクルポリエステルは、黄変等の変色が少ない。この効果は、特にマンガン系触媒を低濃度で用いて解重合した場合に顕著である。着色性の副生成物を生じにくく、その後の晶析等の工程でも芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)から触媒が解離されやすく、不純物として残存しにくいためであると考えられる。
【0064】
〔リサイクルポリエステルの性質〕
本発明のポリエステルの回収方法にて得られたリサイクルポリエステルでは、ポリウレタン成分が除去されている。また、繊維製品が染色されたものである場合には、その染料も除去されている。
【0065】
得られるリサイクルポリエステルは、好ましくは以下の性質を示す。
【0066】
得られるリサイクルポリエステルは、国際照明委員会(CIE)によるL、a、b色空間の測色計での色相としてb値が8以下、好ましくは1から-20、さらに好ましくは0.5から-15である。
【0067】
得られるリサイクルポリエステルは、黄色度(YI)が、好ましくは15以下、さらに好ましくは5から-50、さらに好ましくは0から-20である。
【0068】
得られるポリエステルは、白色度(W)が、75以上、さらに好ましくは80から100である。
【0069】
得られるリサイクルポリエステルに含まれる、ポリウレタンや染料に由来する窒素含有量は、好ましくは15ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下である。
【0070】
再重合後のリサイクルポリエステルは、ポリマーのIVが、好ましくは0.30~1.50dl/g、さらに好ましくは0.40~1.30dl/g、特に好ましくは0.50~1.20dl/gである。
【実施例
【0071】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各値は以下の方法により求めた。「%owf」は、「% on the weight of fiber」の略である。
【0072】
1)色相(L)(Col(Lab))
再重合したポリマー(5g)を二枚の金属板でプレスし、プレート状にした後、140℃×2時間で加熱し、サンプルを結晶化させた。その測定用サンプルを、測定装置(日本電色工業株式会社製「ZE-6000」)を用い、JIS Z8781-4:2013に従って、色相L、a、bの値を測定した。
【0073】
黄色度(YI)は次の式(1)、白色度(W)は次の式(2)によって求めた。
【0074】
黄色度(YI):0.34-71.7×a/L+178.78×b/L (1)
白色度(W):100-√{(100-L)+a+b} (2)
黄色度(YI)は、数値が高いほうが黄色味が強く、白色度(W)は、数値が高いほうが白度が高い、ことを示す。
【0075】
2)窒素(N)含有量
布帛等の繊維製品および繊維等に含まれる窒素含有量は、微量全窒素分析装置(三菱化成株式会社製TN-110)で測定した。
【0076】
〔実施例1〕
(ポリエステルの回収工程)
繊維製品として、染色したポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と表記する)繊維360gと、ポリウレタン(以下「PU」と表記することがある)40gからなる布帛を準備した。
【0077】
PET繊維は、IV0.60dl/g、Tg=70℃、Tm=255℃、24dtex、強度3.9cN/dtex、伸度41%の糸条であり、分散染料として、含窒素オレンジ染料を0.87%owf、含窒素レッド染料0.4%owf、含窒素ブラック染料4.7%owfを用いて染色され、窒素(N)分を0.38wt%含有する繊維であった。PU繊維は、高い伸縮性を有するポリエーテル系ポリウレタン繊維(旭化成せんい株式会社製の「ロイカ」、22dtex/本、強度1.6cN/dtex、伸度345%、300%、伸長弾性率82%、窒素(N)分を1.06wt%含有)を用いた。
【0078】
この繊維製品400gを、5lのセパラブルフラスコに投入し、別ビーカーにて内温105℃となるまで加温したベンジルアルコール(BA)4000gを追加投入した。内温を105℃に調整しながら30分間、撹拌した。
【0079】
セパラブルフラスコから布帛状の繊維製品を取り出し、圧搾して余分な処理液を除去した。処理液には着色が見られ、圧搾後の軽く脱色された繊維製品の重量は970gであった。
【0080】
圧搾し終わった後の繊維製品を再度上記セパラブルフラスコに投入し、上記と同様の溶液浸漬、圧搾の工程を、合わせて計6回実施した。目視では3回目の処理によって繊維製品は白色化していたが、4回目以降でも、圧搾された処理液には若干の着色があり、6回目でようやく処理液が透明となった。
【0081】
上記処理後の繊維製品を80℃×8hr、真空乾燥機にて乾燥させ、白色度の高い白色ポリエステルを回収した。
【0082】
(ポリエステルのリサイクル工程)
上記の方法にて回収したポリエステル300重量部に対して、エチレングリコール(EG)1500重量部、解重合触媒として、酢酸マンガン0.38重量部(ポリエステルに対し100mmol%)を2Lのセパラブルフラスコに投入し窒素封入した。この時酢酸マンガンはあらかじめEGに溶解してから投入した。
【0083】
その後、試料が入ったセパラブルフラスコをマントルヒーターにより、内温220℃に設定し加熱し、撹拌しながら、常圧にて4時間の解重合処理を実施した。この解重合後のBHET(ベンゼンジカルボン酸ビス(ヒドロキシエチル))溶液は無色透明で、着色は見られないものであった。さらに200μmのメッシュでこの解重合後の溶液を濾過し、内部に残存している固形分を取り除き、70℃まで徐冷後、撹拌冷却しながら、70℃から40℃への降温を経過時間0分間から10分間、40℃から30℃への降温を経過時間10分間から60分間、30℃から15℃への降温を経過時間60分間から180分間となるように実施し、その後内温15℃のまま60分間攪拌を実施し、内部温度を下げてBHETの結晶を析出させ(計4時間)、BHET/EGスラリーを得た。
【0084】
BHET/EGスラリーは、日本濾過装置株式会社製のフィルタープレスにて圧搾処理を実施し、BHETとEGの固液分離を行った。この時分離したBHETは、フィルタープレス後に回収したケーク重量に対して、EGを35wt%含有していた。このEG分離を実施した後のケークに対して2重量倍の25℃の純水を噴霧しながら、ヌッチェろ過器にて水洗浄処理を実施した。固液分離が完了したBHETについてその後、真空乾燥器にて50℃、8時間の乾燥処理を実施し、乾燥したBHETを得た。得られたBHETは白く、異物の混入も見られないものであった。
【0085】
その後、得られた乾燥BHET254重量部を、窒素雰囲気下の常圧の反応容器中に、リン系安定剤0.007重量部と共に、再重合触媒として三酸化二アンチモン0.07重量部を仕込んだ。次に反応器内の温度を285℃とし常圧で10分間、4kPaの圧力下で10分間、さらに0.4kPaの圧力下で40分間の条件で、それぞれ段階的に減圧し、反応で発生するエチレングリコールなどを反応器外に溜去しながら、重縮合反応を行い、リサイクルポリエステルを得た。
【0086】
回収処理前、処理後の乾燥品、再重合後のリサイクルポリエステルのLab値、および窒素含有量等の物性を表1に示した。
【0087】
〔実施例2〕
ベンジルアルコール(BA)の処理温度を105℃から130℃に昇温した以外は、実施例1と同様に、回収処理、リサイクル処理を行った。回収工程における圧搾後の残液の色が実施例1と比較して濃色であり、残液にはPET溶解物とみられる沈殿が確認され、繊維製品自体は白色度の高いポリエステル布帛であった。ただし処理し乾燥後の繊維製品の重量は302gとなり、収率が若干劣った。
【0088】
回収処理前、処理後の乾燥品、再重合後のリサイクルポリエステルの物性を表1に示した。
【0089】
〔実施例3〕
ベンジルアルコール(BA)の処理温度を105℃から160℃に昇温した以外は、実施例1と同様に、回収処理を行った。回収工程における圧搾後の残液の色が実施例1および2と比較して濃色であり、残液にはPET溶解物とみられる沈殿が実施例2より多く確認され、繊維製品自体は白色度の高いポリエステル布帛であった。ただし処理し乾燥後の繊維製品の重量は178gとなり、収率として劣るため、リサイクル工程は行わなかった。
【0090】
回収処理前、処理後の乾燥品の物性を表1に併せて示した。
【0091】
〔実施例4〕
未染色の白色布帛を用いた以外は、実施例1と同様に、回収処理、リサイクル処理を行った。
【0092】
回収処理前、処理後の乾燥品、再重合後のリサイクルポリエステルの物性を表1に併せて示した。
【0093】
【表1】
【0094】
〔比較例1〕
ベンジルアルコール(BA)の処理温度を105℃から25℃に降温した以外は、実施例1と同様に、回収処理を行った。回収工程における繊維製品および圧搾後の残液にも、着色は見られなかった。またPUの溶解も起こっておらず、伸縮性を有する布帛のままであって、処理し乾燥後の繊維製品の重量も400gと変化していなかった。
【0095】
回収処理前、処理後の乾燥品の物性を表2に示した。
【0096】
〔比較例2〕
ベンジルアルコール(BA)の処理温度を105℃から205℃に昇温した以外は、実施例1と同様に、回収処理を行った。205℃の処理工程中に、PETを含む繊維製品がBAに全量溶解し、圧搾処理後の製品の回収ができなかった。
【0097】
回収処理前物性を表2に併せて示した。
【0098】
〔比較例3〕
実施例4と同様に未染色の白色布帛を用いた以外は、実施例1と同様のPU繊維を含む繊維製品を用い、実施例1のベンジルアルコール(BA)をエチレングリコール(EG)に変更し、かつ処理温度を105℃から160℃に昇温して、回収処理を行った。
【0099】
回収工程中にPUが茶色く変色し、かつ6回目の処理が終わった段階でもPU固形分の大半が残存していることが確認された。回収処理前、処理後の乾燥品、再重合後のリサイクルポリエステルの物性を表2に併せて示した。
【0100】
〔比較例4〕
PU繊維を含まない以外は実施例1と同様の染色されたPET繊維を用いた繊維製品を用い、実施例1のベンジルアルコール(BA)をエチレングリコール(EG)に変更した
ところ、繊維製品および圧搾液に変化が無かったため、処理温度を105℃から160℃に昇温して、回収処理を行った。
【0101】
若干、繊維製品が減量し、布帛の脱色が起こってはいるものの、6回目の処理が終わった段階でも着色が残っていた。回収処理前、処理後の乾燥品、再重合後のリサイクルポリエステルの物性を表2に併せて示した。
【0102】
【表2】
【0103】
〔参考例1〕
PU繊維を含まない以外は、実施例1と同様の染色されたPET繊維を用いた繊維製品を用い、その他は実施例1と同様に、回収処理、リサイクル処理を行った。得られたリサイクルポリエステルの物性は、実施例1と同様なものであった。
【0104】
回収処理前、処理後の乾燥品、再重合後のリサイクルポリエステルの物性を表3に示した。
【0105】
〔参考例2〕
実施例4と同様に未染色の白色布帛を用いた以外は、実施例1と同様のPU繊維を含む繊維製品を用い、回収工程を省略した以外は実施例4と同様のリサイクル処理を行った。
【0106】
処理前および再重合後のリサイクルポリエステルの物性を表3に併せて示した。
【0107】
〔参考例3〕
PU繊維を含まず、非染色のPET繊維のみを用いた繊維製品を用い、かつ回収工程を省略した以外は実施例1と同様のリサイクル処理を行った。得られたリサイクルポリエステルの物性は、実施例1と同様なものであった。
【0108】
処理前および再重合後のリサイクルポリエステルの物性を表3に併せて示した。
【0109】
〔参考例4〕
PU繊維を含まない以外は実施例1と同様の染色されたPET繊維を用いた繊維製品を用い、かつ回収工程を省略した以外は実施例1と同様のリサイクル処理を行った。残存する窒素含有量は多く、色味も黄変したものであった。
【0110】
処理前および再重合後のリサイクルポリエステルの物性を表3に併せて示した。
【0111】
【表3】
【0112】
〔実施例5〕
ベンジルアルコール(BA)4000gに1.5gの酢酸マンガンを加えた以外は実施例1と同様にして、回収処理およびリサイクル処理を行った。回収処理し、さらに乾燥した後の繊維製品の重量は319gであった。収率が若干劣った。
【0113】
回収処理前、処理後の乾燥品、再重合後のリサイクルポリエステルの物性を、表4に示した。
【0114】
〔実施例6〕
実施例1と同様にして乾燥したBHETを得た。その後、前記BHETを、その20重量倍の熱水(90℃)に溶解し、そこにBHETに対して0.25重量倍の活性炭を投入した。これを1時間撹拌した。その後、ヌッチェろ過を実施して活性炭を除去した水溶液を降温し、BHETを析出させた。再度、ヌッチェろ過を実施し、BHETを回収した。
【0115】
回収したBHETを、真空乾燥器にて、50℃、8時間の条件で乾燥処理した。得られた乾燥したBHETは、実施例1で得られたものより白く、異物の混入が見られないものであった。
【0116】
前記乾燥したBHET254重量部を、窒素雰囲気下の常圧の反応容器中に、リン系安定剤0.007重量部、再重合触媒として三酸化二アンチモン0.07重量部とともに仕込んだ。
【0117】
次に反応器内の温度を285℃とし、常圧で10分間、4kPaの圧力下で10分間、さらに0.4kPaの圧力下で40分間の条件で、それぞれ段階的に減圧し、反応で発生するエチレングリコールなどを反応器外に溜去しながら、重縮合反応を行い、リサイクルポリエステルを得た。
【0118】
回収処理前、処理後の最終乾燥品、再重合後のリサイクルポリエステルのLab値および窒素含有量等の物性を表4に示した。
【0119】
〔実施例7〕
繊維製品として未染色の白色布帛を用い、ポリエステルの回収工程において、ベンジルアルコール4000gに1.5gの酢酸マンガンを加えて、溶液浸漬、圧搾の工程が計1回であること以外は実施例1と同様の工程で処理を行った。
【0120】
回収処理前、処理後の乾燥品、再重合後のリサイクルポリエステルの物性を表4に併せて示した。
【0121】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明で回収されるポリエステルおよび製造されるリサイクルポリエステルは、繊維、フィルム、樹脂等の用途に好適に用いることができる。