(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】屋根鉄骨の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/342 20060101AFI20250708BHJP
E04B 1/35 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
E04B1/342 B
E04B1/35 G
E04B1/35 H
(21)【出願番号】P 2025035729
(22)【出願日】2025-03-06
【審査請求日】2025-03-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔掲載日〕 令和6年9月12日 〔ウェブサイトのアドレス〕 https://www.kajima.co.jp/news/digest/202409/index.html 〔公開者〕 鹿島建設株式会社 〔刊行物等〕 〔配布日〕 令和6年4月28日 〔配布場所〕 東京都江東区青海1丁目 TOYOTA AREA TOKYO(トヨタアリーナ東京) 〔公開者〕 鹿島建設株式会社 〔刊行物等〕 〔発行日〕 令和6年9月2日 〔刊行物〕 「月報KAJIMA」 2024年9月号 〔公開者〕 鹿島建設株式会社 〔刊行物等〕 〔開催日〕 令和6年4月28日 〔開催場所〕 東京都江東区青海1丁目 TOYOTA AREA TOKYO(トヨタアリーナ東京) 〔公開者〕 鹿島建設株式会社 〔刊行物等〕 〔公開日〕 令和6年4月 〔公開場所〕 東京都江東区青海1丁目 TOYOTA AREA TOKYO(トヨタアリーナ東京) 〔公開者〕 鹿島建設株式会社
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】和泉 整児
(72)【発明者】
【氏名】松井 盛房
(72)【発明者】
【氏名】三苫 毅光
(72)【発明者】
【氏名】川口 知真
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-13870(JP,A)
【文献】特開2024-78886(JP,A)
【文献】特開平8-82100(JP,A)
【文献】特開昭53-7729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/342
E04B 1/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視で隣り合う鉄骨梁同士を繋ぎ材により連結した屋根鉄骨を施工する際に、
先行架設した前記鉄骨梁の隣に後行の前記鉄骨梁を設置する工程と、
隣り合う前記鉄骨梁同士を、一部の前記繋ぎ材により連結する工程と、
天井部の設備を含む設備ユニットをクレーンで吊り上げ、一部の前記繋ぎ材との干渉を避けつつ隣り合う前記鉄骨梁の間に配置し、隣り合う前記鉄骨梁の間に前記設備ユニットを取り付ける工程と、
隣り合う前記鉄骨梁の間に、別の前記繋ぎ材を設置する工程と、
を実施することを特徴とする屋根鉄骨の施工方法。
【請求項2】
前記設備ユニットは、前記設備と附帯鉄骨を含み、前記附帯鉄骨が前記鉄骨梁または前記繋ぎ材に接合されることを特徴とする請求項1記載の屋根鉄骨の施工方法。
【請求項3】
前記鉄骨梁は、架台を用い、寝かせずに立てた状態で地組して製作した後、クレーンで吊り上げて設置されることを特徴とする請求項1記載の屋根鉄骨の施工方法。
【請求項4】
前記鉄骨梁は、仮設のベントから桁受部材により支持して配置され、
前記屋根鉄骨の施工後、前記桁受部材からジャッキに荷重を受け替え、ジャッキダウンを行って前記ベントを撤去することを特徴とする請求項1記載の屋根鉄骨の施工方法。
【請求項5】
前記鉄骨梁は、
上弦材と、
下弦材と、
前記上弦材と前記下弦材の間で鉛直方向に設けられる束材と、
前記上弦材と前記下弦材の間で鉛直方向に対して斜めに設けられる斜材と、
を有するトラス状の部材であり、
前記繋ぎ材は、隣り合う前記鉄骨梁の前記上弦材同士、および隣り合う前記鉄骨梁の前記下弦材同士を連結することを特徴とする請求項1記載の屋根鉄骨の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根鉄骨の施工方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
アリーナ構造物の天井部は、トラスなどの屋根鉄骨で屋根材を支持する構造となっていることが多い。アリーナ構造物の天井部では、屋根鉄骨や屋根材の他、多数の観客と多様な演出機器に対応するため、空調、電気、給排水といった設備も設けられる(例えば、特許文献1)。
【0003】
これらの設備を設置する際は、例えば、施工が完了した屋根鉄骨下のアリーナ空間で仮設の足場(総足場、部分足場、または吊り足場など)を組み、足場を利用して設備工事を行った後で、当該足場を解体する。また特許文献1には、屋根鉄骨を構成する複数のトラスと設備とを有するトラスユニットを地組し、ウインチによって吊り上げて天井部に架設することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アリーナ構造物では天井レベルでの設備工事量が多く、設備施工者の労務ひっ迫等の課題がある。係る点を鑑み、設備工事を安全かつ容易に行える手法が望まれており、大空間での鉄骨建方工事と大量の設備工事をどのように施工するのかが工事計画のポイントとなる。
【0006】
例えば前記のように設備工事のために仮設の足場を組む場合、足場の施工と、足場上で行う困難な設備工事の量が膨大となり、工期のひっ迫が懸念される。また特許文献1の方法では、複数のトラスと設備とを含むトラスユニットが大規模なものとなり、これを吊り上げるために大掛かりな機構が必要となる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、天井部の設備を安全かつ容易に設置できる屋根鉄骨の施工方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、平面視で隣り合う鉄骨梁同士を繋ぎ材により連結した屋根鉄骨を施工する際に、先行架設した前記鉄骨梁の隣に後行の前記鉄骨梁を設置する工程と、隣り合う前記鉄骨梁同士を、一部の前記繋ぎ材により連結する工程と、天井部の設備を含む設備ユニットをクレーンで吊り上げ、一部の前記繋ぎ材との干渉を避けつつ隣り合う前記鉄骨梁の間に配置し、隣り合う前記鉄骨梁の間に前記設備ユニットを取り付ける工程と、隣り合う前記鉄骨梁の間に別の前記繋ぎ材を設置する工程と、を実施することを特徴とする屋根鉄骨の施工方法である。
【0009】
本発明では、屋根鉄骨の施工途中に、設備ユニットをクレーンで吊り上げ、隣り合う鉄骨梁の間に取り付けることで、設備の設置が容易となり、総足場などの大掛かりな足場を設ける必要がなく、工期短縮や工費削減につながる。また高所での作業も減らすことができ、生産性や安全性が向上する。さらに、設備ユニットや鉄骨梁は別々に設置するので、通常のクレーンで施工を行うことができ、大掛かりな機構が不要である。
【0010】
また本発明では、隣り合う鉄骨梁を繋ぎ材により連結することで、屋根鉄骨の構造的性能が向上する。屋根鉄骨の施工時には、一部の繋ぎ材を先行設置し、先行架設した鉄骨梁と後行の鉄骨梁とを連結することで、後行の鉄骨梁の横倒れを防止できる。また繋ぎ材の全てで無く設備ユニットに干渉しない一部のみを計画的に先行設置できるので、その後でクレーンを用いて設置する設備ユニットと、繋ぎ材との干渉を防止することができる。
【0011】
前記設備ユニットは、例えば前記設備と附帯鉄骨を含み、前記附帯鉄骨が前記鉄骨梁または前記繋ぎ材に接合される。
設備ユニットは、鉄骨梁等に接合される附帯鉄骨を含むように構成することで、設備ユニットの取付が容易になる。
【0012】
前記鉄骨梁は、架台を用い、寝かせずに立てた状態で地組して製作した後、クレーンで吊り上げて設置されることが望ましい。
これにより、鉄骨梁の製作用のヤードを最小限としてスペースの削減につながり、クレーン等の建方重機の設置数を増やすことができる。また、クレーン等で鉄骨梁を建て起こす作業も不要になる。そのため工期を短縮でき、鉄骨梁の建て起こし時の災害リスクも無くすことができる。
【0013】
前記鉄骨梁は、仮設のベントから桁受部材により支持して配置され、前記屋根鉄骨の施工後、前記桁受部材からジャッキに荷重を受け替え、ジャッキダウンを行って前記ベントを撤去することが望ましい。
鉄骨梁は例えばベントから桁受部材によって支持し、高所に架設することができる。ベントは、桁受部材からジャッキに荷重を受け替え、屋根鉄骨のジャッキダウンを行った後、撤去することができる。
【0014】
前記鉄骨梁は、上弦材と、下弦材と、前記上弦材と前記下弦材の間で鉛直方向に設けられる束材と、前記上弦材と前記下弦材の間で鉛直方向に対して斜めに設けられる斜材と、を有するトラス状の部材であり、前記繋ぎ材は、隣り合う前記鉄骨梁の前記上弦材同士、および隣り合う前記鉄骨梁の前記下弦材同士を連結する。
鉄骨梁をトラスとすることで、少ない鉄骨量で高い剛性を実現できる。この場合、繋ぎ材は、鉄骨梁の上弦材同士、下弦材同士を連結するように設ける。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、天井部の設備を安全かつ容易に設置できる屋根鉄骨の施工方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図5】桁受金具812による鉄骨梁40の支持とジャッキダウンについて説明する図。
【
図9】ダクト73の軸方向と直交する断面を示す図。
【
図10】キャットウォークユニット10bの概略を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(1.アリーナ構造物1)
図1は、本発明の実施形態に係る施工方法により屋根鉄骨4が施工されるアリーナ構造物1の概略を示す図である。アリーナ構造物1は、無柱のアリーナ空間Sを取り囲むように客席2を設け、客席2の周囲に設けた外周鉄骨3の間に屋根鉄骨4を架け渡し、屋根鉄骨4によって折板屋根などの屋根材5を支持したものとなっている。屋根鉄骨4および屋根材5はアリーナ構造物1の天井部を構成し、当該天井部には種々の設備7も設けられる。設備7は例えば後述するダクトやケーブルラック、分電盤、照明等であるが、特に限定されることはない。
【0019】
屋根鉄骨4は鉄骨梁40を有する。鉄骨梁40は、上弦材41、下弦材42、斜材43、および束材44を有するトラス状の部材である。斜材43は上弦材41と下弦材42の間で鉛直方向に対して斜めに設けられ、束材44は上弦材41と下弦材42の間で鉛直方向に設けられる。束材44は鉄骨梁40のスパン方向に間隔を空けて配置される。鉄骨梁40のスパン方向は
図1の左右方向に対応する。斜材43はスパン方向に隣り合う束材44の間に配置され、斜材43の両端部が、斜材43の両隣の束材44と同じ位置で鉄骨梁40の上弦材41と下弦材42とに接合される。
【0020】
また屋根鉄骨4は、鉄骨梁40のスパン方向において、外周鉄骨3側の端部4-1と、両端部4-1の間の中央部4-2とに分割される。
【0021】
図2は、アリーナ構造物1の屋根材5の一部を省略して屋根鉄骨4の平面を示した図である。
図2に示すように、鉄骨梁40は、鉄骨梁40のスパン直交方向に間隔を空けて複数配置され、平面視でスパン直交方向に隣り合う鉄骨梁40同士が、後述の繋ぎ材を含む上弦部鉄骨45や下弦部鉄骨により連結される。鉄骨梁40のスパン直交方向は、鉄骨梁40のスパン方向と平面において直交する方向であり、
図2の上下方向に対応する。上弦部鉄骨45および下弦部鉄骨については後述する。
【0022】
(2.屋根鉄骨4の施工方法)
屋根鉄骨4は、鉄骨梁40のスパン方向の端部4-1と、中央部4-2とに分けて分割施工される。以下、その施工方法、特に端部4-1の施工手順について説明する。
【0023】
屋根鉄骨4の施工は、少なくとも外周鉄骨3の施工を行った後、屋根材5の施工を行う前に開始される。
図3(a)に示すように、アリーナ空間Sには仮設のベント8が立設され、その頂部には鉄骨梁40の支持部81が設けられる。端部4-1の鉄骨梁40は、中央部4-2側(
図3(a)の左側に対応する)の一端を支持部81で支持し、他端を外周鉄骨3に接合して設置される。
図1では、ベント8を設ける位置を鎖線で示している。
【0024】
支持部81における支持は、
図5(a)に示すように、鉄骨梁40の下面に設けたコマ材813をベント8の頂部に設けた桁受金具(桁受部材)812で支持することによって行われる。
図5(a)の符号811は、後の工程で用いるジャッキである。
【0025】
この状態から、新たな鉄骨梁40を図示しないクレーンによって地上のヤード等から吊り上げ、
図3(b)に示すように、先行架設した鉄骨梁40のスパン直交方向の隣に前記と同様に設置する。
【0026】
鉄骨梁40は、地上(アリーナ空間S内)のヤードで地組される。
図6(a)は鉄骨梁40の地組に用いる架台100の概略を示す図である。架台100は、桁部101の中央部に一対の支持部102を立設し、支持部102の頂端に支持部102から両側に突出する腕部103を設けたものであり、全体としてエの字状の形状を有する。架台100はH形鋼などの鉄骨材により形成される。
【0027】
図6(b)に示すように、地上のヤードにおいて、複数の架台100が間隔を空けて配置される。これらの架台100の桁部101等に下弦材42を設置し、下弦材42に斜材43や束材44の下端部を固定する。その後、上弦材41を斜材43や束材44の上端部に固定する。上弦材41は、各架台100の腕部103に架け渡して支持できる。腕部103の上には、必要に応じて高さ調整用のコマ材104を配置し、上弦材41をコマ材104上に載置する。架台100の間や、両端の架台100の外側には、仮設足場110を設置し、仮設足場110上から鉄骨梁40の立設を行う。
【0028】
このように、鉄骨梁40は、架台100を用い、寝かせることなく立てた状態で製作できる。そのため、鉄骨梁40の製作用のヤードを最小限としてスペースの削減につながり、クレーン等の建方重機の設置数を増やすことができる。また、クレーン等で鉄骨梁40を建て起こす作業も不要になる。これにより、工期を短縮でき、鉄骨梁40の建て起こし時の災害リスクも無くすことができる。さらに、
図6(a)の架台100は、支持部102の両側で2つの鉄骨梁40を並行して製作できるため、さらなる工期の短縮が期待できる。
【0029】
こうして新たな鉄骨梁40の地組と設置を行った後、
図3(c)に示すように、先行架設した鉄骨梁40と、新たな鉄骨梁40(以下、後行の鉄骨梁40という)とを、スパン直交方向の繋ぎ材451、461によって連結する。繋ぎ材451、461にはH形鋼などの鉄骨材が用いられる。繋ぎ材451は、両鉄骨梁40の上弦材41同士を一部の束材44の上端部に当たる位置で連結し、繋ぎ材461は、両鉄骨梁40の下弦材42同士を一部の束材44の下端部に当たる位置で連結する。
【0030】
こうして鉄骨梁40同士を繋ぎ材451、461で連結することで後行の鉄骨梁40の横倒れを防止できる。その後、後行の鉄骨梁40のクレーンによる吊り支持を解除することで、後の工程で設置する設備ユニットとクレーンとの干渉を防止できる。繋ぎ材451の数や配置は、鉄骨梁40の横倒れ防止や後の工程で設置する設備ユニットとの干渉防止等を考慮して、事前に計画することができる。繋ぎ材461の数や配置も、鉄骨梁40の横倒れ防止等を考慮して事前に計画することができる。
【0031】
先行架設した鉄骨梁40と後行の鉄骨梁40の間では、
図3(d)に示すように、下弦材42同士を繋ぐ別の繋ぎ材461をさらに設置する。先行設置した繋ぎ材461も含め、各繋ぎ材461は、両鉄骨梁40の下弦材42同士を、各束材44の下端部に当たる位置で連結する。これらの繋ぎ材461は、両鉄骨梁40の下弦材42同士を連結する本設の下弦部鉄骨を構成する。
【0032】
本実施形態では、次に、
図4(a)に示すように、先行架設した鉄骨梁40と後行の鉄骨梁40の間に、設備7と附帯鉄骨を含む設備ユニットを取り付ける。設備ユニットは、地上のヤードで地組し、吊り天秤等を用いて図示しないクレーンで吊り上げる。そして、鉄骨梁40の上方から、繋ぎ材451を避けて両鉄骨梁40の間に吊り降ろして配置する。
【0033】
図7は、設備ユニットの例であるぶどう棚ユニット10の概略を示す図である。
図7(a)はぶどう棚ユニット10の上面を示す図であり、
図7(b)はぶどう棚ユニット10の側面を示す図である。
【0034】
図7の例では、設備7として、ダクト71a、71bおよびケーブルラック72が設けられ、ダクト71aおよびケーブルラック72が、支持材11上に設置される。また支持材11が、ぶどう棚12から垂下した吊材13によって支持される。
【0035】
ぶどう棚12は、平行に配置した一対の梁材121を連結材122によって連結した梯子状の平面を有する附帯鉄骨である。梁材121や連結材122にはH形鋼などの鉄骨材が用いられる。梁材121はぶどう棚12の長手方向に沿って配置され、連結材122はぶどう棚12の幅方向に沿って配置される。連結材122は、ぶどう棚12の長手方向に間隔を空けて複数設けられる。ぶどう棚12の長手方向は、
図7(a)、(b)の左右方向に対応する。ぶどう棚12の幅方向は、ぶどう棚12の長手方向と平面において直交する方向であり、
図7(a)の上下方向および
図7(b)の紙面法線方向に対応する。
【0036】
支持材11はぶどう棚12の幅方向に沿って配置され、その両端部が吊材13によって吊り支持される。吊材13の上端部は、ぶどう棚12の両側の梁材121に取り付けられる。支持材11および吊材13は、ぶどう棚12の長手方向に間隔を空けて複数設けられる。ぶどう棚12は、ダクト71a等の吊り下げのみではなく、上部にダクト71b等の設備7を載置するための受材としての利用も出来る。
【0037】
ぶどう棚ユニット10は、先行架設した鉄骨梁40と後行の鉄骨梁40の間に、ぶどう棚12の長手方向をスパン直交方向あるいはスパン方向として配置される。ぶどう棚12の長手方向の両端部を、鉄骨梁40の束材44などから突出するガセットプレート等の接合板(不図示)にボルト等で接合することで、ぶどう棚ユニット10が両鉄骨梁40の間に取り付けられる。
【0038】
図8は、設備ユニットの別の例であるダクトユニット10aの概略を示す図である。
図8(a)はダクトユニット10aの上面を示す図であり、
図8(b)はダクトユニット10aの側面を示す図である。
【0039】
図8の例では、設備7としてダクト73が設けられ、ダクト73が附帯鉄骨であるダクト受け材14上に設置される。ダクト受け材14は、平行に配置した一対の梁材141を連結材142によって連結した梯子状の平面を有し、溝形鋼などの鉄骨材により形成される。
【0040】
梁材141はダクト受け材14の長手方向に沿って配置され、連結材142はダクト受け材14の幅方向に沿って配置される。連結材142は、ダクト受け材14の長手方向に間隔を空けて複数本設けられる。ダクト受け材14の長手方向は、
図8(a)、(b)の左右方向に対応する。ダクト受け材14の幅方向は、ダクト受け材14の長手方向と平面において直交する方向であり、
図8(a)の上下方向および
図8(b)の紙面法線方向に対応する。
【0041】
ダクト73は、その軸方向をダクト受け材14の長手方向に合わせて配置される。
図9はダクト73の軸方向と直交する断面(以下、単に断面という)を示す図である。ダクト73は、矩形状の断面を有する筒状のダクト本体731の外側に、断熱材等の保温材732を設けた構成となっている。保温材732は耐火性や耐湿性(耐水性)を有する。
【0042】
図8に示すように、ダクト受け材14には、ダクト73を固定する固定機構15が設けられる。固定機構15は、ダクト受け材14の両側の梁材141から上方に延びる鉛直材151と、ダクト73の上面に沿って配置される水平材152を有する。水平材152は、ダクト受け材14の幅方向に沿って配置され、その両端部にダクト受け材14の両側の鉛直材151の上端部が取り付けられる。固定機構15は、ダクト受け材14の長手方向に間隔を空けて複数配置される。
【0043】
ダクトユニット10aは、先行架設した鉄骨梁40と後行の鉄骨梁40の間に、ダクト受け材14の長手方向をスパン直交方向あるいはスパン方向として配置される。ダクト受け材14の長手方向の両端部を、鉄骨梁40の下弦材42や繋ぎ材461に設けたガセットプレートなどの接合板(不図示)にボルト等で接合することで、ダクトユニット10aが両鉄骨梁40の間に取り付けられる。なお、ダクト受け材14を、鉄骨梁40の上弦材41や斜材43、束材44に設けた接合板に接合する場合もある。
【0044】
図10は設備ユニットのさらに別の例であるキャットウォークユニット10bの概略を示す図である。
図10(a)はキャットウォークユニット10bの上面を示す図であり、
図10(b)はキャットウォークユニット10bの側面を示す図である。
【0045】
図10の例では、設備7として分電盤74およびケーブルラック75が設けられ、分電盤74およびケーブルラック75が、附帯鉄骨である鉄骨フレーム16によって支持される。鉄骨フレーム16は、平行に配置した一対の梁材161を連結材162によって連結した梯子状の平面を有し、H形鋼などの鉄骨材により形成される。
【0046】
梁材161は鉄骨フレーム16の長手方向に沿って配置され、連結材162は鉄骨フレーム16の幅方向に沿って配置される。連結材162は、鉄骨フレーム16の長手方向に間隔を空けて複数本設けられる。鉄骨フレーム16の長手方向は、
図10(a)、(b)の左右方向に対応する。鉄骨フレーム16の幅方向は、鉄骨フレーム16の長手方向と平面において直交する方向であり、
図10(a)の上下方向および
図10(b)の紙面法線方向に対応する。
【0047】
鉄骨フレーム16の連結材162上には、キャットウォークとして用いる金属製の床板163が設けられる。分電盤74は床板163上に配置される。ケーブルラック75は、鉄骨フレーム16上に設けた支持機構17によって支持される。支持機構17は、鉄骨フレーム16の両側の梁材161から上方に延びる鉛直材171と、鉄骨フレーム16の幅方向に沿って配置される水平材172を有し、水平材172の両端部に鉄骨フレーム16の両側の鉛直材171の上端部が取り付けられる。支持機構17は、鉄骨フレーム16の長手方向に間隔を空けて複数配置される。
【0048】
ケーブルラック75は、その長手方向を鉄骨フレーム16の長手方向に合わせて水平材172上に配置される。また鉄骨フレーム16の両側の梁材161上には、手摺164なども設けられる。キャットウォークユニット10bには、この他、分電盤74用の床下配線、照明、感知器等の設備7を設けることもできる。
【0049】
キャットウォークユニット10bは、鉄骨フレーム16の長手方向をスパン直交方向あるいはスパン方向とし、先行架設した鉄骨梁40と後行の鉄骨梁40の間に配置される。鉄骨フレーム16の長手方向の両端部を、鉄骨梁40の下弦材42や繋ぎ材461に設けたガセットプレートなどの接合板(不図示)にボルト等で接合することで、キャットウォークユニット10bが両鉄骨梁40の間に取り付けられる。
【0050】
図4(a)では省略しているが、先行架設した鉄骨梁40と後行の鉄骨梁40の間には、設備ユニットの他、下弦材42に対応する高さでフリーアクセス天井(フレキシブル天井)が設けられる場合もある。
図11に概略を示すように、フリーアクセス天井9はワイヤーメッシュ91を鉄骨フレーム92に取り付けた天井材であり、複数枚のフリーアクセス天井9をクレーンにより一括して吊り上げ、鉄骨フレーム92を鉄骨梁40の下弦材42や繋ぎ材461に設けたガセットプレートなどの接合板(不図示)にボルト等で接合することで、フリーアクセス天井9を両鉄骨梁40の間に取り付けることができる。
【0051】
設備ユニットやフリーアクセス天井9は、低い位置に取り付けるものから順に設置される。例えばフリーアクセス天井9やキャットウォークユニット10bは先に設置され、ぶどう棚ユニット10は後に設置される。
【0052】
こうして設備ユニット等の設置を行った後、
図4(b)に示すように、先行架設した鉄骨梁40と後行の鉄骨梁40の上弦材41同士を繋ぐ別の繋ぎ材451、および斜材452の設置を行う。
【0053】
先行設置した繋ぎ材451も含め、各繋ぎ材451は、両鉄骨梁40の上弦材41同士を、各束材44の上端部に当たる位置で連結する。斜材452は、スパン方向に隣り合う繋ぎ材451の間で、スパン直交方向に対して斜めに設けられる。斜材452の両端部は、斜材452の両隣の繋ぎ材451と同じ位置で両鉄骨梁40の上弦材41に接合される。繋ぎ材451と斜材452は、両鉄骨梁40の上弦材41同士を連結する本設の上弦部鉄骨45を構成する。
【0054】
この後、
図4(c)に示すように、後行の鉄骨梁40のスパン直交方向の隣に新たな鉄骨梁40を
図3(b)と同様に配置する。以下、後行の鉄骨梁40を先行架設した鉄骨梁40と読み替えて、
図3(c)~
図4(c)の工程を繰り返すことで、屋根鉄骨4の端部4-1の鉄骨梁40や上弦部鉄骨45、下弦部鉄骨等が施工される。また工程中の適切なタイミングで、上下の繋ぎ材451、461を接続する斜材(不図示)を設けることができる。当該斜材と上下の繋ぎ材451、461、および束材44は、鉄骨梁40と直交する本設の鉄骨梁を構成する。
【0055】
屋根鉄骨4の中央部4-2の鉄骨梁40等についても同様の手順で設置することができ、設備ユニットやフリーアクセス天井9も上記と同様に設置される。ただし、中央部4-2の鉄骨梁40のスパン方向の両端部は、屋根鉄骨4の両端部4-1の鉄骨梁40にボルト等で接合できるため、
図1に示すように、中央部4-2の鉄骨梁40を直接支持するベント8等は特に必要でない。
【0056】
屋根鉄骨4の両端部4-1の鉄骨梁40と中央部4-2の鉄骨梁40、および鉄骨梁40間の上弦部鉄骨45や下弦部鉄骨を設置することで、屋根鉄骨4の施工が完了する。また、支持部81において屋根鉄骨4のジャッキダウンを行い、屋根下地(不図示)と屋根材5の施工を行うことで、アリーナ構造物1の天井部が形成される。ベント8およびこれに付随する支持部81は、屋根鉄骨4のジャッキダウンを行った後、撤去することができる。
【0057】
ジャッキダウンは、
図5(a)に示したように、鉄骨梁40を桁受金具812で支持した状態から、
図5(b)に示すようにジャッキ811を伸長させて桁受金具812からジャッキ811へと鉄骨梁40の荷重を受けかえ、
図5(c)に示すように、桁受金具812を頂部から抜き取りつつ、ジャッキ811を徐々に収縮させることで行われる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態では、屋根鉄骨4の施工途中に、設備ユニットをクレーンで吊り上げ、隣り合う鉄骨梁40の間に取り付けることで、設備7の設置が容易となり、総足場などの大掛かりな足場を設ける必要がなく、工期短縮や工費削減につながる。また高所での作業も減らすことができ、生産性や安全性が向上する。さらに、設備ユニットや鉄骨梁40は別々に設置するので、通常のクレーンで施工を行うことができ、大掛かりな機構が不要である。
【0059】
また本実施形態では、隣り合う鉄骨梁40を、繋ぎ材451を含む上弦部鉄骨45等により連結することで、屋根鉄骨4の構造的性能が向上する。屋根鉄骨4の施工時には、一部の繋ぎ材451等を先行設置し、先行架設した鉄骨梁40と後行の鉄骨梁40を連結することで、後行の鉄骨梁40の横倒れを防止できる。また、この段階で後行の鉄骨梁40のクレーンによる吊り支持を解除できるようになり、設備ユニットの設置時に当該クレーンとの干渉を防止できる。
【0060】
また繋ぎ材451の全てで無く設備ユニットに干渉しない一部のみを計画的に先行設置できるので、その後にクレーンを用いて設置する設備ユニットと、繋ぎ材451との干渉を防止することができる。また仮に、全ての繋ぎ材451の設置完了後に設備7の設置を行う場合、繋ぎ材451の設置を設備投入用の開口を設けた状態で完了する必要があるが、本実施形態では、一部の繋ぎ材451を設置した段階で設備7を設置し、別の繋ぎ材451をその後に設置するため、繋ぎ材451の設置を設備投入用の開口を設けた状態で完了する必要が無く、構造的に安定した状態で、より安全且つ効率的に次工程(ジャッキダウン)へと移行することができる。
【0061】
また、設備ユニットは、前記したように、鉄骨梁40等に接合される附帯鉄骨を含むように構成することで、設備ユニットの取付が容易になる。
【0062】
また本実施形態では、架台100を用い、鉄骨梁40を寝かせずに立てた状態で地組して製作した後、クレーンで吊り上げて設置するため、鉄骨梁40の製作用のヤードを最小限としてスペースの削減につながり、クレーン等の建方重機の設置数を増やすことができる。また、クレーン等で鉄骨梁40を建て起こす作業も不要になる。そのため工期が短縮でき、鉄骨梁40の建て起こし時の災害リスクも無くすことができる。
【0063】
また本実施形態では、鉄骨梁40をベント8から桁受金具812によって支持し、鉄骨梁40を高所に架設することができる。ベント8は、桁受金具812からジャッキ811に荷重を受け替え、屋根鉄骨4のジャッキダウンを行った後、撤去することができる。
【0064】
また本実施形態では、鉄骨梁40をトラスとすることで、少ない鉄骨量で高い剛性を実現できる。この場合、繋ぎ材451、461は、鉄骨梁40の上弦材41同士、下弦材42同士を連結するように設ける。
【0065】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限らない。例えば本実施形態では、アリーナ構造物1の屋根鉄骨4が、鉄骨梁40のスパン方向に3分割されるが、スパン方向の分割数は任意であり、状況に応じて増やしても減らしても良い。
【0066】
また本実施形態では、アリーナ構造物1の天井部の屋根鉄骨4を施工する例を説明したが、本発明は、アリーナ構造物1に限らず、大型物流施設、スタジアム、体育館、展示場、空港等、大空間を有する構造物の天井部を施工する際であれば適用できる。
【0067】
また屋根鉄骨4や鉄骨梁40の形状、配置等も特に限定されない。例えば鉄骨梁40が放射状に配置される場合もある。ベント8等の位置は、鉄骨梁40等の配置に応じて決定される。同様に、天井部に設置される設備7も特に限定されず、設備7を含む設備ユニットの形状や構成なども特に限定されない。
【0068】
その他、設備工事では隣り合うダクトユニット10aのダクト73の端部同士を連結する作業が生じ、そのジョイント部は、両ダクト73の端部の位置差をもとに別途製作し、屋根鉄骨4の建方完了後に後施工する。この際、上記位置差の計測やジョイント部の施工のため作業用足場を屋根鉄骨4に取り付ける必要がある。これに対し、所定の耐火・気密・保温性能と伸縮機能を有するジョイント部を少なくとも一方のダクト73の端部に予め設けておくことで、ジョイント部によるダクト73の連結を屋根鉄骨4の施工中に終えることも可能であり、さらなる工程短縮、生産性向上につながる。
【0069】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0070】
1:アリーナ構造物
4:屋根鉄骨
7:設備
8:ベント
10:ぶどう棚ユニット
10a:ダクトユニット
10b:キャットウォークユニット
40:鉄骨梁
41:上弦材
42:下弦材
43:斜材
44:束材
45:上弦部鉄骨
81:支持部
100:架台
451、461:繋ぎ材
811:ジャッキ
812:桁受金具
【要約】
【課題】天井部の設備を安全かつ容易に設置できる屋根鉄骨の施工方法等を提供する。
【解決手段】平面視で隣り合う鉄骨梁40同士を繋ぎ材451等により連結した屋根鉄骨4を施工する際に、先行架設した鉄骨梁40の隣に後行の鉄骨梁40を設置する工程と、隣り合う鉄骨梁40同士を、一部の繋ぎ材451等により連結する工程と、天井部の設備7を含む設備ユニットをクレーンで吊り上げ、一部の繋ぎ材451等との干渉を避けつつ隣り合う鉄骨梁40の間に配置し、隣り合う鉄骨梁40の間に設備ユニットを取り付ける工程と、隣り合う鉄骨梁40の間に別の繋ぎ材451を設置する工程と、を実施する。
【選択図】
図4