(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-08
(45)【発行日】2025-07-16
(54)【発明の名称】光ADコンバータおよび光受信器
(51)【国際特許分類】
G02F 7/00 20060101AFI20250709BHJP
G02F 1/015 20060101ALN20250709BHJP
【FI】
G02F7/00
G02F1/015 502
(21)【出願番号】P 2021177000
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2024-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】秋山 知之
(72)【発明者】
【氏名】星田 剛司
(72)【発明者】
【氏名】松井 潤
(72)【発明者】
【氏名】田中 信介
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/073447(WO,A1)
【文献】特開2001-051314(JP,A)
【文献】米国特許第09356704(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00- 1/125
G02F 1/21- 7/00
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される信号光に含まれる情報のアナログ信号をデジタル信号に変換する光ADコンバータであって、
前記デジタル信号のビット数Nに対応するN個のステージは、それぞれ、
前記信号光と、ローカル光を分岐した基準光と、前記ローカル光を分岐した参照光と、をそれぞれ導波する光導波路と、
前記信号光と前記参照光の光レベルを検出および比較し、2値の比較結果をデジタル値として出力する受光部と、
前記受光部の比較結果に基づき、前記基準光の光レベルを可変制御する光変調器と、を有し、
前記光変調器の変調出力を次段のステージの参照光に合波させる、
ことを特徴とする光ADコンバータ。
【請求項2】
入力される信号光に含まれる情報のアナログ信号をデジタル信号に変換する光ADコンバータであって、
前記デジタル信号のビット数Nに対応するN個のステージを有し、
N個の前記ステージは、それぞれ、
前記信号光を分岐入力し、1以上の導波路で構成されるグループ1の光導波路と、
ローカル光を分岐した一方を参照光として、当該参照光を導波する1以上の導波路で構成されるグループ2の光導波路と、
前記ローカル光を分岐した他方を基準光として、当該基準光を導波する1以上の導波路で構成されるグループ3の光導波路と、
前記信号光と、前記参照光の光レベルを検出および比較し、2値の比較結果をステージのデジタル値として出力する受光部と、
前記グループ3の光導波路で導かれた前記基準光が分岐入力され、前記受光部の比較結果に基づき、前記基準光の光レベルを変調により可変制御する光変調器と、を有し、
前記グループ2の光導波路は、前記参照光に、
前記光変調器の変調出力を合波させ、次段のステージの参照光として導波することで、
前記N個のステージでNビットのデジタル信号を出力する、
ことを特徴とする光ADコンバータ。
【請求項3】
前記受光部は、
前記信号光と前記参照光を検出する一対の差動型の受光素子と、
前記一対の差動型の受光素子の差動出力に基づき、前記信号光と前記参照光の光レベルを比較出力する比較器と、
を有することを特徴とする請求項1または2に記載の光ADコンバータ。
【請求項4】
前記比較器は、
前記参照光の光レベルよりも
前記信号光の光レベルが大きいとき値1を出力し、それ以外では値0を出力することを特徴とする請求項3に記載の光ADコンバータ。
【請求項5】
前記光変調器は、
前記受光部の比較結果に基づき、前記基準光を用いて前記参照光の位相に対し同相または逆相の位相変調を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の光ADコンバータ。
【請求項6】
前記光変調器は、
前記比較器の出力が値1のとき、前記参照光の位相と同相となる位相変調を行い、
前記比較器の出力が値0のとき、前記参照光の位相と逆相となる位相変調を行う、ことを特徴とする
請求項4に記載の光ADコンバータ。
【請求項7】
前記光導波路には、前記信号光、前記参照光および前記基準光のタイミングを整合させる遅延器が設けられたことを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の光ADコンバータ。
【請求項8】
前記光変調器は、
分岐した光導波路に沿って一対の電極を配置し、前記電極に対する電圧制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の光ADコンバータ。
【請求項9】
IQ変調の前記信号光であり、
前記光導波路がIQ別に分岐され、
前記信号光の光導波路に90°ハイブリッド回路が設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の光ADコンバータ。
【請求項10】
請求項1~9いずれか一つに記載の光ADコンバータと、
前記ローカル光を生成する局所発振光源と、
前記光ADコンバータによりAD変換後の前記信号光に含まれる情報を出力するデータ処理部と、を含む、
ことを特徴とする光受信器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ADコンバータおよび光受信器に関する。
【背景技術】
【0002】
光受信器では、受信した信号光に載った情報をデジタルの電気信号に変換する機能が必要である。現状の光受信器では、受信した信号光を受光素子により変換したアナログの電気信号を増幅した後、電気回路で実現したアナログ・デジタル変換器(ADC:ADコンバータ)を用いてデジタルの電気信号にしている。
【0003】
光受信器に関連する技術としては、例えば、受信した多重信号光を偏波分離器および90度ハイブリッド回路により偏波分離し、同相成分と直交成分の信号光を光電変換器で電気信号に変換し、増幅器で増幅したものをADCに出力する技術がある。また、受信した信号光を偏波分割部で偏波分離し、光電気変換部で電気信号に変換し、波長分散の信号歪を分散補償部で補償する技術がある(例えば、下記特許文献1,2参照。)。
【0004】
例えば、アナログ信号の信号光に含まれる情報のアナログ信号をNビットのそれぞれで逐次比較し、デジタル信号に変換出力するSAR型ADコンバータがある(例えば、下記非特許文献1,2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-198637号公報
【文献】特開2017-5551号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Successive-approximation ADC,[online],Wikipedia,[令和3年9月6日検索],インターネット<URL:https://en.wikipedia.org/wiki/Successive-approximation_ADC>
【文献】TUTORIAL ON SUCCESSIVE APPROXIMATION REGISTERS (SAR) AND FLASH ADCS,Maxim Technical Documents tutorials 1080,[令和3年9月6日検索],インターネット<URL:https://www.maximintegrated.com/en/design/technical-documents/tutorials/1/1080.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、光受信器でAD変換を行うには、信号光を受光素子でアナログの電気信号に変換した後、電気回路のADCでデジタルの電気信号に変換しており、光受信器におけるAD変換の消費電力が増大した。また、光伝送の高密度化および大容量化に対応するためには、低速なADCを並列化する必要が生じ、この点でも消費電力が増大した。
【0008】
一つの側面では、本発明は、光回路を含むAD変換により消費電力を低減できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によれば、入力される信号光に含まれる情報のアナログ信号をデジタル信号に変換する光ADコンバータであって、前記デジタル信号のビット数Nに対応するN個のステージは、それぞれ、前記信号光と、ローカル光を分岐した基準光と、前記ローカル光を分岐した参照光と、をそれぞれ導波する光導波路と、前記信号光と前記参照光の光レベルを検出および比較し、2値の比較結果をデジタル値として出力する受光部と、前記受光部の比較結果に基づき、前記基準光の光レベルを可変制御する光変調器と、を有し、前記光変調器の変調出力を次段のステージの参照光に合波させる、ことを要件とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、光回路を含むAD変換により消費電力を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明による光ADコンバータを示す回路図である。
【
図2A】
図2Aは、光ADコンバータの内部回路の構成の説明図である。(その1)
【
図2B】
図2Bは、光ADコンバータの内部回路の構成の説明図である。(その2)
【
図2C】
図2Cは、光ADコンバータの内部回路の構成の説明図である。(その3)
【
図2D】
図2Dは、光ADコンバータの内部回路の構成の説明図である。(その4)
【
図2E】
図2Eは、光ADコンバータの内部回路の構成の説明図である。(その5)
【
図2F】
図2Fは、光ADコンバータの内部回路の構成の説明図である。(その6)
【
図3A】
図3Aは、既存のSAR型ADコンバータの構成例を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、既存のSAR型ADコンバータの動作例の説明図である。
【
図3C】
図3Cは、実施の形態の光ADコンバータの動作例の説明図である。
【
図4】
図4は、既存技術と実施の形態の消費電力の対比図である。
【
図5】
図5は、光ADコンバータに配置する遅延部の遅延量設定の説明図である。
【
図6】
図6は、光変調器の概要構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、光ADコンバータによる被変換光と参照光のパワー、およびデジタル信号の出力例を示す図である。
【
図8】
図8は、光ADコンバータの受光部の他の構成例を示す図である。
【
図9】
図9は、IQ変調用光ADコンバータを示す回路図である。
【
図10】
図10は、IQ変調用光ADコンバータの動作例の説明図である。
【
図11】
図11は、IQ変調用光ADコンバータの他の構成例を示す回路図である。
【
図12】
図12は、IQ変調用光ADコンバータの受光素子へ入射させる光強度の分岐比の説明図である。
【
図13】
図13は、光受信器の構成例を示す図である。(その1)
【
図14】
図14は、光受信器の構成例を示す図である。(その2)
【
図15】
図15は、光受信器の構成例を示す図である。(その3)
【
図16】
図16は、光受信器の構成例を示す図である。(その4)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、開示の光ADコンバータおよび光受信器の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
(実施の形態)
図1は、本発明による光ADコンバータを示す回路図である。光ADコンバータ100は、受信した信号光に含まれる情報のAD変換に光回路を用いる。光ADコンバータ100は、信号光(被変換光)を直接受信して内部の光回路で伝搬し、アナログ・デジタル変換を行う。
【0014】
ここで、既存のSAR型ADコンバータが電気回路のみで行うNビットの電気信号のアナログ入力を上位ビットから順に逐次比較し、Nビットのデジタル出力を行うAD変換動作を行う。光ADコンバータ100は、SAR型ADコンバータと同様のAD変換動作を、光回路と電気回路とを用い、Nビットの信号光のアナログ入力を上位ビットから順に逐次比較してNビットのデジタル出力を行う。
【0015】
光ADコンバータ100には、伝送され受信した信号光(被変換光)Esigと、局所発振光源のローカル光(LO光)が入力される。
【0016】
図1に示すように、光ADコンバータ100は、光の導波方向(
図1のX方向)に沿って複数Nのステージ(Stage1~N)が配置される。また、
図1のX方向と直交するY方向に沿って複数のグループ(Group1~3)の各光導波路101~103が配置される。ステージ数Nは、被変換光に載った状態の情報(アナログ信号)をデジタル変換した場合のNビット(Bit1~N、例えば、5ビット、8ビット等)のビット数(解像度)に相当する列数で配置される。Nビットは、MSB~LSBまでのN個のビット列からなる。
【0017】
光ADコンバータ100の電気回路は、Nステージにそれぞれ配置される受光部110を含む。受光部110は、各ステージに対応するデジタル信号をビット出力する。受光部110は、受光素子111と、識別器(比較器)112とを含む。受光素子111は、バランス型(差動型)であり、一方に入力される被変換光Esigと、他方に入力される参照光Erefの信号光と、を検出し、被変換光Esigと、参照光Erefの差分の電気信号を出力する。
【0018】
識別器112は、受光素子111の出力(電気信号)に基づき、被変換光Esigと、参照光Erefと、の光強度(光レベル)の大小比較を行う。識別器112は、比較結果として2値のデジタル信号(出力1/0)を出力する。
【0019】
光ADコンバータ100の光回路は、信号光を伝搬する光導波路101~103と、光変調部(光変調器)120を含む。光変調部120は、識別器112の比較結果である2値のデジタル信号(出力1/0の電気信号)の入力に基づき、Group3の基準光を位相変調した変調出力EModをGroup2の光導波路102に合波出力する。後述するが、光変調部120は、変調出力EModを合波する参照光Erefを基準として、この参照光Erefの位相に対し、同相または逆相となる変調を行う。
【0020】
光ADコンバータ100に入力される被変換光Esigは、グループ(Group)1の光導波路101を介してN個のステージにそれぞれ分岐出力される。Group1の光導波路101は、Nビットの情報が載った被変換光EsigをN個の各ステージ(Stage1~N)に導波する。Group1の被変換光Esigは、N個のステージの受光部110に対し同じ光強度で入力される。
【0021】
光ADコンバータ100に入力されるLO光は、参照光Erefと、基準光ELOとに分岐される。Group3の光導波路103は、基準光ELOをN個のステージ(Stage1~N)にそれぞれ設けられる光変調部120に分岐出力する。Group3の基準光は、N個のステージの光変調部120に対し同じ光強度で入力される。
【0022】
Group2の光導波路102は、参照光ErefをN個のステージのStage1~Nを順次通過する形で導波する。ここで、N個のステージにそれぞれ設けられる光変調部120は、変調出力EModをGroup2の参照光Erefに合波して次段のステージに供給する。例えば、Stage1が出力するGroup2の参照光の光強度をE’refとしたとき、Stage1の光変調部120が位相変調した変調出力EModの合波により、Stage2の参照光はE”refに光強度が可変される。
【0023】
また、各グループ(Group1~3)の光導波路101~103上には、信号光を遅延する遅延器τ(130)が配置される。遅延器τ(130)は、N個の各ステージ(Stage1~N)での各グループ(Group1~3)の信号光のタイミングを整合させる。遅延器τ(130)によるタイミング整合の詳細は後述する。
【0024】
図2A~
図2Fは、光ADコンバータの内部回路の構成の説明図である。これらの図を用いて、信号光の導波に沿った光ADコンバータ100の構成および動作例を説明する。
図2Aに示すように、光ADコンバータ100に入力される被変換光E
sigは、先頭のStage1において、Group1の光導波路101から分岐され、受光部110の受光素子111に入力される。また、後段のStage2~Nにおいても、被変換光E
sigは、Group1の光導波路101から分岐され、受光部110の受光素子111に入力される。被変換光E
sigは、N個のステージ(Stage1~N)の受光部110に対し同じ光強度で入力される。
【0025】
図2Bに示すように、光ADコンバータ100に入力されるLO光は、Group2の光導波路102の参照光と、Group3の光導波路103の基準光とに分岐される。Group2の光導波路102の参照光E
refは、Stage1~Nを順次経由して、各Stage1~Nの受光部110の受光素子111に分岐入力される。参照光E
refは、上記のように、光変調部120の変調出力E
Modに基づき、Stage1~Nごとに異なる光強度となり得る。
【0026】
また、Group3の光導波路103の基準光は、Stage1~Nの光変調部120にそれぞれ分岐入力される。基準光は、N個のステージ(Stage1~N)の光変調部120に対し同じ光強度で入力される。
【0027】
図2Cに示すように、各Stage1~Nに設けられる受光部110は、受光素子111により被変換光E
sigと、参照光E
refの信号光を光電変換する。また、受光部110の識別器112は、被変換光E
sigと、参照光E
refの受光レベルとを大小比較した比較結果としてStage1に対応するビットをデジタル出力する。識別器112は、Bit1(MSB)のデジタル信号(1/0)をデジタル出力する。
【0028】
識別器112は、被変換光Esigと、参照光Erefとの受光レベルを大小比較し、被変換光Esig>参照光Erefのとき、Bit1=1を出力する。また、被変換光Esig<参照光Erefのとき、Bit1=0を出力する。なお、被変換光Esig=参照光Erefのとき、Bit1出力=0を出力する。
【0029】
識別器112の電気信号の出力は、光変調部120に出力される。光変調部120には、Group3の基準光が分岐入力される。光変調部120には、受光部110(識別器112)が出力する被変換光Esigと、参照光Erefの比較結果が入力される。
【0030】
図2Dに示すように、光変調部120は、入力される比較結果(出力1/0)に基づきGroup3の基準光に対し、変調出力E
Modを合波する参照光E
refを基準として、この参照光E
refの位相に対し、同相または逆相となる変調を行う。例えば、光変調部120は、識別器112の比較結果が出力1であれば、参照光E
refの位相と同相となる位相変調を行う。また、光変調部120は、比較結果が出力0であれば、参照光E
refの位相と逆相となる位相変調を行う。このように、光変調部120は、比較結果1/0に応じて信号光の位相をスイッチし、Stage1における比較結果の変調出力E
Modを出力する。
【0031】
図2Eに示すように、光変調部120の変調出力E
Modは、Group2の参照光に合波入力される。これにより、例えば、Stage1の光変調部120の変調出力E
Modに対応して、次段のStage2に供給される参照光の強度が可変する。Stage1の参照光をE’
refとしたとき、変調出力E
Modの合波によりStage2の参照光の強度はE”
refに可変される。
【0032】
例えば、Stage1の識別器112の比較結果が出力1のとき、光変調部120の変調出力EModは同相となり、Stage2の参照光Erefの光レベルは増大する(例えば、1.5倍)。一方、Stage1の識別器112の比較結果が出力0のとき、光変調部120の変調出力EModが逆相となり、Stage2の参照光Erefの光レベルは減少する(例えば、0.5倍)。
【0033】
Stage2~StageN-1の構成については、Stage1と同様である。これにより、Stage2~StageN-1は、Stage1と同様にそれぞれNビット(Bit2~N-1)それぞれのデジタル出力を行う。
【0034】
図2Fに示すように、StageNには、受光部110(受光素子111と識別器112)が設けられる。StageNの受光部110には、Group1の被変換光E
sigと、StageN-1通過後のGroup2の参照光E
refとが入力される。StageNの受光部110(識別器112)は、BitNのデジタル出力を行う。
【0035】
ここで、既存のSAR型ADコンバータの構成および動作例を説明しておく。
図3Aは、既存のSAR型ADコンバータの構成例を示す図、
図3Bは、既存のSAR型ADコンバータの動作例の説明図である。また、
図3Cは、実施の形態の光ADコンバータの動作例の説明図である。
【0036】
図3Aに示すように、信号光をAD変換する場合、SAR型ADコンバータ300を用いる。また、SAR型ADコンバータ300の前段には、受光素子301と、TIA(Transresistance Amplifier)302と、デシリアライザ(Des)303とを配置する。
【0037】
差動型の受光素子301は、受信した信号光と、光源のLO光とを合波後の一対の信号光を光電変換し、TIA302で増幅する。TIA302のアナログ信号は、デシリアライザ303でパラレル化してSAR型ADコンバータ300に入力される。
【0038】
SAR型ADコンバータ300は、SAR(逐次比較レジスタ)310、DAコンバータ(DAC)311、サンプルホールド(S/H)回路312、識別器313を備える。サンプルホールド回路312は、入力された所定の電圧Vinを保持する。電圧Vinは、受信した信号に載るNビットのデジタル信号の値に応じた電圧である。識別器313は、VinをDAC311の出力と比較し、比較結果を逐次比較レジスタ(SAR)310に出力する。
【0039】
図3Bの横軸は時間、縦軸は電圧である。
図3Bに示すように、逐次比較レジスタ(SAR)310は、初期状態でMSBが1に初期化され、DAC311に供給する。DAC311は、デジタルコード(Vref/2)に相当するアナログ信号V
DACを識別器313に供給する。
【0040】
識別器313は、上位ビット(MSB)のVDACとVinとを比較し、VDACの電圧がVinを超えていなければ、ビット1の出力は1のままとし、VDACの電圧がVinを超えると、SAR310に対しこのビット(Bit1)をリセット(0)する。
【0041】
この後、SAR310は、次の下位ビット(Bit2)を1に設定して、同じテストを実施し、SAR310のNビット全てをテスト完了するまで同様の処理を続行する。このように、SAR310は、NビットをビットごとにVDACとVinとを逐次比較することで、サンプリングされた入力電圧Vinをデジタル近似したNビットそれぞれの値をデジタル出力する。
【0042】
そして、
図3Cに示すように、実施の形態の光ADコンバータ100についても、既存のSAR型ADコンバータ300と同様の動作を行う。
図3C(a)の横軸はN個の各ステージ、縦軸は電圧である。被変換光E
sigは、Nビットの値に応じた所定の電圧を有する。光ADコンバータ100は、N個のステージのStage1~Nの順にBitごとに、被変換光E
sigと参照光E
refとの比較結果に応じたデジタル信号(1/0)を出力する。
【0043】
そして、Stage1の識別器112は、被変換光E
sig>参照光E
refにより、Bit1=1を出力する。この際、
図3C(b)に示すように、Stage1の光変調部120の変調出力E
Modは同相となり、Stage2の参照光E”
refの光レベルをΔE
1分増大させる(例えば、1.5倍)。
【0044】
この後、Stage2には、被変換光E
sigと、Stage1通過後の参照光E
refが入力される。Stage2の受光部110(識別器112)は、Stage1同様にBit2のデジタル出力を行う。Stage2の識別器112は、被変換光E
sig<参照光E
refにより、Bit2=0を出力する。この際、
図3C(b)に示すように、Stage2の光変調部120の変調出力E
Modは逆相となり、Stage2の参照光E”
refの光レベルはΔE
2減少させる(例えば、0.5倍)。このように、光ADコンバータ100は、既存のSAR型ADコンバータ100と同様に、ビットごとの逐次比較を行ってNビット分のデジタル出力を行う。
【0045】
一般に、TIA302は、入力電圧に対して出力電圧が線形ではなく、出力電圧が上限に近い領域では飽和する傾向がある。この影響を防ぐためには、より高電圧出力で、線形な出力電圧の領域が広いTIA302を用いる必要がある。しかし、このような線形性が良いTIA302を用いた場合、線形性と引き換えに消費電力が増大する。この点は、SAR型ADコンバータ300のDAC311でも同様に生じる。
【0046】
これに対し、実施の形態の光ADコンバータ100では、光回路と電気回路とを適切に配置し構成している。ここで、既存の逐次変換(SAR)方式のSAR型ADコンバータ300が有する引き算・足し算と、信号ラッチの機能に対応し、実施の形態では、前段のStageの判定結果に基づいて、光変調部120の変調出力を合波する参照光を基準として、この参照光の位相に対し、同相または逆相となる変調を行い、後段の参照光に合波・干渉させている。また、実施の形態では、LO光を基準光と参照光とで別グループで各ステージに供給し、各ステージの受光部110で被変換光を参照光とを比較することで、S/H回路302のラッチ機能相当を実現している。
【0047】
既存のADコンバータ300と、実施の形態の光ADコンバータ100とを対比すると、既存のADコンバータ300の最前段の受光素子301に対応して、実施の形態の光ADコンバータ100では、N個の各ステージにそれぞれ受光素子111を配置している。また、既存のADコンバータ300で用いたTIA302は、実施の形態の光ADコンバータ100では用いず、N個の各ステージにそれぞれ識別器112を配置する。また、既存のADコンバータ300で用いたDes303は、実施の形態の光ADコンバータ100では用いない。
【0048】
このように、実施の形態の光ADコンバータ100は、内部に光回路を備えることで、既存のSAR型ADコンバータ300を用いたAD変換で必要とされた線形電子回路、例えば、TIA302やDAC311で必要な線形性を不要にできる。これにより、実施の形態によれば、既存技術より消費電力を低減化できるようになる。
【0049】
また、既存のADコンバータ300自体は、低速であるため、
図3Aに示した如く、Des303後段にADコンバータ300を並列配置することで高速処理に対応している。これに対し、実施の形態では、電気回路からなる既存のSAR型ADコンバータ300の並列配置を不要とし、消費電力を低減化できるようになる。
【0050】
図4は、既存技術と実施の形態の消費電力の対比図である。
図4(a)は既存のSAR型ADコンバータ300、
図4(b)は実施の形態の光ADコンバータ100を示す。
図4(a)に示す既存技術による消費電力は、TIA302部分で2pJ/Bit、SAR型ADコンバータ300部分で8pJ/Bitである。既存技術では、TIA302やDAC311に線形性が必要であるため、消費電力が増大する。この結果、既存技術では、全体の消費電力は、1ビットあたり2+8=10pJ/Bitとなる。
【0051】
これに対し、
図4(b)に示す実施の形態の光ADコンバータ100の消費電力は、1ステージあたり受光部110(識別器112)で55fJ/Bit、光変調部120で1pJ/Bitである。Nビット出力が5の場合、全体の消費電力は、(0.055+1)×5=5.3pJ/Bitとなる。このように、実施の形態によれば、既存技術よりも低消費電力化を図ることができる。
【0052】
図5は、光ADコンバータに配置する遅延部の遅延量設定の説明図である。
図5の横軸は時間、縦軸には光ADコンバータ100内のGroup1~3の光導波路101~103を導波する各信号光を示す。Group1の光導波路101を導波する被変換光E
sigと、Group3の光導波路103を導波する基準光E
LOについては、いずれも光回路を有さないため、同様の遅延時間τを有する。
【0053】
ここで、受光部110の受光素子111は光電変換に遅延時間τPDを有し、識別器112は比較判断に遅延時間τDiscを有する。また、光変調部120は変調動作に遅延時間τModを有する。受光部110における遅延時間τ1は、受光素子111の遅延時間τPD+識別器112の遅延時間τDiscである。また、光変調部120の遅延時間τ2=τModである。このため、光ADコンバータ100内部では、受光部110と光変調部120のGroup2の光導波路102では、光導波の遅延時間τ1+τ2が生じる。
【0054】
これに対応して、遅延時間τ
1+τ
2に対応した遅延時間τ(=τ
1+τ
2)分の遅延を有する遅延器τ(130)を、各StageのGroup1の光導波路101と、Group3の光導波路103上に配置する。これにより、各Stageに入力される信号光のタイミングを、各Group1~3(光導波路101~103)間で整合(同一タイミングに)できる。なお、
図1に示したように、Group2の光導波路102上にも微調整用の遅延器τ(130)を配置してもよい。
【0055】
図6は、光変調器の概要構成例を示す図である。
図6(a)には、1ステージ分の光変調部120の機能を記載してある。また、
図6に示すように、各Group1~3(光導波路101~103)の遅延器τ(130)は、光導波路の一部を渦巻状に形成したものにより、導波長を増大させ所定の遅延時間τを得ることができる。
【0056】
光変調部120は、例えば、一対のPN部601、一対のヒータ602、光検出部(MPD)603、コントローラ604を含む。PN部601は、分岐した光導波路のそれぞれにそって一対の電極を配置した2つの干渉部を有する。
【0057】
コントローラ604は、識別器112の出力Vi(1/0)に基づき、一対の電極に対する印加電圧を可変制御して干渉部の干渉状態を変化させる。この結果、光変調部120は、Group3(光導波路103)の基準光ELOに対する位相変調を行い、同相あるいは逆相の変調出力EModを出力する。ヒータ602は、PN部601の温度調整を行う。MPD603は、光変調部120の出力をモニタし、コントローラ604に出力する。
【0058】
コントローラ604は、識別器112の出力Vi(1/0)に基づき、例えば、Vi=1のときパワーを最大化し、Vi=0のとき変調出力のパワーを最小化した変調出力EModを出力する制御を行う。コントローラ604は、MPD603のモニタ出力に基づき、ヒータ602による温度調整を行い、PN部601での干渉状態を変化させることで、同相あるいは逆相の変調出力EModを出力する。
【0059】
図6(b)には、I(Re)-Q(Jm)の直交軸を示す。コントローラ604は、このIQ軸において、Group2の光導波路102上を導波する参照光E
refのパワー(電界強度)E
iと中心間の線上に、V
i=0、およびV
i=1のパワーF
iが同一直線上に位置するようにヒータ602による温度調整を行う。
【0060】
図7は、光ADコンバータによる被変換光と参照光のパワー、およびデジタル信号の出力例を示す図である。
図7(a)~(d)は、被変換光に含まれるデジタル信号が8ビットで異なる値のビット列を示す。この場合、光ADコンバータ100は、N=8(Stage1~8)を有する。各図の横軸はステージ数、縦軸は電界強度である。
【0061】
図7(a)に示すように、デジタル出力の値が全て0「00000000」の場合、被変換光E
sigの電界強度は最も低く(0)、
図7(d)に示すようにデジタル出力の値が全て1「11111111」の場合、被変換光E
sigの電界強度は最も高い。
【0062】
図7(a)の場合、光ADコンバータ100は、Stage1~8は、被変換光E
sigを参照光E
refと逐次比較することで、各ビットのデジタル出力を行う。この際、Stage1~8での処理ごとに、参照光E
refの電界強度は、被変換光E
sigの電界強度(0)に収束するよう減少していく。
【0063】
図7(d)においても、光ADコンバータ100は、Stage1~8は、被変換光E
sigを参照光E
refと逐次比較することで、各ビットのデジタル出力を行う。この際、Stage1~8での処理ごとに、参照光E
refの電界強度は、被変換光E
sigの所定の電界強度に収束するよう増加していく。
【0064】
図7(b)(c)の場合においても、光ADコンバータ100は、Stage1~8は、被変換光E
sigを参照光E
refと逐次比較することで、各ビットのデジタル出力を行う。この際、Stage1~8での処理ごとに、参照光E
refの電界強度は、被変換光E
sigの所定の電界強度に収束していく。これら
図7(a)~(d)に示す光ADコンバータ100での収束動作は、既存のADコンバータ300(
図3A等参照)の動作と同様である。
【0065】
図8は、光ADコンバータの受光部の他の構成例を示す図である。上記のように、
図1等では、受光部110は、受光素子111と、識別器112とで構成したが、これに限らない。
図8に示す受光部110は、一対の受光素子(PD)801と、一対のTIA802と、一対のTIA802の出力を比較する比較器803と、を含む。このような構成においても、被変換光E
sigと参照光E
refとを比較し、比較結果を光変調部120に出力できる。
【0066】
(他の実施形態)
次に、光ADコンバータの他の実施形態について説明する。以下の説明では、偏波多重された信号光を受信するIQ変調用光ADコンバータについて説明する。
【0067】
図9は、IQ変調用光ADコンバータを示す回路図である。
図9に示すIQ変調用光ADコンバータ900において、上記説明した光ADコンバータ100と同様の構成部には同一の符号を付してある。なお、
図9には、N個のステージのうちStage1のみを記載してあり、他のStage2~Nは、
図1同様である。
【0068】
IQ変調用光ADコンバータ900は、入力される被変換光を90°ハイブリッド回路901を設け、90°ハイブリッド回路901によりIQ分離を行う。そして、Group1の光導波路101は、このIQ分離に対応してIQそれぞれの光導波路101a,101bを有する。この実施の形態では、被変換光用のGroup1の光導波路101は、IQ分離、およびX偏波とY偏波に分離(光分岐)され、計4本の光導波路を有する。
【0069】
光導波路101a,101bには、それぞれ受光部110a,110bが設けられる。受光部110aは、一対の受光素子111aと、比較器112aとを有する。比較器112は線形性が不要な増幅器で構成できる。
【0070】
また、IQ変調用光ADコンバータ900は、入力されるLO光を分岐し、分岐した一方を90°ハイブリッド回路901に入力し、分岐した他方をGroup2の光導波路102と、Group3の光導波路103に入力する。Group2と光導波路102と、Group3の光導波路103は、IQ用の基準光と参照光とに分岐される。参照光用のGroup2の光導波路102は、IQ用に2分岐される。基準光用のGroup3の光導波路103は、IQの受光部110I,110Q用に2分岐され、さらに、IQの光変調部120I,120Q用に2分岐される。
【0071】
I用処理部902Iについて説明すると、Group3の光導波路103Iの基準光と、Group2の光導波路102Iの参照光は、合波後に再度分岐され、受光部110Iに入力される。受光部110Iは、一対の差動型の受光素子111Iと、比較器112Iとを含む。
【0072】
また、Group3の光導波路103Iの基準光は、光変調部120Iに入力される。光変調部120Iの変調出力は、Group2の光導波路102Iに合波される。Group2の光導波路102I上には位相シフタ(PS)903Iが設けられる。また、図中のIncは、コントローラ604(
図6参照)に相当する。コントローラ604は、比較器110Iの出力をモニタし、基準光と参照光との位相を同相に制御する。
【0073】
そして、比較器112aの出力と、比較器112Iの出力は、比較器905Iに入力される。比較器905Iは、比較器112aと、比較器112Iの出力とを比較し、比較結果のI成分をデジタル出力する。
【0074】
Q用処理部902Qについても、I用処理部902Iと同様の構成である。Q用処理部902Qでは、Group3の光導波路103Qの基準光と、Group2の光導波路102Qの参照光は、受光部110Qに入力される。
【0075】
Group3の光導波路103Qの基準光は、光変調部120Qに入力され、光変調部120Qの変調出力は、Group2の光導波路102Qに合波される。そして、比較器112bの出力と、比較器112Qの出力は、比較器905Qに入力される。比較器905Qは、比較器112bと、比較器112Qの出力とを比較し、比較結果のQ成分をデジタル出力する。
【0076】
図10は、IQ変調用光ADコンバータの動作例の説明図である。
図10(a)には、受光部110bと、Q用処理部902Qのみを記載し、また、遅延器τ(130)と位相調整については省略してある。IQ変調用光ADコンバータ900に入力される被変換光は電界ベクトルE
S、LO光は電界ベクトルE
LOを有する。
図10(b)にはIQ軸上の電界強度を示す。
【0077】
この場合、90°ハイブリッド回路901の出力として、受光部110bの差動型の受光素子111bの一方は電界ベクトルE
LO+iE
Sを検出し、受光素子111bの他方は、電界ベクトルE
LO-iE
Sを検出する。比較器112bは、
図10(b)に示すE
SのiE
LO方向射影×|E
LO|を抽出し(E
S
*E
LO-E
SE
LO
*、*は複素共役)、比較器905Qに比較結果として出力する。
【0078】
一方、Q用処理部902Qの受光部110Qの比較器112Qは、
図10(b)に示すE
refのiE
LO方向射影×|E
LO|を抽出し(E
ref
*E
LO-E
refE
LO
*)、比較器905Qに比較結果として出力する。
【0079】
Q用処理部902Qのコントローラ604の位相調整により、
図10(b)に示すように、E
LOとE
refとが同じ方向に向く。これにより、比較器905Qは、ビット1のQ成分のデジタル値を出力できる。
【0080】
図11は、IQ変調用光ADコンバータの他の構成例を示す回路図である。
図11に示すIQ変調用光ADコンバータ1100は、
図9に示したIQ変調用光ADコンバータ900で用いた比較器112a,112b,905I,905Qの個数を削減する構成例である。
図11において、
図9と同様の構成部には同一の符号を付してある。
【0081】
図11に示すように、受光部110a,110bには、それぞれ受光素子111a,111bのみを設け、
図9に記載の比較器112a,112bを設けない。また、I用処理部902IとQ用処理部902Qにおいても、それぞれ受光素子111I,111Qのみを設け、比較器112I,112Qを設けない。
【0082】
I成分の受光素子111aの出力と、受光素子111Iの出力は、識別器1101Iに入力される。受光素子111aの出力AはI1-I2、受光素子111Iの出力BはI3-I4となる。これにより、識別器1101Iは、(I1-I2)-(I3-I4)をビット1のI成分のデジタル値を出力できる。
【0083】
同様に、Q成分の受光素子111bの出力と、受光素子111Qの出力は、識別器1101Qに入力される。これにより、識別器1101Qは、ビット1のQ成分のデジタル値を出力できる。
【0084】
図11の構成例によれば、1ステージあたり、比較用の識別器を2個にでき、
図9の構成例で用いた6個の比較器112(112a,112b,112I,112Q,905I,905Q)に対し比較器の個数を削減し、低消費電力化できる。
【0085】
図12は、IQ変調用光ADコンバータの受光素子へ入射させる光強度の分岐比の説明図である。
図12では、
図11に示したIQ変調用光ADコンバータ1100を例に差動型の一対の受光素子111に対する光強度の分岐比について説明する。
【0086】
図12において、受光素子111aにおける一対の分岐比はa
1、受光素子111aにおける一対の分岐比はa
1である。I用処理部902Iの受光素子111Iについては、一方のGroup3の基準光の分岐比はa
1、他方のGroup2の参照光の分岐比はb
1である。また、光変調部120I,120Qに対するGroup3の基準光の分岐比はc
1、光強度の減衰量はdである。eは、Group2の参照光の光強度である。
【0087】
この場合、分岐比a1は下記式(1)に基づき設定する。また、分岐比b1は下記式(2)に基づき設定する。そして、分岐比c1は下記式(3)に基づき設定する。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
IQ変調用光ADコンバータ1100は、N個のステージ(Stage1~N)を有しており、各ステージで同じ分岐比に設定すると、後段のステージほど光強度が減少していく。これに対応して、上記設定により、各ステージでの減衰、特に光変調部120の変調出力が入力される受光素子111における分岐比を適切に設定する。これにより、N個の各ステージ(Stage1~N)に入射する信号光(被変換光、基準光および参照光)の光強度を均一にできる。
【0092】
(光受信器の構成例)
図13~
図16は、光受信器の構成例を示す図である。上述した光ADコンバータ100,1100を備えた光受信器の構成例を説明する。各図において上記構成と同様の構成部には同一の符号を付してある。
【0093】
図13に示す光受信器1300には、WDM(Wavelength Division Multiplexing)光が入力される。WDM光は、光ファイバ増幅器(EDFA:Erbium Doped Fiber Amplifier)1310を介して波長分離部1350に入力される。波長分離部1350には、局所発振光源1320のローカル光(LO光)が入力される。
【0094】
局所発振光源1320は、複数波長別の光源(LD)1321と、複数波長のLDの光を合波する合波器1322と、半導体増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)1323を含む。局所発振光源1320が出力するLO光は、EDFA1330で光増幅され、ファイバカプラ1331で分岐して波長分離部1350に入力される。
【0095】
波長分離部(Demux)1350は、入力されるWDM光およびLO光を波長別に分離出力し、波長別の複数の受信部1360に出力する。ある一つの波長(1チャネル)の受信部1360に入力される受信信号(被変換光)は、可変光減衰器(VOA:Variable Optical Attenuator)1361を介して、90°ハイブリッド回路901に入力される。MPD1362は、入力される被変換光をモニタし、VOA1361を可変制御する。
【0096】
90°ハイブリッド回路901の後段には、上述した受光部110が設けられる。受光部110は、IQ別の一対の受光素子111と、識別器112を含む。また、不図示であるが受光素子111と識別器112には上記の光変調部120が接続される。識別器112が出力するビット単位のデジタル出力は、データ処理部としてのDSP(Digital Signal Processor)1363に入力される。DSP1363は、AD変換後のデジタル信号をデータ処理し、被変換光に含まれる情報を抽出して出力する。
【0097】
そして、複数の受光部1360がそれぞれ異なる波長別の受信処理を行うことで、WDM光の各波長別(複数チャネル)の受信処理を行う。
【0098】
また、
図13の例では、複数の受光部1360には、波長分離部1350の出力にIQ変調部1370が接続されている。複数の受光部1360のIQ変調部1370の変調出力は、波長合波部(Mux)1380で合波され、WDM信号として外部出力できる。
【0099】
図14には、1チャネル受信部1360の構成例を示す。上述した光ADコンバータ100のほかに、90度ハイブリッド回路901、局所発振光源1320、DSP1363を含み、WDM信号の1チャネル受信器1360を構成する。
【0100】
1チャネル受信器1360は、上述したように、N個のステージ(Stage1~N)からなり、被変換光および局所発振光源1320のLO光を各ステージ間で導波し、ステージごとに対応するデジタル信号の桁のビット値を出力する。Stage1~Nは、それぞれ受光部110と光変調部120を含む。
【0101】
各ステージ(Stage1~N)が出力するIQのデジタル信号は、DSP1363に出力される。DSP1363は、AD変換後のデジタル信号をデータ処理し、被変換光に含まれる情報を抽出し、MSB~LSBのNビットのデジタル信号を2値出力する。
【0102】
図15には、1偏波受信器1500の構成例を示す。1偏波受信器1500は、波長分離部(Demux)1350には、各チャネル別に複数の1チャネル受信器1360が接続されている。複数の1チャネル受信器1360は、それぞれ被変換光に含まれる情報を複数ビットのデジタル信号として出力する。
【0103】
図16には、WDM受信器1600の構成例を示す。WDM受信器1600には、偏波多重WDM信号が入力され、偏波スプリッタ1601により偏波Xと偏波Yが分離出力される。各偏波X,Yの出力は、それぞれ1偏波受信器1500に出力される。各偏波受信器1500は、複数チャネル別に、被変換光に含まれる情報を複数ビットのデジタル信号として出力する。
【0104】
DSP1602は、偏波Xおよび偏波Yの複数の1偏波受信器1500の出力に基づき、被変換光の偏波Xおよび偏波Y別の情報を複数ビットのデジタル信号として出力する。なお、DSP1602は、1偏波受信器1500(1チャネル受信器1360)が有するDSP1363と処理統合してもよい。
【0105】
実施の形態の光ADコンバータは、WDM通信等の偏波多重および各種変調方式により信号光を受信しAD変換する各種受信器に適用することができる。
【0106】
以上説明した実施の形態の光ADコンバータは、入力される信号光に含まれる情報のアナログ信号をデジタル信号に変換する光ADコンバータであって、デジタル信号のビット数Nに対応するN個のステージは、それぞれ、信号光と、ローカル光を分岐した基準光と、ローカル光を分岐した参照光と、をそれぞれ導波する光導波路と、信号光と参照光の光レベルを検出および比較し、2値の比較結果をデジタル値として出力する受光部と、受光部の比較結果に基づき、基準光の光レベルを可変制御する光変調器と、を有する。光変調器の変調出力は次段のステージの参照光に合波させる。
【0107】
また、光ADコンバータは、入力される信号光に含まれる情報のアナログ信号をデジタル信号に変換する光ADコンバータであって、デジタル信号のビット数Nに対応するN個のステージを有し、N個のステージは、それぞれ、信号光を分岐入力し、1以上の導波路で構成されるグループ1の光導波路と、ローカル光を分岐した一方を参照光として、当該参照光を導波する1以上の導波路で構成されるグループ2の光導波路と、ローカル光を分岐した他方を基準光として、当該基準光を導波する1以上の導波路で構成されるグループ3の光導波路と、を含む。また、信号光と、参照光の光レベルを検出および比較し、2値の比較結果をステージのデジタル値として出力する受光部と、グループ3の光導波路で導かれた基準光が分岐入力され、受光部の比較結果に基づき、基準光の光レベルを変調により可変制御する光変調器と、を含み有する。そして、グループ2の光導波路は、参照光に、上記変調部の変調出力を合波させ、次段のステージの参照光として導波することで、N個のステージによりNビットのデジタル信号を出力する。
【0108】
これにより、既存のADコンバータと同様にビットごとの逐次比較が行える。既存のADコンバータは、電気回路のTIAやDAC等に線形性が必要となり消費電力が増大した。これに対し、実施の形態の光ADコンバータは、TIA、DACおよびS/H回路を用いない。また、逐次処理の回路を電気回路のみとせず、光回路を含み有し、逐次比較を行う複数Nのステージにそれぞれ電気回路の比較器を配置したものであるため、比較器等の電気回路が線形性を必要とせず比較処理でき、低消費電力化を図ることができる。
【0109】
また、光ADコンバータは、受光部を、信号光と参照光を検出する一対の差動型の受光素子と、一対の受光素子の差動出力に基づき、信号光と参照光の光レベルを比較出力する比較器と、を有して構成してもよい。既存のADコンバータは受光部を外部に設けるのに対し、実施の形態の光ADコンバータは受光部を内部のステージごとに設け、受光部の比較器に線形性を必要としないため、低消費電力化を図ることができる。
【0110】
また、光ADコンバータは、比較器が、信号光の光レベルよりも参照光の光レベルが大きいとき値1を出力し、それ以外では値0を出力する。これにより、簡単な比較器の構成でビットごとに2値のデジタル出力を行える。
【0111】
また、光ADコンバータは、受光素子の一方と他方に所定の分岐比を設定し、N個のステージへの入力レベルを均一にする。N個のステージで同じ分岐比に設定すると、後段のステージほど光強度が減少していくことになる。この点について、各ステージでの減衰、特に光変調部の変調出力が入力される受光素子における分岐比を適切に設定することで、N個の各ステージに入射する各信号光(被変換光、基準光および参照光)の光強度を均一にでき、ビット判定を安定して行えるようになる。
【0112】
また、光ADコンバータは、光変調器が、受光部の比較結果に基づき、基準光を用いて参照光の位相に対し同相または逆相の位相変調を行う。例えば、光変調器は、比較器の出力が値1のとき、参照光の位相と同相となる位相変調を行い、比較器の出力が値0のとき、参照光の位相と逆相となる位相変調を行う。これにより、光変調器は、変調出力を同相あるいは逆相に切り替えるだけで、変調部の変調出力が次段のステージの参照光に合波され、次段のステージでの参照光の光強度を制御できるようになる。
【0113】
また、光ADコンバータは、光導波路に、信号光、参照光および基準光のタイミングを整合させる遅延器を設けてもよい。遅延器に適切な遅延時間を設定することで、N個の各ステージのそれぞれにおける各グループの信号光のタイミングを整合させることができ、各ステージでのビット判定を安定して行えるようになる。
【0114】
また、光ADコンバータは、光変調器が、分岐した光導波路に沿って一対の電極を配置し、電極に対する電圧制御を行う者を用いることができる。このように汎用に光変調器を用いて簡単に光ADコンバータを得ることができる。
【0115】
また、光ADコンバータは、IQ変調の信号光に入力に対応して、光導波路がIQ別に分岐され、信号光の光導波路に90°ハイブリッド回路を設けてもよい。
【0116】
また、光変調器は、上記の光ADコンバータと、ローカル光を生成する局所発振光源と、光ADコンバータによりAD変換後の信号光に含まれる情報を出力するデータ処理部と、を含み構成できる。例えば、汎用の局所発振光源と、データ処理部としてDSPを用いて簡単に光変調器を得ることができる。
【0117】
また、光変調器は、信号光が偏波多重のWDM信号の入力に対応して、信号光を偏波分離する偏波スプリッタを含み簡単に構成できる。
【0118】
これらのことから、実施の形態の光ADコンバータによれば、光信号を直接入力させてデジタルの電気信号が出力可能となり、低消費電力化を図ることができる。実施の形態では、既存のADコンバータの電気回路が行うデータの足し算や引き算の処理および信号ラッチを光回路(光導波路)の分岐/合波と、光変調器による参照光の光強度の可変制御により実現している。また、光回路は、光導波路の微細化および集積化により小型化を図ることもできる。
【0119】
上述した実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0120】
(付記1)入力される信号光に含まれる情報のアナログ信号をデジタル信号に変換する光ADコンバータであって、
前記デジタル信号のビット数Nに対応するN個のステージは、それぞれ、
前記信号光と、ローカル光を分岐した基準光と、前記ローカル光を分岐した参照光と、をそれぞれ導波する光導波路と、
前記信号光と前記参照光の光レベルを検出および比較し、2値の比較結果をデジタル値として出力する受光部と、
前記受光部の比較結果に基づき、前記基準光の光レベルを可変制御する光変調器と、を有し、
前記光変調器の変調出力を次段のステージの参照光に合波させる、
ことを特徴とする光ADコンバータ。
【0121】
(付記2)入力される信号光に含まれる情報のアナログ信号をデジタル信号に変換する光ADコンバータであって、
前記デジタル信号のビット数Nに対応するN個のステージを有し、
N個の前記ステージは、それぞれ、
前記信号光を分岐入力し、1以上の導波路で構成されるグループ1の光導波路と、
ローカル光を分岐した一方を参照光として、当該参照光を導波する1以上の導波路で構成されるグループ2の光導波路と、
前記ローカル光を分岐した他方を基準光として、当該基準光を導波する1以上の導波路で構成されるグループ3の光導波路と、
前記信号光と、前記参照光の光レベルを検出および比較し、2値の比較結果をステージのデジタル値として出力する受光部と、
前記グループ3の光導波路で導かれた前記基準光が分岐入力され、前記受光部の比較結果に基づき、前記基準光の光レベルを変調により可変制御する光変調器と、を有し、
前記グループ2の光導波路は、前記参照光に、前記変調部の変調出力を合波させ、次段のステージの参照光として導波することで、
前記N個のステージでNビットのデジタル信号を出力する、
ことを特徴とする光ADコンバータ。
【0122】
(付記3)前記受光部は、
前記信号光と前記参照光を検出する一対の差動型の受光素子と、
前記一対の差動型の受光素子の差動出力に基づき、前記信号光と前記参照光の光レベルを比較出力する比較器と、
を有することを特徴とする付記1または2に記載の光ADコンバータ。
【0123】
(付記4)前記比較器は、
前記信号光の光レベルよりも前記参照光の光レベルが大きいとき値1を出力し、それ以外では値0を出力することを特徴とする付記3に記載の光ADコンバータ。
【0124】
(付記5)前記受光素子の一方と他方に所定の分岐比を設定し、N個の前記ステージへの入力レベルを均一にすることを特徴とする付記1~4のいずれか一つに記載の光ADコンバータ。
【0125】
(付記6)前記光変調器は、
前記受光部の比較結果に基づき、前記基準光を用いて前記参照光の位相に対し同相または逆相の位相変調を行うことを特徴とする付記1~5のいずれか一つに記載の光ADコンバータ。
【0126】
(付記7)前記光変調器は、
前記比較器の出力が値1のとき、前記参照光の位相と同相となる位相変調を行い、
前記比較器の出力が値0のとき、前記参照光の位相と逆相となる位相変調を行う、ことを特徴とする付記6に記載の光ADコンバータ。
【0127】
(付記8)前記光導波路には、前記信号光、前記参照光および前記基準光のタイミングを整合させる遅延器が設けられたことを特徴とする付記1~7のいずれか一つに記載の光ADコンバータ。
【0128】
(付記9)前記光変調器は、
分岐した光導波路に沿って一対の電極を配置し、前記電極に対する電圧制御を行うことを特徴とする付記1または2に記載の光ADコンバータ。
【0129】
(付記10)IQ変調の前記信号光であり、
前記光導波路がIQ別に分岐され、
前記信号光の光導波路に90°ハイブリッド回路が設けられたことを特徴とする付記1または2に記載の光ADコンバータ。
【0130】
(付記11)付記1~10いずれか一つに記載の光ADコンバータと、
前記ローカル光を生成する局所発振光源と、
前記光ADコンバータによりAD変換後の前記信号光に含まれる情報を出力するデータ処理部と、を含む、
ことを特徴とする光受信器。
【0131】
(付記12)前記信号光は偏波多重のWDM信号であり、
前記信号光を偏波分離し、前記光導波路に入力させる偏波スプリッタを含む、
ことを特徴とする付記11に記載の光受信器。
【符号の説明】
【0132】
100,1100 光ADコンバータ
101~103 光導波路
110 受光部
111 受光素子
112 識別器(比較器)
120 光変調部
130 遅延器
602 ヒータ
604 コントローラ
900 IQ変調用光ADコンバータ
901 90°ハイブリッド回路
1300 光受信器
1320 局所発振光源
1360 受信部