(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-08
(45)【発行日】2025-07-16
(54)【発明の名称】鋼板およびプレス成形品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250709BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20250709BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20250709BHJP
C22C 18/00 20060101ALN20250709BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/60
C22C38/00 301T
C21D9/46 J
C22C18/00
C21D9/46 G
(21)【出願番号】P 2023543607
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2021031492
(87)【国際公開番号】W WO2023026468
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】永野 真衣
(72)【発明者】
【氏名】川田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】弘中 諭
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121388(WO,A1)
【文献】特開2006-161064(JP,A)
【文献】特開平11-199991(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171237(WO,A1)
【文献】特開平11-006028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46
C22C 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C :0.040~0.105%、
Mn:1.00~2.30%、
Si:0.005~1.500%、
Al:0.005~0.700%、
P :0.100%以下、
S :0.0200%以下、
N :0.0150%以下、
O :0.0100%以下、
Cr:0~0.80%、
Mo:0~0.16%、
Ti:0~0.100%、
B :0~0.0100%、
Nb:0~0.060%、
V :0~0.50%、
Ni:0~1.00%、
Cu:0~1.00%、
W :0~1.00%、
Sn:0~1.00%、
Sb:0~0.200%、
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
Zr:0~0.0100%、
REM:0~0.0100%、並びに
残部:Feおよび不純物であり、
鋼板の表面から20μm深さ位置のC含有量であるC
20と、前記表面から60μm深さ位置のC含有量であるC
60と、下記式(1)とから算出されるΔCが0.20~0.90質量%/mmであり、
引張強さが500
~750MPaである、ことを特徴とする鋼板。
ΔC=(C
60-C
20)/(0.04) …(1)
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
Cr:0.01~0.80%、
Mo:0.01~0.16%、
Ti:0.001~0.100%、
B :0.0001~0.0100%、
Nb:0.001~0.060%、
V :0.01~0.50%、
Ni:0.01~1.00%、
Cu:0.01~1.00%、
W :0.01~1.00%、
Sn:0.01~1.00%、
Sb:0.001~0.200%、
Ca:0.0001~0.0100%、
Mg:0.0001~0.0100%、
Zr:0.0001~0.0100%、および
REM:0.0001~0.0100%
からなる群から選択される1種または2種以上を含有する、ことを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
前記化学組成が、質量%で、C:0.040~0.080%である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の鋼板。
【請求項4】
前記ΔCが0.30~0.80質量%/mmである、ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の鋼板。
【請求項5】
前記鋼板の少なくとも一方の表面にめっき層を有する、ことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の鋼板。
【請求項6】
請求項1~
5の何れか一項に記載の鋼板をプレス成形して得られるプレス成形品であって、
表面から20μm深さ位置のC含有量であるC
20と、前記表面から60μm深さ位置のC含有量であるC
60と、下記式(1)とから算出されるΔCが0.20~0.90質量%/mmである、ことを特徴とするプレス成形品。
ΔC=(C
60-C
20)/(0.04) …(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板およびプレス成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保護の観点から、自動車車体には軽量化・衝突安全性の向上が求められている。これらの要求に応えるべく、ドアアウタ等のパネル系部品についても、高強度化および薄肉化が検討されている。これらのパネル系部品は、骨格部品とは異なり、人目に触れるため高い外観品質が求められる。そのため、従来では骨格部品に適用されていた高強度の鋼板であっても、パネル系部品に適用する場合には、成形後において外観品質に優れることが要求される。
【0003】
外観品質を向上するために、ゴーストラインの発生を抑制することが1つの課題として挙げられる。ゴーストラインは、硬質相と軟質相とを有する鋼板をプレス成形した際、軟質相周辺が優先的に変形することで、表面に数mmオーダーで生じる微小な凹凸のことである。この凹凸は表面に筋模様となって生じるため、ゴーストラインが発生したプレス成形品は、外観品質が劣る。
【0004】
例えば、特許文献1は、表面品質に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板を開示している。具体的には、特許文献1は、質量%で、C:0.02~0.20%、Si:0.7%以下、Mn:1.5~3.5%、P:0.10%以下、S:0.01%以下、Al:0.1~1.0%、N:0.010%以下、Cr:0.03~0.5%を含有し、かつ、Al、Cr、Si、Mnの含有量を同号項とした数式:A=400Al/(4Cr+3Si+6Mn)で定義された焼鈍時表面酸化指数Aが2.3以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、さらに、前記基板の組織が、フェライトおよび第2相からなり、該第2相がマルテンサイト主体である鋼板(基板)と、当該基板表面に溶融亜鉛めっき層を有する、高強度溶融亜鉛めっき鋼板を開示している。
【0005】
特許文献2は、表層部の引張強さ:780MPa以上を有し、かつ成形性が良好な高強度冷延鋼板、高強度めっき鋼板及びこれらの製造方法を開示している。
【0006】
特許文献3は、自動車用高強度部材を熱間プレスで形成する方法において、脱水素処理することなく、熱間プレス後の後加工に起因した水素脆性感受性を確保できる自動車用高強度部材およびその熱間プレス方法を開示している。
【0007】
特許文献4は、引張強さ(TS)980MPa以上で、めっき密着性および耐遅れ破壊特性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を開示している。
【0008】
特許文献5は、高い強度を有しながら、優れた衝突特性を得ることができる熱間プレス鋼板部材、その製造方法及び熱間プレス用鋼板を開示している。
【0009】
特許文献6は、良好な伸び特性と曲げ性とを有する溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、およびそれらの製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】日本国特開2005-220430号公報
【文献】国際公開第2016-121388号
【文献】日本国特開2006-104546号公報
【文献】国際公開第2013-047820号
【文献】国際公開第2015-097882号
【文献】日本国特開2017-48412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものである。本発明は、高強度(具体的には引張強さ:500MPa以上)であり、優れた外観品質を有するプレス成形品、およびこのプレス成形品を製造できる鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係る鋼板は、化学組成が、質量%で、
C :0.040~0.105%、
Mn:1.00~2.30%、
Si:0.005~1.500%、
Al:0.005~0.700%、
P :0.100%以下、
S :0.0200%以下、
N :0.0150%以下、
O :0.0100%以下、
Cr:0~0.80%、
Mo:0~0.16%、
Ti:0~0.100%、
B :0~0.0100%、
Nb:0~0.060%、
V :0~0.50%、
Ni:0~1.00%、
Cu:0~1.00%、
W :0~1.00%、
Sn:0~1.00%、
Sb:0~0.200%、
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
Zr:0~0.0100%、
REM:0~0.0100%、並びに
残部:Feおよび不純物であり、
鋼板の表面から20μm深さ位置のC含有量であるC20と、前記表面から60μm深さ位置のC含有量であるC60と、下記式(1)とから算出されるΔCが0.20~0.90質量%/mmであり、
引張強さが500~750MPaである。
ΔC=(C60-C20)/(0.04) …(1)
(2)上記(1)に記載の鋼板は、前記化学組成が、質量%で、
Cr:0.01~0.80%、
Mo:0.01~0.16%、
Ti:0.001~0.100%、
B :0.0001~0.0100%、
Nb:0.001~0.060%、
V :0.01~0.50%、
Ni:0.01~1.00%、
Cu:0.01~1.00%、
W :0.01~1.00%、
Sn:0.01~1.00%、
Sb:0.001~0.200%、
Ca:0.0001~0.0100%、
Mg:0.0001~0.0100%、
Zr:0.0001~0.0100%、および
REM:0.0001~0.0100%
からなる群から選択される1種または2種以上を含有してもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載の鋼板は、前記化学組成が、質量%で、C:0.040~0.080%であってもよい。
(4)上記(1)~(3)の何れか一項に記載の鋼板は、前記ΔCが0.30~0.80質量%/mmであってもよい。
(5)上記(1)~(4)の何れか一項に記載の鋼板は、前記鋼板の少なくとも一方の表面にめっき層を有してもよい。
(6)本発明の別の態様に係るプレス成形品は、上記(1)~(5)の何れか一項に記載の鋼板をプレス成形して得られるプレス成形品であって、
表面から20μm深さ位置のC含有量であるC20と、前記表面から60μm深さ位置のC含有量であるC60と、下記式(1)とから算出されるΔCが0.20~0.90質量%/mmである。
ΔC=(C60-C20)/(0.04) …(1)
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る上記態様によれば、高強度であり、優れた外観品質を有するプレス成形品、およびこのプレス成形品を製造できる鋼板を提供することができる。
なお、優れた外観品質を有するとは、ゴーストラインの発生が抑制されていることをいう。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者は、高強度の鋼板をプレス成形する際に、ゴーストラインの発生を抑制する方法について検討した。その結果、本発明者は、鋼中の硬度差を低減することが有効であることを知見した。本発明者は、鋼板の表層を脱炭して、硬度差が小さい均質な脱炭層を形成することで、鋼中の硬度差を低減できることを知見した。
【0015】
鋼板に脱炭焼鈍を施すと、表面に近い領域からC含有量が低減し、脱炭層が形成される。脱炭の条件が強力なほど、脱炭層の厚さは増大する。脱炭層におけるC濃度は、鋼板の表面に近い領域から母材側(鋼板の内部)に向かって増加するが、その上限は母材のC含有量となる。つまり、鋼板の表面から内部までのC濃度勾配は、脱炭条件と鋼板のC含有量とに依存する。
【0016】
C濃度が低い領域はフェライト単相になり易いため、鋼板の表面は鋼板の内部に対して軟化する。脱炭層において、鋼板の内部に向かってC濃度が急激に増加すると硬度差が増大するため、プレス成形後にゴーストラインが発生すると考えられる。本発明者は、脱炭層におけるC濃度勾配を所望の範囲とすることで、脱炭層内における硬度差を低減でき、プレス成形後のゴーストラインの発生を抑制できることを知見した。
【0017】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、以下に本実施形態に係る鋼板およびプレス成形品について詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0018】
まず、本実施形態に係る鋼板の化学組成について説明する。以下に「~」を挟んで記載する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」または「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。以下の説明において、化学組成に関する%は特に指定しない限り質量%である。
【0019】
本実施形態に係る鋼板は、化学組成が、質量%で、C:0.040~0.105%、Mn:1.00~2.30%、Si:0.005~1.500%、Al:0.005~0.700%、P:0.100%以下、S:0.0200%以下、N:0.0150%以下、O:0.0100%以下、並びに、残部:Feおよび不純物を含有する。以下、各元素について説明する。
【0020】
C:0.040~0.105%
Cは、鋼板およびプレス成形品の強度を高める元素である。所望の強度を得るために、C含有量は0.040%以上とする。鋼板の強度をより高めるため、C含有量は、好ましくは0.050%以上であり、より好ましくは0.060%以上または0.070%以上である。
また、C含有量を0.105%以下とすることで、脱炭層における過度な硬度差の発生を抑制できる。その結果、プレス成形後のゴーストラインの発生を抑制できる。そのため、C含有量は0.105%以下とする。C含有量は、0.090%以下が好ましく、0.080%以下がより好ましい。
【0021】
Mn:1.00~2.30%
Mnは、鋼の焼入れ性を高めて、強度の向上に寄与する元素である。所望の強度を得るために、Mn含有量は1.00%以上とする。Mn含有量は、好ましくは1.05%以上または1.10%以上、より好ましくは1.20%以上、1.30%以上または1.40%以上である。
また、Mn含有量を2.30%以下とすることで、鋼中に硬度差が生じやすくなることを抑制できる。そのため、Mn含有量は2.30%以下とする。Mn含有量は、2.10%以下または2.00%以下が好ましく、1.90%以下、1.80%以下または1.70%以下がより好ましい。
【0022】
Si:0.005~1.500%
Siは、破壊の起点として働く粗大なSi酸化物を形成する元素である。Si含有量を1.500%以下とすることで、Si酸化物が形成されることを抑制でき、割れが発生しにくくなる。その結果、鋼の脆化を抑制することができる。そのため、Si含有量は1.500%以下とする。Si含有量は1.300%以下または1.000%以下が好ましく、0.800%以下、0.600%以下または0.500%以下がより好ましい。
Si含有量は、鋼板の強度-成形性バランスを向上するために0.005%以上とする。Si含有量は、好ましくは0.010%以上または0.020%以上である。
【0023】
Al:0.005~0.700%
Alは、脱酸材として機能する元素である。また、Alは、破壊の起点となる粗大な酸化物を形成し、鋼を脆化する元素でもある。Al含有量を0.700%以下とすることで、破壊の起点として働く粗大な酸化物の生成を抑制でき、鋳片が割れ易くなることを抑制できる。そのため、Al含有量は0.700%以下とする。Al含有量は0.650%以下、0.400%以下または0.200%以下が好ましく、0.100%以下、0.080%以下または0.060%以下がより好ましい。
Al含有量は、Alによる脱酸効果を十分に得るために0.005%以上とする。Al含有量は、好ましくは0.010%以上、0.020%以上、0.030%以上または0.040%以上である。
【0024】
P:0.100%以下
Pは、不純物として混入する元素であり、鋼を脆化する元素でもある。P含有量が0.100%以下であると、鋼板が脆化して生産工程において割れ易くなることを抑制できる。そのため、P含有量は0.100%以下とする。生産性の観点から、P含有量は0.050%以下が好ましく、0.030%以下または0.020%以下がより好ましい。
P含有量の下限は0%を含むが、P含有量を0.001%以上とすることで、製造コストをより低減できる。そのため、P含有量は0.001%以上としてもよい。
【0025】
S:0.0200%以下
Sは、不純物として混入する元素であり、Mn硫化物を形成し、鋼板の延性、穴拡げ性、伸びフランジ性および曲げ性などの成形性を劣化させる元素でもある。S含有量が0.0200%以下であると、鋼板の成形性が著しく低下することを抑制できる。そのため、S含有量は0.0200%以下とする。S含有量は0.0100%以下または0.0080%以下が好ましく、0.0060%以下または0.0040%以下がより好ましい。
S含有量の下限は0%を含むが、S含有量を0.0001%以上とすることで、製造コストをより低減できる。そのため、S含有量は0.0001%以上としてもよい。
【0026】
N:0.0150%以下
Nは、不純物として混入する元素であり、窒化物を形成し、鋼板の延性、穴拡げ性、伸びフランジ性および曲げ性などの成形性を劣化させる元素でもある。N含有量が0.0150%以下であると、鋼板の成形性が低下することを抑制できる。そのため、N含有量は0.0150%以下とする。また、Nは、溶接時に溶接欠陥を発生させて生産性を阻害する元素でもある。そのため、N含有量は、好ましくは0.0120%以下または0.0100%以下であり、より好ましくは0.0080%以下または0.0060%以下である。
N含有量の下限は0%を含むが、N含有量を0.0005%以上とすることで、製造コストをより低減できる。そのため、N含有量は0.0005%以上としてもよい。
【0027】
O:0.0100%以下
Oは、不純物として混入する元素であり、酸化物を形成し、鋼板の延性、穴拡げ性、伸びフランジ性および曲げ性などの成形性を阻害する元素でもある。O含有量が0.0100%以下であると、鋼板の成形性が著しく低下することを抑制できる。そのため、O含有量は0.0100%以下とする。好ましくは0.0080%以下または0.0050%以下、より好ましくは0.0030%以下または0.0020%以下である。
O含有量の下限は0%を含むが、O含有量を0.0001%以上とすることで、製造コストをより低減できる。そのため、O含有量は0.0001%以上としてもよい。
【0028】
本実施形態に係る鋼板は、Feの一部に代えて、任意元素として、以下の元素を含有してもよい。以下の任意元素を含有しない場合の含有量は0%である。
【0029】
Cr:0~0.80%
Crは、鋼の焼入れ性を高め、鋼板の強度の向上に寄与する元素である。Crは必ずしも含有させなくてよいので、Cr含有量の下限は0%を含む。Crによる強度向上効果を十分に得るためには、Cr含有量は、0.01%以上または0.20%以上が好ましく、0.30%以上がより好ましい。
また、Cr含有量が0.80%以下であると、破壊の起点となり得る粗大なCr炭化物が形成されることを抑制できる。そのため、Cr含有量は0.80%以下とする。合金コストの削減のためには、Cr含有量は0.60%以下または0.40%以下とすることが好ましく、0.20%以下、0.10%以下または0.06%以下とすることがより好ましい。
【0030】
Mo:0~0.16%
Moは、高温での相変態を抑制し、鋼板の強度の向上に寄与する元素である。Moは必ずしも含有させなくてよいので、Mo含有量の下限は0%を含む。Moによる強度向上効果を十分に得るためには、Mo含有量は、0.01%以上または0.05%以上が好ましく、0.10%以上がより好ましい。
また、Mo含有量が0.16%以下であると、熱間加工性が低下して生産性が低下することを抑制できる。そのため、Mo含有量は、0.16%以下とする。合金コストの削減のためには、Mo含有量は0.12%以下または0.08%以下とすることが好ましく、0.06%以下、0.04%以下または0.02%以下とすることがより好ましい。
【0031】
Ti:0~0.100%
Tiは、破壊の起点として働く粗大な介在物を発生させるS量、N量およびO量を低減する効果を有する元素である。また、Tiは組織を微細化し、鋼板の強度-成形性バランスを高める効果がある。Tiは必ずしも含有させなくてよいので、Ti含有量の下限は0%を含む。上記効果を十分に得るためには、Ti含有量は0.001%以上とすることが好ましく、0.010%以上とすることがより好ましい。
また、Ti含有量が0.100%以下であると、粗大なTi硫化物、Ti窒化物およびTi酸化物の形成を抑制でき、鋼板の成形性を確保することができる。そのため、Ti含有量は0.100%以下とする。Ti含有量は0.075%以下または0.060%以下とすることが好ましく、0.040%以下または0.020%以下とすることがより好ましい。
【0032】
B:0~0.0100%
Bは、高温での相変態を抑制し、鋼板の強度の向上に寄与する元素である。Bは必ずしも含有させなくてよいので、B含有量の下限は0%を含む。Bによる強度向上効果を十分に得るためには、B含有量は、0.0001%以上または0.0005%以上が好ましく、0.0010%以上がより好ましい。
また、B含有量が0.0100%以下であると、B析出物が生成して鋼板の強度が低下することを抑制できる。そのため、B含有量は0.0100%以下とする。合金コストの削減のためには、B含有量は0.0080%以下または0.0060%以下とすることが好ましく、0.0040%以下、0.0030以下または0.0015%以下とすることがより好ましい。
【0033】
Nb:0~0.060%
Nbは、析出物による強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒化強化および再結晶の抑制による転位強化によって、鋼板の強度の向上に寄与する元素である。Nbは必ずしも含有させなくてよいので、Nb含有量の下限は0%を含む。上記効果を十分に得るためには、Nb含有量は0.001%以上または0.005%以上とすることが好ましく、0.010%以上とすることがより好ましい。
また、Nb含有量が0.060%以下であると、再結晶を促進して未再結晶フェライトが残存することを抑制でき、鋼板の成形性を確保することができる。そのため、Nb含有量は0.060%以下とする。Nb含有量は好ましくは0.050%以下であり、より好ましくは0.040%以下、0.030%以下、0.015%以下である。
【0034】
V:0~0.50%
Vは、析出物による強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒化強化および再結晶の抑制による転位強化によって、鋼板の強度の向上に寄与する元素である。Vは必ずしも含有させなくてよいので、V含有量の下限は0%を含む。Vによる強度向上効果を十分に得るためには、V含有量は、0.01%以上が好ましく、0.03%以上がより好ましい。
また、V含有量が0.50%以下であると、炭窒化物が多量に析出して鋼板の成形性が低下することを抑制できる。そのため、V含有量は、0.50%以下とする。合金コストの削減のためには、V含有量は0.30%以下または0.10%以下とすることが好ましく、0.08%以下、0.06%以下または0.03%以下とすることがより好ましい。
【0035】
Ni:0~1.00%
Niは、高温での相変態を抑制し、鋼板の強度の向上に寄与する元素である。Niは必ずしも含有させなくてよいので、Ni含有量の下限は0%を含む。Niによる強度向上効果を十分に得るためには、Ni含有量は、0.01%以上または0.05%以上が好ましく、0.20%以上がより好ましい。
また、Ni含有量が1.00%以下であると、鋼板の溶接性が低下することを抑制できる。そのため、Ni含有量は1.00%以下とする。合金コストの削減のためには、Ni含有量は0.70%以下または0.50%以下とすることが好ましく、0.30%以下、0.15%以下または0.08%以下とすることがより好ましい。
【0036】
Cu:0~1.00%
Cuは、微細な粒子の形態で鋼中に存在し、鋼板の強度の向上に寄与する元素である。Cuは必ずしも含有させなくてよいので、Cu含有量の下限は0%を含む。Cuによる強度向上効果を十分に得るためには、Cu含有量は、0.01%以上または0.05%以上が好ましく、0.15%以上がより好ましい。
また、Cu含有量が1.00%以下であると、鋼板の溶接性が低下することを抑制できる。そのため、Cu含有量は1.00%以下とする。合金コストの削減のためには、Cu含有量は0.70%以下または0.50%以下とすることが好ましく、0.30%以下、0.15%以下または0.08%以下とすることがより好ましい。
【0037】
W:0~1.00%
Wは、高温での相変態を抑制し、鋼板の強度の向上に寄与する元素である。Wは必ずしも含有させなくてよいので、W含有量の下限は0%を含む。Wによる強度向上効果を十分に得るためには、W含有量は、0.01%以上または0.03%以上が好ましく、0.10%以上がより好ましい。
また、W含有量が1.00%以下であると、熱間加工性が低下して生産性が低下することを抑制できる。そのため、W含有量は1.00%以下とする。合金コストの削減のためには、W含有量は0.70%以下または0.50%以下とすることが好ましく、0.30%以下、0.15%以下または0.08%以下とすることがより好ましい。
【0038】
Sn:0~1.00%
Snは、結晶粒の粗大化を抑制し、鋼板の強度の向上に寄与する元素である。Snは必ずしも含有させなくてよいので、Sn含有量の下限は0%を含む。Snによる効果を十分に得るためには、Sn含有量は、0.01%以上がより好ましい。
また、Sn含有量が1.00%以下であると、鋼板が脆化して圧延時に破断することを抑制できる。そのため、Sn含有量は1.00%以下とする。合金コストの削減のためには、Sn含有量は0.70%以下または0.50%以下とすることが好ましく、0.30%以下、0.15%以下または0.08%以下とすることがより好ましい。
【0039】
Sb:0~0.200%
Sbは、結晶粒の粗大化を抑制し、鋼板の強度の向上に寄与する元素である。Sbは必ずしも含有させなくてよいので、Sb含有量の下限は0%を含む。上記効果を十分に得るためには、Sb含有量は、0.001%以上または0.005%以上が好ましい。
また、Sb含有量が0.200%以下であると、鋼板が脆化して圧延時に破断することを抑制できる。そのため、Sb含有量は0.200%以下とする。合金コストの削減のためには、Sb含有量は0.100%以下または0.050%以下とすることが好ましく、0.030%以下、0.010%以下または0.005%以下とすることがより好ましい。
【0040】
Ca:0~0.0100%
Mg:0~0.0100%
Zr:0~0.0100%
REM:0~0.0100%
Ca、Mg、ZrおよびREMは、鋼板の成形性の向上に寄与する元素である。Ca、Mg、ZrおよびREMは必ずしも含有させなくてよいので、これらの元素の含有量の下限は0%を含む。成形性向上効果を十分に得るためには、これらの元素の含有量はそれぞれ、0.0001%以上が好ましく、0.0010%以上がより好ましい。
また、Ca、Mg、ZrおよびREMの含有量がそれぞれ0.0100%以下であると、鋼板の延性が低下することを抑制できる。そのため、これらの元素の含有量はそれぞれ、0.0100%以下とする。好ましくは0.0050%以下または0.0030%以下である。
REM(Rare Earth Metal)は、ランタノイド系列に属する元素群を意味する。
【0041】
本実施形態に係る鋼板の化学組成の残部は、Fe及び不純物であってもよい。不純物としては、鋼原料もしくはスクラップからおよび/または製鋼過程で不可避的に混入するもの、あるいは本実施形態に係る鋼板の特性を阻害しない範囲で許容される元素が例示される。不純物として、H、Na、Cl、Co、Zn、Ga、Ge、As、Se、Y、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Te、Cs、Ta、Re、Os、Ir、Pt、Au、Pb、Bi、Poが挙げられる。不純物は、合計で0.100%以下含んでもよい。
【0042】
上述した鋼板の化学組成は、一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定すればよい。
鋼板が表面にめっき層を有する場合は、機械研削により表面のめっき層を除去してから、化学組成の分析を行えばよい。
【0043】
表面から20μm深さ位置のC含有量であるC20と、前記表面から60μm深さ位置のC含有量であるC60と、下記式(1)とから算出されるΔC:0.20~0.90質量%/mm
ΔC=(C60-C20)/(0.04) …(1)
ΔCは、表層に形成される脱炭層のうち、表面から20μm深さ位置~前記表面から60μm深さ位置の領域におけるC濃度勾配を示す。ΔCを0.20~0.90質量%/mmとすることで、脱炭層におけるC濃度勾配の急激な増加を抑制できる。その結果、プレス成形後にゴーストラインが発生することを抑制できる。
【0044】
本実施形態の化学組成を有する鋼板において、ΔCが0.20質量%/mm未満であることは、脱炭が十分に生じていないか、鋼板表面から非常に深い位置まで脱炭が過度に進行していることを意味する。脱炭が十分に生じていない場合、母材の硬さばらつきの影響が顕著となりゴーストラインの発生を抑制することが困難となる。一方、過度な脱炭が生じる場合、軟質化が進み、所望の鋼板強度が得られない場合がある。そのため、ΔCは0.20質量%/mm以上とする。また、ΔCが0.90質量%/mm超であると、脱炭層内の硬度差が顕著となり、ゴーストラインの発生を抑制することが困難となる。ΔCは、0.30質量%/mm以上、0.35質量%/mm以上、0.40質量%/mm以上または0.45質量%/mm以上とすることが好ましい。また、ΔCは、0.80質量%/mm以下または0.75質量%/mm以下とすることが好ましい。
【0045】
なお、鋼板が表面にめっき層を有する場合、「表面から20μm深さ位置」および「表面から60μm深さ位置の領域」における「表面」とはめっき層と母材との界面のことである。なお、後述の方法によりGDS分析を行い、表面からFe含有量を測定したとき、Fe含有量が95質量%以上となる深さ位置を、めっき層と母材との界面とみなす。
また、表面から20μm以上の深さ位置のΔCを規定するのは、表面から20μm未満のC濃度はゴーストラインに影響を及ぼさないからである。
【0046】
ΔCは以下の方法により得る。
鋼板の任意の3か所について、グロー放電発光分光法(Glow Discharge Optical Emission Spectrometry、GDS分析)により、鋼板の表面から深さ方向(板厚方向)に100μmまでC含有量(質量%)を測定する。表面から20μm深さ位置におけるC含有量(C20)と、表面から60μm深さ位置におけるC含有量(C60)と、上記式(1)とから、ΔC(質量%/mm)を算出する。3か所におけるΔCの平均値を算出することで、ΔCを得る。
測定には(株)堀場製作所製のマーカス型高周波グロー放電発光表面分析装置(GD-Profiler)を用いる。
【0047】
本実施形態に係る鋼板は、鋼板の少なくとも一方の表面に、めっき層を有してもよい。めっき層としては、亜鉛めっき層および亜鉛合金めっき層、並びに、これらに合金化処理を施した合金化亜鉛めっき層および合金化亜鉛合金めっき層が挙げられる。
【0048】
亜鉛めっき層および亜鉛合金めっき層は、溶融めっき法、電気めっき法、または蒸着めっき法で形成する。亜鉛めっき層のAl含有量が0.5質量%以下であると、鋼板の表面と亜鉛めっき層との密着性を十分に確保することができるので、亜鉛めっき層のAl含有量は0.5質量%以下が好ましい。
【0049】
亜鉛めっき層が溶融亜鉛めっき層の場合、鋼板表面と亜鉛めっき層との密着性を高めるため、溶融亜鉛めっき層のFe含有量は3.0質量%以下が好ましい。
亜鉛めっき層が電気亜鉛めっき層の場合、電気亜鉛めっき層のFe含有量は、耐食性の向上の点で、0.5質量%以下が好ましい。
【0050】
亜鉛めっき層および亜鉛合金めっき層は、Al、Ag、B、Be、Bi、Ca、Cd、Co、Cr、Cs、Cu、Ge、Hf、Zr、I、K、La、Li、Mg、Mn、Mo、Na、Nb、Ni、Pb、Rb、Sb、Si、Sn、Sr、Ta、Ti、V、W、Zr、REMの1種または2種以上を、鋼板の耐食性および成形性を阻害しない範囲で、含有してもよい。特に、Ni、AlおよびMgは、鋼板の耐食性の向上に有効である。
【0051】
亜鉛めっき層または亜鉛合金めっき層は、合金化処理が施された、合金化亜鉛めっき層または合金化亜鉛合金めっき層であってもよい。溶融亜鉛めっき層または溶融亜鉛合金めっき層に合金化処理を施す場合、鋼板表面と合金化めっき層との密着性向上の観点から、合金化処理後の溶融亜鉛めっき層(合金化亜鉛めっき層)または溶融亜鉛合金めっき層(合金化亜鉛合金めっき層)のFe含有量を7.0~13.0質量%とすることが好ましい。溶融亜鉛めっき層または溶融亜鉛合金めっき層を有する鋼板に合金化処理を施すことで、めっき層中にFeが取り込まれ、Fe含有量が増量する。これにより、Fe含有量を7.0質量%以上とすることができる。すなわち、Fe含有量が7.0質量%以上である亜鉛めっき層は、合金化亜鉛めっき層または合金化亜鉛合金めっき層である。
【0052】
めっき層中のFe含有量は、次の方法により得ることができる。インヒビターを添加した5体積%HCl水溶液を用いてめっき層のみを溶解除去する。ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて、得られた溶解液中のFe含有量を測定することで、めっき層中のFe含有量(質量%)を得る。
【0053】
本実施形態に係る鋼板の引張強さ(TS)は、500MPa以上である。また、引張強さは、500~750MPaであってもよい。引張強さを500MPa以上とすることで、本実施形態に係る鋼板をドアアウタ等のパネル系部品に好適に適用することができる。引張強さは、好ましくは550MPa以上または600MPa以上である。
また、引張強さを750MPa以下とすることで、プレス成形後の外観が劣化することを抑制することができる。引張強さは、好ましくは、700MPa以下である。
【0054】
引張強さは、JIS Z 2241:2011に準拠して評価する。試験片はJIS Z 2241:2011の5号試験片とする。引張試験片の採取位置は、板幅方向の端部から1/4部分とし、圧延方向に垂直な方向を長手方向とする。
【0055】
本実施形態に係る鋼板の板厚は、特定の範囲に限定されないが、汎用性や製造性を考慮すると、0.2~2.0mmが好ましい。板厚を0.2mm以上とすることで、鋼板形状を平坦に維持することが容易になり、寸法精度および形状精度を向上することができる。そのため、板厚は0.2mm以上が好ましい。より好ましくは0.4mm以上である。
一方、板厚が2.0mm以下であると、製造過程で、適正なひずみ付与および温度制御を行うことが容易になり、均質な組織を得ることができる。そのため、板厚は2.0mm以下が好ましい。より好ましくは1.5mm以下である。
【0056】
次に、上述した鋼板をプレス成形することで製造できる、本実施形態に係るプレス成形品について説明する。本実施形態に係るプレス成形品は、上述した鋼板と同じ化学組成を有する。また、本実施形態に係るプレス成形品は、少なくとも一方の表面に上述しためっき層を備えていてもよい。プレス成形後であっても脱炭層におけるC濃度勾配は変化しないため、本実施形態に係るプレス成形品は、表面から20μm深さ位置のC含有量であるC20と、前記表面から60μm深さ位置のC含有量であるC60と、下記式(1)とから算出されるΔCが0.20~0.90質量%/mmである。
ΔC=(C60-C20)/(0.04) …(1)
【0057】
上記C濃度勾配は、0.30質量%/mm以上、0.35質量%/mm以上、0.40質量%/mm以上または0.45質量%/mm以上とすることが好ましく、0.80質量%/mm以下または0.75質量%/mm以下とすることが好ましい。なお、プレス成形品のΔCは、鋼板のときと同様の方法により得る。
【0058】
本実施形態に係るプレス成形品は、上述した鋼板をプレス成形して得られるものであるため、ゴーストラインの発生が抑制されており、外観品質に優れる。外観品質に優れるとは、表面に生じる数mmオーダー間隔の縞模様(すなわちゴーストライン)が観察されないことをいう。更に換言すると、100mm×100mmの任意の領域を目視で確認したときに確認される、数mmオーダー間隔の筋模様の最大長さが50mm以下である。筋模様の最大長さは20mm以下であることが好ましい。また、筋模様は全く観察されないことがより好ましい。
【0059】
プレス成形品の具体例としては例えば、自動車車体のドアアウタ等のパネル系部品が挙げられる。
【0060】
次に、本実施形態に係る鋼板の製造方法について説明する。
本実施形態に係る鋼板は、製造方法に依らず、上記の特徴を有していればその効果が得られる。しかし、上述した化学組成を有する鋼を用いて、熱間圧延後且つ冷間圧延後に下記条件で焼鈍を行うことで、ΔC(C濃度勾配)が好ましく制御された鋼板を安定して製造することができる。
【0061】
(熱間圧延後の焼鈍)
まず、上述した化学組成を有するスラブに対して、一般的な条件で熱間圧延を行うことで、熱間圧延鋼板を得る。得られた熱間圧延鋼板に対して、大気中雰囲気にて高温域で一次焼鈍を行う。この一次焼鈍は、焼鈍温度550~700℃、焼鈍時間:2時間以上の条件で行う。熱間圧延後に高温域で焼鈍を行うことで、鋼板の表層にSiおよびMnの内部酸化物が形成される。その結果、冷間圧延後の焼鈍においてSiおよびMnの表面濃化が抑制され、脱炭が促進される。これにより、ΔCを好ましく制御することができる。
焼鈍温度が550℃未満または焼鈍時間が2時間未満であると、鋼板のΔCを好ましく制御することができない。
【0062】
上記焼鈍を行った後、酸洗処理を施し、累積圧下率が70%以上である冷間圧延を行うことで、所望の厚さを有する鋼板あるいは鋼帯を製造する。冷間圧延の累積圧下率を70%以上とすることで、冷間圧延後の焼鈍時にオーステナイト再結晶が促進され、オーステナイト分率の増加を抑制することができる。その結果、冷間圧延後の焼鈍時にCの拡散係数が大きいフェライト分率が増加し、脱炭が促進される。
【0063】
なお、ここでいう累積圧下率とは、{1-(冷間圧延後板厚/冷間圧延前板厚)}×100(%)で表される。
【0064】
冷間圧延後、更に二次焼鈍を施すことで所望の機械特性を有する鋼板を得る。その際、例えば、二次焼鈍時の露点(焼鈍炉内の平均的な露点)を-10℃以上とし、700℃以上の温度域における鋼板の滞在時間を50~400秒とすることで、安定して鋼板の表面を脱炭することができる。露点の上限は特に定める必要はないが、10℃程度としてもよい。露点が低すぎる場合または上記滞在時間が短すぎる場合には、脱炭が十分に進行せず、ΔCを好ましく制御することができない。また、上記滞在時間が長すぎる場合には、十分な引張強さが得られない場合がある。なお、焼鈍時の温度は、例えば、750~850℃程度である。
【0065】
上述した条件以外については、特に限定されないが、例えば以下の条件を満足することが好ましい。
スラブを1100℃以上の温度域に加熱した後、熱間圧延する。熱間圧延後は巻取りを行い、一次焼鈍を行い、次いで酸洗を行う。熱間圧延の仕上げ圧延温度は900℃以上が好ましく、巻取り温度は650℃以下であることが好ましい。酸洗後は冷間圧延を行う。冷間圧延後は二次焼鈍を実施し、その後必要に応じて、上述しためっき層を形成してもよい。
【0066】
次に、本実施形態に係るプレス成形品の製造方法について説明する。
プレス成形の方法は、得られた組織を維持させてゴーストラインの発生を抑制するために、冷間加工が好ましい。冷間加工方法は、特に限定されないが、ダイとパンチを相対移動させることで鋼板を成形できればよい。
【実施例】
【0067】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用する一条件例である。本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
【0068】
表1に示す化学組成を有する鋼を溶製し、連続鋳造により厚みが240~300mmのスラブを製造した。得られたスラブを1100℃以上の温度域に加熱した後、熱間圧延を行った。熱間圧延後は巻取りを行い、表2の条件で一次焼鈍を行った後、酸洗を行った。熱間圧延の仕上げ圧延温度は900℃以上とし、巻取り温度は650℃以下とした。酸洗後は、累積圧下率が70~90%となる冷間圧延を行った。冷間圧延後に、表2に示す条件で二次焼鈍を実施し、必要に応じて、合金化溶融亜鉛めっき層(GA)、溶融亜鉛めっき層(GI)、電気亜鉛めっき層(EG)を形成した。以上の方法により、表2に示す鋼板およびめっき鋼板を得た。なお、得られた鋼板およびめっき鋼板の板厚は0.2~2.0mmであった。
【0069】
冷間圧延後の焼鈍を行った後、鋼板およびめっき鋼板を用いて、プレス成形によってドアアウタを模擬した略半円筒状の模擬部品(プレス成形品)を製造した。この模擬部品をプレス成形する際には、材料(鋼板またはめっき鋼板)を積極的に金型に流入させ、模擬部品の表面におけるいずれの位置においても、模擬部品の表面に沿う任意の方向のひずみに対する当該方向(その任意の方向)に垂直な方向のひずみの比が1程度になるようにした。つまり、模擬部品の表面のどの位置においても、ひずみの異方性が生じないようにプレス成形を行った。
【0070】
得られた鋼板、めっき鋼板および模擬部品(プレス成形品)に対し、上述の方法により、ΔCを求めた。なお、鋼板およびめっき鋼板のΔCと、模擬部品のΔCとは同じ値であったため、表中に模擬部品のΔCは記載していない。
また、以下の方法により、鋼板の引張強さおよび模擬部品の外観品質を評価した。なお、鋼板の引張強さと模擬部品(プレス成形品)の引張強さとの間には大きな差異は無いため、鋼板時点で、模擬部品として所望される引張強さを有しているか否かを評価した。
【0071】
引張強さ
引張強さは、JIS Z 2241:2011に準拠して評価した。試験片はJIS Z 2241:2011の5号試験片とした。引張試験片の採取位置は、板幅方向の端部から1/4部分とし、圧延方向に垂直な方向を長手方向とした。得られた引張強さが500MPa以上であった場合、高強度であるとして合格と判定した。一方、得られた引張強さが500MPa未満であった場合、強度に劣るとして不合格と判定した。
【0072】
外観品質
外観品質は、成形後の模擬部品の表面に発生するゴーストラインの程度により評価した。プレス成形後の表面を砥石掛けし、表面に生じた数mmオーダー間隔の縞模様を、ゴーストラインと判断し、筋模様の発生程度によって、1~5で評点付けした。100mm×100mmの任意の領域を目視で確認し、筋模様が全く確認されなかった場合を「1」とし、筋模様の最大長さが20mm以下の場合を「2」とし、筋模様の最大長さが20mm超、50mm以下の場合を「3」とし、筋模様の最大長さが50mm超、70mm以下の場合を「4」とし、筋模様の最大長さが70mmを超える場合を「5」とした。評価が「3」以下であった場合、外観品質に優れるとして合格と判定した。一方、評価が「4」以上であった場合、外観品質に劣るとして不合格と判定した。
【0073】
【0074】
【0075】
表2を見ると、本発明例に係るプレス成形品は、高強度であり、優れた外観品質を有することが分かる。また、本発明例に係る鋼板は、高強度であり、優れた外観品質を有するプレス成形品を製造できたことが分かる。
【0076】
一方、比較例に係るプレス成形品は、強度が劣ったか、外観品質が劣化したことが分かる。また、比較例に係る鋼板は、高強度であり、優れた外観品質を有するプレス成形品を製造できなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る上記態様によれば、高強度であり、優れた外観品質を有するプレス成形品、およびこのプレス成形品を製造できる鋼板を提供することができる。