(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-08
(45)【発行日】2025-07-16
(54)【発明の名称】車両用ドアロック装置
(51)【国際特許分類】
E05B 81/90 20140101AFI20250709BHJP
【FI】
E05B81/90
(21)【出願番号】P 2024104092
(22)【出願日】2024-06-27
【審査請求日】2024-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】591038587
【氏名又は名称】株式会社アンセイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】山路 敏志
(72)【発明者】
【氏名】岡田 邦彦
【審査官】杉田 翠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2022/0282532(US,A1)
【文献】国際公開第2023/061534(WO,A1)
【文献】特表2002-508463(JP,A)
【文献】特許第6450991(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 81/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対して開閉可能なドアに固定されたハウジングであって、前記車体に固定されたストライカが進入可能な進入溝が凹設された前記ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられ、前記進入溝に進入した前記ストライカと係合することにより、前記車体に対して前記ドアを閉じた状態で保持可能なラッチ機構と、
前記ハウジング内に設けられ、前記ラッチ機構を作動可能な作動機構と、
前記ハウジング内に設けられ、前記ラッチ機構に対する前記作動機構の作動を有効化するアンロック位置と、前記ラッチ機構に対する前記作動機構の作動を無効化するロック位置との間で直動可能なロックレバーと、
を備えた車両用ドアロック装置であって、
前記ハウジングは、前記進入溝の底面を形成する第1壁を貫通するように形成され、前記車両用ドアロック装置とは別体である操作部材を挿通可能な操作孔を有し、
前記ロックレバーは、前記ロックレバーの前記アンロック位置から前記ロック位置までの直動範囲において前記操作孔に対向する対向面を有する第2壁と、
前記対向面に凹設された有底穴形状の被操作部であって、前記直動範囲において前記操作孔を介して前記ハウジングの外部に露出して前記操作部材の一端と係合可能な前記被操作部と、を有していることを特徴とする車両用ドアロック装置。
【請求項2】
前記ロックレバーが直動する直動方向は、前記ストライカが前記進入溝に対して進退する進退方向に略直交しており、
前記直動方向の一方は、前記ロック位置にある前記ロックレバーの前記被操作部よりも前記アンロック位置にある前記ロックレバーの前記被操作部に近い側であり、
前記進入溝は、前記底面に対して前記直動方向の前記一方に位置する第1側面を有し、
前記ハウジングは、前記第1側面における前記底面から遠い端縁側に形成され、前記進退方向に沿って延びる稜線部を有し、
前記操作部材は、前記操作部材の前記一端が前記アンロック位置にある前記ロックレバーの前記被操作部と係合して作用点となり、前記操作部材の他端が力点となり、前記操作部材の中間部が前記稜線部に当接して支点となることにより、てことして作用可能である請求項1記載の車両用ドアロック装置。
【請求項3】
前記操作孔は、前記操作孔の内周面のうちの前記直動方向の他方に位置する第1内周面を有し、
前記被操作部は、前記被操作部の内周面のうちの前記直動方向の前記一方に位置する第2内周面を有し、
前記第1内周面は、前記直動方向の前記一方を向きながら、前記対向面に近づくにつれて前記直動方向の前記他方にずれるように傾斜し、
前記第2内周面は、前記直動方向の前記他方を向きながら、前記対向面に近づくにつれて前記直動方向の前記一方にずれるように傾斜している請求項2記載の車両用ドアロック装置。
【請求項4】
前記ストライカが前記進入溝に対して進退する進退方向は略水平であり、
前記ロックレバーが直動する直動方向は、前記進退方向に略直交する上下方向であり、
前記進入溝は、前記進退方向と平行に延び、前記進入溝の奥まで進入した前記ストライカの上限位置を決める上規制端縁と、
前記進退方向と平行に延び、前記進入溝の奥まで進入した前記ストライカの下限位置を決める下規制端縁と、を有し、
前記操作孔が前記第1壁を貫通する方向に沿って見て、前記操作孔は、前記直動方向において前記上規制端縁との距離と前記下規制端縁との距離とが等しい位置で前記進退方向と平行に延びる仮想線よりも上方に位置している請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用ドアロック装置。
【請求項5】
前記ハウジングは、前記第1壁における前記底面とは反対側に形成され、前記操作孔を囲む周縁部を有し、
前記対向面は、前記直動範囲において前記周縁部にも対向する請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用ドアロック装置。
【請求項6】
前記ストライカが前記進入溝に対して進退する進退方向は略水平であり、
前記ロックレバーが直動する直動方向は、前記進退方向に略直交する上下方向であり、
前記周縁部は、前記操作孔を前記進退方向の一方と他方とから挟む位置にあって上下方向に延び、かつ前記対向面に向かって突出する2つのリブを有し、
各前記リブにおける前記操作孔よりも下方に位置する下端に接続する2つの傾斜リブは、下方に進むにつれて前記進退方向において前記進入溝の入口に近づくように傾斜しており、
前記ハウジングは、各前記傾斜リブの下端よりも下方において、前記ハウジングの内部と外部とを連通させる排出口を有している請求項5記載の車両用ドアロック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用ドアロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の車両用ドアロック装置の一例が開示されている。この車両用ドアロック装置は、ハウジング、ラッチ機構、作動機構及びロック機構を備えている。
【0003】
ハウジングは、ボディ、ケーシング及びカバー部材が組み合わされてなる。ハウジングは、車体に対して開閉可能なドアに固定されている。ボディには、進入溝が凹設されている。進入溝には、車体に固定されたストライカが進入可能である。
【0004】
ラッチ機構は、ハウジング内に設けられている。ラッチ機構は、ラッチ及びポールを有して構成されている。ラッチ機構は、進入溝に進入したストライカと係合することにより、車体に対してドアを閉じた状態で保持可能である。
【0005】
作動機構は、ハウジング内に設けられている。作動機構は、リリースレバー、アウトサイドレバー等を有して構成されている。作動機構は、ラッチ機構を作動可能である。
【0006】
ロック機構は、ハウジング内に設けられている。ロック機構は、ロックレバー及びスライドレバーを有して構成されている。ロックレバーは、ラッチ機構に対する作動機構の作動を有効化するアンロック位置と、ラッチ機構に対する作動機構の作動を無効化するロック位置との間で回動可能である。スライドレバーは、直動することによりロックレバーをアンロック位置とロック位置とに切り替える。
【0007】
その
図9及び
図12に示すように、この車両用ドアロック装置は、エマージェンシーレバーをさらに備えている。エマージェンシーレバーは、ボディに回動可能に支持されており、進入溝の底面に露出する露出部を有している。エマージェンシーレバーは、第1係合部及び第2係合部を有している。第1係合部及び第2係合部は、ハウジング内に位置してスライドレバーに係合している。
【0008】
この車両用ドアロック装置が搭載された車両において、電気系統の異常が発生した場合、以下のような非常操作によってセキュリティを確保できる。すなわち、車両のドアを開いた状態で、操作治具をエマージェンシーレバーの露出部に挿入してエマージェンシーレバーを回動させる。これにより、スライドレバーが直動してロックレバーがロック位置に切り替わり、ラッチ機構に対する作動機構の作動が無効化される。その後、そのドアを閉じることにより、ラッチ機構は、車体に対してドアを閉じた状態で保持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記従来の車両用ドアロック装置では、エマージェンシーレバーとボディとの間に回動隙間が形成されており、雨水や洗浄水等である水がその回動隙間を介してハウジング内に浸入するおそれがある。
【0011】
また、この車両用ドアロック装置では、非常操作において操作治具がエマージェンシーレバー及びスライドレバーを経由してロックレバーに作用するため、部品点数が多い。
【0012】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ラッチ機構に対する作動機構の作動を非常操作によって無効化可能としつつ、水が進入溝を介してハウジング内に浸入することを抑制し、さらに部品点数の削減を実現できる車両用ドアロック装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の車両用ドアロック装置は、車体に対して開閉可能なドアに固定されたハウジングであって、前記車体に固定されたストライカが進入可能な進入溝が凹設された前記ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられ、前記進入溝に進入した前記ストライカと係合することにより、前記車体に対して前記ドアを閉じた状態で保持可能なラッチ機構と、
前記ハウジング内に設けられ、前記ラッチ機構を作動可能な作動機構と、
前記ハウジング内に設けられ、前記ラッチ機構に対する前記作動機構の作動を有効化するアンロック位置と、前記ラッチ機構に対する前記作動機構の作動を無効化するロック位置との間で直動可能なロックレバーと、
を備えた車両用ドアロック装置であって、
前記ハウジングは、前記進入溝の底面を形成する第1壁を貫通するように形成され、前記車両用ドアロック装置とは別体である操作部材を挿通可能な操作孔を有し、
前記ロックレバーは、前記ロックレバーの前記アンロック位置から前記ロック位置までの直動範囲において前記操作孔に対向する対向面を有する第2壁と、
前記対向面に凹設された有底穴形状の被操作部であって、前記直動範囲において前記操作孔を介して前記ハウジングの外部に露出して前記操作部材の一端と係合可能な前記被操作部と、を有していることを特徴とする。
【0014】
本発明の車両用ドアロック装置が搭載された車両において、電気系統の異常が発生した場合、以下のような非常操作によってセキュリティを確保できる。すなわち、車両のドアを開いた状態で、操作部材をハウジングの操作孔に挿通させ、操作部材の一端をロックレバーの被操作部と係合させてロックレバーを直動させる。これにより、ロックレバーがロック位置に切り替わり、ラッチ機構に対する作動機構の作動が無効化される。その後、そのドアを閉じることにより、ラッチ機構は、車体に対してドアを閉じた状態で保持する。
【0015】
また、この車両用ドアロック装置では、雨水や洗浄水等である水が操作孔を通過しようとしても、対向面がその水をハウジング内で遮り、ハウジングの外部に戻すことができる。
【0016】
さらに、この車両用ドアロック装置では、非常操作において操作部材を直にロックレバーに作用させるだけでよく、上記従来の車両用ドアロック装置に係るエマージェンシーレバー及びスライドレバーが不要である。
【0017】
したがって、本発明の車両用ドアロック装置は、ラッチ機構に対する作動機構の作動を非常操作によって無効化可能としつつ、水が進入溝を介してハウジング内に浸入することを抑制し、さらに部品点数の削減を実現できる。
【0018】
ロックレバーが直動する直動方向は、ストライカが進入溝に対して進退する進退方向に略直交していることが望ましい。直動方向の一方は、ロック位置にあるロックレバーの被操作部よりもアンロック位置にあるロックレバーの被操作部に近い側であることが望ましい。進入溝は、底面に対して直動方向の一方に位置する第1側面を有していることが望ましい。ハウジングは、第1側面における底面から遠い端縁側に形成され、進退方向に沿って延びる稜線部を有していることが望ましい。そして、操作部材は、操作部材の一端がアンロック位置にあるロックレバーの被操作部と係合して作用点となり、操作部材の他端が力点となり、操作部材の中間部が稜線部に当接して支点となることにより、てことして作用可能であることが望ましい。
【0019】
この場合、操作部材をてことして作用させることにより、仮に操作部材を直線的に移動させてロックレバーをアンロック位置からロック位置に直動させる場合と比較して、ロックレバーを容易にアンロック位置からロック位置に直動させることができる。
【0020】
操作孔は、操作孔の内周面のうちの直動方向の他方に位置する第1内周面を有していることが望ましい。被操作部は、被操作部の内周面のうちの直動方向の一方に位置する第2内周面を有していることが望ましい。第1内周面は、直動方向の一方を向きながら、対向面に近づくにつれて直動方向の他方にずれるように傾斜していることが望ましい。そして、第2内周面は、直動方向の他方を向きながら、対向面に近づくにつれて直動方向の一方にずれるように傾斜していることが望ましい。
【0021】
この場合、傾斜する第1内周面及び第2内周面によって、操作部材がてことして作用するときにロックレバーを直動させるストロークを確保し易くなるので、操作孔の直動方向の長さを小さくし易い。その結果、この車両用ドアロック装置は、水が操作孔を介してハウジング内に浸入してハウジング内の構成部品に影響を及ぼす不具合を一層抑制できる。
【0022】
ストライカが進入溝に対して進退する進退方向は略水平であることが望ましい。ロックレバーが直動する直動方向は、進退方向に略直交する上下方向であることが望ましい。進入溝は、進退方向と平行に延び、進入溝の奥まで進入したストライカの上限位置を決める上規制端縁と、進退方向と平行に延び、進入溝の奥まで進入したストライカの下限位置を決める下規制端縁と、を有していることが望ましい。そして、操作孔が第1壁を貫通する方向に沿って見て、操作孔は、直動方向において上規制端縁との距離と下規制端縁との距離とが等しい位置で進退方向と平行に延びる仮想線よりも上方に位置していることが望ましい。
【0023】
この場合、ハウジングに上からかかった水は、下方に垂れるので進入溝の底面に到達し難く、進入溝の底面に向かって流れるとしても、底面における上方に形成された操作孔に到達し難い。その結果、この車両用ドアロック装置は、水が操作孔を介してハウジング内に浸入することを一層抑制できる。
【0024】
ハウジングは、第1壁における底面とは反対側に形成され、操作孔を囲む周縁部を有していることが望ましい。そして、対向面は、直動範囲において周縁部にも対向することが望ましい。
【0025】
この場合、操作孔を通過しようとする水を対向面がハウジングの外部に戻すときにその水の一部が対向面を伝ってハウジング内に浸入するとしても、周縁部によって、その水を対向面から下方に速やかに垂らすことができる。その結果、この車両用ドアロック装置は、水が進入溝を介してハウジング内に浸入してハウジング内の構成部品に影響を及ぼす不具合を抑制できる。
【0026】
ストライカが進入溝に対して進退する進退方向は略水平であることが望ましい。ロックレバーが直動する直動方向は、進退方向に略直交する上下方向であることが望ましい。周縁部は、操作孔を進退方向の一方と他方とから挟む位置にあって上下方向に延び、かつ対向面に向かって突出する2つのリブを有していることが望ましい。各リブにおける操作孔よりも下方に位置する下端に接続する2つの傾斜リブは、下方に進むにつれて進退方向において進入溝の入口に近づくように傾斜していることが望ましい。そして、ハウジングは、各傾斜リブの下端よりも下方において、ハウジングの内部と外部とを連通させる排出口を有していることが望ましい。
【0027】
この場合、操作孔を通過しようとする水を対向面がハウジングの外部に戻すときにその水の一部が対向面を伝ってハウジング内に浸入するとしても、各リブ、各傾斜リブ及び排出口によって、その水をハウジング内の構成部品から遠ざけながらハウジングの外部に速やかに排出できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の車両用ドアロック装置によれば、ラッチ機構に対する作動機構の作動を非常操作によって無効化可能としつつ、水が進入溝を介してハウジング内に浸入することを抑制し、さらに部品点数の削減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施例の車両用ドアロック装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、ラッチハウジング及びラッチ機構等の分解斜視図である。
【
図3】
図3は、第1ハウジング及びロック機構等の正面図である。
【
図4】
図4は、第1ハウジング及びロック機構等の分解斜視図である。
【
図5】
図5は、ラッチハウジング、ラッチ機構及びロック機構等の斜視図である。
【
図6】
図6は、ラッチハウジング及び第2ハウジングの斜視図である。
【
図7】
図7は、O/Sオープンレバー、慣性レバー、フォーク及びポールの動作を説明する模式図である。
【
図8】
図8は、O/Sオープンレバー、慣性レバー、フォーク及びポールの動作を説明する模式図である。
【
図9】
図9は、O/Sオープンレバー、慣性レバー、フォーク及びポールの動作を説明する模式図である。
【
図10】
図10は、O/Sオープンレバー、慣性レバー、フォーク及びポールの動作を説明する模式図である。
【
図12】
図12は、実施例の車両用ドアロック装置の部分後面図である。
【
図14】
図14は、ロックレバーの部分後面図であって、(a)はアンロック位置にあるロックレバーと操作孔等との位置関係を説明する図であり、(b)はロック位置にあるロックレバーと操作孔等との位置関係を説明する図であり、
【
図15】
図15は、操作部材を用いてロックレバーをアンロック位置からロック位置に移動させる動作を説明する模式部分断面図である。
【
図16】
図16は、操作部材を用いてロックレバーをアンロック位置からロック位置に移動させる動作を説明する模式部分断面図である。
【
図17】
図17は、操作部材を用いてロックレバーをアンロック位置からロック位置に移動させる動作を説明する模式部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を具体化した実施例について図面を参照しつつ説明する。
【0031】
(実施例)
図1に示すように、実施例の車両用ドアロック装置1(以下、単に「ドアロック装置1」と呼ぶ。)は、本発明の車両用ドアロック装置の具体的態様の一例である。ドアロック装置1は、図示は省略するが、自動車、バス、産業車両等の車両の車体に対して開閉可能なドアに固定されている。そして、ドアロック装置1は、車体に固定されたストライカS1(
図7~
図10参照)を保持することによって、車体に対してドアを閉じた状態で保持可能である。
【0032】
図1では、車体の左側面に設けられたドアの後端側の内部に配設されたドアロック装置1を図示している。なお、ドアロック装置1が車体の右側面に設けられたドアの後端側に固定される場合には、勝手違いになるだけである。さらに、ドアロック装置1は、バックドア等にも設けられ得る。
【0033】
図1に示す前後方向及び上下方向は、車両の前後方向及び上下方向を基準としている。また、
図1に示す車両内外方向は、車両の車室内に搭乗する者を基準として、車両の左側面側を車両外側とし、その反対側を車両内側、すなわち車室側としている。
図2以降に示す前後方向、上下方向及び車両内外方向は、
図1に対応させて表示している。
【0034】
<全体構成>
図1に示すように、ドアロック装置1が固定された図示しないドアの外面には、外側ドアハンドルH1が配設されている。ドアの車室内に露出する内面には、内側ドアハンドルH2が配設されている。
【0035】
外側ドアハンドルH1には、伝達ロッドC1の上端部が連結されている。ドアロック装置1は、ドアの内部において外側ドアハンドルH1よりも下方に配設されている。伝達ロッドC1の下端部は、
図4、
図5及び
図8等を示して後述するO/Sオープンレバー20の一端部20Aに連結されている。
【0036】
図1に示すように、内側ドアハンドルH2には、伝達ケーブルC2の一端部が接続されている。伝達ケーブルC2の他端部は、ドアロック装置1内に引き込まれており、
図3及び
図4等を示して後述するI/Sオープンレバー25の一端部25Aに接続されている。
【0037】
ドアロック装置1は、
図1及び
図2に示すラッチハウジング9と、
図1及び
図3に示す作動ハウジング7と、を備えている。
図1に示すように、作動ハウジング7は、ラッチハウジング9に組み付けられている。ラッチハウジング9及び作動ハウジング7は、本発明の「ハウジング」の一例である。
【0038】
作動ハウジング7は、
図1、
図3及び
図4に示す第1ハウジング70と、
図1及び
図6に示す第2ハウジング80と、を有している。第1ハウジング70及び第2ハウジング80はそれぞれ、樹脂製である。
【0039】
図3に示すように、第1ハウジング70は、第1基壁部71と、第1基壁部71を囲む第1周壁部73と、を有している。
図6に示すように、第2ハウジング80は、第2基壁部81と、第2基壁部81を囲む第2周壁部83と、を有している。
【0040】
第1基壁部71と第2基壁部81とが対向し、第1周壁部73と第2周壁部83とが溶着されることによって、第2ハウジング80が第1ハウジング70に組み付けられている。これにより、作動ハウジング7の内部に、
図3及び
図4に示す収納室7Aが形成されている。
【0041】
図2に示すように、ラッチハウジング9は、樹脂製である第3ハウジング90と、それぞれ鋼板製であるベースプレート99及びバックプレート98と、を有している。
【0042】
第3ハウジング90にフォーク揺動軸11S及びポール揺動軸12Sを挿通し、第3ハウジング90の後方にベースプレート99を配置し、第3ハウジング90の前方にバックプレート98を配置する。そして、フォーク揺動軸11S及びポール揺動軸12Sのそれぞれの後端部をベースプレート99に加締め固定し、フォーク揺動軸11S及びポール揺動軸12Sのそれぞれの前端部をバックプレート98に加締め固定することによって、ラッチハウジング9の内部に、ラッチ室9Aが形成されている。
【0043】
第3ハウジング90を第1ハウジング70に仮り組みした後に第2ハウジング80を第1ハウジング70に組み付け、第1ハウジング70の第1周壁部73と、第2ハウジング80の第2周壁部83と、を溶着することにより、第3ハウジング90が第1ハウジング70及び第2ハウジング80と接合される。
【0044】
ドアロック装置1は、
図1及び
図2に示すラッチ機構8と、
図3及び
図4に示す作動機構6及びロックレバー40と、を備えている。ラッチ機構8は、ラッチハウジング9のラッチ室9Aに収納されている。作動機構6及びロックレバー40は、作動ハウジング7の収納室7Aに収納されている。
【0045】
図1及び
図2に示すように、ラッチハウジング9には、進入溝97が凹設されている。進入溝97は、第3ハウジング90に形成されたハウジング溝90Mと、ベースプレート99に形成されたプレート溝99Mと、によって構成されている。
【0046】
進入溝97の底面97Dは、ハウジング溝90Mの底面である。進入溝97の底面97Dは、第3ハウジング90の第1壁91によって形成されている。第1壁91は、ベースプレート99から前方に離れた位置で上下方向及び車両内外方向に略平板状に延びている。進入溝97の底面97Dは、第1壁91の後面であり、車両内外方向に細長く延びている。
【0047】
進入溝97の入口97Eは、プレート溝99Mにおける車両内側に向かって開放された部分と、ハウジング溝90Mにおける車両内側に向かって開放された部分と、によって形成されている。進入溝97の奥は、入口97Eから車両外側に離れた位置にある。
【0048】
ベースプレート99には、複数の固定穴99Hが形成されている。図示しない複数の止めネジがドアの後端面に挿通され、さらに、ベースプレート99の各固定穴99Hに捩じ込まれることによって、ラッチハウジング9及び作動ハウジング7は、進入溝97をドアの後端面に露出させた状態でドアに固定される。
【0049】
図7~
図10に示すように、ドアの閉鎖に伴ってドアロック装置1が車両内側に移動する際、車体に固定されたストライカS1が進入溝97に相対的に進入する。その一方、ドアの開放に伴ってドアロック装置1が車両外側に移動する際、ストライカS1が進入溝97から相対的に離脱する。
【0050】
ストライカS1が進入溝97に対して進退する進退方向は、車両内外方向であって略水平である。
【0051】
図2に示すように、ラッチ機構8は、フォーク11及びポール12を有している。フォーク11は、進入溝97に対して上方に位置するフォーク揺動軸11Sに揺動可能に支持されている。ポール12は、進入溝97に対して下方に位置するポール揺動軸12Sに揺動可能に支持されている。
【0052】
図7~
図10に示すように、フォーク11は、図示しない捩じりコイルバネにより、フォーク揺動軸11S周りでD11方向に揺動するように付勢されている。
【0053】
フォーク11の進入溝97側に位置する部位は、内側凸部11Aと外側凸部11Bとに分岐している。そして、内側凸部11Aと外側凸部11Bとの間に形成された切り欠き部11Cには、進入溝97内に進入したストライカS1が収まるようになっている。
【0054】
フォーク11は、
図7、
図9及び
図10に示す状態では、進入溝97の奥まで進入したストライカS1を保持している。内側凸部11Aのポール12に対面する先端側には、後述するストッパ面12Aと当接可能なラッチ面11Dが形成されている。
【0055】
ポール12は、図示しない捩じりコイルバネにより、ポール揺動軸12S周りでD12方向に揺動するように付勢されて
図7に示す姿勢を保持している。
【0056】
ポール12における進入溝97の奥側に位置する部位には、ストッパ面12Aが形成されている。ストッパ面12Aは、上述のラッチ面11Dに対面するように形成されている。ストッパ面12Aを構成する円弧は、フォーク11側で途切れており、そこからポール揺動軸12S側に延びる摺動面12Cが形成されている。
【0057】
一方、ポール12におけるポール揺動軸12Sを挟んでストッパ面12Aとは反対側には、被当接部12Bが形成されている。
図2に示すように、被当接部12Bは、前方に向かって柱状に突出している。
図5に示すように、被当接部12Bの前端は、ラッチ室9Aから第3ハウジング90を通過して前向きに突出し、収納室7A内に進入している。
【0058】
図7に示すように、ポール12は、フォーク11が進入溝97の奥まで進入したストライカS1を保持した状態で、内側凸部11Aのラッチ面11Dにストッパ面12Aが当接することにより、フォーク11をD11方向に揺動させないように固定する。
図7に示すフォーク11の位置は、進入溝97内にストライカS1を保持するラッチ位置である。
【0059】
図8に示すように、後述する慣性レバー29がポール12の被当接部12Bに当接して押し上げると、ポール12は、図示しない捩じりコイルバネの付勢力に抗しつつ、ポール揺動軸12S周りでD12方向とは逆方向に揺動する。この際、ストッパ面12Aがラッチ面11Dから離間するので、ポール12がフォーク11の揺動を開放する。そして、フォーク11が図示しない捩じりコイルバネの付勢力によりフォーク揺動軸11S周りでD11方向に揺動して、進入溝97内からストライカS1が離脱することを許容するアンラッチ位置に変位する。
【0060】
逆に、ストライカS1が進入溝97内に進入する場合、ストライカS1が外側凸部11Bを押すので、フォーク11がD11方向とは逆方向に揺動し、
図8に示すアンラッチ位置から、
図7に示すラッチ位置に復帰する。この際、外側凸部11B及び内側凸部11Aの先端が順次、摺動面12Cに摺接する。そして、内側凸部11Aが摺動面12Cから離間すると、ポール12は、D12方向に揺動して、
図7に示す元の姿勢に復帰する。このため、ストッパ面12Aがラッチ面11Dと当接し、ラッチ位置にあるフォーク11の揺動を固定する。こうして、ラッチ機構8は、進入溝97に進入したストライカS1と係合することにより、車体に対してドアを閉じた状態で保持する。
【0061】
図3及び
図4に示すように、作動機構6は、O/Sオープンレバー20、I/Sオープンレバー25、慣性レバー29、中継ロックレバー35、電動モータM1、ウォームホイール39及びスイッチSW1を有している。
【0062】
第1ハウジング70において、第1基壁部71における後方かつ下方の部位には、O/Sオープンレバー揺動軸20Sが後向きに凸設されている。O/Sオープンレバー20は、O/Sオープンレバー揺動軸20Sに揺動可能に支持されている。
【0063】
図7に示すように、O/Sオープンレバー20は、図示しない捩じりコイルバネにより、O/Sオープンレバー揺動軸20S周りでD20方向に揺動するように付勢されている。伝達ロッドC1の下端部が接続されたO/Sオープンレバー20の一端部20Aは、図示は省略するが、作動ハウジング7の外部に突出している。
【0064】
図3~
図5に示すように、慣性レバー29は、前後方向に延びる揺動軸心X29周りで揺動可能にO/Sオープンレバー20の他端部20Bに支持されている。
図7に示すように、慣性レバー29は、図示しない捩じりコイルバネによって、揺動軸心X29周りでD29方向に揺動するように付勢されている。
【0065】
外側ドアハンドルH1が開操作されて伝達ロッドC1が下降すると、
図8に示すように、O/Sオープンレバー20の一端部20Aが押し下げられて、O/Sオープンレバー20がD20方向とは逆方向に揺動し、慣性レバー29を上昇させる。
【0066】
図3及び
図4に示すように、第1ハウジング70の第1基壁部71における後方かつ下方の部位には、第1軸部75Pが形成されている。第1基壁部71における第1軸部75Pよりも前方の部位には、第2軸部75Qが形成されている。第1基壁部71の略中央に位置する部位には、第3軸部75R及び第4軸部75Sが形成されている。第1軸部75P、第2軸部75Q、第3軸部75R及び第4軸部75Sはそれぞれ、第2ハウジング80の第2基壁部81に向かって延びている。
【0067】
I/Sオープンレバー25は、第1軸部75Pに揺動可能に支持されている。I/Sオープンレバー25における第1軸部75Pから下方に離間する一端部25Aには、伝達ケーブルC2の他端部が連結されている。つまり、I/Sオープンレバー25は、伝達ケーブルC2を介して、内側ドアハンドルH2に連結されている。
【0068】
I/Sオープンレバー25の一端部25Aよりも上方の部位には、作用部25Bが形成されている。I/Sオープンレバー25は、内側ドアハンドルH2に対する開操作により、
図3の紙面に向かって反時計方向に揺動する。これにより、作用部25BがO/Sオープンレバー20の他端部20Bを押し上げ、慣性レバー29を上昇させる。説明は簡略するが、I/Sオープンレバー25は、ドアのロック(施錠)状態において内側ドアハンドルH2のみの開操作により中継ロックレバー35に作用してドアをアンロック(開錠)状態とし、ドアを開放可能とする機能(いわゆるオーバーライド機能)も有している。
【0069】
図3及び
図4に示すように、中継ロックレバー35は、第2軸部75Qに揺動可能に支持されている。
図4に示すように、中継ロックレバー35の上部には、カム35Cが形成される。中継ロックレバー35の車両外側を向く面には、作用部35Bが車両外側を向かって凸設されている。
【0070】
図3及び
図4に示すように、ウォームホイール39は、第3軸部75Rに回動可能に支持されている。ウォームホイール39の車両外側を向く面には、中継ロックレバー35のカム35Cと係合可能な図示しないカム部が形成されている。
【0071】
電動モータM1は、収納室7A内におけるウォームホイール39よりも上方かつ前方の位置に配置されている。ウォームホイール39は、電動モータM1の回転軸に固定されたウォームと噛み合っている。
【0072】
収納室7A内における電動モータM1よりも上方には、複数本の接続端子T1を保持する端子保持部78が設けられている。各接続端子T1のうちの2本は、電動モータM1に接続されている。ドアのロック(施錠)/アンロック(開錠)の制御時、車体に設けられた図示しない電源から
図1に示す外部コネクタE1と、それら2本の接続端子T1と、を経由して、電動モータM1に電力が供給される。
【0073】
リモコンキー等に対するロック操作又はアンロック操作により電動モータM1が作動すると、ウォームホイール39は、電動モータM1に回転駆動されて、
図3の紙面に向かって時計方向又は反時計方向に回動する。そして、ウォームホイール39は、図示しないカム部とカム35Cとの係合により、中継ロックレバー35を
図3に示す位置と、図示は省略するが
図3に示す位置から紙面時計方向に揺動した位置と、の間で変位させる。
【0074】
図3及び
図4に示すように、ロックレバー40は、本体部40M及び延出部40Nを有している。本体部40Mは、上下方向に延びている。延出部40Nの下端は、本体部40Mの上端に接続している。延出部40Nは、その下端から上向きかつ後向きに傾斜するように延出した後に折れ曲がり、上向きに延出している。
【0075】
本体部40Mには、上下方向に延びる長穴40Hが形成されている。本体部40Mの下端部には、凹部40Bが凹設されている。本体部40Mにおける長穴40Hよりも上方には、スイッチ操作部40Fが形成されている。
【0076】
図4に示すように、延出部40Nにおける上向きに延出する部分の下端側には、直動凸部40Eが車両外側に向かって凸設されている。
【0077】
第1ハウジング70の第1基壁部71における第4軸部75Sよりも後方かつ上方の部位には、直動溝部71Eが形成されている。直動凸部40Eは、直動溝部71E内に配置されている。直動凸部40Eは、直動溝部71Eによって上下方向に案内される。
図3に示すように、長穴40Hには、第4軸部75Sが挿通される。長穴40Hは、第4軸部75Sによって上下方向に案内される。
【0078】
こうして、ロックレバー40は、収納室7A内において、
図3に実線で示すアンロック位置と、
図3に二点鎖線で示すロック位置と、の間で上下方向に直動可能となっている。
【0079】
ロックレバー40が直動する直動方向(上下方向)は、ストライカS1が進入溝97に対して進退する進退方向(車両内外方向)に略直交している。
【0080】
ロックレバー40の凹部40Bには、中継ロックレバー35の作用部35Bが係合している。ロックレバー40のスイッチ操作部40Fには、スイッチSW1のレバーが係合している。
【0081】
各接続端子T1のうちの電動モータM1に接続される2本とは異なる3本は、スイッチSW1に接続されている。ロックレバー40は、
図3に実線で示すアンロック位置にある状態で、スイッチSW1内の一つの接点をONにする。ロックレバー40は、アンロック位置から上向きに直動して
図3に二点鎖線で示すロック位置に変位すると、スイッチSW1内の別の接点をONにする。スイッチSW1内の2つの接点のON/OFF信号は、それら3本の接続端子T1及び外部コネクタE1を経由して車体に設けられた図示しない制御部に伝達され、ドアのロック/アンロックの制御及びドアロック装置1の状態把握に利用される。
【0082】
ロックレバー40は、以下に説明するように、リモコンキー等に対するロック操作及びアンロック操作によって直動する。
【0083】
リモコンキー等に対するロック操作により、電動モータM1が回転して中継ロックレバー35が
図3に示す位置から紙面時計方向に揺動すると、凹部40B及び作用部35Bを介して、その変位がロックレバー40に伝達され、ロックレバー40が
図3に実線で示すアンロック位置から
図3に二点鎖線で示すロック位置に押し上げられる。
【0084】
その一方、リモコンキー等に対するアンロック操作により、電動モータM1が逆回転して中継ロックレバー35が
図3に示す位置に復帰すると、凹部40B及び作用部35Bを介して、その変位がロックレバー40に伝達され、ロックレバー40が
図3に二点鎖線で示すロック位置から
図3に実線で示すアンロック位置に引き下げられる。
【0085】
図3、
図4及び
図7に示すように、本体部40Mにおける長穴40Hと凹部40Bとの間には、第1面44A、第2面44B及び第3面44Cが形成されている。第1面44A、第2面44B及び第3面44Cは、ロックレバー40の車両外側を向く面に形成されている。
【0086】
第1面44A及び第3面44Cはそれぞれ、上下方向に延在する平坦面であり、第1面44Aが第3面44Cよりも車両内側にずれている。第2面44Bは、第1面44Aの下端と、第3面44Cの上端とに接続する傾斜面である。
【0087】
図3~
図5及び
図7に示すように、慣性レバー29の前面には、突出部29Aが前向きに凸設されている。突出部29Aは、ロックレバー40の作動に応じて、第1面44A、第2面44B及び第3面44Cに摺接する。
【0088】
図5及び
図7に示すように、第3ハウジング90の収納室7A側には、慣性レバー案内面90Gが形成されている。慣性レバー案内面90Gは、ポール12の被当接部12Bよりも車両外側に位置する下向きの平坦面である。慣性レバー案内面90Gは、被当接部12Bから離間するように車両外側に向かって延びている。
【0089】
図7に示すように、慣性レバー案内面90Gは、被当接部12Bの下端よりも僅かに下方に位置している。慣性レバー案内面90Gは、O/Sオープンレバー20が揺動していない状態で、慣性レバー29の上端よりも上方に位置している。
【0090】
図7及び
図8に示すロックレバー40の位置は、
図3に実線で示すロックレバー40と同じアンロック位置である。
図9及び
図10に示すロックレバー40の位置は、
図3に二点鎖線で示すロックレバー40と同じロック位置である。
【0091】
図7に示すように、ロックレバー40がアンロック位置にある状態では、慣性レバー29の突出部29Aがロックレバー40の第1面44Aに当接することにより、慣性レバー29が上向きに起立する状態に保持される。この場合において、
図8に示すように、外側ドアハンドルH1の開操作、又は内側ドアハンドルH2に対する開操作によって慣性レバー29が上昇すれば、その慣性レバー29が被当接部12Bに当接して、ポール12にフォーク11を開放させる。
【0092】
つまり、作動機構6は、ラッチ機構8を作動可能である。ロックレバー40のアンロック位置は、ラッチ機構8に対する作動機構6の作動を有効化する位置である。
【0093】
その一方、
図9に示すように、ロックレバー40がロック位置に変位すると、慣性レバー29の突出部29Aがロックレバー40の第2面44Bに摺接し、さらに、第3面44Cに当接することにより、慣性レバー29が車両外側に向かって傾斜する状態に保持される。この場合において、
図10に示すように、外側ドアハンドルH1の開操作によって慣性レバー29が上昇すれば、その慣性レバー29が慣性レバー案内面90Gに当接して被当接部12Bから離間するので、ポール12がフォーク11を固定したままとなる。
【0094】
つまり、ロックレバー40のロック位置は、ラッチ機構8に対する作動機構6の作動を無効化する位置である。
【0095】
こうして、ドアロック装置1は、車両の搭乗者の各種操作に応じて、車体に対してドアを閉じた状態で保持したり、ドアを開放させたり、ドアを閉じた状態でロック又はアンロックしたりすることができる。
【0096】
<ラッチハウジングの操作孔及びロックレバーの被操作部等の構成>
ドアロック装置1は、車両において電気系統の異常が発生した場合にセキュリティを確保するための非常操作を行うため、以下の構成を備えている。
【0097】
【0098】
<操作孔>
図2、
図11及び
図12に示すように、操作孔92は、第3ハウジング90の第1壁91に形成されている。操作孔92は、進入溝97の入口97E側において第1壁91を前後方向において貫通している。操作孔92は、4つの角が丸められた矩形穴である。
【0099】
図1に示すように、第3ハウジング90は、第3壁90Wを有している。第3壁90Wは、進入溝97の入口97Eを前方、上方及び下方から囲む略平板形状である。第3壁90Wは、上下方向及び前後方向に延びており、第2ハウジング80と組み合わされている。操作孔92は、第3壁90Wの近傍に位置している。
【0100】
図12に示すように、進入溝97は、上規制端縁99L1及び下規制端縁99L2を有している。上規制端縁99L1及び下規制端縁99L2は、ベースプレート99プレート溝99Mに形成されている。
【0101】
上規制端縁99L1は、進入溝97の奥に位置してストライカS1の進退方向と平行に、すなわち略水平に延びている。上規制端縁99L1は、進入溝97の奥まで進入したストライカS1の上限位置を決める。
【0102】
下規制端縁99L2は、進入溝97の奥に位置して上規制端縁99L1から下方に離れており、ストライカS1の進退方向と平行に、すなわち略水平に延びている。下規制端縁99L2は、進入溝97の奥まで進入したストライカS1の下限位置を決める。
【0103】
ロックレバー40の直動方向(上下方向)において上規制端縁99L1との距離と下規制端縁99L2との距離とが等しい位置でストライカS1の進退方向(車両内外方向)と平行に延びる直線を仮想線K1とする。
【0104】
操作孔92が第1壁91を貫通する前後方向に沿って見て、操作孔92は、仮想線K1よりも上方に位置している。
【0105】
図11及び
図15に示すように、操作孔92は、第1内周面92Sを有している。第1内周面92Sは、操作孔92の内周面のうちの上方に位置して車両内外方向に延びる内周面である。第1内周面92Sは、下方を向きながら、後述する対向面42Aに近づくように前向きに進むにつれて、上方にずれるように傾斜している。
【0106】
図15~
図17に示すように、操作孔92は、ドアロック装置1とは別体である操作部材J1を挿通可能である。操作部材J1は、例えば車両のユーザが携帯したり、車両に収容されたりするものであって、操作孔92に挿入可能な一端J1Aと、ユーザが把持可能な他端J1Bと、を有するものであれば、どのようなものでもよい。操作部材J1は、棒のように細長い形状であることが好ましく、例えば、車両用のキー、車載工具等である。
【0107】
図11に示すように、第3ハウジング90は、周縁部93を有している。周縁部93は、第1壁91における底面97Dとは反対側に、すなわち第1壁91の前面側に形成されている。周縁部93は、操作孔92の4辺を囲んでいる。周縁部93は、2つのリブ93A、93Bを有している。
【0108】
リブ93Aは、操作孔92における車両内側で上下方向に延びる1辺に隣接して上下方向に延び、かつ後述する対向面42Aに向かうように前向きに突出している。
【0109】
リブ93Bは、操作孔92における車両外側で上下方向に延びる別の1辺に隣接して上下方向に延び、かつ後述する対向面42Aに向かうように前向きに突出している。
【0110】
各リブ93A、93Bは、操作孔92をストライカS1の進退方向の一方と他方とから挟む位置にある。
【0111】
リブ93Aにおける操作孔92よりも下方に位置する下端には、傾斜リブ93A1が接続している。傾斜リブ93A1は、下方に進むにつれて車両内外方向において進入溝97の入口97Eに近づくように、すなわち第3壁90Wに近づくように傾斜している。傾斜リブ93A1の下端は、第3壁90Wに接続している。
【0112】
リブ93Bにおける操作孔92よりも下方に位置する下端には、傾斜リブ93B1が接続している。傾斜リブ93B1は、下方に進むにつれて車両内外方向において進入溝97の入口97Eに近づくように、すなわち第3壁90Wに近づくように傾斜している。傾斜リブ93B1の下端は、傾斜リブ93A1の下端よりも下方に位置しており、第3壁90Wとの間に小さい隙間を有している。
【0113】
図1、
図4及び
図6に示すように、作動ハウジング7は、排出口7Hを有している。排出口7Hは、第1ハウジング70の第1周壁部73の下端に形成された切り欠きと、第2ハウジング80の第2周壁部83の下端に形成された切り欠きと、によって形成されている。
【0114】
図6に示すように、排出口7Hは、各傾斜リブ93A1、93B1の下端よりも下方において、作動ハウジング7の内部と外部とを連通させている。
【0115】
<第2壁及び被操作部>
図13及び
図14に示すように、第2壁42は、ロックレバー40の延出部40Nにおける上向きに延出する部分の後端側に形成されている。第2壁42は、上下方向及び車両内外方向に延びる略平板形状である。
【0116】
第2壁42は、対向面42Aを有している。対向面42Aは、第2壁42の後面である。対向面42Aは、上下方向及び車両内外方向に延びる平坦面であり、上端42A1側が後方に湾曲している。
【0117】
図14に示すように、対向面42Aの車両内外方向の長さは、操作孔92の車両内外方向の開口幅よりも大きく、周縁部93及び各リブ93A、93Bの車両内外方向の外幅よりも大きい。
【0118】
図14(a)及び
図15は、ロックレバー40のアンロック位置からロック位置までの直動範囲の下限を示している。この状態で、対向面42Aの上端42A1は、操作孔92、周縁部93及び各リブ93A、93Bよりも上方に位置し、対向面42Aの下端は、操作孔92、周縁部93及び各リブ93A、93Bよりも下方に位置している。
【0119】
図14(b)及び
図17は、ロックレバー40のアンロック位置からロック位置までの直動範囲の上限を示している。この状態でも、対向面42Aの上端42A1は、操作孔92、周縁部93及び各リブ93A、93Bよりも上方に位置し、対向面42Aの下端は、操作孔92、周縁部93及び各リブ93A、93Bよりも下方に位置している。
【0120】
つまり、対向面42Aは、ロックレバー40のアンロック位置からロック位置までの直動範囲において操作孔92、周縁部93及び各リブ93A、93Bに対向している。
【0121】
図15に示すように、対向面42Aと各リブ93A、93Bとの前後方向の隙間G1は、ロックレバー40の直動に影響しない範囲でできる限り小さく設定されている。本実施例では一例として、隙間G1は、0.数mm程度に設定されている。
【0122】
被操作部45は、対向面42Aに凹設されている。被操作部45は、有底穴形状であり、対向面42Aの略中央に位置して前向きに凹んでいる。被操作部45は、前後方向に沿って見て略矩形状である。
【0123】
図14~
図17に示すように、被操作部45は、ロックレバー40のアンロック位置からロック位置までの直動範囲において操作孔92を介してラッチハウジング9及び作動ハウジング7の外部に露出して操作部材J1の一端J1Aと係合可能である。
【0124】
ロックレバー40の直動方向の一方は、ロック位置にあるロックレバー40の被操作部45よりもアンロック位置にあるロックレバー40の被操作部45に近い側、すなわち下方である。ロックレバー40の直動方向の他方は、上方である。
【0125】
被操作部45は、第2内周面45Sを有している。第2内周面45Sは、被操作部45の内周面のうちの下方に位置して車両内外方向に延びる内周面である。第2内周面45Sは、上方を向きながら、対向面42A及び操作孔92に近づくように後向きに進むにつれて下方にずれるように傾斜している。
【0126】
図1に示すように、進入溝97は、第1側面97Aを有している。第1側面97Aは、ハウジング溝90Mにおける底面97Dに対して下方に位置する側面と、プレート溝99Mにおける下規制端縁99L2を含む下側端面と、によって形成されている。つまり、第1側面97Aは、底面97Dに対して下方に位置している。
【0127】
ラッチハウジング9は、稜線部97A1を有している。稜線部97A1は、第1側面97Aにおける底面97Dから遠い端縁側に形成されている。
図12に示すように、稜線部97A1は、操作孔92の真下に位置してストライカS1の進退方向、すなわち車両内外方向に沿って延びている。
【0128】
図16及び
図17に示すように、操作部材J1は、一端J1Aがアンロック位置にあるロックレバー40の被操作部45と係合して作用点となり、他端J1Bが力点となり、中間部J1Cが稜線部97A1に当接して支点となることにより、てことして作用可能である。
【0129】
<作用効果>
実施例のドアロック装置1が搭載された車両において、電気系統の異常が発生した場合、以下のような非常操作によってセキュリティを確保できる。
【0130】
すなわち、車両のドアを開いた状態で、
図15に示すように、ユーザは、操作部材J1の他端J1Bを把持して操作部材J1をラッチハウジング9の操作孔92に挿通させ、操作部材J1の一端J1Aをロックレバー40の被操作部45と係合させる。
【0131】
次に、ユーザは、操作部材J1の他端J1Bを押し下げる。これにより、操作部材J1は、一端J1Aが作用点となり、他端J1Bが力点となり、一端J1Aに近い部位が操作孔92の下側の内周面に当接して支点となることにより、
図16に示すように、てことして作用してロックレバー40を上向きに直動させる。
【0132】
さらに、ユーザが操作部材J1の他端J1Bを押し下げると、操作部材J1は、中間部J1Cが稜線部97A1に当接して支点となることにより、
図17に示すように、てことして作用してロックレバー40をさらに上向きに直動させる。
【0133】
これにより、ロックレバー40がロック位置に切り替わり、ラッチ機構8に対する作動機構6の作動が無効化される。その後、そのドアを閉じることにより、ラッチ機構8は、車体に対してドアを閉じた状態で保持する。
【0134】
また、このドアロック装置1では、雨水や洗浄水等である水が操作孔92を通過しようとしても、対向面42Aがその水を作動ハウジング7内で遮り、ラッチハウジング9及び作動ハウジング7の外部に戻すことができる。
【0135】
さらに、このドアロック装置1では、非常操作において操作部材J1を直にロックレバー40に作用させるだけでよく、上記従来の車両用ドアロック装置に係るエマージェンシーレバー及びスライドレバーが不要である。
【0136】
したがって、実施例のドアロック装置1は、ラッチ機構8に対する作動機構6の作動を非常操作によって無効化可能としつつ、水が進入溝97を介して作動ハウジング7内に浸入することを抑制し、さらに部品点数の削減を実現できる。そして、このドアロック装置1は、部品点数の削減によって、製造コストを低廉化できる。
【0137】
また、このドアロック装置1において、
図16及び
図17に示すように、操作部材J1は、一端J1Aが被操作部45と係合して作用点となり、他端J1Bが力点となり、中間部J1Cが稜線部97A1に当接して支点となることにより、てことして作用可能である。この構成により、仮に操作部材J1を直線的に移動させてロックレバー40をアンロック位置からロック位置に直動させる場合と比較して、ロックレバー40を容易にアンロック位置からロック位置に直動させることができる。
【0138】
さらに、このドアロック装置1において、操作孔92の第1内周面92Sは、下方を向きながら、対向面42Aに近づくように前向きに進むにつれて上方にずれるように傾斜している。被操作部45の第2内周面45Sは、上方を向きながら、対向面42A及び操作孔92に近づくように後向きに進むにつれて下方にずれるように傾斜している。この構成により、操作部材J1がてことして作用するときにロックレバー40を直動させるストロークを確保し易くなるので、操作孔92の上下方向の長さを小さくし易い。その結果、このドアロック装置1は、水が操作孔92を介して作動ハウジング7内に浸入して作動ハウジング7内の構成部品に影響を及ぼす不具合を一層抑制できる。
【0139】
また、このドアロック装置1において、
図12に示すように、操作孔92は、直動方向において上規制端縁99L1との距離と下規制端縁99L2との距離とが等しい位置でストライカS1の進退方向と平行に延びる仮想線K1よりも上方に位置している。この構成により、ラッチハウジング9及び作動ハウジング7に上からかかった水は、下方に垂れるので進入溝97の底面97Dに到達し難く、進入溝97の底面97Dに向かって流れるとしても、底面97Dにおける上方に形成された操作孔92に到達し難い。その結果、このドアロック装置1は、水が操作孔92を介して作動ハウジング7内に浸入することを一層抑制できる。
【0140】
さらに、このドアロック装置1において、
図14~
図17に示すように、対向面42Aは、ロックレバー40のアンロック位置からロック位置までの直動範囲において操作孔92、周縁部93及び各リブ93A、93Bに対向する。この構成により、操作孔92を通過しようとする水を対向面42Aがラッチハウジング9及び作動ハウジング7の外部に戻すときにその水の一部が対向面42Aを伝って作動ハウジング7内に浸入するとしても、周縁部93及び各リブ93A、93Bによって、その水を対向面42Aから下方に速やかに垂らすことができる。その結果、このドアロック装置1は、水が進入溝97を介して作動ハウジング7内に浸入して作動ハウジング7内の構成部品に影響を及ぼす不具合を抑制できる。
【0141】
また、このドアロック装置1において、
図11に示すように、各リブ93A、93Bは、操作孔92をストライカS1の進退方向の一方と他方とから挟む位置にあって上下方向に延び、かつ対向面42Aに向かって突出している。2つの傾斜リブ93A1、93B1は、各リブ93A、93Bにおける操作孔92よりも下方に位置する下端に接続している。各傾斜リブ93A1、93B1は、下方に進むにつれてストライカS1の進退方向において進入溝97の入口97Eに近づくように傾斜している。そして、
図6に示すように、作動ハウジング7の排出口7Hは、各傾斜リブ93A1、93B1の下端よりも下方において、作動ハウジング7の内部と外部とを連通させている。この構成により、
図5において水の流れを破線矢印Y1で示し、
図6において水の流れを破線矢印Y2で示すように、操作孔92を通過しようとする水を対向面42Aがラッチハウジング9及び作動ハウジング7の外部に戻すときにその水の一部が対向面42Aを伝って作動ハウジング7内に浸入するとしても、各リブ93A、93B、各傾斜リブ93A1、93B1及び排出口7Hによって、その水を作動ハウジング7内の構成部品から遠ざけながら作動ハウジング7の外部に速やかに排出できる。
【0142】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0143】
実施例では、ロックレバー40が直動する直動方向は、進退方向に略直交する上下方向であるが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、進退方向が前後方向であり、直動方向が車両内外方向又は上下方向である構成も、本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明は例えば、自動車、産業車両等の車両に利用可能である。
【符号の説明】
【0145】
1…車両用ドアロック装置
7、9…ハウジング(7…作動ハウジング、9…ラッチハウジング)
S1…ストライカ
97…進入溝
8…ラッチ機構
6…作動機構
40…ロックレバー
97D…進入溝の底面
91…第1壁
J1…操作部材
92…操作孔
42A…対向面
42…第2壁
45…被操作部
J1A…操作部材の一端
97A…第1側面
97A1…稜線部
J1B…操作部材の他端
J1C…操作部材の中間部
92S…第1内周面
45S…第2内周面
99L1…上規制端縁
99L2…下規制端縁
K1…直動方向において上規制端縁との距離と下規制端縁との距離とが等しい位置で進退方向と平行に延びる仮想線
93…周縁部
93A、93B…リブ
93A1、93B1…傾斜リブ
97E…進入溝の入口
7H…排出口
【要約】
【課題】ラッチ機構に対する作動機構の作動を非常操作によって無効化可能としつつ、水が進入溝を介してハウジング内に浸入することを抑制し、さらに部品点数の削減を実現できる車両用ドアロック装置を提供する。
【解決手段】車両用ドアロック装置1において、ハウジング7、9は、進入溝97の底面97Dを形成する第1壁91を貫通するように形成され、車両用ドアロック装置1とは別体である操作部材J1を挿通可能な操作孔92を有する。ロックレバー40は、ロックレバー40のアンロック位置からロック位置までの直動範囲において操作孔92に対向する対向面42Aを有する第2壁42と、対向面42Aに凹設された有底穴形状の被操作部45であって、直動範囲において操作孔92を介してハウジング7、9の外部に露出して操作部材J1の一端J1Aと係合可能な被操作部45と、を有する。
【選択図】
図17